少女・女性が化物に捕食されちゃうスレ 復活の5 at EROPARO
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400:名無しさん@ピンキー
11/02/06 10:03:16 lUdLW6uH
月刊コミックフラッパー今月号(3月号)の
アタゴオルは猫の森で
姫が化け物に丸呑みにされていた。

401:名無しさん@ピンキー
11/02/06 23:20:48 9rwW5Prd
>>392の続きを投下します。
内容は、ハッピーエンドに向けて一直線って感じ!

NGワードはタイトル「人食い怪物vs巫女」で。


402:人食い怪物vs巫女 ◆gRbg2o77yE
11/02/06 23:22:59 9rwW5Prd
「私のサファイア・アイが輝く限り、外道に明日は来ないって感じ!」

 きらりと光る碧眼を見て、度の強い眼鏡をかける顔が不快げに歪んだ。
「ぐぬぬ……ぶっ、ぶっ殺しちゃええええっ!」
 瓶底眼鏡女が顔を赤くして怒声を発すると同時に、異形の大群がキララに殺到する。
 巨体の蟷螂が、4本腕から規格外の大鎌を振り下ろした。灰色の肉塊が大口を開いてライトバンに
突撃し、カエルや毛むくじゃらの獣がそれに続いていく。轟音と共に巨大な炎が立ち昇る中、異形群
は車体を切り刻み、音を立ててドアや天井部分を食い千切った。
 ライトバンは瓦解し、タイヤが吹き飛んで地面を跳ね、ゴロゴロと転がっていく。
「くくく、ひとたまりもあるまいー!」
 瓶底眼鏡男がにやりと笑って勝利を確信するも、それは背後からの声に打ち消された。
「標的は攻撃を回避したわ。上空よ」
 アペカは無表情で目を細め、ゆっくりと虚空を指した。
 そこではキララが、炎で編まれた羽衣を纏って天女のように浮遊し、異形群を見下ろしている。
「バカの一つ覚えに突っ込んでくるとはね! ホントに超びっくりって感じ!」
 両腕を腰に突き、堂々とした開脚で仁王立ちする白焔の光巫女。大陰唇が地上からまる見えであ
ることについては、本人が多少興奮しているだけで問題は無いらしい。
「炎を撃たせるな! 弾幕を張って撃ち落せ!」
 眼鏡男の指示を受け、人間を取り込む巨大宝石の表面から閃光が発射された。巨大イソギンチャ
クや巨大ナメクジも、自分の体液や牙を次々と宙に射出していく。無秩序に発射されたかに見えた
個々の攻撃は、しかし曲線を描きながら上空の巫女に収束し始めた。
「テメェらの居場所はここじゃねえ! どこぞの珍獣島か動物園に帰りやがれって感じ!」
 しかし、攻撃はキララに直撃する前、やはり10メートル手前で炎上して灰になった。巨大宝石から
発射された光線だけは、鏡に当たったかのように角度を変え、何もない空に飛んでいく。

403:人食い怪物vs巫女 ◆gRbg2o77yE
11/02/06 23:25:46 9rwW5Prd
「きーっ! あの変態女! バリアを張ってますねー! って、きゃあああああああー!?」
 眼鏡コンビが指揮する対空砲火部隊に、全身を炎上させた異形が突っ込んできた。突然の出来事
に、巨大ナメクジやイソギンチャクたちの攻撃も中断される。
 それは、キララを攻撃しようとして、白炎に触れた個体。
 ライトバンに突撃した異形たちは、自分に燃え移った白炎を消そうと大パニックだった。肉塊は車両
と仲良く燃え尽きたが、カマキリ・カエル・毛むくじゃらの先走りトリオは全身に広がった白火に右往
左往しながら、助けを求めて仲間たちの元に殺到したのである。
「ちょっ! やばいっ! 燃えてる! 燃えてるよ!」
 眼鏡男は自分の背中に燃え移った火にパニック状態で、異形の間を無茶苦茶に走り回っている。
しかし、炎から逃げるように走るだけなので、火が消えることは当然ながら無かった。
「もう! おバカさんたちぃ! 何やっちゃってるのぉ! こいつらを何とかしなさーい!」
 瓶底眼鏡の女が炎上するカマキリから逃げながら、指示を飛ばす。
 死に物狂いで火を消そうと暴れる毛むくじゃらに、イソギンチャクが踏み潰されて緑の鮮血が噴き
上がった。毛むくじゃら自身も力尽きたようで、白炎を立ち昇らせながら倒れて沈黙する。
 巨大宝石は、ビームでカエルの頭部を撃ち抜いて沈黙させた。
 殻で覆われた二足歩行の巨大サソリが、カマキリを鎮圧しようと胸部に尻尾を打ち込んだが、そこ
から炎が燃え移り、サソリ自身も火達磨になって別の仲間集団に突っ込んでいく。
「熱っ! 熱いいいい! 離せ! こら! 離してえええええっ!」
 助けを求めるカマキリに捕まり、眼鏡女の白衣が一気に燃え上がった。
 次々と異形に燃え広がる白炎に、地上は大火事の態をなし始めた。
 異形たちは無駄に高い機動力で暴れまわり、勝手に味方内に火を広げていく。燃え上がりながら
お互いに噛み合い、刺し合い、殺し合う光景が、部隊全体に感染していった。
 見下ろしていたキララは、全身を覆った火勢を増して、一気に急降下する。

404:人食い怪物vs巫女 ◆gRbg2o77yE
11/02/06 23:28:36 9rwW5Prd
「一気にフィニッシュって感じ!」
 巨大な白炎の塊が、阿鼻叫喚の異形たちの中に落下した。
 瞬間、悲鳴をかき消すような衝撃と閃光が、一帯を白く塗り潰した。

 …………………………………………
 ………………………

 キララの赴く戦場は、基本的に人家の無い場所である。

 例えば山奥にある小さな湖。例えば断崖にある迷路のような洞窟。
 人間がいない、もしくは全滅した場所で、大繁殖している怪物が確認された場合、または、普段の
巫女協会の戦法が通用しない未知の怪物や、怪獣クラスが確認された場合にほぼ限られる。
 キララの神性は、通常で10メートル圏内に邪悪な存在を寄せ付けない。
 発射できる白炎の射程を含まれば、攻撃可能範囲は半径200メートルにもなる。詰まるところ、彼
女が本気になれば、周囲を一瞬で焼き尽くして焦土と化すことも可能だった。
 その能力の前では、湖底に隠れようが、洞窟の奥に隠れようが関係ない。
 彼女の炎は湖の底を沸騰させ、洞窟を灼熱のカマドに変えて余りある。怪獣級の巨大生物でも、
蟲のように小さな生物群でも、白焔の光巫女にとっては、暖炉に入れられた薪に等しかった。
 さらに、飛翔による機動力が加われば、広域での戦闘も可能になる。
 ロケットのように飛翔しながら、半径200メートル圏内を焼き尽くす人間がいれば、1人でも中規模
の都市を簡単に壊滅させ、軍隊と互角以上に渡り合うこともできる。その性質は、端的に言えば害
獣退治の要員である退魔巫女とは大きく異なり、完全な軍事兵器だった。

