無口な女の子とやっち ..
[bbspink|▼Menu]
54:名無しさん@ピンキー
08/12/22 00:18:55 luL5HL6n
>>53
初めて喋った言葉が男の名前だったり
片言の日本語で愛の告白をしたりする
萌えシチュエーションを妄想した

55:名無しさん@ピンキー
08/12/22 14:34:32 8ZH96GdL
ここって純愛系統のSSばっかだけど、それ以外はNG?

56:名無しさん@ピンキー
08/12/22 16:02:21 OWF4WSbR
陵辱やらレイプやらは専用スレで頼みたいな
嫌いな人も多いし

57:名無しさん@ピンキー
08/12/22 16:36:07 HhHp2etO
>>55
NGってことはないし注意入れれば問題はないだろうが反応は薄いだろうな。

58:名無しさん@ピンキー
08/12/23 22:48:37 bcXHzNch
ここは人が多いのか少ないのか分からないスレだな。最近は職人さんの数も減ってるくさいし…
このゆっくりな流れは代えたくない、でももっと活性化してほしいというジレンマ

59:名無しさん@ピンキー
08/12/24 02:49:26 prjtXHyZ
職人さん減ってるかなあ?
ネコな彼女シリーズの方にはぜひ戻ってきてもらいたいけど。

60:名無しさん@ピンキー
08/12/24 06:51:15 bxg2AZBp
>>59
申し訳ないが、先に素直クールスレに戻ってきて欲しい。

61:当人
08/12/24 23:45:36 OnMEIN70
>>59
スマン、常駐はしているがちょっと手を広げすぎて今手が回らんのだー。
でもやる気はあるから気長にまってもらえると嬉しい。

62:こたみかん ◆8rF3W6POd6
08/12/25 01:01:38 dX8IspY8
サンタよろしく皆が寝ている隙に投下。需要があるか分かりませんが…
またお前かよ、という方はNG指定を。

63:こたみかん ◆8rF3W6POd6
08/12/25 01:03:42 dX8IspY8
《無口で甘えん坊な彼女》〜彼女のお願い〜

俺が秋葉と付き合あってから、我が家のクリスマスは毎年秋葉を招いて祝っている。
母親を亡くし、俺の父さんと同様に出張の多い父親を持つ秋葉への贈り物だった。
「秋葉ちゃん、雪春ちょっといい?」
鮮やかに彩られたクリスマスケーキを前にした時母さんが俺達に包みを渡した。
「私からのクリスマスプレゼント、何が欲しいのかわからないから勝手に選んだんだけど…」
「いや、構わないよ。母さんありがとう」
「……ありがと」
「ふふっ、どういたしまして。さぁ開けてみて」
中にはマフラーが入っていた。俺のは藍色、秋葉は大好きな色であるオレンジ色。ふかふかしていて暖かそうだった。
寒いのが苦手な秋葉にもぴったりのプレゼントだ。
「……?」
一方秋葉はというとマフラーを広げしばらく見て首を傾げていた。
「どうしたの秋葉?」
「長くない……?」
よくよく見ると秋葉のマフラーは俺のと比べ二倍近い長さをしていている。
「それね、二人で使うの」
ニコニコしながら母さんが口を開いた。
「ラブラブな二人へのプレゼントです、って言ったらお店の人が持ってきてくれたのよ」
外で何言ってんだこの人…他にも変なこと言ってないだろうな。
母さんは自覚してなく本当に善意でやっている。それが逆に困ったものだが…
「ふふ、これなら二人共あったかくていいじゃない。密着もするし秋葉ちゃんにぴったりだと思ったのよ」
『密着』の言葉に秋葉の目の色が変わった。母さんの言葉にうんうんと頷いている。
まさか登校する時に使おうとか言わないだろうな…。
今でさえ寒さも相まって腕にギュッとしがみついてくるし。
まぁ前までは色々あって手すら繋いだことなかったからそれはそれで嬉しいけどさ。


たった三人のささやかなクリスマスパーティーが終わると、俺は一件挟んで隣の家である秋葉の家に来ていた。
母さんの許可も貰ったし久しぶりに秋葉の家に泊めてもらうのだ。明日は二人で出掛ける予定になっている。
目的の一つはお互いのプレゼントを買うこと。
実際に自分で見て好きなものお互いに買ってあげる。俺と秋葉の毎年の恒例になっていた。
「何か欲しいものある?もしあるならそれに合った店に行こう」

秋葉はしばらく視線を宙に浮かべて考えた。
「……『ずっと雪春と一緒にいられます券』とか…?」
「いや、そんな物必要ないだろ」


64:こたみかん ◆8rF3W6POd6
08/12/25 01:05:14 dX8IspY8

相変わらず恥ずかしいことを平気で言う。かなり慣れたつもりでもまだまだだ。
大体そんな券があったら俺の方が欲しい。
「まぁ明日また考えよう」
今はもっとしたいことがある。せっかく邪魔も入ることなく秋葉と二人っきりなんだから。
「……変態」
「まだ何も言ってないぞ」
心を読むとはさすがは秋葉と言ったところか…
「……」
突然に秋葉がぎゅっと抱きついてきた。顔をわずかに赤らめこちらを見てくる。
「……いいよ。しよ?」
ここからは余計な会話は必要なかった。
「…ちゅ、んん、はぁ」
服を脱ぎ捨てすぐに唇を合わせると相手の舌を絡めとり、口内に舌を差し込み歯茎や歯そのものを舐めあげる。
一日中していたいと思わせるほど秋葉とのキスは俺を魅了する。もちろんその先を欲しているが。
抱きしめていた腕を胸に持ってきて優しく包み込むと秋葉が体をくねらせた。
「…やっ、んぁ…ぁぁ」
秋葉は胸が特に弱い。小ぶりで掌に収まってしまうけどその分感じやすいらしい。
もち肌という言葉が相応しい白く柔らかい秋葉の綺麗な双乳。
その頂にある桜色をしたは乳首はまだ触れてもいないのにどんどん硬く尖り色を濃くしていく。
「…ぁん、ひゃんッ!」
親指で軽く押すように触ると秋葉の押し殺していた声が数段跳ね上がった。
調子に乗った俺は両手を使って揉みしだいていき固さを増していく乳首を親指と人差し指で摘んだ。
「ぁっ…そこ、ダメ…いゃ」
この時にしか聞くことの出来ない普段無口な秋葉の声。もっと聞きたくてしょうがない。
頃合いを見計らってぷっくりと膨らんだ乳首を口に含み唇で優しくはさんだ。
「ふあぁっ、いゃ、だ…め、ひゃっ…んッ、ぁ、ぁ」
舌で転がすように舐め、、音を立てて思いっきり吸う。もちろん余った胸への愛撫も忘れない。
「ゆき、はるっ…本当に、あ、もう…だめ、んんぁ」
身をよじらせ逃げようとする秋葉だがもちろんそんなことは許さない。
本当は秋葉だって胸をいじられるのが好きなのは承知済みだ。
俺はとどめを与えるべく勃起しきった乳首にそっと歯を添え甘噛みした。
「あっ、ひゃッ、ぁ…んんっー」
くぐもった媚声をあげながら秋葉は達した。
イク時に口を閉じて声を出さないようにするのが秋葉の癖だ。
もっと乱れるように声を出すのも聞いてみたいが今のは今ので俺は大満足だから良しとする。
「はぁ、はぁ…変態」
肩で息をしながら秋葉が呟いた。


