モララーのビデオ棚in ..
158:風と木の名無しさん
09/06/13 22:56:35 CZeak0XC0
ナマ 初投稿です
/ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| 一角獣 太鼓 × 唄です。 なれそめから現在まで。注:解散時ネタあり。
____________ \ / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| __________ |  ̄ ̄ ̄∨ ̄ ̄|
| | | | \全部で28レスいただきます。規制の様子を見つつ投下しますね。
| | |> PLAY. | |  ̄ ̄∨ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
| | | | ∧_∧ ∧_∧ ∧∧ ドキドキ
| | | | ピッ (´∀` )(・∀・ )(゚Д゚ )
| | | | ◇⊂ )( ) | ヽノ___
|  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ | ||―┌ ┌ _) ┌ ┌ _)⊂UUO__|| |
| °° ∞ ≡ ≡ | || (_(__)(_(__). || |
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
159:Wonderful days 1/28
09/06/13 22:58:43 CZeak0XC0
「君/は僕を 忘れ/るから そうす/れば/もうすぐ/に君に会い/にいける」
あんな詞を書いたのは、実は自分を忘れて欲しくなかったからだと
今なら素直に認められる。
あんたに本当に忘れられてしまうのがこわくて、オレは強がっていたんだ。
シングルの発売後に案の定、ぶしつけに質問してくるヤツが何人もいた。
「『僕らは離れ/ばなれ……』っていう出だしからして何か意味深ですよねえ。
この曲は、先に脱退したリーダーの川ニシくんに向けてのメッセージですか?」
オレは分かりやすすぎる馬鹿をしてしまった自分に、ホトホトうんざりしながら
「全然違いますよ」と、その度に答えた。
オレより6コ年上のかわにっさんとの出会いは、オレが十代をそろそろ終える頃だった。
故郷の街でちょっとは知られてた二つのバンドが、あいつのバンドとオレのバンドだったんだ。
特にあいつのバンドは、アマチュアながら全国のライブハウスを回れるぐらいの実力があり、あいつはそこのメインのドラマーだった。
情熱的で、客を感電させるようなその迫力あるプレイ。
無我夢中になって汗だくで叩きまくる姿。
前にいるボーカルよりも、その後ろのあいつから客は目が離せなくなるんだ。
しばらくして、あいつがロックをやめてサラリーマンになったと聞いた時は、もったいなさすぎるだろーと思った。
だから、うちのドラムが数日後のライブを控えてケガをした時、ピンチヒッターで叩いてもらえるようにと頼みこんだんだ。
急だったけどあいつは引き受けてくれた。曲の覚えも早く、相変わらず玄人はだしのテクニック。
ドラマーのタイプでいえば自己主張が激しく、派手でつっ走りがちなプレイなのに
他の楽器もまとめて引っぱってゆくような安心感がある。
その音に自分の声を乗せて思いきり歌う時の気持ち良さは、ハンパじゃなかった。
160:Wonderful days 2/28
09/06/13 23:00:12 CZeak0XC0
翌日、あいつは「お前の後ろで叩いてみたら、やっぱオレの人生にはこの道しかないと分かったよ」
と言って、すっぱりと未練なくサラリーマンをやめてしまった。
「このオレのすんばらしいボーカルが、あんたを目覚めさせたんだよな」
後でオレはそう言っていばった。
あいつはさっそく自分で新しいバンドを作ると宣言し、オレを猛烈に口説きはじめた。
「オレと大学ん時のサークルの後輩で、手シマっちゅうギターのヤツと組むんだ。
あとのメンバーも探してるんだけど、お前も一緒にやらん?
うちのボーカルに出来るヤツは絶対お前しかおらんと思うし、他の奴は考えられんのよ。
みんなでかっこいいロックを一緒に作ってこうぜ」
その時点では、オレは先に他の奴と新しいバンドを組む約束があったから、とりあえずは断った。
あいつは諦めきれないような顔をしていた。
でもさー、6コも年上の奴とじゃ、オレはお子様扱いされちゃうに決まってるしな。そんなの、このオレ様にゃ許せん。
でもなぜか、あいつの熱いまなざしがどうしても忘れられなくて。
いつも笑みを常に絶やさない。ニコニコ笑うと目がなくなるようなおだやかな笑顔が、誰もが持つ第一印象だった。
音楽に関してだけは激しくハードにとんがっていて、とても厳しくて融通のきかない男。
理想をオレに熱く語る時には真剣な影のよぎる、その涼しげな瞳。凛とした線の横顔。
約束していた相手に組む約束をおじゃんにされた時は(なんだよー、オレはもう先に前のバンドやめちゃったじゃん)
とは思ったものの、心のどこかではホッとしていた。
この事を聞けばあのかわにっさんは、また絶対にオレをもう一度誘いに来る。
もう、違うボーカルを入れちゃったらしいとは聞いたけど。
オレの方がそいつより絶対に顔も可愛いし、声だって断然スバラシイ。(はず)
(なにしろアイドルのオーディションにも全国最終審査まで残った事があるのだ)
あいつは必ず、オレをもう一度選ぶ。何度でも選ぶ。
161:風と木の名無しさん
09/06/13 23:04:40 GdlgDmtH0
支援?
