【妖怪】人間以外の女 ..
2:名無しさん@ピンキー
11/01/25 07:28:04 YPyTT5kK
【妖怪】人間以外の女の子とのお話26【幽霊】
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【妖怪】人間以外の女の子とのお話25【幽霊】
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【妖怪】人間以外の女の子とのお話24【幽霊】
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【妖怪】人間以外の女の子とのお話23【幽霊】
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【妖怪】人間以外の女の子とのお話22【幽霊】
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【妖怪】人間以外の女の子とのお話21【幽霊】
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【妖怪】人間以外の女の子とのお話20【幽霊】
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【妖怪】人間以外の女の子とのお話19【幽霊】
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【妖怪】人間以外の女の子とのお話18【幽霊】
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【妖怪】人間以外の女の子とのお話17【幽霊】
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【妖怪】人間以外の女の子とのお話16【幽霊】
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【妖怪】人間以外の女の子とのお話15【幽霊】
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【妖怪】人間以外の女の子とのお話14【幽霊】
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【妖怪】人間以外の女の子とのお話13【幽霊】
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【妖怪】人間以外の女の子とのお話12【幽霊】
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【妖怪】人間以外の女の子とのお話11【幽霊】
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【妖怪】人間以外の女の子とのお話10【幽霊】
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【妖怪】人間以外の女の子とのお話9【幽霊】
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【妖怪】人間以外の女の子とのお話8【幽霊】
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【妖怪】人間以外の女の子とのお話7【幽霊】
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【妖怪】人間以外の女の子とのお話6【幽霊】
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【妖怪】人間以外の女の子とのお話5【幽霊】
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【妖怪】人間以外の女の子とのお話4【幽霊】
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【妖怪】人間以外の女の子とのお話3【幽霊】
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【妖怪】人間以外の女の子とのお話U【幽霊】
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人間じゃない娘のでてくる小説希望(即死)
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3:名無しさん@ピンキー
11/01/25 07:35:35 YPyTT5kK
<関連スレ>
かーいい幽霊、妖怪、オカルト娘でハァハァ【その13】(DAT落ち)
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【獣人】亜人の少年少女の絡み9【獣化】
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4:名無しさん@ピンキー
11/01/25 07:54:35 YPyTT5kK
関連スレにこれ入れてもいいかも
エルフでエロパロ 耳舐め2回目
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淫魔・サキュバスとHなことをする小説 その5
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陵辱とか個人的にはあんまり好きじゃないんだけどこれはどう?
触手・怪物に犯されるSS 24匹目
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これはどうだろうなぁ…なんか死亡するみたいだし
少女・女性が化物に捕食されちゃうスレ 復活の5
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他に何かあったらお願いします
5:名無しさん@ピンキー
11/01/25 13:33:39 s1nyNSrm
悪魔と天使でえっち 3rd world
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【ゾンビ】アンデッド総合スレ1【デュラハン】
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6:名無しさん@ピンキー
11/01/26 19:24:13 qAK4av0U
>>1
おつおつ
7:名無しさん@ピンキー
11/01/28 00:05:47 Nf4USJ8y
ここ関連にならない?
擬人化した狂暴な♀動物が逆レイプする【十九匹目】
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8:名無しさん@ピンキー
11/01/29 00:31:37 XcMBzSP1
これは?
Googleでエロパロ
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9:大神の人
11/01/30 01:02:05 5tGDaOTP
しまった!
こっち(28)に投下するって言ってたのに、つい前スレに投下してしまった。スマヌ...orz
10:名無しさん@ピンキー
11/01/30 12:56:09 ZGkAdpYk
前スレ要領オーバーじゃなかったのかw
11:月下奇人1/10 ◆SHiBIToCCU
11/02/01 04:54:44 c7YTlzRC
ちょっと特殊なテレパス少女のお話です。
一応二次になるのですけど、元ネタはマイナー過ぎて誰も知らないことと思いますので、あえて明かしません。悲しくなるから。
一応、元ネタを知らずとも読めるように書いているつもりですが、もしも駄目でしたらその旨おっしゃって下されば、以降投下は控えます。
暗闇の中を走り続けていた。
何も見えない、右も左も判らない、暗黒に塗り潰された世界の中を。
そこいら中から浴びせられる、悪意に満ちた囁き声と嘲笑から耳を塞ぎ、私にはただ、逃げ惑うしか術がない。
それはいつものこと。この世に生を受けてからというもの、ずっとずっと変わることのない、私の宿命だった。
やがて逃げることに疲れ、投げやりな気持ちに襲われた私の躰を、闇から這いずり出た無数のいやらしい手が捕まえにかかる。
―一緒に行こう……。
ああ闇が、暗くて冷たい闇の世界が、私を取り込んで、喰らい尽くそうとしている……。
けれどもその時、天空から一条の光が射し込んだ。
とても強くて眩しいけれど、苦痛ではない光。
こんな私の身も、心さえも温かく包んでくれる優しい光。
そう。これは私に残された、唯一の希望の光―。
光の神々しさに打たれ、私は歓喜の涙にむせぶ。
そしてその光に、光をまとって差し伸べられた頼もしい手の平に、懸命になって腕を伸ばした―。
「うぁぎゃあ?!」
伸ばした手が、夕日に輝くフロントガラスにぶつかった。
気がつけば夕暮れの山道。夏の青空は消え去り、翳りゆく世界は、最期のあがきのように赤く燃えている。
指先の微かな痛みと、自分の漏らし出した変てこな悲鳴のせいで、急速に眠りから引き戻された私は、一瞬、状況が判らずぼんやりしてしまった。
何で私、こんな急に眼が覚めたんだろう?
