無口な女の子とやっちゃうエロSS 2回目 at EROPARO
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250:名無しさん@ピンキー
07/07/07 06:40:13 qF8F0BcQ
続き待ち保守

251:230
07/07/08 17:47:46 GzuXLU2D
申し訳ございません。
これより、投下させていただきます。
前回より長い上に、エロも少な目かもしれません。
それでも構わないという方は、片手間にでもお読みください。
それでは、本文です。

252:彼女の事情と僕の慕情
07/07/08 17:48:50 GzuXLU2D
それから彼女から連絡があったのは、あの花火の夜の三日後だった。
僕はその日はバイトが休みで、朝から自室でゴロゴロとしていた。
一応言っておくが、ただゴロゴロしていたわけではない。
『家庭の医学大百科』なる書物で調べ物をしていたのだ。
調べていたのは当然、彼女の持病。
しかし、この本が古いからか、それとも彼女の持病はよほど特殊なのか、残念なことに
この本には彼女の持病については触れられていなかった。
ちなみに、何故三日後の今、調べているかというと、僕は小さいころから本を読んでいると
眠くなってしまう体質だからだ。だから、バイト前には読めないし、バイトの後に調べると、簡単に眠ってしまう。
だから、バイトが休みの今日、気合を入れて本を開いたのだが。
しかし、睡魔は目の前に来ており、意識の陥落は目前。
そのときだった。
僕の滅多にならない携帯がなり、半分眠りかけていた僕は一瞬混乱しながらも、それに手を伸ばした。
表示されたのは、知らない番号。
訝しみながら、とりあえず電話に出てみる。
「はぁ〜い、もしもし」
「………………」
無言電話かと思った。
しかし、耳をよくすませてみれば、雑多な音に混じりかすかに人の声がする。
そして、その声は待ち望んでいた声でもある。
「ああ! あなたでしたか。お久しぶりです」
「………………」
「いえいえ。ちょうど今、暇していたところなんですよ。あなたも?」
「………………」
「ああ、そうなんですか。へぇ〜…………」
「………………」
「………………」
会話が途切れてしまった。
「(なにか、なにか話題はないか!!)」
僕は必死に頭の中を探り、目を部屋中にいきわたらせ、何とか活路を見出そうとする。
しかし、無常にも救いの手は何処にもなかった。
「(くっ、これだから、馬鹿は救いようがないというのだ!!)」
自分の無能さが吐き気がするほどイヤになる。
しかし、救済は意外な方向から訪れた。
「………………」
「はい? 今、なんて……?」
「………………」
―お暇でしたら、一緒に街で遊びませんか?
そう聞こえた。
確かに、そう聞こえた。
「はい! はいはい! はい!! 喜んで!!」
「!……………」
いきなりの僕の大声に少し驚きながら、彼女は笑った。……ような気がする。
「今何処に居るんですか? え? 駅前? わかりました、直ぐに―」

それから僕は、音の速さで身支度を整え、光の速さで待ち合わせ場所に直行した(誇大表現)。
待ち合わせ場所の、何を意味しているのかよくわからないモニュメントの前。
僕は、待ち人を探す。
どうやら、自分のほうが早く着いてしまったらしい。
しょうがなく、近くのベンチに座る。
「―!? おぉ?」
すると、間違いなく空席だったベンチの端に彼女が座っていた。
「(あれ? さっきまではいなかったのに……)」
見落としていたのだろうか?
というか、そうとしか考えられないが……。
気を取り直し、とりあえず、挨拶。
「お久しぶり、というのもなんですが、こんにちわ。待たせてしまいましたか?」
彼女は僕を見て、(気のせいかもしれないが)少しだけ顔を明るくした。
そして、丁寧に頭を下げた。

253:彼女の事情と僕の慕情
07/07/08 17:50:00 GzuXLU2D
「………………」
「え? 飛んできた? あぁ、今ちょうど来たって意味ですか。なるほど」
「………………」
「………………」
沈黙。
「(いかんいかん。コレでは電話の二の舞だ)」
そう思った僕は、カバンの中から情報雑誌を取り出すと、彼女に見せた。
彼女は不思議そうにそれを見つめる。
「実は、今日は映画を見ようと思いまして。それでこれを持ってきたんです」
「………………」
「『エイガって何ですか』? え? 見たことも聞いたこともありませんか? イヤ、
怒ってないですよ。……そうですか。ええっとですね。映画というのは……」
彼女に説明しながら考える。
「(そうか。彼女病弱だから、家とか病院から出たことがないのかも。知らないのは無理もないか)」
勝手に結論付けながら、説明を終了させる。
そして、情報誌の映画の一覧のページを見せる。
「なにか見たいのはないですか……って、映画の事知らないんじゃ、選びようがないですよね……。いや、怒ってないですって」
彼女はまるで、初めて見たかのように雑誌を見つめる。
そして、そこに書かれている映画の紹介文をたどたどしく読み始めた。
「………………」
「そうですね。それは戦争モノです」
「………………」
「え? あぁ、戦争モノっていうのはつまり―」
彼女に一つ一つの映画を説明する。
驚くほど何も知らない彼女に何かを教えるのは、妙な優越感に浸れて、少し気分がよかった。
そして、とうとう映画紹介のページが終わる。
僕はとりあえず、彼女の希望を聞いてみる。
「なにか、面白そうなもの、ありました?」
「………………」
彼女が少し遠慮がちにページの一部分を指差す。
そこには。
「……えー、と。なになに『俺たちの大悪魔図鑑・虐殺屠殺なんでもござれREMIX 注:R−18指定』
………………、ん?」
………………。
なにか誤解があったようだ。
僕はもう一度彼女に聞きなおした。
すると、彼女はやはり『俺たちの大悪魔図鑑・虐殺屠殺なんでもござれREMIX』を指差した。
………………。
「え〜!? こ、コレが見たいんですか?」
彼女は大きく、何度もうなずいた。
「ち、違うのにしましょうよ。コレなんてどうです? この恋愛映―」
「……………!」
僕が言い終わらないうちに却下されてしまった。
どうしよう。
できるだけ、彼女の期待にはこたえたいが……。
しかし、『俺たちの大悪魔図鑑・虐殺屠殺なんでもござれREMIX 注:R−18指定』だ。
どんな映画なのか、想像もできない。
なぜかコレだけには写真も紹介文も載ってないし。
それでも、彼女はコレを見たいという。
僕はほかにも面白そうな映画をピックアップして、薦めてみたが、結局、全て却下され、僕たちは
『俺たちの大悪魔図鑑・虐殺屠殺なんでもござれREMIX 注:R−18指定』を見ることになってしまった。

まだ上映まで時間があるので適当に店をぶらついてみる僕ら。
周囲の人たちの視線がいたい。
何しろ、天女のような美人と、猪八戒のようなブ男のコンビだ。
目を引かないわけがない。
彼女はそんなことには全く頓着せず、足元のタイルに集中して歩いている。
僕は少しだけ鼻高々だった。
なにしろ僕はこんな彼女と『友だち』なのだから。
一緒に歩くことができるのだから。

