無口な女の子とやっちゃうエロSS 2回目 at EROPARO
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600:クレイジー兄妹
07/09/20 18:22:25 1oOHll9i
え?
『それで妹さんは誰かと付き合ったことがあるんですか?』だって?
……無いな。一度も。
ん?
『それじゃあ今まで告白してきた人達はどうしたんですか?』って?
………………。
ハハハハハ。
うん。
……潰した。
俺が全部、握り潰した。
エヘ☆

……まぁ、とにかく、妹―エリは、俺が守らなくちゃならないんだ。
行き過ぎた行為かもしれない。
もはや出すぎた感情なのかもしれない。
それでも、俺は今まで、エリの傍にいた。
ソレが正解だと信じて。

……ん?
『それって、待ち受け画面とか目覚ましとか授業覗いたりする行為とは関係ないような』?
い、いいじゃないか!
ちょっと、こっちこい。
見てみろ、このエリの画像を。
……ほら、な。
かわいいだろぉ?
俺がコレほどまでの愛情を注ぐのも納得、だろ?
え? 『アナタの妹さんは確かにかわいいが、アナタの態度が気に食わない』?
いや、だから!!
引くな!
そんな目で俺の事を見るな! 見ないでくれ!!
……おい、ちょっと!! まだ話は終わってない!
行くな! ちょっと、オイ! 行かないでくれ!!
………………。

閑話休題。

でも、間違っていたのだろうか?
俺がエリの傍にいて、エリを守り続けてきたのは。
本当は、俺の提示し続けた答えは不正解だったのだろうか?
だから、天罰とでも言うのか?
もし、たとえそうであっても受け入れられない。
受け入れることなんてできるはずがないだろう?

―俺が死んでしまったなんて。

俺が死んでしまったことはとりあえず置いておく。
どうせいずれ、人は死ぬ。
それがたまたま早かっただけ。
そう考えれば、理不尽だが、納得できなくもない。
……いや、本当は納得なんかできない。できるはずがないだろう?
生きたい。まだやりたいこと、遣り残したことがあるんだ。
生きたい! 死にたくない!! 助かるんだったら、なんだってする!!
………………。
……でも、もうソレも叶わない。そして、叶わないことは何より自分が実感している。
死んでしまった、ということは、死んでしまったということ。
それ以外のなにものでもない。
だから、とりあえず棚の上においておく。納得したことにする。
……そういうことにしておく。
だが。

601:クレイジー兄妹
07/09/20 18:23:32 1oOHll9i
妹はどうなる?
今まで、俺が生涯をかけて守ってきた妹はこれからどうすればいいんだ?
エリはまだ学生なんだぞ?
今まで、俺に守られてきたのに、どうやってエリがやっていけるというんだ?
……『両親がいるんじゃないですか?』、だと?
ふん、両親なんて当てになるものか。
あいつらの自分勝手な行いにどれだけ俺たちが振り回されてきたことか。
俺たち兄妹はそのたびに苦い思いをして、身を切るような感覚を我慢して生きてきたんだ。
………………。
そうだ。これからは、そんな両親の振る舞いにも、俺はエリを守ってやれない。
それどころか、学校の連中、道ですれ違う他人、言い寄ってくる親戚。
それら全てにエリは怯えなければならないじゃないか。
どうしよう。
どうすればいいんだ。
俺は。
こんな中途半端な状態じゃ、エリを守ってやるどころか、自分の世話さえ満足にできやしないというのに。

………………?
お前今なんていった?
『アナタが生きていようと、死んでしまおうと、妹さんはやっていける』?
『むしろアナタがいないほうがいい』?
……馬鹿な。何を言ってるんだ。
エリは華奢なんだ、病弱なんだ。お人よしで、人見知りで、押しが弱いんだ。
そんなエリが、俺なしで生活できるなんて……。
………………。
……なんだと?
『妹さんが自分ひとりで生きていくためのチャンス』、だと?
エリが自立する、チャンス……?
………………。
いや、だが、しかし。
……たしかに、俺がエリの面倒を一生見ることは不可能だったろう。
いつか袂を分かつ。
そんなことは当然だ。覚悟だってしてきたし、できているつもりだ。
だが今は、それでも傍に居たかった。傍にいて守ってやりたかった。
嬉しいこと、辛いこと、いろんなこと一緒に分かち合いたかった。共有したかった。
確かに、いずれは俺が守る必要もなくなる。
それでも、今はいくらなんでも早すぎる。
エリが自立するのはまだまだ早すぎだ。
今のエリには俺が必要なんだ。絶対。



……どういうことだ?
『あなたが納得するまでの猶予を与えます』……?
それまで、世界に留まってもいい、だと?
つまり、エリが自立できるまで、自立できたと俺が納得するまで、この世界にいてもいい、ってことか?
いや、でも、俺は死んだんだろ?
どうやって……。
! ……まさか。

―俺はシスコンである。ついでに妹、エリを見守る幽霊でもある。

……。
こんなところか。
わかった、猶予は俺が納得するまで。
納得して、成仏するまでってことか。
……今のうちに言っておくが、俺はまだ信じていない。
まだまだ、エリには俺が必要なんだ。
だから、俺が納得するのは、エリが死ぬまで無理かもしれないぞ。
それでもいいんだな?

602:クレイジー兄妹
07/09/20 18:25:03 1oOHll9i
……。
よぉ〜し。約束だ。
んじゃ、ちゃっちゃと、元の世界に戻してくれ。
エリが心配だからな。早くついていてやらないと。

俺の葬式の翌日、エリは元気に登校した。
………………。
え?
えぇぇぇぇぇぇぇぇぇえ!?
なんで!?
なんで、なんで!?
っていうか、ショックで登校できないとかあるだろう!?
お兄ちゃんいないんだよ!? 死んじゃったんだよ!?
ほら、隣にいつもいるお兄ちゃんがいないだろう!?
まぁ、そりゃ幽霊としての俺はいるが……。
それにしても、一日寝込むとかもないのかよ!?
ちょっと、それはないだろう、エリ!?
俺はもうエリが学校辞めてしまうんじゃないかとまで危惧していたというのに!
それが、なんで、なんでなんでなんで。なんで!?
どういうことなんだ!?
理解できない。
お兄ちゃん、全く理解できないよ!!
………………。
……ま、まぁ、元気なのはいいことだ。
いいことだと思い込むことにする。
それに、それでも、エリは寝過ごしかけたし、弁当だってコンビニのおにぎりだ。
ほ、ほら、俺がいないとどうにもならないじゃないか。
ね? 俺は必要な存在だったんだよ。
そんなことを必死で考えながら、規則正しく歩くエリの後ろを行く。
宙に浮かび、空を飛ぶこともできるのだが、まだ慣れていないので歩くしかない。
エリの後を歩きながら、それでも混乱からなかなか立ち直れないでいると、俺の後ろから誰かが駆けてきた。
ソイツは俺をすり抜け、エリの隣で足を止めると、足を止め振り向いたエリに話しかけた。
「……おはよう、水城」
ソイツは兄が死んだばかりのエリに気を使ったのか、トーンを落とした声でエリに挨拶した(ちなみに“水城(みずき)”とは俺とエリの苗字だ)。
エリは少し微笑むと、挨拶代わりに頭を下げた。
ソイツも、エリの事情を知っているのでソレが無作法だと怒ることはない。
前を向き、再び歩き出したエリの隣を同じペースでソイツも歩き出す。
俺はソイツのことを知っている。
たしか、『武田……なんとか』とかいう名前のエリの同級生でクラスメイトだ。
家から学校への距離は遠いのだが、通学路が一緒なので朝によく接敵する。
“接敵”。
そう接敵だ。
俺の勘だが、コイツはエリに好意を抱いている。
いや、まちがいなくエリに惚れているな。
そんなヤツと接触することを、“接敵”といわずになんと言う?
……まぁ、いい。
沈黙のまま歩き続ける二人。
武田は言いにくそうに口を開いた。
「お兄さんのこと……なんていうか、………その、残念、だったな」
ん?
なかなかいい事を言うじゃないか。
ほら、エリ。残念だっただろ? 残念だった、と言うんだ。涙なんかを流すとなお良い。
……ってぇ! 妹が悲しむかもしれないというのに、喜んでどうする! 俺!! 俺の馬鹿ぁ!!
しかし、エリは武田の発言に、静かに首を振る。
「………………」
「え? 『今も見守ってくれてるから寂しくない』?」
………え?
えぇぇぇぇぇぇぇぇえ!?
何ソレ!? ねぇ、何、ソレ!?
確かに今も見守ってるけど、見守ってるけど……!

