モノノ怪でエロパロ  ..
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80:前と後の事語り〜再び化猫〜 11
08/01/15 00:23:23 PI9DF8wV
 一昨日木下の元へやってきた門脇は、そんなに重い判決にはならないだろう、
情状酌量もつくはずだと言っていた。だが、それでももう運転士を続けることは
無理だ。職場はたちまちに居心地の悪い空気へと変わった。暗黙のうちにかかる
圧力に、自然と背中が曲がり、うなだれて過ごす。左遷か、辞職か、解雇か。
地下鉄開通だけを見れば世は華々しい変化を続けているが、その背後には不況が
暗い影を落としている。仮に会社を辞めたとして、すでにそこそこ年齢のいって
しまった木下に、再就職先があるだろうか。
 こんな状態で、結婚など望めるはずもない。
 ――していなくてよかった、と言うべきだろうか……。
 一人身ならまだなんとかなる。なんとかならずとも、野垂れ死ぬのは木下だけだ。
女や、もしかしていたかもしれない子供と、心中するようなことにはならない。
 懸案事はそれだけではなかった。
 今も時々背後から、底光りする猫の瞳が見つめている気がする。もし、もう一度
でも木下が何かを間違えたなら、即座に飛びかかろうと喉奥で低くうなり、爪を研ぎ、
牙を剥き出している。人の道理を解さぬ狂った畜生は、怒りのままに木下の周りをも
殺し尽くすかもしれない。
 あの鋭い爪に、愛しい者を引き裂かれるくらいなら。
 怯え惑いながら生きていくのは、木下ひとりでいい。
 入り組んだ作りからようやく内蓋を取り外すと、組み合った歯車が見えた。かりかりと
ぜんまいを巻いて動きを観察する。ひとつひとつはなんということもない金属片だと
いうのに、その切り欠きが噛み合い連動して大きな動きとなっていく様は、毎度のこと
ながら感心する。近代の象徴、無駄を削ぎ落とした美しさ。
 どうして人はこのように在れないのだろう。純粋に目的にのみ邁進していればいいのに、
見栄だの恨みだのと鬱陶しく、挙句に他人を巻き込んで人生をめちゃくちゃにする。
 木下の視線が止まる。美しい回転運動が一点で止まっていた。これのせいか、と
その周囲を見ると、バネがひとつ外れている。何かの衝撃で引っかかっていた部分が
落ちたのだろう。ピンセットでつまんで戻し、再度ぜんまいを巻いてみると、突起に
弾かれた金属がぽろぽろと音を立てた。
 直った、と木下は笑う。よかったな、と箱の外側を撫でた。音を奏でるためにある物が、
歌えないのでは辛かろう。これからは存分に、彼女とその家族へその澄んだ音色を
聞かせてやればいい。
 再度内蓋を戻し、順にネジを締めていく。布の下から取り出した猫も、もうさほどに
恐ろしくはなかった。取り付けると、なるほど金属の輪がゆっくりと回転して、その上の
猫たちも回る。硝子玉の目にあたる光の角度が変わって、きらきらと光るのが綺麗だった。
 木下は箱の中に封をした手紙を忍ばせると、そっとオルゴオルの蓋を閉じた。




81:前と後の事語り〜再び化猫〜 12
08/01/15 00:24:58 PI9DF8wV
「おい、新入り。客だぞ」
「客?」
 木下は機械油にまみれた顔をあげる。洒落た制服はあちこちに染みのできた
作業着に変わったが、なんとか職は失わずに済んだ。スパナを置いて新しい
上司を見上げると、頑固親父は倉庫の入り口のほうへ顎をしゃくる。かつかつと
高く靴音を響かせ、こんな場所には不似合いのスカート姿で現れたのは、
木下が先日手紙で別れを告げたはずの女だった。
「ど、どうしたんですか!?」
 目が腫れぼったいのはよほどに泣いたのか。何があったのかと、思わず
駆け寄ると、ばっちーん! という音とともに目の前に星が散った。
「ど、どうしたはこっちのセリフよ! な、何よこれぇっ!?」
 ぐしゃぐしゃに握りつぶされた手紙は、木下が書いたものだ。
 この女にだけは、どうあっても誠実でいたかった。
 悲恋に酔った気分もあったかもしれない。先日の事件のことを、化猫の件も
隠さず赤裸々に綴った。信じてもらえなくても仕方がないが、伝えておきたかった。
 いい加減なことを書いてと怒っているのだろうか。別れることには変わらない
だろうに、わざわざ職場まで押しかけて殴るほどに怒らせるとは思わなかった。
とりあえず激昂しすぎてまた泣き出した女を宥めようと、木下は慌てて口を開く。
「いや、これはあなたをからかおうとした訳ではなくて、本当のことで……」
「事故起こしたのは知ってるわよ! 市長汚職に関わりがあるんでしょ!?
新聞、国民日日も毎朝も東京も、売店に並んでるだけ全種類買ったんだから!」
「はぁ……」
 そうですか。
 迫力に押されて思わず口ごもると、ぎっ、と真っ赤に充血した目に睨まれる。
「だからってどうして別れなきゃいけないの!? し、しかもこんな、一方的に、
手紙だけで! あっ、あたしは別に、出世しそうだったから文平さんを好きに
なったわけじゃないわよ!!」
 しゃくりあげながら詰られて、木下はひたすらにおろおろする。そもそも木下は
女性に人気のある性質ではない。女の扱いには慣れていないのだ。こんなとき
一体どうしたらいいのか、皆目見当もつかない。
 わかってたけど、と女は泣きながら続ける。
「そういう、肝の小さいところが好きなんだけど! でもこれってあんまりよ!」

82:前と後の事語り〜再び化猫〜 13
08/01/15 00:26:43 PI9DF8wV
「……はい?」
 何が好きですと?
「いちいち世間体を気にして、なにかとおどおどびくびくして、なのに一生懸命虚勢
張って、人に裏切られるのが怖いもんだから、絶対言うこときく機械が好きな、
そんな文平さんが好きなのよ!」
 どう聞いても貶しているようにしか聞こえない言葉を吐ききって、女は少し
落ち着いたのか、ごしごしと目元を擦る。いつになく子供っぽい仕草に、木下の
鼓動が跳ねた。
「……だ、だって。電車の、運転手さんて、乗っているお客様、すべての命を
預かっているんでしょ。それで、時間も預かって。もし遅れたら、人生を変えるような
受験とか、会議とか、商談とか、もっと言うと親の死に目に間に合わなかったりする
かもしれないお仕事でしょ。小心なくらいでちょうどいいけど、竦んでしまっても
いけなくて、秒針とにらめっこしながらいっぱい心配して心配して、それでもぎりぎりで
踏み止まって、逃げずに勤めた文平さんは、立派だと思ってたの」
 脳天を、思いきり殴られたような心地がした。
 ――そんな。
 そんな上等な男じゃない、と反駁しかける。
 口を開いて、でも、何も言えぬまま閉じて。
 自分は何もわかってなかったのだと、今更悟った。心のどこかで、今も己は
被害者だと思っていた。巻き込まれただけ。不運だったと。
 違う、のだ。違った。自らが犯した過ちが、この期に及んで身に染みて、鳥肌が立つ。
 彼女は、木下の運転する電車に安心しきって乗っただろう。なんの心配もせず、
定刻に目的地へ着くことを疑いもせず、木下にすべてを委ねて。
 その、全幅の信頼を。
 自分は、完全に裏切っていた――のだ。
 運転士として新人の頃、うるさいほど言われた訓辞があった。命を預かるということ。
木下にとってこの女が大事であるように、電車に乗った一人一人に大事な人間が
いるという事実。否、本当はずっと言われてきた。慣れに任せて聞き逃してきた、
幾多の声の、その重み。
 取り返しがつかない――。
 じわりとせりあがった塊に喉を塞がれて、鼻が詰まって、声にできない。がばりと
頭を下げ、すまない、と心の中で何度となく繰り返す。
 彼女はそんな木下の頬に手を添えるとぐいと頭を起こさせた。