その訳にはすぐに思い当たった。車が急カーブを曲がったから、躰が大きく揺さぶられたんだ。
「あれ……ここどの辺?」
ごしごしと眼を擦りながら私は、隣で呆れ顔を浮かべている運転手―一樹守に呼びかけた。
一樹守。「アトランティス」というオカルト雑誌の編集者。私より二つ年上の、二十一歳の男の子。
守と初めて出逢ったのは一年前。当時私がバイトをしていた、三逗港という寂れた漁港でのことだった。
入社以来、初めての単独取材に意気込み、港の写真を撮りまくっていた彼の第一印象は、
「変な奴」
この一言に尽きた。
閉塞的な田舎町に育った私に取って、余所者で、しかもマスコミ関係者を名乗る彼は、只々胡散臭いだけの異物でしかなかったのだ。
そんな彼と―まさかのちに、夜見島に潜んでいた化け物達を倒すため、協力し合うようになるなんて、その時には思いも寄らなかった。
おまけに、その戦いが終わった後にも交流が続き、こうして一緒にドライブに出かけるほどの仲になるなんて、本当に、未だに信じられないっていうか……。
「脇道に入ったんだ。こっちの方が、早く着くと思って……」
私の物思いをよそに彼は―守は、素っ気なく答えた。
「ふうん……なんだか淋しい道ねぇ」
そう呟いて、守の横顔を盗み見た。
光を照り返す眼鏡のレンズ。燃え立つような夕焼けを浴びて、オレンジ色に染まった横顔。
12:月下奇人2/10 ◆SHiBIToCCU
11/02/01 04:55:32 c7YTlzRC
こうして改めて見直すと、意外に綺麗で整った面差しをしていることに気がつく。
眼鏡の奥の涼しげな眼元に、すっと通った鼻筋。ちょっと唇が分厚いけれど、そのおかげで、彼の全体から漂うクール過ぎな雰囲気が緩和されて、かえって親しみやすく、しかも、そこはかとないセクシーささえもがプラスされているみたい。
へえ。服装も髪型もぱっとしないし、むさ苦しい印象しかなかったけれど、守って、結構―。
と。あんまりまじまじと見過ぎたせいか、守がこちらを見返してきた。
私は取り繕うように、窓の向こうをきょろきょろと眺め廻した。
「郁子、何見てるの?」
守は私に問いかける。
何て答えようかと迷った私の眼の先に、ふと、道に沿って続く緑の中の、赤い点々が飛び込んできた。
とっさに私は、その赤い点々を指さした。
「うん、あの赤い花。さっきからあの花ばかり眼につくの」
風に揺れる赤い花。それが、かたまりとなって点々と続いている。
「あれって、彼岸花かしら?」
「いや。あれは、月下奇人」
「ゲッカキジン?……月下美人じゃなくって?」
守がさらりと言った奇妙な名前を、私は聞きとがめた。
「ああ。月下美人は白い花だろう? あれは違う花なんだ。この辺りにしか生息しない、珍しい植物なんだよ」
守は口元だけで小さく微笑んで説明する。
彼の説明によると、その月下奇人という赤い花は、かつてこの近くにあった、羽生蛇村という小さな山村特有の花、ということだった。
三年前に起こった土砂災害で消滅した羽生蛇村。
その村で大きな災害、または、神隠しなどといった怪異が起こる時のみ花開くと伝えられていた、不思議な植物。
不吉な出来事の予兆のような花。それが、月下奇人なのだという。
「なんか……怖い花なんだね」
守の話を聞き終えた私は、恐々と肩をすくめてしまう。
話の途中、迫ってきた雨雲が急に辺りを暗くしてしまったことも手伝い、心細さが増幅している。
「そんないわくのある花を見て……私達も、神隠しに遭っちゃったりして」
「大丈夫だよ。だってよく見てみな。花は咲いてないだろう? あの赤いのは、全部蕾だ。だから大丈夫」
気弱な台詞を吐く私に、守は励ましの言葉をくれた。
守に大丈夫って言われると、何だか本当に大丈夫な気がしてくるから不思議。
でも少し安心したら、今度は別の不安が膨れあがった。
「ねえ、ところでさ。道……本当にこっちで大丈夫?」
暗くなった上に、とうとう降り出した雨に閉ざされてしまった山道。
おかげで周囲の様子はほとんど判らないのだけど……どうも私には、同じ処をぐるぐる廻り続けているように思えてならなかった。
だいたい、走ってる時間がちょっと長くない? もういい加減、麓の明かりぐらい見えてきたっていい頃なのに。
私がそう考えていた時だった。
―逃がさないよ。
突然、頭の中で響く声。
もはや私の躰の一部と言っていい、憎悪に満ちたその声に合わせるように、黒い空が光って、落ちた。
13:月下奇人3/10 ◆SHiBIToCCU
11/02/01 04:56:09 c7YTlzRC
「ひゃあっ!」
「大丈夫だよ。ただの雷だ」
肩を震わせ悲鳴を上げると、守は片手で私の肩を抱いた。
温かい手の平。タンクトップからはみ出した皮膚に、直接触れている。
「う、うん……でも、結構近くに落ちたみたい」
私の躰は、言いようのない不安でおののいていた。
それは、雷のせいばかりではない。雷よりはむしろ、その雷が連れてやってきたような、不穏な気配。
私は確かに感じていた。
今、ここには誰かが居る。
この湿った暗闇の中、監視するような冷たい眼差しが、私と守を見据えているのだ。
―誰? どこから?
はっきりしたことまでは判らないけれど……この悪意に満ちた感情、その波動だけは、私の躰にひしひしと伝わっている。
私の不安をなだめようとしてくれているのか、守はしきりに私の肩を撫で摩る。
もしかしたら彼も、闇に立ち込める悪意に気づいたのかも知れない。
―気をつけて……。
私は、守の方に身を寄せた。
「い……郁子?」
私が躰を近づけると、守は少し緊張したみたいなかすれ声で私に呼びかけた。
やっぱり、彼も何かを感じていたんだ。
無理もない。こんなに強い、あからさまな悪意を向けられたら……私のように変なちからなんて持ってない、普通の人である守でも、気づいて当然だと思う。
でも大丈夫。どんな敵が現れたって、私達二人が協力すれば、きっとなんとかなるはず。
一年前のあの事件の時だって、二人で乗り切れたんだから。
車を包囲する気配のみに意識を集中させながらも、私は守を励ますように、彼の膝に手を置いた。
守は何かを決意したような気配を発してから、生唾を飲み込んで、車を路肩に寄せ始めた。
いったん車を停めてから、状況を確認しようってことなのかな?
でもそのわりには、ちっとも車のスピードを落さない。
それどころか、逆にどんどんスピードがあがっているみたい。
「守? どうしたの?」
さすがに様子がおかしいと思い、私は尋ねた。
守は引き攣った顔で前方を見つめている。こめかみに汗のしずくを浮かべながら。彼は答えた。
「ブレーキが……利かない!」
滝のような雨の中、車は滑り落ちるように山道を下ってゆく。
フロントガラスのワイパーは全然役に立っていなくて、もうほとんど何も見えない。
そんな中、守は必死になってハンドルを握っている。
不意に開けた視界の、真正面に白い線。道の端に添えられたガードレール。あの向こうにあるのは、地獄へと続く断崖―。
私は悲鳴をあげた。
見ていられなくて、顔を両手で塞ぐ。アスファルトに食い込むタイヤの音が大きく響いて―。
車は、危なくもカーブを曲がりきった。
私はほっと息を吐く。
だけど次の瞬間、突然真正面から対向車が現れた。白く光る二つのヘッドライト―。
「駄目だ! ぶつかるっ!」
守が急ハンドルを切っている。
その瞬間、私は気付いた。
これ、おかしい。何が、とは言えないけれど、何かがおかしい。
迷っている時間はなかった。
私は前方の対向車―正確には、前方から照りつける“白い光”に向かい、思い切り自分の“意思”をぶつけた―。
14:月下奇人4/10 ◆SHiBIToCCU
11/02/01 04:56:46 c7YTlzRC
