リレー小説「中国大恐慌」 at MITEMITE
[2ch|▼Menu]
[前50を表示]
550:創る名無しに見る名無し
18/12/26 06:49:16.99 ceHNa2ux.net
超人オリンピックも終わり彼らも所々に散っていった。
そして師走。私が見たものは!?
学校の旧校舎にある裏山に大きな風穴が出現した。
巨大な穴からは夥しい瘴気が放たれていてとても近づけない
ギギ…ガガ…キー
突如、不快な金属音のようなものが鳴り響き私は耳を手で覆った。
「な、何なんだ、これは…」

551:創る名無しに見る名無し
18/12/26 16:38:05.36 xLIYasjn.net
ドナルド・トランプは食堂でチャイニーズ・セットAを食べていた。
「このエビチリソース旨いぞコラ」
傍らにはアメリカが誇るS級工作員グリーン・スネークが立っている。
「スネークよ、お前はブラック・ナイトメアを仕留め損ねたコラ」
「申し訳ありません、プレジデント」
「しかし、でかした。お前が持って帰ったものは素晴らしい土産だコラ」
スネークは得意げにニヤリと笑った。
トランプはテーブルに並べた3枚の写真を眺める。その2枚には黒色悪夢ことラン・メイファンの姿がはっきりと写っていた。
「しかし音に聞こえたブラック・ナイトメアがまさかこんな……」トランプは顔のアップ写真を手に持った。「可愛いなコラ!!」
「しかし女の匂いのまったくしない女で……」とスネークは言いたかったが、余計なことは言わず黙っていた。
「しかしこんなカワイコちゃんが本当にそんなに強いのかコラ?」
「そっ、それはもう……」あの二人のバトルを思い出してスネークはガクガクと震え出した。「バケモン並みに」
「で、もう1枚の写真は誰なんだコラ?」
トランプは残る1枚の写真を手に取った。そこにはロングフックを放つリウ・パイロンの姿が写っていた。
「正体はわかりませんが黒色悪夢と闘っていたメカゴリラみたいな男です。こいつも恐ろしく強く……」
スネークは思い出し、ズボンの前をちょっと濡らした。
「ふーん。さすが中国、何が棲んでるやらわからん原始の森みたいなところだねぇ」
そう言いながらトランプはしばらく赤いトランクス姿のリウの写真を見ていたが、やがて激怒するように叩きつけた。
「男の裸に興味はないんだコラ!」
「HAHAHA ! 」スネークが愛想笑いをした。
「しかしこれで黒色悪夢を確実に消せるな。早速アレの準備をしろコラ」
「はっ! ところでメカゴリラのほうはどういたしましょう?」
「お前が脅威を感じて写真を持って来るぐらいだからそいつも十分危険人物だ。殺しておけ」
「はっ!」
そしてトランプは瓶から直接コカ・コーラをぐびぐび飲むとキメ台詞をキメた。
「スカッと爽やかコカ・コーラだコラ!」

552:創る名無しに見る名無し
18/12/26 17:08:55.50 RN5nK2DT.net
しかしそこへヒラリーがやって来てこう言った、

553:創る名無しに見る名無し
18/12/26 17:15:24.91 JenpUNnz.net
「コイツ、ほんとに大統領?」

554:創る名無しに見る名無し
18/12/26 17:58:09.69 RN5nK2DT.net
ほんとにニセモノだった。

555:創る名無しに見る名無し
18/12/26 21:11:06.12 IiwP6cQE.net
本物のトランプ大統領は飯など食っている場合ではないほど多忙だった。

556:創る名無しに見る名無し
18/12/26 21:52:54.39 xLIYasjn.net
ハオは持ち前の恐ろしいまでのプラス思考をふんだんに用いて立ち直った。
「シューフェンが癌だって? ……」
ハオは暫く考え込んでから、言った。
「癌は治る病気です! って言うよね?」
「シューフェンがリウ・パイロンと出来たって? ……」
ハオは何かを思い出しながら、言った。
「だからそれ、デマだってばw」
「俺はリウ・パイロンに負けた……。それは事実だ」
ハオはその時のことを思い出しながら、言った。
「でも俺って『これからの人』だろぉ?」
「『これからの人間』が一番恐ろしいんだぜぇ?」
ハオは一月一日が誕生日であり、もうすぐ30歳であった。
「何かを始めるのに『早い、遅い』なんてない!」
一部の天才のみに当て嵌める真理であった。
「うるさいな『地の文』! お前だって$」
ハオは地の文が深く傷つく言葉を並べ立てた。
「さぁ〜! ……ってことで、これから何しよっかなぁ〜」
ふと気がつくと施設内には人の気配がなかった。
メイファンも今朝どこかへ出掛けて行った。
「あれ?」ハオはひとりごちた。「これって逃げれるじゃん?」
しかしお金が一銭もなかった。
メイファンの部屋を漁ろうと思ったが鍵がかかっていた。
習近平の部屋に入ろうとしたらセキュリティ・アラームが鳴り出した。
「うーん?」
自分の部屋のTVでも質屋に売ろうかと思ったが面倒臭かった。
「寝るか?」
ベッドに寝転んだところで枕元の自分のスマホに気がついた。

557:創る名無しに見る名無し
18/12/26 23:06:27.79 xLIYasjn.net
ハオはスマホを持って外へ出た。
玄関先程度ではまだ検閲プログラムの圏内であるらしく、メールを送信しても帰って来た。
スマホを持ってどんどん歩いた。『施設』がどんどん小さくなり、やがて見えなくなった。
住宅街を抜け、市場を抜け、古都西安の由緒ある町並みに足を踏み入れた時、ようやくスマホが何かを受信した。
ウィーチャット(中国のLINE)のメッセージ受信画面に「樹芬(シューフェン)」の白い文字がピンク色のハートマークとともに表示されていた。
「やったぞ!」
浮かれ気分でそれを開こうとすると、またシューフェンからのメッセージが入って来た。
「あっ?」
次々と入って来た。止まらなかった。
ハオはそのいつ終わるかわからない連続受信を、鳩の群がる公園で、うきうきしながらずっと見つめていた。
「な? やっぱりシューフェンは俺の彼女だろ?」
153件目を最後に受信ラッシュは止まった。ハオは始めから読み始める。
最初のほうは「生きてる?」「無事?」「どこにいるの?」等、短いメッセージばかりだったが、
毎日必ず一通ずつ送信されており、ハオはそれらを恥ずかしいほどの笑顔で隅々まで読んだ。
やがてシューフェンが女優になれるチャンスを掴んだ頃から長文の報告メッセージが多くなった。
『ハオ、聞いて聞いて〜!(絵文字)凄いことがあったのよ!(絵文字)何だと思う?(絵文字)ヒントは(ツイ・ホーク)。そして(映画)。最後に(主演女優)。
これだけで分かったらアンタのこと逆に(え。本当はデキる奴だったの!?)って怖くなるわ……(青ざめた絵文字)』
ハオはハハハと口に出して笑いながら読んだ。
しかし映画の撮影が始まってからメッセージは3日に一通程度にペースが落ちる。
「忙しかったんだなぁ。しょーがねぇよな、許す!」
それが3ヶ月前からは2ヶ月以上に渡って一通も届いていなかった。
「……」
しかしこの10日以内になると、5通も届いていた。ハオは喜んでそれを読む。
『潰れそう』
『ロンがね、側にいてくれないの。(ずっと側にいる)って言ってくれたくせに』
『ハオでもいいから側にいて欲しい』
『最近、ハオとのこと、よく思い出すよ。ハオはあたしが一番落ち着ける場所だったね』
それが二日前。
そして一番新しいメッセージは、今日だった。
『ロンと結婚します』
「は?」
ハオは最後のメッセージを何度も何度も読んだが、意味が取れなかった。
「は? は?」
思わずシューフェンに電話をかけた。
呼び出し音が鳴る。相手は出ない。
ドキドキしながらハオは直立不動で待った。
7ベル目で繋がった。「……もし……もし?」
電話の向こうで女の声が言った。
「やかましいわ、このカスが!!!」
「は? は? シュー……誰?」
「師匠の声もわからんのか。糞弟子」
「メイファン!? なんで!?」
「今、シューフェンは麻酔が効いて眠っている」
「な……なっ!? 今度はシューフェンに何をするつもりだ!? 解剖か!?」
「アホ。頭の爆弾これから取り除くんだよ。今、西安は○○街の海亀歯科にいる。シューフェンに会いたけりゃ、来い」