83:前と後の事語り〜再び化猫〜 14
08/01/15 00:28:43 PI9DF8wV
「そんな文平さんを誇りに思ってた。けど、文平さんは機械じゃないのよ、
わかってる? ひとつ疵がついたからってハイおしまいってんじゃないでしょう?
あたしだって機械じゃないんだから、たとえそれが文平さんの好みじゃなくっても、
そう簡単にこんな酷い言い様受け入れたりしないんだから。ご遺族に頭下げる
ならあたしも下げる。世間の人が罵るなら一緒に罵られてあげる。……だから、
この先の道がどんなに辛くたって、お願いだからあたしのために頑張って」
 次第にまた涙声になる言葉を、信じられない気持ちで聞く。白い柔らかな手が
頬から下りて、木下の機械油で黒く汚れた手を握った。濡れた目が木下を
見つめて、それがあまりにも綺麗だった。
「――生きて戻ってきてくれて、ありがとう」
 思わず強く握り返した手は、しばらくして「あー、」と空咳をした整備長と、
微笑ましげな同僚たちの視線に二人が我にかえるまで、つながれたままとなる。



〜山口ハル〜

 三角巾をかぶり、たすきをかけ、前掛けもつけて、ハルは掃除の支度を
万端整える。がさがさと古新聞を床に広げ、納戸を開けた。斜めに差し込んだ
日差しに、ちらちらと埃が舞い光る。
 納戸の中には、様々にガラクタが詰め込まれている。日頃さして多くを
買い求めているつもりはないのに、ただ暮らしているだけでずんずん物が
増えていくのは何故だろう。
 ハルは大小の箱をひっぱりだしては中身を検分する。季節の贈答品、古着の
端切れ、女ふたりで食べきれぬまま古くなった缶詰、昔いっときだけ嗜んだ
刺繍の糸束、
 夫の遺した昆虫標本――。
 こんなところにあったのか、とハルは標本箱を取りあげる。放っておかれた割に
さほど傷んではいないようで、埃に汚れた硝子窓を拭うと、つやつやと輝く甲虫
やら翅の薄い蜻蛉やらが姿を表した。
 真面目で物静かで、時に気が弱いふうだった夫が、唯一夢中になるのが虫だった。
旅行に出かけるときは必ず虫取り網とカゴ持参で、向けられる奇異の目に、
なんとも言えぬ気分を味わったものである。正直ハル自身は脚の多いものが
得意な性質ではなかったので、家の中に持ち込まれた虫カゴの中身に悲鳴を
あげたこともあった。服も靴も泥だらけにするわ、一旦標本作りに集中し始めると
生返事しかしないわ、そんなとき迂闊に部屋を掃除すると怒るわで、長きにわたり
夫婦喧嘩の種だった。いつまでも夫が虫などに夢中なのは子がないからだと、
姑に責められ泣いたこともある。

84:前と後の事語り〜再び化猫〜 15
08/01/15 00:31:14 PI9DF8wV
 ……懐かしい。
 几帳面にひとつひとつ記されたラベルを指でなぞる。久しぶりに見る、夫の字だった。
 さらに奥を探ると、夫が愛用していた図鑑やらルーペやらの一式も出てきた。
丹念に埃を払い、黴びていないかひっくり返して確認する。あまり湿気のこもる
場所でなくてよかった。でなければ今頃、虫を苗床にキノコが生えていたことだろう。
 はらはらと、図鑑をめくってみる。白黒のペン画に夫が自分で彩色したもので、
昔はよく見せられた。やがてハルのひきつった顔に気づいたか、夫は無理に見せる
ことはなくなったが、はて、それは結婚してからどれだけ過ぎていただろう。ハルとしては
せいぜい蝶の頁くらいしか受けつけなかった。
 今見ても、やはり夫が心底慈しみ褒め称えたように美しいものだとは到底思えなかったが、
あちらこちらに書き込まれた夫の文字は、溢れるほどの情熱を伝えてくる。この関心の
何分の一かでもハルに向けてくれればよかったのだが、と苦笑して、折り癖のある頁に
出た。しおりのように、一葉の写真が挟まれている。
 こんなところに、とハルは眉を寄せた。滅多に撮るものでもないのに、きちんと
保存しなくては、傷んでしまうではないか。
 取り上げて、ハルはぎくりと体を強ばらせる。猫を抱いた若い女の姿に、先日の
出来事が一瞬まざまざと甦った。
 小さく悲鳴をあげて図鑑に叩きつけるように裏返す。大きく肩を上下させて深呼吸を
繰り返すと、恐る恐る、まためくってみた。
 なんのことはない、それはハルと夫の若い頃の写真だった。ハルはまだ二十か
そこらだろう。慣れないカメラに照れをにじませながら、幸せそうに笑っている。
 旅先――だったはずだ。
 懐こい猫を可愛がっていたら、カメラを下げた男が、一枚撮らせてくれと言ったのだ。
 虫ではなく鳥が好きだということだったが、好事家同士、夫と妙に話が合っていた。
旅行後この写真が送られてきて、しばらくは季節の挨拶もしていたように思ったが……。
 何故こんなところにこの写真が、とハルは再度図鑑に目をやる。
 深い、瑠璃色の翅を広げる蝶の頁。
 こればかりは、初めて見たときからハルも綺麗だと思った。確か南方の島々に
生息するものだったはずだ。本物はもっとずっと美しい色で、それこそ宝石を砕いて
惜しみなく降り注いだようなのだと、熱く語った口調を思い出す。まだ付き合い始めの
頃、だったような……。
 傍らに添えられた、青インクの走り書きに目を落とす。
『ハルさんが好きになってくれた。嬉しい。』
 がっ、と頬に血がのぼった。あわあわと周囲を見回し、再度読み直す。当たり前だが
文面は一文字も変わらなかい。思わず図鑑を閉じてしまう。
「……あなた」
 まったく、何を書き残しているのだ。写真と、ハルが好きになった虫と、走り書きと。
こんな、図鑑の中なんかに、心の内を揃えて閉まっておくなんて。
「――ハルさん、ハルさん。いないのかい」
 ふと耳に届いた姑の声に、はいと慌てて返事をする。出ていこうとしたが、足の
踏み場がない。急いで道筋を作るが、姑が顔を出す方が早かった。

85:前と後の事語り〜再び化猫〜 16
08/01/15 00:32:44 PI9DF8wV
「一体何をやって――おや」
「すみません、お義母さん。少し、納戸の整理をと思って」
 どんな小言が来るかと身構える。呼んだらすぐに来てくれなくては困る、年寄りの
方を歩かせるなんてと愚痴られるか、あるいは散らかし過ぎだと嫌みを言われるか……。
 しかし、姑が口にしたのはそのどちらでもなかった。
「忙しいとこ邪魔したね」
 拍子抜けするほどあっさりと、姑はハルに背を向ける。障子戸を閉めかけた、
細い手がふと止まった。
「……ハルさん、あんた、あの男とは別れたのかい」
 背を向けられたままの不意打ちに、ハルは中途半端に腰をあげたまま静止した。
肩越しに振り向いた姑が、なんて顔をしてるんだい、と荒く鼻息を吐く。
「あの子が死んで五年だ。出て行くってんならあたしも止めやしないよ、せいせい
するさ。だけどあんた、男を見る目がないよ。ろくな噂がないじゃあないか。どうせ
再婚するなら、あの子以上の男を見つけといで」
 ふん、と顔を戻し、去ろうとする姑に、ハルはへなへなと腰を下ろす。
 ――知って、いたのか。
 知っていて、黙って見守っていたのか。
「お義母さん」
「なんだい」
 ぶっきらぼうな声音に、謝罪など受け入れられないだろうな、と思う。迷いながら
言葉を探して、結局無言で頭を下げた。
 姑もまた何も言わずに息を吐き、体の向きを戻すと、はいよと手拭を出す。
きょとんと見あげると、ハルに無理やり押しつけるようにして、今度こそ去っていった。
 ゆらゆらと視界が歪む。
 その段になってようやく、ハルは自分が泣いていたのだと知った。
 古い写真の中で、猫はただ満足そうに目を細めている。



