もしカミーユ、Zキャラが種・種死世界に来たら12 at SHAR
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50:通常の名無しさんの3倍
08/05/17 21:54:58
5の倍数だけ犬になる

51:通常の名無しさんの3倍
08/05/17 23:25:38
涙の数だけ強くなる

52:通常の名無しさんの3倍
08/05/18 00:25:18
なんだこの流れw

53:通常の名無しさんの3倍
08/05/18 12:16:55
まさにオモロ

54:286
08/05/18 21:58:07
前スレの286です。「ハマーン様が種・種死世界に来たら」これでプロローグが終わりです
投下します。

55:286
08/05/18 21:59:05
目の男―ギルバートは奴ではない。彼女がそう気がついたのはたっぷり睨み付けたあとだった。彼女が聞き間違ってしまうほどよく似た声色だった。
ギルバートに気をとられていて忘れていたがとても大きな疑問が首をもたげた。目の前にある水を一口含んで問うた。
「なぜ、私は生きているんだ?」
それにさっきから感じている違和感はなんなのだろう。負傷しているせいで感覚が鈍っているのだろうか
「デブリ帯で半壊したMSとアンタを俺の隊が回収したんだよ」
と見覚えのない軍服を着た仕官―ハイネは言った。半壊?あのときモウサの壁面にぶつかって爆散したはずでは…。それにここはどこなのだろうか。
ネオジオンの艦ではないのはすぐ理解できたが、この対応はエゥーゴではない。ましてや連邦軍でもない。サイド3からどこかの中立地帯にまで流れた
のだろうか。それほどの長時間漂流していられるほどの酸素は積まれていない。とりあえず相手から断片的でも情報を得るべきだろう。
「それで、私をどうするんだ?」
「そうだな、プラントに着くまで少し尋問を受けてもらう」
「プラント?」
「正確にはL5宙域のアプリリウスだな」
「?その宙域にプラントなんてコロニーがあるなど初耳だな」
「聞いたことがないって本気で言ってんの?それとも言い逃れでもしようって腹か」
「ほう、では私がふざけている様に見えるか?」
「うっ」
軽く睨んで一言返しただけで黙ってしまった。まさかこんなに膠着状態に陥るのが早いとは。黙っていた『睨みつけてしまった男』が
おもむろに口をひらいた。黒髪で長髪と見た目は似てないがどうしても奴を思い出す。
「すまないがドクター席を外して頂けるかな。まずはキミの知っていることを話してくれないかね」ヒヨッコらしい仕官に助け舟をだしたようだ。
やはり不快感を覚える声だと彼女は思った。
尋問?終了後
医務室からでたハイネは先ほどの彼女―ハマーン・カーンの話を思い返していた。なかなか突飛な話だ。柔軟な思考を持っているほうだと
自負していたがそうでもないらしい。しかし突飛ではあるが「未知の技術が使われているMS」という証拠がある。信じることのほうが懸命だろう。
「キミもなかなか薄情だね」
ハイネが自分を置いていったことにギルバートはお怒りのようだ。やはり初対面であそこまで睨まれたら苦手意識を持つのは仕方ないことだろう。
「これから彼女とあのMSはどうするんです?」
旗色が悪くなる前に話題を変えた。ギルバートは少し眉をしかめるとわからないとしれっと答えた。それはそうだろう。想定外もいいところだ。
「カナーバ議員にお伺いをたてる、それからだな」
そう言って自室へとギルバートは自室にもどるようだ。妖しく輝く双眸とは裏腹に足取りをみるに相当疲れているようだ。
なかなか濃い一日だったと思う。おかげで戦争中であることを少し忘れられた。
ふと時計に目をむけるといつのまにか日付が変わっていた。ハイネは部下への指示を終えて自室に引き上げるとベッドに倒れこんだ。

56:286
08/05/18 22:02:04
2月6日 医務室
ハマーンはハイネに用意してもらった世界史の資料を読みふけっていた。どこの世界でも人は争わずにはいられないらしい。そして皮肉にもこの世界には
MSまで存在しているようだ。
デュランダルはどうするつもりなのだろうか。
「失礼するよ。資料を読んでくているようだね。この『世界』にきた感想はなにかあるかね?」
「宇宙にでることで人間が進化できるという話を思い出した」
「ほぅ?面白そうだね」
「回りくどいな。世間話をしに来たのではあるまい?」
デュランダルは目を閉じ一呼吸置いてから話しはじめた。
「プラントに来ないかね?君の話は実に興味深い、もっと詳しく聞きたい。それにあのMSにも興味があるのだよ、何しろ未知の技術の塊だからね」
「つまり私に利用価値を見出したということか」
―まあ、そういうことだね。デュランダルは苦笑しながら答えた。
「まあいい。今のままでは私の選択肢は何もないからな」
キュベレイはプラントに運び込んで解析を行う際の協力を行うことと、プラントの市民IDを発行するまでデュランダルの私邸に居候をすることが決まった。
おそらくデュランダルの独断だろう。そんな感じがする。どうやらこの男『も』単独での行動を好むらしい。
異邦人と元科学者という妙な組み合わせの二人は手を互いの握った。ハマーンはフッと微笑した。  
2月6日 深夜ギルバート私室
やはり疲れた。しかし彼女の協力を得ることができるのは大きい。その対価に自分の疲労など安いものだ、この程度。溜息をつきながらカナーバへの報告書をテキパキと
作成していく。歌姫の捜索は失敗だったがあまり気にしていない。ラウにそそのかされただけでやる気はあまりなかった。しかし戸惑いがなかった
わけではない。観客で満足なのに「お前も役者にならないか」とむりやり誘われているようなものだったのだ。
―いい加減引き摺っているのも惨めすぎるからちょうどいいのかもしれない。開き直るきっかけなのかもしれない。自分の配役を想像してみる。
突如現れる役というのは面白いものが多い。物語の変化のきっかけになったり、或いは変化は与えられなくとも物語の進行に貢献することは可能だ。
自分にも役が回ってきたのだろう。ギルバートは立ち上がり体を伸ばすと作業を再開した。
2月9日 
捜索部隊が帰還して2日後、クルーゼ隊に保護された歌姫が帰還した。生還した歌姫にプラントは沸き立ち、小規模のパレードまで行われた。
そのどさくさにキュベレイの運搬やハマーンのIDの作成などが行われ、デュランダルの抜け目がない行動で迅速かつ秘密裏にことは片付いた。
そしてハマーンはデュランダル邸に住むことを提案された。流石に右も左もわからない場所な上に外傷も完治していないのであっさり承諾した。
ギルバートは断るだろうと思っていたため目を丸くしていた。ハマーン曰く「これ以上世話になり過ぎるのも悪い」らしい。考えてみれば客を招くようなことも
殆どなく、仕事漬けで帰っても寝るだけで『彼』も寂しい思いをしているだろうから悪い案ではないとギルバートは納得した。






