リレー小説「中国大恐慌」 at MITEMITE
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600:創る名無しに見る名無し
18/12/29 20:49:48.86 9fWqcOeO.net
ララが治療に戻っても、結局シューフェンの余命が伸びることはなかった。
湖へ行った日から3日後の朝、シューフェンは峠を迎えた。
テレビ電話でツイ・ホークとジョアンナが話をした。
「ジョアンナ、友達になってくれてありがとう」
「シューフェン、待っててね。あなたの骨格に最後のお化粧をしに行くわ」
「監督、私を見出だしてくれてありがとう」
「君の主演映画をもっともっと撮りたかったよ」
電話が終わるとシューフェンはメイファンに言った。
「メイファンちゃん、本当にありがとうね。あなたのお陰で安心して眠れるわ」
「映画、観に行くから。またその時に会いましょう」
メイファンらしくない優しい言い方に触れ、シューフェンはにっこりと微笑んだ。
「ララちゃんにも会いたいわ」
するとすぐにメイファンは白くなり、明るい笑顔のララが現れた。
「ララちゃん、ありがとう。こんなに安らかに眠れるのはララちゃんのお陰ね?」
「アハハ」とララは声を出して笑った。「キチガイを見る目で怖がったくせに?」
ララはすぐメイファンに戻ると、口をぶりぶり言わせながら部屋を出て行った。
「ハオ」
メイファンはハオを見た。ハオはシューフェンが何か言おうとする前に泣きながら言った。
「シューフェン、愛してるよ!」
「あら。あたしも愛してるわよ?」
リウが驚いた顔でシューフェンを見た。ハオは言葉を失ってぼろぼろ涙を流した。
「ロン、最後のお願いよ。本当のことを言わせて」
リウは黙ってその場で頷き、腕組みをした。
シューフェンは深く息をすると、言った。
「どうして二人の人を好きになっちゃいけないんだろ。ロンのことも愛してる、ハオのことも愛してる。これが本当の気持ちなのに」
「シューフェン〜〜〜……」
「ハオは私の一番落ち着ける家みたいなもんよ。手のかかる家だけど、だからこそ可愛いの」
「キスしてもいい?」
ハオの言葉にシューフェンはリウを振り向いた。リウはくるりと背を向けると、耳を塞いだ。
鼻水まみれのキスをすると、ハオはシャツでシューフェンの顔を拭った。
「大好きよ、ハオ」シューフェンは言った。「だから自信を持ってね」
「もういいだろ」と言いながらリウがハオを押し退けた。
部屋から出て行かないハオを一瞥すると、ハオはようやく出て行った。
「ロン……」
「また黙ってやがったな」
そう言いながらリウはポケットからハンカチを取り出し、鼻水の残りを優しく拭いた。
「ごめんなさい」シューフェンは最も信頼する人の顔を見ながら微笑んだ。
「いいさ」綺麗になった唇にキスをする。「俺を悲しませたくなかったんだろ」
「でも、最後に悲しませた?」
「悲しいもんか」リウは静かに言った。「アイツは確かに凄ェライバルだしな」
「でも、あたしはずっとロンの側にいるわ」
「あぁ」リウは微笑んだ。「俺もずっと側にいる」
二人は手を握り合った。
リウには見えてしまった。シューフェンの気がどんどん弱くなり、消えてしまうその一瞬が。
「ロン、あたし、今……」最期にシューフェンが言った。「幸せよ」

601:創る名無しに見る名無し
18/12/29 21:09:12.43 9fWqcOeO.net
帰らぬ人となったシューフェンを見て、ハオは泣き叫びながら言った。
「メイファン〜! ララ〜! どっちでもいいからシューフェンの中に入って生き返らせてくれよ〜!」
「……!」メイファンは呆れて言葉も出せなかった。
「お前ら一人の身体に二人入ってんじゃんよ〜! 一人出てってシューフェンの中に入ってくれればいいじゃんよ〜!」
「てめぇ」リウがハオの胸ぐらを掴む。「取り乱すのはわかるが、いい加減にしろ」
「何でだよ〜! 死んだ恋人ゾンビにして生き返らせる人の気持ちがお前にはわかんねぇのかよ〜!」
「それでもし生き返ったとしても、それはシューフェンじゃねぇだろうが!」
「シューフェンだよ〜! 見た目がシューフェンならシューフェンだよ〜!」
「そいつは取り乱してなどいないぞ」メイファンがリウに言った。「そういう奴なんだ」
「頼むから!」リウはハオを床に投げると涙声で言った。「安らかに眠らせてやってくれよ……!」
投げられたハオはすぐに立ち上がるとメイファンに駆け寄った。
「な〜! メイファ〜ン! ドラえもんみたいに何とかしてくれよ〜!」
「こういう奴だが……」メイファンは拳を握りしめた。「ここまでだとは思わなかった」
メイファンに『気』を込めて殴り飛ばされたハオはすぐにまた立ち上がるとシューフェンの遺体に突っ伏して泣きまくった。
「アハハ」とララの声がした。「あたしはハオさんに賛成〜」

602:創る名無しに見る名無し
18/12/29 21:19:45.93 9fWqcOeO.net
メイファンは説教室にララを連れ込んだ。もちろん物置部屋に一人で入っただけである。
「ララ、最近お前、おかしいぞ!」
「ハオさんに共感〜」
「あのな、身体から出るなんてお前、出来ると思うか?」
「だってあたし、いらない子だしぃ〜、家出〜」
「シューフェンの死体に入れたとして、入ったお前も死ぬことになるぞ」
「なんで〜? あたし生きている気体じゃ〜ん?」
「シューフェンは魂が抜けたから死んだんじゃないんだ、身体が死んだから死んだ。わかるか?」
「なるほど!」
「それにメカゴリラも言ってた通りぶりぶりぶり……」
「じゃあ、生きてる人になら入ってもいいのね!?」
「何のことだ?」
「穴がね」ララの声は嬉しそうに言った。「大きく広がったの!」

603:創る名無しに見る名無し
18/12/29 22:07:55.13 9fWqcOeO.net
その夜メイファンが眠りにつくと、早速ララは出掛けて行った。
ハオの部屋に入ると、ハオも泣きながら眠っていた。
「お兄ちゃ〜ん」

604:創る名無しに見る名無し
18/12/29 22:08:42.52 9fWqcOeO.net
ララは嬉しそうにハオをゆする。
「ハオさぁ〜ん」

605:創る名無しに見る名無し
18/12/29 22:31:41.18 9fWqcOeO.net
ハオが目を開けると、また白いネグリジェ姿のララがいた。
「合体しよ〜、合体」
「慰めなんかいらねーっつってんだろ。あっち行け」
「慰めるつもりなんかねーよバーカ」
「あ?」
「ただ合体しよーっつってんだ。大人しく合体されろバカ」
そう言うとララはいきなりハオのズボンとパンツをいっぺんに下ろした。
「いやだからそんな気分になれるわけねーって……」
ララの柔らかく温かい唇がハオを包み込んだ。
「ねーって……」
舌がねっとりと絡みつき、同時にハオは強烈なフェロモンを吸い込んだ。
「ね、ねっとり〜って……」
ハオの如意棒はびんびんに立ち上がった。
「こ……こんな時に立ち上がるんか……! 俺って奴は……俺って奴は……」
ララは唇を離し、柔らかな手で激しくしごきながらハオに顔を近づけて来た。
「フフフフ、ハオさん、ララの同類〜」
「くっ……くそぅ……」
「ふきんしん〜。ひとでなし〜」
「あぁっ……いっ……」
「そんじゃね、そんじゃね」
「うぅっ……!」
「いっただっきまーす」
そう言うとララは大きく口を開け、ハオにディープキスをした。
ハオの口を押し開け、舌が入って来る。
どんどんどんどん入って来る。
綿菓子を休みなく口の中に突っ込まれるように……いや待て、これ、本当に舌か?
そう思ってハオが目を開けると、ララは白目を剥いて痙攣していた。痙攣しながらぐいぐいと口を押しつけ、離さない。
その口から何かふわふわしたものがまだまだハオの中へ注ぎ込まれる。
「むぇいぶぁーーっ!!」
ハオはそう叫んでメイファンを起こそうと試みたが、メイファンは出て来ない。
やがてララの顔がビキビキと音を立てて黒く割れはじめ、白い破片はすべてハオの口の中に入り、ようやく目を白黒させたメイファンが現れた。

