コテ小説@不倫板 Part ..
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2:名無しさんといつまでも一緒
22/09/02 18:17:34.55 0.net
10分文章練習 「おもい」

急に機の下方から湧きあがた白い霧に包まれた次の瞬間、姉ヶ崎は方向感覚を失った。
GPSは到底あり得ない数値を示し、無線で必死に呼びかけるもどこのアプローチも応答しない。
高度計もコンパスも時計も、まるで無秩序な動きをしている。狂っている。
「オレは金沢へ向かっていたんだぞ、ここはいったいどこだ」
「地面と空の境界線がわからない、高度もつかめない」
姉ヶ崎は自分が空間識失調に見舞われていることを自覚し、死を覚悟した。
そのとき、突然視界が開けた。
気がつくと姉ヶ崎のセスナは十分な高度を維持していて海面と平行に飛んでいた。
そして、眼下には一面の海。
「ん?海、そんなはずはない…ありえない…」
当惑する姉ヶ崎の視線の先に、島が見えた。孤島だ。
飛行場もなさそうだが、しかし燃料も少ない。着陸するほかない。
さいわい不時着に十分な広い砂浜が見えた。
ほうほうのていでセスナから降りたつ。人の気配はない。
と思った瞬間、砂浜に沿って広がる冥い森から数人の男たちが前触れなく現れた。
「おもーい!おもーい!」
顔立ちや肌の色からポリネシア系の人たちに見えた。
ふんどしのような布で股間を隠し、上半身はTシャツ姿、
なにやら字がプリントされているが、姉ヶ崎には読めない。
少なくともアルファベットの類ではなく、いままで一度も見たことがない文字だった。
「おもい、おもい」
リーダーらしき、筋骨隆々ひげもじゃの男が近寄ってきた。
両手を差し出し、下から上へ、あおぐような動作を繰り返す男。
あっちへ行けあっちへ行け、そんな仕草にも見える。
いつの間にかリーダーだけでなくほかの男たちも無表情に同じ仕草をはじめじわじわと近づいてくる。
「おもい、おもい、おもい、おもい」
姉ヶ崎は後ずさりした。どういうことなんだこれは、彼らは何が言いたいんだ。
困惑をよそに男たちは同じ動作を繰り返す。
「おもい、おもい、おもい、おもい、おもい、おもい」
すぐに波際まで追い立てられ、生ぬるい海水に足が濡れた。


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