405:人食い怪物vs巫女 ◆gRbg2o77yE
11/02/06 23:31:23 9rwW5Prd
「さて、雑魚は纏めてお掃除完了って感じ?」

 瓶底眼鏡のレンズが、炎に包まれて溶けながら落下する。
 吹き飛んだ異形たちの肉片が炭化して、ばらばらと一帯に降り注ぐ。
 一帯は爆弾でも落とされたかのように焦土と化していた。ただし、呆然となる藤村と、アペカと樹里
がいる場所は熱風が来ず、周囲から切り取られたかのように影響が無かった。
「首謀者に死なれると、後の捜査が厄介なのよね。リーダーっぽいテメェらは拘束って感じ」
 炎の放出をコントロールし、アペカたちへの直撃だけは回避されていた。
 キララは、にやりと笑みを浮かべながら、白い尾を引いて歩いてくる。
 つい先程まで場を埋め尽くしていた異形の集団は、瓶底眼鏡の男女を含め天高くに吹き飛び、今
や炭化した破片が落ちてくるのみ。あの大部隊がほんの一瞬で壊滅していた。そこには、小細工や
物量など一瞬で押し切ってしまうほどの、圧倒的な火力差があるだけだった。
「言っとくけど、妙な動きはするんじゃねーよ。キララ様がその気になれば、テメェらを灰にするなん
て、ウインク1回でオーケイなんだからね。1秒もかからないって感じ?」
 言葉に嘘や誤魔化しの感情は微塵も無く、ただ事実を淡々と説明するものだった。
「イリスっぽいヤツや、ギャオスっぽいヤツが出たときでも、秒殺だったしね」
 過去に巫女協会が遭遇している怪獣級の魔物2体は、通常の巫女部隊では大苦戦だったが、キラ
ラの介入で一気に巣ごと焼き払って殲滅した。協会の歴史に残る大金星と言われるその話を、彼女
は積極的には語らないものの、誇りに思っているのは確かだった。
「言っとくケド、テメェらに黙秘権とかねーから」
 キララはそう言って微笑むと、手をゆっくりと街のほうに向けた。視線の先は、先程地下に放置して
いた怪物がいた場所である。方角を定めると、ゆっくりと目を細めた。
 そして、少し不機嫌さが滲み出した口調で、ぽつりと、
「あんにゃろ。今になって出てきやがって」
 と言った。そして、怪物が地上に戻ったのを察知し、白炎を放つ。
 白い軌跡を残して飛翔した光弾は、一直線に国道の事故現場に飛び、街に爆発音を轟かせて白
い火柱を上げた。

406:人食い怪物vs巫女 ◆gRbg2o77yE
11/02/06 23:33:48 9rwW5Prd
 …………………………………………
 ………………………

 キララが去った後、人食い怪物は、地上に触手を数本伸ばして辺りを探索した後、再び地上に姿を
現していた。先程の攻撃で表皮の半分は焼け爛れていたが、深部には及んでいない。
 怪物は、自分を攻撃した少女がいないことを確認し、安堵と同時に、傷の痛みに怒り狂う。
 回復のためには、もっと人間を食べなくてはならない。
 予定通りにショッピングモールと呼ばれるに向かい、人間を食べ続けて、傷を癒すのが良いだろ
う、と怪物は思った。位置は最初からインプットされているし、集客施設である分、モールと呼ばれる
場所には、今までより良質の獲物が沢山いるはずだった。
 もしかしたら、すぐに死んでしまうような普通の人間ではなく、もっと狩り応えのある獲物がいるかも
しれない。狩りの満足感を得られるような、素晴らしい獲物がいるかもしれない。
 空腹と傷の痛みを堪えながら、異形が再び都市への侵攻を開始しようとした瞬間―。

 撃ち込まれた白炎が、怪物を一瞬で灰に変える。
 ショッピングモールに迫っていた脅威は、完全に燃え尽きて、この世界から消え去った。

 …………………………………………
 ………………………

「きゃっ! な、何……? 何なの……?」
 ビルの屋上から屋上に飛び移りながら移動してきたトランスジェニックガール・アスカこと佐久島ア
スカは、突然国道方面で起きた大爆発に驚き、立ち止まって状況確認を行うことにした。
 ショッピングモールに急がなければならないが、それでも確認することにしたのは、炎が赤色では
なく、見たこともない白色だったからである。しかも、今回は2回目の爆発だった。数分間の間に、殺
戮の起きた場所で爆発が続くなど、尋常な事態ではないだろう。


407:人食い怪物vs巫女 ◆gRbg2o77yE
11/02/06 23:35:24 9rwW5Prd
(一体、何が起きているの……? 戦闘? それとも……)
 彼女の位置からでは、ビルの隙間からしか見えない爆発の余韻。紙のように白い炎は周囲の建
物より高く噴き上がり、そのまま空気に溶けるように消えていき、煙は何も残さなかった。
(でも……今は、ショッピングモールへ急ごう! 確かめるのは後でもできるもん!)
 安否不明の友人たちの笑顔が脳裏を過ぎり、不安で胸が締め付けられそうになる。

 ……少女の名は、佐久島アスカ。
 密かに街の平和を守り続けていた少女は、最後の戦いとなった場所に近づいていく。

 
(続)




408:名無しさん@ピンキー
11/02/06 23:37:04 9rwW5Prd
ハッピーエンドに向けて一直線ですね。
続きはそのうち。


捕食シチュだと、最近確認したのは漫画「アカメが斬る」2巻で、
ヒロインの一人が敵の連れた大型獣に食われてたわ。
上半身を噛み千切られて、噛み砕かれる直前で場面転換→喰われてもぐもぐ咀嚼されている
という感じで、直接的な描写は無かったけど。
食い千切られ後は走馬灯モードで過去回想しまくりで、苦しむ描写が無かったのがいかん。

>>400
アタゴウルってまだ続いてたの。


409:名無しさん@ピンキー
11/02/07 18:06:55 i0tNnLWq
絶対バッドエンドになると思ってたけどハッピーエンドになるのか!タノシミだ…

410:名無しさん@ピンキー
11/02/07 23:08:40 dc+6tLR9
アスカ助かるの?

411:名無しさん@ピンキー
11/02/08 19:35:40 7LozEf+o
捕食も好きだがそれ以上にハッピーエンドも大好きな俺はwktkせずにはいられない

412:名無しさん@ピンキー
11/02/08 19:50:50 68Fcc+B0
我々にとってのハッピーエンド=捕食エンドだったりしてな

413:名無しさん@ピンキー
11/02/09 02:29:37 Jrc+ZJOH
捕食したら融合して少女の姿に戻っちゃったみたいなのを期待。

414:名無しさん@ピンキー
11/02/12 03:58:28 HWPoXlOH
もし書き込めたら本能のまま打ってた文章の一部を捧げよう

415:メガワームの餌1/3
11/02/12 04:01:35 HWPoXlOH
OK捕食者ども
こんなつたない文章でよければ楽しんでくれ

「エラ・・・だっけ?お前はいいメスだよ 今までに無い征服感を俺にくれた
おい兵士ども 前の女はもう要らないんだよ メガワームの餌にでもしてしまえ」
その残酷な命令に朦朧としていたエラの意識が返ってくる
「い 嫌ああ!離してえ!」
エラの目の前にエラとはそう変わらない年頃の少女が連れられてくる
彼女に負けない美貌とグラマーな肢体の持ち主だが 体中にある凌辱の後が痛々しい
「お前みたいにあっさり抵抗しなくなる女はつまらんのだ この女が手に入ったからお前はもう用済みだよ」
「え・・・」
少女の目がエラに向けられる 憎しみとも悲しみともつかない視線がエラには辛かった
「なんで・・・ なんで・・・あっ!」
亀獣人が手を上げて合図をすると 少女はメガワームの檻に放り込まれる


