無口な女の子とやっちゃうエロSS 3回目 at EROPARO
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637:名無しさん@ピンキー
07/12/29 23:41:39 6yfRr6+T
>>635
> 大きくは無いが先端を咥えると切ない声が―
まで読んだ。

続きマダーーーー?

638:名無しさん@ピンキー
07/12/30 01:40:40 L8HRU77b
>>635
「・・・まだ・・・?」
中途半端は無口少女も怒るでよ。

では質問。無口少女が主人公(朴念仁)に愛の告白をする時の理想の一言(or行動)とは?

639:名無しさん@ピンキー
07/12/30 02:06:42 NcOzScRt
>>638
「私を……お嫁に……して……」

640:名無しさん@ピンキー
07/12/30 09:19:41 yOxEPRvc
逆レ一択

641:名無しさん@ピンキー
07/12/30 14:06:27 mtTkebHC
>>638
男の部屋で二人っきりのときにベッドに並んで腰掛け、
世間話の途中で急に男の手の上に自分のを重ねて上目遣いで一言、

「……しよ?」

642:名無しさん@ピンキー
07/12/30 14:18:45 7rbtdTcE
>>638
無言で背中に抱きつき、耳元でそっと、顔を真っ赤にしながら

「…………………好き」

643:名無しさん@ピンキー
07/12/30 16:26:36 EBLXaUm9
>>638
裸で後ろから抱きつくとか
目の前で服を脱いで抱きつくとか
寝ている布団に裸で忍び込むとか

無口なだけに突然、突飛な行動に走りやすかったりして

644:名無しさん@ピンキー
07/12/30 17:39:47 hPZBzX6/
目が覚めた。
どうやらいつの間にか眠っていたらしい。
「・・・・・・・・・おはよう」
聞きなれたか細い声がした。そちらへ目を向けると、
春の優しい日差しに照らされた見慣れた彼女の顔と、真っ青な空。
そこで男は自分が膝枕をされている事に気が付いた。
「・・・・・・おはよう」
恥かしくなって起き上がろうとしたが、彼女の手が男の頭を
幸せそうに撫でているので起き上がる事が出来ない。
しばらく彼女の好きなままにしていると、ボソリと呟く。
「・・・・・・時間・・・・・・止まればいいのに・・・・・・」
「・・・・・・そーだな」
彼女の顔が近づく。男は彼女を受け入れ、唇が重なった。
そんな春の一時。


季節感豚切りスマソ

645:かおるさとー ◆F7/9W.nqNY
07/12/30 23:01:52 krJDweVi
『後輩サンタとクリスマスと』



 緑野純一(みどりのじゅんいち)がその娘に初めて出会ったのは一年前のことである。
 イブの夜、彼女もいない彼はバイト帰りの道を寂しく歩いていた。
 空には紅い満月が昇っていて、なんとはなしにそれを眺めていた。
 そのとき、視界に妙なものが入ってきた。
 それは、民家の屋根を次から次へと跳び移っていく人影だった。
 始めはいまいち認識できていなかったが、それに気付くと純一はあまりの出来事に固まってしまった。
 アニメの忍者じゃあるまいに、そんな芸当のできる人間がいるわけがないと思ってしまったこともある。
 するとその人影が、こちらにだんだんと近付いてきた。
 人影はあっという間に頭上の電線に辿り着いた。やがて呆然となる純一の目の前に音もなく降り立つ。
 随分可愛らしいサンタだと思った。
 人影は小さな女の子だった。サンタの格好をして、手にはなぜか大きな紙袋を抱えていた。
 女の子のサンタコスならミニスカであってほしいところだが、つなぎだった。露出度の低い暖かそうな服。
「…………」
 彼は突然の遭遇に声も出なかった。
 少女は無言で紙袋に右手を突っ込み、何かを取り出す。
 そして、それをこちらに差し出してきた。
「……?」
 見ると、それは店でケーキやなんかを入れるための、小さな紙箱だった。
 純一はしばらくそれを見つめていたが、念押しするようにさらに突き出してくる様子に押されておずおずと受け取った。
 少女はそれを確認するとにこりと微笑んだ。
 純一は思わずドキッとした。
 少女は背を向けるとそのまま道を駆けて行った。走るというよりはふわふわ浮くような、そんな軽やかさだった。

 家に帰って箱を開けてみると、いちごのショートケーキが入っていた。
 手作りらしきそれは、程よい甘さで美味だった。


 半年後、純一はその少女と再会した。
 時間潰しに行った学校の図書室で、静かに読書しているのを見掛けたのだ。
 校章の色から一年生であることがわかったが、はたと困ってしまった。半年前のことをどうやって訊けばいいのかわからなかったのだ。
 元々そんなに女子と親しくしているわけじゃないので、どう切り出せばいいのかもよくわからない。ひょっとしたら自分のことなど忘れているかもしれない。
 どう話しかけようか迷っていると、少女は立ち上がって奥の本棚へと向かっていった。
 純一はそろそろとあとをついていったが、そのままだったら間違いなく不審者扱いされていたに違いない。
 だが幸いなことに、直後に起きた出来事によってそうはならなかった。いや、幸いではなかったが。
 突然、目の前の風景が揺れた。
 眩暈ではなかった。次の瞬間、大きな震動が世界を揺さぶった。
 悲鳴が図書館に響いた。唐突に起きた大きな地震に、誰もが混乱した。
 純一自身そうなりそうな状態で前を見ると、例の少女は大きな本棚と本棚の間で座り込んでしまっていた。
 分厚い専門書ばかり並んでいる区画だった。純一は思わず少女に向かって駆け出していた。
 少女に覆い被さるように跳び込んだ瞬間、背中にハードカバーの本が無数に降ってきた。
 鈍い衝撃が背中を、脚を、時折頭を打つ中、純一は不思議と少女の身だけを案じていた。
 やがて揺れが収まると、慌てて下の少女に無事かどうか確認する。
「だ、大丈夫か?」
「……は、はい」
 何が起こったのかわかってない様子で、きょとんと見上げてくる少女。
 その距離はあまりにも近く、半年前と同じように胸がときめいてしまった。
 少女はゆっくり下から這い出ると、不安気な声で囁いた。
「あの……大丈夫……ですか?」
「……何が?」
「……本、たくさん落ちてきました」
 言われて、ようやく純一は身体中の痛みを自覚した。

