ヤンデレの小説を書こ ..
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2:名無しさん@ピンキー
07/02/25 00:58:03 0X29IBbE
1乙。そして2ゲット。

3:名無しさん@ピンキー
07/02/25 01:00:33 y9F5nFc4
>>1乙。

関連スレ

嫉妬・三角関係・修羅場系総合SSスレ この29●●!
スレリンク(eroparo板)


4:名無しさん@ピンキー
07/02/25 01:16:29 1GScpdDl
>>1


5: ◆kNPkZ2h.ro
07/02/25 01:42:13 MlyMp9a6
>>1
慎氏、乙です。

後、前スレに上書きの7話投下しましたんで。

6:名無しさん@ピンキー
07/02/25 02:16:37 QkuHneqi
>>1

7:名無しさん@ピンキー
07/02/25 12:35:02 270zdDsb
これはヤンデレでおk?
URLリンク(www.youtube.com)

8:名無しさん@ピンキー
07/02/25 16:33:01 mBPeoP3h
これは微妙だな。途中経過がないから只のき○がいにも見える。

9:赤いパパ ◆oEsZ2QR/bg
07/02/25 17:34:47 h1BEVMqk
遅まきながらこちらに投下させていただきます。

10:真夜中のよづり4 ◆oEsZ2QR/bg
07/02/25 17:36:16 h1BEVMqk
 学校から1キロほど離れたところにある木造アパート。通称『まるわハイツ』
 築13年で二階建て部屋数は六つ。トイレ共同、風呂は一応あり、六畳一間で日当たりは若干悪い。俺はそんなアパートの二階の奥部屋に住んでいた。
錆びた鉄製の階段を一歩一歩昇ると、ぎしぎしと鳴る木の廊下を歩く。外に剥き出した廊下は外側にすこしだけ傾いてて、バランスを崩すと柵を乗り越えて下へ落ちそうだ。
母親が一人暮らしになる俺に当ててくれた部屋だが、もうすこしいい部屋にしてくれよと思う。いつ崩れるかと思うと、怖くて眠れん。家賃を払ってもらっている手前、贅沢もいえないがね。
 部屋の前までやってくると、ドアノブにビニール袋が引っかかっていた。中を見ると、俺のチェック柄の服とエドウィンのジーパンが入っていた。あれ、なんでこんなところに俺の服が……。
って思い出した。たしかお隣の藤枝さんに「ちょっと、和人くん! き、君、地肌が見えてるじゃないですか! 貸しなさいっ」と、着ていたところを強引に脱がされた服だ。
部屋の前で脱がされたから良かったものの、外で脱がされてたら俺はパンツ一丁になるところだった。おいはぎにあった人間か、俺は。
ビニール袋から取り出して確認してみると、ほつれていた脇の部分が破れた後も見えない程丁寧に塞がっていた。やっぱり藤枝さんの腕はすごい。手芸の先生だというだけある。
 ジーパンも取り出す。確かこれは右ひざの部分が摺れて穴が開いてんだったっけ……。俺は畳まれていたジーパンを開く。紺が強いジーパンの右ひざには可愛いミッフィーのアップリケが縫われていた。
「………」
 藤枝さんのミッフィーブームはまだ終わっていないらしい。俺は通算三枚目となったミッフィージーパンを畳むと、ビニール袋に押し込んだ。それを掴むと。学生ズボンの後ポケットから鍵を取り出す。
それを自分の部屋の木造ドアのノブの鍵穴につっこんだ。鍵がちょっと曲がっているため、途中まで入ったところでつっかえる。
「くそっ」
 いつものことだが、毎度毎度イラつく。俺は力任せに押し込むと、鍵をねじりこんだ。
 がきこんっと金属音がして全て飲み込まれた。かっちりとはめ込むと音を立てながら戸が開く。
「ふぅ。ただいまー」
 入り口脇に合ったサボテンにそう言うと、靴を脱いで部屋に上がる。
 俺の部屋は狭い上にボロっちいので、ほとんどモノがない。実家に居た頃はそれこそゲームや雑誌の束かなんかがいっぱい積み上げられた部屋で過ごしてたが、ここに引っ越してくるときにほとんど置いてきてしまった。
 この部屋に実家並みのモノを置くとなるとスペースがいくらあっても足りないし、あんまり重いものを置きすぎると床が抜ける可能性もある。
 そんなこんなで俺の部屋にあるものといえば備え付けの水道と流し台とコンロを除くと、ちっちゃい冷蔵庫と14インチの古いテレビ(リモコン無しの奴。地デジにはもちろん非対応)、それに本棚とクローゼットと勉強兼食卓用のちゃぶ台だけだ。
 さらに部屋が小さいため、掃除も楽だから必然的に俺の部屋は綺麗だった。
 本当にモノがねぇな。だがこの生活初めて二年になるが、あんまり不便だとは感じていなかった。
俺は藤枝さんに縫ってもらった服をクローゼットの箪笥にしまう。ミッフィーブランドになっていないジーパンはあと二枚。そろそろ買いに行かないとな。
 俺は部屋の真ん中に置いてあったちゃぶ台を端に寄せると、学生服のまま畳の上にごろりと寝っころがった。ふうと一息つく。夕方過ぎて外は暗くなり始めていたが、部屋の中はもっと暗く見上げた天井は黒く見えた。
 俺は腕を伸ばして蛍光灯の電気コード(糸をつないで延長したヤツ)を掴むと、軽く引っ張った。ぱちんと音を立てて蛍光灯が二・三度点滅するとグレー色の蛍光灯が白くなり俺の部屋を明るく照らした。
 白くて丸い光の束を俺はしばらくぼぅっと眺めていた。
「しっかしなぁ……」
 気分は憂鬱だった。原因はもちろん、過去最高なファーストコンタクトとなった二十八歳の元引きこもり高校生こと、榛原よづりのことだ。
「俺、あいつといい関係築いていく自信が無いぞ……」
 今日の榛原よづりの行動が脳の奥につらつらと再生される。
 いきなり、尋ねてきた俺を家に招きいれた彼女。コーヒーをつくって俺の横にぴっとりと寄り添うように座った彼女。
「まさか、あのコーヒーも何か入ってないだろうなっ!?」
 俺は起き上がって体をまさぐってみるが、今のところ異常はない。まぁ、唾液ぐらいならまだ生死の危機はないが。
俺は半信半疑ながら、もう一度寝転がる。あのあとあの女は……。俺にヘッドロックをかましてきたな。胸の感触はよだれものだったが、あのヘッドロックの意味はなんなのだろうか。


11:真夜中のよづり4 ◆oEsZ2QR/bg
07/02/25 17:37:16 h1BEVMqk
ただ抱きしめていただけか? それともマジで息の根を止めるつもりだったのか。
 で、彼女は俺のために料理を作ると言い出して……自分の前髪を切り落とした。ばっさりと、一遍の躊躇も無く。
「アレには突然すぎてビビッたなぁ……」
 彼女はまるで当然というような顔で切り落としたのだ。いや、確かに料理をするときに前髪は不要だがあんなに長く伸びた髪を女の子はすぐに躊躇無く斬ってしまうものなのか? 普通バンダナつけるとかするだろ? 髪を切るほうが面倒くさいだろ?
 そして極めつけは。

