【腐女子カプ厨】巨雑 ..
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371:名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4)
16/04/06 21:07:00.71 d.net
この前はサシャとコニーが泊まりに来て。また別の日にはジャンとマルロ。
その後はピクシス指令と部下の女性が訪ねて来た。
その次はエルヴィンさんとナイルさん。昨日はまたミカサとアルミンが来ていた。

必ず毎回2人ずつ、それすらも意味があったのだと。
                                              





『身体の調子がまだ戻ってないこともあるけど、脳が情報を処理しきれなくて、一時的にまた昏睡状態に入ったんだと思う。』

『何故、エレンの記憶は戻りかけている』

『薬に対して身体に抗体が出来てしまっているのか。それとも自分の意思で飲まないようにしているのか…』

『だが、飲み続けたとしても、あいつの中に未だ燻る衝動をそんな薬ごときでずっと抑え込めるなどと、俺には到底思えん』

『そのためのストッパーとして貴方がいる』



夢か現か。その時は、自分でもよく分かっていなかったが。
裸足のまま夢遊病みたいに意識がはっきりしない頭で屋敷を彷徨って辿り着いた部屋の前でそんな会話を聞いてしまったのは、大分前の事だったろうか。


気怠さが抜けきらない身体を起こしたが、そのままでは少し寒く感じた少年は素肌にシーツを身に纏い、ベッドから這いずり出て窓から外を眺めた。
ガラス越しに空を仰ぎ見、月明かりを宿したまるい瞳は磨かれた金のような眩い輝きを放つ。


脱ぎ捨てベッドに置いたはずの服が縺れ合う間に散らばってずり落ちたのか、自分の衣服が床に散乱していた。
どうにかしようとそれらを拾い上げると、シャツから何かが落下する。
そのまま転がり落ちて壁に当たり、動きが止まった小さな石ころのような球体のものを彼は拾い上げた。

372:名無し草 (アウアウ Sa6f-dfgU)
16/04/06 21:07:00.88 a.net
腰ちゃんどう見ても男子高校生styleやけどおしゃれさんなん

373:名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4)
16/04/06 21:07:31.13 d.net
 自分にだけ見せる顔。雄の顔ではない、男のリヴァイだけが見ることのできるエレンの雌の顔が見たいのだ。
                  
 結果的には…そう、結果的にその顔は見ることができたし、自分のモノにもできたと思う。だが、エレンは心までは許してくれなかった。

「ぁ…っん、ァ、…っ…っ」
「良さそうだな、エレン」
「んっ、…は、ぃ…気持ち、いいで…すっ…はぁ、アッ」

 エレンの背中にちゅ、ちゅ、と吸いつきながら、腰を掴んでぐちゅぐちゅになって解れている後孔を何度も穿つ。
 外気に触れれば熱を持つローションがエレンの内側の肉をますます敏感にしてしまうようで、中は火傷しそうなほどに熱かった。
 こうしてセックスするようになって、どのくらい経つだろうか。季節は冬から春に変わっていた。
 エレンはやたらセックスをねだるようなことはしなかったが、我慢ができなくなるとリヴァイのところにやってくる、そんな感じだった。
 まだ少し、リヴァイに抱かれることに戸惑っているようだったが、指先でも触れればその体は素直になった。
 だが、エレンは最初の頃よりも声を抑えるようになった。
 息ができているのか心配になるくらい顔を枕に押し付けて、くぐもった喘ぎだけを漏らす。
 手はシーツを強く掴んでいて決して離そうとはしなかった。
 まだ男に抱かれる屈辱に耐えているのかと思いきや、気持ちいいか、と聞けば素直に気持ちいいと言うのだ。
 だったら我慢などせずにもっと喘げばいい。
 縋りつけばいい、そう思っているのにエレンは頑なにそう


374:オようとはしなかった。 「おい、エレン」 「ぁ…な、なに…っン、ぁっ、っ、…アッ、ひあ!」  声を我慢されるのが不愉快で、一度性器をずるりと抜くと、その体をひっくり返してこちらを向かせた。  顔を真っ赤にして瞳を潤ませ、荒い息を繰り返すエレンは驚いた様子でリヴァイのことを見た。



375:名無し草 (ワッチョイ f395-imw8)
16/04/06 21:07:34.92 0.net
>>341
そんな経ってへんで
わいのリリはあのあといつも通りきゃわわやで

376:名無し草 (ワッチョイ 7326-Iq2g)
16/04/06 21:08:06.68 0.net
今日は久々に医龍一気読みしたで
最高の休日やった

377:名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4)
16/04/06 21:08:30.42 d.net
「な、なん…っ」
「たまにはいいだろ。声、我慢するな」
「えっ、ちょっと待っ…アッ、」
「いいな?」
「あぁ…っ、待っ…リヴァイさ、まだ、いれないで…っ」
「ああ?」

 抜いたばかりでまだ少し開く後孔に性器の先端を押しあてようとした所で、エレンがそこに手を伸ばしてそれを阻んだ。

「こっちでするなら、…っ手、縛ってください…っ」
「……なに?」
「お願いします…っ初めての時みたいに、両手、縛ってください…!」

 リヴァイはその懇願に頭がくらくらした。
 確かに初めてエレンとセックスした時はネクタイで両手を縛ったが、あれはエレンが抵抗するからであって、別にリヴァイに緊縛の趣味があるわけではない。
                                             
「…理由は?」
「………なんとなく、…っいいから!早く縛れよ!」

 じゃないと入れさせない!みたいに叫ぶものだから、リヴァイは不本意ながらも床に放られた自分のネクタイをとる。
 だが、エレンに「皺にしちゃうからオレのにしてください」と言われて、言うとおりにエレンのネクタイでその両手首を縛った。

「痛くないか?」
「平気です…もっときつくてもいいくらい」

 これでも結構きつめに縛ったのだが、少しの隙間にエレンはまだ不満そうだった。

「跡がついちまうだろうが」
「いい…明日、休みだから」

 そして、手首を縛るために起きあがらせていた上半身をどさりとベッドに横たえると、エレンはリヴァイを見上げて言った。

「ひどく、してください…」

 エレンが何を考えてこんなことを言うのかがわからなかった。

378:名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4)
16/04/06 21:08:34.52 d.net
 それはそうなのだが、リヴァイはそれでは納得できないのだ。

「どうして?だってさ、君の可愛いエレンはセックスしたい時に来るわけで、リヴァイだって自分の所にきてくれて満足。
彼は気持ちいいし、お互いそれだけの関係でしょう?実際それだけの繋がりでしかないんだし。むしろそれだけの関係ならもっと気持ち良くなりたいと思うんじゃない?」

 女だというのにはっきりと言うハンジに若干ひきつつも、リヴァイは一理あるその言葉に眉を潜めた。

「それじゃあ体だけみてぇじゃねぇか。アイツはセフレじゃない」
「は…本気で言ってる?セフレじゃなかったらなんなの?」

 リヴァイは黙考した。
 エレンはセフレじゃない、と思う。
 確かに会う度にセックス…というかセックスするためにしか会わないけれど、リヴァイの中ではそうではないのだ。
 それだけの関係にしたくない。男のエレンが同性のリヴァイに抱かれる。
 そんなのは普通では考えもしないことで、彼が自分の手の中に堕ちてきただけでも僥倖だと言うのに、リヴァイはそれ以上をエレンに求めているのだ。

