モノノ怪でエロパロ 2札目 at EROPARO
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550:神婚 8
08/09/21 00:17:26 8mY1o925
「何故だ」
 男は愛しむように髪を梳く。加世はもごもごと、だって、と呟いた。
「その、あなたの髪の方が、ずっときれい、だし……」
「女の髪と、一緒にされてもな」
「え、あ、ごめんなさい……?」
 眉がないせいか、目の色か不思議な紋様のせいか、男の表情は読みにくい。それでも何か複雑そうな気配で、加世は伸ばしかけていた手を引っ込めた。きらきらしてさらさら流れていて、前から撫でてみたかったのだが。
 男は鬱陶しげに髪をかきあげて、女の髪は特別だ、と言う。
「大事にしろ。お前を守るものだ」
「……はい」
 慈しみを込めて指で梳かれると、祝福を受けているようでくすぐったい。
 やがて男の手がゆっくりと加世の肩を押して、脱いだ着物を褥に横たわらせた。厚いてのひらが鎖骨の下から胸の膨らみまでを撫でる。男が再度訊いた。
「……名は」
「加世、です……」
「かよ」
 その声で呼ばれた瞬間、どうしようもないものが込み上げて、加世は両手で顔を覆う。恥ずかしい、嬉しい、くすぐったい。本当に、顔が火を吹いてしまいそうだ。そんな加世に顔を寄せると、耳元で男は低く囁いた。
「――」
 え、と加世は目をみはる。
「預けよう、吾が妻」
「……はい……」
 不思議な、けれどこの国に生まれた自分の血肉は既に知っていたような響き。懐かしく、慕わしく。幼い頃の遠い思い出のように、胸を締めつけられた。慕情が募って涙になる。
 さかずきを交わし、名を交わし。夫婦と、なったのだ。
「……みことさま」
「他人行儀だな」
 試しに一部を呼んでみると夫は零して、だが言葉の割に笑みを含んでいる。また唇が重なった。今度はあまり深くならず、加世の上を順に滑っていく。ちらり見えた舌は青い。けれど、優しくて熱い。同様に優しく熱い手に、もっと触って欲しくて皮膚がちりちりする。
さっき飲んだ金の色が、元の主の中へ戻りたがってでもいるのだろうか。あんなふうに、螺旋を描いて混ざってしまいたい。
 思い描いた色に、味と熱の記憶もよみがえってこくりと喉が鳴った。夫の体を走る金の模様に目が吸いつく。舐めれば先と同じ味がするだろうか。ほとんど無意識のうちに両手が男の手をとって、顔が近づいていく。伏せた目が金の色から離れない、離せない。
舌が伸びて、ぺろと舐めた。ふと見上げた男は、驚いたように目をみはっている。
「――あっ、や、やだあたし、はしたない……!」
 なんてことを、と我にかえるがもう遅い。

551:神婚 9
08/09/21 00:18:41 8mY1o925
「気に入ったか?」
 夫は面白そうに言って加世の唇に長い爪をあてる。小さな音と共に帯電したように空気が震えて、甲の模様が一気に樹形図を伸ばした。枝は複雑に分岐して一部では統合し、何もない空中をものともせず走ると加世の口へ飛び込む。
「むっ!?……ん、ふぁ」
 不思議な感触が口内を蠢き、一杯に頬張らされる。厚さがあるとも思えないのに、模様はどの角度から見ても常に正面から相対しているように思えた。それでいて口や舌の粘膜が感じるそれは自在に動く指に似ている。
加世の舌をなぞり、上顎をくすぐり、頬をこすりながら出し入れをされる。
「んっ、んんっ」
 かきだされた唾液が唇の端から零れる。それを、もう片方の手で背中ごと寄せられて舐めとられた。恥ずかしいのに、目が合うと下腹部がじんと疼いた。視線を介して体内に何かを射込まれたように。支配、される。
 背中から腰に下りた手が、しばらく腿を撫でると内側に回る。触れられてびくりと体が震えた。上がった声は頬張ったものに阻まれてくぐもった響きになる。長い爪を巧妙に避けて、指の腹がとろりとしたものを掬った。ゆっくりと秘裂を上下になぞられる。
「んっ、んむっ、んんんーっ!」
 ぞくぞくして、勝手に体が震えた。一緒に震える乳房を、青い舌が舐め上げる。乳首を含まれると、頭がまっしろになった。
「んんんんーーーーーっ!!」
 びくん、と痙攣する。目尻から涙がこぼれて、こめかみへ流れる。いつの間にか汗ばんだ肌が燃えそうに熱い。
 加世の唾液でぐしょぐしょになった金の枝がしゅるしゅると縮んで、男の甲に収まる。そこをぺろりと夫が舐めるのがたまらなく淫靡に映った。秘裂の奥が疼いてひくついて、もうなぞられるだけでは足りない。
「……随分、物欲しそうな目だ」
「あ――あなただって……!」
 かぁっと羞恥に灼かれて口走ると、夫が目を細めた。情欲に濡れた瞳が細まると、なんだか意地の悪そうな顔になる。そうだな、と呟いた口元から、牙のように尖った歯が覗いた。
「もう少し、馴らした方がよかろうが……」
 わずかに怯んだ加世に気づいているのかいないのか、男のがっちりした肢体が加世に覆いかぶさる。先端がぬるりと入り口にあたった。
「ぁ、ちょ、ちょっと待――」
「力を抜け」
「あっ、いっ、ああああああああっ!」
 暴れようとする脚は押さえ込まれてびくともしない。ひけた腰はあっさり追いつかれた。快楽でなく、痛みに背が反り返る。目の前に閃光が散った。



552:神婚 10
08/09/21 00:19:33 8mY1o925
「やっ、いた、痛いぃっ!」
「……まだ、先だけだが」
「えええええっ!? ムリっ! ムリですぅ!」
 甘やかなものが吹っ飛んで、涙目で訴えると男はわずかに顔をしかめた。きろきろと金の『目』も動く。しばらく考えるように目を伏せ、腰をひくと加世を助け起こす。
「ならば、仕方ないな」
「え」
 ムリと言ったのは自分だが、そうもあっさり退かれると寂しい。煽るだけ煽られた熱の行き場もない。我侭な本音に瞳が揺れて、加世が縋るように夫を見上げると、そんな目で見るな、と男は苦笑する。
「まだ忍耐を求めるとは、困った女だ」
「え、あの」
「加世」
 不意打ちで低く呼ばれると、忘れていた疼きが戻ってくる。両腕に腰を支えられて、胡坐をかいた夫の上へまたがるように座らされた。すっぽりと抱え込まれて、頭から背を撫でられる。
「捨てはしない。安心しろ」
「……はい」
 迷子か捨て子ほど、心もとなげな様相だったのだろうか。ことんと頭をもたせかけると、男も軽く汗ばんでいるようだった。なんとなく、嬉しい。
「今更、やめてはやれんが」
 続いた言葉に、加世は小さく頷く。ぎゅっと大きな体に抱きついた。
 痛かった、けれど。
 少し優しくされるだけで、同じ場所がまた熱を求めて蠢く。はしたなく蜜を垂らして、疼いている。一旦離れたときに感じた喪失感は、今自分が欲しがっているのだと実感するに十分で、もう離されたくない。こうして肌を合わせていたい。
「大丈夫……です」
「そうか」
 子供に高い高いをするときのように、男の手が加世の脇の下へ入って体を支えた。加世が目をぱちくりさせると、男が言う。
「お前から来い」


 つづく

553:名無しさん@ピンキー
08/09/21 07:09:41 V046ymHp
GJ 続きが読めて嬉しいっす

554:名無しさん@ピンキー
08/09/23 00:48:54 8THtiEx7
突っ込んでないのに妙にエロい!
だがハイパーに同情を禁じえない!
わっふるわっふる!