603:クレイジー兄妹
07/09/20 18:26:39 1oOHll9i
その言い草じゃ、もう俺、思い出の人になってるじゃん!
遠い星空から見守る、『気のいいやつだった』的ポジションじゃん!!
早い! 早すぎるって!! エリ!!
せめて一ヶ月はもってくれ!
お兄ちゃんの名前を聞いただけで涙を流す、とかさぁ!
そういう、なんていうの? あの、あれだよ。
とにかく、思い出にするの早すぎだから! ね? エリちゃん!!
混乱する俺をよそに、武田も意外だったのか目を見開いている。
「あ、……そう、なんだ」
エリは首をかしげ、不思議そうに武田を見る。
「いや、ていうか、なんて言うのかな。ほら、水城ってよくお兄さんと一緒にいたからさ。もっとショック受けてるのかと思った」
武田の言葉を聞いて、少しエリの顔が曇る。
ソレを見て、武田は言う。
「あぁ、ゴメン。思い出させて」
すまなそうな武田に、エリは静かに首を振る。
「………………」
「『まだ傍にいてくれているから大丈夫』? ……。そう、か」
あう!?
確かに傍にはいるけどさぁ! いるけどさぁ!!
いないじゃん! 実際問題、いないじゃん!! 見えてないじゃん!!
ていうか、ちょっと、ホント、立ち直り早くね!?
エリってこんなに強い娘だったっけかなぁ。
『か弱い子』っていうの、俺の勘違い〜……?
いや、いやいや。勘違いなはずはない。エリはか弱いことは間違い、ない、はず。
でも。あれ〜? おかしいなぁ……。
だったらなんでぇ……?
そんなことを言っている間に、二人は学校につき、教室へ向かう生徒の群れの中に混じっていった。

教室でのエリはやっぱり落ち着いていた。
席に着いたエリにクラスメイトたちが次々に激励の言葉をかける。
俺は少し離れた位置でその光景を見守る。
……ふ〜ん、そうか。
俺の知らないところでエリは友達に、クラスメイトに恵まれていたのか。
ただ授業を覗いていただけではわからなかったクラスメイトたちの優しさに俺は初めて気づいた。
うんうん。そうか。そうだったのか。
今、エリの机の前で盛んにエリに話しかけている女子がいる。
この娘は確か……。
『ユウキ』とかいう娘だったはずだ。
ソレが苗字だか、名前だかは忘れたが、確かそんな名前だ。
彼女は明るい声で、エリのことを元気付けようとしてくれている。
よかったよかった。そんな友達もいたんだな。
俺が感慨深げに頷いていると、始業のベルが鳴りホームルームの始まりを告げる。
少女ユウキもエリの席から離れ、自分の机についた。
ふと、エリが携帯を覗く。
そして、そのまま表情が固まる。
俺は異変に気づき、エリの席に近づくと携帯の画面を悪いと思いつつ覗く。
そこには。

『エリ。今日、食べたいものはあるか?』

携帯の液晶には簡素な文章が表示されている。
それは俺がエリに送ったメールだった。
その日は珍しくエリに用事があり、夕食の用意がある俺は仕方なく一人で帰っていた。
途中買い物によるために商店街に入り、そこでメールを打った。
できるだけ、エリの希望に沿ったメニューを出すために。
そして、その直後。

俺は死んだ。



604:クレイジー兄妹
07/09/20 18:27:43 1oOHll9i
その後、俺が死んだことに関する緊急連絡は直ぐにエリに届いた。
ソレからは怒涛の流れだった。
多分、そんな中でエリは携帯メールを見る暇、余裕なんてなかったのだろう。
ほったらかしにされたメールは、そして、今、開かれてしまった。

教師がホームルームのために教室に入ってくる。
すぐさま、教師はエリの異変に気づく。
「おい、大丈夫か? 水城。顔が真っ青だぞ」
エリはその言葉に反応しない。
人形のように固まった表情のまま、涙が大量に零れ落ちる。
「お、おい。どうしたんだ?」
エリの息遣いが荒くなり、苦痛に耐えるように体を折る。
涙をボロボロと零しながら、苦しげに喘ぐ。
異変に気づいた教師はすぐさま保健委員に保健室にエリを連れて行くようにする。
当然、俺もソレについていく。
ふと振り向いた俺の視界には、教室の中で、呆然となった教師と生徒たちが、出て行くエリの背中を眺めているのが見えた。

「(っていうか、保健委員ってお前かよ……)」
ジト目でソイツを見る。
ソイツは過呼吸状態のエリにビニール袋を渡し、それで口を押さえるように指示した。
保健室の中には、俺とエリ、そしてソイツしかいない。
どうやら、保険医は外出しているようだ。……ふん、頼りになるな。
ベッドに座り込んだエリは未だに苦しそうにしゃくりあげている。
俺はそんなエリを眺めながら、心配する。
そして同時に、不謹慎ながらも安心した。
「(やっぱりエリには俺の死がショックなんだな)」
本心では相当傷ついていたのを必死に押し隠し、普段通りに、気丈に振舞っていたのだろうか。
そんなエリを俺は愛おしく思う。
「(ああ! 抱きしめて慰めたい! 昔のように頭を撫でてやりたい! 安心させるために声をかけたい!!)」
衝動は膨らみ、今すぐに行動に移したい!
だが、幽霊の俺にはそんなことはできない。
……そんなことは解っている。
だから、心底残念だが、試すことさえしなかった。
今、この場でエリを慰めることができるのは、小憎らしいことに保健委員のヤツしかいない。
ソイツは心配そうにエリのことを見守る。
沈黙の中、しばらくそのままの状態が続き、ようやくエリの状態が落ち着いてくる。
「(気の利かないヤツだな! 飲み物の一つくらいもってこい!)」
ソイツを睨みつける俺。当然、そんな意見は届かない。
「………………」
歯がゆい思いをしていると、エリは真っ赤な顔を伏せながら、たどたどしくソイツに礼を言った。
気の利かない憎っくきソイツ―武田は少しだけ微笑み、しかし、首を横に振る。
「僕のせいだろ? 水城がそんな風になったのは」
ん?
何言ってるんだ、コイツは。
エリも意外だったらしく、首をかしげる。
それに構わず、武田は続ける。
「僕が朝、余計なことを言ったから、思い出してしまったんだろ?」
そういうと、武田は勢いよく頭を下げる。
「本当、ゴメン。無神経なことを言ってしまって。……思い出させてゴメン」
エリは唐突な武田の行動に動揺を隠せず、オロオロとしながら首を振る。
「(ふ〜ん……)」
武田の言っていることは間違いなく勘違いだが……。
「(自分が謝るべきと思ったときには、ちゃんと頭を下げられるヤツだったんだな)」
俺は少し感心した。
今までは、妹に近づくただの敵だと思っていたが、どうやら見るべきところはあったようだ。
「(っていうか、死んでから妹に関係する人に目を向けられるようになるとは……。
ずいぶん俺は近視眼的な人間だったんだな……)」
そう自嘲する。
覗き魔のような、否、まさに覗き魔的な行為をして、ようやく人のことを正面から捉えられるとは……。
馬鹿げた話もあったものだ。当然、馬鹿なのは俺なのだが。