162:Wonderful days 3/28
09/06/13 23:05:31 CZeak0XC0
当時のオレは自分の持つ武器を知り尽くしていた。
「オク/ダ/タミ才。チャームポイントは、長いまつ毛とベビーフェイスでーす」
生まれた時からして、病院でまる一日女の子に間違えられた。
(父親は電話で「女の子ですよ」と知らされたまま病院へ来て、ウチの娘はどれだと混乱したそうだ)
育ってからも、中性的な顔のせいでしょっちゅう女の子に間違われてばかりだった子供時代。
色白でまつ毛バサバサの大きな目、ちょい厚めの唇、クセッ毛でふわふわしたおかっぱ頭(注:母親の趣味!)。
なーんて可愛いらしいお子さんでしょうとよく褒められたけども、当時は自分じゃその全部が嫌いだった。
ちっちゃな頃からいつも泣き虫で気が弱かったオレは、毎日毎日何にでもおびえて泣いてばかりいた。
近所には一緒に育ってきたカッコイイ従兄弟が住んでいて、それこそ「すぐにとんできて」オレを守り、いつもそばにいてくれた。
同い年で、顔よし、頭よし、運動神経もパーフェクトの人気者。オレは何の才能においても従兄弟にはまるで勝てなかった。
小・中・高と当然のように同じ学校に進み、周囲からはまるであいつの可愛いおつきの子扱いされて。
高校でもあいつが生徒会長になったから、オレも副会長になった。
一緒にバンドを組めば、あいつはボーカルで絶賛されてコンテストでも賞を取り、オレはその横で下手なギターを鳴らしてた。
大好きだった幼なじみ。一緒にバカげた事をさんざんやったり、ふざけて遊びまわれて楽しかったけど……
オレはいつもひそかに、自分をあいつの付属品のように感じてなんだか情けなかった。
今も仲はいいがとっくに道は別れている。オレは高校を卒業してから、奴の後をついてはいかなかったんだ。
あいつはバンドをやめて公務員になり、オレはバンド活動を続けてボーカルへと転向し(ギターもひくけど)音楽の世界に残り続けた。
そして今は、オレ自身というものを熱望してくれる人もいるようになった。不思議なもんだ。
後々になって、従兄弟には何にも勝てなかったんだ、という話をすると、かわにっさんは
「そいつよりお前の方がずーっと才能があるんだ。だから神様は、お前をオレにひき会わせたんだよ」と言った。
163:Wonderful days 4/28
09/06/13 23:06:59 CZeak0XC0
しかし、いつの頃からだろう。
幼少時は可愛いとか言われてムカつきながらも、オレは育っていくにつれ、他の事での自信の無さもあって
このルックスをなるべく有効に使うすべを知っていった。
男相手でも女相手でも、ちょっと寂しげな目で意味ありげな上目遣いでじっと見つめてやって、ころっとオトせなかった人間はいないのだ。
その後でちょいと笑顔で甘えてやれば、ちやほやと面倒を見だす、貢ぎだす。こりゃラッキー。
(…それは従兄弟も例外ではなかったのかもしれん)
オレはこうして、ある程度は楽して生きて来たように思う。まあ弱者の生活の知恵ってやつだな。
これはカンだけども、あのかわにっさんも絶対、声だけじゃなくて、オレのこのルックスが好みのタイプ。
オレはそう信じて疑わなかった。
だから、やっぱりもう一度やつのバンドにと誘われた時、いいよってOKしてやったら
舞い上がって喜んでいるその姿を見て、ま、当然だな! と思った。
必要とされてるのは嬉しいんだけど、オレは所詮あまのじゃくなもんで。
「いくら他の奴を代わりにしようと思っても、お前のイメージがいつも頭の中で上書きしちゃうんだ。
オレがドラムを叩きたいのは違う、タミ才の声なんだ! ってずっと思ってた。
お前の声にはすごい力があるんだよ。幼い甘い声なのにもかかわらず、ずばぬけて通る。
デカイ音にも埋もれずに客へと突き抜ける、特別な力があるんだ。
それに自分でもよーく分かってるだろうけども、お前はルックスもとびっきり可愛い。
挑発的なのにおびえてるようなそのおっきな目と口元には、客の誰もがゾクッと魅かれるさ。
お前さえいれば、絶対に必ず、湯ニコーンは最高のバンドになる!」
こっぱずかしい事を熱ーく語られて、まあ嬉しいんだけども、人目のある飲み屋なのに周囲に恥ずかしかった。
164:Wonderful days 5/28
09/06/13 23:09:22 CZeak0XC0
バンド加入を承諾した数日後、愛用のギターを抱えて最初の練習に、教えられた貸しスタジオに行ってみた。
キーボードの女の子は、例の従兄弟が高校時代につき合ってたコだったので(なんたる偶然でしょーか)、おー元気かねと挨拶した。
もう1人、なんかオレよりももしかしたらアイドルっぽいんじゃないの? ってゆー顔した男が、ベースを抱えてボーッとしていた。
一応挨拶に行くと、「よろしくね。オレの事、E/BIって呼んでねー」とにっこり笑う。
オレと同い年。ギターの手シマ(○ッシー)のほうが、バイト先のライブハウスでの演奏を見て口説いて引き抜いたらしいが
もともと大学のバンドサークルの後輩でもあって、顔見知りだったらしい。
ヘヴィメタが好きだと言う割にはホンワカとした雰囲気の、天然ボケでおっとりしたいいコちゃん。すごく真面目そう。
かなりの童顔っていう共通点以外は、不真面目なオレとは何もかもまるで正反対な感じ。
その大学のサークルOBでもあるかわにっさんとも、やけに親しげな様子で楽しく語らっている。
男3人で先輩後輩の間柄だから、まあ当然っちゃー当然なんだろうけど。
……なんだよなんだよー。内心ちょっとむくれた。
オレは昔の反動なのか、自分が相手にとって一番じゃなきゃコンプレックスを感じてしまうガキだったから
あいつもオレだけを見てくれてなきゃ、嫌だったんだ。
急ごしらえでいくつか曲を作って練習し、適当に受けたオーディションで、あれよあれよとラッキーが続いて入賞。
引き取り手の事務所も見つかり、とうとう全国でのメジャーデビューが決まった。
オレらは上京して、最初は男達4人だけで同じマンションに住んだ。二部屋のを二つ借り、一人一部屋づつでの共同生活。
まずは、地道に客も来ない地方のライブハウスめぐりをした。
アルバムを出して、少しずつ雑誌や歌番組にも出はじめると顔も知られてきて。
そして気がつきゃいわゆる「アイドルバンド」とかいう変なものになっていて
追っかけの女の子達に、家までキャーキャーと追いかけられる異常な毎日がやってきた。80年代終盤のあの頃。
165:Wonderful days 6/28
09/06/13 23:10:48 CZeak0XC0
オレはこのバンドのフロントマンで、一番目立つボーカルなんだという自覚があったから
「皆の求めるキュートなタミ才のイメージ(笑)」をちゃーんと守っていた。
初ツアーでの衣装は、白地に赤いチェック袖のついたロンT。長すぎる袖で指先まで隠して、幼く見せた。
生地を切って膝小僧を出したジーンズ。大きめの靴。
ツンツンフワフワと少年のように立たせたヘアスタイルで、ステージ中を飛び跳ねまくって元気に歌う。
他の曲では色っぽく刹那に、退廃的なムードで目を閉じ、マイクを両手で握りしめて歌い上げる。
「ビショーネン」ともあろうものは、このメリハリとギャップの演出が大切よ。(爆笑)
このパイナップル頭は、あいつも「とてもお前に似合うよ」と言ってたヘアスタイルなんだ。
周囲にも、まるで高校生ぐらいにしか見えないねーとよく言われたっけ。
