モノノ怪でエロパロ  ..
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287:サノメ 7
08/03/17 23:08:53 s09pmAMZ
 ……なんか、とんでもないとこに来ちゃったかもしれない。
 と、加世は背すじをつたう汗を感じていた。
 祭の規模は、思っていたよりずっと大きかった。考えてみれば見越屋ほどの大店の、主要な仕入先なのだ。村といっても、五軒や十軒で済むわけがなかった。
更に、八太郎左のように今は村を出た親類姻戚までが、山を越えてやって来ている。土地が広いから江戸の祭のようにごみごみとしては見えないが、子供も含めて二百からいるのではなかろうか。
 それだけの視線に晒されて、加世は緊張でがちがちである。側女(そばめ)の久には、案山子がたくさん立っているとでも思えばよいと言われたが。
 ――ムチャ言わないでよぉぉ〜っ!
 そりゃあ確かに野卑な者には任せられないだろう。とはいえ、事情もよく知らぬ赤の他人にあっさり任せていいものだとも、全然思えない。
 一段高くしつらえられた舞台から見下ろせば、そこは既に水を引かれた田が広がっている。しゃんしゃんと神楽鈴が鳴り、鉦が鳴り、笛が鳴き、小鼓が鳴る。
喉自慢の村人がはりのある声で音頭をとると、白い褌ひとつになった若衆らが踊るようにしながら、田んぼの泥土をすくっては畔(あぜ)にぶちまけた。
 結構な重労働に見えるが、村人たちはどっと笑っては若衆らに「しっかりしろ」だの「腰いれろ」だのと冷やかしの声を投げる。やがては「ぬらせ」の「来いさ」の揃って呼びかけ、「おいさ」「行くさ」と勇ましく若衆が応える。
「…………うわぁ…………」
 これまでとは違った意味で、加世は顔を赤くして目線を泳がせた。
 ……これ、見立てだったらどうしよう。
 いやいやいやまさか。そんなまさか。
 胸中で激しく動揺していると、横手から声がかかった。
「お食べになりませんか」
 目線を移すと、そこには鬼の面。わかっていても、心臓がばくばくする。いまだに慣れない光景だ。加世は慌てて箸を取り、目の前に並んだご馳走に向き直る。
「いえ! いただきます!」
 きなこのぼたもちを小皿にとって、こっそりと伏せ目で周囲を窺う。
 村の女達は、みんな鬼の面をつけている。赤いの青いの白いのと、人数が人数だけに壮観だ。村に入る前の祭行列で、最初にお久さんの面姿を見たときにはぎょっとしたものである。
 神事の間、村に女はサノメのみ、という意味なのだそうだ。着物も木綿や麻の生成りものばかり、加世の着せられた五色の絹織物とはずいぶん様子が違う。
 そういえば弁天様は嫉妬深いんだったか、と加世の笑いはひきつりっぱなしである。
 下にも置かぬとはこのことで、宿からここまで、加世はずっと輿に揺られてきた。ご隠居の姿を探せばしっかり歩いていて、なんとも肩身の狭い思いを味わったものである。
払われている敬意は加世ではなくサノメに向いているのだとわかっていても、並いる目上の人々に頭を下げられると尻のすわりが悪くてむずむずする。
 豊かな村なのだとは思う。件の宮池の淵を通って村入りしたが、一旦山を登るその道は、普段利用しているものではなく、祭道と呼ばれる特別のものだそうだ。人の通わぬ道は、こまめに手入れをしないと緑に埋もれてしまう。
祭道を保つのは宗家の大事なお役目だそうで、生活に直結しない作業に人手をさくだけの余裕があるのだ。そうして、祭の前になると、村人総出で枝を払い、土をならして、神下りの道を整えるらしい。

288:サノメ 8
08/03/17 23:10:19 s09pmAMZ
 その払った枝で、サノメを饗するための煮炊きをすべて行うというのだから徹底している。なんという木なのか、燻ぶって煙があがったとしても、焦げ臭いばかりでなく少し甘めの、いい香りがした。
「お久さん」
「はい?」
「これ……何してるんですか?」
 もこもことぼたもちを咀嚼して目の前の光景を問うと、鬼面の女は大きく頷いた。
「タノカミさまをお慰めしてるんですよ」
 またよくわかんない単語がー! と、加世は頭を抱えたくなるのをこらえる。
「タノカミ?って? サノメとは違うんですか?」
「サノメさまは祭行列と一緒に山から下りてこられますが、そのときヤマガミさまもいらっしゃいます。ヤマガミさまは、そのまま田んぼにお降りになって、タノカミさまになられるんですよ」
 久の説明に、ぽん、と加世は両手を打った。
「……ああ! 田んぼの神さまかぁ!」
 郷里と発音が違うのでわからなかった。
「そうです。お早く田んぼに慣れていただけるよう、土を撒いてお迎えします」
「へぇぇ〜」
 所変われば……って本当だなぁと、加世は感心する。
「じゃあ、サノメさまは何の神様なんですか?」
 はて、と久は首を傾げる。
「やはり田んぼをお守りくださる方ですが……。強いて言うなら、タノカミさまがお体で、サノメさまが魂、でしょうか。
祭のあと、サノメさまは早苗にお宿りになって、田植えをして始めて、体と心が合わさり、田んぼの守りが完全になる……と思います」
「んじゃ、あたしは山から早苗までの、サノメさまの乗り物みたいなものなんですね」
「そういうことになりますか」
 なぁんだ、と加世は肩の力を抜き、自分の想像したものに赤面した。
 やだもう、はしたない。
 転げまわりたいのを誤魔化すように、朴の葉に並べられた、見慣れぬ食材を示す。
「これは?」
「牡丹です」
「ぼたん?」
「シシ肉です。お口に合いますかどうか」
 赤味噌に漬けた肉を、朴葉で包んで焼いたのだろう、焦げた味噌が香ばしく、とろりと甘い脂が舌の上で溶けた。思わず満面の笑みになってしまう。
「おいっしー!」
「お好きなだけどうぞ。白酒はいかがでございますか」
「いただきます! ……って、そういえばこれだけのお祭なのに、屋台は出ないんですか?」
 きょろきょろと見回すと、久は侍女役の鬼に白酒を言いつけてから笑う。
「今はまだ神事でございますから。神事が終わって後、屋台も見世物小屋も立ちますよ」

289:サノメ 9
08/03/17 23:12:54 s09pmAMZ
 へぇ、と加世は顔を輝かせる。
「いつ終わるんですか?」
「さぁ、それは……サノメさま次第でございますから」
「え、あたし?」
「はい」
 祭囃子は最高潮に達していた。


