うら若き女性が改造されるシーン at SFX
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150:BeeFreak
04/11/13 03:18:03 UQWXELTN
全員が館の中に入ったとたん、ギーッ、バタン! という音とともに、扉が勢いよく閉まっ
た。周囲は完全な闇に包まれた。
「キャッ!」るみと綾奈が悲鳴を上げた。他の者も、驚きのあまり思わず息を飲んだ。裕
美子は綾奈たちの方に駆け寄った。「大丈夫よ。ドアが閉まっただけだから。」
咲也が急いで携帯を取り出し、バックライトでドアノブを照らした。夏彦が取っ手を掴ん
で押し下げようとした。だが取っ手は堅く、びくともしない。
「おい! 開かないぞ! どうやら閉じ込められたらしい!」
「古い建物で、鍵が錆びてるんじゃないか?」
「わからん。ともかく出られそうにないんだ!」
夏彦は必死でドアを蹴り、取っ手を渾身の力で押し下げる。一同は心の中に不安が這い上
がってくるのを感じた。ドアの向こう側ではまだ嵐が荒れ狂っているらしく、窓をガタガ
タ鳴らす音だけが響いてくる。
と。突然、周囲が明るくなった。
「!」不意を突かれて、一同は目を丸くした。見ると遼一が、電灯のスイッチをひねった
らしい。
「電灯、生きてるぜ。」
「…どういうことだ? このペンション、廃屋じゃなかったのか?」和樹が首をひねった。
「ねえ! 見てこのシャンデリア!」
咲也が目を輝かせて、ホールの中央目がけて駆け出した。
「ドーム工房のデザインよ。それにこの、アール・ヌーヴォー風の階段の手すり。純ヴィ
クトリア調の仕上げじゃない! このラダーバックの椅子はマッキントッシュよ。すごい
わ!」デザイン学を志している咲也は、喜びを押さえられないといった表情でホールの中
をくるくると回った。

151:BeeFreak
04/11/13 03:19:40 BFUHMBnm
一同の前には、2階まで吹き抜けになった、巨大なホールが広がっていた。壁も床も、重
厚な茶褐色の木で造られている。彼らの正面には、2階へ昇る幅の広い階段があり、昇り
切った場所から手前に向かって、幾つもの円柱に支えられるかたちで2階の廊下が「門」
の字形に延びている。円柱のひとつひとつに取りつけられた照明も、凝った造りだ。ホー
ルの両脇には幾つも木の扉が並んでいるが、どれも荘重な造りで、重々しい雰囲気をかも
し出している。
「すごいわ。確かにこれはお金かかってる!」裕美子もしきりに関心した様子だ。
正面階段の右端に、西洋の甲冑が置かれている。金色に輝く、かなり豪華なつくりの鎧だ。
「…何だか、薄気味が悪いね。」るみが綾奈に同意を求めた。話しかけられた綾奈の顔も
何だか引きつっている。
その会話を小耳にはさんだ夏彦がスタスタと歩み寄り、鎧を小突いた。「なんだるみちゃ
ん、鎧が怖いのか?」そして鎧の顔面を覆う、面頬を押し下げて中を覗き込んだ。
「おーい。誰かいませんかー? …ほらね、中はカラッポだよ。」そう言って笑った。
和樹はしゃがみこんで、床を指でなぞった。そして翔吾に話しかける。
「ほら。チリひとつ指につかない。ここはやっぱり廃屋じゃないぞ。」
「人がいるかも知れない、ってわけか。」翔吾は大声で、奥に向かって叫んだ。「すみま
せーん!! どなたか、いらっしゃいませんかー!! 」だが、一向に返事は返って来ない。
翔吾はとりあえず、ホールの中央に一同を集めた。
「どうやら誰もいないみたいだが、いつ人が戻ってくるかわからない。叱られないよう、
軽はずみな行動はするなよ。まず身体を乾かし、休む場所を見つけよう。2人一組で行動
するんだ。パートナーとは決して離れないこと。そしてお互いの声が聞こえるよう、部屋
の中に入るときは、必ずドアを開けっぱなしにすること。」
一同は頷いた。
「それじゃあ、2階の左側は姫さんとワクさん、右側は遼ちゃんとるみちゃんで調べてく
れ。1階の左側は夏やんとママちゃん。右側は俺と綾ちゃんだ。何かあったらすぐに大声
で知らせること。じゃあ調査開始だ。」

152:BeeFreak
04/11/13 03:21:04 BFUHMBnm
皆が散り散りに去った後、翔吾は綾奈を連れて、1階右側の扉を開けて中に入った。照明
を点けると、中は丸いテーブルが幾つも並んだ広い空間だった。どうやら食堂らしい。丸
いテーブルの上にはクロスが掛けられ、皿が並べられている。まるで宿泊客がいるかのよ
うに。
翔吾たちはゆっくりと中に歩み入った。食堂の右側、館の入り口に近い側には大きなグラ
ンドピアノが置かれている。ピアノのさらに奥は、椅子が円形に配置された、8角形のサ
ンルームになっているらしい。左側の奥には、巨大な暖炉がしつらえられていた。彼らの
正面、扉が並ぶ壁の反対側は、庭に面しているらしく大きなガラスサッシが並んでいる。
外はどうやらテラスになっているようだ。
綾奈が、ふと大変なことに気付いた。
「石倉さん…ねえ石倉さん。雨、降ってないですよ!」
「何ッ!?」翔吾はあわててガラスに駆け寄った。さっきまであれほど荒れ狂っていた嵐が、
何事も無かったかのように治まっている。ガラス扉のロックを外して開け放った。何と、
テラスには雨に濡れた痕跡すら無いではないか。2人は狐につままれたように呆然と空を
見上げた。空は星ひとつ見えない暗黒の空間だった。そして彼らの前方に拡がる空間も、
やはり漆黒の闇であった。
「…どういうことだ。まだ午後4時前のはずだぞ!?」
綾奈が、急に腕を抱えてガタガタと震え出した。「どうした綾奈ちゃん?」
「…石倉さん…ここ…何かいます…」
石倉の顔は蒼白になった。「何だ? 何がいるんだって?」
綾奈は首を振った。「わかりません。…でも、何かいるんです。」綾奈はそういうのがや
っとだった。
翔吾はガラス扉を閉じ、綾奈の肩を抱いて椅子に座らせた。「いいか綾奈ちゃん、気をし
っかり持て。不安がそんなふうに錯覚させてるんだ。何もいやしない。何もいやしないよ。」
翔吾は、綾奈に何度も念を押した。まるで、自分自身に言い聞かせるように。

153:BeeFreak
04/11/13 03:22:03 BFUHMBnm
夏彦と裕美子が足を踏み入れた、いちばん左側奥の部屋は、何と浴場の更衣室だった。や
はりこの建物はペンションであるらしい。
「ほぉっ。ここは女風呂だぞ。俺、女風呂に入るのは初めてだぜ。」
夏彦は笑いながら浴室に足を踏み入れた。さすがに湯船には湯は満ちておらず、からっぽ
だった。「へえ、本格的なサウナまでついてやがる。」
「夏彦! キョロキョロしてないで、タオルか何か探すのを手伝ってよ! 更衣室なら何かあ
るはずよ。」
そう言って裕美子は、洗面台の下に並んだ扉をひとつひとつ、開けて内部を確かめて回った。
「変ね。なんでこんなものがあるのかしら?」
そう言って裕美子が取り出したものは、蜂蜜のガラス瓶だった。どういうわけか扉の中に
は、蜂蜜の瓶がギッシリと詰め込まれている。
「なぁ裕美子! 今度どこかの温泉で、家族風呂を借りないか? 露天風呂がいいな。青空の
下で、一度お前とヤリたいんだ。」
「もう! 何言ってるのよこんな時に!」裕美子は顔を赤らめて抗議した。彼女が夏彦の方
に振り向いたその時、外壁の高い位置に付けられた小さな窓が目に入った。そして彼女は、
窓の向こうにいた“そいつ”と、目が合ってしまった。
「キャッ!」裕美子は短い悲鳴を上げた。あわてて浴室から夏彦が飛び出してきた。
「どうした! 何があった!?」
裕美子はガタガタと震えながら、窓の方を指差した。
「あ…あれ…あれ…」
「何もいないじゃないか。」
「…いたのよ! あれが…あれが!」
「あれって何だよ? さっぱりわからないぞ。」
「目よ! ギラギラとした目。こっちを覗いてたのよ!」
「覗きか? 近所の出歯亀か何かか?」
「違うの! あれは…人間じゃない! 人間の目じゃなかったわ!」
「じゃあ、タヌキか野良猫だろう。お前、言ってることが支離滅裂だぞ。」
裕美子はへなへなとその場に座り込み、首を何度も横に振った。
「違うの…あれは…あれは!」

