無口な女の子とやっち ..
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87:「サンタガール」
08/12/25 23:37:11 MT52stPx
そしてクリスマスイブ。何とも言えなかったが、恵介は今日も店に出た。


クリスが用意してくれたサンタ帽を被って、普段どおりに店を掃除し、普段どおりに接客した。
そうする他に無かった。
クリスが恵介のことを知るのは、この日のこの時間、この店に居るという事だけだったからだ。
休憩時間になると、恵介は彼女のいつもいた窓際の席に腰掛けて窓の飾りを眺めた。緑や赤の
リボンで縁取られた真ん中に、クリスお手製のステンシルで描かれたそりに乗ったサンタの
スプレーアートがにっこりと笑っている。
その下にあるのは、マスターと恵介、それからクリスの簡単な似顔絵のステンシルだ。
マスターは手にケーキ、恵介は大きな靴下、クリスはプレゼントの箱を持って、三人で
「ウェルカム!」と言っている。これまたみんな笑顔で、自然とこっちの顔までほころんで
しまう。
親に手を引かれて店の外を通った子供が、似顔絵を指差して可笑しそうに笑っている。
外は寒いはずのなのに、とても暖かな、オレンジ色をした笑顔だった。
恵介ももう、窓の飾りを見て憂鬱な気持ちにはならなかった。むしろ、ずっと見ていたい、
そう思い始めていた。

こんなに素敵な飾りも、明日にはきれいに取り払われてしまうからだ。

「クリス……」
そんな事をしたら、そっと名前を呟いたその人も、もう二度と戻ってこないような……
恵介はそんな気がしていた。

「この飾りよお、せめてこの『ウェルカム』の部分だけでも……しばらく取っておこうや」
ふうっとタバコの煙を吐いて、マスターが言う。恵介の肩を、ポンと叩く。
「あと、バイトの募集もしねえ。オジサン決めたからよ。ケイ、絶対に辞めんなよ」
「それじゃ、いつまでも忘れられないじゃないですか」
今更になって隠す失恋ではない。恵介が素直に答えると、マスターはタバコを灰皿に置いた。
「忘れてもらっちゃ、困るんだよ。彼女もきっとそう思ってる」
もう一度恵介の肩を叩き少し強い口調で言うと、夕方の準備のためにマスターは厨房へと
引っ込んだ。
「何の根拠があって、そんな事……」
穏やかな冬の西日を半分ぐらい吸い込んで光る、使い古した木のテーブルにぐったりとしなびて、
恵介は時間が流れるのに身を任せた。
「俺は、マスターとは違うんだ。クリスのこと、全然分からなかった」
有線からは、あの時と同じ曲が流れている。

「ラーストクリスマス……」

―これ、失恋の曲だよね、確か。
そんな事を思いながら、恵介はいつの間にかまどろみに落ちていた。
いつだったか、クリスがまだお客だった頃、こうしてこの席でうたた寝していたことがあった。
手でペーパーバックのページを支えたまま、こくり、こくりと……。長いまつげを重ねて、
気持ちよさそうに舟を漕いでいた。
しばらく経って、ぱちりと目を覚ましたクリスと目が合った時の表情を、恵介は忘れられない。
どこかバツの悪そうな照れ笑いの表情。
窓際の陽だまりを甘くあまく煮詰めたような、とろけてしまいそうな可愛いらしさ。
恵介はその時、完全に心を奪われてしまったのだった。
でも、心は奪われるだけ奪われて、目下消息不明のままだ。事件解決の糸口さえ無い。
今になって思えば、あまりにも出来すぎな、不思議な出会いだったようにさえ感じられる。

でも、会いたい。恵介は諦め切れなかった。心から会いたいと、そう願っていた。
出来ることなら、恵介はクリスにもう一度会って、ちゃんと自分の手で心を渡したかった。

―目を覚ましたら、そこに居てくれたり……して……さ。

無謀な願いがよぎった胸の奥がきゅうっと苦しくなって、まぶたの内側も熱くなる。
「今夜は所によりィ、雪のちらつくホワイトクリスマスになるでしょお〜!」
浮かれ声の女性DJの言葉がトドメだった。恵介はたまらずテーブルに突っ伏した。

88:「サンタガール」
08/12/25 23:38:17 MT52stPx
※※W※※


それからどれだけ時間が経ったろうか。

カラン、カラン。

自分のテーブルのすぐ後ろ、店の入り口のドアに吊るされたベルが来客を知らせて、恵介は
条件反射的にがばりと頭を上げた。すっかり眠ってしまっていたらしい。
しかし振り向く前に、恵介の視線はガラス越しの風景の変貌ぶりに釘付けになってしまった。
起き抜けの視界に飛び込んできたのは、夜闇に鮮やかなイルミネーションと粉雪が踊る、
光に彩られた見事な幻想世界だったからだ。
「おぉ……『所によった』わけか……ってそれどころじゃないや」
しばし口を開いたままだった恵介は我に返り、腕時計に目をやる。時間は既に18時。
お客がいても全然おかしくない時間である。
「いらっしゃいま……せ、え?」
恵介は接客モードに頭を切り替え、ドアに佇む人影に向けて挨拶をしたが、その姿を見て
ぎょっとした。カウンターにいたマスターと奥さんも、顔を見合わせている。
恰幅の良すぎる真っ赤な上下に包まれた、太鼓のようなお腹。それを覆わんばかりの白い
フサフサカールの口ひげ。ドアを半ば塞ぐほどの大きさに膨れ上がった、白い袋。
そして、丸メガネの奥でチョボチョボとまばたきする、人懐こい老人の碧眼。

客は、コンビニが急造で用意する貧相なアレとは全く違う、正真正銘のサンタクロースだった。

「ホホーウ! メッリィー……クリッスマース!」

店の奥まで響く陽気な声と、頭の上にちょこんと載ったサンタ帽をうやうやしげに下ろして
お辞儀をするその姿に、店員三名はもはや一切の疑いを捨てていた。
「メ、メリーっ!」
矢面に立たされている恵介など、クリスに貰った帽子を下ろしてぎこちなくお辞儀し返す
始末である。
と、サンタクロースは窓の方をゆっくりと振り返り、クリスの作ったステンシルの似顔絵を
指差した。そしてそのまま、その人差し指をこれまたゆっくり、ぐるーんと恵介の顔に向けて、
目のシワを際立たせて笑う。

「アァーッ ユーッ……ミスタ・ケイスッケ?」

下手すれば幼稚園生でも分かりそうなとっても親切な英語に、恵介はブンブン首を縦に振った。
それを見たサンタクロースはのそり、のそりと店内に足を踏み入れ、おもむろに恵介を抱きしめた。
「わぷっ?」
「ホホ! ナイストゥ ミーチュ……ハジメ、マシテ! サンタックロース でース!」
サンタクロースはとても大きい。口ひげのフサフサと胸の肉に顔が埋もれて、普通の日本人の
恵介は、身動き取れないままじたばたするしかない。
「実ハ今日、サンタクロースカラ、ケイスッケにプレッゼント、ありまス! だから来たノ!」
「っぷは、ハァハァ……プレゼント?」
「そでス!」
恵介をようやく解放したサンタクロースは、ドアを塞いでいた白い袋を両手でよいしょと
抱えると、そっと窓際のテーブルの上に置いた。何やら巨大な物が入っているようだが、
中身は分からない。思い当たる節も無い。
そもそも、何で自分なのかも恵介には分からない。
「ケイスッケ?」
そんな気持ちを見透かしてか、サンタクロースがピコンと恵介にウインクする。
「とりあえず開けてみろ―ってか。 オープン、これ? OK?」
恵介が尋ねると、サンタクロースは右手を挙げて、人差し指と親指でわっかを作った。

