モララーのビデオ棚in ..
219:2/3
09/06/14 14:57:59 WSeQ7TV4O
とりあえず自分に雨を降らせている美しい緑の瞳に、手を伸ばしてみると、彼の顔はひどく暖かかった。
下瞼に溜まる涙をそっと拭ってやると、臆病な愛しい兄はびくりとその身を震わせた。
「なぁ英、俺が何回君を愛してるって言えば、君は泣き止んでくれるんだい?」
英はまた傷ついたふうな顔をして、そして米の首から手を離した。
「ごめん、ごめんな米。無理させてごめん。お前は昔から優しい子だったもんな。」
そして両手で顔を覆って、また泣いた。
米は起き上がって自分より大分小さくなってしまった兄を抱き締めた。
「ねえお願いだから泣き止んでよ。俺は君を愛してるんだ。信じてよ。君の兄や腐れ縁たちが君をどんなに嫌っても、俺は君を愛しているんだ。」
米の腕の中の英がびくりと動いた。
そして顔を覆っていた手をゆっくりと外すと、にっこりと美しい(けれども痛々しい)笑みをつくって言った。
「ありがとう、俺の可愛い米。お前はいつまでも俺の自慢の弟だよ。」
そして米の胸をゆっくりと押し退けると、ごめんな急に、またスコーンでも持ってお詫びに来るから、と言って、ふらふらと米の家から出ていった。
220:3/3
09/06/14 14:59:05 WSeQ7TV4O
米はそれを見送ることもできずにそのままの姿勢でしばらくの時を過ごした。
ふと頬に手をやると、英のものではない涙が伝っていた。ああ何度目だろうかさっきのやりとりは、と心のどこかでぼんやりと思った。
今ごろ愛しい兄はどこで泣いているのだろうか、俺以外に味方なんていやしないのに。
誰に言うともなしに米は呟くと、そのままベッドに倒れ込んだ。
羽毛の柔らかさが心地よかった。いつかに英と寝たベッドも、柔らかかったと思った。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
お粗末さまでした!
221:無題(1/4)
09/06/14 15:27:25 Dy346s/AO
・元ネタあるけど、最早オリジナル捏造になってしまった…。
ちなみに三次。音楽に関わってる二人。
・ジャンルスレの皆様スミマセンー。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
222:無題(2/4)
09/06/14 15:30:37 Dy346s/AO
捻くれ者で感じ悪いヤツ。
最初はそんな印象。あっちもそんな感じだったはず。
俺がそんな態度しか取らなかったから。
「あーまったくヤになるわ…。」
仮にも俺だって音に関わってるんだぞ!と言ってやりたい。
と…そんな悪印象しか抱いてなかったのに、見方変わりゃ全部が変わる。
偶然に見てしまった彼の一面。
――
「あれ?まだいたの?」
「あ、はい…なんかこの部分がしっくりこないので…。」
楽譜に散らばるメモを指差しながらぼそぼそと答える。
あぁ…まただ。
「R君さぁ…どして話す時こっち見ないの??」
「え?」
「君がこっち見て話す時は録ってる時くらいじゃん?俺なんかした?」
つい言ってしまったが仕方ない。腹括れ。俺。
「あ、違います!Jさん悪く無いです!
ただちょっと…収録であんなにきつくダメ出しばっかしてんのに、どんな…顔して…話して良いのか解らなくて…。」
と、しどろもどろしながらも伝えてくる。
薄ら赤いのは緊張か照れか。色白な分余計に目立つのか…。
何だろう。保護欲を程よく刺激されるこの行動…。
「だから、何かされたってわけじゃなくて…!その…!」
「分かった。」
223:無題(3/4)
09/06/14 15:31:55 Dy346s/AO
黙った俺を見て、さっきよりも勢い付いて話し出したR君をぎゅむっと抱き寄せる。
「分かったって何が…の前に!!まだ僕最後まで謝れて無いんですよ!」
「うん、じゃあこのままで最後まで全部聞こうか?」
「このままって…何でですか!!」
緊張は多少解れたらしく、赤みは引いてきてる。…残念。
「ん?R君が可愛く思えてきたから。」
「なっ…何言ってんですか!?まずは離して下さいよ!」
「仕事に熱心、まさに鬼気迫る勢いで指示するR君にこんな一面があったとはねぇ…。」
「…ごめんなさい。」
「あー謝らない謝らない。驚いてるだけだから。」
責められると勘違いしたのか段々と小さくなった語尾。
「そーゆーのが可愛いって言われない?また首も赤いよ?」
「言われません!大体この距離で話すなんて無いし…いい加減離して下さいよ!」
「はいよ、抱き心地良かったからついね」
「Jさん…ソッチの人…?」
そう言いながらも、隣にあった椅子に座ってくる。
全く…警戒するなら離れたトコに座りゃいーのに。
「いんや、反応が面白くてね。それより、楽譜はどーなったん?」
「え、あぁ…もう少しやってから帰ります。キリ良いとこまで進めたいので…。」
「お疲れさんでしたーって事で。またよろしくな。」
「はい!…また注文すると思いますがお願いします。」
そう言って背を向けた瞬間、露になった首筋に軽くキス。
さぁ、次はどんな反応が返ってくるかな…?
224:無題(4/4)
09/06/14 15:35:50 Dy346s/AO
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
お粗末様でした。またROMになりますです。
225:風と木の名無しさん
09/06/14 23:04:31 3xzLWjmz0
>>158-196
GJ!GJ!
目から汁が止まらないよ・゜・(ノд`)・゜・
感動しました!
226:風と木の名無しさん
09/06/15 02:42:27 DJutoBTp0
>>221-223
まだ出会って間もない感じの2人に超禿げ萌えた!
初々しいR様可愛いです。ありがとうございました!
227:風と木の名無しさん
09/06/15 02:45:32 FBkXJC8k0
>>158-196
大作ありがとう。素晴らしいです。
もう二度と唄を離さないでくれ、太鼓!
