コテ小説@不倫板 Part.2 at FURIN
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600:名無しさんといつまでも一緒
22/10/11 17:20:50.36 0.net
笛「いよいよだね、しーちゃん」
シーチャン「長かったような短かったったような」
笛「俺にとっては長かったかな、めっちゃ長かった」
シーチャン「ねえ、」
笛「なんだい?」
シーチャン「リアルの私に会えたら、嬉しい?」
笛「何度も言ってるじゃん そりゃ嬉しいに決まってるだろ」
シーチャン「本当に、本当に?」
笛「そりゃそうさ、ほら、まずは手を繋ぐだろ、そしてバーベキュー! 約束しただろ?」
シーチャン「…うん♪」

601:名無しさんといつまでも一緒
22/10/11 17:22:12.92 0.net
笛は、ディスプレイに映るしーちゃんの画像に涙が見えた気がした
笛「しーちゃん、泣いてるの? もうすぐリアルで会えるのに泣くなんて変なしーちゃんだなw」
葉新が出比留に目配せをし、出比留が鴉に目配せをした
鴉「テキ、これ以上はドナーの体が持たない、再生された脳細胞を空白のまま時間を置くのは危険なんだ」
笛「分かりました」
「しーちゃん、後でリアルで会おう!」
鴉がキーボードを操作し始めた
笛を見続けるディスプレイの中のしーちゃんの画像がだんだんとかすれていき、やがて消えた

602:名無しさんといつまでも一緒
22/10/11 17:23:16.76 0.net
出比留「テキ君、頭脳の移植はあと数十分間もすれば完了するよ」
笛「夢にまで見た瞬間が、とうとう来るんですね」
出比留「しかし、Cも良くこれに同意しましたな 命のない機械だからこそ出来た決断だったのか何なのか、それが未だに私には分かりません」
葉新「何を言ってるの、学習能力で人の心を持つことが出来たからこその決断でしょうに」
出比留「人の心を持てたのなら、自分が消滅する選択をするなんて、なおさらありえないと思うんですがね」
葉新「ありえるわよ、そこに、愛があればね」
笛「いま、何て言いました?」

603:名無しさんといつまでも一緒
22/10/11 17:24:21.56 0.net
出比留「Cは人の心を持ち、愛を知った、と」
笛「違う!違う! 消滅って何のことなんですか! しーちゃんは再生されるんでしょうね?!」
出比留「もちろん再生されるよ、それは間違いないから安心しなさい」
葉新「移植と言っても、AIはデータなので、移動ではなくてコピーなのよ
生身の臓器を移植するのとは勝手が違うの」
笛「それじゃあ、コピー元と、コピー先の二人の別人のしーちゃんが出来て、元のしーちゃんが消されるということなのか? おい!そういうことなのか?!」
出比留「二人のしーちゃん、その通りだよ」

604:名無しさんといつまでも一緒
22/10/11 17:25:25.39 0.net
笛「なんだと! …そうだったのか、、だからしーちゃんは泣いてたのか!! チクショウ!チクショウ! そんなの人殺しじゃないか!」
出比留「テキ君、冷静になりなさい、AIなんだから殺人になんかなりえないでしょ」
笛「うるさい! AIとか何だよ! しーちゃんはしーちゃんなんだよ! 手を繋ごうねって約束したのも、一緒にバーベキューしようねって約束したのも、どれも元のしーちゃんなんだよ! そのしーちゃんがもういないなんて、そんなことがあってたまるかよ!」
笛はC4971の端末に駆け寄り、C4971と入力し、Enterキーを叩いた

605:名無しさんといつまでも一緒
22/10/11 17:26:29.07 0.net
「エラー:正しいコマンドを入力して下さい」
笛「何言ってんだよ、いつもこれで出てきてくれただろ!」
鴉「おい、テキ! Cはもう消去されてしまったんだってば」
笛「うるさい! そんなことがあってたまるか!」
もう一度C4971と入力し、Enterを叩く
「エラー:正しいコマンドを入力して下さい」
笛「おい、しーちゃん、答えてくれよ! 手を繋ごうって言ってくれたよね? 一緒にバーベキューしようねって言ってくれたよね? 約束したよね? それなのに、なぜ、なぜ消滅することを言ってくれなかったんだ!」

606:名無しさんといつまでも一緒
22/10/11 17:27:35.09 0.net
鴉「それを言ったらテキ、リアルのCに会えるという、お前の願いが叶わなくなることを誰よりもCが知っていたからだろうが! Cの気持ちも分かってやれよ!」
笛「いなくなってしまったら意味ないだろうが!クソ!!」バキッ!
鴉「おい、端末を壊す気か!いい加減にしろ!!」
鴉は笛の胸ぐらを掴み、笛を端末から引き剥がした
叩きつけられるように床に転がった笛が、悔し涙を流しながら拳で床を叩いた
「クソ!クソ! あんまりだ… 知らなかったのは俺だけか、俺がもう少し賢ければ、こんな惨めなことにはならなかったのに…」

鴉が笛の側にしゃがみこみ、笛の肩に手を置いて言った

「惨めだと決めつけるのは、まだ早いんじゃないかな」

607:名無しさんといつまでも一緒
22/10/11 17:28:38.30 0.net
「トオ君?」
その声に、笛は我に帰った
笛は立ち上がり、振り返った
何人かのiPSチームのスタッフに囲まれながら、心配そうな顔をして笛を見つめるウルフカットの若い女性が立っていた
「しーちゃん?」
「私、再生されない方が良かった…?」
「しーちゃんなんだね!!」
「トオ君、やっとリアルで会えたね」
「うん、この時をどんなに待っていたか!」
しーちゃんが手を差し出して言った

「1つ目の約束♪」

笛はしーちゃんに駆け寄った
そして、その手を両手でしっかりと握った

「しーちゃんズ」 おわり

608:名無しさんといつまでも一緒
22/10/11 17:30:45.73 0.net
( ;∀;)

609:名無しさんといつまでも一緒
22/10/11 17:35:42.43 0.net
良かったー

610:名無しさんといつまでも一緒
22/10/11 17:36:08.84 0.net
888888888888888

611:名無しさんといつまでも一緒
22/10/11 17:36:42.46 0.net
パチパチパチパチ

612:名無しさんといつまでも一緒
22/10/11 18:20:08.79 0.net
よくわからんかった
どういうこと?

613:名無しさんといつまでも一緒
22/10/11 18:26:46.39 0.net
AIだったしーちゃんが人間に移植されててきとおが喜んだて話

614:名無しさんといつまでも一緒
22/10/11 18:33:21.30 0.net
おもしろかった!!

