もしカミーユ、Zキャラが種・種死世界に来たら12 at SHAR
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100: ◆x/lz6TqR1w
08/05/30 23:52:22
「分かりました。やってみます」
『頼むわね』

 そう言ってワイヤーを引っ張って収納すると、セイバーはすぐさま味方の援護に駆け寄っていく。セイバーはある種、旗艦としてのミネルバから出てきた、前線指揮機でもある。前線を崩壊させないようなナーバスな気配りが、セイバーの動きに表れていた。
 ルナマリアの瞳が、戦闘空域の空気を読む。混戦に突入しているだけあり、印象としては双方とも、とっ散らかっている感じだ。互いの総力がぶつかっているのだから、それも当然だと思う。ケルベロスを反転させ、ファイアフライ・誘導ミサイルを吐き出して敵を散開させる。
 ルナマリアは、シンのデスティニーを探した。派手な翼を背に持っているデスティニーはミノフスキー粒子の濃い戦場でも、目視で容易に視認できる。果たして、残像をいくつも生み出しながら機動しているデスティニーを発見した。

「あんなところまで出ちゃって―囲まれちゃってるじゃない、シンのバカッ!」

 両腕のビームシールドを展開させ、ボクシングのピーカブー・スタイルのように身を固めて敵からの集中砲火に遭っているデスティニーが見えた。時折ガード・スタイルを解いてはビームライフルで迎撃しているが、不利であることは火を見るより明らか。
戦いにのめり込むあまり、自分が突出していた事に気付いていなかったのだ。頼りになるようになったと思えてきた矢先にこれでは、永遠のガキ大将の称号を与えてやりたくもなる。
 ブラスト・インパルスを加速させ、肩部のレール・ガンでデスティニー周辺の敵部隊に牽制を放つ。上下左右に展開した敵MS部隊。そこへ、左右に散開した一団に向けて、それぞれに2門のケルベロスを差し向けて何機かを撃墜した。

「イエスッ! あたしだって、やりゃあ出来る子!」

 苦手としていた射撃。ガナー・ザク・ウォーリアに乗っていた頃から感じていたジレンマは、いまいち当たらなかったオルトロス。しかし、同じ砲撃戦用装備のブラスト・インパルスで、ルナマリアは自分でも驚くほど攻撃を当てていた。

「シンに貸しを作っておくのも、悪くないってものよ!」

 人間、苦手なうちはつまらなく感じるもの。だが、一旦上手く行くようになれば、それは快感に変わるものである。コックピットの中で珍しくガッツ・ポーズをとるルナマリアは、射撃の快感に酔いしれていた。
 一方で、逃げるように後ろ向きで後退するデスティニー。高エネルギー砲を左小脇に抱え、薙ぎ払うように強烈な一撃を見舞って追撃を遅らせる。シンはチラリと後方を確認し、ブラスト・インパルスの姿を確認した。

「迂闊だった―インパルス、ルナが助けてくれたのか?」

 高エネルギー砲のビームの奔流を掻い潜って、ドダイに乗った一機のソード・ストライカーのストライク・ダガーが突っ込んでくる。後退するデスティニーと入れ替わるようにブラスト・インパルスが前に出て、胸部のCIWSで迎撃した。
 しかし、流石は接近戦用の装備である。バルカン程度の攻撃ではダメージが殆ど通らず、尚も加速を続ける。その両の腕には、しっかりと対艦刀シュベルト・ゲベールが握られていた。
 ブラスト・インパルスに振り上げられたシュベルト・ゲベールは、少しの遠心力を加えて、重量級の一撃を振り下ろしてきた。しかし、ブラスト・インパルスはそれをかわし、迂回するように背後に廻ると、対装甲ナイフを引き抜き、突き刺して離脱した。
 そこへ、間髪いれずに容赦なくデスティニーが腕を伸ばす。下から突き上げるようにして繰り出される掌底が腹部に突き刺さり、そのままパルマ・フィオキーナでストライク・ダガーを上下に分断した。
 爆散するストライク・ダガーから離れ、ブラスト・インパルスと肩を合わせて落ち合う。シンにもコツンという衝撃が伝わり、接触した事を確認してから口を開いた。

「ルナ!」
『もう、夢中になると周りが見えなくなっちゃうんだから! 貸しだからね、これ!』
「ごめん―でも、エマさんを一人にしてきたのか?」
『敵の数が多くて、あんたが居ないと前線を支えきれないのよ。だから、分かったらさっさと戻る!』

 急かすルナマリア。味方の部隊が居るとしても、前線が崩れ始めているようであれば、エマ一人だけでは危険だ。デスティニーとブラスト・インパルスはそれぞれ砲撃を放ち、残った敵を牽制した後、反転して飛翔して行った。

101: ◆x/lz6TqR1w
08/05/30 23:54:38
 エマの目に、ザフトの防衛線が崩れていくのが見える。要所要所では持ち堪えているように見えるが、それが決壊するのも時間の問題だろう。加えて、エマ自身も疲労で頭の中が少し白んできたように感じる。
集中しているのに、何故か眠気が襲ってくるのだ。頭の中が沸騰するような熱を帯びているような気がする。この辺りが、ナチュラルとしての自分の限界だろうか。頭を振り、自分に正気を戻させる。

「疲れてるって、思いたくは無いけど―」

 目が充血していると思う。自分では確認できないが、目の周りが妙に乾いているように感じるのだ。その証拠に、次第に景色が霞んで視界が悪くなってきた。瞬きで目を潤そうとするが、それも付け焼刃。
エメラルド・グリーンの瞳を細めて、何とか一定上の視界を確保しようとする。自然と眉間に皺が寄り、如何に不細工な顔になってしまっているかも、本人には分からないだろう。それだけ必死で、エマは疲れていた。
 だからこそ、隙が生まれたのかもしれない。視界を確保しようと細めた目が、逆に視界を狭めていた事に気付いたのは、背後から忍び寄ったランチャー・ストライク・ダガーがアグニの照準をセイバーに合わせた後だった。

「しまった!?」

 危険を告げるアラートが鳴り響く中、エマは自らの不覚を悟る。しかし、その時高空から降り注がれた数発のビームが、ランチャー・ストライク・ダガーを直撃し、ドダイの上から撃ち落した。
急に仰向けに落とされたストライク・ダガーのパイロットは焦ったのか、虚しくアグニの光が空に向かって伸びる。

「何なの―援護攻撃?」

 上空からの援護は、ミサイルによる攻撃だけだったはずである。ビーム攻撃などは聞いていない。エマが上空を仰ぎ見ると、そこからMSを背に乗せた航空機がやってくるのが見えた。
航空機の背に乗ったMSは飛び上がり、先程のストライク・ダガーが使っていたドダイの上に舞い降りる。
 そして、航空機は変形した。トリコロールに彩られたシャープなシルエットのMSは、ビームライフルを構えると速射して次々と連合軍のMS部隊を撃退して行った。ブレード・アンテナ中央基部に刻まれる“Ζ”の文字―