  *


 ――さて、次は何の話をするか。……あ? ああ、そういえば喉が渇いた気もするな。貴様もたまには気が利くものだ。おお、では水にちなんで、次はけっして涸れぬ泉の話でもするか。
 ん? いやいや違う、水神の加護なぞと、めでたい話ではないのだ。無論龍でもない。――女よ。……ふふ。そぉ〜かそぉか聞きたいか。よし、では話してやろう。
 おほん。
 昔、ある東(あづま)の国の話だ。土地はそう豊かではなかったが、その地を長くまとめてきた代官は上を敬し下に厚く、広く慕われた立派な男であったそうな。
 しかし、この世に生きる以上、なんぴとも悩みから逃れることはできん。代官には二人の息子がいたが、この二人のために代官は日々頭を痛めておった。
かたや兄、父譲りの穏やかで賢い人となりだったが、生まれつき体が弱く、一年の大半を臥せって過ごしておった。かたや弟、頑健で力自慢の若者だったが、その腕を乱暴狼藉にしか使わぬ粗野な男であった。
 さてこの二人、どちらが代官の跡目にふさわしいか。
 ……んん、実に難題よな。
 だが、この代官は百姓との和を重んじたようだ。そも自身も百姓で、纏め役を務めるうちにお上から代官を拝命した……ということらしい。よって代官は、乱暴者の弟より、兄に跡目を継がせたく思っていた。
 ところが、だ。
 この兄は出来の悪い弟を愛していた。頑として妻を娶ろうとはせなんだ。……あるいは、体のことを引け目に思っていたのかもしれん。その地の風習でな、嫁をとらねば一人前とは認められず、家を継ぐことはできん。
一方で日々好き勝手に暴れまわる弟は、方々で若い娘たちにちょっかいをかける。その娘たちのいずれかが、いつ何時弟の妻の座を占めるかわからず、そうなってはむしろ弟に家督を譲るのが自然な流れということにもなりかねんのだ。
 代官はほとほと困り果てた。そしてついに、埒があかぬと、押し問答に見切りをつけて兄に条件を出した。これがなんと、もしも天女を見つけてきたならば、その女を妻に迎え、家を継ぐようにというものでな。
いやまったく破天荒な条件よ。これは無理だろうと踏んだ兄は、条件を承諾した。代官は早速村々へ使いを出し、天女を見かけた者は子細を話し、連れてくるよう触れを出したのだ。
 しかし、しかし。意外なことに、しばらくして代官の屋敷を訪れた女があった。たいそう美しく、気品ある佇まいの女で、なるほどこれは天女に違いないと代官は兄に引きあわせた。すると二人はたちまちのうちに恋に落ち、めでたく祝言を挙げることと相なった。
 これで終わればめでたしめでたし。ところが、そう上手くいかないのが世の無常。ここに兄の祝言を面白く思わない者があった。……そう、弟だ。弟は義姉となるはずの天女をどこからか垣間見、己のものとしたいと企んだ。
そしてついに婚礼の夜、天女を盗み出してしまったのだ。やれこれで肩の荷が下りると喜んでいた代官は、思わぬことに心底怒り、二人を追放すると触れを出した。
 戻るに戻れなくなった天女は、残してきた兄の身を案じ、昼となく夜となくさめざめと泣いた。その涙が流れ流れて、溜まりに溜まって泉となった。
 ――今もまだ、天女は泉の底で泣き続けている。その哀しみが尽きるまで、泉はけっして涸れぬのだと言う。満々と湛えられた青い水は、愛しい男と引き裂かれた、天女の嘆きなのだ。


   *




290:サノメ 10
08/03/17 23:17:29 s09pmAMZ
 弥太は唇を尖らせて、ぽんと足元の石を蹴り飛ばした。見上げた先、オタモリの家があるはずの方向は、夜だというのに空裾がほのかに明るい。きっと今も明々と篝火が焚かれて、昼間のように明るいのだろう。
 ……つまらない。
 いつまで神事が続くのか、と弥太はふてくされる。子供らにとっては、それなりに賑やかであってもろくに駆け回れず遊べもしない神事より、屋台や見世物が並ぶ後祭こそが祭だ。
一日くらいなら神事があってもいいけれど、もう三日目が終わろうとしている。
 それに、と弥太は力なく納屋の戸に手をかけて、ごろりと筵に横になった。もう、十日も鈴姉に会っていない。オタモリ――宗家には祭の間限られたものしか入れないから、
サノメとなってしまった鈴姉に弥太が会うことはできないのだ。
 お名指しされて、宗家へと迎え入れられる日、鈴姉はずいぶん久しぶりに弥太の頭を撫でた。一人で大丈夫かと聞かれて、もう子供じゃないやと胸を張った。
しっかりねと、何度も何度も振り返りながらオタモリへの道を登っていった姿が最後。
 鈴姉も弥太も貰われ子だ。何かと忙しい養父母に代わり、弥太の子守をしてくれたのが鈴姉だった。この村へは三つか四つの頃、実の母に手を引かれて来たはずだが、弥太はもう覚えていない。
いや、うっすらと記憶にあるような気もするが、思い返そうとするとその顔は鈴姉のものにすりかわってしまう。弥太にとってはむしろ十ほど違う鈴姉が、母だった。
 その鈴姉がサノメに選ばれたのが子供心にも誇らしく、初めての祭に胸躍らせ、どれだけ綺麗な天女かと、晴れ舞台を楽しみにしていたのに。
 いや、期待通り昔語りの天女に扮した鈴姉は、見たこともないほど綺麗だった。綺麗だったけれど。
 ――寂しいんじゃないやい。
 弥太はぐいと目元を拭う。泣いてなんかない。もう八つにもなる男が、姉を恋しがって泣くなんて、そんな格好の悪い。
 寂しいのじゃない。ただ、鈴姉が心配なのだ。昨日も今日も、見かけた鈴姉は熱でもあるようにぼぉっとして、弥太に気づきもしなかった。最初の日は、陰でこっそり手を振ってくれたのに。
 早く神事が終わればいい。そうしたら、戻ってきた鈴姉と手をつないで、一緒に屋台を見て回ろう。水飴を舐めて、講談を聞いて。
 そして夜は、また夜語りを聞きながら眠るのだ。
 早く、早く。
 この退屈な神事が終わりますように。


  つづく


と、いうわけでモブ村人はカカシなイメージ。
ついでに、八太郎左は、鵺の半井はん(鼻キツツキの人)をもーちょい年取らせてしおしおにした感じ?です。

291:名無しさん@ピンキー
08/03/22 23:32:36 4Hc7Lae+
続きが気になる〜職人の降臨を心よりお待ちしております。

292:名無しさん@ピンキー
08/03/24 01:40:16 4xueoThH
ほんと加世の身が心配なような、楽しみなような…(ry
続きが禿しく気になります!

あとサロメな病んだ感じのクスカヨも読んでみたいです>>職人様

293:337
08/03/24 23:14:38 mjeo+yVb
トロくてすんまそん(´・ω・`)
地道におつきあいくださると幸い。杉の時期が終われば……たぶん……。

サロメ、そういえば昔「実はヨハネもサロメを好きなんだけど、立場や宗教、
身分なんかの都合でサロメを巻き込んじゃいけないとつっぱねたのに、
それを若いサロメはわかんなくって〜」とゆー悲恋モノに置き換えようと
してみたことがある。病んだエロスハァハァ。

