【腐女子カプ厨】巨雑 ..
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418:名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4)
16/04/06 21:15:29.39 d.net
 頼んだグラスシャンパンが出される。合わせて、ジンジャーエールもエレンの前に置かれた。軽く乾杯をしてからひと口飲む。シュワシュワした炭酸で頭が冴えてきた。
 テレビを見た時はモデルを引き受ければ良かったと後悔したが、本当にエレンで良いのだろうか、と疑問がわく。
 当たり前だがエレンは一般人だ。どこにだっている大学生で、リヴァイはやたらと目を褒めてくれるけれどそれだって人より少し大きな釣り目というだけだ。
 目力が強いとはよく言われる。でも目が大きければそんなことは必然で、ほかにも似たような人はいるだろう。
 それどころか、もっと良い人だってたくさんいるはずなのだ。
 リヴァイがエレンを選ぶ理由がないように思えた。エレンでなければならない理由が、エレンには分からない。
 素人を使うより、プロを使ったほうが撮影も楽に進む。
 何より、自分がリヴァイの世界に紛れ込むことで、彼の世界が汚れてしまうんじゃないかと恐怖すら感じてしまった。
 すっかり怖じ気づいたエレンはそれを素直にそのまま伝える。
「……お待たせさせてしまったのに申し訳ないです」
 リヴァイの期待する返答ができない自分が悔しかった。もっとエレンに自信があれば、喜んでと言えたかもしれない。
「……言いたいことはそれだけか?」
 そう尋ねたリヴァイどこか、覚悟を決めたような表情に見えた。
 シャンパンを口に含んで、喉を鳴らして飲み込む。
「いいか、よく聞け…………俺は、お前に一目惚れした。だからお前が一番綺麗だと思っているし、一番綺麗に撮れる自信がある。好きだと思った奴を撮りたい。自分の世界に入れたい。そう思うことは自然だろう? 他の奴じゃ駄目だ」
「え、」
「惚れたと言っても付き合えとは言わない。好きだ。撮らせてほしい」
 緊張しているのか、リヴァイの肩がわずかに震えていた。
 突然の告白にパチパチと目を瞬かせる。
 リヴァイに見えないようにカウンターテーブルの下で自分の手の甲を抓ってみると痛かった。夢じゃない。
 口説かれているみたいだ、と思ったのは勘違いじゃなくて、真実だった?
「え、は……? はああああ? なん、どういう……っ!」
「一度しか言わねえよ。こっぱずかしい」
 リヴァイもどこかぎこちない反応を大混乱中のエレンに返して暫く無言が続いた。

419:名無し草 (ワッチョイ 7326-Iq2g)
16/04/06 21:15:33.64 0.net
純愛の予感

420:名無し草 (ワッチョイ 7326-Iq2g)
16/04/06 21:15:48.80 0.net
あかんageまくりや

421:名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4)
16/04/06 21:15:55.29 d.net
 ピピピ! と調理場からタイマーが鳴っているのが聞こえる。
 頼んだ料理がそろそろ出来上がるのかもしれない。こんな状態で食べて味がわかるか不安だ。

「引き受けてくれないか」

 立ち上がって頭を下げるリヴァイにエレンはどうすれば良いのか真剣に考えた。
 教えていないので、リヴァイはエレンの名前も知らない。
 知り合ったばかりのおそらくかなり年下の男に告白をすることにどれだけ勇気と覚悟が必要だろうか。
 不思議と嫌悪感はなかった。
 エレンでなければならない理由もあった。
 断ろうと思った理由は自信がなかっただけ。
 嫌なことはハッキリと嫌だと言える人間だ。
 実際今までそうして自分の意志を相手に伝えて生きてきた。
 そのせいで衝突することも少なくなかったが、それがエレンだ。
 ならばもう答えは出ている。
「次の写真集だけでいい。頼む」
 リヴァイの頭は下げられたまま、今どんな表情をしているのかは分からない。
 でもきっと真剣だろう。
 真剣に自分を撮りたいと思ってくれている。
 好きな写真家の作品になれる。
 だからこそ緊張もするし、不安だって大きい。

(だけど、)
 こんなに光栄なことは他にあるだろうか。

「……


422:分かりました」 「!」  言ってしまったからには取り返しはつかない。リヴァイの覚悟に、エレンも覚悟を決めた。  リヴァイがやっと頭を上げる。目を丸くして、驚きと喜びが混ざったような、そんな顔だった。 「いいのか?」 「本当に、オレでいいのなら」  こくりと頷いて見せる。とても小さな声でありがとう、と聞こえた気がした。  目尻を下げて微笑んだリヴァイにエレンの胸が高鳴る。



423:名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4)
16/04/06 21:15:59.20 d.net
 これはなんだ。
 告白されたせいか、なんだか変に意識してしまっているのかもしれない。
 いまだに立ったままのリヴァイに座るように促してから、自己紹介をした。
 すると名前を褒められ、またドキドキしてしまう。
 タイミング良く出てきた料理を食べることでなんとか平常心を保ちながらエレンはリヴァイと会話を続けた。
 食べた料理はこの店のメニューをコンプリートしたくなるくらい美味しかったのでランチもディナーも外で食べる時は暫くこの店に来ることを決意した。
 それをリヴァイには言う余裕はなかったけれど。
 リヴァイは終始柔らかな雰囲気を出しており、エレンの返答にとても満足したことは確かだ。
 連絡先を交換した時もエレンの電話番号を登録した後に大事そうに自分の携帯電話を見た後で、エレンには「絶対に削除するんじゃねえぞ」と凄んできた。
「本当に引き受けてくれて嬉しく思っている。短期アルバイトとして契約書を書いてもらいたいから後日、俺の事務所まで来てほしい」
 聞けば、正式に書面で契約を交わすこと、撮影した日の分はしっかりと給料を出すと言われ、それならばと都合のつく日と時間帯をいくつか提示するとあっさりと来所する日取りが決まった。
 写真集の為の撮影なんてもちろん初めてのエレンはどれくらいの時間が取られるかは想像もつかない。
 今のアルバイトの合間にできるか心配になって尋ねるとできる限りエレンに合わせるが、リヴァイもスタッフも他の仕事もあるので多少は融通をきかせてほしいことを頼まれ、それには引き受けた手前、了承した。
 そうしているとエレンが家を出てからもう四時間も経っていた。そろそろ帰る時間だと、トイレに立つ。
 用を済ませて席へ戻ると支払いは終わってしまっていた。
「こういう時は収入の多い大人に任せるもんだ」
 けろりと言い放つリヴァイが少しだけ憎くなった。確かに大学生と社会人では収入は大きく違うが、支出だって違うはずだ。
 なんとなく腑に落ちない気持ちになって無言でリヴァイを睨むと頭をぐしゃぐしゃと撫でられた。完全に子ども扱いじゃないか。
「家まで送る。どっちだ」
「ち、近いのでそれはさすがに大丈夫です!」
 今度はリヴァイが不服そうな顔をする。言いくるめるのにかかった時間は十五分。なかなか粘られたほうだろう。

424:名無し草 (ワッチョイ 0bc8-RFax)
16/04/06 21:16:04.00 0.net
>>396
そういえばゲームのDLCはジェルしか着れないのけあれ

