ワイが文章をちょっと ..
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2:ぷぅぎゃああああああ ◆Puuoono255oE
20/02/25 22:30:06 CIyDY3Nh.net
新しいスレをありがとう!
明日のワイスレ杯は前スレが残っていたとしても、
新スレで行う! 作品の移動が面倒なので!

よろしく!(`●・ω°´)ノシ

3:ぷぅぎゃああああああ ◆Puuoono255oE
20/02/25 22:37:02 CIyDY3Nh.net
ワイスレ杯のお題の素材

・「ウイルス」
・「善意」
・「漫才」
・「春一番」
・「ヒーロー」
・「根性」
・「職業小説」
・「お祭り」

ルールの一部変更
今回のワイスレ杯は「記名投稿、無記名投稿」を任意で選べる。
素材は加工されてお題の文章となる為、単語として採用されるとは限らない。

ワイの考え!(`・ω・´) 素材の受け付けは今日まで!

4:ぷぅぎゃああああああ
20/02/26 00:08:42.22 LKFvD28p.net
お題の素材は出揃った!
>>3を参考にしてワイが明日、今日になるのだが考える!
よろしく!(`●・ω°´)ノシ 寝なければ!

5:ぷぅぎゃああああああ
20/02/26 04:05:28.23 LKFvD28p.net
第五十三回ワイスレ杯のルール!
設定を活かした内容で一レスに収める!(目安は二千文字程度、六十行以内!) 一人による複数投稿も可!
今回の特別ルールとして「記名投稿、無記名投稿」は任意で選べるものとする!
通常の評価と区別する為に名前欄、もしくは本文に『第五十三回ワイスレ杯参加作品』と明記する!
ワイが参加作品と書き込む前に作者が作品を修正する行為は認める!
今回の設定!
春一番が吹く季節! 子供はウイルスによってベッドで横になっていた!
外からはお祭りに向かうような声が聞こえる! 窓を見詰める子供の目に薄っすらと涙が溜まる!
そこに人物が颯爽と現れた! 根性と言わんばかりに拳を握り、笑顔を見せる姿はヒーローそのものであった!
目を丸くした子供に善意の塊の人物が口を開いた! 職業的なヒーローなのか! 滑らかな口調は漫才師を思わせる!
人物の目的とは! 子供との関係は! 全てが謎に包まれていた! 物語は作者の手によって動き出す!
応募期間!
今から土曜日の日付が変わるまで! 上位の発表は投稿数に合わせて考える! 通常は全体の三割前後!
締め切った当日の夕方に全作の寸評をスレッドにて公開! 同日の午後八時頃に順位の発表を行う!
今年、最初のワイスレ杯!m9っ`・ω・´) 一位に輝くのは誰だ!

6:ぷぅぎゃああああああ ◆Puuoono255oE
20/02/26 05:22:38 LKFvD28p.net
第五十三回ワイスレ杯のルール!
設定を活かした内容で一レスに収める!(目安は二千文字程度、六十行以内!) 一人による複数投稿も可!
今回の特別ルールとして「記名投稿、無記名投稿」は任意で選べるものとする!
通常の評価と区別する為に名前欄、もしくは本文に『第五十三回ワイスレ杯参加作品』と明記する!
ワイが参加作品と書き込む前に作者が作品を修正する行為は認める!

今回の設定!
春一番が吹く季節! 子供はウイルスによってベッドで横になっていた!
外からはお祭りに向かうような声が聞こえる! 窓を見詰める子供の目に薄っすらと涙が溜まる!
そこに人物が颯爽と現れた! 根性と言わんばかりに拳を握り、笑顔を見せる姿はヒーローそのものであった!
目を丸くした子供に善意の塊のような人物が口を開いた! 職業的なヒーローなのか! 滑らかな口調は漫才師を思わせる!
人物の目的とは! 子供との関係は! 全てが謎に包まれていた! 物語は作者の手によって動き出す!

応募期間!
今から土曜日の日付が変わるまで! 上位の発表は投稿数に合わせて考える! 通常は全体の三割前後!
締め切った当日の夕方に全作の寸評をスレッドにて公開! 同日の午後八時頃に順位の発表を行う!

今年、最初のワイスレ杯!m9っ`・ω・´) 一部を修正した!

7:この名無しがすごい!
20/02/26 06:09:28 ShI1nv2J.net
なんじゃそりゃあああっ!!

8:ぷぅぎゃああああああ
20/02/26 07:28:54.53 LKFvD28p.net
なんじゃこりゃああ、であればジーパン刑事!
皆の意見がお題を難しくした!
今日の朝食は鶏雑炊であった!
さて、続きをやるか!(`・ω・´)ノシ ある程度の拡大解釈は認めているので気軽に参加して貰いたい!

9:この名無しがすごい!
20/02/26 08:11:31.15 tnhfYBxL.net
難しい
俺は逃げる

10:『第五十三回ワイスレ杯参加作品』 ◆ksu3W1O5jk
20/02/26 09:18:42 iyC/74Jy.net
 特別病棟の一室のベッドの上で、少年はぼんやりと窓の外を眺めいてた。季節は春、始まりの季節。彼の友人達は中学校入学の準備をしている頃だ。
 少年が発症したのは半年前の秋頃だ。病弱で生まれた頃から何度も病院と家を行ったり来たりしていた。そろそろ身体も強くなって来たねと母が喜んでいた、丁度その時であった。
 少年の母も同じ病気を患った。この感染症の症状は基本的に最長六か月とされており、本当であれば少年も母も、既に病院を出ている頃のはずだった。だが、母はふた月前に死に、自身も未だに快復の兆しがない。
「母さんと、日暮神社の春祭りに行きたかったなあ」
 少年は呟く。母と約束していたのだ。春頃にはきっと完治しているはずだから、二人で日暮神社の春祭りに行こう、と。
 飾り立てられた囃子屋台が日暮神社を出て、古趣溢れる音曲と共に街を練り歩くのだ。身体が弱く行事に疎い少年にとって、何よりの夢であった。
 だが、それが叶うはずもない。先は長くない、可哀想な子だと、そう噂されていることを知っていた。
「もし、少年」
 唐突にそう声を掛けられた。少年が顔を上げれば、そこには二十歳前後と見える、西洋人の男が立っていた。
 金髪で青い瞳をしており、顔は彫が深く、ニカッと笑うその顔は温和な印象があった。藍色の縦縞模様が薄く入った品のいい礼服に身を包み、奇抜な猫柄のネクタイを首から下げている。
 少年は室内を見回す。気が付けば、同室の者が誰もいない。
「おじさん……誰?」
「お兄さん、と言いたまえ。オホン、私は、職業としてヒーローをやっているものだ」
「ヒーロー?」
「君の願いを叶えてあげよう。私と共に、日暮神社の春祭りに行くんだ」
 少年は男の言葉に表情を明るくしたが、すぐに俯いた。
「無理だよ。ボクにそんな体力はない。外を歩いたら高熱が出て倒れちゃうと思う。それに、ボクの病気は感染するから、外に出ちゃダメだって言われているんだ」
 少年が言うと、男はふんっと念じながら、少年の額に手を置いた。途端、信じられないことに、少年の身体が軽くなった。
「嘘……?」
「今日の夕方までは大丈夫だろう。それから……はぁ!」
 男が手を広げる。薄い光の幕が少年の周囲に輝き、空気に馴染むように消えた。
「ヒーローは、笑顔を守るためだったらなんだってできるんだよ。これで少年の身体から、細菌が外に漏れることはない」
「ほ、本当に? でも、先生になんて説明したらいいのか……」
「ええい、じれったい!」
 男は少年を背負い、窓を開け、その縁に足を掛けた。
「おじさん、ここ三階だよ!」
 男は窓の縁を蹴って空を飛んだ。
「うわあああ! す、すごい!」
「ふははは、そうだろう! 何せ、私はヒーローだからな!」
 春一番の強い風が彼らを覆う。その心地よさに、少年は頬を緩めた。