「Ζが空から降ってきた!?」

 ドダイに降り立ったガンダムMk-Uは、腰のウェポン・ラックからハイパー・バズーカを取り回し、装填されているだけの弾頭を撃ち放つ。一定以上の距離で拡散する散弾の礫が、構造上弱い頭部やバーニアを破壊していく。
 突如現れた宇宙からの増援に、連合軍は慌てたのか信号弾が数珠繋ぎ的に炸裂した。それと同時に反転して引き上げていく連合軍は、撤退命令が下ったのだろう。長い長い、連合軍の第一波攻撃が、大西洋側だけは終わった。
 ドッと疲れが津波のように押し寄せてきたのか、エマは大きな深呼吸をすると、ぐったりとシートの背もたれに体を預けた。
 他方、ΖガンダムはガンダムMk-Uが乗るドダイの上に降り立ち、揺れるドダイのバランスを取っている。
 どれだけの激戦がこの空域で行われたのか、カミーユの目にはそれが何と無しに分かる光景だった。海に浮かぶMSの残骸は、焦げていたりバラバラになっていたりで連合軍のものなのかザフトのものなかの区別がつかない。
こんなに海を汚しちゃって、どうするんだよ―そう考えたが、必死に戦うものにそんな価値観は皆無に等しいだろう。誰もが死にたくなくて戦っている。自分の事だけで、手一杯だったはずだ。
 そんな時、コックピットのモニターに他機からの接触を告げるマーカーが表示された。接触してきたのは、空中で制止してワイヤーを伸ばしているセイバー。

『その機体、カミーユなの?』
「セイバーは、エマさんだったんですか」

 声を聞き、モニターに移る小さな画像から久しぶりのエマの表情を見つけた。カミーユの声に応え、ヘルメットを脱いで素顔を晒した。汗で濡れた額に張り付く前髪が、妙な色気を醸し出しているような気がする。

『Ζ、出来たのね』
「大気圏の突入も問題なく出来ました。バランスはまだいまいちですけど、完成度は高いですよ、これ」
『そうでしょうね―』

 ふと気付くと、連合軍が撤退して行った方面からデスティニーとインパルスが戻ってきた。インパルスはエネルギーが切れてしまっているのか、灰銀に戻ってしまっていて、腹を抱かれるようにしてデスティニーに抱えられていた。
稼働時間が長いデスティニーに比べ、電力を消費して稼動しているインパルス、その上最も消費量の激しいブラスト・シルエットを装備しただけに、力尽きるのも早かった様子だ。

102: ◆x/lz6TqR1w
08/05/30 23:56:51
 それにしても、デスティニーに抱きかかえられるインパルスが可愛らしく見えた。何となく、乗っているパイロットの2人の関係に思える。
 デスティニーがワイヤーを伸ばし、セイバーに接触した。

『すみません、エマさん。ルナに助けられました』

 セイバーを介して伝わってくるシンの声に、随分素直な物言いになったものだとカミーユは思った。数ヶ月前に別れる時は、まだつっけんどんな尖がった言い方しか出来なかった彼が、様々な出来事を経験して変わった証拠だと思う。

『それと、偶然に傍受した敵の通信によると、陸戦部隊の方が劣勢みたいなんです。やつら、デストロイを投入するとか何とか―』
『本当なの!?』

 感慨深げに感心している場合ではない。デストロイといえば、カミーユはまだ見たことは無いが、都市を一つ簡単に壊滅させられるだけの威力を持った驚異的戦略兵器だと認識している。
そんなものに突破されたのでは、ジブラルタル基地はあっという間に甚大な損害を被る事になるだろう。それでは宇宙への脱出は絶望的になってしまう。

「エマ中尉、Ζで先行します!」
『カミーユ!?』

 言うが早いか、Ζガンダムはウェイブライダー形態に変形して空を駆けていった。高速機動形態だけあり、あっという間に空の彼方に消えていく。

『カミーユって、あのカミーユさんですか? なら、俺も行きます!』
「シン!?」

 デスティニーはガンダムMk-Uの乗るドダイにインパルスを乗せた。

「Mk-U、ルナをミネルバまで送り届けてください。頼みますよ」
『えっ、あたし? でも、お兄ちゃんが―』
「それじゃっ!」

 声が揺れるロザミアの言も聞かず、デスティニーは凄まじい速度でΖガンダムを追っていった。あれに追いつけるのは、MAくらいなものだろう。ドダイ―しかもインパルスを乗せて重量の増しているドダイでは、追い縋れない。

『すみません、よろしくお願いします……』
「もうっ! あたしとお兄ちゃんだけに任せておけばいいのよ!」

 遠慮がちに声を掛けてくるルナマリアの声は、ロザミアに聞こえているのだろうか。対照的に不平をぶちまけるロザミアは、忌々しげにインパルスを睨むと、セイバーに先行されてミネルバへの進路を取った。


 ヨーロッパ側から現れたデストロイは、ミネルバ隊が大西洋側に陣取ると読んだ連合軍の作戦だった。ミネルバの戦力は、須(すべか)らく空中戦能力を有している機体ばかりである。
そして、唯一のエース部隊となれば、その戦力は激戦区に投入したくなるのが素直な人間の考える事。そういった点で考えれば、起伏が激しく守りやすい陸上よりも見晴らしのいい海上からの侵攻に備えて神経を尖らせるのは、想定どおりだった。
だから、大西洋側の連合軍の部隊数は多かったし、実際にミネルバを疲弊させる事が出来た。
 そしてデストロイが出撃し、イベリア半島側から攻める連合軍は優勢に事を進めていた。ここまでは、作戦通りといったところだろう。並居るザフトの一般機など、デストロイの強大な攻撃力と防御力の前では有象無象の如き雑魚に過ぎない。
 しかし、状況が変わったのは、あと少しでジブラルタル基地本営に入れるというところだった。
 ザフトのMSは相変わらずバビやディン、そしてガズウートやバクゥ・ハウンドといったものが中心だったが、紛れ込んできた3機のMSが増援として現れた辺りから状況が一変したのである。
見れば、それはミネルバのMS―深紅のインフィニット・ジャスティスと鈍いグレイのレジェンド、それにファントム・ペインのMSであったはずの黒い番犬、ガイアだった。
 その、たった3機がザフトに加わっただけで、戦況はがらっとその様相を変質させた。すでにデストロイが2機、インフィニット・ジャスティスの凄まじい剣撃で沈んでいるのである。

103: ◆x/lz6TqR1w
08/05/30 23:58:16
 奴らはやはり化け物―ファントム・ペインから借り受けた陸上戦艦ボナパルトを指揮している連合軍の士官は、苦虫を噛み潰したような表情で戦況を見つめていた。
 そんな時であった。

「なっ―!?」

 ボナパルトの正面に、唐突に姿を現したインフィニット・ジャスティス。その頭部が、艦橋窓一杯にデュアル・アイを瞬かせた。そして、ビームサーベルの一突きでブリッジを貫くと、あっという間にボナパルトから離脱した。
その後に、ボナパルトは最後の咆哮を上げるかのように砲撃を乱射し、やがて誘爆によって艦の全体が爆発を始めた。
 容赦ないアスランの一撃。しかし、この戦場にあって余裕など持てるはずもなかった。情けを持って敵と当たっていれば、やられるのは自分である。そんな事を、疲れた身体から本能的に言われているような気がしていた。

「これで、敵の指揮系統は死んだはずだが―」

 空中に躍り上がり、アスランは上空から戦場を見つめた。命令系統を潰せば、後は混乱する敵を掃討するのみである。デストロイを見れば、レジェンドとガイアがそれに当たっていた。

 レジェンドのレイは、カツに比べて体力的な余裕が多かった。それというのも、レイはこの戦いが長期戦になる事を想定して、最初から体力の温存を図っていたのである。尤も、それが出来たのもレジェンドの高性能ゆえであるが―