「リヴァイがそう思ってなくても、きっと彼はそう思ってるよ。だからリヴァイの所に行くし、セックス自体に嫌とも言わない」
「…それでも、アイツは」

 正直に話そう。
 リヴァイはエレンのことを自分のモノにしたいと思っていた時から、たぶん、彼に好意を抱いている。
 支配したいと思うのも、自分のモノにした優越感に浸りたかったのも、全てただの独占欲だったのだ。
 こんな関係になる前、二度も強引に抱いてしまったことを少なからず後悔していたリヴァイは言うなればただの不器用で、これ以上嫌われてしまわないようにするにはどうしたらよいかわからなかった。
 とりあえずもう無理矢理に手を出すことを止めよう。        
 けれど、あの日エレンに初めて呼びとめられた。
 何か言いたいことがあるのだろうと、あまり人の入らない保管室に連れていった。
 体に触れてしまうと抑えが利かなくなるから、出来るだけ触れないようにした。
 煽るようなことを言ったのも、エレンがいつでも逃げ出せるように逃げ道を作ったつもりだった。
 けれど、エレンは顔を仄かに赤くして、潤んだような瞳を期待に染める。以前とは違う反応だった。

379:名無し草 (ワッチョイ 53df-qDJN)
16/04/06 21:08:46.52 0.net
>>362
もうちょっと詳細下さいや
あの二人で話してる回想はいつなんや
リアルタイム?

380:名無し草 (ワッチョイ 9fd9-G+K4)
16/04/06 21:08:51.59 0.net
一問一答正確なの知りたいは

381:名無し草 (ワッチョイ 7326-Iq2g)
16/04/06 21:08:52.68 0.net
腰ちゃんはおしゃれに気を使ってるだけで
おしゃれなわけやないんでは…

382:名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4)
16/04/06 21:09:00.31 d.net
氷海樹

恋に落ちる音はどんな音


どうにも先日から、リヴァイの頭の隅をチラチラと掠めて離れないものがある。
『3年大将のハチマキ、頂きます…っ!』
体育大会でリヴァイに立ち向かってきた1年生大将のひとり、エレンのことだ。
そのときはもちろん瞬殺してやったが、以来、リヴァイの頭を悩ませるようになった。
彼は調査団の後輩でもあるので、それなりに関わりがある。
関わりはあるし掃除の指導なんて何度もしているが、こんなにも脳内にチラつくのは初めてのことだった。
(なんだってんだ、クソッ)
チラつくのは決まってひとつ。
エレンがただでさえ大きな目をギラギラとかっぴろげて、こちらを睨みつける顔だ。
直後にハンジがやらかしたせいでその日は曖昧になってしまったが、とうにリヴァイの悩みは始まっていた。
浮かぶ残像を振り払うように首を振る。
そこでふと聴こえた声に顔を上げた。
今は昼休み、開け放った窓のおかげで校庭の声が聴こえてくる。

「エレン! ミカサとアルミンも聞いて下さい! ついに…ついにメロンパンを手に入れましたよーっ!!」
「マジか! すっげえな?!」
「それはすごいね、サシャ!」
「おめでとう」
「はい! 今までの私の努力がこれでひとつ報われ…っむぐむぐ」
「食うのはえぇよ…」
「サシャ、もう少し味わってもバチは当たらないよ…?」

言うまでもなく、エレンと彼の友人たちの声だ。
窓から校庭を見下ろしてみれば、グラウンド傍の芝生で弁当を広げているエレンたちの姿がある。
しばらく彼らを…正確にはエレンを…眺めて、リヴァイは打ちのめされた。
(なんでアイツを気にしてんだ、俺は…!)
ただの後輩だ。
調査団へ乗り込んできた猪突猛進で、ときどき生意気な口を利く後輩。
(…あのとき、巨人をぶっ殺したいと言った顔も悪くなかった)
と思ってから、リヴァイはまたも打ちのめされる。
(だから…!)
エレンの、友人たちと弁当を食べる顔。

383:名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4)
16/04/06 21:09:04.26 d.net
調査団で活動するときの顔。
それから。
                  
巨人に対するときの顔。

チーハンチーハンと騒いでいるだけの、煩い子どもだと思っていたのに。
(そうだ。あれはただの後輩だ)
強く頭(かぶり)を振って、リヴァイは窓の外から無理やり視線を引き剥がした。



調査団の活動は、秘密裏の部活ゆえに正規の部活動が終わった後に始まる。

「お疲れ様です!」
「あ、エレン。アルミンたち


384:烽「らっしゃい」 今日も彼らは調査団の部室へ来たようだ。 生物部に寄ってからやって来たリヴァイは、廊下を歩いているだけで分かる部室の騒がしさに眉を寄せた。 仮にも闇に紛れた部活、もう少し密やかに出来ないものか。 (そういえば…) エレン・イェーガーという後輩が1人でいるのを、リヴァイは見たことがない。 まあリヴァイ自身もなぜかハンジとミケがよく寄ってくるし、ペトラたちもいつも4人でいるし、常につるんでいるのも珍しくはない。 「おい。もう少し静かに出来ねえのか、てめぇら」 「あっ、リヴァイさん!」 「リヴァイ先輩、おつかれさまです!」 しかし人数が多いというのは、掃除にはありがたい。 学校の窓は壁美化部の範疇だが、旧校舎の大部分は調査団が使用している。 「てめぇら、今日は倉庫の掃除だ」 「えぇーっ?!」 「また掃除ですかぁ?!」 (こいつら、掃除に対する意識がなってねぇな…) 躾直しか、とハリセンを取り出そうとしたところへ、後ろから走ってきたハンジが取りなした。



385:名無し草 (ワッチョイ f395-imw8)
16/04/06 21:09:17.30 0.net
>>363
医龍ってキャラがどんどん童顔化しとらんかった?

386:名無し草 (スプー Sd9f-G+K4)
16/04/06 21:09:21.15 d.net
>>368
しーっ!

387:名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4)
16/04/06 21:09:41.86 d.net
「まあまあ、1年生諸君の気持ちはよーく分かるよ。でもね、今年の調査団の活動方針は、顧問の先生がいないと決定も履行も出来ないんだ」
「…アルミン、りこうって何だ?」
「実行するってことだよ」
「へえ」              
「そういえば、調査団の顧問って誰なんですか?」
「エルヴィンだよ」
「エルヴィン先生?」

3年生の学年主任をしている教師は、エレンたちも知っている。
彼の授業は週に1度しかないが、とても分かりやすいしキースと違って話しやすい。

「秘密裏の部活だからさ、顧問として活動するのは私たちよりもっと大変ってことだよ」
「へえ…」

そうなんだ、と1年生たちの顔が納得に変わったところで、リヴァイが舌打ちをした。

「チッ、喋ってねえでさっさとやるぞ。時間は有限なんだ」

どうせ今日も、エルヴィンは来ないだろう。
その意見にはハンジたちも同意であったので、文句は言わない。

「エルドたちは部室と隣の空き部屋だ。ハンジとミケはガキ共を倉庫に連れてけ。…エレン、お前はこっちだ」
「えっ?」

ハンジの後を追おうとしていたエレンは、なぜか呼び止められて目を丸くした。

「俺…ですか?」
「そうだ、お前だ。俺の掃除を手伝え」
首を傾げながらもリヴァイに着いていこうとしたエレンの腕を、ミカサが掴む。
「待って、1人ではきけ…危ない。私も行こう」
「…ミカサ。危険も危ないも同じ意味だよな?」