 べとべとべとべとべとべとべと。

「……」
 いいのか。アレは。
 あいつ自分の唾液を混ぜながら笑っていたぞ?
 俺はどうやらあいつに気に入られたようだが……、いくら副委員長とはいえあんな女の相手はまっぴらごめんだ。
 だいいち、無理があるんだよ! カウンセラーでも保健の先生でも無い俺が元引きこもり高校生二十八歳という攻略高難易度キャラを相手にするなんて!
 あんなのが隣にいたら俺の心休まる日が無い。さすがに無理だ。
「……しゃあねぇ。今回も委員長頼みか」
 俺はズボンから携帯電話を取り出すと、いつものように短縮フォンを押す。見慣れた番号と名前がディスプレイに表示される。スピーカーを耳を近づけると、りぃん……ではなくとぅるるるといつもの発信音が鳴る。
 しかし何度も鳴らせるが一向に出ない。三十秒ほど鳴らしてようやく委員長が出た。
『なに? 森本くん』
「おう、委員長」
『珍しいわね、あなたから電話してくるなんて』
 そういえば、委員長から俺に学校連絡として電話してくることはあっても俺が電話したことは無かったな。面倒くさくて摺る必要も無かったんだが。
「んだな」
『で、どうしたの?』
「ちょっと話があってな」
『ごめん、後にしてくれないかしら? 今お風呂はいってたところなのよ』
 え、ちゅーことは今は風呂上り?
「委員長。もしかして今バスタオル一枚か?」
『それが話? 切るわよ』
 ああっ! 待て待て。ちょっと気になっただけなんだって。だってバスタオル一枚で電話に出るなんて、90年代のドラマでは屈指の名シーンじゃないか! 90年代ドラマ好きの俺としては萌え萌えなわけで……とととそんなこと言えねぇか。
「違う違う。すぐすむから」
『なぁに?』
 さすが委員長。バスタオル一枚(たぶん)でもちゃんと話は聞いてくれるようだ。
 俺は手短に今日のことの詳細を語ろうとしたが……、風呂上りでバスタオル一枚(たぶん)の委員長のことを考えると一分でも長いくらいだ。ここは結論から先に言うべきと判断する。すなわち。
「ごめん、俺明日無理だわ」
『どういうこと?』
「だから、明日急用ができて、榛原さんを迎えに行くのは無理になったんだ。悪いけど委員長が行ってくれないか?」
 俺がそう言うと委員長ははぁ? と聞き返す。あまり聞きたくないイラついた声だ。
『またサボり? いい加減にしてよっ。毎回毎回あたしに押し付けてばかりじゃない』
「違うって、本当に急用ができたんだって」
『なによ。急用って』
 え、えっと。俺はなにかいい言い訳を考えようとして、思いついたことを出任せに言った。
「明日な妹を幼稚園に連れて行かなきゃならなくなったんだよ。いつもは親が送ってるんだけど、明日はたまたま朝から仕事でさっ!」
 俺は一人暮らしだし実家にも妹なんて居ないが、居ることにした。
『あなた一人暮らしだし、一人っ子だって言ってたじゃない』
 あ、やべぇ。知ってたか。そういやいろいろサボる口実に「一人暮らしで忙しい」とか言った気がする。俺は冷や汗を流してなんとか言い訳を考える。
「ちげぇよ! 俺の妹じゃねぇよ。 藤枝さんだよ!」
 とっさに俺は藤枝さんに妹が居るという設定を作った。もちろん藤枝さんからそんな話は聞いていない。
『藤枝さんの?』
「俺のお隣の藤枝さん。あのひとには幼稚園の妹さんがいてさ、ほら、いつもお世話になってるし、その、な?」
 藤枝さんのことは委員長は多少なりとも知っている。何度か俺が話したこともあるし、たまに道で会ったりもしていた。
『藤枝さんに妹さんがいたんだ?』
「あ、うん。藤枝さんは一人暮らしだけど、実家に居るんだって。で、水・金は藤枝さんが送り迎えするんだけどさ。ちょうど明日は藤枝さんも用ができちゃったらしくて……で、俺が負かされたってわけ」
 嘘を重ねぬりするのはなかなか心苦しい。

12:真夜中のよづり4 ◆oEsZ2QR/bg
07/02/25 17:37:57 h1BEVMqk
『ふぅーん……』
 委員長はあまり納得して無いようだった。
「だから明日は無理! お願いだよ、代わりに行ってくれよ」
『……へっくしっ』
「大丈夫か? やっぱりバスタオル一枚なんだろ。無理するなよ」
『うっさいわ! ……わかったわよ、じゃあ明日はあたしが迎えに行くわ。あなたも藤枝さんの妹さんの送り迎え頑張りなさいよ。じゃあねまた明日っ!』
 どうやら、委員長はバスタオル一枚だったようだ。寒くて早く電話を終わりたかったらしく、最後のほうは早口でいいまとめるとこちらの返事も聞かずに切った。
つーつーつーと耳から流れる音を聞きながら、俺は初めて委員長の関西弁が聞けたことに感動していた。
うっさいわ! うっさいわ! うっさいわ……(エコー)。ああー、もうちょっと長く関西弁を喋って欲しかったなぁ。できれば『うっさいわ!』より『なんでやねん!』の方がいいな。
なんつーか、ああいう普段は方言を使わない子がある特定のときに方言丸出しになるってなんかいいよなぁ。普段から方言だとうざいことこの上ないけど、たまに喋ったりするとなぁ……。
いやいや、それはともかく。
 なんとか、明日は榛原よづりを迎えに行くことはならなさそうだ。
 俺は安堵の息を吐いた。やっぱりややこしいことは委員長に任せるに限るなと、本人が聞いたら激怒しそうな独り言を呟いて、俺は目をつぶった。
 まだ夕方だというのに俺は暗い部屋のせいで眠気に襲われていった。落ちてゆく意識の中で、一瞬だけ俺のまぶたの裏に髪の毛を切って俺に笑った榛原よづりの顔が浮かんだが、俺は特に何も思わず学生服のまま眠りについた。

 翌日。
「おいっす」
 俺はいつもの登校時間に普通に教室に入った。
「おはよっ!」
「おー、おはようっ」
 ちょうど通りかかったロリ姉が挨拶を返してくれたので、俺はロリ姉のポニーテールをぐりぐりと撫でてやった。ロリ姉は憮然とした顔で「もう〜」といいながら教室を出て行った。かわゆいやつ。
 教室を見渡すと、委員長はまた来てないようだ。委員長の席は空席でカバンも何も置いていない。
 ちゃんと俺のお願いを聞いて迎えに言ってくれたんだな。結構結構、でも少し罪悪感が湧く。今度メロンパンでも奢ってやろう。
 そういえば無理矢理理由くっつけて委員長に行ってもらったが、あの後藤枝さんから「私にあることないこと付けて理由にするなです」としこたま怒られたんだよなぁ。壁が薄いから全部きこえてたようだ。あの人も美人なくせに怒ると怖いんだよ。
 そのくせ面倒見がいいから将来いいお母さんになれるよな。うんうん。ダンナは苦労しそうだが。
 俺は一人で納得しながら席に着いた。俺の席は窓側の中間ぐらい。冬場は日当たりが良くて古文の時間とかには昼寝のいいポジションだ。俺の籤運は素晴らしいな。
 教室は寒かったが、俺の席は暖かかった。朝の太陽の光を浴びながら俺は大きくあくびをする。こりゃ一時間目から寝てしまうなぁと考えながら。
「んっ」
 ぶるりとポケットが揺れる感覚。うぃーんうぃーんと振動音。マナーモードにしていた俺の携帯電話だ。
 出してみるとメール受信ではなく、音声着信。LEDライトが赤く点滅していた。光るサブウィンドウを見るとそこには榛原よづりを迎えに行った委員長の文字が躍っていた。
 どうしたんだ?
 まだ朝のHRまで10分ある。基本的に校内での携帯電話の利用は禁止だが、授業時間以外の使用は一応は黙認されている。まぁ、隣のクラスでは携帯電話で株取引やってるヤツもいるし、こんなに携帯電話が普及している時代、すべてを禁止するのは無理あるしな。
 しかし委員長がこの時間に電話してくるのは珍しいな。あいつも携帯電話は持っているが、校内や登下校の時は完全に電源を切っていてほとんど使うことは無かったのに……。
 俺は二つ折りの携帯を開くと緑色のボタンをおした。
「おっす。なんだ委員長」
『あ! 森本くん!? いまどこ!?』
 かけてきた委員長は声を荒げていて、切羽詰っていた。まるで俺を責めるときのような荒げ方。俺は一瞬、無視すればよかったかもと思った。
「ど、どうした? 今どこって……学校だよ」
『学校!? あなた藤枝さんの妹さんの迎えは?』
「え、ええっと。早く終わったから、学校にはいつもより早く着いたんだよ。妹さん意外と早起きで……」
『そんなことはどうでもいいわっ! ちょ、やめいっ! こら! やめんかワレ!!』
 電話越しの委員長は誰かと揉めているようだ。委員長の切羽詰った声となにかごとりごとりというワケのわからない擬音。ついには委員長が関西弁になっていた。
 俺は急激に嫌な予感が体の中に駆け上がる。

