ヤンデレの小説を書こ ..
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41:名無しさん@ピンキー
07/03/24 00:54:01 Z6aG/rXQ
>>40
そんなら書けば?

42:名無しさん@ピンキー
07/03/24 01:11:27 8BlPKAiA
>>41
お前マジで頭いいな!

43:名無しさん@ピンキー
07/03/24 02:25:50 OORyAG+T
熟女ヤンデレはありますか?
無いなら脳内で。

44:名無しさん@ピンキー
07/03/24 02:36:06 UPNMoHZL
wktk

45:名無しさん@ピンキー
07/03/24 06:32:12 K7eLtHnR
>>43
そのほとばしるリビドーをプロットにして前スレに投下してみないか?
もしかしたら職人さんが書いてくれるかもしれないぞ。前例もあることだし。

46: ◆kNPkZ2h.ro
07/03/24 14:27:44 UIL5bFFq
上書き第10話後編、投下します。
選択肢1・すぐに携帯電話を確認する、のB-1ルートからです。

>保管庫管理人様
いつも更新お疲れ様です。
申し訳ありませんが、前回第10話として投下した分を「第10話前編」に修正してください。
ご迷惑をおかけしてすみません。

47: ◆kNPkZ2h.ro
07/03/24 14:28:35 UIL5bFFq
 俺は一目散に床に静かに横たわっている携帯電話の下へと駆け寄っていった。

 そもそも加奈が”急に”こんな事言い出すのは明らかにおかしい。
 何か『きっかけ』がなければ俺と目を合わさないなんて事はありえない。
 そう考えるならその『きっかけ』として最も怪しいのは、机の上にあったはずなのに、
 不自然にも今は床の上で沈黙を守っている携帯電話だ。
 加奈はその携帯電話の中の”何か”を見てこんな事言い出しているんだ。
 ならば今すべき事は真っ先にその中身を確認する事だ。
 俺と加奈の関係の脆さを思い知った今、僅かな溝ですら作ってはならないのだ。
 加奈が知っていて俺が知らない、そういった状況から勘違いが生まれ崩れていくのだ。
 二度とそんな事は御免だ。

 その一心で素早く携帯電話を掴み取り、俺はその中身を確認した。
 その『中身』の内容を読んだ瞬間………
「………は、はは…」
 いつも俺の行動の邪魔をしていた理性の壁が崩壊して、
 心の奥底からかつて味わった事がない程”気持ちいいもの”が流れ込んできた。
 それが俺の思考回路を急速に早め、やがてある”一つの結論”に至らしめた。
 その『答え』を理解した途端、心が痺れた。
「はっ、はははははははははは!!! あーっ! ははは!!!」
 そして笑いが腹の底から込み上げてきた。
 抑えようと思っても抑えられない程愉快な気分になってくる。
 何時間も考えていた問題の答えを解き明かしそれが正解だった時のような、
 全身全霊で喜ぶべきそんな状況。
 ふと加奈に目をやると、その表情は既に満面の笑顔だった。
 二度と離れまいという意識が読み取れる程目線を俺と合わせてくる。
 その確固たる意思に安心感を覚えながら、俺は携帯電話を放り加奈の下へ歩み寄る。
 近付いてみると、笑顔を向けながら加奈は小さく小刻みに震えていた。
 その嬉しくて震えている肩に俺はそっと手を添える。
「…加奈…、俺今凄く嬉しい。やっと”解った”んだからな…。加奈は嬉しい?」
 肩に添えていた手を口元に移し、ピンク色の柔らかい唇を優しくなぞってやる。
 その仕草に擽ったそうに笑いながら、加奈は俺の背中に手を回してきた。
「うん! とっっっても嬉しい!」
 大袈裟に告げながら俺に体を預けてくる、そんな動作一つ一つが心地良い。
 そして何より、加奈と心が一つになったという事実が俺に満足感の快楽を与えた。
 今までは存在がいるだけで、その幸せを大きく見せる事で満足するようにしてきた。
 だが、そんな仮初の幸せなんて欲してない。
 欲しいのは加奈との真の心からの繋がり、その為に”何をすべきなのか”分かった。
 こんなに簡単な事だったんだ。
 何年も付き合っていたのに何故気付けなかったのか不思議に思う。
 しかし、過去は消えない、そんな物はどうでもいいのだ。
 重要なのは未来、未来の道末は自分たちが決定権を持っている。
 だから、その決定権を駆使させて貰う、幸せな未来の為に。
 そして………
「それじゃ、行くか…?」
「うん!」
 ”加奈の幸せの為に”。

48:上書き ◆kNPkZ2h.ro
07/03/24 14:30:23 UIL5bFFq
 きっとあの携帯電話の中身を見なければ、俺はまだ闇雲に手探りし続けていただろう。
 言葉で伝えなければ理解し合えないような、”薄っぺらい”関係のままだっただろう。
 だから、『答え』に気付かせてくれた『奴』には心から感謝している。
 本当に心から…そう、何度”殺しても”足りない位に感謝している。
「ははは…」
 そんな事を考えているとまた笑いが込み上げてきた。
 慌てて下唇を噛み、漏れ出さないようにしっかりと堪えようとする。
 まだここでは駄目だ。 
 しっかり”あの場所”までは我慢しなくてはならない。
 ”あの場所”へと行って”すべき事”を遂行したら、その時は思い切り笑ってやる。
 それこそ、今の闇夜の空を切り裂き、明るい朝を強制的に呼び出す位にな。
「誠人くん、興奮し過ぎだよ」
「男ってのは、夜に満月を見ると狼になるもんなんだよ」
「その血が騒いでいるって事かな?」
「分かってんじゃねぇか」
 靴を履きながら冗談を言ってくる加奈の黒髪を優しく撫でてやる。
 相変わらずどこにも淀みのない、一本一本が生きているような美しい長髪だ。
 髪に対して性的魅力を覚えながら、俺は玄関の扉を開けた。
 その扉は物凄く軽く、俺たちの事を後押ししてくれているようにさえ思えた。
 開いた扉の先に広がっていたのは、ただひたすら深遠な闇。
 そして、その中にたったひとつぽつんと佇んでいる本能を燻る魔性の存在。
「今夜は満月か………」
 見上げた空に光るどこにも隙のない円形の満月に向かって、俺は決意を新たにした。
 その決意の対象の事を思い浮かべて、『奴』が送ってきたメールの内容を思い浮かべ、
 俺は心の中で厭らしい笑みを浮かべた。

          ――――――――――          

 隣を歩く誠人くんはとても頼もしく見える。
 いつも頼もしかったけど、今日はいつも以上に凛々しい。
 きっと”あのメール”のおかげなんだろうな。
 ”あのメール”を見て、あたしたちやっと分かり合えるようになった。
 そういった意味では”あのメール”の送り主さんに感謝しなきゃならないんだろうな。
 うん、感謝するよ。
 今回だけは、わざわざあたしたちの仲を取り持つような事をしてくれた事に感謝する。
 でもね…やっぱりあのメールの内容は許せないな。
 誠人くんの事を小馬鹿にした口ぶり、そして何よりあたしたちの仲を崩そうとしている
 意思が滲み出ている内容…。
 それに関してはどんなに譲歩しても許し切れない…。
 だから、その”お礼とお仕置き”にすぐに向かってあげるよ…。
 首を長くして待ってよ…すぐに楽にしてあげるから…。
 あたしは決意を胸に秘めながら、誠人くんの隣に寄り添いながら闇夜の道を突き進んだ…。