   つづく

86:337
08/01/15 00:34:54 PI9DF8wV
次回に正男と門脇がきて、ゲスト終了。
その次にチヨと薬売りの話が来て、全編終了(`・ω・´)
長くてごめん、もーちょい付き合ってね。

87:名無しさん@ピンキー
08/01/15 01:25:57 R/tH64Cb
みじゅえの生まれ変わり?がイイ女だぁぁぁ!
そして337氏の手にかかるとハルが可愛く思えて困るw

88:名無しさん@ピンキー
08/01/16 07:03:08 hL+QK/Np
元の話のイメージはそのままに話膨らませられるのがすごいなー!
標本のくだりにホロリ…

89:名無しさん@ピンキー
08/01/16 10:50:32 f+Onb4L5
お義母さんにぐっときた…!!

90:337
08/01/16 20:53:57 KaKpRRn6
さと話書いた影響か、自分の中でハルさんは可愛いキャラらしいんだw
我がことながらよくわからない。

投下いきます。ゲスト話完結5レス+α2レス?
+αについてはもっかい下で書きます。

91:前と後の事語り〜再び化猫〜 17
08/01/16 20:56:11 KaKpRRn6
〜小林正男〜

 今月分だよ、と渡された封筒を、正男は深くお辞儀しながら両手で受け取った。
給料日の午後は、半日だけ休みがもらえる。月に一度自宅に帰る日、正男以外の
住み込みの少年たちも荷物を抱えて並んでおり、狭い店の中に浮かれた空気が
漂っていた。
 牛乳瓶がずらりと詰まった重量のケースを軽々持ち上げてみせる店長は、
今日も立派な力こぶを披露しながら、どんと少年らの前にハネ物の牛乳を詰めた
箱を置く。運送中に蓋が外れたり、瓶にヒビが入ったりしたが、飲む分には
問題ないものだ。一人三本、土産に持ち帰ることを許されていた。基本的に毎日
牛乳を配達させるような客は金持ちだ。その瓶が自分の物として手の中にあると、
その白さは仕事中見る以上に輝いて見える。
 声変わりも済まない少年たちは甲高くさざめきながら、もう少し年長の少年たちは
やや寡黙に格好をつけて、次々に自転車へまたがって町の方へ消えていく。
見送る正男の背に、店長が、野太い声をかけた。
「どうしたぃ正男。帰らねぇのか。言っとくが遅刻したら晩飯は抜きだぞ」
 はい、と正男は頷く。育ち盛りの少年たちの食欲の前に、用意された食事が残る
ことなどありえない。食事時はいつも戦争で、時間に間に合わない方が悪いのだ。
 正男の視線を辿った店長が、ああ、と頷いた。
「今日はあの姉ちゃんらが来る日か。言伝なら預かってやるぞ」
「いえ。今日は自宅に帰るって、こないだ言っておいたので」
 霧ヶ原陸橋の上では、供えられた花々が鮮やかだった。なんだろうと足を止めた
通行人が、花に埋もれるようにして重なった新聞に事情を悟ったように頷いて、
手を合わせるのが見えた。
「なら、とっとと行ってこい。日が暮れちまうぞ」
 はい、と正男は頷いて、吹っ切るように自転車へ駆け寄る。ぐいとペダルを
踏み込み体に加速がかかったとき、色気づいたかな、とおかみさんへ笑う店長の
声が、微かに背中に届いた。
 ――そんなんじゃない。
 チヨは綺麗だと思う。優しいし、いい匂いもするし、その割に気さくで、話しやすい。
あの事件の渦中でも、正男のことを結構気にかけてくれた。小学校を卒業した
年齢の男が泣くなんて、今思い返せばちょっと恥ずかしいが、チヨは軽蔑したり
しなかった。子供扱いされてはいるが。
 前回会ったときは、背ぇ伸びたねぇー!と驚いたようにイガグリ頭へ手を
乗せられた。男の子は伸び始めると早いから、きっとすぐに追い抜かれるわよ、と
ハルが笑っていたことを思い出す。

92:前と後の事語り〜再び化猫〜 18
08/01/16 20:58:44 KaKpRRn6
 ――子供、なんだなぁ……。
 ぐいぐいとペダルを踏み込み、風を切る。途中までは毎朝通う配達経路だが、
途中で角をひとつ曲がった。
 自分で金を稼いではいる。鞄に大切にしまいこまれた給料袋は、弟らの大事な
学費になるはずだ。持ち帰る牛乳も、競いあって飲むだろう。初めて給料の袋を
母に渡したときの誇らしい気持ちと、押し頂くようにして受け取った母の、
お疲れ様です、というそれまで聞いたことのなかった声の響きは、たぶん今日も
変わらずもたらされる。
 だが、やはり正男はまだ子供で、見えるところ、見えないところでたくさん大人が
助けてくれているのだ。
 あの事件の関係で、正男は一度警察に呼ばれた。そうして帰ってきた正男を、
少年らはまるで英雄のようにもてはやしたが、別にたいしたことがあったわけでは
ない。警察の事情聴取というのは同じことを何度も何度も繰り返し聞かれるので
うんざりしたが、門脇の口添えもあってか、若い刑事にお菓子やら丼飯やらを
やたらに勧められた方が、よほど記憶に残っている。たいしたことが話せるわけ
でもない正男に、しっかり食って大きくなれ、と、笑って背を叩いてくれた。
 保護者として店長もついてきて、仕事に穴を開けることに恐縮する正男に、
むっつりして腕を組みながら、気にするなと言ってくれた。正男は親御さんからの
大事な預かりものだと、店にいる間は俺が父親なのだから下げる頭は下げにゃ
なるまいと言ってくれた店長の背中はいつも以上に大きく、正男は己が急に
小さくなったような心地がしたものだ。
 同様に大きかった背中が、記憶の中に、もうひとつある。
 店長と違って、さして逞しさはない。おかしいほど派手な着物、女結びの帯と、
一つ目の模様。
 あの事件で、正男は随分汚いものを見た。
 大人だからといって立派とは限らない。そんなことはとうに知っている。正男の
父は借金を残して女と逃げた。正男が子供らしくあれたのは、母と兄姉たちが
懸命に働いてくれているからだ。
 ずるいことも、卑怯なことも、臆病で小心なことも、面倒で手を抜くことも、
人にはある。
 それを少年らしい潔癖さで拒絶するには、でろりと濁って自分の顔に嵌まって
いた目の記憶があまりにも鮮烈で、正男には無理だ。
 同類だ。自分も。誰もかれも。
 それでも、不思議とひねた気持ちにはならなかった。人間なんてみんな汚いと
言うのは簡単だが、見えなくなっていた目が見えるようになる寸前、瞼の裏に
弾けた金の光と色とりどりの花が、とてもとても綺麗だったのを覚えている。
人の醜さを見据えながら断罪もせず、ただなすべきことを淡々となして、
あまつさえ美しい光に変えて消えた背中。