言い換えれてないぞ、というエレンにしてはずれていないツッコミを、彼女はスルーした。

「リヴァイ先輩。エレン1人では大変なので、私も手伝います」
「いいや。お前は倉庫だ」
「! なぜですか?!」

人数が多い方がと食い下がるミカサに、リヴァイは犬を追い払うように手を振る。

「俺もやるんだ。それに狭い部屋に人数はいらねえ」

ミカサはぐっ、と唇を噛んだ。
深刻そうな空気だが、中身は掃除の組分けの話である。
埒が明かない、とエレンはミカサの両肩を掴んだ。

388:名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4)
16/04/06 21:10:12.86 d.net
「ミカサ。お前にはお前の役目がある。子供みたいな駄々こねてんじゃねえ!」
君たちも子どもだよ、というツッコミを飲み込んだハンジは偉かった。
エレンに真正面から諭され、彼女はようやく頷く。
「…分かった。終わったらすぐに行く」
「おう」
「おい、話が終わったならさっさと行くぞ」
「はい!」
先に歩き始めたリヴァイを追い掛けるエレンを、ミカサはいつまでも見送っていた。
「……これ、掃除の話だよな?」
ジャン


389:フ呟きは誰にも拾われなかった。 リヴァイが向かった先は、元は職員の宿直室らしかった。 簡単な調理場と調理器具や食器があり、来客用なのか仕切りのない隣には小さめの応接室。 「旧校舎にこんな部屋が…」 「俺たちしかいないからな。勝手に使わせてもらってる」 さて、とリヴァイは掃除専用スタイルへと切り替える。 要するに、埃避けのバンダナとマスク代わりの布を付け、ハタキを装備した状態のことだ。 「うぇっ、リヴァイさんいつの間に」 「おい。てめぇもさっさと着替えろ」 「いや、着替えるったって…」 それ大掃除の格好じゃ…と言い掛けたエレンを、まさかとリヴァイが睨み上げる。 「エレンよ…掃除を舐めんじゃねぇぞ」 ピシッとその両手に張られた白い布。 鋭すぎる眼光に、エレンは思わず悲鳴を上げた。 「躾直してやる」 「ヒッ?!」 掃除は上から。 面倒でも物を避けながら。 「うぅ…何なんです、これ」 「なんだも何も、掃除のための正式なスタイルだろうが」 「掃除に正式スタイルって何…」 どうにも心地の悪い頭の三角巾を直して、エレンはリヴァイを振り返る。 「ていうかここ、十分綺麗じゃないですか…」 「ぁあ? 何言ってやがる」 この埃が見えねえのかと凄もうとしたリヴァイは、エレンを見るなり固まった。 ちょうど口許の布を下ろしたところであったエレンは、目を見開いているらしいリヴァイに首を傾げる。 「リヴァイさん?」 「……………何でもねぇ」 たっぷり数秒を使って顔を背けたリヴァイは、さっさと続きをしろと言っただけだ。 (どうしたんだ?)



390:名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4)
16/04/06 21:10:17.02 d.net
まあ、掃除が終わらなければ他のことはさせてくれないようなので、大人しく従う。
リヴァイはハタキに意識を戻したエレンを盗み見て、内心で頭を抱えた。
(どういうことだ…可愛いってなんだ可愛いって!!)
そう、リヴァイは口の当て布を下ろして振り返ってきた三角巾姿のエレンを、あろうことか『可愛い』と思ってしまったのである。
(待て…あいつは男だろうが! 確かに可愛い顔をしてるが!)
…と言い訳を脳内で叫んで、再び自分の思考に絶望した。
(おい…可愛いって顔ならやつの馴染みだというきのこ頭の方が…いや、あれも男だ。クリスタって女のことを言うんじゃないのか)
しかしクリスタの姿を思い返してみて。
(エレンの方が可愛いだろうが!)
と、セルフツッコミのち絶望というコンボを自ら喰らう。
器用な男だ。
「リヴァイさーん?」
悶々としているリヴァイをエレンが呼んだ。
「こっちの棚終わりましたけど…」
「…分かった。確認する」
(人には手ぇ止めるなって言っといて、リヴァイさんの手の方が止まってんじゃん)
ムッと頬を膨らませて、エレンはぼすりとソファへ座る。
他の誰かがやろうものなら「掃除中だ」とか「埃が立つ」とハリセンを飛ばすところだが、今回のリヴァイは違った。
(クッソあざとい!!!)
先ほどうっかりどきゅんとキたかもしれない、掃除スタイルのエレン。
そのエレンが同じ格好でソファに座り、膝に立てた両手に顎を乗せて膨れっ面をしているのである。
そのまま叫びそうな声を深い溜め息に変え、リヴァイは掃除の終了を告げた。
「まったくなってねぇが、今日はもういい。倉庫を手伝ってこい」
「? 分かりました」
釈然としないながらも、エレンは立ち上がる。
「その掃除スタイル用の三角巾はお前にやる。どうせ倉庫でも汚れるしな」
「はあ…ありがとうございます…?」
首を傾げるエレンに、なぜ首を傾げるのか尋ねたいのはリヴァイの方だ。
エレンが部屋を出ていけば、部屋の中は一気に静かになる。
(なんだってんだ畜生…)
ソファへどかりと腰掛け、2度目の深い溜め息を吐く。
そこがエレンの座っていた箇所だなんて自覚はリヴァイにはなく、彼は片手にハタキを握り締めたまま考える人になっていた。
シュールである。

391:名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4)
16/04/06 21:10:42.16 d.net
スン、と鼻を鳴らしたミケに、即時復活を遂げたハンジが食いついた。

「そうそう! 特にペトラなんか女神って言われてるクリスタと張り合っちゃって、この間恋バナしてたよ!」
「恋バナ?」
「そ、恋愛話。まあリヴァイには縁がない…わけでもないか〜」

靴箱にラブレター入ってたりするもんねえ、とハンジは笑う。

「迷惑なだけだ」
「うわ、今の台詞で世の男子生徒を敵に回したよ?」
「知るか」

調査団の部室はそろそろだ。

「じゃあ、クリスタは彼氏欲しいな〜とか思わないの?」
「そんなもんいらねーよ! アタシがいるからな!」
「もう、ユミルったら」

ペトラが笑顔のままで固まった。
そのシュールさにクリスタとユミルは気づくことはなく、ペトラは自ら金縛りを解く。

「と、ところで。クリスタは『恋に落ちる音』ってどんな音だと思う?」

引き攣る口許を直したペトラが、改めて会話を再開させた。
クリスタは疑問を抱かず食いつく。

「素敵な言葉ですよね! 私の好きな曲にもその歌詞があるんです」
「確かに素敵よね。でもこれってどんな音なのか気にならない?」

気にならない、わけでもなかった。

「うーん、心臓が鳴る音だとしたら、ドキン?」

言ったクリスタを、ユミルが後ろからぎゅうぎゅうと抱き締める。

「うっわ可愛い! アタシはそんなクリスタにキュンってするな!」

ペトラは笑顔のまま固まりかけたのを阻止した。

「『ドキン』と『キュン』ね。あり得そうだわ…」
「何か可愛らしいものが落ちる音なら、『コトン』とかじゃないか?」

唐突なエルド参戦。
それをペトラとクリスタは許した。

「一理あるわね」
「あっ、一目惚れなら目が合った音とか!」
「それどんな音だ?」
「え、えっと…ばちん?」

まるで火花だ、頬を張られた音だと笑ったところへ、不機嫌な声が割り込む。

「おい、てめぇら。調査団の活動は静かにやれと言わなかったか?」
「リ、リヴァイ先輩!」

ガラリと調査団部室の扉を開けると、まさに噂をしていたペトラとクリスタ

392:名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4)
16/04/06 21:10:46.26 d.net
「じゃあ、クリスタは彼氏欲しいな〜とか思わないの?」
「そんなもんいらねーよ! アタシがいるからな!」
「もう、ユミルったら」

