モノノ怪でエロパロ  ..
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15:薬加陵辱風味1
08/01/06 22:05:50 B7gDx/C3
あんまり薬加ばっかだといー加減偏り出るし
どうすっかなあと思ったんだが、即死防止の投下てことで
お目こぼしいただきたく候。

ちなみにレイプ臭強めで甘くないんで、苦手な人は見んといてください。






好きです、と伝えた。

坂井の屋敷の前で別れてから数年経ち、けれど、あなたを忘れたことはただの一度もなかった。
あなたが一所に留まれぬ人であることは、なんとなく理解している。
江戸に着けば、お別れなのだということも、承知している。
そして、今度別れたら、─もう二度と、会うことはないかもしれない。
だから。

抱いて、くれませんか。

薬売りの男の前に立ち、真っ直ぐにその目を見据えて、加世は胸に燻る思いの丈を告げた。
海座頭の問いに、恋はまだだと言ったが、あれは嘘だ。いや、あの時初めて自覚したのだと言っても良い。
顔が熱い。恥ずかしくて、怖くて、今すぐに目を逸らし踵を返して脱兎の如く逃げ出してしまいたい。しまいたいが、ぐ、と堪えた。
薬売りの唇が微かに、薄く開いた。静かに息を吐く気配を感じる。
嘆息。それはどんな心持ちから齎されたものなのだろう。怖い、怖い。だが、目を逸らすことが出来ない。
薬売りは、再び口を閉じた。
その口元が笑んでいるように見えるのは、すでに笑みの形に彩られている、藤色の紅のせいだろうか。
彼の心の内が計れず、揺らぎそうになる視線を懸命に正し煩悶する加世に対し、彼は、薬売りの男は、赤い隈取に飾られた目をやんわりと細めて、詠うように、言った。

「遊びで良けりゃ、抱きましょう」





太腿を抱えて下から思い切り突き上げると、薬売りの胸にもたれた加世の背が大きく仰け反った。
張りのある形の良い乳房が揺れる、その様が、小さな鏡面に映し出される。
力んだためにか、後ろ手に戒められた、褐色の両手首に空色の帯紐が食い込み、ぎちりと音を立てた。
「ふぐ……っ、……ぅぅっ!」
厚みのある唇から、くぐもった声が零れた。
赤い帯紐の結び目に邪魔されて、何事か言おうとしたのか、それともただの苦鳴だったのか、分からない。
唾液に濡れ赤味を増した唇は、その肉厚な様と相まって嬲られた女陰を思わせる。
丸い小さな鏡に映し出されたその様子を、加世の肩越しに覗き見た薬売りは、己の愚息がまた一段と張り詰めるのを自覚した。
鏡面の端に、濡れた頬が映ったのは、あえて無視した。

16:薬加陵辱風味2
08/01/06 22:07:41 B7gDx/C3

「あんたも、馬鹿な女だ」
抑揚のない声音で囁いて、汗に濡れた項を舐め上げる。
揺れる加世の足元には、剥ぎ取られた着物が無残に散乱している。
「遊びでもいい、なんて。俺みたいな男に、そんなことを言っちゃあ……」
こんな目に遭っても、文句は言えませんぜ。
その言葉通り。娘は、初めての男を背後から迎え、労われることもなく抱えられて、容赦なく揺さぶられた。
自身の重みでさらに最奥まで抉られ、あまりの衝撃に、もう、抵抗する気力すら残っていないようだ。
「加世さん、ほうら」
振動による刺激に、ただ口から力なく空気と音を吐き出すだけの加世に、お構いなしに薬売りが声をかける。
ちゃり、と細い鎖を揺らしながら、丸鏡の鏡面を己らに向けて下から翳す。
「見えますか。俺達が、繋がっているところ」
加世を抱える薬売りの目には、かろうじて見える、程度ではあったが。
そこには己の肉茎に深々と突き刺され、内部を余すところなく掻き回されている、加世の、未だ生娘の気配濃厚な女陰が映っていた。
子を生すことのない精をわざわざ外に放出する必要はない。繋がったまま幾度となく吐き出された白い汚濁と、それによって押し流された鮮血で、結合部はべとべとに汚れていた。

酷い男でしょう。

言葉にする代わりに、加世の耳朶に犬歯を立て、ほんの少し力を込めて噛みしめる。
加世の体が一瞬硬直し、震えた。腹の中に埋められた男根をきゅうきゅうと締め付けて、薬売りに得も言われぬ快感を齎せる。
その肉道の狭さを楽しむように、味わいつくすように、爪が柔らかな太腿に食い込むほど抱え込み、開かせて、褐色の体を上下に揺する。
揺れに合わせて己の腰をも動かした。
濡れた肉の絡まりあう淫猥な音が、ひたすら肉欲を刺激し劣情を煽る。
猿轡を咬まされた加世の口から漏れるのは、ただ苦しげな吐息、悲鳴になり損ねた声、嗚咽。そこに甘い快楽のあろうはずもなく。
だがどうであれ、己が心地好いことに変わりはない。
果てしなく、苦々しい悦楽。

忘れてしまうといい。
こんな、酷い男のことは。

体に残された傷は癒える。いずれ、跡形もなく消えるだろう。
心に残された傷は、誰か、別の優しい男に癒してもらうといい。
癒えるのに時がかかるなら、そのぶん己を恨めばいい。
恨んで憎んで、散々な目に会ったと、思い出すのも穢らわしいと、忘れてしまうといい。
そうして、

あんたは
俺の知らないところで
馬鹿みたいに笑いながら
平凡でけれど平和な日々を
つつがなく
幸せに

─生きていけばいい。




おそまつ!

17:名無しさん@ピンキー
08/01/06 22:12:07 B7gDx/C3
>>15-16
あ、ちなみに前スレで話題になってた緊縛と鏡プレイを
勝手にネタにさしてもらいやした。
オッケーイエロー!(敬礼)

18:名無しさん@ピンキー
08/01/07 00:21:48 7XLUxdjL
GJ!!内面描写がせつねえーーー

19:名無しさん@ピンキー
08/01/07 01:41:06 eLGAb8oB
前スレで鏡プレイを出した者です。
ああ、こんないやらしく使われるとは…感謝感激。

最後のくだりで薬売りが嫌な人になりきれてないのがいい。
そして切ない。GJです。

20:名無しさん@ピンキー
08/01/07 02:42:44 z5YLWy8i
>>16
イイヨーイイヨーGJダヨー!!!緊縛鏡レイープご馳走様でした!しかしなんて切ない薬売り
いつもそうやって誰かと想い合うことを避けて生きてきたのかと思うとホロリとくる

21:名無しさん@ピンキー
08/01/07 19:16:19 FC8iUlAp
>>15
GJGJ!! やらしくて切なくてイイ!
世界に引き込まれて戻ってこれない。勝手に続きの情景が頭で再生されてるよー。


22:ドS
08/01/07 21:11:53 T/0/JUw9
新スレ乙!
ちょっとだけだけど投下します。

23:加世×ハイパー
08/01/07 21:13:31 T/0/JUw9
 帯を解き着物の合わせを開くとそのまま倒れ込み豊かな乳房を男の胸に押し付ける、柔らかな塊が平たく形を変え男の体温が移るかの様に先端が淡く尖った。
「はぁ…ぁん…」
 先端を男の胸に擦り付けると痺れるような快感に襲われ、興奮が高ぶり身体中が男の味を求めて疼きだした。
男の胸に唇を這わせるとぴくんと男の体が震えた、その反応を楽しむように先端を口に含んだ。
「ぁ…はっ…」
 切な気な、また拒絶を示すような声が漏れる。
「嫌なの?でも…だめ、やめないもん」