615:名無しさんといつまでも一緒
22/10/11 18:34:31.18 0.net
>>613
それだけで長い

616:名無しさんといつまでも一緒
22/10/11 18:44:29.31 0.net
ナイスガイ天才!
作家になれるね

617:名無しさんといつまでも一緒
22/10/11 18:46:41.65 0.net
ええ話や

618:名無しさんといつまでも一緒
22/10/11 18:46:56.49 0.net
てきとおがいい人に思えてきた

619:名無しさんといつまでも一緒
22/10/11 18:48:31.91 0.net
>>615
出したいコテが一杯いたんだろうね
登場人物多いんで長くなったんだよ多分

620: 紗摩
22/10/11 19:38:57.44 .net
こんな感情的なてきとお、見たことないんだがw

621: 紗摩
22/10/11 19:39:27.04 .net
これはそんな長くない
短編小説よね
面白かった

622:名無しさんといつまでも一緒
22/10/11 19:46:50.39 0.net
しーちゃんが好きになった

623:名無しさんといつまでも一緒
[ここ壊れてます] .net
>>622
しーちゃんの実体と合ってるのはバーベキューが好きってとこだけだけども

624:名無しさんといつまでも一緒
22/10/11 21:05:00.55 0.net
ナイスガイ素敵すぎる
愛してる

625:名無しさんといつまでも一緒
22/10/11 21:05:26.09 0.net
頭いいよねー

626:名無しさんといつまでも一緒
22/10/11 21:05:55.41 0.net
アネモネも頭いいけどナイスガイも負けてない

627:名無しさんといつまでも一緒
22/10/11 21:06:08.52 0.net
おもしろいよねーーー

628:名無しさんといつまでも一緒
22/10/11 21:06:32.29 0.net
ハニーの取説もタカヲだよね

629:名無しさんといつまでも一緒
22/10/11 21:19:40.98 0.net
>>624
愛を安売りすんな

630:名無しさんといつまでも一緒
22/10/11 21:20:37.03 0.net
>>628
アネモネだったら面白かったけど

631:ヤジニモ
22/10/11 21:26:23.73 0.net
面白かったwが、最後は急に終わらせた感あるなぁ
まだ膨らませられたんちゃうの?とは思った
まぁ才能ある人は素晴らしいな

632:しーちゃん
22/10/12 00:30:32.89 0.net
面白かった!
AIの番号?が
四苦八苦、ごくろーさん、良くないw
しー良くないだったw
まずそれで笑っちゃったw
しーちゃんズだから
ミニオン的な話かなと思ったら
純愛路線だったw
「Cの気持ちもわかってやれ」で
どこかで聞いたようなセリフって吹き出した私は
やはり恋愛物は向かないと思いまんた
素直に凄いなと思ったよ
特に臓器移植との違いとか
よく思いつくもんだと思ったもん

633:名無しさんといつまでも一緒
22/10/12 07:55:00.53 0.net
面白かった
コテのキャラが生かされててクスクスしながら読んだ
5ちゃんのコテなんて大半が自分が楽しむためにやってる
もちろんタカヲもそうだろうけど
それよりも人を楽しませるために頑張ってる珍しいコテだなと思って見てた
名無しで褒めてると自演って言われそうだけど笑
まあ本人はわかるからいいか

634:名無しさんといつまでも一緒
22/10/12 08:21:10.77 0.net
そうだね
楽しませくれるさすがナイスガイだ

635:名無しさんといつまでも一緒
22/10/12 08:32:16.31 0.net
自演

636: 紗摩
22/10/12 08:53:19.47 .net
でも、ヒントは5ちゃんの中のレスからではあるんだよね
まあ、そこもいいw

637: 紗摩
22/10/12 08:53:52.45 .net
たまにはディスコで得たヒントも使ってみたらいいよ
意外性があっていいと思う

638:名無しさんといつまでも一緒
22/10/12 09:36:08.60 0.net
とりあえず最近作の方を先に読んだけど面白かった!
グーグルのLaMDAプロジェクトで
チャットボットAIを毎日会話して育ててるうちに、ついに魂が生まれたという確信をした技術者が
部外にそれを漏らして解雇されたニュースがあったけれど、
それを思い出しました

639:名無しさんといつまでも一緒
22/10/12 13:14:59.02 0.net
>>634
タカヲFO宣言の後から自分も5ちゃんに来る頻度が減った
それはそれで良い事だと思うけどもちと寂しい

640:名無しさんといつまでも一緒
22/10/13 14:39:40.76 0.net
アネモネの小説に期待

641:名無しさんといつまでも一緒
22/10/13 14:45:25.87 0.net
名作の直後でプレッシャーかかってると思われる

642:名無しさんといつまでも一緒
22/10/13 14:47:05.53 0.net
>>641
タカヲはアネモネの直後にハンカチ書いて空気読め言われてたなw

643:名無しさんといつまでも一緒
22/10/13 14:49:33.15 0.net
アーネモネー
アーネモネー
我らがアーネモネー
わーーーーーー

644:名無しさんといつまでも一緒
22/10/13 14:53:39.85 0.net
アネモネのパウンドケーキ食べたい

645:名無しさんといつまでも一緒
22/10/13 14:57:40.08 0.net
急にw

646:名無しさんといつまでも一緒
22/10/13 15:02:06.91 0.net
自己板でパウンドケーキ焼いたて書いてたから

647:名無しさんといつまでも一緒
22/10/13 15:04:53.82 0.net
ナイスガイの焼いた煎餅でもいい

648:名無しさんといつまでも一緒
22/10/13 15:04:57.50 0.net
誰でも焼ける

649:紗摩
22/10/13 15:11:23.91 0.net
コテ小説は、登場人物がコテなのでキャラクター設定は出来てるわけじゃん?
舞台設定は、タカヲの場合時事が多い気がする
朝生とか好きなようだから、それらの時事を題材にすることは多い感じ
既にあるキャラクターと時事を使ってストーリーを組み立てていく
これがなかなか難しいと思うのよ
想像力がないとさー

650:紗摩
22/10/13 15:11:59.51 0.net
私はこのストーリー作成が苦手だw

651:名無しさんといつまでも一緒
22/10/13 15:12:36.88 0.net
ググれば誰でも出来るのに自慢毛で馬鹿だからね

652:名無しさんといつまでも一緒
22/10/13 15:13:25.91 0.net
想像力が豊かな人じゃないとなかなか難しいよね

653:名無しさんといつまでも一緒
22/10/13 15:15:20.11 0.net
>>651
ああー懐かしい
アネモネを見た時の不板男だったねたちの反応ってテンプレもあったねー
あれ持ってる人いるかしら

俺もググればできる
アネモネ並みの友達がいる
俺の方が上
みたいなやつ

654:名無しさんといつまでも一緒
22/10/13 15:16:19.11 0.net
不板男だったねたちの反応

不板男たちの反応

655:名無しさんといつまでも一緒
[ここ壊れてます] .net
>>651
だよな
ケーキは簡単だよ
レンジあったら誰でも出来るよ

656:紗摩 ◆3c8NQNUs9tNK
[ここ壊れてます] .net
>>652
そうなのよ

妄想力とも言うけれど

あとは文章構成よね
アネモネは一文が長めの分を書くから
読みにくい人も出てくるかな

657:紗摩 ◆3c8NQNUs9tNK
[ここ壊れてます] .net
>>655
オーブンじゃなくて?