57:286
08/05/18 22:02:49
デュランダル邸にて
「貴女はなぜギルに協力することを決めたのですか?」
長めの金髪に中性的な顔立ちをした美少年―レイ・ザ・バレルは尋ねてきた。助けられた義理があると答えたが納得はできなかったようだ。
「貴女なら『半壊したMS」を使った駆け引きだって出来たはずです。この戦争に関わらない選択もできたのではないですか?」
「人は役目を得た時、それに従って生きなくてはならない。その役が大きなものであるほど責任が重くなり個人として生きるのは困難だ。そして気がついた時には
下ろすことが出来なくなるほどのモノを背負ってしまう。その過程で復讐も果せたが虚しいものだったよ。思えばその代償に見合うほどの収穫は私自身にはなかった」
「―」
「だから私は自分の目線で世界を見て私として生きてみようとおもったのだ。せっかく因縁やしがらみから開放されたのだからな」
レイの瞳が揺れている。レイの心にある闇が少しだが見えてしまった。
「誰もがあなたのように完全に開放されることを許されるわけじゃない!」
―お前は何に囚われている?―レイの心にも語りかけるように言葉をつづる。
「ッ!この感覚はいったい?これは何なのか知っているのか?」
「それはお前の力だ、まだ完全には目覚めていないようだがな」
「俺の力・・・?」
「そうだ。ニュータイプ能力、お前たちのいう『空間認識能力』の一端だな」
「俺は貴女のように強くなれるのか」
―或いは私以上かもなと彼女は微笑んだ。
遠い街の喧騒と人工の夕日にゆれるカーテンがすれる音が微かに響いている。この日、少年は「力」を得るきっかけを掴む。
少年より大きな「力」に引きずられるようにして。
彼らはまだ知る由もないが、時を同じくして一人の少女が歴史の表舞台に立つ準備が着々と進んでいく。女王という役を降りた者には新たな役を見つけようと
動き出し、歌姫は女王になるための階段を上りはじめて行く。彼女達が同じ舞台にあがるのはまだ先の話になる

58:286
08/05/18 22:04:28
プロローグ二人の女王はこれでおわります。

59:通常の名無しさんの3倍
08/05/18 23:39:41
なんとも読みづらい

60:通常の名無しさんの3倍
08/05/19 02:44:39
投下乙

次回も楽しみにしてますよ

61:通常の名無しさんの3倍
08/05/19 13:02:43

心成しか一つ一つの会話文が長いと思う
心理描写やちょっとした動作を文中に挟んでみたら如何か

と素人が言ってみる

62:通常の名無しさんの3倍
08/05/20 08:44:59
URLリンク(wzy.up.seesaa.net)

63:通常の名無しさんの3倍
08/05/20 20:01:58
乙。
続きを期待して待ってます。
ところで、ハマーンって子供に優しいよな。いいお母さんになりそうだ。

64:通常の名無しさんの3倍
08/05/20 23:17:54
URLリンク(wzy.up.seesaa.net)
URLリンク(wzy.up.seesaa.net)
URLリンク(wzy.up.seesaa.net)
URLリンク(wzy.up.seesaa.net)
URLリンク(wzy.up.seesaa.net)

65:通常の名無しさんの3倍
08/05/21 16:13:21
>>63
つまり俺の嫁ってことですね

66:通常の名無しさんの3倍
08/05/21 20:50:36
>>65
俗物がぁっ!調子に乗るな!!

67:通常の名無しさんの3倍
08/05/21 22:27:00
(▼Д▼)<例え若くとも取り返しのつかない過ちもある…

68:286
08/05/22 17:29:12
59 60 61 63
リアクションをありがとうございます。ど素人の処女作なんでスルーされない
だけでもありがたすぎてマジでうれしいです。
少しづつでも成長をできるようにがんばります。構想は結構できているのですが
遅筆なうえに平凡な自分では形にうまくできないですが
完結目指したいです。次の投下は来月を予定してます。

69:通常の名無しさんの3倍
08/05/22 21:00:06
>>68
とりあえずアンカーの仕方覚えれ

70:通常の名無しさんの3倍
08/05/22 22:46:49
保守

71:通常の名無しさんの3倍
08/05/23 14:33:19
うちに住まないか?→これ以上世話になるのは悪いから、住む

もっと世話になってる気がするのは俺だけだろうか?

72:通常の名無しさんの3倍
08/05/23 14:50:28
>>71
「うちに住まないか?」を断ろうとしたら
「なら別に家を用意しよう」とでも言われたんだと脳内補完してたぜ。

73:通常の名無しさんの3倍
08/05/23 23:32:56
保守が降りしきるペントハウスで
空のオルゴール一人聴いてた


74:通常の名無しさんの3倍
08/05/24 01:16:30
>>73
ハマーン様の哀しさを謳った素晴らしい歌ですね。
グラサンロリコンは氏ねとw

75:通常の名無しさんの3倍
08/05/24 19:57:11
>>73
なんだっけ?それ

76:通常の名無しさんの3倍
08/05/24 20:03:14
うぉうぉうぉ さーぃれーぼーぃす さーぃれーぼーぃす 

77:通常の名無しさんの3倍
08/05/24 21:26:32
>>75
ググレカ…げふんげふん。ZZのウタダヨ

78:通常の名無しさんの3倍
08/05/25 01:12:40
アニメじゃない!

79:通常の名無しさんの3倍
08/05/25 06:19:38
ほんとのこ〜とさぁ〜

80:通常の名無しさんの3倍
08/05/25 13:18:59
まとめの更新はどういうこっちゃ?

81:通常の名無しさんの3倍
08/05/25 14:12:50
ファがメインキャラで登場する作品を読んでみたい。

82:通常の名無しさんの3倍
08/05/25 18:15:23
サイレントヴォイスは本多知恵子が歌ったやつのほうがオリジナルより好きだぜ

83:通常の名無しさんの3倍
08/05/25 22:42:38
プルがハマーンの歌を歌う…何て皮肉な

84:通常の名無しさんの3倍
08/05/26 00:37:01
アニメじゃないって結構カッコイイ曲だと思うんだが
すごい不評なんだよなぁ。歌詞だけで拒否反応かな・・
某動画のアニメージュ年度別アニソングランプリでの
叩かれぶりにワロタ

85:通常の名無しさんの3倍
08/05/27 00:10:49
ほす

86:通常の名無しさんの3倍
08/05/27 13:09:34
>>84
「アニメじゃない」は俺も好き。
歌詞だって通して聞けば良い詩だと思う。

87:通常の名無しさんの3倍
08/05/27 13:16:03
ガンダムソング的にねーよwって感じる人が多いんじゃない
>アニメじゃない

88:通常の名無しさんの3倍
08/05/27 18:25:20
当時は
アニメだ、冷静になれ
と言いたくなるヲタがここまで増えるとは予想できなかったなぁ




世間から見れば俺も大差ないか…

89:通常の名無しさんの3倍
08/05/27 21:04:09
>>87
常識と言う眼鏡で見ているんだな

90:通常の名無しさんの3倍
08/05/28 12:09:01
夢を忘れた古い地球人ですね わかります

91:通常の名無しさんの3倍
08/05/30 01:28:36
ほしゅ

92: ◆x/lz6TqR1w
08/05/30 23:43:16
  『少年達の戦い』


 朝日が昇る。東の空から、眩い光を放って一日の始まりを告げていた。
 暁の空。それがザフトの地上での最後の戦いが始まる合図とは、なんとも皮肉なものだろう。昇る太陽は、連合軍の隆盛の始まりを象徴しているかのようで、ザフトの誰もがそれを疎ましく思った。

 輝きで霞む水平線の向こう―細かいゴマ粒程度の黒点が、ジブラルタル基地を目指していくつもの集団を形成している。それはジブラルタル基地を取り囲むように接近を続け、やがてMSの姿形が浮かび上がってきた。
連合軍の一団が、ザフトを駆逐するべく大挙して押し寄せてくる。それは、地球上に於けるザフトが既にジブラルタル基地にしか存在しない事を証明するものだった。