558:創る名無しに見る名無し
18/12/26 23:39:03.39 xLIYasjn.net
「リー・チンハオからか」
手術衣を着たリウが言った。
「あぁ、ここに来るかも知れん」
同じく手術衣姿のメイファンが準備を始める。
手術台には髪を上で束ねられたシューフェンが仰向けに寝ている。
「どんな奴だか見てみたくはあった」
「本当に見るのか?」
「? 見たらいけないのか?」
「いや、手術を」
「あぁ」リウは少しイラッとした顔をしてから言った。「ちゃんと除去するのを見届けたいからな」
「脳味噌でるぞ?」
「自分のを見たことがあるぐらいだから大丈夫だ」
「そうか」
と言いながらメイファンは猿の玩具のシンバルを指で挟み、回転させるとちょうど歯医者さんの使うドリルのようにキュンキュン音が鳴りはじめた。
それをシューフェンの頭に緊張感も何もなく当てると、スイスイと肉が切れた。リウが少し「うっ」と言った。
「立ち会い出産でインポになる旦那、多いそうだぞ」メイファンが手術を進めながら言った。「インポにはなるなよ?」
パカッとシューフェンの頭が蓋のように取れ、鮮やかな色の脳味噌が露になった。
リウはなにやら興奮しているようだった。
メイファンは左側側頭葉に貼り付いている小さな黒いセロファンテープのようなものをペロリと取ると、すぐに蓋をかぶせ、白い手を当てた。
「終ーわりっ」
わずか1分もかからず手術は終了した。
血の1滴も出なければ傷跡もまったく残らなかった。
リウはマスクを外した。ハァハァ言っていた。

559:創る名無しに見る名無し
18/12/27 05:13:35.49 5AnEyMlF.net
虚勢をはって、前向きになっていたハオもあの一文には耐えられず
うつむきその場にペタりと座り込んでしまった。

560:創る名無しに見る名無し
18/12/27 06:28:59.88 Qrxyx0At.net
「オーマイガッ」
ハオはその声を聞くと顔を上げた。
あたりを見渡すと通行人たちが
「オーマイガッ」と叫んでいる。
「・・・なんだこれ」
ハオは不気味に感じその場を立ち去るために走り出した。

561:創る名無しに見る名無し
18/12/27 14:17:25.93 fpIUUBUu.net
「メイ、ララ、ありがとう」
そう言うとリウは頭を深く下げた。
「ララなんて人間はいないんじゃなかったのかよ」
メイファンがその頭を踏みつけながら笑った。
「いや、認めるよ」リウはメイファンの足を掴もうとしたが、逃げられた。「考えたらお前は何でもアリだからな」
「今さら認められてもな……なぁ、ララ?」
ララは何も答えなかった。
「ララ?」
最近ララはなぜかとても物静かだった。いつものお喋りララがどこかへ行ってしまっていた。
ララの沈黙の意味を何となく読み取ってメイファンは言った。
「言っとくがな、リウ・パイロン。お前のために手術したんじゃねーからな」
「わかってるよ。愛弟子のためだろ」
「そうだっけ?」
「そうだろ」
「うーん。考えたらよくわからなくなった。何のために爆弾除去したんだっけ。わからんから、戻すか」
「殴るぞ」
メイファンはケラケラと笑った。
「ところでお前、俺のことリウ・パイロンなんてフルネームで呼ぶのやめろ」
「じゃあ『メカゴリラ』でいいか?」
「昔みたいにまた『お兄さん』って呼べよ」
「そんな呼び方をした記憶はないな」
「じゃあ何て呼んだ?」
「『お兄ちゃん』だろ」
「よし、呼んだな?」リウは満足そうにニヤリと笑った。
「……糞くだらねー」
「もっと呼んでくれ」
「馴れ合おうとすんな」メイファンは厳しい口調で言った。「私達とお前は敵同士なんだ。今日別れ、明日もしまた出会ったなら殺し合いをする……」
「そうか。なら言いにくいな」
「な、何をだ」
「お願いがあるんだが」
「言ってみろ」
「無理だと思うが」
「いいから言ってみろ」
「お前のいる『施設』に暫くシューフェンと住ませて欲しいんだ。無理を言うようだが」
「うん、いいよ」
「俺は恐らく警察から指名手配されている。爆発物秘匿か何かの罪でな。だから暫くの間隠れ場所が欲しいんだ」
「だから、いいってば」
「『施設』なら警察の手は届かんし、俺もお前がいればトレーニングには困らんし、何よりシューフェンが最高の医療を受けられる」
「わかったから、来いよ」
「……なんて、お前の都合も考えない勝手なお願い……やっぱり無理だよな?」
「聞こえててわざと言ってるだろ!!」
リウは瞑っていた目を開くと悪戯っぽく笑ってから両手を前で合わせてお辞儀をし、感謝の意を示した。
「メイ」メイファンの口からララの声がした。「説教部屋へ行って」
「ここ海亀先生の病院だぞ」メイファンはそう言いながらも歩き出した。「喫煙室でいいか?」

562:創る名無しに見る名無し
18/12/27 14:56:32.95 fpIUUBUu.net
ハオは結局、海亀歯科へやって来た。
複雑そうな顔で看板を見上げ、呟いた。
「歯の癌なんてあるのか……?」
玄関から入るとまず喫煙室があった。中から何やらぶりぶりと激しい音が聞こえて来る。
「こんな所でうんこしているのか……?」
ハオは正体不明の非現実感に包まれていた。
スリッパを履き、中へ進むと手術室があった。誰もいない。
自分でもなぜだかわからないがハオは足音を殺していた。泥棒のように廊下を進むと入院室みたいな部屋があり、ドアが半分開いていた。
ゆっくり覗くとベッドに身を起こして笑顔のシューフェンがいた。
「本当に何か手術を受けたなんて思えないほど普通な感じよ?」と誰かに向かって喋った。
「麻酔がまだ残っているから動いちゃダメだぞ」
傍らでリウ・パイロンが林檎を剥いているのがようやく目に入った。
「林檎は身体を温めるんだ。どうぞ」そう言ってリウは切った林檎を口に咥えると、シューフェンへ差し出した。
「ありがと、王子様」そう言うとシューフェンは口で林檎を受け取り、二人はそのままキスをした。
ハオは目の前が真っ暗になり、その場に倒れかけた。
しかし何とか気を持ち直すと、帰ろうかその場に踏み込んで行こうか迷いはじめた。
そんな挙動不審な男を見つけて言葉を失っているリウに気づき、シューフェンは入口のほうを見た。
幽霊みたいにフラフラしているその男を見、暫く声を失っていたが、男が帰ろうとしたので急いで声をかけた。
「ハオ?」