228:風と木の名無しさん
09/06/15 13:11:51 KZMeJ1mF0
半生です。ドラマ脳。師匠×エロピアニスト。
エロにやられました、スレお借りします。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
229:A Falling Star 1/3
09/06/15 13:13:01 KZMeJ1mF0
私が弾き終わると、背後に立つ彼は嬉しそうに小さく拍手をした。
「好きかい、この曲」
「はい」
確認しなくても分かっている。ほぼ二日おきにこうやって、ここでこの曲を弾くのだから。
同じ事を定期的に繰り返す事が、どれだけ彼の回復に役に立つものか私には確証は無い。けれど少しでも刺激を与えてやって欲しいと、
彼の姉から取りすがるようにして頼まれた。
そんな風に言われてしまえば元教え子を無下にするわけにもいかず、スケジュールの合間を縫ってこの雑然とした広い家に来る日々が、
もうずいぶん長い間続いていた。もっとも、それは彼の為だけではなかったけれど。
「追憶っていうんだよ」
「へえ」
ポケットからメモ帳を出そうとする腕を私が取って押しとどめると、彼はふと眉を寄せた。
「名前を、書いておこうと思って」
「その必要はない。曲名なんてメモする価値は無いんだ。それよりも、聞いた時の感覚をしっかりと覚えていてくれたほうが嬉しいかな」
彼は悲しそうな顔をする。記憶をする事。それが現在の彼にとってどれだけ高いハードルなのかを知りながら、わざと要求してしまう私は
意地が悪いだろうか。けれど、彼の憂いを帯びた表情を、私は何より見たかったのだ。
私は椅子から立ち上がると、ピアノの譜面立てに置かれた楽譜を指差した。
「これ、今日書いた曲かい?」
「......たぶん」
「聞かせてくれるかな」
私が促すと、彼は椅子に座って譜面を眺めて一つ深呼吸をする。そして夢見るような目を宙に彷徨わせると、ゆっくりと指を動かしはじめた。
穏やかで寂しい、不思議な曲。空っぽな彼の頭のどこからこの着想が湧いてくるのか。私は喉がひりつくような感覚を、唾を飲み込んで押し下げた。
230:A Falling Star 2/3
09/06/15 13:13:59 KZMeJ1mF0
体をそっと移動させて、彼の真後ろに立つ。一心不乱にピアノを奏でる彼はそれに気づかない。
私は彼の肩をそっと撫でると、そのまま後ろから羽交い締めにした。バンと不協和音が鳴り響いて、彼の細い体が硬直する。
「......ひ、弾けないんですけど」
「もういいよ」
私は彼の耳たぶを軽く噛んだ。
「なにを......」
「なんだ、覚えてないのかい」
彼の喉仏がゴクリと動いた。驚いている彼が抵抗をしないのを良い事に、私は彼のズポンのジッパーを指でつまんで降ろした。
中に手を入れると、彼のものはもう力を持ちはじめている。
「いやだ......」
「どうして?」
「ん......」
声を上げまいと、彼は必死に口を閉じる。私は、彼の唇を親指でなぞって薄く開かせると、その間に人差し指と中指をねじり入れた。
「噛んだらもう私は君にピアノを弾いてあげることが出来ないよ。ほら、声を出して」
「あ、やぁ......ぁん......あ......」
一度上げてしまうと、彼の声は堪える事を放棄してしまう。
彼は意外なことに、荒っぽい方が好みのようで、わざと乱暴に擦り上げてやるとあっという間に弾けて飛んでしまった。
231:A Falling Star 3/3
09/06/15 13:14:58 KZMeJ1mF0
「あ......ぁあう......」
彼は、がくりと力を失って床にぐにゃりと崩れ落ちてしまった。私は馬乗りになると、彼の顎に手を掛けた。
唇を啄むと、組敷いた体が小さく震える。
毎回毎回同じ手順を繰り返して、自分でもよく飽きないものだと苦笑してしまう。
しかし、その度に律儀に初々しい反応を返す彼が可愛かった。無垢なものを汚す喜びに溺れていたのかも知れない。
そのうち、彼が舌を絡めてきた。......おかしい、これは今まで無かったことだ。
違和感を感じて唇を離し、彼の顔を覗き込むと、彼は花のようにニコリと微笑んだ。
「ねえ、せんせい。また星が振るところ、見せてくれるんでしょ」
ゾっとした。まるで今まで邪険に扱っていた抱き人形が急に話しかけてきたようで、背中をサっと冷たいものが走った。
それは、彼と私の間の隠語だった。彼が中の刺激で達する間際、どんな気持ちかと私が問いかけると、決まって彼は喘ぐ呼吸の間から、
星が降ってくるようだと小さく答えたのだ。なぜ、ここだけ彼の頭の中で記憶が繋がってしまったのか。
「......思い出したのか」
「よくわからない。せんせい、僕のこと、好きなの?」
私は、絡み付く彼の手を振り切ってバっと体を起こすと、急いで服を直して部屋の出口へ走った。
ドアノブにかけた瞬間に一度だけ振り向くと、彼は上に向かって手を伸ばしたまま、不思議そうな顔をして天井を見つめていた。
それ以来、私は彼の家へ通うのを止めてしまった。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
次回の展開なんか丸無視だよっ。........orz
232:風と木の名無しさん
09/06/15 14:06:56 P14KERA30
>>228-231
GJと言わざるをえない!
233:風と木の名無しさん
09/06/15 16:37:32 bQai5i7OO
携帯から失礼します。
戦/国BA/SA/RA 真田主従 カプ要素のないほのぼの話
閑/吟/集を読んで破廉恥!と思った結果できた話です。
小唄の引用あり…というか小唄が話の中心です。
歌そのものは男女の恋愛がテーマですのでご注意を。
ソレデハ ジサクジエンガ オオクリシマス! ( ・∀・)つ皿 |> PLAY
234:新茶のころ(1/3)
09/06/15 16:40:10 bQai5i7OO
「佐助、お館様から新茶を賜ったぞ」
甲斐から上田城へ戻ったばかりの幸村は、留守を守らせていた佐助を呼ぶなり、うきうきとした様子でそう話した。
良い香であろう、と幸村の掲げる包みからは、なるほど青い茶葉のさわやかな香りがする。
「お、良いね。きっと上等のだ」
「そうだろう、早速頂こうではないか。佐助、頼む」
そう言って幸村は佐助に茶葉の包みを渡す。つまり淹れてこいということだ。
「はいはい…。全く、忍にこんなことさせないでくれよ、腹いせに黴びた古い奴淹れちまおうかな」
「何を申すか、そもそもそんな古い茶など取っておくな」
「だって勿体無いじゃないの」
「貧乏性だな。淹れての後は 古茶知らぬ、だ」
幸村の楽しそうな言葉に、佐助はちょっと驚いた顔をした。
「どうした」
すると、佐助は堪えきれなくなったようにくっくっ、と笑いを漏らした。
「な、何だ気味の悪い」
戸惑った様子で幸村が言う。
「ちょっとアンタ、その歌どこで覚えたの」
「この歌か?『新茶の茶壺よのう 淹れての後は 古茶知らぬ 古茶知らぬ』であろう、城下で聞き覚えたが、何かおかしかったか」
「ああ、うん。旦那じゃ解らなかったか。あのねぇ、この歌は…」
佐助はにやにや笑いながら、幸村の耳元に口を寄せて囁いた。
235:新茶のころ(2/3)
09/06/15 16:40:42 bQai5i7OO
「佐助、お館様から新茶を賜ったぞ」
甲斐から上田城へ戻ったばかりの幸村は、留守を守らせていた佐助を呼ぶなり、うきうきとした様子でそう話した。
良い香であろう、と幸村の掲げる包みからは、なるほど青い茶葉のさわやかな香りがする。
「お、良いね。きっと上等のだ」
「そうだろう、早速頂こうではないか。佐助、頼む」
そう言って幸村は佐助に茶葉の包みを渡す。つまり淹れてこいということだ。
「はいはい…。全く、忍にこんなことさせないでくれよ、腹いせに黴びた古い奴淹れちまおうかな」
「何を申すか、そもそもそんな古い茶など取っておくな」
「だって勿体無いじゃないの」
「貧乏性だな。淹れての後は 古茶知らぬ、だ」
幸村の楽しそうな言葉に、佐助はちょっと驚いた顔をした。
「どうした」
すると、佐助は堪えきれなくなったようにくっくっ、と笑いを漏らした。
「な、何だ気味の悪い」
戸惑った様子で幸村が言う。
「ちょっとアンタ、その歌どこで覚えたの」
「この歌か?『新茶の茶壺よのう 淹れての後は 古茶知らぬ 古茶知らぬ』であろう、城下で聞き覚えたが、何かおかしかったか」
「ああ、うん。旦那じゃ解らなかったか。あのねぇ、この歌は…」
佐助はに
236:新茶のころ(2/3)
09/06/15 16:41:22 bQai5i7OO
新茶の茶壺よなふ 入れての後は こちやしらぬ こちやしらぬ
幸村が口にしたのは、歌の表の解釈だ。
しかしこの小唄は、裏の解釈で世に広く通っている。
「古茶じゃなくて此方や、だよ。茶壺は女の胎、入れるのは男の魔羅さ」
「なっ」
幸村は一声叫ぶなり、ばっと弾かれたように飛び退いた。
顔にはみるみるうちに血が昇り、額の鉢巻よりも赤くなる。
「は、は、はははは破廉恥なっ!」
わなわなと震え頭を抱えてうろたえる様子に、ついに佐助は声を上げて笑った。
「あははは、アンタは本当に初心なんだから!」
「か、かように破廉恥な歌とは知らず口にしてしまうとは、不覚でござる…」
「小唄なんてだいたいそんなもんでしょうに。ま、俺様しか聞いてなくって良かったじゃない」
佐助はそう言ってなだめようとするが、幸村は首をぶんぶんと横に振る。頬を冷や汗が伝い落ちた。
「実は…茶葉を賜った時に、お館様の御前でも歌ってしもうたのだ」
「…あらま」
「あのときお館様があれほどお笑いになったのは、そういう訳でごさったか!