416:メガワームの餌2/3
11/02/12 04:02:47 HWPoXlOH
ずりずりっ

奥から現れたミミズともヘビともつかないその巨体は人すらあっさりと飲み込めそうなほどで
触手の様な突起の中央にあるすぼまった口は生理的嫌悪感を催させた
「あ・・・嫌・・・助け・・・」
少女が後じさりし 格子に背中が押し付けられる
「なんだあ?最期にもう一度したいのか?」
「あうっ!」
亀獣人が格子越しに少女を捕まえると そのヴァギナに指を突き立てる
「期待してたんだな こんなに濡らして」
口元をいやらしく歪めると その長いペニスを少女のヴァギナにつき立てた
「ああああっ!」
その豊満な胸を揺らし少女は悶える しかしワームにはそれが生きのいい獲物に映ったのか
ずるずると這いよってくる
「い・・・嫌・・・嫌・・・」
ワームが少女の顔にその肛門のような口をつけた瞬間 周りの突起から汁が吹き出る
「嫌ああ!」

ちゅるん

粘り気のある汁の助けを借りて ワームは少女を一瞬で胸元まで飲み込む
「いいぞ いいぞ この瞬間はどんなガバガバの穴でもよく締まる」
一気に視界を奪われた少女は必死で手足をばたつかせ逃れようとするが 無駄な努力だった
そうする間にも亀獣人の長いペニスは子宮口をこじ開け 赤子のゆりかごを凌辱する
「んー! んー!」
そうして徐々に豊かな胸 くびれた腰と飲み込まれ
少女の動きも徐々に力を失っていく・・・

417:メガワームの餌3/3
11/02/12 04:05:51 HWPoXlOH
ブシュッ ブシュッ

再び亀獣人があの大砲のような射精をし 少女のヴァギナを逆流した精液が床を濡らす
亀獣人は満足したような表情を見せると 少女の腰を手放した

ちゅぼん
間抜けとも思える音とともに尻 足と一瞬で口の中へと消えてゆく

哀れな少女はとうとうワームに全身を飲み込まれ その姿はワームの白い腹にくっきり浮き出ていた
「逆らおうなんて思うなよ」
亀獣人がワームの腹を指差す 脈打つ体が少女をもみしだいている それは消化の始まりを表していた・・・



いつの間に眠っていたのだろう 次の朝エラは汚らしい破裂音で目を覚ます
目をやるとワームが尻尾の先から黄土色の軟泥状の物をひり出していた
哀れな少女の成れの果てだった



これで終わりです
とりあえずスツーカ乗りリスペクト

418:名無しさん@ピンキー
11/02/12 15:03:39 fSPiqrs7


419:名無しさん@ピンキー
11/02/12 23:54:09 u0ISg7Rt
>>407の続きを投下します。
内容は、ハッピーエンドに向けて一直線って感じ!

NGワードはタイトル「人食い怪物vs巫女」で。

420:人食い怪物vs巫女 ◆gRbg2o77yE
11/02/12 23:54:48 u0ISg7Rt
「あんにゃろ。今になって出てきやがって」
 白い軌跡を残して飛翔した光弾は、一直線に国道の事故現場に飛び、街に爆発音を轟かせて白
い火柱を上げた。それだけで、街で暴れた人食いの怪物が消し飛んでしまう。
「………これは、お手上げね」
 アペカは静かに目を閉じて、両手をゆっくりと挙げた。
「こちらには、貴女に抵抗する力は無いわ。降伏よ」
 困惑気味の樹里の横で、巨大頭の異形は早々に抵抗の意思が無いことを示した。しかし、藤村は
諦めてはいないようで、怒りに身を震わせながら、キララを無言で睨み付けている。事態打開の方法
を考えているのだろうが、流石の彼女も、この状況を覆す手は簡単に思いつけないらしい。
「うううう……まだよ……! まだ……樹里がいるじゃない!」
 結局、彼女が選択したのは、最後に残った手駒を敵に繰り出すことだった。
「樹里! その爆発女を殺しなさい! 私が与えてやった能力を、存分に奮いなさい!」
 主たる指揮官の声を受け、アペカの横にいた樹里はゆっくりと歩き始める。眼前にいるのは、巨大
な怪物たちを一瞬で灰に変える火力を持つ、誰が見ても勝算が無い状況であるのに。
「樹里、動いては駄目よ。藤村も少し冷静になりなさい」
「コラ、動くなってのが、聞こえないのかって感じ!」
 樹里はくるりとアペカに振り返り、悲しげな顔で笑みを作る。
「申し訳ありませんが、その命令は聞くことができません」
 アペカの命令とキララの脅しを無視して、樹里はゆっくりと洋服のボタンを外し始めた。
 そして服を脱ぎ捨て、靴も脱いで、アニメキャラの絵がプリントされたパンツを残して、生まれたまま
の姿を晒していく。脂肪の無い胸部に膨らんだ腹は、同年の男児と変わらない。
 桃色というより、やや濃い肌色の乳頭を晒しながら、樹里はキララに向き合った。
「このガキ 服を脱いで、まさかキララ様に対抗……」
「服を脱いだのは、貴女と同じ理由。一帳羅を台無しにしたくないもの」

421:人食い怪物vs巫女 ◆gRbg2o77yE
11/02/12 23:55:09 u0ISg7Rt
 そう言った樹里の両腕から、半透明の液体を滴らせながら、乳白色の触手が伸びた。枝分かれし
ながら増殖して網目状に広がるそれは、植物の根っこに他ならない。
 黒髪は、植物の葉のように変色し、鮮やかなエメラルドグリーンに変化した。そして、両頬から、乳
房から、背中から、腹部から、少女の肢体の至る箇所から、根っこが虚空に拡大する。
「厄介な外見しやがって、お前も化物の仲間かよって感じ」
「アペカ様直属の護衛である私に対して、何と言う口の聞き様でしょうか」
 食人植物の魔物を移植され―同化した異形の少女は、にやりと微笑んだ。
 …………………………………………
 ………………………
 樹里は基本的に、生物の体液ならば何でも吸収することができる。
 人間や動物の血液は勿論のこと、スポーツドリンクや生野菜、調理した食物でも水気が多けれ
ば、全身に生やした根と口から摂取することができる。光合成も一応は行えるが、それは普段活動
するには全然養分が足らず、主として生物の体液を吸わなければ体調を崩してしまう。
「テメェ……キララ様に本当に勝てると思ってるのか?」
 白炎の巫女は不快そうに顔を歪め、童女の外見をした異形を睨み付ける。
 樹里は目を細めて、自嘲気味に口元を歪めた。
「戯言を。私だって戦士です。喩え無駄でも、無謀でも、戦わなければならない時がある。逃げること
が許されない時がある。私にとってそれが、今まさに、この瞬間だということ」
 今や鮮やかな緑に変色した瞳が、かっと見開かれる。
 瞬間、巨木を思わせる植物の根っこが、地面から噴き上がるように伸び始めた。樹里の足の裏か
ら成長していたそれは、一気に地上に出て獲物を絡めとり、締め上げていく。
「きゃっ! うっ! くっ! ちょっと待って……!」
 根は標的の両手両足を拘束し、螺旋を描くように胴体を駆け上がり、ついに頭部に達した。