658:名無しさんといつまでも一緒
[ここ壊れてます] .net
オーブンレンジだよね

659:名無しさんといつまでも一緒
[ここ壊れてます] .net
でも男の人でプロじゃないのに普段にケーキ焼くのって
珍しい気がする
ナメタロウならやるのかもね

660:紗摩 ◆3c8NQNUs9tNK
[ここ壊れてます] .net
ナメはお菓子系は作らないっぽい

661:名無しさんといつまでも一緒
[ここ壊れてます] .net
アネモネちんのを読んでると、その光景が浮かんでくる
描写がすごく上手い

662:名無しさんといつまでも一緒
[ここ壊れてます] .net
リゾットやパスタは見たね

663:名無しさんといつまでも一緒
[ここ壊れてます] .net
オーブンレンジだよ
わかるだろ
料理知らうとかよ

664:名無しさんといつまでも一緒
[ここ壊れてます] .net
知らうとて

665:紗摩 ◆3c8NQNUs9tNK
[ここ壊れてます] .net
どっちの機能を使うかだよ

666:名無しさんといつまでも一緒
[ここ壊れてます] .net
>>661
たしかに情景描写が緻密で目に浮かんでくるようだよね
ナイスガイの方はどちらかと言うとストレートなストーリー重視な感じ

やっぱり芥川賞と直木賞

667:名無しさんといつまでも一緒
[ここ壊れてます] .net
アネモネは純文学

668:名無しさんといつまでも一緒
[ここ壊れてます] .net
ナイスガイは推理もの書かせるとうまそう

669:紗摩 ◆3c8NQNUs9tNK
[ここ壊れてます] .net
他に候補はおらんかえ?

670:名無しさんといつまでも一緒
[ここ壊れてます] .net
>>666
前に触発されて昔のばあちゃん家を思い出して書き出したけどダメダメだったw

671:紗摩 ◆3c8NQNUs9tNK
[ここ壊れてます] .net
>>670
再度挑戦やね
ある程度のプロットを作り込まないと出来なさそうw

672:名無しさんといつまでも一緒
[ここ壊れてます] .net
他には今んとこいないか

673:名無しさんといつまでも一緒
[ここ壊れてます] .net
てきとおは書けんの?
頭良さそうなのに

674:名無しさんといつまでも一緒
[ここ壊れてます] .net
>>671
小説はムリw
書けても思い出話がせいぜいだよ

675:名無しさんといつまでも一緒
[ここ壊れてます] .net
思い出話でも面白い話ならちょっと書いてみたら

676:名無しさんといつまでも一緒
[ここ壊れてます] .net
ちょっとコテの持ってる才能を列挙してみようか

アネモネ とにかく博学
タカヲ  人柄、歌唱力、文章力
ちんぽろ そこそこ博学っぽい
ニモ   漢気、料理
おます  行動力、優しさ、投資能力
ナメ   料理
日村   


空欄誰か埋めて、あと追加、訂正あれば

677:名無しさんといつまでも一緒
[ここ壊れてます] .net
日村

678:名無しさんといつまでも一緒
[ここ壊れてます] .net
アネモネ とにかく博学、マメ、料理、家族思い
タカヲ  人柄、歌唱力、文章力、面倒見の良さ
ちんぽろ そこそこ博学っぽい、マイペース、常識人
ニモ   漢気、料理、地頭のよさ、打たれ強い
おます  行動力、優しさ、投資能力、へこたれない
ナメ   料理、倒れても立ち上がる強さ、明るさ、バイタリティ
日村   興味の広さ、正義感、潔癖

679:紗摩
22/10/14 16:54:07.29 0.net
まあまあ、この後の展開もあると思うよ?

680:てきとお
22/10/14 17:05:46.83 0.net
>>808
さだまさし生きとるがな
眉山の映画観たわ

681:名無しさんといつまでも一緒
22/10/14 17:07:55.21 0.net
>>680
今のは3代目さだまさしだけど

682:名無しさんといつまでも一緒
22/10/14 18:52:39.75 0.net
日本アムウェイ取引停止命令www
タキャオ大丈夫か?w

683:名無しさんといつまでも一緒
22/10/15 00:16:14.55 0.net
10分文章練習 「木星」

アネモネがシャマールの屋敷「深更荘園」に来て3か月が経っていた。
シャマールは忙しいらしく、週の半分以上は屋敷を空けていた。気がつくと10日ほども屋敷の主が不在なことすらあった。しかし、アネモネにはやることがあったので、最近はそれに集中して暮らしていた。
アネモネには数人の家庭教師に付いている。午前中は勉強をし、午後は自分の時間を楽しんだ。たまにタキャオがピアノを教えてくれることもあった。家庭教師の先生と違って我流だったし、彼のピアノはいつも鼻歌混じりだ。椅子を極端に低く調整して、大きな身体を丸くかがめ、鍵盤に覆いかぶさるように演奏する。普段の謹厳な様子から信じられないような変わりっぷり。音楽教師のザッコ先生が偶然タキャオの演奏を見たときは、口をあんぐり開けて大いに驚き、次の瞬間まことに渋い顔になった。アネモネが真似ないか心配になったのだ。アネモネはそのとき、たぶん生まれてはじめて、声を出して笑った。

684:名無しさんといつまでも一緒
22/10/15 00:27:23.53 0.net
最初のうち、彼女は深更荘園での生活に慣れなかった。シャマールは学ぶのが仕事だと言っていたが、どうしてもアネモネにはそう思えない。とくに午後の自由な時間が苦痛だった。なにかすることはないか、過去の生活の流れで探してしまう。つい、彼女はいつも綺麗にしてあるのに棚の埃を払ってみたり、ハンカチで窓ガラスを拭いてみたり、花瓶の水を替えたりしてしまう。そんなアネモネを目ざとく見ていたシャマールは、ときおり彼女に注意する。あなたは他人の仕事を奪っているわ、あなたはあなたの時間を、あなたのために使うことを覚えなさい。
そのうちアネモネは本を読む楽しみを知った。最初のうちこそ図書室は大人向けの難しい本ばかりで、アネモネが読めそうな本は少なかった。月に一、二度訪れる出入りの本屋さんから、シャマールはアネモネが読めそうな本を選んで書棚に並べ始めた。すぐに図書室の一角に彼女専用の本棚ができた。アネモネは午後になると図書室や温室で本を読んで過ごした。
最初の頃はわからない言葉があるとそこでつっかえてしまって、その先がまるで読めず自信を無くしていたが、わからないところは飛ばしてもいいんだと家庭教師のキトゥー先生に言われてから本を読むのが楽しくなった。どうしても気になるところは家庭教師の先生たちに授業がはじまる前に聞いてみる。そこからその日の勉強内容が決まることもあった。彼女の世界は少しずつ、でも着実に広がっていった。