425:名無し草 (アウアウ Sa6f-G+K4)
16/04/06 21:16:13.84 a.net
>>402
ぺちぺちぺち

426:名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4)
16/04/06 21:16:24.87 d.net
 数メートル進んでから振り返るとリヴァイはまだ店の前でエレンを見ていた。見えなくなるまで見送るつもりらしい。
 お辞儀をすると手を振られ、エレンは携帯電話を取り出した。
 メールを起動させて登録したばかりのリヴァイのアドレスを選択する。

 『風邪引かないうちに帰ってくださいね。今日はごちそうさまでした。おやすみなさい』

 本文を入力して送信ボタンを押す。メールに気づいたリヴァイがそれを読んでいる間に走って逃げるように帰った。
 家を出た時と違って、とても気分が良い。今夜はぐっすり眠れそうだった。



2、
「おはようございまーす」
「今日はよろしくお願いします」
 テレビでしか見たことのない機材を持つ人々が行き交っていた。
 あれからエレンは約束通りにリヴァイの事務所でアルバイトの契約を交わし、元々働いていたアルバイト先に少しシフトを減らす交渉をした。
 タイミング良く大学は春休みに入り、自由な時間が増えたこともあって、そこまでシフトを減らさずに撮影にも当たれそうだ。
 リヴァイが春休みとゴールデンウィークに集中的に撮影を行う計画を立てて、今日はその初日の撮影の日だった。
 指示された時間に事務所へ行くと、控え室に連れて行かれて簡単に化粧をされた。ファンデーションで肌を整える程度だったが、生まれて初めての化粧だ。
 顔にペタペタと塗られる感覚に息苦しさを感じた。
今日のところは髪はそのままでいいらしい。自然な感じがいいのだそうだ。
 これから三ヶ月ほど撮影は続く。
 まずは近場からと廃ビルでの野外撮影と、白ホリスタジオを利用しての室内撮影をする予定だ。
 廃ビルでの撮影ではエレンがメインになるものもあれば、なんとなく誰かがいる程度にしか写っていないような写真も多く撮られた。
 休憩中に撮った写真を見せてもらうとリヴァイの作品作りに参加ができていることを急激に実感してわくわくしてくる。
 夢みたいな現実だ。
 ビルの使用許可が取れているギリギリまで撮影をした後、次はスタジオへと車で移動する。
 スタジオという場所へ行くのも初めてだ。
 一体どんなところだろうか。ドラマや漫画で見るような場所だろうか。
 気持ちが高揚して普段よりもテンションが高くなる。

427:名無し草 (ワッチョイ f395-imw8)
16/04/06 21:17:00.68 0.net
わいこの前はじめて日向夏買うたんやけど
同僚と話してたらわいだけイントネーション違ったは

428:名無し草 (ワッチョイ 9fd9-G+K4)
16/04/06 21:17:05.63 0.net
>>396
d諏訪部やなかったか
二個目は質問はなんなん

429:名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4)
16/04/06 21:17:17.85 d.net
 しかしそれもスタジオでの撮影が始まるまでだった。
 失念していたが、白ホリということはここで撮る写真はエレンがメインのものばかりなのだ。
 廃ビルとは違って、エレン以外には何もない真っ白な空間にわくわくが全て緊張へと差し替わる。
 緊張は如実に撮影に影響し、ガチガチに固まってしまったエレンは自分でもこれではリヴァイが思うような写真が撮れないことが分かってしまう。
「エレン、」
 見かねたリヴァイがエレンに声をかけて近づいてくる。
「上手くできなくてすみません…」
「そうじゃない。これを見ろ」
 そうしてリヴァイの持っていたカメラの液晶画面を前に出された。表示されていたのは廃ビルで撮った写真で、さっき見せてもらったのとはまた別のもの。伏し目がちにどこか遠くを見るエレンがアップで写っていた。
「綺麗だろう。気張らなくても大丈夫だ。ポーズや視線はこっちで指示する。絶対に良く撮ってやるから自信を持て」
 ぽんぽんと頭を撫でられるとそこからすっと緊張が解れていく。リヴァイに頭を撫でられるのは二回目だった。
 エレンの目にやる気が満ちる。
「よし、いい目だ。それを撮らせてくれ」
 リヴァイにずっと褒められていた目。両手で顔を隠して目だけ出したり、下から見上げる形でカメラを睨みつけるようなエレンの目力が強調される構図やポーズでの撮影が続いた。
 同じ構図でも色々と角度やライティングを変えてリヴァイの満足するまでシャッターは切られる。
最後に目のアップを撮られて、撮影は終了した。
 撮った写真を確認するリヴァイにしきりに綺麗だと褒められ、周りのスタッフもまた写真を見ると同様にエレンに賛辞を送ってくれた。
 スタジオでの撮影中、リヴァイはよく喋った。
 「いい」「そのまま」「もう少し腕を上げてくれ」「綺麗だ」「もっと睨めるか?」「今のは良かった」
 リヴァイがいない時に教えてもらったが、こんなに喋るのは珍しいらしい。
 もしかしたら緊張でガチガチになってしまったエレンを気遣ってくれていたのかもしれない。
「顔は怖いけど優しい人なんですよ」
 教えてくれたスタッフはそう言って笑っていた。
 この日の撮影の後は公園、車の中、プールなど色々なところに行った。
 スタジオもまた使用しては色々な小道具に埋もれたり、家具を使用したりと多種多様だ。

430:名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4)
16/04/06 21:17:22.01 d.net
 撮影の終わりにいつもその日の写真を少しだけ見せてもらうのが楽しみだった。
 やっぱりリヴァイの撮る写真はすごい。
 自分が自分じゃないみたいで、色んな意味で感動する。
 ぼーっと間抜け顔で立っていただけでもリヴァイの手にかかれば、物憂げに悩む美しい青年に変わる。
 人物を入れた写真を撮るのが初めてなんて嘘みたいだ。
 そんな、美しく世界を切り取るリヴァイという人間を知る度に、惹かれ、心を奪われてしまったのは必然だろう。
 リヴァイは優しかった。
 それはエレンだけにではなく、スタッフにもスタジオの管理人にも、誰にでもだ。
 仕事もキッチリこなすし、周りの迷惑になるようなことは絶対にしない。
 なんて怖い人だと恐怖し、不審がっていたのが遠い過去に思えた。
 こうなると気になるのはリヴァイの気持ちだった。
 モデルになってほしいと頼まれた日以降、彼の口からエレンに好意を示す言葉は出ていない。
 今もエレンを好きでいてくれるのか。気持ちが変わらないのなら両思いのはずだ。
 エレンのことが好きだから、一番綺麗に撮れると言っていた。
 リヴァイが撮るエレンは本当に綺麗で、それが変わらずに好きでいてくれている証と思ってもいいのだろうか。
 自惚れてしまいたい。
 リヴァイのことを考えるとぽかぽかと体が温かくなった。

 撮影は野外よりもスタジオで行うことが多く、この日はシャワールームで撮影をする為にハウススタジオの一階を借りている。
 シャツをはだけさせ、肩を出した状態で浴槽に腰掛けたり、逆に服をすべて着込んだまま浴槽に入ったり。今日もシャッターは次々と切られていく。
 浴槽には半透明のシャワーカーテンがついていて、そのカーテンを締めた状態でそこにうっすらと見えるシルエットの撮影をしていた時だった。
「うわ! え、な、ええ?」
 設置された水道管からいきなり水が溢れ出してきた。
 蛇口には触れてもいない。瞬く間にエレンは水浸しになり、その冷たさに声を上げた。
 カーテンを開けて逃げようとも考えたが近くには撮影機材が置いてある。