13:真夜中のよづり4 ◆oEsZ2QR/bg
07/02/25 17:38:53 h1BEVMqk
「お、オイ! オマエ今どこだ!? おい!!」
 今度はこっちが声を荒げて質問を返した。俺の様子に俺の前の席で談笑していた鞠田早百合と兼森良樹が何事かと振り返る。
『榛原さん家や! 迎えに行ったらいきなり暴れだし……きゃぁっ な、なに持ってんねや! ちょっ!』
 サーと俺の頭から血の気が引いていく。修羅場中の修羅場。俺の頭の中に榛原よづりの姿が思い出された。
 あの依存的な瞳、壊れそうな体躯、そして、俺に対する歪んだ……

 べとべとべとべと。

 なにか。
 まてまてまてまて! やべぇ、やべぇよ! もしかして、俺はとんでもないことをしてしまったんじゃないか!? とんでもないところに委員長を送り込んでしまったんじゃないか!?
「お、おい! 逃げろ! どこでもいいから逃げろ!!」
 俺は慌てて電話越しの委員長に叫ぶ。俺の怒号に教室に居た全員が俺に注目していた。だが、俺は溢れる冷や汗にまみれながら携帯の向こうに居る委員長の状態が気がかりで、まったく気にしていなかった。
『に、逃げるゆーたって……どこに……』
 刹那。

 ガシャーンッッ!!

 電話越しからきこえる、大きな音。皿が割れたような、ガラス瓶が割れたような、鈍器が割れたような。
『キャァァ!』
 ぶちっ。
 つーつーつー。
 悲鳴とともに突然電話が切れた。
「……ホ、ホラー映画かよ……」
 カミングスーンってか?
 俺は額から冷や汗が止まらなかった。
「どうしたんだ、森本?」
 俺の前に居た兼森良樹が怪訝そうな顔で聞く。あんだけ電話越しに大声を出していたのだ。そりゃ聞いてくる。横に居た鞠田早百合も眼光鋭くこちらを見ていた。
「……今日の一時間目ってなんだったっけな……」
 目の前の二人に絞り出すような声で聞く。
「はぁ、古文だけど」
 よっしゃっ。俺は右手でガッツポーズを作った。古文ならいてもいなくても大した勉強にならんっ。ちょうどいい!
「わりぃ、俺サボるわ! 兼森、俺の名前が呼ばれたら返事しといて!」
「え、ちょっとそんな無茶なっ」
 俺は席から立ち上がり、カバンを置いたまま教室を飛び出す。俺の突然の行動にクラスメイトの何人かがぽかんとした顔で見ていたのが見えた。
 委員長を、助けに行かなければ。
 考えれば分かることじゃないか! あんな精神が不安定な元引きこもりがたまたま俺に懐いたからって、委員長に懐くわけねぇ。だいいち、料理がしづらいから自分の髪の毛を躊躇無く切り落とすヤツだぞ? 普通ではない!
 廊下へ飛び出ると教室に入ろうとした京太にぶつかる。京太は尻餅をついて倒れた。俺は「すまん」と一言だけ言うと、わき目も降らず昇降口に向かって走り出した。
 委員長を自分の怠惰で危険な目に合わせた自分に対する罪悪感と情けなさで俺は泣きそうだった。
 俺は溢れそうな涙をこらえ、その感情全ての力を両足に込めて走った。廊下を走り抜け、上靴のまま昇降口から外に飛び出し疾走する。
「おい、上靴のまま外に出るな」
 昇降口に飛び出した途端、教師としてはめちゃくちゃ遅めに登校してきた遅刻常習犯の養護教授の時ノ瀬が顔をしかめて注意してくる。
 うるせぇ、今は緊急事態なんだ。冬でもTシャツ白衣に裸足にサンダルで登校してくるお前に言われたくねぇ! 俺は無視して走り続けた。
 たぶん、体育祭の徒競走でもこんなに全速力で走ったこと無いだろう。委員長の最後の悲鳴が頭から離れない。
「頼むっ。無事で居てくれっ!」


14:真夜中のよづり4 ◆oEsZ2QR/bg
07/02/25 17:39:57 h1BEVMqk
 ぜぇぜぇと俺は荒げる息をついて、榛原よづりの家の前までやってきた。
 門はきっちりと閉じられている。まるで魔王の城へ攻略する勇者になった気分だった。いや、勇者でも一度逃げたヘタレ勇者か。
 きぃと俺は門を開けて敷地内へと入った。植えられたパンジーの毒々しい色が俺の恐怖をいっそうに煽っている……気がする。
 玄関ドアの前までやってきた俺は、耳をドアに付けて中の様子を確認してみる。まだどかんどかんと音がしてたら何か鎮圧するための武器が必要になるかもしれない。
「……無音だな」
 恐ろしいくらいなにも聞こえない。休憩か? まぁ榛原よづりはスタミナ無さそうだしなぁ。
 俺はドアノブを掴むとゆっくりと回す。がちゃりと音を立ててドアが開いた。おそるおそる俺は中を覗く。
そこには……。
「な、なんだこりゃ……」
 俺は玄関で立ち尽くしてしまった。
 様子は酷いものだった。昨日お邪魔したときにはあんなに清潔に保たれていた玄関や廊下。見るも無残な状態だ。
玄関で飾られていたはずの花瓶や飾り皿はそこになく、床に叩きつけられたのか無残にも砕け散って散乱している。花瓶の中身なのか、足元にはばらばらと多種多様な花が散らばり、中の水があたりに飛び散っている。
醤油指しやソース、砂糖、塩のケースもひっくり返って、辺りに転がっている。辺りに散乱している見るも無残な料理に一部が溶け出して、不気味な色をかもし出していた。
電気ポットはコードごと引きちぎられ、ふたがへし折られて転がっている。沸騰したお湯があたりに広がり座り込むよづりの足元まで届いていた。
倒れたこけしの首がもげてひびが入った水槽に沈んでいてまるで死体のようだ。
高級そうな壁紙の一部は、何か硬い物がぶつかったのか見事に剥げ落ちていて、あちこちに赤い液体が飛び散っている。……まさか、血か? しかし、ちかづいてよく見るとただのケチャップだった。下にチューブが落ちている。
うわぁ、ビビった。ここらへんがライトなのか?
俺は恐る恐る廊下を歩く。委員長の安否が心配だ。靴を脱いで破片をよけて廊下を渡っていった。
委員長はどこに居るんだ? ちゃんと逃げたのだろうか。門が閉まっていたから外には出てないかもしれない。どこかに隠れているのかも……。
 何故か自分で音を立てないように歩く。廊下を抜けて、台所を覗こうとした瞬間。
「しくしくしく……」
 硬直した。女のすすり泣くような声。俺はサーっと血の気が引く。
 すすり泣く声。この声は確実に……。榛原よづり。なんでお前が泣いてんだよ。
 俺は台所をゆっくりと顔だけ出して覗く。すだれの間から女の後姿が見えた。
「しくしくしく……」
 黒いセーターに長い髪の毛。そして右手には『秋穂』と筆文字でかかれた日本酒のビン。
「しくしく……ぐびりっ」
 後姿の榛原よづりはすすり泣きながら、時折持っていた日本酒ビンの注ぎ口を口元にあてると、顔を上にあげてラッパ呑みをしていた。ごきゅりごきゅりと液体が喉を通っていく音がここまで聞こえる。
 明らかにやけ酒だ。あんな度の強そうな日本酒を一気飲みすると急性アルコール中毒になってしまう。
「ぐびりぅぐびりっ。ぷはぁ………ううう、かずくぅん……」
 うわぁ! 明らかに俺が原因かよ!
「お、おい! 榛原っ」
「んふうぇ?」
 俺は慌てて台所に入った。後姿の榛原よづりの肩を掴んで、日本酒を取り上げる。奪い取った日本酒は一本カラだった。全部飲んだのかコイツは。
 突然肩を掴まれた榛原よづりはびくりと体を震わせた。ぐるりとマネキン人形のように顔の向きだけぎこちなく振り向く。
 目が死んでいた。
長い髪の毛はくしゃくしゃに汚れていて、前髪の下に浮かんだ瞳は暗色の水彩絵の具を水で溶かしたように淀んだ色をしている。同じく、俺は台所の惨状にも驚いた。
台所の床にはぐちゃぐちゃになった料理が無残に散らばっていた。豚の角煮、牛ステーキ、アジの開き、焼いたホタテ……その盛り付けられていたはずの、どれもよだれもののうまそうな料理が、テーブルではなく床に散乱し、
砕け散った皿と区別が柄なった醤油指しやソース、砂糖、塩のケースもひっくり返って、辺りに転がっている。辺りに散乱している見るも無残な料理に一部が溶け出して、不気味な色をかもし出していた。
電気ポットはコードごと引きちぎられ、ふたがへし折られて転がっている。
沸騰したお湯があたりに広がりそのお湯と湯気、そして料理の臭いが台所に充満し、吐き気を覚えるにおいが立ち込めていた。幸いなのは、ガスコンロのガス栓が抜けていなかったことだろう。もしそうなら、それこそ大惨事になりかねない。