 それから男と少年は、二人で豪奢な囃子屋台を追い掛けた。
 雅な和太鼓の音が響く。人の群れの中、周囲の掛け声に合わせて男が叫ぶ。周りより声の大きかった男は周囲から視線を向けられ、くすくすと笑われていた。
「おじさん、恥ずかしいよう」
「祭りとは、燥ぐためにあると聞いたぞ。さあ、少年よ、キミも声を張り上げるのだ!」
 それから「お兄さんだ」と付け加えることも忘れなかった。少年はくすりと笑い、彼に続いて大声を上げて囃子屋台と共に歩いた。
 囃子屋台が神社に戻ってからは縁日を見て歩いた。少年は遠慮して眺めるに留めるつもりだったのに、男は林檎飴やら綿飴やらを買い漁っては少年に押し付けた。
 夕方になり、病室に戻る。
「ありがとう、


11:おじさん、今日は人生で一番楽しい日だったよ!」  ベッドの上でそう口にしたとき、気が付くと男の姿は消えていた。病室には、いつもの同室人で溢れている。 「ヒーローのおじさん……?」  お兄さんだと、そう返してくれる声はなかった。あれは夢だったのだろうかと、少年はそう首を傾げた。 ◆  ある事務所の一室で、男は上司に呼び出しを受けていた。書斎机を挟み、二人は顔を突き合わせる。 「ヒーローごっこのつもりか? 止めておけ」 「規則だから、ですか?」  男が上司の言葉を鼻で笑う。 「それだけじゃない。対象に感情移入しすぎれば、お前の方に限界が来ちまうと、忠告してやっているんだ」 「死に行くものに、最後の幸せを与えられるならば……私にいつか限界が来ようと、それは大したことではありませんよ。失礼いたします」  男は部屋を去っていく。彼の上司は、煙草の煙を吐き出した。それから彼の姿に若き日の自分を思い出し、溜め息を零す。 「……俺達死神は、そう甘い仕事じゃねえんだよ」



12:ぷぅぎゃああああああ ◆Puuoono255oE
20/02/26 09:21:47 LKFvD28p.net
第五十三回ワイスレ杯参加作品

>>10

只今、一作品!(`・ω・´)

13:この名無しがすごい!
20/02/26 15:09:53.69 JcS+DzeV.net
>>10
>特別病棟の一室のベッドの上で
いきなり、助詞「の」が多すぎる
「一室の」は、別になくていいだろう
>季節は春、始まりの季節。
のほうを「特別病棟のベッドの上で」より先に冒頭に書いたほうがよくないか?
>眺めいてた
も、落ち着いて読み返せという感じ
>病弱で生まれた頃から何度も病院と家を行ったり来たりしていた。
こういうのも「入退院を繰り返していた」と書けばいい
そのあとも、全体的に急いで書いたのがありありとわかり
もうすこし見返して見てから載せたほうがよかったな
文の順番、構成や表現等、改正すべき余地が大きいのが残念。

14:この名無しがすごい!
20/02/26 15:15:11.93 JcS+DzeV.net
>>10
地の文での
「少年は」「少年が」「男は」「男が」の書き出しの連発や
>それから男と少年は…
>それから「お兄さんだ」と…
等の、「それから」の繰り返しに、単調さを感じるのも付け加えておく

15:この名無しがすごい!
20/02/26 15:17:27.25 JcS+DzeV.net
もっと時間をかければ、同じ内容でも、洗練された文章にできるはずなのだから実にもったいない!

16:この名無しがすごい!
20/02/26 15:36:45 JcS+DzeV.net
もう一つ、余計かもしれないが気になったのは

>男は部屋を去っていく。

等の説明書きが実に多い!

こういう説明書きの割合があまりに多いと
小説ではなく戯曲のト書きに見えてしまうきらいがある
「男が部屋を去っていく」等は説明しなくても読者に状況はじゅうぶん伝わるので

…失礼いたします」
去り際に彼の上司は煙草の煙を吐き出し…、とでも書く工夫が必要

そういうような工夫が必要な個所がいくつか見られます!

17:この名無しがすごい!
20/02/26 15:38:36.96 JcS+DzeV.net
ワイスレ杯なので内容まで評価の対象にはしません
それはワイ氏に任せます!
以上です!

18:この名無しがすごい!
20/02/26 15:52:13.33 yFTOEdgx.net
杯の途中で添削はご法度ですので控えてくださいね

19:この名無しがすごい!
20/02/26 16:01:15.95 JcS+DzeV.net
損して得取れという言葉もあり
ワイスレ杯の評価云々より今後のことも考えれば、作者には役に立つレスをしたと思うけどな
余計なことですか、そうですか、はい
以降の投稿作にはしませんので、お叱りにならないでw

20:この名無しがすごい!
20/02/26 16:06:21.68 yFTOEdgx.net
いえいえ、何かすみません

21:この名無しがすごい!
20/02/26 16:44:57.33 Q3KCqjnM.net
感想を述べるのは自由よ
お題を満


22:たしてないから失格!失格!と騒ぎ立てるのはご法度だけど ワイさんは、お題を満たしたら加点と言ってたから たとえお題を外しても加点が無くなるだけで失格ではないからね



23:この名無しがすごい!
20/02/26 18:28:13.48 Mr1kcL/9.net
「は?」
 少年は気の抜けた声を漏らす。
「だから、ウィルスだってば」
 卒業式の朝、前日から風邪で寝込んでいた少年は、この不審者と奇妙でかみ合わない会話をしていた。
 全身黒タイツに眩しいほどの笑顔、あまりにもステレオタイプな外見だが、その顔には見覚えがあった。
「……先生、何してるんすか?」
「先生ではない! ウィルスだ」
 一瞬で涙が引っ込んだ少年は、起き上がって不審者に向き合うと、馬鹿馬鹿しいとばかりにかぶりを振った。
「何をしているのか分かんないけど、卒業式はいいんすか? さっきみんなの声が聞こえましたけど」
「何に遅れるのか分からんが、君も遅れるだろう? 早く準備したまえ」
「いや、俺は風邪なん……?」
 そういえば。少年は自分の体に起きた変調にようやく気付く。
「あれ? 身体が……」
 昨晩まで彼を苛んでいた関節の痛みも、鼻水も、息苦しさも、全てきれいさっぱり無くなっていた。
「ふふふ、当然だ! ウィルスが体から出ているからな!」
「え、じゃあ本当に?」
「最初から言ってるだろう。私はウィルスだ」
 信じられないという表情、しかし次の瞬間には飛び起きていた。
「やった! 卒業式に行ける!」
 少年はベッドから飛び出し、クローゼットの制服に手を伸ばす。しかしその手は不審者によって防がれてしまう。
「まあ、待ちたまえ。その前にやることがあるだろう? ウィルスに打ち勝たなければいけない。それが出来ないなら部屋から出ることも、制服を着ることも許可できない。病人はベッドで寝ているべ―」
 少年は不審者の顔に思い切り拳を打ちつけていた。
「これで満足か!?」
「教師に手を上げるなんて……!」
「やっぱ先生じゃねーか!」
「……ウィルスでーす、先生なんかじゃないでーす」
「クッソ腹立つ!」
 とぼけるように口笛を吹く不審者に、彼は怒声を浴びせる。
「そもそもウィルスに勝つには栄養と薬と睡眠です。なんでこんな乱暴をするんですか、だから何度も補導されるんですよ、毎回毎回迎えに行くの誰だと思ってるんです?」
「補導って……やっぱり先生じゃないですか!? なんで知ってるんですか?」
「あ、やべっ」
「やべって言った!」
「……言ってませーん」
「この野郎!」
 少年は不審者につかみかかり、精一杯の凄みを効かせて睨みつける。
「俺は絶対卒業式いかなきゃダメなんだよ! あんた……いや、先生に謝りたいんだ! 最後まで迷惑かけっぱなしだった先生に!」
 目の前にいる黒タイツはどう見てもその先生本人だったが、目の前にいる不審者をその人だと思いたくないのか、一応は不審者の言い分を信じたのか、少年は必死の形相で訴えかける。
「だったら!」
 少年の手首を掴み、柔道の要領で不審者は少年を転ばせる。ベッドに沈み込んだ彼に、黒タイツは厳しい声を浴びせる
「もっと早く謝る事も出来ただろう! 何故それをしなかった!」
「分かってる! 分かってるんだよ! 俺が悪かったなんてことは!」
 起き上がり、再び少年は不審者につかみ掛かる。目には光るものが滲んでいた。
「でも謝れなかったんだよ! ようやく謝れそうだったんだよ! なのに……お前のせいで!」
 少年は拳を振り上げ、再び不審者の顔面にそれを打ちつけた。
 結局あの後、目が覚めると熱が引き、時刻は卒業式の始まる数時間前になっていた。
 制服に着替え、家を出ると登校する同級生と鉢合わせ、少年は一緒に向かうことにした。
「えー……君たちの新しい門出を祝って―」
 そして今、白髪頭の校長が長々とした口上を述べている。少年はそれを赤い目で聞いていた。
 卒業式の日に限ってよく泣く不良。そんな謗りが彼の耳にも届いていた。それでも、彼は胸を張って歩いた。
 何度問題を起こしても、その度に叱り、諭してくれた先生へ感謝を述べるために。

