ξ゚听)ξAmmo→Re!! ..
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21/04/11 20:07:21.840 XJ3/Gf740.net
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例え、火花のようにひ弱な火種だとしても。
大切に、そして念入りに準備をした火種は使い方次第では大火になるのだ。
その大火が何もかもを焼き払う光景は、あまりにも美しい。

                            ―放火魔、バーン・ウィッチ・ホルスタイン

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September 14th PM11:18
フィリップス・シチリーはかつて、ヴィンスで最もレモンの似合う青年だった。
幅広く商売に手を伸ばし、街の発展に一躍貢献したが、その立場を息子に譲り、その息子は自分の子にその立場を譲った。
隠居した身となったフィリップスは年齢的な衰えによってベッドに寝たきりとなり、機械の補助なしには呼吸もままならない程に弱っていた。
シチリー家の名声を築いた彼も、命の灯火が消えるのを待つばかりだった。
窓の外に見える淡い街の光を見て、シチリーは内心で溜息を吐いた。
果たしてあと何回その光を見ることが出来るのかと考えても、それを誰かに伝える術はない。
彼の口は呼吸器でふさがれ、言葉を発するのは食事の時だけなのだ。
浅黒く焼けた肌は皺だらけになり、かつては逞しかった腕も細く、倒木を思わせる姿になっている。
時折思い出す若かりし日々が、彼にとっては唯一の希望だった。
ふと、一陣の潮風が彼の頬を撫でた。
(,,'-貝-゚)「……?」
誰かが部屋の扉を開いたのかと思い、そちらに視線を移す。
だがそこには誰もおらず、扉も開いていない。
再び視線を窓に向けると、カーテンが風に揺れていた。
そして、夜空を背に誰かが立っているのを見つけた。
(,,'-貝-゚)「……」
(<::ー゚::::>三)「久しぶりね、フィリップス。
        最初に見た時はレモンに似合う青年で、その次が孫を抱えた中年で、今度は素敵な老人になったわね」
(,,'-貝-゚)「……」
その女の声には聞き覚えがあったような気がしたが、かなり昔の事であるため、フィリップスは思い出せない。
果たして誰なのかと聞く前に、女はフードを取った。
ζ(゚ー゚*ζ「お孫さん、随分と立派になったわね」
(,,'-貝-゚)「……!」
その顔には覚えがあった。
名前は思い出せないが、確かにその顔は彼の知る人間の顔だった。
ζ(゚ー゚*ζ「レモン、持ってきたわよ。
       確か黄色と緑の間ぐらいが好きだったわよね」
女性は彼の枕元にレモンを置き、そう言った。
フィリップスの鼻孔に、新鮮なレモンの香りが届く。
それは彼に青春の日々を鮮明に思い出させ、夜空さえ青空に幻視させた。

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21/04/11 20:07:28.841 QxxtldEqd.net
( ^ω^)ブーンがコロナに感染したようです

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21/04/11 20:08:07.008 XJ3/Gf740.net
(,,'-貝-゚)「……」
ζ(゚ー゚*ζ「久しぶりにこの街に寄ったの。
      貴方の孫、昔はレモンが近くにあるだけで泣いていたのに、もうあんなになったのね」
(,,'-貝-゚)「……」
ζ(゚ー゚*ζ「いい歳の取り方をしたわね。
      どう? 楽しい人生だった?」
(,,'-貝-゚)「……」
沢山の苦楽があった。
何度も挫折しそうになった。
だが、彼にとって、彼が過ごしてきた人生は楽しい物だと断言出来る物だった。
ζ(゚ー゚*ζ「そう、それならよかった」
そして再び、夜風が彼の頬を撫でた。
檸檬の香りのする風が、彼の体から毒気を抜いた。
全身に力が蘇り、意識と記憶に電流が走った心地がした。
(,,'-貝-゚)「……デレ……シア……?」
ζ(゚ー゚*ζ「ふふっ、よくできました」
思い返す夏の太陽。
潮騒の中、彼が初めて経営することになったレストランに訪れた客。
他の誰よりも美味そうに酒を呑み、食事を摂った客。
若気の至りで声をかけ、あっさりと躱された思い出。
その頃に感じた多くの幸せや困難の日々。
これまでの人生の全てが津波と化して彼の記憶を襲い、幸せの濁流の中、ゆっくりと睡魔が彼の意識を深い眠りへと誘う。
抜け落ち、白く染まった彼の頭を、彼女の手が子供にするように優しく撫でる。
果たして彼は、瞼を降ろし、静かな眠りについた。
(,,'-貝-゚)「……」
ζ(゚ー゚*ζ「おやすみなさい、フィリップス」
―フィリップスが家族に見守られながら永遠の眠りについたのは、翌日の朝、澄み渡った青空の広がる日のことだった。

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21/04/11 20:11:08.394 XJ3/Gf740.net
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               : : : : :::.. :::: : : : :..     第八章【remnants of 】
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September 15th AM08:19
その日の朝、街の空気が一変したことに気づいた観光客は、デレシアが最初だった。
街の空気に既視感を覚えた人間は、ヒート・オロラ・レッドウィングが最初だった。
漂う空気に剣呑さが混じり、緊張感の匂いがすることに気づいたのはブーンが唯一だった。
朝食をホテルで終え、散歩がてら外に出た瞬間に三人は互いに顔を見合わせる。
ζ(゚、゚*ζ「……」
ノパ听)「……」
(∪´ω`)「おー」
言葉を交わさずとも、それぞれが異変を感じ取れたことが伝わる。
だが彼女たちの旅に影響がない限り、特に気にすることでもないという考えもあり、三人はひとまず街に向かうことにした。
街の様子は一見すれば変化はないが、よく観察をすれば、私服姿の男たちが運河に浮かぶ小舟の周囲に立っている光景が散見された。
胸の不自然なふくらみ、あるいは片方と比べて下がった肩は、そこに拳銃が吊り下げられていることを暗に示している。
彼らがカラヴィニエリと呼ばれる治安維持組織であることは間違いないだろう。
最初に違和感を口にしたのはデレシアだった。
ζ(゚、゚*ζ「何かあったみたいね」
ノパ听)「あぁ、探し物してるっぽいな」
(∪´ω`)「薬があった、って言ってますお」