646:かおるさとー ◆F7/9W.nqNY
07/12/30 23:04:46 krJDweVi
 本の角が背中や腰、太股やふくらはぎを突き刺すように打ったので、妙に痛みが深い。
 少女が無事で安心したためだろうか、一気に痛みが激しくなった。顔を歪めて悶絶する純一に少女が慌てた声を出す。
「あ、あの、保健室に」
 少女が肩を貸してくる。
 少し気恥ずかしかったが、余裕のない純一は素直にその肩に手を回した。
 間近で感じた彼女の匂いは、微かに甘かった。


 その日以来、純一はその娘―後羽由芽(あとばゆめ)とよく話すようになった。
 彼女は純一に負い目を感じるのか(打撲ばかりでたいしたことはなかったのだが)いつも口数少なくおとなしかった。
 それでも純一は気にしなかった。おとなしい娘の方がタイプだったし、彼女は言葉少なくても、気配りのできる優しい娘だったからだ。
 だが、あのイブの夜のことだけはどうしても訊けなかった。

      ◇  ◇  ◇

「クリスマス?」
 昼休みの食堂内、橋本風見(はしもとかざみ)は弁当をつつく箸を止めて顔を上げた。
 対面の席に座っている幼馴染みの甘利紗枝(あまりさえ)は、ん、と頷き、温かいお茶を静かに飲む。
 風見は微かに胸が高鳴るのを自覚しながら、紗枝に笑いかけた。
「今年もまたお互い相手なしか……」
 二週間後に迫ったクリスマスイブだが、生まれてこの方一度も彼女と過ごしたことがない。というか、彼女がいたことがない。
 だが、それを寂しいと感じたことはなかった。
「……」
 紗枝は目を細めて風見を睨む。
「怒るなよ。ちゃんとプレゼント用意するし、また一緒に家でケーキ食べよう」
「……」
 紗枝の顔が無表情に戻る。わかりやすい反応だ。
 こんな風にわかりやすい反応を見せるのは珍しいと思う。それほどイブに執心なのか。
 ちょっとだけ、風見は嬉しくなった。
「紗枝も用意してくれる? プレゼント」
 頷く紗枝。
「楽しみだな。去年はセーターだったよね」
「……」
「わかってるよ。当日まで中身は内緒だろ」
「……」
 寂しいなんて思うわけがない。
 一番大切な幼馴染みが今年も一緒にいてくれるのだから。


「で、そのために今日もバイトか」
 バイトの帰り道、風見がイブの約束のことを話すと、同級生でバイト仲間の緑野純一はねめるようにこちらを見つめた。
「付き合ってるわけじゃないんだよな、甘利とは」
「うん」
「なのにプレゼントは毎年贈っている、と」
「誕生日もね」
「……」
 純一は小さく唸る。

647:かおるさとー ◆F7/9W.nqNY
07/12/30 23:07:11 krJDweVi
「それはどういう関係なんだ?」
「だから幼馴染みだって」
「いや、俺にも幼馴染みくらいいるけど、そんなこと一度だってやったことないぞ。まあ、そんな親しくもないからだろうけど」
「……」
 風見は口を閉ざした。
「あー、気にするなよ? 別に変って言ってるわけじゃないんだ。ただ、羨ましいなって」
「?」
「いいイブになりそうじゃねえか。俺はなんにもない」
「ミドリは彼女とかいないの?」
「てめえ、ちゃんと聞いとけよ。なんにもないってことはなんにもないってことなんだよ」
「……ごめん」
「謝るな! さらに腹立つわ」
 純一はがなったが、別に怒った様子でもなかった。「まあ、楽しめよ。いつだって仲のいい相手がいるってのはいいことだと思うからよ」
 緑野純一とはこういう奴なのだ。言葉や行動は一見乱暴だが、誠実で真摯だ。
 だからその言葉も茶化しは一切なかった。
「ありがとう」
 風見は素直に礼を言った。純一はああ、と軽く頷く。
 小さく息を吐くと、白い湯気が目の前の空間を満たし、すぐに消える。
 イブには雪が降るかもしれないという。それはとても綺麗だが、大変そうでもあった。
「なあ、変なこと訊いていいか」
 不意に純一が言った。頷いて寄越すと、ややためらうような素振りを見せた。
「何?」
「あ、いや……お前、サンタって信じる?」
「どのサンタ?」
「どのって、」
「公認サンタは実際にいるから、信じるも信じないもない。けど、トナカイの引くソリに乗って空を飛ぶサンタとなると、信じないかな」
「公認サンタ?」
「いるんだよそういうのが。で、なんでそんな質問を?」
「いや……」
 純一はまた言い淀む。
「いいから言ってみなよ」
 風見が促すと彼は一つ頷き、言った。
「……知り合いの女の子がサンタだったら、お前どうする?」
「……は?」