投下いきます。また4レス分。お預け続行御免。

294:サノメ11
08/03/24 23:16:58 mjeo+yVb
 ――りん、と。
 遠くに、鈴の音が聞こえた。
 神楽鈴の、文字通り鈴なりの音とは違い、空気に染み入るように単独で響き、尾を引いて消える。
 不思議と、心にひっかかった。
「まだ、どこかでお囃子してるんですか?」
 寝支度を済ませた加世が訊くと、正座した鬼はいいえと首を振る。加世はさりげなく面から視線を外した。
 日が暮れた後、ほの暗い部屋で見る真っ赤な鬼の面は、正直けっこう怖い。
「楽を、ご所望でしょうか?」
「あっ、いえそうじゃなくて! さっき鈴の音がした気がしたので……気のせいかな?」
「誰ぞお道具の片づけでもしているのかもしれません」
「あ、そうかぁ〜」
 あはは、と軽く笑うが、沈黙が気まずい。寝るときもつきそいっぱなしなんだろうか、と加世はちらちら鬼の面を盗み見る。
「……他に御用はございませんか?」
「ないです!」
「かしこまりました。では、そのように」
 何が?と思いはするが、鬼は深々と一礼すると視線を上げぬまま下がっていった。加世は大きく息をつくと、ばふりと布団に倒れ込む。
「つっかれたぁ〜!」
 たいしたことはしていない。座ってにこにこしながら、ご馳走を飲み食いして、珍しいあれこれを見ていただけだ。それだけだが。
「なぁんにもっ! 説明してくんないんだもんなぁ……」
 ぶつぶつ言って、布団の上を転がる。先の見通しがまったくつかないというのは、なかなかに疲れる。サノメの一挙一動には村人の目が集まっているから緊張するし、慣れてきたら慣れてきたで欠伸もできないしで、朝から晩までまったく気が抜けなかった。
 いつまで続くのか、との加世の問いに、鬼はサノメが示すのだと言った。祭が終わる徴(しるし)があるのだと。そんなもの聞いていない、と加世は言ったが、その時になればわかりますと、側女はとりつくしまもない。
 見越屋で働いているときもそう近しく言葉を交わしたことはないが、それでももう少し違う人柄ではなかったか。言葉遣いや、何より顔が見えないこととあいまって、まるで別の人を相手にしているように感じる。
 加世はむくれながら部屋の蝋燭を眺める。ちろちろゆらゆら、炎がせわしなく揺れて、物の影が盛んに伸び縮みする。
「あたし単なる奉公人なのにぃ……」
 巫女の真似事などさせられても、正直困る。
 とはいえ、奉公人の分際で、タダで祭見物をさせてもらっている……どころかこの高待遇、文句を言うだけ罰があたるというもので、慣れない仕事だと割りきるしかない。こんなことなら、炊事洗濯でもしているほうがよっぽど楽だが、仕事なのだから仕方がない。

295:サノメ12
08/03/24 23:18:16 mjeo+yVb
 加世は深く溜息をついて、蝋燭を消そうと起き上がる。
 ここも、立派な部屋だ。宗家の離れだと言うが、築山や竹林の配された庭を細い道が何度も折れ曲がり、方向感覚のわからなくなったころ忽然と小さな建物が現れて、びっくりした。道が道だから母屋からはずいぶん離れているようだが、実際の距離はさほどでもないのだと言う。
朱塗りの柱に緑の窓、白い壁とくればお社にしか見えないが鳥居はない。青々とした畳は替えたばかりのようで、い草のいい匂いがした。どこかで香も焚かれているようだ。
 そこに、加世ひとりきり。
 なんとなく、ぞくりとする。
 無意識に両手で体を抱いて、そんな自分に気づくと気持ちを紛らわすように、へへ、と小さく笑った。
 だいじょうぶ、だいじょうぶ。
 怖いことなんか何もない。
 隙間風などなさそうな立派な造りでありながら蝋燭の炎が盛んに踊るのは、障子戸が薄く開いているからだ。これだけは、朝までけして閉めてはならないと言われた。表玄関に面した戸と、そのちょうど背後にあたる戸。
まっすぐな線上は外につながっているのかと思うとなんとなく落ち着かなくて、布団は隅に寄せた。
 ふっ、と息を吹きかけて踊る炎を消す。白く煙がなびいて、ひどく甘い匂いがした。蜜蝋、なのだろうか。
「ぜいたくぅ〜」
 ぽつり、呟いて布団に戻ろうとし、振り向いた加世の足がぎょっと止まる。
 障子戸に、平伏する人影が映っていた。
 りん、と鈴の音がする。
「――サノメさまに申し上げます」
 静かな声は若い女のもので、加世はばくばくする心臓をなだめながら、はい、となんとか口にした。
 ――おおおおどかさないでよぉぉ〜!
 ちょっと涙目になってしまった。
「御池にて御徴(みしるし)を拾いましてございます。ご確認いただけますでしょうか」
 まだ寝られないのか、とがっくりしながら、はいはーいと返事をすると、障子戸がすいと開いて、三方と白い手だけが差し入れられた。
 炎を見つめていた目が暗さに慣れると、加世はぽかんと口をあける。
 それ、は。
「天秤さんーーーーっ!?」
 すっとんきょうな声を上げ、あまりの大きさに慌てて口を押さえる。天秤は尖った足で立ったまま、くるくると回ると外に向かって、りん、と傾いた。
「ちょ、どどどーしてここに? え、薬売りさんが来てるの!?」
 混乱しながら近づくと、戸の隙間から女の顔が見えた。にこりと、笑う。
「お心当たりが、おありでございましょうか」
「こ、心当たり?」
「お知り合いの方の物ですか」
 加世が頷いて手を出すと、天秤がぴょいと加世の手に乗る。女は少し驚いたように目をみはった。
「此度のサノメさまは、不思議な力をお持ちでいらっしゃる」
「いえ! 天秤さんは薬売りさんので、不思議なのはその人の方ですから! あたしは、たまたま知り合っただけで」
 言いながら、加世はきゅうと胸元に天秤を抱きしめる。なんだかすごく、ほっとした。余裕ができて、まじまじと女の顔を見る。

296:サノメ13
08/03/24 23:19:17 mjeo+yVb
 綺麗な人だ。
 少し、真央様に似ている。
 目が合った。
 あれ、と加世は首を傾げる。
「面は? 夜はしなくていいんですか?」
「私は、村の者ではございませんので」
 言って、女は少し部屋の中を見、かすかに眉を寄せた。
「……少し、お邪魔してもようございましょうか」
「どっ、どうぞ」
 加世が体を引くと、女はついと音も立てずに部屋へと入り、そのまままっすぐ横切って、細く開いていた向かいの戸を閉める。
「あ」
 思わず呟いた加世を振り返り、女はそちらも閉めろと言う。
「え、でも……戸は開けたままにしとかなくちゃいけないって言われて」
「閉めた方がようございます」
 女はきっぱりと言った。
「そちらは北東。鬼門ですから」
 げっ、と加世は小さく洩らすと、きょろきょろと外を見てぱたりと戸を引く。暗い部屋で、女の顔がほの白く浮かぶようだった。
「明かりを……」
「いえ、どうかそのままで」
 女は手を上げて加世をおしとどめる。
 白装束だ、とふと思った。何故か今まで、気づかなかった。
 女はにこりと笑う。加世と幾らも変わらない年に見えた。気安くなって、加世も少し笑う。
「鈴、と申します。サノメさまのお名前を伺ってもよろしいでしょうか」
「あ、加世です。あの、天秤さんを届けてくださってありがとうございます」
「いえ。加世さんのものでほっとしました」
「や、あたしのじゃないんですけど、」
 言いかけたところでおとなしく抱かれていた天秤がもぞもぞと動き、慌てて力を緩めるとふわりと浮いて、加世の背後へ飛んでいく。先ほどまで開いていた入口の前に陣取ると、りんと両腕の鈴を垂らしてぴたりと静止した。
 それを見送って、同じ名を持つ女は感心したように頷いた。
「これは、心強い」
「……えっと……な、なんかあるんですか」
 天秤が動くということは、この世ならざるものが近いということだ。加世はやや身を縮めながら女の顔を見る。
「大丈夫です。害はありません。お気を強く持たれますよう」
 ――ってホントになんか起こるんかい!
 とほほ、と加世はがっくり頭を垂らす。まったく、自分の人生『こういうこと』にやたら縁ありすぎじゃなかろうか。
「……先に、加世さんがお訊きになりたいだろうことにお答えしておきます」
「へ、なんですか?」
「祭の終わらせ方です」
「えっ!?」
 加世が身を乗り出すと、鈴は、落ち着いて聞いてくださいね、と念を押した上で、
「サノメには数々の特権が与えられますが、それもそのひとつです。村の女たちの中で、誰よりも早く好きな若衆を名指しすることができます」
「……はい?」
 いまいち判らずにいる加世に、鈴は言葉を探すようにする。
「えぇと……つまり、祭の夜は言い交わした男女が一緒に過ごすもの、ですから……。平たく言うと、夜伽の相手を」