男の乳に吸い付いているなどなんとも奇妙な気分だ、それも己よりずっと大きく屈強な男のものをだ。

きつく吸い上げ舌で弄ぶと男の体が戦慄き喉を反らす、女の様なその反応に堪らず加世が吹き出した。
「ふふっ…可愛い」
 尚も先端を愛撫し脇腹を撫でていると加世の尻に当たるものがある、それは徐々に質量を増し加世を地から押し上げる様に立ち上がってきた。

腰をくねりそれに尻を擦り付ながら男を見下ろすと目覚めぬまま加世の動きに合わせ荒い息を吐き呻いている、そんな眠れる男に加世は僅かに苛立ちをおぼえ初めていた。

24:加世×ハイパー
08/01/07 21:16:09 T/0/JUw9
「もう…全部見ちゃいますよ」
 小さく男に囁くとその下履きに手をかけスルスルと紐を解く、拘束するものがなくなった事で下腹部の膨らみが増し布を押し上げた。
男の下半身を覆うだけとなった布をずり下ろすその行為に加世の胸は高鳴りほぅと熱い息を吐いた、

―私…男の人にこんな事してる…―

体の関節が固くなり指先が震える。

下履きを足の付け根まで下ろすと風変わりな黒い褌が晒された、中心が大きく盛り上がり股に引きつれている。
 褌の上からそれを掌で撫でるとじわりと布越しに熱が伝わる、
「大きい…」
 思いの外大きな男のそれに加世が息を飲んだ。

ごくりと生唾を飲み込み褌の結び目をすっと引いた、それまで恥じらいからか躊躇からかひどく緩やかだった手の動きは嘘の様に情欲に駈られ滑らかに動き回っている。

焦った様に褌を退けると加世の焦がれるものがついに露にされた。

「ぁあ…すごい」

 ビクビクと脈打つそれは男の肌と同じく色素が濃く先端から透明な液体を滲ませている、そして何より腕と見紛うほどに太く巨大なものであった。

25:名無しさん@ピンキー
08/01/07 21:51:50 SqSwC9RU
規制かかってる?

26:名無しさん@ピンキー
08/01/07 23:18:43 YV4q8d/3
あばばばば、これなんて焦らしプレイ?

前スレ>>854
GJGJ!! 隙間から覗き見るってのが、こんなに淫靡だとは……!!
目からウロコぽろぽろでした。

27:名無しさん@ピンキー
08/01/08 21:22:54 5iE4UgbB
前スレ天秤の方へ
あなたに会いたいです。まさかこんな気持ちになるとは…

28:名無しさん@ピンキー
08/01/08 21:38:19 VquwoJGF
???

29:337
08/01/08 22:34:08 qnjdkFzz
ずっといたけど御久。

>>27こんちはーノシ
これは『あんだけ投下しまくってたくせにぱったり姿見せなくなって、
続きどうしやがった投下しやがれこんにゃろー』という意味だと
受け取ったw

あの……エロがないんだ、けど……orz
しかもなんか、海坊主並に長くなってるんだけど……orzorz
ごめん。でもこのスレがなかったら生まれなかった話だから、
ここで完結させたいんだ。ダメな人はNG登録よろしくです。
もーちょいエロ話の投下を待つつもりだったけど、まぁいいか。
前半行きます。全9レス予定。
オ リ キ ャ ラ し か い な い 。

30:名無しさん@ピンキー
08/01/08 22:36:02 wtXH5yST
気になるってばよ

31:前と後の事語り〜再び化猫〜 1
08/01/08 22:42:43 qnjdkFzz
〜市川節子〜

 がん、と安酒のコップが耳障りな音をたてた。シミの浮いたカウンターの向こうで、
大将がちらりと視線をあげるが、肩をすくめて仕事に戻る。もう腕が思うように動かず、
力の加減がうまくいかない。その辺にしちゃどうだ、と隣から軽く諫められるが、
今夜は酔わずにいられないだけの理由があった。悪い酒になるとわかっていても、
彼はぐらぐらする体をカウンターで支えて、もう一杯、とコップを突き出す。兄ちゃん
荒れてんなぁ、と隣の男の苦笑する気配。
 あれ、と彼は酒精に毒された頭で疑問に思う。隣は、新聞社の、同僚ではなかったろうか……。
 彼の思考を読んだように、男は、ここに座ってた兄ちゃんなら、急の仕事が入った
とかで行っちまったぞ、と言う。俺ァあっちで呑んでたんだが、気になったからあんたの
面倒引き受けたんだよ、と。
 にかりと笑う、男の顔は目の辺りに影がさしてよく見えない。ガード下の屋台は
元より暗いが、多分に酔いのせいだろう。彼は、どうも、ととりあえず頭を下げた。
見知らぬ他人に迷惑をかけることは避けたいが、すでに足取りも覚束ない自覚はある。
 で、どうした、女にフラれたか、と男が訊く。手にしたコップを赤い舌でちびりと舐める。
白い液体。濁り酒か、とぼんやり思う。
「失恋なら、とうの昔にしてるんですがね」
 あいよ、と大将に差し出された清酒を自分もちびりとやって、彼は口を開いた。酔いが
深いわりにまだ呂律は回るようだ。同僚には散々うるさがられたが、誰かに聞いてほしくて
たまらなかった。
「とっくに、フラれてんですよ……。でも、好きだった。諦められなくて」
 ひひ、と隣の男は笑う。その嬢ちゃんが、結婚でもしちまったか?
「そんならいいんですよ!」
 彼はがんとカウンターへこぶしを叩きつける。酒の面(おもて)にさざなみがたって、
すぐに消えた。
 感情も、こんなふうに収まるものなら。
 彼はぐっと奥歯を噛み締める。震える喉を振り絞るようにして、言葉を吐き出した。
「死んじまった。……自殺、したんだそうです」
 本当に、結婚の知らせであればどれほどよかっただろう。もちろん胸は痛んだろうが、
こんな知らせとは比較するべくもない。

32:前と後の事語り〜再び化猫〜 2
08/01/08 22:46:01 qnjdkFzz
 隣の男は一転して、そうか、と沈痛な声を出した。
「彼女が自殺なんて、僕には信じられない。陸橋から飛び降りて、その上電車にまで
轢かれるなんて……」
 さぞ、酷い死に様であったろう。生前の美しさは欠片なりと残っていたのだろうか。
通夜に出させてもらったが、棺はかたく蓋をされて対面はできなかった。それとは裏腹の
遺影の笑顔が喉を締めつけて、彼女によく似た面影の女性のすすり泣きが苦しくて、
ろくに顔をあげられなかった。
「なんで、自殺なんか……」
 喉の奥に凝った熱い塊が火を噴くようだ。彼はまたぐいと酒をあおる。……ほんの
一瞬の慰め。抜けてしまえばたちまち塊は存在感を増し、ますます喉を圧迫するようだった。
「彼女は、同期だったんです。さっきのあいつと三人、同じときに今の会社に入って」
 そうか、と隣の男は相槌を打ってくれる。
「女だてらに、て周りは言うんですよ。見目はいいのに気が強くて、変に知恵つけた
女じゃ嫁の貰い手もない、て。まぁ……確かに、従順な女性じゃ、ないですけど」
 兄ちゃんはそういうのが好みかい、と、あえて普通の女の話のように訊かれるのが
嬉しかった。酒の席、男同士のくだけた会話。いつの世も、人間の関心事など、
そう変わりはしないとばかりに。
「……僕、会津の出身なんです」
 唐突な話題の転換に、男は、ふぅん?と首を傾げた。それにしちゃお国訛りがないね、と
言われて、彼は苦笑した。
「東京には、学校のために十五のときに来ました。会津者だってわかると何かと肩身が
狭いんで、必死で直したんですよ」
 なんでかねぇ、と男は酒の合間に煮干しをつまんでいる。御一新の時代も、とうに
昔のことだのにねぇ、と言う男に、彼は我が意を得たりとばかりに頷いた。
「そうなんです。汽車が走って電話が通って、こんな時代に今更会津も長州もないもんだ。
馬鹿馬鹿しい。……そう、思いはしても」
 彼は少し笑う。
「情けないことです。いざ侮蔑と嘲笑に晒されると、これが耐えられなかった。言葉を直して、
めかしこんで、東京者みたいな顔を必死で装って、それでも生まれがバレやしないかと
びくびくしてました。実家にもろくろく帰らず、文もやらず」
 親不孝だなぁと、率直な言葉が身に染みた。深く頷く。
「まったくです。馬鹿なことをしたもんだ。……それを、気づかせてくれたのが彼女でした」
 おぉそこにつながんのか、と男は口の端からはみ出した煮干しの尾をぴこぴこと
上下させた。