93:前と後の事語り〜再び化猫〜 19
08/01/16 21:01:28 KaKpRRn6
 もう少し、話をしてみたかったな、と思う。
 あの人は、人間を好きだろうか。こんな人もいるんだよと、店長や正男の
家族を紹介したら、どんな顔をするのか見てみたい気もする。
 あれこれと考えながら坂を下る。ブレーキを少し緩めると、面白いほど
スピードが出た。めまぐるしく流れていく視界の端を、ふと見覚えのある
派手な着物がかする。
 慌ててブレーキをかけた。甲高く金属の軋む音。かなりの距離を行き過ぎて、
なんとか振り向いたが、確かに見たと思った鮮やかな色はどこにもない。
 ちりん、と微かに鈴の音がする。きょろきょろと辺りを見回すと、狭い路地
から白猫が一匹、実に鷹揚な足取りで姿を現した。ちりん、と首輪の鈴が鳴る。
 ……なぁんだ。
 正男はちょっと肩を落とすと、のろのろと自転車を前方に向ける。とん、と
地面を蹴った。
 帰ろう。彼を待つ、家族の元へ。



〜門脇栄〜

 ぷふー、と吐き出した安煙草の煙が苦かった。どっかりとベンチに腰を
下ろしたまま、門脇は空を見上げる。
「あー……晴れてんなぁ……」
 無意味に呟いて、しばし流れる雲を見るともなしに眺めた。と、その背後
から影が差す。
「あれ、門さんこんなとこでどしたンすかぁ?」
 聞き覚えのある声に、門脇はひらひらと片手をあげた。
「休憩だよ、きゅーけいっ」
「はーん? じゃァオレ隣お邪魔していッスかね?」
「勝手にしろ。俺のベンチじゃねんだから」
 相っ変わらず気の抜けた野郎だ、とぼやくと、男はへらへらと笑いながら
門脇の隣に座った。その横顔はまだ若い。どうにも背広が似合わない男で、
仕事に就いて数年経つというのに、いまだに背広に『着られている』ような
印象を受ける。門脇と違い、詐欺や横領といった知能犯を扱う部署に所属する
せいか、粗暴さもない。どこかの学者だと言っても通用するような容貌で、
門脇に倣ってか、うぅーん、と伸びつつ空を見あげる。
「あぁ……いーい天気ッスねぇ……。昼寝してェー」
「寝るなよ。起こしちゃやらんからな」
「はいはい」
「はいは一回ッ!」
「はっ、門脇警部補殿!」
 冗談のつもりだろうが、敬礼がいまいち様になっていないのがなんとも
泣けてくる。

94:前と後の事語り〜再び化猫〜 20
08/01/16 21:05:00 KaKpRRn6
「……ところで門さん、こなた旅館、ウラ取れました。いや、例の証拠は出て
こなかったンすけど、知り合いが忘れ物したってンで、それらしき封筒を取りに
来た人物がいたってェ証言が。写真を見せたところ、どうやら森谷で間違いねッス」
「……そうか」
 門脇は煙草を咥える。ふー、と長く煙を吐いた。
「なンで、森谷の自宅とブンヤの方へも家宅捜索入る方向で進んでます。
ブンヤの記者でやたら協力的なのが一人いるンで、案外早く決着つくかも
しれません」
「協力者?」
「えぇ、まァ。市川節子の恋人だか、なんだったかの男らしいッスよ。あれから
ずっと、ちまちま調べてたみたいで。……あー、そうそう、なんかコイツが
面白いこと言うンすよ。調べ始めたきっかけは、猫のお告げだったとかなんとか」
 男の言葉に、門脇は盛大にムセた。ウケを取れたと思ったらしい男が、
あはは、と屈託なく笑う。
「ね、ね、おっかしーでしょ? 酔っ払ってたけど、後から思い返すと、どう
考えても耳と二股の尻尾が生えてたなんて言うンすよ。あんだけ泥酔してた
のに、水の一杯でしゃっきりするなんておかしいと思うべきだった……、
なんて大真面目に言うモンすから、最初は信用していいのかどうか
悩んじまいましたよォ。や、調べ物は確かにきっちりしてたンすけど」
「そ……そうか……」
 門脇は新しい煙草に火をつける。大きく煙を吸い込んで、なんとか気を
落ち着かせようとした。
「……奴さん、どこでその猫又やらに会ったって?」
「えぇっと……あ、ほら、門さんの知り合いの坊がいる牛乳屋があるじゃ
ないッスか。あすこの前を行った先の、駅のガード下ッスよ。飲み屋の
屋台が並んでるトコ」
 あそこのご内儀は猫好きで、たまにハネ物で身内でも飲めないような
牛乳を猫に振る舞ってやったりする、と、門脇は正男に関わったせいで
無駄に増えた周辺情報をとっさに思い浮かべる。
 店の周りに居つかれると商売に支障をきたすから、残飯を漁りに猫らが
集まる、ガード下まで出張するのだ。
 ……いや、いやいや。
 まさか。そうともまさか。あんな前時代的で迷信じみた出来事、一生に
一度経験すれば十分だ。
 我ながらひきつった笑みを浮かべつつ、門脇はこの話題はもうやめだ、と
首を振った。

95:前と後の事語り〜再び化猫〜 21
08/01/16 21:07:05 KaKpRRn6
「……まぁ、何がきっかけでも、調べ物がしっかりしてりゃあいいじゃねぇか」
「そッスよねー。オレらも助かるし、お猫様と男の執念様さまッス」
「ふん。どーせ俺ァ大雑把だよ」
「あっ!? いや門さんをどうこう言いたいわけじゃ!」
 あたふたと手を振る男に、門脇は短く笑った。
「いんだよ。今回ばかりは、ちっと真面目に反省してる。……なァ、おまえ
なんで刑事になった?」
 唐突な問いかけに、へ?と訊き返して、男は腕を組む。
「なんで……なんでですかねェ。……うーん、なれちまったから、かなァ。
オレ、ガッコの成績は良かったですし、公務員だから、食いっぱぐれることもねェし」
「……期待を見事に外した回答、ありがとよ」
 投げやりに言うと、男は決まり悪げに頭をかいた。
「お題目は大事ッスけど、それで腹が膨れるじゃなし。警察だって組織ッスから、
あっちの思惑こっちの思惑あって、それに税金で食ってる以上、自分の興味で
勝手に迷宮事件追求するわけにもいかないじゃないッスか。やっぱ、それなりに
成果っつーモン挙げないと。遊びや趣味でやってンじゃないンすから」
 門脇はしばらく黙り込み、じろりと男を睨んだ。
「……俺を慰めようってんなら、百年早ぇぞ」
「や、そんなつもりじゃあ。あ、門さん見てくださいよあれ、猫が服着てら」
 話題を変えようとしたのか男が指差したのを、わざとらしいと指摘する余裕も
なく、門脇はぎくりと振り返る。体がとっさに半分逃げた。
 人間のことなど知ったことではないとばかりに、赤い服を着た茶色の縞猫が、
悠々と道を横切っていく。
「うわー。車に撥ねられンなよー。……あれ、門さん猫苦手ッスか」
「うるせぇ!」
 猫は渡りきった先でちらりと門脇らを振り返り、くあぁと大きな欠伸をした。
そのままのんびりと毛繕いを始める。
 ……ああもう、わかってるよ。
 門脇は心中でひとりごちた。
 伊達にお上の遣いを二十年以上もやってきたわけじゃねぇんだ。
 わざわざ監視なんてご大層な真似されんでも、人の世のことは人で片を
つけてやる。
 だから、頼むからお前らは関わってくれるな。
「さて、と……。門さん、そろそろ戻りましょーか」
「ちっ、しゃーねぇな。お勤め、お勤め、と」
 煙草の火を揉み消し、踵を返した一瞬、にゃあお、と揃って鳴く猫の大群が、
見えたような気がした。