254:彼女の事情と僕の慕情
07/07/08 17:51:09 GzuXLU2D
それでも、不意に不安に駆られた。
「(本当に僕なんかでいいのだろうか)」
それは彼女と知り合ってずっと付きまとう恐れだった。
僕のようなどうしようもない男が彼女の隣に居ていいのだろうか。
知らず、大きなため息をついてしまう。
そして、ふ、と気づく。
「(イカン、イカン。ため息なんかついたら彼女に失礼だ)」
誤魔化すように、僕は彼女を誘った。
「あと少し時間もあることですし、あの文房具屋に入ってみませんか?」
彼女は頷いた。
文房具屋に入った僕は、そのお洒落なデザインの商品に圧倒された。
そうした鋏やらペンにはべらぼうな値段がついている。
「(こりゃあ、ちょっと場違いなところに入っちゃったかな……?)」
こっそり、彼女の顔色を伺う。
彼女は興味深々な表情で、文房具たちを見ている。
どうやら何の気兼ねもしていないようだ。
そのことに僕は安心する。
そして僕らは、店の中の比較的日常的な、つまり安めな商品がおいてある一角に足を進めた。
「(ここらへんは特に面白いものもなさそうだ)」
適当にぶらついて、そろそろ店を出よう。
そう考えたときだった。

クイッ。

袖が引っ張られる。
見ると彼女が足を止め、一心に何かを見つめていた。
「どうしたんです?」
「………………」
彼女は目の前の何かを僕に差し出した。
それは、一冊の黒いノートだった。
ディフォルメされた骸骨が描かれた、どちらかというと子供向けのノート。
彼女はソレを真剣な眼差しで、見つめている。
まさか。
「……欲しいんですか? ソレ」
彼女は少し泣きそうになりながら頷く。
どうやら、本気のようだ。
ま、ノート一冊ぐらいだったら。
「買ってあげましょうか?」
彼女は目を見開き、首を振る。
「……………!」
「そんな遠慮しなくてもいいですよ。今日付き合ってくれたお礼ってことで」
それでもなお、彼女は首を振る。
「大丈夫です。それ一冊買うくらいは余裕ありますから」
僕は強引に彼女からノートを奪い取ると、袖を引っ張り引きずる彼女を放置しながらレジに向かった。
「×××円です」
よかった。
値段は見ていなかったが、どうやらそんなに高い代物ではなかったようだ。
僕は安堵しながらお金を払った。
そして、品物を受け取るとそのまま店から出る。
まだ僕の袖を引っ張ったままの彼女に向き直ると、袋に入ったノートを彼女に手渡した。
「どうぞ」
「………………」
そっぽを向き、彼女は受け取らない。
どうやら、勝手にお金を払ったのがいけなかったらしい。
僕は苦笑しつつ、彼女の手にノートを握らせた。
「コレは、今日、僕にお付き合いいただいたお礼です」
「………………」
彼女は僕の袖から手を放し、両手でノートを掲げるようにして持つ。
「僕のお礼の気持ち、受け取ってもらえませんか?」
ちょっと卑怯な言い回しかもしれない。

255:彼女の事情と僕の慕情
07/07/08 17:52:04 GzuXLU2D
そんなことを考えてた僕が見たのは、気持ち微笑み、頭を下げる彼女の姿だった。
「………………」
「お礼の言葉なんて要りませんよ。さ! もうそろそろ映画の上映時間です。急ぎましょう」
僕は威勢のいい言葉とは裏腹に、ドギマギしながら彼女の手に触れようとする。
すると、吹っ切るように頷いた彼女は、僕の思慮なんて構いもせず、堂々と僕の手を握ってきた。
そして、足早に歩き出す。
僕は赤くなりながら言った。
「もしもし、映画館はそっちじゃなくて、反対方向ですよ」

何とか上映時間までに映画館についた僕たちは、一も二もなく券の販売窓口に寄り、指定された座席へと急ぐ。
もうすでに上映会場は暗く、何らかの予告が流れ出していた。
僕たちはなるべく足音を立てないように上を目指す。
しかし、そんな遠慮は無用だったようだ。
スクリーンの光を反射する座席には、人っ子一人いなかったのだから。
「(ま、『俺たちの大悪魔図鑑』だもんなぁ)」
納得といえば、納得の結果に僕は内心苦笑した。
目当ての座席までたどり着いた僕たちは、並んで座った。
ちょうど、予告が終わり、本編が始まるところらしい。
ふ、と隣の彼女を見る。
彼女は本腰を入れた表情でスクリーンを見守っている。
「(これで面白かったらいいんだけど……)」
いよいよ始まった本編映画は、ただただ赤かった。

「(なんで、こんなことになっているんだろう……)」
僕は便器の上に座り、呆然と考えた。
ズボンは足までずり下げられ、下半身がほぼ完全に露出している。
そして、本来一人ではいるべきその個室には
「ん……じゅる、れろ…………んん、はぁ」
熱心に僕のペニスをしゃぶる彼女の姿があった。

結局、僕は映画の全編を手で目を覆い隠しながら見過ごした。
時々大音量で何かの奇声が聞こえ、いい加減気分が悪くなる。
地獄のような責め苦が続き、ようやく映画は終了した。
僕は隣の彼女を見て、感想を聞こうとした。
しかし。
「どう―」
彼女は僕の手を掴むと、猛然と駆け出したのだ。
何らかのデジャブを覚えながら、僕はなされるがままだ。
そして連れ込まれたのが、男性用の個室トイレ。
彼女は僕を立たせると、そのままズボンを脱がし、座らせた。
「(もしかして、また持病が―)」
なんて思う暇もなく、彼女は僕の性器を咥えた。

「ん……やっぱり、持病が、出たんですか?」
僕は性器に与えられ続ける感触に耐えながら、聞いてみた。
彼女はペニスを口から離し、僕の顔を見て頷いた。
「………………」
謝る彼女。
僕は苦笑しつつ答える。
「謝る必要はないですよ。むしろこちらこそ謝りたい気分です」
「……………?」
不思議そうに聞いてくる彼女。
しかし、僕は答えなかった。
僕からの答えがないことを悟ると彼女はまた性器を咥えた。
先端部分に吸い付き、口のかなの性器を舌でなぶる。
「ん…………ちゅる。れる、ちゅぱちゅぱ」
「くぅっ……」
「ちゅく、ちゅくくっ……ん、んんんっ、ちゅぷぷ……」
舌先を使い、敏感なカリ口を攻めてくる。
そして、そのまま舌をおろしサオの部分を舐める。