ペトラが笑顔のままで固まった。
そのシュールさにクリスタとユミルは気づくことはなく、ペトラは自ら金縛りを解く。

「と、ところで。クリスタは『恋に落ちる音』ってどんな音だと思う?」

引き攣る口許を直したペトラが、改めて会話を再開させた。
クリスタは疑問を抱かず食いつく。

「素敵な言葉ですよね! 私の好きな曲にもその歌詞があるんです」
「確かに素敵よね。でもこれってどんな音なのか気にならない?」

気にならない、わけでもなかった。

「うーん、心臓が鳴る音だとしたら、ドキン?」

言ったクリスタを、ユミルが後ろからぎゅうぎゅうと抱き締める。

「うっわ可愛い! アタシはそんなクリスタにキュンってするな!」

ペトラは笑顔のまま固まりかけたのを阻止した。

「『ドキン』と『キュン』ね。あり得そうだわ…」
「何か可愛らしいものが落ちる音なら、『コトン』とかじゃないか?」

唐突なエルド参戦。
それをペトラとクリスタは許した。

「一理あるわね」
「あっ、一目惚れなら目が合った音とか!」
「それどんな音だ?」
「え、えっと…ばちん?」

まるで火花だ、頬を張られた音だと笑ったところへ、不機嫌な声が割り込む。

「おい、てめぇら。調査団の活動は静かにやれと言わなかったか?」
「リ、リヴァイ先輩!」

ガラリと調査団部室の扉を開けると、まさに噂をしていたペトラとクリスタ、ついでにユミルたちもいた。
不機嫌オーラ全開のリヴァイの後ろから、ハンジとミケも顔を出して部室を見回す。
何の話してたの? と続けるハンジに、ミケがスン、と鼻を鳴らした。

「甘い話だ」
「え、空気甘いの?」

ハンジも真似して嗅いでみるが、さっぱり判らない。

「甘い…ああ、かもしれないですねえ」
ユミルは相変わらずクリスタを抱き締めながら答えた。
「『恋に落ちる音はどんな音なのか』っていう話をしていたんです」

爽やかなクリスタのその笑顔こそが恋だと、ライナーなら言ってのけそうだ。

393:名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4)
16/04/06 21:11:13.24 d.net
リヴァイは眉を寄せる。       
「…『鯉が落ちる音』…?」
「ちょっ、リヴァイ。あなたそれ素なのww?」
ハンジがうっかり草を生やして吹き出した。
さすがにリヴァイ相手は不味いと思っているのか、ユミルは吹き出しそうな口を両手で押さえている。
グンタとエルドも顔を逸らし、オルオはさっさと舌を噛んだ。
クスリと笑ったペトラは、非常に堂々としている!

「違いますよ、リヴァイさん。『恋に落ちる音』です」
「そんな音があるのか?」
「マジボケかよ!」

リヴァイが恋愛事に興味がないことがよく分かる。
一頻り笑ったハンジが話に加わった。

「あれだね、よく歌詞にあるやつだろう? その音がどんな音かって話かな」
「そうなんです。候補が幾つか出ていて」

クリスタが指折り数える。

「まずは『ドキン』で、似たような形で『ドキッ』もそうかなって」
「ふんふん、なるほど。漫画とかでもよくある表現だよね」

控えめな『トクン』とかもありかな! と思い付いたハンジに、ペトラがおおっ! と身を乗り出す。

「『トゥンク…』ってやつだな? 少女漫画定番の!」

ユミルがケラケラと笑い、謎の擬音祭りが始まった。

「さっき言ってたんですけど、よくあるのはやっぱり『きゅん!』ってやつですよね!」
「あー、あるある! 私は巨人ちゃん見てるときゅんきゅんするなあ!」
「「「いえ、それはないです」」」

一斉に否定されても、ハンジはえぇー、と唇を尖らせるだけで凹みはしない。
リヴァイは1人考えていた。

394:名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4)
16/04/06 21:11:17.12 d.net
(…きゅん…だと?)
口の当て布を下ろして振り返ってきた、三角巾姿のエレン。
(ドキン……だと…)
膝に立てた両手に顎を乗せて、膨れっ面をしていたエレン。

「あ、ハンジさんは一目惚れの音ってどんなだと思います?」
「一目惚れかあ。目が合ったときだから、やっぱり『バチッ』じゃない?」

目が合ったあの体育大会の日、そんな音が…。
(聴こえてない、聴こえてない、そんな音は…)
「まあ、でもさあ」
ハンジがひらひらと片手を振る。

「『ドキドキ』も『キュンキュン』も、すでに恋してる音だよねえ」
               
てことは、私はいつでも巨人ちゃんに恋してるってことだね! 知ってた!
騒ぐハンジに、ユミルも改めてクリスタの頭を撫でる。
「アタシもいつだってクリスタに恋してるぜ!」
「もう、ユミルったら」
三様に花を飛ばす彼女らに、ペトラは今度こそ口許を引き攣らせた。
「わ、私だって…!」

395:名無し草 (ワッチョイ 0bc8-RFax)
16/04/06 21:11:22.26 0.net
>>367
ラウクラにあるで?

396:名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4)
16/04/06 21:11:42.56 d.net
私だって恋がしたいっ!
荒ぶり始めたペトラを宥めるエルドすら、気付かなかった。
                  
沈痛な表情で考える人になってしまったリヴァイの姿に。

(いや、待て。あいつは男だぞ?!)
馬鹿なところも可愛いが、と思ってしまってから、またも無限ループに陥る。
リヴァイのオーラがピンク混じりの不味い色になっていることに気づいても、グンタは我関せずを貫いた。
相変わらずオルオは舌を噛んで悶絶していて、調査団の部室は騒がしい。

「…なあ、アルミン。鯉がどうかしたのか?」

エレンがミカサとアルミンと共に部室を覗いても、まだ誰も気づかない。
中を指差しながら尋ねたエレンに、アルミンは苦笑する。

「いや、エレン。魚の鯉じゃなく」
「裏庭の池に、巨大な鯉がいたらしい。そんな話をしている」

アルミンの言葉を遮り、ミカサが強引に続けた。

「へえ、すっげえな。釣れたらサシャが喜びそうだな!」
「ダメだよ。鯉は寄生虫がいっぱいいるんだから」
「えっ、そうなのか?」
「そう。エレンに近づけるわけにはいかない」

ミカサの強引な言葉の意味に気づいたアルミンは、いろいろと察して顔を青くした。
エレンはふぅん、と感心するばかり。


調査団の本日の活動ーーーなし。
解散!