オレの頭をいきなり抱いてくしゃくしゃっとかき回すのは、いつものあんたの癖だった。
「タミ才は一人っ子の寂しがりやだからな。いーコいーコ」
「ふざけんなよー。髪を崩すんじゃねえ!」
毎日苦労してくせっ毛をスプレーでセットしていたオレは、いつもカンカンに怒って他の皆に笑われた。
そういえばあいつが、2ndアルバムのジャケット撮りの頃、ハードなロックを体現してみたとか言って
いきなり金のモヒカン頭にしてきた事がある。
他のメンバー全員がぶったまげて腰をぬかした。眉毛までうすーくしちゃってるし、コワすぎる。
他の皆の爆笑の中、オレは「変だ! そんなかわにっさんは嫌いだ! 最悪だー!」と怒鳴った。
ショボーンとなったあいつは、髪がのびるまで、プラベではほとんど帽子をかぶり続けて隠したのだった。
数ヶ月後、いかにも人のいい茶髪のあんちゃんに戻ってくれた時には、心の底からホッとしたオレだった。
いつの頃からか、あいつは今までの本名を逆さにした西カワという芸名に変えた。
字画がいいからとも言ってたけど、一番の理由はオレが「西カワ君のほうが『君』づけでもなんだか呼びやすいよねー」と言ったから。
〜クンって呼ばれる響きがいいと、妙に喜んでたっけなあ。年寄りだから同級生みたいで嬉しいんだろ。
結局、それから湯ニコーンでいる間はずっとその名前を使い続けていた。
166:Wonderful days 7/28
09/06/13 23:13:31 CZeak0XC0
ある日の取材で「バンドのアイドル性」とやらについて語った時だった。
あいつは冗談まじりに言った。
「もしタミ才の顔がわやくちゃだったら、オレは誘わなかった。あと、声がすごく通ってたってのもあるけどね」
○ッシーまで「最初はアイドル路線で売れ線を狙ったと言われても、やっぱ売れてとりあえず曲を聞いてもらわなきゃどうしようもないからなあ」などと言う。
ちっとばっかオレはむかついた。もう1人のビジュ要員だったEB/Iは素直にへーと聞いていたけどさ。
天才ボーカルを自負するオレとしては、最初から分かっててもそんなにハッキリと言われちゃあ、それもどうなのよ? って話だ。
ここらへんは複雑なのね。この顔もバッチリ利用して、世の中を渡ってきたオレだけどさ。
あー面倒くせえ、いっそさっさと早く年をとって、三十すぎのむさ苦しいオッサンになっちゃいたいぜ。
そうしたら客は歌のよしあしだけを聞いてくれるし、オレんちの郵便物を盗んだりする不届き女どもも減っていいのに。なんて思いつつ。
…その半面、西カワ君に、初対面から好みの顔だってやっぱ思われてたんだなって分かって、内心嬉しかったのは
自分じゃ認めたくなかったけども確かに本当だったんだ。
新しい歌詞が出来あがると、とりあえず誰よりもあいつに先に見せた。
あいつは作詞作曲の才能もあって、悔しいけどマジでいい詞を書くのだ。
だからオレのも見せて、ほめてもらうと自信がつくし、嬉しかった。
ある日、前からライブで歌ってたsug/er bo/yの歌詞をアルバム用に変えようとして歌詞を見せたら
「これさー、主人公はお前そのまんまって感じだなー」なんて言われた。
ホモだった男の子が、女の子からアプローチされても新しい恋に踏み出せないで戸惑っているってゆー内容だ。
「はあ? オレはホモじゃありませんけど?」と返す。
そりゃ、一時は女にうんざりして、もしかしてオレは男のほうが……なのかな?って思った時期も、実はあったけど。
(これを取材で記者に冗談半分に言ったらひかれましたので、懲りた)
今じゃ、イイ女にゃ全く不自由してない身。もう、好き放題のヤリ放題でございます。
167:風と木の名無しさん
09/06/13 23:15:35 pyQMtGqO0
しえん
168:風と木の名無しさん
09/06/13 23:17:58 GdlgDmtH0
もいっちょ支援?
169:Wonderful days 8/28
09/06/13 23:19:28 CZeak0XC0
「この『ダンディ達のターゲット』ってあたり、ストレートすぎだろ。 あっ! ダンディって、もしかしてオレの事書いてる?」
この人はなんでか知らんが、ソッチ系のジョークが大好きだ。こいつだって女はよりどりみどりのはずなんだが、なぜだろ。
(歌詞もけっこうそっち関係のを後々何作か書いている)
どこまで冗談なのか本気なのかはまーるで意味不明だが、オレをそういうネタでよくからかう。
「ボケとんかー。どこがダンディだ。あんたはただの、もーすぐ三十路のおっ・さ・んじゃろが」
オレが何を言い返してもおかしそうに笑う。
わざと怒らせたくてどんなわがままを言っても、暴言吐いちゃっても面白そうに笑うんだ。
それがなんだかくすぐったくて、またどうにもつっかかってしまうオレだった。
だからといって人よりのんきな男ってわけでもなく、どちらかといえば正義感が強い短気なところもあった。
買ったばっかの外車に、あほファンが「西カワクンの車」って傷をつけて書いてあったのを見つけた時も
「こんなんわざわざ書かんでも自分で分かるわ! ドアホがー!」とキレてた。
ま、そらキレるか。この人は自動車工学を専攻してたぐらいの超車オタクだ。
オレもかなりの車好きだから気持ちはよく分かる。やられたのがオレなら徹底的に犯人を見つけ出して、確実に蹴(ピー)
しかしそんなんされてもファン思いな奇特なヤツで、ツアー中の深夜にホテルの周りをうろつくバカギャルどもを心配して
『風邪をひくから早く帰りなさい。湯ニコーンはまた来ます』と書いた紙飛行機を、窓から下に飛ばしてあげていた。
えらいのう。優しすぎるぜ。オレは自分が興味を持てる妙齢の美女以外は全くどうでもいいし
人様の迷惑も考えないイカレたガキどもには、くたばれバーカと思っちゃいます。
中学時代にビー/トルズでロックに目覚めるまでは、内向的で友人もあまりなく、本ばかり読んでいた少年だったと言っていた。
ずっと自分の生きている意味とは何かを本の中に探し続け、結局その答えはロックで見つかったんだと。
170:Wonderful days 9/28
09/06/13 23:22:24 CZeak0XC0
紅一点だったキーボードが脱退してから、ずっと空いていたそのポジションに
もともと1stアルバム制作時からスタッフの助手をしていた、年下の元気な阿べB君が正式に加入した。
明るくて人なつっこく、下ネタが大好き。酒好きなオレと楽しく飲める、本当に気の合う奴だ。
すぐに大親友になり、以後何かとオレとつるむ事が多くなった。
作る曲のセンスもいい。
実に繊細なバラードと、アホの悪ノリとしかいいようのないバカ曲を、両方なんの矛盾もなく自信たっぷりに作ってきては披露する。
じゃあ歌ってみろよと歌わせてみれば、オレと声質がよく似ていてハモリの相性もばっちりだった。
楽譜もおこせるし機器使いもうまく、プロデューサー志望だけあって、仕事には徹底的に完璧主義な唯一のA型気質。
まるでオレらに足りないもの全てを神がつめこんで与えてくれたような奴だった。まあ、まゆ毛は太すぎるけど。
おかげで曲の幅も増え、やってみたかった事を具体的にどんどん自由に作れるようになってきたので
次のアルバムでは、自分らが面白いと思う曲ばっかを思い切って入れてみた。
タイトルも斬新に人の名字にし、ついでに一般人の爺さんの顔写真をジャケットにして遊んだら驚かれた。