154:BeeFreak
04/11/13 03:23:04 BFUHMBnm
2階には、客室が幾つも並んでいた。咲也と和樹の二人は、左側の客室をひとつひとつ調
べて回ることにした。幸い、どの扉にも鍵はかかっていないようだった。
「ステキ! 部屋の調度もビクトリア調だわ。ほら、暖炉まである!」咲也は本来の目的を
忘れて、調度品を調べるのに夢中だ。和樹は部屋に設えられたユニットバスをのぞき込み、
ハンガーにタオルがかかっているのを発見した。
「こりゃありがたい。姫さん、タオルを集めるのを手伝ってよ。」
ランプシェードを調べていた咲也は残念そうに立ち上がったが、それでも手際よく次々と
部屋を回ってタオルを集め、和樹に手渡していった。
階段から見て一番奥、入り口側に近い部屋に入った時、 咲也は奇妙なものを見つけた。
ツインベッドの片方、布団の中央が、やけに盛り上がっているのだ。
「ちょっと藤原君、これ見て。」急いで和樹を呼び寄せた。
「…布団の中に、誰か隠れてるんじゃないか?」
「やめてよ。そんなはずないじゃない。」そう言って、咲也は掛布団をさらりとめくった。
そこに…現れたものは…
黒い、得体の知れない塊りだった。
その塊りはザワザワと蠢き、波が引くように崩れて、周囲に広がっていった。塊りの一部
は、黒い粒々となって布団を手にした咲也の腕にまで這い昇ってきた。
「ヒイッ!!」咲也は声にならない悲鳴を上げ、狂ったように激しく腕を降ってそいつを振り
払った。そして絶叫しながら部屋から飛び出していった。「イャアアアアアアッ!!!」
それは、黒い蟻の群れだった。そして蟻の群れがいずこともなく散らばっていった後には、
黒い、ひからびたミイラがベッドの中央に残されていた。

155:BeeFreak
04/11/13 03:24:03 BFUHMBnm
あまりの光景に和樹は一瞬硬直したが、ふと我に返り、咲也の後を追って部屋の外に出た。
咲也は廊下の手すりを掴んだまましゃがみ込んで、激しく嗚咽していた。
ようやく呼吸を整えた和樹は、咲也の顔を覗き込んで慰めた。
「大丈夫だ、姫さん。死体に蟻がたかっていただけだ。何もしやしない。大丈夫だよ。」
咲也はしゃくり上げながら、力なく立ち上がった。
「わたし、虫だけはダメなの。虫だけは、勘弁して…お願い…」
向かい側の廊下から、悲鳴を聞きつけた遼一が走って駆けつけてきた。
「おい! 一体何があった!?」
「…死体だよ。死体に蟻が群がってたんだ。」「…死体? アリ?」
二人は咲也にそこで待っているよう言い残して、死体を調べに部屋に戻った。あれほど沢
山いた蟻の群れはどこに消えたのか、その痕跡すら見つけることができなかった。
二人とも、変死体を目の前で見るのは初めてだ。喉の奥に酸っぱいものが逆流してくるの
を堪えながら、彼らは死体をまじまじと観察した。
死体は、口を開け、白目を剥き出して何かを叫んでいるような表情をしていた。指先を奇
妙に曲げ、まるであがいているかのようなポーズである。最初はミイラのよう見えたのだ
が、よく観ると、単なる干からびた死体とはまったく異なる状態であることがわかった。
「…何なんだろう、これ? カチコチに固まって、まるで昆虫みたいだ。」
「それに、こいつ男なのか、女なのか? アソコに何もねぇじゃねぇか?」

156:BeeFreak
04/11/13 03:25:03 BFUHMBnm
「ねぇねぇ! 咲也ちゃん、大丈夫?」廊下にるみの声が聞こえる。
「やばい! 遼ちゃん、るみちゃんには死体を見せるな!」
「オッケイ!」遼一は外に出ていった。
「遼ちゃん、一体何があったの?」るみは好奇心で一杯の様子だ。
「20歳未満お断りのものだよ。さあ子供は帰った帰った。」
「わかったあ。殺人事件の死体でも見つけたんでしょう!」
「ん!? 何で知ってる?」遼一は狼狽して、うっかり白状してしまった。
「ああーやっぱりィ? 死体、見たい! 見たい!」
「バカ! すっごく、グロテスクなんだぞ。失神したらどうする?」
「大丈夫よ。おじいちゃんの見たことあるし。」
「お前のじいさんは安らかに大往生したんだろうが。一緒にするな! こっちの死体は恨み
骨髄という顔をしてるんだ。さあ、帰った帰った!」
「もう! どうしてみんな、そうやっていつも子供扱いするのォ!?」
その時、息を切らせて石倉翔吾が駆け上がってきた。
「何だ、今の悲鳴は! 何があった!?」

157:BeeFreak
04/11/13 03:26:05 BFUHMBnm
気を持ち直した咲也とるみを廊下に残したまま、翔吾、和樹、遼一の3人は死体を調べて
いた。
「死因がさっぱりわからないな。身体が真っ黒に固まって、まるで蟻のような姿になって
死ぬ。そんな死に方、今まで聞いたことがない。」和樹が何度も首をひねった。
「…それよりお二人さん。さっき向こうの部屋で面白いものを見つけたんだ。聞いてみる
かい?」
そう言って遼一が取り出したのは、ボイスレコーダーだった。
「誰のだ、一体?」「さあな。クローゼットの中に落ちてたのさ。ここの宿泊客のものだ
と思うけどね。」
遼一が再生スイッチを入れた。
………。………。
レコーダーから聞こえてきたのは、ひどくあわてているらしい若い男の声だった。バック
には激しい怒号、ドンドンと何かを叩いているらしい物音も聞こえる。
遼一たち3人は、困惑して顔を見合わせた。
「…何て言ってた? “みんな、化け物に…襲われてしまった”か?」
「いや、“みんな、化け物に…なってしまった”って聞こえた。」
「俺にもそう聞こえたよ。で、その後は“あの…蜂のような女に…吸い取られてしまう!”
だったと思う。」
「“蜂のような女”って一体何だよ? それに、何を吸い取るんだ?」
「知らねえよ。とにかく、先客からの、あまりありがたくない伝言だな。何かのいたずら
だと思うが、縁起でもねぇ!」

158:BeeFreak
04/11/13 03:27:38 bQXvoHye
3人は気分を落ち着けるために廊下に出た。
「それはそうと大将、綾奈ちゃんはどうした?」
「食堂にいたんだが、悲鳴が聞こえたんで、ホールに出て待っているように言ってある。
食堂の扉は開けたままだから大丈夫だろう。」
「…扉、閉まってるぜ。」
「何ッ!」翔吾は手すりから身を乗り出した。確かに、ホールから食堂に通じる3つの扉
はすべて閉まっている。ホールにいるはずの川瀬綾奈の姿も、どこにも見当たらない。
「食堂に閉じ込められたんだ。行ってくる!」
その時、咲也がホールの一角を指差して、キャアッ!と叫んだ。
「どうした!?」
「…鎧が、鎧が無くなっているわ…」
見ると、階段の脇にあったはずの西洋甲冑が、どこかに消えている。咲也はまたも、へな
へなとその場にしゃがみ込んだ。
「まさか…勝手に歩き出したのか?」
「馬鹿なこと言うな。だがこの館、やはりどうかしてやがる! 早くここから逃げ出そう!」