431:名無し草 (ワッチョイ 9fd9-G+K4)
16/04/06 21:17:48.55 0.net
DLCて早売り買っても九日からしか使えんのやろか

432:名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4)
16/04/06 21:18:05.50 d.net
 自分が濡れるのはいいが、機材が濡れることがあってはならない。
 ここは自分がなんとかすべきだと判断し、水が出ている箇所を手で抑える。
 水漏れ(というレベルの出方ではなかったけれど)が起きていることはきっとみんなすぐにわかるはずだ。機材を避難させるまでは濡れても構うものか。
 だが、エレンの思いもむなしく、カーテンはすぐに開けられた。シャー!と勢いよくカーテンレールが滑る音と共にリヴァイが姿を現したのだ。
「機材が…!」
「もう近くにはない。いいからお前も早く離れろ」
 開いたカーテンの向こう側を見ると、確かに水がかかってしまう範囲から機材は既に撤収されていてエレンはほっと胸をなで下ろす。
「でも、リヴァイさんまで濡れることなかったのに」
 声を出して呼んでくれれば出ていけた。
「それがお前を心配するなという意味なら却下だな」
 勝手に体が動いたのだと、苦笑される。
 水道管を抑えていた手を取られて、浴槽から出るように促されれば、遮るものがなくなった水はエレンとリヴァイを容赦なく濡らした。
 水も滴るいい男、という言葉がエレンの脳裏をよぎる。しかも白いシャツを着ていたせいで濡れた部分がうっすらと透けており、大人の男の色気を感じる。
 エレンはその肉体に目を輝かせた。
 着痩せするタイプであったことを初めて知った。
 透けて見える筋肉の付き方がすごい。ひょろっとしたエレン自身の体とは比較にもならない。
「なに見てんだ。タオルもらって早く体を拭け。こんなもん素人じゃどうにもならん。管理人に連絡して業者を呼ぶ」
 突然のアクシデントにもほぼ慌てることなく対処するリヴァイを尊敬の目で見る。
 当然のことなのかもしれない。
 でも自分がいざこの状態になったら落ち着いて対処できる自信はない。
 リヴァイはスタッフに渡されたタオルで濡れた髪の滴を拭いながら携帯電話を片手にスタジオの管理人へ連絡していた。
 管理人常駐のスタジオではなかったが、リヴァイからの連絡をもらうと管理人はすぐに水道整備の業者を呼び、自らも来てくれるとのことだった。
 管理人はすぐ近くの別オフィスにいるらしく、到着までに五分ほど要する。
 特になにかをしてほしいという指示もなく、ただ安全なところで待っていてほしいと言われたとリヴァイがその場にいた全員に伝えてきた。

433:名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4)
16/04/06 21:18:09.53 d.net
 撤収の準備をしている間に管理人は到着し、それから間もなく管理人が呼んだ業者もやってきた。
 エレンは濡れた衣服を着替えて、髪を乾かし終えると帰宅の許可が降りた為、ほかのスタッフよりもひと足早くスタジオを出ることになった。
「今日はすまなかった」
「そんな! 大丈夫ですよ。お疲れさまでした。またよろしくお願いします」
 申し訳なさそうに頭を垂れるリヴァイにぶんぶん首を横に振る。
「また連絡します」
「ああ、次も頼む」
 リヴァイもこの頃にはもう着替えてしまっていて、エレンは少しだけ残念に思う。
 実はエレンは筋肉フェチなのだ。リヴァイの筋肉を見て目を輝かせたのはそのせいで、ひどく憧れた。いい腹筋してるんだろうな。触ってみたい。
 このことで、余計にリヴァイへの想いに火がついてしまったのは言うまでもない。
 業務連絡以外でリヴァイからメールや電話がくることはほとんどないのに携帯が鳴るのが待ち遠しくなった。
 暇さえあれば携帯の画面を見て、リヴァイから連絡がないかと今か今かと待ち続ける。
 メール着信があったかと思えばメルマガだったり、友人からの遊びの誘いだったりで、落胆することが増えた。
 自分の気持ちを自覚すると、やはり相手を独り占めしたくなるのが人間というものだろう。
 一度告白されているせいでその想いは余計に膨れ上がった。
 次会えるのはいつだったかな、とスケジュール帳を確認すると三日後だ。
 先日は水のアクシデントがあったけれど、そんなアクシデントはそうそうあるものでもない。
 撮影自体は順調で、もう半分程度が終わっていて、次の撮影は泊まりで郊外へ行く予定だ。その打ち合わせが三日後。

434:名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4)
16/04/06 21:18:34.43 d.net
 スケジュール帳を確認していると、つきっぱなしだったテレビに幸せそうなカップルがカメラの前でお互いの仲の良さを見せつけている様子が映し出された。
 エレンは音がない空間が苦手で、家にいる時ならばテレビは常についていた。なにか見ているわけではない。
 ただなんとなくつけて流しているだけ。今、リヴァイと一緒にいられるのも、あのニュースが流れた時にこうしてテレビをつけっぱなしにしていたお陰だからこの習慣も捨てたものではない。
 テレビに映っているカップルの映像に、エレンは簡単に触発された。
 二人はとても幸せそうで、きらきらした瞳で笑いあっている。
 自分もリヴァイとこんな関係になりたい、と思うことに時間はかからなかった。



 打ち合わせが終わった後、エレンは早速、告白をする為にリヴァイを呼び出した。
 まだリヴァイには事務仕事が残っていたので、場所は事務所の近くの喫茶店だ。
 いまだかつて彼女がいたこともなければ告白をしたこともない。
 メールや電話で言ってしまえば簡単だったかもしれないけれど、
 それでは自分の好きという気持ちがちゃんと伝わるかわからないし、すぐに返事がほしかったからちゃんと本人を目の前にして自分の気持ちを告げることを選んだ。
 付け加えて、あんなに自分を綺麗に撮ってくれるのだから、きっとまだリヴァイもエレンを好いていてくれているだろうと踏んでいたことも直接告白をしようと思った理由のひとつだ。
 夕方から夜に変わる時間帯で、店内はまばらに客がいるだけ。