256:彼女の事情と僕の慕情
07/07/08 17:52:51 GzuXLU2D
敏感なところから、鈍感なところに攻めが変わり、僕はもどかしくなる。
しかし、僕の気持ちとは裏腹に、彼女は舌先だけを使い、僕を追い詰めようとする。
そのじらすような動きに僕は我慢できず、腰を前後に動かす。
「!……………」
彼女はその積極的な動きに動揺したようだが、直ぐにソレに慣れると、腰の動きに同調して舌を動かす。
「ぴちゃ、れる………………んちゅっ」
「ふ……ぁ」
彼女の小さな舌がペニスの側面を這いまわり、僕はその気持ちよさに思わず小さくため息をついた。
「んん……れろ、れろれろっ……んふっ、ちゅぴぴ………」
舌がだんだんと先端に近づき、とうとう亀頭にいたる。
「く、ぅ………」
「はぷ、んむ………んっ、れるれる………ぴちゅ」
しかし、僕の期待を裏切るように、舌は直ぐに裏に回り、裏筋を辿る。
それも声が出るほど気持ちがいいのだが……。
「ん、気持ちいい……んですけど、そろそろ、あの、しゃぶって―」
彼女は上目遣いに頷くと、その小さな口で剛直を飲み込んだ。
「んっ、んんっ、んぷぷぷ……っ」
ペニスが、亀頭の先から順番に柔らかい粘膜に包まれていく。
全ては入り込めなかったが、彼女はかなり深いところまで咥え込んでくれた。
「んふぅ、んん……ちゅむっ……ちゅぶ……」
「くぅ……」
ペニスと唇の間から漏れ出した唾液を塗りつけながら、彼女は強く吸い付いた。
その滑らかさと吸い上げに、腰が震える。
「フフ………ちゅるっ、ぢゅる………ぢゅるる、ぢゅちゅちゅちゅ………!」
「? いま、笑いませんでした?」
「………ちゅ、ヂュッ、ちゅう、チュウウウ………」
彼女は返答する代わりに、ひと吸いごとの加減を変えてきた。
緩急をつけて唇を狭め、ペニスに緩慢な刺激を送ってくる。
誰もいない男性トイレにイヤらしい音が響く。
その音に、僕はトイレでこんなことをしているのだという認識でさらに興奮した。
「す、すごい………」
「ちゅぽっ、フフフ………れろれろ………」
「今確かに笑いましたよね?」
彼女は亀頭を舌の裏で嘗め回しながら、こちらを見た。
………なんだか彼女の瞳の色がおかしい。
あれほど真っ黒だった彼女の目が、なぜだか暗い深紅に見える。
「あ、あの………」
問いかける僕を無視するように、ペニス全体を舌で刺激しながら、口内を動かす。
柔らかい頬の粘液や舌がペニスの敏感な部分に当たり、僕のペニスがさらに大きくなる。
「んぷっ、んむっ、ぢゅぢゅぢゅぢゅぢゅぢゅ………!」
止めを刺すような大きなバキューム。
いつのまにか限界まで上り詰めていた僕の官能が終わりを迎える。
「うっ、で、出ます……!!」

ビュブッ!! ドビュッ、ビュビュッ!!

「はぁう。……ん、んん。ぺちゃぺちゃ……」
射精中に、彼女は先端を嘗め回した。
敏感になっていた僕の性器は、完全に精液を出し終える。
「(くっ………まただ!)」
僕の体が異常を訴える。
頭が白く染まり、全身を削られるような脱力感。
力が抜け、僕はだらしなく後ろに倒れこんだ。
彼女は精液を舐めとっている。
僕は意識がかすむのを感じる。
完全に僕の視界が落ちる瞬間。
「………………」
―ごめんなさい。本当に、ごめんなさい。
確かにその時、彼女は謝っていた。

257:彼女の事情と僕の慕情
07/07/08 17:53:51 GzuXLU2D
息苦しい。
それで僕の意識は覚醒に向かった。
どうやら、濡れたタオルが顔の全体を覆っているようだ。
「って、殺す気か………!!」
僕は慌てて、そのタオルを放り投げた。
「!……………」
そのタオルが向かった先。
そこには彼女が居た。
「って、ええ!? こ、ここは!?」
見慣れた布団、見慣れた本棚、見慣れた台所。
どう見てもそこは、僕が一人暮らしをしているアパートだった。
僕は混乱する。
「え、ええ……!? なんで、なぜ、ホワイ? ぼ、ぼくは……」
体を起こそうとする僕。
しかし、急激なめまいが僕を襲い、すぐさま僕は仰向けに倒れる。
たったそれだけの運動で、僕の息は上がり、喉は痰が絡まり痛い。
彼女が心配げにこちらを見ている。
僕は気持ちを落ち着けるため、深呼吸した。
寝たまましたので、効果があったかどうかはわからないけれど、とりあえず息は落ち着いた。
そして、この現状を一番知っているはずの人間に事情を尋ねることにした。
その人間とは、もちろん。
「………………」
彼女は心配そうに、こちらを見つめている。
僕は彼女を安心させるために無理やり笑顔を作った。
「大丈夫です。心配はいりません」
「………………」
彼女は俯き、謝罪の言葉を呟いた。
「? なんであなたが謝るんですか?」
「………………」

彼女の説明によると、僕はトイレの個室での一件の後、気を失ってしまったようだ。
驚いた彼女は、とりあえず僕を背負い、映画館を出たのだという。
「……それからどうしたんです?」
「………………」
途方にくれた彼女は、街中のベンチに僕を寝かせ、様子を見ることにした。
すると、僕は意識を取り戻し、『家に帰る』と盛んに繰り返しだしたのだという。
心配になった彼女は、僕に付き添い、この家までたどり着いたのだ。
「……そんなことがあったんですか」
「……………?」
―覚えてないんですね?
「……ええ、まったく記憶にないですね。最後の記憶はトイレの中です」
「………………」
彼女はすまなそうに頭を下げる。
「いえいえ! あなたが悪いんじゃない。なにか調子が悪かったのでしょう」
たぶん。
というか、それ以外考えられない。
それでも彼女は頭を下げる。
僕は無理やり上体を起こすと、彼女に向き直った。
「あなたの持病は、あなたの持病。僕の不調は、僕の不調。分けて考えましょう、ね」
彼女は、く、と顔を上げると、僕に抱きついてきた。
まだ力が入らない僕は、そのまま彼女に押し倒される。
いきなりのことに、僕の顔は一瞬で沸騰する。
「ちょ、ちょ、な、な、なんですか〜!?」
「………………」
彼女は僕の胸に顔をうずめたまま小刻みに震えていた。
「……もしかして―」
言いかけた僕は口をつぐみ
「(―泣いているんですか?)」
心の中だけで呟いた。
それに答えを示すように、僕の服の胸の部分が濡れた。

258:彼女の事情と僕の慕情
07/07/08 17:55:00 GzuXLU2D
その日、彼女は僕の看病のためといって一晩泊まった。
もちろん一人暮らしの僕の部屋に予備の布団なんていう贅沢なものはない。
だから、一緒の布団に寝ることになってしまったのだが……。
正直、そのことに僕は興奮したが、しかし、体は言うことを聞かず、日が完全に傾く前に僕の意識は落ちてしまった。
翌朝、起きると彼女は適当な朝食を作ってくれた。
本当に適当な朝食で、その手抜き加減は田舎の母親を思い出させてくれたけど、
単純なその料理は、一人暮らしが続いていた僕の胸には結構響いた。
「………………」
彼女が感想を聞いてくる。
当然僕は絶賛した。
安堵したように彼女は吐息を漏らす。
「………………」
ここで衝撃の告白。
どうやら彼女、料理は始めてだったらしい。
「ん? っていうか……」
一人暮らしをしているのに料理をしたことがない?
どういうことかと彼女に尋ねてみる。
彼女は少しだけバツが悪そうに顔をしかめ、俯き加減に言った。
「………………」
―私、小食ですから。パンだけでも足りるんです。
「(しまったぁ! 彼女は病弱なんだった!!)」
失念していた。
そりゃそうだ。小食だったら、買ってきたものとかでも足りるじゃないか。
僕はなんと言う無神経な質問をしてしまったのか。
「(―いや、待てよ……)」
病弱なんだったら、なおのこと栄養なんかに気を使わなければならないんじゃないのか?
それを、買ってきたものとか、パンとかだけで足らせていいのだろうか?
「(否。よくない!! 僕が彼女のことを何とかしなくては!)」
僕は一大決心をして、彼女のほうに向き直る。
「あの……!」
「……………?」
不思議そうな彼女の顔。構わず僕は言い放つ。
「もしよろしければ、これから僕の家に食事を食べにいらしてください。……ちょくちょく」
少し驚き、なお不思議そうな彼女の顔。
「あの、その、僕、料理とか結構できますから。一人暮らしとかも長いですし、……どうですか?」
「………………」
―あなたがお料理上手なのと、私が一緒にお食事をすること、何の関連が?
ぐうっ。
そう突っ込まれると……。
僕は「(ここまできたら、破れかぶれだ!)」とさらに踏み込む。
「ええっと、とにかく! あなたと食事がしたいんです。ダメ、ですか?」
彼女は少し困惑した表情になる。
「(っていうか。僕って相当、キモいぞ……)」
内心、凄く反省する。
だが、口に出してしまった言葉は、喉に戻ることはない。
彼女の裁定を震えながら待つのみだ。
そして、彼女は僕のほうを再び見つめてきた。
「………………」
それは、……肯定の返事だった。