          ――――――――――          

49:上書き ◆kNPkZ2h.ro
07/03/24 14:31:19 UIL5bFFq
 俺たちは『奴』の家の前へと辿り着いた。
 真新しく見えるインターホンを弱く押し、その場で数秒佇む。
 そして、インターホン越しに聞き慣れた声が耳に響いた。
『誠人くん?』
 他の家族に出られたら厄介だと思ったが、本人が出てくれた事に安心する。
 どうやら家の中から俺の姿は見えているようだ。
 加奈に隠れるように言って正解だったと自分を褒めながら、慎重に言葉を選ぶ。
「あぁ。伝えたい事があるから出てきてくれ」
『分かった!』
 その言葉と共に室内の音声が途絶える。
 しかし、屋外にいる俺にも分かる位うるさく階段を駆け下りる音が聞こえる。
 そんなに俺に会いたいのかと呆れながら、今日俺の事を好きだと言ったのは本当
 だったんだなと心の中で確かめた。
 どうでもいい事だけど。
 やがて足音が止まるので、扉の前から一歩下がる。
 案の定扉はこちら側に向かって勢い良く開いた。
 あのままあの場にいたら無様に扉にぶつかっていたなと、今日の俺はやけに冴えている
 という確証を広げる。
 そしてその扉の中から何も知らない様子の『奴』が出てきた。
「誠人くん!?」
「よう…『島村』………」
 俺はその一言の後………

『シュッ』

 一瞬の刹那…俺の顔を見て喜んでいる島村の喉下を、隠し持っていた
 ペーパーナイフで瞬間的に切りつけてやった。
 喉下を狙ったのは、叫ばれては困るのと、即死して欲しかったからだ。
 切り付けた瞬間、ナイフを持った右手に温かい島村の”命の証”が降り掛かる。
「…ガッはァ………ッ!」
 望み通り、叫ぶ事も出来ずに島村はその場に崩れ落ちた。
 その表情は、何故こんな事されているのか全く理解出来ないという困惑と、
 止め処なく溢れる血液に自らの命が刻々と削り取られている事への恐怖で歪んでいる。
 一瞬で島村の家の玄関は自身の血で赤い海と化し、そこに島村は順応している。
「今の島村………綺麗だぜ…なぁ、加奈?」
 俺はその惨めな死に様に、敬意を表したくなった。
 真の絆を築いていく為に一体何をすればいいのか、それを教えてくれた一人の人間に。
 加奈の方を振り向くと、加奈も島村の苦痛に悶える表情を見つめながら、
 恍惚の表情を浮かべていた。
「うん………本当に、ひたすら生にしがみつこうとして、悪意の欠片もない…。
 誠人くんに何かしようともしていない…こんな純粋な顔出来るなんて…。
 ちょっと嫉妬しちゃう位、それ位綺麗だよ?
 最期に誠人くんに『綺麗』って言っても貰えて良かったね…フフフ…」
 どこにも屈折したところのないその笑顔から、加奈の言っている事が本心だと分かる。
 やはり加奈と俺の考えている事は同じ…最期の最後まで俺と加奈の関係の強さを再確認
 させてくれた事に感謝しつつ、虚ろな目でこちらを見上げる島村と視線を合わせる。
「島村…お前の『メール』の質問に答えてやるよ…」
 既にもがく気力はなく、意識絶え絶えの状態にも拘らず島村は
 必死に俺の言葉を聞こうとしている。
 そこまでして聞く程の事じゃないだろと思いながらもその真っ直ぐな瞳に敬意を表す。
「”加奈だから”だよ」
 その答えを言った後島村の顔を見ると、既にその瞳に光彩は失われていた。
 指一本とて動かせていないその姿が告げる…”島村由紀は死んだ”。

   ・
   ・
   ・
   ・
   ・


50:上書き ◆kNPkZ2h.ro
07/03/24 14:32:42 UIL5bFFq
「やったね、誠人くん!」
「あぁ、これで俺たち、やっと『一歩』を踏み出せるんだな…」
 加奈が俺に笑顔を向けてくれている…この儚い幸せを手に入れる為に、
 俺たちはどうしてあんなに不器用な事をしていたのだろうかと今になって思う。

 俺と加奈が幸せになる為に必要な事…その『答え』は簡単だった。
 俺は常日頃、”加奈の幸せの為に”行動してきた。
 そして、加奈は”俺の幸せの為に”行動してきた。
 つまり、俺の幸せと加奈の幸せは『同意義』だったんだ。
 俺がしたいと思う事は同時に加奈がしたい事に直結している。
 そして、加奈がしたいと思う事も俺がしたい事に直結している。
 深く考える必要はない、俺がしたい事をすれば良かっただけの話なんだ。
 相手の幸せだなんて難しい事を考えるより、自分がしたい事をする事こそが
 互いの幸せへの第一歩に繋がるんだ。
 それに気付かせてくれたのは島村が俺に送ってきた『メール』だ。
 露骨に加奈を侮辱したその内容を見て、俺は胸に黒いものが湧き上がるのを感じた。
 それは、殺意を抱きながらも理性が覆い被さって行動を制止させようとしたが故に
 生じた、抵抗力の産物だ。
 本当ならそこで思い止まるのが普通だったのだろう。
 それが世間的には正しいし、そうしなければいけないルールなのだ。
 しかし、そのメールを見た後の加奈の様子を見て、俺の中で理性が崩壊した。
 そう、加奈もあのメールを見て、また別の理由で殺意を抱いていたのだ。
 目的は『一緒』………ならば躊躇する必要なんか欠片もない。
 互いの幸せの為に、迷う事なく殺意のままに従えば良かったんだ…。
 そうする事で、俺と加奈の幸せが叶うんだ、こんな簡単な事はない。

「それと誠人くん、一ついいかなぁ?」
 甘ったるい口調で加奈が俺を見上げながら訊ねてくる。
「何だ?」
「これからは、あたし以外に『綺麗』なんて言うのは嫌だなぁ…」
「何だ、そんな事か」
 思わず笑ってしまった。
 そんな俺の態度が御気に召さないようで、加奈は頬を膨らましている。
 露骨に怒っている加奈の下へと歩み寄り、そっとその小さな体を抱き締める。
「俺が好きなのは城井加奈一人だ…。加奈が好きなのは?」
「誠人くん…あたしが好きなのは、沢崎誠人くん、あなた一人ですっ!」
「良く言えました」
 俺の背中に手を回す加奈を抱き締める力を一旦抜く。
 今まで相手の為とか、『上書き』とか、陳腐な事を言い合って恋人ごっこを
 し続けていたけど、もうそんな事に惑わされる事はない。
 心が一つになった今、もう俺たちは言動や行動で伝え合わなければならないような
 関係ではなくなったんだ。
 加奈と見つめ合いながら、俺は”『一歩』を踏み出す為の”口付けを交わした。


51:上書き ◆kNPkZ2h.ro
07/03/24 14:33:17 UIL5bFFq

          ――――――――――          

 誠人の部屋の中で、開かれたまま沈黙を守っている携帯電話。
 既に光は失っている、しかしその薄黒い闇の中に確かに『跡』は刻まれている。
 二人の男女を狂気に奔らせた、簡潔な文章が。

 『From 島村由紀
  Sub  (無題)

  誠人くん、あなたは何で”あんな”子が好きなんですか?』

          ――――――――――          




 B-1ルート「未来を築く為に」 HAPPY END

52: ◆kNPkZ2h.ro
07/03/24 14:37:08 UIL5bFFq
投下終了です。
予定として次の時は選択肢2を投下します。

以下チラシの裏
個人的に消化不良なラストでした。
以前Cルート(加奈と誠人の肉欲エンド)を投下した際、「誠人が狂えたらハッピーエンドだった」
という声を受けて思いついた話ですが、読み返すと喉に魚の小骨が引っかかったような気分…。
本ルートでは納得のいくようなのを書きたいです。

