安価・お題で短編小説 ..
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150:この名無しがすごい!
17/10/25 01:36:24.09 T9JVknLn.net
 私はゴリラだ。
 ―いや違う。わたしは人間だ。日本の女子高生だ。
 なぜか異世界に喚ばれ、神様に死に戻りのスキルだけを持たされて魔王を倒す旅に出ている、ただの女子高生だ。
 ようやく魔王のいる城に辿り着き。最後の扉の前にわたしは立っている。
 この世界に来て半年。死んだ回数はちょうど三十回になる。
 死ぬときはすごく痛いし、恐かったけど、十回を超えたあたりから慣れてきた。
 ……今、わたしが恐怖を感じているのは生き返ることだ。
 五回ほど死に戻りした時に、体毛が濃くなっていることに気付いた。
 十回目に、あれだけ苦労していたゴブリンを一撃で殴り殺せた。力が強くなっていること気付いた。
 二十回目、バナナが無性に恋しくなった。
 私はゴリラだ。―いや、わたしは人間だ!
 恐い、恐い、恐い、恐い。
 死に戻りをする度に、体がゴリラに近付いてくる。
 死に戻りをする度に、声が聞こえてくる。
 非力な人間では魔王に勝てない、お前はゴリラだ。ゴリラの腕力と人間の知性を持った存在だ、と。
 違う、わたしは人間だ!
 ……二十五回目の死に戻りを経た時から、わたしは人と会うルートを極力避けるようにした。
 彼らのわたしを見る目が、徐々に変わってきていることに気付いたからだ。
 魔物は恐くない。
 あいつらのわたしを見る目は変わらないし、今ではトロルだろうと一発殴れば倒せる。
「恐いのは私だ……」
 よかった、まだ喋れる。
 恐ろしい。
 ゴリラなんかになりたくない。
 誰か、助けて。
 わたしを、人間でいさせて。
「もう、鏡を見ることもできないよ……」
 三十回目の今回、わたしは猛烈に嫌な予感がして持っていた手鏡を捨てた。
 腕が黒いのなんて気のせい。
 指が太いのなんて気のせい。
 わたしは人間。ただの女子高生。
 きっと、魔王を倒したら、何かもが元通り。
 明日にはゴリラがどうとかなんて忘れて、友達とカラオケにでも行って笑ってるんだ。
 だから頭の中で叫ぶのはやめて。
 わたしは人間、ゴリラじゃない。
 違う、違う、違う、違う! 待って、まだその扉を開けないで!
 わたしは人間、それを、ちゃんと胸に刻ませて!
 ―――
 ―……
 ……
「ほう、よくここまで来れたものだ。名前を聞こうか、異世界からの来訪者よ」
「……私は、ゴリラだ」


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