397:名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4)
16/04/06 21:11:47.21 d.net
え? ハイヒールについて、何か面白い話はないかって?
とあるブランド服メーカーの、靴のデザイナー室に勤めているってだけのオレにそれ聞く?
あー、ハイハイ、判ったよ。
んじゃ今から話すエピソードは、別に他言無用じゃねえけど自己責任でやれよ?
…下手したら本人様に削がれるからな。
どこをって? バカ、聞き流せよ。

で、ハイヒールな。
ここに話聞きに来るってことは、春と秋にあるコレクションは知ってるよな。
そのコレクション企画のときにだけ、アトリエに来るデザイナーがいるんだよ。
名前はリヴァイ・アッカーマンって言って、東洋の2世って言ってたかな。
どんなって…うーん、目つきめっちゃ怖くて背が低い。
まあ、その辺と人種の話で馬鹿にすると完膚なきまでに叩き潰されるけどさ。
…察しろ、話さねえよこれは。

んで、そのアッカーマンさんな。
靴のデザイナーなんだけど、自分担当のデザイン試作で最終版になると、必ず違うカラーリングで2足分作らせるんだ。
例えばこのハイヒール。
ターコイズブルーのグラデーションとシルバーのリボン彫刻だろ。

398:名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4)
16/04/06 21:12:12.32 d.net
これ、決定稿がターコイズブルーであって、最終版の試作はクリームイエローとオレンジのが別にあった。
そんで出来上がった2つの試作を持ち帰って、一晩考えて翌朝に自分の決定を全員に伝えて最終審査に入るんだ。
オレは思ったね。
「ハイヒールをじっくり眺めて決めるなら、アトリエでやっても同じじゃね?」って。
だから、恐れ多くもご本人に聞いてみたんだ。
「なんでわざわざ家に持ち帰るんですか?」ってよ。
…うっせ、同期にも「死に急ぐなバカ!」って散々言われたっての。
ああ、あと「死に急ぎは間に合ってるから戻ってこい!」とか言われたわ。
ある意味プライベートに関わる話なわけだろ?
オレ死ぬかも、ってさすがにちょっと思ったけどさ。
                  
訊いたとき、アッカーマンさんびっくりしてた。
どんな美女に言い寄られても鉄壁な無表情のあの人が、なんか目ぇ丸くしてたし。
驚いたからか珍しかったからか、休憩時間に答えてくれたよ。
…先に言っとく。
そのコーヒー、零すんじゃねえぞ?
あの人こう言ったんだよ。

『恋人に似合う方を選ぶためだ』

…ってよ。
っぶねえ?! だから零すなって言ったんだろが!!
大丈夫か? そ、ならいいや。

コレクションは時流を作るから、いろんな人間が知恵と予測を持ち寄ってデザインとかを決める。
もちろんアッカーマンさんもそれを元にデザインを作る。
けどあの人の中では、最終的にはいつも『恋人に似合う方』を選ぶのが正しいんだとさ。
あー、はいはい。
気持ちは分かるよ、ゴチソウサマってやつな。
でもまだ終わりじぇねえよ?

399:名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4)
16/04/06 21:12:16.79 d.net
恋人っつーかな、あの人もう結婚してる。
正確に言うと恋人じゃなくて『パートナー』なんだけどな。
…うん、相手は男だ。
なんつーか、乱暴な表現になるけどキラッキラしてる子だな。
イケメンでモデル体型だけど、それよりも身の内から輝いてるってーの? そんな感じ。
もちろん訊いたさ。
「男性ならコレクション用デザインのハイヒールなんて履けませんよね?」って。
…だーから、死に急ぎ言うな!
そんでアッカーマンさん、オレの質問に当たり前だって言った後に、珍しく笑ってみせたんだよ。
                                            
『履けなくても似合うかどうかは分かる』ってよ。

おい、おい、机叩くんじゃねーよ、やかましい。
『すえながくばくはつしろください』? なんだその呪文?
オレもその続き聞いて居た堪れなくなったけどよ…。

『あいつの足元に1足ずつ置いてじっくり見て、その次はあいつに片方だけ持たせるんだ』
『シンデレラの硝子の靴みてぇにな』

…っ、そうだよ! 惚気に使われたんだよオレはっ!!
右か左かどっちかの靴だけそのパートナーに持たせて、絵になる方を選ぶってこったよ!!!
もう、マジで居た堪れなくてオレバカだったわ…ほんと走り去りたかった。
あっ!
おいこら待て、まだあるんだよ続きが。

ほら、ちょうどあそこにアッカーマンさん居るだろ。
そうそう、エントランスの。
黒髪は珍しいからすぐ分かるよな〜。
で、隣がアッカーマンさんのパートナーな、確かエレン君って名前だったかな。

400:名無し草 (ワッチョイ 7326-Iq2g)
16/04/06 21:12:35.16 0.net
>>371
うん
加藤ちゃんかわええんやけど何歳やったんか気になるねん

無人島に持って行きたい漫画のベスト10に入る


401:ヘ



402:名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4)
16/04/06 21:12:43.33 d.net
…な?
 なんかキラッキラしてるだろ?
でさ、そのエレン君の足元見てみろ。
見たことある色とデザインしてねえか?
                  
ご名答。
この間の春夏コレクションで、うちが女性用で出したデザイン。
アッカーマンさんが担当したやつのな。
紳士靴でも出してたのかって? いいや、出してねえ。
あれはアッカーマンさんが、決定稿になったやつを紳士用にデザイン落とし込んだやつだ。
コレクション分の作成が一段落した頃に、あの人自分でアトリエの職人に発注してるんだってさ。
名目は「紳士用への転用試作」らしいんだけど、もうだーれもそんなこと信じてない。
けどあの人、厳しいけど誠実だから信用力凄くて、みんなそういうことにしてる。
まあ、な?
あんたもあれ見りゃ、ピーン! と来るよな。
紳士用への転用試作なんかじゃなくて、恋人に贈るために作ってるってさ。
社員だしデザイナーだし、ってんで若干は安いらしいけど、でもほぼオートクチュール料金だぜ。
信じられるか?
オレは無理だね…オートクチュールなんて頼めねえよ。

403:名無し草 (ワッチョイ f395-imw8)
16/04/06 21:12:45.40 0.net
ババア腹へった

404:名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4)
16/04/06 21:12:47.59 d.net
あー、うん。
アッカーマンさん居ないとこで、エレン君と話す機会あったんだけどさ。
その靴のこと聞いてみたんだ、去年だったかな。
コレクションと同じアッカーマンさんデザインの靴、贈られてどんな感じ? って聞いてみた。
そしたらまず苦笑してたよ。
そりゃあな…。

『どう見ても高そうじゃないですか…。タグには本革って書いてありますし。
初めはもちろん断りましたけど、すでに作って俺の手元にあるわけで、しかも俺しか履けないし』
『なんで仕方なく履いてたら、見る度にすっごい嬉しそうな顔してるんですよね…。こっちが恥ずかしいくらいに』
『しかもコレクション終わったと思ったら、また違うやつ作って持ってきますしね…』
『こんな高いものは止めて下さい! ってきっぱり言ったら、なんて返したと思います?』
『"年に2回だけの俺の趣味を奪うんじゃねえ。こいつの発注費はxxx(桁が凄い)だが、俺の年収はxxx(やっぱり桁が凄い)だ。何の問題もねえだろうが!"って何か勢い良く…』
『あはは…。お察しの通り、諦めましたよ』

言ってたエレン君も、負けず劣らず嬉しそうな顔してたとオレは思うけどな。
2人の家、かなり立派なシューズクローゼットあるらしいぜ。

…おっと、アッカーマンさんたち帰るみてえだ。
こんな偶然ないだろうし、エレン君の今履いてる靴の話聞いてみたら?
惚気話はもう結構? そりゃそうか。

んじゃ、オレの話はこれでオシマイ!
良い話だっただろ?