65:こたみかん ◆8rF3W6POd6
08/12/25 01:07:35 dX8IspY8

秋葉が俺に向かって変態と言うときは非難の意味はない。単なる照れ隠しみたいなものだ。
「そう言う秋葉だってほら」
秋葉の股間に手を入れ割れ目に指を這わせると、恥ずかしい液体で溢れとろとろになっていた。
少し指を動かすだけでくちゅ、といやらしい水音を立てた。
「だって…雪春とすると気持ちいいから…」
まったく…潤んだ瞳でそんなことを言われたら我慢出来ないだろ。
「秋葉…もういいか?俺限界なんだけど」
「いいよ…でも、少し待って…」
「どうした?」
ベッドから降りた秋葉は裸のまま鞄から一冊の雑誌を手にした。
たしかあの雑誌は…『月刊無口っ娘通信♪』だよな。母さんが秋葉に紹介したやつだ。
秋葉はあらかじめ折り目の付いたページを開いて見せてきた。
「『愛する人とのエッチ特集〜体位編〜』ってこれは…?」
そこには色々な体位が挿し絵と共に特徴が詳しく書いてある。
「……」
顔を真っ赤にさせた秋葉はその中でもあるものをトントンと指差した。
「こ、これ……」
してみたい、という言葉が微かに聞こえた。
「もしかして今日は対面座位でしたいのか?」
嬉しそうにコクリと頷く秋葉。そういえば今まで正常位でしかしたことがないな。
顔が見えないという理由で秋葉はバックを嫌がる、まぁ俺も秋葉の顔を見られないのは嫌だ。
騎乗位は秋葉が感じすぎて動く所ではなくなりそうだからという理由でしたことがない。
でもこれなら…大方この説明にある相手との密着度大幅アップ、の言葉に惹かれたんだろう。
「いいよ。たまには違うのでしてみよう」
ベッドの縁に腰掛けゴムを着け秋葉を手招きする。
座った状態でいる俺の両肩に手を置いて秋葉は跨った。
「もうちょと前…そうそこ。ゆっくり下ろしてな支えててやるから…」
冷静に指示を与えるが正直それどころじゃなかった。
秋葉が能動的に俺のモノを入れようとしている。
それに加えて目の前に美味しそうな双乳と頬を朱に染めた秋葉の顔があれば誰だって冷静でいられなくなるだろう。
対面座位ってすごくいいかもしれない…ハマりそうだ。
「んはっ、はぁ…」
十分すぎるほどぬかるんだ秘唇に先端が入ると一気に秋葉の中に飲み込まれた。
「あっ、ゃん、ふか、い…んはぅ」
快楽に意識を飛ばされないように秋葉が必死に抱きついてくる。
ただそのせいで間に挟まれた両胸が擦れ合いより大きな快感を秋葉に与えることになった。
「あぁ、やんッ…ひゃうっ、んはっ」


66:こたみかん ◆8rF3W6POd6
08/12/25 01:09:49 dX8IspY8

いつも以上に深く繋がっているからなのか、軽く突くだけで秋葉はびくっと痙攣した。
力が抜けそうになる秋葉を抱き返し唇を重ね上も下も繋がると、秋葉と一つになっているという意識が高まる。
もっと秋葉と繋がりたい、同じ快感を共有したい、その一心で舌を絡ませ腰を動かした。
ぎゅうぎゅうと締め付けてくる秋葉の柔肉に包まれ続け俺も限界が近づく。
「悪い、秋葉…もう」
「…私、もっ、ひゃふッ」
強く秋葉を抱き締めながらコツコツと最奥をノックするように腰を突き上げ貫いた。
「ひゃふっ、んは…あ、んんんんんーーーーー」
体を震わせ秋葉が先に達し一際強く膣口を締めつけ射精を促し俺もほとんど同時に吐精した。
薄いゴムを突き破るのではないかと焦らせる勢いで放出し終え息を整える。
「秋葉?大丈夫か?」
全身の力が抜け半ば俺の首にぶら下がるようにしている秋葉に呼びかけた。
「大丈夫…多分…」
「多分ってなんだよ、多分って」
軽くおでこをつついてから頭を撫でてやると秋葉は目を閉じ幸せそうに俺の胸に頬ずりし始めた。
「へへっ……気持ちよかったよ…」
「そいつはよかった。まぁ俺も気持ち良かったし」
「……いつものより好きかも…」
ご満悦の表情からするに秋葉は対面座位がすごく気に入ったようだ。
俺もこんなにいいと思わなかった。多分次からはメインの体位だな。
「雪春……大好き…」
顔を上げてしっかり目を合わせ秋葉が微笑んだ。言われ飽きてるはずなのに何度聞いてもやっぱり嬉しい。
「この状態でそんなこと言うとどうなるか分かってるよな?」
「うん…もう一回しよ…?ひゃっ!」
秋葉の言葉を最後まで聞き終える前に腰を動かし始めた。
「ちょっと…雪春っ…」
ぺしぺしと俺を叩き秋葉が中断を求めた。
「わ、悪い、もう少し待った方がいいか?」
「違う…ゴム代えないと…あと…キスしてからがいい…」
「あ、そうか…了解」
名残惜しいが一旦離れ新しいゴムを着ける。避妊するというは秋葉とつきあう上での母さんとの約束なのだ。
「それと…あのマフラー使おうね」
「今言うことかそれ?」
「…あともっとぎゅってして……」
あぁーもう、なんて可愛いいんだ。そんなこと言ったら一生離さないからな。
今か今かと待ち受ける秋葉の唇に自分のを重ねて行為を再開した。
「んんっ、雪春……大好きだよ…」
快感に悶える中で秋葉は嬉しそうに囁いた。


終わり

小ネタのはずが長くなってしまった…

67:名無しさん@ピンキー
08/12/25 01:13:48 wJW+yUN2
うおおぉぉ 素晴らしい
GJ
クリスマスに全裸待機しててよかったぁ

68:名無しさん@ピンキー
08/12/25 01:24:20 MT52stPx
うおおおっと、こたみかん氏に先を越されちまったいw
前スレで「ちょっと密林行ってくる」を書いたモノです。
私もクリスマスネタでひとつ書きましたが……
これは明日に回した方が良さそうですね。出直しますデス。

69:名無しさん@ピンキー
08/12/25 01:26:48 gyzCl8jn
待ってました!GJ!

>>68
小ネタなら前スレに投下して埋めてくれれば……

70:名無しさん@ピンキー
08/12/25 11:25:15 R45PLf6e
>>66
GJ!甘すぎるやろ……!


ここからクリスマスネタで投下
8つ消費します

>>68
横入りすいません
今しか暇なタイミングなくて……

NGはトリか『プレゼントは私!』で

71:プレゼントは私!1/8 ◆8pqpKZn956
08/12/25 11:29:45 R45PLf6e
軽そうなアルミテーブルの上に鎮座する携帯電話のサブ・ディスプレイが、
現時刻を12月23日深夜……正確には24日と伝えている。
一糸纏わぬ姿で冷たい床に横たわる小夜(さや)は、
窓から注ぐ月光に照らされてテラテラと光る陰部を恥ずかしそうに手で隠した。
長い黒いストレートな髪の毛、幼い顔付き、それに似合わぬ扇情的な瞳。
彼女自身の掌ですっぽり隠せそうな可愛い胸。
十人が十人どきりとするであろう美しさを持った彼女は今、
マンションの一室で恋人の帰りを待っている最中である。それも裸で。なぜか?
結論から言うとつまり彼女は、彼氏を誘惑しようとしている訳である。
もちろん性的な意味で。

彼女の恋人である弘樹は立派な社会人で、本来祝日である今日も朝から休日出勤している。
弘樹のいとこであり、恋人であり、ちなみに学生の身分でもある小夜は毎日部活が終わると合鍵を使って彼の家に入り込み、
鼻歌まじりに料理を作って新妻よろしく未来の旦那様(予定)をお出迎えするのが日課になっていた。
しかし、いつものように(23日は祝日だが、部活の練習があった)小夜がマンションへ向かっている最中、
彼女の携帯に彼から着信が入り、弘樹は申し訳なさげに告げた。
『すまん、帰り夜中になっちまいそうだから夕飯いらないわ。今日は小夜、“実家”に帰ってくれ』
刹那、小夜が無言で通話終了ボタンを押したのは、怒ったわけではなく単に彼女が無口だからである。
実家というのは小夜の両親が住んでいる家でマンションから徒歩5分。
法の上では小夜の所在地はこちらなのだが、彼女があんまり弘樹の部屋にお泊りするものだから、
すっかり『たまに帰るべき場所、実家』という扱いになってしまった。
まあ互いの両親公認の上だから問題はない。