606:創る名無しに見る名無し
18/12/29 22:36:17.28 5Xkok9Ad.net
「…ううっ、ダダァ…ッ!」
ハオは目を覚ました。
「…苦しいのね、お兄ちゃん。」
ララはハオを優しく抱擁し、ストレスでハゲ散らかったその頭を撫でた。

607:創る名無しに見る名無し
18/12/29 22:53:41.22 wPQXNOaF.net
「お兄ちゃんっ、お兄ちゃんっ、私お兄ちゃんとつながってるよぉっ!キャハハハッッ!!」
ハオの精神世界内部に入り込んだララは
精神体のハオと激しく交わっていた。
「ううっ、ララ…やめてくれぇ…。」
それはハオの意志を無視したレイプの様相を呈していた。
一方、現実世界ではメイファンの目の前でバケモノが誕生しつつあった。

608:創る名無しに見る名無し
18/12/29 22:59:56.99 9fWqcOeO.net
気がつくとメイファンは大きく開けた口をハオの口に押し当てていた。
ちょっと舐めた後噛みついてから口を離すと、おかしな感覚があった。
「ララ?」
ララの『気』がどこにもないのがメイファンの通常の感覚であった。自分の臓器は異常を訴えない限り意識しないのと同じようなものだ。
自分の臓器が目の前に置かれているような感覚だった。ハオの中に、ララの『気』を強く感じたのである。
「ララ……お前、ハオの中に入ったのか!?」
「うふぅん」ハオの口が勝手に動き、オカマのような声で喋った。「いい感じぃ」
しかしその『気』は白くはなかった。コバルトブルーの『気』がハオを大きく包んでいた。
「凄いな……こんなこと出来たんだ」メイファンは感心していた。「おもしれ〜。おいララ、それでララになったらどうなるんだ?」
「凄いよ〜」ララは楽しそうに言った。「身体交代しなくても動かせちゃう」
ハオは操り人形みたいな動作で立ち上がる。
「はははっ!」メイファンは面白がる。「ララが操縦するロボットみてーだ」
するとハオは急激に殺気を立ち昇らせた。
「おい!?」
ハオの掌打が想像以上の速さでメイファンの胸めがけて飛んで来た。
メイファンはそれを紙一重でかわし、遅れて『気』を纏う。
「アハハッ! メイ」ハオは言った。「あたしの操るハオさんに勝てるかな?」

609:創る名無しに見る名無し
18/12/29 23:14:54.10 9fWqcOeO.net
リウは激しい物音にすぐ駆けつけた。
ハオが『施設』を飛び出して行く後ろ姿が見えた。
ハオの部屋に入るとメイファンが自分の腕を押さえていた。出血している。
「何事だ?」リウが聞く。
「ちっともわからん!」メイファンは答えた。「アイツ……本気で私を殺しに来やがった」

610:創る名無しに見る名無し
18/12/29 23:20:38.61 9fWqcOeO.net
「んー。もっと操縦に慣れないと」逃げながらララは歌うように言った。「二人が相手じゃとても敵わないと思う〜」
ハオはララが喋っている間は何も喋れなかったが、ララが言葉を止めたのでようやく喋れた。
「何? 何何何コレ!?」
「うるせー喋んなハオ號機!」
「ハ……ハオ號機!?」
「気分いいわ〜。自由サイコ〜」
「じ、自由!?」

611:創る名無しに見る名無し
18/12/30 05:32:16.55 /pWikotR.net
(うわああぁあああああっ、助けてくれぇッ!)
ハオは体の制御が効かない現象と、徐々に自分が自分ではなくなっていく感覚に恐怖を抱き、声にならない悲鳴をあげた。

612:創る名無しに見る名無し
18/12/30 06:48:19.24 oxo46bJJ.net
「思った通りだわ」ララが言った。
「何が?」ハオが聞いた。
「私達、相性抜群」
「そうかな」
「そうよ、だってハオさんの動きは格段に強くなったっぽく思うし」
「あ。素人目にもそれわかる?」
「それに私は難しい操作とかしなくても、ハオさんが格ゲーのキャラみたいに私をフォローして賢く動いてくれるし」
「なんか動いちゃうんだよね」
「何より押さえつけられてた日陰キャラ同士、怨念ぱわぁーが増幅よね」
「ごめん、俺、それはない」
「ハオさんがグズろうと主導権、私だし」
「うぅっ……」
「優しいだけだった私の白い『気』が、ハオさんと化学反応起こして青い『気』に変わったし。この子に『すべてを破壊する憂鬱』と名付けましょう」
「ううう……」
「それに……わかる?」
「わかってるよ」
「さっきからこの会話、口を使わずテレパシーでしてるのよ、私達!」
「頭の中で……声がする」
「あっ! お腹が空いた。お腹が空いたよ、私!」
「そりゃ昨夜から何も食べて……あれ。俺は空腹感じねぇ」
「感覚をどちらか一方が占有出来るみたい! 今まで私、食事はメイファンのをヴァーチャル体験出来るだけだったのに!」
「俺の口でメシ食っても、旨いって感じるのはララさんだけってこと!?」
「これからはララって呼ばないで」
「ぇ……」
「これからはララ・ラングレーと呼びなさい。あなたのパイロットよ」

613:創る名無しに見る名無し
18/12/30 08:01:26.92 01L5XKUk.net
ハオはバナナの皮を剥いて食べ始めた。

614:創る名無しに見る名無し
18/12/30 08:32:49.06 YwMWtqb9.net
いつになったら大恐慌編に行くのか

615:創る名無しに見る名無し
18/12/30 08:48:51.93 01L5XKUk.net
外ではトランプ大統領の「大恐慌」作戦が進行し中華を蝕んでいたが
安全な施設内にいる、ララとハオにとってはどうでも良かった。

616:創る名無しに見る名無し
18/12/30 11:42:50.12 h4prWkBw.net
「恐慌」って日本じゃ経済関係にしか使われないけど、中国語だと「パニック」みたいな意味だよね

617:創る名無しに見る名無し
18/12/30 17:31:22.72 WQL6GbTK.net
ララはハオと同化が進む度に淫靡な声を出すと同時に
ハオもまた麻薬のような快楽に襲われ
アへ顔を晒した。

618:創る名無しに見る名無し
18/12/30 18:41:03.55 YwMWtqb9.net
それがYouTubeにアップされたからさあ大変

619:創る名無しに見る名無し
18/12/30 19:08:10.97 3YJxU4dv.net
ララはお腹が空いた、お腹が空いたと繰り返し喜んだ。
「何か食べましょう、ハオさん」
「んなこと言ったって俺、金ねぇよ」
「お金がないならカードを使えばいいじゃない?」
「カードなんか持ってねぇし」
「何てことでしょう!」
「どーでもいいよ。俺は腹減ってねぇし」
「カードを持たない人間がいるなんて!?」
「社会的信用ねぇんだよ」
「ではピンちゃんにお願いするしかありませんね。ハオさん、スマホをお貸しなさい」
「お前が突然家出したから持って来てねぇよ」
「では……今夜はどこで寝ればよいのですか……?」

