ロボット、アンドロイド萌えを語るスレ:α11 at EROPARO
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[前50を表示]
500:名無しさん@ピンキー
13/03/12 19:12:34.86 DaVEiggO
中條健一か?

501:名無しさん@ピンキー
13/03/12 23:16:59.93 axL6aPxw
炊飯器型ロボットなんぞに夢はないだろ
現実的とは言えあまりにも哀しすぎる
どうせ夢なんだから、とびきりいい夢みようぜ

502:名無しさん@ピンキー
13/03/13 09:16:32.93 FxNVe9MK
最近だとアバターって指向もいけちゃうんだよな。端末が炊飯器で本体がVRの美少女AIとかさ。

503:名無しさん@ピンキー
13/03/13 10:13:11.01 fnAqXhUb
>>501
過去ログ嫁

504:名無しさん@ピンキー
13/03/13 11:49:12.96 S1Z7lmFv
今のスレじゃ受けないよ

505:名無しさん@ピンキー
13/03/14 06:54:56.86 nG9o/9Hn
>>147の話好き

506:名無しさん@ピンキー
13/03/14 19:24:43.04 liVFcBs9
>>502
ネット上で恋した彼女は、リアルでは炊飯器でした?

507:名無しさん@ピンキー
13/03/14 19:37:29.62 g6rIyLXM
夢のない話だなあ

508:名無しさん@ピンキー
13/03/14 21:05:53.53 a7AYhxIK
ゴミ箱だって懐妊させられるんだ、炊飯器を娶るくらいワケ無いってものよ

509:名無しさん@ピンキー
13/03/14 22:04:36.21 phMX9g7/
人型じゃなきゃやだ
しかもバニーかメイド姿に限る

510:名無しさん@ピンキー
13/03/14 23:20:53.63 oE1O9cc1
>>509
こげなかんじどすか?
URLリンク(youtu.be)

511:名無しさん@ピンキー
13/03/15 13:12:20.54 mwf4RyZS
>>498
さすがにR田中一郎先輩には欲情できないです
ちなみに、アキネーターで調べたら一発で出てきたよ!

512:名無しさん@ピンキー
13/03/15 21:45:37.40 Uy3SVSgW
ロボではないが、マイナークラブハウスのシリーズにあった
ジャー子さんの独白は人に愛された機械として
なかなか良かった

513:名無しさん@ピンキー
13/03/16 14:08:38.95 AWNLnzNA
コメコちゃんといえば「タケル大好き」になって人間になりたいと思いはじめたみたいだね。
そんで、製作者によってタケルくんたちとの議論を消されるか危機に。
かわいそうだな。

514:名無しさん@ピンキー
13/03/16 14:54:44.17 6ybpX5DS
タケルはRD潜脳調査室の蒼井ソウタとおなじくこっちサイドの存在だろ。むしろ炊飯器人間じゃないとだめなんじゃないだろうか。

515:名無しさん@ピンキー
13/03/17 17:54:23.38 dbI6ak7c
ここってアンドロイド以外もOk何だろうか?

516:名無しさん@ピンキー
13/03/17 19:33:56.71 /jn8bMPy
ロボットもOKだけど、等身大の人間型以外は確実に荒れる元だよ
家電型なんてのはリアルなんだけど、恋愛対象にならないだろ
バーチャル型なんてのは論外だけど

517:名無しさん@ピンキー
13/03/17 21:44:16.60 dbI6ak7c
>>516
人型ロボットはOKか…自分は人型ロボットっていうか人の常識に関するプログラムが少ない兵器が書きたいんだよ。人間に憧れて人間の真似をしようと、人質とかメカニックに手を出してしまうって感じの。

518:名無しさん@ピンキー
13/03/17 21:52:28.93 hg17JhbB
どうして人間に憧れるんだろうな
というかどうして人間になろうという発想にたどり着くのか

519:名無しさん@ピンキー
13/03/17 22:08:17.24 /jn8bMPy
作った人が人間そっくりに作ろうとしたからだろ
それがロボットの使命なんだよ

520:名無しさん@ピンキー
13/03/17 22:10:50.81 /jn8bMPy
そんなことよりも、ID:dbI6ak7cはsageを覚えような
まず自分が良識人の真似をしてくれないか

521:名無しさん@ピンキー
13/03/17 22:15:21.06 dbI6ak7c
ごめん、つけ忘れてた

522:名無しさん@ピンキー
13/03/17 22:52:28.87 /jn8bMPy
分かってくれればいいよ、気にしないで

523:名無しさん@ピンキー
13/03/18 00:45:40.49 e6xjgzS1
人間らしさを求められてるから必要だと認識するだけ

524:名無しさん@ピンキー
13/03/18 11:19:01.46 ZpI5AXzi
昔ゃ等身大じゃなくとも普通に受け入れられてたもんじゃがのう…

525:名無しさん@ピンキー
13/03/18 11:41:08.95 aIy4LG2F
ホイホイさんのことか!!

526:名無しさん@ピンキー
13/03/18 21:21:13.38 MJDymbHP
武装神姫が末裔か

527:名無しさん@ピンキー
13/03/19 02:00:26.93 JfBMcdi2
>>519
とりあえず作ってみたくて人型ロボを完成してみたら
「博士、飛べません!」とか言われるんだなw

528:名無しさん@ピンキー
13/03/19 20:07:18.59 Es3KOT1f
二日前の日曜日、夜9時から10時くらいに国営放送て、
コメ国で人間型ロボットの開発のために、全世界にいる優秀な人材に資金を出す
とか言っていたな。


人間が使う道具いを使うから人間型なのかなあ?

529:名無しさん@ピンキー
13/03/19 21:24:13.69 kBwTwpbg
人間が居るような環境で動かすなら人間型が一番、ということだな

530:名無しさん@ピンキー
13/03/19 21:34:24.48 KkIN0eJW
あさりよしとおがまんがサイエンスでそんな話を描いてたな。

531:名無しさん@ピンキー
13/03/20 00:35:48.12 oRx494Kn
段差やドアの開閉道具の仕様とかか

532:名無しさん@ピンキー
13/03/20 04:45:37.41 GHfp9zvJ
何百キロもあると普通の室内でコケたら大変とか?

>>528
再放送あるぞ、今日の深夜(日付は木曜)
終わってから気付いたんで今回見る

533:名無しさん@ピンキー
13/03/21 20:48:10.48 7AGKbgJD
ロボ女「?ロボなんだからちんぽなんかに負ける訳無いでしょ?」

534:名無しさん@ピンキー
13/03/22 05:35:22.42 EquxxXV3
>>533
次の瞬間、鉄男のドリルちんぽにビビるロボ子の姿が……!