うわあぁぁぁ叱って下されおやかたさまあぁぁぁぁぁぁ!!」
237:新茶のころ(3/3)
09/06/15 16:43:21 bQai5i7OO
幸村はいよいよ炎を出さんばかりに熱くなり、絶叫して床をごろごろ転げ回る。
「旦那、旦那。大将はそんなこと気にしちゃいないって…って聞こえてないな」
佐助はひとつ溜め息を吐き、幸村の悲鳴を後ろにそっとその場を離れた。
湯は茶釜の中でよい具合に煮立っている。
紙の包みを開けば、初夏の芳香がふわりと立ち上った。
「旨いからって飲み過ぎないでくれよ」
「わかっておる」
「寝付けなくって夜中に鍛錬でも始められたら、騒がしくってみんな眠れないし、」
「うむ」
「だからって床の中にじっとしてたら、絶対さっきの事思い出して騒ぐだろうし」
「そ、それを言うなっ」
幸村が恥ずかしそうに手を振り上げるのを、佐助は笑って受け流す。
「はいはい。さ、入りましたよ、旦那」
今日は平穏な日である。
238:風と木の名無しさん
09/06/15 16:44:32 bQai5i7OO
携帯から失礼します。
(;・∀・)つ皿 □ STOP
正味、幸村に破廉恥って言わせたかっただけです。
ありがとうございました。
239:風と木の名無しさん
09/06/15 16:48:28 kLvsCVf30
>>233-237
読んでてニヤニヤしてしまった
可愛い話をありがとう
240:風と木の名無しさん
09/06/15 18:30:00 B4Pc5g2lO
武田軍かわいいよ武田軍
GJでした
241:風と木の名無しさん
09/06/15 20:27:16 E3pwY0ei0
>>228-231
エロピアニストの破壊力は半端ないっすね!
それで会わなくなったのか〜と脳内ではもう確定ですw
242:風と木の名無しさん
09/06/15 23:05:52 XvpYXGvn0
本日の公開処刑は、青空無罪×大阪府大芸人です。
時間軸は先生がちちん○い○い火曜組だった頃です。
今更すぎ&愛方以外の攻なんかあり得んと思ってたのに、ちきしょう保管庫め。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
243:I'm in inferno with you 1/8
09/06/15 23:07:36 XvpYXGvn0
“むばたまの夜の寝覚めの朧月 花踏む鬼(ひと)の名を問へば 夢幻と答ふなり 夢
幻と答ふなり”(浄瑠璃「鬼闇櫻玉琴」)
「二人だけこの世に残して、みんな死んだらええのにな」
ぼくの裸の肩に頭を凭せかけて、蠍座生まれの愛人は物騒な台詞を呟いた。
「真剣に好きやのに、不倫や言われて非難される。ぼくはただ八代さんが好きなだけや
のに、ホモや言われて笑われる。二人とも、自分のしたい仕事やってたらたまたま有名に
なっただけで、他はべつに普通の人と変わらんのに、芸能人やいうだけで、ちょっとした
間違いを人でも殺したみたいに袋叩きされる。いっそのこと、誰もおらんようになったら
ええ。そしたら、堂々と愛しあえるんや」
いなくなればいいって、君の本当の恋人の宇治原くんもかい、と尋ねようとした唇を、
彼の柔らかな唇が塞いだ。生きているような舌が口腔内を暴れ回り、上顎や頬の裏側まで
ねっとりと舐め尽くす。
「それとも、ぼくらが死にましょか?新曽根崎心中と洒落こみます?」
乱暴にして繊細なキスを貪った後で、妖しい瞳が顔を覗きこむ。刃物を握ったふりをし
た手が喉笛に当てられる。どこまで本気なのかわからない危険な光がその目に宿り、二の
腕がざわざわと粟立った。
「大スキャンダルになるよ」
殊更に冗談めかしてそう言って、彼の頭を抱え、今度は自分から唇を重ねた。
彼はふふっと笑って、しれっと言ってのける。
「そうなったかて、その頃にはもうぼくらはこの世におらへんのやから関係ない。でも、
どんな騒ぎになるか、見てみたい気もするな。インターネットでも『祭り』やろうな」
とんだ小悪魔を相手にしてしまったものだ。
いつかの蒸し暑い夏の夜、京都の旅館でのことだったか。床も延べず、服も脱がずに、
畳の上に組み敷いた彼のTシャツだけを捲り上げ、言われるまま、延々と何十分も乳首だ
けを責め続けさせられたことがある。彼は歓んでくれたけど、ぼくには結構な拷問だった。
妻にさえ、ここまで献身的な奉仕はしてやったことがない。
244:I'm in inferno with you 2/8
09/06/15 23:08:25 XvpYXGvn0
「んっ・・・・あっ・・・・そう、それ。親指で・・・・してみて。もっとして」
「こんなとこ感じるの?菅くんて女の子みたいだね」
いい加減草臥れ、早く挿入させてほしくて、呆れたように言った。性器への刺激でもな
いのに、よくそんなにきゃんきゃん言えるものだ。
「うん、よう言われる・・・・やっ、そんなやらしいいらい方せんといて。もう、先生のエッ
チ」
「自分がやれって言ったくせに。よく言われるって、宇治原くんにかい?」
彼は含み笑いして答えず、Tシャツの裾を咥えてみせる。悪戯っぽい上目遣いで挑発的
に見つめられた瞬間、ぼくのジュニアは限界まで充血して、スラックスを突き破らんばか
りになった。
お願いだからもう入れさせてほしいと、一回り下の同じ辰年生まれのお笑い芸人に向かっ
て、泣くように頼んだ。
「あかん。まーだ。もっとぼくを気持ちようさしてから」
彼は赤んべをする。宇治原くんも日頃、こんな風に足蹴にされているんだろうか。
「こんなこと、誰に教わったんだい?やっぱり宇治原くん?」
「へへーっ」
「君は女を知ってるの?」
唐突にそう尋ねた。彼はまじめそうな顔をしているけど、実はカキタレ(芸人のグルー
ピーの中で、性欲処理をする女性)も多いとか、辛い噂も幾つか耳にする。でも、飽くま
でぼくに限って言えば、彼からは微塵もそんな気配を感じない。それは、彼とこんな関係
になる前、彼と相方が恋人どうしだということを知る前から思っていたことだ。
遊びだろうが真剣な恋愛だろうが、そもそも、この青年が女性を抱いている所というの
が、どうしても想像できない。あったとしても、まるで、女どうしで睦みあっているよう
だろう。
彼は息を弾ませながら、殊更に胸を突き出すようにする。
「ええやないですか、そんなこと。ほら先生、お手々がお留守ですよ!」
「今まで何人くらいの男に抱かれたの?」
「あいつと先生だけですよ」
「嘘つき。その顔と体で伸し上がったんだろ」
闇のパーティのメインディッシュとして、泣きながら、無数の好色な目に、手に、舌に、