さて、一気に予定が無くなった彼女である。買い物に行く前でよかったとは思ったが寂しさも感じた。
今日は、というか今日も抱いてもらう気満々だったのに期待を裏切られた格好である。
実家に帰るつもりはないので、無理矢理夜中まで起きて待っていれば弘樹に会えるには会えるが、
そこから性交渉を迫った所で
『疲れてるから明日な』、と適当にあしらわれてしまうのが目に見えている。
何とかして弘樹を興奮させる方法が必要だ。小夜はうむむ、と指をあごにあてながらマンションへと到着した。

とりあえず部屋を掃除し、ありもので自分用の夕食を作ってかき込み、
暇になったので、所属している吹奏楽部の年明けの演奏会で使う譜面をチェックし、
注意すべきアーティキュレーションの強調を蛍光ペンで終えた時点で時計を見るとやっと夜の10時だったが弘樹はまだ帰らない。
小夜は今日抱いてもらうための方法を考える一人議会を開会した。



72:プレゼントは私!2/8 ◆8pqpKZn956
08/12/25 11:30:40 R45PLf6e
しばらく考え、小夜は『据え膳食わぬは男の恥作戦』に打って出ることに決めた。
作戦内容はいたってシンプル、ただ裸でターゲットの帰りを待つだけだ。
流石に恋人のヌードを見て冷静になれるほど弘樹は聖人でないはずだし、
万一反応が薄くても
『私がこんな事までしてるのに、弘樹はコーフンしないんだ……私の事、飽きちゃったんだ……』
と目で訴えかければ。
彼も私を抱かないわけにはいくまい、と小夜はほほ笑み、同時に頬を赤く染めた。
しかし……、と小夜は考えた。これではまるで自分が淫乱娘のようではないか!?
実際、まだ日が高くある頃合いに恋人に抱かれる算段をつけている小夜が淫乱でないかどうかというと微妙であるが、
ともかく彼女は恋人にそんな風に思われるのは我慢できなかった。
だって、それが原因で嫌われたりしたら取り返しがつかないもの!と彼女は葛藤する。
エッチな女だと思われたくない、さりとてエッチを我慢するのも嫌だし。
学生の本分から些か脱線した悩みをこね回しているうち、彼女はある重大な事実を思い出す。
夜中になり、日付がかわったら……クリスマス・イヴではないか!

そして話は冒頭に戻る。
『お帰り。今日はクリスマスイヴ、だからプレゼントは私。
普通プレゼントってイヴの夜に渡すのだろうけれど、弘樹には少しでも早く受け取って欲しかったから…………』
なんとまあ、完璧な計画だろう。
裸のいとこの女学生にこう言われてグラッとこない男がいるだろうか。ムードを出すために部屋の明かりも消した。
これで彼にシてもらえるだけでなく、なんとも健気な印象を与えラブラブ度アップに違いない。
あくまで“弘樹の為にわざわざ”裸になって待っていたのだ、淫乱だなんて思われるはずもない。
「……プレゼントはわ・た・し……なんて、ね……」
小夜はクスクス笑い、これから与えられるであろう快感への期待に濡れた花弁を震わせていた。



昨今の不況は日本の大・中・小企業に万遍なく悪影響を与え、
また弘樹の勤める会社もまた例外ではなく、
人件費を減らすため『ノー残業Day』という何とも馬鹿らしい制度ができた。
毎週月曜を残業禁止の日とし、社員にはらう残業手当を減らすというものである。
「もともとサービス残業ばかりだったじゃねーかよ……」
弘樹は愚痴りつつ家路を急いだ。彼にとって、結局この制度は火曜日の仕事量を増やすだけである。
第一、今日は祝日だというのにわざわざ出勤、まさに本末転倒。
彼が腕時計に目をやると、すでに日付がかわっていた。
「小夜のやつ待ってるだろうな……」
弘樹は、電話で実家に帰れとは言ったものの、どうせ小夜は部屋に来ているだろうとふんでいた。
無口で、ちょっとわがままで、それでいて愛らしい恋人のことを思い、弘樹は歩幅を広くした。



73:プレゼントは私!3/8 ◆8pqpKZn956
08/12/25 11:32:07 R45PLf6e
やっとこマンションへ到着し玄関のノブを回してみると案の定、鍵が開いていた。
「やっぱり来てたか」
弘樹はドアを引き室内に入り……あれ、と首を傾げた。
「電気消えてる?あいつ来てないのかな」
しかし鍵は開けっ放しだった。まさか朝かけ忘れたとも考えにくい。
弘樹は逡巡したが、意外とあっさり結論に達した。
「……ああ、小夜のやつ、もう寝てるのか」
時間的にもだいぶ遅いしおかしくはない。
「ずっと待ってくれただろうに、悪いことしたな」
仕事のせいとはいえ罪悪感がのしかかってくる。
ならば、せめて彼女を起こさないようにしなきゃな、
と弘樹は音をたてずにドアを閉めた。
そろりそろりと短い廊下を歩き、そして静かに寝室の扉を開く。
着替えは寝室にあるので入らないわけにはいかないが、
小夜の睡眠を邪魔しないように、そっと静かに、まずは少しだけ扉を開ける。
当然そこには恋人の可愛い寝顔があるものと弘樹は思っていた。
しかし彼の瞳にうつったものは……
(………………まじか?)
切ない吐息を漏らしながら自らを慰める小夜の姿だった。





74:プレゼントは私!4/8 ◆8pqpKZn956
08/12/25 11:33:10 R45PLf6e
才子、才に倒れる。
または、策士、策に溺れる。
この言葉は、自分の才能を過信し策を弄した結果、かえって失敗するような者に対して使う。
『弄し』の原形『弄する』はサ変動詞で『ろうする』と読み、『もてあそぶ』という意味を持つ。
『もてあそぶ』を漢字にするとやっぱり『弄ぶ』である。
小夜はそんなどうでもいい解説を頭の中で必死に巡らせたが、
結局欲望は消えず、そして彼女の右手は止まらずに秘部をこねくり回していた。
結局、彼氏との“夜”を裸で夢想するうちにいろいろ堪えられなくなってしまったのだ。
策に溺れ、快感に溺れた彼女の口から控えめな吐息が漏れた。
「ん……ふ、ぁ……」
中指は第一関節まで割れ目の中に潜り込み、優しく膣壁を刺激する。
人差し指は綺麗なピンク色のふちどりをなぞる。
指先がクリトリスに少し触れると、
瞼の裏には愛する弘樹の顔が、甘やかな痺れとともに思い起こされた。
「…………くふ、ん……はぅ、あ……」
小夜は開いた左手で、やや小さめな胸を揉みしだいた。
それは弘樹の『俺は小さいのが好き』という言葉のお陰で、彼女にとって誇りであった。
緩やかなカーブの頂点はすでに硬く、頭をもたげている。
「…………ひろ……、ひろ……あぅっ!」
急だった少し強めの波にピクンと、長い脚が跳ねた。
「ひろぉ…………」
いつもあまり喋らない彼女が、エッチになると途端に
『ああそこ、気持ちいいっ』などと上手に叫べるはずはなかった。
それでは弘樹も盛り下がるだろうと小夜が努力した結果、
快感の波にあっぷあっぷしながらも『ひろ』と名前が呼べるようになった。
実際、ことの最中の彼女の蕩けた表情や、喉から漏れる掠れた矯正だけで弘樹を扇情するには十分だったのだが、
健気に、涙目で、小さな口から紡がれる『ひろ』の二文字に“ひろ”はぶちのめされる事となった。
現在も、少しだけ開いたドアの向こうで彼は大絶賛ぶちのめされ中なのだが、
それに気付くはずもなく小夜は情欲の階段を上りつめていった。
「ひゃっ…………あ……あ……ひろ、ひ、ろぉ…………んああっ!」
人差し指と親指でクリトリスを摘み、中指もより深く差し込む。
左手も胸から股間に移動し、穴の中へもう一本追加した。
「あ、あ……あ、ひろ、ああっ、ひろっ!ひろっ!」
ぷじゅ、ぐじゅ、じゅくっ。いやらしい音が自分の耳に届き、
それが一層指の運動を駆り立てる。目の前には愛する弘樹の幻想。
そうこれはひろの指。
「へは、へあ、あっひろ、ひろっ」
オナニーではなく擬似セックス。“ひろの指”が涙とよだれを垂れ流す小夜にとどめを刺した。
「ひろのゆびいいいぃあああぁ、ああっ!?ひゃふぁああああぁああぁぁぁあああああっ!!?!」
びゅくびゅく!びゅ!びゅく!
透明な液が吹き出す。小夜はガクガクと腰を揺らしながら十数回にわたて潮を吹き出し、やがて目を閉じた。
小夜は背徳感あふれる余韻に浸りながらぼそりと呟く。
「ひろぉ…………淋しい、帰って来て、お願い…………」
彼女にしては長めの台詞だったので居ても立ってもいられなくだろうか。
「あの……ただいま」
「っっ!!!!」
弘樹は躊躇いがちにドアを開いていた。





