リレー小説「中国大恐 ..
[2ch|▼Menu]
507:創る名無しに見る名無し
18/12/23 20:36:02.86 2kEZnbpU.net
ゴングが鳴った。
しかしまずは予告通りのお遊びである。
青いトランクスのサクラバが両腕をぶらんとしてそれを待つ。
赤いトランクスのリウがゆっくりと右腕を上げ、オープンフィンガーグローブを嵌めた手でサクラバの額に軽くデコピンをした。
次いですぐにサクラバの眼前で両手をポンと優しく打って猫だましをする。
それをサクラバは緊張した眼差しで見つめていた。既に額から大量の汗が滴っている。
リウが最後のお遊び『壁ドン』を決める。
なよなよした動作でサクラバの右側の何もないところをドンと突いた。
「よし! 来いや!」サクラバが吠えると同時に闘志を燃え上がらせた。
しかしリウはやはり生気がなく、壁ドンから引いた腕をダランとさせている。
最前列席で鼻クソをほじりながら、リウのトレーナーの楊が言った。
「女と何発やったか知らねぇが、脱け殻だぜ。照明が黄色く見えてんじゃねぇか?」
来ないならこっちから行くぜとばかりにサクラバが前に出た。
振りの小さなジャブでまず様子を窺った……つもりだった。
しかししっかり動きを見ていたはずのリウ・パイロンが、眼前から消えた。
サクラバの下のほうで何かマグマのようなものが音を立てていた。
メラメラと音を立てて何かが沸き上がって来る。
一瞬が数秒に感じられるスローモーションの世界で、それは恐ろしいほどのスピードで地底から襲いかかって来た。
狂戦士のような形相のリウ・パイロンがそこにおり、その溶岩のような拳が真下から飛んで来た。
ここからの数時間のために全ての力と闘気、そして怒りを溜めていた。
ここからは体が張り裂けようと構わない、100%全開だ。
サクラバはとっさにガードしたが、超低空アッパーを受けて185cm86kgの体が2m浮き上がった。
浮き上がったその足を掴むと、リウはマットに思い切り叩きつけた。
叩きつけるとすぐさまその背中に跨がり、逆エビ固めに入る。
レフェリーがカウントを始めるが、サクラバは既に泡を吹いて失神していた。
観客席最前列でゴージャス哀川と一徹がただ大きく口を開けていた。
試合終了のゴングが鳴った。開始からわずかに13秒であった。
腕を取って高く持ち上げたレフェリーをリウはロープまで投げ飛ばした。
白目を剥いてゴリラのように牙を剥くと、誰も知らないその相手の名前を吠えるように叫んだ。
「メ、イ、ファァアァァアァン!!!」

508:創る名無しに見る名無し
18/12/23 21:00:25.05 2kEZnbpU.net
メイファンはTVを観ながら大喜びしていた。
リウ・パイロンの勝利に「キャホー」と甲高い声を上げ、自分の名前を呼ばれた時には「ハーイ」と手を挙げて馬鹿にするように返事をしていた。
メイファンともあろう者が熱中しすぎていて気がつかなかった。
背後にドナルド・トランプが放った刺客、グリーンスネークが気配を殺して近づいていることに。