563:創る名無しに見る名無し
18/12/27 15:08:53.39 fpIUUBUu.net
ハオが嫌そうに振り向くと、シューフェンはハオの「オ」の形のまま固まった口をして、目を猫のように丸くしてこちらを見ていた。
ハオは顔の大きい猫に見つかった弱い猫のように、シューフェンと目を合わせないようにしながら何やらぶつぶつ言った。
シューフェンが立ち上がり、ハオに目を釘付けにしたまま近づいて来るのがわかった。
すぐ側まで来たシューフェンに向き直り、ハオは「シューフェン! 会いたかった!」と泣き顔で叫んでハグをしようとした。
ハオの左頬にシューフェンのパンチが入った。ハオは床に叩きつけられた。
「シュっ、シューフェン……?」
「どんだけ心配したと思ってんのよ馬鹿ハオ!!!」

564:創る名無しに見る名無し
18/12/27 15:15:14.11 fpIUUBUu.net
「どこほっつき歩いてたのよ! 連絡もしないで!」
シューフェンは鬼の形相だった。
「その……。電波の検閲が……」
「言い訳すんな! 電話したら出ろ!」
「出れねぇし、お前上海で……」
「死んだと思ってたろ! 人を無駄に悲しますな!」
「え……。悲し……?」
シューフェンはぽろぽろと涙をこぼしはじめると、膝をついてハオに抱きついた。
「よかったよ〜! 生きててよかったよ〜」

565:創る名無しに見る名無し
18/12/27 15:19:58.80 fpIUUBUu.net
リウはあっけにとられてその様子を見ていた。
やがて口を挟める間が空くと、そこにボケをかました。
「あの……え? 弟さん?」
シューフェンは涙を拭きながら振り返ると、言った。
「私の大切な男的朋友(男友達)なの」
「違います」ハオはシューフェンを抱き締めながら訂正した。「どうも。シューフェンの男朋友(彼氏)のリー・チンハオです」

566:創る名無しに見る名無し
18/12/27 15:56:39.91 fpIUUBUu.net
リウはハオのセリフを無視してシューフェンをベッドへ戻した。
「動いちゃ駄目だって言ったろ。ほら林檎」
シューフェンはスプーンに刺さった林檎を受け取ると、ハオに言った。
「ハオも林檎食べる? ロンが剥いてくれた林檎、美味しいのよ」
「剥く人関係ねーだろ……」ハオは立ち上がった。
それを見てリウも立ち上がり、ハオに向かって姿勢を正すと、言った。
「初めましてリー・チンハオ。リウ・パイロンだ。君に会えてとても嬉しく思うよ」
リウがハオと会うのは実はこれが3回目であったが、リウはまったく覚えていなかった。
ハオはまずシャツにサインして貰うと、言った。
「シューフェン……お前、癌なんだって? 嘘だよな?」
「ハオ……。ロンに挨拶を……」
「嘘だよな?」
諦めた顔をしてシューフェンは答えた。「本当よ」
ハオは口をパクパクさせたが言葉が出て来なかった。
「膵臓癌なの」シューフェンは優しく微笑むと、言った。「膵臓癌はね、一番自覚症状のない癌なんだって。だから発見も遅れたんだけど、苦しみも今のところ少ないの」
「嘘つけ!!」ハオは怒鳴った。
「本当なのよ」
「嘘つけ!! だって>>108に肺癌だって書いてあるぞ!? いつの間に膵臓癌に変わったんだ!? テキトーなこと言ってんじゃねぇ!!」
ハオはそう言って涙を流しながら激怒した。
シューフェンもリウも何を言って話を続けたらいいやらわからなくなってしまった。

567:創る名無しに見る名無し
18/12/27 16:02:54.03 fpIUUBUu.net
とりあえずハオはリウ・パイロンに自分とシューフェンの仲を見せつけてやりたかった。
何をしたらいいか考えるまでもなくハオは動いた。
シューフェンがスプーンに刺して持っている林檎に近づくと、反対側を齧った。
「あ。食べる? じゃあお皿……」
そう言って皿を取ろうとしているシューフェンに向かって、咥えた林檎を差し出した。
「ひゅーふぇん、ほら、キスしよ」

568:創る名無しに見る名無し
18/12/27 16:14:01.41 fpIUUBUu.net
「ごめんね、ハオ」
そう言って優しく微笑んだシューフェンは美しかった。最近ずっと使用しているグラビアそのままの眩しさがそこにあった。
「私とロン、結婚するのよ」
ハオの脳裏に幸せだった恋人ととの日々が走馬灯のように流れた。あの恋人は今、もうどこにもいなかった。
「本当にごめん」
そう言って頭を下げたシューフェンのつむじが見えた。いつもベッドで抱き締め、くりくり弄っていたつむじだ。もうそれをくりくりすることは永遠に出来ないのだった。
「うわあぁあぁあぁあ!!」
そう叫ぶとハオは病院を走り出た。
走って、走って、疲れて止まった。
燃え殻のような夕陽が世界を包み込んだ。
西安に海はない。しかしハオの心はシューフェンと暮らした上海の海にいた。
ハオは膝を抱いてうずくまると、シューフェンの好きなデヴィッド・タオの懐かしいヒット曲を心を込めて口ずさんだ。

569:創る名無しに見る名無し
18/12/27 16:32:54.23 fpIUUBUu.net
URLリンク(youtu.be)
「沙灘(砂浜)」 日本語訳:リー・チンハオ
誰もいない この砂浜
風が吹き抜ける 冷たい海岸
僕は靴の砂を軽く払い 足跡を振り返る
一人きりだ 一歩一歩が なんて寂しいんだ
海は緑が多く見え 空は青を多く含む
あの愛の物語は 無念を多く含む
未知の世界のように 海と空の間に遊び
最も深い場所にたどり着いた
するとまた君が現れる そして僕は既に 棄てられていた
僕は波音を聞く 優しい息吹
僕は雲を見る どこへ流れて行く
方法はあるのだろうか 本当に君を忘れられる そんな方法が
Only Blue Only Blue
愛は人を憂鬱にさせる
僕の心は 僕の心は 真っ青だ……
僕は心から探している 一艘の船を
この砂浜から遠く離れて行ける 一艘の船を
いつも戻って来てしまう 同じような海辺に
また君への未練に浸ってしまう
想い出す君は 少しブルー
いやしないんだ! 君みたいになれる人なんて!
君が残して行ったものは 少しのブルー

570:創る名無しに見る名無し
18/12/27 18:20:48.76 MBaNrYG/.net
ハオはもう永遠にシューフェンには会えないのだと思った。
しかしその日のうちに、シューフェンとリウ・パイロンが『施設』に引っ越して来た。
しかも部屋はハオの部屋の隣だった。

571:創る名無しに見る名無し
18/12/27 20:08:53.50 +SmJaRt0.net
「ありがとう。お世話になるよ」
「メイファンちゃん、よろしくね」
二人は簡単な荷物だけを下げて引っ越して来た。
「遠慮せずに何でも好きに使ってくれ」
メイファンは目をキラキラさせて迎えた。
何しろ大好きな女優リー・シューフェンが自分の家に住むのだ。これ以上嬉しいことはそうそうない。
そしてそのそれ以上に嬉しいこととして、大大大好きななお兄……メイファンはぶるぶると首を振って今考えかけたことを吹き飛ばした。
しかし迎えに出たのはメイファンただ一人だった。主の習近平も、メイドやコックも、ハオも姿を現さない。
なんだか自分の嬉しさと反比例する現場の寂しさに、メイファンは提案した。
「なんなら友達も呼んでいいぞ」