  おわり

96:337
08/01/16 21:11:10 KaKpRRn6
これにてゲスト話終了です。

……で。当初鵺に入れるつもりで、いまいちだったから化猫に入れようと
回したエピソード、結局化猫より鵺のゲスト2本目の冒頭に入れた方が
収まりよさそうな感じでorz

投下するんで、すみませんが脳内で挿入してくださいorz


97:更に後(のち)の事語り〜鵺〜 1(追記)
08/01/16 21:13:50 KaKpRRn6
 薬売りさん、と呼ぶと、なんですか、といつもどおり穏やかな声が返ってきた。
 白く濁った視界に、ぼんやりと影が差す。加世が見当だけで手を伸べると、
案の定届かなくてふらふらと指が宙を掴んだ。それでも不安はない。一拍
待てば、変わらず力強くて温かい手が迎えてくれる。皺だらけの、思うように
動かなくなった手が、白い手に柔らかく包まれる様が、目に浮かぶようだった。
 見えないけど、と加世は微かに苦笑する。
 ここまで年齢を重ねてしまえば、もはや年を取ることに抵抗はない。ただ、
白そこひで薬売りの顔が、姿が見られなくなってしまったことだけが、どうにも
難儀だった。
 平気な声、出してるけど。
 無理、してないだろうか。元気だろうか。
 わずかな表情の変化が、姿勢の傾きが、どれほどこの人の心の内を伝えて
いたことだろう。
 たくさん、幸せにしてもらった。その人に、最後に大きな哀しみを背負わせる
ことが、唯一の心残りだ。
「あたしが、死んだら」
 加世さん、と薬売りが咎めるような声を出す。それにゆっくりと首を振った。
「お願い。聞いて」
 悲しませる。わかっている。けれど、伝えておかなくては。
「お墓に、木を、植えてほしいの」
 き、と薬売りが呟く。その響きに、ああやっぱり落ち込んでる、と思った。
取り繕ってもふとした折に、沈痛な気配がぽろぽろとこぼれる。憔悴している姿を
思うと、自分が歯がゆい。
「木、なら……少しは、長いこと、薬売りさんと同じ時間を過ごせるかなぁって」
 なかなか言うことを聞かない手になんとか力を込める。どうか、伝わって。
 たとえ体を失くしても、見てるから。傍にいるから。
 あなたは、ひとりじゃないから。
 口には出せない。出してはあんまり薬売りに対して酷(むご)い。どうしたって
妻を失くさざるを得ない夫に、なんと言えばいいのか。何ができるのか。考えて
考えて、これくらいしか思いつかなかった。
「実が、なるのが、いいなぁ……。食べられるやつ。それで、できれば花もきれいで、
それから、薬の材料にもなるようなの」

98:更に後(のち)の事語り〜鵺〜 2(追記)
08/01/16 21:18:34 KaKpRRn6
 欲張りですね、と薬売りがちょっと笑った。そうよ、知ってるでしょと返す。
 しばらく考えている気配がして、桃はどうです、と薬売りが言った。
 なるほど、邪気を祓うという桃の木はなかなかいいかもしれない……が。
「んん〜。できればもうちょっと、手間がかからないのが、いいな」
 旅から旅のあなたが、放っておいてもすくすく枝を広げて、花で、葉で、実で
迎えてくれるような木が、いい。
「……あ、あれはどう? ざくろ」
 柘榴ですか、と薬売りが少し首を傾げる気配。仏様が、人肉の代わりに
鬼子母神に与え、彼女を仏道の守護者たらしめた実。
 その身を捧げて悲しい魂を救い続ける薬売りに、少し、似ている。
 濃い緑の葉も、鮮やかな朱色の花も、いい。
「薬に、なる?」
 虫下しになりますね、と薬売りが言った。加世はほっと息を吐く。
「じゃあ、決まり、ね……」
 わかりました、と約束してくれる薬売りの声に、ありがとう、と呟く。すぅっと、
意識が遠くなった。



 ありがとう。
 大好きよ。

 この体も家も朽ちてなくなって、あなたがわたしを忘れるほど時が過ぎて。
 やがて、すべてが過ぎ去る後も。

 あなただけを、想っている。



そいで投下済みの同タイトル話の頭に続く、とゆーことでorz
チヨ話も大方書き終わったぜヽ(*´∀`)ノ

99:名無しさん@ピンキー
08/01/17 00:30:30 no7KMY8m
最後切ねぇー… 。゚(゚´Д`゚)゚。

毎回毎回良い話をありがとう
ますますモノノ怪のキャラ達のことが好きになったよ

100:名無しさん@ピンキー
08/01/17 02:49:10 q0Nli9AL
わあーん。・゚・(ノД`)・゚・。
目から鼻から怒涛の如く汁が溢れる〜
加世ちゃんの想いが暖かくて切ないよ…
いつか二人が何のしがらみもなく、穏やかに過ごせる時がくればいいなぁ
いや、この切なさもモノノ怪の醍醐味だけどさ!

…ちょっとティッシュなくなったから、取ってくる(性的な意味でなく)

101:727
08/01/17 21:45:43 FjLlD3x9
いつものことながら337氏の構成力は素晴らしい…!GJです。

ところで337氏作品、まとめにはまだ上がってないんだけど
そろそろ収蔵に入っちゃって良いのかな。
337氏さえよければ手持ちから時間見つけ次第順次上げていきますが。
どうしましょうかね?>337氏

102:337
08/01/18 22:35:40 1BT2qhxZ
へい参上!

>>727
ありがd。事語りも完結することだし、プレーンテキスト持ってるんで、
Wiki 研究がてら自分でガンガッテみる。
次回投下することがあったら、折り返し改行入れるのやめよかな……。

投下いきます! エロないどころかカップリングかどうかも怪しいorz
ぷ、プラトニックでストイックなエロスを感じてくだしあ。
冒頭2レスくらい、ホラー・流血表現が強いです。
全9レス+謝辞1レス予定。

103:後(のち)の事語り〜再び化猫〜 1
08/01/18 22:38:52 1BT2qhxZ
 ぐちゃっ、とも、ごきゅっ、ともつかぬ、ひどく嫌な感じの、湿った音がした。
 長いような短いような浮遊感の後、固い地面へ背中から叩きつけられた。
激しい衝撃に肺の空気が丸ごと抜ける。同時に脳天までを激痛が貫いた。
ちかちかと目の前に光が飛んで、視界が暗転したあと真っ赤に染まる。
ごぽり、と口から飛び出したのは血だ。鮮烈な動脈血。その色に、さっきの
音は人体が壊れる音だと知る。
 痛い。痛い。
 叶うなら転げ回って絶叫したい。この痛みを僅かでも紛らわすためなら
何でもする。なのに、投げ出された指先一本、ぴくりとも動かせない。
「あ……」
 濁った声が、喉からこぼれる。ひゅうひゅうと肺が鳴った。自分のものでは
ない声に、チヨはようやくこれがいつもの夢だと悟る。
 だからといって痛みの軽減はない。体の自由もきかないまま、無機質に
固い鉄と石の地面に縫いとめられている。どろりと生温かいものが
流れ出していく感覚、ばらまかれた原稿用紙が微かな風にそよぐ。残酷な
までに晴れ渡った平穏な朝空、爽やかに鳴き交わす小鳥達の声。その一隅で
繰り広げられる痛みと恐怖に、気づく者は誰一人いない。
 ――やめて……。
 何度繰り返しても、この夢がチヨの願うようになったことはなく、どれほど
念じても目は覚めない。先の展開がわかっているだけに、全身が震えて
かちかちと歯が鳴った。
 ――お願い、許して。
 逃げられない。ならばせめて目を閉じたい。怖いものが来る。あと、もう
幾らもない。
 見たくない、見たくない。これ以上はイヤ。お願い助けて。
 誰か。
 必死に祈るが今夜もそれは叶わない。自分のものでない目がゆっくりと
瞬いて、視界に変わった服を来た猫が映る。
 やめて――やめて。お願いだから……!
 どうしようもない恐怖にチヨの心が縮みあがる。あれが来る、来てしまう。
無慈悲な鉄の塊、冷たい金属の車輪、絶対的な重量がぐちゃぐちゃに肉を
轢き潰す。あの、一瞬の――!
 臨界点を超えた涙が溢れた。線路が、大地が小刻みに振動して、あれの
接近を否応なく知らしめる。なのに動けない、逃げられない。