24:この名無しがすごい!
20/02/26 18:35:34.61 Mr1kcL/9.net
あれ、改行が反映されてない
> 少年は拳を振り上げ、再び不審者の顔面にそれを打ちつけた。
> 結局あの後、目が覚めると熱が引き、時刻は卒業式の始まる数時間前になっていた。
この間に改行が入ります。

25:ぷぅぎゃああああああ
20/02/26 18:53:45.49 LKFvD28p.net
第五十三回ワイスレ杯参加作品
>>10
>>21
只今、二作品!(`・ω・´)参加作品と書かれていないが、そうなのだろう!

26:とらとら巻き巻き
20/02/26 18:54:50.14 o4pSBL/c.net
 都心にある和井病院は、3年前に建てられた比較的新しい病院だ。
 エントランスは、天井が高く採光の窓があり、昼間でも木漏れ日の様に
照らすホールは、訪れる患者の憂いを、幾らか軽減させてくれる様な場所で、
地元の人達にも信頼されていた。
 ヒイロがこの病院に運ばれたのは、一週間前でもうすぐ冬休みが終わる頃だった。
"ブカンウィルス" がどういう類の物か幼い彼には分からなかったが、
最上階にある特別な場所、人気の少ない階の部屋で、お父さんの好きなアニメ、
ドラゴンボールで見た様な、吸引器をつける所から
"どうやら大変な病気にかかってしまった" ぐらいには病状を察していた。
  彼の病室へは、安易な接触が許されず看護師が短い時間に、
腕から繋がっている管と点滴を調整して、何やらノートへメモする時以外は、
孤独な時間が長く続いた。
 「ヒイロの入学式が楽しみだ」笑顔でそう言いながら祖父と祖母が渡してくれた
新しいランドセルを貰った時の事を思い出すと、窓を見ながら涙が頬を伝って行くのを、
彼は抑え切れなかった。
 病室は、建物が比較的最近出来たのもあって、小奇麗ではあるものの、
小さいテレビと、寂しくないようにと親が用意してくれたぬいぐるみが
向かいの棚に幾つか並べられてるだけで、それ以外は殺風景な白い空間でしか無かった。
  *    *    *
 
 午後3時が過ぎた頃、テレビがCMを流し色々切り替わる画面を見ながら
ヒイロは段々と意識が遠く成りそうだった。このまま寝たら病気が酷くなるのでは……
そう思った矢先、天井から何やら白い影が地面に落ちた気配がした。
朦朧とする中、首を窓の反対側の方に向けると、その男は居た。
黄色いマントに白いヒーロースーツ姿の男だ。彼はゆっくりと立ち上がる。
 ヒイロは彼が何処から来たか聞こうとしたが、その前に男の方から話しかけた。
 「私がどこから入って来たかは、今気にしてはいけない」
そして続けて語りかけた。「分かってる。本当はそこのアンパンマンに来てほしかったんだろ?」
棚には、ぬいぐるみのアンパンマンも居た。ヒイロは、ううん、そんな事は無いと答えたかったが、
声に成るような音は出せなかった。「やれやれ、これだから人気の無いヒーローは辛い、
君と戦ってるウィルスだって、私と似たようなものさ」
 ヒイロはどうしてと心の中で思うと男は答えた。「必死こいて戦ってるからさ。
けどウィルスは勝てないッ。僕がアンパンマンの人気に勝てないのと同じ様に!」
 アンパンマンに勝てない事をわざわざ嘆きに来たのかと思うと、
ヒイロは笑いそうに成ってしまった。
「大丈夫、君ならきっと勝てる……」男がそう言うと、ヒイロは目を閉じて眠りについた。
 深い眠りから覚めると、病室では母とお医者さんが話をしていた。ヒイロはもう一度目を閉じて
医者の言う事に耳を傾けた。「ヒイロ君頑張りましたよ。今朝の検査の結果、
来週辺りに退院出来そうです」母は、白衣を着た医者に何度も感謝の言葉を述べた。
 ヒイロは心の中で思った。"頑張ったのは僕と、あの時来てくれたヒーローだ"。
 棚にあるアンパンマンに目を向けると、いつもより笑っている様に見えた。
fin

27:ぷぅぎゃああああああ
20/02/26 19:04:13.97 LKFvD28p.net
第五十三回ワイスレ杯参加作品
>>10
>>21
>24
只今、三作品!(`・ω・´)アンカーを三つにするとエラーが出る!

28:この名無しがすごい!
20/02/26 19:43:35 HEDiEMHN.net
 笑いは人間の免疫力を上げるという。実際、様々な実験が行われ、お笑いや落語を聞いた被験者の免疫力が上がったという。
 笑いは不健康な人を活性化させる要素を持っているのかも知れない。