 夜通しの打上げ作業は、ザフト地上軍の50%弱の戦力を宇宙に帰還させることに成功した。それは、当初の計画よりも遥かに時間的な短縮が行われた作業だった。加えて、予想以上に機雷の撤去に時間を掛けてくれた連合海軍のお陰でもある。
敵の侵攻に遅れが出ている分、ザフトは着々と宇宙への脱出を続けていたのだ。
 しかし、その反面で手放しで喜べない事情もある。連合軍の侵攻がある以上、敵の第一波攻撃は確実に防がなければ残りの部隊の脱出は厳しいだろう。一度撃退し、連合軍が態勢の立て直しを図っている間に打上を行うのが、今考えられる最も現実的な見解だった。
だが、大部分の戦力を宇宙に放り上げてしまった今、ジブラルタル基地の戦力は大幅にダウンしている状況なのだ。師団規模の大部隊で押し寄せてくる連合軍に対し、ザフトは苦しい展開を強いられることになるだろう。
 そこで、その戦力差をカバーする為に、地球低軌道上からザフト宇宙軍の援護が入ることになっていた。旗艦ボルテークを中心に、ジブラルタル基地援護のために集ったザフト宇宙軍が低軌道上から対地ミサイルで連合軍を牽制する。

 ジブラルタル基地周辺に於いて、遂にザフトと連合軍の戦闘が開始された。プラント本国からの報告どおり、侵攻を続ける連合軍に対して注がれる宇宙からの援護射撃。そのお陰で、連合軍の侵攻速度は大幅なダウンを余儀なくされていた。
 ところが、白みかけの、消えかかりの月がまだ顔を覗かせている空で、光芒が瞬いていた。地上からでも目視できるその光は、低軌道上でザフト宇宙軍が交戦している証だった。
ジブラルタル基地の援護に駆けつけるザフトの行動を見越して、連合宇宙軍も低軌道上へ艦隊を派兵していたのだ。

 ジブラルタル基地上空、その低軌道上では、ゴンドワナ級超ド級戦艦ボルテークを中心としたザフト艦隊が援護射撃を続けていた。そこへ攻撃を仕掛けてくる連合宇宙軍。双方共にMS隊を出撃させ、ジブラルタルに負けず劣らずの艦隊戦に突入していた。
 出撃するMSの中には、ジブラルタル基地から上がってきて回収された兵士の操るものもあった。この戦いは、ジブラルタル基地から上がってくるザフトの数が大きなポイントなのだ。
残されたミネルバを筆頭とした残り部隊が宇宙に上がれるかどうかが、これからの戦争の行く末を左右する。そういう戦いだった。

 奇妙な偶然に巻き込まれ、運悪くこの作戦に駆り出される事になったカミーユ。先行したアークエンジェルは今頃、プラントに辿り着けている頃だろう。
どこで歯車が狂ったのか、本当はそれに随行するはずだったカミーユは何故かこうして低軌道上で戦いをする羽目になっている。
 それでも、ほんの少しの救いとはいえ、Ζガンダムはエリカと調整の見直しを行ったせいか、随分と扱い易くはなった。そもそもムラサメを基準に考えて調整を行っていたのだ。無理があって当然というのは過言ではないはず。

『各機、聞こえているな。低軌道上だ、間違っても地球の引力には引っ張られるなよ』

 イザークが全周波通信で注意を促してきた。その懸念も当然。ほんの少しでも高度を見誤って下げすぎてしまえば、それは一貫の終わり。地球の重力に引っ張られて、大気との摩擦でMSは粉々に砕け散ってしまうのだ。
それ故に、イザークは総員に警告する。普段どおりに戦っていては、その点を失念する恐れがあるからだ。

「とは言っても―」

 勿論、不測の事態も予測できる。どんなに気を配っていても、敵との交戦中に間違って高度を下げすぎてしまう事だって十分に考えられる事だ。
あの赤い彗星のシャア=アズナブルですら、カミーユを庇ったとはいえ、百式を行動不能に陥らされて危うく焼け死ぬところだったのだ。注意を払っていても、過信は良くないということだ。

93: ◆x/lz6TqR1w
08/05/30 23:44:18
 ザフトと連合軍の艦隊戦は続く。いくつものビームの煌きが輝き、爆発の火球が光っては消えるを繰り返す。その度に、人の命は失われていく。
 戦闘宙域はミノフスキー粒子に覆われ、先程のイザークの通信を最後に電波の感度が著しく低下している。戦艦はひたすらに砲撃戦を繰り広げ、MSは白兵戦に突入していた。
 カミーユの駆るΖガンダムは、ロザミアのガンダムMk-Uと共に敵MS部隊と交戦する。ウインダム、ダガー、ユークリッド―並居る敵の群れを、2人のコンビネーションが悉く蹴散らしていく。

「ロザミィ、高度には気をつけるんだ。Mk-Uに、大気圏を突破する能力は無い」

 ロザミアは、その辺の事情が分かっているのだろうか。カミーユと共に戦える事に、ある種の興奮状態に入っている彼女は、無邪気にはしゃいでいるようにも見える。細かく注意を促してあげないと、いつの間にか引力に引っ張られていそうで怖い。

『ウフフ! 大丈夫よ、お兄ちゃん。こいつらが来るお陰で戦わなくちゃいけないって事、あたし、分かるんだ』
「ロザミィ……そういう事を言う!」

 ビームサーベルで切り掛かってくるウインダムの斬撃をひらりとかわし、背中を踏みつけて後方のダガーLをビームライフルで狙撃する。コックピットへの直撃を受けたダガーLは爆散し、踏み飛ばされたウインダムは地球へと流れていった。
そして、引力に引かれてコントロールを失い、そのまま大気圏へと突入していく。まるで青い宝石の中に吸い込まれていくようにその姿はぐんぐんと小さくなっていき、赤い火の玉となって燃え尽きて行った。
 ほんの少しの高度の誤りが、生死の分かれ目になる。それが、地球低軌道上の戦いだ。しかし、危険な場所であるにも拘らず、ロザミアはウインダムの最期に見向きもせずにビームサーベルでダガーLを突き刺していた。
 そんなガンダムMk-Uの背後から、ザムザザーが高速で襲い掛かってくる。カミーユはΖガンダムを突っ込ませ、ロング・ビームサーベルでザムザザーを両断した。

「前に出すぎだ、ロザミィ! そんなんじゃ、地球の重力に引っ張られる!」
『平気よ、このくらい』
「燃えちゃうんだって!」

 気分が高揚して気が大きくなっているロザミアは、カミーユの忠告も無視して敵MSへの攻撃を続ける。慎重にならなくては危ない低軌道上での戦いでも、ロザミアは関係ないとばかりに、まるで戦いを楽しんでいるかのように突っ込んでいった。
 この無邪気さは、どうにも出来ない。ロザミアは、コロニー落としのトラウマを利用されて強化された。強迫観念による強化を受けた彼女の情緒は著しく不安定なもので、そのせいで幾重もの精神操作を施され、遂には本来の自我を崩壊させられるまでに至った。
人工的な施しでニュータイプを造ろうとした研究員のエゴに振り回され、ロザミアはロザミアである事を維持できなくなってしまったのだ。
 今のロザミアの記憶は、全て偽りで固められている。凶暴さと幼さを同居させる複雑な性格を併せ持つロザミアは、戦う事が兄のカミーユを手助けする手段と思い込んでいた。その行為を、当のカミーユは諌める事が出来なかった。

 敵の攻撃が厳しくなる。ロザミアのガンダムMk-Uが見せる鬼人の如き活躍を脅威に感じた連合軍が、被害拡大を恐れて2機を取り囲んできた。周囲をMS隊に囲まれ、四方八方からの砲撃が串刺しにせんとばかりに浴びせられる。
 カミーユとロザミアは背中合わせになり、互いに背後をカバーして砲撃の中を耐えていた。通信は繋がらない。味方からの援護は、まず期待できないだろう。ロザミアが突出しすぎたお陰で、味方部隊とも離れてしまっている。