297:サノメ14
08/03/24 23:22:27 mjeo+yVb
 ぶふぅーっ、と加世が噴き出す。
「んなっ!? よよよよ、夜伽ぃぃいっ!?」
「神事が終わるまで、村の女たちは女でなく鬼ですから。サノメさまがご指名をなさらねば、誰もそういうことはできないのです」
「そっ、そそそぉんなこと言われてもっ!」
「若衆が泥撒きをしていたでしょう。あれは、まぁ、品定めの機会のようなもので」
「困りますそんな! あたし、ただご奉公先のご主人についてきただけで!」
「そう、でしょうね……。まったく、弥太にも困ったこと」
 ふぅ、と頬に手を添え、鈴は溜息をつく。
「ともあれ、お名指しというのは、このように」
 女は、自ら運んできた三方を示した。
「御池に、その相手の物が見つかるのです。……もちろん、サノメとなる娘が、事前に好きな男から何かを借り受けて、池に投げ込むことが本来の人としてあるべき祭事なのですが」
「ちょっ、えっ、えええええーーーー!?」
「お静かに。……ここ三十年ほど、でしょうか。地縁のない、当然そういった祭の事々も知らぬ娘がサノメとなるようになりました。中には、運よく相手を見初め、そのままこちらに嫁いだ娘もいますが……稀なことです。そして、神事は三日までと決まっています。
四日目まで持ち越すと」
 鈴は一旦言葉を区切る。
「も……持ち越すと?」
「悪いことが起きる」
 一言一句をはっきりと発音して、鈴はひたと加世を見つめた。
「――と、信じられています。以前、まだ村の中からサノメが出ていた頃、死んだ娘がおりましたので」
「な、なんで……?」
 女は黙って首を振る。
 ――わからない、ということか。
「それ故に、三日目の夜までにお名指しがなかった場合、宗家の者が夜這いをかけ、無理に神事を終わらせます」
「えええええーーーーーっ!? そっ、それも困ります!」
「ご安心を。大概、私が逃がしておりますので」
 さらりと言われた言葉に、加世はぽかんとする。
「逃がす……って、そんなことしていいんですか?」
「よいのですよ。所詮人の祭、若い娘を泣かせる意味などないのですから」
「え……えぇ?」
 そうも簡単に言いきられると、なにやら罰当たりな気がしなくもないのだが。
「そもそも、外から連れてくる必要などないのです。何を恐れての仕儀なのやら……」
 ――ちりん。
 女の思案を遮るように、鈴の音が響く。加世と女の視線の先で、障子戸にくるくると影が踊った。
「な――」
「しぃ。お静かに。……害はございません」
 影――そう、影のはず、なのに。
 深い青。水を映すような緑。どぎついツツジの色。紫、橙。
 とりどりの色が、色皿を引っくり返したように障子に映る。黒く残った四角い桟こそが純粋な影の色だろう。外の光を微かに透かして青白い障子紙。そこに――人の、影が。
 兄さん、と。
 呼んだ。


  つづく


もーエロ書きたいよウワァァン!

298:名無しさん@ピンキー
08/03/24 23:53:58 4xueoThH
>>337
乙です!あ〜読んでてドキドキしたー。
カチンが今にも入りそうな空気感、たまらないですね。
そんな中、天秤さんは最高の癒しキャラw
続きが気になります。楽しみにまってます!

あと病んだエロスも是非読みたい!天真爛漫故の恐さみたいなの…どうでしょ?

299:名無しさん@ピンキー
08/03/25 12:19:44 sXbymuWn
続き待ってました〜職人乙です!
いよいよ佳境でしょうか文章にも緊張感が増してきて
読んでても前の話が気になって、あっちこっち戻りつつじっくり読ませていただきました。
ちりばめられた仕掛けがどう畳まれていくのか楽しみでしょうがないです。

そして天秤さんに息抜きさせられました〜やっぱかわゆい♪
花粉症で辛い中まさにGJ!でございました。


300:名無しさん@ピンキー
08/03/26 22:38:10 yy8+j54C
相変わらずの美文乙です
続きwktk

301:空涙
08/03/31 23:38:21 ofUUZugQ

えも言われぬ、とはこういうことだろうか、と加世は思う。どうしたって言葉にできず、
イイとかイヤとか、あとはもう単語ですらない鳴き声にしかならない。心、満ちて。こ
ぷこぷと、ぴちゃぴちゃと、赤裸々な水音になって跳ね溢れる。
「薬売り、さぁん……っ」
高く上擦る、求める声。縋るように腕が伸びて、むちゃくちゃに白い体を引き寄せる。
は、とか、ふ、とか、熱い吐息が耳朶にかかって腰がくねった。ぐちぐちと中身が擦れ、
口腔を貪りあう。境界などわからぬほど深く交わって、けれどどうしたって真実溶けあ
い一つになることはできない。……個、であるが故に。
「か、よ……」
愛しんでもらえるのは、加世が加世として生まれ、薬売りが薬売りとして在るからだ。
だとすれば、薬売りはこの哀しみすら甘美だと言うだろう。……やはり、重ならない。

よもすがら、零れ続ける涙はただ、あなたのために。



337です。連載豚切って季節ネタすみません。しかもちょとフライングですが。
……やりたかったんだ!
サノメもがんがりますノシ

302:337
08/03/31 23:46:08 ofUUZugQ
タイトル部分にカップリング表記忘れたorz ごめんなさい。

303:名無しさん@ピンキー
08/04/01 00:13:03 hYEensY5
>>301
季節ネタ?て?

304:名無しさん@ピンキー
08/04/01 01:40:53 bgY1SpOq
GJ!

サノメの続きが読みたくて
夜も眠れないぜ‥‥

305:名無しさん@ピンキー
08/04/01 12:52:00 hYEensY5
ああー! やっとわかった逆くの字! 語尾が薬売り仕様w
ヌゲー!! GJ!

306:名無しさん@ピンキー
08/04/08 17:47:32 axw+jn9J
保守

307:名無しさん@ピンキー
08/04/12 02:05:15 1vZEhoQz
ちりーん

308:名無しさん@ピンキー
08/04/14 01:13:17 svnzc9CK


309:名無しさん@ピンキー
08/04/14 02:16:42 +70dc7f4


310:名無しさん@ピンキー
08/04/14 13:26:35 thtZOnu3


311:名無しさん@ピンキー
08/04/14 13:45:25 wUjTQzO+


312:名無しさん@ピンキー
08/04/14 16:07:37 7ZKH3RNX


313:名無しさん@ピンキー
08/04/14 20:14:42 R/dCk+NF


314:名無しさん@ピンキー
08/04/14 20:15:27 Q0IoPqsg


315:名無しさん@ピンキー
08/04/15 02:24:08 SnaiVCG2


316:名無しさん@ピンキー
08/04/15 03:29:08 IvOzzM1N


317:名無しさん@ピンキー
08/04/15 07:29:23 Kacyg8K8
こむらさん

318:名無しさん@ピンキー
08/04/15 19:47:31 7A8aKbsG
敦盛×薬売りは需要無いですかね?