素裸の体を撫で回される彼の幻想。そういう絵は簡単に思い浮かぶから不思議だ。相方の
方だったら、それこそ吉本新喜劇になる所だが。
245:I'm in inferno with you 3/8
09/06/15 23:09:10 XvpYXGvn0
「失礼な。仕事は実力ですよ。だいたい、業界にそんなにホモばっかりおるわけないや
ないですか」
そのけしからぬ心象を読み取ったわけではないだろうが、彼はちょっとむっとしたよう
に、ぷっと頬を膨らませてみせた。
発言の前半部に関して言えば、確かにその通りだ。ぼくだって彼の舞台を観たことはあ
る。彼が宇治原くんの隣に立って、目と目を見交わしながら幸せそうに演技をする様子を
見るのは、彼らがキスやセックスをしている所を見せつけられるのと同じくらい苦しかっ
たけれど、でも、おもしろかった。脚本はみんな彼が書いているそうで、芸事に対する彼
の情熱と完璧主義には定評があるという。
しかし、後半部には全面的な同意はできない。ぼくだって、この年になるまで、まさか
男性を好きになるとは思わなかったのだ。人間は多かれ少なかれ、バイセクシャルな部分
を持っている、というのが今のぼくの私的見解だ。昔は男を抱くなんて、考えたこともな
かったけれど。
「先生、そんなしょうもないこと言うてる暇があったら、さっきみたいにお口も使て下
さい」
「しょ、しょうもない・・・・」
少し傷つきながらも、彼の胸に唇を寄せ、最前からの愛撫によって赤く充血した乳首を
掬うように舐め上げた。彼が背を反らせ、ひっ、というような声を洩らす。左右の乳輪を
代わる代わる、柔らかくしゃぶる。凛々しい眉を切なそうに寄せたその顔は、感受性の強
すぎる、潔癖な少女が、身を切るような悲憤を堪えているようにも見える。
何の繋がりもなく、昼間彼と二人で見た、蓮華王院三十三間堂の仏たちが頭に浮かんだ。
薄闇の中、圧倒的な迫力で林立する、千一体の千手観音と、その配下の異形の者たち。訪
れる人はその中に必ず、見知った顔を見るという。
古の人は、これほど夥しい仏に、どれほどの悩みを託したのか。どんな救いを求めたの
か。仏は黙して語らないが、人の世は、人の心は、今も昔も変わらない。
長く法律などに携わっていると、しばしば、絶望的な厭世感と虚無感に襲われる瞬間が
ある。あのド図太い橋下くん辺りならそんなことは思わないかも知れないが。
246:I'm in inferno with you 4/8
09/06/15 23:10:14 XvpYXGvn0
「ねえ、ひろ」
胸から顔を上げ、ぼくだけの愛称を呼ぶ。宇治原くんでさえ、彼のことをこんな風には
呼ばないらしい。
「うん?」
「この世に生きるってことは、苦しみそのものだね。人は結局、ジョークやユーモアで
覆い隠すことでしか、その苦しみを忘れることはできなくて、でも、そうして笑い飛ばす
ことができるっていうことが、人間に与えられた最大にして唯一の強さなんだろうね。君
と宇治原くんは、立派な学歴を持ちながら、それを職業に選んだんだよね」
思わず、空気の読めないマジ語りをしてしまってから、しまったと思った。案の定、彼
は面喰らった様子で、
「な、何ですか急に。さっきぼくがしょうもないって言うたこと気にして、難しいこと
言わなあかんと思わはったんですか?それとも、もうほんまにおっぱい構うの邪魔くさなっ
たとか?」
最後の言葉について言えばかなり真実だが、慌てて手を振った。
「いや、そういうわけじゃないけど。ごめん、忘れて。君はまだ若いし、何もかも持っ
ているからわからないよね」
「身長以外はね」
と深刻そうな顔をするので、思わず笑ってしまった。
「バスケットやってたんでね、あいつと違て、チビなんが恨めしかったんですよ。まあ、
小回りが利くんで、みんなの足の間かいくぐってボールひったくるんが得意でしたけど。
先生にも見てもらいたかったな。
いや、ぼくなんか大したことないですよ。先生の方こそ、何もかも持ってはるやないで
すか」
そう言って、ぼくの大好きな、コロコロコロ、という甲高い笑い声を上げる。
そう。生まれた時から、明るく暖かい日なただけを歩いて来た。何一つ後ろ暗い点も、
罪も穢れもない、栄光に満ちた完璧な人生を送ってきたのだ。
昔、裁判官として人を裁いていたことがある。自分にはそうする資格があると思ってい
たし、弁護士に転身してからもそれは変わらなかった。人の悩みを解きほぐす力も、マス
メディアに登場して偉そうなコメントを述べる値打ちもある人間だと思っていた。
初めて彼を抱いた、あの日までは。
247:I'm in inferno with you 5/8
09/06/15 23:11:10 XvpYXGvn0
彼はふと遠くを見るような目になり、しんみりと言った。
「さっきの話ですけど、わかりますよ。ぼくかて、芸人やし、もの書きですから。いず
れは本も書きたい思てるんです」
無言で彼を抱きしめ、その愛しい唇に深く口づけた。ベルトを外し、ジーンズを脱がせ
ようとするぼくの手に、彼はもう抗わなかった。
ぼくは明日の朝一番で東京に戻らなくてはならない。今度はいつ訪れるかわからない、
黄金の一時。ほんの束の間の、恋人たちの夜。
古都の仏たちよ、目を逸らせ。
仕事に向かう車の中に、彼の歌う甘ったるいメロディが流れている。
「嫌や、聞かんといて」と散々言っていたけれど、彼が随分昔に出したというアルバム
を買ってみた。三組六人の漫才師で結成されたユニットで、当時、近畿圏ではかなり人気
があったらしい。勿論、宇治原くんも下手な歌を披露している。京大法学部だからといっ
て、音楽的才能があるとは限らない。
妻子と一緒の時はさすがに後ろめたくてかけられないけれど、普段の通勤時や、公判や
TV出演の行き帰りなどには、彼のお世辞にも巧いとは言えないソロ曲をエンドレスで流
している。これでも、血の滲む、どころか、血反吐を吐くような特訓をしたのだそうだ。
本業の稽古より大変だったらしい。
内容は、マイルドで他愛ない恋の歌だ。この歌を録音したのは、ぼくたちが出会うずっ
と前のことだ。その頃にはもうとっくに、彼は宇治原くんを愛し、宇治原くんに愛されて
いた筈だ。
作詞は彼ではないようだが、「語りあった日のさりげない言葉に力づけられてる」とい
うフレーズを含む一連の歌詞を、彼は誰のことを思って歌ったのだろうか。
風に弄ばれる木の葉のように、思いは千々に乱れるが、凄惨な刑事事件や泥沼の民事訴
訟を扱った後、彼のひどい歌にどれほど慰められたかわからない。時には妻の肌よりも、