572:創る名無しに見る名無し
18/12/27 20:44:04.40 +SmJaRt0.net
ハオは行くあてもなく、自分の部屋に戻っていた。
ドアに鍵をかけてずっと引き籠っていると、夜遅くになって誰かがドアをノックした。
『シュ……シューフェン?』
そう思って暫く見ていると、ドアの壁が柔らかく溶けはじめ、白い手が沼の底からせり上がって来るように現れ、ノブを掴むと回し、鍵を外した。
いつもよりも真っ白なララが入って来た。
白いネグリジェを着て、いつもの笑顔が消えた幽霊のような顔をして、光の加減からか髪の毛まで白く見えた。
「お兄ちゃん、可哀想」
ララは囁くような声で言った。
「ララも、可哀想」
意味のよくわからないことを呟くと布団の中に潜り込んで来て、すぐ目の前に顔を出した。そして言う。
「ずっと泣いてたのね? こんなに鼻や目の下が赤く擦り切れるほど……」
そう言うララも赤い目をしていた。
「ねぇ、慰めてあげる。エッチしよう」
そう言うとララは寝転んだままネグリジェを脱ぎはじめた。
「あいつらに聞こえるぐらいの声を出してあげる」
「そんな気分じゃない。ほっといてくれ」ハオはララに背中を向ける。
「可哀想なひと……」ララはその背中に白い手を当てた。「一緒に寝るのは構わない?」
ハオは何も答えない。
暫く間を置いてララが言った。
「私、どうしてお兄ちゃんに……ハオさんに引かれるのかわかった気がする。私は似た者同士なのよ」
ハオが鼻を啜った。
「他人にいいようにされて、押さえつけられて……自分の言い分は聞いて貰えなくて、良い人呼ばわりされることで納得させられて……」
ハオはまた鼻を啜った。
「ハオさんも怨念が溜まっているでしょう?」
「怨念なんかねーよ」
「またそんな風に自分を良い人にして納得しようとする」
「怨念なんかどこにおんねん」
「いつか……私の力を貸してあげるわ」
ハオは寝たフリを始めた。
「ハオさんのカンフーの才、私の強大な『気』……。私は自分自身が『気』だからなのか、それをうまく使えないけど。ハオさんが使ってくれれば……」
ララはハオの背中に額をつけた。
「きっと素敵な怨念戦士が生まれるわ」
そしてハオの中に空いた穴を探した。シューフェンを失った悲しみで心は穴ぼこだらけだった。まるで穴だらけのチーズのように、固い心に丸い穴がいくつも空いていた。ララは思った、
『あそこ……もう少し穴が広がれば……入れそう』

573:創る名無しに見る名無し
18/12/27 21:20:46.40 +SmJaRt0.net
朝、メイファンが勢いよく目を開くとハオの背中があった。
何か気になって自分の身体を見ると、やたらヒラヒラのついた白いネグリジェを着ていた。
「なんじゃ、こりゃ……」
記憶を辿る。昨夜は確か、シューフェンを交えてリウと酒を飲み、酔い潰れて自分の部屋で寝たはずだった。
「ああ……」メイファンは納得した。「ララか」
しかし寝た時の格好は虎の着ぐるみのはずだった。ララが着替えたにしても、こんな服は持っていた覚えがない。
「ああ……」メイファンは納得した。「習近平の趣味か」
気持ち悪っ! と一気に脱ぎ捨て、全裸でハオの隣にまた寝転ぶ。
暫く全裸でシーツとハオの尻の感触を楽しんでいたが、やがて気が済むとハオの背中に思い切り正拳突きを喰らわせた。
「ぎゃあーーーっ!!!」
「起きろ。メシ食って迎え酒して特訓だ」
「……行かない」
「いつまでも泣きベソかいてんじゃねぇ! 死ね!」
そう言うとハオの背中に五段突きを喰らわせた。
「はぅあぅあぅあ……! ……」
ハオは脊椎を骨折してその日の特訓を休んだ。

574:創る名無しに見る名無し
18/12/28 04:18:00.17 fGOESS1y.net
「ララちゃんっ、明日の夜は空けておいてねっ」
お茶を持って来たララに習近平が踊りながら言った。
「え。何があるの? ピンちゃん」
「またまたぁ〜トボケちゃってぇ〜明日は恋人達のピンクな夜、クリトリスイボ……じゃなくてクリスマスイヴだろぉ?」
「えー! だって中国、クリスマス禁止じゃん」
「誰がそんなこと言ったんだ」
「アンタじゃん!」
「いいんだ。庶民はクリスマス禁止。僕らはクリトリス満喫でいいんだ。国家主席の私が許す」
「独裁者だなぁ」
「その通りだもんっ!」
「でも、たぶん今夜起こることで明日はそれどころじゃないと思うよ〜?」
「今夜? 今夜何が起こると言うんだね?」
「んー……」
「?」
「ヒ・ミ・ツ」明らかにララの下手な物真似をするメイファンの声が言った。
「おのれメイファン〜! またワシらのスイート・タイムの邪魔をしよるか!」

575:創る名無しに見る名無し
18/12/28 04:21:17.53 fGOESS1y.net
「ごめんね、ニーハオ」
そう言って優しく微笑んだオーフェンは美しかった。最近ずっと使用しているビニ本そのままの眩しさがそこにあった。
「私とタンロン、結婚するのよ」
ニーハオの脳裏に幸せだった恋人ととの日々が走馬灯のように流れた。あの恋人は今、もうどこにもいなかった。
「本当にごめん」
そう言って頭を下げたオーフェンのつむじが見えた。いつもベッドで抱き締め、くりくり弄っていたつむじだ。もうそれをくりくりすることは永遠に出来ないのだった。
「うわあぁあぁあぁあ!!」
そう叫ぶとニーハオは病院を走り出た。
走って、走って、疲れて止まった。
燃え殻のような夕陽が世界を包み込んだ。
西安に海はない。しかしニーハオの心はオーフェンと暮らした上海の海にいた。
ニーハオは膝を抱いてうずくまると、シューフェンの好きなデヴィッド・ボウイの懐かしいヒット曲を心を込めて口ずさんだ。

576:創る名無しに見る名無し
18/12/28 04:45:37.92 EQhi8ll7.net
オナラ・デ・ニーロは持ち前の恐ろしいまでの試行錯誤をふんだんに用いて立ち直った。
「チャカ・カーンが癌だって? ……」
イギー・ポップは暫く考え込んでから、言った。
「痔は治る病気です! って言うよね?」
「フィル・コリンズがシャン・パイロンと出来たって? ……」
ビリー・ニョエルは何かを思い出しながら、言った。
「だからそれ、デマン湖だってばw」
「俺はブルース・リョーに負けた……。それは事実だ」
ロッキーはその時のことを思い出しながら、言った。
「でも俺って『これからの人』だろぉ?」
「『人間の証明』が一番恐ろしいんだぜぇ?」
三沢光晴は一月一日が誕生日であり、もうすぐ60歳であった。
「何かを始めるのに『高い、安い』なんてない!」
一部の奇才のみに当て嵌める真理であった。
「うるさいな『ウルグアイ』! お前だって雄松崎!」
ヌーノは地の文が深く傷つく言葉を並べ立てた。
「アイゴ〜! ……ってことで、これから何しよっかなぁ〜」
ふと気がつくと施設内には人の気配がなかった。
ジョニー・ロットンも今朝どこかへ出掛けて行った。
「あれ?」クレーン・ユウはひとり手マンだ。「これって逃げれるじゃん?」
しかしお金が一銭もなかった。
前澤社長の部屋を漁ろうと思ったが鍵がかかっていた。
前科モンの部屋に入ろうとしたらセキュリティ・アラームが鳴り出した。
「うふーん?」
自分の部屋のメガドライブでも質屋に売ろうかと思ったが面倒臭かった。
「寝るか?」
ベッドに寝転んだところで枕元の自分のエロトピアに気がついた。