15:真夜中のよづり4 ◆oEsZ2QR/bg
07/02/25 17:40:59 h1BEVMqk
 コップの取っ手は中ほどでへし折れ、見事に真っ二つに割れていた。ナイフは真ん中でへし曲がったり、フォークは一体同やたらこうなるのか、刃があらぬ方向にねじれていた。
 そのあちこちには、盛り付けて合ったはずの新鮮なトマトが中身をぶちまけてへしゃげ、散らばっている。みようによってはそれは、えぐられた人肉にも見えて、こみ上げ来るものを何とかこらえた。
 冷蔵庫は半開きになり、薄明かりを漏らしている。あとで出そうとしていたのか、そこにはケーキらしきものやら、プリンらしきもの、どれもうまそうだったはずのデザートが、奥のほうでつぶれていた。
 もとは、テーブルに並んでいたのだろう。全てが台無しになってしまっている。
 榛原よづりの目が俺の顔に定まる。しばらくの間固まっていた。しかし数刻、肩を掴んだのが俺だとわかると。
「か、か、か、か………」
 淀んでいた瞳に急に生気が蘇ってきた。アルコールで赤くなった顔もさらに赤みを増して、口元もわなわなと喜びに震える。そして、
「かずくぅぅんっっ!!」
 まるで飛びつくように抱きつかれた。俺は食い物が散乱した床に背中から押し倒される。
「かずくんかずくんかずくんかずきゅぅぅぅんっ!」
 まるで甘えん盛りの猫のようにぐりぐりと俺の胸に頭を押し付ける榛原よづり。ソプラノ調の高い泣き声で何度も俺の名前を叫び続けていた。
セーターで押し上げられた二十八歳の豊満な巨乳が臍あたりにぐりぐりと押し付けられた俺は思わず反応しそうになるが、さすがに状況が状況なのでなんとか自分を押し留める。
「おいおい、落ち着け!」
「なんで、なんで来てくれなかったのよぅ! なんでよぅ!!」
 榛原よづりは頭を押し付けながら俺を責めたてる言葉を吐いた。
「なんでよぅ! やっとわたしに会いに来てくれる人が居たと思ったのに! やっと、わたしを支えてくれる人だと思ったのにぃ!
 どうして、どうして、裏切ったのよう!! 裏切りものぉ! かずきゅぅん!」
 支離滅裂だ。俺はワケがわからないがなんとか落ち着かそうと開いた手で榛原よづりの頭を撫でていた。
「よろしくねって言ったじゃない。迎えにくるって行ったじゃない! だぁかぁらぁ、わたしかずくんの好きなもの考えていっぱい用意して待っていたのに……。
 そうしたら、そうしたら、なんか変な女の子がきてぇ、かずくんは来ないってうそついてぇ、嘘、嘘、嘘、嘘ついたの! あの女の子があ」
 委員長のことだ。そういえば委員長はどこ行ったんだ? 俺は榛原よづりの頭を撫でながらそちらも気になっていた。
「あの女の子が嘘ついてるとおもってぇ、あの女の子、あの女、私とかずくんの間を邪魔してるのよぉ! 邪魔してるのぉ! だぁかぁら、あたし言ったのぉ、かずくんは来るって、絶対来るって! だけど、あの女は来ないって言い張ってて……だからぁ……」
 やめてくれ、それから先は言わないでくれ。頼むから。お前が何か言うたびに俺は委員長を危険な目にあわせたという罪悪感が湧いて来るんだよ!
 俺は押し倒されたまま榛原よづりの頭を両手で抱きしめた。
「落ち着けっ。榛原! 榛原! よづり! よづりっ!」
 俺は、初めてこの女を名前で呼んだ。俺の声に反応したのか、よづりが言葉を止めた。押し付けられる頭を抱きしめて、さとすように俺はゆっくりとよづりに語りかける。
「この料理は俺のために作ってくれたのか?」
「う、うぅん。好きなもの知らないからぁ。冷蔵庫にあるもの使って、全部ぜぇんぶ……。でもぉ、あの女の子のせいで、あたぁしムカッとなって……」
「全部おシャカにしちゃったのか」
「うん……、気がついたらテェブルの全てを投げてた……」
「……そうか」
 俺は抱きしめながら、手のひらでよづりの頭を撫で続ける。
 そのたびに、よづりは気持ちよさそうに体を震わして吐き続ける嗚咽をなんとか収めていった。
「ありがとうな」
「ふえぇ?」
「料理だよ、料理。作ってくれてさ」
「う、うん……」

16:真夜中のよづり4 ◆oEsZ2QR/bg
07/02/25 17:42:05 h1BEVMqk
 もぞりもぞりと抱きしめていたよづりが動き出す。俺が腕を放すと彼女は右手で体を支え起き上がった。
 ざんばらとなった髪の毛が顔の前まで垂れかかって、まるで昨日の前髪を切る前の姿のようだった。髪の毛の間から覗く顔つきはお酒のせいか、ほほが赤くとてつもなく緩んでいた。しかし、受け答えはなんとかはっきりしている。酒には強いのか。
 俺はそんなよづりを見上げながら、あることを心に決めた。
「台所がぐちゃぐちゃ……ごめんなさい……暴れちゃった……」
「オイオイ、俺に謝るなよ」
「だってぇ、来ないって聞いてぇ……。私、私……」
 大の大人がぽろぽろ泣く姿はとてもじゃないが正視できない。俺はよづりの寂しさがいたいほど伝わってくる。
「俺は来たじゃないか。だからもう自分を責めるなよ」
 俺は、ぽんぽんとよづりの頭を撫でるように叩くと、上半身を起き上がらせた。見上げていたよづりの顔が目の前までやってくる。
 さぁ、ここから俺の舞台だ。こんなことになってしまったのは俺の責任だ。さすがに、ここまでのことをして、ただ反省しただけではすまない。
 副委員長として、男として、けじめをつけないとならない。
「暴れなくてもお前のためなら俺はいつでも駆けつけるよ」
 恥ずかしいセリフだ。しかし、俺は真剣だった。
「ふぇ……?」
「これから、お前のために俺がついてってやる。だからさ、もう暴れんな。もう泣くな。もう……自分を責めるな」
 そう言って、俺はもう一度。今度は正面から、よづりの華奢で弱弱しい体躯を抱きしめた。ふにゅりと俺の胸で形を変えて圧縮される彼女の胸。しかし、それはもう気にならなかった。
「ふぅえ……」
 よづりはまるで何が分からないといったように体を硬くする。が、自分が俺に抱きしめられていると分かると、
「えへ、えへへへへへへへ……」
 よづりはいつもの笑い声をあげて、俺にもたれかかる様に背中に腕を回して、体を押し付けた。
「えへへへ、えへへへへへへ………だぁいすきぃ……かずくん」
 散乱した台所、床には脂や陶器の皿の破片、そんな異空間で抱き合う二人。なんじゃこりゃ。
肩に乗せられたよづりの顔から呟かれる言葉を聞きながら俺はこう思っていた。