555:名無しさん@ピンキー
08/09/23 15:22:18 wav5pUWJ
密かに待っててよかった!
ハイパー惚れるし・・
終わりまで楽しみに待ってます

556:名無しさん@ピンキー
08/09/24 19:54:56 /inVXPWf
加世が小便組になるとかふと思い浮かんだんだけど、そういうスレじゃないよね

557:名無しさん@ピンキー
08/09/24 22:54:23 4983BK2D
小便組とはなんぞ?とぐぐってきた。
これはこれで面白い題材じゃないか?
加世の元はギャルだそうだし、援交で金だけむしりとってヤらせないパターンと思えば
あまり違和感ないな。
チヨ寄りになるかもしれんが。
冒頭に注意書きすれば大丈夫じゃないかな。

558:名無しさん@ピンキー
08/09/25 01:27:49 rAv5m+x1
自分もぐぐってきたw
いいんじゃないかな、面白そう。
ただ注意書きが欲しいかもしれない。
SMプレイぽくなったりするんだったら。

559:名無しさん@ピンキー
08/09/25 01:29:05 rAv5m+x1
って>1に書いてあった。ごめん
>注意書き

560:名無しさん@ピンキー
08/09/25 01:33:33 DglXSYrW
SMっぽくなきゃ注意書きもいいんじゃない?

561:名無しさん@ピンキー
08/09/26 01:17:09 eSjvG531
寝小便をして別れさせようとしたが、付き合った男が本気で愛してくれてて、逆に病気かと思われて余計に関係が深く…とか

562:名無しさん@ピンキー
08/09/29 23:56:05 raKEy+Wz
保守。

化猫荘の大家一家、サラリーマン風のがきっとパパンで他のが息子だよな。
するってーとサザエ風小田島様はやっぱり女性なんだよな。
つまり、昼下がりの化猫荘で、〜禁断の人妻逢瀬〜みたいなエロパロも、


……すまん想像力の限界だ。

563:名無しさん@ピンキー
08/10/04 14:15:02 8R0ZEsKd
他の一人はお下げで幼稚園の女の子に見えるんだけど…
あの顔で将来嫁の貰い手が心配だと思ったんだけど
小田島おばさんが結婚できてるんだから大丈夫かwww

564:名無しさん@ピンキー
08/10/04 23:31:04 da14cp9r
アパートが女性専用の寮とかだったら
薬売りの夜這いネタとか出来るかもしれんが、薬売りも
店子だもんな。

565:名無しさん@ピンキー
08/10/06 19:07:20 5qan7aiN
神が降臨するまでの保守として、全然エロじゃないネタを置いておくよ。
ヒマつぶしくらいになるといいけど。

● 空き部屋に入居希望の場合、大家までご連絡を ●

101号 小田島一家(生活全般、メインの部屋。夫婦が主に利用)
102号 小田島一家(兄と妹が主に利用。妹は幼稚園なので両親の部屋にいることが多い。)
103号 志乃&ややこ(逞しきシングルマザー。お料理上手。大家さんと仲が良い。)
104号 柳幻殃斉(自称・祈祷師、霊能力者。何かにつけて口ばかりでアテにならない。)
105号 《空き部屋》 ←店子募集中
106号 加世(勉強とバイトに忙しい女子大生。いつもお腹を空かせている。)
107号 源彗&お庸(仲良し美形兄妹。いささか仲が良すぎる。)

201号 久代(悠々自適の老女。アパート住まいだが金は持っている模様。薬売りの顧客。)
202号 敦盛&お蝶(おしどり夫婦…と思いきや、カカア天下。夫は大道芸人。)
203号 大澤&半井(東大寺カルテットのメンバー。売れないコント芸人。)
204号 室町&実尊寺(東大寺カルテットのメンバー。売れないコント芸人。)
205号 珠生(&化猫)(実は新聞社に勤めるバリバリキャリアウーマン。よく捨て猫を拾う。)
206号 薬売り(名前が薬売りなのに、何のバイトをしているか不明。謎の店子。)
207号 《空き部屋》 ←店子募集中(ただしこの部屋は人が入ってもすぐに出ていってしまう。)

●最寄駅 東武鉄道東上線 某駅(駅から歩いて10分)
●家 賃 四万五千円 共益費二千円 (礼金・敷金なし)
●建物構造 木造2K 西向き
●主要な設備 バストイレ別、ガスキッチン


ところで『刀を持った不審者』とはワカメのことだろうか?
それとも退魔の剣を持って立ってる薬売りのことだろうか?
場合によっては105号に佐々木さんが引っ越してきそうだ

566:名無しさん@ピンキー
08/10/06 21:09:03 coOvDRXt
14世帯のアパートって結構でかめだな。
小田島様一家、そこそこの資産家か。


567:名無しさん@ピンキー
08/10/06 23:03:35 vXsdMBnH
>>565
>『刀を持った不審者』
ハイパーの事かと思ったのだが。

568:名無しさん@ピンキー
08/10/07 00:28:17 ov8HJ9a/
>>567
公式では薬売りとハイパーは同一人物でしょ?
だったら不審者はやっぱり薬売りのことか。
刀もって各家庭に「真と理」とかやかましく聞きにいくという。

569:名無しさん@ピンキー
08/10/07 00:34:28 d78ZAhrp
>>568はいったい何の公式を見たのだろうか。

570:名無しさん@ピンキー
08/10/07 01:16:59 ov8HJ9a/
>>569
イベントでの監督の発言

571:名無しさん@ピンキー
08/10/07 01:20:05 ov8HJ9a/
>>569
ごめんね、途中で送信しちゃった。
イベントでの監督の発言「ハイパーは薬売りのセカンドパーツ」と、
設定資料のハイパーの説明「封印が解いた薬売りの姿」を見て。


572:名無しさん@ピンキー
08/10/08 00:34:31 RF2UyCEf
以前、考察スレの方で色々考察されてたぞ。
現状のソースだけでは結局FAは出てない。
て訳で、色んなパターンで妄想すれば何度も美味しい。


ところで、不審者どころか「変質者」ハイパーとか、恐ろしい物を妄想してしまった・・・・・
「変質者」ワカメなら似合ってるけど。

573:名無しさん@ピンキー
08/10/08 01:01:12 C9wQWDB9
>>571
正しくは「封印が解けた薬売りの姿」じゃなかったか?

設定資料でもガンガンのアオリ文でもハイパーに対する名称は
「薬売り」であって、「(薬売りとは別の)謎の男」とは
書かれてないから、やっぱりFAが出てないとしてもハイパーと
薬売りは公式で同一人物なんだろうなー

が、同人やここでは色んなパターンで楽しんだ方がいいに決まってる。
「変質者ハイパー」っていうとものすごい変質者みたいだwww

574:名無しさん@ピンキー
08/10/10 03:10:50 PboU072s
セカンドパーツでも別意識とかあるかも知れんしな

575:名無しさん@ピンキー
08/10/11 22:14:36 88AX6BHU
公式では明記してないから推測の域を出ませんよ。
てか、考察スレで話した方がいいと思うが。

職人さん不足で過疎りかけてるな。
モノノ怪は(若い)女性キャラが少ないせいもあるのか?