 病室の外では春一番が吹いている。春が近づいているのだ。花粉症で目を赤くし、クシャミをする患者も多くなってきた。
 小学校二年生の山野ひろしは原因不明のウィルス感染症で特別病棟に入院している。
 昼下がりの午後、ひろしはふと窓の外を眺めた。
 病院の敷地に団扇太鼓を叩きながら二列縦隊で数多くの男女が整然と行進しているではないか。
 老若男女、年齢層は幅広い。
 下は十代であろうか、上は腰を曲げた老人まで十人十色である。
 男は赤いパンツに白いブーツを履いている。
 女は赤い褌に上半身は白い晒を巻いていた。
「闘魂! 闘魂! 元気があれば何でもできる!」
 と団扇太鼓を叩きながら割れんばかりの声で叫んでる。
 病室に二メートルはあろう体躯に顎の長い禿げ頭の男が入って来た。
 年は70を過ぎ、少し腰を曲げてる。
 黒いパンツに上半身裸で首には赤いタオルが巻かれてた。
「ひろし! 大丈夫か! 元気があれば何でも、できるんだ!」
 男は新興宗教「闘魂宗」の教祖で猪村寛慈と言った。
 プロレスこそが日本の国教で国技であると主張し独自の教義を作って信者を獲得してきた。
 熱烈なプロレスファンを中心に全国に三十万人を集めているという。
 芸能人の中には密かに闘魂宗を信仰している者も多い。
「おじいちゃん。恥ずかしいよ、みんな変な目で見てるよきっと」
 ひろしは薄っすらと目に涙を浮かべ言った。
「恥ずかしいもんか! 闘魂、元気があれば何でもできるんだ!」
 猪村は拳を握り叫ぶ。
「お父さん、何しに来たの! 変なコトして世間の笑いものだわ!」
 三十過ぎの女性が病室のドアを開くなり怒声を上げた。
「寛子! オレは……」
 猪村の娘、寛子である。
 寛子は猪村の宗教を嫌い家を飛び出し大学時代の同級生と結婚し幸せな家庭を築いていたのだ。
 折角、狂信的な父と離れ暮らしていたのにと内心、怒りに震えていたのだ。
「オレはじゃないわよ。恥ずかしい! わたしが狂信的教祖の娘だと知れたら全てがパーになっちゃうの! 出てってよ!」
「そうは


29:「かない! オレは薬を持ってきたんだ! 処女の陰毛だ! これを飲めばどんな病も吹き飛ぶ! 猪村家秘蔵の薬なんだ!」  パンツの中から白い紙袋を取り出して見せた。 「じゃあ、飲んでみてよ!」 「おお! 飲んでやるぞ! 飲めばひろしに飲ませるんだな?」 「いいわよ!」  猪村は陰毛を飲んだ。  数分後、猪村が腹部に手をやって苦悶の表情を浮かべた。 「う……」  寛子は不敵な笑みを浮かべた。  猪村は床に倒れ両足をジタバタさせて叫ぶ。 「おかあちゃん、いてーよ、いてーよ」  猪村は子供の様に泣き叫んだ。  その苦しい姿を見てひろしは腹を抱えて笑った。  外では教祖の苦痛を知らず、信者が団扇太鼓と「闘魂! 闘魂! 元気があれば何でもできる!」と絶叫してる。  数日後、ひろしの病状は劇的に回復し一般病棟に移るまでになった。 「お父さんに感謝しなくちゃいけないわね。あの陰毛はホームレスの陰毛なのよ」  と寛子は独り言をつぶやいた。  猪村は処置を受けて数日間入院して事なきを得た。  意図しないお笑いが一人の子供を救ったのだから結果良ければ全て良しと言った所であろう。      



30:この名無しがすごい!
20/02/26 19:44:46 HEDiEMHN.net
33分かかってしまった。誰が書いたか、一目瞭然であーる!

31:この名無しがすごい!
20/02/26 20:01:21.68 HEDiEMHN.net
笑いは人間の免疫力を上げるという。実際、様々な実験が行われ、お笑いや落語を聞いた被験者の免疫力が上がったという。
 笑いは不健康な人を活性化させる要素を持っているのかも知れない。
 病室の外では春一番が吹いている。春が近づいているのだ。花粉症で目を赤くし、クシャミをする患者も多くなってきた。
 小学校二年生の山野ひろしは原因不明のウィルス感染症で特別病棟に入院している。
 昼下がりの午後、ひろしはふと窓の外を眺めた。
 病院の敷地に団扇太鼓を叩きながら二列縦隊で数多くの男女が整然と行進しているではないか。
 老若男女、年齢層は幅広い。
 下は十代であろうか、上は腰を曲げた老人まで十人十色である。
 男は赤いパンツに白いブーツを履いている。
 女は赤い褌に上半身は白い晒を巻いていた。
「闘魂! 闘魂! 元気があれば何でもできる!」
 と団扇太鼓を叩きながら割れんばかりの声で叫んでる。
 病室に二メートルはあろう体躯に顎の長い禿げ頭の男が入って来た。
 年は70を過ぎ、少し腰を曲げてる。
 黒いパンツに上半身裸で首には赤いタオルが巻かれてた。
「ひろし! 大丈夫か! 元気があれば何でも、できるんだ!」
 男は新興宗教「闘魂宗」の教祖で猪村寛慈と言った。
 プロレスこそが日本の国教で国技であると主張し独自の教義を作って信者を獲得してきた。
 熱烈なプロレスファンを中心に全国に三十万人を集めているという。
 芸能人の中には密かに闘魂宗を信仰している者も多い。
「おじいちゃん。恥ずかしいよ、みんな変な目で見てるよきっと」
 ひろしは薄っすらと目に涙を浮かべ言った。
「恥ずかしいもんか! 闘魂、元気があれば何でもできるんだ!」
 猪村は拳を握り叫ぶ。
「お父さん、何しに来たの! 変なコトして世間の笑いものだわ!」
 三十過ぎの女性が病室のドアを開くなり怒声を上げた。
「寛子! オレは……」
 猪村の娘、寛子である。
 寛子は猪村の宗教を嫌い家を飛び出し大学時代の同級生と結婚し幸せな家庭を築いていたのだ。
 折角、狂信的な父と離れ暮らしていたのにと内心、怒りに震えていたのだ。
「オレはじゃないわよ。恥ずかしい! わたしが狂信的教祖の娘だと知れたら全てがパーになっちゃうの! 出てってよ!」
「そうはいかない! オレは薬を持ってきたんだ! 処女の陰毛だ! これを飲めばどんな病も吹き飛ぶ! 猪村家秘蔵の薬なんだ!」
 パンツの中から白い紙袋を取り出して見せた。
「じゃあ、飲んでみてよ!」
「おお! 飲んでやるぞ! 飲めばひろしに飲ませるんだな?」
「いいわよ!」
 猪村は陰毛を飲んだ。
 数分後、猪村が腹部に手をやって苦悶の表情を浮かべた。
「う……」
 寛子は不敵な笑みを浮かべた。
 猪村は床に倒れ両足をジタバタさせて叫ぶ。
「おかあちゃん、いてーよ、いてーよ」
 猪村は子供の様に泣き叫んだ。
 その苦しい姿を見てひろしは腹を抱えて笑った。
 外では教祖の苦痛を知らず、信者が団扇太鼓を叩きながら「闘魂! 闘魂! 元気があれば何でもできる!」と絶叫してる。
 数日後、ひろしの病状は劇的に回復し一般病棟に移るまでになった。
「お父さんに感謝しなくちゃいけないわね。あの陰毛はホームレスの陰毛なのよ」
 と寛子は独り言をつぶやいた。
 猪村は処置を受けて数日間入院して事なきを得た。
 意図しないお笑いが一人の子供を救ったのだから結果良ければ全て良しと言った所であろう。