435:名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4)
16/04/06 21:18:38.66 d.net
 店員に通された席も前後左右に他の客が座っていることもなく、店の角席でちょうどよかった。
 リヴァイは紅茶を、エレンはレモンスカッシュを注文して、それぞれ何口か飲んでいる。
 いざ、告白するとなると少しばかり緊張する。リヴァイもこんな気持ちだったのだろうか。
 それとも先にエレンの気持ちもわからないまま告白したリヴァイはもっと緊張しただろうか。
 今から言うことがリヴァイを喜ばせる内容だといい。
 そもそもそうじゃなかったら、きっとエレンは気まずさに撮影を続けることはできない。
 だから、どうか。
「リヴァイさん、」
 テーブルの下、膝の上に置いた手のひらを握った。
 本当は目を見て伝えたいけれど、エレンにそこまでの勇気はない。
「どうした? なにか撮影に不満でもあったか?」
 わざわざ呼び出して伝えたいことがあると言ってきたエレンにリヴァイは心配そうな顔をしていた。
 持っていた紅茶のカップをソーサーの上に置いて、エレンの言葉を待っている。
「そうじゃなくて、あの、」
 いきなり好きです、と言えばいいのか。それとも少しは前振りがあったほうがそれらしいのか。
 悩んで悩んでエレンは前者を取った。まどろっこしいのは性に合わない。
「好きです。撮影、とか……してたら、リヴァイさんのこと好きになりました」
「………………っ、」
 この時、エレンが顔を上げて告白していれば気づいたかもしれない。
 しかしエレンは俯いたまま、もっと言えば目を閉じてリヴァイの表情を見ないままだった。
 だからエレンは気づかない。告白を受けたリヴァイの顔が一瞬青冷めたことに。
 驚きで表情が抜け落ちたことに。
「……あの、なので、まだリヴァイさんがオレを好きだと言ってくれるなら、付き合いません、か…………?」
 エレンの言葉はまだ続いた。
 緊張しつつも心の片隅ではイエスをもらえると思っての告白だ。
 緊張はしても不安は少ししかなかった。
「…………」
「リヴァイさん?」
 なかなか反応をしないリヴァイに焦れて、閉じていた瞼をそっと開いて、様子を窺う。
 視界に入ったのは驚きに目を丸くしているリヴァイだ。その表情からはなんとも感情が掴めない。
「……そう、だな。突然だったから驚いた」

436:名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4)
16/04/06 21:19:05.70 d.net
 エレンが顔を上げたのをきっかけに、リヴァイもやっとそのひと言を返した。
「嬉しい、と思う」
「本当ですか……!」
 テーブルに身を乗り出して、リヴァイに詰め寄る。
 気持ちが受け入れられた、リヴァイも同じ気持ちだった、とエレンの表情は明るくなった。
 一方でリヴァイはまだ信じられないものを見る目でエレンを見ていたが、両思いになったことが信じられないのだろうとごく自然にそう思った。
 それが、間違いだとは気づけなかった。
 さっきまでの緊張が嘘のようにエレンは途端に生き生きとし出す。
「オレも嬉しいです。リヴァイさんのこと好きになれて同じ気持ちになれて」
「ああ、……じゃあ、付き合うか。あー……それで、今日はこれが言いたかったのか?」
「はい、好きだって思ったらいてもたってもいられなくて、仕事が残っていたのにすみませんでした」
 にこにこと笑うエレンにリヴァイもぎこちない笑みを返してくる。
 表情筋が仕事をしないのはいつものことだ。特に気にとめることもしなかった。
 告白の答えを聞けて安心すると急に喉が乾く。レモンスカッシュをストローで一気に飲み干した。リヴァイは腕時計を見ている。
「時間大丈夫ですか?」
「そろそろ戻らないとだな……送ってやりたいが今日もできそうにない。悪い」
「いいえ、むしろありがとうございます。帰ったらメールしますね!」
 話も終わったし、飲み物もなくなった。リヴァイも仕事が残っていることだし、帰ったほうがいいだろう。
 見るとリヴァイの紅茶は殆ど減っていなかったが、彼が席を立って荷物を持ったのでエレンもそれにならう。
 会計を済ませて、喫茶店を出た。
「気を付けて帰れよ」
「はい、リヴァイさんもあまり遅くまで頑張りすぎないようにしてください」

437:名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4)
16/04/06 21:19:09.76 d.net
 目線より少し下にあるリヴァイの目を見る。抱きついてみてもいいだろうか。男同士だし、外だからまずいか?
 でもせっかく付き合いだしたんだから触れたい。
 別れの言葉を交わしてもエレンはうーんうーんと悩み、立ち去ることができなかった。
 ふう、とリヴァイが息を吐く。
 エレンの心情を察したリヴァイの腕がエレンの背に回って軽く引き寄せられた。ぽんぽんと背を叩かれる。
 熱い抱擁とまではいかなかったが、それはエレンの望んだものだった。
 わずかに触れるリヴァイの体は震えている。
「緊張する、な……」
「はは、らしくないですね」
「じゃあ、またな」
 最後に頭を撫でられて、体が離れる。小さな触れ合いだったが、満足したエレンは今度こそ笑顔で帰って行った。
 周りは太陽が沈み、暗くなっている。ビルの明かりはあるとは言え、普段から表情の変化に乏しいリヴァイの暗く悩むような面もちに、最後までエレンは気づくことはなかった。



3、

 予報は雨のち曇りのはずだった。晴れることを願って車に乗り込んだのは何時間前だろう。
 目的地に近づくにつれて、空から雲は消えていき、とうとう着いた頃にはエレンたちの頭上には晴天が広がっていた。太陽が眩しい。予報は嬉しくも大ハズレだった。
 一泊二日での泊まりの撮影。これで撮り終わらないとなるとまたやってくることになる。
 よくあることではあるものの、それはできれば避けたいとリヴァイが言っていたので、エレンは前日に年甲斐にもなくてるてる坊主を作り窓辺にぶら下げていた。
 リヴァイと付き合うことになってから、約一週間。

438:名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4)
16/04/06 21:19:43.07 d.net
 今日まで会える予定はなく、代わりにエレンはメールや電話で会いたい気持ちを発散させた。
 おはよう、から始まり、おやすみなさいで終わる。
 なんでもないようなことでもリヴァイと共有したかったし、リヴァイはこれを聞いたらなんと言うだろうと反応が気になった。恋の力は大きい。
 電話はリヴァイからメールの返信がきた時にすかさずかけた。
 出られない時はメールしかできない旨のメールがエレンの着信の後に必ずある。律儀な人だ。
 メールの返信はだいたいが相槌ばかりで、なにかリヴァイから話題を提供することはない。
 電話でも同じだった。
 それでも話を聞いてくれるだけで嬉しい。
 改めて年齢を聞けばリヴァイはエレンの十歳も上だった。
 年が離れているので、当然同年代と接する時とは違うだろう。
 出会ってからの時間は短くともリヴァイはエレンと同じく嫌なことは嫌だとハッキリ言うタイプであることも知っている。
 言葉遣いから、そのハッキリした物言いは時にきつく感じることもあるが、相手を傷つけようとしていることではなく、ただ不器用なだけだ。
 そんな不器用なところも好きだと思うひとつの理由になっている。
 続かないメールや会話に少しの不満や寂しさはあったけれど、元々口数は少なく、さきほども言ったように言葉遣いも乱雑であるリヴァイに今以上を求めることはしてはいけないだろう。
 そんな中で待ちに待った撮影だ。リヴァイに会える。
 しかも撮影の間はリヴァイはエレンだけを見続ける。
 その上、泊まりでてるてる坊主まで作った。成功させたい。
 成功して、もっとリヴァイとの仲を親密なものにしたかった。
 小さな湖のある森に隣接したペンションが今夜の宿で、着いた早々に撮影には入らず、各々与えられた部屋に荷物を置いて昼食をとったのちに、準備が整ってから撮影を始める運びだ。
 そこまできてエレンは一人、不満の声を上げていた。
「え、オレ一人部屋なんですか?」
 ペンションは小さい。スタッフの数も多いとは言えないけれど、その殆どが二人〜三人部屋だった。
 エレンはひっそりと期待していたのだ。
 付き合うようになったのだから、もしかしたらリヴァイと同じ部屋かもしれない、と。
 現実はリヴァイもエレンも一人部屋。エレンの願望は叶うことはなかった。