159:BeeFreak
04/11/13 03:28:08 bQXvoHye
無気味な目を見たショックで錯乱気味の裕美子を抱きしめ、夏彦は彼女の背中を優しく撫
でさすった。
「今日は色々あったからな。疲れてるんだよ。お前は何もしなくていい。探し物なら俺が
代わりにしてやるから。」
夏彦は立ち上がり、再び浴室に入った。「電気が通ってるんなら、湯も使えるかも知れな
い。みんなで風呂に入って暖まろうぜ。」
そう言って、蛇口をひねった。
その途端、脱衣場と浴場を隔てるガラス扉がバタン!と音を立てて閉じた。
そして蛇口から、湯の代わりに白いガスが、シュウシュウと吹き出してきた。
夏彦はあわててガラス扉に駆け寄った。力いっぱいドアを引く。だが、扉はびくともしな
い。
「夏彦! ねえ夏彦!」裕美子は驚いてガラスを叩いた。
夏彦は「どいてろ!」と叫んで、浴用チェアをガラス目がけて投げつけた。だが激しい音
とともにチェアが跳ね返っただけだった。
白いガスは、浴室内に充満してゆく。それを吸った夏彦は、胸を押さえて苦しみ始めた。
「逃げろ! 裕美子! 早くここから逃げろ!」
「キャア! 夏彦! 夏彦ってば!!」裕美子は半狂乱でガラスを叩く。
ガスを吸い込んだ夏彦は、浴場の床に倒れ伏し、身体を折り曲げて激しくもだえた。そし
て、彼の身体には徐々に恐ろしい変化が現れていった。
「い、いやぁ! 夏彦! 夏彦ってば! 誰か、誰か助けてェ!!」

160:BeeFreak
04/11/13 03:29:04 bQXvoHye
夏彦の身体がドス黒く染まり始め、堅い殻のように変質していった。手の先、足の先は昆
虫の爪のように伸び、関節もカニの足のように変化した。髪の毛はすっかり抜け落ち、真
っ黒に染まった額からは、二本の触角が生えてきた。そして、人間の口を突き破って、昆
虫の大顎のような口器が現れた。
数分の後、夏彦の身体は、巨大な蟻のような姿に変貌していた。
あまりの恐ろしい出来事に、裕美子はもはや声を出すこともできず、床に這いつくばって
ガタガタと震えていた。
さっきまで夏彦だった怪物が、二本の足でフラリと立ち上がった。そして着ていたTシャ
ツと海水パンツを、ベリベリと引きちぎった。
浴場と更衣室を隔てていたガラス扉が、音もなく開いた。怪物は、四つん這いになっての
っそりと更衣室に上がり込み、ガクガク震える裕美子の方に近づいてきた。
怪物の目は昆虫のような複眼ではなく、人間に酷似していた。黒い顔面に白い眼球だけが
ギョロギョロと動いているのが無気味だ。裕美子は気付いた。さっき窓の外に見たのも、
これと同じ怪物の目だったことに。
「…な、夏彦なの? …嘘、嘘よね。こんなの嘘よね。…い、いやあ!」
怪物は、裕美子の顔に触角を近づけ、ギョロギョロした目で彼女の顔を凝視した。それは
もはや、夏彦の優しい、涼しげな目ではなかった。裕美子は必死で目を閉じ、顔じゅうを
まさぐる触角を避けようと必死で顔をそむけた。
やがて、興味を失ったのか怪物は立ち上がった。怪物の首に掛けられた、裕美子とお揃い
のネックレスがキラリと光った。かつて夏彦だった怪物は、さっき裕美子が無気味な目を
見た窓をガラリと開け放ち、外に飛び出して行った。
「あ…あ…あ…!」
怪物の姿が見えなくなると、裕美子は息を切らせ、声にならない声を上げた。そして満足
に動かない身体を必死に動かして、更衣室の外へと這い出して行った。

161:BeeFreak
04/11/13 03:30:03 bQXvoHye
その頃、綾奈はたった一人で、食堂の中に閉じ込められていた。
「ホールに出て待ってろ! 扉は開けておけ!」悲鳴を聞いた翔吾が、そう言い残して食堂
を飛び出していったのは、ついさっきのことだ。綾奈も彼の後を追って外に出ようとした。
だが彼女の目の前で、扉はバターン! という音を立てて閉じてしまった。綾奈がいくら引
っ張っても、頑丈な扉はびくともしなかった。
綾奈は、他に脱出口がないか探すことにした。こんなところには一人でいたくない。最初、
暖炉の裏側にある厨房に飛び込んだが、電気の場所がわからず、暗闇のままだったので引
き返した。仕方がないのでホールへと続く他の扉が開かないかどうか、ひとつひとつ確か
めてみることにした。
テラスに面したガラス扉の向こうは、相変わらず漆黒の闇だ。できるだけそちらを見ない
ようにしながら、綾奈は食堂の中を移動した。だが、彼女は見てしまった。
ガラスの向こう側に、白いドレスを着た女がいたのだ。長い髪に蒼ざめた肌の、美しい女
だ。
女は暗闇の向こうから、まるで宙を浮いているかのように、ススー、と近づいてきた。そ
してガラスに手を当て、綾奈を見て妖しく笑った。
「キャアッ!!」綾奈は叫び、駆け出した。女の姿は再びガラスから遠ざかり、闇の中へと消
えていった。
綾奈は必死で、ホールに通じる扉を引っ張った。もう嫌だ。こんなところにはもういたく
ない。だが相変わらず、綾奈の力では扉はびくともしない。
ダーン! 不意に、そばのピアノが大きな音で鳴った。

162:BeeFreak
04/11/13 03:31:05 bQXvoHye
綾奈の背中は、稲妻が走ったかのように硬直した。心臓がバクバクと鳴り響く。
タ、ターンタ、ターン、タン!!
ピアノは、悲壮感に満ちた曲を奏ではじめた。おそるおそるピアノの方を覗き見て、綾奈
はさらに驚いた。演奏を続けるピアノの前には、誰も座ってはいなかったのだ。
綾奈の足はもう、いうことをきかなかった。綾奈は床にくずれ落ち、背中伝いに這いながら、
必死でピアノから逃れようとした。
ピアノが奏でる力強く悲痛な曲は、ますます盛り上がり、耳を聾せんばかりに激しさを増
していった。そして、ピアノの開いた共鳴板の中から、無数の蜂が飛び出してきた。
「いやああ!!」
蜂は、曲に合わせて狂ったように綾奈の周りを舞った。蜂の数はますます多くなり、ブン
ブンと音を立てて彼女を追い回す。何匹かは彼女の身体にとまり、綾奈の肌の上を這いま
わる。
「…助けて! 誰か助けて!! お願い!」
蜂の群れに覆いつくされながら、綾奈は意識を失った。気を失う前に一瞬、彼女の目にピ
アノが映った。ピアノの前にはいつの間にか、さっきの白いドレスの女が座っていた。ピ
アノを奏でながら、女はチラリと綾奈の方を見て、またも妖しく微笑んだ。

163:BeeFreak
04/11/13 03:32:03 bQXvoHye
突然どこからともなく、ピアノの音が聞こえてきた。2階にいた若者たちは驚いて顔を見
合わせた。
「ベートーヴェンの悲愴ソナタよ!」咲也が叫んだ。
「どこからだ!?」「食堂みたいだ!」
翔吾はハッとなって、一番に駆け出した。残りのメンバーも、階段をバタバタと駆け降り
る。
翔吾が食堂の扉を、渾身の力で押した。だが、びくともしない。翔吾は扉から離れ、勢い
よく扉にタックルをかませた。和樹と遼一も、何度も飛び蹴りをくらわせたが、扉はまっ
たく動く気配がない。
「綾奈ちゃん! 綾奈ちゃん!!」るみが、泣きそうな顔で必死に扉を叩く。
悲愴ソナタは、ますます激しさを増し、狂おしく奏でられてゆく。
「食堂に続くドアは、他にないのか!?」
「そうだ! 確か厨房があった。扉もあるはずだ!」
翔吾は階段の裏側へと走った。一番右にある、厨房の扉は開かなかった。だが隣の扉があ
っさりと開いた。だが中は真っ暗だった。電灯のスイッチの位置がわからない。
「しめた。懐中電灯だ!」遼一が扉のすぐ脇にあった懐中電灯を見つけ、明かりを点けた。
扉の中は倉庫らしく、ロッカーが立ち並び、ビールのカートンや大きな箱が幾つも積み重
ねてある。地下室へと通じる階段もあった。
「こっちだ!」懐中電灯を持った翔吾が、隣の部屋へと飛び込んだ。
「遼さん! 扉が閉じないよう、突っかえをしておこう! 手を貸してくれ!」
和樹と遼一は、扉が完全に閉じないよう、扉と壁の間に箱を幾つかはさみ込んだ。そして、
翔吾や咲也の後を追った。
悲愴ソナタの演奏が、ようやく終わった。館の中は、再び沈黙に包まれた。
厨房伝いに食堂に飛び込んだ一同は、しかし綾奈の姿を、どこにも見つけることができな
かった。
「おーい! 綾奈ちゃーん!! どこだぁーッ! どこにいるんだぁーッ!!」