 こいつを、かならず、普通の女に戻してやる。

 これまでなにもしてこなかった俺。副委員長という仕事を与えられながら何一つ満足にやろうとしなかった自分。この散乱した台所と泣きながら自暴自棄へ陥るよづり。これらはそんな自分が起こした悲劇の結果。
 俺は自分の怠惰やその場しのぎの感情で他人を傷つけることを今始めて実感したのだ。だからこそ、俺はこのすべてをリカバリーしたかったのだ。
 そうして生まれた決意。それがこのよづりを真人間に戻してやること。
 しかし、それはただの責任感や罪悪感から出てきた偽善じゃないのか? スカした自分が俺の脳内へ語りかける。
いや、偽善でもいい。 俺はスカしたいままでの自分、いままで何でも斜めに見ているだけで何もしようとしなかった自分を一喝した。偽善でもいい!
 それで、こいつを救うことができるなら。俺は偽善でも何でもやってやるさ!

 抱きしめたよづりの体は温かかった。
 そうだ、こいつは人間だ。ちゃんと血の通った人間なんだ!
 俺は自分にそう言いきかせるともういちど強くよづりを抱きしめた。強く、強く。
(続く)

17:赤いパパ ◆oEsZ2QR/bg
07/02/25 17:43:12 h1BEVMqk
4スレに間に合いませんでした。真夜中のよづり第4話でした。
これで一応は第一章の終わりとなります。ここで一区切りです。なんだか28歳という年齢が議論になるようですが、まぁ新たな萌え要素としてお願いします。
これ、痛女か? とか不安な部分ありますがまだまだよろしくお願いします。次回はまたいつになるか分かりませんが、絶対続けますので。

保管庫BBSにて素晴らしくやらしいイラストを描いて下さった屍氏さんには感謝の嵐です。

(訂正)
藤枝さんを仮名のまま出してしまいました。
藤枝→鈴森に脳内変更してください。

18:名無しさん@ピンキー
07/02/25 18:04:50 AMJCUY6P
>>1乙!

よづりキタ━(゚∀゚)━ヨ! これからの展開にwktk
いやいや28歳は全然おkですよー よづり可愛いよよづり(*´Д`)
…ところで委員長は?

19:赤いパパ ◆oEsZ2QR/bg
07/02/25 19:53:26 h1BEVMqk
>18
委員長の安否は次回参照です。

20:名無しさん@ピンキー
07/02/25 20:50:58 tDVc7h/F
鈴森さんがFAってことでおk?


21:名無しさん@ピンキー
07/02/25 21:20:30 n7hWN+Wo
よづりタソめっさ楽しみにしてます
(*´Д`)

22:名無しさん@ピンキー
07/02/26 00:12:09 BHLj2vtS
委員長フォーエバー

23: ◆kNPkZ2h.ro
07/02/26 00:49:09 7vA5fpNJ
>>17
赤いパパ氏、GJです!
よづりの可愛さに嫉妬ww

では上書き本ルート8話投下します。

24: ◆kNPkZ2h.ro
07/02/26 00:49:51 7vA5fpNJ
「だから、加奈とは小二の頃から付き合い始めたんだよ!」
「”加奈”だって!名前で呼んじゃって、いやらしいんだ!」
「今までだってそう呼んでただろ…」
 クラスの生徒のほとんどが一ヶ所に集まり円形に取り囲んだ中心の席に座りながら俺は皆から視線をそらそうとした。
 勿論360度包囲されているから嫌でも誰かとは視線が合ってしまう。
 上を向くのは格好的に間抜けだし、下を向いていると落ち込んでいるように思われそうだから必然的に正面を向かなければならない。
 加奈と体育館裏に行く前「後で」と言ってしまった手前、この質問攻めには応じる他ない。
 軽はずみな言動は避けようと肝に命じながら、腕時計の時間を目線だけで確認する、早く授業が始まって欲しいと思ったのは初めてかもしれない。

 加奈とのやり取りの後、去って行こうとした加奈と俺は放送で校長室に呼ばれた。
 当然”あの紙”について知っている事を少しでも聞く為だ。
 事実は知っているが口が裂けても言えないし、加奈が不利な状況に陥るような事を言う気もなかったので終始口篭っていただけだった。
 加奈はと言うと笑顔で”はっきりと”「知りません」と言ってのけた、罪悪感なんて欠片も感じてない様子だった。
 その事に意識が集中してしまいほとんど話を聞いていない俺の態度に気付いたのか、校長は”校内での異性交遊”について口を酸っぱくしてきた。
 何で学校に個人的な恋愛沙汰に首を突っ込まれなきゃならないのかと腹が立ったが反論をする気はなかった。
 校長の言い分、”恋にうつつをぬかしているだけでは将来後悔する”、というのは俺の意見と一致しているからだ。
 この事を言われた時だけ加奈がかなり険しい表情になっていたのを今でも覚えている。
 破れる直前の風船のような殺気漂わす加奈に背筋にミミズが這うような寒気を感じた俺は、ペコペコ頭を下げ早急に加奈と校長室を出た。
 緊迫感に押し潰されそうな空間からの解放に喜んでいる俺は勿論、加奈も元通りの笑顔になったので一安心して教室に戻った。
 そこからだ、今のように質問の嵐に巻き込まれるようになったのは。
 待ち構えていたようにドア付近に固まっいたクラスメイトたちは、俺が教室に入ると一斉に俺の前に群がってきた。
 クラスメイトの間をくぐり何とか席に着かせてもらえた俺は、その後皆からの好奇的な視線と似たような質問を浴びているという訳だ。
 その質問の内容に”あの紙”に関連する事はほとんどなく、俺と加奈の関係についてひたすら聞かれた。
 他人の恋愛話程聞いて面白いものはそうないし、俺は加奈との関係については黙秘していたから、当然といえば当然な事だ。
 俺はそれが煩わしかった、プライベートな話題は加奈とだけしたいし、加奈以外の人間にそういう事を言うのは面倒というか正直嫌だった。
 何だか俺と加奈とだけの間の”秘密の共有空間”に土足で踏み入れられた感じがするのだ。
 加奈に学校内で極力付き合いをしないように促すのは勿論加奈の将来を思ってというのが第一だが、それと同じ位俺が加奈を独占したいというのもあるんだと今更思う。
 加奈は俺を独占したくて皆に俺たちの関係を知らせた、俺も加奈を独占したいが皆に俺たちの関係を知らせたくはない、同じ目的のはずなのにその二つが交わる事はない、今日何度目か分からないがこれも”おかしな事”だなと思った。

 『キーン・コーン・カーン・コーン』
 きっと…俺がこうして苦悩している事なんて”運命”の壮大な輪廻に比べれば他愛ない事なんだろうなと柄にもない事を考えていると、学生生活11年目でもうお馴染の始業の鐘が鳴った。
 俺の視界を塞いでいた生徒の壁が名残惜しそうに崩れていく。
 とりあえずこれで助かった、安堵する暇もなくHRが始まった。