75:プレゼントは私!5/8 ◆8pqpKZn956
08/12/25 11:34:24 R45PLf6e
「えと、小夜……どうしたんだよ?」
弘樹は歩み寄りながら、硬直している小夜に問い掛ける。そしてすぐに手が届く位置までやって来た。
「…………あ………ふあ……」
小夜はまだ荒れた息をしつつ、表情をゆっくりと変えてゆく。
真ん丸だった瞳がとろんとしたものになってゆく。
「小夜、お、んぅ」
二倍の残業を終えて帰って来た彼の言葉は、裸でその帰宅を待っていた彼女の唇によって中止させられた。
彼女は彼を押し倒し、彼は近くのアルミテーブルにぶつかった。
上に乗っていた携帯はコトリと音をたて、オーボエ用の楽譜がヒラリと床に落ちる。
A3用紙に印刷されたそれは、しかし今の彼女には何の意味も持たないおたまじゃくしの群れであり、
二人の近くにありながらすぐに存在感を失う。
びちょびちょになった股から零れる愛液がふとももを伝うのも気にせず、
小夜は夢中で本物のひろを貪った。
「んちゅ、ん、んう……くぷ、ぢゅうぅ、んあ、ふぁふ……ちゅう……」
小夜は弘樹の舌を吸い出し、擦り合わせて唾液を交換する。
烏の濡れ羽色をした髪が、さらりと弘樹の顔にかかった。
ねぶるような舌使いに弘樹も答え、手を小夜の背に回して強く抱きしめた。
小夜の上前歯の後ろを舐めるように舌を動かすと、彼女が歓喜に身震いするのがわかった。
負けじと小夜も弘樹に侵入を試み、押し合いへし合った。
二人の舌と舌は拮抗した欲望でもって戦い、やがてゆっくりと口が離れた。
先程より少しだけ位置を高くした月が唾液の橋を青白くライトアップした。
「……小夜、質問にこたえろよ……どうしたんだ?」
「…………プ、」
「ぷ?」
「プレ、ゼント………………ね?」
今日、クリスマスだから、ね。
口より目で語る小夜と長い付き合いの弘樹は言葉をあっさり保管した。
同時に台詞の行間も読んでみる…………小夜が愛しくて堪らなくなった。
「小夜っ」
小夜を思わず抱きしめる、少しで密着しようとする、同化への渇望。
小夜はびっくりしたが、すぐに満面の笑みを浮かべ、チロチロと弘樹の首筋を舐めた。
「お前は猫か」
「………………♪」
ここで不用意に『ニャー』だとか言わないのが小夜である。
弘樹はむず痒い幸せに身をすくませ、小夜を抱く腕に少し力を込めた。
小夜は「きゅっ」、と小さく声を上げ舌の動きをやめた。
ギュッと瞼を下ろし、視覚以外の感覚に集中する。
「んふう…………ひろぉ…………」
くんくんと鼻を鳴らし大好きな匂いをいっぱいに吸い込む。
良い意味で、身体の中からおかされる感じがして、小夜はより一層弘樹が好きになった。
「…………105%、なのぉ」
尻尾をふりながら言った。ラブゲージが限界突破したらしい。恋する乙女は際限なく恋するのだ。


76:プレゼントは私!6/8 ◆8pqpKZn956
08/12/25 11:35:15 R45PLf6e
「なにが105%なのかわからんが……ありがと」
無口な子猫の頭を撫でてから、そのままその手を濡れそぼったあの場所に宛がう。
「もう、大丈夫みたいだな」
恋人を受け入れるには充分に濡れている。小夜と弘樹は目で頷きあった。
弘樹は小夜を床に優しく横たえる。ベッドに行こうと気が回らない程度には彼らは興奮していた。
弘樹がズボンを下ろすと限界にそそり立つそれが姿を表した。
小夜の小さな口にその先端を近づける。小夜はウットリと軽く口づけ、いきなり奥までくわえ込んだ。
「ん……んぶ……」
ちゅぼっ、ちゅぼっ、ちゅぼっ、ちゅぼっ……
ペニスに満遍なく唾液を塗(まぶ)してゆく。
ちゅぼ、ちゅぱちゅぱ、ぐちゅ、ちゅばっ、ぢゅぶぶぶっ!
小夜は愛おしそうな目で眺め、それを舌で唇で頬肉で磨きあげる。
「う……ちゅ、ん、んん、んあん、んんう」
ぬるぬると摩擦係数の低い擦れあいが続く。
プリプリした小夜の頬肉が亀頭を執拗に責め、緩んだ口角から唾液の飛沫が跳ぶ。
「あふ、ふあ……」
「く、小夜……」
弘樹は低く呻き、口からペニスを抜きだした。
ぬぷっと水気のある音を立てて、
ぬらりと再び外気に触れたそれのいやらしい外見に小夜の下腹部がキュンと縮こまる。
「……………んは、はっ、ひろ……」
入れてとは言わない。しかし、熱を孕んだ視線で、べとべとになった口元が反射する月光で、
愛欲が飽和に溶け込んだ鼻息で、小夜は弘樹に訴えた。
「ん……小夜」
準備完了。
弘樹は新たな湿りを帯び出している割れ目にペニスを押し付け、ゆっくり埋没させていった。
「ひろっ、あ、あうん、あああっ!」
ズブッ!ズズ、ズブズブ!
小夜の膣は恋人をスムーズに受け入れていく。熱い硬いペニスが肉壁をコリコリ擦り、
そのすべてが電気信号となって小夜の脳を直撃した。
「うひゃああ、ああ、わああ!?ひゃああ!」
さんざん待ってやっとの挿入に小夜は絶叫する。
すごい、気持ちいい!気持ちいい!


77:プレゼントは私!7/8 ◆8pqpKZn956
08/12/25 11:36:06 R45PLf6e
「あああ、あん、ああ、……あ、あ、あはぁ……」
「動くぞっ」
先程の口淫のお陰で、弘樹はいきなりラストスパートである。
しかし、小夜も今夜はずっと限界ギリギリであった。
ズ、ズプ、ぐちゅうっ!ズプン!ぐちゃっ、ぐちゃっ!
角度を変えて下からえぐるようにすると小夜の喘ぎが半音上がった。
「やああ、ひろっ、ああ、ああ、ひゅっ……ぅ、ん、んくああぁっ!」
小夜は壮絶な快感に悶え狂う。すべすべのお腹がうねり上下し、両脚がばたつき、つっぱって、結局弘樹の腰に絡められる。
ストロークを続けながら、ふるふると震える乳首に吸い付くと小夜の身体がビクッと跳ねる。
「やああっ、やああああ、ぅああ、ああ、あああ」
「おっぱい、いいのか?」
「ひろっ!ひろぉおっ!」
肯定の意を込めて、小夜が愛しい名前を呼ぶ。
弘樹も可愛い恋人を悦ばせようと、少し角度を変えて壁をえぐる。乳首を甘がみする。
ぐちゃ、ズポ、ズプ、ズプ、ズプ!
「ひゃふん!あっ、………………」
小夜は一際高く鳴き、息をはっと詰めた。目は見開かれ、真っ直ぐ弘樹を射ぬく。
彼女がイくときの癖だ。小さい頃から目だけで会話してきた二人に、今更言葉はいらない。
いや、空気でない何かが振動して、二人の心に響く。
一緒に…………。
弘樹は最後に思いきり子宮を小突いた。膣がうねり、小夜の裸が良過ぎる快感に泡立つ。
「っっっ!!!」
小夜は限界を向かえ、決壊した。
「っ!くはあっ!ひろぉあ、おあ、あっ!?ああああぁぁああああぁぁあぁああああ!!!!」
ブシュウウウ!!
小夜は今日二度目の潮吹きをした。
同時に放たれた弘樹の精液と混ざりあって広範囲に飛び散り、辺りの床をびちょびちょにする。
「あ…………ああ……あ…………」
「小、夜……」
二人の身体が弛緩し、弘樹は小夜に倒れ込んだ。
「…………ひろ、き」
ふう、ふうと呼吸を整えながら、これでもかというような笑顔で小夜が言った。
「めり……くりすま、す……」
「……まだ、イヴだけど……メリークリスマス」
「…………」
小夜はツンと弘樹をつついて、また笑った。ちなみにこのとき彼女の目は『ば〜か』と語っていた。