「グ……ッ!」

 相も変わらずデストロイはその巨体を見せ付けているかのようだ。黒光りする装甲に、巨大なレドームのようなバック・パックを頭から被っているMA形態のそれは、あたかも歩く巨大キノコのようだ。
しかし、その一種間抜けな威容から放たれる砲撃は、シャレでは済まされない威力を誇っている。
 それでも、レジェンドを得たレイならば、大した脅威になる敵ではなかったはずだ。全てが、彼の思うように進んでいれば―

「もう、薬の効果が切れたのか……? また早くなった―」

 レイを襲う苦しみは、クローンであるがゆえの定めだった。特殊な薬を服用しなければ寿命を引き伸ばすことが出来ないレイは、それでも薬の効能が付け焼刃に過ぎない事も理解していた。それは、こうして薬の持続時間が徐々に短くなっていっている事が証明している。
 自分は、後何年―何ヶ月生きられるのだろうか。レイは、既に自らの体の衰えを実感し始めていた。若干16歳にして感じる、自らの老い―それは、少年のレイにとっては余りにも残酷な現実だった。
 最近、食が細くなっているような気がする。それは、薬の服用による副作用かもしれない。最近、夜更かしをするのが辛くなってきた。それは忙しいせいかもしれない。最近、鏡に映る自分の顔が、老けてきたように見える。それは、単に自分が老け顔なだけなのかもしれない―
 虚しすぎる。いくら他に理由を求めようとも、テロメアの短さを宣告され、事実を知っているレイにはそのどれもが言い訳に過ぎなかった。自分は今、確実に老い、そして近い将来の死へ向かって歩いている。
既に、自らの死期を予感するまでに年老いた自らの精神が、それを象徴している。
 レイは僅かに咳き込み、顔を俯けた。その正面には、レジェンドを見下すデストロイ。

 ガスンッ―横から襲う衝撃に、レイは驚いた。何事かと霞む目でモニターを確認すると、黒いMAがレジェンドを庇うように立ち塞がっていた。ガイアはMS形態に戻ると、シールドを構えてデストロイからの砲撃を受けていた。
自らの周囲を掃除するかのように、ネフェルテムの光が幾つものビームの軌跡を大地に突き刺している。

『レイ、大丈夫か!』
「カツ…か?」
『デストロイの“傘の骨”だ。迂闊に動きを止めたら、やられちゃうだけじゃないか!』

 デストロイがMA形態のときのみ使用するネフェルテム。円盤状のバック・パックの円周上から放たれるビームの光景が、あたかも傘の基部から伸びる骨組みのように見えることから、ザフトではその様子を揶揄してそう呼んでいた。

「す、すまない……」
『えっ?』

 弱気な声を、カツに気付かれてしまっただろうか。何かに反応したように、MAに変形したガイアはうずくまるレジェンドを下から掬い上げ、その背に乗せてデストロイの前から離脱した。


104: ◆x/lz6TqR1w
08/05/30 23:59:59
『何処か具合でも悪いのか?』
「いや、何でもない……」
『何でもないって―凄い汗を掻いているじゃないか!』

 通信回線でこちらの様子を見られている。レイは慌てて表情を取り繕った。
 レイにとって、自分がクローンで寿命が残り少ないという事実は、可能な限り仲間には知られたくなかった。そのせいで、せっかく打倒ブルー・コスモスに向けて上がっているミネルバの気運が、下がってしまう事を恐れているのだ。
 下手をすれば、ミネルバから降ろされる事になってしまうかもしれない。ミネルバを降ろされれば、レイがエース部隊の一員として活躍する場が無くなってしまう。それだけは、避けたかった。
 そうまでしてレイが戦いに拘るのは、勿論デュランダルのためである。エース部隊であるミネルバで戦い、ブルー・コスモスを討ってデュランダルの理想とする世界を築く―その為に、自らの残りの命を全て注ぐ事に、レイは全力を傾けている。
 しかし、ミネルバの人間はそんなレイの覚悟を理解できないだろう。きっと、少しでも長生きできるようにする為に、ミネルバから自分を降ろすに決まっているのだ。よしんば粘ってミネルバに所属し続ける事になっても、艦内の空気は確実に澱む。
それでは、ミネルバはエース部隊として機能しなくなるだろう。だからこそ、レイは自らの秘密を打ち明ける事が出来ない。ジョージ=グレンの例を挙げるまでもなく、レイにとって告白は危険を伴う行為だからだ。

「大丈夫だ。少し、眩暈がしただけだ」

 そう言うと、レジェンドをガイアの背から飛び上がらせた。そして、デストロイから更に距離を開けて付近の森の中に身を隠した。たったそれだけの移動だったが、レイの呼吸は著しく乱れ、ヘルメットを外して全身で深呼吸を繰り返していた。
 こんな時のために、レイは緊急用の薬を常時パイロット・スーツに忍び込ませていた。チャックを開け、手を入れて数錠の薬を取り出すと、一気に口の中に放り込んだ。粘つく口の中は、乾いていて喉の通りも良くない。
戦闘中の水分補給のために用意されているボトルを取り出し、一刻も早く体内に薬を取り込もうと天を仰いで一気に流し込んだ。そうして、レイは少しの間シートに身体を預けて目蓋を下ろす。こうして、薬の効能が出てくるまでの間、待っているのだ。

 こんな不自由な身体でなければ―何度そう思い、打ちひしがれてきただろう。レイにとって、ナチュラルだコーディネイターだのという価値観は、無意味に等しかった。彼は、ただ単に普通の身体が欲しかった。
 薬などに頼らず、長い人生を自由に選択できる、自由な身体を―もし、そんな普通の身体を手に出来るならば、普通の男女がするような青春を満喫しようとしたかもしれない。しかし、この短い命では、出来る事は極端に限られてくる。
そして、先が短いとなれば選択肢はなるべく一つであった方が都合がいい。人間、2つのことは容易に出来たりはしないものだからだ。
 そこで、レイが選んだのはデュランダルの為に生きるという選択だった。普通の男女がする青春よりも、レイは恩人であるデュランダルの為に命を燃やす事を決めたのだ。純粋な親子愛というには少し違うかもしれないが、レイにとってデュランダルは残された全てだった。

 ラウ=ル=クルーゼ―彼もまた、自分と同じクローン人間で、不完全体として短い寿命を悪戯に突きつけられた哀れむべき人間である。
 世の中は彼を戦争犯罪者として悪く言うが、それは間違いだと思っている。何故なら、レイとデュランダルだけはクルーゼの優しいところを知っているからだ。彼は同じ境遇であるレイを拾い、デュランダルとも引き合わせてくれた。
 結果的にクルーゼは世界を滅ぼそうと悪意を拡げたが、その原因は別にある。全ては、人の命を造れると勘違いした愚かな妄執の所業にあるのだ。
 だからこそ、その遺伝子を継ぐキラ=ヤマトが許せない。自分だけはのうのうと、しかも完璧なコーディネイターとして自由な人生を歩んでいるのである。レイにしてみれば、正に羨望の的。羨望どころじゃない、嫉妬や憎悪に繋がる。