25:上書き第8話 ◆kNPkZ2h.ro
07/02/26 00:50:30 7vA5fpNJ
「まだかなぁ…」
 腕時計の時間を見て思わず呟いてしまった声は周りのざわめきにかき消される。
 いつものように数分の連絡事項だけで幕を閉じたHRの後は自習時間…という名目の自由時間になる。
 担任も終業時間になるまでは職員室に戻ってしまうから、喋り場と大して変わらない。
 当然勉強している奴なんかほぼ皆無で、皆周りの人間との会話に忙しそうだ。
 さっきの質問攻めで今日一日分喋ってしまったような気がして、そして何より考え事をしたくなかったので俺は腕枕を作り机に突っ伏した。
 疲れているが寝つけない、幾ら目を閉じても全然眠気は襲ってこない。
 こういう時だけ都合の良いものだと観念した俺は寝る事を諦め肘をついた。
 そして加奈の事を考える…加奈についての事はあり過ぎて頭が爆発しそうだ。
 その無駄に多過ぎる事柄に共通する一つのキーワード…”何故加奈がそこまでするのか?”ていう疑問にぶち当たりすぐにそれは壊れさる。
 奢りでも何でもなくその理由はただ一つ、”加奈が俺を好きだから”だ。
 そんな事は分かっている、加奈と俺が相思相愛な事も、加奈が俺を好き過ぎる故に”今日のような事”をしたのだって分かっている。
 分かっているから心配なのだ、加奈が確実に昔の純粋な面影をなくしていき、やがて更に純粋に”なり過ぎる”のが心配なんだ。
 今の加奈を見る限り、明らかに加奈は冷静でない、いや冷静過ぎる気がする。
 物事を深く考え過ぎて目の前の簡単な事を取り溢すのではないかと思う。
 もしそうなれば…具体的な想像は出来ないが、”ヤバイ事になる”のは間違いないと思う。
 そうなる前に加奈を正気にしないと………
 『キーン・コーン・カーン・コーン』
 そんな俺の決意を後押しするように終業のチャイムが鳴った。
 担任が適当に教室に戻ってきて適当に挨拶を済ませ適当に教室を出て行く。
 いつもの日常のリズムに微妙な満足感を覚えながら俺はトイレに行こうとして廊下を見た…そして驚いた。
「誠人くんっ、ヤッホー!」
 本来なら別に驚くべき場面じゃない。
 しかし普段学校内では極力会わないようにと言っているはずだから驚いてしまった、そこにいたのは加奈だ。
 廊下から手を振りながら教室にあたかもそこの住人のように当たり前に入って来た。
 突然の来訪者に俺だけでなく他のクラスメイトも加奈に注目する、その中にはニヤニヤしながら俺を見てくる奴もいた。
 その存在を気にしないで椅子から立ち上がり、歩いてくる加奈に歩み寄る。
「どうしたの、怖い顔して?」
 頭を45度傾ける加奈の眼前に立つ。
 少々険しい顔を作り、本当に心苦しいが結構キツ目に問い掛ける。
「どうしてここに来てんだよ?」
「え?”彼氏と彼女”が一緒にいるのは当然じゃない?」
 俺からの強めの口調での問いにあくまで淡々と答える加奈。
 いつもならすぐに謝ってくるのに、全く動揺した様子のない”静かな返答”が俺の背筋を冷たく貫いた。
「学校内では極力会わないって決めてたはずだろ?」
「誠人くん、そんなのおかしいと思う。過ごした時間だけ仲も深まっていくものでしょ?」
「それは…」
 何とか言い返したかったが、今の加奈には何を言っても勝てない気がする。
 加奈の言っている事は間違っていない、寧ろ俺がしている事の方が間違っているのではないか?
 誰がおかしいのか分からなくなり混乱する俺をよそに、周りは急に賑やかになっていくのを感じる。
 「沢崎、加奈ちゃんの言っている事は間違ってないぞ」、「お熱いねぇ!」、俺たちに野次が飛ぶ。
 こういう時だけは本当にお節介だなと言いかけたところを何とか堪える。
 他のクラスメイトが加奈を姫を扱うように丁寧に俺の席に座らせても、文句は言わなかった、言えなかった。
「加奈ちゃん、あたしたち応援してるからね!あんな”姑息な事”する奴なんかに負けないでね」
 女生徒の一人が試合前のボクシング選手に喝を入れるセコンドのように拳を力一杯握り締めている。
 それに笑顔で応える加奈。
 その女生徒が言った”姑息な事”とは今朝の”あの紙”の事を言っているのだろう…その事が分かった時俺は加奈の顔を反射的に見てしまった。
 周りからの冷やかしに困ったような笑顔を浮かべる加奈…この顔を見て限りなく確信に近い推測をした。
 加奈が”あの紙”の文面を他者がやったように見せたのには、周りからの同情や応援を受けるという付加目的もあったという推測を。
 果たして俺の目の前にいるのは、”本当に”加奈なのか…?
 教室内のざわめきに反し、俺は一人沈黙を守っていた。


26:上書き第8話 ◆kNPkZ2h.ro
07/02/26 00:51:04 7vA5fpNJ
「ふぅ…終わったか…」
 終業の鐘の音を聞き俺は溜め息をついた。
 結局あの後加奈は休み時間毎に俺の下へ訪れた。
 昼飯まで周りから冷やかしを受けながら一緒に食べた。
 生徒がどんどん俺と加奈をセットのように認識していく…俺にとっては悪い流れだ。
 このままではプライベートと学校生活が同化してしまう、最も避けたかった状況へと事態は進んでいっている。
 しかし、止める術は俺には見付けられない。
 加奈が笑顔だからそれでいいじゃないかと甘い考えにも逃げようとしたがそれは断じて認められない。
 今幸せなだけでは駄目なのだ、加奈には”ずっと”幸せでいて欲しい。
 だからこそここで俺が諦める訳にはいかない、決心だけは一人前の俺、その背中を誰かに叩かれる。
 振り向くとそこには島村がいた。
 相変わらずの大きな眼鏡の位置を慣れた手付きで直している。
「何だよ、島村?」
「不機嫌なのは分かりますが、私にやつ当たりというのは酷いと思いますよ」
 この女はやはり侮れない…。
 島村と昨日”あんな所”で会いさえしなければ…そんな筋違いな苛立ちをさりげなくぶつけたのを完璧に見抜かれてしまった。
 何も言えなくなる俺をよそに、島村は鞄を持ったまま腕を組み、俺の耳に向かって小声で話し掛けてくる。
「”昨日の場所”に一緒に来て下さい」
「”昨日”の場所?」
 俺が若干大きめの声で言うと、島村は顔を軽く赤くしながら口元に指を立てた、”昨日の命令”の時のように。
 しかしあの時と違って今の島村の指は震えている、実に女の子らしい反応だなと親父くさい事を考えてしまう。
 周りを心配そうに見渡す仕草から推測するに、どうやらクラスの他の奴には”本性”を見せたくないようだ。
 やけに可愛らしいところもあるじゃないかと思いながら重い腰を上げる。
 それを了承のサインと受け取ったのか、島村は踵を返し教室から出て行った、まぁ今は島村に服従している立場だから無理矢理にでも行かされていたんだろうけど。
 少々情けなく思いながら島村の後ろ姿を眺めていると、髪から僅かに覗く耳がまだ真っ赤になっていた。
 笑いそうになるのを堪えながら、俺は島村の後を追って行った。

 ”ここ”、体育館裏に女の子と来るのはこれで三度目だ。
 何も変わっていない、昨日島村の本性を垣間見た時と何も変わらない。
「ここは静かで落ち着きますね」
「そうだな」
 音はないが殺風景という訳ではないこの広々とした空間に浸っている島村。
 時折吹く風でなびく短髪を押さえる仕草はやはり”女の子らしい”。
 これで性格さえ治せばきっと彼氏の一人や二人幾らでも出来るんだろうな…って俺島村に彼氏がいるかなんて知らないな。
 興味はあるが聞く程の事じゃないし、万が一聞いて機嫌を損ねられたらまた面倒な事になるんで押し黙る。
「短刀直入に言います、”あの紙”の犯人は城井さんなんじゃないでしょうか?」
「なっ!?」
 しまった、そう思った。
 島村の不意打ちに反応してしまった自分が憎らしい。
 今笑ってとぼければ全てが丸く収まっただろうに、こんな露骨な反応をしてしまっては肯定しているようなものだ。
「そうなんですね?」
「あっ…その…」
「やっぱりそうでしたか、沢崎くんと違って城井さんが大して驚いていなかったんでもしやと思ったんですが…」
 どこで俺たちを見てたんだというどうでもいい疑問を頭の奥底に封じ込める。
 俺の様子を一瞬見た島村が納得したような表情を浮かべる。
 島村に…他人に、加奈が”やってしまった事”がバレてしまった。
 もしバラされたら…いつもならもっと考えて行動するのに、俺はひどく慌てていてすぐに島村の両肩を掴んだ。
「頼むっ!島村、この事は誰にも言わないでくれ!」
「え?」