576:名無しさん@ピンキー
08/10/13 22:54:31 hSDh2mZP
>>552の続き

金加世、まだ未完、NGワード神婚、全3レス。
本番入ります。

577:神婚 11
08/10/13 22:55:50 hSDh2mZP
「そ……っ」
 加世は絶句する。不安定な姿勢を支えるため夫の肩に添えた手に、逆らうように力がこもった。
「で、できません……!」
「駄目だ。来い」
 低い声で優しく、だが有無を言わせず命令されると、腰から砕けそうになる。
「でもぉ……っ」
 泣きそうになって赤い目を見つめると、軽く唇を啄ばまれた。
「……お前が痛いと言うのを聞いてから動きを止めるより、お前が自分で止まる方が早い。調整もきいてお前の負担が少なかろう。来い」
 加世はおずおずと自分の体の下へ視線をやる。見慣れなくて違和感を拭えない形のものが、加世へ向かってそそり立っていた。
 ――うわぁ、うわぁ、うわぁ!
 ばっ、と目を戻すと、加世の様子に気づいた男が腰を加世の太腿に押しつけてくる。
「んぁ……っ!?」
 熱い。
「……わかるか?」
 触れた箇所からぴくぴくと細かい震えが伝わってくる。ぬるりと滑るのは、加世の蜜ばかりではない……かも、しれない。熱っぽい吐息が、耳元に吹き込まれる。
「……もう一度は、言ってやらん。お前が泣こうが喚こうが、勝手に動くぞ。――迷うな、来い」
 ぎゅっと目を瞑って、加世は太腿の感覚を頼りにゆるゆると腰を下ろしていく。熱い塊に太腿の内側を撫でられて、ぞくぞくと背すじが震えた。
「……いいこだ」
「…っやぁ、もぉ……っ」
 半泣きで男の頭に縋りつくと、がっしりと片腕で抱え込まれた。もう片手で角度を調整したようで、ぬるりと再び入り口にあたる。先ほどの痛みを体が思い出して、勝手に息が詰まった。
「呼吸を止めるな。ゆっくりでいい、吐け」
「は……い……」
 恐る恐る体を沈めていくと、痛いが耐えられないほどではなかった。一旦止まって大きく息を吐き出す。集中のあまり全身に浮かんだ汗が、つぅと流れた。
「は、離さないで、ください……ね」
「ああ」
 綱渡りをするような加世の体を片腕で支えたまま、空いた男の片手が加世の丸みに沿って流れ、尻肉を掴む。むにむにと指を波のように順に動かして、柔らかいな、と呟いた。

578:神婚 12
08/10/13 22:56:37 hSDh2mZP
「こんなふにゃふにゃした体で、よくぞ立って歩けるものだ」
「立って歩けなかったら、困るじゃないですかぁ……っ」
「それはわかるが」
 手はさらに滑って、加世の二の腕をぷにぷにと弄んだ。
「……この腕で、よくあの壷が持ち上がったな」
「〜〜〜〜〜っ。もぉぉっ、そんな古い話! だっ、大体あれは! 大部屋、ぐるーって塩の線で囲ったんですよ!? 中身、半分くらいしか残ってなかった……はず、うん、たぶん……」
「実に勇ましかった」
 くく、と笑われて加世は真っ赤になる。自然、恨めしげな顔になるのを、男が宥めにかかった。
「そう怖い顔をするな。褒めている」
「あんまり、そう思えないんですけどぉーっ」
「夫の言葉が信じられないか?」
 むぅっと加世は唇を尖らせる。
「……それを言っちゃ、卑怯ですぅ……っ」
「許せ。元々お前を偲ぶよすがが少ない。……これから、増やすにしてもな」
 腕から背に回った指先が、つつ、と背骨に沿って撫で下ろした。
「ひぁんっ」
 ひく、と繋がりかけた箇所が蠢く。思い出したように加世の体から力が抜けて、また少し沈み込んだ。
「辛いか?」
「……だいじょうぶ、です……」
 ゆっくり、ゆっくり。
 促されて息を吐いて、励ますように、いたわるように頭と髪を撫でられて、また幾つかとりとめもない言葉を交わして、時々は愛撫も受ける。
 唐突に、気づいた。
 愛されてる。
 異形の目は、加世の様子をじっと凝視(みつ)めている。加世の体の状態に添うようにして、加世が男と同じ場所に辿りつくのを待ってくれている。
 じんわりと胸に喜びが広がった。大事にされるのって嬉しいんだ、と思う。
 当たり前のことだけれど、心の底から実感できるなんて、人生に何度あるだろう。
 喜びは熱になって全身へ沁みる。熱は加世の体を溶かして男とひとつになるのを助けた。涙が滲む。……入った。

579:神婚 13
08/10/13 22:58:00 hSDh2mZP
「どうした。痛むか?」
 語調は変わらぬのに、きろきろと金の『目』が泳ぎ回っているのが可笑しい。泣きながら笑って、首を振って、嬉しいんです、と尖った耳元に口を寄せた。
「すっごく、幸せで。嬉しくて、嬉しくて、嬉しくて。そしたら涙が、勝手に」
 ぴこぴことくすぐったそうに長い耳が揺れる。可愛い、とその動きに釘付けになったとき、首すじを舌が這って軽く歯が立った。
「ぁんぅ……」
「お前は、甘い味がする」
「甘い、の……好き?」
「嫌いではないな。……お前は」
「ふふ、大好き」
「だろうな。女子供は甘いものが好きだ。……だから甘くなるのか?」
 首をひねる男は、真剣なのかそうでないのかわかりづらい。ひとしきり忍びやかに笑って、加世はふと気づいて困った。
「えっと……。これ、から……どう、すれば」
「動けるか?」
「はい……」
 助けられて体を浮かせる。もう一度ゆっくり沈めると、さっきよりは楽に入った。ずくずくと下腹部が痛むが、痛みというより違和感に近い。男を受け入れて平気な自分の体が、なんとなく誇らしい。
 どちらからともなく視線が絡んで、口づけを交わす。深く侵入する舌、ぴちゃぴちゃと音を立てて舌が擦れあい、上顎のざらりとした部分を先端で撫でられる。ぷっくりした下唇を甘噛みされると、勝手に体がくねった。
中が擦れて、痛みがないわけではないのに、何故だか止まらない。やわやわと胸を揉まれる。くちゅと離れた唇の隙間から、黒く尖った歯が見えてぞくぞくと芯が震える。
 もっと欲しい。
 ねだるように白銀の髪をかきわけ頭を引き寄せると、男は応えて再度深い口づけをくれた。


   つづく


予想外にラブくなったw

580:名無しさん@ピンキー
08/10/16 00:01:36 EK8d9Klo
わわわわっふるぅう!
ラブラブで甘くて・・・
次の投下をお待ち申してます

581:名無しさん@ピンキー
08/10/16 18:01:59 mFIhpQQU
うほっww毎度GJです!
金加世バランス良いな

582:名無しさん@ピンキー
08/10/22 01:01:18 +uX0SUPz
保守。規制激しいな。

583:名無しさん@ピンキー
08/10/27 06:42:49 f1S+B19x
ほす。
薬売りはたまに薬箱の中身を虫干ししようとして、
途中でイヤんなってふて寝してるとよいw