164:BeeFreak
04/11/13 03:33:37 7DMx1AW3
翔吾の叫びに対する返事は、どこからも返っては来なかった。
咲也がピアノの方に走り寄った。「おい! 危ない! 近寄るな!」和樹が叫んだ。
「…思った通りよ。スタインウェイの、プレイヤーピアノだわ。」
「プレイヤーピアノ?」
「自動演奏ピアノよ。曲をプログラムしたテープをセットしておけば、自動的にその曲を
演奏してくれるの。巨大なオルゴールみたいなものね。」
「…でも、誰かが曲をセットしたことは間違いない。そいつが綾奈ちゃんをさらったんだ。
畜生! いったい誰が、こんな手の込んだいたずらを企てやがったんだ!」和樹は歯がみした。
翔吾はうつ向いて、悔しそうに手を握り締めていた。遼一がなぐさめるように、彼の肩を
ポン、と叩いた。
その時、るみが叫んだ。「あ、あれ! あれ見て!!」
一同は、テラスに通じるガラス扉の方を見た。ガラスの向こう側には、白いドレスを着た
長い髪の女の姿があった。振り返って一同をちらりと見た後、ススー、と闇の中に消えて
ゆく。
「野郎! 逃がすかよ!」遼一がガラス扉を開けて、テラスに飛び出し、女の後を追った。
「やめろ、遼ちゃん! 引き返せ!! 」翔吾が驚いて大声で叫んだ。
「え? どうして追いかけちゃ駄目なの?」咲也が訊ねた。
「よく見ろ! 雨が全然降ってないだろう! ここは普通の空間じゃないんだ!」
その時初めて、咲也たちは事の異常さに気がついた。一同は、必死に遼一を呼び戻そうと
口々に叫んだ。
「遼ちゃん! ダメだッ! 戻れぇッ!」「相良さぁーん!! 戻って下さぁーい!!」
だが遼一の姿は、暗い闇の中へと消えていった。

165:BeeFreak
04/11/13 03:35:04 7DMx1AW3
白いドレスの女は、遼一を待ち構えるかのように立ち止まり、振り返ったかと思うと、再
びすべるように動きだした。
女の前に、ガラス張りの建物が現れた。どうやら、温室らしい。女が温室に近づくと、扉
がひとりでに開いた。女の姿は、その中へと消えていった。
「畜生! なんでこんなに足が早いんだ!?」遼一はブツクサつぶやきながら、女の後を追っ
て温室へと飛び込んだ。
入った途端、ムッとする草いきれが、遼一を包み込んだ。温室の中は背の高い、見たこと
も無い植物が繁茂していた。中を動き回るには、植物の中をかき分けて移動しなければな
らない。
「おいおい。こんな温室ってアリかよ。これじゃあジャングルじゃねぇか。」
女の姿は、どこにも見当たらなかった。その代わり、ピチャ、ピチャという不思議な音が、
遼一の耳に聞こえてきた。
遼一は、女を追いかけて来たことを後悔し始めていた。前方に聞こえるピチャ、ピチャと
いう音が、何だか不吉な響きであるように感じられたからだ。
遼一は歩みを緩めて、おそるおそる草を掻き分けた。前方に急に、開けた場所が現れた。
ピチャ、ピチャという音は、その中央から聞こえてきた。
開けた場所の中央に、黒い人影が4つ、背中を向けて座り込み、しきりに何かをむさぼっ
ていた。ピチャピチャという音は、彼らの食事の音らしい。
遼一はその姿を見て、思わず背筋に冷たいものが走るのを感じた。なぜなら彼らの黒い姿
は、さっき館の2階で見た、干からびた死体にそっくりだったからだ。
4つの影が、ふと食事の手を休め、遼一の方を振り返った。
その顔は、人間のものではなかった。触角と大顎を持つ黒い巨大な蟻が、何かの生肉をむ
さぼっていたのだ。
「う、うわああッ!!」遼一はその場を逃げ出した。無我夢中で温室の入り口にたどりつき、
ふらつきながらそこから這い出した。

166:BeeFreak
04/11/13 03:36:03 7DMx1AW3
だが、館に戻る道を見つけることはできなかった。周囲は、完全な闇に包まれていた。
遼一は、ガクガクと膝が震えるのを感じた。歯もガタガタと震えて噛み合わない。早くこ
こから離れなければ。だが、一体どちらへ行けばいい?
その時、遼一の視界に再び白いドレスが飛び込んできた。「おい、あんた!」遼一は彼女
の後を追った。
白い女は、宙に浮いているかのようにススー、と遼一の前を遠ざかってゆく。遼一は必死
で後を追いかけ、あとひと息で追いつこうという場所で、女の肩に向かって手を伸ばした。
だが、遼一の手は女には届かなかった。彼の足元の地面が、不意に消えうせたからだ。
「うわあああああああ!!!」
断崖から足を踏み外し、遼一の身体は海を目がけて真っ逆さまに落下した。宙に浮いた女
は、妖しく笑いながら遼一の方を振り返った。
女の顔は、人間のものではなかった。


「うわあああああああ!!!」
遼一の凄まじい絶叫が、食堂で待つ翔吾たちの耳にも聞こえてきた。
「イヤっ。遼ちゃん!!」咲也が手で顔を覆った。一同は強いショックに打ちのめされ、しば
らく動くことができなかった。
「あ、あれを見ろよ!」和樹が、食堂の壁を指差した。
そこには、無数の蜂の群れが蠢いていた。蜂の群れの動きは、やがて壁の上に、ひとつの
言葉を描き出した。
「 あ と 5 人 」
一同は、背筋に冷たいものが走るのを感じた。蜂の群れが作った文字はやがて崩れ去り、
蜂たちはいずこともなく飛び去って行った。
食堂とホールを隔てていた扉が、ギィーッ、と音を立てて開いた。
その向こうから、髪を振り乱した裕美子が這うようにして現れた。
「…夏彦が! 夏彦が! 化け物にされてしまった!!」

167:BeeFreak
04/11/13 03:37:03 7DMx1AW3
綾奈は、自分の顔に何かが触れる奇妙な感触に、目を覚ました。目を開けると、ギョロギ
ョロと目を輝かせた奇怪な顔が、すぐ目の前にあった。
「キャアアアアッツ!!!」
その悲鳴に驚いたのか、黒い奇怪な怪物は、綾奈から飛びのいた。
綾奈の身体は、全裸で冷たい台の上に固定されていた。手足を縛られているので、身動き
することができない。
「ここは…どこなの!?」ガタガタ震えながら、綾奈は周囲を見渡した。薄暗い、湿った石
造りの部屋の中だ。そこかの地下室らしい。周囲には奇妙な機械が並び、自分の頭上には
底の無いカマボコ型のガラスケースが宙吊りになっている。
綾奈が縛られている台の周囲には、黒い奇怪な生き物が4体いた。離れた場所から四つん
這いの姿勢で、綾奈をじっと見つめている。
「イヤっ! ここから出して! ここから帰して!!」
綾奈の前に、白いドレスの女が現れた。さっき、ガラスの向こう側に見たのと同じ顔だ。
「…あなた、誰? わたしを…どうするの?」
女は、綾奈の美しい肢体をそっと愛撫した。
「可愛らしい子。まだ、男も知らないのね。でも、この身体とも今日でお別れよ。」