その仕草を見た途端、恵介の背中に、電撃が走った。

―OKサイン? クリスマスの周到な準備? MYグランパ? フィンランド人―??
ありとあらゆる情報が、恵介の脳みその中をつむじ風の如く駆け巡った。

89:「サンタガール」
08/12/25 23:39:28 MT52stPx
「まさか―まさかまさかまさかっ?!」
野に放たれた動物の勢いで、恵介は袋を縛るリボンに手を掛けた。
瞬間、リボンは色とりどりの光を撒き散らしながら自らするりとその縛り口を解いた。
そして白い袋が、魔法のテーブルクロスのように、ふわりとテーブルの上に広がる。

その真ん中には、赤ちゃんのように丸くなって眠る、サンタ姿のクリスが包まれていた。

「あ……あぁ……クリス!」
クリスを起こせばよいのか、サンタクロースに礼を言えばいいのか、それともマスターの
勘の鋭さを喜べばいいのか。
彼女の名を呼びながら、恵介はたっぷり5秒は視線を定められずにいた。
「ケイスッケ……」
そんな恵介をなだめるように、サンタクロースは恵介の頭をそっと撫ぜる。
「クリスティアナネ、ココ数日ズっと眠らズ、今日の準備バカりしてタのデス。ダカラ
寝てマス。本当ハ、コレカラ、世界ジュを回ル仕事アルんダケド……」
サンタクロースはひげをびよんと伸ばして離し、クリスがするように、にっこりと微笑んだ。
「良イ子にプレゼントあげルが、サンタクロース。クリスティアナは、ケイスッケに。
ダカラ、ケイスッケも……」
頭の上に載せられていたサンタクロースの大きな手に、恵介は震える手を重ねた。
「もう、いくらでも包んでください。俺、喜んでクリスのプレゼントになりますから!」

恵介がそう叫ぶや否や、マスターが素っ頓狂な声を上げた。
「ハッハーイ! メリークリスマッス!」

見ればその手にはウィスキーとグラスが握られている。
「もうマジ、オジサン感動しましたから! サンタ、あんたホントにいい仕事してんな!」
「次に生まれる時はサンタ一択!」などと叫びながら、マスターはグラスをぐいっとサンタ
クロースに押し付け、床にこぼれるのも構わずとくとくとウィスキーを注いだ。
サンタクロースも慣れたものだ。ホホウと笑いながら、今度はマスターに注ぎ返す。
「「メッリー、クリスマース!」」
声とグラスを合わせるや否や、ふたりはグラスを思い切り直角に傾け、琥珀色の液体を
あっという間に胃の中に収めてしまった。すぐに二杯目、三杯目。恐ろしいハイペースである。

「ン……」

突然始まった大騒ぎに、ついにクリスがもそりと身体を強張らせ、とろんとした目を開いた。
「クリス、クリス!」
テーブルに顔をこすり付けるようにして、横を向いたクリスの表情を覗き込みながら、
恵介は何度も名前を呼んだ。
まるで雛鳥に、二度と忘れないよう自分を刷り込むかのように。
「ケイ……ス、ケ?」
「クリスっ!」
恵介が再び名前を呼んだ瞬間、クリスの目がぱちりと開き、テーブルの上に半身になって
起き上がった。まだ事態を把握し切れず、それこそ孵ったばかりの雛鳥のようにキョロキョロと
あたりを見回すクリスに、サンタクロースが何やらどこかの言葉で話しかけた。
「グランパ……あ……アァ……!」
するとクリスは一瞬の驚きの表情の後、じわあとその青い瞳に涙を浮かべ、みるみるうちに
顔をくしゃくしゃにして、テーブルから跳ぶようにして恵介に抱きついた。

「ケイ……! ひっく、ゴメンナサイだヨ……ひくっ、とても会イタカっタの……!」
「俺もだよクリス! こんな事情があったなんて、知らなくて……ゴメン!」

ぎゅっと抱き寄せるクリスは、泣き止む様子が無い。
震える身体は、思っていたよりずっと華奢だ。
「ホントハ、嬉シかったダッタ。イヴは、一緒ニ遊ビタかったダッタよお……ケイと!」
「うん、うん……!」
「But、シークレット、ダッタ。ワタシ、サンタクロースだってケイ知っテシマッタラ、
 モウ、会エナイの決マリダッタ……」
「そんな……嘘だろ?」

90:「サンタガール」
08/12/25 23:41:15 MT52stPx
息を飲んだ恵介の首筋に、不意にひやりとした物がくっつけられる。恵介はヒっと飛び上がった。
冷たいものの正体はビールジョッキだ。顔を服と同じぐらい赤くした、サンタクロースの
仕業である。
サンタクロースはひげが泡だらけになるのも構わず、ごくごくと喉を鳴らしてジョッキを
一瞬で空っぽにした。そして、身を寄せ合ったままの二人にウインクする。
「プハ……ホホ。サンタクロース、ドリンク、トゥーマッチ。ふたりのコト、何モ知ラナイ、
覚エテナイ」
「かあああ! サンタマジ男だわ! 見ざっル、言わざっル、聞かざっル。ジャパンの諺!」
もはやじゃれ合う酔っ払いと化したサンタクロースとマスターの言葉を聞いた恵介の顔に、
今度こそ幸せが蘇った。
クリスも涙でせっかくの白い顔が真っ赤だが、もう悲しみの雫が頬を伝うことは無い。

「クリス……」
「ケイスケ! ケイスケ!」

知っている日本語がそれだけのように、クリスが泣き腫らした顔で恵介の名を何度も呼ぶ。
二人は、身体がくっついて二度と離れないぐらいに、もう一度強く抱き合った。
そしておでこをこすりつけ、いたずらっぽく見詰め合うと、自然と唇を重ね合った。

「かああ、てめェケイスケ! オジサンにもチッスさせろおい―ぐぇ」
完璧に出来上がったマスターが飛び掛ろうとして、空中でハエの如く叩き落される。
後ろから現れたのは、マスターを撃墜したフライパンを携えた奥さんだ。マスターを虎の
絨毯の如く踏み敷きながら、ふたりに近づく。
「ほら。もうお店始めるから。コドモはさっさと雪で遊んでらっしゃい!」
呆れ顔の奥さんはエプロンのポケットをまさぐると、いつぞやの紙切れを恵介の手に
丸め込んで握らせた。忘れもしない、テーマパークのチケットだ。
「ったく。ゴミ箱からサルベージしておいたわよ。感謝しなさい?」
「奥さん……!」
「はいはい、開店かいてーん」
感謝をする間も無く、奥さんはカンコンコンとフライパンをノックした。
ついでにサンタクロースを見上げて、冗談ぽくにらみつける。
「ったく、あんたも! これから仕事だってのに、そんなに呑んで大丈夫なワケ!?」
「ホホ、ノンプロブレン、ママさん。平気デス」
でも……と、サンタクロースは指を鳴らして奥さんに言った。
「キャラメルモカ、一杯欲シイですネ。クリスティアナに、美味しィ聞イテマス!」
「ふうん。しっかりとツケとくからね」
「ホホウ、厳シイ!」
「また来なさいってこーと!」