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21/04/11 20:11:30.132 XJ3/Gf740.net
優れた聴力により、聞き耳を立てるまでもなく、ブーンがヒートの疑問に答えた。
彼の耳があれば、例え百メートル先の囁き声でさえ聞き分けることが出来るだろう。
ζ(゚、゚*ζ「あら、薬物の取引の捕り物にしては随分と大げさね。
      それに、船頭ばかりがあれだけまとめて、なんてねぇ」
ノパ听)「あたしが前に来た時は別に薬なんて流行ってなかったと思ったんだが、今は違うのかもな」
どんな街でも中毒性の高い薬については強い規制をかけ、蔓延しないようにするものだ。
薬物が蔓延るということは街の統治が不完全であると同時に、市長の無能さを象徴することになる。
街の治安を維持できな


7:い人間の統治する場所に観光客が寄り付くことなど有り得ないため、ヴィンスはその辺りについては特に慎重な姿勢のはずだ。 何かが起き、その姿勢が崩れ始めたのだろう。 ζ(゚ー゚*ζ「まぁ、何かに巻き込まれないようにだけ気をつけましょうか」 昨日聞いた内藤財団の話が関係していると考えるべきだろう。 内藤財団とティンバーランドが繋がっている以上は、どこかでその幹部とぶつかる可能性がある。 用心しておくべきことに変わりはないが、関わり合いになる必要は特に感じられない。 (∪´ω`)「おっ!」 三人は食材などの買い出しに市場に向かうことにしたが、街の主な移動手段である船は全てどこかへと消え去っていた。 そして、この異変は次第に街を蝕み始めるのであった。



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21/04/11 20:12:16.768 3qhwAOdT0.net
C

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21/04/11 20:13:11.503 XJ3/Gf740.net
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                         f-t/    同
                       / ̄/k   F三',
                      _f 三 i     f三三
                    /   /k       f ̄ ̄ ',
                    F三三i       fニニニニi
                /  ̄ ̄ /lri       r---------- i
               /___ / レ         l ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ l
              lr-------ii  l        l                l
              li      ll  l          l                 l
                                f ̄二二二二二二二 ̄`j
         r--ーーーーーーーーーーt_          | l               l |
     / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄/l l           | l            l |
    /              / .l l           | l              l |
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ニニニニニニニニニニニ|¨|l l           .l   ̄  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄  ̄ ̄ ̄  l
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同日 同時刻
十台のトラックが海岸線を連なって走り、次の目的地であるヴィンスに向かっていた。
予定よりも輸送が遅れているため、彼らが出発した最後の街であるタルキールから、一度も他の街には寄っていなかった。
最低限の仮眠と休憩を挟み、彼らはイルトリアに向かう最後の休憩地としてヴィンスを選んだ。
助手席で白湯を飲むトラギコ・マウンテンライトは、これからのことについて思考を巡らせていた。
彼は直感的にデレシア達がイルトリアに向かっていると考え、行動をしているが、その途中でいくつも気になる事件が彼を出迎えていた。
その中でも彼の中で引っかかっているのは、タルキールを出発する前夜、ジュスティアに連絡をした際に報告された街で広がる薬物の話だった。
街に入るための三つの検問を全て突破し、街中に薬を広めるのは容易ではない。
検閲官を買収できないよう、常にランダムで担当者と担当場所の入れ替わりが行われる。

10:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします
21/04/11 20:14:51.203 XJ3/Gf740.net
それでも、街の中に入ることが出来るとしたら、スリーピースを介さない手段を使うしかない。
街の検問を何かしらの手段で突破することが可能なのは、ワタナベ・ビルケンシュトックが証明している。
トラギコの中にその答えにつながる物はあった。
軍港を使えば、スリーピースを介さずに街に入り込むことが出来る。
現に軍関係者を装ったテロリスト集団がオアシズに乗り込んできた際も、軍が関係していた。
ティンカーベルにおいてトラギコを狙撃した男も軍人だったことを考えれば、ジュスティアの病巣は軍内部にあるはずだ。
それを告げるべきか考えたが、彼が連絡を取った人間はその点について勘付いている様子だった。
トラギコもその人物の優秀さについては理解しているため、余計なことは言わないことにした。
だが今、トラギコの中で一つの疑問が生まれていた。
もしもトラギコがジュスティアを混乱に陥れたいのならば、街の中に持ち込むべきは汚い爆弾だ。
一度でも爆発させればそれだけでジュスティアの評価も平穏も地に落とすことが出来る。
ニクラメンで虐殺行為を行ったワタナベであれば、喜んでその役割を果たすだろう。
それはしないのか、あるいは出来ないのか。
相手にしている組織の目的とこれまでの行動を結び付けようとしても、トラギコの持っている少ない情報ではそれは難しい話だった。
(=゚д゚)「ふーむ」
( ゙゚_ゞ゚)「いい加減答えは出たのか?」
隣で数日前の新聞を読む返すオサム・ブッテロが、雑誌から目をそらすことなくそう言った。
だがトラギコはその言葉に対して返答せず、白湯を飲んで黙り込んだ。
車内に流れるラジオのDJは、朝のニュースを読み終え、リスナーからのリクエスト曲を流し始めた。
( ゙゚_ゞ゚)「ったく、無視しやがって。
     タルキールで手を貸してやったのに、そろそろ礼の一つや二つ、言っても損はないと思うんだがな」
オサムの言う通り、彼の協力があったからこそ、トラギコはタルキールで密かに輸出されていた汚い爆弾の行き先を知ることが出来たのだ。
輸出先としては多くが西側の街で、意外なことにジュスティアはその対象になっていなかった。
直接的な持ち込みが不可能だと判断しての選択か、あるいは、別の経路を使って持ち込んでいるかのどちらかだと考えた。
逆に考えれば、これからトラギコが向かうイルトリアの方面には汚い爆弾の原料が大量に輸出された後であり、危険な場所と化しているのだ。
コップの中の白湯を一気に飲み干し、トラギコは溜息交じりに言った。
(=゚д゚)「あぁ、感謝してるラギ。
    でもその分飯奢ってやっただろ」
( ゙゚_ゞ゚)「まぁな」
(=゚д゚)「それに、答えは出ないラギよ。
    俺は連中じゃねぇからな。
    結局想像と推測の域を出ないラギ」
( ゙゚_ゞ゚)「なら悩むだけ無駄だろ。
     ヴィンスで何を食うか考えようぜ」
(=゚д゚)「悩んだだけ可能性が浮かぶラギ。
    何も考えなきゃ、何も生まれねぇラギ」
それを聞いたオサムは呆れたように鼻で笑いながらも、ニヒルな笑いを浮かべた。
( ゙゚_ゞ゚)「職業病だな」
(=゚д゚)「否定はしないラギ」

11:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします
21/04/11 20:15:38.374 LoXVCstW0.net
懐かしすぎて死んだ私怨

12:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします
21/04/11 20:20:30.714 XJ3/Gf740.net
疑うことを忘れた刑事は既に死んだも同然の存在であるというのは、彼の所属するモスカウでは常識だった。
難事件を解決し続けるためには目に見えるもの全てを疑い、見えないものを疑い、可能性を模索し続ける必要がある。
世界規模での企てを計画している組織が相手であれば、あらゆる可能性を模索しても足りないぐらいだ。
話を聞いていた運転手のポットラック・ポイフルが、苦笑しながら言った。
从´_ゝ从「あんたらといると、ほんと飽きねぇな」
( ゙゚_ゞ゚)「だろ?」
トラギコとオサムの素性について、ポットラックが詮索することはなく、二人はそれを打ち明けることもなかった。
互いに薄々勘付いていることがありはするが、それを確かめようとはしない。
旅の途中で会った人間に詮索をしない相手というのは極めて貴重な存在だ。
(=゚д゚)「ったく、お前は調子に乗りすぎラギ。
    さっきから新聞眺めてるけど、何か面白い記事でもあったラギ?」
( ゙゚_ゞ゚)「面白い、の基準は分からんが、気になるのならあったな」
(=゚д゚)「どんな記事ラギ?」
( ゙゚_ゞ゚)「ラヴニカの記事だ。
     ギルドの大規模な立て直しに内藤財団が入るんだとよ。
     善意で、おまけに無償でだってさ」
二人がラヴニカにいた際に起きた大規模な事件の影響は、遠く離れた小さな町にも表れるほどだった。
ラヴニカで作られた精巧な道具の製造と輸出が遅れることで、その町の産業に影響が出るのだ。
“良い品はラヴニカから”、の言葉示す通り、その道具の精度の高さは世界共通で知られるもので、依存している街も決して少なくはない。
(=゚д゚)「只より高い物はないラギ。
    したたかな連中ラギね」
トラギコの考える限り、ティンバーランドの背後にあるのは内藤財団で間違いがない。
ラヴニカで起きた事件も彼らが関わっていると考えれば、様々な辻妻が合ってしまう。
だが果たして、その真相はトラギコには分かりかねることだ。
从´_ゝ从「ありゃあ、俺たちの間でもすげぇ騒ぎになったもんだ。
     何せ生き残ったギルドマスターが一人だろ?
     街の機能がマヒしたら大変だからな、仕方ないさ」
ギルドそのものは失われないが、指導者を失ったギルドはしばらくの間従来の機能を失うことになる。
街の治安を維持するギルドマスターでさえ失われ、治安の悪化が懸念されるのは当然の話である。
(=゚д゚)「街が死ぬぐらいなら、って感じラギね」
从´_ゝ从「全く怖い話だ。
     そうだ、ラジオのチャンネルを変えてもいいか?
     そろそろ俺の好きな番組が始まるんだ」
( ゙゚_ゞ゚)「あぁ、好きにしてくれ」
ポットラックは片手をチューナーに伸ばし、ある位置で止めた。
『FMラジオ、極道893のお時間ですぅ』
トラギコは一瞬、信じられないものを見るような目でラジオを凝視し、喉の奥まで込み上げてきた声を押し殺した。
その声は間違いなく、キュート・ウルヴァリンの物だった。
声真似を得意とし、彼の相棒だったライダル・ヅーの代わりとしてジュスティア警察に引き入れられた有名人だ。
本能的にトラギコは彼女のことが気に入らなかったが、その感覚は今もまだ続いている。

13:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします
21/04/11 20:23:14.934 XJ3/Gf740.net
一度ジュスティア警察に引き入れられたということは、それ以降も守秘義務が課せられるため、ジュスティアでの生活が強いられる。
つまり、トラギコが嫌悪する女は今この配信をジュスティアから行っているということだ。
本能的に彼女のことを嫌うトラギコにとっては、自分の故郷が土足で荒らされている気分だった。
从´_ゝ从「俺はこのパーソナリティの声が嫌いだが、語りは好きなんだ」
(=゚д゚)「……そうラギか」
声真似の技術は正直なところ、かなりの水準にあるのは間違いない。
捜査で役立つことを見越して採用された人間だが、言い換えれば、声を偽造するという極めて悪質な力を持つ人間を招き入れてしまったのだ。
警察の上層部の人間の声を真似することが出来るようになれば、何でもできるようになる。
『さて今日はぁ、リスナーからもらったお便りを中心にしていこうと思いますぅ。
いっつもニュースばかりじゃぁ、つまらないですものねぇ。
まずはぁ、フートクラフトのぉ、ラジオネームスポッチャさんからのリクエストでぇ……』
そしてラジオから軽快な音楽が流れ始め、それに合わせてパーソナリティが届けられた便りが読まれていく。
『ラジオネームアングリーベティさんからのお便りぃ。
先日恋人とぉ、分かれてしまいましたぁ。
どうやったら彼を忘れられますかぁ?
ですってぇ。
うーんっとねぇ、あたしのお勧めはぁ、記憶を失うまでお酒を呑むことかなぁ』
(=゚д゚)「人間性が如実に表れる解答ラギね」
ふいに、トラギコの脳裏にある可能性が飛来した。
ジュスティア警察の裏切り者の中にいたベルベット・オールスターが手引きをすれば、軍港を経由しなくても済む。
逆に、軍港への手引きはトラギコを狙撃したカラマロス・ロングディスタンスが手引きをすればいい。
つまりジュスティアに薬物を始めとした危険なものを持ち込むための道は二つ用意されていた可能性があるため、ベルベットが推薦したキュートは極めて限りなく黒い存在だ。
しかしそのことに気づいていない上層部ではないはずだが、こうしてラジオが流れているということは、あえて泳がせている可能性が考えられる。
その目的がトラギコの考える物であれば、彼が知らせた情報に対して何らかの動きがあるはずだ。
街の要であり、ジュスティアの象徴である円卓十二騎士を動かしているだけの覚悟がどこまでものか、それが問題だ。
ここでいくら懸念したところで街のことは街にいる人間だけが管理できる問題だということは、無論、彼は理解している。
自らの目的地を告げたことを、上層部は確実に不審に思うはずだった。
その目的を疑い、トラギコの真意を考え、行動すると彼は信じていた。
从´_ゝ从「おっ、見ろよ。
      あの小さな白い山みたいなのがヴィンスだ」
(=゚д゚)「あれがヴィンスラギか……」
モスカウに所属してから、その名前が彼の耳に悪い意味で届いたのは数年前のことだ。
殺し屋“レオン”。
その捜査はモスカウが秘密裏に着手し、終ぞ犯人を特定することが叶わなかった相手。
ヴィンスがジュスティア警察との契約外であるということが災いし、結局、その正体は分からずじまいとなった。
トラギコの知る限りレオンが暗躍したのはヴィンスが始まりであり、終わりでもある。
“ヴィンスの厄災”以降、レオンによる犯行はヴィンス以外では確認されていない。
( ゙゚_ゞ゚)「なぁ、海鮮丼ってあるのか?」
从´_ゝ从「多分あるだろうな」
(=゚д゚)「お前、完全に観光気分ラギね……」
( ゙゚_ゞ゚)「街から街に行くときの一番の楽しみは、やっぱり飯だろ?」

14:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします
21/04/11 20:23:42.141 XJ3/Gf740.net
あまりにも正論過ぎる言葉を聞いてオサム以外の二人は一瞬沈黙し、それから苦笑と共に大いに賛同した。
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从.;.;从.;.;.;从.;三三≧s。i:i:i:i:i:i:i:ヘ  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ 「ИlXk|i:i:i:i:i≧s。ノ ̄{从从| ̄〕xixixix| |
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同日 AM09:44
ヴィンスの街で広がり始めた不穏な空気は、次第に隠し切れなくなり、道行く人々が口にするようになった。
船頭たちがカラヴィニエリに捕らえられ、街に流れる川は賑やかさを失った。
しかしそれを気にしない人間にとっては移動手段が減った程度の問題であり、大した問題ではなかった。
普段は小船を使って移動していた人間達は仕方なく陸を歩き、それぞれの目的を果たしている。
船で商売をしている人間達にとっては大損害となる一日なのは間違いないが、転じて、陸上にある店にとっては思わぬ書き入れ時となったのであった。
ζ(゚ー゚*ζ「他に買いたいものとかある?」
両手に食材の詰まった紙袋を持ったデレシアは、同じく両手に紙袋を持つブーンとヒートに声をかけた。
ノパー゚)「ひとまずは大丈夫だな。
     アジの開きがあったのは嬉しかったな」
(∪*´ω`)「おっ」

15:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします
21/04/11 20:25:26.011 XJ3/Gf740.net
三人が買ったのは主に食料品で、ヴィンスからイルトリアまでの間で食べきることを考えた量を購入した。
日持ちのする食料もそうだが、彼女たちが市場で気になった食料も紙袋の中に入っている。
クジラ肉の加工品など、海沿いの大きな街だからこそ店頭に並ぶ食材の種類は豊富な物だった。
これまでに何度か通った街にも海産物の加工品はあったが、ヴィンスの加工品はそれらとは一線を画すものがあった。
目と耳の肥えた観光客を相手にする以上は、他の街との差別化を図らなければならない。
そのため、この街で食料品を取り扱う人間達はかなり熱心に研究と開発を進めている様だった。
昨日食べたものがそうであったように、食に関して一切の追随を許さないホールバイトから得た知識と技術をふんだんに取り入れた物ばかりだった。
独自性を保つことでホールバイトとの差別化も図り、観光以外の街の売りの一つにしようと努力しているのがよく分かる。
ζ(゚ー゚*ζ「それじゃあホテルに帰って、出発の準備をしましょうか」
街に異変が起きているのであれば、それに巻き込まれない内に街を出るのが得策だというのは三人の共通認識だった。
トラブルに進んで手を貸すだけの義理も理由もない三人にとって、今考えるべきは昼食の内容ぐらいだった。
サンドイッチを買って途中で食べるか、それとも街で食べてから出るか、それが問題だった。
(∪´ω`)「はいですお!
      ……お?」
ブーンが何かに気づき、周囲を見回した。
鼻を鳴らし、その視線がある方向で止まる。
(∪´ω`)「トラギコさんの匂いがしますお」
ジュスティア警察の中でもデレシア達に並々ならぬ興味と執念を示しているのが、トラギコ・マウンテンライトだ。
ラヴニカでは顔を合わせたつもりはなかったが、執念でここまで追ってきたのだろう。
ノハ;゚听)「マジか、あの刑事ジュスティアからここまで来たのか……
     執念深いというか、何というか」
ζ(゚ー゚*ζ「ガッツも凄いけど、推理力が素敵ね。
      ジュスティアからラヴニカ、そこからまっすぐこっちを目指してきたのなら、えぇ、本当に凄い推理力と執念ね」
その行動力と執念は、彼の上司だったジョルジュ・マグナーニよりも上だろう。
両者と対峙したことのあるデレシアの評価は、トラギコの方が若干高く見積もられていた。
かつてのジョルジュもデレシアを追い、様々な場所で対峙したことはあったが、今ではティンバーランドに堕ちてしまった。
それがトラギコとジョルジュの大きな違いだった。
願わくば、トラギコがこのままトラギコであり続けることが、デレシアにとっては面白いのだが。
(∪´ω`)「おー、後、スノー・ピアサーにいた人の匂いもしますお」
ラヴニカで起きた騒ぎでオサムの記憶が戻り、トラギコと手を組む可能性については考えていなかったわけではない。
トラギコほどの人間ともなれば、例え犯罪者だとしても利用するのに躊躇はしないはずだ。
何より、円卓十二騎士の一員であるワカッテマス・ロンウルフ程の人間が共に行動していたのだから、意図的に放流された犯罪者であるのは言うまでもない。
両者ともにデレシアに対して並々ならぬ関心を寄せているだけあり、優秀な猟犬としての活躍を期待したのだろう。
ジュスティア側の目論見通り、デレシアにとっては歓迎することのできない相手だった。
ζ(゚、゚*ζ「あら、それは嫌ね。
      私、一度ビルから蹴り落とした人間とは関わりたくないのよね」
トラギコが犯罪者と手を組むということに意外性を感じたが、ログーランビルでの生き証人としてオサムに価値を見出し、監視も兼ねているのかもしれない。
柔軟性のある相手程、デレシアにとっては相手のし甲斐があるというものだ。
ノパ听)「見つかる前にさっさとホテルに行くか?」

16:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします
21/04/11 20:27:03.842 XJ3/Gf740.net
ヒートの提案は理にかなっているが、それでは面白くない。
そう。
面白くないのだ。
こちらが旅を楽しむという工程を削られ、逃げるという選択肢は今のデレシア達にとっては不要であり、望ましくない。
ζ(゚ー゚*ζ「そうね、ただ、逃げるような相手でもないから普通に行きましょう」
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    へ 7  >  /ヘ⌒ヽ ノ    ノ.:.:.: : ⌒ヽ: : `'^丶
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     う´ 乂  : : :.:.:.:7川 {  ⌒\   ⌒\: : ): :ノ: : :/
   厂 ̄_〈  ̄ ハ-=彡 ノ    ノイ_ _⌒> : :}`¨´
 厂⌒イ´ `´__ ミy: : :从


17:‐}  {   ⌒´/; ;  ̄: :∨_:_: \ <  ( `∵゚ : { : : :<⌒しノ   : : ⌒\.:.: 〉 乂. . :  〉  厂  ``弋_丿 ノ: ⌒>'^V ノ´   .: : :'^\/: : ∨: :乂_ノ <_⌒ _ノ7´< ⌒: : :「  〉乂_ノ^Y; ; ; (: : : :丿ヽ/ 〉  >/⌒ヽ γ{  トj⌒ ``ー : :_ノo /ノ⌒ヽノ ; ; jゞ'´{⌒{: :i, :∨γ´ 乂___ノ ハ ``'く  ⌒ヽ.: : ノ⌒7 ′ , : ´ ::゚∵´ヽ: ^Y´{ し' >′ .:: } } 〈 ^^'ミ. . :ヽ  _ノ<: : : 〈/ '´ _. :´;:、`  <_: : : :ヾノ⌒ ⌒ヽノ ィi}  寸s。`'<⌒.:  ) : : 人 ノ´ _、ジ . .:、ミ  _::,;″^ヽ_ - ¨.イジ   寸/フ7ァ- 二 - _:_:爪__,:'´: : : :シ⌒ )_ノノ-‐ _二。s≦ア    ∨乂乂乂乂≧=‐  二二二二二  ‐=≦乂乂乂∨ .    ∨>-ミ丿\.|.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:.:r‐┐.:.:.:.:.:.:.: .: |_ノノノノノ'´/ .    ∨\メ、`ヽ、)|.:.:.:.:r‐く⌒ヽノ⌒>┐.:.:.:.:|     /        \ノヽ)⌒___|.:.:.:( ̄ 辷,笊 つ  ̄).:.:.:.|     /        \ノ⌒丶|.:.:.:( ̄人ノYヽ人 ̄).:.:. |   /          `' 弌 |.:.:.:.: (_ノ`)(´)__ノ.:.:.:.:⊥ '゙            ゝ≧=‐      ‐=≦/             ≧s。       。s≦                  ̄ ̄ ̄ ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ 同日 同時刻 オサム・ブッテロとトラギコ・マウンテンライトは困惑し、そして苦戦を強いられていた。 街について荷の積み下ろしを手伝い、ポットラック・ポイフル達が長い休憩をする間に二人は束の間の観光を楽しむことにした。 彼らはまず、オサムの強い希望によって海鮮丼を食べることに決め、街で一番と名高い店に足を踏み入れた。 それが運の尽きだった。 彼らが店に入ったのはつい20分前。 彼らの前に運ばれてきた“大盛海鮮丼”が現れたのはつい15分前。 そして、彼らの目の前にある海鮮丼は依然として圧倒的な量が残されていた。



18:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします
21/04/11 20:28:55.624 XJ3/Gf740.net
(;゙゚_ゞ゚)「……」
(;=゚д゚)「……」
疑念がなかったと言えば嘘になる。
トラギコはメニューを見て、その量の刻み方に疑問を抱いた。
最大の量とされるものが大盛で、最小の量が子供向け、とされていたのだ。
段階は細かく7段階に刻まれていたが、その量については一切の記述がなかった。
オサムはメニューに海鮮丼の文字を見るなり、即座に大盛を注文した。
それにつられ、トラギコも同じものを注文し、果たして地獄が二人の前に周囲の客の歓声と共に運ばれてきたのだった。
器を除いた量は最新の単位に合わせて言えば、1.5キロ以上。
白米の量と魚介類の量は拮抗しており、二人は苦戦を強いられることになった。
覚悟があればまだ展開は違ったかもしれないが、二人は全く準備が出来ていなかった。
不運としか言えない要素は2つあった。
一つは覚悟の点。
もう一つは、彼らが空腹だったことだ。
胃の拡張には時間がかかるため、空腹の状態は大食いにおいては禁忌ともいえる愚考なのだ。
大食いの世界において空腹は避けるべき常識であることを二人は知らず、その時の食欲に身を任せて大盛を頼んだことが致命的な決断となった。
当然、そんなことを知らない二人は大食いの常識に反した状況で大食い勝負に参加したため、状況は極めて不利である。
だが幸いなことが二つだけあった。
一つ目は、二人とも、食べ始めてから一度も水に手を付けていないのである。
ほぼあらゆる大食いにおいて、水は禁忌だ。
胃の中で食べ物を膨らませる水分は悪手であり、少しでも多く胃袋に収める以上は、避けなければならない物なのだ。
そして二つ目は、丼の比重は米よりも上に乗った海産物の方が多いのだ。
(;=゚д゚)「お前、これ知ってたラギか?」
(;゙゚_ゞ゚)「知ってたらこんなことになるか、普通」
大盛の料理にありがちな粗雑な味ではなく、海鮮丼に使用されている食材はどれも新鮮、かつ美味な物ばかりだった。
上からかけたわさび醤油が味を際立たせ、食欲を増進させていることは間違いない。
それでも、二人の食べるペースは刻一刻と落ちていき、今では一口分をスプーンで口に運ぶだけでも精いっぱいなのだ。
(;=゚д゚)「あぁ、ったく……」
少しずつ、巨大な山を踏破するように二人は一口ずつ量を減らしていく。
食事に苦しさが伴うと、それは痛みよりも辛い苦痛になる。
近い感覚で例えるなら、陸上競技における長距離走の苦痛だ。
己の肉体が追い付けないという悔しさと純粋な苦しさは、食の喜びに対しての背信行為であり、己の倫理観を傷つける行為が生み出したものでもある。
从 ゚∀从「へぇ、お兄さんたち凄いの食べてるねぇ」
その声は二人の向かい側の席からかけられた。
それまで定食を食べていた銀髪と真紅の瞳を持つ女が、二人を奇異の目で見ている。
口元の笑みは苦しむ人間に対して向けられる物にしては、かなりの邪悪さを含んでいる。
嗜虐的な趣味のある人間の笑みに、トラギコは眉をしかめた。
(;=゚д゚)「……」
人が苦しんでいる姿を喜んで見学する人間にまともな人間はいない。
そしてトラギコは目の前の女の素性も名前も知らないが、顔と手に負った数多の傷を見て、間違いなく堅気の人間ではないことを看破した。
それはオサムも同じだったようで、女の言葉に対して二人は何も反応を示すことはなかった。
無言のまま、そして、淡々と食事を継続していく。
その間に向けられる視線の心地悪さに比べれば、胃袋の限界を突破する挑戦の方が心地よさすら覚えるものがあった。
ベルトを緩め、気合を入れるために鼻から深く息を吐きだす。

19:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします
21/04/11 20:30:54.163 XJ3/Gf740.net
(=゚д゚)「……っふー」
淡々と、黙々と食事が継続される。
大食いにおける重要な要素の一つは、例え少量でも食べ続けることにある。
そして水は最小、かつ食べる際は空気を含まないように配慮する。
奇しくも追い込まれたことによって、トラギコとオサムはその状態にならざるを得ず、着実に丼の中が減っていった。
最後の一口を食べ、そして、ようやく二人はコップから水を飲んだ。
(;=゚д゚)「くった……あぁ、くったラギ……」
(;゙゚_ゞ゚)「晩飯はいらねぇな、こりゃ……」
完食に伴う報酬は一切ないが、二人の旅行客が見せた大食いへの姿勢は店の中で奇妙に伝播し、普段に比べて皆が一品多く頼む客が増えたという事実は得られた。
当然、そのような事実を二人が知る由もないのだが、達成感と満腹感は十二分に得られたのであった。
从 ゚∀从「凄いじゃん、お兄さんたち。
      コーヒー奢るよ」
(;=゚д゚)「いや、いらねぇラギ。
     今はもう何も胃袋に送りたくねぇ」
(;゙゚_ゞ゚)「俺もだ。 悪いな、ねーちゃん」
从 ゚∀从「ははっ、ちょっと残念。
      いい物見れたよ」
女が店を出ていき、二人は溜息を吐いた。
トラギコは小さくつぶやいた。
(;=゚д゚)「良かったのかよ、コーヒー。
     お前なら喜んで奢られると思ったラギ」
(;゙゚_ゞ゚)「俺な、ああいう女嫌いなんだよ」
(;=゚д゚)「奇遇だな、俺もラギ」
それから十分ほど休憩を挟み、二人はようやく重い体を起こ


20:して、店の外に出て行った。 腹ごなしをするために二人は運河沿いの道を歩き始め、ほぼ同時に異変に気が付いた。 (=゚д゚)「ヴィンスに小船がないって、かなり妙ラギね」 ( ゙゚_ゞ゚)「確かにそうだな。 座礁した船でも牽引しようとしてるのかもな」 オサムの冗談を鼻で笑い、曲がり角に差し掛かった時、その先から男同士が言い争う声が聞こえてきた。 人通りがまだ多い中で交わされる声は喧嘩の類ではなく、警察と容疑者が交わすそれに酷似している。 互いに顔を見合わせ、二人は角を曲がった。 そこには小船を前に、船頭らしき男とカラヴィニエリの青い制服を着た三人の男がいる。 カラヴィニエリの男たちは皆一様に黒いサングラスを掛け、視線の向きが分からないようになっていた。 船頭らしき男の両手は後ろで拘束され、カラヴィニエリの男が取り押さえている。 残った二人のカラヴィニエリは文字通り頭上から言葉を浴びせかけ、船頭がそれに反論している様だった。 (-゚ぺ-)「俺じゃねぇって言ってんだろうが!!      他の連中もそうだ、誰もそんなもの売りさばいちゃいねぇよ!!」 (●ム●)「だったら、この船にあったこれはどう説明するんだって訊いてるだろ!!」



21:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします
21/04/11 20:33:04.519 XJ3/Gf740.net
手袋をはめたカラヴィニエリの手には、折りたたまれた茶色い紙があった。
それは薬物の取引をする際に使われることの多い包み紙で、匂いや変化を抑える効果がある物だ。
トラギコもその紙を使った取引現場に居合わせたことが何度もあるため、それが本物であることは一目見れば分かる。
包まれている物の内容までは分からないが、間違いなく、禁止されている薬物の類なのだろう。
(-゚ぺ-)「俺が訊きてぇよ!!」
集まりだした野次馬の目もあって、カラヴィニエリはうかつに手出しが出来ないようだった。
力づくで男を連行する姿が観光客に見られでもすれば、彼らの評判が落ちることになる。
観光地では避けたい事象であるため、こういった事件が起きた場合は早急に連行するのが常だ。
恐らく男が抵抗し、連行に手間取っている間に野次馬が集まってしまったのだろう。
ここで関わり合いになることは避けたかったが、明らかな冤罪であれば、見逃せないのがトラギコの性格だった。
(=゚д゚)「おう、ちょっといいラギか?」
(●ム●)「すみません、部外者は―」
トラギコは一歩踏み込み、制止しようとした男の傍で囁いた。
(=゚д゚)「その薬、本当にそいつのラギか?
    根拠を示さないと、そいつは納得しないラギよ」
(●ム●)「これは我々カラヴィニエリの管轄です、口出しをしないでください」
(=゚д゚)「まぁ普通そう言うラギね。
    信じる信じないは別として、俺はジュスティアの同業者ラギ。
    薬をどこで見つけたのか、それを教えてほしいラギ」
(●ム●)「ったく、何なんだあんたは」
(=゚д゚)「街中から船頭がいなくなってるのと関係があると思ってな。
    せっかく観光に来たのに、小船に乗れないんじゃヴィンスに来た意味が大分減っちまうラギ。
    当ててやろうか?
    船頭がつるんで薬の取引をしてたってタレコミがあって、調べたら大量に見つかった、ってところだろ。
    タレコミがあった以上は動かざるを得ないし、一人でも見つかれば信頼度が高くなる。
    で、芋づる式にどんどん見つかって大慌てで船頭を一人残らず調べようってことになった感じラギね。
    情報主は秘密ってところラギかね」
(●ム●)「……あんた、どこまで知ってるんだ?」
(=゚д゚)「言っただろ、同業者だって。
    ただ、この手のことは何度か経験があるラギ。
    その時に共通してたのは、全部仕組まれたことだった、って事ラギ。
    あんたらも話が上手くいきすぎてるって思ってるだろ?
    ここで止めておかないと、後が大変ラギよ。
    話しても損はないラギよ」
そう言ってトラギコは男の肩を軽く叩き、退いた。
数秒の間があったが、男は観念した風に溜息を吐いて、船を顎でしゃくった。
(●ム●)「……船首にある小物入れだ。
     この街の船は伝統的に、そこに魔よけの小銭を入れる習慣があるんだが、そこに取引用の薬が隠されてるってタレコミがあったんだ」
男の声はトラギコたちにしか聞こえないほど、絶妙に絞られた物だった。
海風が声を遠くに運ぶ去るため、野次馬達には何も届かない。
別のカラヴィニエリが何かを言おうとするのを、男は手で制止する。

22:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします
21/04/11 20:36:03.611 XJ3/Gf740.net
(●ム●)「街中の船頭が結託してるんじゃないかって量だ」
(=゚д゚)「なるほどな。
    何かあったんだろ、そんなタレコミを信じて捜査をするだけの何かが」
(●ム●)「今朝、いや、正確には昨夜だ。
     薬物の多量摂取で死んだ男が見つかった。
     そいつが船頭で、正直最近の素行がよくなかったんだ。
     この街で薬物が広まるってことはありえないはずなんだが、実際に死体がでちまった。
     そこに加えて、その男が薬を売っているってタレコミがあって、俺たちがそいつの家を調べたら案の定大量の薬が見つかった。
     結果、市長が直々に陣頭指揮を執って街中の船頭を調べることになったのさ」
(=゚д゚)「話が上手すぎるラギね」
(●ム●)「カラヴィニエリだって馬鹿じゃない。
      当然この流れが不自然なことは分かってる。
      だが、カラヴィニエリの最高責任者は市長だ。
      市長の指示には逆らえない」
(=゚д゚)「この調子じゃ、捜査はまるで進まないラギね。
    船頭が悪者で終わりラギ」
(●ム●)「あぁ、全くだ」
(=゚д゚)「ちょっと、その船首を見せてほしいラギ」
(●ム●)「……荒らすなよ」
(=゚д゚)「分かってるラギ」
男に案内され、係留されている小船に乗り込み、船首の小物入れを見た。
そこには数ドル分の小銭が入っており、硬貨には風化の跡がありありと見て取れる。
(=゚д゚)「見つかった薬の種類は?」
(●ム●)「少なくとも、これまで見たことがない種類だ。
      死体の腕に注射跡があったから、道具を使うタイプの薬なのは間違いない」
(=゚д゚)「……だったら、こりゃ不自然ラギね」
(●ム●)「やっぱりそう思うか」
(=゚д゚)「普通、注射器もセットで売るはずラギ。
    それに、売るなら液体ラギ。
    見つかった薬は粉状だったラギか?」
(●ム●)「あぁ、そうだ」
(=゚д゚)「つじつまが合わねぇのに逮捕する必要があるラギか?」
(●ム●)「言っただろ、市長からの命令なんだ。
     疑わしきを捕らえ、ってな」
(=゚д゚)「反発でどうなるか、市長は考えてないラギか?」
(●ム●)「これ以上は俺の口からは何も言えねぇよ。
      俺にも職務ってのがあるんだ」
(=゚д゚)「ここまで喋ってもらったんだ、仕方ないラギ」

23:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします
21/04/11 20:37:34.741 XJ3/Gf740.net
(●ム●)「良ければあんたの名前を訊いても?」
少し考える素振りを見せ、それからトラギコは意地悪そうな笑みを浮かべた。
(=゚д゚)「そいつは無理ラギね。
    俺にも職務ってものがあるラギ」
それを聞いたカラヴィニエリの男は苦笑し、トラギコの肩を軽く叩いた。
(●ム●)「ははっ、何か分かったらカラヴィニエリの本部に来てくれ」
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同日 AM11:12
不安定となっていたヴィンスの治安を一変させる出来事が起きたのは、人で賑わいを見せる市場からだった。
普段ならば船に積んで売られている野菜や魚が全て地上の市場に流れ込み、それを買い求める人間が列を成し、通常よりも大勢の人間が集まっていた。
街の中心を流れる運河沿いに並ぶ市場の賑わいに釣られ、街中に散っていた観光客たちが街の中心に集まり始める。
その流れを察知した船上で総菜や食事を提供していた人間達が運河に集結し、地上にいる観光客たちへのサービスの提供を始めた。
昼食時ということもあり、その賑わいはまるで祭り時のように活気づき、その中を歩く人間達は気分が高揚するのを抑えられなかった。
人手と賑わい、そして飛び交う歌声が在りし日のヴィンスを彷彿とさせる。

24:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします
21/04/11 20:39:46.567 XJ3/Gf740.net
ζ(゚ー゚*ζ
ある旅人の一行が賑わう市場を歩んでいる時。
ξ゚听)ξ
ある企業の副社長とその部下が市場を歩んでいる時。
ζ(゚ー゚*ζ
     ξ゚听)ξ
両者がすれ違った、その時。
憎悪に見開かれた眼差しが旅人に向けられ、副社長の背後を影のように歩いていた血色の瞳を持つ女が動いた。
女は組織内で共有されていた敵対者の写真を記憶しており、その中でも最上位の存在が眼前にいることを瞬時に認識したのである。
ハインリッヒ・ヒムラー・フォートマイヤーという女は、ティンバーランドの中では新参の存在だが、人殺しのセンスについては天性のものがあった。
从 ゚∀从
よく訓練された猟犬がそうであるように、ハインリッヒの動きは洗練され、静かだった。
暗殺者として、あるいは敵対する人間を排除する機械としては極めて優秀な動きだった。
しかし、それを目視した後でより疾く動いた女がいるということまでは、ハインリッヒの頭の中にはなかった。
ノパ听)「今ここでやるか?」
ヒート・オロラ・レッドウィングは懐のベレッタM93Rの銃把を握り、その銃身下に取り付けられた銃剣をハインリッヒの額に突き付けた。
切っ先は既に薄肌を切り裂き、鮮血が汗のように滲み出ている。
从;゚∀从「……」
ξ゚听)ξ「ハインリッヒ、今は動かないで。
      ……貴女がデレシアですか」
振り返ることなく、女が雑踏の中でそう口にする。
デレシアもまた、振り返らずに返答する。
ζ(゚ー゚*ζ「西川・ツンディエレ・ホライゾンね。
       ニクラメンではお世話になったお礼を、いつかしようと思っていたの」
ξ゚听)ξ「あら、お礼なんてしなくていいのに。
      それよりもこっちは、色々な場所でのお礼をしたくってね」
ζ(゚ー゚*ζ「ふふっ、いらないわよ。
      足元の雑草を踏み潰しただけよ。
      それよりも私達の周りにいる警護の人間に銃から手を放すように言いなさい」
ノパ听)「……」
从;゚∀从「っ……」
行き交う人の波の中、彼女たちと三人の男だけが、その中で立ち止まっていた。
まるで水面に突き出た岩のように、あまりにも不自然な光景に周囲の人間がすれ違いざまに目を向ける。
そして必然、ヒートが持つそれに気づく人間が現れた。
「きゃあああああ!!
銃よ! その女、銃を持ってるわ!!」

25:以下、?ちゃんねるからVIPがお送りします
21/04/11 20:41:47.462 XJ3/Gf740.net
どこからか聞こえた悲鳴とその言葉によって、蜘蛛の子を散らしたように一気に人々が逃げ惑う。
残されたのは先ほどから変わらず立ち止まった人間達だけ。
デレシア一行を睨みつける男の数は三人。
懐に手を伸ばしかけた状態のままで停止し、周りの状況に流されることなく固唾を飲んでデレシア達の動きを見守っている。
(∪´ω`)「お……」
手に持ったピザの最後の一片を咀嚼し、嚥下したのはデレシアとヒートに挟まれるブーンだった。
彼はこの状況に陥ったことに対して焦りや恐怖を感じてはいなかった。
それは慢心や感覚が鈍ったからではなく、経験のある展開だったからだ。
ニクラメンで行われたオープン・ウォーター、ティンカーベルで起きた騒動。
そこで起きた爆破に伴う混乱に比べれば、この程度であれば混乱や無意味な焦りを覚えるものではない。
ζ(゚ー゚*ζ「さぁ、どうする?」
ξ゚听)ξ「……一度、貴女とは問答をしたかった。
      どうして私達の夢を邪魔するのですか?」
ζ(゚ー゚*ζ「夢? 妄想の間違いでしょ」
ξ゚听)ξ「つまりそれは、私達の夢を知っているということですね。
      なるほど、聞いていた通りだと思うべきですか。
      貴女は、生きていてはいけない人間です」
その瞬間的な語気の強さに、ブーンは争いの音を聞き、デレシアは空気を、ヒートは匂いを感じ取った。
銃爪を引いてハインリッヒを殺すよりもヒートが選んだのは、ブーンの安全だった。
銃爪を引けば次弾が装填されるまでの間にブーンが撃たれる可能性がある。
そこで選んだのは、ハインリッヒの額を滑らせるようにベレッタを移動させ、銃を構えようとしている男を撃つことだった。
全ては一瞬の間に導き出された答えであり、その選択はデレシアの予想した通りでもあった。
もう一挺のベレッタを抜き、ヒートは一切の躊躇なく、今しがた懐から拳銃を取り出した男の肺を撃ち抜き、フルオート射撃の反動を利用して心臓と喉を撃った。
撃たれた男は仰け反りながら取り出した銃を虚空に向けて発砲し、そのまま倒れ込んだ。
残った二人の男はデレシアが一瞬の内に抜き放った黒塗りのデザートイーグルの餌食となり、頭を失って吹き飛んでいた。
その一瞬の内に、ヒートの眼下にいたハインリッヒとツンディエレはその場から離れ、入れ替わるようにして強化外骨格を身に着けた人間が二人、建物の屋上から飛び降りてきた。
〔欒゚[::|::]゚〕『同志ツンディエレ、今の内に!!』
〔::‥:‥〕『お逃げください!!』
流石に追撃をする余裕のなくなったヒートはブーンを抱きかかえ、その場から退避することを選んだ。
ノパ听)「後は頼んだ!!」
ζ(゚ー゚*ζ「えぇ、任せて」
強化外骨格の持つ優れた防弾性能は、ヒートの持つ拳銃に装弾されている弾種では破ることは出来ない。
一瞬の判断によって、ヒートはブーンを連れてその場から退避する道を選んだ。
その場に残ったデレシアは、対峙した二機の強化外骨格の遣い手をすぐに殺すことはしなかった。
ζ(゚、゚*ζ「……さて、人の旅行の邪魔をした落とし前をつけてもらうわよ」
トゥエンティー・フォーとジョン・ドゥを扱う棺桶持ちの連携した動きは、護衛者として優秀だった。
逃亡するツンディエレへの銃撃を防ぐように、その進路上に両手を広げて仁王立ちになる。
その間に白いジョン・ドゥがデレシアへの攻撃を行う。
近接戦闘を選んだのは、恐らく、ジョン・ドゥを扱う人間が本能的にデレシアの危険性を察知したからだろう。


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