105: ◆x/lz6TqR1w
08/05/31 00:00:53
 暫くの間、そんな無意味な空想に耽っていたレイは、ふと目蓋を上げた。薬の効き目が、出てきたようだ。先程までの苦しみは空気中に拡散し、溶けて消えていったかのように気分が落ち着いてきた。
 時間的には、どのぐらい経ったのだろう。チラリと時計に目をやる。休み始めた時間は正確に覚えていないが、恐らく5分と経っていないはず。しかし、デストロイの火力を考えれば、被害の拡大は直ぐにでも抑えたい。
 レジェンドが森の中から飛び上がり、進軍を続けるデストロイに向けて背部のドラグーンとビームライフルを一斉に放った。当然、陽電子リフレクターに全て弾かれてしまったが、目をこちらに向けてくれるだけでいい。後は、レジェンドの高性能がものを言うからだ。

 そんな時、見慣れない航空機のシルエットがデストロイに向かっていくのを見た。カラーリング的には、シンのデスティニーに近いだろうか。トリコロールの派手な外見に、美しいシャープな線を描いている。
その航空機は、デストロイの正面にまで接近すると、急制動を掛けてMSへと変形を始めた。

 Ζガンダムが到着すると、いよいよ連合軍は慌て始めた。唯でさえ、ミネルバからの3機の乱入者のお陰で旗艦が撃沈させられているのだ。撤退か継戦かの選択に迷っている時に姿を現したΖガンダムの登場は、駄目押しだったのかもしれない。
 カミーユの瞳に飛び込んできたデストロイのシルエットは、昔グリーン・オアシスのアングラの出版物でチラリと見たことがあるような気がした。一年戦争の特集で、確かその記事は星一号作戦によるコンペイトウ攻略戦の項だったと思う。
そこに掲載されていた写真に、色こそ違えどMA形態のデストロイに似た巨大MAが居たのだ。確か、その掲載されていたMAは“ビグザム”という非常に濁点の多い名前だったような気がする。
ホワイトベースに乗っていたカツなら、もしかしたらもっと詳しく知っているかもしれないが―

「何ッ!? コイツ、変形するのか!?」

 駆動部に負担を掛けまいと、ゆっくりとデストロイは変形を始めた。脚部が180度回転し、円盤型のバック・パックが上がって背中にマウントされていくと、そこから覗かせた頭部の形状は、まさしくガンダムの顔だった。

「こりゃ、サイコ・ガンダムじゃないか! そうか、デストロイって、こういう奴だったのか……ッ!」

 初めて見るデストロイの生の姿に、カミーユは驚愕の声を上げた。黒光りする装甲に、巨大な機体。そして全身にビーム砲を散りばめてある悪魔のようなシルエット。まるで、フォウやロザミアを戦いに縛り付けたサイコ・ガンダムそのものだ。
 デストロイの頭部で、人間の口にあたる部分が光を放つ。広域に扇状に広げられたツォーンが、Ζガンダムを襲った。その前にデストロイの攻撃を察知したカミーユは、悠々とツォーンを回避していたが、その表情には何とも言えない憤りが滲み出ていた。

「こんなものを造るから、いつまで経っても話し合おうとしないんだ! 余計なものを造るんじゃないよ!」

 一気に伸び上がったΖガンダムは、ビームサーベルを引き抜いてデストロイを切り付けた。しかし、堅牢な装甲を持つデストロイは、Ζガンダムのビームサーベルの一太刀だけでは思ったようにダメージが通らない。
逆に、暴れ狂ったデストロイの呆れるほどの砲撃が、味方に被害を及ぼしてしまっている。
 Ζガンダム一機だけでは、味方を庇いながらデストロイを攻略する事は出来ない。カミーユは念じ、周囲の状況を頭の中に立体的なスケール図として思い浮かべた。カミーユの感じる、様々な人間の思念―それであらかたの位置を把握し、手立てを考えるのだ。
極端に感度の優れたカミーユのニュータイプ能力だからこそ出来る芸当。交錯する人間の思いを、カミーユは頭の中で処理できる。

「ノイズが気になるけど、アスランとカツはMS隊の迎撃、レイは―」

 おかしい。明らかに、レイの思念だけ消耗が激しい。それは、戦闘の疲れから来る様な感じではない。疲労度的に言えば、カツの方がよっぽど疲れている。では、カミーユが感じたレイの不調さは何なのか。流石のカミーユでも、それは分からなかった。
 ならば、慎重を期してレイに無理はさせられない。彼には出来るだけ前に出ないようにしてもらって―

「この感覚―ついて来ていたのか!」

 頼りになる、強い感覚を受信した。彼が来てくれるならば、心強い。カミーユは、その人物に向けて思惟を飛ばした。

106: ◆x/lz6TqR1w
08/05/31 00:01:14
 戦火の一等激しい区域の様子が、シンの目にも見えている。デスティニーはビームサーベルを片手に、進路上の石を跳ね飛ばすように敵MSを駆逐しながら進んできた。
 あれが、連合軍の最後の抵抗か―シンがそう睨み、更にデスティニーを加速させようとしたとき、不意に頭の中に不思議な感覚が混じりこんできた。自分の意識の中に入り込んだ、他人の意識とでも言えばいいか、それは余計なものの筈なのに、何故か拒否反応が出なかった。

「何……?」

 まるで、時間が自分を残して止まってしまったかのような錯覚に陥る。こんな不思議な体験は、今まで経験したことがない。誰かに見られているようなのに、誰が見ているか分からない。しかし、その呼び声は、自分の進むべき道を指し示しているかのように訴えてくる。
自然と、シンの目がデストロイへと誘導させられた。殆ど無意識に動いた眼球が、倒すべき敵としてのデストロイを一直線に捉える。
 途端に、時間が動き出した。シンの身体が殆ど反射的にブースト・ペダルを踏み、アロンダイトを構えていた。頭で理論的に考えるよりも先に、本能が身体を突き動かしているような感覚―なのに、それが正しい行動として納得できてしまうのだ。
 そして、少し遅れてシンの理性的な部分が、状況を把握した。連合軍の動きは足並みが乱れていて、まともな指揮系統が既に死んでいることが見て取れる。混乱する連合軍の状態について、今、最も何とかしなければならないのが、猛威を振るっているデストロイだった。
 時間差的に、シンの頭と身体の矛盾が解消される。疑問が払拭されたシンは、先程の不思議な感覚も既に忘れてしまったかのようにデスティニーを機動させた。

「そこのデストロイ! これ以上はやらせるかッ!」

 凄まじい数の残像を生み出し、まるでイリュージョンのように美しい軌跡を残してデスティニーはアロンダイトでデストロイに切り掛かった。大きく振りかぶったアロンダイトの一閃が、デストロイの右腕を切り落とす。
 デスティニーの強力な一撃に慄いたデストロイは少し機体を仰け反らせ、一歩二歩と後ずさりした。その下で、ホバリングで駆け寄ってきたΖガンダムが、手にしたビームサーベルで立て続けにデストロイの脚関節を切り刻む。
脚部をショートさせ、倒壊するビルのように機体を傾けたデストロイに、続けてデスティニーのビームブーメランが頭部を吹き飛ばした。そして飛び上がったΖガンダムが倒れかけのデストロイのコックピットに向け、ビームサーベルを突き立てる。

 黒い巨人が、煙を噴き上げて爆発を始めた。大きな地響きと共に崩れ落ちるデストロイは、抵抗を続けていた連合軍の全軍撤退を促すのには十分な成果を挙げていた。連合軍は戦力の建て直しを図るべく、引き揚げていく。
それは、ザフトの勝利を証明していた。

 それから数十分後、全ての機体が帰還すると、ザフトの宇宙への脱出がすぐさま再開された。連合軍の侵攻を撃退できたとはいえ、もたついて第二波侵攻を受けては目も当てられない。勝利に酔いしれたいところだが、そんな暇はないのだ。