End.(笑)

405:名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4)
16/04/06 21:13:13.14 d.net
 小さい頃に父親グリシャの部屋にあった写真集。
 今はもう実家のどこにあるかもわからない。
 空、街中、植物、動物…同じカメラマンの写真集がワンセットで置いてあった。
 医者であったグリシャの部屋は医学書ばかりが並び、海外の言葉で書かれた本も多く、どれを見ても当時のエレンには理解ができなかった。
 当時の、とは言っても今読んだところで、医学を専攻しているわけでもなければ、外国の言葉に強いわけでもない大学生のエレンには到底理解ができる内容でもない。
 読んでみたいともあまり思わないのが正直なところだ。
 そんな中で写真集は異彩を放っていた。並んだ背表紙からも小難しい医学書ではないことが簡単に見てとれる。
 グリシャの趣味とも思えないが、確かにそれはそこにあり、エレンはグリシャの不在時に父親の部屋に忍び込んではパラパラとページをめくって楽しんでいた。
 それは母親のカルラが病気で亡くなるまで続きカルラが亡くなった後は掃除や整理をする人間がいなくなったことで、いつのまにかその写真集は医学書の中に埋もれて見つけられなくなってしまった。
 この季節、時折吹く風はまだ冷たい。しかし日に日に気温はどんどん暖かくなって春の訪れを告げていた。
 もう少し経てばコートも要らなくなるだろう。
 アパレルショップはもう春の新作がショーウィンドウに並んでおり、春らしいパステルカラーが駅前の通りを彩っていた。
 ショップの奥では一部の冬物衣類のセールをやっている店もある。
 何か掘り出し物がないか立ち寄りたくなって、しかしそこで提出期限はまだ先とは言え、課題のレポートがまだ完成していないことを思い出せば、自然と足が帰宅を急いだ。
 大学の講義も昼過ぎに終わり、アルバイトもない。早くレポートを仕上げてしまおう。
 前方から携帯電話を見ながらふらふらと人が歩いてきたので、そっとよけて人とすれ違えるだけのスペースを空ける。
 人通りが多い。
 都会の人は歩くスピードが早いというのは本当だった。
 またせかせかと歩く小柄な男性が前方から歩いてくる。
 ぶつかりそうな距離ではなかったのでエレンは今度はよけるような動作はせずにそのまま歩き続けた。
「!」
 男性とすれ違った時だった。ぐいっと腕を掴まれてエレンの体は後方へと引かれ、驚いて振り返れば、そのまま男と目が合う。

406:名無し草 (アウアウ Sa6f-dfgU)
16/04/06 21:13:26.55 a.net
腰ちゃんは誰にも気付かれへんさり気ないおしゃれなんやな
かわええ

407:名無し草 (ワッチョイ 9fd9-G+K4)
16/04/06 21:13:32.90 0.net
>>380
順一と純一どっちやねん

408:名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4)
16/04/06 21:13:50.47 d.net
 小さい頃に父親グリシャの部屋にあった写真集。
 今はもう実家のどこにあるかもわからない。
 空、街中、植物、動物…同じカメラマンの写真集がワンセットで置いてあった。
 医者であったグリシャの部屋は医学書ばかりが並び、海外の言葉で書かれた本も多く、どれを見ても当時のエレンには理解ができなかった。
 当時の、とは言っても今読んだところで、医学を専攻しているわけでもなければ、外国の言葉に強いわけでもない大学生のエレンには到底理解ができる内容でもない。
 読んでみたいともあまり思わないのが正直なところだ。
 そんな中で写真集は異彩を放っていた。並んだ背表紙からも小難しい医学書ではないことが簡単に見てとれる。
 グリシャの趣味とも思えないが、確かにそれはそこにあり、エレンはグリシャの不在時に父親の部屋に忍び込んではパラパラとページをめくって楽しんでいた。
 それは母親のカルラが病気で亡くなるまで続きカルラが亡くなった後は掃除や整理をする人間がいなくなったことで、いつのまにかその写真集は医学書の中に埋もれて見つけられなくなってしまった。
 この季節、時折吹く風はまだ冷たい。しかし日に日に気温はどんどん暖かくなって春の訪れを告げていた。
 もう少し経てばコートも要らなくなるだろう。
 アパレルショップはもう春の新作がショーウィンドウに並んでおり、春らしいパステルカラーが駅前の通りを彩っていた。
 ショップの奥では一部の冬物衣類のセールをやっている店もある。
 何か掘り出し物がないか立ち寄りたくなって、しかしそこで提出期限はまだ先とは言え、課題のレポートがまだ完成していないことを思い出せば、自然と足が帰宅を急いだ。
 大学の講義も昼過ぎに終わり、アルバイトもない。早くレポートを仕上げてしまおう。
 前方から携帯電話を見ながらふらふらと人が歩いてきたので、そっとよけて人とすれ違えるだけのスペースを空ける。
 人通りが多い。
 都会の人は歩くスピードが早いというのは本当だった。
 またせかせかと歩く小柄な男性が前方から歩いてくる。
 ぶつかりそうな距離ではなかったのでエレンは今度はよけるような動作はせずにそのまま歩き続けた。
「!」
 男性とすれ違った時だった。ぐいっと腕を掴まれてエレンの体は後方へと引かれ、驚いて振り返れば、そのまま男と目が合う。

409:名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4)
16/04/06 21:13:54.57 d.net
 思い出せたところで、モデルになるつもりがないエレンは今度はこの場をどうやって切り抜けよう考え出す。

「あー……じゃあ、考えます。考えるので、とりあえず離してもらえないですか?」

 試しに名刺を受け取って曖昧な返答をしてみせてみた。
 すると、思いの外すんなりと腕は解放されて自由になる。返事が決まったら連絡してほしいと告げられ、また曖昧に言葉を濁す。

「いい返事を期待している。返事が決まっていなくとも質問があれば何でも答えるから連絡してほしい」
「わかりました。ちょっと急ぐので今日はこれで、」

 名刺を鞄にしまい込んで頭を下げる。律儀にもリヴァイもまた頭を下げてくれた。
 終わってみれば因縁をつけられたわけでもなんでもない。
 キャバクラのキャッチに声をかけられたようなものだと頭を切り替えて、逃げるようにしてその場を離れた。
 万が一にでも後をつけられていたら困るので、時々振り返って後方を確認したがリヴァイの姿は遠くなる一方でそんな様子はない。良かった、助かった。
 ほっと息を吐いて、帰路を急ぐ。住んでいるマンションまでここから歩いて十五分。
 そんな出逢いとも言えない出逢いからひと月ほど経った頃だった。
 ひと月も経てば、リヴァイのことは変な勧誘を受けただけ。飲み会の話のネタにもならない出来事になっていた。
 もらった名刺は鞄に入れたままなのでぐしゃぐしゃになっているだろう。
 そういえばこの間、傘を持ってもいないのに雨に降られたから濡れて文字すら読めないかもしれない。
 早めに処分しておいたほうが良さそうだ。
 あの時やろうと思っていた課題のレポートも早めに終わらせることができて、もう提出済み。大学生活は順調だった。
 来週くらいにはまた新しい課題が出されるかもしれない。
 金銭面の面倒をみてくれているグリシャのためにも、エレンは勉強しなければならなかった。

