モノノ怪でエロパロ ..
752:回向 二七日 1
09/07/27 00:52:13 HrCmMe6w
相変わらずエロがない。
『塩野様のお顔を、見て参りました』
七日の後、夜更けに再度現れた影は、変わらず穏やかな調子でひそりとそう言った。今宵は寝支度をすることなく、羽織袴で死者の訪いを出迎えた小田島は、左様でございますか、と相槌をうつ。
『嫁ぐと決まってすぐの頃、周りに尋ねたことがあったのよ。塩野とはどんな者かしら、と』
名字帯刀を許されてはいるが、正確には塩野の出自は武家ではない。豪商だ。さらにその前身は一介の馬喰だった。坂井を憚って屋敷の造りこそ格式に劣るものの、馬を育て養う敷地ははるかに広い。
金銀を収めた蔵が片手の指もあることで、富貴になることをこの辺りでは『五つ蔵を建てる』と言った。
『誰もが言ったわ。ご立派な方です、と。……坂井の者は、また別だけれど』
言って真央はくすりと笑った。
『知っている? さとなんて、おいたわしいって言ったのよ。わたくしを哀れんだの。もちろん面と向かってではなかったけれど。勝山に慰められていたわ。
……その顔は、立ち聞きなんてはしたないと言いたいのかしら、小田島?』
「……いえ、いや……無論、褒められたことではございませんが。さと殿と勝山様も迂闊であったかと」
『そうね。でも誰もがわかっていたでしょう。この縁組みはわたくしの身売り』
「真央様」
『無礼よ、小田島。お前に咎められるいわれはないわ。だって』
すぅ、と上がった睫の下から、黒々と底の見えぬ眼が覗いた。生者であれば自然と宿る輝きはなく、かろうじて眼窩(あな)ではないそこはただ黒い。
今にも何か正体の知れぬものが浮き上がってきそうな、夜の沼の深みに似ていた。
『お前も、そう思っていたでしょう? 否定は許しません。お前はとかく杓子定規だけども、愚者ではないのだから』
小田島は渋面をつくる。褒められているのか貶されているのか、なんとも判断に困った。
「……塩野様は、財に驕らず、貧しい者たちへの施しも厚い人徳者とお伺い致しました故、真央様が嫁がれても、おさおさ疎かにはなさるまいと……」
苦し紛れの小田島の言に、真央はおっとりと笑う。
『お利口な答ですこと。……でも、そうね。よく道を知る方のようでした。わたくしの死を悼んでくださっていたわ。……昔は、叔父上様のお友達だったのですって』
小田島は身じろいだ。
「……友、でございますか」
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