32:この名無しがすごい!
20/02/26 20:01:40.09 HEDiEMHN.net

少し修正しました。

33:第五十三回ワイスレ杯参加作品
20/02/26 20:32:33.46 BJ57GGJT.net
「病室からの自由」
 春一番が、病院の窓をガタガタと揺らした。
 磨りガラスの向こうに、同級生たちがはしゃぎながら学校へ向かう影が見える。
 まるでお祭りにでも行くみたいに―。
 白い壁、小さな穴が並んだ天井、消毒液のにおい、冷たいシーツ。
 ここから見える何もかもが、少年の心を虚しくする。
「ぐぅぅっ」
 急に胸が痛くなったのは、寂しさのせいではない。
「げほっ、げほっ、げほっ……」
 ひとりきりの病室で、咳が出始めると、なかなか止まらなかった。
 彼を蝕んでいるのは、新種のウイルスだ。現在この病魔を宿しているのは、世界中で彼ひとりだけだった。
 ようやく咳がやみ、彼は高い枕に頭を乗せた。
 思わず、涙が浮かんでくる。
(僕はもう死んじゃうんだ。こんな寂しいところで、死んじゃうんだ)
 そんなことを考えていると、突然病室の扉が開いた。
「ハロー! グッドボーイ!」
 現われたのは、タキシードの上から真っ赤なマントを羽織ったひとりの男だった。
 大きな白い袋を肩に担いでいる。
「そんなところにいて、寂しくはないかい?」
 突然のことに、少年は驚いた。
 しかしあまりに高まった孤独は、こんな闖入者にも言葉を返そうと思わせた。
「あなたは誰?」
「僕はヒーローさ! 君みたいな子供たちを救うために現われるヒーロー!」
 男はおどけた調子でマントをはためかせながら、少年に近づいてきた。
「そんなところに閉じこもってちゃつまらないだろう? 僕が魔法をかけてあげよう!」
 その瞬間、少年の視界は真っ赤なマントに覆われた。
 男の奇妙な行動に、不思議と違和感が湧いてこない。
 マントの中が、温かい。彼は次第に眠くなってきた。
「そのまま眠るといい……自由にしてあげよう……」

 目を覚ますと、いつものように医者がぞろぞろと部屋に集まってきていた。
 別室に連れて行かれ、ありとあらゆる検査が行なわれ、再び病室に返される。
 また寂しい時間が始まる。いつものことだ。そう思っていた。
 しかし、病室の外がにわかに慌ただしくなった。
 医者たちがまた現われ、同じ検査がもう


34:「ちど行なわれた。 「信じられない! ウイルスが完全に消滅している!」 「何が起こったらひと晩でこんなことになるんだ!?」 「正直なところを言えば、もう少し研究を進めたかったが……」  少年の聞こえないところで、そんな会話が交わされた。  やがて2週間が経ち、少年は退院した。  通学路には、もう梅の花が咲いている。 (やっぱりあの変な人が、僕の病気を治してくれたのかな……)  それなら感謝しなければいけないんだろうけれど――どこへ行けば会えるのかもわからない相手だ。  両親に話せば、きっと夢でも見たのだと言われるだろう。  実際、夢だったのかもしれない。 ◆  赤いマントを羽織った男は、大都会のビルの上に佇んでいた。  肩に担いでいるのは白い袋。 「あんなところに閉じこもってちゃつまらないだろう?」  男は笑みを浮かべて言った。 「僕が君たちを自由にしてあげよう……」  男は白い袋を虚空に向けて開いた。  人の目には見えない子供たちは、都会にひしめきあう人々のもとに舞い降りた。



35:ぷぅぎゃああああああ
20/02/26 20:33:17.76 LKFvD28p.net
第五十三回ワイスレ杯参加作品
>>10
>>21
>24
>28
只今、四作品!(`・ω・´)

36:ぷぅぎゃああああああ
20/02/26 20:34:17.85 LKFvD28p.net
第五十三回ワイスレ杯参加作品
>>10
>>21
>24
>28
>30
只今、五作品!(`・ω・´)

37:この名無しがすごい!
20/02/26 20:40:43.78 HEDiEMHN.net
JcS+DzeVさん 評価してくれ!

38:この名無しがすごい!
20/02/26 21:17:33.52 HEDiEMHN.net
ワンスレは早く書く! 小説はじっくり推敲して書く。個人的な意見だけど、緩急は大事だと思う。
30分一本勝負は良かった。

39:この名無しがすごい!
20/02/26 21:28:37.53 HEDiEMHN.net
「闘魂宗」「闘強大学」カルト感、狂気感を出したい。闘強大学教授も闘強大学強授がいいかもしれない。
教えを授けるのではなく、強さを授けるわけだから。細かい設定も考えよう。
卒業したら、陸軍の予備少尉の資格を与えるとか。

40:この名無しがすごい!
20/02/26 23:08:18.61 o4pSBL/c.net
処女の陰毛にワロチw

41:この名無しがすごい!
20/02/26 23:41:25.80 T69lkoAS.net
 僕は子供の頃から何百ものウイルスに侵されていた。健康とはかけ離れた存在。原因は謎。それでも僕は必死に生きようともがき、苦しんだ。
 同年代の子供は外で楽しく遊んでいる。隔離された病室の窓からそれを羨ましげに眺めていた。ズルい。何で僕だけが苦しまなければいけないのだろうか。
 親を憎んだ。運命を憎んだ。そして自分自身を憎んだ。
 しかし、人間というのは希望がなくちゃ生きていけないようで、自然と僕には憧れの存在が出来た。
 それがヒーローであり、今の自分だった。
「大丈夫かい、少年」
 目の前にいる少年は僕の幼少期と酷似している。ベッドの上で横になり、動けない身体を憎むだけの力のない子供だ。
「……ヒーローみたいだね」
 少年の声は平坦で夢も希望もないように思えた。
「そうさ、僕がヒーローだ。君を助けに来た」
「無理だよ。治らないとお医者さんに言われたんだ。それに僕の病気は人に感染するよ。そんな格好じゃ危ないよ」
「大丈夫。僕はそのウイルスを克服したから。治してみせるよ」
「……え?」
 奇跡的に僕は侵されていたウイルス全てを克服した。今ではすっかりと元気になっていて、自分という被検体を利用して様々な病気の治療法を見つけている。
 目の前の少年が侵されているウイルスは既に僕の手によって不治ではなくなっているのだ。
 白衣を整え、目の前の患者が落ち着くように笑顔を作る。
「では診察を始めようか」

42:ぷぅぎゃああああああ ◆Puuoono255oE
20/02/26 23:49:32 LKFvD28p.net
第五十三回ワイスレ杯参加作品

>>10
>>21
>24
>28
>30
>37

只今、六作品!(`・ω・´)

43:おトイレきばり太郎
20/02/27 00:30:51 X1iYLJbR.net
第五十三回ワイスレ杯参加作品

 涙は祈りだ。彼は祈る。
 だけれども、それは神様には届かない。
 だって僕はずっと寝込んでいたし、ベッドから出ることさえもできない。鼻につけられた管は気持ち悪いし、喉に開いた穴からは哀愁すらも感じる。それでも彼は祈ることをやめなかった。
 初めて会った日から、「きっと元気になるよ。だから一緒に頑張ろう」なんて言うけれど、良くなるのは君一人で、僕はずっとここに張り付けだ。
 本当は何回も腐ってしまおうと思ったのだけれど、君がいるものだからついつい頑張ってしまうんだ。
 でも、それももう終わりかもしれないね。

 空気を入れ替えるためと、誰かが開け放ったままの窓からは、強い風が吹いてきて僕の頬を撫でていく。
 それに加えて、肩ではなくて頭で風を切るような感覚。久しぶりに反応を覚える触覚は喜びを覚えるが、それはすぐに虚しさに変換された。
 ふと、耳を澄ますと、外では音楽が鳴っていて、人々が囃立てているような騒めきまでも聞こえて来る。
 確か、今日は院内での小さな祭りの日だった。そんなことを今になって思い出してしまう。
 それだけの些細なことに僕の胸は抉られた。
 前から何度もえぐられてはいるのだけれども、それとこれは話は違う。
 寝て起きて、その時に傷跡が残っているのと、起きたまま傷を開かれるのは天と地ほども違うのだ。
 そう、この感情は夢に似ている。