33:前と後の事語り〜再び化猫〜 3
08/01/08 22:49:53 qnjdkFzz
「どれだけ必死で努力しようと、会津者が出世できるわけないって、いいかげんな
仕事ばかりしていた僕を、彼女は思いきり平手で打ちましてね。ならあんたの体を
寄越せって、物凄い勢いで怒るんです。私がどんだけ望んでも得られない男の体を
持ってるくせに、努力する気がないなら女になって嫁にいけ、一生自分にないもの
指折り数えて、旦那に不平不満を言っていろ、てね」
 ぶ、と男が吹き出した。そいつァまた剛毅な嬢ちゃんだ、と笑う。でしょう、と彼も
笑ってみせた。
「これで目が覚めなきゃ、それこそ男じゃないですよ。そう思って縮こまってた心を
恐る恐る伸ばしたら、これがまたびっくりするほど楽じゃあないですか。随分
ひさしぶりに深呼吸した気がしてね、つまんないことにびくびくしてたもんだと
思いました。……でも、意外とね、そのつまんないことがあっちこっちでまかり通って
しまってる。なら、せっかく新聞記者なんだ、僕がそれはつまんないことだって世間に
伝えてやろう、そんで新しい日本が本当に生まれ直すための一助になるんだなんて、
先の目当てまでできて」
 なのに、とまた言葉が詰まる。コップに触れる指へ強く力を込めたところで、
自殺じゃなかったんかもなぁ、と、男がぽつりと言った。
「――っ!? それはどういう、」
 あ、いや、と男は彼の剣幕に驚いたように手を振る。しばらく黙って、実際のところ
兄ちゃんはどう思う、と逆に訊き返された。
「……僕は」
 ――どうして相談してくれなかったのだ、と思った。
 がっくりと肩を落とした森谷デスクに、最近仕事に悩んでいたようだったから、と
聞かされて、無力感にうちひしがれた。好きだなんて言わなければよかった。ただの
同期であったなら、死ぬほど思いつめていたその胸中を、一言でも聞けたかも
しれないのに。
同期のよしみというものは、その程度には深かったろうに。
 ――そんな馬鹿なと思いつつ、自分は。
 自殺だと、信じてしまって。
 彼女をちらとも知らなかった警察の言と、まがりなりにも想いを寄せていた自分の目と。
 どちらを、信じるのだ。
「……大将、お勘定を」
 あいよ、と低い声がぶっきらぼうに言う。その声がいつもと違うような気がしたが、
彼の心中はもうそれどころではなかった。まずは一刻も早く会社へ。
 まぁ待てや、と隣の男はコップを差し出す。ふらふらしてんじゃねェか、水の一杯
くらい飲め。
 ありがたく受け取って飲み干す。どこか懐かしい味がした。故郷の、水の味だ。
ぷはぁ、と息をついて、口元を拭う。
「これは、美味いや。東京は水が不味くって」
 だよなァ、と男は頷いた。大将が寄こしたお釣りを財布にしまい、彼は二人へ深々と
頭を下げる。
「ありがとうございました。僕はこれで」
 またな、と男は片手をあげる。駆け去った彼の背後で、にゃあと猫が鳴いたような
気がした。




34:377
08/01/08 22:59:52 N6krKbL7
携帯より。なんか投下できないぞ。なんだろ?

35:名無しさん@ピンキー
08/01/08 23:48:43 5iE4UgbB
こっちも携帯からだ!待ってたぞこんちくしょー!!

なんとかこのもやもやを消化したかったんだ…

悪い意味ではない。エロがないのは個人的にはぜんぜんきにしてない!
というより、内面のとろりとしたねばっこい感覚が大人の時間を感じさせる。こんなエロパロがあってもいいんじゃないか?

って超興奮中だ

36:名無しさん@ピンキー
08/01/08 23:49:26 28nl7efu
これは…愚痴るモボ島様じゃない…よね?
転生後のぎゃいかおじゃるかと…大将誰?

37:名無しさん@ピンキー
08/01/08 23:57:26 5iE4UgbB
息をただして…


すまん、暑くなりすぎた…
ただ叶うなら…どうか薬売りとチヨにはふれてくれまいか…

38:337
08/01/09 00:20:11 LE4bHVb/
今更気づいたが自分は337であって377じゃないよなorz
ぐあ恥ずかし!いつから間違ってた!?

ごめん時間切れ。書き込みましたって出るのに反映されない…。
節子編はとりあえずここまでなんで、キリはよかったけど…。
ドSさまもこれに捕まった?のか?
とりあえずID変わったら書き込めるかテスト。

39:746
08/01/09 00:34:35 5cah6rkq
>>36
モボ島様と聞いてすっ飛んできました。
が・・・

いったいなんのことやらと、考えること数十秒・・・ようやく気付いた・・・orz

>>38
いつも思うのだが、立て続けによくそんなに話が書けるなあと、ほんとに感心してる。
自分は一個書き上げるだけで息切れしちまうもんで・・・

40:名無しさん@ピンキー
08/01/09 04:39:56 gadTCL74
>>39
モボ島様の需要が結構ある件

41:名無しさん@ピンキー
08/01/09 05:33:28 tQuhRt8K
この混乱に紛れてコッソリ…
ドSさま大好物です。続き待ってました。
いつハイパーが目を覚ますのか、覚まさないのかスリルを楽しんでます。
微Mより

42:337
08/01/09 18:52:05 ThBSIgVh
この時間ならどうだ!?
……変なところで切れてたら、察してくださいorz
昨日投下するはずだった予定だったとこまでいきます。

モボ島さまじゃなくてゴメンw
昨日も言ったけど前半はオリキャラしかいないんだ。
強いて言うならマネキンの話。
文章表現上髪がどうとか頬がどうとか書いてるけど、
ビジュアルイメージは全部白ののっぺらぼーだw