††

しばらくしてから二人は一緒に風呂に入った。最初はいちゃいちゃと流しっこをしていたが、
弘樹が小夜の背中をスポンジで擦りつつ思い出したように言った。
「そういや、小夜って意外と……なんというか、すごいな」
「?」
何が?と首を傾げるのを確認してから弘樹が続ける。
「だって、最初に言ったプレゼントって……『クリスマスプレゼントにエッチしてくれ』って意味だろ?」
「!?ち、ちが……」
「やばいって小夜……可愛すぎだろ……」
反論をまたず弘樹が小夜を抱きしめた。
小夜の作戦は、当初もっとも懸念した『弘樹に淫乱と思われる』という結末により失敗となったが、
なんだか弘樹は喜んでいるというかラブラブ度はアップしたからまあいいやと彼女は思った。
「ま、明日……というか今日は、仕事終わったらちゃんと別にプレゼント買ってやるからさ……」
だから今夜は買い物デートな、と目で話し掛けて、小夜もは〜い、と応答する。
ちゅっ、とキスの音が二、三回反響して、小夜はくすぐったく感じた。





78:プレゼントは私!8/8 ◆8pqpKZn956
08/12/25 11:37:28 R45PLf6e
「小夜ちゃ〜ん!」
作戦失敗の夜が明け24日クリスマスイヴ、学校終業式の日。
学校で制服に身を包み帰り支度をする小夜に明るく少女が話しかけた。
名を恵理といい、小夜と同じく吹奏楽部に所属している。二人は親友だったりする。
「今日も愛しの弘樹さんの所に行くんでしょ?」
コクン、と小夜が頷く。
「じゃ〜今日も途中まで一緒に行こー」
また一つ頷いて小夜は歩き出した。

「う〜ん、やっと冬休みだねえ、小夜ちゃん」
「ん…………うれしい」
弘樹とずっと一緒にいられるから、である。
「冬休み中は部活無いしね〜……だからといって彼氏もいないわたしゃ、暇なだけだけどさ〜」
小夜が苦笑いを作る。
「あ!小夜ちゃん、男いるからってばっかにして〜!
いーよねー小夜ちゃんは!クリスマスだから今日も彼にプレゼント貰っちゃったりすんだろーなー」
ぷうぷうと恵理はひがみをたれた。
「プレゼント、なにおねだりするのか教えなさいよ〜」
小夜は少し困った顔をしてから、ぽつぽつと語った。
「一つは、今日、買いに行く…………」
「一緒に?」
首が縦に振れた。かーっ!うらやましい!と理恵が天を仰ぐ。何と言うか、演技がかった娘である。
「イチャラブ買い物デートキャッキャうふふですかそうですかくそ〜独り者にとっては公害だね公害…………あれ?
一つは、ってことは、もうひとつプレゼント貰えるの?」
「うん…………も一つは……」
ガサガサと小夜はかばんを漁り、これ、と一枚のA3用紙を見せびらかした。
「なあにこれ……あら、年明けのコンサートの一曲目の譜面じゃん。まーまー丁寧に蛍光ペンでポイント強調しちゃって豆だね〜……。
でも、これがプレゼントってどういう意味?」
「…………秘密」
小夜はニヤリとして楽譜しまい込む。
「あ、なによ〜意地悪〜〜」
「ふふ……じゃ、着いたから」
「はいはい。頑張って未来の旦那様をお出迎えなさいな」
笑いながら二人は別れた。
恵理はその楽譜が、一度濡れてふやけてしまっていることには気付いたが、
何故それが濡れたのかについては、特に疑問に思わなかったのだ。

仕事を、前日の努力の甲斐あって、早く切り上げ家へと歩いていた弘樹がくちゅんと一つクシャミをした。
「あれ……風邪かな?」
とにもかくにもマンションに着き、自分の部屋の扉の前で深呼吸する。
弘樹はポケットの中に忍ばせた指輪をコートの上からポンと叩いた。
デートで(良い意味で)適当に洋服でも買ってやって、満足し油断してる所でこいつを渡す。
本当に籍を入れるのはまだ先になりそうだけど、
これはそう、間違いなく、婚約の約束の印。これからの人生を全て捧げるという誓い。
「プレゼントはわ・た・し♪……な〜んてな」
クスクスと笑いながら彼はドアを開けた。
「ただいま!」
ややあって奥からパタパタと、弘樹の無口な恋人が嬉しそうに走ってくる。
「お帰り、なさい……!」
二人のクリスマスは、まだ始まったばかり。

街では微かに溶け残った霜に太陽の日差しが反射し、小夜の笑顔もまたキラキラと輝いていた。




メリークリスマス!

79:名無しさん@ピンキー
08/12/25 15:05:24 e0uW21T8
>>78
GJ!
小夜エロいよ小夜

80:「サンタガール」
08/12/25 23:28:33 MT52stPx
>70 様
いやあ、メチャクチャ濃厚なエロでした。お腹一杯です。すげえです。

さて季節商品の時期を逸したくないのは、誰しも同じ。私も同じ。
というわけで、昨日ご遠慮させていただいたクリスマスものを投下させて頂きます。
申し訳ありませんがエロは一切ありません。あらかじめご了承ください。

81:「サンタガール」
08/12/25 23:29:31 MT52stPx
聖夜を間近に控える頃になると、巷には華やいだ空気が一層漂うようになってくる。
有線から聞こえてくるのも、先ほどからずっとクリスマスソングばかりだ。
閉店後の小さな喫茶店の窓越しに見る駅前の夜景も、イルミネーションが瞬くように
なってどことなくウキウキした気分になる。
「ラ〜ストクリッスマ〜ス……ンフフフ〜ン……」
有線に合わせて口ずさみながら、恵介は喫茶店の窓にクリスマスの飾り付けをしていた。
椅子の上で軽く背伸びをし、金色や緑色に光るリボンを波状にたわませながら、窓を
縁取ってゆく。ダウンライトだけの薄暗い店内に、リボンのきらめきが華やぐ。
「うんうん、ケイは意外と手際がいいんだな」
既に照明が落とされたカウンターにもたれ、マスターがタバコに火をつけながら言った。
「ふぅー……。こんな飾りつけは滅多に、というか、ここ数年してなかったからね。
やっぱり女の子チャンのバイトがいると違うやね〜。オジサン、ビックリよ」
ぷかりと煙を浮かべ、マスターはにんまりとした。

「なあ、クリス?」

名前を呼ばれて、恵介と一緒に作業をしていた少女、クリスは少しはにかんだ様子で笑った。
床に置いた大きな紙袋からリボンの続きを取り出す手を止め、長いまつ毛の下に隠れた碧眼を
節目がちにして、ちょっともじもじしている。
クリスはつい2ヶ月前に入ってきたばかりの新人だったが、マスターも恵介も、彼女の事は
良く知っていた。今からちょうど一年前、恵介がこの小さな喫茶店で働き始めたぐらいから、
客としてちょくちょく顔を出していたのだ。
一度見れば忘れられない、160cm前後のすらりとしたスタイル、ゆるいウェーブのかかった
肩までのブロンド、コーヒーの黒とは対照的な白い雪のような肌、窓際の席でペーパーバックの
字を静かに追う優しげな碧眼。そして何より、