光の洪水は、あっという間に収束した。
我に帰れば暗い山道。雨の音に閉ざされた闇の中、車は何事も無かったかのように静かに停止していた。さっきまでの喧騒が嘘みたいに。
もちろん、対向車の姿なんて跡形もなく消え失せていた。
「……どういうこと?」
私は呆然と呟いて守の顔を見た。
守は黙って首を左右に振るだけ。彼にも全く訳が判らないってこと。
気分を変えるべく、私は少しだけ車の窓を開けた。
雨の匂いに混じり、切ないような甘い香りが漂っているのを感じる。
道に沿って生えている、月下奇人の花の匂いみたいだ。
その時、雨に紛れて道路を横切る人影を見た。
「きゃっ、守っ! アレ……」
「いっ今の、郁子も見たのか?!」
私はうんうんと頷いた。
道路を横切った人影。それは、素っ裸の女だったのだ。
白い肌を惜しげもなく晒し、長い黒髪をたなびかせて―。
「あの女……」
守は深刻な声で呟き、雨の中、迷うことなく車の外に飛び出していた。私も慌てて後を追う。
「守、待って!」
私は嫌な予感がしていた。
今の女―私はよく知っていた。でもそんな馬鹿なこと……だって、だってあの女が、こんな風に私と守の前に姿を現すなんてことは……。
戸惑っている私をよそに、守は、いつも持ち歩いているL字型のLEDライトをかざし、道に沿って続く森の暗がりを照らしているようだった。
夜見島から帰って以来、守は、どんな時にもライトを手放そうとはしなかった。
アパートの部屋の電気だって、いつでも点けっ放し。繁華街の明るい夜道を歩く時でさえ、胸ポケットに挿したL字ライトは点灯している。
私のバイト先である喫茶店でも、守は「ライト君」と呼ばれ、他のウエイトレスの子達から影で笑われていたけど、私だけは笑う気になれない。
だって、仕方がないのだ。
夜見島で戦っていた時、闇の住人である敵の化け物達を追い払うのに、光は欠かすことのできない、重要な武器だったから。
光源を持つかどうかが生死を分けるほどだった、夜見島でのあの体験―トラウマになって、暗所恐怖症っぽくなってしまうのは、どうしようもないことだと思う。
けれど、守と同じ体験をしてきたはずのこの私は、守のような暗所恐怖症になりはしなかったけど。
むしろ私は、暗い方が心地好かった。
夜見島事件でバイト先の船を失った後、上京して借りたアパートだって、陽当たりはそこそこの場所を選んだ上、部屋には間接照明しか置いていない。
だって、明る過ぎる場所って落ち着かないから。あんまり明る過ぎると、私、ここに居てもいいのかなって、凄く不安な気持ちになる―。
そんなことを考えながら、ライトを振りかざす守の背中をぼんやり眺める。どうやら彼は、暗い森の奥へと続く、小さな道を発見したようだった。
何とはなしに、守の後ろから覗き込む。
見たとたん、異様な威圧感のようなものが迫ってきた。
15:月下奇人5/10 ◆SHiBIToCCU
11/02/01 04:57:26 c7YTlzRC
威圧感? ううん、少し違う。恐怖感、違和感、既視感……そう、既視感が一番近いかも知れない。
初めて来たはずの場所なのに、なぜか、ずっと前から知っているような、おかしな感覚……。
「ねえ、行くの?」
道の先をライトで照らしている守に、不安な気持ちで私は尋ねた。
嫌な予感がますます強くなっていた。できることなら、この道の先へは行きたくない。行ったらきっと、取り返しのつかないことが起こってしまう……。
「ちょっと確かめてみるだけだよ。さっきの女が何だったのか……だって、うやむやにしたままだと、余計に怖いだろ?」
守は、さっきの全裸女性のことがとても気にかかっている様子だった。
それも口で言ってるように、単純に怖いから確かめたい、というだけではなさそうだった。
もっと別の―何だかちょっと、エッチな関心を心の奥底に隠しているような感じ。
なんとなく面白くない気分に陥った私は、守の腕を掴み、道の先へ行くのをやめさせようとした。
「ねえ、やっぱり、やめとこ? 私、こっちに行きたくないの。なんか、嫌な感じがして」
別に嘘はついてない。
嫌な予感は本当にしてるんだから、これは別に、ヤキモチだとか、そういうんじゃない。
必死になって自分の心に言い訳しながら、私は守を見つめた。
「いや……すまないけど、やっぱり確認して置きたい。心配するな。おれ、一人で行ってくるよ。お前は車で待ってるといい。大丈夫、すぐに戻って来るから」
そう言うと、守はさっさと茂みを掻き分け、森の中に入って行こうとした。
何それ!
守一人で裸の女を追いかけて行くなんて……そんなこと、許せる訳ないじゃん!
「守が行くんだったら、私も行くよ! こんな山道で、独りで留守番なんてしたくない!」
勢い込んでそう言うと、守は少し面食らった顔をした。
「そ、そうか? じゃあ、一緒に行こうよ」
そこはかとなく、残念そうなその口ぶり。私はちょっと苛ついた。
「ふん。まあ、行くなら行くでいいんだけどさ……車に鍵かけるぐらいはしといたら? 無用心じゃないの。ほんとにすぐ戻れるかどうかも、判んないんだしさ」
「ああ……まあ、そうかな……」
守は、気のない態度で返事をし、森への道を―裸の女の消えて行った道を気にしつつ、小走りに車の方へ向かった。全く……。
守の背中を見送ってから、空を見あげた。
顔に突き刺さるような雨。真っ黒く垂れ込めた雲は獣のように唸り、雲から雲へと駆け抜ける稲妻が、山道に鋭い光を浴びせかけた。
「空が……笑ってる?」
それは不思議な感覚だった。
雨や雷なんて、ただの自然現象のはず。それなのに私は、そこに、薄ら寒くなるような悪意の波動を感じたのだ。
悪意を込めて、空が笑っている。
しかもその笑いはヒステリックな女のもので、私には、その笑い顔さえもが、はっきりと眼に浮かんだ。
長い黒髪を振り乱し、真っ白な美しい顔を、鬼女のように醜く歪めて笑っている、狂気の表情。
鬼女は、黒い雲の中から、守に向かって白い腕を差し伸べる……。
「……守!」
気づくと私は、守に向かってダッシュをしていた。
考えている暇なんてない。女の悪意は守を標的にしている。助けなきゃ。守を、今居る場所から―。
「守! 危ないっ!」
16:月下奇人6/10 ◆SHiBIToCCU
11/02/01 04:58:01 c7YTlzRC
間一髪で追いついた私は、守のシャツを後ろから引っ張った。守は手前に引っくり返る。
次の瞬間、守の立っていた場所に、雷が落ちていた。
ううん、正確には、守の立っていた場所からは、少しばかりずれていたかも知れない。
雷は、守の立っていた場所の少し前方―つまり、車の屋根の中心を、狙い澄ましたように直撃していたのだ。
―危なかった……。
場所がずれていたとはいえ、あのままあそこに立っていたら、守は間違いなく、落雷と車の炎上に巻き込まれていたと思う。
そう。雷の直撃を受けた車は、私達の眼の前、鮮やかな炎を噴きあげ炎上していた。
落雷と車の炎上を間近に受けた守は、雨でびしゃびしゃの路面にへたり込み、呆然とした面持ちで、燃えてゆく自分の車を見つめるだけだった。
「まあ……そう気を落とさないで」
落雷のショックから立ち直るにつれ、買ったばかりの愛車を失ったという事実に打ちひしがれて、見ちゃいられないくらいに消沈してしまった守に対し、私の慰めの言葉は、虚しいものでしかなかった。
無理もないよなあ。だってまだ、ローン始まったばっかのはずだもん。
ああ、ほんとに可哀想……。
「し、しっかりしなよぉ! 命が助かっただけでも、ありがたいと思わなきゃ!」
我ながら、かなり無茶な励まし方をしてると思う。
でも、それでも守は気を取り直し、よろよろしながらも、自分の力で立ちあがった。
偉い!