そんなやり取りを見ていた恵介とクリスは、同時にクスクス笑いあった。気持ちまで
通じ合ったかのような心地のまま手を取り合って、店のドアを抜け夜空を眺める。
「キレイ……デすネ」
「うん」
ふたりは冷たい空気を孕んだ夜空から舞い降りる粉雪をしばらく目で追っていたが、
やがてクリスの青い瞳が、恵介へと注がれた。
いつも色々な物を映しては、全てを幸せに変えていったクリスの瞳が、今はじっと恵介
だけに向けられている。そうして幸せになるのは、恵介も一緒だった。

「ケイ……メリークリスマス」
「メリークリスマス。クリスティアナ」

もうこれ以上言葉は要らない。
そんな気持ちを視線で絡み合わせたふたりは顔を赤らめ、もう一度、そっと互いの唇で
生まれたばかりの愛を確かめ合うのだった。


〜おすまい〜

91:名無しさん@ピンキー
08/12/26 00:25:59 9NddrL8Z
>>90
なんだかとてもファンタジー!
GJ!

92:名無しさん@ピンキー
08/12/26 01:06:32 M7zFMovs
>>90
GJ!
続きも全裸で待ってる!

93:名無しさん@ピンキー
08/12/26 18:25:30 C/px3U/3
>>90そして前スレ埋めネタGJ
それにしても保管庫更新されないな…ここのって特定の人しか出来ないんだっけ?


94: ◆6x17cueegc
08/12/27 06:44:35 wuxjde6Z
逃避エネルギー万歳!ってことでエロ無し小ネタ投下。

注意
・早すぎる正月ネタ
・以前投下した『球春到来』の続き
・この作品はフィクションです。登場する団体名は全て架空のものです。

鬼が俺を笑ってるぜ……

95:すとーぶ・りーぐ ◆6x17cueegc
08/12/27 06:46:40 wuxjde6Z
 ペコペコ、パンパン、ペコリ。
 掌を合わせて静かにお願いをして賽銭箱の前から離れようとするとくいくいと裾を引かれる。
「ゴメン、まだお願いしてたんだ」
 俺の問いには無言のまま、手を合わせている。顔を上げるまで待って、手を繋ぐ。
「とりあえず、後ろの人の邪魔になるから一旦離れるよ?」
 こくりと頷いてくれたのを確認してから歩き出すと、少し大またで歩いて歩調を合わせ俺の隣に並んだ。
「さて、お参りは済ませたしなにをしようかなあ。なにしたい?」
「……甘酒とおみくじ」
「うん。じゃあ……あそこかな、おみくじやってるの」
 辺りを見回すと大きなおみくじの箱をガシャガシャやっている人が何人かいた。そちらへ近づくとちょうどひ
とつ空いたので、それを手に取る。
「はい、お先にどうぞ」
「ありがと」
 勢いよく、がっしゃがっしゃがっしゃと3度振って逆さにすると番号の書いた木の棒が滑り出てくる。番号を
確認したら今度は俺の番だ。

 お互い、結果を巫女さんに告げると1枚のお札を渡される。中身を見ようとすると袖を引かれた。
「何? ―あー、いっせーのーせで見せっこしたいの?」
 こくこくと頭を縦に振ってにこっと笑う。ああもう、俺はこの笑顔に弱いんだよ。
「じゃあいくよ。いっせーのー、せっ!」
 お互いが見易いように水平に開く。
「おっ、俺は吉か。よかった。君は……」
 凶だった。新年だけは縁起よくおみくじから凶の札を抜いておく神社もあるそうだけど、どうやらここは違っ
たみたいだ。
「……凶」
 たかがおみくじひとつでそんなに落ち込まなくても、と言いかけてやめた。吉を出した人間が言っても説得力
は無い。
「えっと……おみくじ、木に結びに行こうか」
「うん」
 また手を繋いで、近くにあったおみくじを巻きつけられている木のほうへ向かう。

 神社の境内にある休憩所でゆっくり腰を落ち着けて、買ってきた甘酒を啜る。冷えた身体に熱々で少しだけア
ルコールの入った甘酒は、実に気持ちよく吸い込まれていった。
「はふぅ……」
 彼女はというと両手で紙コップを持って甘酒を舐めている。鼻の頭を赤くしていて、とてもかわいい。
「たまにはこういう年始もいいんじゃない?」
 今まで年末年始は寝正月で過ごすようにしていた、という話を聞いて、1月1日俺は彼女を無理矢理外に連れ出
した。趣味以外では内にこもりがちな彼女だから、一緒に行きたいと言ったときは嫌な顔をされたのだけど。
「……でも凶だった」
「まだひきずってるの?」
 子供みたいだなあと思って微笑むと睨まれた。彼女の中では結構重要なことだったらしい。
「どうしたの? おみくじでムキになるなんて」
「私の、覚えてる?」
「えーっと……健康運も恋愛運もそこそこ、仕事運が最悪で注意の一文が『最大の希望は達成されない』だった
 かな」
 分かってるじゃない、と彼女は再び紙コップの中に顔を突っ込んだ。非常に不機嫌なご様子だ。仕方がない、
話題を変えるか。
「ところでさ、お願いは何にしたのか訊いてもいい? ―俺? 俺は『今年も一年、2人が健康で幸せに暮ら
 せますように』って」
 彼女はそう言った俺のほうをちらりと見ると、不承不承、言葉を吐きだした。
「トラーズが今年こそペナント奪回しますように」
「…………」
 この回答に思わず頭を抱えてしまう。色々な意味で訊くんじゃなかった。
 年始に神社に来てまでトラの必勝祈願かよとかもっと他にお願いしたいこと無かったのかとかツッコミどころ
はいくらでもある。それでなくても去年、歴史に残る大逆転でラビッツがトラーズから優勝を掻っ攫ったせいで
以前にも増してトラ党への鞍替えを要求されて肩身が狭いのに。
「あのー、もしかしてさっきからおみくじがどうこうで機嫌が悪いのも?」
「優勝しないって言われた」
 ああ、最大の希望はトラーズのペナント奪取ですか。よく分かりました。

96:すとーぶ・りーぐ ◆6x17cueegc
08/12/27 06:48:37 wuxjde6Z
 甘酒を飲み終えて再び神社の参道に出て、露店を冷やかしながら帰り道を歩く。いくつめかの露店の軒を通った
とき、普段無口な彼女には珍しく独り言を呟いた。
「……そっか」
「何が『そっか』?」
「お願い、2番目は叶うかもと思って」
「2番目? お願い、2つしたんだ」
 彼女はそれに首肯で返して言葉を継ぎ足した。
「2つ目は、その……君と仲良く過ごせたら……ってお願いした、から」
 恥ずかしそうに繋いだ手を握り締めてきて顔を逸らす。俺もなんとなくそっぽを向いてしまった。物凄くうれ
しい。
「……帰ろっか」
「……うん」
 顔が熱いのは露店のトウモロコシから上がってくる湯気のせい、だと思う。

 神様、さっきしたお願いにもう一つ追加してもいいでしょうか?
 彼女の中で、俺の存在がトラーズに勝てるのはいつの日になるか教えてください……

97:すとーぶ・りーぐ ◆6x17cueegc
08/12/27 06:49:30 wuxjde6Z
と、以上です。
確かこいつら社会人の設定だったような気がするが、ウブすぎやしねーだろーか。

あと神様的には未来永劫無いとだけ言っておく。

98:名無しさん@ピンキー
08/12/27 07:52:02 cqmG6Rlf
彼女はトラファンの鑑だな!
GJ!