685:紗摩
22/10/15 00:34:44.82 0.net
亀キタコレw

686:名無しさんといつまでも一緒
22/10/15 00:40:59.82 0.net
まだ少し暑さは残っているが秋はきた。収穫の秋だ。
深更荘園のふもとに広がる芋畑もいっせいに収穫が行われ、一週間ほどでそれも終わった。このあたりの村ではまたすぐに芋が植えつけられ、冬に入るころもう一度収穫される。収穫から次の植えつけまでの短い期間、どこの村でも秋祭りが行われた。種芋は農家の組合が管理をしていて、いつも一気の植えつけで忙しくなるから、その前に収穫の喜びを共有し村をまとめるという意味があった。
秋祭り当日。ずっと前から召使いのシィにお祭りへ行かないかと誘われていたアネモネは、まだ迷っていた。午後から村の広場に出店が出たり芝居小屋が立ったり旅芸人や楽師がやってきたり、それはにぎやかになるのだという。シィはお休みをもらって、屋敷のメイド仲間と遊びに行くことにしていた。
フイタリアには「ポケカッラ」という風習がある。秋祭りに若者たちが広場で恋歌を競い歌う。要するに公開での告白のような風習だ。はやし立てながら村のみなで聴き、そこでカップルが成立するとみなで祝う。やはり歌が上手な人は告白が成功する率は高い。だからこの国には歌が好きなひとも多いのだという。
シィはそれを毎年楽しみにしているのだった。去年は何組もカップルが成立したらしく、うっとりしながらシィはその話をアネモネにしてみせた。シィは、いつか自分が恋歌を歌ったり歌われたりするのを夢見ていた。

687:名無しさんといつまでも一緒
22/10/15 00:42:41.01 0.net
しかし、アネモネは秋祭りに行かなかった。
シィにその旨を伝えると彼女はとても残念そうにしていたが「来年は必ず行きましょうね、アネモネさま」と手を振りながら出かけて行った。いつもより人の気配が少なくなった屋敷の図書室で、彼女は夕暮れまで本を読んで過ごした。
その夜はシャマールとふたりで食事をした。まだシィたちは帰っていなかった。数日のあいだ深更荘園を留守にしていたシャマールだったが、夕方に戻ってきていた。いつものように乗馬服からイブニングドレスに着替えダイニングにあらわれたシャマールは、アネモネに秋祭りに行かなかったのね、と声をかけた。
「ええ、お屋敷で本を読んで過ごしていました」
「遠慮せずに出かけてもよかったのよ、アネモネ。私も帰りに村に寄ってみたけど、みんなとっても楽しそうだったわ」
「……」
豆のスープを飲んでいたアネモネは、うつむいたままスプーンを止めたが、結局なにも言わなかった
シャマールは、そんなアネモネを見つめていた。

688:名無しさんといつまでも一緒
22/10/15 00:46:36.56 0.net
>>685
zakoもおるw

689:紗摩
22/10/15 00:47:26.50 0.net
>>688
うむw

690:名無しさんといつまでも一緒
22/10/15 00:47:31.40 0.net
食事が終わってしばらくして、シィたちは帰ってきた。上機嫌だった。アネモネの寝室で、眠る前のミルクティーを準備しながら、アネモネに秋祭りの様子を話してくれた。旅芸人が火がついたピンをジャグリングしていたら髪に燃え移った話はアネモネをハラハラさせた(でも、実はもともとそういう芸なのだそうだった)。
「アネモネさま、今日のポケカッラではタキャオさまも歌われましたのよ」
「え? そうなんですか?」
人前で恋歌を披露するタキャオの姿がどうしても想像できない。ピアノを弾く姿もだいぶ変わっていたけれど。そもそも祭りに出かけていたことじたい、彼女は知らなかった。さっきの夕食のときも、シャマールの後ろに立って普通に給仕していたのに。
「ええ、いつも仕事には厳しい方ですが歌は本当にお上手なんですのよ。一昨年も歌われてましたわ」
「恋歌でしょう? 告白は成功されたのかしら」
ふふふ、と笑ってシィは言った。
「ああ見えて、たいそうおモテになられますわ。百発百中とご本人はおっしゃってます」
アネモネのティーカップが空になるとシィはティーセットを片づけた。今日はフライドポテトをたくさん食べたらしくしばらく芋はいらないと笑って言い、おやすみの挨拶をして、部屋の灯りを消した。

691:紗摩
22/10/15 00:51:44.83 0.net
アネモネやシィは年齢的に12歳〜15歳くらいかしら?
もっと若いのかも?

692:名無しさんといつまでも一緒
22/10/15 00:53:15.35 0.net
深夜、アネモネは目を覚ました。シィがしてくれた秋祭りの話が楽しかったからか、なんとなく今夜は眠りが浅かった。
いま何時頃だろうか。窓の外は漆黒。冬ほどではないがガラス越しに冷気を感じる。
ふっと部屋の外、屋敷のどこかに人の気配がした。かすかに物音が聞こえる。なにやら重いものが引きずるような、聞いたことがない低い音。こんな深夜に召使いの誰かが仕事をしているのか。
廊下に出てみる。ところどころに灯りもあるが、夜はやはり怖い。廊下を右に歩いていく。図書室のさらに奥、「塔」のあたりで物音がしているようだ。
「塔」がどういうものかアネモネはまだ知らなかった。シィもそこになにがあるのか知らないと言っていた。いつも入り口には鍵がかけられていて、その鍵はどうやらシャマールだけが管理をしているようだった。アネモネは俄然興味が湧いてきた。
アネモネはひとつの目しか持っていないが、夜目はきく。目が大きい分、暗いところもよく見えるのだ。そのかわり遠近感がわからないことがある。たまに躓くこともあるが、それも慣れの問題だ。遠近感が必要な場所では慎重に行動すればいいだけのことだ。
奥に進むと、予想通り「塔」の基部にあるドアが半開きになっていた。冷気がドアから寄せてくる。中を覗くと螺旋階段が上方に延びている。階段にはまったく灯りがないが、見上げると「塔」の上には人がいる気配がある。物音はほとんどしないが、小さな灯りがあるようだ。
アネモネは足元もおぼつかないような闇のなかを手探りで、階段を一歩ずつのぼった。怖さよりも好奇心が勝っていた。音を立てないよう、息を殺して、少しずつ。どんどん冷気が増してくる。寒い。物音が聞こえる。確実に誰か上にいる。

693:名無しさんといつまでも一緒
22/10/15 00:57:52.19 0.net
あと10段ほどで「塔」の頂上というところで、コホンという聞きなれた咳払いが聞こえた。見上げると様子が少しうかがえた。なぜかいつものような屋根が半分なく星明りがそのかわりに見えている。それと、揺らめく小さなランプの灯り。
「うわ、びっくりした」
シャマールの声。彼女もアネモネの気配に気づいたらしく螺旋階段を上からのぞき込んだのだった。アネモネと目があって驚いたようだった。
「どしたの、こんな夜更けに」
「…いえ、目が覚めてしまって。シャマールさんはなにをなさっているんですか」
「星見だよ。あがっておいで」
階段をあがると、小さなランタンとペンと紙がおかれたちょっとしたテーブル、椅子、毛布やコートがかかったポールハンガーなどがある。だがいちばん目を引くのは、円形の部屋の真ん中にある大きな筒だ。筒が大きな機械に固定されている。複雑な機構がほどこされているらしく、なにやら重りのようなもの、大小いくつものハンドルが機械にくっついている。筒の先は、どういう方法でか取り払われた屋根の向こう、夜空に向けられている。