『……続いて、特集コーナーです。今日は写真家のリヴァイ・アッカーマンさんについて! 知る人ぞ知る写真家ですが、』

 突然、夕方のニュースを流していたテレビから聞き覚えのある名前が聞こえてきた。

「え?」

 思わずエレンがテレビを見ればそこには先日見た顔の写真が画面の半分を占領し、リヴァイ・アッカーマンと紹介されている。

410:名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4)
16/04/06 21:14:20.45 d.net
 混乱するエレンを置いて、リヴァイの顔写真が映っていた画面は次に彼の撮った過去の写真や写真集をスライドで流し出す。
 見たことのある写真だった。
 一部、エレンの知らない写真もあったが、出てくる写真のどれもがエレンの記憶にあるものばかりだ。
 忘れもしないし、間違えようもない。それはグリシャの部屋にあった写真集の写真だった。
(だからなんとなく聞き覚えがあったのか?)
 リヴァイについて調べもしなかったエレンはその事実に愕然とする。信じられない真実に頭がくらくらした。
 リヴァイは、怪しくないどころか好きだとも言える人物らしいことが分かる。
 ああ、でもこれで名前が分かったから写真集が買える。
 違う、自分はなんて失礼なことをしたんだ。でもあの場では仕方がない。
 いきなり写真を撮らせてくれなんて言われて警戒しないはずがない。あの写真集のカメラマンだなんて誰が思うか。

『アッカーマンさんはまだ発売日は未定ですがまた写真集を出すそうです。今度は自身初の人物写真がメインで、それに合わせて個展も予定しているだとか……これは楽しみですね!』

 テレビのアナウンサーは既に纏めに入っている。特集と言えどもコーナー自体の時間は三分程度の短いものだ。
 その三分間でこんなにも混乱したのは世界広しと言えどもエレンだけではないだろうか。
 久々に見た思い出の写真はやはりどれも綺麗だった。
 思い出補正などは決してなく、どれもが記憶以上のもので、改めて好きだと思った。
 特集コーナーが終わるとニュースは一旦コマーシャルへ移る。
 新商品のお菓子のコマーシャルで独特の歌が流れていた。
 頭に残ってたまに鼻歌で歌ってしまうけれど、今はそんなものは一切頭に入ってこない。
 エレンは慌てて、鞄を置いてある部屋の隅まで走り、中を乱暴に探り出した。
 あの名刺はどこへいった? 鞄のどこかにあるはずだ。

「あーもう!」

 探してもなかなか目当てのものが見つからない。苛立って鞄の口を逆さまにひっくり返して中身を床にぶち撒けた。

411:名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4)
16/04/06 21:14:24.71 d.net
 物をひとつずつよけて探すとやがて角が折れてボロボロになり、雨水で茶色くシミができてしまったいるそれが見つかる。幸いにもまだ字は読める状態だった。

「良かった! あった!」

 両手でそれを取り上げて、指先で折れてしまった場所を伸ばす。そんなことしたって元の状態には戻らない


412:ことはわかっていても、そうせずにはいられなかった。  ひと文字ずつ指でなぞる。  自分がリヴァイの世界の中に入れるとは考えもしたことがなかった。  似合うとも思えない。あれからもうひと月も経っているし、待っていると言われたのにエレンはリヴァイに連絡のひとつだってしなかった。  考えるとごまかして、しっかりとした断りだってしなかったのに、好きな写真家だったというミーハーな理由で話を蒸し返されても困らせるだけだろう。 なんだこいつは、と嫌な印象を与えてしまうかもしれない。返事もしていない時点でもう充分嫌な奴だが。 「はぁ……、」  大きなため息がエレンから漏れる。落胆していた。 (もったいなさすぎる、)  あの後になんでリヴァイのことを調べなかったのか。  レポートの提出日はまだ先だったのだから少しでももらった名刺に書かれた名前をインターネットで検索をかけてみれば良かったのだ。  たったの一分、時間を使っていればきっと今と違う結果になっていた。  一気に後悔が押し寄せてきて、エレンの気持ちはどんどん下降する。  もう夕食を作るのも面倒だった。そう思いつつも、腹は空腹を主張してぎゅるるるると鳴いていた。 「気晴らしに外で食べるか……」  なにか美味しいものでも食べて気持ちを落ち着かせよう。  エレンは財布と携帯だけをジーンズのポケットに突っ込むと、ついたままだったテレビの電源と部屋の照明を落として駅前へ向かった。  歩きながら店を決める。  最近できた個人経営の洋食屋にしようか。とても美味しかった。今度ディナーでも利用したいと思っていた店だ。  とぼとぼと歩いていると、もうその店は目の前だった。開店したばかりでまだ客は少ない。  真新らしいドアに手をかけると、ドアの内側にかけられたベルが来店を知らせてチリンチリンと鳴った。  落ち着いた照明の中に客はひと組。奥のテーブルに座って何やら歓談中のようだ。



413:名無し草 (ワッチョイ f395-imw8)
16/04/06 21:14:32.43 0.net
>>391
石田の方やで

414:名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4)
16/04/06 21:14:51.82 d.net
 店主とウェイター、それぞれからいらっしゃいませと声をかけられたので会釈して、カウンター席へと座る。
 奥の客がどんな料理を頼んでいるのか気になって、メニューを開く前に横目で盗み見た。
「あっ!」
 しかしエレンの視界に飛び込んできたのはテーブルの上の料理ではなく客の顔だ。忘れもしない。
 あの顔、あの髪型。そこにはリヴァイが女性と対面して座っていた。
 声を出した時、リヴァイと目が合った気がする。
 通りすがりのようなものだったし、もしかしたらリヴァイはエレンのことを忘れているかもしれない。
 でも覚えていたら気まずいことこの上ない。
 急いでメニューを開いて、その中の文字列を追った。
 カタカナばかりの料理名でちっとも頭に入ってこない。流し見るようにしてページを次々とめくっているとあっという間に最後のページまできてしまった。もう一度最初のページに戻る。
 奥の席が気になって仕方がない。何かぼそぼそと話している。
「……ほら、行ってきなよ。アンタなら大丈夫だって。わたしもう帰るからさ」
 何かエレンにとって不穏な内容な気がする。
(行ってきなって、もしかしなくてもオレのところにか? いや、お姉さん帰らなくていいですよ。助けてください。あっ、ちょ、立った。こっち来る。やばいやばいやばい……)
 顔面蒼白。なんだか急に体調が悪くなってきた。呼吸が苦しいし、鼓動も尋常じゃないくらい早い。
 変な汗も出てきたし、顔も熱い。熱でもあるんじゃないのか。帰ったほうがいいんじゃないか。
 カルパッチョってなんだっけ。サルシッチャってなんだっけ。あれ? アヒージョって踊り食いのこと? コンフィって猫の種類じゃなかったか?
 まさにエレンの頭はパニックだった。
 数歩の距離なのにリヴァイがこちらに来るまでがひどく長く感じた。
 そうだ、きっとトイレがこっちにあるんだ。そうに違いない。
 以前トイレを借りた時に奥に行った記憶を打ち消してそんな現実逃避まで始めるも、リヴァイはエレンの背後でその足を止めた。
「…………」