「ひょいひょい襲ってきたって、あたしとお兄ちゃんなら―落ちちゃいなよ!」

 文句を言いながら、ビームライフルで牽制を繰り返すロザミアのガンダムMk-U。しかし、取り囲まれてしまっている状況で反撃を見舞っても、敵は簡単に散開してまるで突破口を開けない。カミーユも応戦しているが、如何せん立場的に不利過ぎる。
 何とかビームライフルでウインダムの一機を撃墜する事が出来たが、如何せん数が多くて焼け石に水だ。Ζガンダムの背後でビームの一発がガンダムMk-Uの頭部を掠めてバルカン・ポッドを吹き飛ばした。

「生意気やってくれちゃってぇ! こんなの―うぅっ!」

 圧殺を狙ったような圧倒的な火線の多さに、流石の2人でもいずれは撃墜されてしまいそうだ。ロザミアの不安が表に出たように、ガンダムMk-Uが頭をキョロキョロと振り回していた。

『何処見てもMSばかり! どうしよう、お兄ちゃん!』
「言わんこっちゃ無い! 敵のテリトリーに食い込みすぎたんだ。こう数が多いと、まともな手段じゃ突破できないぞ……」

94: ◆x/lz6TqR1w
08/05/30 23:44:58
 ロザミアの過失を責めても仕方ない。カミーユは割り切り、ロザミアの不安を打ち消すように冷静に対処方法を探っていた。
 やがて、敵の砲撃にも慣れてきた頃、反対にこちらからの反撃が当たるようになってきた。カミーユとロザミアはまるで互いがシンクロしているかのようにMSを操って見せ、並居る敵MSとビームの応酬を繰り返していた。
突破する機会が巡ってきた―そう思いたかったが、しかしそれが良くなかった。驚異的な戦闘力を見せられた連合軍は、更に多くの兵力をカミーユ達にぶつけてきたのだ。
 せめて、キラのストライク・フリーダムの様なMSであれば何とかなったかもしれない。しかし、ビームライフルで1機2機と地道に撃墜していく事しか出来ないΖガンダムとガンダムMk-Uでは、次々と増援で現れる敵MSの群れに対して突破口を開くまでには至らなかった。

「クッ! どうする……? こうなりゃ―」

 チラリと、足元の地球を見た。流石に、重力に引っ張られる恐れのある地球方面から狙ってくるような敵は居なかった。そして、今乗っているのはΖガンダムである。そうとなれば、この窮地を脱する方法は一つしかあり得ない。
 意を決し、カミーユはロザミアに告げる。

「―ロザミィもう限界だ、地球へ降りる! 僕が合図したら、Mk-Uを地球へ!」
『えっ? でも―』
「このままじゃ埒が明かない。ウェイブライダーでMk-Uを乗せて、大気圏突破を試みる!」
『わ、分かったわ』

 設計上、Ζガンダムには大気圏突入能力が備えられている。エリカと協議を重ねた結果、出来るだけオリジナルに近い機体に仕上げようと結論付けたからだ。しかし、そのテストをする機会は遂に得られぬまま、Ζガンダムはロール・アウトすることとなってしまった。
正直、カミーユでもどうなるのかが分からない。万が一の事態として、フライング・アーマーが予定していた機能を発揮できずに燃え尽きる事になってしまうかもしれない。その反面で、今の状況では地球に降下するしかないという焦りもあった。
 流石のロザミアも、大気圏の恐怖は分かっているようだ。コロニー落としを思い出したわけではないが、大気圏を突破してきたボロボロのコロニーが地上に突き刺さる光景が潜在的にトラウマとなって残っている彼女にとって、大気圏突入はちょっとした勇気の要る行為だった。
 タイミングを見計らうカミーユの瞳が、絶え間なく敵の動きを監視している。Ζガンダムがバルカンとビームライフルで牽制すると、敵の砲撃が一瞬だけ緩くなった。

「ここだ―地球へダイブ!」
『あっ、は……ッ!』

 カミーユが叫ぶと同時に、ロザミアはその言葉を信じ、ガンダムMk-Uのバーニア・スラスターを全開にして地球へと向かった。そして、その後をウェイブライダーに変形したΖガンダムがガンダムMk-Uに追走する。

「くっ、うぅ……ッ!」

 低軌道上だけあり、地球の重力に引かれるのは直ぐだった。力いっぱいに地球へと駆け出したガンダムMk-Uは、あっという間に引力に捕まり、コントロールが効かなくなる。コックピットの温度も上昇していき、全天のモニターが警告のサインをひっきりなしに表示した。
ロザミアはその中でコンソール・モニターにしがみ付くように震え、瞳をギュッと閉じて耐えていた。宇宙から感じる地球の重力とは、こういうものなのか―確実に引力に引っ張られている感覚を抱き、唇を噛んだ。
 それは、現実時間にしてほんの十数秒の間だっただろう。果てしなく続くかと思われた不安の時間は、しかし唐突な浮遊感と共に終わりを告げた。コックピットの全面に表示されていたアラートは消え、温度上昇も和らいだような気がする。
ロザミアが閉じていた目を開くと、いつの間にかガンダムMk-Uはウェイブライダーの背に乗って大気圏内を滑空している状態だった。

『機体各部チェック―行けるぞ……! 機体をウェイブライダーの外に出すと、ショック・ウェーブで吹き飛ばされる。そのままの姿勢でじっとしているんだぞ、ロザミィ』
「お兄ちゃん―分かったわ」

 上方を仰ぎ見る。先程まで交戦していた敵MS部隊は、既に点になるほど離れていて、流石に大気圏内まで追ってくるような猛者は居なかった。単独で大気圏を突破できるΖガンダムだからこそ出来た、逃走方法。とりあえずは上手くいったようだ。

「これからどうするの?」
『このままジブラルタルに降りよう。そこでザフトと合流すれば、もう一度ソラに上がれるはずだ』
「でも、そこも敵に攻撃されているんでしょ? 大丈夫かしら」
『エマ中尉やシンが居る。大丈夫さ』

95: ◆x/lz6TqR1w
08/05/30 23:46:44
 キラと同様に、ミネルバにも新型のMSが数体配置されたと聞いている。ヘブンズ・ベースでは、その圧倒的性能を以って多大なる戦果を挙げたとなれば、そう簡単にはやられないだろうとカミーユは思っていた。
 そんなカミーユの言葉を聞き、幾分か不安の治まってきたロザミアは真っ赤に染まる全天モニターの景色を見つめていた。こんな風に燃え盛る景色は、滅多にお目にかかれるものではないだろう。
一歩間違えば、ガンダムMk-Uといえども一瞬にして燃え尽きてしまうその景色も、ロザミアの瞳には魔性の光景として映っていた。赤いフィルター越しに見る青い地球の美しい魔力が、ロザミアの感性を掴んで放さないかのようだ。
 しかし、そんな考えも、カミーユに守られていると感じることで不思議と怖くなくなった。これがカミーユの与えてくれる温もりと知っているロザミアは、やはりカミーユが兄で間違いないと改めて確信しながら、眼前に迫る大きな青い星を好奇の目で見据えていた。


 ウェイブライダーが大気圏突入に成功していた頃、地上のジブラルタル基地に於ける主戦場では、並居る敵MSから防衛線を張り、必死に抵抗を続けるザフトの姿があった。連合軍の部隊編成は、大西洋連邦軍やユーラシア連邦軍からの派兵部隊が大多数を占めている。
しかし、その中にも大洋州連合などのかつてプラントと友好的関係にあった国の部隊も存在していた。ロゴスからブルー・コスモスを経由し、大西洋連邦を経て掛けられたジブリールの圧力が、戦争に消極的姿勢を見せる国々を動かしたのだ。
オーブ陥落の影響は、穏健思考を持つ国の世論を跳ね飛ばし、強制的に従属を強いられる結果となってしまった。
 最早、今のジブリールは強権を手にした独裁者に近く、核融合炉の技術を手にしたプラントと本格的な抗争に入ることで戦時特需を喚起させ、戦後の主導権を握ろうと暗躍していた。