27:上書き第8話 ◆kNPkZ2h.ro
07/02/26 00:52:16 7vA5fpNJ
 島村を何とか言いくるめなければ、そうしないと加奈が…。
 俺は必死に島村を説得した。
「加奈に悪気はなかったんだ、ちょっと俺との仲を自慢したかっただけなんだよ!ずっと奴隷でいいからこの事は誰にも…」
「”あの事”と引き替えに…と言ったら?」
「”あの事”って…!」
 島村が俺より低い位置から俺を見下ろす視線で問い掛けてきた。
 ”あの事”とは、俺が女子トイレから出てきた事を言っているんだと瞬時に理解する。
 いきなりの問いに戸惑う、だってもし”あの事”がバラされれば俺の高校生活が終わる。
 俺の青春に有終の美を飾れなくなる…。
「構わない、”あの事”をバラしていいから”この事”だけは言わないでくれ!」
 でも加奈の人生に比べれば自分の人生を捨てるなんて簡単だ。
 加奈が幸せじゃないなら俺はどんなに充実した日々を送れたとしても幸せにはなれない。
 加奈が幸せならそれでいいんだ、その一心を視線に乗せて島村に送る。
 視線が交錯する、お互いに相手の考えを読み取ろうとするように。
 しばらくして俺の顔を凝視していた島村が突然ニヤけた、無垢な少々のように。
「何真剣になっているんですか、私がそんな事するような人間に見えます?」
 思わず「見える」と言いそうになるのを何とか堪えた。
 そして考える、島村はどういうつもりなのかと。
「安心して下さい、どちらの事も始めから言う気なんてありませんよ」
 意外な言葉だった。
 まさか”あの”島村が…俺を縛っている”縄”の存在を切り捨てるような発言をするから。
 始めから言う気がないなんて言ってしまったら俺を”あの事”で縛る事はもう出来なくなるじゃないか…頭が混乱している俺に更に島村が追い討ちをかけてくる。
「いい機会ですし、もう”奴隷”から解放しますよ!」
「え、何でだよ!?」
「そちらこそ何ですか、まだ奴隷になっていたかったんですか?」
「そんな訳ないだろ!」
 思わずムキになってしまう俺を楽しそうに笑う島村。
 本当にこの女の考えは読めない、そのくせこちらの考えは全て見透かされている気がしてならない。
 島村の心中は分からないが、とりあえず半永久奴隷からの解放は素直に嬉しい。
 昨日は正直絶望したが、まさか一日で終わるとは。
 嬉しさついでに俺は何も考えずに素朴な質問をぶつける。
「なぁ、なんで加奈がやったって事を確認しようとしたんだ?言う気がないなら知ったところで意味がないだろ?」
「何言っているんですか、ライバルの性格を把握するのは略奪愛の基本ですよ」
 ………ん?
 今なんか明らかに変な事を言ったような気がした。
 気のせいかと思い聞き流そうとした俺、しかしそれを残酷に島村は拒んだ。
「まぁ”あんな事”して誠人くんを困らせているような女に負ける気なんてありませんがね」
「は?何を言ってんだお前は?」
 思った事がそのまま口から漏れた。
 だって本当に意味が分からない、突然俺の事名前で呼ぶし、”負ける気がしない”って誰に対して言っているんだ?
 次の瞬間、様々な俺の疑問を”一言で”島村は片付けてくれた。
「私あなたの事好きなんですよ?まさか気付いてなかったなんて事はないですよね?」

28:上書き第8話 ◆kNPkZ2h.ro
07/02/26 00:52:47 7vA5fpNJ
今島村は何と言った…”好き”?俺を?
 ”島村が俺の事を好き”?
 呆然とする俺に呆れ顔で島村は眼鏡の奥に隠した鋭い視線を向けてきた。
 俺を切り裂くように見つめてくる。
「本当に気付いていなかったんですか?好きな人でもないと相手を奴隷にしようだなんと思いませんよ」
 言われて何となく納得した。
 確かにその通りだ。
 指を舐めさせるなんて普通の人間にやらせる訳がない…。
 首元へのキスマークを含めて、今までの行動は全て俺への好意からだったのか?
 そう仮定した途端全てが噛み合った。
 まさかこんな意外なところに解答があったなんて…俺は愕然としながら改めて島村の顔を眺めた。
 その顔は言いたい事を吐き出せたからか、爽快感に満ち溢れていた。
「ま、という事で」
 そう言うと島村が俺に近付いてきた。
 俺は島村と真っ正面に向き合いながら硬直しているので距離差はどんどん縮まっていく。
 やがて靴一個分までに接近してきた島村、何の躊躇いもなく右手をするりと首元に回し、艶っぽい声で囁く。
「これから”よろしくね”、誠人くん?」
 あまりにも近過ぎる俺たちの顔、思わず紅潮させてしまうと島村が子供のようにクスクス笑った。
「本当に可愛いんだから…」
 そう言うと、島村の言葉の魔力に縛られた俺の口と島村の口が触れそうになる…”触れそうになった”。
「ハハ、誠人くん見ぃっつけた!あは」
 そして一気に魔法はとけ現実に引き戻された、目の色を失っている少女の小刻みに震えた声によって。
「か、加奈ッ!?」
 俺は一体どれだけ神に翻弄されればいいんだ…?
 目の前の最悪な状況を前にして、俺は運命を呪った。

29: ◆kNPkZ2h.ro
07/02/26 00:54:43 7vA5fpNJ
投下終了です。ちょっと短かったような気もしますがお許しを。
今回は修羅場スレ向けな気もしますが次からはしっかりヤンデレにしますんで。

30:名無しさん@ピンキー
07/02/26 01:06:21 DXwhBY6F
上書きキタワァ.*・゜゚・*:.。..。.:*・゜(n‘∀‘)η゚・*:.。. .。.:*・゜゚・*!!!!!☆
GJ! 島村さんも本格参戦でしょうか
しかし誠人は無意識に地雷踏みすぎだw

31:名無しさん@ピンキー
07/02/26 01:06:28 Jt4vtuqM
とりあえず、長くなりそう&序章ですが投下します。

32:しまっちゃうメイドさん
07/02/26 01:10:29 Jt4vtuqM
10月12日 19時 竹宮邸 来栖凛(くるす りん)

私の体の中に無数の蟲が注入されていた。それは醜悪なる肉塊を通じて、何度も何度も私
に注がれ、その蟲どもはただ己の下種な本能に従って私の身体の「ある一部分」を目指す