509:創る名無しに見る名無し
18/12/23 21:20:22.66 2kEZnbpU.net
ハオは黒い道着姿で玄関先に立ち、待っていた。
ここにいればリウ・パイロンと闘えるとメイファンに言われ、待っていた。
試合あっさり終わったけど、本当に来るのかよ?
しかしサクラバもアホだったな、なんであんな大振りのアッパーが避けられないんだ?
世の中アホばっかりだ。
さっさとぶっ倒してオナニーしよ……と思ったけど俺、今、インポだしなぁ。
そんな考え事をしていると、闇を縫って遠くからまっすぐヘッドライトが猛スピードでこちらへやって来るのが見えた。
門の前で赤いベンツが停まる。ボンネットの上にメカゴリラみたいな怪獣が乗っていた。
メカゴリラは車が停まるのも待たずに飛び降りると、こちらへ向かって走って来た。
「あ。メカゴリラかと思ったらリウ・パイロンじゃん。本当に来たよ!」
リウはまっすぐハオに向かって駆けて来る。
「平常心、平常心。『気』を十分行き渡らせ、相手の未来を読む」
リウはあっという間に目の前まで近づいて来た。
「今日、俺の伝説は始まるのだ」
ハオはリウの攻撃を捌くための準備動作に入ろうとしたところに喰らった。
「ほぬが!」と吠えながら放ったリウの超低空アッパーがハオの顎にクリーンヒットした。
ハオは30m空を飛んだ。リウはそれを見届けることもせずに先へ走って行った。
ハオはゆっくり弧を描くと、30m離れたティンさんの家の屋根瓦を突き破り、カップラーメンを食べていたティンさんの上から天井を突き破って驚かせたところで止まった。
あれで生きているのが不思議なくらいだった、とティンさんは後に語った。

510:創る名無しに見る名無し
18/12/23 21:52:43.39 2kEZnbpU.net
『私は……リウ・パイロンに勝てるのだろうか?』
目を閉じてメイファンは考えていた。
「ククク。噂に聞いた黒色悪夢がまさかこんなお嬢ちゃんだとはな!」
グリーンスネークがチロチロと舌を出しながら後ろからメイファンの顔を覗き見た。
メイファンはグリーンスネークの超硬質ワイヤーによって椅子に縛りつけられていた。
『あの記憶が……奴の前では私を弱くさせる』
「アジア人にしちゃいい女だよなぁ。おい、アンタ、ケツにぶち込まれたことはあるかい?」
『雑念を払え。奴に対する憎しみだけを思い出せ』
「……なーんかつまんねぇなコイツ。さっさと殺すか」
『憎しみだ。憎しみだ! 私のリウ・パイロンに対する憎しみは、どんなものだ?』
「あばよ、黒色悪夢さん」
グリーンスネークがそう言って振るったナイフが弾かれて飛んだ。
「は?」
メイファンの身体中から真っ黒なオーラが立ち昇り、ブチブチと音を立てて超硬質ワイヤーが切れた。
その眼は黄色く炎を灯し、真っ赤な口は白い煙を吐き出し、鋭い牙の生えたその口から獣のような叫びが上がった。
そこへちょうどリウ・パイロンが辿り着いた。
「ぼわぁぁぁっしゅ!」と声を上げ、まっすぐメイファンに突っ込んで来る。
「ガルルルァァァ!!」叫び声を上げて手刀を振ったメイファンの目の前からリウが消える。
超スピードの超低空アッパーがメイファンの顎にクリーンヒットし、メイファンは後ろに弾け飛んだ。
弾け飛んだメイファンはその場で一回転すると、リウのパワーをそのまま伝えたサマーソルト・キックでリウの顎を蹴り上げた。
リウの巨体が5m後ろへ弾け飛ぶ。
「あっけないな」メイファンは無傷だった。「こんなものか? 散打王」

511:創る名無しに見る名無し
18/12/23 22:12:34.95 2kEZnbpU.net
しかしリウもまた無傷だった。
「何だよ」メイファンは馬鹿にするように笑う。「やっぱり『気』がしっかり使えてんじゃねーか」
「リっ、リウ・パイロン!」
いつの間にかそこにいた習近平が叫んだ。
「この、私を崇拝せぬ愚か者が! これがお前の恋人の頭に仕掛けられた起爆ボタンだ! 押されたくなければ抵抗をやめろ!」
メイファンが後ろ回し蹴りで習近平を軽く蹴り飛ばした。
「あっ」と声を上げて習は踊るように倒れ、手から離れた起爆ボタンをキャッチしてメイファンは窓辺に置いた。
「邪魔すんな。たかが国家主席の分際で」
「た……たかが!?」
「メイファン」リウが言った。「俺が勝ったらそれを貰って行く」
「勝ったら、な」メイファンが牙を見せて笑った。
「お前が勝ったら、何が望みだ?」
メイファンは少し考えたが、それを振り払うように答えた。
「お前の命が奪えれば、それで十分だ」
「くれてやろう」そう言うとリウは拳を構え、再び闘気を身に纏った。
「5分だけ素手で闘ってやる」メイファンもまた戦闘モードに入った。「5分で私を倒せなければお前の負けということだ」
「あっ……あの……」グリーンスネークは床に這いつくばってオロオロしていた。「なっ……何ですかコレ」