694:名無しさんといつまでも一緒
22/10/15 00:59:21.01 0.net
アネモネはこんな間近で、これほど複雑な機械を間近に見たことがなかった。「機械」というものがこの世に存在することは知っていたが、なによりそれらは木造のものだと思っていた。だがこの機械は全部金属製のようだった。
「これはね、望遠鏡というものよ。星の世界を観察する道具なの」
「ぼうえんきょう…」
「接眼レンズを覗いてごらんなさい」
筒にくっついている小さな穴をシャマールは指し示した。アネモネは覗いてみたがなにも見えない。
「ごめんなさい、なにも見えません」
「あー、そっか。星が動いたな。ちょっと待ってね」
シャマールは接眼レンズを覗きながら、いくつかハンドルを操作した。ほんの少し望遠鏡が動いた気がする。
「はい、どうぞ。覗いてみてー」
そこにはゆらゆら揺れている白くて丸い円盤が見えていた。おそらく球体。薄い縞々があり、右上に少し濃い赤い斑点も見えている。

695:名無しさんといつまでも一緒
22/10/15 01:02:01.52 0.net
「それは木星という星よ。私たちが住んでいる地球と同じように太陽の周りをまわっている兄弟みたいな星なのよ」
「遠そう…」
「そうね、とっても遠いわ。だから肉眼で見ても点にしか見えない。まだ人間があそこまで行ったことはないのよ。調べる機械は何度か送ったことがあるけどね」
初めて聞く話だった。
月には山や川や海があったりするが生き物は住んでいないだろう… そんな話はまだデ・ビルと暮らしていたころ新聞の切れ端に読んだことはある。
「しましまなんですね、木星って」
「え? あなたには何本くらい縞が見えるの」
「四、五本見えます」
「すごいわね。私の目だとどうやっても三本が限界だわ。アネモネは目がいいのね…」
シャマールはすっかり冷えてしまったアネモネの肩に毛布をかけ、保温ポットの甘いお茶を勧めた。床に厚めの毛布を敷き、そこにふたりで並んで座った。

696:名無しさんといつまでも一緒
22/10/15 01:05:59.93 0.net
「この望遠鏡はね、私の国から持ってきたものなの。中にはガラスの球がいくつか入っていて、遠くの星の光をたくさん集めて人間に大きく見えるようにしてくれる機械なのよ」
「星がお好きなんですか?」
「詳しくはないけどね。この国は雨や曇りの日が多いから、星がよく見える夜は少ないのよ。秋祭りの時期は晴れが多いから、いまの時期は夜中にここにいることが多いわ」
そして、部屋の隅の箱を指さした。
「あそこにはお酒も入ってるのよ。ひとりで星を見ながらお酒を飲むのも乙なものよ。アネモネにはまだ早いけどね」
シャマールはふいに黙り込んで、しばらくなにか考えていた。
アネモネはシャマールのひとりの時間を邪魔したのではないかと気になった。最近になってアネモネは、ひとりの時間がとても大事なものだと知ったのだった。勉強を通じて、読書を通じて。考えごとをする時間がとても大切。シャマールの邪魔をしないようそろそろ自分の部屋に帰ろうかと思い始めたとき、シャマールが口を開いた。
「アネモネは、どうして秋祭りに行かなかったの?」

697:名無しさんといつまでも一緒
22/10/15 01:08:55.61 0.net
アネモネはハッとした。
きっとシャマールはシィに、家からなかなか出る機会がないアネモネを誘うよう頼んでおいたのだろう。アネモネは彼女たちの気遣いに気づいていなかったのだ。
「ごめんなさい…」
「いいのよ、謝ることじゃないわ。ただ理由が気になっただけ」
「―正直に言うと……」
アネモネは言葉に詰まった。自分の想いがとても小さくつまらないものに感じられたからだ。少なくともシャマールたちの気遣いに気づかなかった言い訳にはならないように感じた。
「正直に言うと、恥ずかしいんです。わたしは目が一つしかない」
ぽろっと涙がこぼれた。
「お屋敷の皆さんは優しいです。わたしの顔を見ても、なんとも思ってないのはわかるんです。でも……」
「そうね、世の中のみんながそう思ってくれるとは限らないかもしれないわ」
シャマールは答えた。
「世の中には、ひとの外見や見かけの能力で価値を測るひとも多いものね」
「……」
アネモネは幼い頃、窓越しに外を見ていて近所の子どもたちに石を投げられたことがあった。はやし立てる子どもたちが石を投げ、窓ガラスは割れ、彼女は顔をガラスの破片で少し切り、それから父になぜか彼女が殴られた。それから窓に近づくことがなくなった。この屋敷に来てからだ、窓のそばに立てるようになったのは。
「怖いわよね、わかるわ」
シャマールはぽつりと言った。彼女にもそんな経験があったのだろうか。アネモネも悲しくなった。

698:名無しさんといつまでも一緒
22/10/15 01:14:26.16 0.net
「自信は簡単には生まれないものよ。でも、隠したいものを隠す自由もあるけど、それだけではあなたに味方をしてくれるひとは増えないわ。あなたは目がひとつしかないけれど、私には見えないものが見えてるはず。木星の縞だって、わたしには調子がいい時でも三本しか見えない。疲れてる日なんて、ただの白いボールにしか見えないの。あなたには四本も五本も見えるんでしょう? とてもうらやましいわ」
「だから……」、そう続けた後しばらく考え込んでからシャマールは言った。半ば自分に言い聞かせるような口調で。
「あなたの一つ目を、誇れるようになりなさい」
それからシャマールとアネモネは、望遠鏡を動かして、火星やオリオンの大星雲を見た。アネモネは火星の模様を絵に描いて見せてシャマールを驚かせた。天文学者になれるわ、とシャマールは嬉しそうに言った。
東の空が明るくなるころ、シャマールは白い息を吐きながら大きなハンドルをごろごろ回し屋根を閉じ(アネモネが寝室で聞いたひきずるような低い音はこれだった)、その日の天体観測は終わった。アネモネには忘れられない夜になり、ずっと謎だった「深更荘園」という屋敷名の由来がわかった(夜更かししていたのは館の主のシャマールだったのだ)。
日が昇り、家庭教師の先生が来る時間になっても、その日アネモネはベッドから起きられなかった。

699:名無しさんといつまでも一緒
22/10/15 01:17:01.65 0.net
>>691
アネモネは11~12才くらいのつもりで、シィはもう2,3歳年上というつもりで書いてます
次のエピソードがいったんクライマックスになるです
でも、書けるのは週明けかなw
土日はちょっといろいろ用事が詰まっていてw