そう言って誉めてあげたい気持ちになったけど、そこは堪えて我慢する。だって守ってば、誉めるとすぐに調子に乗るんだもん。
そういったこと、私には大抵判っていた。
小さい頃からそうだったんだ。
昔から私には、人の心を読み取るちから―守に言わせるとそれは、精神感応能力と呼ばれるものらしいけど―そんな、人とは違う、おかしな能力が備わっていたのだ。
物心がつき、少し大きくなってから、私は驚いたものだった。
私が人の心を読めるということについてではない。私以外の人々が、人の心を読むことができないのだという、ごく当たり前の事実に対して、だ。
だから、ある程度成長してからは、私は私のちからを隠すように気をつけた。
それは、さほど難しいことではなかった。
心が読めるとはいっても、それは決して百発百中というものではなく、時おり、相手が頭で考えた言葉が、私の意識にすっと入ってくる、といった程度のものだったから。
相手に対して意識を開けば読める確率はあがるけど、閉ざしてしまえば、余程強い思考でない限りは、完全に聞こえなくなる。
だから普段は意識に蓋さえしておけば、他人の心のざわめきに惑わされることもない。比較的、心安らかに過ごすことができた。
なのにそれが、歳を経るごとに上手く行かなくなっていった。
躰が成長するのに合わせ、ちからまでもが一緒に肥大化していったせいだと思う。
急速に大きくなったちからに私自身が対応しきれず、読みたくもないものをとっさに読んでしまって、それについて感じたことがまた、とっさに態度に出てしまう。
高校にあがってからは本当に酷くて、必死で隠していたにも関わらず、私のちからは、同級生達の間で噂になってしまったほどだった。
だから私は、ずっと孤独だった。
誰かと親しくなるということは、その誰かから、いずれは怖がられ、拒絶されてしまうことを意味していた。
誰だって、自分の胸の内を読まれたくなんかない。私が公言しなくとも、ちからの気配を感じただけで、人々は私の前から去って行く。
17:月下奇人7/10 ◆SHiBIToCCU
11/02/01 04:58:47 c7YTlzRC
そんな人々の中で、唯一の例外が守だった。
去年、夜見島遊園の地底で、化け物に襲われていた守をちからで救い、遊園地の外までちからを使って脱出していた私は、もう隠しても仕方ないと思い、守に対しては、早い段階でちからのことを打ち明けていた。
当然守は怖がって引いたのだけど、逃げるように彼のそばから離れた私を追って、結局は私と一緒に居てくれたのだ。
夜見島ではもちろんのこと、夜見島から戻って来てからも。
彼は上っ面だけでなく、心の底から私のことを信頼し、友達として―ううん、それ以上の気持ちで、私を大事にしてくれていた。
私はそれをよく知っていた。だって、彼の心を読んだから。
間違いはなかった。夜見島事件の時、化け物達に対抗するため、やたらにちからを使った私は、おかげ様で、自分のちからをほぼ完璧に使いこなすことが可能になっていたのだ。
私のちからを知りながら、私と親しくなってくれた、初めての人。
まあ―だからといって付き合いたいだとか、そういうことは、全く考えちゃあいないんだけど。いや、本当に。
まあ、そんなことはさておき。
貴重で大切な「友達」であるところの守と私は、車を失って他に当てもないので、例の森へと続く道を進んで行くことになった。
さっき見た裸の女が幽霊とかの類ではなく、普通の人間であった場合、その後を追って行けば、人里にたどり着ける可能性だってあるのだから、こちらを進んだ方がいいとの判断だった。
私は守に、彼の荷物が入ったスポーツバッグを手渡した。
それは最初に車から出た時、心に浮かんだ予感に従って、私が持ち出していたものだった。当然、私の分の着替えやなんかの入ったトートバッグも、しっかり肩にかけてある。
荷物を手渡された守は、一瞬、なんとも複雑な表情をみせた。
―こんなの持ってきてくれるんだったら、車の方を助けてくれればよかったのに……。
彼の顔には、そんな言葉が書いてある。
ちからを使うまでもない。守って、クールな知性派キャラを気取るわりに、かなり直情的というか……はっきりいって、相当な単純思考の人だった。
自分の感情を隠したりするのが下手くそで、その考えは、ちょっと表情を探れば簡単に判ってしまう。
でも、彼のそんな、単純で判りやすい処が、私には好ましかった。
表も裏もなく、偽りのない、本音の感情をぶつけてくれる正直さ。その清々しさは、私に取って癒しであり、救いでもあった。
世の中にはこんな、自分の気持ちを誤魔化したりせずに、人に対しても、自分に対しても、呆れるくらい馬鹿正直に生きている人も居るんだ。
今までの人生で、たくさんの人の心を読んできて、人の心の澱に触れ、その生臭さに辟易していた私に取って、守の正直さは、人の心に対する絶望や嫌悪感を取り払い、他の人々と真正面から向き合う勇気を蘇らせてくれる、いいきっかけになった。
―自分から壁を作っていたら、誰も近づいてこないし、そうなったら、自らの可能性を閉ざしてしまうことになる。
何かの拍子に、守が私に向けて言った言葉だ。
その言葉に素直に頷けるくらい、私の心は解きほぐされていた。
守という男の子の存在によって―。
舗装された道路を離れ、森の小道を進んで行く私達の足取りは、雨に濡れて重かった。
木々に視界を遮られ、真っ暗闇の中を、守のライトだけを頼りに進んで行く。
濡れた地面も平坦なものではなく、生い茂った草や低木の枝が、足元をすくって行く手を阻む。
ほんの少し歩いただけで、私も守もへとへとになった。あの裸の女、本当に、こんな道を歩いて行ったのかなあ……?
18:月下奇人8/10 ◆SHiBIToCCU
11/02/01 04:59:48 c7YTlzRC
「うわっ?」
急に、私の前を歩いていた守が立ち止まり、屈んで足首から何かをむしり取った。
守がちぎって捨てたそれは、月下奇人の花だった。月下奇人の茎が、足に絡みついていたのだ。
「なんでこんなもんが」
守は、足元の地面をライトで照らす。光の伸びた先を見て、私達は、息を飲んだ。
「月下奇人が……咲いてる」
蒼ざめた顔をして、守が呟いた。
私達の歩みを妨げていた植物は、いつの間にか、全て月下奇人に変わっていたのだ。
見渡す限りの月下奇人―しかもその赤い花々は、一つ残らず花弁を広げていた。
「やだどうしよ……これ咲いちゃったら、私達、神隠しに」
さっきの守の話を思い出し、私は怖ろしくなった。
天変地異の前触れに咲く、なんて言われていた花だけあって、月下奇人は、強烈な妖気のようなものを発散している花だった。
綺麗だけど、おぞましい。
甘ったるい芳香はお酒のようにきつく、不用意に吸い込むと、頭の奥がじんと痺れて、意識が遠退きそうになる。
「……心配するな。花が開く瞬間を見た訳じゃないんだから、セーフだよ」
「ほんと?」
ほんとな訳ない。さっき話した時、守はそんなルールのことは言ってなかったもの。
でも、そんなことを言い返したって仕方がない。守だって怖いはずなのに、こんな風に嘘をつくのは、私を安心させようとしてるからだってことも、ちゃんと判る。
だから私は、守の心情を察し、騙された振りをしておくことにした。
そして私達は、再び歩き始める。
闇の中の月下奇人は、道を進んで行くごとにその数を増やしていった。
「まるで、月下奇人の畑みたい」
そっと呟いた言葉に、守も黙って頷いた。
一面の月下奇人―それは一年前、夜見島で見た赤い海を思い起こさせずにはいられない。
どうしてだかは知らないけれど、異世界と化した夜見島の海は、血のように赤い色に変わっていたのだ。
怖くて不安な気持ち。それが、守の躰からひしひしと伝わって来る。
思い切って私は、守の腕にしがみつき、ぴったりと躰を寄せた。
これは、守の不安を取り除いてあげるため。守の怯えを少しでも和らげたいからしたことであって、決して、邪まな気持ちでしていることではない。
そうよ。だって私達、こういう時にはいつだって助け合う仲間なんだから……。
なぜだかのぼせてくる顔を伏せ、自分の心に言い訳しながら、私は守にひっついて歩き続ける。
そうこうしているうちに、私達の歩く道は、徐々に広く、歩きやすいものになって行った。
月下奇人の群れは道の左右に分かれ、舗装こそされていないまでも、もうどこにでもある、ありきたりな田舎道って感じになっている。
―もう、離れた方がいいのかなあ……?