 例えば、僕が外にいて、彼と一緒に立っているとする。そして、出店なんかで二人で焼きそばだったり綿菓子だったり、そんなものを食べたりする。
 少し子供っぽいけれどお面なんかを買ってもいい。僕たちはそれがまだ許される年齢だ。
 君はどう思う? なんて尋ねようにもきっと君は答えられないし、僕は尋ねられないんだけど。
 ちょうど君とすれ違うものだから、そんなことを尋ねたくなったんだ。

 君はいつもそうやって泣いていたんだね。端っこで、窓からの景色を眺めて、黒い瞳に夢を溜めて。
 だけれども、君は良くなってるってみんなが言ってる。多分、君も気づいている。
 だから君が自分が悲しくて泣いているのではないって知っている。君は優しいから誰かのために泣いているんだよね。
 まぁ、実際に泣き顔を見るのは初めてなんだけど。それでも、君は泣いたらすぐにわかる。目が真っ赤になってるから。
 それを見るのは僕も堪えたよ。恐らく、僕を思って泣いていたんだと感じたから。
 もし考えが違ったら、恥ずかしい勘違いだけどね。
 とにかく、そうやって泣かないで欲しいんだ。君が悲しそうな顔をすると、僕まで悲しくなるから。

 多分、時間にして1秒くらいだったと思う。みんな駆け足だったし、調子の良い人は外で楽しんでいるからね、空いているってものだよ。
 だからそんな時間の中で、君は僕の横を通り過ぎていった。
 あるいは僕がそこを通ったんだ。ここのベッドには車輪がついていてとても便利だからね。速いってもんじゃないよ。

 そうだ、君に伝えたいことがあったんだった。
 今はこうやって中に取り残されている僕たちだけど、多分、君はちゃんと元気になる。そしてそのうちここからいなくなる。
 その時までにその泣き癖は直しておいて欲しい。その時まで取っておこうと思っているさよならは、笑顔の方が気持ちいいからね。
 僕は力を振り絞って彼に笑いかけた。
 口を開いたけれど、声は出なくて、代わりに震える手を挙げて、握り拳を作ってみせる。
 君は驚いたように目を丸くするけれど、やっぱり泣き止んではくれないんだね。
 君は僕をヒーローだって言うけど、それは間違っているんだと思う。
 確かに君より辛いことをしてる。薬だって飲んだら吐いてしまうから嫌だし、髪の毛だって全部なくなってしまった。
 それがすごくみすぼらしくて、みじめに思うんだ。
 そんな時、一人になると弱気で押しつぶされそうになってしまう。もう嫌だって叫び出したくなる。
 だけれども、君がそうやって僕の分まで泣いてしまうから、頑張らないといけなくなる。
 だからさ、もう少しだけ頑張ってみるから、君もそこで祈っていて欲しいんだ。僕の分まで、祈っていて欲しいんだ。
 きっとあの部屋に帰るから、君が帰るまでには帰ってみせるから、だから待っててよ。
 今度の祭りには二人で行こうよ。それで君にピッタリのお面を買ってあげるから。

 えっ、そのお面はなんだって?
 決まっているじゃないか、そんなの。君にはヒーローのお面が似合うから。
 
 

44:ぷぅぎゃああああああ ◆Puuoono255oE
20/02/27 00:49:47 k+ChFG7O.net
第五十三回ワイスレ杯参加作品

>>10
>>21
>24
>28
>30
>37
>39

只今、七作品!(`―ω―´)

45:この名無しがすごい!
20/02/27 00:58:43 1DnGzrFo.net
 12歳のが入院している病院は、元々政令指定都市にあって、子育て世代に頼りにされていたが、最近市民の反対を押しきって湾の埋め立て地に移転した子供病院だった。
 大人の事情なんて解りもしないが裕道は大いに迷惑していた。馴染みの看護師さんやルームメイトとも離ればなれで寂しい入院生活を送っていた。
 最近研修で担当になった若い看護師さんは一生懸命やってくれているのは見ててもわかっていた。しかし少年は大人の都合でいいように扱われている思いがぬぐえなかった。
 生まれつきHIVに犯されていて、病院しか知らない祐道にとっては病室は世界の全てで、スタッフや患者は家族だった。
 たった一人の母は去年亡くなった。母と祖父母とは絶縁状態で事実上の孤児だった。孤独で気が狂いそうだった。
 完全に無視を決め込む少年に若い看護師はこう自分を紹介した。
「坂井祐っていうの、よろしくね」
 少年は彼女を完全に無視していたが、医療行為に逆らう事は無かった。全てがどうでもいいのだ。
 少年はわざと失礼でぶっきらぼうな態度を取った
「おい祐、お茶」
「おい祐、テレビ」
 そんな態度にも関わらず、祐は甲斐甲斐しく少年を世話しながら色んな話をした。
 小学生の頃は男勝りで、虫取りや釣りをして野山を駆け回っていた事。少年の感想は『自慢かよ』
 中学生の時に修学旅行で地方の文化がわからずに大恥をかいたこと『楽しそうで何より、俺はそこまで生きちゃいないけどな』
 長年一緒に暮らした犬が死んで悲しかった事。『ここじゃ家族が死ぬのは日常茶飯事だ、肉親がICUの前で泣き崩れるのも慣れっこだ』
 本を読むのが好きで、この仕事を始めて体験した事を書き留めている。もし書籍を発行するような事があれば、君の事も書き綴りたいんだけど、いいかな。『小説の主人公か? 俺が死んだあとの事なんかしったこっちゃねーよ』
 少年は思った。こいつアホなんかな。これはこいつのボケに俺が突っ込む漫才なのではないかと。そんな日々の中、祐が本当にどうでもいいことを話した時に少年はうっかり切れた。
 もうすぐある花火大会で、去年は女ばっかり3人で出掛けたこと。砂浜にたこ焼きをひっくり返した事。
「うるせえよ! もう出ていけよ!」
 少年はそんなに厳しく言うつもりはなかった。しかし、お祭りという言葉に体が反応してしまった。この病院に来てから2年目。
 去年は病院から見える砂浜に屋台の明かりが連なり、家族連れや浴衣を来た女の子がゾロゾロと歩いているのが見えた。窓を開けると下駄の音と楽しげな喧騒が聞こえた。
 すぐにその明かりは滲んで見えづらくなり、すぐに逃げ出した。別棟の内科休憩室に逃げ込み。興味もない糖尿病予防のパンフレットを読んだ。
 すぐに腹の底に響く花火の衝撃が届いてきてうとましく思った。祐のせいで今年もこの季節が来た事を認識した。ようつべで見るお祭りはだんじりを引っ張り回したり、全力疾走してお宮に駆け込んだり、裸で暴れまわったり。
 自分がやりたいかと言えばそうではないものもあるが、しないのと出来ないのでは絶望的な差がある。去年と違って今年は知識の備えがある。
 少年は逃げ場所を模索し始めた。レントゲンの操作室は施錠されているけど撮影室は施錠されていないと思い至った少年は毛布を抱えて病室を出た。
 消灯時間に病室に居なければバレてしまうが知ったこっちゃない。今夜一晩凌ぐつもりだった。
 しかし、病室のドアを開けた瞬間白装束の人が立っていた。しばし呆然としていると、その人物が腕と足をシュバシュバと動かしてシャキーンと決めた。
「お祭りホワイト!」
 その声には普通に聞き覚えがあった。
「あー……えと、あの、祐だよね」
「ヒロではない! ヒーローだ! お前を救いにきた!」
「いや、何がしたいのかぜんっぜんわからんのやけど」
「黙ってついてこい、花火みたないんか!」
そう言って背後から車イスを出してガシャンと広げた。
 想定外すぎる事態に少年は考えた。コイツほんまモンのアホやないけ。ヒーローて。お前はヒロやん。そこまで考えた所で不意に涙が溢れてきた。
 ヒーローは胸元を掴むとバサッっと白装束を脱いだ。ピンク基調の浴衣を着ている。その時のたこ焼きの味は忘れていない。
 婦長が担当医を組伏せてヒロに協力していたのもなんとなく知っていたけど
知らないふりをすることでなんとなく大人の気分を味わった。

 今年一番の風が吹いた。俺は当時のヒロと同じ年齢になった。
そろそろ未練を絶たないと転生出来そうもない。

46:この名無しがすごい!
20/02/27 00:59:34 1DnGzrFo.net
今回のお題ひどくね?