 宇宙では、ジブラルタル基地での戦闘に決着がつくと同時に連合宇宙軍も撤退を開始していた。ミネルバを始めとするザフト地上戦力は、その力を蓄えたまま、遂にボルテークと合流を果たした。
 一行は、やっとの思いでプラントへと向かう。戦いは、宇宙へと移行しようとしていた。

107:通常の名無しさんの3倍
08/05/31 00:05:25
C

108: ◆x/lz6TqR1w
08/05/31 00:08:29
今回は以上です。
前回でカミーユを残したのはつまりΖで大気圏突入をやりたかったからで
前作でやり残した事でもあります。
ここから先は全て宇宙での進行になるので、この機会しかなかったというのが実情です。
なので、ちょっと無理矢理な展開だったかもしれませんが、基本的にその場のノリで書いていく
ど素人なんで、勘弁して欲しいところでもあります。


ってとっこっかな〜w(´・ω・`)

109:通常の名無しさんの3倍
08/05/31 00:51:24
乙!
なんだかんだいってZの話をなぞることは良いと思う
微妙にシンクロしてるのが味みたいな所もあるし
今回も凄く面白かった

110:通常の名無しさんの3倍
08/05/31 01:04:17

そろそろカミーユのハイパー化がみたいな

111:通常の名無しさんの3倍
08/05/31 01:04:44
GJ、今回も面白く読ませて頂きましたが、何かとっ散らかってる印象でした。
乱戦だから仕方ないでしょうがOTの哀しさ
状況が分かり難かったかな


112:通常の名無しさんの3倍
08/05/31 01:07:55
GJです
カミーユの思念を送ってシンの中に入ったりしてるという演出?
そういえばジュドーにもやってたなカミーユは

113:通常の名無しさんの3倍
08/05/31 01:16:24
カミーユの最強NTっぷりにしびれたぜ

114:通常の名無しさんの3倍
08/05/31 01:17:29
ぶっちゃけユニコーンよりはるかに面白い
文章はプロじゃないから稚拙なとこあるけど
てか小説家目指して欲しい

115:通常の名無しさんの3倍
08/05/31 02:44:52
GJ!
SSのアスランやルナマリアを見ていると本編のミネルバに
エマさんの様な人がいれば彼らも心強かっただろうに。
ハイネがすぐ死んだのは非常に惜しかった

116:通常の名無しさんの3倍
08/05/31 08:24:12
てす

117:通常の名無しさんの3倍
08/05/31 15:48:34
GJでした。迫力のある戦闘シーンの連続で、お腹いっぱいです。

118:通常の名無しさんの3倍
08/05/31 16:01:06
UC最高NTのカミーユはいいな

119:通常の名無しさんの3倍
08/05/31 17:16:01

ZかっこいいよZ
誰かレイに手を差し伸べてやれorz

120:通常の名無しさんの3倍
08/05/31 19:02:27
笑えばいいと思うよ

121:通常の名無しさんの3倍
08/05/31 21:06:12
そのレイじゃねえよ。
お前の血は何色だー!の方だよな。

122:通常の名無しさんの3倍
08/05/31 21:57:00
>「イエスッ!あたしだって、やりゃあ出来る子!」



このルナに激しく萌えたのは俺だけですか?

123:通常の名無しさんの3倍
08/06/01 08:58:07
さすがに圧倒的な物量の前には、カミーユでも無双は出来んかw
生の感情が多そうな戦場がいいなあ。GJ
しかしどんだけ圧倒的物量だったかが、ミノ粉の影響のせいってのもあるけど、描写し切れてないようにも感じます
あと、前に出すぎだ! の使いすぎに注意。


124:通常の名無しさんの3倍
08/06/01 22:43:14
しかし実際前に出すぎるタイプのキャラが多いのも事実だからなァw

125:通常の名無しさんの3倍
08/06/02 23:27:15


126:通常の名無しさんの3倍
08/06/02 23:27:32 cpPyJk2e


127:通常の名無しさんの3倍
08/06/03 20:48:04
はいはい、しゅっしゅ

128:通常の名無しさんの3倍
08/06/04 12:54:17
もーお〜泣かな~いで♪
今〜、あ〜なたを保守してる〜♪

129:通常の名無しさんの3倍
08/06/05 13:09:41
>>115
アスランがルナやシンを導いてやらないと

130:通常の名無しさんの3倍
08/06/07 00:13:09
人がいる〜から〜お前に逢いたいよと


131:通常の名無しさんの3倍
08/06/08 20:52:09
君は保守の涙を見る

132:通常の名無しさんの3倍
08/06/09 22:23:05
>>131
誰がうまい保守をしろと(ry

133:通常の名無しさんの3倍
08/06/10 20:13:38
x/lz6TqR1w氏の書いてた「カミーユ In C.E. 73」の
赤服カミーユを描いてみたんだけど、このスレに投下してもいい?

134:通常の名無しさんの3倍
08/06/10 20:19:07
>>133
俺的にはおk
テラwktk

135:通常の名無しさんの3倍
08/06/10 20:25:33
元ssがどうとか関係無く、
赤服カミーユなり連合服ファなり投下してくれる人がいるなら狂喜乱舞しますよ。

136:133
08/06/10 20:42:33
わかった、投下する!
カミーユの顔はSEED仕様となっております

URLリンク(i-bbs.sijex.net)

おまけ
種割れカミーユ
URLリンク(i-bbs.sijex.net)

137:通常の名無しさんの3倍
08/06/10 20:44:04
カミーユが種顔化しとるwwww
微妙にキメェwwww
GJ!

138:通常の名無しさんの3倍
08/06/10 20:52:10
種割れまでw
GJ!

139:通常の名無しさんの3倍
08/06/10 22:08:15
うひゃあああああああwwww

140:通常の名無しさんの3倍
08/06/10 22:41:08
クソ吹いたwwwww
だがこれはGJ

141:通常の名無しさんの3倍
08/06/10 23:06:13
みれね…

142:通常の名無しさんの3倍
08/06/10 23:12:47
じっ…次元間転移は肉体まで改変するのか……ッッ
やっぱりCEは人類の進化の過程のどっかである種の両生類が混ざってんのか…

143:133
08/06/11 00:26:39
GJサンクス

それで>>135が連邦服ファなんていうから、
思わず描いてしまった
描いたけど、連邦服ってこれであってる?
URLリンク(i-bbs.sijex.net)

そしてやっぱり種割れファ
URLリンク(i-bbs.sijex.net)

144:133
08/06/11 00:31:34
>>143
違う、連合だ…orz

145:通常の名無しさんの3倍
08/06/11 01:26:51
>>133
夜なのに声出してワロタ
俺の中では新訳顔に赤服のイメージだったから斜め上過ぎて困惑したw