…ところで、フィクションなんだよね?トラが優勝できないなんて嘘だよね!?

99:名無しさん@ピンキー
08/12/27 15:42:38 rhdJQCNb
>>97
GJ!

100:名無しさん@ピンキー
08/12/27 20:41:38 wuxjde6Z
>>98
魔法の呪文「この作品はフィクションです」
真面目な話、来年は鯉が来るんじゃねーかと(ry

101:名無しさん@ピンキー
08/12/28 10:56:05 SGN/vjA0
>>97
GJ!!

前スレ見たらかおるさとー氏がきてた、こっちでいいのかわからんがGJ!

102:名無しさん@ピンキー
08/12/29 14:49:22 0uuGnlPQ
投下します。

エロなし。
タイトルは『雨と傘と』です。

103:名無しさん@ピンキー
08/12/29 14:51:29 0uuGnlPQ
雨の日の出来事だ。
秋から冬への移り変わりで段々冷え込んできたところでの雨でその日は一気に真冬並みの寒さになった。
放課後の部活が終わり、廊下へ出ると外の暗さに驚く。
まだそんなに遅い時間ではないのに冬という時期と分厚い雨雲のせいでもうすっかり暗い。
玄関まで辿り着くと少女が1人、ぽつんと立っていた。
空を見上げ憂鬱そうに溜息をついている。
少女を眺めながら上履きから靴へと履き替えているとその音に反応して少女が振り返る。
見覚えのある顔だった。
クラスメートの滝本沙希さんだ。尤も会話どころか挨拶も交わさぬ間柄だけれども。
別に嫌い合ってる訳ではないのでこうやって顔を合わせれば会話も挨拶もするけど。
「滝本さん。まだ残ってたんだ?」
「…………あ、安藤くん」
僕の名前を呼ぶのに間があったのは彼女が無口だからだ。
決して僕の名前を思い出すのに時間がかかったなどという寂しい理由ではない……よね?
……信じてるよ、滝本さん。
「……保健室で寝てたら、こんな時間になってて」
彼女の言葉でそういえば午後の授業はいなかったな。と今更ながら思い出す。
ていうか起こしてあげなよ、高橋先生。保険医の顔を思いながら心の中で突っ込みを入れる。
「そっか。それじゃまた明日」
「…………うん」
……ん? ちょっと待て、僕。
傘を手に取り、自然と帰ろうするがおかしな事に気付く。
なんで彼女は玄関で立っているんだろうか。
「ねぇ滝本さん」
僕が振り返ると滝本さんは小首を傾げる。
「えーと……今、迎えが来るの待ってるの?」
「…………」
ぷるぷると首を横に振る。
「……もしかして、傘ない?」
「…………」
こくりと頷く。
今日は朝から雨が降っていたので忘れたという事はないはずだ。だとすると……。
「……盗られた?」
「…………」
少し躊躇いながら、こくり。
やっぱり……。
盗られたというより間違えて持っていかれたというほうが正しいのかもしれない。さっきも思ったように雨は朝から降っていたんだし。
まぁどっちにしろ滝本さんの傘がないという事実は変わらない。

104:名無しさん@ピンキー
08/12/29 14:53:26 0uuGnlPQ
傘立てを見るとまだ数本、傘が残っている。まだ残っている生徒がいるのかそれとも置き傘なのか。
うん、後者だという事にしよう。
「置き傘あるみたいだから借りていったらどうかな?」
僕に向けられていた視線に少しだけ非難の色が混じった。
「…………」
「…………」
「………………」
「………………」
「…………ごめんなさい」
「…………」
「……人の物を勝手に使ったら駄目だよね」
滝本さんはこくこくと頷く。
いや、満足そうに頷いてるけどさ。問題は解決してないんだよ?
とはいえそれが駄目なら残る方法はもう1つしかない。
僕は溜息が出そうになるのを我慢して、右手に掴んでいるものを彼女に差し出す。
「これ使って」
「…………」
「これなら他人のじゃないし、勝手にでもないからいいよね?」
「…………」
そこで首を横に振らないでくれると凄く嬉しかったな、僕。
「僕、折りたたみ傘も持ってるから大丈夫」
このままだと押し問答になりそうだったので無理矢理、滝本さんに傘を押し付ける。
彼女が傘を返してくる前に、僕は忘れ物をしたからと言ってその場から逃げ出した。
勿論忘れ物なんて嘘なので階段まで来たら脚を止め、座りこむ。
携帯電話を弄り、時間を潰す。5分ほど経った所で携帯電話をポケットに直して、再度玄関に向かう。
外に視線を向けると変わらず雨が降っており、やむ気配は無い。
どれだけ急いで帰っても家につく頃にはびしょ濡れになっているだろう。
帰ったらすぐにお風呂に入って身体を温めなければ、と予定を立てる。
もし風邪なんか引いて、明日学校を休む事になりでもしたら滝本さんが自分のせいだと責任を感じてしまうかもしれない。
だから、明日だけは意地でも休めない。

105:名無しさん@ピンキー
08/12/29 14:54:21 0uuGnlPQ
玄関に到着し、靴箱の陰から恐る恐る覗き込む。
そこには少女が1人、ぽつんと立っていた。
……見覚えのある顔と言うかさっきも見た顔と言うか…………なにやってるの、滝本さん?
彼女は空を見ていた先程とは違い靴箱の方を―僕が来る方向を見ていた。あ、目が合った。
僕はしぶしぶ彼女に近付く。
「……帰らないの? 滝本さん」
「…………折り畳み傘は?」
僕の質問スルーですか。しかも折り畳み傘持ってないって当然ばれてるよね、これは。
「体調崩してるんなら早く帰った方が良いよ?」
「…………傘は?」
…………意外と我が強いよ、この娘。
話を逸らそうとしても無理みたいなので正直に答える。
「…………ありません」
「……そう、なんだ」
「……そうなんです」
なんだろう。とても悪い事をした気分なんだけど。僕、嘘はついたけど悪い事はしてないよね?
「…………」
滝本さんが無言で僕の傘を差し出す。
返す。という事なんだろうけど受け取れない。体調を崩している女の子を雨に濡らして帰すわけにはいかない。
どうしようかなぁ……。結局押し問答しなくちゃいけないのかな……?
けど、この様子じゃ聞き耳もたなそうだし……ていうか大体、僕は口下手な方で説得とかは苦手なんだ。
だから、さっき傘を押し付けて逃げたのに……居るんだもんなぁ、滝本さん。
「…………」
「…………」
「………………」
「………………」
「………………………………」
「…………………………うー」
どう説得するか考えて、それでも浮かばないので無言で向き合っていると痺れを切らしたのか滝本さんが唸った。
自分でも無意識な唸りだったのだろう。滝本さんは傘を持つ手とは逆の手で口元を押さえ、頬は薄っすらと染まっている。
……凄い可愛らしい反応だなぁ。と思いながら僕は笑みが浮かぶのを抑えられなかった。
そんな僕を見て滝本さんは眼つきを鋭くし、差し出す傘を押し付けてくる。
それすらも僕は微笑ましく感じてしまう。
彼女を早く帰す方法を考えていたはずなのにもう少しだけ一緒に居たいと思ってしまった。
だからだと思う。こんな案を口にしたのは。
普段なら思い付いても提案なんかしない。
だって恥ずかしくて仕方ないから。
「滝本さんの家ってどこ? 送っていくよ」