422:人食い怪物vs巫女 ◆gRbg2o77yE
11/02/12 23:55:45 u0ISg7Rt
「ちょっと、離して! 離しなさい! 私は違うでしょ! 敵はあっち! ちょっと!」
「くっ、苦しい……樹里……? きゃ……ぁ……!」
 樹里の根で締め上げられ、意味が分からないという表情を浮かべながら、藤村とアペカの身体が
宙に持ち上げられた。足先から頭までぐるぐるに巻かれており、完全に自由を奪われている。
 振り返った樹里は、憤怒の色を浮かべて藤村を睨み付けた。
「じゅ、樹里! どういうつもり!」
「私の名前を呼ぶな! この悪魔!」
 突然大声で吐き捨てられ、藤村の表情が一瞬消える。
 護衛を称していた少女の突然の反乱は、両陣営ともに予想外のことで、混乱するだけのアペカは
勿論、キララも呆然とするだけで、どう言葉をかければ良いか分からない。
「ずっと、こんなチャンスを待ってたんです! お前から護衛が消えるのを! そして、『叡智の冠』に
対抗できる戦力が現れるのを! 何年でも待つつもりだったけど……」
「お、おまえ……私を裏切るつもりなの! 能力を与えてやった恩を、こんな!」
 藤村の目が見開かれ、血走った眼球が?き出しにされる。
 幾人もの命を弄び、実験台にしてきた女性研究者は、今や怒りと失望を隠そうともせずに暴れ始
め、拘束を解こうとする。しかし、部下は全員異形でも、彼女自身は普通の人間らしく、顔を赤くして
抵抗するも拘束を解くことはできない。ただ、無様にもがくだけだった。
「裏切る? 私は最初から味方になったつもりはありません」
 憎悪に染まる表情で、樹里は藤村を睨み付けて叫ぶ。
「あのとき、実験室の仲間同士で誓ったんです。私たちの誰か一人でも、毎日繰り返される拷問から
生き延びられたら、絶対にお前たちをやっつけて、捕らえられてる他の子供たちを助けようって。結
局、お前に選ばれた私以外は、拷問中に死ぬか、化物の餌にされましたけど」
 樹里は藤村から、護衛していたアペカに視線を移す。

423:人食い怪物vs巫女 ◆gRbg2o77yE
11/02/12 23:56:41 u0ISg7Rt
 しかし、その表情に藤村に向けた憎悪は無く、ただ哀れみがあるだけだった。
「樹里……愚かなことは止めなさい」
 駄々を捏ねる子供をあやすように、アペカは優しい笑顔で、裏切った従者に語りかける。
「今なら、何も無かったことにしてあげるから、冷静になりなさい」
 巨大頭の異形は、慈愛に満ちた笑みで、語りかける。

「今なら、私は貴女を赦せる。貴女を抱きしめずに済む」

 唇が三日月を作って、静々と言う。

「酷いことはしたくないの。お願い」

 樹里はアペカの語りかけに、残念そうに首を横に振った。
「アペカ様、申し訳ございませんが、貴女様もここで消えていただきます。貴女様は藤村の犠牲者で
すし、人間を食べるのも、生きるためには仕方の無いこと。ですが―その体内で生きている蟲は、
人間の天敵です。新しい犠牲者を出さないためにも、始末しなければなりません」
「樹里……私は貴女のためを思って、言っているのよ」
「私は覚悟はできています。『叡智の冠』を壊滅させたら、ヒトを食べた罰を受けます。少し時間はか
かるかもしれませんが、アペカ様の後を追わせていただきます」
 アペカは深く息を吐いて、視線を下向ける。
「決意は固そうね。とても残念だわ」
「申し訳ございません」
 頭を深く下げた樹里は、そのまま表情を見せることはなかった。
 しかし、藤村は狂乱めいた表情で、樹里に喚き散らし始める。
「残念じゃない! 申し訳ございませんじゃねーよ! 謝るなら拘束を解け! そ、そうだ! キララっ
ていったかしら、貴女? ちょっと、その娘を焼き殺してよ! というか、私と組まない?」

424:人食い怪物vs巫女 ◆gRbg2o77yE
11/02/12 23:57:34 u0ISg7Rt
「あン? 何言ってるのって感じ?」
 沈黙して推移を見守り続けていたキララの眉が、ぴくりと上がる。
 藤村はにやりと嗤って、首を捻りながら訴えた。
「貴女が私の味方になってくれれば、もう千人力よね! 良心が痛むってのなら、ビジネスって割り
切ればいいわ! お金ならあげる! それとも、下僕がいいかしら? とにかく、損はさせない! 仕
事に見合うだけの報酬は用意するから! だから、その餓鬼をやって! 私を助けてええええ!」
「テメェ……どうしようもねーな」
 冷徹な声でそれだけ言って、キララは沈黙に戻った。
 事件を起こした組織の素性が、宗教法人『叡智の冠』であり、樹里が証人になる意思が確認できた
今、彼女は樹里の復讐を黙認する様子ですらある。
「ぎいいいいいいいいいいいいいい!」
 拒絶されたと理解した藤村は、ぐるりと白目を剥いて声を張り上げた。
「畜生おおぉぉぉぉぉ! 離せええええええっ! くそっ! はなしやがれえええぇぇぇぇ!」
 手負いの獣が罠にかかって咆哮するような、壮絶な声で。
「もう少しで! もう少しで、私たちの理想は敵うのよ! 愚かな人間全てに叡智の冠を与えることが
できる! 愚かな人間を全員、聖界フィルールに連れて行ける! ずっと受け継がれてきた理想が、
積み重ねて積み重ねて、やっと現実になるのに! 偉大なる開祖、瑪瑙姫の理想が、300年を経て
ようやく、ようやく、じっ、実現、するのにっ、いいいいいいいいっ!」


「『叡智の冠』の、300年に及ぶ悪夢の歴史は、これでお終いです」


 樹里は静かな声で、容赦なく宣告する。
 根に捻り潰された藤村とアペカの、肉塊と鮮血が地面にびちゃびちゃと落下した。

425:人食い怪物vs巫女 ◆gRbg2o77yE
11/02/12 23:58:04 u0ISg7Rt
 …………………………………………
 ………………………

「着いた……ショッピングモール……」

 息を切らしながら顔を上げたアスカの前には、無傷のショッピングモールが建っていた。怪物襲撃
の情報は既に伝わっているらしく、来訪者は駆け足でモールから逃げ出していた。
 それは、彼女の最後の戦いとなった場所。
 しかし、眼前に広がる光景は、壮絶な最後の光景とはまるで違うものだった。

「おっ、アスカじゃん! おーい! こっちこっち!」

 アスカの友人たちは、彼女の姿を発見するや、手を振って自分たちの生存を伝えてきた。
 下半身を噛み切られ、または胴体のみになり、または頭部だけが残された少女たち。しかし、彼女
たちは怪物に襲われず、笑顔を浮かべてアスカの名前を呼んでいる。

「みんな………良かった……無事だったんだ……!」

 アスカは口元を手で押さえた。
 肩を震えた。
 目が熱くなる。
 涙が頬を伝っていく。
 失いたくなかった。
 守りたかった。
 かけがえのないものが、無事でいてくれた。


「みんなっ! すぐに、そっちに行くよっ!」


 アスカは満面の笑顔で、友人たちの方へ走り始めた。


426:名無しさん@ピンキー
11/02/12 23:58:26 u0ISg7Rt
ハッピーエンド?
続きはそのうち。

427:名無しさん@ピンキー
11/02/13 01:08:49 ClWhpuU9
乙乙
しかしこのままじゃ終わりそうにないな〜w

428:名無しさん@ピンキー
11/02/13 02:13:25 updfxQsR
乙、新井素子の処女作みたいな結末ってハッピーエンドなんだろうかとふと思った。

429:名無しさん@ピンキー
11/02/13 21:33:24 8vMZvzd8
アスカ幽霊じゃないよね…


430:名無しさん@ピンキー
11/02/23 23:08:26 3WVg9p+Z
ほしゅ

431: ◆gRbg2o77yE
11/02/26 23:15:47.75 SCfjPlG2
>>425の続きを投下します。
内容は、しつこい敵は嫌われるって感じ!