104:後(のち)の事語り〜再び化猫〜 2
08/01/18 22:40:37 1BT2qhxZ
「許サ……ナイ……」
 掠れてぼろぼろになった声が耳に届く。チヨは心の内でひたすらに
ごめんなさいと繰り返した。ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。
だが戻ってくるのは怨嗟の言葉だ。

 許さない。

 限界まで見開かれた目が走りくる電車を映し、運転席で船を漕ぐ男を映す。
体に伝わる揺れがどんどん大きくなって、少しでも自分を守ろうと、気持ちだけは
必死で手足を丸めようとする。
 お願い――お願い気づいて!
 助けて、誰か!
 死にたくない! 死にたくないいい――っ!!


「いやあああああああああっ!!」


 絶叫して飛び起きると、そこは見慣れた自分の部屋だった。がんがんと頭が鳴る。
四畳半の安普請、夜中の悲鳴に抗議するように、どんと隣から壁を殴られる。
乱暴な音に、チヨの肩がまたびくりと跳ねた。ぼろぼろと涙がこぼれる。何かに
とり憑かれたように、震えていうことをきかない手を、必死で目の前にかざした。
 腕――ある。
 手のひらをゆっくりと開閉して、布団をめくる。
 脚も、ある。
 恐る恐る、胴体に触れてみる。乾いた寝巻きの手触り、赤錆臭い気配はなく、
どこにも怪我はない。
 チヨは震える指で己の肩をかき抱く。全身にねっとりした嫌な汗をかいていて、
寒くて寒くて仕方なかった。
 ……怖かった。
 みぞおちの辺りが凍えている。安堵と恐怖と痛ましさ、そして後ろめたさが
ぐちゃぐちゃになって、嗚咽が洩れる。声を殺しながら泣きじゃくった。
「……ごめん、なさい……」
 あんな、酷い死に様を。
 節子さんは、したのだ――。

105:後(のち)の事語り〜再び化猫〜 3
08/01/18 22:42:57 1BT2qhxZ
 チヨも一度死んだ。少なくとも死んだと思った。唇が腫れ上がって痛くて
痒くて、化猫の爪にずたずたにされて。
 けれど、その後取り込まれた化猫の――節子の目を通して見た光景は、
あまりに酷い。
 節子にだって、問題がないではなかったろう。見下されていたことを知って、
むかっぱらが立たなかったわけではない。なるほど新聞記者になるくらいだから、
学校の成績はよかったのだろう。勉強が得意ではなかったチヨからすると、
たぶん想像できないくらい。でも入社してからの仕事はお茶汲みや掃除や、
せいぜいが男性記者の走り書きの清書が中心で、あれならチヨにもできそうだ。
 だからと言って、人があんな風に死んでいい理由になんかならない。同期の
男たちが、ただ男だからといって次々仕事を任されていく悔しさ、置き去りになる
焦り、気負いが空回っては冷笑されて、それでも必死に歯を食いしばって。
ようやく掴んだと思った光明は手酷い裏切りに終わり、その上、あんな死に方。
 チヨの目にまた涙が盛り上がる。幻とはいえ経験した節子の人生。そりゃあ
恨みも憎みもするだろう。人には心があるのだから、当然のことだ。
 ごめんなさい、と繰り返す。節子は、猫は、成仏したろうか。命が許されたのは
何故だろう。ハルや正夫とも話をしたが、夜毎夢に見るのはチヨだけのようだ。
それともこれが罰なのだろうか。
 節子は、チヨを生かしたのを、後悔、しているのか……。
 目の前が暗くなる。己が情けなくて仕方なかった。唐突に絶たれた節子の人生、
比べて自分は生きている。その事実に後ろめたさを感じるのは、渇望と言えるほど
強い、節子の意志を知ったからだ。
 女優になりたいと口では言いながら、漫然と外から与えられる機会を待っていた。
いつか誰かが、埋もれている自分を見つけて褒め称え、磨きあげてくれる。本気で
信じているのかと言われたら自分でも笑うだろうが、心の奥底は確かにそんな
物語を期待していた。
 浅ましい。人の死を利用してまで名を売ろうとし、故人を貶めたにも関わらず
何の成果もなかった。自分の存在は見出される原石などではなく、路傍の石に
過ぎないと、目の前に突きつけられた気がする。
 こんなチヨが生き残るより、節子が助かればどれほど世のためになっただろう。
功名心に走るきらいはあったものの、節子は市民に真実を伝える仕事をしていた。
 対する自分はどうだ。ろくに学もなく、男どもに媚を売り、いやらしい手に体を
触らせて食べている、空っぽの女。
 それ、なのに。
 毎夜死にたくないと思う。それはもう強烈に、焼けつくような生命の叫びだ。
節子の無事を願うより、自分が死ぬかもしれないことが、怖くて怖くて祈るのだ。
 生きているからといって、何ができるわけでもないのに。
 それでも死にたくないのだと思い知り、されどどうしたらいいのかわからずに
立ち竦む。

106:後(のち)の事語り〜再び化猫〜 4
08/01/18 22:44:24 1BT2qhxZ
 その命を寄こせと言われたら、自分は節子になんて言おう。
 苦しい、悲しい。自分の手の中には何もない。
 ごめんなさい、ごめんなさい。
 自分が死ねばよかった。でも死にたくない。
 何かしなければ。でも自分に何ができる。
 怖い。何も見えない。動けない。闇の中でひとりぽっち、迷子になっている。
「ごめんなさい……」
 切れ切れに繰り返しながらひたすら泣いていると、ちりん、と微かな音がした。
 顔をあげる。子供のようにこぶしで涙を拭って辺りを見回すが、そもそも
部屋の中から聞こえた気がしない。もっと、遠かったような。
 珍しくもない鈴の音。どこかの部屋で、飾りでも落ちたのかもしれない。
 そう、思いながら、耳は静寂を探る。電車の中でぺこりと挨拶してくれた、
あの不思議な天秤と、それから。
 ――薬売り、さん。
 気がついたときにはもういなかった。モノノ怪を斬って、そのまま消えてしまった。
 あれだけみっともない姿を晒した後で、どんな顔をして会ったらいいやら
わからないが、お礼を言いたい。
 ――そうだ。
 伝えたいことがある。化猫に取り込まれた、チヨだから言えること。
 そこまで思って、あは、と自嘲の笑みが洩れた。
「こんな女じゃ、嫌われたよね……」