「キャラメルモカ、を……ク、クダッサイ?」
いつまでたっても上達しない、おずおずとした可愛らしい日本語。

「いいよねえ?」「実にいいです」
絵に描いたような白人少女が来るたびに、マスターと恵介は、こんな深いメッセージを
目線だけで交していたものだった。そのたびに、マスターは奥さんに耳を引っ張られて
厨房へと姿を消した。恐ろしい女の観察力である。
その奥さんが少し体調を崩し、急きょバイトを追加する事になったのが2ヶ月前の秋口だ。
「ア、あのゥ」
恵介が店のドアに「バイト急募」のポスターを貼った翌日、カランコロンと店のドアを鳴らし、
いつものように彼女は現れた。しかし、普段なら窓際へと足を運ぶはずの彼女がドアの
ところでぴたりと立ち止まり、しげしげとポスターを眺めてから、カウンターにいる恵介と
マスターに向けて控えめな声で言った。

「アノ、ワタシ……名前クリス、でス。『クリスティアナ・マンシッカ』でス。フルネーム。」

いきなりの自己紹介に恵介とマスターは、やれ可愛い名前だぴったりだ、やれ変わった苗字だ
聞いたことねぇと、大げさに頷いて見せた。
「ソれデワタシハ、エート……Yes……Ah……コノタビ……No……」
ちょっと思考時間が必要だったのだろう、口ごもっていた彼女はようやくこう言った。

「ワタシ、ココデ? 働ケ……働ケテテモいぃデスか?」

英語のペーパーバックを胸の辺りできゅっと抱きしめ、何かの判決でも待つように神妙な
面持ちの彼女を見て、男二人は二つ返事だった。
「今すぐ、今日からいいよねえ?」「実に、いいです」

クリスは口数こそ少ないが―そもそも日本語が不得手だったが―良く働くフィンランド系の
少女だった。
白の襟付きシャツに黒のニットベストと膝丈スカート、それにエプロンという飾り気無い
喫茶店の制服も、クリスのようなすらりとした白人が着用すると、それだけで魅力が数十倍に
膨れ上がった。ポニーテールに纏めた癖のある金髪もステキだ。小さめのベストを山なりに
押し上げ、動くたびに揺れる胸も、いい感じに目のやり場に困る。
「本格的に、いいよねえ?」「実ッ……に! いいですッ」

82:「サンタガール」
08/12/25 23:30:45 MT52stPx
言葉が通じづらいのも何のその、クリスは殆ど毎日店に顔を出した。屈託の無い笑顔と
時々発せられる妙な日本語も、意外と常連さんたちからの評判も良く、すぐにこの小さな
喫茶店に馴染んだ。
「注文お決まりですか」
恵介がオーダー片手にテーブルへ近づくと、ある壮年の常連などはシッシと手を振って、
「お前じゃなくてだ……クリスちゃーん、ブレンドとエビグラタンね!」
と、カウンターの奥にいるクリスに直接オーダーを出す始末だった。
でも、そんなぞんざいな扱いを受けても、恵介は全く気にならなかった。
むしろ、名前を呼ばれるたびにニッコリと微笑んで振り返り、指で「OK!」のサインを
作る彼女の愛らしい仕草が見れたのが嬉しかった。
しょっちゅう注文を間違えても、誰一人として怒る客もいない。
クリスが注文を間違える時は、いつもコーヒーを客のところへ持っていって、そこで
初めて気付く。するとクリスは一瞬ポカンとして、ハっとしてがくーんと肩を落として、
最後にため息混じりにこう言うのだった。
「Ah……ゴメンだったネ」
この愉快な落胆百面相振りを、とろけ切った顔で眺めている輩までいるほどである。
「あ、オジサン思うんだけど」
そうしてペコペコ謝っているクリスの後姿を見ていたマスターがある日、ポンと手を打った。
「全部の客のオーダーを『ハイパーメガナポリタン極盛り』にすり替えても、大丈夫じゃね?」
こんなよからぬ企みを、マスターが思いつくほどである。

「まあ、何だか天使みたいな娘だよなあ、クリスは。彼女そのものも、この店にとっても」
休憩時間になると、マスターは天井に向かうたばこの煙を眺めながらよくそうつぶやく。
「イチゲンさんも増えたしさ。ったく、オジサンが既婚じゃなかったらねえ……」
口ひげ生やした50オトコが何抜かしてんだという言葉を飲み込みつつ、恵介は窓際に置かれた
シクラメンの鉢の手入れをしているクリスを見て、いつしか胸が高鳴るのを覚えていた。

ひなびた喫茶店の常連でさえ、多くの人間を見てきたマスターでさえもゾッコンなのだから、
そんなクリスに対して大学生の恵介が恋をするなという方がムリだったのかもしれない。

陶製の鉢を拭いて、水が足りているかを観察して……というだけの仕草だが、クリスが微笑み
ながらそばにいるだけで、シクラメンの淡い色彩がどんどん蘇っていくようにさえ見える。
てきぱきとカップとソーサーを洗っているときも、奥のキッチンでマスターを手伝って料理の
下ごしらえをしているときも―注文は間違えても、料理は上手だった―、クリスはいつも
笑顔を絶やさず、とても楽しそうに仕事をしていた。
彼女と一緒に働けて、恵介は心底幸せだった。

―もちろん、ポニーテールだからこその真っ白なうなじだとか。
「ケイ」
―テーブル拭きの時に、ボタンの甘い襟の間から少しだけ見え隠れする胸の谷間だとか。
「ケイ?」
―床でちり取りをしているときに、いつもちょっとだけ覗ける下着とかフトモモとか……!
「ケイスk」

「おいッ、ケイ!!」
「へっ、あ、はい?」

めくるめく妄想の世界から一転、マスターの大声で恵介は現実に引き戻された。
見れば、クリスがリボンの続きを手渡そうと、キョトンとした青い目で椅子の上の恵介を
見上げている。
「えっ、あーゴメンゴメン」
「ケイ、ドウシマシタのカ?」
取り繕うとしていたところに、クリスの変な語感の直球が投げ込まれて、恵介の胸が再び
ドキリと跳ねる。
「どうも、しないしない! しないのか? しないのだ! ノープロブレン!」

―言えない! 「アナタの思い出を脳内ロードーショーしてました」だなんて!

83:「サンタガール」
08/12/25 23:31:22 MT52stPx
身振り手振りとぎこちない笑顔で誤魔化しつつ、恵介はクリスから受け取ったリボンを窓に
取り付けた。
「ホントに何でもないんだよ?」
だが、次のリボンを受け取ろうとして恵介が振り向くと、クリスは手に何も持っていなかった。
代わりにその白い手が、薄暗い店の中でぼんやり光りながら、まっすぐ恵介のおでこに届く。
見た目のとおり、ひんやりと冷たい。
でも触れた瞬間、恵介の内側からはこんこんと熱が湧き出してくる。
「顔が、赤イよネ?」
クリスの真剣な面持ちに、恵介は動くことが出来なかった。もっと顔が赤くなっちゃう
じゃないか、そう思った。そっちではマスターが、「おー」と意味深な棒読みをしている。
黙れオッサン、と思う。
「フム……フム。ケイ?」
自分の額と恵介の額の間を幾度か往復して、クリスは首をかしげつつも、ようやく指で
「OK?」と恵介に意思表示を示してきた。
またしてもぼんやりしかけた頭を振って、すかさず恵介も「OK」を作り、今度こそ
リボンの続きが手渡される。どうやら納得してくれたらしい。クリスに笑顔が戻った。
「ごめんなあ。クリス」
今日の古新聞を片付けながら、マスターが言った。
「ケイな、隠してるけど実は病気なんだよ。『エロガッパ病』っていうんだけどさ」
「エロ……What?」
日本語に疎いクリスが、またも真剣に声色を曇らせたのが、恵介には背中で分かった。
「いや何、美女のオッパイを見るとすぐに治―」
「黙らんかいッ、このセクハラマスター!」
意気揚々と続けようとするマスターの口を、恵介は怒りを込めた靴投げで見事封じた。
パリンカシャンという、どこか清清しくも忌々しいあの音と共に。