NGワードはタイトル「人食い怪物vs巫女」で。

432:人食い怪物vs巫女 ◆gRbg2o77yE
11/02/26 23:17:13.67 SCfjPlG2
「アペカ様は読心術が使えました」
 樹里の言葉に、キララは驚きを隠せずに眼を丸くした。
「貴女のことも最初から警戒していましたし。同じような魔物である私にとっても信じ難いことです
が、確かに彼女には、そういう能力が存在していたのです」
「マジで? キララ様の考えてることが、まる分かりだったってこと?」
「いいえ、彼女が読めたのは心の表層だけで、深部の思考は読めなかったようです。私の裏切りも
察知できていませんでしたし。まあ、教団内では、彼女はマルチな能力の持ち主で、他にも幽霊が
見えるとか、人間の魂を繋ぎ合わせて、巨大な異世界を創っているとか、話を聞いただけでは理解
し難い設定になっていましたが……」
 樹里は何も存在しない空を見え上げて、短く息を吐いた。
 教団の一部関係者が視えていたらしい異世界の球体は、やはり見ることができなかった。
「おそらく、読心術をオカルト的に脚色したものでしょう。そうに決まっています」
 そう自分に言い聞かせながら、樹里は空から視線を外す。
 そして、捻り潰した2つの遺体を、冷徹な眼で見下ろした。
「私、これでもアペカ様には好意を寄せていたのですよ」
「え? でもお前、そいつ」
「いっしょにいられるなら、人食いの化物だって悪くないと思えるぐらい。かなり重症でした。彼女は
いつも私の心を読んで、欲しい言葉を欲しい時にかけてくれていたのだと思います。優しい言葉が
欲しいときは甘い言葉を。厳しい言葉が欲しいときには苦い言葉を。心が満たされました。私はいつ
の間にか、彼女のことばかり考えるようになっていて、従者として、四六時中いっしょにいるようにな
りました。ずっとずっといっしょにいたいと思いました。だけど」
 樹里は目を細めて、主の亡骸を見る。
「結局、復讐の決意まで揺らすことはできませんでした」

433:人食い怪物vs巫女 ◆gRbg2o77yE
11/02/26 23:19:05.01 SCfjPlG2
 根に捻り潰された藤村とアペカの、肉塊と鮮血が地面に撒かれていた。
 手足は枯れ枝のように折れ曲がり、胴体が捻れて破れ、内臓が溢れ出している。血溜りをじわり
と広げる肉塊は痙攣するのみで、完全に生命活動を停止しているようにしか見えない。
 無表情でそれを見下ろす樹里の背後で、キララは静かに唇を開いた。
「それでも、ちょっと驚いたって感じ。好意や恨みがある割には、躊躇い無く一瞬で終わらせた。退
魔の巫女だって、仇みたいな魔物に対しては、多少感情を込めた方法で討伐するのに」
「感情を込めるなんてできません。遺体の見た目は酷いですが、全力で、可能な限り苦しみを感じな
いように、一瞬で殺したつもりです。アペカ様は勿論、藤村だってそう」
 樹里は緊張した面持ちを崩さず、独り言のように呟いた。
「キララさん。貴女方が討伐してきた普通の魔物ならば、感情を込めて復讐するようなことも可能で
しょう。しかし、『叡智の冠』の過激派については、それは逆効果になるんです。貴女の言う、感情を
込めるということは、要するに、必要以上に「痛めつけたり」「苦しめたり」「恐怖を与えたり」「絶望さ
せたり」することでしょう? それはダメです。「餌」になってしまうんです」
「ちょっと語弊があるって感じ。ていうか、餌って何よ?」
「『叡智の冠』は、それによって人類を救済しようとした宗教団体です。表向きの教義は、真に健全な
魂は別世界の神様による教育で生まれるというものですが、実際には、無限拷問による人類の救
済を目指していました。これは、そのおぞましい研究成果の1つ」
 アペカの潰れた頭から、脳漿と血液に混じり、半透明の粘液が流れ出した。
 それは耳や眼窩、鼻腔からも流れ始め、血液と混じり合ってゆっくりと渦を巻き始める。
 半透明の粘液は、そのまま藤村の遺体にも近寄り、破れた胴体に吸われるように流れ込んだ。硬
直した彼女の顔にも這い上がり、露出した脳味噌に向けて近づいていく。
 アペカの遺体は目に見えて胴体や頭部が動き出し、内部でガスでも溜まったかのように膨らみ始
めた。蘇生したのではなく、何かが内側で暴れているような動きである。

434:人食い怪物vs巫女 ◆gRbg2o77yE
11/02/26 23:21:12.94 SCfjPlG2
「ちょ、おい! そいつら! まだ生きてるのかよ!」
「アペカ様と藤村は死んでいます。急所は完全に破壊しました。ただ……アペカ様と藤村が、死ぬ直
前に感じた恐怖と絶望は、今もまだ「餌」として残っているんです」
 藤村とアペカの壊れた人体模型のような体躯が、地面に弾かれたかのように跳ね起きた。
 全身の骨を砕かれた彼女たちを支えているのは、破れた皮膚から洪水のように溢れ出した半透明
の蛆虫とミミズの大群だった。潰れた頭部の様々な穴から、手足の折れ曲がる部分から、破れた腹
部から、広がった血の海から、大量の蟲が発生して、二人の遺体に内外から貪りついていた。
 胴体を風船のように膨らませ、臓物を掻き出し、穴という穴から体内に侵入し、傷口から泉のよう
に溢れ出す蟲に、辛うじて原型を保っていた遺体はみるみる変形していく。
 全身の肌が剥かれ、傷口は裂け広げられ、臓物は潰され、血塊と化した肉が分断される。
 蟲は巨大な噴水のように肉塊から天に高く、地に広く増殖し、バラバラにした手足を弄び、地面に
吸われた血液も残さずに貪り、二人の遺体から脳漿を引き出して食い尽くしていく。外側と内側を舐
めるように削ぎ取られた頭蓋骨の欠片は、ゴミのように蟲群から吐き出された。
「じょ、冗談は生きてるときにしろって感じっ! マジキメェ! ラーメン食えなくなるって!」
 キララは緊張した顔で指先に力をため、炎を練る。
 空気を熱で歪ませながら、渦を巻く白炎が膨らんでいった。魔物を滅ぼす力を秘めた炎は、眩く発
光して蟲群を白く照らし出し、一直線に標的に狙いをつける。
「こいつらがアペカ様に憑いていた魔物です。人間が恐怖や絶望を感じた時に発生する、脳味噌の
分泌物質を食べて生きる人類の天敵。獲物の分泌物質が混ざった脳味噌や血液を、身体ごと食ら
い尽くして増殖していく。あと、アルコールを与えても爆発的に増えます。だけど、本来は極めて特殊
な環境でのみ存在していた生物で、ここならば放置しても死滅するだけです」
 樹里は炎を発生させたキララを振り返り、泣きそうな顔で呟き続ける。
 白い炎に照らされた顔に、しかし迷いの色は無い。

435:人食い怪物vs巫女 ◆gRbg2o77yE
11/02/26 23:22:59.11 SCfjPlG2
「これが、『叡智の冠』の本性。私もこんな連中の仲間でした。人間を17人も食べている罪人です。
自分がしたことについては、どんな罰も受けます。だから……」

 爛々とした白炎を映した涙が、静かに両頬を伝い落ちた。
 今、ここで殺されても仕方が無いと、その表情は語る。それでも、樹里は願わざるを得ない。自分
がどれだけの罪を犯したか告白し、自分がどれだけ化物なのかも告白した上で、
 信用を得るためには、一切の隠し事は許されないことを理解し、告白した上で、