577:創る名無しに見る名無し
18/12/28 09:00:23.76 QX3RqS+w.net
メイファンは白いチャイナ服に着替え、道場に立った。
向かい側に立つのはいつものハオではなく、かつての一番弟子リウ・パイロンだ。
「楽しいなぁ」メイファンは牙を見せて笑った。「また本気で遊べる」
「棒は勘弁だが」リウが言う。「トンファーぐらいなら持っても構わんぞ」
「バカ言うな。人殺しにはなりたくない」
「お前が武器を持たんと俺の圧勝すぎてつまらんだろ」
メイファンはとても楽しそうに眉間に皺を寄せ、青筋をビキビキと立てて猫のように笑った。
「ではよろしくお願いします」リウが手を合わせ、一礼した。「礼!」
「れ〜」メイファンはテキトーに言うと、『気』を全開にさせた。
「なんでかな」メイファンは頬にバンドエイドを貼りながら言った。「これで3連敗だ」
「判定ならお前の勝ちだった」目の回りの青く腫れ上がったリウが言った。「お前はマウントを取られると弱すぎる」
「まさか散打にマウントがあるとは思わなかったもんでな」
「ルールの縛りがあったらデタラメなお前には絶対に勝てんだろ」
メイファンは急に緊張を声に走らせて言った。
「リウ・パイロン。お前、ここに引っ越して正解だったぞ」
「急に何だ?」
「習近平の諜報部員から報告があった。アメリカに私の情報が漏れたそうだ」
「何だと?」
「いつ私をピンポイントで狙ってミサイルが降って来るかもわからん」
「そんなもん、お前なら捌けるんじゃないのか」
「私は『気』を持たない物に対しては無力だ。『気』も察知出来ないほど遠くから狙撃されても何も出来ん」
「何てことだ……」
「それでな、なぜだか知らんがお前までターゲットに入っているらしい」
「俺がか」
「お前の上にもいつピンポイントでミサイルが降って来るかもわからん。気をつけろ」
「確かにそれは気をつけろと言われてもどうしようもないな」
「だが、ここにいるうちは安全だ。ミサイルが飛んで来れば探知出来るし、窓はすべて防弾になっている」
「なるほど」
「半径20km以内なら厳重警戒されているから外でも安全だが、それでもなるべく外はうろつくな」
「わかった、ありがとう」
「取り乱さないんだな」
「取り乱したってしょうがないだろ。お前の情報には間違いがないしな」
「『なんで俺まで!?』とか騒がないのかよ」
「お前が『なぜだか知らんが』と言った以上、理由なんか聞いても誰も答えちゃくれないだろ」
「正論だ」
「シューフェンには黙っていてくれ」
「言わないのか? ある日突然お前の上からミサイルが降って来て、笑顔で振り向いたシューフェンの目の前でお前が消えたら何て説明するんだ?」
「そのシューフェンの笑顔を消したくない」
「ふーん。なんか、矛盾してるな?」
「矛盾?」
「お前はそれに似たようなことをしたあの人を怒ったんじゃないのか」
リウは暫く胸に手を当てて考えた。だんだんとシューフェンが癌のことを自分に黙っていた気持ちがわかりはじめる。
「あぁ……そうか」リウは小さく呟いた。「シューフェン、俺を悲しませたくなかったんだな」

578:創る名無しに見る名無し
18/12/28 10:29:43.75 QX3RqS+w.net
円形の卓に豪華な朝食が並べられた。
席に着いたのは実質六人の五人。
主の習近平、娘のメイファンとララ、訓練生のハオ、そして客人のリウとシューフェンであった。
「お初にお目にかかります。国家主席の習近平です」
「初めまして。女優をやっておりますリ……シン・シューフェンと申します。お会い出来て光栄ですわ」
死期の近づいたシューフェンは大抵のびっくりするようなことは平然と受け入れるようになっていた。目の前に国家主席がいてもまったく平然としている。
「いつもTVで狂おしく拝見していますよ」習は粘っこい笑顔で言った。
「お久しぶりです」と、リウも挨拶した。
「お前にはこの間会っただろ」習は無視して言った。「さぁ開動了。食べよう食べよう」
「シューフェン、身体の調子は?」リウが鴨のステーキを切り分けながら言った。
「とてもいいの」シューフェンは微笑んだ。「昨日、メイファンちゃんが手を当ててくれてから……というか実は10日ぐらい前からずっと」
メイファンは子豚の丸焼きを喰いながら聞いていた。
「本当に最近調子がいいの。治っちゃったかな? って思うぐらいよ」
「それ、手を当てて治療してるの、実は私じゃねーんだ」メイファンが言った。「私の姉ちゃんのララなんだ。私の中に住んでる」
「ララ、姿を見せてくれ」リウが優しく言った。
「……」メイファンは丸焼きを皿に戻して準備したが、ララは出て来ない。「……ララ?」
「メイファンが死んでずっとララちゃんになればいいのに」習近平が杜仲茶を飲みながら言った。
「そうなって習近平もあっという間に暗殺されてしまえばいいのにな」メイファンはそう言うとまた呼び掛けた。「ララ? 寝てるのか?」
シューフェンは口の中の鴨をゆっくり噛みながら笑顔に疑問符を乗せて待っている。
「ハオ」メイファンはハオを見た。「お前が呼んでみろ」
ハオはひどく泣き腫らした顔をしてオムレツを食べていた。皆がハオのほうを見たが、シューフェンは一人だけ目を逸らした。
「ララ」ハオは鼻声で呼んだ。
するとすぐに白いトレーナーの上の黒いメイファンの顔が白くなりはじめ、猫のようだった目はタヌキのようなタレ目に変わった。
身体は少し大きくなり、がさつな髪の毛は繊細に柔らかくなり、何の悩みもなさそうだった表情が固くこわばり、助けを求めるようにハオを見つめた。
「まぁ」
死期が近づいて大抵のことにはびっくりしなくなっているシューフェンが少しだけ驚いたような声を上げた。
「自己紹介しろ、ララ」メイファンの声がララの唇を動かした。
「……ララです。お姉さんの癌だけは、絶対に治します」ララはシューフェンをまっすぐ見つめ、静かな口調でそう言った。
「治せるのか?」メイファンの声が言った。
「治せは……しないけど」
「嘘は言うな」
「……ごめんなさい」
「ララちゃん、よろしくね」
シューフェンがそう言って微笑むと、ララはようやく笑顔を浮かべた。
「どうか、僕からもよろしく頼むよ」
リウがそう言うとまた笑顔が消え、頑なな表情になった。
「最近調子がいいのはララちゃんのおかげだったのね」シューフェンがララを見つめる。「ありがとう」
ララはにっこりと笑って答えた。
「シューフェンお姉さんの痛みを取るのが私の仕事です。お姉さんはハオさんの大好きな人だから」
シューフェンは複雑そうな顔をして笑顔が固まった。
ハオが立ち上がり、顔を押さえて走って出て行った。
「ハオさんを傷つけた人でもあるけど、私はお姉さんのこと大好き。怨念はすべて別のほうへ向いています」
優しい笑顔でそう言うララにリウが言った、
「よくわからんが……。ララ、心から感謝している」
「ガアッ!」それがララのリウに対して向けた初めての言葉であった。「オマエのためじゃない! オマエのためじゃないぞ!」
メイファンはララの中で困っていた。ララがどんな表情をしているのか、さっぱり想像もつかなかった。