※※U※※


セクハラを防ぐ代償は、ティーカップ2つだった。店の飾りつけにカップの破片の片付けが
プラスされ、既に時計は22時を回っている。
恵介は通いに使っているスクーターを押しながら、クリスの最寄り駅への道を急いでいた。
「ごめんね、すっかり遅くなっちゃったね。ソーリー。クリス」
「No Problem!」
街路樹に掛けられた青いイルミネーションの光に浮かび上がるクリスが、ふわふわと
暖かそうな白のマフラーを下げ、ニコリと微笑んだ。本当にいい娘だなあと恵介は思う。
「しかしビックリしたなあ、クリスの持ち物!」
クリスの手にぶら下がる大きな紙袋を指差して、恵介は少し大げさに言った。
「リボンだけじゃなく、クリスマスリースにツリー用の電飾もあるし、ステンシル用の
白いスプレーまで入ってる。それにサンタの帽子まで! 随分と本格的だし、準備イイね?」
「ハイ! デコレーション。大好キよ。ナゼなら、MYグランパは……」
「グランパ? クリスのおじいさん?」
恵介が聞き返した途端、ニコニコしていたクリスが落し物でもしたみたいにぴたりと足を止めた。
まただ、と恵介は心の中で呟いた。いつもはまっすぐなクリスの目が、自分のプライベートを
話すときに限って、一瞬何かを探るようなためらいを見せるのだ。
「どうしたの、クリス?」
「Ah……ケイ、ゴメン。何モナイの」
そしてクリスは決まって赤いダウンジャケットに包まれた肩をオーバーにすくめ、すぐに
また白い歯を見せるのだった。
気持ちの中では引っかかりながらも、その無邪気な表情には恵介も笑顔で応じずにいられない。

―まあ、いっか。

二人は並んで駅へと近づいていく。

84:「サンタガール」
08/12/25 23:31:58 MT52stPx
クリスはプライベートの事はおろか、普段もあまり喋らない。恵介の学校にいる女の子と比べると、
エネルギー消費量は半分くらいに感じる。だけれど、恵介はクリスが別に退屈しているとか、
怒っているとか、言葉の壁を感じているとか、そういうのでは無い事は分かっていた。
「キレイですネ……ケイ?」
そう小さく呟いた彼女は自分の周り、見るもの全てを楽しそうに受け止めていた。
バイトの時間もそうだが、このクリスマスシーズンに入って、その様子はさらに強まっている。
街路樹も、華やかな音楽も、通りを行き交うカップルも、全てが宝物であるかのように
見つめながら、クリスは柔らかなブロンドを弾ませて駅への道を歩いてゆく。

その斜め後ろでは人知れず、恵介の胸がそのブロンドと同じリズムで、再び鼓動を早めていた。
今日の仕事が終わる頃、クリスが着替えでフロアを離れた時の事だ。もう照明を全て落とした
暗い店内で、マスターが恵介にそっとこう話し始めたのだ。

「ケイよぉ。クリスな、彼氏いないらしいぞ」

マフラーを巻きかけていた恵介は、危うく立ちながらにして絞首自害に至るところだった。
―このオッサン……! あのクリスから、いつどこでどうやってそんな情報を?!
ゴホゴホと咳き込む恵介を尻目に、マスターはギュっと灰皿にタバコを押し付け、レジに
足を向けた。
「クリスマスイブはな、夕方頃からはウチの嫁はんに店に出てもらうからよ」
何を言っているのか飲み込めない恵介を放ったまま、マスターはレジの下にある引き出し
から紙切れを取り出すと、その場にしゃがみこんだままの恵介の目前でちらつかせた。
「ホレ、冬のボーナス。この前、新聞屋に貰ったんだ」
暗がりに浮かぶそれは、人気テーマパークのペアチケットだった。
「オジサンは、若人に道譲るから。こんなチャンス二度とねぇぞ」

―マジ、かよ……?

遠ざかりかけたクリスを慌てて追いかけながら、恵介はポケットを探った。夢ではない。
魔法のチケットが二枚、カサコソと頼りない感触を示している。

恵介はまるで、カンペキな積み込みがなされた雀卓に座っているかのような気持ちだった。
ざわ・・・ざわ・・・と、つい口を突いて出てしまう程である。
なぜなら、マスターはセクハラバカオヤジだが、こと恋愛沙汰についてだけは100発100中
の勘の持ち主だからだ。
スポーツ新聞を開けば、芸能人カップルの破局タイミングを月刻みで言い当てるは序の口。
知り合う気配も無いような若い男と女の客が、そのうち急接近するぞと予言をし、数ヵ月後には
結婚式の写真が店に飾られるなんて事もある。
挙句の果てには、道端の猫に仔猫が生まれる事まで分かってしまう程なのだ。
そんな色ボケ、もとい愛の伝道師に
「ハァお前、クリスに脈無いと思ってんの? 普段からあんなに仲良くしてんのに?!」
何て肩を叩かれて笑われた日には、もう男としては黙ってられない。

―も、もう突貫しか無いぜ!

そうだ、と恵介も自信を取り戻した。この2ヶ月でクリスとは、結構仲良くなったのだ。
クリスは家族の仕事の都合で来日中の、某女子大(これ重要)の留学生だということ。
さらにバイトは喫茶店だけだということ(とても重要)。
趣味は読書に加え何と日曜大工で、特技は世界中の国名や地形を把握していること……。
自分の事をあまり話そうとしないクリスから、恵介は少しずつ少しずつ、それこそ
ドリップコーヒーのように、なんとかどうにかここまで聞き出した。
それだけじゃない。恵介は、バイトが終わってからクリスと一緒に買い物をした事もある。
ハンバーガーを食べながら、クリスの日本語の宿題を手伝った事もある。
手はまだ繋いでいないけれど、映画に誘った事だってあるのだ。

自分の事はあまり話さないクリスも、恵介と遊ぶ時はいつも楽しそうにしてくれた。
別れ際に、彼女は決まって言う。
「マタ、遊ビマショね? ケイ?」
正式に出会って早2ヶ月。奥手な恵介にとってはかなり上出来な成り行きだった。

85:「サンタガール」
08/12/25 23:35:03 MT52stPx
―ダイジョウブ、ダイジョウブ!

少年恵介はフンと鼻を鳴らし、ずんずんとクリスに近づいて横に並んだ。そこで咳払いを
ひとつ。名前を呼ぶ間でもなく、クリスが恵介に振り向く。キラキラの、とびきりの笑顔で。
恵介がせっかく切り出しかけた言葉が、臆病にも肺へと逃げ込む。
心臓が、バカみたいに血液をぐるぐると身体中に送る。
ポケットに突っ込んだ手が震える。
駅はもうすぐ目の前。彼女も目の前。

いくしかなかった。

「クリスっ!」
暗がりじゃなかったら、きっとさっきよりも顔が赤かったに違いない。通行人が振り返り
そうなぐらいにひっくり返った声を振り絞り、恵介はギリギリ一杯、無理やり笑みを作って
深く息を吸って、切り出した。

「クリスマスイブ、普段どおり、アルバイトでしょ? その、俺も一緒にアルバイトでさ。
それでっ、クリス知ってる? マスターの奥さん最近元気になってさっ、良かったよね?
それであの、イブには仕事に戻れるらしくて、だから夕方からシフトが変わってもらえて、
だから、その後、もし、時間あったら……ぁ」
ここで息が切れた。あるいは勇気が切れたとも言えた。
泳いだ目のまま話を続けちゃいけない、そうも感じていた。
だから恵介は一度息を整えて、しっかりと彼女を見つめ直した。