それからちょくちょく彼女は僕の家を訪れるようになった。
バイト終わりに彼女から連絡があり、街中で待ち合わせ。
それから一緒に買い物をして、帰宅。
そのあと、僕は調理を、彼女はその手伝いをする。
そして、一緒に食事をして、そのあと―。
たびたび彼女の発作が起こった。
僕はその都度、彼女に弄られた。
でも、彼女が体を許してくれることはなかった。
いつも、口か手、あるいはスマタとか。
行為の後、僕は必ず気絶するようになった。

259:彼女の事情と僕の慕情
07/07/08 17:55:55 GzuXLU2D
軽いときには一時間。重いときには翌日の昼までかかるということもざらだった。
だんだん僕はバイトに遅れたり欠勤したりするようになった。
そして、とうとうある日、僕はバイトを首になった。
もともと夏休み前後の短期のバイトだったから、特に問題はない、と思ったけど、ショックなことはショックだった。
でも、彼女には正直に言えず、『バイトは自分から辞めた』といって誤魔化した。
また彼女が自分の発作のことを責めないように。
彼女はその埋め合わせをするように、僕と長い時間一緒に居るようになった。
僕はそのことがとても嬉しくて楽しかったのだけれど、彼女が何を思ってそうしてくれたのかは判らない。
彼女との時間が増えても、やっていることは変わらない。
買い物をして、食事をして、たまに行為に及ぶ。
そのことに本を読んでぼんやりすごすとか、どこかに行って遊ぶとか、そんな時間が追加されただけ。
それでも、僕は幸せだった。
ただ、心配なのは、彼女の食事の量。
彼女は僕の三分の一以下の量しか口にしなかったし、どうやら、夜中にソレさえも吐いているようなのだ。
『これはイカン』と食事に気を配り、手をかけてみたけれど、ソレと反比例するように、彼女の食事量は減少した。
だからといって、彼女が変わったか? というと、そうでもない気がする。
むしろ、僕との時間が多くなるたびに、彼女は元気になって言ったような気さえする。
まぁ、そんな日がいつまでも続くと考えていた。
―あの日までは。

260:230
07/07/08 17:57:31 GzuXLU2D
とりあえず、今回は以上です。
お目汚しですが、まだ続きます。
よろしくお願い申し上げます。

261:名無しさん@ピンキー
07/07/08 19:41:46 50n/AHCP
GJです!なんつーか、起承転結の承にあたる部分て感じ。次は転かな?

262:名無しさん@ピンキー
07/07/08 20:11:37 Ju5qksHQ
>>260
ナイスやでほんまGJ!
罰、悪魔、栄養摂取から核心に迫りつつありますね?
しかしどっかで擬し感があるってさっきからずぅーと調べてたのだが
数年前に同人ソフトで出た蜜牢だ…どうでもいいですね♪

きっとなにか見せてくれるだろうから、それを楽しみに待つぞぃ


263:名無しさん@ピンキー
07/07/08 22:13:17 BMEwB5eb
GJ!
幸せなのと反比例して命を削られていくという
退廃的な雰囲気はたまらんですわ

264:名無しさん@ピンキー
07/07/09 01:24:33 8d1RQYtY
GJ!
読んでてゾクゾクしまさぁねw
しかしヒロイン、なんてゆーかこう……サキュバス?

265:名無しさん@ピンキー
07/07/09 02:32:51 oPLd+SgQ
なんたこのwktk神作品は・・・・GJ!

266:名無しさん@ピンキー
07/07/09 02:34:02 oPLd+SgQ
またミスた。age

267:名無しさん@ピンキー
07/07/10 00:52:22 gZz6S4KR
シャンブロウ?

268:230
07/07/11 14:13:21 ICGccihB
これより、投下させていただきます。
前回並みに長い上に、エロも御座いません。
申し訳御座いません。
それでも構わないという方は、片手間にでもお読みください。
それでは、本文です。

269:彼女の事情と僕の慕情
07/07/11 14:14:42 ICGccihB
それは彼女と出会って、ちょうど一ヵ月後のある日のことだった。
僕は前日の彼女との行為で、いつものように意識を失って、気づいたら夕方だった。
だんだん、気絶している時間が長くなっている。
「(病院には行ったけど、健康体そのものだって言われたしな……。なんなんだろう)」
そんなことを考えながら、部屋の中を見渡す。
どうやら彼女は出かけていて、今、部屋には僕一人のようだった。
「(買い物にでも行っているのかな?)」
そんなことをぼんやりと考え、ふとテーブルの上を見る。
そこには、いつか僕が彼女にプレゼントした骸骨のイラストのノートが乗っていた。
「(あれ? 出しっぱなしだ)」
いつもは彼女の私物が入っているらしい段ボール箱の中に収められているソレが、どういうわけか真っ直ぐに置かれていた。
まるで、僕が中身を見るために差し出すように。
「(イヤ。それはマズイだろう)」
彼女がたまに真剣な顔で何かを書き込んでいたのは知っていた。
ふざけて覗こうとしたとき、彼女の機嫌を酷く害したのを覚えている。
「(イカンイカン。彼女に対して失礼だ)」
そう思いながら、ノートから目が離れない。
そのとき。
開けていた窓から突風が吹き込み、閉じていたノートがめくられる。
「(!!)」
瞬間目を逸らし、しかし、再び視線はノートへ。
「(イカンイカン。と、閉じなくては……)」
そう思いながら、しっかりと、目はノートの字を捉える。
……捉えてしまった。
「(? なんだ? この文字……)」
そこには今まで見たこともない記号、文字らしきものがつづられていた。
しかし、全く意味不明なその記号は、奇妙なことに、僕がその羅列を追うと、そこに書かれている内容が頭に浮かぶ。
まるで、語りかけてくるような不思議な感覚。
僕はノートが彼女のものだというのを半分忘れながら、最初からソレを読み始めた。