43:名無しさん@ピンキー
08/01/09 22:09:29 nalUZrI8
むり…なのか…

44:前と後の事語り〜再び化猫〜 4
08/01/09 22:12:29 ThBSIgVh
〜福田寿太郎〜

 部屋には、色とりどりの織物が散乱していた。
 和洋折衷の屋敷の中でも、奥向きのその部屋は和の趣きが強い。磨きこまれた
欄間や柱がずっしりと黒く光り、丸窓から覗く灯籠や紅葉が、屋内だけでは完結
しない空間の奥行きを感じさせる。障子が開け放たれ、柔らかな光が差し込む部屋は、
盛んに衣擦れの音がしていた。
 主役は年の頃十六、七の娘だ。熱心に姿見を覗き込んでは母と視線を交わしている。
肩口から裾まで花鳥風月が縫い取られた長振袖、あるいは細かく施された総絞り、
華やかな西陣の織。いかにも上流階級らしいすべらかな指が次々に鮮やかな生地を
撫で、控えめながら楽しげな笑いがさざめく。娘らの頭にあったのは、次回の園遊会に
何を着ていくか、髪をどう結うか、その席で行われる社交の段取り、そして娘の婚約者の
ことだった。
 出入りの商人は、言葉巧みに昨今の流行を語り、年頃の娘が映える品を選び
取っては娘の体に当てていく。おだてが上手いだけでは贔屓にされることはできず、
その点、彼は流行を嗅ぎ取る能力も、それを娘らの好みとすりあわせる能力も高く、
娘も母もその手腕を信頼していた。ああでもないこうでもないと、女特有の迷いを
繰り返しながら、品が選ばれていく。
「じゃあ、これにしようかしら」
「少し、地味じゃあない?」
「あら、あなたも来年には嫁ぐのですもの、慎ましやかな柄も着こなせるように
ならなくてはね」
 毎度ありがとうございます、と商人が頭を下げたときだった。切羽詰った声をあげて、
日頃沈着な家令が部屋に飛び込んでくる。奥様、と悲鳴のような呼びかけに、
女たちも商人も、訝しげな顔をした。
「なんです、騒々しい」
「電報が、旦那様が――!」
 彼女らの日常は、そこで終わりを告げた。


 じゃっ、と手荒い音を立てて、娘は重いカアテンを閉める。きつく合わせ目を閉じて、
何度も隙間がないことを確認した。ここは二階、窓の外には広く敷地が続いており、
誰が覗くこともできないと頭では理解していても、そうせずにはいられなかった。
ここ数日いやというほど味わった、無遠慮に浴びせかけられる白い光、硝子を割って
飛び込んでくる石の数々が、彼女の神経に濃厚な影を落としている。

45:前と後の事語り〜再び化猫〜 5
08/01/09 22:15:28 ThBSIgVh
 すっかり薄暗くなった部屋でしばらく俯いていると、にゃあと聞こえてびくりと
肩が揺れる。すりと足元に温かなものが身を寄せて、彼女はほっと息を吐いた。
祖母の猫だ。
「……おまえ、私に付いてきたの?」
 にゃあ、と猫はさらに鳴いて、すりすりと彼女へ身を寄せる。その体を抱いて
寝台に腰を下ろすと、自分以外の体温に、張り詰めていたものが一気に緩んだ。
どうして、と嗚咽が洩れる。
 どうして、こんなことになったのか。
 父は、行儀作法には煩かったが悪い父ではなかった。それが、娘のための
躾というより、娘が嫁ぐことでよりよい人脈を築くためであったとしても、父が
探してきた婚約者は良い人であったし、不満などこれっぽっちもなかった。
福田の家柄であれば政略結婚などは当然のこと、幸福の量を決めるのは
結婚までの経緯でなく、結婚してからの過程だ。父を助け、夫を支え、子供を
育て――そういう人生が待っているものと、疑いもしなかったのに。
 猫は膝の上でおとなしく丸くなっている。涙を拭う指先の感触で、頬がこけた、
と思った。ほんの数日で母はすっかり痩せた。自分も、あんな顔をしているの
だろうか。青白いばかりの肌、目の下には隈が浮き、髪はぱさぱさになって。
 気の毒に、と囁く声が耳の奥からよみがえる。
 ――福田さまのお父さま、行方不明ですって。
 ――新聞に出ていたこと、本当かしら。汚職だなんて……。
 ――お金が絡むのはよくあることよ。それより、殺人の……。
 ――しぃっ。ほら、福田さまがいらっしゃるわよ。
 ――校長室に呼ばれたとか……。
 お気を落とされないでね、とそれまでの友人たちは言った。こんなもの、
何かの間違いでしょう。いずれ真実は明らかになるわと、手まで握って。
 けれど、女学校を辞めて以降、連絡はふっつりと途絶えた。屋敷には不調法な
記者たちが押しかけ、その記事に激昂した市民が怒声とともに石を投げ込む。
心労のあまり母が倒れて、彼女たちは夜陰に乗じて母の実家へ逃げ出した。
まるで夜逃げのよう、と泣く母を懸命に宥めながら、彼女も必死で涙をこらえていた。
誰に言われたわけではないが、縁談も破談だろう。こんなことになって、あの人は
どう思っただろうか。最後にお別れを言うこともできなかった。
 記者たちの、暴力的とも言える喧騒とカメラは恐怖でしかなかったが、それでも
彼女は毎日新聞を食い入るように読んだ。いつ父の無実が証明されるのか――
父はどこへ行ったのか。だが次々に書き立てられていく記事は、彼女が望むもの
とはまるで正反対だ。

46:前と後の事語り〜再び化猫〜 6
08/01/09 22:18:23 ThBSIgVh
 祖父は彼女が新聞を読むのを好まない。女がいらん知恵をつけるな、と
いうのが言い分だ。それでいて、他に言う相手もいないのか、盛んに彼女へ
記事の不平を漏らしている。
 祖父によると、地下鉄を通すのは大変なことなのだそうだ。それによって
多くの市民が働き口を得、地下鉄が通ることで近辺の経済も活性化される。
また、地下トンネルを開通するための技術も開発され、科学技術の研究発展に
多大な貢献をするものらしい。我が国の将来まで見据えたその功績に比べれば、
贈収賄など些少な問題に過ぎず、むしろ便宜を図ることで企業は安心して
仕事に専念できる――と。
 政治とはそういうもので、騒ぎ立てる民衆が愚かなのだと言われれば、
彼女は反論する根拠を知らない。それは男の仕事で、彼女が学んできた
事柄にはなかったから。
 それでも、どうしても気になることがある。
 暗闇の中、彼女は猫の体に頬を寄せる。ごろごろと喉を鳴らされたが、
寄る辺なさに目眩がしそうだ。
 ――私は、人殺しの娘なのか。
 地下鉄に関する諸事を調べていた女性記者が、かつて変死していたのだと
記事にはあった。
 石に巻かれて投げ込まれた紙には、日本橋建設に仕事を奪われ、会社が
倒産して首を括った男の家族の恨み言が連ねられていた。
 使用人たちが陰で噂する、父が乱暴した女性とはどんな人だったのだろう。
 そして、彼らの、父に対する恨みや怒りは、父の失踪により矛先を失い、
いまや彼女へと向けられて――いる。
 名前も顔も知らぬ大勢の人間に、殺したいほど憎まれているという事実。
 死にたいと、毎日のようにうわ言で繰り返す母。
 暗い、暗い。深すぎる闇に、立つことさえおぼつかない。
 幾重にも厚く外界を遮断した部屋で、彼女はどうすることもできずに泣く。
膝の猫が、ぱたりと長い尾を振った。