605:クレイジー兄妹
07/09/20 18:28:38 1oOHll9i
そんな俺を無視して、エリと武田の会話は展開していく。
「………………」
エリは先ほどの武田の発言をやんわりと否定した。
「? 僕のせいじゃない?」
武田は戸惑ったように顔を上げ、真っ直ぐにエリを見る。
一瞬、二人の視線が絡まる。が、直ぐにエリは視線を落とした。
「僕のせいじゃないとしたら、どうして……?」
エリは少し顔をゆがめ、持っていた携帯の画面を武田に見えるように指し示す。
「見ても、いいの?」
頷くエリ。
武田は恐る恐る携帯の画面を覗く。
そこには簡素なメールが表示されているはずだ。
「これってもしかして……。お兄さんからの、だね」
「………………」
頷くエリ。そして、告げる。
「え? これが最後のメール? ……そう、なんだ」
武田は画面から眼を離し、近くの椅子に腰掛ける。
エリは携帯を一瞬だけ覗くと、静かに折りたたんだ。
そのまま保健室に沈黙がおりる。
「………………」
「そうだね。いつも、水城とお兄さん一緒に居たもんな。寂しくってもしょうがないって」
「(そうだよ、そうそう! いつも一緒に居たからな! 寂しいのは当然だ!)」
………………。
……ああ。俺って本当、ダメな兄貴、だな……。
妹がこんなにも落ち込んでいるっていうのに……。喜んでしまうなんて!!
でも、しょうがない!
だって、俺が死んだばっかりだというのに、『それでも気にせず元気な妹』なんて見たくない!
いや、『元気な妹』はいつだって見たいのだが、それでも見たくない特殊な状況はある!
ソレが今だ!!
「(許せ! エリ! こんな駄目なお兄ちゃんだけれど、それでも俺はエリの味方だぞ!!)」
妙にテンションが上がってきた俺。
しかし、保健室の雰囲気は暗いままだ(当然なことに)。
「………………」
エリは申し訳なさそうに、武田に頭を下げた。
「いや、迷惑なんかじゃない。水城が落ち着くまでここにいるよ」
その発言に驚いたらしいエリは、しかし、武田を安心させるためだろう、微笑んだ。
「………………」
教室にもう帰ってもいいと武田に告げる。
「そういうわけにはいかないよ。……それとも、一人になりたい?」
エリはためらいがちに頷く。
そりゃそうだ。
こんなときは、一人になりたいに決まっている。
「そう、なんだ」
「………………」
再び頭を下げるエリ。
「……なんで、水城が謝るのさ。水城はぜんぜん悪くないだろ?」
「………………」
「………………」
再び、二人は黙り込む。
……ん〜?
おいおい、なんだよ。この青春の一ページみたいな場面は。
っていうか、一人になりたいって言ってんだから、さっさと退場しろよ武田。
………………。
ん? おい武田。なんだ、その目。
その決意に満ち満ちた目は。
武田は大きく深呼吸すると、緊張気味に言った。
「僕じゃ、ダメかな?」
「?」

606:クレイジー兄妹
07/09/20 18:29:36 1oOHll9i
な、なんだ。何言い出してんだコイツ。
「僕じゃ、お兄さんの代わりにならないかな?」
「……………?」
ま、まさかコイツ……!
「僕が、お兄さんの代わりに、ずっと水城の傍にいたい、ってことなんだけど」
「…………??」
“そういう行為”は俺が事前に全部潰してきたので、エリは“そういう行為”に特にニブイ。
だから、まだ武田が何を言いたいのか良くわかっていない。
言いたい事がうまく伝わっていないことを察した武田は、絞り出すような声で、言う。
「つまり、好きです。俺と付き合ってください」
「!」
や、ややややっぱりかぁ!?
こ、こここ告白しおったぁぁ!!
おいおいおいおいおい! 何考えてんだ、お前!?
肉親の葬式の翌日に告白する馬鹿が何処にいる!? 否、此処にいる!!
っていうか、コレが若さなのか!? 若さというものなのか!? 武田君!?
ホラホラホラ見ろ。見てみるがいい。武田め。
エリ、驚いてるじゃないか。呆気にとられてるじゃないか。
ほら、顔を赤くしてないで相手の顔を見てみろ! 武田!!
お前と同じくらい赤いエリの顔を……、

ん? 赤い顔?

って、ええぇ!?
何赤くなってんのさ! エリ!! エリちゃん!?
俺の混乱をよそに武田は早口で言う。
「へ、返事はいつでもいいから。っていうか待ってる。いつまでも待ってるから。だから、そのなんていうか。
僕、支えになりたいんだ。水城の。だから、なんていうか、その! つまり、じゃ、じゃあね」
そしてそのまま、逃げるように武田は保健室から出て行った。
な、なんだったんだ、全く……。
少し見直したと思ったら、直ぐコレだ。
やはりエリ以外の人間は信用ならんな。
「(な、エリ?)」
俺はエリのいるベッドを見やる。
エリは放心したように、武田の出て行った扉を見つめ続けている。
そして、ポツリと呟いた。
「………………」
……?
ん? どういう意味だ? 『また、会えるかもね、お兄ちゃん』?
? 何を言っているんだ?
意味が解らずエリの顔を見つめる俺。
エリは告白された少女が浮かべるには似つかわしくない、嫣然とした笑みを浮かべていた。

607:230
07/09/20 18:30:53 1oOHll9i
とりあえず、今回は以上です。
お目汚しですが、まだ続きます。
よろしくお願い申し上げます。

608:名無しさん@ピンキー
07/09/20 18:33:38 F9vKbN28
おk、いいシスコン兄貴だ
文章も軽快にテンポよく読めました

うん、なにがいいたいかっていうと非常にGJ!!

609:名無しさん@ピンキー
07/09/20 21:13:43 GdDPhnNT
GJ!重い話のはずなのに軽快なテンポがそれを感じさせないですね。
兄貴が成仏しそうにないwいやわかんないけど

610:名無しさん@ピンキー
07/09/20 23:47:36 it4WFlk6
gj!
こんな兄貴なら欲しいな。三人くらい。

611:名無しさん@ピンキー
07/09/21 17:16:54 bWMJBY9v
こんな兄貴が三人もいたら何にも出来ない人間になりそうだ

612:名無しさん@ピンキー
07/09/22 14:04:47 XZTc/krh
こんな性格の義姉がいたら……うん、いいね

ついでに性格に無口を追加しとけば完璧

613:名無しさん@ピンキー
07/09/23 05:58:49 FKlus30c
良い意味でシスコンのウザさが出てたなGJ

614:名無しさん@ピンキー
07/09/23 07:07:57 dbm6zqBe
シスコン兄・・・だめだこいつ、早くなんとかしないと!