だけどほら、守はまだ、ちょっと怖がってるじゃない。
だから私は、守の腕を離さないで歩くことにした。別にいいよね。守だって、嫌がってる素振りはないし……。
そうして暫く行くと、道の先が、二手に分かれているのが見えた。
右側の道は細く、緩やかなカーブを描きながら森の向こうへと続いていて、道端には赤い郵便受けが立っている。
左の道は広いけれど、曲がりくねって傾斜していて、先がどうなっているのか判然としなかった。
19:月下奇人9/10 ◆SHiBIToCCU
11/02/01 05:09:30 c7YTlzRC
私は右の郵便受けに走って行き、それにぽんと手を置いた。
「守! 見て、これ……こんなのがあるってことはさ、こっちに民家があるんじゃない? 誰か居るんだよ」
この先にはきっと、例の裸の女の家があるんだ。私は確信していた。
なんとなく嫌な予感はあったけれど、それ以上に、私は彼女のことが気になる。
なぜ彼女はあんな風に、私と守の前に姿を現したのか? いったい、何の目的で?
それに―正直言うと、もう疲れてくたくたなので、これ以上余計に歩きたくはなかった。
それなのに守の奴は、私の提案を快く思ってないみたいだった。
郵便受けが古びてぼろぼろなことを指摘し、この先に家があったとしても、きっともう廃屋になっているなんて言うのだ。
いいじゃん別に、廃屋だって。とにかく屋根さえあってちゃんと休憩できれば、それで……。
「と、とにかく行ってみようよ!」
夜の山道でご休憩―ちょっと変なことを連想してしまった私は、変な妄想を振り切るように、郵便受けの先へ歩いて行った。
さっさと歩く私の後ろを、守も仕方なしについてくる。
道の先は、月下奇人の花がよりいっそう多く咲いていて、道の両端を血の色に染めているようだった。
不吉の象徴である赤い色。
視界の赤が密度を増してゆくごとに、守の様子が、おかしくなり始めていた。
突然立ち止まって頭を左右に振ったり、悲鳴のような声をあげて、私を驚かせたりする。
原因は明らかだった。月下奇人だ。
月下奇人の強い香りには、人の妄想を掻き立てたり、ありもしないものを見せたりする効果があるのだと思う。
天然のドラッグみたいなものだ。
かくいう私も、さっきからその影響下にあるようだった。
感じるのだ。私の隣にぴったりと寄り添い、影のようにつきまとってくる女の躰。
くすくすと笑いながら、そいつは私の耳元で囁く。
―もうすぐ、まもるとセックスできるわね……。
ぞくりとして立ち止まった私の頭上を稲光が走り、辺り一帯を、真っ白に照らし出した。
そして、眼の前に現れたもの―。
「これは……」
そこにあったのは、とても大きな古い洋館だった。
石塀に囲まれた広大な敷地のずっと向こう。雷鳴をバックにそびえ立つそれを見て、私は言った。
「お、お化け屋敷みたいだね……」
私は、以前守に連れてって貰った遊園地で見た、ホラーハウスを思い出していた。
今見ているこれは、あの、廃墟を模したというアトラクションなんかより、ずっと迫力があるように思えた。
だってこれって、どこからどう見ても、本物の廃墟なんだもん。
なので、門扉も壊れて地面で苔むしているから、中に入るのにも何ら苦労はない。
そして―敷地内の果てしなく広い庭は、一面月下奇人で覆い尽くされていた。
「赤い……海」
守はぼんやり呟くと、その、“赤い海”みたいな月下奇人の庭に向かい、ふらふらと歩き始めた。まるで、何かに呼ばれてでもいるかのように……。
「ちょっと、守?」
慌てて呼び止めようとする私を無視して、守は、結構な早足で庭の中を進んで行ってしまう。
そうかと思えば、いきなり途中で立ち止まり、悲鳴をあげてしゃがみ込んでしまった。
「守? どうしたの、しっかりして!」
必死で追いついた私は、呼びかけながら守の肩を揺さぶった。
守は立ちあがり、眼鏡を直しつつ、弱々しく私に返事をする。何とか正気は取り戻せたみたいだけど、顔色が真っ青だ。
20:月下奇人10/10 ◆SHiBIToCCU
11/02/01 05:22:17 c7YTlzRC
「しょうがないなあ、もう。しっかりしてよ!」
こんな時の守には、下手に労わったりするより、むしろ活を入れてやった方がいい。
私はそれを知っていたから、わざときつい口調で言った。
案の定、守は困ったように笑いつつも、その顔色はまともなものに戻っていった。
「判ってるよ。もう大丈夫だ……さあ、行こう」
庭の中央を横切ってお屋敷まで続く煉瓦敷きの小道は、月下奇人に侵蝕されて、ほとんどないのも同然だった。
それでも私達は、律儀に小道をたどって歩いた。
「中に入れるといいけどな」
お屋敷の玄関が近づいてくると、守はそんなことを心配し始めた。
一方、私はといえば―このお屋敷への道を選んだことを、今さらながらに、後悔し始めていた。
こっちに来れば、家が見つかりすぐ休める。その予感が、私の足をこちらに向けさせたのは間違いない。
けれども、それはなぜ? どうして私、そんなことが判ったんだろう?
確かに私って、昔っからそういう勘は働く方だ。きっとそれも、ちからが影響してるんだろうけど。
だけど、あの時私が感じたものは、いつものそれとは違っていた気がする。
私……このお屋敷を、ずっと前から知ってたような気がする……。
「ねえ、中に入っちゃって、大丈夫なのかな?」
玄関の前までたどり着いた時、私は、恐る恐る守に尋ねた。
今ならまだ間に合う。守が、思い直してさえくれたなら。
でも、守の意志はもう固まっているみたいだった。
「構わないだろ。ここ多分……ていうか、絶対に、空き家だし」
そんな見当外れなことを言い、私に向かって笑いかける。
その反面、声が微かに震えているのは、彼も何かを感じているから?