168:BeeFreak
04/11/13 03:38:03 7DMx1AW3
「え…何…どういうこと!?」
「あなたは今から、わたしと同じ身体に生まれ変わるの。蜂女にね。」
そう言った女の額が、急にベリッ! と二つに割れた。
「キャアッ!!」
額の割れた部分から、黄色の肉質組織が現れた。肉質組織はみるみる膨らむと、黄色と黒
の縞模様の、蜂を思わせる組織へと変化した。女の閉じたまぶたもムクムクと盛り上がり、
その表面に網目状の模様が浮き出した。みるみるうちに女の頭部は、口の周囲だけを残し
て、巨大な蜂の頭部に変貌した。
綾奈は、恐怖のあまり声も出なかった。
女は、ドレスを脱ぎ捨てた。濃いブルーの身体、黄色と黒の同心円模様で彩られた、蠕動
する乳房。それは、まさに蜂女だった。
蜂女は、妖しく微笑むと綾奈の頬を押さえて、こう告げた。
「今から、あなたは蜂女になるのよ。」
綾奈の頭上に吊り下げられていた、カマボコ状のガラスケースが、綾奈目がけて降りてき
た。綾奈をすっかり包み込んだガラスケースの中に、白いガスが吹き出し、綾奈の身体を
覆っていった。
「イヤああ! やめて! お願い!」
ガスを吸った綾奈の身体は、みるみるうちに人間ではないものに変化していった。

169:BeeFreak
04/11/13 03:39:05 7DMx1AW3
翔吾たち一同は、安全な場所を求めて2階の客室のうち、階段にいちばん近い広い部屋に
避難した。
この館の主が、彼ら一同に対して悪意を持っているのは間違いない。全員の情報を総合し、
何とか脱出の機会を見つけなければならない。
和樹が、遼一が見つけたボイスレコーダーの音声を、皆に聞かせた。
「“みんな、化け物に、なってしまった”、この「化け物」というのが、夏彦さんが変え
られてしまったという、蟻みたいな怪物のことね?」
咲也がノートとボールペンを取り出し、情報を整理する。まったく、彼女のバッグには何
だって入っている。
「そして“蜂のような女に、吸い取られてしまう”、この「蜂のような女」が、さっき蜂
を操って壁に文字を書いた、あの白いドレスの女の人なのかしら?」
「しかし、「蜂のような」という言い方が気になるな。あの女も、化け物の仲間なんじゃ
ないか? そしたら、出会っても相手にせず、ひたすら逃げなきゃいけないわけだ。」
「とにかく! 一刻も早くここから脱出しよう。」翔吾が膝を叩いた。
「ちょっと! 夏彦を置いて、逃げろっていうの!? そんなこと、できるわけないじゃない!!」
裕美子がヒステリックに叫んだ。
「そうじゃないよ、ママちゃん。まずここから逃げて、それから警察を呼ぶんだ。」
「…警察で対処できるような相手には、とうてい思えないわ。これを見て!」
咲也が携帯電話を開いて、皆に画面を見せた。
「わたしたちがこの館に入ったのは、午後3時42分。そして今は、午後3時46分。まだ5
分も経っていないのよ。」

170:BeeFreak
04/11/13 03:40:03 7DMx1AW3
「…そんなバカな!!」夏彦と裕美子が、バッグから携帯を取り出して確認した。
「嘘だろ…おい。それじゃあこの館の中だけ、時間の流れが違うとでも言うのか?」
「それだけじゃないわ。さっきから携帯がどこにも通じないのよ。海岸では通じたという
のに。きっとこの館だけが、周囲の空間から切り離されているのよ。」
一同は、言いようのない不安に包まれた。自分たちの相手が、人智を絶する存在だという
ことを思い知らされたからだ。
「…だが、入った以上、出口も必ずあるはずだ。その出口はきっと、俺たちが入って来た
あの場所に違いない。」翔吾が自分に言い聞かせるように言った。
「正面玄関か。強行突破しかないだろうな。」
「…きっと、鍵がかかっているわよ。」
「なら、近くの窓を割って飛び出すまでさ。」
「…ちょっと、みんな! 聞いて!!」るみの声に、一同は耳を凝らした。
ガシャン。ガシャン。ガシャン。金属を打ち合わせるような音を立てて、何物かがこの部
屋に近づいてくる。
「甲冑よ! あの甲冑が襲ってくるんだわ!」咲也が悲鳴を上げた。
「シッ! 静かに!!」和樹が皆を制した。
息を殺した一同の方に向かって、甲冑は少しずつ近づいてくる。翔吾と和樹は、椅子を振
り被って臨戦態勢を取った。裕美子は、おびえるるみをしっかりと抱きしめる。
ガタ! ガタガタ! ガタッ! ドアノブを乱暴に回す音が響く。だは鍵が掛かっているので、
ドアは開かない。
やがて、甲冑はあきらめたのか、再びガシャン、ガシャンという音を立てて去っていった。
一同はホッ、と胸をなでおろした。その時。
「…るみちゃん、わたしよ。ここを開けて…」
聞き慣れた声が、ドアのすぐ外から響いてきた。

171:BeeFreak
04/11/13 03:42:09 tsbFyJxN
「綾奈ちゃん!?」るみが思わず叫んだ。裕美子があわてて、るみの口を塞ぐ。
「…るみちゃん? いるんでしょう? わたし、ひとりで心細いの。早く開けて。お願い…」
るみは、裕美子の腕を振りほどいて叫んだ。「綾奈ちゃんだ。綾奈ちゃんだ。早く開けて
あげて! 怪物に襲われちゃうわ。早く! お願い!」
「絶対開けちゃだめよッ!!」咲也がるみの身体を押さえながら叫んだ。
「大将! 鍵を開けてもまだチェーンロックがある。少しだけドアを開けて、確認してみた
い。いいか!?」和樹が確認を求めた。
「…わかった。本当に綾奈ちゃんだったら大変だ。じゅうぶん警戒して、少しだけ開けて
みよう。」
翔吾と和樹が椅子を振り被り、ドアが開く方向に陣取った。咲也がロックを外し、おそる
おそるドアノブを回した。ドアが少しずつ、開いてゆく…。
ドアのすき間から、か細い少女の腕が、少しずつ伸びてきた。身体は見えない。
「るみちゃん。早くここを開けて。わたしを中に入れて。お願い。」
「違う! 綾奈ちゃんじゃない!!」るみが叫んだ。
「閉めて!! 早くッ!!」裕美子も叫んだ。咲也は渾身の力を込めて、ドアを勢いよく閉じた。
「ギャアッ!!」ドアのすき間に挟まれた腕が、激しくもがき痙攣した。
「閉めて!! ねじ切って!!」翔吾と和樹も加勢して、3人で力いっぱいドアを押した。挟まれ
た腕は激しくあがき、木の壁をガリガリと掻きむしった。「うおおおおッ!!」渾身の力で3
人はドアを押し込み、腕はブチッ! という嫌な音を立ててちぎれて、床に転がった。咲也
が急いで、ドアにロックを掛けた。
床に転がり落ちた細い腕は、ジタバタと痙攣するように暴れ回り、次第に黒い、蟻の肢に
変わっていった。やがて動かなくなった肢の切断面から、緑色の血がとぷとぷと漏れ出し
た。

172:BeeFreak
04/11/13 03:43:05 tsbFyJxN
だが突然、漏れ出た血は蟻の群れに姿を変えた。無数の蟻が肢から這い出し、部屋の中に
ザワザワと広がっていった。
「キャアアア!!」咲也が絶叫した。翔吾と和樹は急いで蟻の群れを踏み潰そうとするが、数
が多くてらちがあかない。
「姫ッ、殺虫剤は持ってないのか!?」「…虫除けスプレーならあるわ!」
咲也はかばんの中をまさぐり、和樹にスプレーをトスする。急いで蟻の群れに吹き掛ける
が、ただの忌避剤では群れが拡がるばかりで効果が無い。
「そうだ、火だ。火はないのか!?」翔吾が叫んだ。咲也はライターを取り出し、翔吾にト
スした。
「はい、雑誌!」裕美子がファッション雑誌を翔吾に手渡した。翔吾は雑誌を丸め、ライ
ターで火を点けた。雑誌が燃え上がると、蟻の群れが次々と這い出てくる黒い肢に押しつ
け、切断面を煙でいぶしながら焼いた。これが効果があったのか、蟻の群れはそれ以上は
這い出てこなくなった。
和樹はバスタオルを水で濡らし、壁や椅子に這い登った蟻の群れを拭き取った。しばらく
奮闘した結果、蟻の群れはなんとか根絶することができた。一同は疲れ果てて、ベッドに
倒れ込んだ。
ふと、聞き慣れた声がまた聞こえて来た。今度は、窓の外からだ。
「…るみちゃん。わたしよ。綾奈よ。ここを開けて。お願い…」