584:名無しさん@ピンキー
08/10/29 16:42:33 xTGDCoYX
>>579続き

金加世、完結、NGワード神婚、全3レス、ギャグおまけあり。
おまけがやりたくてこのタイトルにした、反省はしない。
どうぞ。

585:神婚 14
08/10/29 16:43:18 xTGDCoYX
 たどたどしく、けれど本能に従って加世の腰がゆらめいて、繋がった箇所がくちゅくちゅと音をたてる。眉が寄るのは苦痛からばかりではなくて、火照った頬をなぞられると甘く声が零れた。
「あ……んっ」
 胸の先端を長い爪で軽くひっかかれて、背が反った。次第に摩擦は少なくなって、滑らかに男のものが加世の中を出入りする。ふ、と男が息をついて、様子に加世が顔を覗き込むより先に、衝撃が走った。
「――あっ!?」
 突き上げられた、とわかったのは、今まで届いていなかった場所に男が達したからだ。思わずひけた腰を、男の手が掴んで引き戻す。
「……まだ、辛いか」
 尋ねる男の吐息が熱かった。低く掠れた声に、蕩けることを覚え始めた奥が、さらに蜜を吐き出すのがわかる。加世は勢いよく首を振った。たとえ本当に辛くっても、好きな男にされて嫌な女がいるわけない。
「へいき……です、から……」
 して、と願う。
 愛して。もっと。
 男に欲しがられている、それを与えることができる、という幸福に目眩がする。
 それに、加世の足りない部分をいっぱいに埋めてくれる男が、自在に動くとどうなるのか、興味もあった。
「あの、ね。あなたも、気持ちよく、なって……?」
 気持ちの丈を込めて髪を梳き、額の『目』に口づける。異形の赤い目が細まって、ああ、と加世の願いを聞き届ける応えがあった。
「――っ、は、ああ……っ!」
 がくんと首がのけぞる。宙に踊った手をはっしと掴まれて、代わりに加世そのものが男の膝の上で踊らされる。
「あっ、あっ、あっ、」
 貫かれて、こじ開けられて、鮮血が流れる。こりこりと内壁を擦られると、火がつくようで汗が噴き出す。
 熱い。
 そうだ、優しいだけのわけがない。激しさを秘めた姿に、心を灼き切られて加世はここへ来たのだから。
 今度は体を灼かれる。灼き尽くされる。きっと灰の一片も残らずに、あの美しい火花にされる。現にほら、瞼の裏がちかちかする。
 本望だ。
 腰から頭のてっぺんへ雷(いかづち)が走る。両脚が跳ね上がって、かはっと衝撃に咳込んだ。身の程知らずに太陽を慕った娘。奇跡の降臨は身を滅ぼす。わかっていても、求めずにはいられなかった。
「やっ、ああっ、あああああっ!」
 叫び声に、辺りを漂っていた墨文字が一斉に震えた。宙を伝播する、声の軌跡が見える。伝わる、波紋。真っ白い空に虹色の輝点が浮かぶ。
 自分の体が炎と化すのを、一瞬確かに見たと思った。

586:神婚 15
08/10/29 16:44:04 xTGDCoYX
   *


 ぱちりと開けた目に、そらりす丸の派手な装飾が映る。うるさいほどに鮮やかな、現世。
 綺麗だ、と思った。
 お日様があるから、世界は色を備えて美しい。
「――お疲れ様で」
 つやのある声にねぎらわれて、起き上がろうとすると全身が痛んだ。
「いっ……たぁ〜〜〜〜!」
「まだ寝ておいでなさい。水はいりますか」
「いりますぅ……」
 弱々しく答えて、視線だけを動かした先、薬売りの帯に退魔の剣が挟まっている。ちりん、と金色の鈴が鳴った。
「あたし……どうしたの?」
「一旦戻されたんですよ。人がずっとあそこにいるわけにゃ、いかないんでね」
「じゃ、夢じゃないのね?」
「せっかくの嫁の貰い手ですからねぇ。夢にしない方が、いいんじゃないですか」
「もぉぉっ! またその話ーーー!?」
 ぷーっと膨れると、おやおやと薬売りは笑う。
「初夜を終えた花嫁さんの割に……変わりませんねぇ」
「ぎゃー! 薬売りさんの助平! 変態! 親父!!」
 親父、の罵倒に、何故かぴくりと薬売りのこめかみがひきつった。
「……では、あれからの伝言はいらないということで」
「きゃあーーー! ウソウソ! ごめんなさい薬売りさん! 男前! 素敵! 日本一!」
 調子のいいことで、とボヤきながら、薬売りは加世の背を支えて助け起こしてくれる。口元に水を湛えた碗があてがわれた。
「朝日子でいいか、とのことですよ」
 こくりと飲んだ清水が甘い。十分に喉と唇を湿らせて、加世は首を傾げる。
「あさひこ?って?」
「加世さんの渾名でしょう。あちらへ行っても、名を取られぬように」
「もいっこ名前つけるの?」
「そうです。吾が妻……『あづま』で、日の眷属だから、朝日でよかろうと。子は猫の『こ』ですね。『ひこ』では彦に通じますから、単純に朝日でいいんじゃないかと俺は思うんですけどねぇ」
 ぶつぶつ言う薬売りの言葉が素通りする。眷属、と繰り返して胸が熱くなった。
 太陽に焦がれた人の娘が、その炎に灼かれて、それきりではなくて。
 嫁いだ。迎え入れられた。
 本当に……あの人の妻になった。

587:神婚 15
08/10/29 16:45:45 xTGDCoYX
「……加世さん?」
「ううん、あの、えと……嬉しいです、って、薬売りさんに言えばいいの?」
「朝日子? 朝日?」
「朝日子」
「……そうですよね、好いた男にもらった名前に、ケチをつけた俺が馬鹿でした。はいはい、じゃァあんたは朝日子で。妙な感じですが今日から家族です。どうもよろしく」
「えっ、薬売りさんが息子!?」
「誰が息子ですか!?」
 薬売りを通してこの光景を見ていた男が、笑いながら妻をからかうのは次の晩のこと。



 昔々、娘は神様に嫁入りし、自分も太陽になりました。



 めでたし、めでたし。




 おまけ。


『神婚さん、いらっしゃ〜い!』
「うわぁ、なんですかこれ! 箱に人が入ってる! 喋ってる!」
「てれびだ」
「てれび? よくわかんないけどすごーい!」
「出るか? 『いえす/のぉ枕』がもらえるぞ」
「枕?」
「つまりだな、ごにょごにょごにょ……」
「きゃーっ、もぉ、やだあなたったらーーーー!」


 おしまい。



ぽつぽつ投下におつきあいいただき、ありがとうございました。

588:名無しさん@ピンキー
08/10/29 21:49:34 +MeeWdKq
                ∩
                ( ⌒)      ∩_ _グッジョブ !!
               /,. ノ      i .,,E)
              ./ /"      / /"
   _n グッジョブ!!  ./ /_、_    / ノ'
  ( l    _、 _   / / ,_ノ` )/ /_、 _    グッジョブ!!
   \ \ ( <_,` )(      /( ,_ノ` )      n
     ヽ___ ̄ ̄ ノ ヽ     |  ̄     \    ( E)
       /    /   \   ヽフ    / ヽ ヽ_//


589:名無しさん@ピンキー
08/10/31 02:04:28 IrvWDZZL
GJ 良いハロウィンになったねぇ

590:名無しさん@ピンキー
08/11/04 00:38:28 pa228fNg
ほしゅあげ

591:名無しさん@ピンキー
08/11/04 01:15:03 PK4sWFQO
うぉぅ続きがきてる
幸せな感じに完結してよかった!楽しませてもらいました
ありがとう