512:創る名無しに見る名無し
18/12/24 00:53:38.28 eX5MdsFf.net
主な登場人物まとめ
・ハオ(リー・チンハオ)……主人公。習近平とメイファンにより謎の施設に軟禁され、謎の過酷な特訓を受けている。
太極拳の使い手。恋人のシューフェンの待つアパートに帰りたくてしょうがない。
・シン・シューフェン……ヒロイン。膵臓ガンに冒されており、余命は僅か。ハオの恋人だったが、リウに取られた。
元々ハオにはもったいないほどの美人であり、リウの紹介で女優デビューする。
・リウ・パイロン……中国の格闘技『散打』のチャンピオンであり国民的英雄。シューフェンの現恋人であり、彼女にメロメロ中。
メイファンの元弟子だが、ボロボロに負かした上当時8歳のメイファンをレイプした上、彼女の元を去る。
・ラン・メイファン……17歳の美少女。国家主席習近平のボディーガードであり凄腕の殺し屋。
『気』を操り様々なことに使える武術家、というより超能力者。『黒色悪夢』の通り名で恐れられている。
・ラン・ラーラァ(ララ)……21歳の天然フェロモン娘。メイファンの姉。ただし身体を持たず、妹の中に住んでいる。
『気』だけの存在であり、メイファンと身体を交代することが出来る。性格は妹と正反対で女らしく、お喋り好き。
・習近平……言わずと知れた中国国家主席。孤児だったメイファンを引き取り、殺し屋として育てる。ララのファン。
・ドナルド・トランプ……言わずと知れた(略)
・ジャン・ウー……メイファンの仲間の殺し屋。通り名は『酒鬼』。昔のカンフー映画に出てくるような見た目をしている。メイファンに首をはねられ死去。

513:創る名無しに見る名無し
18/12/24 07:29:22.38 UzT7Ttb4.net
「ヴ〜っ…ヴ〜っ…」
ハオは奇跡的に生きていたが、顎も闘志も打ち砕かれ、ただガタガタと恐怖で震える事しかできなかった。
(…ああ、俺は身の程知らずのクズだ。あんな怪物に勝てるわけがない、ゆ、夢物語だったんだ。)
ハオはリウの形相を再び思い出すと情けない悲鳴を上げながら涙を流し、股ぐらに糞尿の染みを作った。

514:創る名無しに見る名無し
18/12/24 14:22:45.50 uZRuT8S5.net
「ガルルルァ!」
メイファンの『気』を込めた回し蹴りがリウを襲う。リウは臆せずそれを掴みに行った。
メイファンは咄嗟に足を畳み、掴み損ねたリウに返す踵で首を斬ろうとする。
リウは地面にしゃがんでそれを避け、再び超低空アッパーを放とうとしたが思い止まった。先程のサマーソルトが頭に焼き付いていた。
二人は距離を計り、牽制し合う。
メイファンはリウに掴まったら終わりであった。相手の蹴りを掴んで投げるのは散打の常勝パターンである。
そしてこれは散打の試合ではない。足を掴んだリウはメイファンを振り回し、壁や床や鉄のボイラーやらに打ちつけまくるだろう。
そうなれば『気』の鎧も破壊され、メイファンの頭はぐしゃぐしゃに潰されるに違いなかった。
リウもまた、メイファンのすべての攻撃に警戒する必要があった。
『気』を込めたメイファンの蹴りも手刀も、ただのそれではない。鋭利な刃物だと認識しなければならない。
自分では決してそうとは認めないがリウも『気』の鎧を着ている。多少の攻撃ならば防げる。
顎にクリーンヒットした先程のサマーソルトも、アッパー後の姿勢のまま自分から飛び退いたからこそ大ダメージを受けずに済んだが、
もし『気』の鎧を着ていない常人ならば、それでも顎を斧で割られたようになっていたことだろう。