106:名無しさん@ピンキー
08/12/29 14:56:13 0uuGnlPQ
☆☆

『相合傘』
僕の提案にすぐその言葉を連想したのだろう、滝本さんは無言で拒絶した。
顔を真っ赤にして首を振る姿が可愛いやら、完璧に拒絶されて落ち込むやらの葛藤はさておき、
『滝本さんが1人で傘を使う』と『僕達2人で傘を使う』の二択を迫り、最終的に彼女は僕の提案を呑んだ
(僕が1人で傘を使うという選択肢を突っ込まれなくて助かった)。
そんな紆余曲折を果たし、僕達はようやく帰路につく。
とはいえ僕達は恋人どころか友人とも言えないクラスメートなので微妙な距離が開いている。
滝本さんは恥ずかしいのか俯いて歩いている。
まぁ僕としては彼女が俯いているのは……僕の方を見ないのは助かる。
会話は無く、沈黙が重く圧し掛かる。
滝本さんは無口だし、僕もさっき言った通り口下手だ。
さっきまで話せていたのは『滝本さんに傘を使ってもらう』というテーマがあったからだ。
しかし、自分から誘っておいてこれは少々情けない。
話題を探していると先に沈黙を破ったのは滝本さんだった。
「安藤くんは……優しいね」
「そうかな? そんな事ないと思うけど」
滝本さんは首を振り、僕の否定を更に否定する。
ムキになって否定する気はないけれど、ここで頷いてしまうと会話が終わってしまいそうな気がした。
せっかく滝本さんの方から話を振ってくれたのにそれはなんだか勿体無い。
だからやっぱり僕もまた否定する。
否定材料は学校の玄関に置いてあった傘。
この時の僕の心情を語るのは自分で自分を貶める話になってしまうが、まぁ一度非難されてる事だし会話を続ける事を優先する。
「あれさ、学校に残ってる生徒の傘かもしれないって思ってたんだ。思ってたのに勝手に置き傘って事にして……。
 滝本さんが止めてくれなかったら……使ってたかもしれない」
滝本さんがまた首を横に振る。これはどんな意味の否定なんだろう。
少しだけ間を開けながらも彼女はその答えをくれる。
「……安藤くんは使わない……と思う」
「……そんな事ないよ」
「安藤くんがああ言ってくれたのは……私の為だもん」
滝本さんは小さく、しかしはっきりと話す。
「……私が濡れないように安藤くんは言ってくれたんだよね?」
「…………まぁ……うん」
「安藤くんは……自分の傘がなかったら……濡れて帰るんじゃないのかな?」
「……買い被りだよ」
否定はしてみたけれど反論は出てこない。
滝本さんに傘を貸すと決めた時、濡れて帰る覚悟もまた決めていた。
そういえば自分が置いてある傘を使うという発想はなかったな。と思い返す。

107:名無しさん@ピンキー
08/12/29 14:57:04 0uuGnlPQ
「……実は、ね」
滝本さんを言葉を続ける。
無口な彼女がまだ続けてくれる。
「玄関にいた時……帰ってる人は他にもいたの」
それはそうだろう。
他の部活動だって当然あるし、この時間帯でも下校する生徒はぼちぼちいるはずだ。
「けど……声をかけてくれたのは安藤くんだけだった」
「……そうなんだ」
「うん。……すごく嬉しかった」
滝本さんは俯いていた顔を上げ、僕の顔を見つめて微笑んだ。
「…………ありがとう」
優しくて綺麗な微笑み。
僕は心臓が跳ね上がるのを感じ、思わず顔を背けてしまう。
ちらりと彼女の方を見てみるとまだ彼女は顔を上げ、僕の顔を見ていた。
……いや、視線の先は僕の顔じゃなく肩に移動して……まずい。
やがて彼女は僕から視線を外し、反対側を向く。
自分の肩を見て、そして手でも触れている。多分、濡れてないのを確認しているんだろうなぁ……。
僕の肩は濡れている。
当然だ。傘は1つしかなくて、その傘は小さくはないけれどそんなに大きいものでもない。そして僕達の間には微妙な距離がある。
僕としてはびしょ濡れになる覚悟すら決めていたので、このくらいですむならむしろ僥倖で滝本さんも気にしないでくれて良い。
けど、同時に気にするのが彼女らしいとも思う。だからこそ気付かないでほしかったわけだけど。
そんな事を考えていたら、いつの間にか制服の肘の辺りをくいっと軽く引っ張られていた。
視線を向けると滝本さんが僕の制服を指先だけで摘まんでいた。そして僕達の微妙な距離を詰めてくる。
腕を組んでいるかのように密着してきて、この距離は……まるで恋人だ。
滝本さんは俯いて、更に顔を背けているが耳が赤く染まっているのが見える。これだと顔はきっと真っ赤になっているだろう。
僕だってきっと……絶対、赤くなっている。
「…………」
「…………」
僕も滝本さんも無言だ。
何を話せば良いのか分からないし、話そうと思っても多分上手く話せないと思う。
結局、滝本さんの家に着くまで僕達はお互い無言のままだった。
別れ際にもう一度お礼を言われたが彼女は顔を背けていたのでどんな顔をしているかは分からなかった。
もし、彼女が背けなかったら僕が背けていただろうから、どっちにしろ分からなかったと思う。

108:名無しさん@ピンキー
08/12/29 14:57:44 0uuGnlPQ
☆☆

1人での帰路は傘を広々使える代わりにどこか寒々しかった。
どうしてかなんて理由は分かりきっている。
僕は理由の彼女を思い浮かべる。
すぐに浮かんだのは笑顔で、1人でまた赤面する。
動揺する心を落ち着かせると次に思い浮かんだのは腕に残る小さな感触。
顔を真っ赤にしてそれでも身体を寄せてきた。
僕が濡れないように恥ずかしいだろうにそれでも勇気を出してくれて。
それを思うと心が温かくなってくる。
滝本さんは僕を優しいと言ってくれたけれど、彼女こそ本当に優しい娘だと思う。
優しくて意外と頑固な女の子。
無口だけど実は表情豊か。
もっと……もっと色々な彼女を見てみたい。見せて……くれるだろうか。
それは分からないけれど、見る事が出来たら僕はとても嬉しく思うんだろう。
だから少しだけ、頑張ってみよう。
まずは明日、僕から挨拶をしてみよう。
見知らぬクラスメートをやめ、友達になろう。