 純一が言うには、去年のイブの夜にサンタに会ったらしい。
 そのサンタは小さな女の子で、しかも学校の後輩だったという。
 ソリもトナカイも持たないサンタは、屋根から屋根へと跳び移って民家を回っていたそうだ。
 眉唾ものだと思ったが、純一が嘘をつくとも思えない。
 そのことを冴恵(さえ)に話すと、彼女は思い出したように言った。
「それって、クリスちゃんですよ」
 ひょんなことから風見に仕えることになったエプロン精霊は、懐かしそうに目を細めた。
「……クリスちゃん?」
 クリスチャンでもクリス・チャン・リーでもなさそうなので訊いてみる。
「はい、『クリスマス』って名前の精霊だったと思います。昔、前のご主人様にお仕えしていたときに会ったことがあります」
「……精霊?」
「私がエプロンについてるのと同じで、確かその子はサンタ服についているんですよ。で、クリスマスになるといろんな人たちにケーキを配るんです」
「……」
「無口な子でした。けど、とてもいい子でしたよ。ケーキ美味しかったですし」
「……じゃあ、その女の子も?」
「心当たりがそれしかないのではっきりとは言えませんけど、おそらく」
「……」
 風見は頭をかいた。まさかこのエプロンメイドと似たような存在が他にもいたとは。
 とはいえ、それを純一にそのまま伝えるかどうかは悩みどころである。いくらなんでも信じてはもらえないだろう。

648:かおるさとー ◆F7/9W.nqNY
07/12/30 23:10:05 krJDweVi
「……」
 風見はキッチンに立つ冴恵の姿を見やる。エプロン精霊は鼻唄と共に、皿洗いにいそしんでいる。
 その姿はどこからどう見ても、幼馴染みの甘利紗枝のものだった。
 今でも時折疑って見てしまう。これは紗枝の演技なのではないかと。
 エプロンを介して紗枝の体に乗り移っているのだと冴恵は言う。だが『冴恵』などという人格は最初から存在せず、甘利紗枝は甘利紗枝でしかないのではないか。そんな疑念はいつまでも晴れない。
「……」
 風見はソファーに寝転がり、ゆっくりと目を閉じた。
 エプロンメイドもコスプレサンタも別に誰かに迷惑をかけているわけじゃない。演技かどうかもひょっとしたら些細なことなのかもしれない。
 世の中にちょっとだけ混じる不思議な味。
(ま、害はないしね)
 そんなスパイスがあっても構わないだろう。風見にとって、冴恵も日常の大切なピースの一つだから。
「風見さま? そんなところではなく、きちんとベッドでお休み下さい。イブの前に体調を崩されては、紗枝さんも残念がります」
 風見は目を開けて体を起こした。覗き込んでくる冴恵を複雑な気持ちで見やる。その姿でそんな心配されても。
「……そうだね。きちんと部屋で寝るよ」
「歯磨きもお忘れなく」
 小学生かと風見は苦笑した。

      ◇  ◇  ◇

 クリスマスイブまであと十日。
 その日の放課後、純一は由芽に会うために、下駄箱前で彼女が来るのを待っていた。
 しばらくして、由芽が姿を現した。後ろには友達もいる。
「あ……」
 由芽がこちらに気付いて、小さな声を漏らした。この少女は純一を見るといつもこんな申し訳なさそうな顔をする。
「ん? どしたの」
 後ろの友達が由芽に尋ねる。こちらを一瞬胡散臭そうに見たのは気のせいだろうか。
「ううん……なんでもない。こんにちは、緑野先輩」
「ああ、後羽」
 二人が挨拶を交わすと、その友達が怪訝な顔で由芽を凝視した。
「この人、由芽の何?」
「え? ……あの、地震のときに私を助けてくれて、その、」
「半年前の?」
「う、うん」
 すると今度は純一の顔をじー、と見つめてくる。
「な、何?」
「……なるほど」
 友達は合点がいったのか、うんうんと頷いた。
「由芽、あんた男の趣味悪くないと思うな。私の趣味とは違うけど」
「い、糸乃(いとの)」
 声を上げる由芽に糸乃と呼ばれた友達はからからと笑った。
「んじゃ私、先帰るね」
「え、ちょ、」
「先輩と仲良く頑張れー」
 友達は謎のエールを残してそのまま足早に去っていった。
「……もうっ」
 困ったように頬を膨らませる由芽。その様子が純一には新鮮だった。
「楽しい友達だな」
「ご、ごめんなさい。糸乃が失礼なことばかり言って」
「いや、いいよ。それより、その、一緒に帰っていいか?」
 由芽はそれを聞いて目をぱちくりとさせた。
「は、はい、もちろん」
 知り合って半年。初めてのことに少々戸惑っているようだった。
 由芽がスリッパから外靴に履き替えるのを待って、純一は彼女の隣に並ぶ。