47:前と後の事語り〜再び化猫〜 7
08/01/09 22:21:51 ThBSIgVh
〜森谷清〜

 母は毎日泣き暮らしている。
 彼はようやく切った電話に受話器を戻して、うんざりと息を吐いた。頭の中が、
耳から入った悪意に侵食されて、毒々しい色のもやがかかっているようだ。
 ――まったく、とんだ恥さらしだよ。
 ――世間様に顔向けができやしない。
 ――毎日毎日、本当に肩身が狭くて。
 元から強い人ではなかったが、自分が今どれだけ不幸か、父がどれだけ酷い
裏切りを働いたか、連日のように繰言を聞かされるという立場に、いいかげん
辟易する。
 成人し、父と酒を酌み交わすようになってから、父は外で酔うと必ず「女は視野が
狭い、空気が読めない」と繰り返した。思わず頷いてしまったのは、母がそうである
からだ。
 悪人なのではない。母は良くも悪くも普通の女だ。たぶん父のことも、彼を含めた
兄弟たちのことも、母なりに愛している。だが、母が一番愛しているのは、
『良妻賢母と誉めそやされる自分自身』なのだということも、この年になれば
いい加減わかっていた。
 育ててもらった恩義は感じるものの、尊敬はできない。
 そんな母と、父がどうして結婚したのかも、理解不能だ。
 彼はまだ独身なので、夫婦のことはわからない。だが仕事をする男として、給料を
持ち帰るときこそねぎらわれはするものの、常に出世や給料で他所の家庭と比べられ、
夜討ち朝駆けの仕事に食事の準備が大変だと不満をこぼされ(しかも母自身は、
不規則な生活を送る父の体のことを心配しているのだと信じている)、疲れて帰って
きたところに、懸命に尽くしているのに誰も褒めてくれないと愚痴をこぼされる――
そんな父を、正直なところ哀れに思う。
 そりゃあ、仕事にかこつけて家に帰らなくなっても仕方がない、と思うのだ。しかし、
あまりにも長く家を空けると、今度は浮気を疑われ、けたたましい声で詰め寄られる
ことになる。
 結婚は人生の墓場だと言う。冗談ではなく、父にとって家庭は墓標……でなければ
牢獄に等しかったのではなかろうか。少なくとも自分にとってはそうだ。女というものは
不機嫌なとき、何が気に障るかわからない。というより、何にでも怒りの種を見出す。
毎日毎日、母の機嫌を窺っては薄氷を踏む思いだった。学校を出て就職して、
一人暮らしを始めたときには、心から快哉を叫んだものだ。

48:前と後の事語り〜再び化猫〜 8
08/01/09 22:24:27 ThBSIgVh
 だから、父が失踪したと聞いたとき、真っ先に思ったのは駆け落ちだった。
実は愛人がいて、その女性との時間が心安らげるひと時だったのだとしたら、
息子としては複雑だが、男としては、まぁいいのではないかと思ったのである。
だが、現実はどうも違うらしい。
 本当に父が福田市長の汚職に関与していたのかどうか、彼にはわからない。
報道ではほぼ黒として書き立てられているが、仮に関与していたとして、
どうして犯罪の片棒を担ぐことになったのか、動機まで掘り下げている紙は
ないようだ。むしろ組織としての腐敗を糾弾する論調が多い。
 どうしてだろう、と思う。
 子供の頃、滅多にない休みに父は彼を肩車して河原へ連れていってくれた。
父さんは市民に真実を伝える仕事をしているのだと、それが民主主義の根幹を
支えるのだと、誇らしげに語っていた声を今でも覚えている。難しいことは
わからなかったが、子供が憧れるに足る父だった。新聞記者の息子であると
いう誇りにかけて、漢字の書き取りは真剣に勉強したし、満点の答案に、
母はもちろん、父がよくやったと褒めてくれるのがとにかく嬉しかった。
 話を聞きたい。何が父をそうさせたのか。だから、どんな事件に巻き込まれた
のかわからないが、無事に帰ってきてほしい。
「電話、終わったかい?」
 下宿先の大家がひょいと顔を出したのに、彼はありがとうございましたと頭を
下げた。
「あんたも大変だねぇ、毎日毎日」
 ええまぁ、と彼は曖昧に笑う。ご迷惑をかけてすみません、ともう一度頭を下げる。
「いいよ。今お母さんも大変な時期だろう。心細いんだろうし、話くらい聞いてやんな。
一度くらい、帰ってやった方がいいんじゃないのかい?」
 大家は、いかにも気のいいおばちゃんといった風情だが、やはり同性である
故か、幾分か母に甘い。あの性格を知って同じことを言えるかどうかは謎だ。
「俺も、仕事があるんで」
「休めないのかい?」
「父があんなことになって、社長は気にしないと言ってくれましたが、やっぱり
周りの目が厳しいので。今は、俺も踏ん張り時なんです」
 ああそうだねぇと大家は頷く。頷きながら、でもやっぱり、と言い出すのが女だ。
どうしてこう何度も同じことを言わなければならないのか、理解に苦しむ。

49:前と後の事語り〜再び化猫〜 9
08/01/09 22:28:21 ThBSIgVh
「そうだ、ミケにエサ、もうやりましたか?」
「いいや、まだだけど」
「俺、やってもいいですか。あいつ可愛くて」
 すっかりお気に入りだねぇ、と大家は笑う。ちょっと待ってな、と言われて、
戻ったときには猫飯と皿一杯の野菜の煮物を渡された。
「多めに作ったから、食べなさい。あんたら若い男は、ほっとくとろくなモン
食べやしない」
 一人で食べるにはずいぶん多かったが、ありがとうございますと押し頂く。
「じゃ、行ってきます」
「あいよ。よろしくね」
 猫ばっかり可愛がってないで、彼女も作るんだよ、と背後から言われて、
彼はこっそり息を吐いた。
 余計な口をきかない分、今は猫の方がよほどに気が楽だった。



   つづく



投下できたぁぁぁぁぁ!
心配してくれた人たちありがとう!
結局自分のミスだった! 一行目空行で始めたら弾かれるの
知らなかった……コンナ タンジュンナ コトダッタナンテorz
死亡組のお話おしまい。次は生き残り組です。

50:名無しさん@ピンキー
08/01/09 23:08:57 nalUZrI8
GJ!!おつかれ!

続き待ってますからぁ!

51:名無しさん@ピンキー
08/01/10 00:16:32 YuYJhaws
GJ」。337ェオェモ゙ソェュェヌェケ
?ェュェャ?ェキェ゚」。」。+」ィ0??「」?」ゥ + ???? +

52:名無しさん@ピンキー
08/01/10 00:21:28 YuYJhaws
文字化けしちゃった(@@
337さんGJ!!
続きが楽しみです+(0゚・∀・) + テカテカ +

53:337
08/01/10 22:17:08 zk6nTSJ0
まとめサイト更新したよー。
多数決的に、女体化?ブツへのリンクは削除しますた。
前スレ809氏、イラストも収蔵させてもらいましたがよかったですか?
リンクはネタ元作品のタイトル隣にあります。

54:名無しさん@ピンキー
08/01/10 22:36:45 IMHuTyI1
>>53乙ー。
俺の記憶が正しければ、「加虐愛」にドS氏によるイメージイラストがなかっただろうか。
あれも保存できれば更に嬉しいな。

女体化?のやつ、どうも「薬売りは中性」という脳内設定な感じだったな。
特殊な設定のやつは、投下する前に皆の意見を聞いた方が良いと思う。

55:337
08/01/10 22:55:38 zk6nTSJ0
>>54
うん、あった。だが自分が保存してないんだorz
なにせ自分がスレに出没する前のもあって……。
誰かデータ提供してくださいお願いします。

56:名無しさん@ピンキー
08/01/11 00:06:14 IJ9COPzY
2スレ目15です。337氏乙!
wikiの勉強がてら自分の作文修正してみた。
改行は深く考えずに~~で<br>一個分だと思うよ。

ドS氏の画像、自分も持ってないや…。力になれずすいません。
あと、あんな短い文にレスくれた方々ありがd!
嬉しかったです。

57:名無しさん@ピンキー
08/01/11 21:45:10 4d8sFeMD
道中、夕立に見舞われたる折、雨宿りの席同じくするは紫煙くゆらす隻眼銀髪の薬売り。
類は供を呼ぶとはよく言ったものだ。
「お邪魔、します」
「ああ」
「参りましたね」
「まったくだ。ろくに前も見えやしない」
「しかし、すぐにやむでしょう」
「だな…あんた、同業者か」
「貴方が、薬売り、ならばそうなります」
「いや、そっちの仕事じゃない。なんというか、人ならざるものを扱う仕事、してないか」
「…はて、なんのことやら」
「はは、言いたくないならいいけどな。あんたから"奴等"が逃げてくもんで気になっただけさ」
「…」
天秤を一つ指に載せると、チリン、と男にむけて首を傾げた。
「あなたも、少し違いますね」
「片目を奪われたときに、俺は半分奴等になっちまったのさ」
「…やはり違いますね」
「ん」
「同業者ではない、ということですよ」
「ああ、どうやらそうらしいな」
雨が上がり、左からきていた隻眼の薬売りは右に、右からきていた薬売りは左に向けて歩きだした。
彼らは知らない。
既にもう一方の薬売りが通った道では薬がうれず、二人とも飯の種に困ることになる未来を。


58:名無しさん@ピンキー
08/01/11 22:27:49 L04BfdNu
うおぉ!! ギンコと薬売り、夢の共演www

59:名無しさん@ピンキー
08/01/11 23:03:40 iPDA5Qz2
?? 夢の競演はいいんだが・・・
エロパロでもないし、投下前のレスもないし・・・誤爆?それとも続きあるのかな?