592:名無しさん@ピンキー
08/11/06 06:21:12 KH33t/Uw
オチに癒されたwwwww職人GJww

593:名無しさん@ピンキー
08/11/09 07:52:21 VXUJXVaw
トレカ発売記念。
コンプしたけど、残念ながらエロパロるのはちと厳しい。

594:名無しさん@ピンキー
08/11/09 08:27:10 wPWbGglL
トレカ発売で一部のスレのみ沸いてるww

595:秋宵華蝶
08/11/12 23:05:31 ksPGOik7
薬×花魁です

エロくはないと(ry
もしかしたら…薬売りイメージに支障をきたすかもしれません。
すいません。イメージ崩れが怖い人はスルーでお願いします

「まぁ読んでやんよ」という方どうぞ↓

596:秋宵華蝶 一
08/11/12 23:06:15 ksPGOik7
「――いらっしゃい」
女が戸を引くとからりと鈴がなった。古びた大きめの鈴の音は錆びついて侘しい。
「おや、これはこれは…。花紫様ではございませんか」
「…今晩いい?」
「…勿論で、ございますよ」
薄暗い中、蝋の火が妖しく揺れる。
細やかな彫刻が施された紅の文机の向こうにぼんやりと浮かび上がるその者は
煙管を口から離し煙を一息吐くと、答えてにこりと妖しく笑む。
浴衣を緩く着流し、灰色に波打つ長い髪は昼間と違い下ろしている。
その髪のすき間からは緋の隈取りに彩られた紺碧の瞳が微かに見える。
肘掛けに腕をかけ体をやや斜めに座すその姿は妖艶で、声を聞かなければ女と見紛うほど。
否、女にもこれ程の妖艶さは出せまい。
「先にお邪魔してるよ」
客の花紫と呼ばれた女はいつもの部屋に向かおうと体を左に向け部屋の方へ歩み始めるが、
すかさず男が止める。
「あぁ、御待ち下さいまし。」
「?」
「…前払い。」
しれっと男は手の平を上に向け軽く差し出す。
「…しっかりしているねぇ」
花紫は軽く息をつくと袖に手を入れ金を取り出し大雑把に男に手渡す。
「お陰様で。こちらも商売ですから」
男は金をしまいゆるりと立ち上がるとそのまま入口の戸を少し開き外に掛けている札をひっくり返す。
『満場御免』
「…いつも思うが、部屋も身も1つなのに『満場』とはねぇ」
皮肉を含め寒椿は言う。
「満場には違い御座いませんからね」
言いながら男は戸に鍵をかけると角に置いてある蝋を台座ごと持ち上げ部屋の方へ歩き出す。
「では、こちらへ」


597:秋宵華蝶 二
08/11/12 23:09:07 ksPGOik7
着いたその部屋は壁や襖に色とりどりの絵が描かれており、椿や象等が蝋燭の火に妖しく浮かび上がる。
十畳程の部屋の真ん中には大きめの派手に彩られた布団が一組。何が目的の部屋かは一目瞭然だ。
「それでは今晩御相手させて頂きます。太夫の花紫様には畏れ多くも」
男は三つ指を立て深々とかしづく。
「型通りの挨拶はいいよ。あんたもうち来てあたしを指名でもしてくれればいいのに。
いくら江戸一の太夫だからと言ってもあんたに払うよりは金も取らないんだからさ」
「そのうち…」
笑んで男は言う。
「いつもそのうちって言いながら一度も来た試しがない」
花紫はため息をもらす。
「私もある意味同業者ですからね…夜も忙しいのですよ。
其れより夜が明けてしまいますよ。…いらっしゃい」

598:秋宵華蝶 三
08/11/12 23:10:59 ksPGOik7
女を引き寄せると、男はゆっくりと着物を脱がせていく。
あんな長い爪でよくまぁ器用なものだと花紫は感心する。 男の動きは爪の先まで優美そのもの。
最後の着物一枚になると布団へ静かに寝かせる。
花紫は今更のように体が火照るのを感じた。
この男だけなのだ。自分がここまで羞恥を感じるのは。
客の男どもは乱暴で、興奮を隠そうと努めながらも隠せていない。
かく言う己も適当にあしらうだけだ。客を大事に等思っていない。
浴衣をゆるりと着流したままの男は仰向けの花紫を上半身だけ腕で跨いだ。
跨いだ左手で自分の上半身を支え花紫を覗き込むように穏やかに見つめると
右手で頬をなで優しく接吻する。長い髪が柳のように下がる。
これだけの事で太夫ともあろう花紫が身悶えを感じる。
この男に抱かれる時だけは身も心も大人しくなってしまうのだ。
売られる前の少女の頃に戻ったみたいに。
たった一人にでいい、愛されたいのだ。慈しみを受けたいのだ。
体は他人の欲に踏みにじられても心は決して侵されまいと、頑なに耐え、芸を磨いてきた。
結果今の地位を得た。ある程度は客も選べるようになったが、それでもやはり虚しく侘しい。
この男はどこまでも優しい。がっつくということが無いのだ。ただ時折何か危うい目付きをするのだが

599:秋宵華蝶 四
08/11/12 23:12:18 ksPGOik7
「…大人しくなりましたね。流石太夫ともあろうお方。お綺麗で御座いますよ」
「…み、みえすいたお世辞はいらない。アンタに言われたって嬉しくないんだから」
「おや、それは失礼致しました。…頬が赤く染まる所も可愛らしくいらっしゃる」
「うるさい!」
こういう時花紫はいつも気持ちと裏腹な事を言ってしまう。
素直になれない自分が嫌だと思うがそれ以上に気持ちを完全に読まれている事が腹立たしかった。
「それではお互い黙りましょう…?」
言って男は再び接吻し花紫の口は封じられてしまった。なだらかに舌を使う。
花紫は鼓動が一層激しくなるのを押さえるのに必死だったが
着物をゆっくり捲られるときに思わず呼吸が一瞬止まった。
瞬間男の目が微かに意地悪そうに細まったがそれ以外は何も変わらなく花紫はされるがままだった。

・・・


600:秋宵華蝶 五
08/11/12 23:24:18 ksPGOik7
・・・

「男で身売りなんて商売してんのアンタぐらいじゃないの」
あれから二刻程たったか。ようやく落ち着いて来た花紫は横に侍る男に向かって言った。
「さぁて…どうだか…」
「立ち入った事聞くようだけど…嫌なら答えなくていいんだけどさ、
何でこんな商売してんの?本業薬屋なんだろ。売れないの?」
「薬は売れますよ。…本もね。皆さんお好きなんですねぇ。」
くつくつと男は笑った。
「じゃあなんで…?その、…普通に嫁貰って本業だけやってればいいのに。
…話によるとアンタ、身売り男女関係なく、なんだろ?」
やや思いきったように花紫は言った。
「私はまだ嫁を貰おうとは思ってませんからねぇ。それに身売りって感覚は御座いませんよ。
確かにおっしゃるように男性の御相手する場合も御座いますがね」
男の目が妖しく光った。
「私は人をある程度選びますから、嫌なら払えない程の高い金要求したりしてお引き取り願いますし。
単なる道楽の一端ですよ…」
ほんとにそうだろうか、と花紫は何となく思った。確かに嫌々やっているようには見えないが、
…もしかしたら、この男にはさして取るに足らぬ事なのかもしれない。楽しくも無いが嫌がるほどでもない。
ただの仕事の一貫。かくいう自分もそんな所だから。最初は嫌で嫌で仕方なかったが今はある程度割りきれている。
これが悟りというものだろうか。

601:秋宵華蝶 六
08/11/12 23:25:15 ksPGOik7
花紫はこの男が薬の商いとこの仕事のみをしていると思っていた。
よもや人間以外が相手の奇っ怪な「別の仕事」をしているとはつゆしらず。
「変わった人だね…」
「そう、ですか?」
男は再びくつくつと静かに笑った。花紫はまじまじと男の顔を見つめる。うねる髪が邪魔をしてよく見えないが、
緋色と濃い睫毛に彩られた切れ長の目に、これまた緋をのせた筋が通った鼻。口元は上唇のみ蒼く隈取りを施されている。
たまに金に輝いて見える、うねる髪は南蛮から来たという一枚の絵を飾る額縁のよう。
この男の色香は化粧のせいだけではあるまい。花紫は軽く溜め息をつく。
「…アンタを見てると女の自信を無くすよ」
「…そうおっしゃられては私が男の自信を無くします」
「…そういう意味じゃない」
こちらの言いたい事を分かった上でのこの物言い。しれっと眉をひそめて困ったような口振り。
どこまで役者なんだか、と軽く花紫は舌を打つ。