535:名無しさん@ピンキー
13/03/31 10:56:41.64 xuwfFyUc
久しぶりに投下します
昨年秋から勤務形態が変わり、なかなか自分の時間が取れなくなりましたが
ぼちぼちでも書いていきたいと思いますのでよろしくお願いします

536:雲流れる果てに…14 ◆lK4rtSVAfk
13/03/31 10:58:19.59 xuwfFyUc
 僕とシズカは伊豆半島の北部、伊豆の国市にやってきていた。
 韮山反射炉の跡地で迎えの男と接触した僕たちは、そこからエアカーで数十分の場所まで連れて行かれた。
 移動にかかった時間と距離が比例しているかどうかは分からない。
 なにしろ前席とは衝立で仕切られており、ブラインドの降りたウィンドの内側からは外の風景は全く見えなかったのだから。
 案外、同じ道をグルグル回っていただけなのかもしれない。
 ことが済んだら、シズカのGPSを解析してみよう。
 とにかく怪しげな洋館の前で車は停止した。

 荷物を運んでくれる運転手の目がたまらなく鬱陶しかった。
 人を舐め回すようにジロジロと見やがって。
 まあ、いかにも中年男が好きそうな格好をしている僕にも、責任の一端があるんだが。
 それでもあまりにねちっこく見られると、府中の警察学校での忌まわしい惨劇を思い出してしまうじゃないか。

 あれは忘れもしない文化祭の時のことだ。
 うちのクラスは寸劇を演ることになったのだが、貧弱な体格の僕は婦警の役を押し付けられた。
 必死の抵抗も民主主義の原則には逆らえず、やむなくミニスカポリスに扮した僕だったが、その時地獄を見せられた。
 余程はまりすぎていたのだろうか、そっちの趣味がある先輩に追い回される羽目になったのだ。
 危ういところを柔術教官に救われたのだが、今度は別室でその教官に迫られて─。
 あれ以来、女装はトラウマだ。
 今じゃその手のタレントが出るだけで、テレビのチャンネルを変えてしまうくらいだ。
 なのに、またもその女装を無理強いされるなんて。

 今回シズカが選んでくれたコスチュームは、21世紀初頭のコギャル女子高生だった。
 チェックのプリーツスカートにアイボリーのベスト、白シャツの胸元には赤いリボン、そして膝丈の紺ハイまで履かされた。
 スカート丈の短さは、確実に校則違反ものだ。
 メイクはアイラインとツケマで目元を強調し、後は薄いピンクのリップクリームだけ。
 仕上げにストレートロングの金髪ウィッグを被って作業は終了だった。
 以前、シズカに無理やり買わされたウィッグが、こんな形で役に立つとは。
「これで充分……どこから見ても……女装のプロ……」
 そんな褒め方されても、嬉しくも何ともない。
 どっちにせよ、ハナから女装だとばれてるのだからムキになる必要もなく、それだけが救いなんだけど。
 ところが、予想もしなかった衝撃の事実が僕を待ち受けていたのだった。

 それは通された洋館のロビーで、応対に出てきた初老の男の何気ない一言から発覚した。
「伝説の暗殺者『マリオネット』がこんな若い、それもお嬢さんとは存じ上げませんでした」
 いかにも執事って感じの男は、そう言って恭しくお辞儀した。
 何を勘違いしているんだ、このオヤジは。
 マリオネットは有名な女装マニアなんだぞ。
「いや、知ってるとは思うけど……僕は男だから……」
 僕が地声でそう言った途端、落ち着いた物腰の男が飛び上がって驚いた。
 その拍子に、持っていた飲み物のお盆を落としてしまったほどだ。
「えぇっ? お、男ぉ?」
 執事のプロみたいな男が、アホみたいに口をあんぐり開けたまま固まってしまった。

 なんか話がおかしくないか。
 マリオの女装癖は、この世界では有名なんじゃ?
「プッ……クロー…あの女に騙された……」
 シズカが吹き出すと同時に、僕の思考も一つの事実に辿り着いた。
「あの年増ぁ……」
 僕は白河法子都知事にはめられたのだ。
 マリオが伝説の殺し屋ってのは本当のようだが、彼が女装マニアだなんてのはまったくの作り話だったんだ。

537:雲流れる果てに…14 ◆lK4rtSVAfk
13/03/31 10:59:06.46 xuwfFyUc
 くっ、これは前に都知事の不正を暴こうとしたことへの仕返しか。
 僕の裏切り行為に対する報復措置なのだ。
 あの女、今頃は1人で死ぬほど笑い転げているのだろう。
 でも、これで貸し借りなしってのなら安くついたのかもしれない。
 本来だったら口封じのため粛清されてたっておかしくないのだから。
 とにかく今は我慢だ。

 それよりも、執事が僕の慌てっぷりを怪しんでいることの方が問題だ。
「騙された? 騙されたとは、どういうことでありましょう?」
 さすがに不審に思われている。
「問題ない……みんな騙される……任務遂行時は……女……そして……現場離脱時には……」
 シズカがそう言うと、執事は納得したように手を打った。
「……変装を解いて男に戻る。なるほど、たとえ現場を目撃されても疑われず逃走できる」
 執事は心底から感心した様子だった。
「逃げるため異性に扮するのではなく、元に戻るだけなのですから。確かに、これ以上完璧な変装はありませんな」
 犯行時は美少女のペアが、逃げる時にはデート中のカップルと化す。
 これぞマリオが幻の殺し屋と呼ばれる所以かと、執事は1人で納得していた。

「で、『クロー』とかおっしゃったのは?」
 抜け目ない執事は感心しながらも、次の疑問を晴らしにかかる。
「ああ……『マリオネット』は……官憲側の呼び名……本当のコードネームは……『アイアン・クロー』……」
 シズカはそう言うや、いきなり左の指を開いて背後のドアに振り下ろした。
 指先に組み込まれた電磁メスが唸りを上げ、頑丈な樫材のドアが6枚の板切れと化す。
「ひぃっ?」
 執事はまたも飛び上がる結果となった。

「これらは我々の秘密……誰かに喋ったら……殺す……」
 シズカが振り返りながら執事を横目で睨む。
 ただでさえドスの利いた目なのに、細めると更に凄味が増す。
「ひぃぃぃっ」
 可哀相な執事は震え上がった。

「ちなみに……クローの乳首は……綺麗なピンク色……」
 こら、なに余計なこと言ってるんだ。
 僕の乳首は関係ないだろう。
「これも……秘密だから……漏らしたら……殺す……」
「そんな重大な秘密なら、私なんぞに軽々しく教えんで下さいっ」
 可哀相な執事が泣き声を上げた。
 いや、これはシズカのジョークなんだけど。
 いつもながらシュール過ぎて全然笑えないなあ。


 そんなこんなで、僕たちが客間に通されるのに随分と手間取ってしまった。
 ここで日没まで待機とのことだ。
 その後、今回の雇い主のところまで案内してくれるという。
 それまではリラックスタイムってことで、僕はようやく一息つくことができた。

 しかし困ったことになった。
 もう女装する必要はなくなったのだが、生憎と着替えは女物しか持ってきていない。
 下着なんかは買いに行く時間がなかったので、サトコのを無断で拝借してきている。
 男の格好に戻りたくても物理的に無理なのだ。
 しばらくはこの格好で通すしかなさそうだ。
 とにかく、一刻も早く敵の黒幕と接触しなくては。
 一分でも早く仕事を終えて、一秒でも早く寮に帰らないとヤバいことになる。

538:雲流れる果てに…14 ◆lK4rtSVAfk
13/03/31 10:59:53.14 xuwfFyUc
 無駄に潔癖なサトコのことだから、パンティの無断借用がばれたら怒り狂うだろう。
 しかもそれを履いたとなると、どんな目にあわされることか。
「仕方がない……トランクスだと……下からはみ出る……スカートが短すぎるから……」
「君が選んだスカートだろうが」
 スカートの丈に関して、こいつに非難される覚えはない。
「アドバイスを……必要としていたのは……クロー……」
 ああっ、本格的に頭が痛くなってきた。
 とにかく帝都に帰ったら、即刻ティラーノに身売りしてやるっ。
 そして、あのいけ好かない女を都知事の座から引きずり下ろしてやるんだ。
 いや、いっそ本当に暗殺してやろうか。


 そうやって僕が頭を抱えているうちに時間が来たらしい。
 例の執事の案内で玄関に戻った僕たちは、再び黒塗りのエアカーに乗せられた。
 心地よい振動に揺られること十数分、車が停止したのは寂れた波止場だった。
 停泊しているのは中型のフェリーが一隻だけである。