173:BeeFreak
04/11/13 03:44:04 tsbFyJxN
「キャアッ!!」るみは絶叫した。ここは2階だ。それなのに窓の外側には、川瀬綾奈が宙に
浮かんで窓に貼りついているではないか。綾奈は眼鏡をかけていなかった。そして先程の
女と同じ、白いドレスをまとっていた。
プーーーン。蜂が数匹、どこからともなく部屋に入って来た。驚く一同を尻目に、部屋の
中を舞う蜂の数はどんどん増えてゆく。
「暖炉だッ!! 暖炉を封鎖しろ!!」翔吾と和樹がベッドを持ち上げ、暖炉を塞いだ。裕美子は
先程の火の点いた雑誌を振り回して、蜂を追い回す。るみは水に濡らしたバスタオルをヌ
ンチャクのように振り回して、蜂を叩き落とす。虫が苦手な咲也は、部屋の隅で震えるば
かりだ。
数分間の格闘の後、ようやく蜂の脅威が去った。窓の外には綾奈の姿ももうない。
「もう、イヤっ!! 早くここから脱出しましょう!!」咲也がヒステリックに叫んだ。一同は頷
いた。
「正面を強硬突破するしかない。じゅうぶんな武器を用意しておこう。」
「蟻の化け物が相手なら、松明が欲しいな。姫! 燃えるオイルは持ってないか?」
「サンオイルならあるわ。」「難燃性だな。こいつはダメだ。」
「そうだわ。洗面台にヘアトニックがあった!」「よし。まだそっちがいい!」
和樹はタオルハンガーを壁からもぎ取り、その一端にタオルをぐるぐる巻きにした。液体
整髪料をたっぷり含ませ、ライターで火を点けると、勢いよく燃え始めた。
「よし。それじゃあ、一気に脱出するぞ。遅れるな!」

174:BeeFreak
04/11/13 03:45:03 tsbFyJxN
翔吾がおそるおそるドアを開けた。その途端! 1階のプレイヤーピアノが待ち構えていた
かのように、再び悲愴ソナタを奏で始めた。
ダーン! タ、ターンタ、ターン、タン!!
その響きに一瞬気おくれしたが、翔吾は意を決してドアを開け放ち、左右を確認して廊下
に出た。誰もいない。翔吾の合図で、残りの4人も廊下に出た。
急いで階段を降りようとした途端、彼らがいた客室の隣にある倉庫から、人間蟻が4体、
四つん這いでゾロゾロと現れ、彼らと階段の間に立ちふさがった。そのうちの一体は肢を
一本失っていたが、再生が始まったのか、切り口から小さな肢が今にも生えようとしてい
た。
和樹は松明を、翔吾は椅子を振りかざして人間蟻たちに迫った。「ここは俺たちに任せて、
早く降りるんだ!」
人間蟻の一体が、フラフラと立ち上がり、彼らの前に立った。その人間蟻の首には、裕美
子とお揃いのネックレスがかかっている。
「…夏彦? 夏彦なの!?」「ママちゃん! 危ない! 近寄るな!」
ネックレスを掛けた人間蟻は、裕美子に向かって手を伸ばした。どこからともなく、聞き
慣れた夏彦の声が聞こえてきた。
「…裕美子。俺だよ、裕美子。何も怖がることはない。さあ、こっちにおいで。」
「…夏彦? 夏彦ね。夏彦なのね!?」「ダメよ、ゆみちゃん! 罠よ!」
裕美子は咲也とるみの手を振りほどき、人間蟻たちの方に向かって駆け出した。
「夏彦ぉーっ!!」
翔吾たちが止める暇もなかった。裕美子の姿はたちまち人間蟻の群れに取り囲まれ、その
中に埋ずもれて見えなくなった。「ゆみちゃーーーんッ!!」

175:BeeFreak
04/11/13 03:46:04 tsbFyJxN
「くそオッ!!」和樹が松明を振り回して人間蟻に迫った。人間蟻たちが一瞬ひるんだ隙に、
階段へ降りる道が開けた。
「今だ! 一気に駆け降りろ!!」悲愴ソナタが鳴り響く中、翔吾の合図で、咲也とるみが急い
で階段を駆け降りる。だが1階に降り立った彼女たちの前に、不意に例の甲冑が現れ、立ち
ふさがった。「キャアアアア!!!」
「姫ェッ!!」和樹と翔吾が急いで駆け降りる。翔吾が椅子を振りかざし、甲冑目がけて振り
降ろした。ガシャンッ!! だが、甲冑は片手でそれを受け止め、軽々と横に払い流した。
「うわあッ!」
甲冑は倒れた翔吾の首根っこを掴み、宙吊りにした。翔吾はじたばたと足を動かすが、ど
うすることもできない。「…俺に、俺に構わず逃げろ!!」振り絞るように翔吾が叫んだ。
「い、石倉くんッ!!」「ダメだ、早く、早く逃げろッ!!」和樹たちは翔吾から目をそむけて、
玄関目がけて駆け出した。
翔吾は必死の形相で、甲冑の胸を蹴り飛ばした。その反動で甲冑がふらつき、兜の面頬が
パカッ! と開いた。
「うわああああああ!!」兜の内側には、何も無かった。

176:BeeFreak
04/11/13 03:47:03 tsbFyJxN
和樹たちはようやく、玄関にたどり着いた。ドアの取っ手を渾身の力で降ろそうとしたが、
びくともしない。
「くそッ!! やはりだめかッ!」「…サンルームよ!! サンルームの窓を割って逃げましょう!」
咲也が食堂の扉に駆け寄り、勢いよく開け放った。和樹は迫り来る人間蟻たち目がけて松
明を投げつけ、彼らがひるんだ隙にるみを連れて食堂に飛び込んだ。悲愴ソナタのクライ
マックスを奏でる自動ピアノの脇をすり抜け、3人はサンルームへと辿りついた。
「うおおおおおおッ!!」和樹が椅子のひとつを持ち上げ、ガラス窓目がけて投げつける。ガ
シャーン!! 窓が砕け散り、外への道が開ける。
人間蟻たちが、和樹の後を追ってサンルームに現れた。「ここは俺に任せて、早く逃げろ!!」
和樹は椅子を振りかざして、人間蟻の群れに立ち向かった。
「早く! るみちゃん!!」咲也がるみの手を引っ張って、窓をくぐり抜けた。外は相変わらず
漆黒の闇だ。雨が降った気配すらない。
「この野郎!!」和樹は狂ったように椅子を振り回した。人間蟻たちはその勢いに一瞬ひるん
だが、和樹めがけてプッ! と何かを吐き出した。
ブシュウウウ…ウウウ。和樹の持った椅子が、煙を上げて溶けていった。
「う、うわあああッ!!」

177:BeeFreak
04/11/13 03:48:34 hk0b+0EH
咲也とるみは、植え込みの中を縫って必死に玄関前の道路を目指した。
「ギャアアアアアアッ!!!」背後から、和樹の凄まじい絶叫が聞こえた。「藤原くんッ!!」
だが後ろを振り向いてはいけない。咲也は泣きながら懸命に走った。
ふと、何かに足を取られて咲也は転倒した。「咲也ちゃん!?」
つまづいたのではない。何者かが、咲也の足を掴んでいるのだ。後ろを振り向いた咲也は、
声にならない悲鳴を上げた。地面に空いた穴から人間蟻が顔を出し、咲也の足を掴んで中
に引きずりこもうとしている。
「いやあああ!!」咲也は死に物狂いで、人間蟻の顔を自由な方の足で蹴った。だが人間蟻は
動じることなく、咲也を少しずつ、少しずつ、穴の中へと引き寄せてゆく。
「さ、咲也ちゃん!!」「いいから! わたしに構わず逃げて!!」るみは目をつぶり、大声で叫
びながら駆け出した。
人間蟻が、咲也の腰を掴んで引き寄せた。「い、い、イヤああ!! 」人間蟻は咲也の後ろから
押し被さり、彼女を抱きしめたまま穴の中へ引きずり込む。咲也の顔のすぐ隣に、人間蟻の
醜悪な顔が現れた。シュウシュウという奇怪な呼吸音。ギッ!ギッ!という鳴き声。その
どれもが、気の狂いそうなほどにおぞましい。そしていつの間にか、咲也の身体を小さな
蟻の群れが這い昇ってきた。蟻の群れは咲也の服の中に入り込み、太股を、背中を、そし
て乳房の上を這い回る。「あ…あ…あ…!!」あまりのおぞましさに、咲也はもう、声を上げ
ることすらできない。やがて蟻の群れが咲也の顔を覆いつくし、彼女の姿は穴の中へと消
えていった。