 海と陸―両側を挟まれたジブラルタル基地の陥落は、ほぼ間違いない。大西洋方面からの侵攻軍の対応に出たアスラン率いるミネルバ隊は、押し寄せる敵MSの群れの中で必死に抵抗を繰り返していた。
 何度目かの補給を終え、朝日が昇ると同時に開戦したこの戦いも既に昼の12時を廻っていた。連合軍は物量を利用して波状攻撃を仕掛け、ザフトに対して休む暇も与えない。ベルリンともヘブンズ・ベースとも違う、地球軍の本気を感じた。
 アスランのインフィニット・ジャスティスが、ビームライフルを連射して2機3機と敵MSを撃墜する。

「この敵の仕掛け方は―」

 ファントム・ペインが見当たらないが、想像以上の激しさを感じた。9割以上がナチュラルで構成されている連合軍のパイロットの中で、ファントム・ペイン以外のパイロットがザフトのトップ・エースであるアスランと比肩し得る者は居ない。
しかし、飲み込まんばかりに襲い掛かってくる連合軍の波状攻撃は、タフなコーディネイターであるはずのアスランの体力すら奪っていく。
 止め処なく攻撃を続けてくる敵MS隊に辟易し始めた頃、そんなアスランの疲れを見越したウインダムの一団が、新型エース機であるインフィニット・ジャスティスを仕留めて星を挙げようと襲い掛かってきた。
集団で撃ってくるビームライフルは、数が多く体捌きだけではかわしきれない。ビームシールドを展開し、動きを封じられたインフィニット・ジャスティスに対して格闘戦を挑んでくる。

「―いい気になるなッ!」

 インフィニット・ジャスティスの本領は、接近戦にこそある。砲撃戦に特化したストライク・フリーダムと対を成すような特性を持つインフィニット・ジャスティスは、全身にビーム刃が内蔵されているようなものだ。
 爪先からビームブレイドが発生し、両マニピュレーターにビームサーベルを握らせて二刀流の構えを取る。アスランは向かってくるウインダムの一団に対して突撃を敢行し、その中で踊るように剣を振って一瞬の内に切り刻んだ。

「ハァ―ッ!」

 大きく息を吐き出し、アスランは一瞬気を緩める。体力の消耗が、徐々に無視できないものに変わってきた。その隙を突くように、今度は背後からザムザザーがクローでインフィニット・ジャスティスを掴みかかる。
 足元を掬われる様にザムザザーのクローがインフィニット・ジャスティスの脚部を捕獲した。ゴツンという振動と共に、コックピットの中のアスランも大きく体を揺さぶられた。疲れている時に受ける衝撃は、思った以上に体に堪える。

96: ◆x/lz6TqR1w
08/05/30 23:48:52
「コイツ―ッ!」

 背中に装備されているファトゥム01が、パージされる。ファトゥム01からビームブレイドが発生し、ビームスパイクとなってザムザザーを脳天から突き破った。
そして、クローの握力が弱まってそこから逃れると、苛立ちをぶつけるようにビームサーベルをコックピットに突き立てる。
 煙を噴いて墜落していくザムザザーは、海面に衝突する前に爆散した。アスランは再びファトゥム01と合体し、周囲の索敵を怠らない。

「まだ来る―シューティング・ゲームじゃないんだぞ、これは!」

 驚きに目を丸くし、溜息混じりに言葉を漏らす。一時的に侵攻を防いだと思っていた矢先に、今度はウインダムとダガーLの混成部隊が飛来してくるのが見えた。数は、少なく見積もっても中隊規模はある。
 他のザフト部隊はどうしているんだ―アスランはいつもの癖でレーダーを確認するが、ミノフスキー粒子のばら撒かれた状態では乱れるばかりで意味を成さない。仕方なく、アスランは目視で周囲の状況を確認するしかなかった。
 連合軍の呆れるほどの物量攻撃。敵MS隊の群れが近付いてくるその側面からビーム攻撃を仕掛けるMSが居た。ハッとしてカメラで画像を拡大する。エマの乗るセイバーだ。

『―ランは一度後退―い』
「エマさん―」

 電波妨害で通信状態が芳しくない。アスランはヘルメットを手で押さえて、反芻するようにエマの声に耳を傾けた。

「エマさんこそ、大丈夫なんですか? 補給は十分ではないでしょう」
『直ぐに交替で―が来るわ。あなたは少しでも休める時に―』

 ノイズが混じり、それ以上は聞き取れなかった。

「全く、ミノフスキー粒子って奴はよくもここまで不便にしてくれたもんだよ!」

 セイバーがMA状態のまま、ロール回転して敵MS隊に攻撃を仕掛けている。エマは流石に飲み込みの早い女性で、アスランが伝授したようにセイバーを扱って見せていた。連射性の高いフォルティス砲を取っ掛かりに、威力の大きいアムフォルタスを巧みに使い分けている。
 しかし、純粋なナチュラルであるエマがこの短いインターバルで体が保つのだろうか。彼女が補給に戻って、ほんの2、30分程度しか経っていない。恐らく、エネルギーの補給だけをして、直ぐに戦線に出てきたのだろうが―
一方のアスランも、既に2時間弱この空域で粘っている。その疲労度を心配してくれるのは嬉しいが、根本的に体の耐久力の違うコーディネイターである自分に、もう少し任せてくれてもいいのにと思った。
 エマにだけこの戦線を任せておくわけには行かない。アスランがエマの労わりを裏切るようにインフィニット・ジャスティスを機動させようとした時、一発の高エネルギービームが敵MS隊の集団を切り裂いた。

「―あれは!」

 そこに飛び込んできたのは、光の翼を見事に広げたMS―デスティニーだった。残像で敵MS隊をかく乱するように機動し、手にしたビームサーベルでバッタバッタと立て続けに切り刻んでいく。
 そして、インフィニット・ジャスティスの背後からも高エネルギービームが通り過ぎていった。振り向くと、長い砲身を両脇に抱えたブラスト・インパルスが構えていた。
インパルスは左のマニピュレーターをケルベロスのトリガーから放すと、ワイヤーを伸ばしてインフィニット・ジャスティスに接触してくる。

『ザラ隊長は一度お戻りください。レイもカツも、補給を兼ねてミネルバに帰還しています』
「ルナマリア―そうは言うが、ジャスティスはまだ余裕がある。もう少し行けるさ」

 実際にインフィニット・ジャスティスは余力を残していた。それは、少しでも長く戦場に留まれるようにというアスランの隊長としての気骨だったわけだが、そんなアスランに対して接触回線越しのルナマリアから溜息が聞こえてきた。

『―格好つける人って、格好悪いですよ。ここはあたし達に任せて、隊長は一度休憩を挟んでください。いいですね!』

 そう言うと、ワイヤーを引き戻してインパルスはインフィニット・ジャスティスの脇を素通りし、交戦空域に向けて加速して行った。アスランはポンと軽くヘルメットを叩き、仄かにバイザーが湿る程度の溜息を吐いた。