「私は殺されても構いません……だけど、お願いがあります……! 教団を調べてください。それで
……捕まってるみんなを……、殺される前に助けてあげてください……!」

 樹里の横を、白炎の奔流が駆け抜けていく。
 蟲柱の中心に吸い込まれた白炎は、灼熱を帯びて膨らみ、藤村とアペカの残骸ごと人間の苦痛
に群がる蟲を灰に変えた。それは容赦の欠片も無い、駆除作業に他ならなかった。
 顔を上げた樹里の前で、キララは言った。
「出発するから、さっさと支度しな。巫女協会の本部までは、少し遠い」
 樹里は口を開いて、しかし、何を言うべきかも分からないという表情で、キララを見る。お願いをし
てみたものの、それについて白炎の巫女がどのような決断をしたのかが分からない。
 言ったことを信じてもらえず、ただ罪人として連行されるのか。それとも。
「テメェを信じる。嘘をついているように見えねーし。ヤバい連中も放っとけねーし」
 キララは、どうと言うことでも無いという風に、あっさりと言う。
「救出する相手の場所も敵の戦力も分からないし、作戦が立てられない。とりあえず本部に連れて
行くから、知ってることは全部話せって感じ。段取りは早く済ませないとな」

436:人食い怪物vs巫女 ◆gRbg2o77yE
11/02/26 23:25:45.55 SCfjPlG2
 樹里は、しばらく放心した後、表情が戻った。
 肩を震わせながら何度も頷き、嗚咽を漏らし始める。
「んー? 怖がらせたか? 別に、テメェを今すぐどうにかしようとは思ってねーよ」
 キララは白炎を消して、樹里に向けてゆっくりと歩き出した。
 舞い上がった金髪は背中に垂れ、表情の険も無くなっている。
 不敵さも挑発的な姿勢も無く、異形たちを圧倒した鬼気迫る気配も消えていた。同年代ならば友人
と毎日遊んでいるであろう歳の少女が、生まれたままの姿で立っているだけである。
 生死に関わる戦いを行う巫女としての、張り詰めていた精神の緊張も解けていく。戦士の仮面を
外して、年齢相応の柔らかい笑みを顔に浮かべ、キララは樹里の頭を優しく撫ぜた。

「私と巫女協会が、悪いやつの好きにはさせないって感じ」

 そのとき……キララに普通の少女と同じ口調で話されて、ようやく樹里は気付いた。
 目の前で笑っている退魔の巫女は、ほぼ無敵に近い戦闘力を有しているとか、戦い慣れていると
か、それ以前の事実として、自分と歳もあまり変わらない少女なのだった。
 怖いものは怖いと思うだろうし、攻撃を受ければ血を流すだろう。
 よくよく考えてみれば、瓶底眼鏡たちとの戦闘にしても、あのときの魔物は眼鏡たちが創ったオリ
ジナルが多く、キララにとっては、未知の魔物の大群に取り囲まれていた状態だった。
 万が一、白炎が通用しない敵が一匹でもいたら……。
 想像もしていない方法で、シールドを突破されて逆襲されたら……。
 あの状況で、最悪の事態を考えなかったはずが無い。
 怖くなかったはずが無い。

437:人食い怪物vs巫女 ◆gRbg2o77yE
11/02/26 23:26:55.34 SCfjPlG2
 全身に炎を纏うスタイル上、彼女は普通の武器や防具を身につけることができないだろう。全身の
急所が剥き出しであり、体格差のある怪物の攻撃を受ければ、一撃でも致命傷になりかねない。炎
が破られでもしたら、もう細腕での徒手空拳しか戦う方法は残されていない。
 彼女はどれだけの恐怖と逃げたい気持ちを、汚い言葉といっしょに吐き出したのだろう。
 他の戦場では、怪獣と戦わされたようなことも言っていたが……。

「大丈夫、私は絶対に負けない」

 キララは、樹里の顔に浮かんでいる不安と困惑を察したようで、儚げに微笑む。
 そして、最強ゆえに、普通の攻撃が通用しない未知の怪物や、怪獣クラスの魔物に対してばかり
投入される白炎の巫女は、不安を払拭するように胸を軽く叩いて、にっこりと笑った。

「戦いはもちろん、心だって絶対に負けないから」

 …………………………………………
 ………………………






「……あれ? ここってどこ? 何も見えない」
 気がつくと、周りが何も見えない暗闇の中を歩いていた。どうして自分がここにいるのか、いくら考
えても、思い出せなかった。誰かと直前まで話していた気がするが、それも思い出せない。
 どうしようもなく、目を細めて足元に注意を払いながら、ゆっくりと前に進むしかなかった。

438: ◆gRbg2o77yE
11/02/26 23:27:31.55 SCfjPlG2
怪物を倒して、みんな笑顔です。
良かったですね。
もちろん続きます。

439:名無しさん@ピンキー
11/02/28 04:03:03.07 ln1DRzyP
おぉマジでハッピーエンドくせえ
次なる捕食を求めて...続き待ってます

440:名無しさん@ピンキー
11/03/06 19:56:17.12 7p1Q4m03
>>437の続きを投下します。
残虐な表現を含みますので、苦手な方はスルーしてください。

441:人食い怪物vs巫女 ◆gRbg2o77yE
11/03/06 19:57:14.94 7p1Q4m03
「……あれ? ここってどこ? 何も見えない」
 気がつくと、周りが何も見えない暗闇の中を歩いていた。どうして自分がここにいるのか、いくら考
えても、思い出せなかった。誰かと直前まで話していた気がするが、それも思い出せない。
 どうしようもなく、目を細めて足元に注意を払いながら、ゆっくりと前に進むしかなかった。
 闇色の道は一直線に続いているようだが、先は分からない。
「どうなってるの。どうして私、こんな場所に?」
 トランスジェニックガール・アスカは不安に駆られながら、再度周囲に探りを入れる。
 自分の置かれた状況を整理しようとするが、やはり答えは出ない。
 特有の、人間を超えた五感を駆使するも、生物の気配は勿論、風の流れ1つ感じないし、暑いとも
寒いとも思わない。過敏になりすぎると日常生活に支障が出るので、普段は眠らせている感覚まで
起こして周囲を探るも、体内のセンサーは何も感知しなかった。
「誰か! 誰かいないの! ちょっと! ここはどこなのよ!」
 背筋に冷たいものを感じ、大声で呼びかけるも、木霊すら返ってこない。
 身体を動かせば当然起きるはずの空気の流れすら起きず、まるで自分が自分でなくなってしまっ
たかのような―例えば、風も気温も感じない存在になってしまったかのような、現実には絶対に起
こらない仮説まで、頭の片隅でゆっくりと形作られていく。
 正直なところ、アスカは今の状況が怖かった。
 得体の知れない場所に閉じ込められた現状が、手に入れた超人的な筋力や感覚では、どのよう
にも打破できないことを、彼女は感覚的にだが理解しつつあった。
「ううう……誰も、いないの……?」
 歩くのを止めて、震える声で闇に話しかける。
 未知の暗闇を動き回るよりも、今いる場所でずっと止まっている方が幾分かは安堵できた。それで
は何も解決しないと分かっていても、一時の安らぎは曇天の心を少しだけ癒してくれる。
 そのとき、視界の端に白い光が映った。
 驚いて振り返ったアスカの眼前では、ホタルのように舞う無数の光が集まり、ゆっくりと人の形を成
していく。白い発光が描き出すのは、すらりとした華奢なライン。