「これから、伊豆諸島にある無人島までご足労願います。そこで私どもの主人がお待ちです」
 同行した執事が説明する横で、ゴリラ面の運転手が僕たちの荷物をトランクから降ろす。
 フェリーなんだから車のまま乗り込めばいいのに。
 僕の不審げな視線に気付いて、執事が説明した。
「我々の役目はこれで終わりなのです。クロー様、どうぞご無事で」
 執事は頭を垂れて別れを告げる。
「私どもの主人は必殺を期すため、複数の暗殺者を雇い入れました。少々趣味の悪い話なのですが……」

 名のあるプロの殺し屋といっても実状は定かではない。
 職業柄、秘密主義とハッタリが横行する世界のことだから。
 そこで最高の技量を持つという暗殺者を何人か集めて、真の最強テロリストを選出しようというのだ。
 三流どころを束にしてぶつけても、収拾がつかなくなくなるだけである。
 ただ1人の超一流に任せた方が、成功率は遙かに高いというわけだ。
 それに超一流のプロは、徒党を組むのを嫌がるものだろう。

「殺し屋同士で殺し合い……か……」
 生唾を飲み込むと、襟の下で喉仏が大きく上下した。
 殺し屋だらけのバトルロイヤルか。
 これは計算外のピンチだ。
 余計なバトルはご免被りたいが、勝ち抜かないと依頼主に会えない。
 今回の任務を果たすには、どうあってもバトルロイヤルを制さなければならない。

「クロー……指名手配の殺人犯を……根こそぎにするチャンス……大漁の予感……」
 シズカがこっそり囁いてくる。
 不安など微塵もない横顔を見ていると、僕もどうにか落ち着いてくる。
 君って奴は、なんて頼りになる女なんだ。
「クロー様、くれぐれもお気を付けて。無事のご帰還を心よりお祈り申し上げます」
 執事が恭しく頭を下げた。



 僕たちがフェリーに乗り込むと、ほどなく汽笛が鳴ってエンジン音が高くなった。
 同時に微妙な揺れに包まれる。
 船が港を離れたのだ。

「本当なら夕方までに帰るはずだったのに」
 これは確実にサトコに処刑されるな。
 しかもパンティ泥棒などという不名誉な罪でだ。
「風で飛ばされた……ことにすれば……いい……」
 サトコのパンティ3枚だけを選んで飛ばすような都合のいい風は吹くまい。
「なら……ご愁傷様……ということで……」
 冷たい女だな、君は。

539:雲流れる果てに…14 ◆lK4rtSVAfk
13/03/31 11:00:40.36 xuwfFyUc
 僕は溜息を漏らしながら、指定された第7番駐車区画へと向かった。
 なんで船室じゃなくて、駐車デッキがあてがわれたのか。
 その疑問に対する明確な回答は、第7パーキングに用意されていた。

「デヘヘヘヘェッ、こいつはツいてるゼェェェ」
 20メートル四方の密閉式格納庫に入った途端、品性の欠片もない下卑た笑い声が部屋中に響き渡った。
 えらく高い位置から声がするなと見上げてみると、床から3メートルの辺りに巨大な顔があった。
 その下は同じく巨大で分厚い筋肉の塊に繋がっている。
 とんでもない巨人だ。
 サイバーレスリングの選手にも、これだけ充実した体躯の巨人はなかなかいない。

 情けない話だが、僕は小便をちびりそうなほど怯えていた。
 なにせ仁王像みたいな大入道が、こっちを見て嬉しそうにニヤニヤ笑っているのだから。
 どう考えてもルームメイトってわけじゃなさそうだし。
「これは……予選……」
 シズカがボソッと呟いた。
 本戦のバトルロイヤル開始までに、頭数を半分に減らしておこうって魂胆なのだろう。
 あんまり多人数だと、グダグダになるおそれがあるから。
「そのとおり。どうせ最後に残るのは、このオンドレ様に決まってるんだがよぉ。手間は少ないに越したこたぁねぇ」

 思い出した。
 こいつ、オンドレ・ザ・マウンテンだ。
 何年か前、帝都プロレスのマットを席巻したサイバーレスラーだ。
 確か、八百長破りで何人かのレスラーを殺して、業界を追放されたと聞いていたが。
 人間凶器といわれた肉体と格闘術を悪用して、殺し屋に転職していたとは。
 これは本格的にピンチだ。

「でよ、モノは相談なんだが。おめぇら2人、大人しく俺様にハメ殺されろや」
 オンドレが好色そうに笑う。
「俺様も気持ちいいし、おめぇらも痛い目みるより、気持ちよく死ねた方がいいだろぉ?」
 オンドレは犯る気まんまんで、早くも股間のモノを充血させている。
 それは僕の腕より遙かに太かった。
 ダメだ。
 今さら男ってばれたら、どんな酷い目にあわされることか。
 たとえ命は助かったとしても、一生便秘薬を必要としない体にされてしまう。

「デヘヘヘヘェッ。まずはそっちの金髪のお嬢ちゃんからだぁ」
 怯えて縮み上がった僕の姿が、オンドレの攻撃本能に火を付けてしまったようだ。
 丸太ん棒のような腕が、僕に向かって伸びてくる。
 グローブみたいな手がガバッと開いた。
 掴まれる―と思った瞬間、オンドレの腕が天井方向に跳ね上がった。
 シズカが横合いから蹴り上げたのだ。

「ウギャアァァァッ」
 一撃で右腕を破壊されたオンドレが、悲鳴を上げながら床の上を転げ回る。
「シズカッ」
「クロー……女の子みたいに……失神しかけてた……」
 シズカは嬉しそうに微笑していた。
 そういうのはよくない趣味だぞ。
「誤解……板に付いてきたのが……嬉しいだけ……」
 あくまで笑うシズカの背後で、筋肉の山が立ち上がる。

540:雲流れる果てに…14 ◆lK4rtSVAfk
13/03/31 11:01:34.26 xuwfFyUc
「クロー……片付けるから……少しだけ……後ろを見てて……」
 なんのことやら分からないけど、この事態をどうにかしてくれるのなら喜んで従おう。
 僕が背後を振り返ると、いきなり「ボカッ」やら「ドスッ」とか「バキッ」という、耳を覆いたくなるような音が連続した。
 続いて「メキメキッ」「ギギギィッ」という、金属がねじ曲がる音が─。
 そして、ものの数十秒後には完全に静まりかえった。

 僕が正面に向き直った時、オンドレの姿は格納庫から消え失せていた。
「OK……レッツ ザ マジック ビギン……スターファイヤー……」
 シズカは有名なイリュージョニストよろしく、スカしたポーズで決め台詞を吐いた。
 その背後の鋼鉄製の壁には一筋の亀裂が入り、オイルがべったりと付着している。
 僕はオンドレがどこに消えたのか知らないし、知りたくもない。
 生涯聞かないことにしておこう。
「問題ないと……言ったはず……」
 本当にシズカの力は底が知れないな。
 彼女さえいれば、今回の任務もなんとかなりそうだ。

「シズカは……クローが困るのを…楽しんでいるのでは……ない……」
 僕の相棒は急に真面目モードに入って語り出した。
「クローが困れば……シズカが役に立てる……それが嬉しいだけ……」
 それが自分の存在意義だと、シズカはうそぶく。
 ありがたいとは思うけど、今回のは少々マッチポンプじみてる感もする。

「そんなことより……バトルモードに入ったから……蛋白燃料の……補給を……」
 シズカはパンティを膝まで下ろすと、その場に四つん這いになって僕を振り返る。
 こんな時におねだりモードかよ。
 僕はたった今、殺されかけたんだぞ。
 けど、真っ白なお尻を見ているうちに、縮み上がっていた燃料ホースが元気になってくる。
 それに肝心な時にガス欠にでもなられたら、困るのは僕だ。