『彼と出会ってしまったのは、運命なのだろうか、それとも単なる偶然なんだろうか?
 私にはわからない。
 それでも、彼に出会わせたのが神様とかの気まぐれなんだったとしたら、私は感謝したほうがいいのだろうか?
 それとも、出会ったのが彼でなかったらと、肩を落としたほうが正解なんだろうか?
 本当は、彼なんかに出会うはずはなかったのだ。
 私はただただ一ヶ月を浪費し、その後、しかるべき処罰を与えられる。
 それだけでよかったのだ。それ以上は望んでいなかった。
 それが、何の因果か、彼に出会ってしまった』

彼というのは僕のことだろうか?
しかし、一ヶ月? 処罰? 
どういうことなんだろう。
僕は文字を追い続ける。

『最初はただの気まぐれだった。
 ただ、困っているお婆さんが目に付いたからという、ただそれだけの理由。
 私はおばあさんを躊躇無く助けた。たやすいことだった。
 やたら感謝してきたお婆さんは、私に無理やり何かを握らせた。
 それは何らかの紙切れで、五枚もまとめて手の中に入っていた。。
 これは何かと尋ねたら、お婆さんは商店街のほうを指差し、フクビキフクビキ、と繰り返す。
 意味がわからないうちにお婆さんはサッサと行ってしまった。
 しょうがないから、おばあさんが指差したほうに行ってみた。
 すると、同じような紙切れを持った人間たちが列を作って並んでいる。
 どうやら、この紙を持っている人は、ここに並ばなければならないらしい。
 面倒くさいな。
 正直に言えば、そんな感想しかもてなかったが、しかし、ここでコレを無視すれば、
 お婆さんの好意を踏みにじる結果になってしまう。
 悩んだ挙句、私は列に並んだ。
 そのまま、ぼんやりと列が進むに任せる。

270:彼女の事情と僕の慕情
07/07/11 14:16:11 ICGccihB
 そして、とうとう自分の番が来た。
 しかし、ぼんやりしていた私は、何をすればいいのかがわからない。
 私は困り果て、あたりを見渡す。
 すると、私の後ろに幸福そうに突っ立っている青年が見えた。
 混乱していた私は、とりあえず青年に助けを求めてみた』

どうやら彼女と初めて出会った福引の日のことらしい。
……こんな経緯があって、彼女は福引に並んでいたのか。
それにしても、『幸福そうに突っ立っている青年』って……。
間違いなく、僕の事なんだろう。
最初は僕の事をそんな風に思ったのか……。

『袖を引っ張ると、青年は私のほうを初めて見た。
 そして、そのまま、固まってしまった。
 ますます困ってしまった私を助けてくれたのは、テントの中のおじさんだった。
 おじさんが声をかけるとようやく青年は気がついた。
 私はここぞとばかりに、さらに袖を引っ張る。
 そして、どもりながらも事情を聞いてきた青年に私は指をさして窮状を伝える。
 しかし、伝達には失敗したようで、彼は怪訝な顔をするばかり。
 しょうがないので、私は強引に彼の頭を抱え込むと、耳元で喋った。
 ……本当はいまいち言葉に自信がないので喋りたくなかったのだけれど。
 青年はどうにか私の言いたいことを理解してくれたようだ。
 私はフクビキというものについての説明を受ける。
 意味がわからなかったが、とにかく回せばいいらしい。
 機械を回す。
 玉が出る。
 さらに回そうとした私をおじさんと青年が止める。
 どうやら、一回きりらしい。
 玉を見たおじさんがハンドベルを鳴らした。
 これから何らかのイベントが始まるんだろうか、と少しわくわくした私に、おじさんが何かを手渡した。
 青年の説明によるとハナビというものらしい。
 意味がわからなかったので、青年にあげようとした。
 どうせ、私にとっては必要のない代物だ。
 しかし、青年は受け取らず、逆に私を誘ってきた。
 ……正直に書こう。チャンスだ、と思った。
 これで助かる。何とかなる。青年は自ら飛び込んできてしまったのだ。
 異界への入り口に。
 魂の牢獄に』

? 『チャンス』?
『異界への入り口』『魂の牢獄』?
何を、何のことを書いているのだろう、彼女は?

『夜、再び出会ったとき、青年の魂は著しく脈動していた。
 花火をしているとき、ソレはさらに高まった。
 私に視線を送っていたときも、それは激しく波打っていた。
 私はハナビというものの美しさに心を打たれながらも、悲しくなった。
 これから青年を貶めなければならないということに。
 こんなに無邪気な青年から魂をいただかなければならないということに』

魂を、いただく?

『ハナビが終わり、全てはバケツの中に落ちた。
 どうやって青年を貶めるか考えていた私の目に、青年がバケツに向かって何かを呟いているのが見えた。
 不思議に思い、聞いてみると、青年はバケツの中のハナビに礼を言っているというではないか。
 こんな物言わぬ物たちに対する真摯な姿勢に私は心を打たれた。
 それでも、容赦することはできない。
 わたしは青年を林の奥深くに連れ込み、行為に及ぶことにした。
 青年が私に問う。
 なぜ、こんなことをするのかと。

271:彼女の事情と僕の慕情
07/07/11 14:17:15 ICGccihB
 本当は無視してもよかった。答える必要もなかった。
 それでも、私は答えてしまった。
 持病の発作と何故か誤魔化してしまった。
 そして、ハナビのお礼です、と口が動いた。
 言って初めて気がついた。
 本当に楽しかったのだ。本当に心躍ったのだ。
 初めてだったのだ、こんな楽しいこと。こんな嬉しいこと。こんな美しいこと。
 私は躊躇した。
 ……躊躇して、しまった。
 そして挙句失敗した。
 行為自体が初めてだったからなんて言い訳はしない。
 でも、こんなことが起きるなんて考えもしなかった。
 青年は、行為の後も生きていた。
 私は混乱しつつもその魂の欠片を啜った』

………………。
彼女は僕の精液を残らず飲み込んでいた。
どんなときも。
飲まないと意味がない、と。

『そしてお別れの時間が来た。
 私は謝った。
 青年の魂を汚してしまったことを、誤魔化しながら。
 青年は許してくれた。
 当然だ。私が本当は何をしたのかを知らないのだから。
 青年が後ろを向く。
 でも。
 私は青年の、彼の袖を引っ張り、そして、言った。
 私と友達になってください、と。
 ……打算があったのは否定しない。
 せっかくの獲物が逃げてしまうのを、指を咥えてみているだけというのは耐えられない。
 でも、それだけじゃなかった。
 そのときは訳の判らない感情だと思っていたけれど、今では判る。
 あれは本当に寂しかったのだと。
 本当に友達がほしかったのだと。
 だから、怖かった。
 断られるのが、物凄く恐ろしかった。
 でも、彼は許してくれた。
 こんな私と友達になってくれた
 友達になって、くれたんだ』

………………。
僕は無心に読む。
彼女の記録と、記憶を。

『あんまり早く連絡したら迷惑になると思って、三日後に電話した。
 彼は直ぐに答えてくれた。
 後から聞いたら、バイトというものがなかったらしい。
 直ぐに私たちは会うことになった。
 待ち合わせ場所に着いた彼を驚かそうと、私は飛んでいった。
 予想通り、彼は驚いてくれた。してやったり。
 エイガというものを見に行くことになった。
 彼が何か見たいものはないか、と聞いてくる。
 私は一つだけ心が躍ったものがあり、ソレを指し示した。
 彼はどうしてか、それには直ぐに賛成してくれなかった。
 「俺たちの大悪魔図鑑・虐殺屠殺なんでもござれREMIX」の何がいけないというのか。
 どうせなら、楽しいものを見たほうがいいに決まっている。
 だから、私は頑なにほかの意見を却下した。
 でも、結局、ソレを見ることに決定してから、私は後悔した。
 どうせ、私にはエイガなんて判らないから彼に決めてもらえばよかったのだ。