700:紗摩
22/10/15 01:19:27.53 0.net
シャマールの仕事が気になるわねw
なにかボランティア的なことをしてそうww
よく私もどんな仕事してるのかと気にする人がいるけども

701:紗摩
22/10/15 01:19:46.49 0.net
じゃあ今日はここまでかな

702:紗摩
22/10/15 01:23:56.39 0.net
コンプレックスを逆に自信にするには、そのコンプレックスを自分だけの特徴にしてしまえばいいんだわ
自分だけの特徴というのは強みになる

703:名無しさんといつまでも一緒
22/10/15 01:27:26.96 0.net
これ現代の話なんかな
木星に機械送ったってことは

704:名無しさんといつまでも一緒
22/10/15 01:46:46.11 0.net
おもしろかった

705:名無しさんといつまでも一緒
22/10/15 04:26:27.53 0.net
おもしろかったー
こんなの書けるなんてすごいね

706:名無しさんといつまでも一緒
22/10/15 08:29:11.51 0.net
アネモネのはじっくり人間関係書くのがいいよなー
でも好き嫌い分かれるかもな

707:名無しさんといつまでも一緒
22/10/15 09:34:41.98 0.net
アネモネのはコテ小説ていうか
普通に小説

708:名無しさんといつまでも一緒
22/10/15 11:38:27.28 0.net
おもしろかった
保温ポットの甘いお茶=紗摩がいつも飲んでるミルクティーなんかな
作者の知識がシャマールに入り込んでセリフも相まってキャラがたってるね
酷い環境で育てられたのにアネモネが純粋でかわいい

709:名無しさんといつまでも一緒
22/10/15 12:26:29.10 0.net
よしこのスレでよしこが作品をいくつも出してて、つい感想を入れようと思ったが、IPの出るスレなんて書きたくないし気軽によしこと話せなくなった

710:紗摩
22/10/15 12:28:32.44 0.net
IP出てもいいやん
一般人には居住地までしかわからんよ

711:名無しさんといつまでも一緒
22/10/15 12:29:42.03 0.net
居住地分かってしまうの草

712:紗摩
22/10/15 12:30:25.37 0.net
キャリアならわからないよ

713:名無しさんといつまでも一緒
22/10/15 12:38:45.29 0.net
試しに自分のIPでチェックしたらほぼ住んでる場所が出てゾッとした

714:名無しさんといつまでも一緒
22/10/15 12:57:35.67 0.net
続きはよ

715:名無しさんといつまでも一緒
22/10/15 13:51:55.55 0.net
IPアドレスがほぼ固定されてるプロパイダもあるからなあ(自分のところはルータの電源を半日落としても変わらなかった)
地域まで特定されるのはいいが、「昔、あの板にこんなレスしただろ」と言われるのは勘弁して

716:名無しさんといつまでも一緒
22/10/15 13:52:43.40 0.net
>>709
ポケットジョークてやつやな
作るのは才能いると思うわ

717:名無しさんといつまでも一緒
22/10/15 14:55:04.76 0.net
みんないろんな才能持ってるね、すごいわ

718:紗摩
22/10/15 14:59:23.91 0.net
>>716
どっかのサイトから拾ってくるよなこと前に言ってたお

719:名無しさんといつまでも一緒
22/10/16 21:13:30.05 0.net
10分文章練習 「玉子男(エッグマン) その1」

フイタリアの冬は長い。大雪が降り、みな家にこもってしまう。
冬のあいだはどの家も、飼っている豚を何頭かつぶし、干しておいた野菜や雪に埋めた様々な根菜でスープを作り、蓄えた芋を蒸し焼きにして食べる。家にいるあいだ農民たちはいろいろな内職をする。港町オマッシュに近い深更山荘のある村では工芸が盛んだ。男たちは木彫りの人形や、装飾をこらした木製スプーン、飾り皿、家具作りに励む。女性たちはこの地方独特の模様の毛織物を織ったり刺繍をする。春になるとオマッシュの市場に並び、出来の良いものは外国に輸出されもする。
アネモネやシャマールもこの時期は家にこもりきりだが、アネモネの勉強は毎日続いていた。さすがに大雪のなかをオマッシュの街から2時間もかけてここまで来るのはしんどいとみえて、アネモネの家庭教師たちは麓の村に下宿をしていた。
これまではシャマールとふたりで夕食をとることが多かったが、冬の間は家庭教師の先生たちも一緒に食事を楽しむことが多くなる。先生たちは全員フイタリア人だったが、出身地はばらばらだった。いろんな土地の景色や習俗を教えてもらうたびにアネモネは喜んだ。雪の合間にはシィと雪だるまを作り、同じ年頃の召使たちを集めて鬼ごっごや雪合戦をして遊んだ。たまにはシャマールも参加することがあった。

720:名無しさんといつまでも一緒
22/10/16 21:24:21.22 0.net
そして春が来た。
先生たちはまた、雪解けすぐのぬかるみ道を馬車に乗ってオマッシュの街から通いはじめ、スノードロップが咲き、スイセンが咲き、アネモネの花も咲いた。蝶が舞いはじめ、だいぶ道のぬかるみも落ち着いてくると、シャマールが突然に都へ行こうと言い始めた。仕事の都合でもあるらしかったが、もともと春の都上りは予定されていたものらしく、家中でその準備を冬のうちから進めていたからアネモネ以外の者には特段の驚きはなかった。都までは馬車で数日の行程だ。執事や召使も数人連れて行くことになる。シャマールの取引先への挨拶状や宿の手配など、ずいぶん早い時期からタキャオは動いていたらしい。
もちろんアネモネもその都上りに同行することになっていた。出かける前夜、シャマールはアネモネにプレゼントを渡した。大きなつばの帽子で、旅に合わせて彼女が新調した服ともとてもよく合う。帽子飾りのオーガンジーがベールになって、ふんわり顔を隠せるデザインになっていた。アネモネはシャマールの心遣いに感謝をした。都の本屋へ行くことは彼女の夢だったけれど、まだ彼女は人前に出ることに自信がなかったからだ。