お屋敷の重そうな扉が、守の手によって、ゆっくりと開かれてゆく。
湿気た押入れの中みたいな臭いと、不自然なくらいの冷気が、外に向かって漂い出た。
腕の産毛が逆立つ。守の方を見あげると、彼の首筋にも鳥肌が立っていた。
―本当に、大丈夫なの?
思わず心で呟くと、それに答えるかのように、守は私の手を取った。
そして、私の手を引き、お屋敷に足を踏み入れた。
「……お邪魔しまぁす!」
誰も居ないであろうお屋敷に向かい、守は、やけに元気な声で挨拶をした―。
【つづく】
貼り付けてからざっと読み返してみたら、ヒロインのバイトのこととか「去年戦った夜見島」に対する説明が不足してました。
要するに、郁子は一年前、漁港で漁船の乗務員手伝いのバイトをしていたのですが、
その時、オカルティックな噂の絶えない無人島・夜見島へ取材にやって来た一樹守と出逢いました。
守は、郁子の漁船に頼んで夜見島まで連れて行ってもらったので、それで郁子も一緒に夜見島まで渡航することになりました。
しかしその夜見島は、闇の化け物達が跋扈する怖ろしい異界と成り果てていた―
てな感じの経緯があったのです。
うーん
とりあえず今日はこのへんで。
21:名無しさん@ピンキー
11/02/01 21:34:16 5IDBFArZ
乙です〜。
羽生蛇村ってことは……「SIREN」シリーズ? 未プレイなんで詳細は知りませんが。
22:月下奇人 第二夜1/14 ◆SHiBIToCCU
11/02/02 01:40:39 5RZ/tcrb
明かりの途絶えたお屋敷の中は、真っ暗でほとんど視界が利かなかった。
夜目が利くのが取り柄の私でも、ここまで暗いとちょっと無理。だけどもそこは、守が手持ちのライトで解決してくれた。
ライトの先にまず見えたのは、玄関扉の真正面にある、二つの階段だった。
ぐるっと湾曲して左右から伸びているそれは、吹き抜けの二階へと続いていた。
二つの階段の繋がった真上には、蜘蛛の巣がいっぱいのでかいシャンデリアがぶらさがっている。要するにここは、お屋敷の玄関ホールってことになるらしい。
「あれが点いたらいいのにな……」
シャンデリアにライトを向けて、残念そうに守は言う。暗いのが気になってるんだろう。
一方、私の方はといえば―どこからか向けられる、得体の知れない視線が気になって、それどころではなかった。
その視線は、明らかに私を見ているものだった。
しかも、この絡みつき具合は、間違いなく男のものだ。
一年前に働いていた漁港のことを思い出す。
パーカーを脱ぎ、タンクトップ一枚になった時とか、周りの漁師達は、こんな視線を私に投げかけたものだった。
剥き出しの二の腕や、胸元や、腰の周りを舐めるようにたどってくる視線が気持ち悪くなり、私は守のそばにすり寄った。
「ねえ守……ここ、誰か居る。視線を感じるの」
守は、ホールの闇に向かって身構えた。ライトを素早く左右に動かし、視界の主を探ろうとしている―。
そうして一緒にホールの片隅まで進んで行ったとき、いきなり眼の前に、銀色の人影が現れた。
「うわあっ?」
守がびっくりして跳び退っている。
よくよく見るとそれは、鉄の西洋ヨロイだったみたいだ。さすが大邸宅だけあって、インテリアも一味違う。
「なあ郁子。誰か居るって、まさかこいつのこと?」
今度は守の視線が痛い。誤魔化すように、ヨロイの後ろの壁に触れた。
カチッという音がして、天井のシャンデリアを始めとする、お屋敷中の照明が点灯されたようだった。
「あ……これ、電気のスイッチだったんだ」
「おぉ助かった! きっと自家発電装置があったんだな」
お屋敷に明かりが灯ったことを、守は素直に喜んでいる。けれど私は、またも不安に苛まれていた。
やっぱり私、このお屋敷のことを知っている気がしてならない。
それにさっきの視線。明かりが点くと同時に掻き消えてしまったけれど、あれっていったい、なんだったの?
そんな不安を押し殺し、大きな壊れた置き時計や、ホールに少し不釣合いな巨大水槽などを、守と一緒に見て廻る。
でもどこか上の空で、自分が何を見て何を喋ったか、あまり覚えていない。
気がつけば、壁際にある暖炉の前、大きな柔らかいソファーに、守と並んで腰かけていた。
躰を休めることができて、ほんの少し気持ちがほぐれる。
―ここに何が居ようと……守が一緒に居るんだし、大丈夫だ、きっと。
置時計が時を刻む静かな音を聞きながら、ソファーにもたれて眼を閉じた。
守が私を見つめている気配を感じる。
そう。そうやってずっと見ていて欲しい。そうすれば私、安心して眠りに就ける。
守がずっと、私のそばに居てくれれば……。
って、私ったら、何考えてんだよ、馬鹿。
そんなこと、無理だって判ってんじゃん。守はいつか、私の元を離れてしまうんだから。
もっと別の、まともな女の子と出逢って恋をしたら、守はもう、私のことなんて……。
切ない気持ちに陥った私の隣で、守は寝息を立て始めたようだった。
なんだ、先に寝ちゃったのかよ。だけど、守の寝息を間近に感じるのは心地いい。心が安らいで、なんだか、私も―。
23:月下奇人 第二夜2/14 ◆SHiBIToCCU
11/02/02 01:41:40 5RZ/tcrb
安らかな眠りが途絶え、意識が急速に蘇った。
瞼を開く。玄関ホールは真っ暗だ。
―あれ……電気は?
守の奴が消したんだろうか? そんな馬鹿なこと。
暗いとこが苦手で、眠る時にも部屋の電気を消さないような守が? そんなことあり得ない。
それともあるいは―電気を消さなきゃ都合の悪いようなことでも、あるっていうんだろうか?
「……守?」
すぐ隣から、守の気配を感じる。
なんだか随分と近い。肩と肩がぴったりとくっつき、荒い息吹きが、首筋の辺りを生温かく嬲る。
―やだ……。
これってあれだ、近づいちゃいけない時の守になってる。
根が生真面目でフェミニストの守は、私に対してだって、いつも、どちらかと言えば紳士的で、二人きりになったって、変なことなんかはしてこない。
けどたまに、本当にごくたまに、彼も自分のコントロールができなくなる時があるみたいで―そんな時、直接手は出してこないものの、こんな風に、やたらと近づいて何かを訴えかけてくることがあった。
……ていうか、本当のことを言えば、守が手を出そうとする前に、私が距離を置いて、させないようにしてただけなんだけど。
守が私に何を求めているのか、私にだって判らない訳じゃない。
でも……やっぱりそれは、駄目なんだ。私じゃ守を受け入れられない。私には、そんな資格がないんだもん。
だから今回も、やっぱり逃げておかないと……。
暗闇の中、位置関係を確認する。ここがソファーで、あっち側に暖炉があるから……ヨロイはあの辺……ってことはつまり、電気のスイッチもあそこ―。
ようし……GO!
心の中でスタートフラッグをあげ、スイッチに向かって駆け出した。不意を衝かれた守は、その場に固まり、後を追って来ることもない。
いい感じ!