料理よりも、また息子の声よりも、笑顔よりも、ささくれた心と疲れた体を癒してくれた。
青山の交差点で信号待ちをしながら、彼のアンニュイな鼻声に耳を傾けている。朝から
滝のような豪雨だ。フロントガラスに降りかかる水滴とワイパーとの果てしない攻防を眺
めながら、半月ばかり前の、那智での逢瀬を思い出す。
248:I'm in inferno with you 6/8
09/06/15 23:11:53 XvpYXGvn0
あの晩は二人とも、いつになく燃えた。夜の底に遠く轟く瀑布の音を聞きながら、彼は
ぼくの上に打ち跨り、普段の知的青年の面影など微塵もなく、汗塗れになってイク、イク、
と狂乱しながら普陀落に達した。或いは、ぼくの体に四肢を絡みつけ、喰い千切らんばか
りの締めつけでこちらを歓喜させつつ、腰を振り立て、快楽の果てに何度も奈落の闇へ堕
ちて行った。
今は遥かな西の空の下にいる彼を思う。「緩やかに流れる時間ばかりじゃない だけど
君の微笑みあれば何も要らない」と、ぼくが知らなかった頃の、ぼくを知らなかった頃の
彼は歌う。
信号が青に変わり、アクセルを踏んだ。誰の側にいてもいい。彼の心に憂いがなく、元
気で、微笑んでいるのなら、それでいい。
夜半過ぎ、ふと目が覚めた。脇を見ると、ぼくの腕を枕に寝息を立てていた筈の彼の姿
がない。
部屋を見回すと、一糸纏わぬ姿のままで窓辺に腰掛け、カーテンの隙間から外を見てい
た。
彼の側に立った。大阪湾の上空に浮かぶアメジストの月が、仄白い頬を伝う涙に宿って
いる。
「ひろ・・・・どうして泣いてるの」
蘭の花の強い香りが立ち籠める中、そっと、後ろから彼を抱きしめた。彼はぼくの手に
手を重ねながらも、かぶりを振って答えない。彼の裏切りなど夢にも思っていないであろ
う、やさしい恋人の面影を月に重ねていたのだろうか。
不意に、激情が胸に込み上げた。殺したいほどの憎しみと、彼の為ならいのちを捨てて
もいいという愛しさが入り交じって、怒涛のようにぼくを呑みこみ、圧倒した。
「今は忘れてくれよ」
「え?」
「忘れろ、宇治原のことなんか!」
何という奴だろうかぼくは。自分だって、妻のことをすっかり忘れて彼と寝たことはな
いくせに。
249:I'm in inferno with you 7/8
09/06/15 23:13:30 XvpYXGvn0
「おまえは俺のものだ。俺のことだけ見てりゃいいんだよ!」
引きずるようにしてベッドに連れ戻し、力ずくで押し倒した。生まれたままの裸身が無
防備に曝け出され、彼は恥じらいを示して、秘所を手で覆い隠し、長い睫に飾られた目を
伏せた。既に何度も肌を重ね、互いの最も動物的な姿を見せつけあった後でも、そうした
慎みを決して忘れない彼の奥床しさを、ぼくはこよなく愛する。
髪の毛を掴んで、荒々しくキスを奪った。ぼくの勢いに戸惑いながらも、頭と背中に手
を回してきて、力強く、誠実に応えてくれる。
足を開かせた。すぐさまあの温かい、ぬらぬらと湿った肉の洞に押し入って、めちゃく
ちゃに突き上げ、掻き回したいという凶暴な破壊衝動を辛うじて堪える。
代わりに、片足を肩に掛け、太腿の内側に唇を這いずらせて、背徳の緋文字を刻みつけ
た。今まで、痕を残さないだけの理性は保ってきたのに。あの男が見つけても、それによっ
て彼が、延いては自分が、どんな苦境に立たされても、もう構わなかった。
彼の最も男性的な部分が、かわいそうになるくらいに固くそそり立ち、血管を浮き上が
らせて戦いている。彼の繊細な美貌に全く見合わない、その猛々しさ。先端から透明な雫
を滴らせるその様子は、彼のその部分が泣いているようにも、また、その身が燃え尽きる
まで蝋涙を流し続ける蝋燭のようにも見える。
「いや、見んといて・・・・。見たら・・・・あかん」
細い声で訴えかけるのを無視して、熱い息を吹きかけた。両手でそっと根元を包み、先
端を軽く咥える。チュッチュッと唇を鳴らして吸い上げ、舌で前後に転がすようにすると、
ひくっ、と身を震わせ、子供のようにいやいやをする。
濡れた指で、ゆっくりと時間をかけて、奥へ通じる所を揉みほぐし、押し広げた。
「ひろ、入っていい?」
「はよ・・・・早う、ちょうだい、八代さん」
月明かりの差しこむ白いベッドの上で、ぼくは花を踏み荒らす。
250:I'm in inferno with you 8/8
09/06/15 23:14:03 XvpYXGvn0
英輝、ああ、英輝、死ぬ、死んでまう、もう、殺して、殺して!ぼくの背中を掻き毟り、
彼は何度となくそう泣き叫んだ。男二人分の体重に、ベッドのスプリングも悲鳴を上げた。
もしも彼岸というものがあり、この世の法で裁かれることのない罪を裁く力と権威を兼
ね備えた、大いなる何者かが存在するのなら―。
上等だ。ぼくは彼と共に、六道を巡ろう。
だってこの世には、今という時しかないのだから。ここという場所しかないのだから。
彼の星屑を宿す瞳も、肌の温もりも、こうして二人一つになって高みに上りゆく感覚も、
全て、ただ一度きりのものなのだから。
銀青の鱗を光らせて、ぴちぴちと跳ねる魚のように、彼の小柄な体が弾む。ぼくの愛が
彼の中にざあっと流れ出し、彼の愛にぼくの肌がしとどに濡れる。
「・・・・八代さん」
汗ばむ胸に頬を擦り寄せて、彼は囁く。
「ぼくはさっき、あいつのことを思い出してたんやないですよ」
「・・・・ああ」
嘘か本当かわからない。もうどちらでも構わなかった。彼がそう言ってくれた、という
だけで。
「ごめん」
頭を抱き寄せ、そっと瞼に口づける。
「気にせんといて下さい。お互い朝から忙しいんやし、休みましょ」
謎めいた弱々しい微笑みを見せて、ぼくにタオルケットを着せかけようとするのは、何
者か。天使か、悪魔か。菩薩か、夜叉か。
ぼくはその手を頑なに拒む。
「眠らない。寝かせない」
別の誰かの夢を見てほしくないから。
彼を俯せにさせた。うなじを軽く噛む。彼がシーツを握りしめ、深く息をつく。その白
い肩から背へ、背から腰へ、淡雪を解かすように、舌を伝わせてゆく。
Fin.
251:風と木の名無しさん
09/06/15 23:14:26 XvpYXGvn0
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
しかし、コキュという役所が妙に似合いますな。>京大出の人
252:風と木の名無しさん
09/06/15 23:25:22 GMb0vR7i0
>>207-216
予告で気になってたんだが映画見にいきたくなってきたよ
GJ!