620:創る名無しに見る名無し
18/12/30 20:06:21.54 3YJxU4dv.net
「帰ればいいだろ」ハオは真っ当なことを言った。
「それは……」
「何意地張ってんだ?」
ララは暫く考え込み、キッと顔を上げると、ハオの身体もキッと上を向いた。
「とりあえずハオさん、ご飯を食べましょう!」
「だから金ねーって……」
「私達は『すべてを破壊する憂鬱』。破壊すればいいのですわ」
「は?」
「レストランへ入り、食事をし、社会秩序を破壊し、外へ出るのよ」
「あぁ……食い逃げ?」
「食い逃げという罪ですのね? では、レストランへ入り、食事をし、店主を殺し、外へ出るのは何と仰るの?」
「普通に殺人だろ」
「それをするのよ、お兄ちゃん」
「しねーよバカ」
「私達も殺し屋としての経験を積むの。メイから教えられたことを活かしてみなさい」
「殺し屋ってそんなセコい仕事じゃねーから!」
「いいからご飯屋さんに入るの! ほら!」
朝4時だった。西安の町は静まりかえっていた。たまーに労働者風のおじさんが歩いて通るぐらいで、マクドナルドすら開いていなかった。
しかし寺をライトアップする明かりに混じって、セブンイレブンの偽物のコンビニが開いているのが見えた。
「あそこに入って、お弁当とあったかい飲み物を買って、店員を殺して、出るの」
「そんなことで殺される店員さんが可哀想だろ!」
「やるのよ、ほら!」
ララがレバーを前に倒しながらAボタンを押すとハオは立ち上がり、コンビニへ向かって歩き出した。
「歓迎光臨(いらっしゃいませ)〜」黒縁眼鏡をかけたブサイクな20歳代の男の店員が一人、レジにいた。
ハオはまだ操縦され慣れないギクシャクとした動きで弁当と温かいお茶をなぜか2つずつ手に取ると、レジに差し出した。
「48元ね」
『殺すな! ララ! やめろ!』
身体の中で叫ぶハオを押さえつけてララは言った。
「フフフ……」
「? 48元よ。財布忘れたアルか?」
「体で払うわ!」
「ヒエーッ!?」
ララはハオのシャツを思い切り脱ぐと、自慢のフェロモンを大量発射した。男の乳首が店員を誘っていた。
「アイヤーーッ!!」
店員は思い切りカラーボールを投げつけて来た。ハオはひょいと避けた。
「お願い! お腹が空いてるの! お腹が空くって死にそうな気持ちなの! これで……これで」と言いながらララはハオのちんちんを見せた。「どうか!!」

621:創る名無しに見る名無し
18/12/30 20:35:07.42 bD+F6+w9.net
ハオのちんちんはララとの同化が進行していたため
女性器にちんちんが生えた奇妙な形状に変化している。
店員はそのあまりのグロさに嘔吐した。
「い、今のうちに・・・!」
ララはお金を払わずに弁当を店から持ち去った

622:創る名無しに見る名無し
18/12/30 20:35:57.65 bD+F6+w9.net
ハオのちんちんはララとの同化が進行していたため
女性器にちんちんが生えた奇妙な形状に変化している。
店員はそのあまりのグロさに嘔吐した。
「い、今のうちに・・・!」
ララはお金を払わずに弁当を店から持ち去った

623:創る名無しに見る名無し
18/12/30 21:40:11.75 3YJxU4dv.net
「ダメだよっ」ハオは弁当とお茶を元の棚に戻した。

624:創る名無しに見る名無し
18/12/30 21:46:37.12 3YJxU4dv.net
「ハオさん、ごめんなさい」ララは泣きべそをかいた。「ハオさんの大切なところを殿方の前にさらけ出してしまって……」
「いいよ」ハオはだんだん落ち着いて来た。
「しかも……あの方を……殺せなかった」
「安心したよ。ララが本当は狂ってなくて」
「そうでしょうか? 自分では十分狂ってると……」
「お腹が空きすぎておかしくなってただけだよ」
ララはハオの中でぽろぽろと泣きはじめた。
「私……お腹が空くというのがこんなにも辛くて絶望的なものだとは知らなかった……」
「お腹空いたことなかったの?」
「昔はあったんだと思う……。でも、いつからか、辛い感覚はメイファンが私から遮断するようになって……」
「辛い感覚?」
「うん。空腹とか、痛みとか、生理痛も……」
ハオはメイファンが全裸にナプキンだけつけてるとこなんか見た覚えがないけどな、と思いながら聞いた。
「あ、そうだ。そんなに辛いなら……」
「うん」
「その空腹、俺に預けちゃえよ」
「えっ」
「感覚をどちらかが占有出来るんだろ?」
「あっ……あぁっ! そうですね!」ララの声は元気を取り戻した。「私、お腹が空いた喜びに囚われて、つい占有してしまいました。えいっ!」
ハオは相当な空腹に襲われるのを覚悟していたが、やって来たのは『小腹が空いた』程度の感覚だった。
「凄まじく絶望的な空腹でしょう?」
「うん。これは凄い」
「えへへ。お兄ちゃんに押し付けてやった」

625:創る名無しに見る名無し
18/12/30 22:22:19.81 3YJxU4dv.net
「でも、何か食べないとお兄ちゃんが死んじゃう」
ララは笑ったり悲しんだり忙しかった。やっぱりちょっと狂っているのかもしれなかった。
「お兄ちゃん、タダでご飯食べられる方法って、何かないの?」
「7時まで待とう」ハオは言った。
「7時になったらどうなるの?」
「たぶん、施しがある」
「施しって……わっ、私を誰だと思っているの? 表向きとはいえ、国家主席習近平の娘が、シモジモの者から施しを受けるなど……っ!」
「そんなんじゃねーよ」ハオは静かに言った。「まぁ、待て」
やがて冬の遅い朝陽が昇りはじめ、公園には人々が集まりはじめた。
老いも若きも、男も女も集まってゆっくりと太極拳の套路を始めた。
「ララ、身体を自由にさせてくれ」
ハオがそう言うと、ララは操縦モードをオートに切り替えた。
ハオも集団に混じって套路をこなした。
ゆったりとした時間の流れに包まれて、ララはハオの中で眠ってしまった。
しかし何だかいい匂いに誘われて目を覚ますと、目の前に熱々のお粥と肉饅頭があった。ララは叫んだ。
「お兄ちゃん! ご飯だ!」
「この大恐慌の御時世だからね、太極拳に参加すれば施しが貰えるところ、多いんだ」
「すごーい! お兄ちゃん! ご飯だ!」
繰り返してからララは、すぐにお腹の感覚を自分が占有し、オートモードを解除して操縦桿を握り、お粥を口に運んだ。
口をはふはふ言わせながら熱々のお粥を口に運ぶ。胃に流れて行く熱が心地よかった。気持ち悪かった空腹がだんだんと満たされて行く。
肉饅頭を齧ると肉汁が迸り、おっとっとと断面を上に向けてもちこたえた。塩胡椒の効いた豚肉と筍の慈味が身体に染み込んで来た。
「お兄ちゃん、ご飯って美味しいねぇ」見えないララの笑顔がハオには見えるような気がした。
ハオには味も満腹感もまったく感じることが許されなかったが、まぁ、いいかと思った。
「お兄ちゃん、ご飯って美味しいねぇ」
そうぶつぶつ呟きながら物凄い笑顔で肉饅頭を食べるもうすぐ30歳の男を見ないフリをしながら参加者は皆引いて行った。

626:創る名無しに見る名無し
18/12/30 23:53:52.39 W9eA6iRI.net
ハオは思っていた「ララといる時の俺ってイケメンじゃね?」

627:創る名無しに見る名無し
18/12/31 06:19:38.23 f5Slofw4.net
ハオは体の異変に気がついていなかった。
それはおちんちんが消滅しつつあることだ。
なんだか声もおかしい、オカマ声ではなくララの声に近くなったような気がする