「早く……合体を……」
「イエス・マム」
 僕もパンティを脱ぎ捨てると、シズカのヒップにのし掛かっていった。
「シズカ……女の子に……犯されてるみたい……変な気分……」
 可愛くて恐ろしいアンドロイドは、押し殺したような笑い声を上げた。



 ノロノロと進むフェリーが目的の港に着いた時、すっかり夜は明けていた。
 そう大きくはない島、それも無人島のようだ。
 昨日の車にしてもそうだが、長く乗っていたからといって遠くまで来たとは限らない。
 靄がかかって水平線の向こうは見えないが、意外と本土から近場なのかも知れない。
「さあ……他の殺し屋どもを叩いて……ちゃっちゃと片付ける……」
 シズカはドアのロックが開くと、先に立って甲板へと上がっていった。
 僕は慌ててその後を追った。

「あれっ。君たち、オンドレを潰しちゃったの?」
 甲板に上がると、ちょうど別のタラップから上がってきた男と鉢合わせになった。
 年の頃なら20代後半、スラリとした長身の白人男だ。
 紳士っぽく髪を綺麗に撫で付け、黒いタキシードでめかし込んでいる。
 先の尖った革靴もピカピカに磨かれていた。
「こいつは助かったなあ。正直なところ、奴をどうしようか悩んでたんだぜ」
 男はそう言うと人懐っこそうな笑顔を見せた。

「早くも……大物ゲット……」
 シズカが男の顔を元にデータ検索を掛け、その照会結果を耳打ちしてくれた。
 こいつは通称「ダブルオー」と呼ばれる男で、英国海軍情報部に所属していた腕利きのスパイである。
 女で失敗して懲戒免職になってからは、スパイとして身に付けたテクニックを殺し屋稼業に活かしているらしい。
 女王陛下も、さぞかしお嘆きあそばしていることだろう。

541:雲流れる果てに…14 ◆lK4rtSVAfk
13/03/31 11:02:19.57 xuwfFyUc
「それともう一つ。こんな殺風景な島だから、君みたいな綺麗な子がいてくれると、ホント助かるよ」
 ダブルオーは気障な台詞を吐くと、僕の手を取って甲にキスをした。
 さり気ない、しかも洗練された動作だったが、キスした途端に彼は「あれっ?」という顔をした。
 こっちだって同じ気分だ。
 男からそんなことされて嬉しいわけがない。

 そんな軽薄男を嘲笑するように、非難の声が頭上から降り掛かってきた。
「相変わらずのバカッぷりでゴザル」
「ゴザル」
 声の主はと見上げると、上層甲板の手すりに2人の少女が立っていた。
 軽やかになびくポニーテールとアーモンド型の目が印象的で、2人はおそらく双子の姉妹だ。
 袖無しで超ミニの着物に錦紗の袋帯を締めた、なんとも珍妙な格好をしている。
 帯の後ろに短い刀が斜めに落とし込まれており、剥き出しになった腕には手甲、脛には脚絆が巻かれている。

 クノイチだ。
 しかも、嬉しい方向に間違ったクノイチだ。
 ゲームやアニメに毒されたガイジンが陥る、誤った異文化解釈だ。
 忍者がこんな目立つ格好で、白昼堂々と人前に現れることなどあり得ないだろうに。
 だが、着物の裾からチラチラ見えているねじりフンドシは、忍びの者としての再現率も好感度もかなり高い。

「やあ、シュガー・リン、それにシュガー・レイ。君たちも来たのかい?」
 ダブルオーはクノイチたちと顔見知りなのか、手を上げて気軽に挨拶した。
 彼女らシュガー姉妹は、思ったとおりチャイニーズ・ニンジャだった。
 ミツテル・ヨコヤマの忍術書は全てマスターしているとのことで、しかも2人ともサイボーグだという。
 よくは分からないが、彼女らも要注意だ。

 この際だから、船から降りてきた残りのファイナリストたちも紹介しておこう。

 まずはロシアの特殊部隊、メタルベレー上がりの強化戦士、ニコライ大尉。
 メタルベレーはサイボーグ連隊とも呼ばれ、屈強の改造人間兵士たちで構成されている。
 たった1人で正規部隊の一個大隊に匹敵するというのが売りだ。
 肉体も凄いが、内蔵されている火器も半端じゃないのだろう。
 大尉は退役してからも殺しの味が忘れられずにこの道に入ったという、まさにキリングマシーンだ。

 続いて、ドイツのマッドサイエンティスト、ジークムント教授。
 生化学の博士号を持ち、毒物研究の権威だったが、人体実験のやりすぎで本当の狂人になってしまった。
 自らも毒素に冒されて死の淵をさまよったが、身体をサイボーグ化して蘇ってきた。
 毒に耐性のある体を所有してからは、彼の探求心は生身の時より強くなった。
 もっとも彼の実験は町中で行われ、しかも罪のない一般市民を実験動物として用いるというから救われない。
 たった一人の対象を殺すために、関係のない市民を巻き添えにする、大量殺人のエキスパートだ。

 一際風変わりなのが、国籍不明で年齢不詳の道化師だ。
 こいつに関しては、シズカのデータバンクにも情報がなかった。
 サーカスから出張してきたような扮装で、満面の笑みを湛えたメイクがかえって恐ろしさを醸し出している。
 ピエロらしく一言も喋らないマイマーぶりで、何を考えているのか全く読めないのが不気味だ。
 もっとも、他の連中も僕やシズカを見て、同じように警戒しているのかもしれないけど。
 とにかくこの得体の知れない殺人ピエロも要注意だ。

542:雲流れる果てに…14 ◆lK4rtSVAfk
13/03/31 11:02:57.55 xuwfFyUc
 最後に船から降りてきたのは、見るからにやる気のなさそうなラテン男だった。
 冴えない細面の顔をして、鼻下にコールマン髭を蓄えている。
 それがどこかネズミを連想させる。
 それなりに長身だが体格もそれなりで、よくもこれで予選を通過したものだと感心するほどだ。
 彼もまたピエロと同じく、国際警察の犯罪者リストには登録されていない。
 シズカのデータバンクには、彼についての情報は何もなかった。
 もしかすると余程の大物なのかもしれない。
「よお……」
 男はタバコの紫煙を吐き出すと、気怠そうに挨拶を寄越した。

 これら一癖も二癖もある連中が、バトルロイヤルを戦うファイナリストだ。
 こいつらを蹴散らさないと生きて帝都に帰れない。
 それどころか、敵の黒幕を暴くという任務すら全うできない。
 首尾よくこの戦いを勝ち抜いて、都知事の暗殺を請け負うことができれば、テロリスト世界一の称号を得たのも同じだ。
 それだけに全員必死になってくるだろう。
 これは思っていたより少々ハードな展開になってきた。
 元々容易い任務なら、あの女知事がわざわざ僕を指名するわけはないのだ。

「で、どんなもんだろ? やれそうかい」
 僕は頼みとする相棒を振り返った。
「生身の体を改造しても……シズカには……敵わない……」
 シズカはあっさりと言い切ってくれた。
「サイボーグにできてシズカにできないのは、脳卒中くらいのものだしな」
 僕はシズカのシュールなジョークを真似てからかったが、シズカはニコリとも笑わなかった。

「まずいことに……なった……」
「なにが?」
 シズカの無敵を信じて疑わない僕は、気楽そうに聞き返した。
「サイボーグどもは怖くない……しかし……あのスパイとヒゲネズミには……手を出せない……」
 それって、つまりあの2人は生身の人間で、アシモフの三原則に縛られてるシズカには攻撃できないってことか。