53:名無しさん@ピンキー
07/03/24 14:46:07 cgpfVPqQ
>>52
リアルタイムキタワァ.*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(n‘∀‘)η゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*!!!!!☆GJ!
個人的には素晴らしいハッピーエンドですとも!
二人に幸あれ。・゚・(ノ∀`)・゚・。

てかこんな俺はもう駄目かも分からんねorz



54:名無しさん@ピンキー
07/03/24 16:41:44 hQM6V2+S
>>52
なんかものっそ凄まじいエンディングですなぁ・・・。
携帯の文面を見ただけで豹変するなんて、
他のエンディングを見ても既に誠人が狂ってる事がわかりますわ。
男まで狂ってヤンデレ化するだけでどれだけ他の作品と一線を駕すかわかりますた。

55:名無しさん@ピンキー
07/03/24 22:03:32 tWUhvSic
>>52
まさにこのスレならではのHAPPYEND GJ!
でも島村さんあっけなさすぎw
個人的には応援してたんだけどなあ…w

56:名無しさん@ピンキー
07/03/25 02:09:24 CyM5zxwp
チラシ

男まで狂う場合、絶望や混乱のどん底にまで落ちて狂うのならわかるけど、
男までヤンデレ化するとバランスが悪いっていうか収集がつかねって。

チラシ終わり

57:名無しさん@ピンキー
07/03/25 13:03:00 5p2qUqRE
こういった狂った幸せって大好きだ!GJ!

58:名無しさん@ピンキー
07/03/25 13:04:07 Tm3KXieg
だからラストに持って行ったんじゃね?

59:名無しさん@ピンキー
07/03/25 15:33:43 /7rDjX3q
>>52
GJ!!
共狂いENDもいいモノだ。
本ルートにも超期待してます。

>>56
作者の人も、そのへん分かってるから選択肢つけたんでしょ?
作者のしたい事も少しは理解した方がいいよ。

60:名無しさん@ピンキー
07/03/25 16:33:07 CyM5zxwp
>>59
別に糾弾するつもりはないさ。単なる意見として。

61:名無しさん@ピンキー
07/03/25 23:04:59 yx74Ws21
自分は書き手(ここに投下したことはなく読んで楽しむだけ)だが、
色んな意見を貰えるほうが為になるし嬉しいもんだよ。
前からこのスレはGJだらけで、書き手さん達は物足りなくないのかな〜
と、思っていたので言ってみた。ではでは。

62:名無しさん@ピンキー
07/03/26 00:36:11 G9NV0cef
場合によりけり。控え室見れば分かるが、書き手といっても一概には言えない。
スルーでも堪えないって猛者から、ちょっとしたことで愚痴るもやしっ子までいる。

それに最大の問題は、批評ってのどうしても批評厨を呼び寄せやすいこと。
感想レスに対するレスを禁止に出来れば、荒れの元にはならなくなるだろうが……

63:名無しさん@ピンキー
07/03/26 02:14:33 q8tIE4m4
こんな空気でも俺は「居ない君」を待ち続ける。

64:名無しさん@ピンキー
07/03/26 03:45:25 AOwcUCL3
人によるよなー。叩かれて伸びるひともいれば褒められて伸びるひともいる。
まぁようするに荒れるような感想の書き方だけはやめようや。
自分と合わないから嫌いとかそういうはやめてさ。

65:名無しさん@ピンキー
07/03/26 09:40:38 xxl3fyhy
収拾がついてるのにつかないとか言うとただのケチ付けに見えるけど

66:名無しさん@ピンキー
07/03/26 11:50:43 00gKYNv/
そこは何がどうつかないか、で受け取り方が変わる。
まあ、ちゃんと話は終わらせられてるけど。


とりあえず、議論するより次の話を待とうぜ。

67:名無しさん@ピンキー
07/03/26 13:12:08 Q8K9PY1H
ところで「ヤンデレスレは」「エロエロよー」の元ネタってなに?

68:名無しさん@ピンキー
07/03/26 13:42:23 G9NV0cef
このスレのパート2か3あたりのやり取りだった気が。

69:名無しさん@ピンキー
07/03/26 14:00:23 3a3GhM50
少数かもしれないが鬼葬譚の続編を待ってる漏れがいる

70:名無しさん@ピンキー
07/03/26 17:45:13 3bsNz/5j
流れぶった切って感想。

>>52
GJ!!
こういうエンドを待っていた。
ヤンデレハッピーエンドはこうでなくては。

71:名無しさん@ピンキー
07/03/26 20:17:38 00gKYNv/
ところで、恋に不慣れで不器用な女がついつい暴走したりするヤンデレってのもあるかね?
そして男は恋に慣れてないだけだからと女を突き放し、さらに暴走させる。



うん、正直ヤンデレとは違うのかもしれないし、コメディタッチになっちゃうけどね。

72:名無しさん@ピンキー
07/03/26 20:21:48 mBdGnf2Z
「男くん! 私、きみが好きなの!」
「あ、そうなんだ。俺は卵はしろみのほうが好きだけどな」

みたいなもん?

73:名無しさん@ピンキー
07/03/26 20:46:37 5GPQpqOE
軽いヤンデレでも良いじゃない。
You、書いちゃいなよ。

74:名無しさん@ピンキー
07/03/26 21:20:35 K9g9qz2n
ヤンデレは相手を殺すよりも相手を拉致監禁して相手に尽くす方が萌えるのは俺だけか・・
男性が監禁の場合は物凄く萌えないが・・女性なら和やかな雰囲気になるww

75:名無しさん@ピンキー
07/03/26 22:44:05 /S3uAAfn
>>74
×物凄く萌えない
○単なる犯罪

76:名無しさん@ピンキー
07/03/26 23:43:14 YSDBgQqB
男が女を監禁するだけならハードル低いからな。すぐに豚箱行きとはいえ

77:ラック ◆duFEwmuQ16
07/03/27 00:00:49 RI+ri3es
身に覚えが無いのに規制が……今回はヤンデレ要素少ないです。
次回から本格的にしていきたいと思っています。