515:創る名無しに見る名無し
18/12/24 14:39:53.84 uZRuT8S5.net
リウがジリジリと間合いを詰め、左のロングフックを繰り出した。
メイファンにはとっくにそれが来ることはわかっていた。下を潜り、リウの腹に掌打を叩き込もうとする。
しかしリウにもその未来が見えていた。右のアッパーをそこに既に置いている。振り上げる。
しかしリウがメイファンの気を「もやもやした気体のようなもの」としてしか認識出来ないのに対し、
メイファンにはリウの気がはっきりとしたリウの未来の姿として見えていた。この違いは大きかった。
メイファンはリウの『気』を込めたアッパーを髪の毛一本の距離で躱すと、背中に回り込んだ。大きな隙が目の前にあった。
メイファンは大袈裟な動作でぐるぐると両腕を前で回すと、巨大な『気』を両掌に込め、放った。リウはそれをいとも簡単にさっと避けた。
「ふざけているのか」リウが低い声で言う。
「やっぱり当たらんな」
「当たり前だ。そんなマンガみたいな技が当たるか」
「今の弟子が考えた技なんだ。技名はチンハオ流八卦掌だったかな」
「遊ぶな」
「しかし、楽しいな」
「楽しい? 何がだ」
「今まで私は一方的に殺戮するばかりだった。こうやって本気で闘り合える相手がいるのは楽しい」
「楽しいわけがないだろう」
メイファンはバカにするように「なんで?」と首をひねった。
「お前が子供みたいな爆弾遊びなどしなければ、こんな闘いはする必要がなかったんだ」
「ごめんなさ〜い」メイファンはそう言いながら上から目線で笑った。
「大人をガキの遊びに巻き込むな!」
リウの怒りが闘気に混じり、爆炎のごとく燃え上がった。

516:創る名無しに見る名無し
18/12/24 14:54:22.43 uZRuT8S5.net
「はん。こりゃヤバいな」メイファンはそう言うと『気』を小さく固めた。「早めに弱らせとくか」
少しずつ、少しずつ、小さく固めた『気』を連続で繰り出す。メイファンの小刀のような連撃がリウを襲う。
小さいが、一発一発がナイフの一撃みたいなものだ。並みの者ならひとつ喰らっただけで動けなくなってしまうだろう。
しかも視線はずっとリウの目を見ながら肩へ腹へ足へと連撃が続く。リウは防戦一方になり、攻撃が繰り出せない。
しかしメイファンの気力も無尽蔵ではない、やがて疲れが見え始めた。
リウも避けているだけのように見えて相当な気力と体力を消耗していた。二人は同時に飛び退き、呼吸を整えた。

517:創る名無しに見る名無し
18/12/24 15:16:34.83 uZRuT8S5.net
「ララ……すまん」呼吸を整えながらメイファンが言った。
「何が?」ララが聞く。
「じっくりいたぶって殺すつもりだったが……そんな余裕がない。一発で殺してしまうことにするぞ」
「うん。それでいい」
「また一人でお喋りか……」リウも呼吸を整えながら言った。
「一人じゃないわ!」ララの声が答える。
「やめろ、それ。見ていて気持ちが悪い」
「気持ちが悪い……だと?」
メイファンが目をかっと見開いた。
「ああ。昔から気持ち悪かった。いい加減にしてくれ」
メイファンの胸に昔の思い出が甦った。
(私達のことをわかってくれるのはお兄ちゃんだけだよね)とララが言ったのだった。
「このふざけた糞ガキめ……」目の前のリウが吐き捨てた。
(私、お兄ちゃんがだーすき)思い出の中のララが言った。
(じゃあメイは、だいだいだーいすき!)幼いメイファンは張り合った。
「お前などに……」メイファンは唇を強く噛んだ。
(じゃあララは、だいだいだいだーいすき!)
「お前なんか……」
(じゃあメイは、うちゅうだいだいだーいすき!)
「シャギャアァァァァ!!!」
メイファンの『気』に憎しみが深く混入し、赤黒い炎となって燃え上がった。驚いたような顔をしたリウの懐めがけてそれが火の玉となって飛んで来た。