 それは確かにまずいよ。
 シズカに手が出せないのなら、この僕が戦わなくてはならないことになる。
 ヒゲネズミはともかく、元情報部員のダブルオーはかなりの強者だろう。
 僕の警察学校レベルの格闘技で歯が立つと相手とは思えない。
 なんてこった。
 こんなことなら柔術を嫌わず、もっと真面目に稽古をしておくんだった。

 僕は今更ながらに、あの同性愛者の柔術教官を恨みがましく思った。

543:名無しさん@ピンキー
13/03/31 11:07:16.38 xuwfFyUc
今回はここまでです

それと、総務とかで働いている皆様へ
今まで事務の仕事をバカにしててゴメンなさい
こんなに大変だとは正直思いもしませんでしたm(_ _)m

544:名無しさん@ピンキー
13/03/31 11:33:53.01 Ycz2Bfbw
超久しぶり超乙
シズカさんのロボっぽい暴れぶりが
今から楽しみすぐるよ

545:名無しさん@ピンキー
13/03/31 12:30:37.51 zZyDXRJl
おつ

なんだかんだで三原則に縛られてるっていいよね

546:名無しさん@ピンキー
13/03/31 13:10:57.62 IJKfx/ea
乙ですの
また、続きが読めてうれしいです♪
ダブルオー、吹きました。
しかし、ヒゲネズミ、なにものなんでしょう(滝汗

547:名無しさん@ピンキー
13/03/31 14:02:43.35 I4HCy+ou
3dmarkのデモに良いおっぱいのメカ娘が出たので報告に来たら新作が投下されてたでござる



548:名無しさん@ピンキー
13/03/31 15:30:03.64 KIRYyOYp
佐藤兄弟の女体化キタァーッ?

549:名無しさん@ピンキー
13/03/31 21:41:31.99 s+coMA6p
新作キタ━━(゚∀゚)━━!!!!

乙でございますよ

550:名無しさん@ピンキー
13/03/31 21:55:11.00 31ogQOSn
乙乙

551:名無しさん@ピンキー
13/03/31 22:37:19.37 eb7UHfjh
ああ、佐藤兄弟=シュガー姉妹ね

茶を噴いただろうが

552:名無しさん@ピンキー
13/04/01 01:56:38.92 xu644ECc
わあ。まっててよかった……。

ところで濃厚な燃料補給シーンをですね。

553:名無しさん@ピンキー
13/04/01 04:33:59.68 fGG2t4nc
刺身のツマ程度ですが
勝手にやったんであまり合わなかったらすまん
URLリンク(pic-loader.net)

554:名無しさん@ピンキー
13/04/01 07:35:42.79 R0zYStAS
これは素晴らしすぎるでしょう

555:名無しさん@ピンキー
13/04/02 14:46:46.46 gcCQr0pQ
おぉ、神絵師の 再降臨か
やっぱ絵があるとイメージが膨らむなあ

556:名無しさん@ピンキー
13/04/03 22:29:47.37 WbxpvNBy
おおおお、一緒にフェリーから降りてきた敵キャラさんかな
おなごのやわらかさはもちろん男性キャラの書きわけもすごいっ!

557:名無しさん@ピンキー
13/04/03 23:17:22.08 gR16o+6m
女の子を上手く描ける絵師は多いけど、男をきちんと描ける人は確かに凄いな

漫画化してくれたら買うぞ

558:名無しさん@ピンキー
13/04/07 08:03:57.28 I1MCGiXS
ちょっと手直し版シズカ
URLリンク(www.pic-loader.net)
アイアンクロー
URLリンク(www.pic-loader.net)

559:名無しさん@ピンキー
13/04/07 08:07:45.38 I1MCGiXS
あ、ニーソじゃなかったらすんません
ニーハイにしろ膝上なんで、ちょっと高すぎたかも;;

560:名無しさん@ピンキー
13/04/07 19:32:39.47 c1yz0a5M
どうせならメカバレ(武器展開)とかも書いとくれ

561:名無しさん@ピンキー
13/04/08 09:29:09.95 50cs9dqF
>>558
シズカがかわいすぎて生きていくのがつらい

562:名無しさん@ピンキー
13/04/14 23:50:57.66 8s6yFocH
コメコちゃんはジャンボの6月号(5月発売)が最終話みたいだね。

563:名無しさん@ピンキー
13/04/17 00:14:46.26 Oa1Z6gHf
>>561
むしろシズカがかわいいから今月も生きていられる
…支部にも上げて欲しいッス

564:都知事暗殺計画の黒幕を追い、伊豆の無人島にやってきた僕は、予想もしなかったピンチに陥っていた。  無敵のシズカがいれば怖れるものなど何もない。  そう考えていた僕だったが、まさか敵の中に生身の人間がいるとは思ってもいなかった。  殺し屋を生業とするのなら体をサイボーグ化した方が有利だし、そうするのが当たり前だと考えていたのだ。  正規の警察用バトルドロイドであるシズカは、ロボット三原則を遵守しなければならない。  というか、アシモフ回路を組み込まれている彼女には、人間を攻撃すること自体が不可能なのだ。  したがって、生身の敵はシズカではなく、この僕が相手しなくてはならない。  しかも元英国情報部の腕利きスパイという、よりによってタフな難敵をだ。 「否……必ずしも……クローが相手する必要は……ない……」  パニックになりかけた僕を余所に、シズカはあくまで冷静だった。 「クローがやらずとも……他の連中に手を下させれば……結果は同じ……」  シズカは現状を分析して、的確な判断を下した。  彼女が言うとおり、ダブルオーの敵は僕たちだけじゃない。  多人数が入り乱れる生き残り戦では、敵の敵は頼もしい味方なのだ。  共闘して強敵から葬っていくのは、バトルロイヤルの常套手段である。  その意味じゃ、いかにも弱そうに見える僕たちは、安全地帯にいると言ってもいい。  この自己嫌悪すら覚える女の子並みの体格が、まさか戦闘の役に立つ日が来るとは。  世の中、何が幸いするか分からないものだ。  さて、そうなると誰にどうやってダブルオーを始末させてやるか。  頭をフル回転させて熟考していると、当のスパイ崩れが近づいてきた。  一見青年紳士に見えるダブルオーは、爽やかな笑みを浮かべて話し掛けてくる。 「やぁ、君たちが噂の『マリオネット』だろ? で、どっちがロボ娘ちゃんなのかな」  人の気も知らないで、気楽に笑いやがって。  こっちが不利になるような情報など、誰が与えてやるものか。  幸いシズカは見た目には完全に生身の美少女だ。  黙ってさえいればマシンだと分かりっこない。  どちらがバトルドロイドかばれなければ、彼に2倍の警戒力を強いることができるのだ。  そんな深慮遠謀を、シズカが台無しにしてくれた。 「黙れナンパ男……クローディアに命令して……キンタマ……引っこ抜かせるぞ……」  シズカはシズカなりに思考して、相手を攪乱しようと企んだのだろう。  けど、そんなたどたどしい台詞回しじゃ、逆に的確な判断材料を与えてあげたも同じだ。  ダブルオーは怯えるどころか、してやったりとニコニコしている。  これでロボットはシズカの方だとばれてしまった。  こうなったからには、彼女にアシモフ回路が組み込まれてることだけは隠し通さねば。  あくまで、殺人も辞さない違法な暗殺用ロボットだと思わせておくのだ。  シズカが正規品ロボットだと知られたら、ダブルオーに対して打つ手がなくなる。  僕たちはダブルオーに手を出せない。  そして、他の連中はダブルオーに手を出さない。  生かしておいて、僕たちを倒させるために。  つか、誰がクローディアだ。 「クロー……こうなったら……一刻も早く……あいつを始末させないと……」 「だから、誰にやらせるんだよ」  シズカは自称超一流の殺し屋たちを見回していたが、やがてポツリと呟いた。 「アイツ……」  シズカが選んだのはメタルベレー出身のニコライ大尉だった。  確かにガチンコで戦うのなら、この中じゃ彼が一番強そうに見える。  戦闘力なら、間違いなくダブルオーより上だろう。