明かりがゼロのお屋敷は本当に暗くて、全く何も見えないけれど、私は物にぶつかることもなく、正確に目的地点へ到達した。さて、後はここにあるヨロイの後ろのスイッチを―って、あら?
私はちゃんとヨロイの場所にたどり着いたはずなのに、手を伸ばしても、ヨロイの手応えがない。
あれー、おっかしいなあ。絶対この辺に、あるはずなんだけど……。
突き当たりの壁を手で探る。とにかく、スイッチさえ見つけられれば……。
そうやって、壁に両手をついていた私の背後で、何かの気配が蠢いた。獣じみた息遣い。狂暴な手の平が、私の胸を、後ろから鷲掴む。
24:月下奇人 第二夜3/14 ◆SHiBIToCCU
11/02/02 01:42:12 5RZ/tcrb
「ひっ」
叫び声をあげようとした口は、もう一方の手の平に、素早く封じられた。
そうしておいて、私の躰を自分の方に引き寄せる。
物凄い力だ。私は必死で身をもがき、がっしりとした腕から逃れようとするけど、どう暴れても逃げられない。つねりあげても、爪を立てて引っ掻いても、腕は微動だにしない。
為す術もなく、後ろ向きに抱き寄せられた私は、全く遠慮のない、乱暴な手つきで胸の膨らみを揉みしだかれた。
―守……このぉ!
全く何てことだろう! 守の奴、暗闇に乗じて、まさかここまでするなんて! 洒落になってない、訴訟もんだよこれ。
私が逃げられないのをいいことに、守の行為はますますエスカレートしていた。
今や彼は、半分まくれあがったタンクトップの下に手を差し込み、ブラジャーも無理やりずらして、あろうことか、中のおっぱいを、直で触りまくっていた。
「ん……んんっ!」
耳の辺りに、生温かい息を吹きかけられる。荒れて乱れた欲望丸出しのその息ざしは、あの、基本クールキャラである守のものとも思われない。
おっぱいを触っている手つきも粘っこくて、何だか私は、文字通り食べられてしまいそうな怖ろしささえも感じていた。
―お願いやめて……やだ、怖い!
恐怖心から、もはや動くことも、悲鳴をあげることもできなくなった私を察知したのか、口を塞いでいた手が離れた。
離れた手は、私の下腹部を真っ直ぐに目指す。性急な動作でベルトを外し、デニムのジッパーを開けて、私の、一番大事な部分に突っ込もうとしていた。
「い、いやぁ……」
我ながら情けない、弱々しい声が口から漏れる。デニムの中をまさぐっていた手が一瞬離れ、私の顎を、乱暴に掴んで振り向かせた。
そして次の瞬間、私の唇は、生々しい男の唇に吸いつかれ、強く吸いあげられていた。
「う……ごっ」
それは、キスなんていう生易しいものではなかった。
首を真横に捻じ曲げられ、強い力で唇を押しつけられ、息もできない、苦しくて不快な感触。
力任せに掴まれたおっぱいは痛いし、それに、さっきからお尻の谷間になすりつけられ、ぐりぐりと蠢いている―あれの感触。
―やだ、硬くて、熱い……。
直接的な欲望の塊をお尻の間に押しこまれ、私はめまいを起こしそうになる。肌が熱くなる。唇にむしゃぶりつかれる感触にも翻弄されて、訳が判らなくなった私は、もうこのまま、どうなってしまってもいいような気持ちに陥ってしまう。
このまま守にいいようにされて……最後まで、最後のものまで、奪われて……。
―でも……嫌! やっぱり、こんなの嫌!
唇を分けられ、ぬるぬるの舌で口の中を姦されそうになった私は、その舌から漂う生臭い欲望のにおいを嗅ぎ取り、にわかに我に返った。
いくら相手が守でも―ううん、守だからこそ、こんな風に無理やりされるだなんて、絶対に嫌!
正気に返った私は、短い間に思考を働かせる。
こういう時には……多分、こうやれば!
私は手を後ろに向けて、私のお尻に挟まった守のあれを探り当て、それを、全力で捻りあげた。
守は喉の奥で呻き、私から唇を離す。私を捕まえている腕の力が、少しだけ緩んだ。
今だ!
一瞬のチャンスを逃さずに、私は守の腕から逃げ出し、壁のスイッチに手を伸ばした―。
25:月下奇人 第二夜4/14 ◆SHiBIToCCU
11/02/02 01:42:46 5RZ/tcrb
―大きく躰が傾いて、ソファーから転がり落ちた。
「あ、あぁあ?」
絨毯の上で、わたわたと手足をばたつかせる。
気がつけば、静まり返った玄関ホールだ。
電気は消えてなんていない。私もソファーから移動していない。
守だって―ソファーにふんぞり返ったまま、平和な寝息を立てて爆睡中だった。
ソファーの下から起きあがり、私は、眠りこけてる守の馬鹿面を、ぼんやり見つめた。
「そんな……今のは、夢だったの?」
信じられないことだった。
たった今まで感じてたあの感触が、嵐のようなあの行為が、全部ただの夢だったなんて……。
唇にも躰にも、男の感触が残って燻っているようだ。私は自分の唇に触れる。
下腹部で、ベルトがかちゃりと音を立てた。ベルトは外れていた。下のホックも。
タンクトップの中ではブラジャーがずりあがり、胸の膨らみを押し潰すように締めつけていた。
私は慌ててベルトを直し、タンクトップの下でブラジャーも直し、カップの中に乳房を収めてから、改めて守を見おろした。
のんきな寝顔を晒している守―けれど股間に眼を移せば、何やら大きく膨らんだものが、ジーンズの前を押しあげていた。
かーっと頭に血が昇った私は、無防備な守の頬を、思い切り引っぱたいた。
ずれる眼鏡。ぶたれた勢いのまま、守の躰はソファーの上で横に倒れる。
「……郁子? お前、どこであんなテクニック……」
「なーに寝ぼけてんのよっ! このムッツリスケベ!」
守は躰を起こしたけれど、状況が判ってないらしく、寝ぼけまなこできょろきょろと辺りを見渡している。
「あれ? おれ、眼鏡外したはずなのに……」
そんな馬鹿げたことまで言ってる。私はむかっ腹が立った。
おそらく守は、私にいやらしいことをする夢を見ていたのだと思う。
私はその夢に感応したんだ。
相手が近い場所に居れば居るほど、私の精神感応は強くなるのだ。こんなソファーでぴったりと身を寄せ合って寝入ったら、相手の夢の中身を自分のものとして見てしまうこともあるだろう。
現に以前、似たようなこともあったし―。
とにかく。さっきのあれは、守に違いないんだ。
服が乱れていたのも、守の夢に合わせて、私が自分でしたものに決まっている。
だって他の誰が、私にあんなことをするっていうの? このお屋敷に居るのは、私と守だけのはずなのに……。
もやもやと落ち着かない気持ちに苛まれる私の耳に、何か、奇妙な物音が聞こえた。
「待って。……今、何か聞こえなかった?」
自分が寝ぼけて何かしたのかと、焦りながらしつこく問い詰めてくる守の口に指を押し当て、私は耳をそばだてた。
今度はもっと、はっきり聞こえた。重い扉がきしんで開くような音。
「……二階からだったよな」
今度は守にも聞こえたみたいだ。
「ひょっとして……誰か、居るんじゃないのか?」
私達は顔を見合わせた。