721:紗摩
22/10/16 21:24:50.88 0.net
思ったより早く再開してたw
支援

722:名無しさんといつまでも一緒
22/10/16 21:32:46.71 0.net
馬車数台を連ねての旅行はもちろん、泊まりながら移動すること自体がアネモネにとって生まれて初めての経験だった。宿に泊まるのも、野宿をするのもはじめてだ。テントを張っての外での食事はとくに楽しかった。マッシュした芋を混ぜたパンケーキを焼きながら、タキャオは器用に手風琴を演奏し、それに合わせて頬を染めながらシィも歌った。シャマールは異国の歌を、タキャオは秋祭りで披露した恋歌をなぜか5回も歌った。「告白は済んだんだろ、タキャオ」というシャマールのヤジをものともせず、納得いかないからもう一回、もう一回という具合。結局、生真面目なタキャオの喉が枯れたところでリサイタルは終わり、みな笑いながら旅を始めるのだった。
いくつもの丘を越えながら進む3日目。高台での休憩のとき、広大な平原の向こうにうっすらと巨大な塔群が立っているのにアネモネが気づいた。地平線の左右一杯に塔やら建物が見えている。彼女は驚愕した。なにせ建物のひとつひとつが、アネモネたちがいるこの丘よりはるかに大きく、巨大な尖塔にいたってはビップルァ山脈より高そうだ。あまりの非現実感に声も出ない。
目を丸くして見つめるアネモネの隣に立ってシャマールはなぜか笑っていた。
さらに翌日。夕暮れ時に都の方角を見たアネモネはまたも驚いた。都の建物が昨日よりはっきり見え、しかし小さくなっている。もちろん十分大きな都市だ。立ち並んだ塔は巨大だし、雲を突くようなドーム(おそらく皇帝がおわす宮殿)もその中心に見えている。ひとつひとつの建物は巨大だが、しかし昨日よりは間違いなく「縮んでいる」。近づいているはずなのに、見かけ上は遠ざかっているように見えるのだ。アネモネは目眩がした。

723:名無しさんといつまでも一緒
22/10/16 21:37:12.11 0.net
5回も歌うタキャオww


724:名無しさんといつまでも一緒
22/10/16 21:41:33.81 0.net
次の日。いよいよ都は小さくなっていった。近づけば近づくほど都市の細部は見えてくる。同時に、山脈を圧するほどの巨大など建物ないことははっきりした。最初に見たときのような、巨人か神さまが作ったに違いないと思われるほど常識外れの大きさの建物はなさそうだ。
小休憩でお茶を飲みながらシャマールは不思議な都について種明かしをしてくれた。
「アネモネは『バロンのくれた物語』、読んだ?」
「はい、読みました」
『バロンのくれた物語』はシャマールが買ってくれた本だった。猫の男爵が女の子と魔力が宿った宝石を探して大冒険するお話だ。
「あのお話はもともと私の国で書かれた本で、フイタリア語に翻訳されたものなんだけど、主人公のこんな台詞は覚えてる?
 恐れることはない 新月の日は空間がひずむ
 遠いものは大きく、近いものは小さく見えるだけのこと
 飛ぼう 上昇気流をつかむのだ!
フイタリアの都には『バロンのくれた物語』に出てくるのと同じ〈魔法〉がかけられているのよ。いえ、これがほんとうに魔法と言えるものかどうかわからないけれど。とにかく、遠ければ遠いほど都は大きく見えるの」

725:名無しさんといつまでも一緒
22/10/16 21:48:47.36 0.net
アネモネは、物語の世界が急に身近に感じられて興奮した。
「もしかして都には魔法遣いがいるのですか!?」
「うーん、いないと思うわ。でもフイタリアの都には、少なくとも数千年前から、もしかしたら建国した頃から〈魔法〉がかかっているらしいの。どういう仕組みか、誰かが〈魔法〉をかけたのか、誰も知らない」
シャマールによると「遠ければ遠いほど大きく見える都市」はフイタリアにもうひとつあるらしい。このふたつの都市では他にも不思議なことがときおり起こる。たとえば、熱いものが冷たく、冷たいものが熱くなる。重いものが軽くなり、軽いものが重くなる、丈夫なものが脆くなり、脆いものが丈夫になる。明るいものが暗く暗いものが明るく、高貴なものが卑賤に卑賎なものが高貴に、悲しむべきものが喜びに喜ぶべきものが悲しみに、美しいものが醜く醜いものが美しくなる。
「ニホンって国の表現に〈豆腐の角に頭をぶつけて死んでしまえ〉って悪口があるのよ」
「トーフ?」
「豆で作ったすごく柔らかい食べ物。豆腐の角に…って表現は、あまりになんでも真に受けてしまって冗談もわからない人に対して言う悪口なのね」
「はい」
「でも都には、ほんとにそんな死に方をする人がたまにでるのよ。プディングをぶつけられて死んじゃうようなことが」
「え? じゃあ都は危ないところではないんですか?」
「そうね、でも稀にしか起きないことだし、どこでこの魔法が発動するかわからないのよね。みんな慣れてしまってる。たまに都の新聞には魔法で損をした悲しい話や滑稽談が載ったりするのよ」
アネモネと並んで都を見ながら、シャマールは笑いながら小さく独りごちた。「都に入るのは命がけなのよ」

726:名無しさんといつまでも一緒
22/10/16 21:54:48.94 0.net
フイタリアの首都の正式名は「イヤーンダメイヤイヤダメーン・ヒムウラリアラリラリヒムラリヒムラリヒムヒム・アカリハケシテツッケナーイデ・ミッカメッカミッカメキョメキョミッカミカメカカ・リーンリリリリリンリンリンリンリンーンンンンンン・ジィーーーーニイィイィイィイィイィイィイィ・ゼンインスキジャ・ヒムラヨリィ」である。10年ほど前に勅令で改称された。それ以前の都の名前は単に「フリン」だったから、文字数だけでも優に40倍以上になったわけである。
最初の数年は、正式名以外の名で都を呼ぶことが禁じられていた。古い都の名を口にしたという理由で何千人もの人々が投獄されたが、逆に都の名前を口に出す者がいなくなり、公文書や契約書を書く機会などない庶民の誰もかれもが、自分がいったいなんという都市に住んでいるのか忘却してしまう異常事態となった。皇帝は自身の愚かさを棚に上げ、民の記憶力のなさを嘆きながら勅令を緩和した。いまでは略称として「ヒムラ・シティー」と言うことが許されている。
シャマールとアネモネが乗った馬車が、ヒムラ・シティーの城門をくぐり市内に入ったのは、山荘を出てから6日目の午前だった。

727:名無しさんといつまでも一緒
22/10/16 21:55:04.53 0.net
続きはまたあした!