272:彼女の事情と僕の慕情
07/07/11 14:18:32 ICGccihB
 私の強引な決定を、彼はどう思っただろう。
 頑固者だと、ワガママな奴だと嫌われたかもしれない。
 凄く不安になった。
 それでも彼は笑顔だった。
 私は、自分の頑なさを反省しながら、それでも救われた。
 彼と友達になれてよかった、と』

『私たちは街中を歩いた。
 街の中は私の知らないものばかりで、私の胸は高鳴った。
 なかでも気に入ったのは、このノート。
 とてもイカしている。
 今でも、これ以上のノートなんて存在しないと、確信している。
 彼が買ってくれた。
 本当は私にだって少しくらいは手持ちがある。
 自分のお金で買って、自分のものにしたかった。
 でも「僕のお礼の気持ち、受け取ってもらえませんか?」なんて言われたら……。
 初めてその時、彼のことを卑怯だと思った。
 でも、嬉しかった。
 人からもらった初めてのプレゼント。
 内心、感動する私は彼と手をつなぎ、エイガカンに向かった』

『エイガの内容は書かない。
 というよりも、書けない。
 エイガの最中、私は胸が苦しくなり、途方もない飢餓感に襲われた。
 原因は直ぐにわかった。いつものことだからだ。
 人の魂が、補充分の、体を維持するための魂が切れ掛かっているから。
 でも、ソレはいつものこと。
 我慢しようと思った。我慢できると思った。
 でも、ダメだった。
 私の体は貪欲に獲物を求め、気がついたら、私は彼に襲い掛かっていた。
 私は夢中になって、彼を求めた。
 本当にその時は夢中で、私は何をしていたのか、あまり覚えていない。
 覚えているのは彼が果ててから。私が満ち足りてから。
 私は謝った。
 でも、彼は気を失ってしまっていた。
 私は動転した。
 なにしろ、二回目なのだ。
 こんなことが起きるなんて想像だにしていなかった。
 私は混乱しながら、彼を寝かせられる場所を探した。
 勝手に彼の記憶を弄り、探り、家の場所を確認した。
 部屋の中に入ると、彼の匂いが私を包む。
 そのことを新鮮に感じながら、私は彼を寝かし、懸命に祈った。
 魂は採っていないはず。だから、きっと目覚める。
 私は半端な知識で看病した。
 すると、彼はまもなく目を覚ました。
 彼は心配する私を見て、微笑んだ。
 私は適当に状況をでっち上げ、説明し、謝罪した。
 罪深い私を。
 彼は笑って許してくれた。
 私はたまらなくなって、彼に抱きつき、泣いてしまった。
 ものも言わず泣きついた私を彼は黙って受け入れてくれた』

『それから私たちは一緒に寝て、食事をした。
 私は生れ落ちて始めて食事を作った。
 彼は美味しいといってくれた。
 お世辞でも嬉しかった。
 それから何故か、彼は私のこと、特に食事のことを気にした。
 私は人間の食事は食べられない。食べても味がわからないし、消化できないのだ。
 そのことを適当に誤魔化した。
 すると彼は、私と一緒に食事をすることを提案してきた。

273:彼女の事情と僕の慕情
07/07/11 14:19:39 ICGccihB
 正直、困った。
 でも、一緒に居たいといわれて、嬉しかったのも事実。
 だから、私はうなずいた。
 その時の彼の喜びようといったらなかった。
 私も彼が喜んでくれたら嬉しかった』

『私たちはたびたび会うようになった。
 一緒に買い物をして、調理をして、食事をした。
 楽しかった。
 本当に楽しかった。
 でも、私は我慢できずに彼を求めてしまった。
 そのたびに彼は衰弱していった。
 そのためにバイトとかいうのを駄目にしてしまったらしい。
 口には出さなかったけれど、私のせいだろう。
 行為を重ねるごとに罪悪感が募った。
 申し訳ない。申し訳ない。申し訳ない。申し訳ない。申し訳ない。
 生きるためには糧を得なければならない。
 そのために彼を犠牲にしている。
 ……死んでしまいたかった。
 朝、目覚めることなく、眠りながら死ぬ。
 ソレが理想だった。
 でも、朝は毎日訪れたし、そのたびに私は絶望した。
 そして、絶望の淵で、それでも生きていられたのは彼のおかげ。
 彼の笑顔のおかげ。
 でも、そんな彼を犠牲にしなければ生きていけない。
 そんなジレンマに頭が狂いそうになった。
 逃げ出したかった。
 何もかもを捨てて、逃げ出し、何もかもなかったことにして消えたかった。
 でもできなかった。
 彼の隣にいたかった。
 彼を犠牲にしても、何を犠牲にしても。
 彼の隣にいたかったのだ。
 でも、隣にいても私には何もできない。
 馬鹿で愚図で無知な私には。
 だから、せめて、彼のことを慰めようと、より一緒の時間をすごすようになった。
 ……でも、コレは自分のためなのだろう。
 もっと彼のことを知りたくなった、彼と近づきたくなった、自分のため。
 それでも、体を許すことはできなかった。
 体をあわせない行為でも、彼はあんなにも衰弱してしまったのだ。
 もし、本格的な性行為に及んでしまったら、彼がどんな目にあうのか。
 想像するのも恐ろしかった。
 今、彼を失ってしまったら。
 私は……、どうすればいいというのだろう』

それから、彼女と僕の生活が延々と書かれている。
そして、彼女の書いた最新の、最後のページ。

『期限が来てしまった。もう時間がない。
 一ヶ月後の今日、私は魂を手に入れることができなかった。
 しかるべき罰を受けなければならない。
 でも、その前に、彼に知ってもらいたかった。
 私が何者なのか。
 何を考えていたのか。
 私が彼のことを知りたかったように、彼にも私のことを知ってもらいたかった。
 そして、軽蔑して欲しい。
 私のことなんてゴミ屑のように忘れて欲しい。
 それが彼の幸せなんだ。
 だから―』

274:彼女の事情と僕の慕情
07/07/11 14:20:59 ICGccihB
「わざわざノートを僕の目に付くところに置いたんですね。僕が勝手に読むと思って」
僕は隣に話しかける。
いつの間にか、音も無く彼女はそこに居た。
彼女はうなずく。
そこは否定して欲しいところだったんだが。
「僕が人のノートを勝手に見るような人間だと思ったんですか? 酷いですね」
苦笑しつつ、尋ねる。
彼女は比較的、困ったような顔になった。
「あの突風もあなたが起こしたんですか?」
とんでもない、というように彼女は首を振る。
「………………」
―そこまで、人間離れした魔物じゃありません。
魔物。
彼女はソレだというのか。
「……あなたは一体、何者なんですか?」
僕は吐き出すように、問う。
それは彼女自身のことを問う、初めての質問だった。
「………………」
―私は、異界から来た人外。
「人外? 人外って……」
「………………」
―いやらしいことをして、魂を盗る、低俗な化け物です。
「………………」
符合してしまう。
行為に及ぶたびに、何か重要なモノが削られ失われていく感覚。
あれは、超常的な何かを持ってこないと説明できない。
「……そんな馬鹿な」
言いながら、気づいてしまう。
時間に正確すぎ。
いつだって、時間丁度に来ていた。
いまだって、音も無く、僕の隣に来たじゃないか。
……異常だ。
「……そんな、馬鹿な」
彼女は何も食べなかったじゃないか。
ほんの少ししか、ソレすらも吐いていたじゃないか。
それでも、元気だなんて。
……異常すぎる。
「……そんな、馬鹿な……!!」
異常だ、異常だけれど……!!
認めたくない……!
僕は、ぼくは、ボクハ!!
彼女は僕の肩にそっと手を置いた。
その小さく暖かな感触に、僕は反射的に体をビクつかせる。
ビクつかせて、しまう。
彼女は、そんな僕を悲しげに見ながら