253:風と木の名無しさん
09/06/15 23:34:47 vKWee3JKO
落転投手×日公投手です
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
254:あなたがどんな人だって 1/2
09/06/15 23:37:55 vKWee3JKO
最近、自分の好調さに、少々ノリ気になってしまってる今日この頃。
今日も、ファンの皆さんの歓声と、監督からのお褒めの言葉が耳に残る中、帰り支度をしていた。
急に、扉をノックする音が聞こえた。
「・・・監督?」
「飲むさんやったら、もうお帰りやろ」
紛れもなく「あの人」の声だった。慌てて私服を正し、扉を開ける。
「樽゙さん!来てくれてたんですか!」「そ。今日は、完投おめでとな」
「ありがとうございます。・・・でも、どうしてここに?」
「ああ、頼んで特別に来さしてもらってん。心配すんな、嫁さんには『自主練長くなる』って送っといたから」
「・・・久々に、キャッチボールもしたいしな」「ああ、そうですね。すぐ出ますんで、待ってて下さい」
「行きますよー」
ボールを受けた樽゙さんのミットが、パシッと快音をたてる。この音を聞くのも、もうどれくらいぶりだろうか。
「樽゙さん、お子さんできて、どんくらいになります?」「せやなー・・・もう、1年くらいになるか」
「いいですよねー、樽゙さん。僕と2つしか違わないのに、もうお父さんじゃないですか」
「いやーでもな、赤ん坊相手ってのも、結構きついもんやで。たまには、手伝いに来てや」
「夜も込みでな」
思いっきり吹き出して、ボールを落としてしまった。
255:あなたがどんな人だって 2/2
09/06/15 23:39:34 vKWee3JKO
「多.仲お前、今の笑い方・・・お前もなんか考えがあったんやろ!何かかこつけて俺と寝たいとか、思うとったんちゃうんか!」
「いや、ちょ、言わないで下さいよ!」
「・・・まあ、図星ですけど。やっぱ僕、溜まってるっていうか・・・結婚して、息子さんがいても、僕は樽゙さんが・・・っ・・・」
言い終える前に、向こうから唇を塞がれた。
軽く触れるくらいだったけど、樽゙さんの体温を感じて、全身がぞわりとした。
「ありがとさんな、嬉しいよ」「樽゙さん・・・」
「最近はごめんな、でもしゃーないねん。もう嫁さんもせがれもおるし、今は家のこと、1番に考えとらんといかんからな」
「分かってます。・・・でも」
「たまには僕に不倫してくれてもいいんですよ?」
「お前なぁ!言ってええことと悪いことがあんねんぞ!」
「樽゙さん、超赤いっすよー!」「あほかー!」
256:風と木の名無しさん
09/06/15 23:42:21 vKWee3JKO
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
先日のインタビューでのスーパーツンデレにたぎって書いた
お仲間が増えたらいいな・・・
257:追伸
09/06/16 00:32:39 bkNX0kagO
日公は大阪出身だと聞いて、下手ですが頑張って関西弁っぽくしたつもりです
伏せ下手ですいませんでしたorz
258:風と木の名無しさん
09/06/16 01:25:18 G3n3GlJq0
お借りします。 オリジナルです。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
259:秘密 1/2
09/06/16 01:26:29 G3n3GlJq0
まだ震えが止まらない。
キャスは痩せているし、唇や眉にピアスをしていて、たまにアイラインなんて引いているから
エモだとか、ゲイだとか言われてからかわれていた。
そして、そうやって一番いじめているのがカイルだった。
カイルは女の子にモテるし、スポーツも勉強もできるという典型的な人気者だから、
皆カイルのマネをしてキャスをからかってた。
キャスはどう思ってたか知らない。彼はいつも、どうでもいいって感じで無視してた。
それが僕には何となく大人っぽく、かっこよく思えた。もちろんそんなことカイル達には言わないけど。
夕方の暗くなった校内。
レポートのコピーを安くあげようと、誰もいない司書室に忍び込んだことを後悔する。止めとけばよかった。
奥の準備室で物音がしたからといって、見にいかなければよかった。
隙間から見えたのはカイルとキャスの姿。二人っきりでいるなんてあり得ない。
最初は何してるのか分からなかった。ケンカして縺れ合ってるのかと思った。
キャスは辛そうで、ピアスが光る唇からは溜息がこぼれていたし。
大きな手がキャスの顔を掴んで引き寄せ、細い身体を抱きしめている。
椅子に座ったカイルにキャスが抱きかかえられている。キスしてる!?
260:秘密 2/2
09/06/16 01:26:54 G3n3GlJq0
僕はとっさにばれないように身を潜めた。気づかれてはいないみたいだ。
というか、二人とも夢中でお互いしか見ていない。
後ろにまわされたカイルの手は、Tシャツの中に滑り込み、キャスの背中をゆっくりとさすっていた。
キャスの身体が、それに反応するようにしなやかにくねる。
時折キャスがかすれたような声を漏らすと、すぐにカイルが唇を塞ぎ、静かになる。
部屋に響くのは、普段聞こえないような衣擦れの音、そして舌が絡みつく音だけ。
心臓の音が聞こえてしまいそうな気がした。
結局僕はコピーも出来ずに、こっそりと司書室を出て行くはめになってしまった。
なんなんだ? あの二人。震えが止まらない。頭の中がぐちゃぐちゃだ。
誰に言っても、信じてもらえないだろうな。
そう思ったら何だかほくそ笑んでしまった。
261:風と木の名無しさん
09/06/16 01:27:34 G3n3GlJq0
ありがとうございました。
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
262:風と木の名無しさん
09/06/16 13:46:46 sOcL24eTO
逆/転/検/事
マニダミマニです。
!!!マニィがほぼオリジナルなので苦手な方はご注意を!!!
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
263:最期に 1/3
09/06/16 13:50:19 sOcL24eTO
二重底の金庫からダミアンがそれを見つけたのは、殆ど奇跡と言っていい。
3人の検事や警察が、それこそ虱どころかミジンコだって潰しそうな勢いで探し回った後だ。
その後に書類の整理をしようとしただけのダミアンが、こうも簡単にそれを見つけるとは。
マニィだったらそれを厭味とからかいに唇を歪めながら「愛の奇跡」とでも言ったのかもしれないが、ダミアンはそこまで厚顔無恥には成れなかった。例えマニィが死んだ今であってもだ。
素っ気ない白い封筒に、「ダミアン」と宛名だけ書かれて、封すらされていない。大事だと思われなかったのか、封がされていないのだから中身はあらためたのか、ダミアンには分からない。
そこに書かれた神経質そうな尖った字は、明らかに見慣れた彼のもの。
「もし貴方がこれを読んでいるなら私は死んでいるのでしょう」などという、むず痒い程にありがちな書き出しに、彼はさぞ面白がってこれをしたためたのだろうという事は分かる。
ダミアンは思わず笑い、それから「捜査員各位様、これは個人的なラブレターです」という端書きに眉を寄せた。
自分が綺麗な死に方などできないことは承知していたのだろう。
黒い噂に常に晒され、あんな悪人面で「悪銭身につかず」だの「因果応報」だのと平気で宣う男だった。
最初はそれを悪い冗談だと思い苦笑し、その範疇にはマニィ自らも入っているのだと気付き呆れた。そんな彼をダミアンはダミアンなりに心配し、なによりそんな彼が好ましかった。
「私をこんな目に遭わせたのは、世界中の仲間の誰かなのだろうし、それが誰なのかは私もその時にならないと分からない。
黒幕の名を挙げるのは簡単だが、証拠もなければ君達が煩悶するのは分かっているからそれも止しておこう。
そもそも黒幕はやはり私なのかもしれない。ならば私からそれを聞き出すことに何の意味がある。
各々の職務に忠実であれ。是非捜査に励んで欲しい。
だからこの手紙は、私が唯一尊敬し、焦がれ、渇望したダミアンに送る。
貴方が精練潔白、処女の如く清いことは捜査員の誰から見ても明らかだろうから、敢えてそこに言及するつもりはない。もし疑われるようなことがあれば、彼らは私が思うより無能なのだろう。残念だ。」
264:最期に 2/3
09/06/16 13:52:49 sOcL24eTO
挑発しているのか面白がっているのか分からない文面を読みながら、やはり捜査員はこの手紙を見落としたのかもしれないと思う。寧ろ願う。
「さてダミアン。私が死んだ今、貴方がしなければならないことはただ一つ、ダイカイ像の廃棄だ。とにかく早急に手放すこと。
なにせ聖母の如く潔白な貴方のことだから、そういった薄暗いルートには疎いかもしれない。
しかし、貴方が私に勝てる唯一無二の類い稀なる取り柄は交渉術なのだから、なんとでもなる。いや、しなさい。
貴方が脱ぎ散らかしたジャケットを見たときの私の顔を想像してほしい。それくらい真剣な話だ。」
確かに般若か鬼か悪魔かというほど怒った顔は、ダミアンにも容易に想像できる。
彼はダミアンが書類に印を押し忘れたとか、或いは待ち合わせに30秒遅れただとか言うときですらほぼ同じ顔をしたのだけれど。
「貴方を大使にしてみせようと約束しただろう。私を無能な部下にはしたくないはずだ。
私の計画の最期を貴方に委ねるのは些か不安だが、私の最期の頼みだ。」
なにを勝手な、と思いながら、金庫に入れられた偽のダイカイ像に目をやる。
265:最期に 3/3
09/06/16 13:54:25 sOcL24eTO
今やこの像の価値は、隠し扉を持つことだけだ。手放すのは何も惜しくない。
元はそれはダミアンとマニィの二人だけで共有した秘密だったが、今となっては検事や警察の彼らにはバレてしまった。
その他の瑣末な彼との思い出は見てのとおり焼け落ちた。国のため民のためと望んだ大使の座は、意味を無くしたは大袈裟かつ耽美すぎるにしても、その夢の側に必ず在った男を亡くして随分色褪せてしまった。
「そして、この手紙は暖炉で燃やしてしまうこと。」
唯一残ったダミアンに向けられた手紙は、けして存在してはならないものだ。密輸団の指令書は読んだらすぐに燃やされるものなのだと言う。これはそういう類の物だ。
「燃やした後はどうするか、もしわからないなら貴方と過ごした時間は随分無駄に浪費されたことになる。」
「「暖炉の灰は片付けること」」
手紙の文面と一字一句変わらぬ言葉が口から漏れた。それを忘れたから君の死体を運んだ人間がわかったんじゃないか、と言い訳をしても、彼はたぶん嫌悪と軽蔑が混じった冷たい目でダミアンを睨むだけだろう。
「……君は、本当に酷い」
あと一つだけ、という但し書きと共に2枚目の便箋にしたためられたたった一行を見下ろし、ダミアンは苦笑した。
「ダミアン、手紙の最後に付け加える言葉も、分かっていないとしたらがっかりだ。」
署名と一緒書かれた、それこそありきたりな結語に、ダミアンはただ便箋を握りしめた。
「マニィ・コーチンより 愛を込めて」
266:風と木の名無しさん
09/06/16 13:55:21 sOcL24eTO
お邪魔しました!
