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4:名無しさん@お腹いっぱい。
12/02/21 00:57:40.01 HSAnjqrA
  落下傘   金子光晴

   一

  落下傘がひらく。
 じゆつなげに、
 旋花のやうに、しをれもつれて。
 青天にひとり泛びただよふ。
 なんといふこの淋しさだ。
 雹や
 雷の
 かたまる雲。
 月や虹の映る天体を
 ながれるパラソルの
 なんといふたよりなさだ。
 だが、どこへゆくのだ。
 どこへゆきつくのだ。
 おちこんでゆくこの速さは
 なにごとだ。
 なんのあやまちだ。

    二
 
  この足のしたにあるのはどこだ。
 ……わたしの祖国!
 さいはひなるかな。わたしはあそこで生れた。
  戦捷の国。
 父祖のむかしから
 女たちの貞淑な国。
 もみ殻や、魚の骨。
 ひもじいときに微笑む
 躾。
 さむいなりふり
 有情な風物。
  あそこには、なによりわたしの言葉がすつかり通じ、かほ   いろの底の意味までわかりあふ、
  額の狭い、つきつめた眼光、肩骨のとがつた、  なつかしい朋党達がゐる。
  「もののふの
  たのみあるなかの
  酒宴かな。」
 洪水のなかの電柱。
 草ぶきの廂にも
 ゆれる日の丸。
 さくらしぐれ。
 石理あたらしい
 忠魂碑。
 義理人情の並ぶ家庇。
 盆栽。
 おきものの冨士。


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