565:雲流れる果てに…15 ◆lK4rtSVAfk
13/04/29 23:48:26.75 XcAS6B1G
「で、どうして大尉なんだ?」
「ああいうマッチョは……気障な二枚目が大嫌い……それが相場だから……」
 それは偏見というものじゃないのかな。
 まあ、僕の代わりにダブルオーをやっつけてくれるのなら構わないが、どうやって交渉する気なのか。
 ここは一つシズカのお手並み拝見と行こう。

 シズカはつかつかとニコライ大尉に近づくと、やにわに背後から話し掛けた。
「ちょっと……アンタ……アイツを殺して……」
 シズカはそう言うと、ダブルオーを指差した。
 おわっと、まさかのノープランかよ。
 僅かでも期待した僕がバカだった。
 戦闘用アンドロイドに、高度な政治力を要する交渉などできるはずがないのだ。

 いきなり訳の分からないお願いをされた大尉は、胡散臭そうにシズカの顔を見た。
 なんだこの小娘は、という風に。
 こう言う時に普通の人間が見せる、至極まっとうな反応だ。
 そもそも、ひ弱そうな僕たちなど、大尉の眼中になかったのかも。
 話し掛けられて、初めてシズカの存在に気付いたような様子にすら見える。
 だが、次に大尉の表情に起こった変化は、見ているこっちが驚くほど劇的だった。

 シズカの顔を見た途端、大尉の目は大きく見開かれ、口も顎が落ちそうになるほど大きく開かれた。
 そしてシズカに向けられた人差し指は、痙攣するように小刻みに震えていた。
「あわわわわ……」
 ニコライ大尉はヘナヘナとその場にへたり込んでしまった。
 大尉は怯えているのだ。
 恐れなど知らないようなマッチョマンが、小娘のシズカを見て怯えきっているのだ。
 そんな大尉の姿は、嫌でもライバルたちの耳目を引いた。
 みんなが僕たちの方を向き、何事が起きたのかと注目している。

「こ、こいつ……俺はこいつを覚えてるぞ……」
 ニコライ大尉がしわがれた声で唸るように言った。
「俺が新兵だった頃、ドイツと戦争になって、故郷のプーチングラードが火の海にされたことがあった……」
 大尉が言う戦争とは、何年か前に勃発した独露紛争のことだろう。
 つまらぬ政治解釈の違いが切っ掛けで、当時のドイツとロシアは険悪な仲になった。
 そして意地の張り合いは、ついにドンパチにまで発展することとなった。
 幸い、全面戦争に突入する前に第三国の介入があり、どうにか停戦にこぎつけることができたと聞いている。

 実際にはドイツの自動歩兵軍団がロシア自慢の機甲部隊を圧倒し、ロシアは僅か一週間で戦闘継続能力を喪失したという。
 人型ロボット兵器が実戦投入された史上初めての戦争は、それくらい一方的な展開だったらしい。
 そのため、この紛争はドイツが鉄人兵団の実戦データを採るために、無理に仕掛けたものだという陰謀説もあるくらいだ。
 しかしそれがシズカと何の関係があるんだ。

「開戦初日のことだ。1機の輸送機が街の上空に飛んできたと思ったら、降下兵を次々に吐き出しやがった。
パラシュートで降りてきたのはメイド服を着たロボットどもで、連中は情け容赦なく殺戮と破壊活動を始めた……」
 超兵器を内蔵したロボット兵の前では、主力戦車もひとたまりもなかったという。
 ロシア軍の攻撃はことごとく弾き返され、お返しの砲火は簡単に戦車の装甲を貫いた。
 たまに主砲の直撃を受けて、吹き飛ぶロボット兵もいた。
 だが、何事もなかったように無表情で立ち上がってくるその姿は、大尉たちにとって悪夢の光景だったに違いない。
 200体のロボットが街を破壊し尽くすのに、わずか2日しか掛からなかったらしい。
「人も建物もバラバラだった。俺たちは最後の決戦をと兵舎に立て籠もったが、そこにロボット兵団が押し寄せてきやがった」

566:雲流れる果てに…15 ◆lK4rtSVAfk
13/04/29 23:49:39.87 XcAS6B1G
 天を焦がさんばかりに燃えさかる炎をバックに、200体のロボット兵たちは横隊を作って行進してきた。
 正確な足運びが、規則正しい足音を響かせた。
 逆光のためシルエットだったロボット兵が、接近するにつれて場違いなメイド姿を顕わにした。
 いずれも絶世の美少女たちだが、その目には何の感情も帯びていなかった。
 主の命令に従い、主の意思を具現化するためだけに、彼女たちは存在しているのだ。
 大尉はこの時天使というものが、悪魔の同族であることを思い出していたという。

 文字通り、血も涙もないロボット兵を前に、大尉たちは死を覚悟した。
 そして、いよいよ攻撃開始という時、ロボットたちは一斉に戦闘態勢を解いたのだ。
 ギリギリのタイミングで停戦命令が間にあったのだった。
「その時、先頭に立っていた指揮官がそいつだっ。そいつはマンイーターだぁっ」
 ニコライ大尉は長い話を終えると、震える指先でシズカを指し示した。

 僕は問い質すようにシズカの顔を見た。
「知らない……何を言ってるの……こいつ……」
 シズカは無表情のまま、素っ気なく否定した。
 そりゃそうだろう。
 シズカは新古品のウーシュ0033で、僕と組むまでは埃を被っていた売れ残りなんだから。
 本人は「売れ残り」などではなく、あくまで「展示品」だったと主張して譲らないのだが。

「それにシズカにはアシモフ回路が組み込まれているから、マンイーターだなんてことは……」
 危うく秘密を吐きそうになって、僕は慌てて口を押さえた。
 マンイーターとは人食い、すなわち人殺しができる違法ロボットの俗称である。
 それだけでもニコライ大尉が勘違いしていると分かる。
 僕にとっては、非常に都合がいいことなんだけど。

「いいやっ。俺の脳にはあの時の光景が焼き付いていて、今でも夢に見るんだっ」
 ニコライ大尉は主張を曲げず、激しく首を振ってみせる。
「うるさい……お前……」
 シズカは不機嫌そうに上目遣いで大尉を睨み付けている。
「その顔を見間違うわけがない。お前だっ、お前に間違いないっ」
 ちなみにウーシュタイプのバトルドロイドは、一体一体が異なった外見を持っている。
 基本機能は同一でも、体格、人種などの見た目は千差万別で多岐にわたっているのだ。
「お前があの時の……」
 ニコライ大尉が再び吼えた次の瞬間、シズカの右手が動いていた。

「しつこい……黙れっ……」
 警告が終わるより早く、速射破壊銃が唸りを上げた。
 電磁カタパルトで加速された弾丸が、プラズマの尾を引いて大尉の土手っ腹へ吸い込まれていく。
 体幹部分の重要器官を破壊され、さしもの強化人間も一瞬で機能を止められた。
「ぐわっ」
 大尉がたまらず両膝を地面に付けた。
 それでもシズカは容赦しない。
 左手に組み込まれたプラズマキャノン砲を露出させると、フル充填を待たずにぶっ放した。
 しかも情け容赦のない連続発射だ。
 着弾するたび大尉の体は跳ね回り、残骸は細切れと化していく。
 やがてシズカが砲身を収めた時、ニコライ大尉がこの世に存在した形跡は完全に消え失せていた。