439:名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4)
16/04/06 21:19:47.09 d.net
「俺は部屋でもやることが多いからな。自分でできることは自分でやりたい。隣で仕事をされると同室になった奴が休めないだろう」
「オレはそんなこと気にしません」
「俺が気にする。お前はバイトとは言え、俺が撮らせてくれと頼みこんだモデルだ。VIP待遇を喜べ」
 付き合ってるのに、と続けようとした言葉は声になることはなかった。
 リヴァイが真剣にこの撮影に挑んでいることを知っていたし、不器用なリヴァイなりの気遣いを無碍にすることはできない。
 もしかしたら隣で眠れるかもしれない。いつもよりも長く一緒にいられるかもしれない。そう期待した心が少しだけ折れた。
(リヴァイさんは仕事だし、仕方ねえよな)
 一人で与えられた部屋に入る。一泊分の荷物なんてそう多くない。
 エレンはモデルなので、機材を準備することもなく、部屋へ入って持ってきたボストンバックをクローゼットに押し込んでしまえばやることがなくなってしまった。昼食の時間と指定された時間までまだ三十分もある。
 どうしようかと考えたが、特にやることも見つからず、結局携帯にダウンロードしていたアプリゲームでその三十分を潰した。
 その後、ペンションの管理人が用意してくれた弁当を食堂で食べ終わると、撮影をするために全員で森へと入る。
 四月も終わる頃で緑が綺麗だった。
 晴れてくれたこともあって今日の撮影も順調だ。
 エレンの衣装は上も下も真っ黒なシンプルなTシャツとパンツ。
 時々裸足になって緑の中に立った。
 暗くなるまで続いた撮影が終わったのは夜の八時も過ぎた頃。
 それから昼同様に食堂で夕食をとってあっと言う間に解散となった。
 大浴場のような共同風呂もあったが、エレンはなんとなく部屋に備え付けてある風呂に入り、一日の汚れを落とす。足の裏は特に念入りに洗った。
 その都度タオルで拭いていたし、ペンションに戻ってからも簡単には洗ったが、森の中を裸足で歩いたので洗うにこしたことはない。
 地面に寝ころんだりもしたので、頭もよく洗う。
 風呂から上がれば石鹸のいいにおいがエレンを包んでいた。
 このペンションのアメニティの石鹸は安物ではなかったらしく、風呂上がりの髪はいつもよりもふわふわで触り心地も良くなっている気がする。
 ドライヤーで乾かした髪を自分で触れて、エレンは満足気に笑った。

440:名無し草 (スプー Sd9f-G+K4)
16/04/06 21:20:02.61 d.net
マルロ大丈夫やろか

441:名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4)
16/04/06 21:20:16.35 d.net
 パジャマ用に持ってきたシャツとスウェットのズボンをはいて、スリッパを引っかける。部屋の鍵を持って、ドアを開いた。
 カードキー型のオートロックキーだから鍵を閉める作業はしなくてもいい。
 向かうはリヴァイの部屋。部屋番号は昼の間に本人に聞いている。
 行ってもいいかとは聞かなかったけれど、駄目だとも言われていない。
 少しくらい、行ってもいいだろう。
 コンコンコン
 リヴァイの部屋はエレンの部屋と同じ階の一番端だ。
 ズボンのポケットに持っていたカードキーを入れて手ぶらになったエレンはその部屋のドアをノックした。
「エレンです。今、大丈夫ですか?」
 声をかけるとこちらに近づく足音が聞こえて、ガチャリと鍵が外されドアが開く。
「……なんだ」
 開いたドアを足で止めて、リヴァイがエレンを見る。
 彼は宣言通り、パソコンでなにか作業をしていたようだ。ドアが開いた先にノートパソコンがあり、リヴァイは眼鏡をかけていた。
「明日は早朝からだから早く寝ておけ」
 そう言って眼鏡を外して、眉間を二、三度揉む。
 早く寝なければいけないのはリヴァイのほうではないだろうか。
 エレンから見ても彼が疲れを感じているのは明白だった。
「はい、でも、えーと、」
 ここにきたのにはあることをするためだ。でも自分からは言いにくい。
 リヴァイの作業も中断させてしまったし、できるだけ早く済ませたい。
 眼球がきょろきょろと左右に動く。しかしエレンがためらったのはその一瞬だけだった。
 ええい、言うより悩むより行動だ。それが自分のいいところのはず。
「失礼します!」
 リヴァイの身長はエレンよりも低い。
 肩は掴みやすかった。
 なぜ肩を掴んだかって。
 それはリヴァイの体を固定するためだ。
 なぜ固定するのかって。それは……。
「っ、」
 その時、息を飲んだのはエレンかリヴァイか。
 肩を掴んだエレンはそのまま自分の顔をリヴァイの顔に近づけた。
 時間にして一秒ほど、二人の唇が重なって。離れる。
「……へ?」
 先に声を出したのはエレンだった。
 キスをした、はずだった。
 自分はリヴァイに、おやすみのキスをねだりにきたのだ。
 結果はねだれずに、半ば強引に唇を奪ったのだけれど。

442:名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4)
16/04/06 21:20:20.82 d.net
 付き合ってから、エレンにとっては生まれて初めてのキスだった。
 ファーストキスはレモンの味、なんていうのは今はもう古いのか。レモンかどうかはわからなかった。わかる前に、離れてしまった。
 離したのはリヴァイで。
 唇が重なった瞬間、リヴァイは力づくでエレンの体を引きはがした。突き飛ばすにも近いそれにエレンはバランスを崩して一歩後ろへ下がる。
 なんだ。この反応は。これではまるで。
 ……その先は考えたくなかった。
「いきなりだったから、だ。もう少し自分を大切にしろ」
 ごく自然にリヴァイは袖口で唇を拭った。その腕は下ろされることなく、リヴァイの唇をエレンから隠してしまう。リヴァイも動揺していた。
 でもエレンはもっと意味がわからない。
 あからさまな拒絶に見えた。ぱちぱちと瞬きをして、表情がごっそりと抜け落ちる。
「いえ、すみません。おやすみの、キスとか、……ちょっと憧れてて、はは」
 ははは、と声を出しながら、顔は全く笑えていなかった。
 一歩引いてしまった足を元の位置に戻す。その一歩分、リヴァイとの距離が近くなる。そこで、エレンはまた見てしまう。理解してしまう。目の前の男が、近づいた分だけエレンから距離を取った。
(なんで、)
 問いたい言葉を飲み込む。
「おやすみなさい」
 代わりに就寝の挨拶をした。今度はちゃんと笑顔で。キスはしない。これ以上近づかない。笑顔で手を振るだけだ。
「あ、ああ。また明日」
「明日、もしオレが寝坊したら叩き起こしてくださいね」
 迷惑はかけたくないんで、と付け足して言う。
 そこにいたのはもう普段と変わらないエレンだった。本当はなんでと問いただしたいのを我慢して、いつも通りの自分を心がけた。
「リヴァイさんも早く寝てください」
 リヴァイにはどんな自分に見えただろう。そんなことも考えたが、これ以上はこの場にいるのが苦しい。
 もう一度、「おやすみなさい」とできる限り明るい声で挨拶して自分の部屋へ走り帰った。短い距離の廊下を走りながら片手でポケットに入れたカードキーを探る。
 部屋の前に立つと、ガクガクと体が震えてきてカードキーを落としてしまった。ゆっくり膝を折ってそれを拾う。重力に負けて目からなにか出てきそうだ。
 

