安価・お題で短編小説 ..
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583:この名無しがすごい!
17/11/08 02:03:51.42 joFTRLpO.net
使用お題→『英語以外の外国語』『夜道』『月が綺麗ですね』『魔王』『テキーラ・サンライズ』
【枯葉が風で揺れているだけだよ】
「今日は遅くなっちゃったね。女の子一人夜道を帰らすのも危ないから、家まで着いてくよ。君の家も、ここから近かったよね?」
 太陽とバトンタッチして、空を煌々と照らす月。部室の窓から覗く夜空を見て、僕は言った。僕の家も学校から結構近いところにあるので、女の子一人家に送り届けても大したことはない。
「いくら男だとしても、私は多分先輩より強いですよ」
 海月のようにふよふよとポニーテールを揺らしながら、彼女は言った。運動はさっぱりな僕と比べて、彼女は結かなり運動神経が良い。先日の体育祭での活躍っぷりは目を見張るものがあった。
「……それ、地味に男の沽券に関わるから言わないで。あと、こういうのは『複数人でいる』っていう状況が大事なのさ」
「うーん、……じゃあ、お願いします。靴箱で待ってて下さいな。部室の鍵、事務に返してきますから」
 最近よく聞く噂のこともある。僕の言葉に彼女も思い出したらしく、いつになくあっさりと了承された。
 校門を出ると、木々に覆われた街頭の無い道があらわれる。田舎特有の静まり返った闇に、僕自身入学したての頃はおっかなびっくり帰宅したものである。僅かに木々の隙間からは、ほぼ真円な月が覗いている。
「はーっ、月が綺麗ですねぇ」
 突然口走った後輩に、僕は思わず吹き出した。
「えっ、それどういう……」
「……何か勘違いしてませんか。夏目漱石じゃありませんよ、自惚れないでください。全く先輩は……。
 確か先月の今時期が十五夜でしたが、私としてはこの時期くらいの澄んだ空気に浮かぶ月の方が好きですね」
「へー。なんとなくだけど、分かる気がするなぁ。……うーん、でも、僕はそれよりもこの風の音の方が気になるなぁ。『お父さんお父さん、魔王のささやきが聞こえないの?』ってね」
 秋特有の強風に揺られた木々は、葉同士を激しく擦りあわせてざぁざぁという音を立てている。どうにも、魔王が僕たちの魂を浚っていってしまいそうに感じてしまう。
「なんですか、先輩。それ」
「シューベルトの『デア エルルケーニッヒ』さ」
「シューベルト……あぁ! 『魔王』ですね。中学校で習った気がします。っていうか、何語なんですかそれ」
「ドイツ語だよ。シューベルト、オーストリア人だし」
「へー。先輩ってそういう蘊蓄だけはいっぱい知ってますよね。さながら蘊蓄語りの君子、略してうんち君ですね」
「……なんか略に悪意を感じるんだけど、気のせい?」
「ふっふっふ、気のせいですよ」
 彼女はにやにやとした表情で言ってのけた。どうにもこの後輩には口で勝てる気がしない。
「しかし、我々には魔王よりも身近に恐ろしい存在がいるよね。会いたくないなあ、テキーラ・サンセットおじさん」
 最近の専らの噂である、テキーラ・サンセットおじさん。テキーラの瓶片手に日没後この近辺をうろちょろしてるという、結構な厄介者である。息子を探してるんだ、と言って色んな人に絡みまくるらしい。
 うちの高校の女子生徒も数人絡まれたとかで、変質者注意のプリントが先日配られた。
「そうですねぇ。最近は夜明けまで彷徨いてることもあるらしくて、サンライズおじさんの別名があるらしいです」
「うわ、こわい。君結構早い時間に登校するタイプだよね。気を付けなよ」
「先輩は朝遅いから会わないですよねぇ。……気を付けてくださいね、遅刻に!」
 僕は肩をすくめた。
「そうだ。テキーラといえば、僕の父親は結構酒を飲む人でさ。ここのところはテキーラにハマってるみたい。夜中に酔っ払って『魔王』歌いながらコンビニまで酒の買い足しに行くんで、結構困ってるんだよー。休みの日は朝まで飲んでるし」
「先輩、それ」
「ん?」


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