47:この名無しがすごい!
20/02/27 01:02:02 1DnGzrFo.net
12歳の少年が入院

48:この名無しがすごい!
20/02/27 01:02:35 1DnGzrFo.net
俺の文の方が酷い

49:この名無しがすごい!
20/02/27 01:13:35 1DnGzrFo.net
あのなおっさん
そんだけ縛ったら構造がややこしなるのわかってるやろ

50:ぷぅぎゃああああああ
20/02/27 01:30:08.80 k+ChFG7O.net
第五十三回ワイスレ杯参加作品
>>10
>>21
>24
>28
>30
>37
>39
>41
只今、八作品!(`―ω―´)

51:この名無しがすごい!
20/02/27 02:13:46.45 YHJxQ54z.net
 二月半ば。暦では立春を過ぎたとはいえ、昨日まで寒々しい日々が続いていた。
 ところが今日は一転、暖かな陽気となった。点けっぱなしのテレビから『春一番ですね』などという声が流れる。
 パジャマ姿の男の子は、横になっていたベッドから立ち上がる。テレビにさしたる関心も示さず、窓の外を見た。むすっとした顔付に、倦んだ眼をしている。
 男の子は三日前に高熱を発した。そこで母親と病院に行ったところ、インフルエンザと診断されてしまったのである。それからずっと自宅療養を強いられている。
 換気の為に開けた窓から風が吹き込む。同時に、通りを歩く親子連れの声が入ってくる。お祭りに向かうかのような、華やいだ声音だ。男の子は唇を引き結んだ。
 男の子は彼らがどこに向かうかを知っていた。近くにある大型商業施設で今日、ワイレンジャーのヒーローショーがあるのだ。
 男の子は一月も前から、テレビの向こうにいるヒーローたちを生で見られるのだと、楽しみにしていたのだ。それが、インフルエンザによって全て台無しになってしまった。
 今朝はもう熱も下がっていたので、男の子は頻りに母親にヒーローショーに連れて行ってくれるようせがんだ。
 が、母親はにべもなく却下した。熱が下がっても、暫くは人に感染


52:ウせてしまう恐れがあるのだから、仕方のないことだった。  母親は大人しく休むよう男の子に命じると、買い物に出かけてしまった。だから男の子はただ窓の外を睨むことしか出来ない。目尻から涙が零れ落ちた。 「えっ」  男の子は辛そうな表情を一転、驚きの表情を浮かべる。  通りに、何度も振り返りながら疾走する人物がいた。全身真っ赤なコスチュームを着た、その姿。 「ワイレッド!?」  男の子とヒーローの視線が合う。ヒーローは一瞬迷うように頭を振ったが、直後意を決したように男の子に向かって走り出した。 「トウ!」  掛け声と共に縦樋や室外機を足場にして、男の子のいる二階の窓に張り付く。 「君、お邪魔してもいいだろうか?」  男の子は目を白黒する。 「えっと、会いに来てくれたの? ここ一月いい子にしてたから?」 「あ、ああ! そうとも。君がいい子にしていたから、そのご褒美だ!」  ヒーローは力強く頷くと、窓から室内に入る。タン、シャっと窓、カーテンを閉め切った。  男の子は不審そうに首を傾げる。 「今日の訪問は、本当に特別対応だからね。他の子供達には内緒なんだ。他の子たちが、君のことを狡いと思ってしまうかもしれない」  成程と、男の子は頷く。 「親御さんは?」 「買い物だよ」 「そうか……」  ヒーローは室内に視線を巡らせると、置きっぱなしになったアイス枕に目を留める。 「察するに、風邪をひいてショーを見に行けなくなった、そういうことかな?」 「知ってて、会いに来てくれたんじゃないの?」 「ああいや、いい子の魂の悲鳴を聞いて駆け付けたのさ」 「そうなんだ。すごい」  男の子は流石はヒーローだ、と感動した。 「ショーが始まるまでだが、お話をしようじゃないか」  男の子は興奮に顔を赤らめる。憧れのヒーローと二人きりで話せるというのだから、当然のことであった。 「何でも聞いてくれ給え」 「えっと、その……」  男の子は何を聞いたものかと、あたふたする。ヒーローは優しげに促す。 「ほら、何でもいいんだ」  おずおずと男の子は話し出す。 「ぼ、僕も、大きくなったらヒーローになれますか?」  そこまで口にして、男の子は俯いてしまう。 「僕、運動が苦手だし、すぐ病気になっちゃうし……」  遮るように、ヒーローは男の子の頭を撫でた。 「関係ない。ヒーローに必要なのは、正義の心だ。それを失わなければ、ヒーローになれるさ!」 「本当?」 「ああ! 大きくなったら、一緒に悪者をやっつけよう!」 「うん!」  よし! とヒーローは頷くと、そっとカーテンを捲り外の様子を窺う。 「大丈夫そうかな……時間だ! さらばだ、少年!」  ヒーローは二階の窓から地上に下りると、颯爽と駆けて行った。  ヒーローとの出会いから三日、男の子はすっかり元気になった。  リビングで、もりもりと朝食を食べる。 「今朝はよく食べるのね?」  母親がびっくりすると、男の子は明るく笑む。 「早く大きくなって、ヒーローになるんだ! 悪者をやっつけなくちゃ!」  そう口にした、男の子の斜向かいのテレビからニュースが流れる。 『ヒーローショーの演者に扮し、更衣室に忍び込み金品を盗んだ男ですが、インフルエンザに罹り自宅で寝込んでいたところを警官に捕らえられました』