結果は賛否両論。あいつらはまるでコミックバンドのように変わってしまったなんて言われて、それもどうよと内心思ったりもしたが。
以前、どっかのイベントの出番直前に、売れんバンドの不細工なアホに嫌がらせで絡まれ、シカトしていたら
「アイドルなんかロックの世界にゃいらねえんだよ!」といきなり殴られて
もう本番なのに顔を腫らすようなハメになった頃よりは、今のイメージのほうがずーっとマシな気がしていた。
翌年、馬鹿をやってたかいあって、好きな芸人の深夜番組に出演させてもらい、OPも2曲続けて任された。
さらに翌年、深夜番組の縁で、始まった新番組では阿べと二人での替え歌コーナーまで持たせてもらえる事になった。
そのおかげもあって「湯二コーン」は、面白い音楽をつくるけっこー面白い人達。そういう世間のイメージが強くなっていき
オレはいつのまにか、中性的なアイドルキャラのイメージからすっかり脱していった。
中にはがっかりした初期からのファンも多かったようだけど、知った事かい。
171:Wonderful days 10/28
09/06/13 23:25:14 CZeak0XC0
あれだけデビュー時は、いかに可愛らしくかっこよく見えるかばかりを気にしていたのが嘘のように
無精ヒゲは平気で生やしっぱなすわ、面倒になってキャップばかりをかぶるようになった。
ダラダラーと力を抜きっぱなしな私服でメディアに出てっても、まったく平気。
いやー本当にラクチンだ。人生はラクが一番なのだ。もうどうせこっから先は、年とっていくだけなんだから。
こうして、ルックスしか自信の無かった過去からはもうすでに脱したつもりだった。
酒の席で友達から「それって、いつかもっと自信をなくすのが嫌で今から先逃げしてるんじゃないの?」とからかわれて、グサッと来たりもしたが。
あんなのも、思い起こせばまだたった二十代後半に入ったぐらいだったんだ。青かった。
オレと阿べは、お調子者で馬鹿さわぎが好きな点において本当によく似ていたが、違う部分も多かった。
オレの場合、仲間うちだとやたらおしゃべりでツッコミまくるのは、本当は気も小さくて人見知りな性格の裏返し。
だから、初対面でもすぐに親しくなれる阿べとは違い、気心の知れん人の前ではひたすら黙りこくってしまいがちだった。
そこそこの仲間うちにだって、ある程度以上深く自分の内側に入ってこようとされると壁を作ってしまうんだ。
これは生まれつきの性格でどうしようもないから、開き直った。
開き直っちゃえば、取材でもご挨拶回りでもある程度はテケトーに笑ってふざけてればこなせるのだ。
本音はほとんど言わずに、相手をおちょくってうまくかわす。もう立派な大人だし。
そういうオレを、西カワ君は理解してフォローしてくれとった。
あの人も気さくによく喋る外面の半面、照れ屋で不器用なあたりは、本質的にオレと似た者どうしだからだ。
だからオレもあいつの取材には頼まれないのに、一緒に居座って喋ってやったりした。もちつもたれつカバーし合い。
ソロシングル企画の時のあいつのソロ取材でも、オレは自慢げに話している。
「西カワさんは僕がいないとよう叩かんのですよ」
「っていうか、叩く気がしなくてね。自分の歌だと」
あの頃までは信じてた。オレの歌じゃないと叩かない、オレだけのドラマーなんだって。
172:Wonderful days 11/28
09/06/13 23:26:49 CZeak0XC0
アルバムを作って、それのツアー。
その同じ繰り返しを重ねるうちに、リーダーとしてきっちりオレらをまとめていたあいつだけが
今のロックバンドとしてのあり方に、自分の理想とのズレを少しずつ感じていっていた事実に、他のメンバーは誰も気がつかなかった。
あいつ自身も皆と一緒にこのバンドの自由さをおおいに楽しんでいたのは確かなんだ。
あいつは、分かりやすい部分では開けっぴろげでオープンなおっさんではあるけども、自分の胸にある複雑な悩みは言わず
愚痴も一切他人に聞かさず、笑顔のままで自分の胸の内だけにしまうような人だった。
そしてその結果、いきなり大きな爆弾を落としたのだ。
晴天の霹靂Dayは突然だった。
「今日でオレは辞めさせてもらうよ。今までありがとうな」と静かに言い捨てたあいつ。
急遽、マネージャーも加えての話し合いがもたれた。
感情的に問いつめてくる他のメンバーには、ただ音楽的な方向性のくい違いだけを告げて。
「……アルバムも作り始めのこんな半端な時期だけど、今か今かとタイミングを見ていると中々思いきれないから、今やめる事にしたよ。
色々と迷惑をかけるけどごめんな。今まで、ほんとに楽しかった。ありがとう」
微笑んで俺たちに礼をいい、そのまま部屋を出て行った。
オレは最初から最後まで、その情景をボーッと見て、ただ耳で聞いていた。
信じられないから何の言葉も出なかった。
まいったな。こんな事ってあるか。
このオレには、事前に何も相談しちゃくれなかった。
いつだってそうだ。あいつには、途中経過とか途中報告というものがない。
思ったらすぐ行動。躊躇という文字は奴の頭には無いんだ。
こっちが本気で止めるヒマさえ与えないなんて。
おかしいだろ? 最初にバンドを作ったリーダーのくせに、1人で先にやめるなんて。
このオレを無理矢理に誘ってここに入れた張本人のくせに、ありえねえ。
173:風と木の名無しさん
09/06/13 23:29:43 pyQMtGqO0
支援
174:風と木の名無しさん
09/06/13 23:33:29 8uqHOr17O
][] PAUSE ヒ゜ッ ◇⊂(・∀・;)規制中 チョット
チュウタ゛ーン!
175:風と木の名無しさん
09/06/13 23:38:40 GdlgDmtH0
>>174
長編乙です
あんまり長くなるようだったら、
一つの作品を何回かに分けて投下するって手もあるよ(前編後編とか)
176:Wonderful days 12/28
09/06/13 23:47:16 8uqHOr17O
同じく呆然とした顔をしていた阿べが、ハッとしたように、あいつの後を追いかけて部屋を出ていった。
オレは追わなかった。ただ、傍らのギターを手にとり、ソファーで何曲も何曲もかき鳴らし続けて、待った。
あいつが「考え直したよ、ごめんな」と、頭をかきながら戻ってくるのを待っていた。
他の2人はボソボソと何かを話し合っていたが、その内容はオレの頭には入ってこなかった。
少しすると阿べが戻って来て
「駐車場まで追っかけていったけど、振り向いた時の目を見たら、何て言えばいいのか分からなくなっちゃってさ…。
もう車で帰っちゃったよ。あの人本気で辞める気だぜ。どうしよう」と言った。
オレを置いてけぼりにすんのか? いい度胸だな。
あーそ。 今じゃもう、このオレにもバンドにも飽きたんだ。
自分で作ったこのバンドもオレごとほっぽり投げて、なんの未練も無い訳ね。
心に大きくあいた風穴に、冷たい風が吹き抜けた。
あいつがいないこのバンドで、もう歌い続けてなんかいられない。そんな事はもう分かってた。
あいつのドラムはこのバンドのゆるぎない大地だ。
それがなければ、オレはここでいい花なんか咲かせられやしない。
でも、もういい年した大人が馬鹿なわがままなんか言えない。アルバムの発売は既に決定し、その後にツアーだってあるのだ。
考えているヒマはないから、どんどん残りのレコーディングは進める。