78:ラック ◆duFEwmuQ16
07/03/27 00:02:22 9shiYSb+
かつて悪魔が私にこういった「神もその地獄を持っている。それは人間に対する彼の愛である」と。
そして、私は悪魔がこういうのも聞いたことがある。「神は死んだ。人間に対する同情ゆえに神は死んだ」と。
                       ─ニーチェ『ツァラトストラはかく語りき』
ヒッコリー製のアンティークな本棚に並べられた書籍に朧は眼を通した。本の表紙に触れる。表紙も古いものから新しいものまで実に様々だ。
オスカー・ワイルド、ジャン・ジュネ、サルトル、ボードレール、バルザック、アポリネール、ニーチェ、ヘーゲル、マンディアルグ
ユイスマンス、バロウズ、ケルアック、稲垣足穂、三島由紀夫、川端康成、その他にも文学、哲学系の作品が揃えられていた。
昨日はオスカー・ワイルドの『サロメ』を読んだ。今日は何を読むべきか。本を眼で追いながら思案する。
朧の視線が止まった。本を取り出し、タイトルと作者名を眺める。ホコリが指を汚した。ふっと息を吐いてホコリを飛ばす。
(カポーティの『冷血』か。面白そうだな)
机に置かれた手錠を朧は自分で掛けなおした。鍵の部分が簡易な作りの手錠は、ヘアピンの一本でもあればいつでもはずせた。
朧は雪香の居ない時だけ、こうして手錠をはずして羽を伸ばした。短い時間ではあったが、手首の感覚を戻すには充分だ。
本を持つと朧は書斎を出て、雪香の寝室に戻る。本を読み始めたのは単に暇だったからだ。雪香との奇妙な生活が始まって二ヶ月が過ぎた。
最初の二週間は部屋から出られないようにベッドにくくりつけられた。足にも錠をかけられて身動き取れぬ有様だった。
食事に混ぜられた筋弛緩剤と睡眠薬。睡眠薬の効果は失せていたが筋弛緩剤のほうはそうはいかなかった。
頭の中ははっきりしていたが、身体の自由がほとんど利かないのだ。この少女は何故、自分にこんな仕打ちをするのか朧は考えた。
雪香に恨みを買ういわれはなかった。
澱のようなものが腹の底に沈み、怒りが沸々と煮えた。自由を奪われた獣の怒りだ。
そして、こんな罠にひっかっかった間抜けな己自身に対する怒りでもあった。憤怒が脳髄を灼いた。
筋弛緩剤の効果が薄れるとともに、怒りが燎原の火の如く燃え広がった。両腕をめちゃくちゃに動かす。手錠が肉に食い込み、皮膚が裂けた。
血飛沫が舞った。傷口から溢れる鮮血が手首を汚した。かまわずにベッドで暴れ続けた。痛みなどどうでもよかった。
『はずせっ、はずせっ!』
叫んだ。無言で不安そうに気弱な眼でこちらを見やる雪香の姿─ぶっ殺してやりたかった。
顔面がザグロになるまで拳を叩き込んでやりたかった。血みどろになるまでぶちのめしてやりたかった。
『そんなに暴れないで。手、怪我しちゃったよ……』
『ふざけるな。さっさと手錠をはずせッ!』
傷ついた朧の右の手首に雪香が労わるように手を伸ばす。雪香の頬に朧の唾が飛んだ。雪香は黙って掌で唾をぬぐうと部屋をでていった。
室内に独り取り残された朧は冷静さを取り戻そうと瞼を閉じた。闇が視界を覆う。脳内で渦を巻く冥い殺意を腹に押し込んだ。
朧は隙を窺うことにした。問題はどうすれば逃げ出して雪香を殺せるかだ。朧は思索した。こういう手合いにはどう対処すればいいのか。
朧は雪香に対し、徹底的に無視を決め込んだ。飲食物を一切取らず、何をされようが一言も喋らなかった。
朧の態度に雪香は柳眉を逆立て、罵詈雑言を浴びせた。ヒステリックに朧の脇腹に爪を立てて胸を痣が出来るまで叩いた。
『なんで雪香を無視するのッ、お願いだから何か言ってよ……ッッ』

79:ラック ◆duFEwmuQ16
07/03/27 00:04:04 RI+ri3es
朧の頬に平手打ちを浴びせながら雪香が大声を喚いた。鼓膜が振動で震えた。切れた唇から血が滲む。
雪香に殴られ、罵られても朧は石の如く口をつぐみ、無反応を通した。完全なる拒絶を示し、眼をそらそうとさえしなかった。
その態度が雪香の苛立ちを募らせ、雪香はさらに手酷く朧を打擲するという悪循環だった。
十日間が過ぎたあたりで雪香は狂ったように泣き喚いた。髪を掻き乱し、喉が張り裂けんばかりに叫び声をあげる。
『お願いだよっ……お願いだから何か食べてよ……っっ』
躍起になって朧に食事を摂らせようと自分の口にミルクを含ませ、雪香は朧に口移しで何度も飲ませようとした。
それでも、朧はミルクを飲まずに吐き出す。雪香の口に含んだミルクを飲むくらいなら、朧は餓死したほうがマシだった。
それよりもあと何日持つか。せいぜいが一週間以内。それ以上経てばまず動けなくなるだろう。
頬骨がこけ、肋骨が浮き出た肉体。眼窩は窪み、初雪のように白かった朧の肌は栄養失調で灰色にくすんでいた。
ただ、黒い瞳だけがいつまでも変わらなかった。朧は掠れた声帯から搾り出すように呟いた。
『死んじまえ。このキチガイ女……』
雪香に向かって罵りの言葉を吐き捨てる。
それっきり朧はまた口を閉ざして、天井の一点を瞬きもせずに見続けた。飢えの苦しみはすでにない。
人間の身体はうまく出来ているのだ。三日間食事を摂らなければ、脳内麻薬が分泌されて飢餓の苦痛を取り除く。
持久戦だった。衰弱して死ぬのが先か、ベッドから開放されるのが先か。二週間目の朝、雪香はついに根を上げて朧の拘束を解いた。
─俺が衰弱してると見て油断してるのか。それでも首を絞めるくらいの力は残ってるぞ
体力の擦り減った身体は動かすたびに悲鳴を上げた。筋肉はその柔軟性を失い、硬くなった関節がギシギシと軋む。
空中を飛んでいるような感覚だった。身体に力が入らない。そのくせ、やけに意識だけは明瞭だった。
網膜の奥に映った雪香の首筋。青白い静脈を皮膚の内部に張り付かせている。スローモーションな動きで頤に手をかけた。
親指と人差し指に力を込める。雪香は抵抗も、振りほどこうともしなかった。朧はじわじわと力を強めた。
指先に伝わる柔らかい肉を掴む生々しい感触─何の感慨も涌かなかった。復讐の達成感が感じられないのだ。
『なんで抵抗しないんだ』
朧は不思議でしょうがなかった。恐怖を感じるわけでも、憎悪を現すわけでもない雪香の反応に朧は眼を細める。
雪香の相貌を見た。どこか夢見心地だ。雪香は死を厭わなかった。この少女は朧から与えられる死を歓喜を持って迎え入れようとしたのだ。
胸裏深くに沈んだ記憶が、小波を打つ水面のようにゆらりと揺らめく。
瞳に灯った慈愛の輝き─無意識に朧は手を離した。雪香のその聖母の如き明眸を見た瞬間、怒りも憎悪も消えうせていた。
思えば哀れな少女だ。
『どうして止めちゃったの……雪香を殺したい殺してもかまわなかったのに?』
キョトンとした表情を浮かべて雪香が朧に尋ねた。雪香の頬を撫で付けながら朧は言った。
『あんた変わってるな……』
雪香が笑みを浮かべて答えた。
『朧だって変わってるよ』
朧の拳が飛んだ。病み上がりにしてはキレのある良いフックだ。雪香の顎に命中した。脳が震盪し、雪香はあやうく意識を失いかけた。
『とりあえずそれで許してやる』