443:名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4)
16/04/06 21:20:46.56 d.net
 カードキーを差して、ドアを開く。電気は消したまま一直線にベッドまで歩き、倒れ込むように横になった。
 もぞもぞとシーツにくるまる。
(本当は、気づいてた)
 でも、気づかないようにしてた。この一週間。
 都合よく、言い訳をつけて、見ない振りをしていただけだ。
 両思いだった、と喜んだのはつい最近。
(そういえば好きだとは言われなかった)
 付き合うか。と言われただけ。
 メールの返信も、電話も、思い描いていたようなものではなかった。
 テレビに映っていたカップルはもっと距離が近かった。
(オレは遠ざけられた)
 好きな相手とのキスをあんなにふうに拒むだろうか。
 キスした唇を無意識に拭うだろうか。
 これ以上キスされないようにと自分の唇をガードするだろうか。
 最初に一目惚れをした、と言ったのはリヴァイだったのに。
 一緒に撮影をする中で嫌われてしまったのかもしれない。
 告白してしまった手前、エレンの告白を断れば撮影できなくなるかもしれないと危惧されたのかもしれない。
 自分を好いてくれていると思った理由は綺麗に撮ってくれたからだ。
 それだって、リヴァイのカメラマンとしての腕がいいだけで、できて当たり前のことなのかもしれない。
 だって、普段から何でもない世界をあんなに綺麗に切り取るのだから。
 そこにエレンが入るか入らないかの差でしかない。
 しっかりと考えればわかったこと。それを自分は調子に乗って。
 そうだ、そもそも一目惚れなんて姿形だけを見た時の感情だ。
 中身を知ればいくらだって気持ちが冷める可能性はあった。
 キスなんてするんじゃなかった。せめて撮影がすべて終わるまでは甘い夢を見たかった。
(でもまだ本人から言われるまでは信じたい)
 そう思うのは我が儘だろうか。



「そろそろ起きてくれ」
「……?」
 ぼんやりとした視界の中にリヴァイが見えた。もう朝なのか。いつ寝たか記憶にない。

444:名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4)
16/04/06 21:20:50.53 d.net
(今日もリヴァイさんは整った顔してるなぁ……)
 いっそ自分なんか撮らずにリヴァイをモデルにしたほうがいいんじゃないか。ああ、自分で自分を撮ることは無理か。もったいない。
 寝ぼけた頭で、エレンはそんなことを考えてふわりと笑った。
「幸せそうな顔をしているところ悪いが、そろそろ出ないと間に合わない」
リヴァイが布団にくるまったエレンを揺する。体が動くと頭が冴えてきた。
「……! え、あ、…………え? リヴァイ、さん?」
「おはよう、エレン」
 日が昇る前で外はまだ暗い。跳ね起きてベッドサイドの時計を確認すると時間は早朝の四時前だった。寝坊したかと思ったが、そこまで寝過ごしてもいない。
「な、なんでここに?」
「マスターキーを借りた。起きたらいつもメールが来るのに今日はなかったからな」
 エレンの問いに簡潔に答えたリヴァイはベッドに腰掛けて、リヴァイの重みの分、ギシ、とスプリングが鳴ってベッドが沈んだ。昨晩のことを思い出して、気まずい。
 できる限り考えないようにしなければ。
 リヴァイの態度は恋人らしくはないけれど、決して嫌いな者へのそれとも違う。良くも悪くも普通だった。
 昨晩のことは夢だったのかもしれないと、都合のいいことを考えながらベッドから起きあがって洗顔と歯磨きを済ませる。
 洗面台で見た頭には寝癖はついていなかった。どうせ撮影の前に少しだけ整えられるのだ。くしで簡単にとかすだけにしておく。
 リヴァイが部屋にいるまま、エレンは前日の内に渡されていた衣装に着替えだす。昨日は真っ黒な衣装だったが、今日は反対に真っ白だ。
 シャツの裾が長めに作られていて、ヒラヒラしている。天使のような衣装だった。そこにまた真っ白なストールを首に巻く。

445:名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4)
16/04/06 21:21:19.09 d.net
 着替えている間、リヴァイの視線はずっとエレンに向けられたまま。
 顔を洗って頭がハッキリしてきたエレンはそこでふとした違和感に襲われた。また気づいてしまった。決して気づきたくなかったのに、また。
(……好きな相手が目の前で着替えてたら多少はこう、なんか、むらっとくるよな、)
 エレンは水に濡れたリヴァイにドキドキしたことを思い出す。リヴァイは眉ひとつ動かさずにエレンが着替え終わるのを待っている。
 その姿はただのカメラマンだ。恋人ではない。
 なんの反応もされないということは、エレンを全く意識していないのだろう。
 一方通行になってしまったかもしれない気持ちの整理はまだつかない。
 だってまだ昨日気づいたばかりだ。しかもつき合ったのだって最近のこと。
 なにか、ほんの僅かにでもリヴァイが焦るような仕草をしてくれていたのなら、エレンはまだ信じることができるのだ。
 それなのに、思う通りにならない現実に奥歯を噛み締める。
 準備が終わり、リ


446:ヴァイと共に部屋を出てペンションのロビーへ向かう。そこにはもう他のスタッフは全員揃っていた。  その場で簡単に化粧を施され、髪を整えてから、まだ真っ暗な森の中へ入っていく。  空に雲はない。一昨日雨だった予報は昨日晴れに書き換えられていた。  きっと綺麗な朝日が見られるはずだ。  湖畔まで移動してから、暗がりの中で撮影の準備を行う。  リヴァイはカメラのチェックに余念がないように見えた。  エレンはリヴァイが作った絵コンテを確認して頭に叩き込む。  こんなに早く撮影の準備を行っているのは朝日を撮る為だ。  日の出は一瞬。その一瞬を自分のせいでシャッターチャンスを逃すことはあってはならない。  日が昇っていない湖畔は寒かった。  ぶるりと震えたエレンにスタッフがブランケットを貸してくれたが、体が温まる前に遠くが明るくなってくる。  合図もなく、それが当たり前のように撮影が始まった。  時々、リヴァイに指示を受けながら、立ち位置やポーズ、視線を変える。  シャッターは止めどなく押されていき、チラリとリヴァイを見ると口元が綻んでいた。  いい写真が撮れたのだ。  その時、強い風が吹いた。  首に巻いていたストールが後ろへなびき、エレンは振り返ってその先端を目で追いかける。



447:名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4)
16/04/06 21:21:23.35 d.net
 リヴァイのカメラがカシャカシャと連続して鳴った。
 その音が鳴り終わるとリヴァイはカメラから手を離す。