ドラムのパートは先にもう7割がた録り終わっていたのは幸いだった。
新しく助っ人に呼んだドラムのしー/たかさんは、有名なドラマーだしもちろんすごく優秀なプレイヤーだった。でも、何かが違う。
オレの心に火をつけるようなあの、轟き渡るような響き。それはあの人だけが出せるものなんだ。
ーーあの日、『西カワ君』という芸名の人間は永遠にこの世から消え、あいつは川ニシという本名に戻った。
177:Wonderful days 13/28
09/06/13 23:51:36 8uqHOr17O
あいつが一番だけ書きかけたままで残して行った作詞作曲の曲に、オレが二番の歌詞をつけることになった。
「素浪人」の下っ端同心をモチーフにした面白い歌詞なのだが、オレがつけ足した箇所はやっぱり何かが足りない。哀愁か。
あいつは、仕事は情けないがお人好しな男とか、ワガママ女の尻にしかれた男なんかの
ホロリと物哀しく聴き手の共感を誘う歌詞を書かせたら天才だったとしみじみ思う。
(そういう曲の、気の強い女のパートは、本人のご指名でいつもなぜかオレが歌わされたのだが)
そして結局できあがった歌の主人公は、一番では生真面目なサムライだったのに
二番では酒と女におぼれた仲間を思い出すわ、悪事もできないと嘆くような不真面目男になってしまった。うーむ。
しかし、なんて馬鹿げた共同作業だろう。
もうあいつはオレが足したこの歌詞を見て、なんだこりゃと笑ってくれもしないのに……。
落ち込んでいるのを悟られないように、意味もなく馬鹿笑いばかりしていたら、EB/Iにそっと手まねきされた。
「あのさー、明るく振る舞いすぎでお前、痛々しいよ? みんな逆に心配しちゃってる。
いいから周りを気にしないで自分に正直に悲しんでなよ。そのほうがマシだ。
なんだかんだであいつとはいろいろ絆の深かったお前だから、
ショックが一層でかいのも仕方ないけどさ。
阿べなんか、自分の受けたダメージよりもお前の状態ばっかり心配しちゃってて、すっかり自分のほうが鬱状態みたいだよ」
……さらに落ち込む。
皆は声に出して言わなくても、オレの心ここにあらずな態度で、この後のバンドの行く末を悟ってしまったようだった。
スタジオの片隅には、オレのドラムセットが放置されている。
まだあいつから習いかけだったドラム。
タミ才はスジがいいよと褒めてくれると嬉しくて、もっと頑張ろうと思った。
あいつのドラムセットは大きすぎてオレには叩きづらく、オレは自分用にと小さめのセットを揃えた。
一緒にツインドラムで叩く時にも「大小で並べると見た目がかわいいから」と取材でも答えてた。
そのオレのセットも、大きな片割れを失って、ポツンと途方にくれているように見えた。
178:Wonderful days 14/28
09/06/13 23:55:48 8uqHOr17O
つらかった。部屋で1人になると、ぼろぼろ泣いてばかりいた。
眠れなくて、やっとどうにか浅い夢を見れば、遠ざかっていくあいつの後ろ姿ばかり。
真夜中に叫んで自分の声で目が覚める。
悲しくて、胸がきりきりと痛くて、張り裂けそうだった。
みっともなくても本人に泣いてすがれるような人間だったら、こんなに苦しくはなかったのだろうか?
オレは1人逃避するかのように、奴への叫びを、いくつかの曲の歌詞に映して叩きつけた。
あんたがいたあの”すばら/しい日々”よ。
「それでも/君を 思い出/せば・・」
そんな時は何もせずに眠ってしまえば、眠ってしまえるのなら、この胸の痛みは、その間だけはなくなるのに。
春。そのタイトルでシングルにして、アルバムよりも先に発売した。
この曲のドラムは、やめる前に歌詞が無い時点で先録りしてあったから、あいつの演奏なんだ。
後からこんな歌詞がついたのを聴いて、ヤツがどう思ったのかはわからない。
カップリングは例の二番をオレが足した曲。(これは明らかに聴いたら吹いただろうと思うが)
ありがたい事に売れ行きも良かったが、そのおかげで街中でもよく流れて
それを聴く度に自らの歌声が自分自身をザクザク刺した。本当にバカもいいところ。まるで自傷行為。
「君は/僕を 忘れるから……」
本当にあいつは、きっとオレの事なんかもう忘れてるのかも。
オレも早く忘れなきゃ。
オレは周囲からどう思われようと、表向きは元気に元気にとふるまった。
考えない為には忙しくしてるのが一番。
休みには好きなプロレスを見に行きまくり、大好きな車もハイスピードでぶっとばし、欲しいギターをいくつも買って。
もう忘れるさ。忘れられる。
忘 れ た い。
179:Wonderful days 15/28
09/06/14 00:01:15 8uqHOr17O
ママ ママ とても/つらいよ
ママ ママ 涙が/出るよ
いつでも/そばに/いてくれた
あなた/は僕をもう/たすけてくれないの
あわれ/な僕は/すてられて
あなた/は僕をもう/たすけてくれないの
こわい/人たちに/わらわれる
僕を/ながめてなぜ/平気でいられるの ママ
『甘い/乳房』という、アルバムに入れる曲の一つ。
最初に歌詞を見せた時、読んでしばらく黙りこくった阿べは、ためらうように言った。
「これは……。あいつ、これを聴いたら、さすがにかなりつらいと思うよ? いいのか?」
「いい」
(苦しめばいいんだ。オレのほうがこんなに苦しいんだから)
他人を苦しめなんて思う奴、普段のオレなら軽蔑している。今のオレだってオレが嫌いだ。
本人に向かって言えない事を、歌でしかオレは表現できなかった。
この世で一番みっともない、情けない、…哀しい恋。
精神的に追いつめられて、こんな最低の状態になって初めて、これは恋だったんだと気づかされた。
捨てられて気づくなんて。
もう、生きていくのもつらかった。
180:Wonderful days 16/28
09/06/14 00:07:19 K2aMRhc3O
アルバムも無事に出て、春から夏には全国ツアーも全てをきっちりこなした。
あの歌を、叫びをしぼりだすようにして歌い上げる。
本当に一番聞いて欲しい人はここにいないけれど。
それを聞くファン達の悲しげな顔。悲痛にただただ祈るような様子を見て、彼女らも迫り来る予感におびえているのを悟る。
ツアー終了後、もう結果の分かりきっている「今後についての話し合い」も速攻で終わり。
内々に、昔からお世話になってる関係者のいくつかにだけ打ち明けてから取材を受けた。
「もう未練はないですか」
「不安でいっぱいですよ。西カワ君が脱けた時も不安でいっぱいでしたけど、今もまた不安で夜も眠れません」
もういいやと思って、本当の事を正直に答えた。
9月。深夜の特番ラジオのしょっぱなにおいて、解散を発表した。
スタジオには呼ばれた取材陣が集まり、カメラのフラッシュがたかれまくる。
いったんその方々には退席してもらったあと、番組は冗談のかけ合い状態で明るく進んでゆき
最後のほうで、あいつがメンバーとファンへと送ってよこした
メッセージのテープも流された。
活動期間の思い出と感謝の言葉が続く。さすがに全員が真面目な顔になり、静かにじっと聴いていた。
その締めくくりの言葉に、息がつまる。
「最後に、タミ才、お疲れさまでした」
……なんだよ。なんで、今更また、このオレにこういう言葉をくれるの。
胸の傷口は全然癒えてなんかいなくて、また、きゅうっとしぼられるように痛んだ。
番組はそのままCMに入った。