クリスは相変わらず、恵介ににっこりと微笑んでいた。

でも普段と違って、なんだかすごく、残念そうに。悲しそうに。

細められた目から、瞳と同じブルーの涙がにじみそうなぐらいの、痛切な笑みで。

その顔に呆気にとられた恵介には、「しまった」と思う時間さえ無かった。

「Ah……ゴメンナサイだヨぅ……ケイ?」

ふわりとした白い息と共に、クリスの口から謝罪の言葉が漏れた。
チケットを握りしめ、ポケットから突き出しかけていた恵介の右手から、あっという間に
力が抜けていく。彼女の顔を眺めているだけで、やり場を失いかけていた身体の熱が
音も無く、すーっと地面へと引いていくのが分かった。
クリスはいつも以上にか弱い声で、ぽつりぽつりと呟く。
「クリスマスイヴ、アルバイトモ、ワタシお休みダよ……。マスターニ、まだ言っテナイ」

さっきまでの自分が嘘のように馬鹿に冷静になった頭で、恵介は自分の言葉を巻き戻す。

―俺、確か……。今こう言ったんだ。
『……だからその後、もし、時間があったら』
―なんだ。なあんだ。
―俺、まだ何も本題に触れてないんじゃん。

「そノ、イヴの日ハ……Ah……ソノ……」
「あっ、そうなんだ、別にゴメン。ソーリー。そりゃそうだよ、クリスも忙しいよね!」
まだ何か言おうとしているクリスを、恵介はいきなり、無理矢理に明るい声で遮った。
彼女の表情を、伺う事もせずに。
そそくさとスクーターのスタンドを立てて、恵介はクリスの背中を押すようにして、
いつの間にか到着していた駅の構内へと誘う。

86:「サンタガール」
08/12/25 23:35:53 MT52stPx
―気のせいだったよな。

またしても、恵介は自分だけの結論を作った。

―悲しそうな顔なんて、してなかったよな。

そうだ。クリスマスイブに用事があるのに、悲しむはずなんて無い。
無理な部分も破綻もどこにも無い、しごく当然の結論、世界の法則だ。
幸せな日なんだから。誰かと過ごすなら、誰にとっても。
当たり前すぎて、何だか虚しくなってくるぐらいだ。

恵介はその後のことは良く覚えていない。自分の言葉も。どうやって帰ったのかも。
幸せそうな笑みに違いなかった―そう決め付けた、クリスの本当の表情も。

ただひとつだけ確実なことは、コートのポケットの中に入っていたチケットがくしゃくしゃに
潰れていた、それだけだった。


※※V※※


何とも言えない日々が始まった。


翌日、恵介がバイトに行くと、いきなりマスターに拳骨で頭を殴られた。クリスからしばらく
バイトを休むという電話があったそうなのだ。ケイお前何しやがった。いきなりラブホに
でも誘ったのか。いい加減にしやがれ。お前に渡したのは紙のコンドームだったか。エロガッパ。
あまりの罵詈雑言に耐え切れず、恵介も腹いせに、しわしわのチケットをカウンターに音を
立てて叩きつけた。かっこ悪い、サイテーの涙が頬を伝って止まらなかった。誤解はすぐ
解かれたが、今度は自己嫌悪に陥ったマスターを立て直すために開店が1時間遅れた。


何とも言えない日々が流れる。あの日に向けて。


クリスマスの素敵な飾り付けをお客は誉めてくれたが、恵介にとっては憂鬱そのものな
眺めだった。
たったひとりの女性が居なくなっただけで、狭いはずの喫茶店が体育館ぐらいに感じられた。
シクラメンの手入れを忘れて、今度は奥さんに怒られた。
この間、恵介は皿洗いで2度も手を滑らせた。


何とも言えないまま、あの日はもう目の前だった。


マスターはアルバイトを休んでも良いと、恵介に告げた。「そんな景気の悪い顔されたら、
お前この店がサブプライムだぜ」と冴えない冗談までつけて、常連にため息をつかせた。
「何だ、クリスちゃん泣かせたのはケイ君なのか」そんな事を言う常連のオヤジのコーヒーに
タバスコを垂らそうとしたのは、意外な事にマスターだった。マスターは奥さんに耳を
引っ張られて店の奥へと消えていった。恵介は何だか、もっと何とも言えない気持ちになった。

87:「サンタガール」
08/12/25 23:37:11 MT52stPx
そしてクリスマスイブ。何とも言えなかったが、恵介は今日も店に出た。


クリスが用意してくれたサンタ帽を被って、普段どおりに店を掃除し、普段どおりに接客した。
そうする他に無かった。
クリスが恵介のことを知るのは、この日のこの時間、この店に居るという事だけだったからだ。
休憩時間になると、恵介は彼女のいつもいた窓際の席に腰掛けて窓の飾りを眺めた。緑や赤の
リボンで縁取られた真ん中に、クリスお手製のステンシルで描かれたそりに乗ったサンタの
スプレーアートがにっこりと笑っている。
その下にあるのは、マスターと恵介、それからクリスの簡単な似顔絵のステンシルだ。
マスターは手にケーキ、恵介は大きな靴下、クリスはプレゼントの箱を持って、三人で
「ウェルカム!」と言っている。これまたみんな笑顔で、自然とこっちの顔までほころんで
しまう。
親に手を引かれて店の外を通った子供が、似顔絵を指差して可笑しそうに笑っている。
外は寒いはずのなのに、とても暖かな、オレンジ色をした笑顔だった。
恵介ももう、窓の飾りを見て憂鬱な気持ちにはならなかった。むしろ、ずっと見ていたい、
そう思い始めていた。

こんなに素敵な飾りも、明日にはきれいに取り払われてしまうからだ。

「クリス……」
そんな事をしたら、そっと名前を呟いたその人も、もう二度と戻ってこないような……
恵介はそんな気がしていた。

「この飾りよお、せめてこの『ウェルカム』の部分だけでも……しばらく取っておこうや」
ふうっとタバコの煙を吐いて、マスターが言う。恵介の肩を、ポンと叩く。
「あと、バイトの募集もしねえ。オジサン決めたからよ。ケイ、絶対に辞めんなよ」
「それじゃ、いつまでも忘れられないじゃないですか」
今更になって隠す失恋ではない。恵介が素直に答えると、マスターはタバコを灰皿に置いた。
「忘れてもらっちゃ、困るんだよ。彼女もきっとそう思ってる」
もう一度恵介の肩を叩き少し強い口調で言うと、夕方の準備のためにマスターは厨房へと
引っ込んだ。
「何の根拠があって、そんな事……」
穏やかな冬の西日を半分ぐらい吸い込んで光る、使い古した木のテーブルにぐったりとしなびて、
恵介は時間が流れるのに身を任せた。
「俺は、マスターとは違うんだ。クリスのこと、全然分からなかった」
有線からは、あの時と同じ曲が流れている。

「ラーストクリスマス……」

―これ、失恋の曲だよね、確か。
そんな事を思いながら、恵介はいつの間にかまどろみに落ちていた。
いつだったか、クリスがまだお客だった頃、こうしてこの席でうたた寝していたことがあった。
手でペーパーバックのページを支えたまま、こくり、こくりと……。長いまつげを重ねて、
気持ちよさそうに舟を漕いでいた。
しばらく経って、ぱちりと目を覚ましたクリスと目が合った時の表情を、恵介は忘れられない。
どこかバツの悪そうな照れ笑いの表情。
窓際の陽だまりを甘くあまく煮詰めたような、とろけてしまいそうな可愛いらしさ。
恵介はその時、完全に心を奪われてしまったのだった。
でも、心は奪われるだけ奪われて、目下消息不明のままだ。事件解決の糸口さえ無い。
今になって思えば、あまりにも出来すぎな、不思議な出会いだったようにさえ感じられる。

でも、会いたい。恵介は諦め切れなかった。心から会いたいと、そう願っていた。
出来ることなら、恵介はクリスにもう一度会って、ちゃんと自分の手で心を渡したかった。

―目を覚ましたら、そこに居てくれたり……して……さ。

無謀な願いがよぎった胸の奥がきゅうっと苦しくなって、まぶたの内側も熱くなる。
「今夜は所によりィ、雪のちらつくホワイトクリスマスになるでしょお〜!」
浮かれ声の女性DJの言葉がトドメだった。恵介はたまらずテーブルに突っ伏した。


次ページ
最新レス表示
スレッドの検索
類似スレ一覧
話題のニュース
おまかせリスト
▼オプションを表示
暇つぶし2ch

3792日前に更新/501 KB
担当:undef