「邪険にされた―というよりは気を遣ってくれていると思いたい。しかし―」

97: ◆x/lz6TqR1w
08/05/30 23:49:36
 ミネルバの仲間は、信頼していいと思う。配属された当初は、アスラン一人の技量が飛びぬけて高かった。しかし、今では新たにMSも支給され、それに底上げされるように全員の力が上がっている。
特にシンやレイは、元々高かったポテンシャルが新型MSの性能に引っ張られて急速にその才能を開花させていた。とてもザフト・レッドとは思えなかったルナマリアも、その後の人知れずに行っていた努力が報われたのか、苦手としていた射撃の腕が向上していた。
 それにしても、オーブ陥落からこのジブラルタル基地の危機と、一時はヘブンズ・ベースで盛り上がったザフトの反撃の狼煙が下火になりつつあることを感じざるを得ない。この結果が、全てデュランダルの演説の責任にあるとは思わないが、その一端は確実に彼にあると思える。
連合軍―突き詰めればジブリールの感情に火が点いた事であるが、どういうつもりで居るのかが、アスランには図りかねていた。これでは、ザフトは追い詰められるだけで反撃の糸口すら見えないのではないか。

「ジブリールを逃がしておきながら、あの時にオーブを危険に晒してまで世界放送を展開する意味はあったのか? 議長は、一体何を―」

 信頼をしていないわけではない。ただ、先見性のないデュランダルの思惑が、いまいちアスランには理解できなかった。コーディネイターとナチュラルの未来を夢見ている事は分かるが、結局は対立の溝を深める結果になってしまっているのではないだろうか。
 ジブラルタル基地周辺の空は、ビームの軌跡と爆発の閃光で彩られている。周囲を見渡し、アスランは疲労で痛めつけられた肉体的、精神的な苦痛を癒す為に、ミネルバへの進路を取った。

 ジブラルタル基地の最終防衛ラインで、ミネルバは前線への援護で砲撃を繰り返していた。開戦直後にタンホイザーで敵艦隊に奇襲を仕掛けた後、ミネルバはジブラルタル基地の砲台と呼吸を合わせて敵MSの侵入を防いでいる。
 そのミネルバへ、レジェンドが帰還した。甲板では、まるで番犬のように位置取るガイアが、前線を抜けてきた敵MSへの牽制を繰り返し、レジェンドの収容を援護していた。
 ステラがガイアを返還した事により、ようやくガイアを本来のザフトMSとして使う事が出来るようになり、それにはカツが乗ることとなっていた。ムラサメとの操縦性の違いから扱い勝手が違うガイアでも、カツはそれなりに運用する事が出来ている。
戦争博物館の館長であった養父・ハヤト=コバヤシのお陰か、カツの様々なMSに対する適応性は高い。グリプス戦役に於いても、ガンダムMk-U、ネモ、メタス、そしてG・ディフェンサーと、様々なタイプの機体を経験したがゆえだろう。
本人も、ガイアの運用にはそれなりの手応えを感じているようだった。
 ベルリン以来、カツの出撃はこれが復帰戦となる。大規模な戦闘はグリプスを戦ったカツには慣れっこだが、世界を変えて一番の大規模戦闘に、カツの疲労も重なっていた。

「敵の仕掛けが早すぎるんじゃないのか? ブリッジ―」

 連合軍の侵攻は、予想以上に手厳しいものだった。カツがブリッジに戦況を確認しようとした時、危険な予感が頭の中を迸った。これは、ベルリンで感じたものと同じだ。驚異的な破壊力を持った巨人が、陸地の向こう側から迫ってきているのを感じる。
 首を振り回してそわそわするカツの元へ、レジェンドが接触してきた。

『どうした、カツ。ミネルバへ入れ』
「レイは感じないのか? 向こうから、デストロイが来ているかもしれないって―」
『何?』

 考えられない話ではない。連合軍がジブラルタル基地を落とそうと考えているなら、デストロイ投入はあって然るべきだ。移動速度の遅さから今までに出てこなかった方が自然と考えるが、端から出し惜しみしていたとしても不自然。
しかし、確認を取ろうにもジブラルタル基地周辺は既にミノフスキー・テリトリーに変質しており、陸上部隊への連絡は遮断されている状態だ。
 その時、陸戦部隊が前線を張っているであろう方向で、大きな爆発が起こった。連鎖的に起こる爆発は、一瞬にして緑地を火の海に変えていく。カツの言葉が真実とすれば、デストロイの砲撃である事は疑いようのない光景だ。
 レジェンドはそのままミネルバに入らず、ワイヤーを飛ばしてブリッジに直通回線を繋げた。

「タリア艦長、今の爆発は見えていますか?」
『確認しているわ。どうやら、敵の本命がミネルバの反対側から迫ってきているようね。こちらの疲弊の隙を突かれたのよ』
「そう思います。自分としては、陸戦部隊の様子が気がかりです。そちらへの援護の必要性を認めますが―」
『そうね……』

98: ◆x/lz6TqR1w
08/05/30 23:50:10
 レイの提言に少し考え、タリアは続ける。

『あなた達の補給は大丈夫なの?』
「レジェンドは大丈夫ですが、ガイアは―」
『僕も、レイの案に賛成です。デュートリオン・ビームの照射をしてもらえれば、ガイアはまだ戦えます。それに、ミネルバは旗艦の役割を果たさなくちゃいけないんですよね? なら、このままじゃ、ミネルバも背後を突かれちゃいますよ!』

 口では強がっているが、疲労は想像以上に蓄積されているはずである。それを考えると、貴重な戦力である彼等にはあまり無理をさせたくないのが、艦長としてのタリアの心の内だった。
 しかし、陸戦部隊への援護をしなければ、ジブラルタル基地の陥落は早まる。2人の言う事にも一理あるだけに、タリアは少しの間思案を重ねた。そんな時、ウインダムをビームサーベルで切り裂きつつ帰還してきたインフィニット・ジャスティスが見えた。

『アスランの意見も聞きたいところね』
「分かりました」

 タリアの意見に頷き、レイはレジェンドのデュアル・アイで光信号を送った。人の行為に例えるならば、“目配せ”である。勿論、ある程度の取り決めは定まっているのだが、同じ部隊で長くやってきた彼等の一種のチームプレイと言えるだろう。
 アスランはそのレジェンドからの信号を受け取り、“了解”の返事を送るとレジェンドと同様にワイヤーを飛ばしてブリッジに通信を繋げた。

「どうしたんです?」
『陸戦部隊の方に、デストロイが出たらしいのよ。そちらへの援護を出したいところだけど、あなた達の疲労の具合も気になるわ。あなたの意見を聞かせて頂戴』
「そういうことなら―」

 ちらりとレジェンドとガイアを見た。レイはワイヤーを繋げたまま、こちらの話を傍受できているのだろう。一方で、ガイアはミネルバからのデュートリオン・ビームの照射を受け、エネルギーの回復を行っていた。

「2人は何て言っているんです?」
『援護に出たがっているわ。私としては疲労度が気がかりだけど、そういう場合でもないしね』
「なら、俺も賛成です。デストロイに背後を突かれるのは面白くありません。直ちに、小隊を組んで陸戦部隊の援護に向かいます」
『ごめんなさいね』
「しかし、独立小隊として指揮権はこちらに移譲してもらいます。フェイス権限として、そうさせてもらいます」
『分かりました。頼みます』
「了解」

 ブリッジに繋がるワイヤーを引き戻し、今度はレジェンドにワイヤーを繋げた。呼応するように、レジェンドはガイアにワイヤーを放り投げて接触する。

「2人とも、聞いての通りだ。疲れているかもしれないが、陸戦部隊援護のために、インターバルをカットしてイベリア半島側の前線へ向かう。しかし、無理だと判断したら直ぐに引き返してくれて構わない」
『自分は大丈夫です。大西洋側はシン達が上手くやってくれるでしょう』
『僕も平気ですよ。ヘブンズ・ベースをサボったんだから、これくらいはやって見せます!』
「すまない―ここからの指揮は、俺が直接執る。俺とレイ、そしてカツの3人で独立小隊を組む」
『了解』