109:名無しさん@ピンキー
08/12/29 15:03:43 0uuGnlPQ
終わりです。

続きものにして前スレの折り紙少女三上さんを友情出演させようと画策してましたが挫折しました。

それでは今年はお世話になりました。
来年もよろしくですよー。
よいお年をっ。

110:名無しさん@ピンキー
08/12/29 15:03:52 OBKxTHPE
>>108GJ!
雰囲気が良すぎ!
自分の寂しい学生時代を思い出して死にたくなったよ……

111:名無しさん@ピンキー
08/12/29 21:19:07 YFK2NBb8
>>109
GJ!
学生時代に友達以上恋人未満のクラスメイトと
相合傘をした思い出が蘇ってきてちょっと鬱になったぜ

112:名無しさん@ピンキー
08/12/30 04:31:00 xQ1Bawv9
某雪見は言った
「あいつの身体は血液じゃなくて砂糖が流れてるんだな」

113:名無しさん@ピンキー
08/12/30 21:09:17 Rw3GEWRI
・無口な占い師に新年を見てもらおう
・無口な巫女バイトさんに御神籤を引かせてもらおう
・無口な女神様に恋愛成就を祈ろう
・無口な妹と雑煮を食べよう

114:名無しさん@ピンキー
08/12/31 14:04:17 up5TgXVe
・無口な従姉妹達と新年会
・無口な姪にお年玉
・無口なクラスメイトと初詣でバッタリ

115: 【中吉】   【630円】
09/01/01 00:49:26 Q+GdTffU
……あ、あけまして……おめでと

……………………今年もよろしくね

116: 【大吉】 【1458円】
09/01/01 01:04:26 ORz/VFdR
……あけ、おめ。

117:omikuji
09/01/01 02:30:18 g/UKlAiB
あけおめことよろ

118:!kuji 【1000円】
09/01/01 03:04:36 fgAME5Gb
… … … … … … … … … … … … … … … … … …
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……………… ………… ……………… ……… … … … … … ……………… …………
…… ……………… ……… ……… ……… … ………………

俺にはセンスがないようだ。

119:omikuji
09/01/01 13:10:58 0cPpa05U
……あけおめ、ことよろ。

120:名無しさん@ピンキー
09/01/02 00:43:25 A/VVIXMb
……………………お年玉は?

121:名無しさん@ピンキー
09/01/02 01:19:46 McbKg2u3
チュ…

お年玉…あげる…

122:名無しさん@ピンキー
09/01/02 16:24:18 ubAG0dQz
ここのスレ住民的に「森田さんは無口」はどうなんだろう。

123:名無しさん@ピンキー
09/01/02 17:24:26 LFNLUN9L
単行本なら買ったぞ。
個人的には満足してる。

124:名無しさん@ピンキー
09/01/02 20:46:52 7GhQnf06
普段は無口だけど、メールだと明るかったり饒舌だったりする女の子モノはたまにあるけど、
普段はお喋りだけど、メールだと無口(短い、淡々と業務連絡風)の場合はなんか怖いよね。

125:名無しさん@ピンキー
09/01/02 21:18:20 McbKg2u3
>>124
前者の方とメールしてるんだが…w

126:名無しさん@ピンキー
09/01/02 21:35:50 EM3IEd1o
>>124
後者の方とメールしてたことあるんだが…

ただ単に「実は嫌われていた」というオチしか思いつかない

127:名無しさん@ピンキー
09/01/03 16:50:26 da/ifn+u
>>125
貴様、kwsk

場合によってはいつぞやのリレーのごt(ry

128:名無しさん@ピンキー
09/01/04 04:42:45 3wZTGx3D
「え?」
 洋一くんの言葉に、私は目を丸くした。
「だから、メール嫌いなのかなって」
 少し考えてから聞き返す。
「どうしてそう思うの?」
「いつも内容が短いから」
「……普通、だと思うけど」
「そうですか?」
 洋一くんは携帯を取り出して受信フォルダを開く。
 瞬間、私は顔が紅潮するのを感じた。
「『うん』『ううん』『違う』『いいよ』『待ってて』……さすがにそっけなさすぎると
思いますよ」
「……」
 顔が曇るのが自分でもわかった。
「いや、責めてるわけじゃないです。ただ、舞子さんいつも明るいのに、メールだと
極端にそっけなくなるから何かわけがあるのかな、って」
「……別にない、よ」
「ならいいですけど」
 洋一くんは多少怪訝そうにしつつも、あっさり引き下がった。
「……」
 ちょっと不意打ちな質問だった。
 理由と言うか、まあ少し思うところがあるのは確かなので、やっぱり話すべきなの
だろうか。
 本当になんでもないことなのだけど。
「……あの」
「ん?」
「えっとね、その」
 なかなか言い出せない。踏ん切りがつかないのはちょっと恥ずかしいから。
 彼は特に急き立てることもなく、黙って見つめてくる。
 見つめられると結構言い出しにくいけど、まあ、とにかく。
「……相手にメールが届くじゃない」
「…………ん?」
 言ってから当たり前だと思った。
 洋一くんの顔に「よく解らない」といった色が混じる。
「だ、だから、相手の履歴に残っちゃうじゃない!」
「……嫌なんですか?」
「いやっていうか……」
 私はその場に立ち止まり、思わずうつ向いた。
「……………………恥ずかしい……」
 一瞬の静寂が訪れる。
 洋一くんは小さく吹き出した。
「わ、笑うな!」
「ご、ごめんなさい。で、でも」
「だって、恥ずかしくない!? 相手にずっと履歴が残ってて、たまに開いて読まれたり
するんだよ? 迂濶なこと書けないじゃない!」
 答えてしまった反動か、言い訳にも熱が入る。
 言ってることは何も間違っていないつもりなのだけど、やっぱり変なのだろうか。

129:名無しさん@ピンキー
09/01/04 04:44:54 3wZTGx3D
 洋一くんはどう思って、
「ごめんなさい。ちょっと意外だったものだから」
「意外?」
「いつも明るくていろんなことを話すのに、そこにこだわるのが意外」
「会話とメールは違うもん……」
 会話は残らない。でもメールは残る。
 私には二つは全く違うものに思える。
 ああいうことを話した、こういうことを話した、そんな記憶はあってもみんなはっきり
とは思い出せないものだ。
 もちろん深く心に残る言葉はあるけど、誰も機械のように記憶するわけじゃない。
 もし人間があらゆる会話を脳に刻めるなら、きっと私は何も言い出せなくなる。
 なんでもないことさえいつまでも残るというのは、あまりに怖いことじゃないのか。
 内心で密かに震えると、洋一くんが言った。
「でもぼく、舞子さんのことならほとんど全部覚えてますよ」
「え?」
 言っている意味がわからない。
「全部って」
「だから、全部。ぼく、記憶力はいいんです」
「例えば?」
「去年の六月、図書館での会話の内容とか。『身長いくつ?』『本棚高くない?』って」
 固まった。
「そんなこと言ったの? 私が?」
 この一年で一気に背が伸びた(本人曰く15センチ程)洋一くんは、それでも私と同じ
160センチくらいしかない。
「言いました。ちゃんと覚えてますよ」
 慌てて謝る。
「ご、ごめん」
「なんで謝るんですか?」
「だって、失礼じゃない」
「気にしてません。それにそのあと舞子さんはこう言ったんです。『いつか私に本を取って
ほしい』って」
「─」
 私はいよいよ恥ずかしくなって、一歩も歩き出せなくなってしまった。
 なんだ、そのわけわからん台詞は。
 それは確かに好きな相手が自分より小さいというのは、ちょっと気になる問題でもある
けど、だからといってありえない台詞だろう、それは。
 でもきっとそれは、その頃の私たちがまだ付き合ってなくて、私の方は洋一くんに完璧に
惚れてしまっていて、それで不用意に発してしまった一言なのだと思う。覚えてないけど。
 恥ずかしい……。
「頑張って身長伸ばそうと思いましたよ。カルシウムたくさん摂ったおかげかようやく
舞子さんに並べました」
 すぐに追い越しますからね、と洋一くんはにっこり笑った。
 それはなかなか頼もしくも子供っぽくて、ちょっとかわいい笑顔だった。