GJ!!!

615:名無しさん@ピンキー
07/09/23 18:09:09 5eywwf6G
>>614
残念だが、処置なしだ
ほら、バカは死んでも直らない、っていうだろ?

まあなにかっつうとgj!

616:230
07/09/24 11:57:54 Lcpy1mzV
これより、投下させていただきます。
前回より長い上に、大したエロも御座いません。
真に申し訳御座いません。
それでも構わないと言う方は、片手間にでもお読みください。
それでは、本文です。

617:クレイジー兄妹
07/09/24 11:59:13 Lcpy1mzV
数週間が瞬く間に過ぎた。
その間、俺としては大層面白くない展開が続いた。
なんというか、エリと武田が付き合いだしたのだ。
なんとまぁ、二人は初々しくも、健全に距離をつめていく。
…………ケッ。
なんだよ、なんだよ。
何が『相思相愛』だっつうの。馬鹿馬鹿しい。
何が『お似合いのカップル』だっつうの。下らない。
……ああ、たしかにお似合いのカップルさ。
エリは前述したようにかわいいし、認めたくないことだが武田の外見も悪くない。
ふん、たしかに釣り合ってはいるさ。
っていうかさぁ。
もう俺、成仏してもいいんじゃね。
エリは、あのメール以降、俺のことで泣き出すようなことはなくなったし、家事だってうまくやってる。
馬鹿な両親共も干渉してこないし、学校での生活も順風満帆とは行かないが、限りなくソレに近い。
周囲との友人関係も良好で、むしろ俺という邪魔者がいない分コミュニケーションは円滑に行われている(俺としては複雑だが)。
それに、憎たらしいことに『お似合いのカレシ』もいるしな。
……でも、俺はまだ納得できていない、のか。
俺が納得したら迎えに来るはずのアイツも来ないしな。
そんなことを考えているうちに、エリは武田を家に招待した。
ふん。……『勉強会』、ねぇ。
エリ、油断しすぎだぞ。
男はみんな狼なんだ。
武田だって間違いない、一匹の狼だ。
それを自ら招き入れるなんて。
……自殺行為も甚だしいわ!! 
くそぉ、武田めぇ……!! 
何かしたらただじゃおかない。呪い殺してやる……!!

俺が呪詛の言葉を武田に投げかけているうちに、二人は家に着き、エリの部屋に到着した。
二人はぎこちなく勉強を開始した。
ホラ見ろ、武田のこの飢えた獣の目を。
エリ! 気づけ! そして、コイツを部屋から追放するのだ!
エリは動かしていた手を止め、武田の顔をうかがい、そして言う。

「………………」

ん? な、何て? エリ?
「『しないんですか?』って何を……?」
武田は戸惑っている。俺も戸惑った。
……エ、エリ? エリちゃん?
な、なななな何を言っているんだ?
おいおいおいおいおい。な、何を赤くなってるんだよ、エリぃ!
確認するように武田が呟く。
「……いいの?」
よくねぇよ!! ふざけんなよ、お前!!
いや、そりゃ、二人が家に来た段階で何もしないという選択肢はないし、若い二人が密室で、
勉強しかしないなんていうのは、むしろその方が不健全かもしれんが……。
っておい、コラ!! 何見つめ合ってんだ!!
あ! 武田! 何近づいてんだ!
エ、エリの肩に手を乗せるな!!
エリも!! 素直に目を閉じるな!!
オイオイオイオイオイオイ!! マズイ! マズイってぇ!!
このままじゃ、このままじゃ、このままじゃぁ!!
くっそぉ〜!! ええい、こうなれば!!
かくなるうえは!!
そして、俺の意識が遠くなる。

618:クレイジー兄妹
07/09/24 11:59:58 Lcpy1mzV
ふと、唇に暖かく、柔らかい感触。
ん? もしかして……。
俺は覚悟を決めて目を開ける。
目の前には、エリの顔がどアップで映し出されている。
俺は驚き、顔を離す。
………………。
おいおいおいおぉぉい!!
成功しちまってるよ!! 憑依が!! 乗り移っちまってるよ、武田に!!
「………………」
エリは目を開け、もの問いたげに武田を―俺を見つめている。
「いや、いやいやいやいや! 『どうしたんですか』って、そりゃ!!」
っていうか、……あ! しまった!!
俺、妹にキスしちまったんじゃないか!!
義理の兄妹とはいえ、仮初の体とはいえ!!
い、いいいいい妹にキスしちまったよぉ!!
どうしよ、どうしよ、どうしよぉ!?
マジ、マズいって!!
いくら俺がシスコンだからって、いくらなんでもマズすぎる!!
俺は混乱した頭で、ふとエリの顔を覗き見る。
エリは―。
「……え?」
―涙を一筋、零していた。
俺は呆気にとられ、頭が真っ白になる。
どういうことだ?
「……なんで、泣いてるんだよ。エリ?」
自分の体が今、武田であるということも忘れ、口調も変えず尋ねる俺。
「………………」
「……え? 『お兄ちゃんを感じたから』って……。えぇぇぇ!?」
何言ってんだ!? エリは!?
バレた!?
いやいやいや、バレるはずがない! でも、どういうこと!?
感じた、っていうかキ、キスして俺の事思い出した、みたいな?
いやいやいやいやいやいや。
俺、生きている間に、キ、キスとかそういうこと一度でもしたか!?
……いや! してない! 全然覚えがない!
っていうか、そんなことするわけないだろう、お兄ちゃんが!! 誤解されるようなこと言うのやめなさい!!
っていうか、おいエリ!! 何で脱ぎだしてんだよ、お前は!!
ブ、ブブブ、ブラジャーが見えてるよ!
「ふ、服を、どうして、なして脱ぐんかなぁ……? エ、エリ?」
「………………」
「いや、『するんじゃないですか?』って。え、っと……」
いつからそんな、は、はしたない娘になっちゃったんだ……!!
お兄ちゃん……、お兄ちゃん悲しい!!
「………………」
「『私じゃダメですか?』って……。え、えぇぇぇ……?」
そ、そんな目で見つめるな、エリ……!
「………………」
「『私の初めて、もらってください』ですってぇ……?」
!!
か、かわいい……!! かわいすぎる……!!
………………。
…………もう、いいや……。
俺は悩むことを放棄し、エリを抱き寄せた。