518:創る名無しに見る名無し
18/12/24 15:50:02.68 4RNpbBo8.net
両手両足を切り取られたハオは日本に渡り、z武さんと称して人気者になった。

519:創る名無しに見る名無し
18/12/24 16:20:17.11 ZQehDrq6.net
いつものリウならば避けたことだろう。避けられれば、次の攻撃へ繋げられる。しかし、避けられなければ……
リウには絶対に守らねばならないものがあった。自分の後ろにその彼女がいるつもりで守った。
「シュゥゥゥゥ……!」
飛んで来た火の玉をリウは真っ向から受け止めた。
「フェエエエェェェエエエェーン!!」
飛んで来た火の玉はメイファンの『気』を一身に纏ってのドロップキックだった。リウは受け止め切り、その両足を、掴んでいた。
「おふあ!」
振り回し、床へ叩きつける。
「ギャアッ!」
メイファンの口から血飛沫が飛んだ。
「でららららららッ!」
リウは身を翻すと、逆方向にある鉄のボイラーに向かってメイファンの頭を打ちつけた。メイファンは腕でガードしようとするが間に合わなかった。
「アガーーーッ!!」
ゴキンという骨が砕けるような音がした。血飛沫に何やら白いものが混じる。
「のぅわ!」
さらにリウは身を翻すと、メイファンの足を脇に挟みぐるぐると回り出した。回りながら移動する。目は硬い石製のマントルピースを狙っている。
「ギャアアアアオ!!!」
そう叫ぶと遠心力に逆らいメイファンが身を起こし、リウの首に噛みついた。
リウは紙一重で避けたつもりが表面の肉をぎっちり喰われた。メイファンの両手がリウの両腕を斬るため降り下ろされる。
たまらずリウが手を離すと、メイファンは黒豹のように手から床へ降りた。
明らかにメイファンのダメージは大きかった。頭からどくどくと血を流し、右目が開かなくなっている。
しかしその時、けたたましくアラームが鳴り響いた。
「時間だなァ」
メイファンはそう言うと片目を大きく見開き、牙を剥き出しにして笑った。
「5分経ったぞ! 終わりだ、糞オヤジ」
メイファンはすぐ側にあった棍棒を取ると、それに『気』を込めた。

520:創る名無しに見る名無し
18/12/24 16:28:10.68 IKddpbgp.net
「オーマイガッ」
暴徒どもが叫んだ。
「オーマイガッ」
「オーマイガッ」
奴らは増殖しそして中国全土へと感染して行く。
それは中国大恐慌の始まりであった。
「ふふふ、どうやら始まったようだな…」
某大統領トランプ氏はモニターを見てニヤリと笑ったと言う