602:秋宵華蝶 七
08/11/12 23:34:37 ksPGOik7
鳥の囀ずりが聴こえてきた。室内は窓も無いので暗さは変わらないが恐らくもう夜明けも近いのであろう。
「――そろそろおいとまするよ」
「…では着付けして差し上げましょう。お立ち下さいまし」
だるそうに花紫は立ち上がる。男は手馴れたもので、脱がせた時同様、迷い無く着付けしてゆく。
ものの数分で来た時の姿に戻った。
「相変わらず手馴れたものよ。早いねぇ」
「…恐悦至極」
「…また来るから。一月後にでも」
どこからかカタカタと金属音がしたように花紫には聞こえた。
「…お待ち申し上げておりますよ」
笑んで男は言う。

からり、と鈴が鳴った。寒椿が戸を開け帰って行ったのだ。
「やはり…取り付かれている」
一人ごちたのは男だ。手元には赤い短刀がある。鞘の部分には赤い鬼のような、夜叉のような首が彫り上げられている。
「あの女…以前より伸びている。…首が。…一月後にはカタが着きましょう」
男の言葉に反応するように、刀の首がカタカタと鳴った。


一応、おしまい。




「読んだけど、つまんないじゃんよ!」という方ホントごめんなさい。
でも読んでくれてありがとう
続きもぼんやり考えたけど、こんな終わり方で。
もしかしたら薬売りが見せた幻想かもね…と書いてて思ったけど、わかりません。
形と真と理受け取って頂きたく候。

603:名無しさん@ピンキー
08/11/13 20:18:52 Gk9mWnxr
GJ。よかったよ
モノノ怪女郎屋でやったらきれーそーとかおもった

604:名無しさん@ピンキー
08/11/13 20:33:49 gxUUBMZj
退魔ものktkr!
CPものもいいけど、こんな風に目的のため淡々と不特定を相手する薬売りも
それっぽくてイイね。
できれば3カチンまで希望。


605:名無しさん@ピンキー
08/11/14 02:01:55 O3sSIhC7
きぼー

606:名無しさん@ピンキー
08/11/15 02:27:29 QQa/iS17
忘れてる方もいらっしゃるかと思いますがドSです、触手×お庸がどうにも煮詰まってしまいまして一旦他のを書きに来ました。
前に出た高校野球の話から生まれた薬売り(高校球児)×加世(チアリーダー)です、本番なしですが暇潰しにでもどうぞ。

607:薬売り×加世
08/11/15 02:30:26 QQa/iS17
晩夏の夕刻、薬売りは練習を終え重い体を引き摺り野球部部室に向かっていた。
誰もいないグラウンドに長い影が伸び未だ厳しい日射しが容赦なく彼の肌を刺す。

「んっ…、痛っ…」

ふと聞こえた声に足を止めると水飲み場に少女がいた。

チアのユニフォームに身を包んだ少女はシューズとソックスを脱いでおり蛇口からの流水に方足首を浸している、

「加世さん」

薬売りは声をかけた。

少女が振り向き束ねた髪が狐の尻尾の様にふわりと弾んだ。

「あぁ、薬売り君。お疲れ様」

「足、どうかしたんですか?」

薬売りが問うと加世は少し困った顔をしてはにかんだ、

「チアの練習で捻っちゃって…腫れてたから冷やしてたの」

痛めた足を擦り溜め息をつく。

「それは可哀想に、捻挫ならよく効く薬があるから私が診ますよ」

薬売りは加世に背を向け地面にしゃがみこんだ。

「はい…どうぞ」

「へ?…あっ、それは…」

おぶされと促す薬売りに加世は勢いよく首を振った。
「わ、私って結構筋肉質で重いから!薬売り君は細いから折れちゃうよ!」

「折れやしません…よ」

思春期の少女は頬を染め辺りをキョロキョロ伺うと、遠慮がちに少年の背に身を預けた。

608:薬売り×加世2
08/11/15 02:32:57 QQa/iS17
「よっ…と」

薬売りはすっと立ち上がり背中の加世に負担がかからぬよう深く背負い直す。

「やっぱり折れそう…」

加世が恥ずかしそうに呟いた、薬売りはふっと微笑んで歩き出す。

「これくらいで折れませんよ…、それより…柔らかくていい気持ちだ」

薄いユニフォームごしに柔らかな乳房が薬売りの背中に当たり本来の形を変えている、それが歩を進めるたびに揺らされ二人の体の間で窮屈そうに弾むのだ。

「んー…大きな玉蒟蒻を二つ背負っているような…、おっと」

「もう!変な例えしないで!」

耳まで真っ赤にした加世がこつんと薬売りの頭を拳で叩いた。



「じゃあそこに掛けてください」

促され加世はベンチに腰掛けた。

体育倉庫に連れてこられるとは思わなかった加世は終始そわそわとしている、その部屋はやや埃っぽく汗と土の匂いが染み付いていた。

暫し無言の時間があった後、ロッカーを探っている薬売りに加世が声をかけた。

「あの…薬売り君て野球部なのに何で髪長いの?」

「まぁ…そういう仕様ですよ」

「何で野球部なのにお肌真っ白けなの?」

「仕様…です…よ」

「へぇ、仕様かー」

無難な会話を二三交わすと薬売りは薬箱を抱えて戻って来た。

「かさばるからここに隠してるんですよ」

引き出しから優美な入れ物に入った軟膏を取り出し加世の脚を持ち上げる、粘った液体を指先ですくい熱を持った足首にそっと塗りつけた。

「ひゃ!冷たっ」

「…動いては駄目です…よ」
軟膏を塗り終えるとガーゼを貼り、包帯を手際よく巻き蝶結びを飾った。

「はい…これで大丈夫。念のため病院で診てもらって下さい」

「ありがとう、痛みも引いたみたい」

609:薬売り×加世ラスト
08/11/15 02:35:10 QQa/iS17
だが、薬売りは未だ床に座り込み加世の脚を持ったままでいる。

「…薬売り君…?」

すっと包帯を巻いた足首からふくらはぎを一撫でし薬売りは呟いた。

「綺麗な脚…ですね」

そして目線を落としたままゆっくりと足の甲に口付けた。

「あっ…!やだっ!離して!」

加世は驚いて脚を引こうとしたがその脚は薬売りに掴まれ彼の手の中に止められた、唇の温度が伝わり熱い息が皮膚を掠める。

眼球だけ動かし加世を一瞥し薬売りは薄く笑った、足の甲に押し付けた唇を滑らせ膝まで登るとぺろりと柔らかい皮膚を一舐めした。

「んひゃぁ!」

こそばゆさに身をよじりベンチからずり落ちそうになる加世、またも薬売りに軽々受け止められ元に戻される。

「まぁ…まぁ…、いいじゃありませんか…。おや、ここも擦りむいてますよ」

足首を支えていた手を膝裏に移動し脚を開かせ、プリーツスカートに隠された内腿に唇を這わせる。

「あ…」

「ほら…ここですよ…、疼きませんか?」

くしゃくしゃになったスカートの向こうの薬売りに見据えられ加世はもう抗うことはなかった。

―ぺちゃ―

小さな水音が静かな部屋に鳴り、

「こ、こらぁ―!!!何をしとるか―!!!」

怒号でかき消された。

いつの間にか入り口にジャージを着た厳つい男がわなわな震えて立っていた。

「…ちっ…」

「あ…小田島先生…」


終わり

610:名無しさん@ピンキー
08/11/15 02:38:23 QQa/iS17
全部書いてからなんですが舞台は現代の学校です。以上お粗末でした。


611:名無しさん@ピンキー
08/11/16 15:41:43 dAnA4JFY
どS氏だあ!!
寸止めww
薬売り残念ww

612:秋宵華蝶
08/11/16 21:50:15 R0jsEOfr
>>603 >>604 >>605

ありがとう!
3カチンまで希望してくれてありがたいです。
という事で完結させました
結構長くなってしまった…。
内容重視のためもあり、エロは相変わらず弱いです…ギリギリです…
ドS氏に恐縮しつつ、
ひとまず「秋宵華蝶 第二夜」投下します