「一旦休憩にしよう」

 エレンにもその言葉は届いていたが、足がその場から動かなかった。なぜかは自分でもわからない。
 ただ、なんとなく。その場にしゃがみこんで、朝日できらきらと光る水面を見つめた。
 ひんやりと冷たい空気に包まれて、感じる太陽が暖かくて気持ち良い。
「寒かっただろう。風邪をひく」
 背後から誰かくる気配がして、上から声が降ってきた。
 振り返るとリヴァイがブランケットを持って立っている。
 それ以上言葉を発さずに前方に回り込んできたリヴァイは、地面に膝をついてエレンと視線の高さを合わせ、持っていたブランケットをエレンの肩にかけた。
「……はい、」
「はいじゃねえだろ」
 外に出ていて誰にも使われていなかったブランケットは撮影前に羽織っていた時よりも冷たく感じる。
「じゃああっためてくださいよ」
「なに言ってんだ」
 頬を膨らませてエレンがぼやく。それを聞いたリヴァイが笑った。いい写真が撮れて機嫌が良い。
 ああ、やっぱり好きだなぁ。
 目の前の男に対する自分の気持ちを再確認させられた。
 でもこれ以上はリヴァイには近寄らない。彼が嫌がることはしない。
 こんなに近くにいるのに、なんて遠いんだろう。
 エレンからは決して縮められない距離を、今度はリヴァイが詰めてきた。
(また、この顔、)
 今までに何度か見たリヴァイの表情。なにかを決心して覚悟したような、そんな顔だ。
 深く息を吸ってからぎゅっと唇を一文字に結んでいる。
 今回近づいたのはエレンからではないのにこんな顔をさせてしまうなんて。
(もうこの顔は見たくない)
 瞼を閉じて、そっと視界をシャットダウンした。
 唇に柔らかく湿っぽいものが触れて、離れる。
「ん……?」
 さっき閉じたばかりの瞼を持ち上げると、リヴァイの顔のアップが眼前に広がっていた。
 じゃあ今唇に当たったのは、もしかしなくてもリヴァイの唇か。

448:名無し草 (ワッチョイ 13b8-G+K4)
16/04/06 21:21:36.02 0.net
>>312
風呂入ってたで
この場で状況を大きく動かせる存在といえばゆみうよな
土壇場で来てくれるとおもろいんやけど

449:名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4)
16/04/06 21:21:49.94 d.net
 キスされたことを疑問に思うよりも先に、リヴァイはあんな顔をしないと自分とキスもできないことに気づいてしまう。
 好きでもない男とキスするなんてエレンだって御免だ。
 絶対にしたくない。それをさせてしまったのは仕事のためか、昨晩の償いのつもりか。
 どちらにせよ、このキスでエレンは確信した。
(本当にもう、好きじゃないんですね)
 昨日思った通りだった。
 痛い痛いと心臓が悲鳴を上げている。
 なんで気づいてしまったんだろう。
 なんで好きになってしまったんだろう。
 リヴァイみたいな人に好きだと言われれば意識しないなんて無理だ。仕方ない。
 飽きられてしまったのは自分に魅力がないからだ。
 それでも笑いかけてくれる。関係を良好に保とうと努力してくれる。
 これにエレンは応えなければならない。
「ほんっと、寒いですね」
 ぶるりと震えてから身を縮こまらせてしまえばリヴァイが半歩分離れた。
 不自然にならないようにそっと距離を取る。
 エレンの傍にいては不愉快だろう。不愉快の原因にはなりたくない。気遣わせたくない。
「休憩っていつまでですか?腹減りました」
 わざとらしいほど明るい声を出した。準備のいいリヴァイのスタッフたちのことだからそう大きな声で言えば聞いた誰かが菓子を出してくれるかもしれない。
 その予感は的中して、「クッキー持ってるからおいでー!」と手招きしてくれるスタッフへとエレンは駆け寄る。
 リヴァイはその後をゆっくりとした歩調で追いかけた。



 それから、エレンは恋人らしいことをリヴァイに望むことをパッタリとやめた。
 別れてほしいとは言われなかったし、エレンからも言えなかった。
 代わりにプライベートでリヴァイに関与しないように言動を改めた。

450:名無し草 (ワッチョイ 0bc8-RFax)
16/04/06 21:21:50.14 0.net
>>412
なんか1回しかDLできないとか見た気がするんやけど
早売りの人は気をつけた方がええかもな

451:名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4)
16/04/06 21:21:55.34 d.net
 好き合ってもないのに、付き合う意味があるのかと考えて何度か別れましょうとメールを作成したけれど、送信することはできず、未送信のままエレンの携帯電話に溜まっていく。
(だって。付き合っていればまたオレを好きになってくれるかもしれない)
 そんなことあるわけない。この関係を望んだのはエレンだけだ。
 リヴァイは早く自由にしてあげなければならない。分かっているのに、できなかった。
 だからせめてリヴァイの気苦労が減るように。
 前よりも真剣に(前も真剣だったけれど)撮影に打ち込む。リヴァイとの距離は常に一歩あけた。
 そのことを意識した状態でいると、不意にリヴァイから近づいてきた時にビクリと体が跳ねてしまって、そういう時は大体、咳をして誤魔化す。
 エレンをモデルにして良かったと思われたくて。仕事の汚点にはしたくなかった。
 カメラマンとモデルの関係が拗れるといい写真を残すことは難しくなる。もうしてはいけないことをたくさんしてしまったから、これ以上は失敗できない。
 名前だけの『恋人』を見るたびに痛む胸に気づかないふりをして、自分の気持ちに蓋をした。
 そんな努力の甲斐あって後半の撮影では撮影終わりによく食事に誘ってくれた。
 勘違いでなければ、撮影中に頭を撫でてこようとしてきたこともある。
 伸びてきた腕は上手に避けてしまったが、警戒が解けてきていたことは確かだと思う。
 エレンは間違っていなかった。
 そうだ、間違っていなかった。その事実がエレンに牙をむく。牙は深くエレンの心臓を抉り、傷つけていく。
 もうきっとこれは抜けない。日々ゆっくりと深く突き刺さり、いつか心臓を食い破ってしまうだろう。
 今はそれが撮影がすべて終わった後だといいな、と願うばかりだった。
 そうすれば、リヴァイの迷惑にならないから。
 そうすれば、最後に一番みっともないところを見られなくても済む。
 そうすれば、リヴァイの記憶の中でエレンはちょっと困った奴程度で収まるかもしれない。
 そうすれば、嫌いって言われないかもしれない。
 最後に「よくやったな、助かった」と声をかけてもらうだけでいい。
 その後まで彼がほしいだなんて言わない。これ以上わがままは言わない。
 彼を見ているともっと好きになってしまうそうな自分がいることが怖くて。

452:名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4)
16/04/06 21:22:22.50 d.net
 いっそ嫌いになれれば楽になれるのにそれすらできず。
 ただ、心臓がズキズキ痛み、その痛みで意識を保っていた。

 最後の撮影は海浜公園で行われた。
 リヴァイからの指示はなく、公園の中を自由に回っていればいいとのことだったので、好き勝手に動くことにする。
 最初はこれでいいのかという戸惑いが強かったけれど、一時間もそれを続けていれば戸惑いも吹っ切れて一人の散歩を楽しむようになる。
 数時間、一応カメラを気にしてゆっくりとした動きで公園内をぐるぐる回り、最終的にたどり着いたのは浜辺だった。
 今日もまた晴天で風もなく、穏やか