130:名無しさん@ピンキー
09/01/04 04:47:52 3wZTGx3D
「……他にも覚えてるの?」
「もちろん。一学期の終業式の日は『一緒に帰らない?』『雨が降る前に駅に着かないと』
『校長の話長すぎ! 緑化事業の話とかどうでもいいじゃん』『洋一くんは真面目だね……
何しゃべってたか私よく覚えてないよ』『曇ってきた』『降りそうだから走ろっか』『夏は
これだから……」
「ま、待って待って。もういいからっ」
 私は慌てて制止する。
 洋一くんの言葉には偽りもでたらめもないようで、私は恥ずかしがるより先に呆れて
しまった。
「どんな頭してるの?」
「それだけ舞子さんのことが好きってことで」
「……」
「だから」彼は言う。「会話もメールもあんまり関係ないですよ」
「今すぐ忘れて」
「無理です」
「……」
「そんなに嫌ですか?」
 まっすぐ尋ねられて、私は口をつぐんだ。
「舞子さんのことは全部覚えておきたい、ってぼくは思ってます。それは会話もメールも
いっしょで、何も変なことなんてなくて、えっと、『大切にしたい』って思っているん
ですけど……ダメですか?」
 真摯な目はひどく澄んでいて、私は少し怯んだ。
 個人的にはやっぱり恥ずかしいのだけれど、
「……絶対に忘れないの?」
「はい」
「私は忘れるよ?」
「メールは残りますよ」
「……」
 なるほど。記録に残るのも悪いことばかりではないらしい。
 恥ずかしいけど……。
「頑張ってみる」
「ええ、待ってます」
 帰ったら早速打ってみよう。自分からメールすることなんてない私だけど、洋一くんに
ならさらけだせるはず。
 彼にはずっと覚えていてもらいたいから。



「舞子さんからのメールには全部保護かけときますね」
「なっ……」
「そうすれば嫌でも忘れませんよ」

「やっぱり恥ずかしいよー!」

131:名無しさん@ピンキー
09/01/04 04:54:13 3wZTGx3D
小ネタですが投下終了です
>>124さんのレスから考えて書いてみましたが、無口っぽさ皆無……
>>126さん、きっと相手にはこんな事情があるのだと思いますよ

132:名無しさん@ピンキー
09/01/04 20:19:43 gtNSoSZz
乙。ネタとしては好きだけどスレ的になんか違う気がする
というか普段喋るのにメールだと無口って最初から無口な女の子じゃな(yr


133:保管庫の人
09/01/05 00:56:02 XkfjQJs4
えと、長らく放置して済みません、保管庫の人です。
誰でも編集可能に設定し直しましたので、余裕のある方は保管を手伝っていただけないでしょうか。
六スレ目から全然保管出来てなくて、申し訳ありません。
どうか、よろしくお願いします。

134:名無しさん@ピンキー
09/01/05 13:37:27 YO/eDEIH
>>133
……途中まで、した。……勘違い、しないでね。


135:名無しさん@ピンキー
09/01/05 13:38:57 YO/eDEIH
モバイル用ってのはやらなくてもいいんですよね?

136:名無しさん@ピンキー
09/01/05 14:05:56 ObFHghXu
>>128
遅れてすまない…

会社で同じ部署に配属されて、最初は先輩の方から電話番号とか聞かれて、流れで聞いてそのままメールしてる。
で彼女は黙々と仕事してる子で、会社じゃあんまりしゃべってる所は見たことなくて、
「そんなに仕事してたら病気になるよ」って送ったら「じゃあ今度食事に連れって」って来て戸惑いながら行ったけど…
食事のときはすごく無口で、帰ってからメールするとバンバン来るような感じだ。
今でもこんな感じだけど少しはしゃべってくれる

137:名無しさん@ピンキー
09/01/05 14:06:41 ObFHghXu
ごめん…↑>>128じゃなくて>>127だった…

138:名無しさん@ピンキー
09/01/05 17:20:36 ijJOFdpU
wikiの保管、途中までで力尽きた。あと、任せる。

139:名無しさん@ピンキー
09/01/05 21:34:37 jHgzYIXJ
今からwiki編集してみますので、
編集しようと思っていた皆さんはおまちを・・・・・・

140:名無しさん@ピンキー
09/01/06 00:42:13 U617YdLB
携帯からすいませんが>>139です

ちょっとパソコン離れるので途中ですが中断します。
朝方には残りを片付けます。

141:名無しさん@ピンキー
09/01/06 02:07:29 vgUyUzc+
>>140
乙です!
自分は>>134>>138なんだけど、wikiの編集はやりだしたら他が手につかなくなって、困りますよね。
小ネタも保管はしたつもりですけど、勝手に題名をつけた分も結構あります。気に入らなかったら変えてくださいね。

っていうか、書きかけのssをほったらかして、何やってンだ、俺ort

142:名無しさん@ピンキー
09/01/06 08:15:31 eUY1zhNM
>>140>>141
保管庫編集乙!
くそ…力になれない自分が情けない…。やっぱりPC早く直さないと

143: ◆8pqpKZn956
09/01/06 09:33:52 U617YdLB
なんどもすいません>>139です
現時点までの全作品保管完了しました
業務連絡的な連投すいませんでした……