□ STOP ピッ ◇⊂(・∀・ )イジョウ、ジサクジエンデシタ!
267:風と木の名無しさん
09/06/16 14:59:04 xL2ZvLbGO
>>262
禿げた禿げたつるっつるに禿げた
268:風と木の名無しさん
09/06/17 04:23:42 yxCMhw/BO
>>258
萌えすぎますた…
ありがとうございます
269:風と木の名無しさん
09/06/17 07:57:03 M6HlFZlD0
>>242
棚の姐さんたちのおかげさまで最近
大阪府大が常にエロく見えて仕方ないです
ごちそうさま
270:ハナチラ 赤音→伊烏 【後】 1/13
09/06/17 11:35:32 GtFezprp0
「刃鳴散らす」赤音→伊烏の過去話後編。前編は前スレ474-480。
ネタバレ気味、エロ皆無。マイ設定炸裂&将棋ルール無知につき御免。
長いので一度中断を挟みます。
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )ジサクジエンガ オオクリシマース!
--------------------------------------------------
「では」
「ああ」
布巾で手を清め茶で口内を流したのち、互いに姿勢を正し一礼。
「お願いします。お手柔らかに」
「安心しろ。もはや手心の余裕などない」
「ほんとですか? なら嬉しいんですが」
今度も先手は赤音、後手は彼。
時に黙して熟考し、時に他愛のない言葉を交わしつつ交互に駒を進めてゆく。
「師範代には先手必勝どころか、一度も勝てたためしがないものなあ」
7六歩―
「お前に師範代と呼ばれるのは、どうも慣れないな」
―4四歩
「昔みたいに、伊烏さん、なんて馴れ馴れしく呼べませんよ」
4八銀―
「あなたはいずれ刈流の看板を背負って立つ器の方なんですから、もっと自覚を
持ってくださらないと困ります」
「大袈裟だな。俺ごとき若輩をそう持ち上げるな」
―3二銀
「自覚がないのは、むしろお前だろう」
「おれ?」
ああ本当に無自覚なんだなこの人は、などと考えていた当の相手に指摘され、
赤音の手がはたと止まった。
271:ハナチラ 赤音→伊烏 【後】 2/13
09/06/17 11:36:37 GtFezprp0
「ああ。最近の上達は目覚ましいと先生が仰っていた。俺も同意見だ」
彼に褒められた。
赤音の胸が一気に高鳴った。
「基本の修練を怠らず、己の特性をよく理解しているから応用力が高い。何より
咄嗟の反射神経がずば抜けている。もう同年代でお前に敵う者は居まい」
「あ、ありがとうございます!」
彼が自分の剣を認めてくれた。
たとえそれが師範代の務めに過ぎなくとも、赤音は天にも昇る心地だった。
こんな彼の長広舌は稀という点でも感動的だが、それはまた別の話である。
「っと、す、すみません」
嬉しさにすっかり惚けていたことに気付き、慌てて次の手を打つ。
「慢心は禁物だが、今の自分の位置を知るのは悪くない。お前の先導があれば、
同輩や後進の者も励みになるだろう」
「はい! おれ、頑張ります」
勇む赤音に、うむ、と彼は頷き、
「弛まず精進し、他の門弟にも範を示してやって欲しい。だからな」
ぱちり。
音高く駒を置き、赤音の目を正面に見据えて言った。
「街に使いに出るたびに何かと騒動を起こすのはよせ」
「……肝に銘じます」
素行を改めよ、との迂遠な説教であった。
272:ハナチラ 赤音→伊烏 【後】 3/13
09/06/17 11:37:49 GtFezprp0
「もう、人が悪いですよ師範代」
よもや持ち上げて落とすなどという高等戦術を彼が駆使するとは思わなかった。
本題はそっちか。説教は勝手に絡んでくる馬鹿や言い寄る阿呆にこそ必要だろう。
内心やさぐれる赤音に、しかし彼は静かに首を振ってみせた。
「全て本当のことだ。お前は自分で思っているよりも強い。だからこそ、道を
誤ることなきよう心を鍛えねばならぬ、と先生も危惧しておられた」
そんな心配は無用だ。諭す青年を前に赤音は思う。
(道、か)
道ならば間違えようもない。見誤るはずもない。
なぜなら赤音の剣の道は、闇を貫く一条の光線さながら、くっきりと疑うべくも
なく、常に彼方の一点を指し示しているからだ。
目の前の一本道に迷うべき如何なる要素も存在しない。
一点、ただ一点のみを見つめて修行してきた。ずっと。
それで赤音が強くなったというのなら、それこそが赤音の正しい道だ。
もしもそれが邪道と謗られるならば、赤音にとって剣の正道などというものは
毫ほども価値を持たない。
「先生ほどの高潔な武人を俺は他に知らん。お前もあの方を模範に道を学ぶといい」
違う。
彼は何も知らない。わかっていない。
確かに師は尊敬すべき人格者だ。教えを乞うに相応しい武の達人だ。
けれども赤音の到達点とは似て異なる。
まして、原動力には決して成り得ぬのだ。
(おれの)
(おれの道は)
(おれの剣は―)
「おれの剣は、あなたなんです」
気付けば赤音は、胸に秘め置くはずだった熱情を吐露していた。
273:ハナチラ 赤音→伊烏 【後】 4/13
09/06/17 11:38:49 GtFezprp0
やらかした。
微動だにせぬ無表情の―虚を突かれて呆然と固まった―彼の前で、赤音は
猛烈な後悔と混乱に陥っていた。
何うっかり本音を口走ってるんだ。しかも文法的に崩壊して意味不明だ。
普段は流暢に回る舌が錆付いて動かない。頭が真っ白だ。フォロー。フォロー。
凍て付いた彫像相手に、口をぱくつかせること数秒。
「――」
「…………あ、ああのですね! つまりはあれですその要するにおれにとっちゃ
あなたはいわゆるひとつのあれが剣の星だっていうか明日のためにその一というか
ああ誤解しないでくださいね別にあなたの猿真似したいってんじゃなくてそのゲホ、」
言語機能より運動機能が先に復活したらしい彼が無言で湯呑を差し出す。
「あ、どもすいません」冷めた茶を一気飲みし、「……つまり、ですね」
「―……俺が剣の目標だ、と?」
「……ぶっちゃけそうです」今の自分は耳まで赤いに違いない。
「……そうか」彼は眉間の皺を深くして表情を曇らせた。「悪いことは言わん、
やめておけ」
「なぜです」否定など聞きたくなかった。「さっき後輩に範を示せと言ったのは
あなただ。ならおれがあなたの背中を追って何がいけないんですか」
稽古場で初めて会った日。一目見たときから彼の剣に恋していた。