579:創る名無しに見る名無し
18/12/28 11:00:19.95 QX3RqS+w.net
次の日、『施設』に四人の客がやって来た。
映画監督ツイ・ホーク、同じく有名な映画監督であるチャウ・チンシー、俳優であり世界の格闘王でもあるケン・リュックマン、
そして世界トップのメイクアップ・アーティストであるジョアンナ・ポンの四人であった。
四人は明日施設内で執り行われるリウ・パイロンとシン・シューフェンの結婚式に招かれ、前日から泊まり込みでやって来たのだった。
本当はもっと多くの招待状を出したのだったが、習近平の護衛が有名人以外の入場を許さなかった。
一気に二人の周りは賑やかになり、メイファンはすこぶる機嫌がよさそうだった。

580:創る名無しに見る名無し
18/12/28 11:15:24.98 QX3RqS+w.net
シューフェンのララによる昼の治療が終わると、一同はテーブルを並べ、お茶会を始めた。
ララは窓辺に立ち、それを眺めていた。
窓を見ないようにしながら、『気』を動かさないようにしながら、窓をゆっくりと開ける。
メイファンはララの『気』だけはうまく読めない。そこに殺気があっても気づくことは出来なかった。
窓の外にはビルがあり、その屋上からリウ・パイロンが丸見えの位置に立っていた。
防弾ガラスさえ開ければ、そして屋上にいる狙撃手の腕前さえ確かなら……。
しかし屋上に狙撃手はいなかったようだ。
やがてジョアンナが窓が開いていることに気づき、ララを見ながら言った。
「寒いっ! 寒いんだけど!?」
ララはわざとらしいほどにうろたえてキョロキョロすると、
「あっ。ごめんなさい。開いていました」と微笑み、窓を閉めた。
その向こうでリウがなぜか少し悲しそうにララを見ている。
「おい」メイファンの声がララに言った。「本当に『開いていた』のか?」

581:創る名無しに見る名無し
18/12/28 11:47:41.88 QX3RqS+w.net
ララはハオの部屋に入った。ハオはまたベッドに突っ伏して泣いていた。
ララは何も言わずに隣に座り、机の上からペンと便箋を手に取ると、文字を書き、自分の目には決して見せないようにしてハオに見せた。
ハオはそれを涙目で読んだ。
『シューフェンお姉さんはハオさんのもの』と書いてあった。
「おい」メイファンの声がした。「何を書いてる? 見えん」
さらにララは便箋に文字を書き、ハオに見せた。
『明日になったら完全にハオさんのものじゃなくなってしまう』
ハオは読みながら何も言わなかった。
ララはさらに書き、少し怖い顔をしてハオに見せた。
『リウ・パイロンを殺してシューフェンお姉さんを奪うの』
メイファンが出て来そうになった。ララは苦しそうにそれを抑える。
「シューフェンはアイツのものだよ」ハオが言った。「シューフェンが選んだんだ」
ララは鬼のように牙を剥くと、強く言った。
「根性なし! 愛しているなら奪え! そんな根性もないからオマエは皆からバカにされるんだよ!」
そしてハオの口に先程書いた三枚の便箋を詰っ込んだ。
「食え! それを食って根性つけろ! それには私の怨念も籠ってる! それ食ってぶりぶりぶりぶり!!」
「ぶりぶり!! それ見せろ!」メイファンはララを押さえつけて出て来た。
しかしハオはもう飲み込んでしまっていた。
メイファンの口からララの嗚咽が漏れはじめ、言った。
「私にはアンタを押さえつけて出るなんて、したくても出来ないのに……アンタはそうやって出て来る……」
メイファンは目を忙しく動かしながらそれを聞いた。
「アンタの決定に私は従わされ、私は押さえつけられる……。アンタがツンで私がデレなわけでもなく、アンタは一人でツンデレをこなす……」
ハオもびっくりするような顔でララの言葉を聞いた。
「なぜアンタを殺せば自分まで死んでしまうのよ? ひどいじゃない!!」
「ララ……ぶり」
「ぶりぁぁぁあああ!! 力が欲しい!!」
ララは神を呪うように叫んだ。
「アンタみたいな、人を簡単に殺せる大きな力が欲しい!!」

582:創る名無しに見る名無し
18/12/28 12:01:12.61 QX3RqS+w.net
メイファンはララの『白い手』を使えるが、ララはメイファンの『黒い手』を使えない。
ララの手が黒くなる時、そこには必ずメイファンの意思がある。
元々この身体がメイファンのものであることに加え、『気』を操れるメイファンは『気』そのものであるララを操ることも出来る。
そのことに不満はないはずだった。
自分はヴァーチャル映像を見ているだけのただのお喋り好きな無力な女の子でよかった。
はずだった……。

583:創る名無しに見る名無し
18/12/28 12:50:04.36 QX3RqS+w.net
「リウ・パイロンを発見しました」眼鏡カマキリが報告した。
「どこだ?」芋饅が聞く。
「西安の習近平国家主席別邸です」
「手ぇ、出せねえ〜〜」
「黒色悪夢と兄弟になったというのは本当なんですね」
「で、もう一人の女の子は?」
「ラン・メイファンですか」
「彼女にも公務執行妨害とフランスパン窃盗の指名手配がかかっている」
「あのパン、何だったんですかね」
「名前がわかっているんだ。簡単じゃないのか」
「それが……名簿に記入された『乱妹芳』の名前と国民IDは確かに存在するんですが、しかしそんな人間はいませんでした」
「戸籍は?」
「戸籍もあるんですが、住所を調べたら公衆トイレになっていました」
「なんだそりゃ」
「更に調べたところ、気になるものが……」
「何だ」
「ラン・メイファンという名前の人間をリストアップしてみたところ、漢字のないlan mei fangという17歳の女性が存在することがわかりまして」
「漢字がない? それって日本人の名前がtanaka hanakoみたいなことだぞ?」
「はい。そして、その女性の住所が例の習近平国家主席別邸になっているんです」
「両親は?」
「いません。習近平氏が養女として引き取り、しかし籍は入れていないんだと思われます」
「なぜだ」
「それで私、思いついてしまったんですが……」
「何をだ」
「あの女の子がもしかしたら、裏のNo.1武術家にして習近平の最強の用心棒、黒色悪夢なのではないかと」
「あの女の子が?」
二人は暫く考え込み、すぐにわっはっはと笑い出した。
「AKBの宮脇咲良が実は殺し屋だったってぐらいありえないですよね〜」
「芦田愛菜ちゃんが武藤敬司より実は強かったってぐらいありえんな!」

584:創る名無しに見る名無し
18/12/28 12:58:10.31 Ux0mzO8C.net
ララは無力だと思いこんではいるが
気を操るメイファンと比較した場合はそうかもしれない。
だか、実際には人を殺せるだけのパワーはあった。
ララは1歩踏み出す度胸と覚悟がなかったのだ。