649:かおるさとー ◆F7/9W.nqNY
07/12/30 23:11:42 krJDweVi
「……」
 純一は小柄な後輩を眺めやり、それから思案した。
 彼女は去年『あんなこと』をしていたが、今年はどうなのだろう。
 もし今年もサンタの真似事をするなら、イブに暇などないだろう。
 イブの日にデートやなんかの約束を申し出ても断られるかもしれない。
「……」
 不安が胸を覆う。
 いや、駄目元で言ってみるのもアリだ。言うだけならタダだし、たとえ断られても由芽はその程度で壁を作る娘じゃない。……多分。
 純一は意を決すると、校門を出たところで由芽に向き直った。
「あ、後羽」
「……え? ……あ、は、はい」
 考え事をしていたのか、由芽はどこかぼんやりしていた。
 純一は言った。
「イブの日、暇あるかな?」
「え?」
「その、時間あったら、俺に付き合ってほしいんだけど……」
「……」
 由芽は目をしばたく。
「あ……どうかな」
「……イブは……ダメです」
「……やっぱダメ?」
 急すぎたか、それとも今年も『する』のか。疑念が膨らむ。
「彼氏と約束とかあるのか?」
「そ、そんなのいませんっ」
 大きな声で否定する由芽。我に返ったのか、途端に縮こまる。
「そんなの……いませんよ」
 呟く様子はどこか寂しそうだ。
 やっぱり言わない方がよかったか、と純一は少し後悔した。
「悪い。急に変なこと言ってごめんな」
「……ち、違います……先輩は別に……」
 互いに言って、互いに黙り込む。
「……」
「……」
 二人は黙りこくったまま歩く。
 微妙な空気を作ってしまったことに、純一はいっそう後悔を深める。
 元々おとなしい娘だからあまり会話がないのは仕方ないかもしれない。しかし今の気まずい空気は純一のせいなので、どうにも心苦しかった。
 そのとき、由芽がぽつりと呟いた。
「クリスマスなら……」
「え?」
「イブじゃなくてクリスマスなら……空いてます、時間」
 その申し出に、純一は一瞬呆けた。
「あの、先輩?」
「あ、いや、……空いてる?」
「はい、クリスマスなら」
「じゃあその日に」
 よかった、と純一はほっとした。同時に内心でガッツポーズを決める。
「あの、これって……デートのお誘い……ですよね」
「あ、ああ、うん」
 由芽はそれを聞くと顔を伏せた。まるで顔を見られたくないような素振りだった。
 やがておもむろに顔を上げると、柔らかく微笑んで言った。
「楽しみに……待ってます」
 純一はその笑顔に思わず固まりそうになり、反射的に顔をそらした。気恥ずかしさの熱に、髪の毛の先まで真っ赤になってしまいそうだった。
 そこで考える。クリスマスなのだからプレゼントが必要だ。女の子に贈るプレゼントはどういうものがいいのか。
 横でにこやかに微笑む彼女を見ていると、いいかげんには考えられなかった。

650:かおるさとー ◆F7/9W.nqNY
07/12/30 23:14:33 krJDweVi
 クリスマスイブ。
 純一は風見とともに夕方の街に来ていた。
 目的は風見のアドバイスを受けてのプレゼント購入だ。毎年幼馴染みの女の子にプレゼントを買っているという風見なら、そのあたりの具合というか案配がわかりそうに思った。
「けど……」
 純一は周囲を見回す。クリスマス色に彩られた街中には当然ながらカップルが多く、居心地が悪かった。
「なんでわざわざイブを選んだ」
「ぼくもプレゼント買わないといけないんだよ」
「甘利との約束は今日だろ。当日に買ってんのかいつも」
「高いんだよ服は」
「はあ?」
 風見が言うには目当てのコートが五万円くらいするらしく、直前までバイトをしていたという。そういえば待ち合わせ場所はバイト先に近いコンビニだった。
「さっきまでやってたのか、バイト」
「ミドリがいない分、いつもより受け持つ量多かったんだぞ」
「悪い、イブとクリスマスは空けるつもりだった」
「まあ終わったからいいけど。お金もちゃんともらえたしね。無理言って手取りにしてもらったよ」
 二人はとりあえず洋服店に向かう。
 コートを買うと言っていたが、服に無頓着な純一には五万円など考えられない金額だった。それとも、それくらいが当たり前なのか。
「なあ、女の子って何をあげれば喜ぶんだ?」
 風見は首を傾げた。
「さあ?」
「さあ……って、お前だけが頼りなんだぞ」
 風見は軽く頭をかいた。
「人それぞれだよ。人によってはガラクタでもいいかもしれないし、どんなに高価なものでも満足しないかもしれない」
「じゃあどうするんだよ」
「ぼくはその人に合いそうなものを選んでる。今回はたまたま見掛けたコート。白いのが似合うと思ったんだ」
「……」
 なんだかあまりアドバイスになってないような気がする。若干ノロけが入ってないか。
「うーん、そうだな……あえて言うなら実用的なものの方がいいかな?」
「実用的?」
「服とか靴とかバッグだよ。時計やマグカップなんかもいいかも。そういう身近で役立つものの方が喜ばれるかもね」
「へえ」
「高すぎると相手に気を遣わせてしまうかもしれないから、値段も多少考慮した方がいいかな。宝石とかは避けた方が無難」
「なるほど」
 純一は感心して頷いた。急に役立つアドバイスを聞かされたような。
「手袋とかマフラーは?」
「それもアリだと思うよ。ベタだけど大きなハズレにはなりにくいし」
 手持ちの金は二万円。高価なものは無理だが、それなりのものは買える。
 いろいろ思案していると、いつの間にか目当てのブティックに辿り着いていた。表通りから少し外れた場所だった。
 店内に入ると、若い女性客ばかりで賑わっていた。居心地の悪さがさらに高まる。
 風見が奥の店員と話をする間、控え目ながら店内を見て回る。ここでプレゼントが見つかるなら手間もかからないのだが。
 由芽はあまりアクセサリーを身に付けたりするタイプではなさそうなので、セーターやコートといった衣服を中心に探してみる。
 ミンクのコート、十七万八千円。
 ……………………。
 見なかったことにする。レジカウンター近くのセーターに目を向けてみる。
 ホワイトカシミアのセーター、二万五千円。
 無理だ。買えない。
 よく見るとそれなりにリーズナブルな値段の服もけっこうあったが、純一はいまいちピンとこなかった。
(後羽に合いそうなもの……ね)
 しばらく店内をぶらついたが、結局何も選ばなかった。
 風見のところに戻ると、大きな袋を手に提げている。どうやら買えたようだ。
「何かいいもの見つかった?」
「いや」
「じゃあ他のところも行ってみようか。服だけじゃなく、小物屋とかも」
 風見は目当てのものを買えたためか、どことなく嬉しそうだ。
 店を出て、表通りに戻る途中で純一は尋ねてみた。
「嬉しそうだな」
「そりゃ、お金貯めてお目当てのものがようやく買えたんだから、嬉しいに決まってるよ」
「お前のじゃないんだぞ」
「プレゼントでもなんでも、嬉しいことに変わりはないよ」
 簡単に言ってのける友人を、純一は呆れたように見つめた。