チュッ

唇を合わせた。
その瞬間、胸の奥から頭の先、手足の指先まで何かがみなぎる。
熱い。
とても熱い何かが僕の体を満たしていく。
それが体の中を蹂躙するのと比例するように、急速に眠気が襲ってくる。

275:彼女の事情と僕の慕情
07/07/11 14:21:47 ICGccihB
「………な、にを……?」
「………………」
―今までいただいた分、お返しします。魂を。
「…………そん、なこ、と……したら……あな、た………………は……」
彼女は悲しげに微笑んだ。
……微笑んだと、思う。
でも、霞みだした意識と視界の中でソレは定かではない。
「…………待って、くだ……さい。ぼくは…………あなた、の……ことが……」
「………………」
―わたしもです。
確かにそう聞こえた。
彼女は僕の背中に両腕を回し、抱きついた……と思う。
「(……あたたかい)」
僕はその暖かさの中で、ゆっくりと意識を落としていった。

276:230
07/07/11 14:23:23 ICGccihB
長らく垂れ流しを許容していただいたSSですが、
次回で完結です。
今しばらく、駄文にお付き合いください。

277:名無しさん@ピンキー
07/07/11 17:02:43 IATcqb/D
GーーーーーJーーーーーー!!

やはり人間じゃなかったのか、ノートの独白に萌えた

278:名無しさん@ピンキー
07/07/11 17:03:49 aZcUhlyb
GJ!これはラストに期待大な展開ですね。そして筆が速い!素晴らしすぎる

279:名無しさん@ピンキー
07/07/12 05:04:19 fsUUM5/Q
GJ!!
これはワッフルせざるを得ない

280:名無しさん@ピンキー
07/07/12 06:09:04 CchsV7Yx
GJ!
どうか幸せな結末を・・

281:名無しさん@ピンキー
07/07/12 06:17:24 SlwEosPw
>>276
ザッピングできましたか・・・GJ!
生きていく為に絶対不可欠なもの、存在が違えば弱肉強食ならば当然の摂理・・・
しかし、この魔物は優し過ぎた
最後は分からない

いや、最後の最後はまだ分からない・・・。

282:名無しさん@ピンキー
07/07/13 03:28:32 +ljP4vNJ
アゲ

283:230
07/07/15 16:27:29 kJaKvyeb
これより、投下させていただきます。
前回よりは短いですが、それでも長いですし、何よりエロが御座いません。
まことに申し訳御座いません。
それでも構わないという方は、片手間にでもお読みください。
それでは、本文です。

284:彼女の事情と僕の慕情
07/07/15 16:28:24 kJaKvyeb
それからの一週間。
正直あまり覚えていない。
ただいえる事は、部屋の中に彼女の姿は無く、そしてもう二度と帰ってこないだろう、ということだけだ。
僕は何を食べて生きたのだろうか。
でも、何かを食べるたびに彼女を思い出した。
だから、何かを食べてはいたのだろう。
僕は何処に居たのだろうか。
でも、何処かに行く度に彼女を思い出した。
だから、何処かには居たのだろう。
僕はただただ、家の中を、街中を、彼女の姿を求めてさまよったのかもしれない。
僕はただただ、家の中に引きこもり、彼女のノートをめくっていたのかもしれない。
かもしれない、かもしれない。
でも、そんなことはどうでもよかった。
重要なのは、彼女が居ないこと。
それだけだった。

「お客さん、いくらなんでも飲みすぎですよ」
いがらっぽいだみ声が聞こえる。
どうやらここは何かの店のようだ。
僕はうっすらと目を開ける。
明るい木目調の日本家屋的な店内。そのカウンター席に座っているらしい。
どうやら飲み屋のようだ。
その証拠に、僕の目の前には小料理と、片手にはしっかりとコップが握られていた。
店に入った記憶も、何かを注文し、飲み食いした記憶がないのだが……。
僕はそのことに戦慄しながらも、意識の全体は“どうでもいい”という結論を下していた。
彼女がいなくなってどれだけ経っただろうか。
彼女のいない世界は灰色で、現実感が希薄だった。
こんなにも薄汚れていたのか。
こんなにもつまらないものばかりだったのか。
こんなにも希望という言葉が見当たらない場所だったのか。
この世界は。
ぼくはコップの中身を舐めた。
口先から胸の中に熱い感覚が下りていくのを感じる。
それはまるで彼女との最初で最後のキスを連想させる感覚だった。
「君、起きたようだね」
隣から渋い低音が響く男の声がする。
ふと横を見てみると、僕の隣の席にくたびれたスーツを着た男性が座って、コップを傾けている。
だが、照明の具合か、僕が酔っているためなのか、その男の体型、体格あるいはどんな容貌をしているのかさえ、僕には見えなかった。
見えるのはただの灰色。
周りの風景同様の、灰色。
「……ええ、起きてますよ」
正直、人と話す気分ではなかったが、僕の中の小市民気質がソレを許さない。
僕の気分を知りもしないであろう男は、こちらに体をむけ喋りかけてくる。
「なにか大切なものでも失くしたのかな?」
「………………」
そのものズバリだ。僕はうなずくこともせず、コップの中身を舐める。
男はそれだけの動作で得心したようで、口を開き、続ける。
「何をなくしたのか当ててあげよう」
「………………」
「ズバリ、恋人。つまりは失恋、だね?」
僕は皮肉に見えるように苦笑した。
「ハズレです。僕がなくしたのは恋人ではないです」
「じゃ、友達かな」
即答で核心を付かれる。
喉が詰まり、何もいえない。
「というよりも、君はかの人のことを友達以上に感じていた。だが、名目上は友達ということになっていた。
君はソレに甘んじ、かの人と関係を続けたが、本当はそれ以上に進みたかった。
でも、できなかった。友達という名目さえ失ってしまうんじゃないかという怯えに足がすくんでしまったのだね」
ズバズバと僕の内心を言い当ててくる。
半分酩酊した意識で、この男は何様なんだろうという理不尽な怒りがこみ上げてくる。