60:名無しさん@ピンキー
08/01/12 00:13:17 MEV5vPpS
短いけど、前スレ>>818続き



 薬売りらの舌が手が、加世の肌を丹念になぶっていく。柔らかく吸いつくかと思えば弾力をもって指から逃げる感触に、どれだけ触れても飽きる気がしなかった。まして時折甘い声をあげられ首を左右に振って耐えられては、腰が疼いて仕方ない。
 薬売りたちは揃って心の中で刻を数える。先ほど加世に飲ませた薬が効いてくるまで、あとどれくらいかかるだろう。狂わせてみたい、求めさせてみたい。ぽってりとしたこの愛しい口唇が、一言欲しいと漏らしたら、一体どんな心地がするだろう。
 終わった後、怒られますかねぇ……と、どれかがちらりと思う。それは共有意識の内を伝播して、ちらちらと薬売りたちの目の中に後ろめたさがよぎった。

 本当は、この辺りでやめておいた方がいいのだと……、誰に言われるまでもなく、わかっている。

 末っ子と揶揄混じりに呼んでいても、あれだとて自分には違いない。もっと打算的な部分でも、この行為に加世が負の印象を抱いては、長期的に見て不利になるばかりだと――承知しては、いるのだが。
 自制が、きかない。
 いや、引きとめようとする声を振り切って、確信的に踏み外そうとしている。
 加世が応えてくれた、今も応えてくれる、その喜び。何度でも確かめたくてしかたない。
 浮かれ騒ぐ心は、一方で憂さ晴らしの酒に似た不安定さを内包している。人は変わるもの、そして儚いもの。想いの成就は同時に喪失の恐怖を薬売りに与える。

 明日だの未来だの、そんな不確定なものより今が欲しい。

 業が深い、と薬売りらは自嘲する。それでも今は、何も考えずに加世を味わいたかった。
 今だけは、せめて。

 薬売りらの真ん中で、加世の体が震える。潤んだ瞳、濡れた睫毛がうっすらと開いた。
「……く、薬売りさん」
「はい」
「なんです?」
「あ……な、なんか、あたし……ヘン」
 切れ切れに訴えられる言葉に、沸き立つ心と、申し訳なく思う感情とを同時に押し殺し、薬売りたちはしゃあしゃあと口を開く。
「変?」
「別に、どこも変ではありませんよ?」
「綺麗ですよ」
「可愛いですよ」
「そ、そうじゃ、なくってぇ……」
 もじもじと擦りあわされ始めた膝に、薬売りたちが密かにほくそえんだ。



精神的に『がっつかせて』みたー。
新スレでも職人さんたちの素敵な連携プレイが見られることを祈って、
ヘイ、パス!

61:名無しさん@ピンキー
08/01/13 00:43:38 CehCK+WL
改めて読み返すと、結構いろんなエロパターン網羅してるんだな。
あと足りないのは触手くらい?
薬売りズなら触手くらい出せそうな気もするがw 妥当なとこだとモノノ怪に
ヤられちゃう感じだろうか。
そういえば旧化猫じゃハイパーの模様が空中に飛び出してた…使える?w

ドS氏の、加世の玩具にされてるハイパーは、模様ない状態かぁ。

62:名無しさん@ピンキー
08/01/13 01:02:50 miMMRVkZ
>>61
寝てるんだから目玉模様閉じてたりして。
目覚めると共にバチバチバチーって見開くとか。

二人同時にびっくりするぞ?


63:名無しさん@ピンキー
08/01/13 03:10:52 q2685DQP
そこでタコを使うんだ

64:名無しさん@ピンキー
08/01/13 06:41:15 EKMgeVCG
>>60
精神的がっつきうわあああああ!!
青春スーツ着用したな、薬売り。すばらしい。

>>63
イッた瞬間に墨を吹かれて茫然自失の加世と笑ってよいものかどうか悩む薬売り

65:名無しさん@ピンキー
08/01/13 08:41:10 4uWp6GLF
展開迷ってたら先越されたw
GJな>>60続き




その間も刻一刻と、加世の様子は目に見えて変化していく。
「あ……、ああぁ……っ」
耳朶に吐息がかかれば声を上げて仰け反り、爪の先で胸の丸みをなぞられれば全身をびくびくと震わせる。
薬売り達の柔く緩やかな愛撫に対し、明らかに、過剰な反応を返すようになってきた。
太めの眉を切なそうに寄せて、乱れ始めた吐息を何とか整えようと浅い呼吸を繰り返す。
「だ、だめぇ……あたし、やっぱり、ヘン……っ!」
ゆるゆると首を振りながら懸命に、内側から沸いて溢れ出ようとする何かをどうにか抑え込もうと、自身の腕で己が身を抱きしめ、赤子のように丸くなろうとする。
それをやんわりと両側の二人が押し留め、手の甲、指先へと口付けを落としながら宥めすかした。
加世の身の内で熱く悩ましく暴れるものが何であるのか、一服盛った当人達からすれば分かりきったものではあるが。
「変……とは?」
「どういう、ことです」
「加世さん」
空惚けて問いかける薬売り達に、加世は頬を紅色に染めたまま、心細げな、縋るような涙目を向けた。
平素のきゃいきゃいとした、陽の気の塊のような加世の溌剌さは薬売りの好むところであるが、そんな娘が垣間見せるしおらしさ、弱さは、滅多にお目見え出来ぬものであるからこそ、男の心をざわざわと煽り昂ぶらせる。
ましてやそれが、自分(達)だけが見ることの出来る、自分(達)だけに向けられた媚態であるなら尚更。
「加世さん」
「加世さん……」
これ以上ないほど優しく甘く囁きかける薬売り達に、信頼かはたまた観念からか、加世は自らの吐息で湿った唇をわななかせながら、「からだがあついの……」と消え入りそうな声で白状した。
「あ、あつくて……苦し……っ、やぁん、なん、でぇ……!」
「落ち着いて」
「大丈夫、ですから」
「落ち着いて」
「そう、落ち着いて」
口々に宥められつつも、加世は男達の前で無意識に腰をくねらせ、閉じた膝をいっそうもどかしげに擦り合わせる。
汗に濡れた褐色の肌が益々熱を持ち、まるで色を混ぜ込んだように全身が赤味を増す。
温かそうで、実に美味そうな色、だ。
加世を見る薬売り達の目の色も変わっていく。いや、澄ました面を被り続けていることが既に、ままならなくなってきただけだ。