613:秋宵華蝶 第二夜 一
08/11/16 21:53:00 R0jsEOfr
――からりからから。
「…約束通り」
「下弦の月に」
「今宵も一月前と同様、善い月でございますね。しかし地上の月に比べれば天の月もかくや」
江戸吉原は玉屋の太夫、花紫がこの男を以前訪ねたのは丁度一月前の下弦の月の宵の事。
「相変わらす口が減らないね。…いい?」
いつも通り煙管片手に艶やかな着流しで座す男に問う。男は煙を一つ吐くと、こくんと童のように頷いた。
「勿論。……お待ち申し上げておりましたよ。首を長くして、ね」
いつもの男の笑みに、なぜか花紫はいつもと違った僅かな暗雲のようなものを感じた。
ぞくり、と背筋を走るものがある。
「…どうなさりました?」
「…いや。今宵は冷えるな…」
「もうすっかり秋も深まって御座いますから。お風邪を召されぬよう」
例によって花紫は金を男に手渡した。
男は確かに、と金をしまうとこちらも例によって戸の札を返し鍵をかける。
「では、参りましょうかね」

そこはいつもと同じ部屋――

のはずだった。
否、確かに同じ部屋なのだが――。
「………御札?」
怪訝そうに花紫は壁一面に貼られてある白い紙を見つめた。
「…単なるマジナイですよ。ほら、巷で何とか言うモノノケが出るとか出ないとか。…御守り程度に、ね」
「…にしても、気味悪いね。何もこんなに張らなくても…これで客が寄り付くのかい?」
花紫は眉をひそめて男の顔を見る。
「…今日誂えたばかりですから。花紫様がお客様第一号で御座いますよ」
笑んで男は言う。花紫には男が本気なのか冗談なのか判りかねた。
「…でもこれじゃあ…あまりにも気味が悪い…」
花紫は顔をしかめ呟いて自分を抱き込むように両手を交差し肩を抱く。
絢爛豪華な内装は手のひら程の白い紙に覆われ、
その上には蝋燭の火に浮かび上がった自分たちの影が踊る。
花紫でなくとも気味が悪いであろう。
男は立ち尽くす花紫を片手でふわりと抱き込み、耳元で低く囁いた。
「今日ばかりは我慢なさって下さいまし。なに、いざとなれば札の事すら忘れさせて差し上げますから」
「……うん」
甘い言葉もこの時の花紫の不安を完全にかき消す事は出来なかった。花紫はただ黙って男の胸に顔を埋めた。
それはただ、札から目を背けんがためであった。


614:秋宵華蝶 第二夜 二
08/11/16 21:55:32 R0jsEOfr

「では太夫様。畏れながら今宵、お相手させて頂きます」
「…うん」
男は未だ不安げに立ち尽くす花紫を不意に抱き締めた。思わぬ事に花紫ははっと息をのむ。
先程と違い、今までに無い位の強い力だった。そのまま男は呟く。
「…目が覚めましたか。どうか私を見て下さいな」
「…うん…」
花紫は急に顔が火照るのを感じた。男の力が緩んだ。帯に手を掛ける。
するり、とゆっくり、しかし手際良く着物を脱がせていく。
着物一枚の花紫を床へいざなうと、男は再び抱き締める。
「寒くは御座いませんか。お風邪を召されては大変ですから」
「…大丈夫。どちらかというと…今はちょっと熱い」
「…よろしいことで」
笑みを含んだ低い口調に花紫はくらりとする。

テンプテーション。

誘惑というものがもし呪術だとしたら、きっとこんなものなのかもしれない…
思考力を奪うというか、頭の中が痺れる感じ…。花紫はぼんやりと思う。
男は穏やかに花紫を見つめるとツと顔をひとなでする。
「…なんか今日いつもとちょっと違わない?」
「…どうして?」
「なんていうか…あんた、前まではあまり抱き締めたりしなかったのに」
「花紫様をこちら側へ戻すためですよ」
「…こちら?」
「札に嫉妬したので御座いますよ。あまりにも札に注意がいきすぎるから」
くつくつと男は笑う。この男はどこからどこまで本気なのであろう、と花紫は虚ろに思う。
「私は常に本気で、御座いますよ」
花紫の心を読んだように男は言った。
「…そう…」
「何もかも忘れさせて差し上げましょう。…お喋りはそろそろお仕舞い」


615:秋宵華蝶 第二夜 三
08/11/16 21:59:45 R0jsEOfr

男は浴衣のまま女を封じるかのように四肢を女の左右に配し真上から見下ろす。
緋に隈どられた涼しげな目元に蒼い隈どりを配した上唇。
なんとなくいつも笑っているように見えるのは隈取りのせいだろうか。
花紫は心の臓が高鳴るのを悟られまいとする。
男はゆっくり顔を下ろしそっと口付ける。男のしだれかかる長い髪によって外界は完全に遮断された。
花紫にはもう男しか見えなかった。

柔らかい触りから、玩ぶように舌が絡む。不意に花紫に鈍い痛みが走った。犬歯で唇を甘噛みされたのだ。
咄嗟の事で両腕が動いたが、瞬間片方づつ手のひらを指を絡ませるように握り込められ
顔の左右に押し付けられた。花紫が目を見開くと男はツと目を開け笑むように細め再び閉じた。
男の指がいやらしく、勿体つけて絡む。
これで花紫は完全に動きを封じられたようなものだ。この男には今まで感じたことの無い束縛感。
しかしその束縛が花紫にはなぜか心地よかった。
――女は目を閉じた。


616:秋宵華蝶 第二夜 四
08/11/16 22:06:44 R0jsEOfr



辺りはしんとしている。
男は眠る女をスと見つめる。
己は床の傍らに座し、行灯に手を伸ばすと、油皿を枕元に置く。
黙って男は女を見つめる。

いかほど経っただろうか。
ちりん、と鈴の音がなった。布団を挟んで女の体の上に配置した天秤が傾く。
壁の札が紋様を描き一気に赤く染まった。直後女の首がわなわなと動き出した。
「…来たか」
女の首は身じろぎするように震えが激しくなり、徐々に伸びる。
まるで震えの反動を利用して首事態が伸びんと欲するよう。
「…油が欲しいか」
男は首に向かって言った。元の位置から三寸ほど伸びたところで首は震え続ける。
「…結界を貼ってある。あがいても好きには動けまいよ」
「…おのれ…」
この世のモノとは思えぬ声で呻き、女の首がぐりん、と男の方を向いた。
蝋燭の僅かな光の中に浮かび上がったその顔は夜叉のようでありもはや花紫の面影も無い。
首は目を見開いて男を睨み付けた。
「その人を解放しろ。…ろくろ首…いや、寒椿。貴女でしょ。……姿を表せ」
カチン、と短刀の首の歯音が響いた。
黒い影がむくりと花紫から起き上がる。
男は影を見据えた。