その蟲どもの息吹に、かつて私はある種の歓楽を感じていた。無数の蟲どものただ一つの
欲望を叶えてやりたいとさえ願っていた。
しかし、今では私はこの私の体内で蠢く蟲に嫌悪しか抱かない。そう、私の中に注がれた
蟲はただ一匹を残して全てが息絶えたが、生き残った一匹はこうして今も私の身体の奥深
くで目覚めの時を待っているのだ。私はそのおぞましい感触に耐えられず、それを想像す
る度に込上げてくる嘔吐物を撒き散らした。
我慢出来ない程の屈辱だった。耐え難い陵辱だった。そして私の文字通りの「栄辱」の始
まりであった。
私にこの忌まわしい蟲を植え付けた秋月否命(あきつき いなめ)は、私の身体の事を知
ると、発情した雌犬の如き下卑た眼で私の蟲が宿った身体を舐め回し、物狂いのように甲
高く意味の無い声で唾を吐き散らした。もっとも、その時の私も恐らく否命と同様か、そ
れ以下の醜い喜悦の表情を浮かべていただろう。
蟲の轟きは日増しに強くなる。恐らく今日がその日なのだろう。
私の体の中で唯一生き残った蟲がこの世界に顕現する日だ。この日のために蟲は、私の五
臓六腑を飽く事無く、果てる事無く、貪り喰らい、そのことごとくを自身の血肉としてい
た。全ては今日、私の身体から這い出るためだけに。
その兆候は既に表れていた。
最初の兆候は私が部屋で物思いに耽っている時であった。その蟲がタイナイを駆け巡る痛
みに私は悲鳴を上げそうになった。悲鳴とは、自身の周りの人に自分の状況を伝え、助け
を求めるための信号とされているが、この事実は他に知られてはいけない。自分の状況を
他人に知られてはならないのだ。私の現在の状況が知られたら、すぐさま私は病院に移さ
れてしまうだろう。それを拒否する事も出来るが「何故か?」と問われたら、私は言葉に
詰まってしまうだろう。
私がしようとしている事は病院にいては不可能なことなのだ。しかしながら、その理由を
人様に説明する事がどうして出来よう?
詰まる所、今から私がしようとしている事はそういうことなのだ。

33:しまっちゃうメイドさん
07/02/26 01:12:15 Jt4vtuqM
幸いな事に、今まで私は自身の身体のことを否命を除けば誰にも知られずにいられた。そ
の否命だって、こんなに早く「その日」が来る事を予期してはいまい。
だが、竹宮源之助(たけみや げんのすけ)は何か気付いていることだろう。
ちなみに、源之助はこんな厳つい名でありながら女である。そして私の居候先の唯一の住
人にして、私の同級生だ。
彼女には感謝してもし尽くせぬものがある。
源之助は最初の兆候の日、私の腕に深い噛み傷を発見した。私は身体の奥底から湧き上が
ってくる悲鳴を殺すため、咄嗟に私の腕を口に入れたことにより出来た傷である。源之助
は何も言わず、ただ黙って私の傷の治療をしたが、何か感づいたとみて間違いはないだろ
う。
あの時は、私は気が動転していたのでそこまで配慮が回らなかったが、二回目以降はその
兆候の意味と周期を理解し、幾分かは冷静に兆候に対応することが出来た。
それでも、源之助は何か気付いているようだった。
だが、所詮はその程度だろう。源之助は私の現在の状況を今も尚、知らないままだ。故に
、源之助は今から私がしようとしていることは想像もつかないだろう。
そう、今、この時より始まるのだ。
これより否命の栄辱が幕を開けるのだ。
最後の兆候が始まった。

34:しまっちゃうメイドさん
07/02/26 01:13:32 Jt4vtuqM
・・・・・・・・・・
・・・・・・・・・
次の日の明朝、朝食の支度を終えた源之助は通常どおり、凛を起こしに凛の部屋を開けた

瞬間、源之助は言葉を失った。
源之助の顔を見ると凛は、
「おはよう。フフン、どう、驚いた?私だってたまには早起きするのよ」
とニッコリと微笑みかけた。勿論、源之助が驚いているのは凛が早起きしたからではない
。そして凛のこの言葉は、それを分かっているからこそであった。
凛は待っているのだ、源之助がこの部屋の惨状を問いかけるのを…。
「どうしたの?固まっちゃって。早く、学校に行かないと遅刻するわよ」
説明するのが楽しみで仕方の無い、といった風情である。あまりの事に源之助は返す言葉
を失い、無言で凛の部屋の様子を見ていた。
床に溜まる血の跡、凛の血が付着しているパジャマ、乾いた血がこびり付いている凛の拳
、そして部屋に立ち込める獣臭。そして源之助の目はある一点に…凛の足元に転がってい
る物体に注がれた。
源之助の頭よりも先に身体が反応する。
源之助は凛の足元にゴミ屑みたいに転がるものの正体を理解した時には、既に怒りで凛を
殴り飛ばしていた。
「凛!貴方が!」
少し遅れて言葉が飛び出す。源之助は分かっていた、分かっていたが、叫ばずには言られ
なかった。これはお前のやったことかと。
「そう、私がやったの」
殴られた事も意に介さず、凛が笑って言う。
「殺してやったわ。あの色キチガイの…、否命の子よ」
そうして、凛は可、可、可と笑い声を上げた。

投下終わりです

35:名無しさん@ピンキー
07/02/26 01:27:31 JmkqAhOQ
>>34 最初よくわかんなかったが2回読んでわかったぜ!
これからの展開に期待なんだぜ!

36:名無しさん@ピンキー
07/02/26 01:45:13 wFDH2Yl3
>>34
タイトルを見て「しまっちゃうおじさん」を思い出したのはおれだけではないはず

37:名無しさん@ピンキー
07/02/26 10:20:26 q39byBT/
>>29キタ━━(゚∀゚)━━!!GJ!
加奈タンがさらに病んだらどうなってしまうのかとガクブル&wktk
>>34いきなり惨劇((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル
この先の展開に期待!

38: ◆6PgigpU576
07/02/26 17:36:11 OmIerb7I
投下します。
第三話目になります。

39:同族元素:回帰日蝕 ◆6PgigpU576
07/02/26 17:37:19 OmIerb7I

眠り過ぎたせいか、頭に靄がかかっているようだった。

学校… 行きたくない…
午前7時。時計を見て最初に思ったのは、それだった。

行きたくない、というより、会いたくない。
昨日の視線を思い出しただけで、身体が震え頭がぐらぐらする。

今日は学校を休もう。
単なる逃げでしかないのは解っていたが、そう思うと少しは気が楽になった。
兄さんを起して、まだ具合が悪いって言おう。そう思った矢先、ノックの音が響いた。

「夏月、起きてる?」
朝が弱い兄さんがこの時間に起きているという事に驚いて、直に返事が出来なかった。
「…兄さん?」
「入るよ?」
わたしの小さな声に起きている事を確認した兄さんが、そっと部屋に入ってきた。

「どうしたの、兄さん? こんな朝早くに…」
「夏月の具合が悪いのに、ぐーぐー寝てられる訳ないだろ?
 それより、具合はどう?」
朝が弱い兄さんがわたしを心配してわたしの為だけに、無理して早起きしてくれた。
ぎゅうと胸が締め付けられるような喜びに、緩む頬を見られない様に俯いて小さく返事をする。
「ん… まだちょっと……」
兄さんに嘘を吐かなければならない事に、罪悪感で一杯になりながらも、
それでも今日は学校には行きたくなかった。

おでこに手を当ててきた兄さんは、熱はないみたいだね、と優しく言うと、
俯くわたしの頭を軽く撫で、横になるように促がす。
「昨日の今日だし、今日は学校休もっか」
にこりと微笑む兄さんに緩く頷く。
「ごめんね、兄さん」
迷惑かけて、ごめんなさい。心配かけて、ごめんなさい。嘘吐いて、ごめんなさい。

「夏月はそんな事、気にしなくていいから。朝ご飯作ってくるから、寝てな」
「あ、大丈夫、自分で出来るから。兄さんは自分の用意して? 学校遅れちゃう」
そこまで迷惑かけられないよ。
「だから、気にしなくていいって。どうせ金曜だし、僕も学校休むから」
「え?」
兄さんが学校を休む? わたしのために?

「夏月は何も心配しなくていいから、お兄ちゃんの言う事ちゃんと聞く事。解った?」
「…うん」
わざと怒ったような顔をしていた兄さんは、わたしが頷くとにっこりと笑って、
ご飯作ってくるからと部屋を後にした。

冷え切っていたわたしの心が、兄さんの笑顔に気遣いに幸せで温かくなった。



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