「道に迷って困ってるのね。お姉ちゃん」

 発光体は、聞き覚えのある声で、明瞭に言った。

442:人食い怪物vs巫女 ◆gRbg2o77yE
11/03/06 19:58:11.71 7p1Q4m03
 聞き覚えがあるのも当然である。
 何しろ、その声は毎朝、そして毎晩のように、テレビのチャンネル争いであるとか、1台しかないイ
ンターネット用パソコンの使用で会話をしている、実の妹のものだったのだから。
「え? 貴女、もしかしてヤヨイちゃん?」
「うん。そうだよ。ヤヨイだよ」
 発光体が飛び去ると、そこには髪を腰まで伸ばした少女が立っていた。
 佐久島ヤヨイ―アスカの妹。
 姉と似て端整な顔で、両頬はやや赤みを帯びているが、本人はあまり気にしていない。健康的な
笑顔に色香は無いが、余りある瑞々しさがいつも溢れていた。
 衣服は、アスカと同じく手作りのレオタードである。
 水色の生地に純白の斑点模様は、姉の星空模様とは穏やかな対になっていた。スリーブには淡
い黄色のフリルが付き、腰からは姉とお揃いで薄地の白スカートが開花している。胸部はよくよく観
察してみれば、やんわりとした膨らみが見えるぐらいで、まだ成長途上のよう。
「ちょっと待って。さっきの無し。今の私はヤヨイじゃなくて、トランスジェニックガール2号!」
 顔の上半分を隠す青い仮面を付けて、Vサインを決めるヤヨイ。
 彼女もアスカと同様、超人的な身体能力を持っていた。
 旅行先で料理を食べた際、「お姉ちゃんと同じメニューがいい!」の一言が原因で、彼女も
スーパーヒロインに足る能力を手に入れたわけだが、今までは特に活用していない。
 姉のアスカが街の治安を守るため、正義の味方を始めたときも、消極的な肯定のみだった。調査
の手伝いや応援はするけれど、悪人と実際に戦うのは嫌というのがその理由である。
 アスカは一瞬、何を言いかけたかを忘れてしまうが、再び我に返った。
「そうじゃなくて、ここは一体どこ……」
「やっぱりトランスジェニックガール・プティットがいいかな」
「ヤヨイちゃんの呼び方なんてどっちでもいいから!」
 アスカは眩暈と違和感を覚えたが、妹の様子からして、ここは危険な場所でもなさそうだった。
 そして、いつも全く話を聞かない妹に、仕方なく話を合わせる。
「ヤヨイちゃん、そういうのは嫌って言ってたのに、急にどうしたの? あと、その仮面は何?」
「むしろ、お姉ちゃんが、素顔丸出しで正義の味方してるのが不思議」
「え? どうして?」
「お姉ちゃんが気にしないなら、今さらヤヨイは何も言わないけどね」
 青い仮面の奥で微笑んで、トランスジェニックガール2号ことヤヨイは言葉を続ける。
「だって、お姉ちゃん。もう死んじゃったから。顔バレする心配は無いし」

443:人食い怪物vs巫女 ◆gRbg2o77yE
11/03/06 20:00:08.44 7p1Q4m03
「え……今、何って言った? ヤヨイちゃん」
「もう死んでるんだよ。お姉ちゃんは。ごめん。これははっきり言わないと駄目らしいから」
 硬直するアスカの身体に腕を回し、ヤヨイは実の姉の身体を強く抱きしめる。
「殺される直前、とっても痛かったよね。痛くて、怖かったよね。口の中でもいっぱい噛まれて、頭ま
で噛み砕かれて、だけど死ねないまま胃に運ばれたなんて……ものすごく苦しかったよね」
 アスカはヤヨイの言葉が理解できず、表情を喪失したまま立ち尽くしていた。
「私ね、知ってるんだよ。口に引き擦り込まれていく途中に、好きだった三島くんのこと、お友達のこ
と、お父さんやお母さんのことや……私のことも、思い出してくれたんだよね。お姉ちゃん」
 ヤヨイの作り笑顔はゆっくりと歪み、大きな眼からは大粒の涙が零れる。
「お姉ちゃんの意思は私が継ぐから! 私がいけないんだ! 一緒なら、お姉ちゃんに無謀なことを
させなかったのに! お姉ちゃんの性格を知ってて……何もしなかった自分が許せない!」
「ヤヨイちゃん……何の話をしてるの?」
「ううん。ごめんね。変なことを言って……」
 泣きながら首を横に振るヤヨイに、得体の知れない焦燥感を覚えながら、アスカは上手く言葉を紡
ぐことができない。何かがおかしいとようやく思い始めたが、上手く思考がまとまらない。
 いや、まとめようとしても、部品が足らなくてまとめられないような、異様な感覚。

「無理よ。彼女の記憶は、私が上書きしたもの。きっと理解できないわ」

 今度は、全く聞き覚えの無い声だった。
 驚いて振り返ったアスカの前には、巨大な頭部を持つ怪人の少女……アペカがにこりと微笑んで
いた。背後の闇からは、藤村や瓶底眼鏡たちも次々と現れる。
「残酷な記憶を残しても、苦しませるだけだからね。事後で申し訳ないけれど」
「ううん、いいんです。本当に、ありがとうございました」
 直感的にアペカたちに危険なものを感じたアスカは、ヤヨイの肩を掴んで問いかけた。
「ヤヨイちゃん、あの人たちは誰? 知り合いなの?」
 自分に浴びせられる視線に悪寒を感じながら、非難めいた口調で確認する。
「あの人たちは、すごい力を持ってる人。誤解しないで、悪い人じゃないよ」
 感謝しているように、ヤヨイはアペカを見る。
「あのアペカ様が、家にいた私を、こうやってお姉ちゃんに会わせてくれたんだよ。詳しい話は難しく
て分からなかったけど、人の心や魂を、糊やハサミで工作するみたいに、切ったり貼ったりできるん
だって。だから、自分の心を切り取ってもらって、お姉ちゃんの心に貼り付けてもらったの」

444:人食い怪物vs巫女 ◆gRbg2o77yE
11/03/06 20:01:31.97 7p1Q4m03
 神を崇拝する眼で、ヤヨイはアペカを姉に紹介する。
 しかし、アスカにとっては、妹の言うことは理解不能だった。言葉だけを聞けば、ヤヨイの頭がおか
しくなったか、怪しい宗教に毒されているとしか思えない。
「あの人たちはね、すごい力を使って、この世界を、もっと素晴らしくしようとしてるの!」
 巨大頭の少女は優しく微笑んでヤヨイを見た。
「ヤヨイさん。魔物を体内に取り込んで変異した者同士、これからも仲良くしましょう」
「ああ、アペカ様! 有難うございます!」
 仮面を外して、ヤヨイは異形の少女に跪く。彼女が演技をしているようには見えないし、間違いなく
本心から巨大頭の少女に感謝しているのだろう。しかし、アスカにはそれが異様に映った。
「ヤヨイちゃん。大切な話があるから、その人たちから離れて、こっちに来なさい」
「どうして、お姉ちゃん?」
 アペカの目がすっと細まった。
 そして、悪戯を思いついた子供のような笑みを浮かべて、ヤヨイの方をちらりと見る。
 特に直接触れたりはしなかった。
「どうして、そんなトゲのある言い方するの?」

 振り返ったヤヨイの美顔は、
  ……肌が全て削ぎ落とされた状態で、血肉が剥き出しだった。

 アスカの悲鳴が喉まで込み上げたときには、ヤヨイの剥き出しの肉が顔中で音を立てて裂けて、
内側から巨大な眼球が次々と現れていた。
 そして、水溜りに浮かんだカエルの卵を貼り付けたように、顔中を眼球で覆い尽くしたヤヨイは、い
つの間にか8本に増えていた腕を振り回しながら顔を前に突き出し、昆虫が壁を這うような動きをし
て、おぞましいほどの速さでアスカの方に迫ってきた。
「まるでアペカ様が悪い人みたいに聞こえるじゃない。アペカ様に謝ってよ」
 聞きなれた可愛らしい声だけが、かつての妹のまま。眼球だらけの妹の顔を見てアスカが悲鳴を
上げたのと、アペカがけたたましく嗤い始めたのはほぼ同時だった。