617:秋宵華蝶 第二夜
08/11/16 22:08:45 R0jsEOfr
読んで頂いた方、ありがとうございました。

続きはまた後日書き込みます
楽しんでいただければよいのですが…

618:名無しさん@ピンキー
08/11/16 23:02:38 MMib6QUy
ドS氏の書く文章は、相変わらずエロくてGJ!
「仕様ですよ」の問答が、赤頭巾とオオカミの会話に見えたwww

「どうしてそんなに大きい耳をしているの?」
「あんたの悦い声が、よぉく聞こえるように、ですよ……」

こんな感じにw

>>612
完結させたってことはもう手元では完成済み?wktk

619:名無しさん@ピンキー
08/11/16 23:20:08 R0jsEOfr
>>618

い、一応、完成済み…(-ω-;)

620:名無しさん@ピンキー
08/11/17 00:28:38 /OTR6SPR
>>612
やばいハマってきたww
首長くして待ってるわ

621:秋宵華蝶
08/11/19 18:52:06 6038hnDF
>>620
ウエンツされちまいますぜwww

待ってくれた方ありがとう
ちょっと長いですが、「秋宵華蝶 満願成就の最終夜」
一気に投下します。怒涛の(とか自分で逝ってみる)最終回です
…誰にも突っ込まれないうちに自分が突っ込みを入れてやる…

薬売り…お  ま  え

いろんな意味でね。つか自分にも突っ込みどころ満載。
ではどうぞ↓

622:秋宵華蝶 満願成就の最終夜 一
08/11/19 18:54:00 6038hnDF

「ねぇ…あんた一人身なんだろ?」
「…だったら?」
「アタシをもらってくれないかい?」
「申し訳ないのですが…当分は一人身でいるつもりなのでね」
女は笑った。
女の名は寒椿という。寒椿は格子であった。太夫に次ぐ身分の花魁である。
ある時寒椿のいる店で化物騒動が起こった。
その時、たまたま薬の商いで居合わせたのが、この男だったのだ。
化物に襲われそうになった寒椿は万が一の所でこの男に助けられた。
寒椿は店では相応の地位もあったので化物に関して男に数々の情報を提供し、協力する事が出来た。
男に接する内、寒椿は次第に心惹かれていった…。


「…貴女…ご自分が亡くなってからいかほど年月が経ったと思っているんです?」
男は影に向かって声をかける。影は黙って立ち尽くす。
「…アヤカシとなった貴女は今やただの化物でしかない。よって斬らねばならぬ。
…貴女の為にも…この娘の為にもね。ろくろ首は夜眠りについてから油を舐めようと首を伸ばす…
眠ってからじゃないと姿を表さないとは、まことに厄介なモノノケになってくれたもんですね…」
「…どうして…アタシだと…」
影は呻いた。
「この娘、貴女にちと似たところがございましたからね。それに…たまに貴女の顔が出てましたよ」
男は影を見つめる。影は狼狽するかのように揺らめいた。
「貴女の想いが花紫の想いと同調し、人を欲し想う心が首を伸ばしろくろ首となった。それが…真」
カチン、と渇いた音が響く。
「…人を欲してはいけないのか。お前を欲してはいけないのか。…二度も死ぬのは嫌じゃ。
お前を忘れられなかった私は一人入水した。六つで売られた頃から生きるため、
家の借金を返すため芸を磨き客におもねり、格子にまでなったが結局欲しいモノは手に入らなかった…
好きな男には振り向いてもらえず、好きでもない男の相手をしなければならぬ毎日。
…世は不条理じゃ。こんなにも侘しく、虚しい。
生き延びんがため、生きてきたがお前にでおうて望み叶わぬまま生きるのがこんなにも辛いことを知った。
あたしをこんな形にしたのはお前なのだよ?そのお前があたしを斬ると言う。お前は人を想うた事があるか?」
男は黙って影を見つめる。
影は間をおいてぽつりと呟いたが男に聞こえたかどうかは定かではない。
「…否、あたしが怨んだのはお前等ではない…」


623:秋宵華蝶 満願成就の最終夜 二
08/11/19 18:55:37 6038hnDF

影は発狂するように大きくうねる。
「…嫌じゃ、嫌じゃ…もう、一人は嫌じゃ!もう嫌じゃ…」
「…それが…理」
カチン、と短刀の首がなった。
「形と…真と…理によって剣を…」
「お前を道連れるのが叶わぬなら、この娘を貰うてゆく!」
「…解き放つ…」
影は一瞬広がり大きく蠢き、娘の中へ戻ろうとした。
「その娘の体は天秤が守っている…もう戻れまい。大人しく斬られよ」
夜叉の頭を持つ剣を手にする男は金の衣に金の紋様を褐色の体に纏っている。紅い帯が鮮やかに宙を舞う。
そこには先ほどまでの白い肌の細く女のような男は居なかった。
「憎し憎し…」
影は花紫に入れぬとみるやいなや男に襲いかかった。迫り来る影は二本の赤黒い細い影をたなびかせていた。
後方にたなびくそれは、さながら涙のよう。
「あなうらめしや!!」
男は剣を振るう。呪詛のような刃は美しいほどの光と彩色を放つ。男の長い銀髪がなびいた。
「静まれ…転生の地で安寧に生きよ」

「滅!!」
男は一心に剣を降り下ろした。
閃光が、走った。



辺りは静まりかえっている。
男は一人床の傍らに座し佇んでいる。床では花紫が安良かに寝入っていた。
男は女の頬をさらりと撫でて一人ごちた。
「……人を想うた事があるか……世は不条理……」


624:秋宵華蝶 満願成就の最終夜 三
08/11/19 18:57:26 6038hnDF

花紫は目を覚ました。傍らには男が寝入っているようだ。花紫は男の腕の中にいた。ぼんやりと辺りを見回す。
どこからか光が漏れているようで、光の筋が数本、室内に走っている。
「……朝…?」
花紫は呟いて、はっと慌てた。
「…ん…」
男も目を覚ましたようだ。
「…おはようございます」
花紫を抱いたままの姿勢で眠たそうににこりと笑んで挨拶する。
「…う、うん…あたし…もしかして寝ちゃったの…?」
花紫は青ざめて恐る恐る男に問うた。
「そうですが…何か問題でも?」
「い、いや問題っていうか…あ、あたし自分ではわからないんだけど、
寝相悪いみたいだから一人の時しか眠らないって決めてたんだよね。それで昔客一人逃しちゃって…」
ひきつった笑いを浮かべ花紫はおろおろと話す。声のトーンもどこかおかしい。男は、ははぁと心の内で呟く。
「安良かに寝入られて御座いましたよ。この通り、大人しく私の腕の中に収まって……」
蠱惑的に男は笑んで言う。花紫は一気に赤面した。
「それより…よく眠れましたか」
男は穏やかに問うた。
「う、うん、それはなんか久しぶりにぐっすり眠った感じ…肩こりっていうか、
いつもの起きた時に感じる首の痛みも酷くないし」
「肩こりですか…?」
「いつもは起きた時に酷くてね…そうだ、なんかいい薬ない?」
男は少し考えると一人で妖しく笑んで答えた。
「…それではしっかり効く善いものが御座います。お出しして差し上げましょう。
……あぁそういえば昔、ろくろ首の女を治したとかどうとか言う、逸話も残っている妙薬でしてね…」
「ほ、本当!?」
女の顔が心なしか輝いたように見えた。
「逸話ですけどね。…でもまぁ火の無いところに煙は起たぬと申しますから…。一粒で効果覿面、ですよ」
「じゃあそれ貰っていくよ」
花紫は嬉々として笑顔で答えた。



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