319:名無しさん@ピンキー
08/04/15 20:51:49 PCWu5uLj
>>318
前スレでは数字板でやってくれって流れだったと思うけど
今の住民のみんなはどうだろう?
自分は受けがあんあん言ってなかったら平気。(個人的な意見でゴメン)

320:名無しさん@ピンキー
08/04/15 21:05:50 7A8aKbsG
そっか…。やっぱりモノノ怪を知っている人に見てもらいたいって気持ちがあるから
出来ればここで見て欲しいし…

あんあん…しまった似たような事言ってるやw
ちょい描き直してくる
女体化は駄目なんだよな?

321:名無しさん@ピンキー
08/04/15 21:12:27 IvOzzM1N
そっち系の話は、話題に出ただけでも激しく嫌がられてたぞ。
確か以前、薬売り中性設定でのそんな話が有ったけど、まとめサイトからも削除された。
うpしたいなら、数字板のビデオ棚に行ってみるのはどうだ?

322:名無しさん@ピンキー
08/04/15 21:21:32 7A8aKbsG
そうか…わかった自粛する。
薬売りがあまりに色気ムンムンで加世より白いから思わず小説書いたんだが…
ここはノーマル専門なのかなorz

323:名無しさん@ピンキー
08/04/15 22:54:37 9S84qUR3
神職人様達はどこへ行ってしまったのか…

324:名無しさん@ピンキー
08/04/15 22:59:56 IvOzzM1N
>>322
>>1読む限りではノーマル専門。でも女同士のは大丈夫ぽい。

せっかく書いたんだし、男同士のなら、数字板にもモノノ怪スレが有るから、そっちで詳しい事を聞いてみれば?
女体化するなら女体化専門スレで。

325:名無しさん@ピンキー
08/04/15 23:08:02 7A8aKbsG
>>324
ありがとう。そうして見るよ。
ここの住人は穏やかで作品アップしやすい雰囲気だったからつい我が儘を言ってしまった。

ノーマルも大好きなのでサノメの続きが気になって仕方ない。
職人の作品を拝みたく候。

326:名無しさん@ピンキー
08/04/16 16:31:16 bcslc94H
「エロパロ」が「サロンパス」に見えた俺末期

327:名無しさん@ピンキー
08/04/16 19:08:20 Yx7YuZIP
>>326
ロとパしか合ってない上、字数も違ぇwww

……仲間に混ぜてもらえますか。

328:名無しさん@ピンキー
08/04/16 20:13:13 mwdHiPq7
サロンパスで前貼りした加世たん想像した。
ちょっとウェンツされてくる

329:名無しさん@ピンキー
08/04/16 20:27:04 glKj+wT4
本物のサロンパス想像してイテテテテと思っちゃったよ…orz
ちょっと滅されてくる

330:ドS
08/04/16 20:50:42 cRyfzYKo
保守がてら投下。まだ中途半端だけど触手×お庸。

331:触手×お庸
08/04/16 20:52:36 cRyfzYKo
何刻たっただろう。

舟の蓋を閉じる際渡された蝋燭ももう消えかけている、

「………」

ドロドロに溶けた蝋の上の炎が小さな息に揺らめいた。

「…兄様…」

暗闇からは舟が軋む音と波音しか返ってこない。

お庸はころりと横になり膝を丸め目を閉じた、瞼に浮かぶ兄の姿を振り払うように思考を停止させようとした。


―…巫…女……―


閉じかけた意識が波音の合間に微かに何者かの声を捕えた、

―私の…巫女…―

波間に聞こえる声は水中に木霊するように辺りに響きお庸の元に少しずつ近づいてくる。

神か怪か、人外に喰われるのは覚悟のうえの事。ただ、せめて楽に逝けることを願わずにはいられなかった。

冷たい床に丸まったお庸は小さな体を小刻みに震わせその声の主を待ち受けた、
「…兄様…っ」

白肌に浮かんだ玉の汗が一つぽたりと床に落ちた。


ひゅうと船内に潮風が吹いたかと思うと床から水が沸きだし瞬く間に足首ほどまで満たされた、蝋燭の火が消え薄暗闇だった空間は完全な闇となる。

―巫女…―

声ははっきり音としてお庸の耳に届いた、

「静まり下さい…、どうか…」

お庸の祈りに呼応し水面が波打つ。

332:触手×お庸2
08/04/16 23:43:50 cRyfzYKo
闇の奥がぼんやりと青く光り波紋とともに声が響いた。

―巫女…、美しいな―

光の中から影が一筋お庸のもとに伸びる、間近に迫ったそれにお庸は息を飲んだ。

それは異様に長く滑らかな人間の舌と形容するに相応しくウネウネと蠢いている、ぬるつく粘液をたっぷり纏い所々から糸を引き滴り落ちた。

「ひぃ…!」

思わず後ずさるお庸に声が近づく、

―恐れることはない―

触手は宙を泳ぐようにお庸の目前にまで迫った。

―すぐに何も分からなくなるから―

すると水中から触手の束が飛沫をあげ現れた、

「ぁっ…きゃああぁぁ!!」

その一本一本がお庸の手足に素早く絡まり瞬く間に少女は大の字に拘束された。

触手は見た目こそ生き物の舌だが存外体温が低く絡めている部分だけが水に浸っている様な心地だった、触手が肌の上で蠢くたび滑った水音が鳴り粘液が伝い落ちる。

333:名無しさん@ピンキー
08/04/17 03:57:41 aBADTIAq
ドSさん、お久しぶりです!
うつろ船の中の逃げ場の無い狭さと暗闇と
白く浮かぶお庸の肢体を想像するだけでドキドキです。
続きが楽しみv

334:名無しさん@ピンキー
08/04/17 05:12:53 GgvJ24jF
うおっとよだれが…
続き期待しております。

335:名無しさん@ピンキー
08/04/17 20:05:19 01p1Ifi4
ドS氏キターーーーーー!
体調崩したりしてないかと、実はちょっと心配してた。お元気でよかった。

で。

  _   ∩
( ゚∀゚)彡 触手!触手!
 ⊂彡

青い舌でハイパーを連想した自分自重w

336:名無しさん@ピンキー
08/04/17 23:16:36 559X6uG2
>>328
サロンパス前貼りか……
あのお札なら、貞操帯代わりにするならもってこいかな?
並の人間じゃどうにもできん。

337:名無しさん@ピンキー
08/04/17 23:44:49 01p1Ifi4
>>336

ぺた。

「ひゃっ!? な、何するんですか薬売りさん!?」
「いやなに。俺のいない間、加世さんがイイコで待っているように、まじないを……ね」
「イイコ……ってまたすぐそーやって子供扱いするぅー!」
「まあまあ。ちゃんとイイコにしてたら、帰ってきたときに」
「……ときに?」
「『ご褒美』、あげますから……ね?」


こんな?