他のメンバーに涙目を見られないように、そっと後ろを向いて上を向く。
なんとか笑顔を作ってから体を戻すと、阿べがじいっとオレを見ていた。
181:Wonderful days 17/28
09/06/14 00:12:39 K2aMRhc3O
深夜なのにラジオ局の周りに集まってきていた大勢の群衆。その子らの泣き顔を見て、車の窓から手を振った。
さよーなら皆さんもお元気で。
そして、気がついたら「解散」というイベントはあっけなく終わっていた。
しばらくは何もしなくてよくなったので、いきなりポカンとスケジュールがあいた。
というより、全く、入れる気がなかったし。
色々な誘いもことごとく断り、ぼーっと、昔から好きな釣りだけをして、ひたすら何も考えないようにして過ごす日々。
そして、しばらくしてから、よいしょと立ち上がって、オレは一人で歌い続けた。
何年も何年も何年も、一人で、気に入りのギターを供にして。
(もう会えるかな、大丈夫だろう。強くならないと)
ソロの最初の曲では、あえてあいつをバックに指名してみた。
あいつのドラムがやっぱり好きだったからだ。
もう他のバンドを組んでいたあいつは、仕事の一つとして引き受けて、ちゃんと完璧に曲をこなしてくれた。
やっぱりすごく歌いやすい。
そりゃそうだ、オレの為にあるようなドラムだなってずっと思ってきたんだ。
……本当は、今だって思ってる。オレのだって。
オレのだよな? って、言いたい。
でもオレは笑顔で、助かったよとお礼を言って。
あいつも普通に、お前らしいいい曲だな。頑張れよと、あの溶けるような笑顔で励ましてくれた。
でももう同じバンド仲間としての言葉じゃないんだな。そう実感した。
昔みたいに自分の後ろで叩いてくれていても、遠い。
これからはオレ以外の人間の為にそうやって叩いていくんだろう。そう思うとつらすぎた。
(愛す/る人よ何処/へ行く 僕を残して/何処へ/行く)
182:Wonderful days 18/28
09/06/14 00:20:43 K2aMRhc3O
阿べは後になってオレに、解散前後の頃は、お前を見ていてオレは、実に実につらかったよと言った。
「オレだって解散は嫌だった。
でも、お前はこれ以上続けるなんて、絶対に無理だと分かってたしな。
自分じゃもう忘れてるだろうけど、あの頃のお前は毎日異常に飲んだくれてたんだぞ。ヤケ食いして太りだすし。
やめろと止めても、無理に吐くまでモノを食い続けてるのを見て……これは限界だヤバすぎると思った。
お前が壊れてってしまうのを横で見てるだけのオレが無力に思えて、悩んだわ。
かわにっさんは本当にいい人だよ。お前も大切な親友だ。
だからもう全てを終わりにするしかないと、解散を最後まで反対していた○ッシーを、オレは必死で説得したんだよ」
そして阿べは『もうあの頃の事は忘れたい。湯ニコーンという名前さえ、今は思い出したくもないんだ』と言い捨てた。
苦しかったのはオレだけじゃなかったんだ。
そしてやっぱり他の2人だって、ずっとひきずっているだろう。(そして、あいつだって本当は・・)
オレはあの頃、自分の苦しみだけでいっぱいいっぱいで、自分も他人も傷つけてしまっていた。
でもこのオレを先に傷つけたのはあいつだ。
あいつがいないままのあのバンドで、いない事をずっと感じながら活動を続けるなんて出来なかった。
でも今さら他のバンドを新しく組む気になんかならない。
だったら一人のままでいい。ずっと。
『ずっとバンドをやるでしょうね。それはタミ才にまとわりついてますよ、ずっと』
昔、オレの紹介記事でそう言ってたかわにっさん、知らなかったの?
あんたがいないバンドをつくるなんて、オレには無理なんだってことを。
そして、いつしか時はめぐりめぐった。世紀までも越えて、めぐりまくった。
オレはソロ以外にも二人組娘をプロデュースしたり、色々とユニットを組んだりと仕事に忙しく、また家族も出来たので
あっというまの遠い夢だったような感覚に、あの頃を思うようになっていった。
183:風と木の名無しさん
09/06/14 00:22:42 fNaxl1E50
紫煙
184:Wonderful days 19/28
09/06/14 00:24:57 K2aMRhc3O
気がつけば十五年という、長い長い時が過ぎていた。
ああまで当時をトラウマだと言って、思い出すのさえも一番嫌がっていた阿べが
何の心境の変化か、ヒョッと自分から言い出しっぺになって、まずあいつに持っていったという再結成話。
再結成という言葉は出さずに、「今の五人で新しい事をやってみよう」と言って誘ったらしい。
阿べらしい。
かわにっさんの心を動かすのはいつだって、新しく前へ前へ前進しようとする気持ちだと、あいつもよく分かっているからだ。
まあ同じ狭い業界、以前にも時々なんだかんだとフェスやイベント等で会っちゃあいたんだが
年末の居酒屋に三人で改めて向かい合ってみると、みんな揃いも揃って四十路の、中年もいいとこのおっさんになっていた。
いつのまにか全員デカイ子供のいる子持ちだわ、当のあいつはバツが一つ二つついて今だフラフラしている始末だわ、人生は波瀾万丈だわな。
しかしこの男は、なぜこんなにもまるで変わらないと思わせるのか。
飄々とした雰囲気も当時のままで、包み込むような笑顔が更に柔らかくなっていて。
オレの心までもあの頃に一気に引き戻されていく。
「タミ才。久しぶり」
やっぱりこの笑顔が好きだ。この低い声が好きだ。強い胸の痛みを感じる。
また一緒にやろうよ。って言ってくれた。
「今、この5人でまた新しい事をやろうって阿べが言ってくれたから、オレもやる気になったんだ。
もしタミ才がいいんならさ……」
いいよー、やろうよ。なんて、普通に普通に言ったけど。
オレのビビリな心臓は、すごくドキドキしていた。
嬉しいと何故かすごく怖くなるんだ。
185:Wonderful days 20/28
09/06/14 00:29:43 K2aMRhc3O
年が明けて、5人揃っての新年会。元マネも呼んで、再結成が正式に決まった。
今年はアルバムを秘密裏に作り、来年の頭に復活発表してから発売、その後に全国ツアーだと。
夏には昔みたいに地方でレコーディング合宿をした。
ふざけあって笑い合って、びっくりするような曲が出来たりして、とても楽しくて、まるで夢みたいだった。
その年の暮れ、まだ公には秘密だってことで、他のみんなは来年のソロ仕事予定をちゃんと自分のHPに書いていたけど
オレは「来年はソロ活動を休みます」って早々に書いてしまった。楽しみで眠れない遠足前の子供みたいに。
そして、年があけて、春。十六年ぶりのツアーが始まった。
歌うオレの後ろで奴のドラムが鳴り響く。
稲妻のようなすさまじい怒濤のドラミング。飛び散る汗、その壮絶な、色気。
いつだって強烈に魅かれてしまう。
その安心感。ついそこにいるかを確かめたくて、何度も振り返る。
他のメンバーや客にまでも、それがあからさまにバレちゃっているらしいけど……それでもいい。
全身全霊で叩くその姿は、まるで全ての音を支配する神のようだ。
振り返ればそこにいてくれる、目を合わせると笑ってくれる。
凄い演奏に、自分でも最高だと思う声を重ねた時にだけ訪れる
天啓のような瞬間は、まるでエクスタシーの絶頂のような瞬間。
やっぱりこの男のドラムは、最高にオレをイカせてくれる。
再び光を得たオレは強くなって、そして弱くなった。