651:かおるさとー ◆F7/9W.nqNY
07/12/30 23:17:07 krJDweVi
 おそらくこいつは相手のことをよくわかっていて、自分みたいに思い悩んではいないのだろう。純一は由芽のことを考えても、はっきり自信を持って捉えることができない。
 もちろんまったく思い悩んでいないわけではないだろうが、相互理解の深度が違いすぎるように思えた。
(俺ってホントダメだな……)
 空を見ると薄暗い雲が全体を覆い始めていた。


 それから二人は何軒かの店舗を回った。
 別の洋服屋はもちろん、マスコットグッズ店やアクセサリー店も一応回ったが、純一はなかなかプレゼントを選べなかった。なんというか、どれも同じに見えてしまうのだ。
 何を買えばいいのか迷いに迷った。もう適当に決めてしまおうかとも考えたが、そういうわけにもいかず、時間だけが無駄に過ぎていった。
 もう一度考え直す。果たして由芽に合うプレゼントとはなんなのだろうか。
 純一は熟考する。自分の中での由芽の印象とはなんだろう。
 一つしかなかった。一年前のサンタ姿。
 あのとき小さな手でケーキの箱を差し出してきて、その後に浮かべた笑顔はとても魅力的だった。
(小さな手だったな……素手だった)
 きっかけは単純だった。イメージがプレゼントの中身を一気に固めていく。
「よし、決めた」
「え?」
 いいかげん疲れていたのだろう、風見が気のない声を漏らした。
 純一は悪い、と一言謝り、最初のブティックに戻ることを告げた。


 プレゼントをようやく購入して、待ち合わせ場所のコンビニに戻ってきたときには、日はすっかり落ちていた。
 ちらほらと雪が降る中時刻を確認する。午後8時だった。
「悪かったな、遅くまで付き合わせてしまって」
「いいよ、紗枝にはメールしたし。それより、うまく渡せるといいね」
「頑張るよ。不安はあるけどな」
 果たしてこれでよかったのだろうか。純一は手元の袋を自信なく眺める。
 コンビニ前のバス停には何人かの人間がいたが、混んではいなかった。ただ、これから来るバスの中は満杯だろう。雪も降ってきたし、ダイヤに乱れが生じるかもしれない。
 純一は白い息を虚空に向けて吐き出した。粉雪と湯気が入り混じるように合わさり、消える。
 その虚空の先に、何かが見えた。
(!?)
 道路を挟んで向かいの民家の屋根。そこで小さな人影が動いていた。
 音もなく歩道に降り立つ。その姿はやはりサンタの格好だった。
 気配を消すようにあまりにさりげない動きだったが、格好が格好なのでさすがに目立つ。純一以外の人間も少女サンタに気付いたようだった。
 サンタはそ知らぬ様子でそのまま歩道を歩いていく。
 純一は居ても立ってもいられなくなり、風見に一言、
「俺、用ができた」
 と耳打ちするや、全速力で駆け出した。
「え? ちょっと、ミドリ?」
「早く甘利のところに行ってやれー!」
 大声でそれだけ叫び残すと、純一はもう振り返らず、少女の後を追った。


 少女の後を追っていくと、次第に中心街から離れて住宅街の方へと入っていった。
 少女の足取りは決して速くなかったが、なんというか闇に紛れるような気配の希薄さが追跡を妨げるようで、純一はついていくのが精一杯だった。
 ふと気付くと、住宅街の真ん中で純一は少女を完全に見失っていた。
(くそ、どこだ)
 周りの小道だけではなく、屋根や電柱の上にも目を向ける。夜闇の中ではろくに探すこともできず、途方に暮れかけた。
 そのとき、
「……誰?」
 と、聞き覚えのある声がした。
 聞き覚えどころではない声に純一は振り返る。
 そこに、いた。
 野暮ったいサンタ服姿の少女が、常夜灯の下に影を落としていた。
 その顔はやはり見知った後輩のもので、一年前の光景と重なるようだった。