628:創る名無しに見る名無し
18/12/31 07:18:11.99 IDyfozoU.net
邵紅虎(シャオ・ホンフー)はまだ42歳だが、誰が見ても50歳過ぎぐらいに見える。
ボサボサの髪に無精髭、左目は赤くいつも充血しており、右目は大きな縦の傷で潰されていた。
彼は遠く西安で故郷の四川料理の店を開いているが、料理店主は表の顔、裏では様々なことをやっていた。
依頼されれば殺しもやる。とある地下倉庫では、彼がリーダーとなってほぼ何でもアリのファイティング・クラブを開催していた。
単に素人同士を喧嘩させることもあれば、裏の殺し屋同士が技を競い合うこともあり、結果的に死者が出ればシャオが後処理をする。
その仕事だけで彼の懐は潤っていたが、そのことを隠す表の職業として四川料理店主をやっているのである。
彼は10年近く前までは散打の選手であった。
しかもただの選手ではなく、散打王とまで呼ばれた強者だった。
当時鳴り物入りでデビューしたリウ・パイロンという若者の必殺技、超低空アッパーが顔をかすめ、左目を失い、選手生命を絶たれたのである。
シャオの並外れた反射神経がなければ片目を失うことなどなかった。並みの者ならアッパーは腕に当たり、弾かれたところをリウ・パイロンは掴み、投げて試合を決めていたことだろう。
しかし紙一重で避けようとしたがために、リウの炎を纏うような拳はシャオの左頬をかすめ、まるで火の玉が通過したように眼球含めそこらの肉を焼いたのである。

629:創る名無しに見る名無し
18/12/31 07:29:25.42 IDyfozoU.net
ララは街をハオに乗って歩きながらため息をついた。
「私、こんなに知らないことだらけだったのね」
「世間を楽しんだらお家に帰ろうぜ、お姫様」
ハオの言葉にララはむしろムキになった。
「何とかピンちゃんに連絡をとるわ。お金を何とかしてもらうの」
「オカマ声で電話するの?」
「とりあえずお兄ちゃんは何とかしてお金を稼ぎなさい。アルバイトとか……」
「大停電はいまだ続き、北京や天津のほうからこの西安にも職を失った難民が押し寄せてる。今はバイト先すら高き門だよ」
「そんなこと言ってお兄ちゃん、本当は働きたくないだけでしょうがっ」
「んなこたねーよ」
「とりあえずまた私、お腹が空いた」
「まだ11時だぞ」
「お腹が空いた。お腹が空いた。お腹が空いた」
「わかったよ」
「やっぱりレストランに入って、食事をした後、殺しましょう」
「嫌だよ」
「やるのよ! 私達は悪になるんだからっ!」
「聞いてねーよ」
「あっ。目の前にボロいお店がある! あそこなんか初殺しにピッタリじゃない!?」
ララはハオを操縦し、赤い看板のかかった薄汚い店へ入って行った。
看板には白い文字で『シャオ四川料理店』と書かれてあった。

630:創る名無しに見る名無し
18/12/31 08:07:31.74 IDyfozoU.net
「いらっしゃい」
ハオが入って来たのを見るとシャオは読んでいた新聞を置き、低い声で言った。
『あれ?』ハオがララの中で言った。『何か見たことあるような……』
『知人のフリしてもダメですよっ』ララが叱る。『食べて、笑顔になって、殺すの!』
ララはカウンター席に座るとハオの声で四川麻婆豆腐と鶏肉飯を注文した。
「お客さん、台湾の人?」とシャオが調理をしながら聞く。
「いいえ。甘粛よ。なぜ?」
するとシャオは少し不機嫌そうになり、黙ったかと思うと、キレたように答えた。
「喋り方が女みたいだからだろうが」
『お兄ちゃん、この人怖い』
『な? こんな怖い人殺せねーだろ?』
『怖いから殺そう』
『それよりこの人に頼み込んでここに住み込みで仕事させて貰うという手もあるけど……』
『やだ。こんな怖い人と一緒に住めない。殺そう』
『……この店に人手がいるとは思えないしな』
『ね? 殺そう?』
そんなこと言っといてララに人は殺せない、たぶん食い逃げすることになるんだろうなぁとハオは思っていた。
「食え」
シャオはそう言って麻婆豆腐と鶏肉飯を連続でハオの前に置いた。
「え?」
「なんだ」
「麻婆豆腐……注文したん……ですけどぉ」
「それが麻婆豆腐だ」
『ゲ、ハオさんが吐いたゲロではないの、これ!?』
おそるおそる一口食べてみる。
『まっず!』
赤唐辛子をふんだんに入れたハオのゲロの味がした。
鶏肉飯もぞうきんを浸した汁の味が濃く、ララはどんどん殺意を燃え上がらせた。

631:創る名無しに見る名無し
18/12/31 08:49:48.64 Rs7TC/B0.net
『なんだ?』シャオが睨んできた。『俺の料理が不味いとでも言いたげだな』
『いっ、いえ……あっ、そうだわ!』ララはいいことを思い付いた。
味覚をすべてハオに押し付け、自分は満腹感だけを味わった。
『糞まっず!』
嫌がるハオの口にはレンゲが無慈悲に運び続けられた。ハオの目にもシャオへの殺意か灯る。
「食ったか」シャオは言った。「食っちまったな?」
そして続けて言った「8000元(約12000円)だ」
ララとシャオは殺意の燃え上がる目で店主を睨んだ。

632:創る名無しに見る名無し
18/12/31 09:56:04.67 Rs7TC/B0.net
シャオ「あっごめん間違えた。約12円ね。払え」

633:創る名無しに見る名無し
18/12/31 10:14:42.65 TEqzuQ+s.net
ララとハオの感情がシンクロしたため
ララとハオの気の同化がより促進した。
ハオは発作的に湧き出る体の快感に
白目を剥き、目尻を下げ、口端を釣り上げ似ニタァとアへ顔をシャオに晒してしまった。
「ヒェッ!」
流石のシャオもその悍ましさに悲鳴をあげ、たじろいた。
なお、下半身の一部は既にララ(女性)化しつつあったが
ハオはまだ気が付いていない。

634:創る名無しに見る名無し
18/12/31 12:29:40.72 Rs7TC/B0.net
「俺としたことが計算も出来ねぇのか……」
シャオは目を覆った。
「正確には日本円に換算すると12万8千と4百円な。さぁ払って貰おうか」

635:創る名無しに見る名無し
18/12/31 12:47:25.70 0IrSFJmi.net
ハオ號機は軽い身のこなしでシャオ店員の手を躱すと そのまま外へ逃げ出した。
当然シャオも後を追う。
「待てーっ、食い逃げだーっ、誰かそいつを捕まえてくれー!」
シャオはハオ號機を追いかけながら叫んだ。

636:創る名無しに見る名無し
18/12/31 14:21:45.62 yALZNHS7.net
しかし、シャオに加勢する者は誰もいない

637:創る名無しに見る名無し
18/12/31 18:08:46.64 fdageKNZ.net
    / ̄ ̄ ̄ ̄ ̄\
   /  / ̄ ̄ ̄ ̄ |
   /  / ⌒  ⌒ | ほいさっ ほいさっ
  | /  (・)  (・) |
   (6      ⌒) / ̄/ ̄ ̄ ̄ ̄ヽ
   |   )  __ ∧λ/        ヽ      
   \    \_/ |/   ⌒  ⌒ |
     \____||||||||    (・)  (・) |
  /⌒  - -  |(6-------◯⌒ヽ―、
/ /|  。    。|| \   / ―┬‐i┘
\ \|    亠  \ \ ||  IIIIIIII| アヒィ!
  \⊇  /干\  |\   |___亅  
    |         | |   \__|_
   ( /⌒v⌒\__| |  ∨\__|  
パンパン|     丶/⌒ - - \
    / \    |  |     / |
    /  ノ\__|  |__三_ノ|  |
   /  /パンパン|  | ゚  ゚   |  |
  /__/     |  |      |  |
          ⊆ |     | ⊇

638:創る名無しに見る名無し
18/12/31 18:51:59.31 Rs7TC/B0.net
「ったく……何やってんだジンチンっ!」
シャオが叫ぶと同時にハオの前方に巨大な風船のようなハゲ頭の男が出現した。
「ジンチン! 塞げっ!」
ジンチンと呼ばれた男は「もわー」と欠伸をすると2倍に膨らみ、狭い路地を塞ぎ行き止まりにしてしまった。
ハオ号機は追い詰められた。
「てめぇジンチン! 店の出入口を塞いどけっつったろーが!」
「すいませーん兄貴。飴買いに行ってたんですいませーん」
ララはハオ号機を操縦し、パンチの連打をジンチンの腹に食らわした。しかしぶよぶよのお腹はその攻撃をすべて吸い込んでしまい、まったくダメージを与えられない。