次から投下
前・後編の内の前編を投下します
NGはトリか『カウンター』で

五つ貰います

144:カウンター ◆8pqpKZn956
09/01/06 09:36:54 U617YdLB
「……宮川さん」
突然会長に話し掛けられ、私はビクリと身体を震わせた。
もちろん、それを悟られるようなことはしない。
ファイルを整える振りをして、代わりに心を落ち着ける。
「……なに、会長?」
「いえ……明日は大晦日だというのに仕事を手伝って貰ってすいませんでした、と」
「……そうね。もっと謝って」
「すいませんでした」
「……」
全く冗談が通じない男だ……。
いや、わかっていてズレたボールを返してくるのだ、コイツは。
私だって負けていられない。
「……すぐに謝る男ってみっともない。私は、あなたに仕事を頼まれてもいないのに、勝手に手伝ったのよ?」
長い台詞は苦手だけど、頑張って言ってやる。
「そうですか。では、宮川さんが偶然通りかかった生徒会室の中で雑務処理なんかしていてすいませんでした」
これだ。
ギロリと目の前の男を睨んでやると相変わらずニコニコと目を細めている。
窓から入り込んだ夕日が、この食えない生徒会長の顔をキラキラと輝かせているのに気がつき苛立つ。
「どうかしましたか?」
「いえ…………夕日のおかげで会長の端正なお顔がさらに格好よくなっていらっしゃるので見とれていました」
皮肉だけはスラスラ喋れる私に自己嫌悪する。
「ははは、皮肉ですか」
「ええ」
「…………へぇ?」
彼はニヤリとしながら言って、処理していた書類を棚にしまいだした。
皮肉というのは嘘だ。彼は誠に遺憾だが、私の美的センスによると、
文句なしに格好いい部類に悔しながら、分類される。
顔がかあっと、熱くなる。それが悔しい。
「悔しい……」
「思ったことすぐ口にするの、やめたらどうです?普段は無口のくせに」
「わかってる!」
思わず大声を出す。ハッとして口を塞ぐも、彼はもう、困ったような諦めたような顔をしていた。
「……そうですね、すいません」
「…………私帰るから」
「もう遅いし、家まで送ってほしいですか?」
あくまで、選択権はこちらに委ねた聞き方だ。それがわかるからまた頭に血が上る。
「…………」
「そうですか」
黙って首を横に振ると、彼はまったく少しも食い下がらず、そしてこの話は終わった。
イライラを募らせながら立ち上がり、私は出口へと向かった。
「お疲れ様でした、宮川さん」
「…………」
ドアを開ける、廊下に出る。
「いよいよ今年も明日で終わりですね」
「……なんで、あなたはそれを口に出来る、の……!」
「確認です……もう最後だっていう」
「……」
「宮川さん…………ごめんなさい」
「ばか健二!!」
ピシャン、と扉を閉めた。
ああ腹がたつイライラする、怒りで視界が滲む。今日もとっとと帰るべきだった。
「くっ……」
唇を噛む、血の味がする。思ったことをすぐ喋ってしまう私の口から言葉が零れる。
「……なんなの……私……!」
それは一年前に遡る。
…………
……



145:カウンター ◆8pqpKZn956
09/01/06 09:38:06 U617YdLB
一年と、もう数カ月前の秋の日。
私は約束の時間を過ぎても現れない相手に苛立っていた。
「…………」
「宮川さ〜ん!」
「……大声出さないで」
冷たく諌め、やっと来た彼を黙らせる。
彼の名前は大嶋健二。私と同じ(当時)二年生であり、家が隣り合わせの幼なじみである。
「遅い」
腰まで伸びるちょっと自慢の栗色の髪をばさりとかきあげながら睨みつけてやる。
シャンプーの匂いでも届いたのだろうか、いやにどぎまぎしながら彼は弁解した。
「あの……急に呼び出されてしまって……」
「誰に?」
「その…………」
「……やっぱり、あなたモテるのね」
彼はこの学園でちょっとした有名人である。
誰にでも優しく、礼儀正しい態度に可愛さとかっこよさを両立させた甘いマスク。
運動は人並みだが成績はかなり優秀と、つまり彼はとにかくモテる。
「……ずいぶん古風な子じゃない?相手」
今、体育館裏から出て来たものね。
言葉にしない部分を視線に乗せて言ってやると彼は首をすくめた。
「……断りましたよ?」
怖ず怖ずと私を見上げてくる。
私と彼は同じ学年だが誕生日の関係で私が11ヶ月年上であった。
小さい頃にお姉さん風を吹かせまくった結果、
彼は今だに私に対して敬語を使う。
少し気分がいいと思うのは私の性格が悪いからなのだろうか。
「私、あなたが断らなくても困らない」
「そ、そんな……宮川さん、僕は」
「…………」
僕は宮川さんが好きなんですよ、だろうきっと。
彼からは中学生時代に告白された。
私はその時『荷物持ちぐらいにはしてあげる』と、なんとも曖昧な返事をしておいた。
それ以来、彼は私の荷物持ちである。今も放課後はこうして待ち合わせして一緒に帰る。
「はい」
ずい、と鞄を押し付ける。
「今日もあなたの家で宿題を片付けるから……」
「あ、はい」
返事を待たずに歩き始める、彼が慌ててついてくるのが気配でわかった。
つねに私の一歩斜め後ろ。
さながら女王さま気分の下校は、私の自尊心を満たしてくれた。





146:カウンター ◆8pqpKZn956
09/01/06 09:38:34 U617YdLB
「ここは定理利用ですよ……基本なんだけどな〜」
「生意気……」
いちひくタンタン分のタンプラタンだったかしら。
頭に浮かんだ定理の覚え方のマヌケな調子に合わせてペンを走らせる。
「正解です」
健二がニッコリと言った。
私は彼の家のリビングで宿題を進めている。
成績優秀者の解説は非常に解りやすい。
取り組みはじめてまだ30分程度。
彼はとっとと自分の分を片付け、今は私のサポートに徹していた。
「……終わった」
「早いですね。僕のおかげですか?」
「さあ?……お茶」
「はいはい、紅茶でいいですか?」
無言で頷くと彼はキッチンにかけて行った。尻尾を振っているのが見えるようだ。
あいつ、執事なんか向いてるんじゃないかしら。
人に尽くす時にあそこまで嬉しそうなやつはそうそう見つからない。
なぜだか悔しいけど。
何となく居心地が悪くなってスカートの裾を気にしてみる。
「……どうしました?」
お盆を持った彼が帰ってくる。
「関係ないわ」
冷たく突き放した。私が『関係ない』と言えば彼は詮索してこない。
無言のまま彼はティーカップをテーブルに置いた。
「……いただきます」
一口啜る……まあ、及第点の紅茶がそこにはあった。
「……やっぱり、おば様の紅茶には遠く及ばないわ、ね」
「まあ、ねえ……淹れ方を教わる暇さえありませんし」
苦笑しながら彼も一口飲む。
彼の両親は一年中世界を飛び回っていて、滅多に家にいない。
だからこそリビングで好き勝手出来るというものだ。
「そうね。……じゃあ、隆さんは今どこに?」
隆さんは健二の兄で、バリバリの企業家である。
小さなころから健二と私と一緒に遊んでくれた、優しくて明るい人。
これまた仕事で全国を飛び回る隆さんだが、この家の彼の部屋はそのままになっている。
「兄さんは大阪あたりかなあ」
「自分の兄のくせに、アバウト……」
「親なんか北半球にいるのか南半球にいるのかすらわかりませんから」
はは、と健二は笑った。
「ですから……」
すっ、と距離を詰められる。
「二人っきりですね、今日も」
「…………そう」
「くっついていいですか?」
「良くはない……」
「ダメでもないんですね?」
私の返事も待たずに健二は肩に頭を乗せてきた。
「嫌なら突き飛ばしてくれてもいいんですよ?」
「趣味じゃないから」
暴力は、である。
「はは……」
いけない。
頬が熱くなる。
彼の顔を見て『かわいい』などと考えてしまう。
だめだ、だめ。健二を突き放さないと……。



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