66:名無しさん@ピンキー
08/01/13 08:49:33 4uWp6GLF
続き



「加世さん」

一人のひと声が、合図となった。

「私、達に。……どうして欲しい、ですか?」
一人が、指先で膝頭から太腿にかけてをつぅとなぞった。
「ひぁっ!」
力んでいた膝が緩んだところへすかさず、一人が体を割り込ませる。
加世の脚の間を陣取った一人がとんと軽く肩を押せば、その体は簡単に傾げ、待ち構えていた一人が抱きとめた。
胸の膨らみの下から脇腹を通って腰、さらにその下へ、脚の付け根の線に沿って中心に向かうように、指を這わせる。
加世の腰がびくりと跳ねたが、その指は肝心なところへは触れず、引きかえしてしまう。
「やぁ……っ!」
泣きそうな声が加世の口から飛び出す。その声音に落胆が混じっているのは、決して気のせいではない。
その後も焦らすように、白い手がかわるがわる、軽く触れては離れてゆく。
「加世さん」
「教えて、ください」
「私に」
「私達に」
「して欲しい、こと」
柔らかな快楽も、熱を持て余した体で受け続ければ、それはもはや拷問に等しい。
加世の理性の箍は、そろそろ限界に達しようとしていた。
「お、おねが、い……」
切羽詰った、嗚咽を堪えるように途切れがちの、けれども甘い声。
「もっと、触って、ください……っ!」
その言葉を聞いた途端、脚の間にいた一人が加世の腰を抱え込み、下腹を押し付けてきた。
熱く硬く存在を主張する男そのものが、ぐっしょりと濡れそぼった娘の花弁に張り付き、肉の芽を擦り上げた。



がっつきながらも涼しい顔して痩せ我慢w
お返し焦らしプレイの後まだ突っ込んでねぇー
こんなところでヘイ、パース!

67:名無しさん@ピンキー
08/01/13 10:33:29 qBBHLst7
>>65-66
朝っぱらからなんというGJ!
やっべ萌えが止まらない。これから仕事なのにwww

68:727
08/01/13 13:34:57 YzAewvHY
業務連絡。
2スレ目、ここまでのリレーをまとめのほうに収蔵済です。
展開迷ってたらずんどこ話が先行っててアレヨアレヨという感じだw

しかし「がっつく」、職人さん達のツボに入っちゃったんだろうか。

69:名無しさん@ピンキー
08/01/13 19:06:11 eYQAQHBJ
727氏乙! ありがd。

>>65-66
GJGJ!!
職人様方、できればでいいんですがパイズリとかも見たいでs

70:ドS
08/01/13 20:22:38 5jG7DJZm
727氏乙です。
俺のイラストはまたupできるんだがここにupすればいいの?

71:337
08/01/13 20:42:45 qBBHLst7
>ドS氏
ああ、ご本人降臨よかったー!
ここでもいいし、直にWikiにうpでもだいじょーぶです。
Wikiの場合は、編集ページに画像うpフォームがあります。
ここにうpなら、掲載方法をお選びください。

1.本文とは別ページにまとめうp
2.本文とは別ページに1枚ずつうp
3.本文の最後にまとめうp
4.本文の該当箇所に適宜挿入うp

Wikiへの画像うpのやりかた、まだ自分でもよくわかってないんですがw
1枚ならわかるんだけど……。

72:名無しさん@ピンキー
08/01/14 04:26:17 0pkaT1vQ
>>69
シックスナイン乙w

パイズリは無論だが尻ズリも変態プレイ臭くて良いとは思わんか
いやイキナリ後ろ突っ込むのも可哀想だからさ
まずはそれで慣らすとかさ

73:名無しさん@ピンキー
08/01/14 05:15:09 XejC8MpX
もしかして薬売りsはこういう会話を脳内で交わしあってんのかw

74:名無しさん@ピンキー
08/01/14 08:05:55 JZV1wgYy
天秤ズだった住人たちが、いつの間にか薬売りズに…www

75:名無しさん@ピンキー
08/01/14 10:21:47 lTIU77N3
モノノ怪を退治できる住人が集まるスレはここですか?w

76:名無しさん@ピンキー
08/01/14 18:01:37 xV/NC4wr
むしろこの変態的執着と欲望はモノノ怪の域w
この因果と縁に感謝いたしたく候w

77:名無しさん@ピンキー
08/01/14 19:53:26 JZV1wgYy
某所のSSじゃないが、薬売りの中にもやっぱり男としての
モノノ怪はいるんだなあ

78:337
08/01/15 00:19:09 PI9DF8wV
エロエロな流れをぶたぎって、天秤の人参上ー。
生き残り組前半投下。たぶん全7レス。

79:前と後の事語り〜再び化猫〜 10
08/01/15 00:21:22 PI9DF8wV
〜木下文平〜

 貧相なちゃぶ台の上に、寄木細工のオルゴオルが乗っていた。
 木下はひとつ溜息をつくと、ねじ回しを手にオルゴオルの蓋を開ける。覚悟は
していたものの、中でぐるりと輪になっている猫たちが一斉に木下を見上げるのに、
思わず肩が強ばる。真鍮製だろうか。鈍い金色に光りながら、すました顔で座って
いるもの、腹をみせて転がっているもの、丸くなって寝ているもの、前肢を伸ばして
うんと伸びをしているもの。親指ほどの大きさだが、毛の一本一本まで彫り込まれた、
なかなか精緻な出来の猫たちだった。裸電球が放つ橙色の光を、目の位置に
嵌め込まれた硝子玉がきらりと反射して、木下は思わず視線を逸らす。
 そのまま視界に映る自分の部屋は、狭いが片づいてはいる。珍しいのね、と昼間
笑われたことを思い出した。身辺整理をしているなどと言えるわけもなく、曖昧に
笑ってごまかしたが、不審に思われていたようだ。田舎から母が上京してきたことに
でもすればよかったか。
 木下は意を決して目の前の猫と向き合うと、息を詰めるようにしてネジを探り外して
いく。こまごました部品を手順ごとに番号を振った空き箱へと分類し、雑紙に軽く
図面を引いた。猫の乗った細工部分が外れると、大急ぎで布を被せる。トパァズ色の
視線が遮られて、大きく息をついた。
 幼い頃から機械の類が好きだった。歯車やネジといった鉄屑を集めては、うっとりと
眺めたり、拙い手つきで組み立てようとしたものだ。長じるにつれ、整備そのものより、
大型機械を自分の手で動かす華やかさに憧れて電車の運転士になったが、玩具の
修理くらいならわけもない。それを知っている女が、動かなくなってしまったオルゴオルを
直せないかと、昼間持ち込んできたのだった。
 大叔母にもらったのだと言っていた。音楽にあわせて、猫たちがくるくると回転する
細工らしい。見た目からしてかなり高価なものだろう、西洋文明の洒落た気配がする
それは、うらぶれた男一人暮らしの部屋からいかにも浮いていた。
 そんなことないわよ、と女は楽しげに笑って、木下の制服にブラシをかけていた。
これだって十分にハイカラじゃない?という言に、それは仕事着だからと苦笑した覚えが
ある。身分違いというほどに差があるわけでもないが、良いところのお嬢さんと言って
いい程度に実家が裕福な女には、いまいちピンとこなかったようだが。
 オルゴオルの箱をひっくり返し、今度は裏からネジを外していく。箱の中に手を
突っ込んで支えると、内蓋の赤いビロオドが、つやつやと手先に触れた。
 出世したかった、と思う。今更言っても詮無いことだとわかっていても、繰り返すことを
やめられない。出世して、彼女に釣り合う男になって、堂々と先方の両親に挨拶に
行きたかった。しかし、それはもう叶わない。