415:名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4)
16/04/06 21:14:55.83 d.net
「よう、覚えているか?」
「…………」             
「チッ、」
 緊張でなにも言えない。後ろを振り返ることすらできない。
 背中を丸めるとメニューにどんどん顔が近づいていき、もうすぐメニューとキスしてしまうそうだ。
 そんなエレンの気を知ってか知らずか、リヴァイはエレンの隣の椅子を引いてそこに腰かけた。
 体は完全にエレンの方を向いている。頬杖をついて、メニューとキスする五秒前のエレンをじっとりと眺めていた。
 怖い。最初に腕を掴まれた時の恐怖が蘇る。いや、今日はエレンに後ろめたいことがある分、初対面の時よりももっと怖い。
 こんなに怖い人があんな綺麗な写真を撮ってるだなんて詐欺だ。
「このひと月、ずっと連絡を待っていたんだがそろそろ待ちくたびれたな」
 わざとらしいため息。視線が痛い。リヴァイは目から針でも出てきて自分をチクチクと刺しているのではないか。
「……あの、それ……オレに言ってます……、よね……」
「あ? 忘れたのか?」
 この期に及んで、もしかしたら人違いかもしれないという可能性にかけて確認してみると、針がナイフに変わった。ようするにさらに鋭い目つきで睨まれた。
「すみません! よくある勧誘だと思って無視していました! でも本当に写真家さんで、しかも昔よく見た写真集の人で、まさか道ばたでいきなり腕をすげえ力で掴んできて自分を撮りたいと言った人がその写真家さんだなんて思わなくて、……ごめんなさい!」
 勢いよく頭を下げると、ゴツン! といい音がした。メニューとのキスは避けられたが、テーブルとは額でキスをしてしまう。
 どうにでもなれとばかりに正直に話して謝罪する。まだ心臓はドキドキとうるさい。
「……まあいい、」
「…………」
 ふっとリヴァイを纏う空気が変わった。針もナイフも感じない。おそるおそる顔を上げてリヴァイを見ると無表情に近いが笑っているような顔をしていた。
(怒ってない……?)
「飯食いにきたんだろ。何にするんだ? ここは何でも美味いが、メニューになくても食べたいものがあれば言え。店主が知り合いだから作らせる」
 その言葉にこの店がリヴァイのテリトリーだったことを知る。また腹の虫が空腹を訴えて鳴き出して、エレンは羞恥で赤くなった顔をメニューで隠した。

416:名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4)
16/04/06 21:15:24.97 d.net
 小声で伝えると、リヴァイは知り合いだと言う店主にハンバーグのチーズ焼きとサラダ、ライス大と辛口のジンジャーエールを注文した。
 次いで、会計はリヴァイ持ちでいいと言い、自分用にグラスシャンパンを頼んでいる。
 奢ってもらう理由がないと慌てたエレンは会計は別にしてほしいと頼んだが、あえなく却下されてしまった。
 曰く、何の欲目もなしに奢るわけがない。下心があるに決まっているとのことだった。
「まだモデルは決まっていない。撮らせてくれ。その目が欲しい」
 睨むでもなく、ただ真剣に目と目を合わせてそんなことを言われると、口説かれているような気分になる。
 男同士なのに妙な気分になってしまいそうだ。
 改めて見るとリヴァイは整った顔立ちをしていた。
 背こそ低いが、欠点はそれくらいに思える。
 リヴァイと一緒にいた女性はエレンがメニューに沈んでいる間に本人の宣言通りに帰ってしまっていたようだ。
 エレンがようやくまともな思考で話せるようになったと判断したのか、リヴァイはテーブル席に置いていた荷物を取りに一旦席を立ち、またすぐに戻ってきて先ほどと同じようにエレンの隣に座った。
「さっき、テレビでアッカーマンさんの写真を見ました。特集コーナーで、」
「リヴァイでいい」
「……リヴァイ、さん…………昔、父親の部屋にリヴァイさんの写真集があったんです。でもどこかにいってしまって、誰の写真集かも分からなかったそれっきりだったんですけど、やっと分かったので今度買おうと思います」
 リヴァイが切り取った世界はどれも美しい。ずっと好きだった。
 新しい写真集も発行されているのなら調べてそれも買いたい。
 彼が話したいこととは違うことは分かりつつ、好きだと訴えることをやめることはできなかった。
 本当なら今ここで携帯電話を使ってネットショッピングでもしてポチっと購入してしまいたい


417:くらいだ。 「そんなことを言うといい返事だと期待するが?」



418:名無し草 (スプッ Sd9f-G+K4)
16/04/06 21:15:29.39 d.net
 頼んだグラスシャンパンが出される。合わせて、ジンジャーエールもエレンの前に置かれた。軽く乾杯をしてからひと口飲む。シュワシュワした炭酸で頭が冴えてきた。
 テレビを見た時はモデルを引き受ければ良かったと後悔したが、本当にエレンで良いのだろうか、と疑問がわく。
 当たり前だがエレンは一般人だ。どこにだっている大学生で、リヴァイはやたらと目を褒めてくれるけれどそれだって人より少し大きな釣り目というだけだ。
 目力が強いとはよく言われる。でも目が大きければそんなことは必然で、ほかにも似たような人はいるだろう。
 それどころか、もっと良い人だってたくさんいるはずなのだ。
 リヴァイがエレンを選ぶ理由がないように思えた。エレンでなければならない理由が、エレンには分からない。
 素人を使うより、プロを使ったほうが撮影も楽に進む。
 何より、自分がリヴァイの世界に紛れ込むことで、彼の世界が汚れてしまうんじゃないかと恐怖すら感じてしまった。
 すっかり怖じ気づいたエレンはそれを素直にそのまま伝える。
「……お待たせさせてしまったのに申し訳ないです」
 リヴァイの期待する返答ができない自分が悔しかった。もっとエレンに自信があれば、喜んでと言えたかもしれない。
「……言いたいことはそれだけか?」
 そう尋ねたリヴァイどこか、覚悟を決めたような表情に見えた。
 シャンパンを口に含んで、喉を鳴らして飲み込む。
「いいか、よく聞け…………俺は、お前に一目惚れした。だからお前が一番綺麗だと思っているし、一番綺麗に撮れる自信がある。好きだと思った奴を撮りたい。自分の世界に入れたい。そう思うことは自然だろう? 他の奴じゃ駄目だ」
「え、」
「惚れたと言っても付き合えとは言わない。好きだ。撮らせてほしい」
 緊張しているのか、リヴァイの肩がわずかに震えていた。
 突然の告白にパチパチと目を瞬かせる。
 リヴァイに見えないようにカウンターテーブルの下で自分の手の甲を抓ってみると痛かった。夢じゃない。
 口説かれているみたいだ、と思ったのは勘違いじゃなくて、真実だった?
「え、は……? はああああ? なん、どういう……っ!」
「一度しか言わねえよ。こっぱずかしい」
 リヴァイもどこかぎこちない反応を大混乱中のエレンに返して暫く無言が続いた。


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