619:クレイジー兄妹
07/09/24 12:01:04 Lcpy1mzV
目の前に服を全て脱ぎ、ベッドに座ったエリがいる。
俺もすでに服を脱いでおり、全身真っ裸でエリの前で同じく座っている。
……っていうか、武田。すまん。ホント、すまん。もうしばらくお前の体借りるぞ。
「………………」
「いや、なんでもない。じゃ、じゃあ、始めようか」
俺はエリの顔に震える唇を寄せると、優しくキスをした。
……はぁ、最低だな、俺。……ハハ。何か笑えて来た。
そして、とうとう、前人未到のエリの胸に触れる。
柔らかい。
それに、物凄くスベスベしてる。
俺は刺激を与えすぎないように、できるだけ優しく触る。
俺の掌ほどの大きさの乳房は、俺の手の感触に粟立つ。
「……………ん」
ピクリとエリが反応する。俺はそれにビビる。
「わ、悪い。……痛かったりするか?」
エリは首を振った。
「………………」
「『もっと強くしてもいい?』。 わ、わかった」
緊張による汗でべたつく両手を使い、俺はエリの胸を揉む。
……うん、物凄く柔らかい。
俺の掌の動きに合わせ、エリの胸乳は形を柔軟に変える。
「ん……んぅ」
エリが声をかすかに漏らす。
……っていうか、これでいいのだろうか?
俺だって経験がないんだから、エロ本とかの知識しかない。
でも、どこまでも指が埋まっていく胸には、どう対処すればいいんだろう。
なるべく単調にならないように変化をつけて指を動かす。
ん? なんだか先端が硬くなってきたような。
俺は半ば無意識にその先端を摘む。
「! ……んん……!」
再び、エリの体が鋭い反応を示す。
「おい! だ、大丈夫か? エリ?」
「………………」
「だ、大丈夫……? そ、そうか」
なるほど、本当に敏感なんだな。ち、乳首は。
ふぅ〜ん。
でも、ここを攻めない手はない、か?
俺は乳房を弄ぶ指に、先端を苛める動作を加えてみる。
「ふ、……んん! あ、あぅ」
俺の指が突起を弄くるたびにエリは甘い声を漏らす。
まだ柔らかかった乳首は、触り始めると途端に硬さを増した。
俺は調子に乗って乳首ばかりを苛める。
「は、はぅ……!! や、やぁ!」
エリの顔は赤みを増し、手を触れている部分が暖まってくる。
次のステップとして、俺は自然と頭を下げ、右の突起を口に含んだ。
「!! んん……!」
エリの肩が大きく動く。
でも、俺はもういちいちエリの反応に構わず、夢中で乳首を貪った。
「ん……、は、はぅぅ……!」
舌でまさぐり、歯で挟み、口で吸引する。
汗ばんできたエリの胸は少ししょっぱかった。
唾液でエリの右胸はベタベタになり、俺の口の周りも濡れる。
俺は右の乳房を苛め倒すと、今度は左の胸を口に含む。
右と同じ目にあわせながら、口に含んでいないほうも揉み続ける。

そんなことをしているうちに、俺は気づく。
気づいてしまう。
俺の頬が濡れていることを。

俺は、いつのまにか、泣いていた。

620:クレイジー兄妹
07/09/24 12:02:56 Lcpy1mzV

乳房から口を離し、腕で顔を隠す。
「………………」
エリが聞いてくる。
『私じゃ興奮しませんか?』と。
エリは俺の頭を抱き寄せる。
俺は、グスグスと泣きながら、エリの胸に顔をうずめる。

私じゃ興奮しませんか、だって?
………………。

……しないよ、興奮。

俺の(正確に言うと俺のじゃないが)ペニスは最初から勃っていない。
勃つはずがない。
俺が今抱いているのは、エリ―妹なんだぞ。
小さいときからずっと守ってきた、大事にしてきた、かけがえのない妹なんだ。
それがどうして、性的対象に見える?
酷い話だ。
本当に酷い話だ。
俺は大声でなき、エリはますます強く俺を抱きしめた。

結局、俺のペニスは勃つことなく、まるで幕切れのように俺の意識は暗くなった。

「………………」
「じゃ、じゃあな。また明日」
俺は玄関から出て行く武田をエリと一緒に見送った。
どうやら、武田にもおぼろげに記憶があるらしい。
でも、何で泣いていたのかなんて、多分永久に分からないままだろう。
そして、今、部屋の中には俺とエリがいるだけだ。
当然エリはもう服を着ており、ベッドに腰掛け、ぼんやりとしている。
まぁ、当然だろうな。あんなことがあったんだ。
意味が分からないだろうなぁ。
なにしろ、彼氏が行為の最中突然泣き出したんだから。
しかも、相手はそのことをあまり覚えてないという。
ま、俺が始めての相手じゃなくてよかったじゃないか。
初めての相手が『憑依した兄』だなんて酷すぎる。
それでも俺はどうにも申し訳なくて、俺は幽霊になって初めてエリに声をかけた。
……かけずにはいられなかった。
[悪かったな、エリ。お前の貞操を乱しかけて。本当にすまなかった]
ふん。
聞こえるわけがない。
ソレでも俺は―。
「………………」
エリが呟いた。

―え?

今、確かに、俺に答えなかったか?
『どうして、私の初めて、もらってくれなかったの? ……お兄ちゃん』と。
[聞こえてる、のか? エリ?]
エリは、俺の目を見て、確かに頷いた。

621:クレイジー兄妹
07/09/24 12:05:11 Lcpy1mzV
[いつから、気づいてたんだ……?]
はじめからだよ。お兄ちゃん。
お兄ちゃんが死んで、私のこと見守ってくれだしてから。
だから、だよ?
お兄ちゃんはいなくなってなんかないって解ってたから。
だから、お葬式の後もすぐに立ち直れたんだよ?
[どうして、見えないフリなんか……]
見えてなかったからだよ、最初は。本当に見えたのはつい最近。
でも、いるのはわかった。ずっと傍にいてくれたんだよね。
[……じゃあ、どうして葬式の次の日、俺の最後のメールを見て泣き出したりしたんだ?]
だって、もう、見たり、話したりできないって思ったら……。
いくら見守ってくれてるっていっても、やっぱり寂しいよ。
でも、私、これでもがんばったんだよ。
本当はいつもお兄ちゃんに話しかけたかった。笑いかけたかった。一緒におしゃべりしたかった。
でも、そんなことしたら、他の人には見えてないお兄ちゃんに話しかけたりしたら、
きっと病院に連れて行かれちゃう。閉じ込められちゃう。
お兄ちゃんに心配かけさせちゃう。お兄ちゃんを心配させる嫌な子になっちゃう。
それがいやだったの。
[何故、今になって?]
だって、初めてお兄ちゃんが話しかけてくれたから。
……それに、お兄ちゃんが私のこと、……奪ってくれなかったから。
[………………]
ねぇ、どうして?
どうして、私のこと抱いてくれなかったの?
どうしてどうしてどうしてどうしてどうして、どうして?
[お前は、俺の妹だ。だから―]
わからない、わからないよ? お兄ちゃん。
だって、お兄ちゃん、途中までしてくれたじゃない。
[ああ、だが、しかし……]
これじゃ、なんのためにこんなことしたのか解らないよ。
[? ……どういうことだ?]
武田君と付き合ったり、部屋に招いたりしたのは、全部、お兄ちゃんのためなんだよ?
[……。まさか]
武田君はいい人だよ。いい人だよね?
でもそれだけ。
お兄ちゃんの代わりには、なれません。
[……武田のこと、利用したのか?]
利用じゃないよ、活用だよ。
それに武田君のほうから告白してきたんだから、お互い協力関係みたいなものじゃない?
それにしても、途中まではうまくいったのにね。
お兄ちゃん、私と武田君が、『そういう関係』になりかけたらきっと我慢できずに、私の前に姿を見せてくれる、私に触れてくれる。
私の事奪ってくれる。……私はそう信じてたのに。
お兄ちゃんのせいで計画が崩れました。お兄ちゃんのせいで壊れました。お兄ちゃんのせいで狂いました。
でも、勘違いしないでね。
そのために、そのためだけに好きでもない人とお付き合いしたんじゃないよ。
武田君のことはスキ。
たぶん、今生きている人達の中では最も大切な人の部類。
でもね、でもねでもね、でもねでもねでもね。
でもね、お兄ちゃんが一番なの。
お兄ちゃん好きなの。お兄ちゃんがいいの。お兄ちゃんじゃなきゃダメなの。
[……エリ?]
お兄ちゃん以外要らないの。お兄ちゃんさえいればいいの。お兄ちゃんだけでいいの。
お兄ちゃんさえ、いればいい。
だから、もういいの。
これからはお兄ちゃんと二人で生きていくの。
学校も辞める。家にずっといる。お兄ちゃんと一緒に。
他の物なんて、他の人なんて、他の世界なんて、もう要らない。
アハハ。最初からこうすればよかったのかもね。
でも、どうしても私の初めてをもらって欲しかったから。お兄ちゃんに。
だから、策を弄しました。