585:創る名無しに見る名無し
18/12/28 14:08:18.07 rDlg23g3.net
日が替わり、結婚式当日になった深夜、ララはリウとシューフェンの部屋を訪れた。メイファンは眠っていた。
部屋には鍵がかかっていた。ララは扉に手を当てクリームのように柔らかくすると、そこから手を差し入れた。
ララの治療の能力はララ自身が使うよりもメイファンが使ったほうが強力であるが、この大抵のものなら柔らかくしてしまえる能力はララだけの得意技である。
ただ、柔らかく出来る範囲は小さく、手を差し入れるのがせいぜいであり、それでも住居不法侵入の際には大いに役立っていた。
部屋に入って来たララは全裸だった。衣擦れの音を出さないようにとメイファンから教わったことがあった。
手には長めのナイフとノコギリを持っていた。
リウ・パイロンはシューフェンに腕枕をし、ぐっすり眠っていた。
ララはゆっくり、ゆっくりとナイフを頭上に上げる。しかしリウの胸に振り下ろすには距離が遠すぎる。
ララは一気にリウの上に馬乗りになる。奇声を発しながらナイフを振り下ろす。
しかしリウとメイファンが同時に目を覚まし、外と内から体を押さえられてしまった。
びっくりして目を覚ましたシューフェンが自分を見ていた。
『ハオお兄ちゃんの大切なシューフェンお姉ちゃん』が、ララのことをキチガイでも見るような顔をして怖がって見ていた。
ララは泣き崩れ、メイファンの中へ逃げ込んでしまった。

586:創る名無しに見る名無し
18/12/28 19:02:56.74 o31+kZJF.net
シューフェンの見る目は正しかった。ララはリウのレイプにより気が狂っていたのだ。

587:創る名無しに見る名無し
18/12/28 23:18:22.59 QLvKJi9N.net
話の展開がエンドレス

588:創る名無しに見る名無し
18/12/28 23:36:01.20 5eg4F3aP.net
突如、時空の隙間から出現したオザワ先生のビッグペニス!
震えあがるハオ!

589:創る名無しに見る名無し
18/12/29 12:15:11.76 vUHqmOF9.net
朝食前にメイファンとリウは軽く手合わせをした。
新郎の顔を青アザだらけにしないよう、二人は触れ合わない距離を置いて技を出し合った。
「昨夜はララがすまん」メイファンが言った。
リウは何も言わなかった。昨夜のララを許すことは出来なかった。
しかしララにはシューフェンの治療をして貰わないと困る。だからといってララに嘘の微笑みを見せることは出来なかった。
「ララを外す」とメイファンは言った。「習近平に命令して最高の医療チームを付けさせよう」
「あぁ」リウは答えた。「そうしてくれ」
「入籍もここにいながら出来るぞ? 便利だろう?」
「いろいろ助かる」リウはハイキックを繰り出しながら言った。「ありがとう、メイファン」

590:創る名無しに見る名無し
18/12/29 12:22:27.10 tk7swJ0m.net
メイファンはハイキックを鼻差でかわすと足を抱え込み、軸足を蹴りあげた
体制を崩すかに見えたがリウは抱え込まれた足を今度は軸に変えて回転蹴りを撃ち込む!
メイファン「相変わらず身が軽いな」
メイファンは軸足を手から離しながら更にもう一歩後ろに引きその回転蹴りをダッキングでかわした

591:創る名無しに見る名無し
18/12/29 12:35:37.16 vUHqmOF9.net
習近平別邸の中庭で結婚式は簡素に、しかしとても賑やかに行われた。
既に入籍を済ませ、シューフェンはリウ・シューフェンに名前が変わっていた。
本名のシン・シューフェンはもちろん、芸名のリー・シューフェンも改められた。
白いウェディング・ドレスを着たシューフェンは痩せて頬骨が目立つようになっていたが、それでも花のように美しかった。
終始心から幸せそうな笑顔を浮かべ、リウに支えられていた。
ツイ・ホークとチャウ・チンシー二人の映画監督が彼女の姿をフィルムに焼き付けた。
二人は昨日から競うように様々な場所で彼女を撮っていた。後の新作映画の中でその映像を使うのか、夭逝の美人女優のドキュメンタリーを製作するのか、それは未定だった。
誰もが既にシューフェンの病気のことを知っていた。残された時間は僅かであることも知っていた。
それでも集まった人達は一人を除いて皆、祝福の笑顔で二人を包んでいた。
シャンパンをぼーっと飲みながら、ただ一人笑顔のないハオはシューフェンの花嫁姿を眺めていた。
「思った通りだ。君にはウェディング・ドレスが最高に似合うよ」
そう呟いてから改めて自分の立っている場所を見る。シューフェンから20m離れた来賓テーブルだ。
「俺、なぜ、ここ!?」

592:創る名無しに見る名無し
18/12/29 12:50:23.17 vUHqmOF9.net
当日になってやって来たリウの両親が、習近平に服従の姿勢を示した後、壇上に上がりハグを求めた。
父親のポホェイシェンとは険悪な仲のパイロンが、涙を浮かべた笑顔で父親と抱き合った。
シューフェンにも愛情の籠った笑顔でハグを求め、シューフェンは義父さんの頬にキスをした。
ブーケトスが行われた。
後ろを向き、せーのでシューフェンがブーケを投げる。
ジョアンナのほうへそれは飛び、がめついほどの笑顔で取ろうとしたジョアンナの直前で風が吹き、隣にいたハオの手にそれはパサリと落ちた。
ハオは言った。「皮肉!?」
シューフェンの身体を気遣い、式は短く終わった。
メイファンは警備のため別室にいたが、モニターでずっと式の様子を見ていたが、
無事に終わったことを見届けると、何も言わずに目を伏せて、休息するため自室へと帰って行った。

593:創る名無しに見る名無し
18/12/29 13:46:10.82 fkotC3dq.net
「なぜ私を無視するのか?」
そう言いながらケン・リュックマンが壇上に上がった。

594:創る名無しに見る名無し
18/12/29 14:47:59.35 H5BsKKmq.net
式を終えて暫くの時が経った。
ほんの少しすつ元気を取り戻しつつあったハオは、ずっと閉じ籠っていた部屋からカーテンを開けて窓の外を見た。
シューフェンが結婚式を行った中庭が見えた。それだけで他には何もなかった。
カーテンを閉め、ベッドにまた寝転ぶ。するとドアをノックする音がした。
メイファンならノックなどしないし、ララのノックはもっと遠慮がちだ。しかしこの軽やかな骨の音は聞き覚えがある、そう思っているとドアが開き、シューフェンが入って来た。
「ハオ、いい?」
ハオは一生懸命隠れ場所を探した。壁に思い切り顔をぶつけてから布団に潜り込んだ。
シューフェンがベッドに座って来た。
「今日、聞いたの」
ハオは気配を殺して存在しないフリをしている。
「あと3日だって」
ハオは暫く意味がわからず考え込んだ。
しかしすぐに意味がわかり、飛び起きた。
「よ、余命?」
久しぶりに間近でシューフェンの顔を見た。かなり痩せ、肌の若々しさはなくなっていたものの、バケモノはおろか別人のようにさえなってはいなかった。
そのシューフェンがにっこり笑いながら頷いた。
「お前……本当にいなくなっちまうのかよ」
「うん」
「嘘だよな? 嘘だって言ってくれよ」
「ふふ……」
「嫌だよ! 俺、お前にフラれるのも嫌だけど……お前にいなくなられちまうのはもっと嫌だよ!」
「それでね……ハオ」
ハオは涙と鼻水をとめどなく流し、言葉が出せない。
「天国に行く前にハオに言いたいことがあって」
ハオは震えながらシューフェンの目の奥まで覗き込んだ。
「言いたいことがありすぎて忘れちゃった」
「アホ!」ハオは頭にチョップを食らわす真似をした。
シューフェンは昔のように笑った。そして言った、
「ここに来てから一言も交わしてなかったから」
「うん」
「これじゃ死ぬ時悔いが残るなって」
「うん」
「でも、アンタとこうやって言葉を交わせただけでなんかどーでもよくなったわ」
「うん……」
二人は並んで座り、遥かなような暫くの時間、長い間連れ添った老夫婦のように黙っていた。
付き合った6年の思い出が二人の間をそよ風のように流れて行った。
「結婚式、出席してくれてありがとね」シューフェンが言った。
「うん」
「ブーケ、ハオが受け取ったね」
「何の罰ゲームだよって思ったけどな」
「みんな、しらけてたね」
「一番誰とも仲良くない奴が受け取ったからな」
「ハオ、私のこと、忘れてね」
ハオの目から涙がぶわっと溢れ出した。
「忘れねぇよボケ」
「ハオ」
「ボケ」
「私……女優になったよ。ハオは?」
「あ?」
「ロンとハオの試合、観たかったな」
「おう」
「あたし……自分の映画の初上映にも間に合わないのよ」
「おう」
「でも……いいの」
「いいのかよ」
「ハオ」
「ん?」
それきりシューフェンは何も言わなかった。しかしハオは目を閉じた彼女の安らかな笑顔に自分への愛を感じていた。