 …………………………………………
 ………………………

445:人食い怪物vs巫女 ◆gRbg2o77yE
11/03/06 20:03:41.86 7p1Q4m03
「大丈夫、私は絶対に負けない」
 キララは、樹里の顔に浮かんでいる不安と困惑を察したようで、儚げに微笑む。
 そして、最強ゆえに、普通の攻撃が通用しない未知の怪物や、怪獣クラスの魔物に対してばかり
投入される白炎の巫女は、不安を払拭するように胸を軽く叩いて、にっこりと笑った。
「戦いはもちろん、心だって絶対に負けないから」
 厳しい修行と勇気に裏打ちされた言葉に、樹里は無言でゆっくりと頷いた。彼女とならば、厳しい
戦いも耐え抜くことができるし、自分の罪も容赦なく断罪してくれると確信する。
 そう思った瞬間、背後から、

「なら、もっと頑張らないといけないわね」

と声が聞こえてきた。
 キララと樹里が、驚愕の表情を浮かべて振り返る。
「そんな……嘘……」
 樹里は呆然となって一歩、二歩と後退する。直立を支えるのが怪しくなるほどに、彼女の動揺は激
しい。自分の目や耳を、そして触覚を信じられなくなってしまう衝撃だった。
「おいテメェ。こりゃ一体どういう手品だって感じ。なんで生きてやがる」
 キララの表情が、穏やかな少女から、白焔の姫巫女モードに豹変する。
 両手に轟轟と白炎が渦を巻いて膨らんでいくが、彼女も表情に浮かんだ困惑は拭えない。これま
でとは様子が異なり、見てすぐに分かるほどに警戒の念を露にしていた。
「そんなに顔を見つめられると、照れてしまうわ」
 二人の視線の交わる先、白き異形の少女はくすくすと可笑しそうに肩を揺らす。
「ねえ、樹里。もしかして、さっきいっしょに食べたアイス、顔に付いていたりする?」
 以前と同じ声、同じ笑い、同じ話し、同じ外見、同じ気配、同じ余裕―。藤村や蟲群が焼かれて
消滅した場所で、まるで何事も無かったかのように、何も変わった様子は無かった。

「勝手に殺さないでよ。私はこのとおり、とても元気よ」

 特注の麦藁帽子を直し、無垢な笑みを浮かべ―無傷のアペカがそこにいた。
 彼女の身体には、火傷はおろか、衣服に根っこで締め上げられた跡すら残されていない。まるで
先程の樹里やキララの攻撃が行われていないかのように、平然と、優しく微笑みかけてくる。

446:人食い怪物vs巫女 ◆gRbg2o77yE
11/03/06 20:04:45.62 7p1Q4m03
「キララさんだっけ? 貴女のサファイア・アイとやらは、どうやら節穴の……」
 瞬間、アペカの全身はボッと音を発し、白色の炎に覆い尽くされた。
 アペカ当人も何が起きたか分からない表情で、樹里も驚きの余り声が出せない。
 現象を説明するのは、無言でアペカに向けられたキララの腕のみ。
 それは予告も無く、ただ相手を殺すためだけの合理的な行動。彼女に火炎放射を繰り出したキララ
は、汚い言葉を吐かず、忌まわしき魔物を焼き殺すために、淡々と火力を上げていく。
「……ごぼおお……がぼおお……」
 焼かれ、アペカの肌は赤黒く爛れ、苦しげな声が口から漏れる。
 炎は彼女だけでなく、彼女の周囲にまで展開されていく。
 火力はみるみる上昇し、周囲を焼き尽くして天高くにまで火柱が上がり、一体の地表はおろか、何
も無い空間まで怪物のように暴れまわった。それは、アペカを、周りの空間ごと完全に焼き尽くす攻
撃。炎を回避できても窒息するよう、周囲の空気を爆発させるように消費していく。
 どう動こうと、彼女に逃げ場が残されているようには見えなかった。
「アペカ様……どうして生きてらしたのですか……?」
 生きたまま焼き殺すという残酷な方法を前に、樹里は思わず目をそらしてしまう。しかし、戦闘中に
余所見をした隙を、炎の中にいた異形の少女は見逃さなかった。
 黒焦げの肢体がバッタのように跳び、火柱の高さを上回る。
「そんなバカな! あれだけ私の炎で焼いたのに!?」
 キララが叫び声を上げたときには、炎の中から跳躍したアペカが頭上に落下してきていた。地上の
視線を浴びながら、火傷をみるみる治癒させていき、そして嗤った。
「樹里、戦闘中に余所見はいけないわね」
 両眼を怪しく光らせながら、邪悪な嗤いを浮かべたアペカの両手に、鈍色の影が現れる。薄い円
盤状の金属で造られたそれは外周に鋭い刃を尖らせ、渦巻きのような曲線を描いていた。
 かん高い金属音を発する、草刈機の先端に付いている回転刃。
「なっ……!?」
 樹里も虚を突かれた形で、アペカを呆然と見上げるのみ。
 そんなことができるはずが無い、と根本的な疑問を表情が物語る。何も無い場所から金属製の刃
を出現させるなど、生物としての能力を遥かに超えている行為だった。
「当たると少し痛いわよ。頑張って回避しなさい」
 不可視の足場に着地したように、空中で静止したアペカの口が三日月に歪む。

447:人食い怪物vs巫女 ◆gRbg2o77yE
11/03/06 20:06:24.10 7p1Q4m03
 薄い凶器は両手の指数だけ生まれ、次々と樹里に向けて発射された。
 空気を切り裂き、異なる軌跡を描きながら飛来する草刈刃の半分は、横からキララが放った炎に
呑みこまれて吹き飛ばされていく。しかし、残る刃は次々と樹里の元に降り注いだ。
「くうっ! こんなオモチャなんか!」
 巨大な根を地面から起こして、樹里は飛来する刃を次々と叩き落していく。
 しかし、少し遅れて、糸が絡まるような水音が響き渡った。
「う゛ぐう゛う゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!」
 大振りになった根の合間を縫った一刃が、彼女の左脇腹から太股を掠めた。
 回転の勢いで耕された肌から繊維束のような組織が露出し、半透明の赤い体液が左足に伝い落
ちて、切断されてずり落ちた下着をじわりと濡らした。見開かれた樹里の瞳は苦悶の涙で溢れ、震え
る喉から悲鳴を漏らしながら、両手で必死に傷口を押さえ込んでいく。
「……う゛あ゛、あ゛……こ……これぐらい……どうってこと……」
 魔物とはいえ、皮膚を裂かれる苦痛に思考は掻き乱され、それが新たな隙を生んだ。苦痛に歪ん
だ樹里の目に、弾いた刃の1枚が、ブーメランのように戻ってくるのが映る。
「……あ……う、あ……」
 両目に薄い円盤を映しながら、樹里は立ち尽くす。激痛で掻き乱された思考は、迫ってくる凶器に
対して、身体を動かして回避できず、触手を動かすこともできない。
「い、や……!」
 無防備な乳房の谷間に、回転刃がドスリと突き刺さった。
 反動で肢体が地面から浮きあがり、地下に伸びた根がぼこぼこと掘り起こされる。
 刃の回転は刺さるだけで止まらず、縦方向に胸部を切り開きながら、頭部に向けて侵攻した。胸
から円弧を描いて体液と肉片が掘り起こされて飛び散り、噴水のように撒き散らされる。
 顎の手前で止まった刃に、口から溢れ出した体液が降り掛かった。
 瞳は、一瞬で焦点を失った。
 小さな身体はぐらりと傾いて、ゆっくりと崩れ落ちていく。
「どうしちゃったの樹里? 普段の貴女なら楽に回避できたでしょうに?」
 上空で微笑みを崩さないアペカに、白炎を噴いて飛翔したキララが並ぶ。
「おい糞デカ頭。キララ様に手品は通用しねーぞ」
「ええ? 種も仕掛けも無いけれど?」
 憤怒の表情のキララを眼球に映し、微笑みを浮かべる巨大な顔に、白炎の渦が炸裂する。


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