622:クレイジー兄妹
07/09/24 12:06:13 Lcpy1mzV
でもでも、もうそんなことはいい。もっともっと、傍にお兄ちゃんがいればいい。
お兄ちゃんさえ、いればいい。
どうして気づかなかったんだろう。こんな簡単なことなのにね? 単純すぎて気づかなかったのかな?
お兄ちゃんさえ、いればいい。
ね? だから傍にいてね?
ずっと、ずっと私の事、離さないでね? お兄ちゃん。
[エリ……]
いなくなったりしないよね? 私の事、見捨てないよね?
いい子にするから。いい子になるから。なんでもするから。なんだってするから。
だから。
お兄ちゃん、私のこと見捨てたりしないでね。
いつまでも、いつまでも、いつまでもいつまでもいつまでもいつまでも。
ずっと、ずぅっと私の隣にいてください。

エリの言葉を聞いて俺の意識が遠のく。
これが俺のしてきたことなのか?
俺がエリを守ってきた結果が、コレなのか?
………………。
こんなの、誰に言われなくても不正解じゃないか。
俺は妹を守るという大義名分を掲げ、妹に依存し、妹を依存させていたというのか……?
依存。まさにそれじゃないか。
それで『妹が自立するまで見守る』だと……?
馬鹿だ。俺は本当に大馬鹿だ。
結果的に俺は妹を追い詰め、依存を深くしただけじゃないか。
もしかしたら。
妹は壊れていたのかもしれない。
俺が死ぬ以前から。あるいは俺が死んだから。
……いや。そんなことはない。まだ大丈夫なはずだ。
まだ修正は可能なはずだ。
そう信じるしかない。
………………。
だから。
俺は解決方法がわかってしまった。
依存をなくし、自立させるための、手段。
間違いなく卑怯で、どうしようもなく姑息で、たった一つ、唯一の手段。
それは―エリの依存対象の消失。
……俺の消失。

[よしわかった。お兄ちゃん、傍にいる。ずっとエリの傍にいるぞ]
ホント? 本当に? ずっと、ずっと傍にいてくれるの? 私の傍に?
[ただし、もうエリの目には俺は見えない。エリの耳には俺は聞こえない]
………………。
……え?
[もう、エリは俺のことに気づくことはない]
そんな。そんなそんなそんな。
そんなのは傍にいるって言わないよ?
どうして? そんなことを言うのかな? 言うのかな??
[でも、それでも俺はエリの傍にいる。見えなくても聞こえなくても、俺はエリの隣にいる]
そんなのって、そんなのって、そんなのって―。
[それでも消えるわけじゃない。本当だ]
そんなのって―ずるい。
ずるいずるいずるいずるい。
ずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるいずるい。
[首を振るな。泣きそうな顔をするな。信じろ、俺を]
ヤダヤダヤダヤダヤダ。
[俺が今までエリにウソを吐いたことがあるか?]
聞きたくない、聞きたくない、聞きたくない!
そんな言葉なんて聞きたくないよぉ!
……でも。

623:クレイジー兄妹
07/09/24 12:07:49 Lcpy1mzV
でも、でもでもでも、お兄ちゃんがウソをついたことなんて一度もない。
一度も。
[俺が傍にいるんならいい子になるんだろ? 何でもするんだろ?]
そんなの、そんなの酷い詭弁だよ。
詐欺だよ。ペテンだよ!
[いいな。俺が見えなくなってもしっかりやるんだぞ]
逃げるんだ。
[………………]
私のこと置いて、自分だけ逃げるんだ。
私のこと重くなったから、面倒見切れなくなったから、逃げるんだ。
そうでしょ? そうなんでしょう?
[………………]
否定してよ! そうじゃない、って言ってよ!!
これからもずっと傍にいるって、約束してよ!!
[……俺はずっと、エリの傍にいる。約束だ]
嘘吐き、嘘吐き、嘘吐き!!
もういい! もういい! もういいよ!!
キライキライキライキライキライキライキライキライキライキライ!!
大ッキライ!!
お兄ちゃんなんて、お兄ちゃんなんていなくなっちゃえ!!
消えてよ!! もう顔も見たくない!!
[それでも、俺はエリの傍にいるよ]
馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿馬鹿!!
大馬鹿野郎!!
[それじゃあな。元気でやるんだぞ]
消えて消えて消えて!!
なんだよ、なんだよ、なんだよ!
こんなことになるんなら、お兄ちゃんの声なんかにこたえるんじゃなかった!
お兄ちゃんの質問なんかに答えるんじゃなかった!! 本当のことなんていうんじゃなかった!!
失敗だよ! 大失敗だよ!!
あぁあ、もう嫌だ。嫌だよぅ。
お兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃんお兄ちゃん。
スキスキスキスキスキスキスキスキスキスキ。
嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!
離したくない、離れたくない、ずっとずっとずっと!!
お兄ちゃん!!
………………。
………………。
……え?
え、え、え?
本当に、消えちゃった……?
お兄ちゃん、消えちゃった…………?
やめて、やめてよぉ。
冗談、だよね?
消えちゃうなんて、そんなこと、しないよ、ね?
え? え?
わかんない。わけわかんない。
どうしよ、どうしよ、どうしよう。
ゴメンなさい、お兄ちゃん。
ゴメンなさい。ゴメンなさい。ゴメンなさい。ゴメンなさい。ゴメンなさい。ゴメンなさい。ゴメンなさい。
ゴメンなさい。ゴメンなさい。ゴメンなさい。ゴメンなさい。ゴメンなさい。ゴメンなさい。ゴメンなさい。
ゴメンなさい。ゴメンなさい。ゴメンなさい。ゴメンなさい。ゴメンなさい。ゴメンなさい。ゴメンなさい。
ゴメンなさい。ゴメンなさい。ゴメンなさい。ゴメンなさい。ゴメンなさい。ゴメンなさい。ゴメンなさい。
ほら、謝ったよ。
ゴメンなさい。ゴメンなさい。何度でも謝るよ。ゴメンなさい。ゴメンなさい。
あ、あぁぁ、謝り方が悪いのかな?
ほら、ど、土下座だよ。額も擦り付けるよ。…………ね?
も、申し訳ございません。もうわがまま言いません。キライだなんて永久に口にしません。
なんでもいうことききます。なんだって、なんだって、なんだって。
だから許してください。もうしません、もうしません。

624:クレイジー兄妹
07/09/24 12:09:24 Lcpy1mzV
―そんな妹の様子を見せられ、シスコンの俺が何もしないわけがない。
でもできない。
だから、俺はせめて―

―!