朧は出て行かなかった。雪香に興味をそそられたのもあった。それにこの家に住んでいれば明日の寝床と食事にもありつけるからだ。

80:ラック ◆duFEwmuQ16
07/03/27 00:05:56 RI+ri3es
室内の空調が一定に保たれているので裸でも寒くはない。わりと居心地は良い。気が向いたときに出て行けばいいだけの話だ。
雪香は朧に決して服を着せようとしない。服を着せないのは雪香の趣味だ。
雪香も家の中では同様に、一緒に裸になって過ごす。裸なのは、どこでもセックスが出来るからだ。
少し気疲れを覚え、朧はベッドに寝転がった。身体の芯がだるいのだ。運動不足が原因だろうか。
うつ伏せになったままページをめくっていく。三十分ほど本を読み勧めていくと軽い空腹感を覚えた。
冷蔵庫を漁ろうと朧が身を起こしかけると、タイミング良く雪香が買い物から帰ってくる。朧は本を傍らに置くと部屋を出た。
「ただいまァ」
明るいほがらかな笑みを浮かべて雪香は買い物袋をキッチンに持って行き、冷蔵庫を開けて食材をしまった。
穏やかな光を称えた雪香の双眸─それは幸福に満たされたものだけが持つ瞳だった。実際、紛れも無く雪香は幸せに包まれていた。
朧と暮らし始めて、雪香は眼に見えて日々明るくなっていった。
ダイニングキッチンの窓から差し込む薄暮の輝きが、雪香の顔貌に優しく降り注いだ。
太陽の光が染めたかの如き艶やかなセミロングの栗色の髪、くっきりとした薄い二重瞼、黒く清らかな長い睫、
丹花のように可憐な唇、綺麗に象られた鼻梁。明眸皓歯だ。朧と出会う前も美しくはあった。だが今のような華やかさがなかった。
それは明るさだ。あの病的な美はすっかりナリを潜め、雪香は健康的な笑みを振りまくようになった。
雪香が少女本来の笑みを取り戻した理由─それは朧に対する恋であり愛だった。
ダイニングの脇から朧は雪香を盗み見た。今の雪香には華やかさがある。それでも朧は思い出すのだ。
あの時嗅いだ色香を。腐臭を。絶望的な孤独の中に感じた雪香の腐敗じみた色香。あの匂いはどこへいったのだろうか。
何故、雪香は狂っていたのか。当初、朧は雪香の孤独の苦しみが理解できずにいた。いくら思案を巡らしてもわからないのだ。
孤独が理解できないのではない。孤独である事に何故苦痛を感じるのかだ。朧も孤独だった。
しかし、孤独である事を寂しいと思った事も無ければ、苦痛を感じた事もなかった。朧は孤独を愛していたのだ。
孤独とはいいかえれば自由。しかし、雪香と暮らすようになってその苦しみがわかりかけてきた。
孤独は二種類存在するのだ。他人から強制された孤独か、自分で選んだ孤独か。
朧は自分で孤独を選んだが、雪香のそれは他人から強制されたものだった。強制された孤独はつらく悲しい。
強制された孤独は人の心を腐らせる。雪香にとって生き地獄とは恐ろしく静かな場所なのだろう。
エプロンをつけると雪香は食事の準備にとりかかった。鍋に水を汲んでお湯をわかし、大さじ二杯ほどの塩を混ぜる。
お湯が沸騰すると次はスパゲッティのパスタを茹でながら、少量のオリーブオイルをひいたボウルと作り置きのミートソースを横に置いた。
丁度いい茹で具合になったパスタをトングで掴み、ボウルに移した。その上からミートソースをかけて絡ませてから皿に盛り付ける。
肉汁たっぷりの湯気をくねらせるパスタからは食欲をそそる匂いがした。ソースをすくって舐める。隠し味に加えたトマトの酸味が爽やかな味わいだ。
テーブルに皿を乗せて雪香が朧を呼びにいこうとしたが、朧はすでに階段を下りてキッチンの前に来ていた。
イスには座らず、朧が立ったままでパスタを飢えた野良犬のようにかぶりつく。さながら地獄の餓鬼だ。
フォークを突き刺すと一気に口に運び、一心不乱に咀嚼する。ミートソースが唇を茶色く濡らした。肉汁が顎の周りを汚す。
そんな朧を雪香はテーブルに肘をつけてニコニコと笑いながら見つめ続けた。雪香は何も言わない。
朧が何をしようが、無言で微笑を浮かべるだけだ。
中々の早食いだった。朧が三人前のパスタを完食するに要した時間は実に四十八秒だ。雪香がエプロンと服を脱いだ。
鍵を取り出して朧の片方の手錠をはずし、自分の手首にかける。
「ねえ、キスしていい?」
悪戯っぽく微笑みながらキスをせがんだ。唇を重ね合わせ、雪香が舌先を朧の口腔内に入れる。
狂おしい感触に雪香は恍惚の表情を張りつかせた。

81:ラック ◆duFEwmuQ16
07/03/27 00:07:54 RI+ri3es
粘った唾液がミートソースと絡みつく。雪香は朧の唾液を呑んだ。唾液が喉を通って滑り落ちる。
ふたりの指先が互いのアヌス周囲の麝香分泌線を探る。
雪香にとって最高のコミュニケーションとはセックスだ。言葉は何の意味もない。言葉はうそをつくからだ。
だから雪香は言葉を信用しない。
ディザイア─この肉の交わりこそが全ての真実であり、なにものにも勝る。嗅覚、体温、視覚、感触、快楽だけは嘘をつかない。
百の愛の言葉を送られるよりも、一度のセックスのほうが魅力的だ。雪香は手錠をかけた掌を強く握った。
ドクッ、ドクッと心臓が胸板を激しく乱打した。
めまぐるしい甘美さが内部を駆け巡った。身体が熱く火照る。朧の唇を一層、激しく求めた。求め狂った。
熱い舌が絡みつく。
雪香は舌で朧の存在を実感した。母の面影を追っていた雪香は当初、朧を母の代わりと愛していたが、今はひとりの人間として心から愛していた。
いや、それも正確ではない。人はやはり過去の呪縛からは逃れられない。朧と肌を合わせると、心のどこかで母の温もりが喚起する時がある。
雪香は元々レズビアンだ。朧に出会う前は男に興味を持つ事が無かった。出会った時も最初は異性として認識していたとはいい難い。
雪香がレズビアンに走ったのは未だに母親離れできないせいだった。朧の言葉を思い出す。
『俺はお前の母親の代用品じゃない』
その一言が雪香に何かを目覚めさせたのだ。朧に対する茫洋とした性の認識が定まった。唇を離した。欲情に濡れ輝く雪香の瞳。
「今日はこっちでしようか……」
しなやかなタッチで朧のペニスに触れた。柔らかい肉茎を指弄して雪香は楽しむ。徐々にペニスが硬度を増していった。
「雪香がしたいことをすればいいよ。俺はどっちでもかまわない」
高鳴る胸、女の肉裂が熱く疼いた。ふたりは床に身体を横たえ、もう一度キスを交わす。ペニスを握ると雪香は膣口に導いた。
最初は鈴口で自分のクリトリスを弄り、温かい蜜液で秘所をトロトロに濡らしてから挿入する。
「ああ……ッ」
半ばほど没したペニスを締めながら、雪香は自ら腰を動かした。朧の薄い胸板に噛み付く。痛みに朧は僅かに表情を曇らせた。
「美味しい……」
「痛いからあんまり強く噛むなよ」
「……ごめん」
謝りながら朧の薄桃色の乳首の幹を甘く愛咬する。形の良い乳房が小刻みに揺れた。雪香の息遣いが荒くなり、美しいラインの眉根が歪んだ。
「んんん……ッ、ああ……あああッ」
膣壁がペニスを擦るほどに、朧は亀頭の先端に熱い血流を感じた。汗が額に浮かぶ。こめかみから頤を伝わって汗がこぼれた。
「はあぁぁ……もっと、もっと奥に欲しい……ッ」
雪香は呻くように呟くと腰をさらに密着させてペニスを割れ目の奥へと呑みこむ。膣内は激しくうねり、せり上がった恥骨が当たる。
「もう、もう駄目……あああッ」
おびただしい愛液を股間をまみれさせながら、雪香は激しく腰を荒打ちさせた。背筋に凄まじい喜悦が走った瞬間、ふたりは達していた。
                 *  *  *  *  *  *
ベッドで安らかな寝息を立てる雪香の頬を朧は軽く舐めた。隠し持っていたを後ろ髪から抜く。手錠の鍵穴にヘアピンを差し入れた。
小さなレバーの部分をヘアピンで回す。はずれた手錠から手首を引き抜いた。雪香が起き出さないように静かにベッドから降りる。
クローゼットからトレンチコート、書斎から本を一冊失敬する。久しぶりに外の世界を見たかった。玄関を開けて外へと出る。
庭に視線を向けた。ドーベルマンは吠えもせず、ただ朧を見つめた。何かに誘われるかのようにふらふらと朧は道玄坂方面に足を運んだ。
気が向けば帰ってくるし、気が向かなければ帰らない。糸が切れた風船のように風の向くまま気の向くまま、自分の本能に従って朧は行動する。
東に風が吹けば東に飛び、西に風が吹いたら西にいく。流れ流れてこの世を漂い、好き勝手出来ればどこで野垂れ死にしようが一向に構わない。
須臾の時間、この刹那の時だけを生きる。昨日も無ければ明日もない。
明日を信じたところで何が起こるかわからない。昨日を振り返ったところで、過去が変わるわけでもないのだ。
明日という予測のつかないモノを信じてストレスを抱え、己を殺して生きるよりは今日を好きに生きて明日死んだほうがいい。