またあんたに捨てられたら、オレはもう立ち直れない。
それ分かってんのあんたは。
誓ってよ。
ずっとずっとそばにいると。
186:風と木の名無しさん
09/06/14 00:33:17 MbCP1bor0
支援
187:Wonderful days 21/28
09/06/14 00:35:20 K2aMRhc3O
オレの胸の内なんてまるで知らずに
奴は、お得意のばっちりカメラ目線な流し目で、手にかざしたスティックに口づけると
ウィンクしながら振り上げて、そのキスを宙へと飛ばした。
モニターにうつるその姿に、会場中の女が目をハートマークにして息を飲み、悲鳴をあげている。
……なんか、男の客どもの声まで「オオー」とか聞こえてくるんだが、何 な ん だ 一体。
確かにちーとは男前かもしれんし? ドラムも天才ですけども。
しかし、もうすぐ五十だぞ。
(やっぱモテるよこの人。天性のタラシだねこりゃ)
新譜からの二曲に続いての三曲目は過去の曲で、かわにっさんの作詞でオレが作曲した「おか/しな/2人」。
昔からファンにも人気のある曲だったので、会場がすごく盛り上がった。
しっかし、なんか歌いながらも、女目線の歌詞に自分の気持ちが重なるのが情けない。
昔はまるで共感せずに歌っていたのに。
いらだ/たしい/程好きなの 振り向い/てもくれない
そう/悲しい/位に 愛し/てる
188:Wonderful days 22/28
09/06/14 00:38:00 fAfE8XRh0
♪かいしゃづ/とめもいつま/でー つづくか わか らな/い〜
ツアー後半、武道館最初の日。
かわにっさんが自分の持ち歌を歌って、代わりにオレがドラムを叩くという、担当が逆転する曲の最中の事だった。
♪あ し たーの/こと はー あーしたにな/らなきゃ わか/らなーい
脳天気に歌いながら、このおっさんはオレの後ろからヒョッと近づいてきて、オレの頭を抱くようにしてぐりぐりとなで回した。
昔とまるで変わってないこの癖。
もう髪なんか乱れたって、今じゃどうって事もないんだが
(だいたい今は坊主頭がちょい伸びた程度だから、乱れようがない)
しかし、自分でも自分の頬が一気に赤くなっていくのがよく分かった。
メインモニターにドアップでうつされているのに、最悪だ。
♪しあ わせー きょうもい/ただき
そのままマイクを向けられ、ラストはオレが「だー」と歌わなきゃいけないのに、変なうめき声が出てしまった。
ドッと爆笑する観客達。
終演後、楽屋に戻り、グラサンを外してまじまじと鏡で自分の姿を見た。
解散後十六年もの時が流れた結果、今のオレはタダの腰痛持ちの、ちょい太りがちな薄汚れたおっさんになった。
ここんとこのツアーで動き回り、さすがにまあ多少は痩せてはきたけども。
今日も、無精ヒゲを剃ろうが剃るまいが、まあどうでもえーわいとほっぼってある。
誰も今のオレの顔なんか気にしちゃいないし。そのまんまでいいのさ。
全てにおいて自然体に、シンプル・イズ・ベスト、それがオレの生き方。
なるようになれだ。
189:Wonderful days 23/28
09/06/14 00:40:04 fAfE8XRh0
なんて鏡をにらんでいたら、あいつの顔がひょいと自分の上にうつったのでギョッとする。
楽屋に入って来たのにも全然気づかんかった。
相変わらず、パッと見は若手みたいなイメージを保っている。
ちゃんと今風にセットしたサラサラの茶髪。細いけどドラムで鍛えられてきれいに筋肉のついた腕と上半身。
もう私服に着替えていったんどこかに行ってたらしく、メタ銀なスカルのついた黒Tに、細いブラックジーンズとブーツのスタイルだ。
なんでこいつは全然身体に余分な肉がつかないんだろ? あんなに人一倍食いまくってるのに、ズルすぎる。
まったく、最近では他人に「今では一番若く見えますよねー」なんて言われて喜んでいるのだ、この男は。
(見え見えのお世辞だっつうの。分かれ)
気にくわないので、オレはこいつがステージで「カッコイイー!」と客席の女から叫ばれる度に
「近くで見ると超おっさんなんですよ? もうすぐ五十です」と親切に教えてさしあげる活動を行っていた。
ついでに、EB/Iがカワイイーとか言われると「可愛くないぞ! 近くで見ると」と代返する活動もした。
(そうしたら「タミ才も可愛いよー」とか女どもが声を揃えてぬかすので、しかめっつらをプレゼントしてやった。
何が「も」じゃ。アホどもめが)
奴は、オレだけが楽屋に残っているので不思議に思ったようだった。
「おー、タミ才だけか。他の3人は?」
「おらんよ。○ッシーはいつもの通りさっさと帰ってったし、阿べは今日調子の悪かったアンプが気になるって見に行ってる。
EB/Iは…分からんな。さっきまでいたけど。そういやかわにっつぁん、あんたは今までどこ行ってたんよ?」
「んー、野ダ君が今日のブログ用に、オレと一緒の写メを二階席あたりで撮るっていうから、今までつき合ってたんよ。
なんかー、超かっこいいのが撮れるまでは何枚でも撮り直したいっちゅうもんだからさ。
あの子は今ちょっと風邪気味らしいんで、今夜は一緒に飲まないで先に帰したんだけどね。
そういや、お前はまだ帰んないのかー?」
「………」
あんたの荷物があったから、なんとなく待ってたんだなんて言えなくて。
190:Wonderful days 24/28
09/06/14 00:43:09 fAfE8XRh0
うちらとの他にも、再結成より少し前から二人組のバンドを組んでいたこのおっさんは
こっちのライブとそっちのライブとで、全国ぎっしりとスケジュールの入った毎日を、この年なのに超人のようにバリバリとこなしていた。
その相方くんは、三十すぎとも思えない女の子みたいな可愛い顔のギター兼ボーカルで、声質が昔のオレによく似てるらしい。
このおっさんの事を熱烈に慕っていて、ほとんど毎日のようにこっちのライブも見に来てくれている。
(※ちなみにオレは向こうのには行きまっせん)
まるで追っかけよりも熱心なかわにっさんファンのようだ。
終演後は大抵「お疲れっす! 今日もかっこよかったですよお!」とこいつを迎えに来て、当然のようにサッサとさらっていく。
飲んだり会ったりの度に、撮りたて2ショのラブラブ写メを頻繁に自ブログに載せ、何でもかんでも川ニシさんカッコイイと褒めまくり。
……見なきゃいいんだが、ついそのイチャイチャ写真日記をこまめにチェックしてしまうオレは、大変に不愉快。
こないだは『自分がもし女だったら川ニシさんの彼女になりたいぐらいです』とかライブのMCでも言ったらしく
後でこのおっさん自身にそれを自慢されて、おっさん首しめたろかと思った。
とにかく、いちずな好意を相手にも周囲にも丸分かりにして平気だわ、従順に見えるわりには相手を振り回すほどに積極的だわで
年は十歳違うだけなのに、もっと大きなジェネレーションギャップを感じる相手なのだった。
「しっかし野ダ君ってほんと可愛いよなー。あんたの相方にゃあもったいないよ。
あんな子がメロメロに好いててくれて良かったねえ、もうすぐ五十のおっさん?」
「そうだなー。あの子はホントーにいい子だよ。ギターや声はもちろん、ルックスもいいし、性格もとても優しいし、
素直で純粋な心を持っていて、オレを心から尊敬してくれている」
最初に話題をふっちゃったのは自分なんだけど、こうまで人前でのろけやがるこのバカおっさんってどうよ?