あれ? なんか、体が暖かい?
抱きしめ、られてる?
いるの? お兄ちゃん?
見えないし、聞こえないけど、ここに、いるんだね? お兄ちゃん。
私のこと、守ってくれているんだね?
そうなの?
……本当にそうなの?
それとも私、おかしくなっちゃったのかな? 狂っちゃったのかな?
でも、なんだか、判る。
……ああ、そうなんだ。
香り、お兄ちゃんの香りがするんだ。
見えなくても、聞こえなくても判るのは……、暖かく香るからなんだ。
………………。
お兄ちゃん、居るんだね?
ここに、私の傍にいるんだね?
抱きしめてくれてるんだね。
……アハハ。なんだか、笑えてきた。
どうしよう、涙も止まらないや。
そうか、そうなんだ。
本当に、人って嬉しいときも涙が出るんだね。
………………。
お兄ちゃん。
これからも、傍にいてください。

俺は妹の体から腕をそっと離す。
そして、目の前のアンタに話しかけるために立ち上がる。
「アンタ、最初に言ったよな。妹は俺がいなくてもやっていけるって。本当にその通りだ。確かに―」
―俺なんかがいないほうが、妹のためになる。
『よかったんですか?』
「ああ、これがたぶん俺ができる唯一の償いだろう」
逃げるわけじゃない。置いていくわけじゃない。捨てるわけでも、もちろんない。
「荒療治かもしれないが、依存を断ち切るための手段だ」
俺の妹が、俺の自慢の妹が、俺がいなくなる程度のことで壊れるわけがない。
壊れない、壊れるわけがない、壊れさせるわけにはいかない。
「あーあ、これで本当に孤独になっちまったな」
どうなんだろう。
これで本当によかったのだろうか? 
本当は逃げただけじゃないのか? 置いてきただけじゃないのか? 捨てただけじゃないのか?
手に負えなくなったから、怖くなったから、本当の姿を知ってしまったから。
………………。
違う、違うんだ。
コレが唯一の方法のはずなんだ。
「俺が心配しなくても、妹の周りには妹の味方がいっぱい居る。俺なんかに頼らなくても……」
それでも、そんな妹を作り出したのは、兄に依存する妹を作り出したのは間違いなく俺だ。
その責任は取らなくてはならない。
『そんな責任は存在しません。周りの異常な状況からアナタは妹を守ってきただけ』
たしかに妹を守ってきた。
親から親戚からクラスメイトから、周り全ての人間から。守ってきたはずだ。
それでも、よく考えず、妹の心理なんか考えず守ってきたツケは払わなくちゃならないはずだ。
『だったら最後まで、彼女が自立するまで責任もって、見守ってください』
そんなことでいいのか?
もう何もできない俺は、エリのことを見守ることしかできない俺の償いは、それだけでいいのか?
もっと、厳しい罰が必要なんじゃないか?
エリをあんなにしてしまった俺には。

625:クレイジー兄妹
07/09/24 12:11:18 Lcpy1mzV
『過保護なアナタには、手出しできない自分を歯がゆく思うくらいがちょうどいい。ちょうどいい、厳しい罰』
……確かにソレは歯がゆいかもしれないが。
『信じてください。彼女を。アナタの自慢の妹を』
………………。
信じる? エリを? 俺の妹を?
『できませんか? あなたが犯した行為の代償は、彼女自身が修正できるでしょう。アナタの自慢の妹はこれくらいじゃ、壊れません。
立ち直ります、きっと。今まで、自分を守ってくれていた兄の背中を見ていたのです。
今度は、アナタ無しでも歩いてゆける』
………………。
だが。
『それに、アナタ自身言ったじゃないですか。彼女にはもうたくさんの味方が居る。
彼女だけでは乗り越えられない壁でも、きっと、かの人たちが助けて乗り越えさせてくれる』
それじゃ、俺の責任放棄にならないか?
『まだ言ってるんですか? それに忘れていませんか? アナタが彼女を見守ることを言い出したんですよ?
責任? 責任ですって? アナタは、当の昔に死んだんです。
死んで初めて、依存体質の妹の少し奇矯な性質を見て、ようやっとそれに気づいたアナタが
それをなんとかしようと、責任を感じたり、修正を試みたりする。滑稽じゃないですか?
なんて馬鹿げた話でしょう。なんて粘着質な話でしょう。そして、なんて彼女に失礼な話でしょう。
彼女を馬鹿にしないで下さい。生きている人間をこれ以上馬鹿にしないで下さい。
死んだ人間が生きている、生きていく人間にとやかく言うのはナンセンスですよ?』
………………。
『信じましょう、彼女を。見守りましょう、いつまでも。それが、姿を消すのともう一つの
アナタにできる償いです。責任です。責務です。いいですか?』
俺は納得できないぞ。そんなんじゃ。
『別にアナタの納得など求めていません。それに何らかの大きな罰を受け、
それによって償うという根性だったら、そんなもの捨ててくださいね?
それは、そう例えば、最初から夏休みの宿題をせず、なんらかのペナルティーを負うことでソレを回避しようとする、みたいな卑しい行為ですよ?
そもそも第一、もう死んでしまっているアナタにこれ以上の罰なんて……。何をどうやって行えばいいというんですか?
馬鹿馬鹿しい。』
……地獄送りとか?
『はぁ? いい年して地獄なんて信じてるんですか? 冗談はシスコンだけにしてください』
シスコンは冗談じゃないぞ。本気だぞ。
『知ってますよ。あなたは本当に妹さんのことが“妹として”好きだったんですね』
………………。
『そして、妹さんはそうではなかった。ただ、それだけの話なのかもしれません』
……どうだろうな。
『妹さんはこれから最愛の人を亡くした、否、依存対象を喪失したことによる重荷を背負って生きていかなければなりません。
何年越しの苦行になるのか、見当もつきません。そして、あなたはそれをただ見守ることしかできない。
さっきから言っているとおりあなたにも相当辛い体験になるかもしれません。
でも、それでも信じて下さい。人間というものの―』

626:230
07/09/24 12:12:24 Lcpy1mzV
長らく垂れ流しを許容していただいたSSですが、
次回で完結です。
今しばらく、駄文にお付き合いください。

627:名無しさん@ピンキー
07/09/24 13:14:56 sGeh4hwJ
貴様……!
GJ


妹意外に黒いなwww

628:名無しさん@ピンキー
07/09/24 20:11:21 p+Lp/xR3
>>626
うん。面白かった。面白かったけどさ、この展開じゃ妹スレの方が相応しいんじゃないか?

629:名無しさん@ピンキー
07/09/24 22:26:44 /6QclrzQ
GJ!妹怖いよw

無口、妹、ヤンデレ、依存
すげえ、四つのスレまたげるぞ。

630:565
07/09/24 23:15:13 n82dSBuw
(´・ω・`) やあ。
今回の話には、グロテスクなシーンや暴力的な表現が含まれるんだ。
と言うわけで、それらのシーンが苦手な人はあらかじめ回避する事をおすすめする。
じゃあ、続きを始めようか。

631:『彼女』の呼び声 第四話
07/09/24 23:16:21 n82dSBuw
 持ってきた食べ物を二人で仲良く分け合って―食べた量は圧倒的に彼女の方が多いが―ふと仁は喉の渇きを覚える。
 そう言えば、食べ物は色々持ってきていたが飲み物を用意していなかった。

「ちょっと待っててくれ。そこの自販機で、何か買って来る」

 寄せ合っていた体が離れ、彼女がちょっと不満そうな声を上げる。
 宥めるようにその頭を抱き寄せ、額に優しくキス。

「すぐ戻って来るから。何か、飲みたいものはある?」

 仁の問いに、少女は小さく頭を振った。

「そっか。じゃあ何か適当に買って来るよ」

 そう言って、仁は公園の入り口へと駆け出した。


 真夜中にもかかわらず、煌々と明かりを湛えた自販機に硬貨を投入。
 続けて迷う事なくボタンを押せば、自販機は堅く重い音をたてて、炭酸飲料の缶を吐き出す。

「さて、何にしようかな?」

 彼女には何を買って行くべきか。腕を組み考える。
 やはり女の子だし、甘いミルクティが良いだろうか。
 それともさっぱりと緑茶か。あるいは仁と同じものが良いか。

「うーん。悩むな……」

 口先では困ったように言いながら、しかし仁の表情は緩んでいる。
 どんな飲み物を買って行くか。そんな他愛のない選択すら、とてつもなく楽しい。
 ほんの一週間前まで、自分がこんな風に甘い時間を過ごすなど考えたこともなかった。