146:通常の名無しさんの3倍
08/06/11 02:20:22
なんか色違いのニコルみたいだw

147:通常の名無しさんの3倍
08/06/11 13:27:48
慣れないことはするもんじゃないなw

Z仕様のキラとアスランを見たくなってきた。

148:通常の名無しさんの3倍
08/06/11 18:40:27
ヤザンの顔したディアッカ思い出したwww

149:通常の名無しさんの3倍
08/06/13 02:32:22
>>148
> ヤザンの顔したディアッカ思い出したwww

つまり僕たちが求めた残忍で狡猾な真ディアッカですね、わかります

150:通常の名無しさんの3倍
08/06/15 01:06:24
とどのつまりヤザン厨復活希望ですね

151:通常の名無しさんの3倍
08/06/15 09:15:51
あの人は実務でそれどころじゃないだろう、今は

152: ◆x/lz6TqR1w
08/06/15 16:27:53
  『流れた時の重さに』


 決着を着けたかった連合軍、抵抗の力を確保できたザフト―ジブラルタル基地での戦いは、情勢を落ち着ける結果となった。ザフトはプラントの守備を固め、連合軍はその攻略に乗り出す準備を始めた。今、地球圏は一時の平穏を取り戻している。
しかし、それも嵐の前の静けさ。次の戦いの前哨に過ぎない事は、地球圏を取り囲む緊張感が明確に示していた。

 無事にプラントへの帰還を果たしたミネルバは、プラント守備要塞、メサイアに入っていた。機動要塞としても機能するこの宇宙要塞は、巨大なアーモンド形のアステロイドの岩塊を刳り貫いて造られたものである。
その中は広く、戦艦の格納庫や兵器製造工廠、果ては兵士の宿舎なども完備されている。迎撃装備としての砲台も多数配備されており、その外周を取り囲む巨大なリングはバリア機能をも備えていて、正に鉄壁の要塞と呼ぶに相応しい造りだった。

 時間は、ミネルバが帰還する前に遡る。プラントへの亡命を果たしたカガリは、プラントの首都コロニー・アプリリウスへと招かれ、その議会堂でデュランダルとの会談に臨んでいた。
 流石に、オーブとは国の規模が違うだけあって圧倒的な建築物の数々がカガリを逐一感心させていた。まるで出稼ぎに出てきた田舎者の様にだらしなく口を開けて眺めるカガリに、キサカの注意が耳に痛い。

「仕方ないだろ? 油臭い軍事コロニーのアーモリー・ワンじゃないんだ。プラントは、オーブとは違いすぎる。これを見て感心するなと言う方がおかしい」

 議会堂の前で車を降りると、カガリに対して声援を投げかけてくる群衆が居た。振り向けば、彼等はオーブの文字―旧世紀でいう“日本語”で、“オーブ万歳”とペイントされた横断幕を持っていた。2年前にプラントへと移住してきた元オーブの民達だ。
 カガリは元気に手を振り、彼等の声援に応えた。あんな事になったのに、まだ彼等は自分を応援してくれているのだ。それが、カガリには堪らなく嬉しかった。

 議会堂の中に入り、出迎えられたカガリが通されたのは、絢爛豪華な会談室だった。道中、マスコミのシャッターを切る音がひっきりなしに鳴っていたが、会談室は一切のマスコミの入室を遮断された、静かな部屋だった。
そこでは、デュランダルがカガリの到着を立って出迎えていた。その表情には笑みを湛えていたが、カガリに随伴する人物がキサカであることに気付くと、怪訝に表情を変化させた。

「今日は、ユウナ殿はご一緒でいらっしゃらないので?」
「入用です。今回は私だけで我慢してもらいたい」
「いえ、肝心なのは代表ご本人ですので―」

 ユウナは、ウナトの一件以来自室に篭りきりになってしまった。余程ショックだったのだろう。食事も殆ど採らず、何度か部屋を訪れて説得しようと試みても、一向に出てくる気配を見せない。いい加減、カガリも業を煮やし始めていたが、無茶をする気にはなれなかった。
 デュランダルが、スッと手を椅子に差し出す。カガリは薦められるままにその椅子に座った。


 メサイアの内部は、兵士の憩いの場としてのレクリエーション施設も備えられている。さながら小都市の佇まいを見せるレクリエーション区画には、歓楽施設も存在していた。そこで、久しぶりに再会を果たした元・クルーゼ隊の面々はバーで会話に花を咲かせていた。
 カウンターの席に3人して並ぶ。アスランを挟むように、右にイザーク、左にディアッカといった感じだ。イザークがカクテルを流し込むと、赤く染まった顔を向けてアスランに絡んできた。

「貴様は、オーブに行ったと思ったら今更ザフトに復隊するなど、一体どういう頭の構造をしているんだ? 一度決めた道を逆戻りするなど、きょし抜けのする事だ! アスラン貴様、男ではないだろう!」
「今更そういう事を言うのか?」

 下から突き上げるように見上げてくるイザークの目は、据わっている。酔ったイザークを見たことは無かったが、酒が入るとこんな風になってしまうのか。酒癖は、かなり悪いと見た。

「あ〜あ、イザークの奴、始まっちまったよ。こうなると、やたらと説教くさくなっちまうんだぜ? っつっても―」

 イザークの迫力に押されるようにして身体を仰け反らせるアスランの横で、ディアッカが茶化すように言った。そうなのか―アスランは一言応えてイザークに目を戻す。ところが、イザークの目は段々と眠そうにとろけてきていた。

「黙ってろ、ディアッカ!」
「おぉ、こわっ」

153: ◆x/lz6TqR1w
08/06/15 16:28:46
 急に跳ね起きるイザークに少し驚いて、体が無意識に反応した。しかし、イザークはディアッカを怒鳴って黙らせると、定位置であるかのように再び下からアスランを見上げた。

「―大体きしゃまはらな…ラクスしゃまという婚約者が居ながら、オーブの女と懇(ねんご)ろに……浮気癖はきしゃまの悪いところら。これからはきしゃまのころを“すけこまし”と呼んれやろう。それに、ディアッカ、きしゃまも昔の女に……」

 まるで呂律も回っていない。ところどころ聞き取りにくい箇所があって、相当酔っている事を覗わせる。
 そしてイザークはゆっくりと顔をカウンターにうつ伏せにしていき、遂に言葉が聞き取れなくなった。腕を枕代わりに、背中を揺らして寝息を立て始める。

「いっつもこうなんだぜ。酒が弱いくせに飲みたがるんだ、こいつは」

 そう言ってディアッカは、イザークを指差して笑った。

「人によっては、酒はそういうものになるさ。まぁ、イザークの言いたい事も、俺には良く分かるんだけどな」

 やや自嘲気味に言葉を漏らすアスラン。手に持ったウイスキーを片手に、一口呷ってからコースターの上にグラスを降ろした。カラン、と音を立てて崩れる氷が、雰囲気のあるバーの照明の光を受けて妖しく輝いている。

「一般的、世間的に見れば、俺は婚約者を捨ててオーブに降ったプラントの裏切り者だというのが正しいものの見方だ。ディアッカ、君は今のラクスが本物で無い事を知っているんだろう?」

 隣に座るディアッカに、アスランは視線を投げかけた。ディアッカはその手に持ったグラスを片手で抓むように持ち、手首をこねくり回して氷を遊ばせていた。少し俯き加減の横顔が、薄暗いライトの光で陰影を強調している。口元は、少し笑っていた。

「俺も、ヤキンじゃお前達と一緒に戦ってたからな。ラクス=クラインとお前の関係が、とっくに終わっているって事も知っているから、今のラクスが議長のでっち上げた偽者だって事くらい分かっているさ」

 そこまで話して、ディアッカは残りのウイスキーを一気に呷り、バーテンダーにおかわりを要求した。すぐさま下げられるグラスと、入れ替わりに差し出される新しいウイスキー。ディアッカはアルコールが足りないとばかりに即座に一口含むと、続けた。