 ――ちりん。

 今度ははっきりと聞こえた。ばっ、と顔をあげると、さっき隣から殴られた
壁がない。
「……へ?」
 いや、壁に映し出されているのか。この世のものとも思えぬ虹色が渦巻く
光景、縁にぐるりと札が貼られて世界を切り取り、中央に独特の人影が
切り絵のように浮かんでいる。その足元で、これまた影だけの天秤が、
ちりちりと鳴っていた。
「く……薬売りさん?」
 影はこくりと頷く。動きからするとこちらに背を向けているようだ。どこか
不機嫌な声が、勘弁してくださいよ、と言った。
「ご婦人の寝室に出張する仕事はしてないんですがね」
 溜息ひとつ。
「あなたがあんまり泣くから、天秤がうるさくて仕方がない」

107:後(のち)の事語り〜再び化猫〜 5
08/01/18 22:46:29 1BT2qhxZ
「あ……ご、ごめんなさい?」
 なんで謝ってるんだろう、と思いつつ、チヨは慌てて手櫛を通すと軽く
髪を編んだ。こちらを見てはいないようだが、あんな整った容姿の人に、
寝起きの姿は見せたくない。
 ああどうしよう、きっと目が腫れてる。
 不自然にならない程度に精一杯身なりを整えようとするチヨの一方で、
薬売りは、ああとかいやとか何やら口ごもっていた。また溜息ひとつ。
「……責めたかったわけじゃないんですよ。申し訳ない」
 呼び出せないなら諦めればいいのに、とぶつぶつ呟いて、聞き咎めた
らしい天秤に攻撃されている。影絵遊びのように映し出されるその様子は、
何か、地下鉄で会ったときと雰囲気が違うようだ。なんとなく親しみやすくて、
チヨは少し笑った。それに安堵したのか、薬売りの声も和らぐ。
「これ以上は、近づきませんから」
 まるで淑女にするように言われて、チヨは目を丸くする。照れくさくて、
ばたばたと手を振った。
「や、あはは、そんな気にしないでいいですよぉ。ほら、あたしなんてカフェで
働いてるくらいだし……」
 言う途中でまた涙がぽろりと落ちた。あれ、あれれ、と言いながらも止まらず、
泣き笑いになる。
 ……誰かに、優しくしてもらったの。
 すごく、久しぶりの気がする。
 薬売りの足元で、ぴょんぴょんと天秤が跳ねる。くるりと回って、こちらを
窺うように左右に揺れる。チヨを心配して、なんとか励まそうとしてくれている
のだと、何故かすんなりわかった。それがまた傷だらけの心に沁みる。
「あ、あの、薬売りさん」
 震える声を、なんとか言葉にする。とにかく、言っておかねば。
「あの、助けてくれて、ありがとうございました」
 深く頭を下げると、薬売りはしばらく押し黙った。
 ……なにか、機嫌を損ねたろうか。
 まだ帰らないでほしい、と思う。今はひとりになりたくない。けれど、どう
引き止めていいかわからない。
 黒一色の影でしかない姿に、近づいていいのかすら。

108:後(のち)の事語り〜再び化猫〜 6
08/01/18 22:48:31 1BT2qhxZ
「……その礼は、筋違いってもんでしょう」
 溜息のように、薬売りが口を開く。
「私は、化猫を斬るためにチヨさんを利用しただけ。チヨさんが助かったのは
結果論に過ぎない。強いて礼を述べるなら、化猫に言うべきじゃ、ないですかね」
 モノノ怪に礼ってのもおかしな話ですがね、と笑うのに、チヨは首を振る。
「あたし、あたしはいいんです。あたし、すっごいバカだったから。ほら、バカは
死ななきゃ治らないって言うでしょ? だからたぶん、ちょうどよかったんです」
 そうじゃなくて、と続けようとして、薬売りが額を押さえたらしいことに気づく。
脱力したようにその場へずるずると座り込むに至って、チヨは思わず駆け寄った。
「く、薬売りさん!? どうしたの、大丈夫ですか!?」
 こんなにはっきり見えているのに、指先に触れるのはぼろぼろの土壁の
手触りだ。それでも、薬売りの背に手を添えずにはいられなかった。
「どっか痛い? あっ、そうだあのとき頭怪我したでしょ!? 傷口開いた!?
どうしよう、手当てしなきゃ……」
「いや、違いますから。大丈夫」
「でも」
 大丈夫、ともう一度繰り返して、薬売りは天へ向けて大きく息を吐いたようだった。
「……先に、続きを聞いてしまいましょう。チヨさんでなければ、私は誰を助けたと?」
 様子が気になりはしたものの、チヨは大きく息を吸う。こんな機会、きっと
二度とない。一音一音を大切に、きっぱりと舌に乗せた。
「市川、節子さんです」
 反応はない。無言のままの薬売りに、チヨは懸命に言葉を続ける。
「あたし、いっぺん死んでから、節子さんの中にいたんです。だからわかる。
節子さん、薬売りさんにとても感謝してました。猫たちだってそうです。本当です!」
 こうして伝えることができてよかった、とチヨは先程までと違った意味で瞳を
潤ませた。何か大きな荷物をひとつ、やっと肩から下ろせた気がした。
「すっごく怖かったし、嫌な気分にもなったし痛かったけど、ううん、今でも夢に
見て怖くてしかたないけど、でも、こうしてあなたに言えることが、すごく、嬉しい」
 ありがとう、ございました。
 深く、頭を下げる。伝わってほしい、わかってほしい。あなたは確かに悲しい
魂を鎮め救ったのだと。
 あなたに感謝する人がいるのだと。
 ――そう、か。
 チヨは泣きながら悟る。
 ずっとずっと、あの夢を見続けた理由。
 己が愚かさの戒めだけじゃない。この言葉を伝えるために、きっと猫が見せて
くれたのだ。随分高い代償だけれど、それくらいしないと、バカな自分には
わからなかったから。

109:後(のち)の事語り〜再び化猫〜 7
08/01/18 22:50:33 1BT2qhxZ
 ちりん、と鈴の音に目をやると、天秤がひらひらと飛んでいた。影、ではない。
蝶のような可愛い姿で、チヨの元へ飛んできて、鈴と持ち替えたらしい
ボンボンでチヨの涙を拭ってくれる。
「あ……ありが、と……」
 天秤はぴょんぴょんと跳ねて回る。すごく、可愛かった。
「あの時も、挨拶、してくれたよね……?」
 大きく頷くように、天秤が傾く。チヨは少し笑った。
「不思議。どうしてあたしによくしてくれるの?」
 天秤が左右に振れる。もどかしげにその場で軽く跳ねて、薬売りの方を見る。
つられてチヨもそちらへ目をやった。視線に気づいたか、薬売りが影のまま
ちらりと振り返った。
「……そう、ですね……。たとえて言うなら、そいつらは、チヨさんのご先祖に
恩がある、ようなもので……」
「ご先祖?」
「たとえ、ですけどね……」
「律儀なんだぁ」
 チヨは指先でちょいちょいとその小さな頭を撫でた。小動物のように擦り
寄ってくるのが嬉しくて、あちこちをくすぐってみる。
「でも、あたしはその人じゃないよ? 恩返ししたいって思わせるなんて、
きっといい人だったんだろうけど……あたしには、そんな価値も資格も
ないもん。そんなふうに思われても、困る」
 ぴしーん、と天秤が固まる。ややあって、ぱったりとその場に倒れた。
チヨは慌ててその背をつつく。
「え? あれ? 天秤さん? く、薬売りさん、天秤さんが!」
 来い、と低く薬売りが呼ぶ。伸べられた人差し指に、天秤がよろよろと
飛んでいって、辿りつく前にべしゃりと落ちた。ふらふらしながら起き上がり、
ようやく壁の向こうへ吸い込まれていく。
「……もしかしてあたし、言っちゃいけないこと言った……?」
 いや、と薬売りが呟く。
「チヨさん本人から言ってもらって、こいつらも納得したでしょう。落ち込む
のは、勝手に期待したこっちが悪い。いい薬です」
「そ、そう……?」
 もっと優しい言葉をかけてあげればよかった。せっかく慰めてくれたのに。
 人違い、だけど。
 その事実がずきりと胸に響く。やっぱりチヨ自身のみでは、人に優しく
されたりしないのか、と。

