安価・お題で短編小説 ..
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17/10/31 20:26:06.13 +LyVpub+.net
使用お題:『ああああ』『自動販売機』
【扇風機の多様化に関する考察】

「ああああー。ああああー」
「……育人さん何をしてるんです?」
 部屋に入った時、私は見てはいけないものを見た気がしました。
 そのまま回れ右で帰りたくなりましたが、事実は事実として受け止めなければいけません。簡潔に言いましょう。
 一人きりで、扇風機に向って『あー』と大きく口を開けている育人さんを見ました。
「やあ、まひるちゃん。見てのとおりだよ」
 いくら私が動揺していても、それが無条件で他人に伝わることはありません。
 育人さんはいつも通りの可愛らしい笑顔を私に向けてきました。
 ……状況を整理しましょう。
 私と育人さんは家族ぐるみで付き合いがあります。
 だから今日もおばさんに家へ上げてもらえました。それがわかっているから、こうして部屋のドアを開けても、育人さんが驚くわけはありません。
 ですが、この奇行を見られてもなお普通にしている訳はなんなのでしょうか。
 大体、私はノックをしました。『どうぞ』という声が聞こえたからドアを開けたんです。
 つまり、『どうぞ』から私がドアを開けるまでの間に、『あー』を始めたということですよね。
 ……ええと、つまりはどういうことですか。
 ……本人に聞く他ありませんね。
「どういうことですか?」
「? 扇風機に向ってああああーってしてたんだよ? もう扇風機も片付けるから最後にと思って」
 なるほど。意味がわかりません。
 ただ、一つわかった事があります。
 私が奇行と思っているこの『あー』とする行為、育人さんは何ら不思議に思っていないということです。
 正直なところ、何かの間違いと思って今日は帰りたいです。
 ですが、私は自販機で余分に出た当たりのジュースを持て余してしまったために、今日はここに来ました。
 来たばかりで帰るのもなんですし、せめてその用事くらいは済ませたいのですが……どうしたものでしょうか。
「まひるちゃんもやってみる?」
「え。私もですか」
「うん」
 育人さんは屈託のない笑顔です。その展開は予想していませんでした。
 ひどく喉が渇いた気がします。ちょうどジュースが二本ありますし、一本だけ飲んでしまいましょう。
「ふう。私に、その、『あー』というのをやれと。育人さんはそう言いましたか?」
 喉が潤って頭も冷えたことですし、もう一度確認します。人間、何かの間違いというのは往々にしてあるものです。
「うん。たまにやると面白いものだよ」
 今回に限って間違いはありませんでした。
「……わかりました」


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