「でもよ、それを言う必要はねぇし、言うつもりもねぇ。正直、今のラクス=クラインは頑張っているよ。一頃には地球とプラントを何度も往復して、プラントやザフトの為にコンサートばかりを繰り返していた。お前も、地球で一度くらいは見たことあるんじゃねぇのか?」
「いや、俺は―」

 ディオキアで、その機会はあった。しかし、アスランはラクス―ミーアのコンサートには結局行かずじまいだった。何故、行こうと思えなかったのか。それは、今思い出せば単なる自意識過剰だったのかもしれない。
世間一般的に婚約者であると認識されている自分が、恋人の為にコンサート会場に赴く様がアスランには恥ずかしかったのだ。
 そんな自分を笑うように、アスランも残りのウイスキーを喉に流し込んだ。そして、ディアッカと同じ様にもう一杯頼む。ディアッカは、アスランの余所余所しい態度に声を殺して笑っていた。

「お前らしいっちゃ、お前らしいかもな。そう言う俺も、ミリィとは顔を合わせ辛かったから、人の事は笑えないんだけどよ」

 ディアッカとミリアリアとの関係は、何となく匂う程度の事しか知らない。それなのにこうして自ら話すということは、ディアッカもそれなりに酔っている証拠だろう。
褐色の肌と薄暗い照明のせいでディアッカの酩酊状態を窺い知る事は出来ないが、それとなくアスランには伝わってきた。
 2人が、どうして別れなければならなかったのか、アスランは単純な好奇心で本人の言葉を聞いてみたいと思った。

「ディアッカは、どうして彼女と別れることになったんだ?」
「いいじゃねぇか、そんな事―」
「イザークも気にしている。俺だって朴念仁なわけじゃないから、聞いてみたいというのもあるさ」
「意外とやぶ蛇な事で―」

 身から出た錆とはいえ、ディアッカは不用意に口を滑らせた事を少し後悔する様に首を横に振った。そりゃあ、失恋の話をする事になってしまったのだから、話す本人としては面白くない話題だろう。聞く方としては、これ程面白みのある話はないのかもしれないが。
 アスランの顔は、若干の期待を込めてディアッカの次の言葉を待っている。ディアッカは軽く溜息をつきと、静かに語り始めた。

154: ◆x/lz6TqR1w
08/06/15 16:30:57
「戦後の事でな。俺は見て分かるとおり、緑への降格処分を受けてザフトに復帰させてもらった。それでも、白に昇格したイザークに拾ってもらえたのは感謝しているよ。でも、アイツは地球でフリーのジャーナリストをしたかったんだ」
「それでなんだよな。オーブに大西洋連邦が攻撃を仕掛けたときに、彼女は戦場カメラマンとして取材に訪れていた。そこで、偶然にバルトフェルドさんと再会して、そのままアークエンジェルに乗り込むことになった」

 アスランの捕捉にディアッカは俯けていた顔を少し上げ、ふうっともう一度軽い溜息をついた。

「知らなかったんだよ、アイツが足付きに復帰したって事をさ。俺とアイツは、離れることになっちまったんだけど、プラントと地球では遠すぎる。連絡便があるとはいえ、人にとって宇宙旅行って奴はまだまだ大変なものでよ、とてもではないけど会う時間が無かったのさ。
お互いの仕事も抱えちまっているわけだからな」
「何となく、分かる話だ……」

 ディアッカの話に、自分を照らし合わせてみると、アスランとカガリの関係は今のディアッカの話に通じるところがあるような気がした。アスランはザフトに復帰し、カガリとはここ数ヶ月会っていない。

「女ってのはよ、ハッキリした答を欲しがるもんだぜ。だけど、俺たち男は気持ちの強さだけで関係を続けたいと思える生き物じゃないか。だから、結局アイツの方から別れを切り出して、それで“おじゃん”―ってわけさ」

 アスランは無言のままディアッカの話を聞き、グラスに口を付けた。果たして、ディアッカとミリアリアのように、カガリと自分の関係もなし崩し的に自然消滅を迎えてしまうのだろうか。
ディアッカの言うとおり、それでもアスランはカガリとの繋がりを保って行きたいと思う気持ちがある。
男とはしょうも無いもので、曖昧にでも続けられるものなら続けたいと思ってしまう、どこか優柔不断な性根を持つものである。カガリも、ミリアリアと同じ様に確固とした答を求めたがるのだろうか。アスランには、それが怖かった。
 考え込むアスランの横顔を見て、ディアッカは僅かに呆れていた。自分から話を振っておいて、勝手に塞ぎこんでしまうアスランは、時に自分勝手な面を見せる。今のように、本当に傷ついているのはディアッカ本人なのに、少しくらい慰めの言葉があってもいいものではないか。
 ただ、不満を口にしたところでアスランの優柔不断な性格が直るとも思えず、別の話題を探そうとディアッカは思案を重ねた。

「―おっ、そうだ!」

 急に何かを思いついたディアッカが、ハッとした様に顔を上げた。グラスに口を付けようとしていたアスランは、腕を止めて顔をディアッカに振り向ける。

「イザークの奴、アスランに説教かましてたけどよ、コイツも人のこと言えねぇんだぜ」
「どういう事だ? まさか、イザークが二股を―」
「バカ言え。コイツにそんな立派な甲斐性はねぇよ。寧ろ逆、他人の好意に全く気付きやがらねぇんだ。同じ隊の女の子なんだけどさ、健気で、それを見てるとこっちまで不憫に思えてきて―」

 冗談とばかりに、ディアッカは服の袖で目元を擦った。

「イザークを好きになる子なら、いい子なんだろ?」
「そりゃそうさ。けど、本人もそれを知られまいと必死に繕ってよ、いじらしいじゃないか。隊のみんなはイザークに気があるって分かってるのに、当の本人だけは、何故か気付かないんだな」
「へぇ、イザークも、結構罪作りな奴なんだな……」

 右となりで気持ち良さそうに寝息を立てるイザークを見て、アスランは微笑ましい笑顔を浮かべた。

 それから、もう暫くの間ディアッカと2人で話し込んだ。バーの閉店の時間が近付き、徐にディアッカが席を立ってイザークを担ぎ上げた。

「久しぶりで、楽しかったぜ。―てなわけで、お会計、よろしく」
「お、おいっ?」
「緑の俺に、カンパなんてセコイこと言うなよ? エルスマン機はジュール機を回収後、この戦域を離脱するぜ。ここは、ザフト赤服のフェイス、英雄アスラン=ザラに任せた」

 すちゃっと指を伸ばした掌を掲げると、引き摺るようにしてイザークを抱え、ディアッカは逃げるようにバーを出て行った。立ち上がろうとして中途半端に振り向いたアスランは、その場で固まっていた。

155: ◆x/lz6TqR1w
08/06/15 16:31:47
「お連れ様の会計もご一緒でよろしいですね」
「―ったく……」

 ふと、我に返るとバーテンダーが磨いていたグラスを棚に戻し、レシートを差し出してきた。その金額に、アスランの眉間に寄る皺が、交通渋滞を起こしている。納得がいかない。
イザークは早々に潰れたから良しとしても、ディアッカは何杯もおかわりをし、一番料金がかさんでいた。
しかし、先に出て行ってしまったのではどうしようもない。しぶしぶアスランは胸ポケットから電子マネーのカードを取り出し、更に財布から紙幣を取り出してバーテンダーに渡した。それはチップ兼、口止め料のようなものだ。
出来れば、ラクスの偽者の話は極秘にしておきたいがための、アスランの配慮だった。