 インフィニット・ジャスティスを先頭に、レジェンドが続き、MA形態に変形したガイアは地を駆ける。
 ひっきりなしに掛け声が飛び交うミネルバのブリッジの中、タリアは手元の専用モニターで3機の後ろ姿を見た。ザフト最強の部隊として彼等を酷使しなければならないのは、非常に申し訳ないと思う。
まだ少年の彼らにとって、戦いは自らの青春や感性を削ぎ落としていく行為にしかならない事も、タリアは分かっていた。そして、それが昔の男の所業にあるとすれば、関係を持っていた彼女も責任を感じざるを得なかった。
 プラントに於いての成人年齢は、それまでの人類の歴史の中でも早い方だ。しかし、成人でも彼等がまだ少年である事には変わりない。子供を死地に向かわせなければならないこの戦争は、どこまで深い業を背負っているのだろうか。
タリアは不謹慎にも戦闘中にそんな事を考えてしまった。



99: ◆x/lz6TqR1w
08/05/30 23:51:42
 成層圏に入り、大空を滑空するカミーユの目に、雲の合間から大陸の影が視界に入ってきた。ΖガンダムとガンダムMk-Uはウェーブ・コースを通り、イベリア半島の上空まで来ている。やがて大地が大きくなってくると、戦闘の光が視認できるまでに至った。
 想像以上の激戦だ。イベリア半島の南端だけ、まるで花火大会をしているかのような輝きを放っている。しかし、その美しさとは裏腹に、爆発が起こる度に何かしらの悲劇が起こっている光景だった。

「ザフトが押されている……」

 カミーユの思惟の中に、懐かしい感覚が流れ込んできた。エマ、シン、ルナマリア―それからカツ、アスラン、レイ。ミネルバの存在も感知できる。まだ、誰もが存命している証拠だ。
 しかし、戦況は芳しくない。ジブラルタル基地周辺を見渡せる高度にあるから分かる事だが、戦火の光はジブラルタル基地本体に向かって徐々に圧迫しつつある。
低軌道上から降り注がれるザフト宇宙軍の援護射撃も効果がないわけではないが、連合宇宙軍に阻害されている為数が多くない。
 見たところ、大西洋方面とユーラシア方面からの挟撃に遭っている様だ。どちらか一方でも撃退することが出来れば、活路は開けると思うのだが―カミーユは滑空しながら、膠着状態と見える大西洋側に向かってコントロール・レバーを押し込んだ。


 たくさんのMSが、戦場を駆けていた。空から襲い来るのは主力のウインダムであったり、換装によって様々なストライカー・パックを装備したストライク・ダガー、そしてMA。海からは少量であるが、ゲシュマイディッヒ・パンツァーを装備したディープ・フォビドゥン。
実に様々だ。対するザフトは、空中戦力に最新型のグフ・イグナイテッドを中心に、バビ、ディン等を配置し、猛威を振るう海中のディープ・フォビドゥンに対しては、グーンやアッシュを数多く配置してそれに当たらせていた。
 遠慮無しに閃光を瞬かせる戦場で、両軍の意地がぶつかっているようだった。連合軍はザフトの弱体化それ自体を目論んでおり、ザフトはそれをさせまいと耐えに耐える。お互い、この会戦がそもそもの決着をつける場である事を了承しているだけに、一歩も引かない。
 それは、ザフトにあってエース部隊としてこの前線で戦っているルナマリアも同じだった。瞳の中に飛び込んでくる戦争の光―しかし、今更それに慄くような彼女ではなかった。

 エマのセイバーが敵の密集隊に向けてフォルティス砲を散射し、変形を解いてビームサーベルで切り掛かる。急襲に遭ったエール・ストライカー装備のストライク・ダガーは、何も出来ずに胴を貫かれた。
引き抜いてランチャー・ストライカー装備のストライク・ダガーにバルカンで牽制をかけ、ビームライフルで狙撃して撃墜する。
 流石だと思った。同じ女性でありながら、ナチュラルでもあるエマがこれだけ戦いに慣れていることに、ルナマリアは素直な尊敬の念を抱いた。
 そのセイバーが、こちらにワイヤーを飛ばして通信を繋げて来た。決して鮮明ではないが、モニターにコックピットの中のエマの様子が映し出される。

「エマさん?」
『混戦で、シンが何処にいるか見えなくなったのよ。あの子の事だから、多分、気付かない内に前に出すぎちゃってると思うけど―だから、呼び戻して欲しい。よろしい?』
「そうは仰られても、エスパーじゃないんです。そう簡単にシンの居場所なんか分かるわけありませんよ」

 エマの戦いぶりに注目するあまり、シンの行方にはほとほと無頓着だった。それというのも、デスティニーの戦いぶりを見れば心配するのが馬鹿らしくなる程の活躍ぶりで、ルナマリアはそんな活躍を見せるシンにパイロットとして嫉妬したのかもしれない。
エマに言われてみて、初めてデスティニーの姿が見えなくなっていることに気付いた。

『デスティニーの戦力はこのラインの壁になっていた。それが消えた事で、敵を勢い付かせてしまっているわ。戻ってきてもらわなきゃ困るのよ』
「そういう事情は分かりますけど―」
『大丈夫、あなたになら出来るわ』

 何かを分かっているかのように言うエマ。ルナマリアは少し照れくさそうに鼻を啜った。
 それにしても、この混戦の中にあって、エマはしっかりと状況の判断が出来ていた事が凄い。だから、デスティニーが居なくなって防衛線が弱体化した事を忌まわしげに思っているわけだが、しかしただ必死に戦っていただけの自分とは偉い違いだ。
アスランか、それ以上に指揮を執り慣れていると感じた。

100: ◆x/lz6TqR1w
08/05/30 23:52:22
「分かりました。やってみます」
『頼むわね』

 そう言ってワイヤーを引っ張って収納すると、セイバーはすぐさま味方の援護に駆け寄っていく。セイバーはある種、旗艦としてのミネルバから出てきた、前線指揮機でもある。前線を崩壊させないようなナーバスな気配りが、セイバーの動きに表れていた。
 ルナマリアの瞳が、戦闘空域の空気を読む。混戦に突入しているだけあり、印象としては双方とも、とっ散らかっている感じだ。互いの総力がぶつかっているのだから、それも当然だと思う。ケルベロスを反転させ、ファイアフライ・誘導ミサイルを吐き出して敵を散開させる。
 ルナマリアは、シンのデスティニーを探した。派手な翼を背に持っているデスティニーはミノフスキー粒子の濃い戦場でも、目視で容易に視認できる。果たして、残像をいくつも生み出しながら機動しているデスティニーを発見した。

「あんなところまで出ちゃって―囲まれちゃってるじゃない、シンのバカッ!」

 両腕のビームシールドを展開させ、ボクシングのピーカブー・スタイルのように身を固めて敵からの集中砲火に遭っているデスティニーが見えた。時折ガード・スタイルを解いてはビームライフルで迎撃しているが、不利であることは火を見るより明らか。
戦いにのめり込むあまり、自分が突出していた事に気付いていなかったのだ。頼りになるようになったと思えてきた矢先にこれでは、永遠のガキ大将の称号を与えてやりたくもなる。
 ブラスト・インパルスを加速させ、肩部のレール・ガンでデスティニー周辺の敵部隊に牽制を放つ。上下左右に展開した敵MS部隊。そこへ、左右に散開した一団に向けて、それぞれに2門のケルベロスを差し向けて何機かを撃墜した。