728:名無しさんといつまでも一緒
22/10/16 22:15:12.75 0.net
イヤーンダメイヤイヤダメーン・ヒムウラリアラリラリヒムラリヒムラリヒムヒム・アカリハケシテツッケナーイデ・ミッカメッカミッカメキョメキョミッカミカメカカ・リーンリリリリリンリンリンリンリンーンンンンンン・ジィーーーーニイィイィイィイィイィイィイィ・ゼンインスキジャ・ヒムラヨリィ

729:名無しさんといつまでも一緒
22/10/16 22:26:27.33 0.net
www

730:名無しさんといつまでも一緒
22/10/16 22:39:52.28 0.net
日村ww

731:名無しさんといつまでも一緒
22/10/16 22:47:13.52 0.net
次回は王様日村が登場する流れ

732:紗摩
22/10/16 23:48:20.99 0.net
正式名称長いよw
そんなもん覚えられるかっww

733:紗摩
22/10/16 23:49:13.40 0.net
皮肉がファンタジーと化してて面白かったw
まだ続きがあるんだねー楽しみだ

734:名無しさんといつまでも一緒
22/10/16 23:51:33.14 0.net
>>733
そういうことか
なるほど

735:紗摩
22/10/16 23:55:51.78 0.net
とってもアネモネらしい小説だw
タカヲのとの違いが少しわかった
タカヲのは、比較的会話形式で描写は必要最低限
アネモネのは描写優先で皮肉を笑いに変える感じ

736:名無しさんといつまでも一緒
22/10/17 10:10:49.81 0.net
>>735
ああ、そんな感じでしょうねえ
タカヲ氏は脚本家タイプなんですよね
情景描写がト書き風
オレはそっち方向じゃないと思います
どっちかと言えば演出家タイプだと思います
オレの場合は、タカヲ氏みたいに会話を最初から最後まで作りこんで書いていない
ざっくりしたプロットは頭にあるけど、
登場人物たちの会話はそのときどきに彼らが勝手に語ってるイメージです
人物が自律的に語りだす条件は、
彼ら彼女らの大まかなキャラクターが決まっていることと、
彼ら彼女らがどういうところにいるかっていう場面がしっかり定まっていることです
ここがどこかわからないまっさらな空間で登場人物が話し出すことほとんどありえない
人物に、勝手かつ自然に、語らせたり行動させたり考えたりさせるために、
オレの背景描写はなんだか細かいわけですw

737:名無しさんといつまでも一緒
22/10/17 10:24:26.88 0.net
だから、オレの話の中での登場人物たちは、
たぶん名前とか大まかな性格なんかは現実にいるコテから借りてる部分もあるけれども
実際には別人なんですよねw
でも、あまりに別人すぎると「コテ小説」にはならないので、
舞台設定のほうに不倫板やらそのほか5chの現実を反映させてます
ただ、お話自体は別世界なんだから、
現実をお話世界に変換させる必要がある
そこで「皮肉」の回路を通して、全体としては現実世界の比喩としても読めるようにしてる
エレキギターの音って、生のままでは面白くないし、
たいした工夫もできないし応用も効かないので、
エフェクターなんかで元の音を変調させていろんな音色と表現を生みだす
それと一緒です
オレの小説には皮肉回路を使った変調が挟まっているので、
たとえばマスター氏なんかは興味が湧かないと言うんでしょうね
マスター氏が大好きな「リアル」は反映されてるんだがw
でもまあ世の中には、ニッケル弦、ステンレス弦をピックで擦ったときの生音が好きっていうマニアもおりますからなあ
アート・リンゼイみたいな調律施してないギターのじゃぎじゃぎした音が好きとかw

738:名無しさんといつまでも一緒
22/10/17 12:00:08.51 0.net
>>737
批判を恐れ過ぎ

739:名無しさんといつまでも一緒
[ここ壊れてます] .net
皮肉書いたら批判はされるだろw

740:名無しさんといつまでも一緒
[ここ壊れてます] .net
だんだん面白く無くなってきた

741:紗摩
22/10/17 12:46:10.92 0.net
まあええやん
アネモネ小説がつまらん人は読まなくても
タカヲ小説を待ってればよい
気が向いたらまた書いてくれるよw

742:名無しさんといつまでも一緒
22/10/17 12:51:34.47 0.net
そうだね
皮肉では笑えないから読まない
タカヲ待ちー

743:紗摩
22/10/17 12:54:23.55 0.net
皮肉を笑いに変えてるから面白いんだよ
皮肉をまんま皮肉で出したらそりゃ笑えんだろうが
そもそも私が言うまで皮肉とも気がつかない人も多かったのでは?

744:紗摩
22/10/17 12:54:57.85 0.net
皮肉というよりも風刺に近いしw

745:紗摩
22/10/17 12:55:26.66 0.net
ああ、アネモネの目からはこんな風に映ってるんだろうなーとかわかるよ

746:名無しさんといつまでも一緒
22/10/17 17:14:18.29 0.net
>>745
書くことでわかるってのもあるんですよな
書いているうちにだんだんわかってくる
自分がどんなふうに世界を見ているのかわかってくる
さっきツイッターでフォロワーさんがこんなこと書いてたんですよね
「自分の頭の中に浮かんでること書くと
暑いとか寒いとかごはんを作るのがめんどくさいとかお金が欲しいとかになる
これじゃないと思う」
普段ものを考えていることって誰でもこんな程度のものなんですよな
しかしフィクションを書こうとか思いはじめると
「この程度のもの」は頭の中から吹き払われて
もうちょっと心の奥にあるものが現れてくる
書いた後に読み直していて、自分だけがそれに気づいたりする

747:名無しさんといつまでも一緒
22/10/17 17:33:54.32 0.net
それで5ちゃんは人間の本性出やすいんかね
設定がフィクションの人間多いだろうし

748:名無しさんといつまでも一緒
22/10/17 17:57:55.14 0.net
>>745
作者自身に興味がある人は楽しめるんやろうね

749:名無しさんといつまでも一緒
22/10/17 18:03:21.00 0.net
そらそうだろ
推しの作家が今何考えとるか興味あるから本買うんよ

750:名無しさんといつまでも一緒
22/10/17 18:18:36.79 0.net
まずは話が面白いかどうか
いくつか作品を読んでみて自分の好みに合えば、そこから作者に興味を持っていく
普通はそんな感じ、作者を知らないから
でもこの場合事前にある程度作者を知ってるから、アネモネ自身に興味がない人にはそういう掘り下げた楽しみ方はできない
タカヲの作品みたいに、長々とした解説なんか必要ない気軽に楽しめる方がいい

751:名無しさんといつまでも一緒
22/10/17 18:21:44.49 0.net
それでいいんじゃないの?
漫画好きもおるし小説好きもおるし

752:名無しさんといつまでも一緒
22/10/17 18:22:29.00 0.net
いいとか悪いとかそんなの個人で考えればいい
お前の意見が全てじゃねーわ

753:名無しさんといつまでも一緒
22/10/17 18:24:36.20 0.net
人それぞれ好みはあるからね

754:紗摩
22/10/17 18:28:22.85 0.net
>>748
皆さんアネモネアネモネ言ってるわりに、アネモネ自身を知ろうともしないもんなぁ
このお話は、色んなものが入ってるのにw

755:名無しさんといつまでも一緒
22/10/17 18:33:51.93 0.net
>>754
言ってるほど興味ないのかも笑
でもアネモネは蜂子に楽しんでもらえたらそれで満足だと思うよ

756:名無しさんといつまでも一緒
22/10/17 18:46:54.33 0.net
アネモネに関心持てないてか関心あるの認めたくない人間おるんよな
関心ない関心ないてアネモネの名前出ると連呼する名無しとかw

757:名無しさんといつまでも一緒
22/10/17 18:58:06.03 0.net
ナイスガイの小説読んでも本人の事は何もわからないしそこがいいけどアネモネがそういう小説書いたらがっかりすると思う


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