652:かおるさとー ◆F7/9W.nqNY
07/12/30 23:18:55 krJDweVi
 純一は彼女の名前を呼んだ。
「後羽!」
 少女は首を傾げた。
「……?」
 その表情は後羽由芽のものには見えなかった。感情が奥底に隠されているようで、由芽らしくない無表情だった。
 その様子を怪訝に思い、純一は再び叫ぶ。
「後羽!」
 少女が傾げた首を元に戻し、近付いてきた。
「……由芽の……知り合い?」
 意表を突く問い掛けに、純一は眉を寄せる。
「何、言ってる……。後羽はお前だろ」
「……」
 少女は静かに首を振った。
 何の冗談だ、と純一は訝しんだが、一つ思い付いて言った。
「姉妹とかか? 双子とか」
「……」
 少女は答えず、背中を向けた。そのまま足音もなく歩き出す。
「おい」
「ついてくれば……話す……」
 呟くように放たれた言葉に、純一は黙り込んだ。
 意を決して歩き出すと、少女が振り返って答えた。
「クリス」
「……は?」
「私の名前。……本名はクリスマスだけど……私を知る人は……みんなそう呼ぶ」
 ぼそぼそと囁く声は若干聞き取りづらいが、純一は頷いた。
「クリス、か。俺は緑野純一。呼び方は好きに呼んでくれ」
 するとクリスと名乗った少女はにこりと微笑んだ。
 一年前とまったく同じ笑みだった。
 しかしすぐに笑みを収め、元の無表情に戻る。
 純一はそれを見て、確かに違うな、と思った。姿形は一緒でも、後羽由芽の持つ雰囲気とは明らかに異なっていた。
 では、この少女は一体何者なのだろうか。
 クリスはしばらく歩き、近くの公園へと入った。奥のベンチに腰掛けると、目の前に立つ純一を見上げた。
「で、話してくれるのか?」
 視線を返しながら純一は尋ねた。
 クリスはしばし考え込み、それから言った。
「私は……由芽の体を借りてる……」
 意味がわからなかった。
 純一はおもいっきり不審な顔をし、眉をしかめた。
「……あの、頭悪い俺にもっかい説明してくれるか?」
「……」
 クリスは表情を変えなかった。
「信じないなら……信じなくていい」
「いや、俺は困るんだよ。わけわかんねえしな。さっきの意味は何だ? 借りる?」
「そのままの……意味……」
 クリスは言葉少なながらも断言する。
「本体はこの服……これを通して……由芽の体を借りてる……」
「……」
 純一はクリスを睨む。
 口調は真面目だが、内容は馬鹿馬鹿しいの一語に尽きた。
 しかし、クリスは特に動揺を見せない。ただ話すだけと言わんばかりに無表情だ。
「……わかった、それが本当だとしよう。で、何の目的があって体を借りてるんだ?」
「……ケーキを、配りたい」
「……」
 思い出す。去年もらったものもケーキだった。

653:かおるさとー ◆F7/9W.nqNY
07/12/30 23:21:25 krJDweVi
「去年もやってたな。やっぱりあれはお前だったのか」
「憶えてる。……どうだった?」
「何が」
「……ケーキ」
「……おいしかったよ。甘すぎなくて、俺の舌に合ってた」
「……」
 クリスは、とても嬉しそうに微笑んだ。
「今年も配ってるのか」
「イブの夜だけしか……私は動けない。毎年イブの夜だけ……由芽が体を貸してくれる……」
 クリスはどこか申し訳なさそうに呟いた。
 言っていることは電波だったが、辻褄は合っていた。由芽がなぜイブの日の約束を断ったのかという理由に当てはまるからだ。
 だが、現実的に考えるなら、
「演技じゃないのか、『クリス』」
 そっちの方が自然だった。
「……手伝って」
 唐突に頼まれた。
「は?」
「……イブを過ぎれば……この体は由芽の意識に戻る」
「……その間ついてこい、と?」
「……」
 勝手な言い草だと思ったが、言っていることはそれなりに納得できるものだと思った。
 本当か嘘か測るには間近で見張るのが一番だったし、何より彼女の活動に興味があった。
 実際のところ、演技かどうかなどどうでもよかったのかもしれない。純一は純粋にこの小さなサンタに興味を抱いていた。
「わかった。手伝うよ」
 騙されているという思いの中で、騙されてもいいかなと思う自分がいることが不思議だった。


 活動はシンプルだった。
 各家を訪問し、ケーキを渡す。それだけだった。
 もちろん見知らぬ人間の急な訪問に警戒する者は多かったが、イブ限定の無料キャンペーンだと言えばある程度納得してもらえた。それでも警戒して受け取らない相手はいたが。
 それより不思議だったのはクリスの持っている袋だった。純一が中を探っても何も出てこなかったが、クリスが探るとケーキの入った箱が出てくるのだ。
「手品か?」
「……魔法」
 少女はそうのたまった。
 しばらく一軒一軒民家を回っていたが、純一は効率が悪いように思った。
「おい、一つ一つ家を回るより、人の大勢いるところで配った方がいいんじゃないか」
「……」
 クリスは答えない。
「おい」
「目立ちすぎると……由芽に迷惑がかかる……」
「……」
 純一は押し黙った。
 時刻を確認すると9時を過ぎていた。まだ三時間弱ある。
「……まったく、今日だけだぞ」
 雪の舞い散る中、クリスは淡々とケーキを配り続ける。
 風が強まり、雪が横に凪ぐ。刺すような鋭い寒さに純一は肩を震わせた。
「おい、寒くないのかよ」
「……」
 クリスはふるふると首を振った。しかしその小さな体は微かに震えている。
「ウソついてどうするよ」
「っ」
「一旦休憩な。コーヒーでも飲もう。おごるから」
 首を振って拒絶するクリスの手を無理矢理掴み、純一は強引に引きずっていく。
(……冷たい手だな)
 掴んだ手の感触は、こちらが凍りそうなほど冷えていた。
 クリスは諦めて純一の為すがままにしている。