639:創る名無しに見る名無し
18/12/31 19:44:20.22 WIr7Q0KF.net
シャオ「さぁ追い詰めたぜオカマ言葉のお兄さん」

640:創る名無しに見る名無し
18/12/31 19:46:27.93 WIr7Q0KF.net
シャオ「払えねーってのなら身体で払って貰うぜ?
男色専門の娼夫になるか、ゲイバーで働くか、臓器を売るか。選べ!」

641:創る名無しに見る名無し
18/12/31 20:32:52.84 se1nnDpO.net
そこへ紫色に塗装した110ccのホンダカブが突っ込んで来た。
乗っているのは紫色の髪をした黒いツナギの女だった。
「ズーラン!」シャオが女の名前を叫ぶ。「てめぇ!」
ズーランと呼ばれた女はアクセルターンでバイクを止めると、ハオに後ろに乗れと命じた。

642:創る名無しに見る名無し
18/12/31 21:36:13.61 WIr7Q0KF.net
その頃、スケベ魔人の皆さんは、

643:創る名無しに見る名無し
18/12/31 22:32:44.18 EzGeUSb1.net
メイファンの作る焼き肉の具材に大変身!

644:創る名無しに見る名無し
18/12/31 23:55:50.17 BJdREtyP.net
謎の女ズーランはハオを乗せて逃げ去るかと思いきや、500mほど走った石畳の橋の上でまたアクセルターンをし、ハオを振り落とした。

645:創る名無しに見る名無し
19/01/01 07:44:52.08 tA0Wtriz.net
ズーラン「新年快楽,豪(明けましておめでとう、ハオ)」

646:創る名無しに見る名無し
19/01/01 07:47:01.28 tA0Wtriz.net
ハオ「ズーラン……紫然(ズーラン)……。ズズ? ズズか!?」

647:創る名無しに見る名無し
19/01/01 07:48:12.61 tA0Wtriz.net
ズーランはハオの2つ年下の幼なじみであった。しかし会うのは11年ぶりになる。

648:創る名無しに見る名無し
19/01/01 07:50:15.82 tA0Wtriz.net
ハオは紫然(ズーラン)のことを親しみを込めて紫紫(ズズ)、ズズはハオのことを豪豪(ハオハオ)と呼ぶ間柄だった。

649:創る名無しに見る名無し
19/01/01 08:42:48.09 P9GAyYdG.net
「久しぶりね、ハオ。11年ぶりかしら」ズズは妖しく微笑んだ。
「一瞬わからなかった! すっかりいい女になったなぁ〜!」
「ハオは変わらないわね」
ズズは意味ありげに笑う。長い紫色に染めた髪が風にキラキラとなびく。口紅は真っ赤である。
胸は作りもののように巨きく黒い皮ツナギの前を膨らませ、引き締まったウェストに意外に小さなお尻。
『お尻だけは勝ったわ』ララは操縦席でお茶を飲みながら思っていた。
しかし広州のビルの屋上で聞いた話がララの頭の中でリピートされていた。ハオが素人童貞を卒業したのはシューフェンが相手だったはずだ。
ということは、この女性とは肉体関係がないか、あるいはこの女性がプロであるかだ。
しかし最後に会ったのは11年前だと言った。11年前、ハオさんは18歳? 目の前の女性は16歳だろうか?
16歳でプロだったとは、いくら中国でも考えにくい。
ララにはわかった。ハオさんは、意気地なしだったのだ。本当はすごくヤリたくてしょうかなかったのに、
意気地なしのまま童貞は卒業せず、高校を卒業してしまったのだ。
ララはハオの身体と同化することで、子供の頃からの夢がひとつ叶っていた。
昔からララは不思議でならなかった。なぜメイファンの身体には、おちんちんかないのかと。
習近平と一緒にお風呂に入る時、彼の身体の真ん中についているものが自分にはついていないのを見て、自分(メイファン)には本来あるべきはずのものが欠けていると思った。
10歳になった頃、自分は『女』なのだとようやく意識するようになり、カタワの自意識は薄れたが、
しかし11歳でリウ・パイロンにレイプされた時、恐怖と絶望とともに激しく感じたものがある。それは男根への憧れであった。
自分を容赦なく突き刺す暴力的権力的な棒力に、なぜこの恐ろしい力が自分にはないのだろう? と悔しかった。心が張り裂けるほどに悔しかった。
その力の象徴が今、自分の身体についている。早く誰もいないところへ行ってそれを思い切り触り、握り、何かに入れてみたかった。
『ハオさん』
『ん?』
『この人をレイプしましょう』
『は!? 今度は何を……』
『意気地なしのハオさんの思いを叶えてあげるの! おちんぽも喜ぶわ!』
ララは操縦桿を握った。ハオの身体がロボットのようにピシリと不自然に固まる。
「あら? ハオ、あなた……」ズズは目を細め、怪訝そうにハオの一挙一動を見る。
ハオはがしゃんガシャンと音を立てるようにズズへ向かって手を前に出しながら歩き出した。
ズズが急いでバイクのエンジンをかけ直す。
『やめろっ! ララ! ズズは……』
『ひゃっほうレイプでララも童卒〜』
『男なんだ!』
『おっとこおとこぉ〜……え。男!?』

650:創る名無しに見る名無し
19/01/01 09:05:28.04 P9GAyYdG.net
ハオがガス欠したように動きを止めると、ズズはバイクのエンジンをまた止め、ハオの目を覗き込みながら言った。
「何かに取り憑かれているわね?」
そして前カゴにあったパールホワイトのハンドバッグに手を突っ込むと、片手いっぱいの塩を握り出し、投げつけて来た。
「悪霊、退散!」
「『ぎゃあ〜っ!』塩を投げつけられたララはナメクジのごとく小さくなり……ってそんなわけないでしょバシッ!」ララはハオの中でツッコんだ。
「退散したか?」ズズは緊張した顔で聞く。
「あ、うん。すっかりいなくなった」
ズズはほっと胸を撫で下ろした。
「趣味で退魔をやっていてよかった……」
「趣味でタイマ!?」
「ハオは相変わらずエロい顔してるわね」
「うん。あ! ところであのオッサン……追いかけて来ないな? あんまり離れてないのに」
「ええ。シャオの縄張りを出たからね」
「へぇ〜」
「ここからはあたしの縄張りよ」
「え! ズズってボスなの!?」
「まぁそんなもん」ズズはバイクのエンジンをかけ、言った。「あたしの家に来てよ。ハオのことだからどうせプー太郎でしょ?」

651:創る名無しに見る名無し
19/01/01 10:38:03.89 06grf6Ty.net
しかし、早くララを追いださなければ
ハオのちんちんは消滅してしまうのだが
ララもハオもまだ気が付いていない。

652:創る名無しに見る名無し
19/01/01 13:37:17.20 RLkBOwtJ.net
ズズの部屋は意外と地味だった。
白や赤やピンクや水色で溢れ、芸能人のポスターが部屋中の壁

653:創る名無しに見る名無し
19/01/01 13:57:29.62 RLkBOwtJ.net
ズズの部屋は意外と地味だった。
白や赤やピンクや水色で溢れ、芸能人のポスターが部屋の壁中を埋め尽くしているメイファンの部屋を見慣れているララにはまるでオッサンの部屋に見えた。
ベッドと小さなテーブル、ソファー、ドレッサー、冷蔵庫、それとTVの他にはほぼ何もない。木の床に白い壁、木の扉。テーブルの上にはガラスの灰皿が置いてあるだけだ。
ズズは冷蔵庫から缶コーラを2本出すと、1本をハオに渡した。
「ようやく二人きりになれたわね、ハオちゃん」
ズズはそう言うと意味ありげに笑った。
「なんなら暫くここに泊まってもいいのよ? 宿泊代はその逞しい体でいいわ」
「げっ」ハオは思わずコーラを少し噴いた。
「可愛い。昔とちっとも変わらないわ」
「あのっ!」ララが喋り出した。「おちんちん、ついてるんですか?」
「まだ取ってないのよね」ズズは自分の股間をまさぐりながら言った。「タマは取ったわ」
ララは言葉を失った。ハオがまた喋り出す。
「やめろ俺は女の子が好きなんだ」
ララは言葉を失いながらも興味は津々だった。タマのないおちんぽってどんなもの? 入れる穴がないのは残念だけど、こんな綺麗な人なら見てみたい、ちんちんチャンバラを。
「ねぇ、ハオ」ズズは色っぽい目で言った。「あなたの口はやめろって言う。でも、あなたの身体はやろうって言ってるわ」
ハオの身体はやる気マンマンにズボンの前を膨らませ、ズズをまっすぐに見つめながらゆっくりと接近していた。
「私、どっちを信じたらいいのかしら」