才が花開く前の拙い剣技に宿る、他の誰とも違う輝きに魅せられた。
「馬鹿な夢と笑ってくれて構いません。あなたみたいにおれも、おれだけの剣が
欲しいんです。あなたが誰にもない、あなただけの剣を持っているように」
言ってから、赤音はまたも口を滑らせたことに気が付いた。
叱責が来ると思った。未熟者が論評家気取りの口を利くな、と。
返ってきたのは予想外の問いであった。
「いつから―知っていた」
驚愕を声に乗せ、彼は瞠目していた。
まるで何かの禁忌でも暴かれたかのように。
274:ハナチラ 赤音→伊烏 【後】 5/13
09/06/17 11:40:01 GtFezprp0
彼の不可解な態度の意味は判じかねたものの、赤音はただ真実を答えた。
「もうずっと前です」彼と出会ったのは入門してすぐの頃だ。
「……そうか」彼は深く溜息を吐いた。「人目には常に注意を払っていたのだが」
「……師範代」
「しかし同じ道場で暮らしていれば、隠しおおせるものでもないか」
「…………あの」
「折り入って頼む、赤音。先生や皆には内密に―」
「師範代?」
「なんだ」
「なんの話です?」
二人の間を吹き抜けた涼風が、りん、と風鈴を鳴らした。
†
……何やら自爆した格好の彼が自首犯よろしく訥々と白状したところによると、
深夜皆が寝静まった頃合を見計らって、人知れずある特訓をしていたものらしい。
「……俺にも夢というか、な。野望がないわけではない」
ぼそりと呟きめいた告白に、赤音は少なからず驚いた。およそ野心などという
ものとは最も縁遠い人だと思っていたのだ。そういえば、彼が何を思って日々
鍛錬に打ち込んでいるのか、肝心なことを自分は何も知らない。
普段彼に軽口を叩いてはいても、互いの夢や理想について語り合うことなど
赤音はこれまで一度もなかった。資格の有無を己に問うたことさえなかった。
天の高みに冴え光る月が、いきなりすとんと目の前に降りてきたような不思議な
心地だった。
「聞かせてください」どぎまぎする内心を押し隠して訊ねる。
「笑わないか」
「約束します」
―勝利への飽くなき希求。そのための新しい方法論の模索。流派に囚われぬ
既存の型の改良と応用。新技の考案と実用化―
静かな口調に熱意を秘め、彼は己の抱負を語った。
275:ハナチラ 赤音→伊烏 【後】 6/13
09/06/17 11:41:12 GtFezprp0
「刈流兵法の末尾に俺の技を連ねる、などと望みはすまいが……古の技を学ぶに
とどまらず、いかなる強敵にも常勝を期する戦法をこの手で完成させたい」
なるほど彼は、毎夜密かに新技の開発に励んでいたのだ。
流派に拘らぬ発想とは、場合によっては刈流の否定にも繋がりかねない。師が
聞けば、道半ばの青二才が徒に刀刃を弄ぶな、と激怒するのは目に見えている。
最悪の場合は破門だ。師範代の彼が門弟への影響を恐れたのも無理はない。
「それが、あなたの夢なんですね」赤音には、勝つための高みを目指す彼の貪欲な
姿勢は全く正当なものと思われた。「それで、その技はどんな?」
彼は、ん、と少しの間ためらった末、口を開いた。
「……そうだな……実を言えば行き詰まっていた。もし欠陥があれば指摘して
くれるとありがたい。……聞いてくれるか」
「ええ。ぜひ」
「……世話を掛ける。……まず―」
――魂の震撼、としか形容しようのない衝撃だった。
「……それは」
戦慄と高揚。全身を貫く相反する感動に絶句し、知らず身震いが起こる。
やはり自分の直感は正しかった。赤音は今こそ確信する。
伊烏義阿こそは真の天才。闘刃の化身だ。
刈流がベースでありながら全く新しい形にまで昇華した、異形かつ必勝の型。
常人には及びもつかぬ逆転の発想。
実現すれば無敵に近い、まさに剣術の極北。
いみじくも彼の言う通り、兵法書に新たな頁を書き加えることは不可能だ。
彼自身の類稀なる才能と磨き抜いた技術のいずれが欠けてもこの技は成立しない。
ロジックのみを語り伝えたところで後世の誰に再現できよう。
この世で彼のみが振るうことを許された、それは魔剣だ。
赤音を魅了した剣の至極が、今まさに結晶しようとしている。
276:ハナチラ 赤音→伊烏 【後】
09/06/17 11:42:12 GtFezprp0
[][] PAUSE ピッ ◇⊂(・∀・;)チョット チュウダーン!
続きはのちほど投下させていただきます。
277:ハナチラ 赤音→伊烏 【後】
09/06/17 14:46:17 GtFezprp0
|>PLAY ピッ ◇⊂(・∀・ )再開します。
278:ハナチラ 赤音→伊烏 【後】 7/13
09/06/17 14:47:16 GtFezprp0
だが、と。赤音は思う。この魔剣には―欠陥がある。
致命的、あまりに致命的な。彼の天賦の才や努力では埋めるべくもない欠陥が。
「―やはり、無理があると思うか」
問われてはっと我に返り、赤音は努めてゆっくりと、言葉を選んで答える。
「……そう……ですね。ひとつだけ、大きな穴があります。それは―」
「それは?」
一拍の間を置いて、赤音は悪戯めかして片目を瞑ってみせた。
「練習相手の不在です」
ぽかん、と盲点を突かれた様子の彼を見て、あはは、と破顔する。
「おれでよければ手伝わせてください。人目に付かない特訓場所も知ってます。
斬られ役でもなんでもやりますよ。もちろん真剣以外で、ですけど」
「赤音……」と、彼は思い直したように首を振る。「……いや、駄目だ。お前まで
俺の酔狂に付き合わせるわけにはゆかん」
「水臭いですよ今さら。聞いたからにはおれも同じ穴の狢です。先生にも皆にも、
誓って他言しません。大事な夢を、酔狂だなんてどうか卑下しないでください」
「だが―」
「理論上は完璧です。確かにあなた以外には絶対に無理ですけど。実際の人間を
相手に練習を重ねればきっと、いえあなたなら必ず成し遂げます。おれにできる
ことはなんでも言ってください。おれも、あなたの夢を見てみたいんです」
「……赤音」
かなりの葛藤を見せたのち、意を決したように彼は右手を差し出した。
「……ありがとう、赤音。恩に着る。よろしく頼む」
笑顔で彼の手を握り返しながら、赤音は彼の心の鈍感さに初めて感謝した。
†
あれほど楽しみにしていた彼との勝負だというのに、有耶無耶になった一局の
仕切り直しに臨む赤音の心境はひどく沈鬱だった。
対面で棋盤を睨み黙考する青年を複雑な思いで眺めやる。
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