53:この名無しがすごい!
20/02/27 02:19:00.68 YHJxQ54z.net
>>47
失礼しました
第五十三回ワイスレ杯参加作品です

54:第五十三回ワイスレ杯参加作品
20/02/27 03:16:26 6Q85zzTX.net
 三寒四温が繰りく返す初春。少女は少しだけ気の早い薄着で、公園を訪れていた。
『やあ、久し振りだね。僕がいない間も元気にしていたかな?』
 男の声に、少女はベンチに目を向ける。ベンチには金髪のウェーブが掛かった髪をした美青年が、偉そうに足を組んで座っていた。顔立ちは目鼻がくっきりしていて彫が深く、金の装飾のあしらわれた派手な洋服を身に纏っている。
『ここまで来るのは大変だったよ。この国の道は、カトレアヌが通るには人が多過ぎてね』
 そう言って男は、傍らの白馬の身体をそっと撫でる。少女は顔を赤らめ、その男へと近づいた。
「お久し振りです、リチャード・バクルノス・ウォルデア・モンタギュー=ダグラス=スコット王子……!」
『ははは、リチャードと、そう気軽に読んでくれたまえ。君からそう余所余所しい名で呼ばれたのならば、寂しくて仕方がないよ』
 そう、絶世の美丈夫、リチャード・バクルノス・ナンタラ・カンタラ=ウンターラは、この地球とは異なる異世界ガンダルにあるドルワフノーン王国の第二王子なのだ。なんじゃそら。
 少女はかつて、ひょんな事故によって次元のズレに巻き込まれ、異世界ガンダルへと飛ばされ―俗に言う異世界転移をすることになったのだ。
 頼る相手のいない異世界での彼女を庇護してくれたのは、リチャードであった。リチャードは魔女と疑われて処刑されそうになった少女を命懸けで助けてくれた。
 異世界において、少女にとってリチャードはヒーローであった。本当にヒーローそのもののようで、とにかくこれで一つお題が解消されたのは疑いようのないことであった。
 それからなんやかんやで少女の現代知識を活用することによって王国内で次々と技術革新を起こしたリチャードは、第一王子を差し置いて次期王候補となったばかりに少女諸共暗殺されかけたり、
 異界の巫女としての力に覚醒した少女と共に敵国や強大な魔物と戦ったり、二人で様々な苦難を乗り越えたのだ。
 そうする内に王子と少女の二人は、当然のように恋に落ちていた。
 少女がベンチに歩み寄れば、リチャードは立ち上がる。
「あの……リチャード王子、明日はこの国で、初春の到来を祝う祭りがあるのです。私と一緒に、向かってもらえませんか?」
 少女は王子へと声を掛ける。王子は笑顔で彼女の手を取った。
「君からの誘いを、僕が無下にするわけがなかろう。とても嬉しいよ。君の育った、この国の文化にも関心がある、是非、共に回らせてもらうこととしよう」
「リチャード王子……!」
 そのとき、公園を春一番がビュウと、強く吹き荒れた。少女は驚いたが、この風は丁度よいと考え、妄想に活用することにした。強風が少女に纏わりついて、まるで王子に抱き着かれているようだったのだ。
 リチャード王子は、多感な思春期の少女達の間で人気のライトノベルの、ヒーローであった。少女は彼と自分が恋愛する、夢小説を個人ブログで書き綴るのが趣味であった。
「だ、ダメ、王子様、人の目があるかもしれないのに! そんな、激しい!」
 リチャード王子は少女を抱き締め、そのまま彼女へ深く口付けた。
「ママー、ベンチの前で、一人で悶えている人がいる」
「見ちゃいけませんっ!」
 通りすがりの親子が、少女を目にして失礼なことを口走る。……少女は本当に人の目があることに気が付いて、妄想をふっと散らしてその場に直立した。さっきよりも、ずっと顔が真っ赤になっていた。



 ―三日後、少女は病院のベッドの上にいた。新型のウイルス感染症に羅患したのだ。命に関わりはないとされているが、とにかく鼻水が酷くなる。少女は窓にべったりと張り付き、遠く聞こえる祭り太鼓の音に涙を浮かべる。
「ヘビシュンッ! ああ、王子様と、祭りに向かうつもりだったのにー!」
「ほほ、彼氏さんかい? 最近の若い子は進んどるねえ」
 同室のお婆さんが、彼女へと声を掛ける。
 少女はムスッとした顔で窓から離れ、毛布に包まってベッドに横になった。
 しかしこの少女、転んでもただでは起きない。新型ウイルスは飛沫感染での感染力が弱く、接触感染が多いという話をちらりと耳にしていた。
「ウフフフ、リチャード王子ったら、あのときのキスで私に移してしまったのね」
 少女はにやけ顔でそう呟いた。

55:第五十三回ワイスレ杯参加作品(>>49修正)
20/02/27 03:35:22 6Q85zzTX.net
 三寒四温が繰りく返す初春。少女は少しだけ気の早い薄着で、公園を訪れていた。
『やあ、久し振りだね。僕がいない間も元気にしていたかな?』
 男の声に、少女はベンチに目を向ける。ベンチには金髪のウェーブが掛かった髪をした美青年が、足を組んで座っていた。顔立ちは目鼻がくっきりしていて彫が深く、金の装飾のあしらわれた派手な洋服を身に纏っている。
『ここまで来るのは大変だったよ。この国の道は、カトレアヌが通るには人が多過ぎてね』
 そう言って男は、傍らの白馬の身体をそっと撫でる。少女は顔を赤らめ、その男へと近づいた。
「お久し振りです、リチャード・バクルノス・ウォルデア・モンタギュー=ダグラス=スコット王子……!」
『ははは、リチャードと、そう気軽に読んでくれたまえ。君からそう余所余所しい名で呼ばれたのならば、寂しくて仕方がないよ』
 そう、絶世の美丈夫、リチャード・バクルノス・ナンタラ・カンタラ=ウンターラは、この地球とは異なる異世界ガンダルにあるドルワフノーン王国の第二王子なのだ。
 少女はかつて、ひょんな事故によって次元のズレに巻き込まれ、異世界ガンダルへと飛ばされ―俗に言う異世界転移をすることになったのだ。
 頼る相手のいない異世界での彼女を庇護してくれたのは、リチャードであった。リチャードは魔女と疑われて処刑されそうになった少女を命懸けで助けてくれた。
 それから少女の現代知識によって王国内で次々と技術革新を起こしたリチャードは、第一王子を差し置いて次期王候補となったばかりに少女諸共暗殺されかけたり、異界の巫女の力に覚醒した少女と共に敵国や強大な魔物と戦ったり、二人で様々な苦難を乗り越えたのだ。
 そうする内に王子と少女の二人は、当然のように恋に落ちていた。
 少女がベンチに歩み寄れば、リチャードは立ち上がる。
「あの……リチャード王子、明日はこの国で、初春の到来を祝う祭りがあるのです。私と一緒に、向かってもらえませんか?」
 少女は王子へと声を掛ける。王子は笑顔で彼女の手を取った。
『君からの誘いを、僕が無下にするわけがなかろう。とても嬉しいよ。君の育った、この国の文化にも関心がある、是非、共に回らせてもらうこととしよう』
「リチャード王子……!」
 そのとき、公園を春一番がビュウと、強く吹き荒れた。少女は驚いたが、この風は丁度よいと考え、妄想に活用することにした。強風が少女に纏わりついて、まるで王子に抱き着かれているようだったのだ。
 リチャード王子は、多感な思春期の少女達の間で人気のライトノベルの、ヒーローであった。少女は彼と自分が恋愛する、夢小説を個人ブログで書き綴るのが趣味であった。
「だ、ダメ、王子様、人の目があるかもしれないのに! そんな、激しい!」
 リチャード王子は少女を抱き締め、そのまま彼女へ深く口付けた。
「ママー、ベンチの前で、一人で悶えている人がいる」
「見ちゃいけませんっ!」
 通りすがりの親子が、少女を目にして失礼なことを口走る。……少女は本当に人の目があることに気が付いて、妄想をふっと散らしてその場に直立した。さっきなんかよりも、ずっと顔が真っ赤になっていた。



 ―三日後、少女は病院のベッドの上にいた。新型のウイルス感染症に羅患したのだ。命に関わりはないとされているが、とにかく鼻水が酷くなる。少女は窓にべったりと張り付き、遠く聞こえる祭り太鼓の音に涙を浮かべる。
「ヘビシュンッ! ああ、王子様と、祭りに向かうつもりだったのにー!」
「ほほ、彼氏さんかい? 最近の若い子は進んどるねえ」
 同室のお婆さんが、彼女へと声を掛ける。
 少女はムスッとした顔で窓から離れ、毛布に包まってベッドに横になった。
 しかしこの少女、転んでもただでは起きない。新型ウイルスは飛沫感染での感染力が弱く、接触感染が多いという話をちらりと耳にしていた。
「ウフフフ、リチャード王子ったら、あのときのキスで私に移してしまったのね」
 少女は感染症を妄想のネタに転じて、にやけ顔でそう呟いた。


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