178:BeeFreak
04/11/13 03:49:10 hk0b+0EH
るみは、必死で駆けた。館の玄関から海岸へと延びる下り坂を、目をつぶり、助けを求め
ながら必死で駆け抜けた。だがいつまで走っても、坂は終わらない。
「…るみ…ちゃん。」るみのすぐ耳元で、女の声が響いた。「ひィッ!」るみは思わず目
を見開いた。るみのすぐ右側を、白いドレスの綾奈が、宙に浮いたまま飛んでいた。綾奈
の背中からは、黄色い巨大な羽根が伸びていた。
そしてるみの左側には、あの髪の長い女が、やはり羽根を広げて滑空していた。
「ウフフ…フフフフ…ウフフフフ。」
「オホホ…オホホホホ…。」
妖しく笑いながら、綾奈と髪の長い女は、それぞれるみの右手と左手を掴み、引き寄せた。
「イヤアアアアアアア!!」
るみの足元には、既に地面はなかった。彼女の身体は宙を舞っていた。

179:BeeFreak
04/11/13 03:50:03 hk0b+0EH
……… ……… ………
それから、どれほどの時間が過ぎただろう。翔吾、和樹、咲也、裕美子、るみの5人は、
奇妙な物音を耳にし、ほぼ同時に目を覚ました。
彼らがいたのは、薄暗い地下室のような空間だった。その中に直径80センチほどの5つの
円筒形のガラスケースが立ち並び、翔吾たちはそのケースの中にすっぽりと閉じ込められ
ていた。
「おい! みんな無事か!? 起きろ!」翔吾が叫んだ。5人は目をこすりながら立ち上がった
が、自分たちが全裸にされていることに気付いて完全に目を覚ました。
「キャッ!!」咲也たちは思わず胸と股間を押さえたまま、うずくまった。
一同が目を覚ましたのは、彼らの目の前に展開されている、異様な光景が立てる声のため
だった。
彼らの前には白い手術台のようなものが置かれていた。その上で、一組の男女が激しくま
ぐわい合っていた。男は手術台の上に横たわり、女がその上に騎乗位にまたがって、しき
りに腰を振っていた。「…ん…ん…あン…あン…ああッ…」
まぐわい合う男女が何者であるかに気付き、翔吾たちは愕然となった。
「…遼さん!」「綾奈…ちゃん…!?」
横たわっている男は、相良遼一だった。手術台の上に身動き取れないよう、手足を固定さ
れている。「あぅ…あぅ…あああ…」遼一の顔は引きつり、顔面蒼白だった。とても、セ
ックスを楽しんでいる男の顔には見えない。

180:BeeFreak
04/11/13 03:51:03 hk0b+0EH
遼一の上にまたがり、腰を揺さぶっているのは、川瀬綾奈だった。だが彼女の肉体は、既
に人間とは呼べないものになっていた。濃いブルーの皮膚で全身を覆われ、手は白い長手
袋状、足はハイヒールのロングブーツ状に変化していた。そして彼女が両手でわし掴みに
して揉みしだいている両の乳房は、蜂の腹部のような黄色と黒の同心円状の模様で覆われ
ていた。頭部は愛らしい綾奈のままだったが、額からは真っ赤な触角が2本生えていた。
そして彼女の背中には、黄色い半透明の羽根が4枚生え、腰の動きに合わせて開いたり閉
じたりしていた。
「…綾奈ちゃん…綾奈ちゃん…。」るみは泣き出した。
チュパッ! チュパッ!という卑猥な音が響く。綾奈の腰の動きはますます激しくなり、嬌
声を上げてあえぎよがった。
「…はうン…はうン…ああッ…ああッ…いいわ…いい!…いいッ!…アウッ!…アウッ!
…アアアアゥッ!!」
絶頂に達した綾奈は、肩で息をしながら遼一の胸に身体を投げ出した。
「ハアッ…ハア…まだよ…もう一度…もう一度よ…」
「やめろ! やめるんだ綾奈ちゃん!!」翔吾が泣きそうな声で訴えた。だが彼女の耳には、
彼らの声は届いていなかった。
ガシャン。ガシャン。鈍い金属音を立てて、あの甲冑が彼らの前に姿を現わした。
「いやはや、実に面白い見世物だったよ、君たちの奮闘ぶりは。どうかね? 君たちも我々
の心からの歓迎を、楽しんでいただけたかね?」

181:BeeFreak
04/11/13 03:52:07 hk0b+0EH
「貴様あ! いったい何物だ! ここは一体どこなんだ!」和樹が怒りに満ちた声で叫んだ。
甲冑は胸を張って答えた。
「我々は、みそぎの日に世界を浄化の炎で焼きつくす集団、秘密結社メギドだ。私はその
幹部、甲冑男爵。そしてここは、我がメギドが新たに作った、改造兵士の実験場だ。君た
ちは、我々メギドの兵士、昆虫改造人間の実験体となるべく、この館にまんまと誘い込ま
れたというわけだよ。フハハハハ…!」
「か、改造兵士だって!?」
「いいかね? 我々の課題はいかに効率良く、世界を制覇できるかにあった。そのためには、
安価で大量に生産でき、しかも自我を持たず命令に忠実な兵士が必要とされたのだ。我々
は研究の結果、蟻や蜂のような社会性昆虫こそ、我らの兵士のモデルとして最適であると
いう結論に達した。我々が開発したこの改造ガスは、それを吸い込んだ人間の遺伝子の中
に眠る“進化の鍵”を刺激し、たちまち昆虫の姿へと変えてくれる。男性ならば人間蟻に。
そして女性ならば蜂女に。たったの5分で改造できるのだよ。改造後の彼らは個性を失い、
同じひとつの意識を共有することになる。つまり、一体に命令を下せば、即座に全員に命
令が伝わるというわけだ。どうだ、素晴らしいだろう!? フハハハハハ!!」
甲冑男爵は、満足そうに肩を上下に揺すった。
「君たちもご承知の通り、人間蟻は頑丈なボディと再生能力を持ち、地中を自由に移動で
きる優れた兵士だ。爪と顎、鉄をも溶かす蟻酸という武器も持っている。欠点は、繁殖能
力を持たないので絶えず補充を続けなければならないことぐらいだ。まあ、男性ならばた
いがい改造素体として適合するので、補充は楽なんだがね。」

182:BeeFreak
04/11/13 03:53:04 hk0b+0EH
次に甲冑男爵は、セックスに溺れている綾奈の方を指差した。
「そしてこちらが、蜂女だ。人間の顔にも蜂女の顔にも自由に変身できる工作要員だ。飛
行能力も備えているが、身体は人間蟻に比べると華奢だし、武器も乳首の毒針のみだ。そ
れに、改造素体が10代後半から20代の若い女性に限定されるので、補充が困難なのも難
点だな。だが、こいつらはそれを上回る長所を持っている。このように捕えた人間の男と
交わって、どんどん繁殖できるのだ。一度セックスをすれば、3週間後に卵が産まれる。
卵からは約ひと月で、母親の記憶をそのまま受け継いだ蜂女が孵る。蜂女は半年で大人に
成長し、新たな男を求めるというわけだ。放っておけば自動的に増殖してゆく、実に素晴
らしい軍団なのだよ。」
一同は、心臓が氷の手で掴まれたような戦慄を覚えた。
「…夏やんや、綾奈ちゃんも、そうやって改造されたのか!!」
「…そうだ、夏彦! 夏彦はどこなの!!」裕美子が叫んだ。
「君の恋人なら、ほら。ここにいるよ。」甲冑男爵の後ろから、ペンダントを首にかけた
人間蟻が姿を現わした。
「夏彦ッ! わたしよ! 裕美子よ! わからないの!?」裕美子は人間蟻に必死で呼びかけた。
「無駄だよ。人間だった時の記憶は残っているが、彼の意識はもう、人間のものではない。
我々メギドの忠実な兵士なのだよ。ワハハハハ!」
夏彦だった人間蟻に続いて、3体の別の人間蟻と、髪の長い女が現れた。女の身体は綾奈
と同様、蜂女のものだった。咲也は思わず顔を赤らめた、蜂女は股間の女性器を、恥ずか
しげもなく露出させていたからだ。毛のまったく生えていない青い恥丘の真ん中にスリッ
トが走り、そこからピンク色の肉襞がはみ出していた。