285:彼女の事情と僕の慕情
07/07/15 16:29:12 kJaKvyeb
否、正直なところ、逆ギレだった。
図星を付かれ、核心に迫られ、僕の小心をいとも簡単に言い当てた男に対する怒り。
「まるで見てきたように言うんですね」
何も知らないくせに、知ったかぶって。
「まさしく、見ていたのかもしれないよ」
「馬鹿な……」
僕はコップの中身を思いっきりあおる。
さらに意識は朦朧とし、視界が狭くなり、頭が熱くなる。
「じゃー、なんでも知って、何でも見ているアンタ。教えてくださいよ。僕はこれからどうすればいいのかを」
呂律が、理性が回らない。
食って掛かる僕の言葉に、彼は若干、口調に笑いをこめて、返答した。
「忘れなさい」
「なぁんですって〜?」
「かの人のことを、一刻も早く思い出にしなさい。……時間というものはどんな傷にも効く特効薬だよ。とくに心の傷にはね。
かの人もそれを望んでいるのではないかな?」
「………………。ばぁかですか〜? そんなことができたのなら……」
そういいながら思い出す。
彼女のノートの最期に書かれた一部分を。
『そして、軽蔑して欲しい。
 私のことなんてゴミ屑のように忘れて欲しい』
………………。
……そんなこと、できるわけが、ないだろう。
彼女の問いたげな顔、怒った顔、困った顔、なによりはにかんだような笑顔。
本当は彼女は無表情といっていいほど、顔に表情が出ないタイプなのだろう。
それでも、僕にはわかった。
僕だけにはわかっていたんだ。
「彼女がいない世界なんて、そこに流れる時間なんて、無意味ですぅ〜。彼女は、彼女こそが―」
気分が悪くなってくる。
僕は彼女のことなんて何もわかっていなかったじゃないか。
彼女が何を見、何を聞き、何を思い、何に苦しんで、何に謝っていたのか。
僕はわかっていたつもりだった、だけじゃ、ないか……。
彼女のことなんか一つだって理解していなかったんじゃないか?
それでも、彼女は僕の事を生かしてくれた。
魂を返してくれた。
真剣に喋って、真剣に遊んで、友達だといって、いつも隣にいたじゃないか。
なにより、こんな僕を見て微笑んでくれていたじゃないか。
それだけは事実だ。
僕が彼女のことをどう誤解しようと、それだけは真実だと信じたい。
黙りこくってしまった僕を見て、男性はため息を漏らし、そして言う。
「たとえ話なんだが、君は、その失ってしまったかの人を取り戻すためにどれだけ払える?」
「はい〜?」
「つまり、失ってしまったモノを取り返すために、いくらまで、どこまで代償を負うことができる?」
愚問だ。
僕は即答した。
「はい〜? ハッ、僕の人生、命、魂の半分までならぁ、支払ってもいいですよぉ」
「? 何故、半分なんだ?」
僕はみみっちくコップの中身を舐める。
「簡単ですよぉ。本当は全身全霊を払ってでもいいんですがぁ、それだとぉ、彼女が戻ってきたときに、
彼女の隣には誰もいなくなってしまう。それじゃ、彼女はさびしいじゃないですかぁ。
だから、たとえ魂が半分にかけていようとも、彼女には僕が、友達が隣にいないとダメなんですよぉ〜。
それにぃ、僕が返ってきて欲しいのはぁ、『僕の隣にいる彼女』なんですよぉ?
僕がいなくなっちゃ意味がないじゃないですかぁ?」
「? ということは、もし彼女が帰ってきて、君の下を去ってしまったら? そしたら、そんな彼女には何の価値もないと?」
「違いますよぉ。何聞いてるんですかぁ? いくら僕の隣に彼女がいても、彼女が幸せじゃなきゃ意味がない。
僕の隣にいて、もし幸せじゃないんだとしたら、彼女に三行半つけられてもしょうがないんですよぉ。
僕はね、僕が欲しいのはね。僕が、僕の隣にいる彼女を幸せにしたい。ということなんですよぉ。わかります?
結局、友達なんて、持ちつ持たれつじゃないですかぁ。彼女が隣にいるだけで僕は幸せだし、
僕が隣にいることで、彼女に何かを与えられるのだとしたらサイコーですよ」
「でも、それでも、彼女が君から得るものは何もないと、君を切り捨てたら?」
おいおいこの男、人の話聞いているのか?

286:彼女の事情と僕の慕情
07/07/15 16:30:09 kJaKvyeb
「だから、さっきも言ったじゃないですかぁ。彼女が幸せでなければ意味がない。
……あ〜、もう、ここまで言わせるんですか? じゃ、言いますけどね……。
彼女を幸せにできるのは、この僕の隣しか存在しない。いや! 断言します! 
彼女を幸せにできるのは、この僕だけだと!! ……たぶん」
アルコールではない何かのせいで頭に血が上る。
男性は少しだけ、呆気にとられてしばらく何も言わなかったが、ポツリと言葉を漏らす。
「君は自分のことを、『醜く、愚かで、貧乏のどうしようもない人間』だと評価していたのではないのかな?」
どうしてそんなことを知っているのだろう。
だが、酔いが究極的に回り、冷静ではない僕は声を張り上げる。
「あんな美人がいつも隣にいたんですよ? いてくれたんですよ? 勘違いしない男はいないですよ」
「だから、彼女のことを幸せにできると勘違いした?」
「……勘違いでも、思い込みでもいい……。彼女が隣にいてくれるのなら僕は……」
いよいよアルコールは睡魔を呼び寄せ、僕の意識が怪しくなっていく。
その意識の中で思う。
僕の魂の半分なんかではとうてい彼女のことを取り戻すことはできないだろう。
それでも、彼女が隣にいてくれたら。
何でもできる。
何だってしてやる。
そして、彼女を幸せにしてみせる。
絶対に。
だから。
だから、だから、だから。
どうか、どうにか帰ってきてください。
薄れ行く意識の中で男の声が木霊する。
「ふん。君はたいそう気持ちが悪い男だな。言ってることは支離滅裂、まぁ、
酔いのせいなのかもしれないが。確かに、醜く、愚かで、貧乏だ。だが、
この私の前で、あの娘を幸せにできると宣言したのは君一人だ。大変遺憾なことに」
その声にこたえるように、店の親父の声もする。
「では、この者に?」
「何でもする、といっている。あの娘のためにこの者になにができるのか。少し興味がわかないか?」
「しかし……」
「なにより、この者といる時、たしかにあの娘は、わたしが見たこともないような顔をしていた。
無表情で無感動なあの娘が。無論、それが幸福だったからとは限らないが」
「そうですか。……私には、いつもどおりの無表情としか……」
「そして、娘の幸せを願わない親はいない。おい君よ。娘のためなら何でもでき、何でもしてやるといった君よ。
我が娘を幸せにして見せろ。力を失いただの人間に落ちぶれた娘を。
無知で無口で頑固で、だが無垢なあの娘をなにがなんでも幸せにしろ。ただし―」

気がつくと、僕はベッドの上に倒れていた。
外出着のままだったから、どこかに言って飲んだくれたのかもしれない。
だが、まったく記憶にない。
たしか、誰かと彼女の話をしていたような―。
酔いがまだ残っているのかぼんやりとした頭で思い出してみる。
すると。

トゥルルルルル、トゥルルルルル………………

唐突にソレは訪れた。
滅多にならない僕の携帯にかかった、たった一本の着信。
「…………もしもし」
酔いがさめた状態で久しぶりに出した声は、酷く擦れて、醜い。
僕はこんな声をしていたのか?
「………………」
無言電話かと思った。
だから僕は切ろうとした。
でも、思い出す。
確か前にこんなことがあったような。
………否。
いつもそうだったじゃないか。
あの人からの電話は、いつもこうだった。


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