82:ラック ◆duFEwmuQ16
07/03/27 00:10:03 RI+ri3es
気に入らない奴はぶちのめし、欲しいものがあれば盗んででも手に入れる。朧は自分に対して嘘はつかない。
その考えは到底、社会に受け入れられるものではない。反社会的とさえ言える。だから朧はつねに独りだった。
集団の中にいれば何かと煩わしいからだ。
下は裸のままトレンチコートを一枚羽織って、暁闇に包まれた住宅街を横切る。当たり前だが人通りは途絶えていた。
夜空を見上げた。星一つ見えなかった。
「ああ……はらへった」

「親分さん、色突き終わりましたよ」
彫菊に声をかけられた初老の男が布団から身を起こした。歳を食ってはいるが、男は壮健そのものの身体つきをしていた。
実際の年齢より十五歳は若く見える。太鼓腹だが、相撲取りのように脂肪の下には厚い筋肉が隠されているのが彫菊にもわかった。
男の眉は太く一本に繋がっており、一重瞼の金壺眼に顔面の中央にどしっと座った低い団子鼻という異様だが精力溢れる面貌だった。
鯉に金太郎の彫り物を背中に背負うこの男は、関東では有名な金看板を掲げてた一家の総長だ。
本来ならば、たかが七年そこらの駆け出し彫師に毛の生えたような彫菊に声をかける人物ではない。
彫菊の師匠筋に当たる人物と総長との付き合いが深く、ある席で師匠に紹介されたのが縁を持ったそもそものはじまりだった。
「十八年ぶりの色突きはきついよ。やっぱり私も歳だねえ。だけど若い娘さんにやってもらうとなんか若返った気分になるよ。
特にあなたみたいな綺麗な娘さんにしてもらうとね」
「いえ、とんでもありません」
大島紬の袴を着ると叩いた。若衆らしき黒服の青年が襖を開けて部屋に入ってくる。
「総長、彫菊さん、お疲れ様です」
三つ指を突いてふたりに向かい深々とお辞儀をする青年に総長は温和な微笑を投げかけた。屈託の無い笑みだった。
「ご苦労さんだね。ちょっと忙しいと事悪いんだけど、彫菊さんを家まで送ってやってほしいんだよ」
「はい、わかりました。ではどうぞこちらへ」
青年が車庫まで案内するとベンツのドアを開けて、彫菊を車内に促した。
                 *  *  *  *  *  *
スツールに腰を下ろして彫菊はウイスキーの水割りを頼んだ。肩の荷が下りた気分だ。流石にあれほどの大物と会うと緊張する。
マスターが運んできた水割りを三口で飲み干すと彫菊は水割りのお代わりを頼んだ。あの少年─朧の事が気にかかる。
不思議な少年だった。美しい顔と肌の持ち主だった。金と食事を与えるから背中に刺青を彫らせてほしいと頼んだら自分についてきた。
すでに半金を支払ってはいたが、残りの金を受け取りに来ない。今頃どこで何をしているのか気がかりだ。
堅気ではないだろう。かといってヤクザでもない。今まで見てきた人間のどのタイプにも当てはまらないのだ。
しいていえば小学生の時に飼っていた黒猫に似ていた。濡れ羽色の毛並みをした細身の綺麗な雄猫だった。彫菊はこの猫が好きだった。
美しかったからだ。半年ほどしてから家から居なくなってしまい、泣きながら日が暮れるまで探したのを覚えている。
彫菊が彫師の世界に身を投じたきっかけ─それは飼っていた黒猫に右腕を引っかかれた事が引き金だった。
鋭い爪が肉を引き裂く灼けるようなあの痛み。腕に残った傷の跡。傷とは、痛みとは何なのだろうか。
幼いながらに彫菊は痛みについて頭を絞って思い集んだ。英国の詩人フランシス・トムソンはこんな詩を残している。
『全ては呻きではじまり、呻きで終わる。人生は他人の痛みで始まり、自分の痛みで終わるのだから』
では傷跡とは何なのか。傷跡─それは痛みの痕跡だ。傷跡はしばしば他人に苦痛を喚起させる。しかし美しくは無い。
美しい傷跡など彫菊は見た事が無かった。仮に美しい傷跡があったとしよう。だが、大部分の傷跡は醜い。
出来る事なら美しい傷を身体に残してみたかった。そしてたどり着いたのが刺青だった。


83:ラック ◆duFEwmuQ16
07/03/27 00:12:52 RI+ri3es
投稿完了。
器とは一度ヒビが入れば二度とは……二度とは……

84:名無しさん@ピンキー
07/03/27 03:36:37 fdtPuEyf
俺的熟女ヤンデレはこんな感じ

ある若いカップルが結婚式を行う。
カップルはお互い愛しあっていた。
ところがハネムーンで新婦の目の前で、新郎が不慮の事故で亡くなる。
かくして新婦は若くして未亡人に
(この時のショックで新婦は自分を責め、しばらく人間不信になる)

数年後、未亡人の隣に越してきた若い男が挨拶に来る。
若い男は、数年前に亡くなった夫に瓜二つだった。
これは運命だと、数年間溜めに溜めた自責の念を、若い男を籠絡する事に注ぐ。
青二才の男の体を、熟れた女の肢体が貪り喰らい尽くす。

85:名無しさん@ピンキー
07/03/27 04:43:32 9Zsedw4q
>>83
続編ktkr!
文体に独特の雰囲気があってイイ!
てかここからさらにヤンデレ分強くなるのかwktk

>>84
そーいえば昔中年のおばさんが主人公に惚れてしまって
ライバルに勝つために周囲の人間から「美しい体のパーツ」を集めて
それで作った新しい体に人格を移して絶世の美女になる……
というエロゲがあったな。今思えば立派なヤンデレだった

86:名無しさん@ピンキー
07/03/27 06:08:57 ve4KSm9d
>>85
アリスのDr.stopだな。言われてみればあの婦長はヤンデレだ。逆光源氏やってたし。

87:名無しさん@ピンキー
07/03/27 17:47:16 eoMttp5n
タワシコロッケはヤンデレ的ですか?

88:ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo
07/03/27 20:01:24 ZX4xyh8k
第七話を投下します。

89:ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo
07/03/27 20:03:32 ZX4xyh8k
第七話〜にらみ合いと、秘められた伝言〜

 従妹が通っている大学の先輩が、以前に一度だけ会ったことのある女性だった。
 今日俺が大学に来ているのは華に無理やり連れてこられたからなのだが、
そこで菊川かなこさんに会うとは予測も予想もしていなかった。
 しかも、かなこさんと華は先輩・後輩の仲らしい。
 こんな偶然が起こる確率はどれほどのものだろう。
 数値化することはできるのだろうか。
 できるのならば、導き出すための数式を誰かにご教授願いたい。

 俺は、完全な予測を立てるのは不可能だ、と考えている。
 天気予報の降水確率などは信じられないものの代表格だし、
いくら綿密にNASAが計算したところでシャトル打ち上げの成功を保証することなどできない。
 正しい数値を入力すればコンピュータはそれに合わせて答えを出してくれる。
 そうすればスペースシャトルの打ち上げは100%の確率で成功するだろう。
 だが、ここで疑問がわいてくる。

 その正しい数値をどうやって割り出せばいいのか?
 その数値とやらは本当に正確なのか?
 そしてコンピュータの計算式に不備は無いのか?
 なにより、それらが正しいということを証明するものなど存在するのか?
 それらはすべてが曖昧なものでしかない。
 正しいものなど、科学においては存在しえない。
「科学が正しいということを証明する科学は存在しない。
 なぜならば『証明する科学』が正しいと『証明する科学』が存在しないからだ」
 というやつである。

 物事の予測を計算式でまかなおうというのが無理なのだ。
 どこかで妥協をするしかない。
 降水確率が0%でも折りたたみ傘を持ち歩いたり、
シャトル自体に不備が無いよう点検・整備をしっかりと行うのが望ましい。
 そして俺はその通りに、人生を妥協して生きていこう……と考えていたが、
人間関係において妥協しようとしなかったのはなぜだろう。
 ……若気の至り、ということにしておくか。

 俺の性格は予測することには向いていない。
 深く考えずにその時、その場の状況に合わせて動くほうが上手くいく。
 考え始めると思考のベクトルが予測外の方向へと突き進み、行動もおかしくなる。
 そのせいではないのだろうが……現在、俺は全く予測のつかなかった状況に置かれている。
 
 自ら企業を退職したフリーターであるどこにでもいるような24歳の俺が、
 普段ならコンビニの事務所でのんびりと昼食をとっている正午に、
 従妹に連れてこられた俺とは全く縁の無い大学の中庭で、
 男装の変人と不必要な会話をしている間に従妹の魔の手から逃げ遅れ、
 従妹で幼馴染である現大園華と、その言動が全くの予測外である変人の十本松あすかと、
 顔見知りであること自体があり得ない良家のお嬢様である菊川かなこさんと昼食を食べることになった。

 こんな事態に俺が陥ることを予測していた者がいるとしたら、神か仏かお天道様だ。
 三人いるんなら誰か一人ぐらい教えてくれてもいいのではないか、と思う。

90:ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo
07/03/27 20:04:15 ZX4xyh8k
 大学の中庭は日当たりがよく、食事したり、昼寝をするには最適の環境だ。
 おあつらえむきに数人で食事ができるようなテーブルまで設置されている。
 さすがにハンモックを用意するほどに酔狂ではないようだが、
 木製のテーブルだけでも充分気が利いていると言える。

 華から渡された弁当箱を、膝の上からテーブルの上に移動させる。
 弁当箱を持ち上げたときに思ったことは「これは中身が詰まっているな」だった。
 普通ならばそれは喜ぶべきことなのだろうが、いささか多すぎるような気もする。 

 俺から少し間を空けて左に座っている華の表情は緊張していた。
 ときおり、ちらちらと俺の手元を見ている。
 自分の顔が見られていることに気づくと、ごまかすようにそっぽを向いた。
 空色のリボンが華の流れるような長い髪をまとめているのが見える。
「遠慮せずに食べていいですよ。おなか、すいているでしょう?」
「ああ」
 別に遠慮しているわけではない。
 いったいどんなものが入っているのかと不安で、蓋を開ける気にならないのだ。
 しかし、躊躇ったところで結局はこの弁当の中身を腹に収めるまでの時間を延ばすことにしかならない。
「おや、食べないのかな? それとも食べたくないのかな?
 それはよくないね。まだ若いのに、健康体なのに、そのうえ男なのに。
 もしかして君は見た目より年をとっていたり、不治の病に冒されていたり、女だったりするのかい?」
 テーブルを挟んで向かい側に座っている十本松が、無駄に長い台詞を吐き出した。
「……あえて返答するが、お前が言ったことのいずれも正解ではない」
 俺は女ではないし、この弁当はもちろん食べる。
 しかし食べたくない、というのは少しだけ当たっている。
 いくら俺が食べたくないと思っても、食べなければならないのだが。
「わたくしたちに気を使わずに、お先に召し上がってもよろしいのですよ」
 左斜め前には、どこまでも礼儀正しい佇まいをしたかなこさんが座っている。
 彼女の席には藍色の布に包まれた四角形のものが置かれている。
「かなこさんもお弁当なんですね」
「はい」
「自分で作ったんですか?」
「こう見えても、料理を作ることが趣味でございまして。
 将来、殿方となった男性には毎日毎食手料理を食べていただきたいですから」
 俺の顔を見ながら、かなこさんが微笑んだ。
 そんなことを言いながら微笑まれたら、好意を向けられていると勘違いしてしまいそうだな。
 
「よっし……」
 俺の胸の前に置かれている弁当を食べる覚悟は、たった今決まった。
 こういうのは躊躇うより、さっさと行動して、さっさと終わらせてしまうほうがいい。
 蓋の上に手を置く。そして、一瞬の躊躇のあとで、その手を持ち上げる。
 あらわになった弁当箱の中身を見た俺は、あっけにとられた。
 きつねの色をしたご飯の中に、細長く切られたごぼう、きざまれている人参、
小さな四角形になったこんにゃく、鶏肉が入っている。
 ところどころに、いんげんがアクセントのようになって点在している。
「これは……五目ご飯か」
「私が一番得意な料理なんです。
 何を作ればいいか迷ったからそれにしたんですけど、おにいさんはそれ、嫌いですか?」
「特に嫌いってわけじゃない。
 ……が、一つ聞きたい。何故それがぎっしりと弁当箱につめこまれているんだ」
 手元にある弁当箱のサイズは、横に30センチ、縦に20センチ、高さは6センチほど。
 かなり大き目の弁当箱であるが、中身の全てを五目ご飯が埋め尽くしている。
 これを俺一人で食べろというのだろうか。
「可愛い従妹である、華君が作った料理だ。
 もちろん米の一粒すら残さず、具のひとかけらも残さず食べるのだろう?」
「……ああ、もちろんだ」
 途中で倒れたりしなければな。

91:ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo
07/03/27 20:06:02 ZX4xyh8k

 両手を胸の前にあわせ、割り箸を親指とひとさし指の間に挟む。
 手が軽く震えているせいで、箸がぶれて見える。
「い、いただきます」
 左手で少し重い弁当箱を支えて、五目ご飯に箸をさしこむ。
 箸を使ってちょうどいい大きさに分けようとするが、かたくて、なかなか細かくなってくれない。
 華のやつ、かなり力を込めて押し込んだな。
 いったいどれだけの量を炊いてこの中につめこんだんだ。
「この、こいつ。さっさと……よし、これなら食べられる」
 苦戦しつつも、一口に収まる大きさの五目ご飯の塊を分けて、箸の先端でつまみ口に運ぶ。
 おそるおそる、舌でその味を確かめる。
「……ん……ぅむ、うん……」
「どうですか、味の方は?」
 華が緊張のおももちで、感想を求めてきた。口の中のものを飲み込んでから答える。
「まともな味……じゃなくて、ちゃんと味がついてるな」
「お、美味しいです、か?」
 ……言ったほうがいいんだろうな。恥ずかしいけど。
「うん。自信を持つだけあって上手に作れてるな。
 美味いぞこれ。本当に上達してるんだな」
 そう。まったく予想外の美味さだった。
 ご飯にはもちろん味がついているし、鶏肉の歯ごたえも感じられる。
 初めて作った人間であれば、ここまではうまく作ることはできないはずだ。
「これなら全部食べられるよ。ありがとな、華」
 弁当箱を持つ左手に重さを感じさせない程度の量にしてほしかったが、あえて言わないでおこう。