酷くムカムカーとしてきたので、オレはむっつりと黙っていた。
それに気づいたのか、軽く笑って奴は続けてくる。
191:Wonderful days 25/28
09/06/14 00:44:43 fAfE8XRh0
「まあねー、でも、全然素直じゃない上にめったに優しくもなく、どスケベで不純な事ばっか言うとる誰かさんのほうが、
オレにはやっぱりいっちゃん可愛いーんだけどねえ。自分でも不思議なんだわ。何でなんだろなあ」
誰の事じゃー、誰の。
「どスケベで不純で悪かったね。こんなムッサイおっさん相手に、何寒い事を言っとんだ君は。
もうあんたが可愛い可愛いゆーとったガキの頃のオレじゃないんだぞ。
ま、もうすぐ五十の爺さんにとっちゃ、四十四の初老でもまだまだお子様にしか見えんのかもしれんが」
「いや、そりゃーさすがにおっさんにしか見えんがな。
でもオレの目にはさ、お前はいつまでたっても、この世界でいっちゃん可愛く見えとんよ?」
歯の浮くようなセリフを平気で言うから、その顔を見上げてオレは思いっきりブルブルと震えてみせた。
「がー。気持ッち悪りい事を言うなよー!」
「だって、お前は若い頃と全然変わっちゃいないだろう。
猫みたいにわがままで、プライドが高くて、でも本当は怖がりで。
高いとこも暗いとこも狭いとこも大ッ嫌いで、小さい地震でも大騒ぎ。
ライブ中に特効がドカンとなるたびに飛び上がって逃げ回るヘタレちゃんでさ。
寂しがりでひとりぼっちが苦手で、いつも人恋しいくせに、強がりで口はメチャクチャに悪いわ
前にも増してオレには攻撃的で、人前で『ヤメ/マン』だの『また先にいなくなったかと思ったー』だの
そりゃーツッコミがキッツイわときてる」
こいつがヤメ/マンなのはほんとの事だしな。
だいたい昔も今も、オレが何かを怖がるたびにさんざん面白がってからかうのはいつもお前じゃ。
『ホーレこの床の下は何もない高ーい空間だよー』とか言って一層ビビらせるくせに、何言っとんだか(怒)。
「・・ひとっつもホメとらんやないかい。
別にあんたにホメられて喜ぶ筋合いもないですけどね。
おりゃあけっこー、男らしいナイスな憧れのおっさんアーティストって事でこの世の中まかり通っとんですよ。失礼な」
192:Wonderful days 26/28
09/06/14 00:47:40 fAfE8XRh0
…あー、やっぱこの角度が好きだ。
あの頃もこうやって、ひそかにこの角度から見上げては、ときめいていた。
悪態つきながら、こんな時までも、そう思っている。
「でも、お前は気ィ遣いで優しいよ。
歌の合間にゃードラムのオレのところまで、ちゃんとビールを飲ませに上がってきてくれたり。
こないだも打ち上げに遅れていったら『これ川ニシさんのぶんだよ』って取り分けといてくれて、世話もやいてくれただろ。
あー変わらんなー、こういうとこ可愛いなーって思った。
言葉より不器用なんだけど、さりげない気配りをしてくれて、オレをずっと見ててくれてる。
それで嬉しくなるんだ、オレは単純な男だからさ」
奴はオレの目を覗き込みながら囁いた。
「んで、そうやって上目遣いでじいっと見上げると、長いまつ毛がすごく色っぽいところも変わっとらんし。
必死にオレを見つめるその目の、熱に浮かされたような色も変わっとらん。
オレの好きな、オレのタミ才のまんまだ……」
馬鹿か。まじまじと見つめてしまう。
「やっぱり、泣き虫なんもそのままなんだなあ」
泣いてなんかないのだ、涙が勝手にあふれていくだけで。
「本気で言っとんの?」
「本気本気」
冗談なのか分からない。いつだって子供みたいに笑ってるあんたは。
193:Wonderful days 27/28
09/06/14 00:49:02 fAfE8XRh0
「あのさ…オレ、そんなに強くないよ」
今度あんたにまた捨てられたら、もう、無理だから。
十六年なんてもう待てない。
「本当に、本当に、つらかったんだ。もう、やだよ。あんな思いは」
「分かってるよ。ごめんな」
「それに、オレに、もうどこにもいかないって、まだ言ってくれてない……」
「大丈夫。そばにいるよ。誓うから泣くな」
抱きしめられて、しがみついた。
(本当に分かりやすいバカップルだよねー。二十何年もの昔っから)
楽屋の長椅子で寝ていたEB/Iは、出るに出て行けずに、背もたれの隙間からこっそり携帯のカメラを構えていた。
数日前の事だ。
大阪公演後の楽屋で、嬉しそうな川ニシの口にたこ焼きをアーンして食わせてあげている、ニコニコ幸せ笑顔のタミ才
(及び、その2人をなるべく見ないようにネクタイを外している苦い顔の阿べと、遠くの鏡で自分のレスラー姿をしげしげと見ている○ッシー)を
EB/Iはしっかり1枚に激写すると
「まあ微笑ましいったら。さっそく僕のブログに載させてもらおーっと」と、upして全世界に晒しているという前科があった。
(それ以前にも「おかしな/2人」と題したこの二人の2ショ写真を載せたりもしているのだが)
194:Wonderful days 28/28
09/06/14 00:50:28 fAfE8XRh0
実は、もしかして今でも…と確信したのは、それより少し前の4月末。
最近5人で始めたばかりの、深夜FM番組の生放送中での出来事だった。
あるコーナーの第二回目に「ツイスト/で目を/覚ませ」という20年前の曲をかけた。
初期のタミ才の、いかにも幼い甘えるような声が跳ねるように流れる。今よりずっとキーが高くて、少し舌っ足らずな声。
川ニシがマジマジと「これ誰の声?」と聞き、隣のタミ才が「これオレ」と答え、他は大爆笑になった。
それに続けてまた川ニシが「カワイイねえー!!」としみじみ言ったとたん、タミ才はババッと真っ赤になって照れまくった。
面白いから皆で「カワイー!」「カワイー!」とからかいまくると
焦りながら、冗談のようにちょっと同じふうに歌ってみて(しかし低い)「全然可愛くないねー、今」と自分で言ってみたり。
そのうちに、笛の間奏パートをリコーダーでみんなで練習して難しかったよねーという思い出話にうつったのだが
しばらくタミ才は赤みの残る頬をして、横に座る川ニシを何度もそっと見ていた。
あーこれは…今でもずーっと想い続けてたんだなと、めざといEB/Iはさすがに気づき、そのけなげさに少しホロリとした。
(しかし、川ニシか阿べのどっちかが『今だってじゅうぶん可愛いよ』とか熱弁しだしたらどうしようかと思い
ちょっとハラハラさせられたのは確かであった)
「この写メもブログにupしちゃったら、そりゃアクセスがもんのすごいだろうなー。
けどやめとくよ♪ やっぱ常識的にね、気の毒だし」
でも、一応写メっといたこのキスシーンを、もし本人の携帯に送りつけたらどんな顔するんだろうなー。
いつもはドSで自分をいじめてばっかのタミ才が恐怖に顔をひきつらせるさまを想像して
ゾクゾクと背筋の戦慄を楽しむ、悪魔で美人な王子様なのだった。
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