 楽しいのは直接一緒にいる時だけではない。
 夜、眠りに着く前は抱き締めた彼女の柔らかさと温かさ、そして楽しかった時間を思い返し、朝は今日は彼女とどんな一日を過ごすのだろうと夢想する。
 普段の生活にも張り合いが出て、学校でクラスメイトと話すことも多くなった。

「ホント、不思議な娘だよな……」

 ただ一緒にいるだけで、こうまで自分を変えて行く。
 だが、変化は決して不快なものではなく、むしろ変わって行くことが心地良い。

「―と、あんまり待たせると怒られるな」

 我に返ると、わずかな逡巡の後、ミルクティを選択。
 転がり出た缶と、長らく持っていたせいで軽く水滴の付着した炭酸飲料の缶を抱え、仁は急ぎ彼女の元へととって返そうとした。

 その時だ。夜気を切り裂く、不快な排気音が響き渡ったのは。

632:『彼女』の呼び声 第四話
07/09/24 23:18:20 n82dSBuw
 それは、このあたりでも有名な不良達だ。
 珍妙な改造を施したビッグスクーターに、だらし無く着崩した服。
 珍走団と呼べるほど規模こそ大きくないものの、やっていることは彼らと大して変わらない。
 万引き、恐喝、暴行、そして強姦。
 被害の報告こそ多いものの、しかし巧みに逃げ回り、現行犯で捕まることはめったにない。

 そう言えば、少し前までこのあたりは彼らの溜まり場だった。
 警察が見回るようになって一時期は姿を消していたが、どうやら戻ってきたらしい。

 音自体はやや遠い。おそらく仁のいる場所からはちょうど反対側だろう。
 が、彼らがもし、真っ直ぐに公園の中心へとやって来れば―彼女が、危ない。
 そのことに気づいた瞬間、仁は可能な限りの全力で、彼女の元へと急ぐ。


「ねえ君。こんなところで何してんのぉ?」

 髪の毛をけばけばしい金色に染めた、前歯の数本欠けた少年が、にやにやと笑いを浮かべながら、少女の顔をのぞき込む。

「あれじゃない? 家出中」

 スクーターのサイドスタンドを立てながら言うのは、同じく金髪の少年。こちらは前歯は揃っているが、代わりに酷いニキビ面だ。
 ニキビ面の言葉に、歯欠けは笑って、

「ひょっとしてここで野宿でもするつもり? だったら俺達が泊まれるところに連れてってやるよ」
「大きなベッドにシャワーもあるしね」

 歯欠けとニキビが言いながら、近寄ってくる。
 もう一台のスクーターに分乗していた少年たちも、少女の逃げ道を塞ぐように並んだ。

「な、いいだろ?」

 少女の腕を掴んで強引に立たせる。それは誘いではなくより強制だ。
 だが、不良達に囲まれてもなお、彼女は声ひとつ上げないし、怯えた様子も見せない。

「なあ。こいつ、ひょっとしてアレか?」

 反応を欠片も見せない彼女に、後から来た少年の一人が、その頭を指さしくるくる回す。

「だったらむしろ好都合じゃん。さ、行こうぜ」

 と、不意に彼女が声を上げた。
 言葉というより異音に近い、名状し難い声。
 本能的にその異質さを感じたのか、思わず不良達が手を放す。
 仁が駆け戻ってきたのはその時だ。

「待たせたな。じゃあ、行こうか」
「――♪」

 回りを意識しないような自然さで彼女の前に行くと、その手を掴んで歩きだす。
 割合優等生な仁は、喧嘩の経験などほとんど無いし、トラブルに巻き込まれそうな場所にはめったに近寄らない。
 だから、出来る限り刺激しないように、駆け足にならないように速足で。
 が、不良達が呆気に取られていたのはほんの一瞬だった。

「おいおい、どこに行くんだよ?」

 肩を思いっきり掴まれる。さすがに鍛えているのか、掴まれた箇所に痛みが走った。

「いや、まあ……その……」

 視線を合わせないように曖昧に答える。

633:『彼女』の呼び声 第四話
07/09/24 23:18:59 n82dSBuw
「ああ? 聞こえねぇよ! もっとはっきり言えよ!!」

 恫喝するように大声を上げる歯欠けを宥めたのは、意外なことに仲間のニキビ面だった。

「まあまあトシちゃん。ほら、眼鏡君がびびってるよ」

 確かにニキビ面の言うとおり、精一杯の虚勢を張りながらも仁の足は細かく奮えている。
 が、だからといって屈する訳には行かない。―彼女を守らなければならないから。

「いや。悪いね、眼鏡君。こいつ、見ての通り馬鹿でスケベだからさ」
「んだと、だれが馬鹿だっ!?」

 ニキビ面の言葉に歯欠けが顔を真っ赤にして怒鳴る。
 が、ニキビ面は構わず、

「僕らはただ、楽しく仲間で遊びたいだけだからさ。邪魔しないならとっとと帰っていいよ」

 それは願ったり叶ったりだった。元より、こんな奴らに好き好んで関わるつもりはない。
 仁は彼女の手を引いたまま、急いで歩きだそうとして―次の瞬間蹴り飛ばされた。
 力任せに叩き込まれたつま先が脇腹に突き刺さり、思わず仁は肺の中の空気をすべて吐き出し悶絶する。
 倒れた仁の体を踏み付けながらにやにや笑いを浮かべてるのは、彼を蹴り飛ばした張本人。ニキビ面の少年だ。

「わかってないなぁ、眼鏡君。言っただろう? 僕はみんなで楽しく遊びたいって。
―みんなで、この娘とね」
「ひゃははは、そう言うことさ。眼鏡君は帰ってアニメでも見てな!」

 歯欠けや他の少年もゲラゲラと笑う。
 駆け寄ろうとした彼女が少年たちに阻止され、そのまま芝生の方へと引きずられる。

「じゃあね、眼鏡君」

 とどめとばかりにもう一度つま先を叩き込み、ニキビ面も仲間達の元へと歩いて行く。
 痛みと涙に滲む視界に映るのは、少年たちの体越しに見える、芝生に押し倒された彼女の姿。
 ―瞬間、仁の中で何かが切れた。

 自分でもなんと言っているか分からない滅茶苦茶な叫びとともに、ニキビ面の後頭部目がけ、手にした炭酸飲料の缶を投げ付ける。
 後頭部にジャストミートした缶は、圧力が限界に達したのか命中地点で破裂。周囲に内容物を撒き散らす。
 その光景に、少年たちの動きが止まった。

「ぶわはははっははは! マーちゃんマジうける!!」

 歯欠け達が指をさして爆笑するが、ニキビ面の少年は当然のごとく笑わない。
 ただ、奥歯を噛み、仁の方を振り返るとただ一言。

「―ぶっ殺す」

 それからは、一方的なリンチだった。
 元より喧嘩などめったにしない優等生だ。一対四では敵うはずもない。
 正確には、彼らの一人は少女を押さえ付けていたから一対三だが。


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