安価・お題で短編小説 ..
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692:この名無しがすごい!
17/11/16 10:30:46.06 7v5kdhlX.net
アナザーバージョンです
使用お題:『人力車』『御令嬢』『嘘』
【戯れ言】(1/2)

「海が見たいわ」
 人力車のシートでそう呟いたお嬢様の言葉に貞吉は渋い表情をした。
 こんな風に突飛な言動をするときは、決まって小説の影響を受けた時だからだ。
 事実、貞吉はその事で幾度となくお嬢様に振り回されて来ていた為、探るように訊ねる。
「……今度は、どんな小説をお読みに成ったんです?」
「ふふっ」
 可憐な笑みを浮かべるお嬢様に、通行人の若い男達の視線が釘付けになった。
 この時ばかりは自分の視線が彼女の方を向いていない事に貞吉は感謝する。
「素敵なお話よ? 令嬢と車引きの身分違いの恋。最後は手に手を取り合って海へと飛び込むの!!」
「……冗談でしょう?」
「ええ、勿論嘘よ」
 からかわれただけと分かり、貞吉が渋面を作る。
「勘弁して下さいよ、お嬢」
「でも、そう言う恋って、素敵じゃない?」
「……自分はごめんですね」
「あら? つまらない人」
 そのお嬢様の言葉に貞吉の表情は更に険しくなるも、お嬢様の方はと言えば、そんな彼の心情を分かってかわからずか、コロコロと鈴を鳴らすような声で笑っていたのだった。


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