 褒められたことがよほど驚きだったのか、しばらくの間目を大きく開けていたが、
次は口をぱくぱくと小さく動かし始めた。
「へ、ぁ……ぁぅ……ぁりがと、ございます。おにい……さんん……」
 そう言うと、また俺に顔を背けた。華の耳が、きもち紅くなっている。
 ……そういえば、昨日、華は俺のこと好きだって言ったよな。
 いかん。思い出すと、なんだか華が可愛く見えてきた。
 まだ二月なのに、体がほてっている。
 おまけに、胸の奥がなんだかむずがゆい。なんだか、これって……
「うぅーむ。まるで思春期の中学生のような光景だね。
 憧れの先輩にお弁当を作る健気で、無垢で、穢れの無い女子生徒と、
 野獣のごとき食欲と、恥ずかしい台詞を人前で言える心臓を持った男子生徒。
 そのままお弁当と一緒に華君を食べたりしないでくれよ。
 食べるんなら私もぜひ混ぜてくれ。混ぜ込んでくれ。そう、わかめごはんのように!」
「俺の思考を読むな、この変人!」
「ほう。君は、私と華君と君の三人で混ぜ込まれたかったのかい?」
「断じて違う!」
「せっかくの誘いだが、断らせてもらうよ。私にはかなこという名前の婚約者が……」
 俺の言葉を無視して、十本松がかなこさんの肩に手を乗せた。


92:ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo
07/03/27 20:07:04 ZX4xyh8k

 しかしすぐさま、自分から手を退けた。
「おやおや、これはこれは……」
 そう呟きながら、今まで十本松は一度も見せなかった苦い色を顔に張り付かせて笑った。
 その理由は、かなこさんの雰囲気が先刻とまるで異なっていた、ということ。
 目を細めて、頬を少し緩ませて薄く笑っているが、何かが違う。

「ふふふ……ようございましたね。雄志さま。
 華さんに美味しいお弁当を作っていただいて。
 仲のよろしいお二人を見ていると、こう……えも言われぬ気分になりますわ」
 どんな気分なのかは明確に口にしなかったが、なんとなくわかる。
「華さんにここまで仲のよろしい男性がいらっしゃること、とても嬉しく思います」
 彼女は、面白いなどとは、嬉しいなどとは思っていない。
 声を聞いていれば、分かる。
 初めて会った日と同じだ。
 料亭で食事したときに豹変した彼女の声と、今の台詞。そのトーンとアクセントのつけ方がまるで同じなのだ。
 低いトーンと、強いアクセント。
 聞く人間に訴えかけるような、強く、はっきりとした、忘れさせまいという意思。
 それを言霊にして、俺に―俺だけに、ぶつけてくる。

「聞いてくださいまし。
 華さんは大学では男性とまったくと言っていいほど会話をされないのです。
 わたくしはそれをいつも気にかけておりましたが、すでに仲のよい男性がいらっしゃったのですね。
 ふふふ……それが、まさか雄志さまだとは米粒ほどにも思いませんでした」
 かなこさんは弁当箱から一粒の白米を箸でつまみ、美しい顔の前にそれを構えた。
 その箸の先端と、米粒が俺に向けられる。
「どうかされましたか? ふふふ……」
 目を反らせない。
 彼女の目の輝きから目が離せない。
 かなこさんは俺の目を見つめているから、当然彼女の目には俺が映りこんでいる。
 その目を見つめていると、まるで俺自身が瞳の中に閉じ込められたのではないかと錯覚してしまう。
「お口を、開けてくださいませ」
 言われるがまま、反射的に上下の唇を離す。
 
 ひゅっ

 彼女が着ている服の袖が、空気を切るような軽い音を立てた。
 かなこさんが身を乗り出し、右腕を突き出して、俺の口の中に箸の先端を入れたのだ。
 もちろん、箸は口内のどこにも当たっていない。口内の空間でどこにも触れずに停止している。
 冷や汗が流れる。息ができない。
 もし動いたら、そのまま右腕を動かされて、箸の先端を喉の奥に突き刺されそうな気がしたから。
「ふふ……」
 かなこさんが静かな声を漏らした。
 声を漏らしただけで、笑ってはいなかった。
 目は大きく開き、まばたき一つしない。
 俺の目と、脳を貫いて、後頭部に穴を開けてしまいそうな―恐ろしい瞳だった。


93:ことのはぐるま ◆Z.OmhTbrSo
07/03/27 20:08:27 ZX4xyh8k
 
「かなこさん。そこまでです」
 唐突に、華の声が割り込んだ。いや……華が出したのか、今の声は?
「おにいさんに変なことをするのは、やめてください。
 いくらかなこさんが相手だとしても、それ以上何かするというのなら、怒りますよ」
 
 ―刀。

 その声を聞いて思い浮かべたのは、緩やかな曲線を描き、
見ているだけで喉元を捉えられているような錯覚と緊迫感を与える、美しい刃物の姿だった。
 かなこさんと同じく、華の声までもが異質なものへと変貌していた。

 肉体と思考を捕らえて動けなくしてしまう、かなこさんの声。
 遠く離れていても、それすら無視して射抜かれてしまいそうな、華の声。

 そして、俺はその声の持ち主たちが手を伸ばせば届きそうな距離にいる。
 完全に、動きを封じられた。
 たった今かなこさんに箸を突きつけられているというのもあるが、もうひとつ。
「おにいさんに危害を加えるというのならば、私は……」
 今の華を刺激したら、まずいことになる。
 『下手に動いたら彼女のなにかが爆発する』、と直感が告げている。
 それが何なのかはわからない。だから『なにか』という曖昧な、抽象的な表現しか出来ない。
 だが、華から噴出している気配から察するに、暴力的なモノであることは間違いない。
 その矛先は、確実にかなこさんへと向けられるだろう。
 それだけは防がなければならない。
 そしてそんな事態に陥るのを防げるのは俺しかいない。
 顎に手を当てて苦笑いを浮かべている十本松など当てにならない。

 『かなこさんの悪ふざけを止める』。
 それが今の俺に考えられる最良の事態打開策だ。
 まず、かなこさんの手を退ける。
 次に、華を冷静にさせる。
 単純だが、この手順でいくことに決めた。
(よし……!)
 空いている右手を動かして、かなこさんの腕を握った。
 ―つもりだったが、俺の手はただ握り拳を作っただけだった。
 気がついたら、目の前にいたはずのかなこさんは元の位置に戻っていた。

 彼女は手元にある弁当箱を布でくるんでいた。
 藍色の布でしっかりと結び目を作り終わった後で、鈴の鳴るような声を出した。
「ふふふ。華さんは本当に可愛いですわね」
 いつもの穏やかな微笑みで呆けている俺と、険しい顔のままの華を見つめている。
「冗談ですわ。あまりにお二人が仲良くされているものですから、つい」
 かなこさんは穏やかな口調でそう言ったが、華の表情は依然険しいままだった。
「……冗談が通じない場合もあるということをかなこさんは理解した方がいいですね。
 すみませんけど、私はこれで失礼します!」
 華はテーブルの上に広げていた弁当箱を手早くしまうと席を立った。
「ちょっと、待て!」
「おにいさん。弁当箱は私の部屋の前に置いててください。……それじゃ」
 静止する俺の声を聞かず、華はその場から立ち去った。
 
 その時の華は、額に軽くしわを寄せて、奥歯を強くかみ締めて、怒りを押さえ込んでいるように見えた。



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