654:創る名無しに見る名無し
19/01/01 16:40:01.27 uWKRrAX1.net
「冗談よ」そう言ってズズはハオを両手で押し返した。「ハオなんか相手にするわけないでしょ気持ち悪い」
「ええっ? じゃあせめて、おちんぽ見せろよぉ」ララはハオの真似をした。「タマなしおちんぽ見せろよぉ」
「でもよくあのシャオの店から逃げ出せたわねぇ」
「あのひとこわかったぁ……」
「シャオのことはハオならよく知ってるだろうけど、あの用心棒のジンチンがまた厄介なのよ」
ズズは細い煙草を取り出すと、火を点けた。
「あんなアホみたいな顔してめっちゃ強いのよ。地下ファイトで1万元まで上がってる」
「地下ファイト?」ハオが聞いた。
「シャオが主催者でね、地下倉庫で賭けファイトをやってるのよ」
「金が貰えるのか?」
「相手の強さによって対素人1元(約16円)〜対王者1万2千元。王者はもちろんシャオよ」
「ふーん」
「ハオも出てみる?」
「いや興味ねーし、帰ってぃやいや相当興味ありますそれ! 出る! 出る! 出てみたい!」
「……どっちなのよ」
『ララっ! 俺は帰ってシューフェンの葬式に出なけりゃいけないんだっ!』
『出なくていいじゃん! お兄ちゃん関係ないじゃん!』
『関係ないことないだろ!』
『だって取られたじゃん! お兄ちゃんのじゃないじゃん!』
『でも最後に……』
『最後にシューフェンお姉ちゃん看取ったのリウ・パイロンじゃん!』
ハオは何も言えなくなってしまった。
「急に黙り込んで一点を見つめ出して……何よ」ズズは不気味そうにハオを見る。
「出ます」ララは言った。「どうしたらいいですか?」

655:創る名無しに見る名無し
19/01/01 16:52:18.20 uWKRrAX1.net
「まずは変装ね」ズズは言った。「シャオの奴、執念深いのよ。アンタだと知ったら何が何でも今日の食事代、払わせるわ」
「変装かぁ」ララは言った。「ちょっとやってみる」
「やってみる?」
「ちょっとお化粧室貸してくださいね」
「どうでもいいけど、アンタ、あたしの言葉遣い、うつった?」
ララはハオを操縦して化粧室の鏡の前へ行くと、自分の姿をまじまじと見た。
まじまじと見るまでもなく見慣れたハオの姿だった。
「まだ、やってみてなかったのよね」
「え?」ハオは意味がわからず聞いた。
「メイと身体を入れ替わった時、全然違う姿に変身したでしょう?」
「えっ」ハオは何だか嫌な予感がした。「まさか……」
「ハオさんの身体でララになったら……どうなるかな」
「嫌な予感がする! キモい予感がする! やめてくれ!」
「女っぽくなって、弱くなっちゃうのかなぁ」
「うぁぁぁ何か見たくない! 目を瞑らせてくれ! 無理か! いやぁぁぁ!」
「えいっ!」

656:創る名無しに見る名無し
19/01/01 18:38:04.86 uWKRrAX1.net
「ォェェェェ……」
「ォェェェェ……」
二人分のゲロを吐きながらハオは戻って来た。
「どっ、どうしたの?」ズズが驚く。
「ダメだわ。あれはダメ……」ララはこの後しばらく後遺症に悩まされることになる。
「やっぱり普通に変装するしかなさそうね」

657:創る名無しに見る名無し
19/01/01 22:34:44.07 fr2Duuuw.net
街外れの地下倉庫にハオはやって来た。
案内役はズーランの舎弟でジェイという20歳のイケメンだ。
鉄の階段を降り、重い扉を開けるともう100人を超える人で賑わっていた。
周りには酒や料理を売る屋台がいくつか並び、様々な客層が取り囲む中心には金網が設けられていた。
ジェイが説明する。
「あの金網の中でファイトすんねん。ファイターは素人からプロまでピンキリや」
「方言きついな。出身どこ?」
「東京や」
「日本人!?」
「ファイターは勝てば相手の強さに応じたファイトマネーが貰える。相手がプロなら勝てる見込みは少ないけど勝てばガッポガッポや。
逆に素人なら勝ちやすいけど、勝っても1元ぐらいしか貰えへん。まぁ、それでもやる価値はあるからな」
「価値?」
「観客はどっちが勝つか賭ける。ファイターも自分にのみ賭けることが出来る。対戦相手に賭けることは出来んルールや。
自分に大金賭けて、頑張って勝てば、何倍、何百倍になるからウハウハや」
「へぇ……でも……」
「もちろん八百長は多い。ごっつ多い。半分ぐらいは八百長ちゃうか?
仲間に相手に賭けさせといてわざと負ける。おまけに対戦相手もグルやから痛い目にも遭わん。ま、やり過ぎるとシャオに目ェつけられるけど」
「なるほどね」
「そのシャオでも八百長はよくやる。素人相手にわざと負けたりする。相手のオッズがごっつぅ高くなっとると、儲け時やからな。
まぁ、賭けにならんほどシャオが強すぎるゆーのもある。これから行われる試合がガチか八百長か予想するのもこのゲームの楽しみ方や」
「あ、一戦目が始まるな」
金網の中にヘッドギアとグローブをつけた二人のオッサンが入った。どう見ても二人とも素人だ。
ゴングが鳴ると、二人とも猫のように相手を威嚇しはじめる。
「コノヤローッ!」
「ざけんじゃねーぞッ!」
「部長が何だボケのくせによー!」
「俺はお前の宿主じゃねーよ寄生虫がッ!」
ハオは少し呆れながらそれを眺める。
「明らかに目の前の相手に対する威嚇じゃねーな……」
「たぶん、ハゲのオッサンは会社の部長、ヒゲのオッサンは奥さん相手やね」
ハゲが仕掛けた。腰を引かせながらおっかなびっくりのパンチで様子を窺う。
ヒゲは必要以上にビビり、足で追っ払おうとする。
こんな試合でも観客は大盛り上がりだ。
「ハゲー! お前に70元賭けてんだー! かませー!」
「ヒゲー! 負けやがったら賭けた80元返して貰うからな!」
「ストレス解消でファイトに参加してる奴も多いの?」ハオが聞く。
「ま、素人はほとんどやね」ジェイは答えた。「こんな風に誰かと思い切り殴り合える機会なんてなかなかないしね」
ハゲが大振りのフックっぽいパンチを放つ。ヒゲはビビりまくって足を滑らせ倒れた。そのうえにハゲが馬乗りになる。
「あちゃー。ルールちゃんと聞いとんのかいな」ジェイが目を覆った。
金網の外からレフェリーがハゲの反則負けを言い渡した。
「倒れた相手への攻撃はすべて禁止や。特に馬乗りは一発負け」
「メモメモ」
「まぁ、基本的に散打ルールやと思っとったらええわ」
「ほう」ハオはちょっと乗って来た。「散打王を目指す俺様に相応しい舞台だな」

658:創る名無しに見る名無し
19/01/01 22:45:42.73 lsSTaPzA.net
「にしてもメイファンとかいうちょっと微妙な見た目の子、最近見ないな」
とジェイが話題を振ってみる