80:前と後の事語り〜再び化猫〜 11
08/01/15 00:23:23 PI9DF8wV
 一昨日木下の元へやってきた門脇は、そんなに重い判決にはならないだろう、
情状酌量もつくはずだと言っていた。だが、それでももう運転士を続けることは
無理だ。職場はたちまちに居心地の悪い空気へと変わった。暗黙のうちにかかる
圧力に、自然と背中が曲がり、うなだれて過ごす。左遷か、辞職か、解雇か。
地下鉄開通だけを見れば世は華々しい変化を続けているが、その背後には不況が
暗い影を落としている。仮に会社を辞めたとして、すでにそこそこ年齢のいって
しまった木下に、再就職先があるだろうか。
 こんな状態で、結婚など望めるはずもない。
 ――していなくてよかった、と言うべきだろうか……。
 一人身ならまだなんとかなる。なんとかならずとも、野垂れ死ぬのは木下だけだ。
女や、もしかしていたかもしれない子供と、心中するようなことにはならない。
 懸案事はそれだけではなかった。
 今も時々背後から、底光りする猫の瞳が見つめている気がする。もし、もう一度
でも木下が何かを間違えたなら、即座に飛びかかろうと喉奥で低くうなり、爪を研ぎ、
牙を剥き出している。人の道理を解さぬ狂った畜生は、怒りのままに木下の周りをも
殺し尽くすかもしれない。
 あの鋭い爪に、愛しい者を引き裂かれるくらいなら。
 怯え惑いながら生きていくのは、木下ひとりでいい。
 入り組んだ作りからようやく内蓋を取り外すと、組み合った歯車が見えた。かりかりと
ぜんまいを巻いて動きを観察する。ひとつひとつはなんということもない金属片だと
いうのに、その切り欠きが噛み合い連動して大きな動きとなっていく様は、毎度のこと
ながら感心する。近代の象徴、無駄を削ぎ落とした美しさ。
 どうして人はこのように在れないのだろう。純粋に目的にのみ邁進していればいいのに、
見栄だの恨みだのと鬱陶しく、挙句に他人を巻き込んで人生をめちゃくちゃにする。
 木下の視線が止まる。美しい回転運動が一点で止まっていた。これのせいか、と
その周囲を見ると、バネがひとつ外れている。何かの衝撃で引っかかっていた部分が
落ちたのだろう。ピンセットでつまんで戻し、再度ぜんまいを巻いてみると、突起に
弾かれた金属がぽろぽろと音を立てた。
 直った、と木下は笑う。よかったな、と箱の外側を撫でた。音を奏でるためにある物が、
歌えないのでは辛かろう。これからは存分に、彼女とその家族へその澄んだ音色を
聞かせてやればいい。
 再度内蓋を戻し、順にネジを締めていく。布の下から取り出した猫も、もうさほどに
恐ろしくはなかった。取り付けると、なるほど金属の輪がゆっくりと回転して、その上の
猫たちも回る。硝子玉の目にあたる光の角度が変わって、きらきらと光るのが綺麗だった。
 木下は箱の中に封をした手紙を忍ばせると、そっとオルゴオルの蓋を閉じた。




81:前と後の事語り〜再び化猫〜 12
08/01/15 00:24:58 PI9DF8wV
「おい、新入り。客だぞ」
「客?」
 木下は機械油にまみれた顔をあげる。洒落た制服はあちこちに染みのできた
作業着に変わったが、なんとか職は失わずに済んだ。スパナを置いて新しい
上司を見上げると、頑固親父は倉庫の入り口のほうへ顎をしゃくる。かつかつと
高く靴音を響かせ、こんな場所には不似合いのスカート姿で現れたのは、
木下が先日手紙で別れを告げたはずの女だった。
「ど、どうしたんですか!?」
 目が腫れぼったいのはよほどに泣いたのか。何があったのかと、思わず
駆け寄ると、ばっちーん! という音とともに目の前に星が散った。
「ど、どうしたはこっちのセリフよ! な、何よこれぇっ!?」
 ぐしゃぐしゃに握りつぶされた手紙は、木下が書いたものだ。
 この女にだけは、どうあっても誠実でいたかった。
 悲恋に酔った気分もあったかもしれない。先日の事件のことを、化猫の件も
隠さず赤裸々に綴った。信じてもらえなくても仕方がないが、伝えておきたかった。
 いい加減なことを書いてと怒っているのだろうか。別れることには変わらない
だろうに、わざわざ職場まで押しかけて殴るほどに怒らせるとは思わなかった。
とりあえず激昂しすぎてまた泣き出した女を宥めようと、木下は慌てて口を開く。
「いや、これはあなたをからかおうとした訳ではなくて、本当のことで……」
「事故起こしたのは知ってるわよ! 市長汚職に関わりがあるんでしょ!?
新聞、国民日日も毎朝も東京も、売店に並んでるだけ全種類買ったんだから!」
「はぁ……」
 そうですか。
 迫力に押されて思わず口ごもると、ぎっ、と真っ赤に充血した目に睨まれる。
「だからってどうして別れなきゃいけないの!? し、しかもこんな、一方的に、
手紙だけで! あっ、あたしは別に、出世しそうだったから文平さんを好きに
なったわけじゃないわよ!!」
 しゃくりあげながら詰られて、木下はひたすらにおろおろする。そもそも木下は
女性に人気のある性質ではない。女の扱いには慣れていないのだ。こんなとき
一体どうしたらいいのか、皆目見当もつかない。
 わかってたけど、と女は泣きながら続ける。
「そういう、肝の小さいところが好きなんだけど! でもこれってあんまりよ!」

82:前と後の事語り〜再び化猫〜 13
08/01/15 00:26:43 PI9DF8wV
「……はい?」
 何が好きですと?
「いちいち世間体を気にして、なにかとおどおどびくびくして、なのに一生懸命虚勢
張って、人に裏切られるのが怖いもんだから、絶対言うこときく機械が好きな、
そんな文平さんが好きなのよ!」
 どう聞いても貶しているようにしか聞こえない言葉を吐ききって、女は少し
落ち着いたのか、ごしごしと目元を擦る。いつになく子供っぽい仕草に、木下の
鼓動が跳ねた。
「……だ、だって。電車の、運転手さんて、乗っているお客様、すべての命を
預かっているんでしょ。それで、時間も預かって。もし遅れたら、人生を変えるような
受験とか、会議とか、商談とか、もっと言うと親の死に目に間に合わなかったりする
かもしれないお仕事でしょ。小心なくらいでちょうどいいけど、竦んでしまっても
いけなくて、秒針とにらめっこしながらいっぱい心配して心配して、それでもぎりぎりで
踏み止まって、逃げずに勤めた文平さんは、立派だと思ってたの」
 脳天を、思いきり殴られたような心地がした。
 ――そんな。
 そんな上等な男じゃない、と反駁しかける。
 口を開いて、でも、何も言えぬまま閉じて。
 自分は何もわかってなかったのだと、今更悟った。心のどこかで、今も己は
被害者だと思っていた。巻き込まれただけ。不運だったと。
 違う、のだ。違った。自らが犯した過ちが、この期に及んで身に染みて、鳥肌が立つ。
 彼女は、木下の運転する電車に安心しきって乗っただろう。なんの心配もせず、
定刻に目的地へ着くことを疑いもせず、木下にすべてを委ねて。
 その、全幅の信頼を。
 自分は、完全に裏切っていた――のだ。
 運転士として新人の頃、うるさいほど言われた訓辞があった。命を預かるということ。
木下にとってこの女が大事であるように、電車に乗った一人一人に大事な人間が
いるという事実。否、本当はずっと言われてきた。慣れに任せて聞き逃してきた、
幾多の声の、その重み。
 取り返しがつかない――。
 じわりとせりあがった塊に喉を塞がれて、鼻が詰まって、声にできない。がばりと
頭を下げ、すまない、と心の中で何度となく繰り返す。
 彼女はそんな木下の頬に手を添えるとぐいと頭を起こさせた。


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