654:かおるさとー ◆F7/9W.nqNY
07/12/30 23:23:26 krJDweVi
 近くの自販機で温かい缶コーヒーを買う。クリスはもの珍しそうに自販機をしげしげと眺める。
「ほら、お前のだ」
「……」
 クリスは純一が飲むのを見ながら、それを真似るように缶に口をつけ、おそるおそる傾けた。
「……甘苦い」
「砂糖入ってるからな」
 純一が言うと、少女はふっと微笑んだ。
「でも……温かい」
「……」
 純一はサンタ服の少女をぼんやり見つめる。
 次第にわからなくなってきた。目の前の少女は明らかに後羽由芽とは違う。本当に体を借りてるように見える。信じ難いことだが。
 いや、もう内心では信じているのだ。少女の言が本当なのだと。
 何より、そんなことなど関係なく、純一はこの少女に惹かれていた。
 だがそうなると、自分はクリスが好きなのだろうか。
 後羽由芽のことは何とも思っていないのだろうか。
「……純一は」
 クリスが不意に口を開いた。
「……ん?」
「由芽の恋人……なの?」
「……。違う」
「じゃあ……何?」
「俺にもわからん」
「由芽は多分……純一のこと好きだよ……」
「……なんでわかるんだよ」
「なんとなく……」
「なんだそりゃ」
 由芽の体を使っているとそういうところまで感じ取れるとか、そういうことだろうか。
 考えが既に毒されているような気がして、純一はため息をついた。
「そろそろ行くか。まだ二時間以上あるぞ」
「……」
 二人は飲み干した缶を自販機横のゴミ箱に捨て、再び雪の中を歩き出す。
 クリスは厚めのサンタ服を着込んでいるとはいえ、どことなく寒そうに見える。
 純一は見かねて、手元の紙袋を開けた。
 中から取り出したのは、暖かそうな白い手袋だった。手首部分にはマスタード色のくるみボタンがついていて、シンプルながらかわいらしいデザインだ。
「……?」
 不思議そうに目を丸くするクリスに、純一はそれを差し出した。
「つけろ」
「……え?」
「プレゼントだ。後羽にあげるつもりだったけど、この寒い中で素手は見てられねえから、これつけろ」
「……」
 クリスは驚いたように固まっていたが、しばらくして首を振った。
「由芽に……悪い……」
 純一はカッとなって叫んだ。
「いいんだよ! 元々お前をイメージして買ったんだから」
「……?」
「サンタ服の後羽をイメージして買ったんだ。この色ならサンタ服にも合うんじゃないか、って」
「……」
「そ、それにその体は後羽のなんだろ。じゃあ風邪ひいたらお前のせいってことになる。それはなんか、嫌だしな」
「……」
 クリスは何も言わない。
 無言の空気に耐えきれず、純一は顔を背けた。
「つけたくないなら別にいいよ。後で改めて後羽に、」
「……ありがとう」
 その声は、笑顔は、これまでのクリスのものとは少し違っていた。
 見つめ直す。確かにクリスの笑顔だが、なんだか後羽由芽の色も混じっているように見えて、純一はどっちがどっちかわからなくなってしまった。
 だが、その笑顔がこれまでの表情の中で一番魅力的に思えて、純一は心の中が一際熱くなった。
 思った。自分はどちらの彼女も好きなのだ。クリスも、由芽も、どちらも同じくらい好きなのだ。
 なら問題ないかもしれない。目の前にこの少女がいてくれるなら。

655:かおるさとー ◆F7/9W.nqNY
07/12/30 23:25:38 krJDweVi
 クリスは手袋をつけて純一に両手を掲げてみせた。
「……似合う?」
「……ああ、ぴったりだよ」
 少女は再び満面の笑みを浮かべた。


 それから二時間以上、二人はひたすら民家を回った。
 無限にケーキが出てくる袋を片手に、少女は家々を訪ねる。
 本来あまり人と話すのは苦手だというクリスに代わって、純一が玄関から訪問した。いつもは二階の窓などからこっそりケーキを置いていくという。
 初めて会ったときに屋根の上を移動していた理由はそれだったわけだが、そんな怪しいケーキを好き好んで食べる人間は少ないだろう。ひょっとしたらこれまでの多くのケーキは捨てられていたのかもしれない。
 そういう意味では、役に立てたのだろう。純一は嬉しく思った。
 やがて日付が変わる十分前に、二人は一番最初の公園に戻ってきた。
「案外短いんだな、四時間近く配ってたはずなのに」
「……いつもより、たくさん配れた……」
 満足げにクリスは呟いた。
 純一は小さく笑った。
「そっか、よかったな」
「純一のおかげ……」
「お前の頑張りだろ」
「……」
 クリスは照れたように顔を伏せる。
 もうすぐ日付が替わる。クリスの言が正しいなら、もう時間は少ない。
 聞いておきたいことがあった。
「なあ、なんでケーキ配ってるんだ? なんか理由でもあるのか?」
「……わからない」
「わからない、ってお前……」
「私が喜べなかった分……みんなに喜んでほしい……のかも、しれない」
「……」
 少女の言葉は推し測れない。
 過去に何があったのか、純一にはわからない。ただ、この少女が誰かの幸せを願っていることだけは感じ取れた。
 この少女は本当にサンタなのだ。おとなしくて愛想も足りないが、とても一生懸命なサンタクロース。
「なあ、俺にもケーキくれるか?」
「……?」
「去年うまかったからさ、今年もほしい」
「……」
 クリスは袋から紙箱を取り出し、純一に渡す。
 純一は受け取ると、礼を言った。
「ありがとな」
「……ん」
 クリスはもう一つ箱を取り出す。
「ん、なんだ?」
「由芽の分……」
「……ああ、そうか、わかった」
 もう一つの箱も受け取る。クリスは満足したように夜空を見上げた。
 雪を掴むように両手を掲げ、広げる。外灯の下、白い手袋が明るく映えた。
 純一は携帯電話の表示を確認する。もう、残り五分しかない。
「クリス」
「?」
「来年も会えるよな?」
「……」
「まだ全然配りきれてねえじゃねえか。来年も、配るんだろ?」
「……手伝ってくれるの?」
「ああ、来年だけじゃない、毎年手伝ってやるよ。お前のこと、嫌いじゃないし」
「……」
 クリスは口を閉じると、顔を近付けてきた。