338:名無しさん@ピンキー
08/04/18 11:05:01 kZNVRn7+
URLリンク(uproda11.2ch-library.com)

何と言う良スレ
大事な所だけではなくサロンパス張りまくる薬売り
帰って来た時に「おや、加世さん何故札が濡れ(ry」
こうですか?わかりません><

っと、こんな時間に誰か来たようだ

339:名無しさん@ピンキー
08/04/18 13:40:13 9CE99G43
「札に赤い紋様が…。
モノノ怪の仕業なら、早く退治しないと、いけませんね」

そして、おもむろに自前の退魔の剣を解き放つわけですね。
わかります。

340:名無しさん@ピンキー
08/04/18 14:59:15 r3cHWayY
>>338
すげええええええええ神絵師ktkr!!!!!
アングルといい尻に乗った天秤といい、萌えちまったじゃねえか……
てかサロンパス張りまくりだろwwww
しかし薬売りはよくサロンパス貼る時点で我慢出来たな

>>339
だれうま
自前の大麻の剣は「精・欲・愛」が揃うと解放(射精)出来るわけです
ね。わかります

341:名無しさん@ピンキー
08/04/18 18:53:58 RoQoCHbd
エロパロ≒サロンパスがここまで膨らむとはおもわなかったw
さすが薬売りさんは愛されてるなぁ。

>>338
その天秤はいろいろなところをチクチク刺激するわけですね?

342:名無しさん@ピンキー
08/04/18 19:00:23 iJqreHIU
にょ…とかも、薬売りの許可が必要になるわけですね。

「薬売りさん、お願いだからこれはずしてよぉ、ださせてよぉ〜」
「いけませんね、それを解き放つには、まだ……早い」

343:名無しさん@ピンキー
08/04/18 19:37:17 zynIp/pP
おk、受信した。


 部屋の隅を掃除しようと、重たい布団を持ち上げたときだった。
「よっこらしょ……っとひゃあっ!?」
 ぶぶぶ、と体の中心に走った細かな振動に、加世は思わず布団を取り落とす。
「や…ぁ、な、なに……!?」
 慌てて体を探ると、指先に小さく、断続的な震えが触れる。手で触れる分にはたいした振動ではないが、敏感な部分に伝わる衝撃は大きい。覚えのある場所に、かぁっと頬が染まった。
「あンのド助平……っ!」
 札を貼られるのは初めてではないが、徐々に芸域が広がっているのは気のせいか。気のせいであるはずがない。まったく、一体何に神経を注いでいるのだ。こんなことに技を尽くすくらいなら、
「ん、あぁん…っ!」
 加世の心中を読みでもしたように、振動が激しくなる。かくりと膝が折れて、取り落とした布団に飛び込む姿勢になった。
「やだ、もぉ……っ! ん、あっ、」
 じんわりと熱くなってくる。体温が上昇するにはいくらなんでも早い。涙目で着物の裾をまくると、案の定札に赤い紋様が浮かんでいた。発熱、しているのだ。
 太腿に数枚、胸に一枚ずつ、苦手な脇腹と、腰のつけねから尻の丸みに沿って前までびっしりと。厚く貼り重ねられ過ぎて自分では慰められないから、加世には悶えることしかできない。きゅうと布団の端を握る。
「あつい、よぉ……っ」
 札に促されて、肌は素直に熱を帯びる。足袋の感触すらくすぐったくて、もぞもぞと足の指が動く。息があがる。
「…や、…あっ…」
 ただでさえ久しぶりの快楽で、体は貪欲に求めようとする。きつく膝を閉じ合わせると、太腿の間で振動が交わされあって、気持ちいいけれど物足りない。
「んっ、んんっ」
 無駄だとわかっていても腰がくねる。快楽を逃がそうとしているのか得ようとしているのか、もう自分でもわからない。汗が滲む。熱くて熱くて。
 ……ダメだ、欲しい。
「く、くすりうり、さぁん……っ」
 抱きしめて、口づけて、その腕に抱いて。
 今すぐ。お願い。


こうですね?

344:名無しさん@ピンキー
08/04/18 19:41:36 kZNVRn7+
ここに新ジャンルが誕生したわけだが、ここの住人達に名前を選んで貰おうか

・サロンバス+天秤×加世
・サロンパス攻め
・サロンパスお漏らしプレイ

好きなのを選べ

345:名無しさん@ピンキー
08/04/18 19:46:55 kZNVRn7+
>>343
新ジャンルを考えている間にこんな素敵な作品が…ありがたやありがたや
薬売りは一度枷が外れるとどんどん遠慮が無くなりそうだ

346:名無しさん@ピンキー
08/04/18 22:38:22 0bXt+Kt8
退魔の剣×加世で

347:名無しさん@ピンキー
08/04/19 00:16:30 WbXoZe8K
こんなに沢山の住人が隠れてたのかw
一体どこから出てきたんだwww

348:名無しさん@ピンキー
08/04/19 00:37:17 Vnt+g9yo
加世以外の女性も切望。

349:名無しさん@ピンキー
08/04/19 01:47:00 YY/aj2pl
>>348
そういう時は自分で生みだすんだ!
ドS氏の続きもあるので楽しみにしてる

350:名無しさん@ピンキー
08/04/20 21:58:19 hnlwhnpF

>>338のイラスト見れなくなってる・・・
どんな絵だったんだ?誰か保存した奴いない(・ω・`)
ってかイラスト系はすぐ流れちゃうのね

351:名無しさん@ピンキー
08/04/21 02:12:48 QH++dQOT
>>350
保存したけど再うpしていいのかな?
wikiの編集の仕方もわからないアホだからwikiにも上げられないし…
画像はすぐ消えるから、この板専用のアプロダがほしい所

352:351
08/04/21 02:18:14 QH++dQOT
書き忘れ
>>343、GJ!GJ!!
その札をどうやって貼ったかも興味ある
寝てる間に?
貼ってからどうやって用を足したんだろうか?>加世
剥がした瞬間…!!とスカトロっぽいことも考えてしまいましたww ←変態
限界が来る前に薬売りが帰ってくるといいね!

353:名無しさん@ピンキー
08/04/21 02:53:49 xBqshRjn
ここにあげるて事は後々wikiに載せる事前提なんだからいいと思うけどな>351
確かにこの板専用のうpロダ欲しい……
なんか他のモノノ怪スレが伸びていると寂しく感じるな……
自分はノマ好きだから色んな職人やネタ提供して萌えさせてくれるここの住人が本当にありがたい


ところで薬売りさんの薬の中には座薬があるのだろうか?
熱を出して朦朧としている加世の為に薬を調合
       ↓
飲み薬を作ったはずがいつの間にか座薬が出来ちゃった
       ↓
薬売り「うっかり、うっかり」
       ↓
加世に座薬注入。そして自分の退魔の剣で押し込(ry

354:337
08/04/22 22:34:09 UrAIEFKJ
取り急ぎ、サロンパスネタだけWikiにうpしたよ。
画像見られなかった人ドゾー。

URLリンク(mononokeeroparo.matome-site.jp)

やっべ2ヶ月もほっぽってたw

355:名無しさん@ピンキー
08/04/22 23:14:51 /Qrqe7c9
ありがとうござい!