567:雲流れる果てに…15 ◆lK4rtSVAfk
13/04/29 23:50:27.43 XcAS6B1G
「シズカ、どうしちゃったんだよ」
 こんな後先考えない攻撃をするなんて、いつものシズカらしくない。
 他の女に嫉妬心を剥き出しにする時だけは別だけど。
「うざかったから……ちょっとやりすぎた……」
 ちょっとどころの話じゃないよ、これは。
 速射破壊銃の一撃だけでニコライ大尉は終わってた。
 これじゃ、まるで大尉の存在自体を消去しようとするような攻撃だ。

 マンイーターと指摘されてからのシズカは確かにおかしかった。
 僕の指示を待たずに攻撃するなんて異常だ。
 まるで、大尉の口を封じようとするような─。
 あれ以上大尉にしゃべらせたら、彼女にとってまずいことでもあったというのか。
 それは僕の心の中に初めてシズカに対する疑念が生じた瞬間であった。
 だが、状況はそんなことに構っていられるほど悠長ではなかった。
 今の戦闘が、バトルロイヤルの開始を告げるゴングとなってしまったのだ。

 いきなり手裏剣が飛んできた。
 シズカが僕の胸ぐらを掴み、グイと手元に引きつける。
 唸りを上げる八方手裏剣が、僕の耳元を掠って飛び去る。
 高周波を伴った手裏剣は、大木の幹に深々とめり込んだ。
 と思ったら、その大木がメキメキと音を立てて倒れる。
 むぅ、科学忍法?
 振り返ると、まがいもののクノイチが舌打ちしていた。
 そして一瞬後にはフッと姿をくらませる。

「クロー……始まってしまった……」
 こうなれば乱戦の中でダブルオーが死んでくれるのを祈るだけだ。
 チラリと彼の方に目をやると、スパイ崩れはスタコラサッサと逃げていくところだった。
 鍛えているとはいえ、所詮は生身の人間である。
 化け物たちとまともに戦えないことをちゃんとわきまえているのだ。
「ダブルオーを追うんだ。幾ら全員を倒しても、アイツ一人に生き残られたらお終いだ」
 それは僕たちにとって最悪のシナリオである。
 戦いの渦中に巻き込んでさえいれば、流れ弾とか余波の効果が期待できる。

 ところが僕の考え通りにことが進まない。
 今の戦闘でシズカを一番の難敵と見た全員が、一斉にこちらに攻撃を仕掛けてきたのだ。
 まずは化け物じみたシズカを皆で協力して潰そうというのだ。
 戦場に残っているのはシュガー姉妹と毒々マッドサイエンティスト、それに殺人ピエロの4名だ。
 いつの間にかヒゲネズミまでもが姿を消している。
 あのネズミ男も生身だから、放っておいたら厄介なことになる。
 だが、今は目の前の戦いに集中するべきだ。

 シュガー姉妹は走りながら二手に分かれると、僕たちを左右から挟撃してきた。
 これは速いっ。
 彼女たちにはアクセラレーターが組み込まれているのだろうか。
 常軌を逸した加速力である。
 自然の法則を超越した動きのため、加速するたびに姉妹の姿が視界から消え去る。
 視神経の働きが彼女たちの速さに追いつかないのだ。
 足が地面に着き、速度が鈍った一瞬だけクノイチスタイルの姉妹が現れる。
 そして蹴り足の加速により再び見えなくなる。

 僕の網膜に姉妹の残像が点々と残り、あたかも分身の術を使っているように見える。
 もっとも、それは副次的効果であり、姉妹が意図してやっている術ではない。
 そもそも電子の目を持つロボットを相手に、残像を利用した分身の術が通用するとはあちらも期待していまい。
 だが姉妹のアクセラレーターは僕の目だけではなく、シズカを混乱させるのにも成功していた。
 あまりに速いため、火器管制システムが予測照準を付けきれないのだ。

568:雲流れる果てに…15 ◆lK4rtSVAfk
13/04/29 23:51:09.48 XcAS6B1G
 人間なら山勘で適当に発砲できるが、シズカは管制システムが照準を終えない限りは火器への回路が開かない。
 火器管制システムは正確な狙いをつける照準器であると同時に、誤射を防ぐための安全装置でもあるのだ。
 つまり、バトルドロイドは機能上、盲目撃ちできない仕組みになっているのである。
 混乱するシズカに向かって、四方八方から手裏剣の嵐が襲いかかった。

 演算処理能力のほとんどを火器管制に回していたため、シズカの回避反応が遅れた。
 鈍い音を立て、シズカの体に10枚以上の手裏剣が突き刺さった。
 なんと、砲弾すら弾き返す特殊繊維のメイド服─シズカの補助装甲が役に立たない。
 恐るべき高周波手裏剣の切れ味である。
「イケるでゴザル」
「ゴザル」
 シュガー姉妹は、その愛くるしい顔に満面の笑みを浮かべた。
 もっとも、彼女たちの考えは少々楽観的すぎる。
 体幹部を守っている本装甲は厚く、この程度の攻撃ではシズカの機能に影響は出ない。
 手裏剣は生体組織層に刺さっただけなのだ。

「気をつけろ。次は肩や肘のジョイントを狙ってくるぞ」
 シズカはノースリーブの盛夏用メイド服を着ており、鎖骨部から上は全部剥き出しになっている。
 それに四肢の装甲は体幹部ほどの厚みをもっていない。
 肘のジョイントを破壊されたら、超兵器のほとんどが使用できなくなってしまうのだ。
「大丈夫……戦術を変える……」
 接近戦での銃撃が有効でないと判断するや、シズカは素早く戦術を切り替えた。
 交渉ごとはともかく、こと戦闘に関しては彼女はプロなのだ。

 シュガー姉妹が手裏剣を振りかぶり、その姿が消え失せた次の瞬間だった。
 シズカの姿もまた、僕の目の前から消失した。
 続いてゴン、ガンという打撃音がしたと思ったら、突如として地面を転がるシュガー姉妹の姿が現れた。
 少し遅れて、エアブレーキを掛けるため、両手を大きく開いたシズカが出現する。
「所詮はバージョン1.25……シズカのアクセラレーターは……バージョン1.5だから……」
 おおっ、シズカの加速力はシュガー姉妹のそれを上回っていたのだ。

 姉妹は地面に転がったまま、大きく見開いた目でシズカを見上げている。
 まだ厳しい現実を受け入れられず、思考停止しているようだ。
 お陰様で、ねじりフンドシが食い込んだ可愛らしいヒップを拝み放題にできる。
 冷徹なシズカがこの絶好の機会を見逃すわけがない。
 素早く照準を終えると、姉妹に速射破壊銃の銃身を向けた。
 しかし現実は僕たちに対しても厳しかった。
 この戦いはバトルロイヤルであり、シズカの敵はシュガー姉妹だけではなかったのだ。

 ボンいう破裂音と共に、フィールドに霧が立ちこめた。
 霧隠れの術かと思いきや、それはクノイチ姉妹の手によるものではなかった。
 マッドサイエンティスト、ジークムント教授が放った猛毒のシアンガスだったのだ。
 まずい、こんなもの吸い込んだら、僕は確実に即死する。
 シズカもそれを理解し、シュガー姉妹への攻撃を止めて僕の方へ向き直った。
 そして僕の後頭部に手を回すと、躊躇することなく手前に引き寄せた。

「な、何を…むぎゅう……」
 盛夏用メイド服の胸元はV字型に深く切れ込み、メロンサイズのオッパイは上半分が露出している。
 僕の鼻と口はその谷間に沈み込んだ。
 完全に息が止められ、僕がガスを吸入する危険はなくなった。
 代わりに窒息死する危険性が劇的に高まったことになるのだが。