656:かおるさとー ◆F7/9W.nqNY
07/12/30 23:29:00 krJDweVi
「な、なんだよ」
「……好きなの?」
 心臓が跳ねた。
「な……」
「嫌いじゃないって……言った」
「う……それは、その……」
「……私は好き……かも」
 そんなことを言う。
 純一はヤケクソ気味に叫んだ。
「ああ、好きだよ! 初めて会ったときから好きだったよ!」
 クリスは小さな声ながら言い募る。
「由芽のことは……どうなの?」
「後羽のことも好きだよ。どっちも俺は好きだ」
 クリスはにっこり笑った。
「よかった……」
「何が」
「ちゃんと……由芽の側にいてあげてね」
「……」
「また……来年ね」
 クリスは小さな手の平をバイバイと振る。あと一分。
 純一はクリスを真正面から見つめ、はっきりと言った。
「その手袋は後羽へのプレゼントだけど、お前にあげたプレゼントでもあるんだからな。来年も必ずつけてこいよ」
 クリスはにっこりと笑った。
「ありがとう……プレゼントをもらうのは……初めてだったよ……」

 メリークリスマス。

 その一言を言い終えた瞬間日付が替わり、クリスマスという名の少女は糸が切れたようにその場に倒れ込んだ。
 純一は慌てて少女に駆け寄り、体を抱き起こす。
 しばらくして、少女は夢から覚めたように目を開けた。
「後羽!」
「……先輩?」
 元の後羽由芽の口調。純一はほっとして、由芽に微笑んだ。
「大丈夫か?」
「は、はい。……あ」
 由芽は自分の服装に気付き、次いで純一を見た。純一は黙って見返す。
「……クリスに会ったんですか?」
「ああ。ケーキももらった。また来年って」
「先輩がついててくれたんですね。よかった……」
 さっきのクリスと似たようなことを言う由芽に、純一はつい笑う。
 きょとんとなって純一を見上げる由芽。
「立てるか?」
「は、はい。ありがとうございます」
 由芽を立たせると、純一は軽く深呼吸して言った。
「好きだ、後羽。付き合ってほしい」
 突然の告白に、由芽はひどく驚いたようだった。
「え? あ、あの、」
「……駄目か?」
「い、いえ、そんなわけ……私も、好きです」
 クリスの言ったとおりだった。答えを聞くと、純一は由芽を抱き寄せた。
 由芽は慌てたように身じろぎしたが、やがて動きを止め、体を純一に預けた。
「……この手袋、先輩のですか?」
「お前へのプレゼントだよ」
「暖かい……」
 由芽は顔を上げ、にっこりと笑った。
「メリークリスマスです、先輩」
「……ああ、メリークリスマス」
 大好きな笑顔を見つめ返しながら、純一は祝福の言葉を唱えた。

657:かおるさとー ◆F7/9W.nqNY
07/12/30 23:32:30 krJDweVi

      ◇  ◇  ◇

 10時頃に風見がようやく自宅に帰りつくと、門の前で紗枝が傘を差して立っていた。
 じろりと睨まれ、風見は顔が引きつった。
「ご、ごめん、遅くなった」
「……」
「いや、ミドリの用に時間かかって」
「……」
「あ、あの、バスも事故で遅れて」
「……」
 紗枝は何も言わない。普段から無口だが、今は機嫌の悪さがオーラとなって見えるようだった。
「あの、これ、プレゼント」
 冷や汗をかきながら、風見はプレゼントの袋を渡す。紗枝は一瞥すると、その袋を受け取った。
 それから紗枝は風見の顔に手を添えた。
 どきりとする中、紗枝の手は風見の両目を塞ぐ。
 目を瞑れ、ということなのだろう。風見はおとなしく目を瞑った。
 首元に何かを巻かれた。
 思わず目を開けると、首にチェックのマフラーが巻かれていた。
 幼馴染みを見ると、ぷいとそっぽを向いて目を合わせない。心なしか、頬が少し赤かった。
「手編み?」
「……」
 横を向いたまま、微かに頷く紗枝。
「ありがとう、紗枝」
 紗枝はしばらく何の反応も見せなかったが、やがて上目遣いにはにかんだ。
 風見はその笑顔がマフラー以上に嬉しく、幼馴染みに対する想いで胸がいっぱいになった。
「家、入ろっか」
 紗枝は頷くと、風見の腕を引っ張って傘の下に入れた。風見は抵抗せずに紗枝の好きにさせた。
 雪の降る中、幼馴染みの腕の感触は柔らかく、温かかった。

 今夜はホワイトクリスマス。
 みんなが少しだけ、幸せになれる日。


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