そしてサロメの続きを座して待つ…

356:337
08/04/23 20:49:35 O9RI0pln
ごめんよ、書いてはいるんだ。最後まで書ききったらどーんと落とすから待っててくらはい。

ところで、まじめな話をまじめに書いてるとバカネタが書きたくなります。
と、いうわけで一発ギャグ。
他のどの男性キャラでもなく、どうしても薬売りにやらせたかった。
著しくイメージを損なう恐れがなきにしもあらず。ご注意。


**************


「――あ」
「え? ……あ。あぁ〜……」
「…………」
「……や、疲れてるんですよ、しょーがないです」
「…………」
「今日はもう寝ましょ? ね?」
「…………」
「薬売りさーん?」
「…………」
「えぇっとぉ……な、何かあったかいものでも飲みます?」
「………………」
「そ、それで、あのね? ぎゅーってして寝てくれると……う、嬉しいかな、なんて」
「……………………」 がっし!
「――ちょっ、薬売りさんソレ売り物! 売り物だから! 手ぇつけちゃダメえぇぇぇ!」


ごめん。ホントごめん。

357:名無しさん@ピンキー
08/04/23 21:38:07 tuwkWgYU
イイ薬かwww

358:名無しさん@ピンキー
08/04/23 22:36:31 STBGlvJ+
>>356
ちょwwww
薬売りwwwwwww

なんか可愛いなw

359:名無しさん@ピンキー
08/04/23 23:04:44 WY6B2v2f
そうか 元気でなかったのかwww
フォロー困るよなwwwwww

360:名無しさん@ピンキー
08/04/24 00:24:24 Eo/FqAZ+
自前の退魔の剣を解き放てなかったわけですね

361:名無しさん@ピンキー
08/04/24 02:01:31 eQBqjGP5
代わりにハイパーが解き放てばおk

362:名無しさん@ピンキー
08/04/24 22:28:47 cX/sVaB/
ハイパー解き放つための
形が元気出る薬
真が愛
理が男の意地というところか

363:名無しさん@ピンキー
08/04/26 10:17:29 2dGY+8U3
おもったんだが、
お蝶とのっぺらぼうがヤったら、ハイレベルなオナニーってことになるんかな?

364:名無しさん@ピンキー
08/04/26 23:47:02 SIyXul4w
>>363
…お前天才じゃね?

365:名無しさん@ピンキー
08/04/27 17:29:22 aJzCjx0u
>>363
ふむ、感覚がつながってたりしたら、快感2倍で乱れに乱れるお蝶が見られるわけですね

366:名無しさん@ピンキー
08/04/28 06:34:58 fAXP3uXF
むしろのっぺらぼうと同化してフタナリになって、お蝶×加世が見たくなった。

367:名無しさん@ピンキー
08/04/28 23:52:47 LFCvkuIF
>>366
狐面ふたなりお蝶…グリーンリバーライト声の女言葉なのか男勝りなお蝶さんなのか(笑)
狐なだけにどう化かしてくれるか楽しみ!

368:名無しさん@ピンキー
08/05/02 23:34:33 ga3xN7tG
普通に敦盛×お蝶を読みたい俺は異端なのか

369:名無しさん@ピンキー
08/05/04 01:09:13 hR2fxmjk
敦盛の前での薬売り×お蝶が見たい自分はもっと異端だ

370:名無しさん@ピンキー
08/05/04 01:17:10 SYg1Uo41
薬売り視点での敦盛×お蝶を読みたい自分は普通だな。

371:名無しさん@ピンキー
08/05/04 22:23:58 v7Bkcd+h
何の会話をしてるんだw
と突っ込みたいがこのスレでは普通か

ちなみに自分は幻殃斉と志乃さんの絡みが見たい
何気によさそうだと思っ(ry)

372:337
08/05/06 21:36:27 5fNox0vh
>>366
こうなりました。

サノメじゃない。ごめん。
薬加前提でフタナリお蝶×加世、また百合陵辱。
いや、これ寝取られってやつになるのか?
全5レス。

373:煙羅煙羅 1
08/05/06 21:39:28 5fNox0vh
 もし、と呼ぶ声に、加世は洗濯の手を止めて顔を上げた。
「もし、どなたかいらっしゃいませんか」
「はぁい!」
 ぷるぷると両手を振って水滴を払い、加世は襷(たすき)姿のまま急ぎ家を回り込む。絞る段階でよかった。水仕事は周囲の音をかき消してしまう。
 旺盛に伸びた雑草が足に絡みついて些か難渋する。少し草を抜かなきゃ、と思った。諸国を巡る薬売りについて行くうち、ある程度の滞在期間があるなら宿より家を借りようと言ったのは加世の方だ。
安く済むし、薬売りのいない間を家事で紛らわすこともできる。仮初めとはいえ、『家』を好きな男のために整えるというのは、思っていたより楽しいことだった。
 そして、もうひとつ。
「こちらは、薬売りさんのお宅でしょうか?」
「はい、そうです。こんにちは」
 表で待っていたのは、儚げな風情の女だった。面長、色白、なかなか美人。江戸で親しんだ逞しいおかみさんたちと違い、一歩下がって控える空気を纏って、だがそれ故に人妻だろうという気がした。生まれが良さそうだ。
「お薬ですか? 今主人が出ておりますので、簡単な傷薬くらいしかお出しできないんですけど……」
 これが、加世のもうひとつの仕事だった。薬売りが留守にしている間、患者の家の足りなくなった薬を補充したり、症状の推移に合わせ、薬売りの書き置きに従って新しく薬を出し直したりする。
とはいえまだまだ勉強を始めたばかりで、ご新規を診立てるのは無理だ。薬売りが何気なく下している診断を後々解説してもらって、必要な知識の膨大さに目眩がした。まったく、なんやかやと尊敬できる旦那様で困る。
顔色でいち早く人の不調に気づけるのは、女ならではだと褒めてくれはするが、師匠としての薬売りは結構厳しい。
 女は、楚々とした仕草で小首を傾げた。
「すみません、薬を買いに来たんじゃないんです。私、ご主人にお世話になった者で、蝶と申します。ご挨拶をと思ったんですが……」
 ……いや。
 いやいやいや。ちょっと待って。
 その言い方はマズい。なんかお妾さんが本妻に喧嘩売りに来たみたいに聞こえるから。ねぇ? いやまさかあはは。
 どうやら口下手、と加世は多少引きつった顔で心の中の観察記録に書き留める。確かに、人妻っぽいのに雰囲気は清楚で儚げで少女っぽくて、ある種男好きのしそうな人だけど!
たぶん薬売りさんの趣味とは違うから! 違っててくださいお願い!
「え……えぇと、お世話っていうと……」
 あ、と女は自らの言葉の不穏さに気づいたようで、口元に手をあてる。加世の顔に何を見たのか、くすくすと笑った。
「違うんです。モノノ怪を……祓って、いただいて」
 女はすいと遠くを見つめる。失われた何かを惜しむような声音に、加世は思わず同じ方角へ目を向けた。加世には見えない何か。痛みと祈りの残滓が、そこにある。

374:煙羅煙羅 2
08/05/06 21:40:27 5fNox0vh
「……それは、失礼しました。あの、お疲れでしょ? せっかく来ていただいたわけだし、よろしかったらお茶でも飲んでいかれませんか?」
 では、と女は笑った。
「お言葉に甘えまして」