453:に波を打つ海が広がっている。  海水浴の季節にはまだ早いので人もあまりいない。 「すっげーきれい!」  元々海が好きだった。  一人で考え事をするのも、友人たちとわいわい騒ぐのも、全部楽しい。  広い海を目の前にしていると自分の悩みなんかちっぽけに感じて気が楽になる。  すぐ傍に流木があり、その陰で蟹がちょこちょこ横歩きをしているのを見てからからと笑う。  せっかくだから友人とくる時にはできないことをやろう。  エレンが始めたのは砂遊びだ。海水でほどよく湿った砂を山にして固める。  中央にトンネルを掘って反対側に貫通させてから、なんとなく城っぽい形状にしていく。  なにが完成したのかと聞かれると自分でもわからないものだったが、久々の砂遊びで立派な作品ができて満足した。 「いいな、」  リヴァイはそう独り言を言い一心不乱に浜辺で遊ぶエレンにレンズを向けてシャッターを押している。  考えてみれば撮影中はリヴァイといる時間の中で一番楽かもしれない。  レンズを通せば笑えるし、見つめることだってできる。  撮影という線引きがすでにされていることが大きな助けになっていた。  カメラに夢中なリヴァイの姿に、これが最後なんだから、と悪戯心がわく。  今日は一度もカメラに視線を送っていない。



454:名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4)
16/04/06 21:22:26.53 d.net
 このタイミングで思いっきり笑顔でカメラを見たらきっと驚くに違いない。両手をパンパンと合わせて簡単に砂を落とした。
 そのままぐるん! となんの予告もなく、上半身を回して、横から写真と撮っていたリヴァイに向けて全開の笑顔を見せた。
 カシャカシャカシャカシャカシャ……
 何度もシャッター音が聞こえてきて、仕掛けたのは自分だったけれどそんなに撮られると恥ずかしくなる。
「そんなに撮らないでくださいよー!」
 カメラに両手の平を突き出して顔との間に遮りを持たせると、ようやくシャッター音が止まる。
 リヴァイの手からカメラが離れ、ネックホルダーにぶら下がって胸のあたりでぷらぷら揺れていた。
「どうしたんですか?」
 自然体の写真を撮りたかったのに、カメラ目線なんかしたから気に障ったのだろうか。でもそれならそれで注意されるはずだし、そもそもシャッターはあんなに切られることはない。
「お前……っ、その顔は反則だろ……」
 ついにはしゃがみこんでしまったリヴァイに少しだけ近寄る。この距離ならまだ大丈夫のはず。
「え、……なんか、すみません?」
「違う、最高だった。俺はずっとあれが撮りたかったのかもしれない」
「よく分からないですけど、リヴァイさんが満足したなら良かったです……?」
「した。これで撮影は全部終わりだ」
 エレンの理解が及ばないまま、リヴァイは一人で納得して立ち上がる。
『全部終わり』

455:名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4)
16/04/06 21:22:53.26 d.net
 その言葉にエレンがはっと息を飲んでいる間に、少し離れた場所にいるスタッフに告げれば、スタッフからは歓声がわき上がる。
 口々に「お疲れさまです!」と言い、拍手が起きた。
 なんとも呆気ない終わり方だった。
 そうは思ってもリヴァイが終わりだと言えば撮影は終わりで、同時にエレンの役目も終わってしまう。
 その後、リヴァイは簡単なデータの確認、他のスタッフは機材の後片づけをしてから、都合のつく者全員で簡単に打ち上げに行くことになっている。
 先にそのことを聞かされていたエレンも参加する予定だった。
 ちなみに本打ち上げはまた後日あり、今日は一旦のお疲れ会といったところらしい。
 普段ならばやることがないエレンは先に帰宅となるも今日は暇を潰さなければならない。
 砂で汚れた手足を洗い、汗ふきシートで体を拭くとスッキリした。
 車には着替えも準備してあるので、スタッフに鍵を借りて空いた時間の内に着替えてしまう。大きなワゴン車で窓にはカーテンがかかっていた。
(ちょっと疲れたな、)
 まだ時間はあるだろう。一日中歩いた疲れで瞼が重い。
 ワゴン車の一番後ろの席にゴロンと横になった。
 足を伸ばすことはできないし狭いけれど、それよりも横になれることが嬉しい。
 うとうとと夢に意識がもっていかれる寸前、隣の駐車スペースに別の車が止まった音が聞こえた。
 エンジン音が止まり、続けてドアが開く。閉める時はバン!とそんなに力強く閉めなくても閉まるのになあと思うくらい大きな音が響いた。
「リヴァイいたー! 撮影どうなの、順調……ってえええええええ! もう終わっちゃったの? 最後くらい見学したくて車飛ばしてきたのにひどいじゃないか」
 出てきた人物はよく通る大きな声のようだ。エレンが乗る車の中にまでよく聞こえてくる。
 リヴァイの知り合いらしく、そしてリヴァイもまたこの近くにいるらしいことがわかった。大きな声は女性のものだ。



456:うるせえよ、クソメガネ」 「ねー、そのカメラのデータ見せてよ……って、え? いいの?  もっとごねないと見せてもらえないかと思ったのにどういう風の吹き回し?」 「ほんとにうるせえな。声のトーン抑えろ。ほらよ、」  女性の声はどこかで聞いたことがある。どこだったか。聞いてるうちに思い出すだろうか。



457:名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4)
16/04/06 21:22:57.62 d.net
「おおー、めちゃくちゃいいね。モデル、エレンで大正解!」
「そうだな。あいつが引き受けてくれてよかった」
 外から聞こえてくる会話にエレンは嬉しくなった。
 リヴァイがエレンをモデルにして良かったと他者と話している。彼らはエレンがここにいることを知らない。つまり、これは本音だ。
 頑張って良かった。
 この言葉を聞けただけで満足できる。自然と口元に笑みが浮かんだ。傷つきすぎた心臓に鎮痛剤が打たれた。
「わたしのアドバイス通りにして良かったよね」
「…………」
「なにその間は。エレンが引き受けてくれたのってわたしのお陰じゃん!」
「……まあ、そうなんだが」
「全然理解できないけど、リヴァイってやっぱりモテるんだなって思ったよ。好きだって言ったんでしょ?」
「……ああ、」
「君が好きだって言えば大概の子は落ちて言うことを聞いてくれる、なんて我ながらひどいこと言ったし、実行するリヴァイもリヴァイだけど、その点はこの写真見たら納得。ほんといい写真」
「そりゃ、どうも」
「どうしたの? さっきから浮かない顔して」
「なんでもねえよ」
 途中から両手で耳を覆ったのに、彼女のよく通る声は鼓膜に届いてエレンの脳に無理矢理入ってきた。
 これ以上聞いちゃ駄目だ。聞きたくない。そう思うのに、理解してしまう。分かってしまう。
 最初からリヴァイはエレンを好きじゃなかった、なんて。そんな知りたくもないことを。
 好きだって、一目惚れをしたと言われた。
 ほんの少しでもリヴァイに好かれている期間があったのとなかったのでは全然違う。
 それがなかっただなんて聞きたくなかった。
 それが全部モデルを引き受けさせるための嘘だったなんて、。
 鎮痛剤だと思ったものが毒に変わる。即効性の毒だ。
 じわじわと体を蝕むなんてレベルじゃない。
 急激な吐き気を目眩に襲われて、以前に二度合わせた唇が冷えていく。
 相手を見てドキドキしたことも。
 連絡がこなくてそわそわしたことも。
 次に会えるのは何日後だとカレンダーを見てカウントしたことも。
 触れたいと願ったことも。
 好きになってもらいたいと望んだことも。


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