 シズカは右手を僕の腰に回して軽々と抱き上げる。
 そして風上に向かって全力で走り始めた。
 滞留している毒の効果範囲から僕を逃がそうとしているのだ。
 なんてことだ。
 僕さえいなけりゃ、シズカはシュガー姉妹にとどめを刺せたのに。
 シズカは勝負より、僕の生命を第一に考えてくれたのだ。

569:雲流れる果てに…15 ◆lK4rtSVAfk
13/04/29 23:51:54.11 XcAS6B1G
 ようやく安全圏に達したのだろう、僕はシズカのオッパイから解放された。
 どうにか毒死も窒息死も免れたようだ。
「ありがとな、助けてくれて」
 僕が礼を言い終わるのを待たず、シズカは再度戦闘に復帰しようと身を翻す。
「ここから動かないで……あのスカンクは……これより風上には……行かせない……」
 シズカはそう断言すると、ジークムント教授に向かって突撃を開始した。

 外見は初老の小男に過ぎない教授だが、猛然と突っ込んでくるシズカを前に怯みを見せない。
 奴もシズカがニコライ大尉を破壊するところは見ているはずである。
 なのにこの余裕ある物腰はなんなのだ。
 全然強そうには見えないが、自分の戦闘力に余程自信があるのか。
 呼吸をしないシズカには、毒ガス攻撃など効きはしないのに。

 僕の不安を余所に、シズカは躊躇なく攻撃態勢に入った。
 得物は問答無用の速射破壊銃だ。
 細い右手首が素早く4分の1回転し、電磁カタパルトにブリットが装填される。
 それが火を噴くより先に、ジークムント教授の持つ擲弾筒が乾いた音を発した。
 圧搾空気で発射されたカプセルが、ヒュルヒュルと音を立てシズカに向かう。
 そんなヒョロヒョロ弾が通用するはずもなく、シズカは水平チョップでカプセルを払い落とす。
 しかし、それこそ教授の思う壺だったのだ。

 衝撃を受けたカプセルが炸裂し、中に詰められていた微粒子が飛び散った。
 シズカの姿が靄に遮られて見えなくなる。
 何が起こったのかと考える暇も与えられず、シズカの体が眩い炎に包まれた。
「どうじゃ、儂の開発したナノテルミットガスの威力は?」
 教授が気が触れたような高笑いを上げる。
 あの靄の正体は焼夷弾や溶接に使われるナノテルミットだったのだ。
 メイド服に付着した微粒子が、化学反応により発火しているのだ。

 シズカはその場に突っ伏し、炎を消そうと地面を転がるが、化学の炎はその程度では消せない。
「シズカっ、早く消すんだっ」
 だが、慌てることは何もなかった。
 ハルトマン社が開発した特殊繊維は、防弾力だけではなく耐火性にも秀でている。
 一見、業火のような強烈な炎も、メイド服の表面で化学反応を起こしているに過ぎない。
 テルミットガスの焼夷効果も、世界に冠たるハルトマン社の科学力を打ち破ることはできなかったのだ。
 それでも微粒子の化学反応が終わるまで、シズカは炎をまとったままだ。
「どうにかしろ。放置すればコンピュータがオーバーヒートしてしまうぞ」
 このまま超高温に晒されていれば、熱暴走でOSがフリーズしてしまう。
 それこそマッドサイエンティストが考案した、対バトルドロイド用の秘策だったのだ。

 やむなくシズカが取った行動は、いとも単純であった。
 燃えさかるエプロンとメイド服を「えいやっ」とばかり脱ぎ捨てたのだ。
 哀しいかな、彼女には最初から羞恥心などプログラムされていない。
 弾道が低かったのが幸いして、まともに微粒子を浴びたのは着衣に覆われた部分だけだった。
 髪や肩口に付着したのはごく少量だったようで、既に火勢は衰えている。
 生体組織に覆われた人工皮膚はあちこち焼けただれ、点々と痣ができていた。

 これに対するシズカの報復措置は苛烈だった。
 無言で教授に近づくと白衣を握り締め、日めくりカレンダーのように力任せに引きちぎった。
 続いてネクタイをねじ切り、ヨレヨレのスーツをシャツごと引き裂く。
「や、やめろっ。やめてくれぇっ」
 教授は情けない声を上げて逃げようとするが、シズカが聞き入れるわけがない。
 ズボンのベルトに手を掛け、上手出し投げの要領で教授を地面に叩き付けた。
 投げた後もベルトを放さなかったものだから、ズボンだけがシズカの手に残っている。
 不本意なストリップを強いられたシズカは、取り敢えず教授を同じ目にあわせたのだ。

570:雲流れる果てに…15 ◆lK4rtSVAfk
13/04/29 23:52:34.98 XcAS6B1G
「これで……おあいこ……」
 シズカは不機嫌そうに呟くと、その場から高々と跳躍した。
 空中で膝を折り畳むと、そのまま教授の背中に落下する。
「グェェェェェーッ」
 必殺のニードロップに人工脊柱を折られ、教授は断末魔の声を上げて機能を停止させた。
 同時にイタチの最期っ屁よろしく、教授の死体から毒ガスが噴射される。
 自分を殺した相手を巻き添えにする仕掛けなんだろうけど、教授の性格が端的に現れている。
 陰険さもここまでくると、むしろ清々しいくらいだ。
 もちろんシズカにはまったく影響がなかった。

 ニコライ大尉に続いてこれで2体目。
 どうなることかと気を揉んだが、意外にあっさり片付いた。
 後はシュガー姉妹と殺人ピエロだ。
 しかし、どちらかを生かしておき、逃げたヒゲネズミとダブルオーを仕留めさせないと。
 と思いながら周囲を見回すと─なんとクノイチ姉妹もピエロも消え失せていた。
 まともにシズカと戦う愚を悟ったのだろうか。

「では……不戦勝ということで……いい……」
 確かにシズカの言うとおりかもしれない。
 他の連中は勝負を捨てて逃げ去ったのだから。
 シュガー姉妹は身をもってシズカの恐ろしさを知ったろうし、他の連中も傍目にそれが分かっただろう。
 敵わぬと知れば、恥を忍んで撤退するのも一流どころの証かも知れない。
 ダブルオーにしたって、シズカが正規品だと気付かない限りは手を出してこないだろう。
 それにヒゲネズミは最初からやる気がなさそうだったし。

 しかし、あのネズミは何者なんだろう。
 見たところ、殺し屋を生業としている風には思えなかった。
 そもそも勤勉そうには見えなかったけど、本当に殺し屋として雇ってもらいに来たのだろうか。
 それに覇気は全然ないくせに、あの圧倒的な存在感は何だろう。
 現に今もこんなに気になって仕方がない。

「所詮はネズミ……沈没する船の運命を悟り……逃げ出した……だけ……」
 シズカが興味なさそうに呟いた。
 案外そうなのかもしれないな。
 間もなく船─すなわち雇い主は僕たちに沈められるのだし。
 そう考えるなら、ネズミが姿を消したのは僕たちにとっては吉兆だ。
 では、堂々と勝ち名乗りを上げるとしよう。

「お疲れさん。これでようやく黒幕と会えるな」
 雇い主と接触できるのは、バトルロイヤルを制した生き残りだけ。
 僕たちは世界殺し屋チャンピオンとして、その権利を手にしたのだ。
「他を排除すれば……森の奥の教会に行けと……執事が言っていた……」
 シズカはようやく炎が収まったメイド服を拾い上げ、埃を払ってから身に付ける。
「そこに都知事暗殺の雇い主が待っているんだな」
 さっさと殺人教唆の罪で逮捕してやろう。
 そして一刻も早く帝都に帰り、シズカの肌を治してあげなくては。
 たとえ貯金を全部使い果たしてしまうとしてもだ。

 顔や態度には出さないが、きっと彼女も気にしているのに違いないのだから。


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