   *

 客人のもてなしには多少珍しいかもしれないが、加世は板間の縁側にお蝶を通した。崖ぎわに建つ小さな家は、坪庭の向こうに渓谷を望む。すごい眺めですね、とお蝶が驚きの表情を浮かべた。
「あちらは東なんです。日の出なんて、ついつい拝んじゃう迫力ですよ」
 お天道さまに手を合わせるということを、ここに来て知った。思い出した、と言うべきか。町中にいると、どうしても世界がヒト中心になる。
 茶と漬け物を傍らに、お蝶は訥々とのっぺらぼうのことを語った。素直に痛ましい。加世とて坂井に奉公に出る前は、お転婆で落ち着きがないと、何度父母に溜息をつかれたか知れない。
なまじお蝶が優秀で、母の言葉に応えられてしまったのも、根を深くしただろう。
 かわいそうに、と思う。
 自らを傷つけ続けたお蝶も、ありのまま愛する喜びを知らないその母も。
「とても、とても辛かったけれど、でも、あの時は斬っていただいたことにとても感謝しました。でも、まだ、自分が丸ごと自分のものだってことに、なかなか慣れないんですけれど」
 苦笑気味に言うお蝶の肩に、加世は迷った挙句軽く手を置いた。
「……そう、言ってもらえると、あたしも嬉しいです。あの人、あんまり表には出さないし何考えてるか実際よくわかんないけど、イヤなもの一杯見て、疲れない人なんていないと思うから」
 お蝶はほっと息を吐いた。
「……不思議。人の手って、こんなに安心するんですね」
「あの人も、そう言います」
「愛していらっしゃるのね」
 う、と加世は言葉に詰まる。そう真っ正面から言われると何やら面映いのだが。
「……はい」
 なんとなくごまかしてはいけない気がして、こくんと頷く。
 羨ましい、と呟きながら、お蝶は胸元に手をやった。懐から煙管を取り出す。
 男持ち、と加世は首を傾げる。加世の疑問を予想していたのか、お蝶は笑った。
「母ひとり子ひとりで育ったものですから、疑問にも思わなかったんですけど。あの人が持っていたのは、女煙管だったんです。それで、きちんとあの人に合うものをと思って、初めて人のために見立てました。
武家の子女が持つには品がないとか、そういうこと、意識から消して。ただ、似合うようにと思って」
「きっと、喜んでくれますよ」

375:煙羅煙羅 3
08/05/06 21:41:58 5fNox0vh
「ええ、そう思います」
 火を入れますかと訊くと、お蝶は頷く。小さな造りの唇が吸い口に触れて、すぅと煙を吸った。
「母の想いは、今でも呪いのようです。ああ思ってはいけない、こう思ってはいけないと、いつの間にか私を縛っている。意識にものぼらないんです。そうする中には嫌な気持ちもあります。
でも、それも私のものだから。まずは、感じる練習をしなくちゃと思って」
「はい」
「口に出すといいみたい」
「はい」
「……ごめんなさいね」
 唐突な謝罪に加世が顔をあげると、ふぅっと吐き出された紫煙が目の前一杯に広がって思わず咽た。
「お蝶さん……!?」
 ごめんなさいねともう一度繰り返し、でも、と女は打って変わって瞳をぎらつかせた。
「憎らしい。勝手なことばかりして、人を知らない世界へ放り出して。苦しくて堪らないわ、辛くて堪らないわ。外の世界に出たところで、なんにも良いことなんかなかった!」
 突如ぶつけられた激しい怒りに、加世はおののく。ぱたぱたと煙を払う手が、妙に重い。空気が糊になってしまったようだ。
「毎晩かかさまが夢に出るのよ、小さい私をとても怒る。怖くて怖くて、なのにあの人はもう私を助けてくれない。あんたの男が捨てさせたからよ! ねぇ酷いじゃない、そそのかすだけそそのかして、
一人で放っぽりだして! 確かに私は幸せじゃなかった、でもとりあえず生活に困ることもなかったわ。不毛だろうがなんだろうが、好きな人だっていたのよ。あそこを飛び出したら誰が保証してくれるの?
責任もないのに言うだけの人はいいわよね! その上自分ばっかり可愛い奥さんがいて、幸せで。許せない!」
 一気に叫んで、お蝶は荒くなった呼吸をしばし整える。そこに鬼の面はないのに、ふふと笑った口元がたまらなく怖い。
 お蝶さん、と呼びかけようとして加世はまた咽る。煙に灼かれた喉が痛い。ちりちりとささくれて、声が出ない。
 お蝶がもう一度煙管に口をつける。ふぅっ、とまた紫煙を吐き出した。それはやわやわと煙そのままの動きで、だが大気に溶けず、やんわりと加世にまとわりつく。どうやってもふりほどけず、
樹液に絡め取られた虫のように、じれったすぎるほど緩慢な動きしかとれない。やがて煙は自在に形を変えながらゆっくりと天井へ昇り、加世の両手を頭上で拘束した。何これ、と加世は必死に暴れるが、
するすると肌を這った煙が真綿でできた縄のようにじわじわと四肢を絞めつける。
 足元に煙管を置いて、す、とお蝶が掲げたものに、加世は喉の奥で悲鳴をあげた。
 幅広の四角い刃。台所を預かる者には珍しくもない。
 菜包丁、だ。
「だいじょぉぶ。殺さない」
 能面のような顔がにこりと笑って、ぴたぴたと加世の頬を包丁の刃で撫でる。その冷たさに――もちろん、冷たさばかりが原因ではないが――加世の全身が粟だった。

376:煙羅煙羅 4
08/05/06 21:43:02 5fNox0vh
 いや、と声にならない声が呟く。
 何するの。
「こうするの……」
 襟を掴んで浮かせると、ざすっ、と音を立てて包丁が加世の着物と帯をまとめて切り裂いた。褐色の肌が空気に晒されて、丸い胸がこぼれる。
「やっ……いやぁ!」
「駄目、動かないで。怪我、しますよ」
 ひやりと冷たい金属の刃が、まろい体の線をなぞる。へぇ、と興味深そうな目線が一緒だった。
「さぞ、愛されたんでしょうね?」
 くすくすと笑って、お蝶は包丁を手放す。とん、と音を立てて、それは床に突き立った。お蝶はもう一度煙管を手に取る。深く吸い込み、恍惚とした表情でしばらく天井を見上げた。
空いた手が着物の前身ごろにかかり、脚のつけ根だろう辺りを撫で上げる。目線のやり場に困った。
 露骨に猥褻な仕草を繰り返し、お蝶は煙管を加えたまま加世へと視線を流す。ほつれ毛と赤く色づいた唇が毒婦のようで、肺から脳を冒す煙を撒き散らす。くすくすと笑いながら、細く白い指が加世の胸元を突いた。
「たいしたことはない、と……高を括ってる」
 疑問ですらなく断言されて、加世はわずかに自由になる範囲で懸命に首を振る。
「幸せなひと。いいわね、嫌な男に乱暴にされたことなんてないでしょう」
 お蝶がゆっくりと着物のあわせを開く。そこにあるものに、加世は愕然と目を見開いた。
「なん、で……」
「あの人を」
 愛しげに、お蝶の指が煙管を撫でる。
「せめて、この体にと思って」
 煙を吸い込むたびに、それは質量を増し高くそそりたつ。お蝶の、帯から上の乱れない姿勢と、下半身の大きくからげられた裾と、細い女の体で存在を主張するモノと。
どれもこれもが、あまりにもあるべき姿からかけ離れて禍々しい。
「素敵な思いつきでしょう? あなたとあの男の仲を引き裂くのが、私とあの人だなんて」
 うっとりと言うと、お蝶の手がかろうじて加世の腰に引っかかっていた着物の残骸を取り払った。結い上げた髪がちょんと傾ぐ。
「そう、そう。怖い思いをすると濡れるのよね。私も、これのせいでずいぶん淫売と罵られたものだけれど」
 ついと秘裂をなぞられて、加世の肢体が縮こまろうとする。
「や、だぁっ……やめて、お願い……」
 掠れた声の哀願に、お蝶が嗜虐的な笑みを浮かべる。
「……あの男たちの気持ちが、少しわかるような気もする……」
 ほら、と指差した先に視線をやって、加世はひっと息を呑んだ。うそ、と唇が動くと同時に、ばんっと激しい音を立てて部屋の扉がたわむ。


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