 格納庫に、ぽつんと佇む少女一人。見つめる先には、適当な応急処置を施したと見える深緑色のMSが一体、転がっている。それは、ヘブンズ・ベースでネオが乗っていたギャプランだった。

「それ、まだ使えないっすよ」

 手に木箱を抱えたヴィーノが、通りすがりに少女―ロザミアに告げた。一寸見やるも、ヴィーノはそのまま無重力を流れて行き、ロザミアは視線を元に戻した。

「何やってるんだ、ロザミィ?」

 今度は、別の少年の声。ロザミアは期待に振り向くと、Ζガンダムのコックピットから顔を覗かせたカミーユが怪訝そうにこちらを見ていた。

「お兄ちゃん……あたし、このMSに乗ってみたい」
「ティターンズの、変形アーマーに?」
「何か、あたしこのMSならもっと戦えるような気がするんだ」

 ヘブンズ・ベースで損傷を受けたギャプランは、ジブラルタル基地で中途半端に修復されたまま放置されている状態だった。流石のジブラルタル基地工廠でもギャプランの再生は難しく、先の連合軍侵攻のお陰で修復作業は滞っていた。
それが、ここメサイアに運ばれてくる事で、元オーブの技術者達の協力を得て修復が再会される見通しだが、地球から上がってきた部隊の整備が優先されている状態で、ギャプランは中途半端な姿で沈黙を続けていた。
 そんなギャプランを、ロザミアは気になって仕方ない。元々、この機体はロザミアの様な強化人間が使うように設計されていたもので、実際に再強化を受ける前のロザミアはそれに乗ってカミーユとも戦いを繰り広げた事もあった。
だが、確実に言える事は、ロザミアはギャプランを完璧に操って見せるということである。情緒こそ不安定であるが、精神的、肉体的に強化されているロザミアの身体は、ギャプランの真価を発揮するに値する能力値を秘めている。

「早く使えるようにならないかしら」

 期待を込めてギャプランを見るロザミアの眼差しが、好奇に震えている。何故、彼女はこんなにもギャプランに乗りたがるのか―しかし、カミーユはそんなロザミアの好奇は歓迎したいとは思わない。戦うために強化された彼女は、もう戦うべきではないと思うからだ。
 無邪気な笑顔を、カミーユに向けてくる。彼女の心の内は踊っているのだろうが、嗜めるように軽く溜息をついた。

「ロザミィってさ―」

『地球圏に住む、全ての人々に告げる。私は、オーブ連合首長国国家元首、カガリ=ユラ=アスハです』

 言いかけたカミーユの言葉をかき消すように、突然スピーカーから大きな音声が飛び出してきた。

「な、何だ!?」

 直ぐ脇にあるモニターに、画面が映し出された。そこに映っているのは、紛れもなくカガリその人で、会見場にデュランダルと2人、並んで座っていた。

156: ◆x/lz6TqR1w
08/06/15 16:33:10
 突然の放送は、全世界へと飛び火した。プラントのみならず、電波に乗せたカガリの言葉は、地球へも届けられていた。以前、デュランダルがオーブで世界放送をした時と同じだ。
カガリの目は、真っ直ぐと正面を見据え、まるで画面の先の誰かを睨んでいるかのような鬼気迫るものがあった。

『過日、我がオーブ連合首長国は、大西洋連邦軍を中心とした地球連合軍の侵攻によって制圧されるという憂き目に遭いました。連合軍の戦力は圧倒的で抵抗する間すら与えられず、その結果、私は同盟国であるプラントへと亡命いたしました』

 チラリと、横に居るデュランダルを見る。カガリの視線に気付き、デュランダルが軽く咳払いをして喉の調子を整える。

『争いを増大させるだけのブルー・コスモスの思想とは、何と嘆かわしいものでしょう。ブルー・コスモスは本来、地球環境保全団体でした。地球を大切にする、その精神は素晴らしい。私も地球は好きですから、その気持ちは理解できます。
だが、それもやがてコーディネイターの排斥へと思想を過激的に変革させ、そして最悪の戦争が起こってしまったのです。それが、2年前です。ブルー・コスモスはその過激な思想で、コーディネイターを根絶しようとしたのです。
―ただ、それも過剰な防衛本能と思えば、ナチュラルの方々も安心されるのかもしれません。しかし今回、ナチュラルも住むオーブが攻撃されたことで、最早その様な理屈も通らなくなった。
端的に言えば、彼等は逆らう者を断罪し、それが例え同じナチュラルであっても刑を執行するのです。私は、地球市民の方々に警告いたします。ブルー・コスモスは、やがて守るべき筈である、あなた方にも刃を向ける。
オーブの制圧は、その始まりに過ぎないでしょう。―しかし、我々は違う。コーディネイターは、ナチュラルを滅ぼす為に存在する人種ではありません。助け合ってこれからの宇宙時代を切り開いていこうという、あなた方のパートナーなのです。
確かに、過去に不幸な出来事は多々ありました。それはジョージ=グレンの暗殺に始まり、様々な経済的軋轢、そして血のバレンタインにエイプリルフール・クライシス、ヤキン戦役と今大戦の引鉄となったユニウス落下事件―実に様々なことが起こりました。
―思い出していただきたい。これまで、どれだけの多くの尊い命が失われてきたのかを。想像していただきたい。戦争を続ける事で、これからどれだけの新しい犠牲者が生み出されるのかを。コーディネイターとかナチュラルとかを言っている場合ではないのです。
このままでは、人類全て―いえ、地球圏全てが疲れきってしまう。平和を望んでいる全ての人々は、考えてみてください。戦うだけでは、いつまで経っても平和な時代などやってくるわけがありません。
怨嗟や憎しみといった負の概念を超越したその先にこそ、真の平和が待っているのです。ですが、未だ私達は争ってばかり―そして、それを煽っているのがブルー・コスモスとなれば、全人類の共通する敵は、彼等なのです。
これから先は、コーディネイターもナチュラルも力を合わせていかなければ解決しない問題なのです。ですが、プラントは協力を要請するような事は致しません。何故なら、地球に居るあなた方は、ブルー・コスモスに人質にされているようなもの。
もし、プラントに協力するような事があれば、先日のオーブと同じ目に遭わされることになるでしょうから。
ですから、この戦争の行く末を、ただ黙って見ていていただきたい。我々がブルー・コスモスを倒し、戦争の終わった世界で、今度こそ本当の友好を築きましょう。
―さて、その第一歩として、我がプラントはカガリ代表の要望を受け入れ、代表と共に連合の圧力から逃れてきた盟友を全て、受け入れました。そして、プラント最高評議会はオーブがその地位を取り戻せるまでの間、暫定的に亡命政府を樹立させる事を許諾いたしました。
故に、全世界でオーブが滅びたと思っている地球諸国諸君! オーブは、まだ死んでおりません。この強いカガリ代表が御健在な限り、オーブは不滅なる不死鳥の如く、再び舞い上がり、必ずや復活することでしょう』
『私、カガリ=ユラ=アスハ・オーブ連合首長国代表は、ここにオーブ亡命政府の樹立を宣言します!』

 ナチュラルとコーディネイターの2人が立ち上がり、がっしりと握手を交わした。そこには、ナチュラルとコーディネイターの友情を示す演出的な意図が含まれている。
世界の意識をブルー・コスモスの殲滅に向けるに当たって、先ずはコーディネイターが味方である事をナチュラルに示さねばならないとデュランダルは思っていたからだ。


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