安価・お題で短編小説 ..
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463:この名無しがすごい!
17/11/03 04:14:32.40 81d3JcVj.net
使用お題→『戦闘描写を入れる』『タイムトラベル』『飴』『罠』『わさび』
【鏡】
ふと目をやると彼がいた。彼は拙者に
「ありきたりだ。毎日同じ話を聞くと言われるだろうが,私はいわゆるタイムトラベラーだ。」
こう言ったのである。そんな大それたことをほんの刹那のタメもなく,開口一発はなつのだ。あまりのばかばかしさに拙者は不信感や嫌悪感ではなく,まるで情熱的なアロマを纏うコーヒーを口にした瞬間のような,好意の香る興味をそそられた。
彼は続いて問う「証明の必要が?」
これはまた陳腐な舞台のセリフのようである。拙者は何か彼の失敗をつく核心的な質問を投げかけてやろうとあれこれ頭を巡らせた。
風貌では彼が過去から来たのか,はたまた未来から来たのかさっぱりわからない。服という概念がないのだろうか裸に見える。こういうスーツが流行っているのだろうか。そうこうしているうちにふと彼の手に何かあることに気が付いた。
拙者は彼に気取られぬよう細心の注意を払いそこに視線を移す。なにしろ心の準備というか返答を考えられては,彼の虚をつくことができないからだ。
「わさびだよ。」
彼に視線が盗まれていた,いや,考えを見透かされていたのかもしれない。彼の手にあるのはワサビなどではない。この男がいかに偏屈であろうが,いつなる時代からここに来ようが手にワサビを持っていようはずがないだろう。まず服を着たらどうだ。
拙者が視界にとらえたのは棒付きの大きなキャンディ。渦巻き状のめったに実生活で見ない絵文字なんかの飴である。こいつはしめたと,策を講じたところだったのだ。
その手にあるものは何か尋ねて,返答が何であれ昔はワサビと呼んでいたと返して反応を見ようと思っていた。拙者の稚拙な罠はいとも簡単にその全貌を暴かれ,同時にワサビというへんとうによって拙者を屈服させてきたのである。彼のなんと賢いことかと感心するのもつかの間。
「私のことが好きだろう。だが嫌いなところもあるようだね?」
と今度は心ここにあらずといった様子で話す。
どういうことだ,拙者は確かに彼が好きだ。なぜそれを彼が知っているのかも,なぜ口にするのかもわからない。完全にからかわれている。真面目に話しているのなら服を着たらどうなんだ。
拙者は彼に嫌いなところがあるのか自問したが思い当たらない。
なんのことを言っているのかわからないが,拙者は得も言われぬ怒りの衝動に震え,彼に手を挙げてしまった。
瞬間彼も拙者に手を挙げたがどちらが勝るともなく大きな衝撃を覚えた。
拙者の手には血がべったりと絡みついている。急いで腋を閉め防御の態勢をとりつつ彼の動きを追う。視界に入った彼の足にはなにかこう粘性のある液体がこびりついている。
彼もまた血を流しているようだ。拙者は血でぬるぬるするそのこぶしの中に小さな木の棒を持っている。これが彼を傷つけたのだろうか。
「躊躇してはいけない,息の根を止めるつもりだけじゃまた同じ繰り返しじゃないか。私は過去から来たんだ。君をよく知ってる」彼は偉そうに言っているが全身で怯え,震えている。
彼の足元には鋭利なキラキラしたものが無秩序に散らばり,彼の足元の血はそれによる負傷だろう。拙者は怖くなり,彼の存在を今すぐに消さなければと必死に何度も何度も殴った。
次第に私は意識を失いつつ,いつもの風呂場の鏡の中にほんの一瞬前の自分を見た。
「ああ,それもタイムトラベルに違いないな」私はそう呟きながらこの世を後にした。


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