「イエスッ! あたしだって、やりゃあ出来る子!」

 苦手としていた射撃。ガナー・ザク・ウォーリアに乗っていた頃から感じていたジレンマは、いまいち当たらなかったオルトロス。しかし、同じ砲撃戦用装備のブラスト・インパルスで、ルナマリアは自分でも驚くほど攻撃を当てていた。

「シンに貸しを作っておくのも、悪くないってものよ!」

 人間、苦手なうちはつまらなく感じるもの。だが、一旦上手く行くようになれば、それは快感に変わるものである。コックピットの中で珍しくガッツ・ポーズをとるルナマリアは、射撃の快感に酔いしれていた。
 一方で、逃げるように後ろ向きで後退するデスティニー。高エネルギー砲を左小脇に抱え、薙ぎ払うように強烈な一撃を見舞って追撃を遅らせる。シンはチラリと後方を確認し、ブラスト・インパルスの姿を確認した。

「迂闊だった―インパルス、ルナが助けてくれたのか?」

 高エネルギー砲のビームの奔流を掻い潜って、ドダイに乗った一機のソード・ストライカーのストライク・ダガーが突っ込んでくる。後退するデスティニーと入れ替わるようにブラスト・インパルスが前に出て、胸部のCIWSで迎撃した。
 しかし、流石は接近戦用の装備である。バルカン程度の攻撃ではダメージが殆ど通らず、尚も加速を続ける。その両の腕には、しっかりと対艦刀シュベルト・ゲベールが握られていた。
 ブラスト・インパルスに振り上げられたシュベルト・ゲベールは、少しの遠心力を加えて、重量級の一撃を振り下ろしてきた。しかし、ブラスト・インパルスはそれをかわし、迂回するように背後に廻ると、対装甲ナイフを引き抜き、突き刺して離脱した。
 そこへ、間髪いれずに容赦なくデスティニーが腕を伸ばす。下から突き上げるようにして繰り出される掌底が腹部に突き刺さり、そのままパルマ・フィオキーナでストライク・ダガーを上下に分断した。
 爆散するストライク・ダガーから離れ、ブラスト・インパルスと肩を合わせて落ち合う。シンにもコツンという衝撃が伝わり、接触した事を確認してから口を開いた。

「ルナ!」
『もう、夢中になると周りが見えなくなっちゃうんだから! 貸しだからね、これ!』
「ごめん―でも、エマさんを一人にしてきたのか?」
『敵の数が多くて、あんたが居ないと前線を支えきれないのよ。だから、分かったらさっさと戻る!』

 急かすルナマリア。味方の部隊が居るとしても、前線が崩れ始めているようであれば、エマ一人だけでは危険だ。デスティニーとブラスト・インパルスはそれぞれ砲撃を放ち、残った敵を牽制した後、反転して飛翔して行った。

101: ◆x/lz6TqR1w
08/05/30 23:54:38
 エマの目に、ザフトの防衛線が崩れていくのが見える。要所要所では持ち堪えているように見えるが、それが決壊するのも時間の問題だろう。加えて、エマ自身も疲労で頭の中が少し白んできたように感じる。
集中しているのに、何故か眠気が襲ってくるのだ。頭の中が沸騰するような熱を帯びているような気がする。この辺りが、ナチュラルとしての自分の限界だろうか。頭を振り、自分に正気を戻させる。

「疲れてるって、思いたくは無いけど―」

 目が充血していると思う。自分では確認できないが、目の周りが妙に乾いているように感じるのだ。その証拠に、次第に景色が霞んで視界が悪くなってきた。瞬きで目を潤そうとするが、それも付け焼刃。
エメラルド・グリーンの瞳を細めて、何とか一定上の視界を確保しようとする。自然と眉間に皺が寄り、如何に不細工な顔になってしまっているかも、本人には分からないだろう。それだけ必死で、エマは疲れていた。
 だからこそ、隙が生まれたのかもしれない。視界を確保しようと細めた目が、逆に視界を狭めていた事に気付いたのは、背後から忍び寄ったランチャー・ストライク・ダガーがアグニの照準をセイバーに合わせた後だった。

「しまった!?」

 危険を告げるアラートが鳴り響く中、エマは自らの不覚を悟る。しかし、その時高空から降り注がれた数発のビームが、ランチャー・ストライク・ダガーを直撃し、ドダイの上から撃ち落した。
急に仰向けに落とされたストライク・ダガーのパイロットは焦ったのか、虚しくアグニの光が空に向かって伸びる。

「何なの―援護攻撃?」

 上空からの援護は、ミサイルによる攻撃だけだったはずである。ビーム攻撃などは聞いていない。エマが上空を仰ぎ見ると、そこからMSを背に乗せた航空機がやってくるのが見えた。
航空機の背に乗ったMSは飛び上がり、先程のストライク・ダガーが使っていたドダイの上に舞い降りる。
 そして、航空機は変形した。トリコロールに彩られたシャープなシルエットのMSは、ビームライフルを構えると速射して次々と連合軍のMS部隊を撃退して行った。ブレード・アンテナ中央基部に刻まれる“Ζ”の文字―

「Ζが空から降ってきた!?」

 ドダイに降り立ったガンダムMk-Uは、腰のウェポン・ラックからハイパー・バズーカを取り回し、装填されているだけの弾頭を撃ち放つ。一定以上の距離で拡散する散弾の礫が、構造上弱い頭部やバーニアを破壊していく。
 突如現れた宇宙からの増援に、連合軍は慌てたのか信号弾が数珠繋ぎ的に炸裂した。それと同時に反転して引き上げていく連合軍は、撤退命令が下ったのだろう。長い長い、連合軍の第一波攻撃が、大西洋側だけは終わった。
 ドッと疲れが津波のように押し寄せてきたのか、エマは大きな深呼吸をすると、ぐったりとシートの背もたれに体を預けた。
 他方、ΖガンダムはガンダムMk-Uが乗るドダイの上に降り立ち、揺れるドダイのバランスを取っている。
 どれだけの激戦がこの空域で行われたのか、カミーユの目にはそれが何と無しに分かる光景だった。海に浮かぶMSの残骸は、焦げていたりバラバラになっていたりで連合軍のものなのかザフトのものなかの区別がつかない。
こんなに海を汚しちゃって、どうするんだよ―そう考えたが、必死に戦うものにそんな価値観は皆無に等しいだろう。誰もが死にたくなくて戦っている。自分の事だけで、手一杯だったはずだ。
 そんな時、コックピットのモニターに他機からの接触を告げるマーカーが表示された。接触してきたのは、空中で制止してワイヤーを伸ばしているセイバー。

『その機体、カミーユなの?』
「セイバーは、エマさんだったんですか」

 声を聞き、モニターに移る小さな画像から久しぶりのエマの表情を見つけた。カミーユの声に応え、ヘルメットを脱いで素顔を晒した。汗で濡れた額に張り付く前髪が、妙な色気を醸し出しているような気がする。

『Ζ、出来たのね』
「大気圏の突入も問題なく出来ました。バランスはまだいまいちですけど、完成度は高いですよ、これ」
『そうでしょうね―』

 ふと気付くと、連合軍が撤退して行った方面からデスティニーとインパルスが戻ってきた。インパルスはエネルギーが切れてしまっているのか、灰銀に戻ってしまっていて、腹を抱かれるようにしてデスティニーに抱えられていた。
稼働時間が長いデスティニーに比べ、電力を消費して稼動しているインパルス、その上最も消費量の激しいブラスト・シルエットを装備しただけに、力尽きるのも早かった様子だ。


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