659:創る名無しに見る名無し
19/01/01 22:47:59.98 fr2Duuuw.net
「ま、参加登録しとこ。こっちへ」
ジェイについて行くと試合参加窓口があった。対戦相手はお任せにすることも、指名することも出来るようだった。
「えーと対戦相手にジンチンを指名したい」
「いきなりそいつぁ出来ねーよ」
狭い窓口の向こうをよく見るとシャオ・ホンフー当人が受付をしていた。片目でギロリと睨んで来る。
『大丈夫だ、俺の変装は完璧だ』
「初めてだろ? まずランクの低い奴とデビュー戦済ませてからじゃねぇと高ランクとの試合はやらせねぇ」
「あ、そうなの?」
「なんかそのマヌケな喋り方、聞き覚えあんなァ……」
「あああののの。じゃあ、お任せで」

660:創る名無しに見る名無し
19/01/01 23:09:51.27 fr2Duuuw.net
4戦目、ハオのデビュー戦がやって来た。
「はいはい皆さん静粛に騒げー」シャオの舎弟の『爆発頭』がマイクを持つ。「4戦目、こいつが最後の素人バトルだー」
スキンヘッドのいかつい体格をした対戦相手が金網に入った。
「皆さんご存知、最強の素人ー! 本業は日雇い労働者、殺人チョップの柳! 雲平〜!(リウ・ユンピン)」
柳はリウ・パイロンの真似なのか、グローブを頭の上で何度も打ち鳴らした。
「はい、御愁傷様〜。対戦者は本日デビューのマスクマン、その名も……ブルー・リー〜〜〜!」
青い仮面をつけ、青いハンチング帽を被ったハオが金網に入る。面倒臭いので登場アクションは何もやらなかった。
「ハオはん、負けられまへんで」ジェイが呟く。「っていうかパンチ一発でも貰たら仮面も帽子も取れて、シャオにバレバレやでぇ」

661:創る名無しに見る名無し
19/01/01 23:13:57.00 fr2Duuuw.net
『お兄ちゃん、合体後の初ファイトだねっ』ララがウキウキした声で言う。
『おう、しっかり操縦してくれよ』
『任しときっ!』ララは張り切って操縦桿を握りしめた。
ハオの全身を青い『気』が包み込む。
果たしてそれが見えた者が会場内に一人でもいたであろうか?

662:創る名無しに見る名無し
19/01/01 23:38:21.29 fr2Duuuw.net
「お兄さん、マスクマンとは珍しいね」柳が言った。「何か顔出しできないワケが?」
「まーね。本当はすっぽり被れるマスクとかあればよかったんたけど」
ゴングが鳴った。
「ズズの部屋にこれしかなくて……。仮面舞踏会みたいなヤツ。まだストッキングでも被って来たほうが……あっ」
ハオはいつの間にか柳にタックルされ、腰を掴まれていた。
「ちょっとタンマ。お喋り中に攻撃して来るなんて卑怯だよぅ」
柳がハオを持ち上げる。
「ララ、ごめん。床に叩きつけられて終わりだわ、これアッハッハ」
柳がハオを床に叩きつける。
しかしハオは柔らかく身体をしならせると、床に手をつき、相手の力を利用して足で柳の身体を逆に投げ飛ばした。
「ぐへぇっ!?」
予想外の一発KOに会場はしんとなり、とうやらハオに賭けていたらしい女の子が喜んで騒ぐ声だけが響いた。
「万馬券出たかな?」ハオはしんとする会場へピースサインで応えた。「返し技、捌きのことならこのリー様にお任せ〜」

663:創る名無しに見る名無し
19/01/01 23:44:09.03 fr2Duuuw.net
「ほらよ、ファイトマネーは2000元(約3万2千円)だ」
窓口に行くとシャオから直接金が渡された。
「なかなかいいファイトだったぜぇ」
「じゃあ、続けてジンチンと……」
「1日複数ファイトはやらせてねぇ。また明日、来な」

664:創る名無しに見る名無し
19/01/02 06:00:55.69 FNnmSrxg.net
「あれ、お前さっきあわなかった?」

665:創る名無しに見る名無し
19/01/02 06:54:46.98 GXqQe+kP.net
続いてプロが舞台に上がる。
現役格闘家、軍人、不良警察官、そして殺し屋などである。

666:創る名無しに見る名無し
19/01/02 15:24:06.86 EnR0ALhx.net
「プロとか言っても2流3流ばっかだなぁ」
ハオは次々と出て来る怪しげな武術家や格闘家の試合をネギ餅を食べなから観戦した。
「しかもジェイの言う通り半分ぐらい八百長だな」
少林寺の拳士みたいな格好をした男が波動拳みたいなのを放つと、いかにも私殺し屋ですみたいなオッサンが吹っ飛ばされる。
しかしそういうインチキ臭い試合ほど観客は喜び、沸き上がった。
「さて」ジェイが言った。「メイン・イベントやでぇ」
金網の中にデブが入る。爆発頭がマイクを持つ。
「お待たせしましたぁ〜! 最強のデブ、ぶよぶよ戦士、このアホ面に騙されるな! 永遠のNo.2ファイター、ヤォバイ・ジンチン〜〜〜!」
「フルネームそんななんだ?」ハオは呟いた。
「ボクら日本人には『ヤバいちんちん』にしか聞こえへんですわ」ジェイが告白した。
「本日の可哀想な挑戦者はこのジジイだ! 飲めば飲むほど強くなる! 酔拳使いの老いぼれヒットマン、福山酒鬼(フーシャン・ジョウグェイ)〜〜〜!」
赤いマスクをつけた老人がおどけた踊りを躍りながら現れ、金網の中に入った。
「あれ?」ハオが驚く。「あれって、ジャン・ウーじゃ……?」
「ウーちゃんだー」ララが認める。「頑張れー」
「あのジジイ、メイファンが殺さなかったっけ?」
「ウーちゃんはそういう人なの。死んだと思ってたらいつの間にかまた一緒にご飯食べてる、みたいな」
ゴングが鳴った。
まずはジャン・ウーが腰につけた徳利の酒を飲む。それを眺めながらジンチンはポケットからベビースターラーメンを取り出し、口に流し込んだ。
「ふざけたメイン・イベントだな」ハオが不機嫌そうに言った。
酔っ払った足取りでジャンは相手の攻撃を待つ。ジンチンはぐるぐる飴を取り出し、舐めはじめる。
観客は大いに沸き上がった。
「これによく沸き上がれるな……」ハオはイライラしはじめた。
仕方ないという風にジャンは懐からウィスキーの小瓶を取り出し、あおる。負けじとジンチンは懐から2lペットボトルのコーラを取り出し、あおる。
「帰ろう……」ハオは上着を着ると、立ち上がった。
するとジャン・ウーが仕掛けた。ハイヨーと叫ぶとドラゴン・キックでジンチンの頭めがけて突進する。
しかし立っていると誰もが思っていたジンチンは実は座っていた。立ち上がったジンチンの胸にキックはめり込み、ジャン・ウーの姿はジンチンの体内にずっぽりと飲み込まれた。
「ぅぉー」
やる気のない掛け声とともにジンチンは前へ倒れ、ボディープレスを仕掛ける。
どぱーんという波のような音とともにジャン・ウーは潰れた。そのままジンチンは寝続け、やがてレフェリーがジンチンの勝利を告げた。
「は? ダウンした相手にのしかかるの、反則じゃ……?」
「ダウンした相手にボディープレスはあきまへんけど」ジェイが解説する。「ボディープレスで押し潰した相手にのしかかり続けるのは反則やありまへん」
「うーん……」ハオは少し悩んだ。「ま、俺がアレに負けることはないから、いいか」

667:創る名無しに見る名無し
19/01/02 15:34:49.32 EnR0ALhx.net
「おい、お前」と背後から声を掛けられ、ハオが振り向くとそこにシャオ・ホンフーが立っていた。
ハオがビビって逃げようとすると首根っこを掴まれた。
「ななななんですかー?」
「明日、アレに挑戦するんだろ?」
「ははははい、そのつもりですが……」
「じゃあ明日、18時までに来い。話しとくことがある」
「わわわわかりました」
シャオは片目でニヤリと笑うと、低い声をさらに低くして、言った。「待ってるぜぇ」

668:創る名無しに見る名無し
19/01/02 16:32:55.43 lLGb1eaL.net
その夜、ハオは夢を見た。
ララが自分の身体から抜け出て、夜なべをして何か縫い物をしていた。

669:創る名無しに見る名無し
19/01/02 17:41:46.95 9JqXY8wl.net
死の腹巻である。
とある要人を倒し、彼が持つ鍵(解毒剤)を入手し呪いを解除しないともれなく死が訪れると言う品物なのだ。
タイムリミットはわずか1週間、どうする!?