110:後(のち)の事語り〜再び化猫〜 8
08/01/18 22:52:23 1BT2qhxZ
 優しくされなくて当然の人間なのに、そう思ってしまう自分が、嫌だ。
「……チヨさん」
「はい」
「普通の……人でした、よ」
「え?」
「その、天秤が恩を受けた人は。菩薩でもなんでもない、泣きも笑いもする
普通の人でした。人と自分を比べてひねたり妬んだり、逆に優越感に
浸ったり、ね。でも、周りのものを心底愛して、幸福にもしてくれた」
 す、と壁の中から手が伸びてくる。黒一色から生まれる、色の塗られた
長い爪と、白い手と、鮮やかな袖と。後ろ手のまま人差し指と中指で、
小さな包みを挟んで寄こす。
「お守りです。もう怖い夢を見ないように」
 細かく折られた、紙――の、ようだ。
「……お札?」
 ぽろりとこぼれた言葉に、薬売りが微かに笑った。
「そうですよ。幻に囚われてはいけない。チヨさんの真は、何も変わらない」
「真……」
 そんなものあるのかな、とこぼしたチヨに、薬売りは首をかしげる。
「真のない人間に、俺は会ったことがない。それがどんなに自分勝手で、
傲慢なものでも、ね」
「でも、そんなのただの嫌な人、じゃあない?」
「それを嫌だと思うなら、自分のなりたいようになればいい。良くも悪くも
人は変わる。せっかく、命があるんでしょう」
 うん、と頷いてみる。かさりとチヨの手の中に落ちたお守りは、なんだか
とても温かい気がした。
「それじゃ」
 薬売りが一歩離れる、その背に慌てて呼びかける。
「ま――また会える?」
 縁があれば、と薬売りは言った。虹色の景色が急速に薄れる。完全に
消える寸前、覆っていた幕が落ちるように、一瞬だけ薬売りに色がつき、
姿があらわになった。風変わりな紅をさした唇が、チヨに向かって微かに
動く。


 ――ありがとう。




111:後(のち)の事語り〜再び化猫〜 9
08/01/18 22:53:28 1BT2qhxZ
 チヨは、くずおれるようにその場へ座り込んだ。
 何の変哲もなくなった部屋に、また暗闇が戻ってきたかと思ったら、ほのかに
明るい。
 窓の方を見ると、すでに夜が明けかかっていた。
 ぺらぺらの安いカーテンをめくると、起き出す前の町の姿がある。
 朝だ。
 ちりちりと道を走っていく自転車は、牛乳配達の少年ら。その姿に、正男や
ハルを思い出す。あんな事件がきっかけで知り合って、でも友人と呼んで
差し支えない人たち。その人たちが今、どこかにいてくれる空の下だ。深い青が
徐々に薄れ、茜の色が広がっていく。これまでとは違った意味で、どっと涙が
溢れた。
 なんだ、と泣きながらチヨは笑った。
 心配してくれる人、いるじゃない。
 こんな自分でも。
 正男も、ハルも、チヨに笑いかけてくれた。いなくなったら悲しんでくれるだろう。
それだけでも十分だ。ちっぽけで浅ましい自分でも、きっと人を愛せもする。
 夢でなかった証拠に、浅黒い手の中にはお守りがあって、チヨはぎゅっとそれを
胸に抱きこんだ。
 ありがとう、と呟く。
 大丈夫だ。自分は歩ける。生きていける。
 その事実が嬉しい。今までチヨを生かしてきたものすべてに対する感謝が
こみあげて、朝焼けの美しさが胸に迫った。
 ありがとう。

 また、いつか会えますように。



   おわり

112:337
08/01/18 22:59:48 1BT2qhxZ
謝辞

素晴らしい作品を生み出して見せてくれた、原作スタッフの皆様に感謝します。
二次創作の形をとっていますが、これが自分の、あの映像作品に対する感想文です。

本作を生み出すきっかけをくださった、ドS氏と、前スレで1作目後続きキボンして
くださった方に感謝します。
あなた方がいてくれなかったら、本作は生まれませんでした。

投下の度にレスくださった皆様、もはやエロパロじゃねーよな内容を受け入れ、
あるいはスルー検定で見てみぬフリをしてくださった住人の皆様、読んでくださった
すべての人に感謝します。
御陰様で最後まで書ききることが出来ました。

これにて事語り完結です。ありがとうございました。


……またなんかエロ書けたら投下にくるんで、今後ともよろしくー。

113:727
08/01/18 23:00:02 5HSJqSMs
リアルタイムで投下に遭遇!今日は運がいいぜ!

いやー、いいなあ、いいなああ!
ひたすらGJの嵐です。こんな素晴らしい作品読めて本当に幸せ。
337氏投下お疲れ様です。まとめサイトの件も了解なのですよー。

114:名無しさん@ピンキー
08/01/18 23:27:43 ZRzEH8OF
お疲れ様でした!

去年の暮れにモノノに出会い、もっと観たいと餓えきっているとき
あなたの作品を見つけました。
二次創作ではあるけれど、神懸かり的なクオリティに興奮しきり…。
まさかエロパロ板で泣くとは…。
ご自身のサイトにくるまってもほぼ毎日見に行ってしまう…もうファンですわ。

新作あらゆる意味で楽しみにしてます!


GJ!

115:名無しさん@ピンキー
08/01/18 23:47:39 IXcnyJ3b
337氏
胸の熱くなる作品をありがとうございます。
原作の空気を壊さず、物語を掘り下げ、広げ
深みを持たせた作品を読ませていただけて感謝です。
ますますモノノ怪が好きになりました。

あ、自分は前スレ809なのですがWiki収録お手数をかけしました。
親指のつき方を右と左まちがえちゃって恥ずかしくて出て来れなかったんだw
描き直さないから手だけ脳内で左右反転してやってください。

116:名無しさん@ピンキー
08/01/19 00:11:01 k/GDWpi6
337氏
お疲れ様でした!!!
まさか天秤×加世からこんなに壮大な物語が生まれるとは
あのときは思ってもみなかったwww

素晴らしい作品を有難うです。GJ!!

117:名無しさん@ピンキー
08/01/19 01:53:14 mkl9f8s4
337氏
乙です!あ〜感無量ていうか胸いっぱいになりました
丁寧な作品を読ませて下すって、ありがdでした
次回作やエロもwktkしながら待ってますよー!

118:名無しさん@ピンキー
08/01/19 08:18:31 B86gtS79
337氏
お疲れ様でした!
全部まとめて一冊の本にしてもいいんじゃないかと思うくらいの完成度でした。
これから書かれるであろう337氏完全オリジナルストーリーも期待しております。


119:名無しさん@ピンキー
08/01/20 23:56:15 FOqD0Co0
ちょっくらK極の本を読んでいたら、飛縁魔という女の妖怪?が出てきた。

>顔かたちうつくしけれども いとおそろしきものにて
>夜な夜な出て男の精血を吸い ついにはとり殺すとなん

だそーだ。日本版サキュバスってところ?
頭の中でうっかり幻ちゃんが襲われてげっそりしてしまった。
ごめん幻ちゃん。


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