595:創る名無しに見る名無し
18/12/29 17:09:37.98 H5BsKKmq.net
シューフェンがハオの部屋を訪れている時、リウはメイファンと身体を動かしていた。
ララがリウはもちろんメイファンの傷さえ治療しなくなったので、本気で手合わせをすることが出来ないのだった。
ララはあれきり一言も喋らなかった。完全に存在しない人間になっていた。
メイファンは毎日呼び掛けるのだが返事はなく、ハオが呼んでも出ては来なかった。
「つまらんな……」メイファンがイライラした口調で言った。
「これも立派なトレーニングだ」リウはメイファンと向き合わず、同じ方向を向いて腕を伸ばしたり縮めたりした。
「まるでラジオ体操だ」メイファンはふざけてヒップホップの動きをしはじめた。
「中国はヒップホップ禁止だぞ」リウが国家主席の養女に皮肉を言う。
「飽きた」メイファンは座り込んでバナナを食べはじめた。
仕方なくリウも座り込み、バナナを剥いた。
「リー・チンハオは一度も道場に来ないが、強いのか?」リウが聞く。
「4000年に1人の逸材だ」メイファンは真顔で答えた。
「それは凄い」リウは激しく興味を示した。「ぜひ手合わせをお願いしたい!」
「だが、気力がない、やる気がない、3分で世界最強になる方法を欲しがるみたいな奴だ」
「なるほど」リウはハオの顔を思い出しながら言った。「ここへ来て大分経つが、あの人とまだ一言も会話して貰ってない」
「ハオがお前に『そこの醤油取ってください』と話しかけたのを見た覚えがあるぞ」
「メイ」リウは言った。「近日、自分の散打のジムを立ち上げるんだが、リー・チンハオを預けて貰えないだろうか」
「ダメだ」メイファンは即答した。「アレは私のだ」
「じゃあ、メイ、お前、来るか?」
「そんな明るいところ、目が潰れるわ」
「そうか」リウは残念そうな顔をした。
「独立するんだな」
「あぁ、トレーナーの楊とウマが合わなかったこともあるしな」
「ジムの名前はもう決めてあるのか」
「『L&S』に決めてある」
「リウ&シューフェンか」
「いや、ロン&シューフェンだ」
「どうでもいいな」
「重要だ」
「糞どうでもいいな」
「シューフェンも喜んでくれた。自分の名前が残るんだ、って」
メイファンはバナナを食べきると頭を下げた。
「すまん、リウ・パイロン。ララがあのまま治療を続けていればあと半月はもつ予定だったのに……」
「俺も同意したことだ」
「あら、あたしは無理矢理やめさせられたのよ?」唐突にララが喋り出した。
「び、びっくりした!」メイファンが慣れていたはずの自分の口の自動発声にのけ反った。
「リウ・パイロンさん、あなたがどうしてもと言うのならあたしがまた治療をしてもいいのよ?」
「ララ、本当か」リウが身を乗り出す。
「ええ、あたしはとても明るくて良い子のラン・ラーラァだから」
「お願いする! せめて、最後まで苦しくないようにしてやってくれ」
「了解よ、リウ・パイロンさん」
ララの声はとてもハキハキとしているが、笑っているのか怒っているのかさっぱり読み取れなかった。
「あたしはとても明るくて良い子のラン・ラーラァだから、もうあなたにナイフなんて突きつけなくってよ」

596:創る名無しに見る名無し
18/12/29 17:49:34.06 KUSdcMm/.net
「シューフェン……」
ハオは後ろから彼女のうなじの匂いを嗅ぎ、その身体を抱き締めた。
「あ、もうロンが湖に連れて行ってくれる時間だわ」
そう言って立ち上がる彼女からハオは手を離した。
愕然とした。まるで骨と皮だけの抱き心地だった。

597:創る名無しに見る名無し
18/12/29 18:06:22.05 PMmcIL3H.net
1人ぽつんと残されたハオはあまりの悲しみと絶望に
「ブッダよ、あなたは今も寝ているのですか!!」
と訳の分からないことを叫び号泣した。

598:創る名無しに見る名無し
18/12/29 19:30:51.12 9fWqcOeO.net
リウは赤いベンツを運転してシューフェンを湖に連れて行った。
その後ろからぴったりついて来るデミオの助手席にはサングラスをかけたメイファンが乗っており、運転手はハオだった。
「なんで俺まで!?」
「シューフェンから余命の話、聞いたはずだ」メイファンがポップコーンを食べながら言う。「思い出作りしておけ」
「他人の妻の思い出!?」
湖のほとりに車を停め、リウはシューフェンを支えて湖を見せた。
「仙女が現れそうな所ね」シューフェンは帽子を押さえながら微笑んだ。
「綺麗だ」リウは湖から視線をずらし、シューフェンを見つめながら言った。
「なんで俺、ここにいんの?」ハオはまたメイファンに聞いた。
「思い出作りだ」メイファンはまた答えた。
シューフェンを木の柵に凭れて立たせ、リウは少し離れると写真を撮りはじめた。
シューフェンは弱々しいながらもピースサインを決め、顔にかかる黒髪を払いのけて笑う。
「なぁ、なんで俺……」
ハオの言葉が止まった。
「なんだ?」
ハオは空を見上げる。
キラリと一瞬、上空に光るものが見えたと思うと、それはあっという間に降って来た。
轟音が聞こえはじめてようやくリウはカメラから目を外した。
自分の頭上へ向かって降って来る超小型のミサイルに気づいた時は、もう避けようもなかった。
しかし横から物凄いスピードでハオが飛んで来て、ミサイルに掌打を当てると、ミサイルは吹っ飛び、シューフェンから遠いところを通って湖に落ちた。
湖に大きな水飛沫が上がる。続いてすぐにもうひとつ、大きな水飛沫が上がった。
メイファンが捌きを終えた姿勢のまま叫んだ。
「早く車に乗れ! 20km圏内まで戻るぞ!」
湖は『施設』から21km離れていた。そのためこちらの迎撃システムは働かなかったようだ。
リウはシューフェンを抱きかかえると素早くベンツに乗せ、走り出した。
「な、何?」
シューフェンにはミサイルも見えず、ただひたすらに何が起こったのかわからなかった。
「な、何だったんだ?」
きょろきょろ辺りを見回して呆然とするハオをメイファンは抱きかかえると、素早くデミオに乗り込み、走り出した。


次ページ
最新レス表示
スレッドの検索
類似スレ一覧
話題のニュース
おまかせリスト
▼オプションを表示
暇つぶし2ch

1638日前に更新/652 KB
担当:undef