670:創る名無しに見る名無し
19/01/02 18:18:56.35 EnR0ALhx.net
そんな夢から朝目覚めると、枕元に青いマスクが置いてあった。顔をすっぽり覆えるタイプだ。
「ララ……作ってくれたのか?」
ハオは聞いたが、ララはぐっすり眠っていた。
手に取り、よく見ると、目だけが出せるように綺麗に裁縫されており、鼻と口の部分には息苦しくないように薄いメッシュの布が当ててあった。
額にはパステルカラーで『豪(ハオ)』の一文字が刺繍されている。
「……これは……ちょっとなぁ……」

671:創る名無しに見る名無し
19/01/02 20:40:29.37 +xR6pcRm.net
これはアザといwww

672:創る名無しに見る名無し
19/01/02 20:59:41.88 RSm9Gcxt.net
朝7時、ハオはまた昨日の公園にやって来た。
太極拳の套路を集まった皆で行い、終了後、食べ物を貰うのだ。
体操太極拳と違い、正しい型を正しい順序で行う伝統的な套路ゆえ、食べ物目当てのホームレスなどは来ない。
鳩も集う公園で、ハオはゆっくりと皆と同じ動きをする。
「やっぱりここのご飯が一番美味しいね」
ララは笑顔でモォー(中華バーガー)にかぶりついた。
「ララ、マスク、ありがとな」ハオは味覚も満腹中枢もララに全部預け、言った。
「いいってことよー」ララは肉汁を啜りながら答える。「あれ被って頑張って」
「ただ……」
「あの額の刺繍が一番苦労したんだよー」ララは得意そうに言った。
「あの額の刺繍は……」
「カッコいいでしょー? 自慢したくなるでしょー?」
「なんか……何て言うか……正体バレそうで怖いっていうか……」
「え」
「……」
「文句あるわけ?」
「……いえ。有り難くキン豪(ハオ)マンやらせていただきます」

673:創る名無しに見る名無し
19/01/02 21:33:27.23 RSm9Gcxt.net
本当は『施設』に帰ってシューフェンの葬儀に出席したいのに……そう考えながらハオがズーランの部屋へ帰ると、ズーランはまだ眠っていた。
そういえば昨夜帰った時、まだ仕事から帰ってなかったっけ。1時に寝たけど、何時に帰ったんだろう?
っていうかズズの仕事って何?
そう思っていると、ハオの気配でズーランは目を覚ました。
「おはよう、ハオ。早いのね」
寝起きのズーランは綺麗な顔をしているが、やはりスッピンだと男である。しかし寝間着はセクシーな紫色のランジェリーだった。
「朝ご飯、食べた?」
「うん。もうララと食べたよ」
「……ララって誰」
「ああ……。犬、犬。昨日知り合った野良犬」
「相変わらず動物の友達だけは多いのね」
ズーランは昨夜仕事帰りに買っておいたらしいサンドイッチを出すと、コーヒーを入れ、食べはじめた。
「アンタのも買ってあるけど、食べる?」
「おう」
二人はテーブルを挟んで黙々とサンドイッチを食べた。東向きの窓から爽やかな冬の陽射しが差し込んで来る。
「昨日何時に帰ったの?」ハオが聞く。
「朝の4時半だったかしら」
「何の仕事してんの?」
「歌手よ」
「歌手!?」
「夜のお店で歌ってんの。自分のお店でね」
「……え。男の歌?」
「歌姫に決まってんだろ」ちょっと男らしい喋り方になった。
「歌オネェじゃねーの……?」
「ハオも今度聞きに来なさいよ。失礼な口を黙らせてあげる」
「ファンとか多いの?」
「本当に失礼な幼なじみね」ズーランは思い出したように言った。「そうそう、口止めしとくわ」
「口止め?」
「アタシの元の性別のこと知ってるの、アンタだけなの」
「元とか言うな、サオあるくせに」
「舎弟も敵対勢力も、皆アタシのこと女だと思ってる」
「バラし甲斐があるな」
「バラしたら殺すわよ」ズーランは本気の目をしてハオを睨んだ。「アタシが女だからこそ今の力関係が保たれてるんだから」
「力関係?」
「特にシャオのところ。武力でいえばウチはシャオ一家にはとても敵わないわ。シャオとジンチン二人で簡単に全滅出来るわね」
「お前がルックス基準で舎弟選んでるからじゃね?」
「そう。だけど、それでもシャオがちゃんと縄張りを守って攻めて来ないのは、なぜだと思う?」
「まさか……」
「惚れさせてんのよ」ズーランは男の顔で色っぽくウインクをした。「こんなにいい女、滅多にいないもんね」

674:創る名無しに見る名無し
19/01/02 22:06:42.24 RSm9Gcxt.net
「操縦訓練、開始しまーす」
ララの掛け声とともにハオはロボットのようになる。
人通りの疎らな寺院の裏のひっそりした庭で、ララは操縦桿を引きながらボタンを連打した。
「誰が犬だーーー!」
ハオの身体は千切れるような動きを繰り出す。
「痛い痛い! 無理無理それムリ!」
「キャハハハ面白ーい!」
ハオは脚を高く振り上げながらもう片方の脚で回し蹴りをしながら掌打をキメた。
「おかしいおかしい! こんなの人間の動きじゃねぇ!」
中断して二人はバナナを食べながらミーティングを始める。
「ララさん」ハオが不機嫌そうに言った。「武術の経験はおありで?」
「うーん。格ゲーならそこそこ」
「言っとくけど俺、波動拳も昇龍拳も出せないから」ハオは釘を刺した。「パワーゲイザーもレイジングストームも無理だから」
「浮かせてからのコンボとかは?」
「あーのね……」ハオは頭を抱えた。「ララいないほうが俺、強い気がする」
「リウ・パイロンに勝てるほど?」
「うっ」
「ラン・メイファンに勝てる?」
「あいつらホラ、大怪獣みたいなもんだから……」
「メイが言ってたよ。ハオさんは素質は凄いけど、やる気、気力ゼロだって」
「そんなことはない」
「3分で最強になれる方法があるなら欲しい?」
「そりゃー欲しい!」
「ダメじゃん」
「何がダメなんだ??」
「とりあえず……初心に戻ろう」
「初心?」
「あたしがハオさんの身体を乗っ取ったのは、あたしに強い『気』があって、でも強い肉体がなくて……」
「あっ。そう言えば俺、ララに肉体乗っ取られたんだなぁ。ハハ……」
「あたしはハオさんの身体が欲しかったの」
「なんかイヤらしい言い方だな……」
「あたしの『気』の力と怨念パワーが、ハオさんの肉体に宿れば、最強の怨念戦士が産まれるはずだった……」
「ハハハ、そうなの?」
「なのに何よ、コレ!? どうやったら怨念戦士になれるの!?」
「ならなくてもいいと思うよ〜」
「あたしの怨念が弱まってるの? ハオさんに流されてあたしまでのほほんになっちゃってるの? いけない! このままじゃいけない!」
「まぁ、いいからバナナ食べようよ」
「キシャァーッ!」ララは吠えた。「まずは今夜あのデブ血祭りに上げて殺戮ショーの始まりじゃー!」
「ハハハ。元気がいい妹だなぁ」


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