「じゃあ……確かめに行く?」
私が恐々尋ねると、やはり守は、首を縦に振った。
26:月下奇人 第二夜5/14 ◆SHiBIToCCU
11/02/02 01:43:39 5RZ/tcrb
守はウエストポーチを開けて、中から、ライトと一緒にいつも携帯している幅広のナイフを取り出し、ケースから抜いて剥き身の状態で構えている。
これも彼の、夜見島事件の後遺症の一つだった。
暗い処が嫌い、武器になるものを持ち歩いていないと不安。
その他にも、“人魚”や、“人魚を連想させるもの”に対し、異常な拒否感を示す、というのもある。
それは、夜見島で私達がやっつけてきた敵の親玉が、人魚みたいな見た目をしていたせいだった。
「できれば拳銃も欲しい処だけどな」
そう言って、引き攣った笑いを浮かべる守を見ていると、少し気の毒なような、複雑な気持ちになる。
守って、本当は戦いをする人じゃないんだ。
本好きな大人しい、気持ちの優しい人のはずなのに……こんなに無理して、自分を奮い立たせなければ、耐えられないようになってしまって……。
できることなら、私が守の心を癒してあげたいと思う。
癒すやり方だって、本当は知ってる。
でも私には、それができない。
私が彼に全てを許してしまったら、彼はきっと、私のそばから離れて行ってしまうから……。
右手のナイフを握り締め、左手のライトを前方に向けた守は、ぎいぎいとうるさい階段を、ゆっくりと上ってゆく。
私は、守の後ろにぴったり続いた。
階段を上りながら、私の心は不安にざわめく。
このお屋敷に、私達以外の人が居た。
その事実は、私に取ってあまり愉快なものじゃない。
だって……もしそうだとしたら、さっき私に変なことをしたのは、その、得体の知れないお屋敷の住人だったって可能性も出てくるのだから。
私の躰に触ったり、無理やりキスしたあの男が守じゃないなんて……そんなの嫌だ。おぞましくて、耐えられない……。
ううん、あれが守じゃなかったなんて、そんな訳ないよ。
あれは守に間違いない。あの時私が、壁際まで走って行ったのは、ただの私の夢。
あのヨロイが、壁際から消えていたのだって―。
階段の途中で、下の置時計の方に眼をやった。あの置時計の傍に電気のスイッチがあって、その前に、あのヨロイは―。
ない。
私は思わず声を漏らした。
「ヨロイが……消えてる!」
置時計の並びにあったはずのヨロイは、跡形もなく姿を消していた。
私の見ていた夢そのままに。
「なんで? さっきまで、確かにあそこに」
「……きっと、休憩時間に入ったんだよ」
こんな重大事件が起こっているというのに、守のリアクションはそっけなかった。
つまんない冗談をひとこと言ったきり、何事もなかったかのように、先へと進んで行ってしまう。
え……何で?
あったはずのヨロイがなくなってるなんて、かなり凄いことだと思うんだけど。
守の奴、まさか本当に、あれが自分でどっかに行ったなんて思ってる訳?
あり得ないでしょ! どこまでのほほんとしてるのよ!?
それかあるいは……守には、あのヨロイがどうしてなくなったか、きっちり判ってるってことなの?
それって、どういう……?
27:月下奇人 第二夜6/14 ◆SHiBIToCCU
11/02/02 01:44:29 5RZ/tcrb
激しく混乱しながらも、私は二階まで、守にくっついて来てしまった。
守の考え、読んでやりたい気もしたけれど、今はちょっとそんな暇ない。
いくら私だって、ちゃんと人の心を読もうと思ったら、それなりに集中しないと無理だ。
歩きながら、周囲の様子に気を配りながら、お手軽に読めるってことはないのだ。
玄関ホールから続く二階の廊下は、奥に向かって一直線に伸びていた。
廊下の左右にはいくつかの扉が並んでいるけど、扉と扉の間隔はかなり開いていて、それぞれの部屋の広さが伺えるものだった。
壁にくっついた、薄らぼやけた照明しかない廊下の先を、守のライトが白く長く伸びてゆく。
左側の壁の奥についた扉が、素早く閉ざされるのが見えた。
「守、あれ……」
私と守は、おっかなびっくりその部屋に向かって行った。
部屋の前までたどり着くと、守は中に呼びかけながらノックをした。
―何の反応もない。だけど、無人ってこともないはずだ。だって私達二人とも、ここの扉が閉まる処をちゃんと見てるもん。
意を決した守がノブを廻してみれば、扉はあっさりと開いた。
真っ暗な部屋に向かい、守はライトを射し向ける。
そこは、なんとなく女性的な雰囲気の部屋だった。
調度品とか、全体の色合いとかがそんな感じ。部屋の手前に家具はあまりないけど、大きな衝立の向こう側には、鏡台らしきものがちらちら見えている。
元はといえば、豪勢なお屋敷にふさわしい、立派な部屋だったんだろうけど―残念なことに、今その面影は、ほとんどない。もうすっかり荒れ果てて、どこもかしこもぼろぼろだ。
入口から見て真正面の奥には、白いカバーのかかった椅子らしきものと、小さな木のテーブルがあり、テーブルの上には、妙に眼を惹く赤い本が置かれていた。
本好きの守としては、やっぱり本が気になるらしく、木のテーブルに向かって行く。私は守の後に続く。私は本好きって訳じゃないけど、あの本は何となく気になった。なんだか本が可愛らしく見えたのだ。可愛らしいというか―愛しい、あるいは、懐かしい……。
懐かしい? 何それ?
まあとにかく、この感覚の正体は、本の中身を見れば判るに違いない。私は守の背後にくっついて先を進んだ。
そして、一緒にテーブルの前までたどり着いたとき―私達の背後で、入口の扉が閉ざされた。
「おい、郁子やめろよ! ふざけてる場合じゃないだろ」
守は本を手にしたまま、怯えを隠した尖り声で私に文句を言ってくる。私は答えた。
「守……私、ここ」
守は、私がすぐ隣に居ることに、気づいていなかったらしい。ぎょっとなって私を見た後、扉の方に、緊張した眼を向けた。
―ひょっとして……閉じ込められた?
嫌な予感がした。守は扉を確認しようと、ぎくしゃくした足取りで歩き出した。
踏み出した足が、カバーのかかった椅子にぶつかった。
椅子はなぜか、軋みながら動き、被せられていたカバーが、はらりと落ちた。
椅子の全容が現れる。
それは、ただの椅子ではなかった。
ミイラ化した女性を乗せた、車椅子だった。
「これ……ミイラよね」
「ああ。ミイラだな」
茶色っぽく干からびた女性の変死体を前に、私達は、判りきったことを言い合う。
ミイラは白い着物を着ていて、黒くて長い髪の毛を、後ろで一つに束ねていた。
このお屋敷の、奥さんだか娘さんだった人なんだろうか? 車椅子に座ってるってことは、何かの病気だったとか?
「ねえ守……」
守の意見を訊こうとしたけど、彼は、ミイラをライトで攻撃するのに夢中の様子だった。
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