183:BeeFreak
04/11/13 03:55:08 rjwZHqvW
「彼らは、君たちよりも前にこの館におびき出し、改造した若者たちだ。最初はこの若い
カップルだったよ。改造される前は互いにかばい合っていたが、今では我々の忠実な兵士
だ。お互いのことなど覚えてもおるまい。次は、4人組の男たちだったな。残念ながら一
人は改造に失敗したが、2人は無事に人間蟻に生まれ変わった。そして残る一人は、この
蜂女の種付け用に酷使したので、精気を使い果たして数日で衰弱死してしまったよ。さあ、
君たちも今から、彼らの仲間入りをしてもらおうか!」
「い、いやあああ!!」咲也が絶叫した。
「畜生! 誰がお前らの言いなりになんかなるものか!!」翔吾がガラスの筒を内側からなぐり
ながら怒鳴った。
「ほう、君は確かリーダー格だったね。よかろう。まずは君から改造してあげよう。」
甲冑男爵が指を鳴らすと、円筒の上部の空気穴が閉じ、代わりに白いガスが床からシュウ
シュウ吹き出してきた。
「う…ぐわあ…あががが…!!」翔吾は身体を折り曲げ、苦しげに喉をかきむしった。白いガ
スが充満する中でしきりにもがいていたが、やがて動かなくなった。
ガスが引いてゆくと、円筒の底には、和樹たちが客室で見たものと酷似した、黒く干から
びた死体が残されていた。
「おや? 改造ガスが身体に適合しなかったようだね。時折、こういうことがあるんだよ。
改造人間にはなれず、死んでゆく者たちが。こないだの彼もそうだった。」
るみは顔を覆って泣いていた。裕美子と咲也はガタガタ震えて、言葉も出ない。

184:BeeFreak
04/11/13 03:56:03 rjwZHqvW
「どれ、次は誰を改造しようか…よし! お前がいい。」
甲冑男爵が指差したのは、咲也だった。
「君の活躍は見せてもらったよ。なかなか気丈で、機転の効くお嬢さんだ。それに美人で、
ちょっと痩せてるがスタイルもいい。まさに蜂女になるために生まれてきたような娘さん
だ。まだ処女のようだが、君ならセックス能力も抜群のいい蜂女になれるよ。」
「い、いや! いやだ!イヤだァ!!」咲也は激しく首を横に振った。
「やめろッ! 咲也に手出しするなッ!!」和樹が甲冑男爵に激しい怒声を浴びせかけた。
「ほう。君は…彼女に惚れているのかね? よろしい。君が望むなら、蜂女に生まれ変わっ
た彼女と、最初のセックスをさせてやろう。この手術台の彼と同様、蜂女たちの種付け係
として短い命を楽しむがいい。」
「だ、誰が、お、お前なんかのいいなりになるものかッ!!」
「…ふむ。それは残念だな。ならば君は人間蟻に決定だ。ではお嬢さん。今から蜂女に生
まれ変わってもらうよ。」
「やめてッ! お願い! やめて!! …キャアアアアッ!!」
「やめろォーッ!!」「咲也ちゃん!!」
咲也がいるガラスの筒の床から、白いガスが吹き出した。ガスを吸い込んだ咲也の身体は、
みるみるうちに変化していった。全身が青く染まり、小ぶりだが形の良い乳房に、黄色と
黒の同心円状の模様が浮かび上がった。咲也自身も、堪えがたい不快感と恍惚とした快感
のはざまで、自分の身体がかき回され、人間でないものに変わってゆくのを感じていた。

185:BeeFreak
04/11/13 03:57:03 rjwZHqvW
そして彼女の脳内に、自分のものでない意識がドッと流入してきた。
《…あなたは蜂女。わたしたちと同じ蜂女。さあ、人間の意識を捨てて、私たちの一部に
なりなさい…》
『嫌よ! わたしは人間! 蜂女じゃない!!』
《…あなたは蜂女。抵抗してもだめ。あなたは蜂女。あなたは蜂女。あなたは蜂女…》
『違うわ! わたしは人間! 朝倉咲也よ! 蜂女じゃない…蜂女じゃない…』
《…あなたは蜂女。あなたは蜂女。あなたは蜂女。あなたは蜂女。あなたは蜂女…》
『わたしは…蜂女…じゃ…わたしは…蜂女…わたしは…蜂女。わたしは、蜂女!』
《…そう、あなたは蜂女。わたしたちの一部。メギドの改造人間。忠実な僕…》
「…わたしは、蜂女。メギドの改造人間。わたしはもう人間じゃない。わたしは蜂女!」
咲也を閉じ込めていた、ガラスの筒が開いた。中から、すっかり変化した身体を誇らしげ
に誇示しながら、生まれ変わった咲也が出てきた。
「よし。無事に生まれ変わったようだな。さあ答えてみろ。お前は一体何物だ?」
「わたしは蜂女。メギドの改造人間。」咲也はそう言って妖しく笑い、両手で自らの乳房
を掴んで揉みしだいた。
「…ウ…ウウッ。…咲也ぁ!」和樹が泣きながら力なく呟いた。
咲也は、相変わらずセックスに夢中の綾奈の方を見ると、急に股間を押さえて、もじもじ
とし始めた。
「ほう、生まれ変わったばかりだというのに、もう男が欲しいのか。よかろう。さっそく
繁殖実験に移ろう。さあそこの蜂女! こいつと代わってやれ!」
綾奈がしぶしぶ、遼一から離れた。遼一は横たわったまま、顔面蒼白で口をパクパク痙攣
させている。
咲也は目を輝かせて、手術台の上に這い上がった。

186:BeeFreak
04/11/13 03:58:03 rjwZHqvW
「やめろ咲也! やめてくれ! お願いだ! やめてくれえッ!!」和樹が悲痛な叫びを上げた。
咲也には、和樹の声は届いていなかった。彼女の意識には、既に男をむさぼることしか存
在してなかった。まだ処女だというのに、蜂女としての本能が男の精子を求めてやまなか
ったのだ。
咲也は遼一の上に、後ろ向きにまたがり、綾奈とのセックスでさっきからいきり立ったま
まの肉茎にむしゃぶりついた。卑猥に蠢く舌が、肉棒をからめ取り、その表面を這い回る。
咲也は遼一の顔面に、女の蜜を分泌しつつある自らの股間を摺りつけた。そのまま腰を動
かして、彼の顔面を愛液でまぶしてゆく。蜂女の愛液は、男の肉欲を最高度に高めるこの
世で一番の媚薬であった。咲也の愛液を皮膚から吸収したことによって、遼一の意思とは
関りなく、彼の陰茎はビンビンにそそり立つのだった。
やおら咲也が起き上がった。身体の向きを変えて、今度は指で押し広げた自らの花芯を、
遼一のいきり立った肉茎に近づけていった。
「やめて…咲也ちゃん! やめて!」るみが、見たくないといったふうに顔を覆う。
充分に濡れそぼった肉孔が、遼一の肉棒に触れた。少しずつ、肉棒が孔の中に侵入してゆ
く。
「ウッ!」苦痛で咲也がうめいた。処女膜を引き裂かれる痛みだ。処女の本能がしばらく
咲也の動きを止めたが、やがて意を決したように咲也は、少しずつ腰を降ろしていった。
汚れを知らなかった咲也の膣孔の中に、遼一の陰茎がズブズブとめりこんでゆく。
「いッ、痛いッ!」
根元まで陰茎を飲み込むと、咲也はハァハァと息をついだ。そして、ゆっくりと、リズミ
カルに、自らの腰を上げ下げし始めた。
「…あ…あ…ああ…ん…んんっ…んんっ…あっ…あうっ…あっ…んんっ…はあっ…」


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