521:創る名無しに見る名無し
18/12/24 17:16:45.94 ZQehDrq6.net
大学生の頃、リウはメイファンの棒を捌く特訓を毎日やらされた。
10発1セットの突きを3セットこなすのだが、最初はメイファンも本気では突かず、後になるほど威力もスピードも上げられた。
60%までは何とか捌くことが出来たが、70%以上の力を出されると途端に反応が出来なくなった。
しかも棒の先には柔らかいクッションが付けてあるにも関わらず、鎖骨に当たれば骨折し、肉に当たれば激しく内出血した。
特訓の後にやって来る『白いメイファン』の治療がなければ毎日続けることは無理だった。
リウはそれでも80%以上の力で突くことを求めたが、「お兄ちゃんに穴が開いて死んじゃう」と言われ、遂に体験出来ず終いであった。
それがメイファン8歳の頃の話である。
「100%の『牙突』だ。防いでみせろ」
そう予告すると、17歳のメイファンは『気』を最大出力で放ち、連続で棒を繰り出した。反動をかえりみないその全力の攻撃は、実際には120%だったかもしれない。
リウ・パイロンめがけて幾つもの流星がまとめて降り注いだようなものであった。
こんなもの人間の力ではどうしようもないというほどのものであった。
それでもリウ・パイロンは諦めなかった。

522:創る名無しに見る名無し
18/12/24 18:36:13.97 NCiokeEm.net
それはもちろんシューフェンを救うためであったが、彼には使命があった。
リウ・パイロンは正義のヒーローの一族であり、目の前の少女に宿る邪悪を払い、「良い子」にする責務があった。
一連のヤリ捨て行為やメイファンに対するレイプも強さのためでも欲望のためでもない。実際、リウにヤリ捨てられた者たちは性や金にだらしがなかったが
ヤリ捨てられたあとは皆、清廉潔白の良い子に生まれ変わっている。
だが例外もいた、そうメイファンだ。

523:創る名無しに見る名無し
18/12/24 19:12:19.32 12YEl/+L.net
リウ・パイロンは股間のステッキで邪悪を払う魔法少女的な何かだった。リウ自身も仕事を始めたばかりの頃は内容の下品さ具合に対する罪悪感で悩むことはあったがむしろ今では誇りに思っている。
しかしリウ一族の行為は、端から見ればどー見てもヤリチンかレイプ魔のそれにしかみえない。正直に話したところで状況は悪化するだけだ。だからもっともらしい嘘をついた。

524:創る名無しに見る名無し
18/12/24 19:40:28.55 kGRgNIIb.net
そしてメイファンの放った「牙突」はリウ・パイロンに命中。
彼はボロ雑巾のような肉塊に姿を変え、開けられた風穴から滝のように血を流しその場に崩れ落ちた。

・・・はずだった。
リウ・パイロンは首のケガを除けば、傷一つ付いていなかったのである。

525:創る名無しに見る名無し
18/12/24 19:52:11.16 ZQehDrq6.net
数瞬後、リウ・パイロンは無様に地に背中をつけて倒れていた。
その胸にはメイファンが馬乗りになっている。
「あの時とは逆だなァ、オイ」
メイファンは棒を支えに荒い息を吐いている。
リウは全ての『気』を鎧として使い果たし、その鎧も壊れてしまっていた。
「言い残すことはあるかオイ?」
メイファンのその言葉にリウは消え入るような掠れた声でようやく言った。
「シューフェン……ばく……だん」
「安心しろ。必ず解除してやる」メイファンは息を切らしながら言った。「何しろあの女は私の今の愛弟子リー・チンハオの恋人だからなァ」
リウは何も喋ることが出来ず、黙って聞いていた。
「お前、利用されたんだよ」
「恋人が私に拉致られて帰って来ないもんだから、その寂しさを埋めるために利用されただけだ」
リウは黙っていた。
「お前が死んでも、恋人が戻って来れば彼女はハッピーさ。よかったなぁ、お前、死んでも彼女を泣かせない、ただの使い捨ての道具みたいなもんでよォ」
リウは表情も変えずに黙っていた。
「でもなぁ……あの女、実はほっといても死んじまうんだぜェ?」
「お前はアホだから気づかなかったみたいだけど、あの女、癌に侵されてて余命ヒトツキかフタツキぐらいのもんだからよォ」
リウの眉が険しく動き、微かに顔を起こしてメイファンを見た。
「よかったなァ、お前、死ぬけどすぐにあの世で彼女に会えるぜェ?」
「そん時も彼氏の『代わり』だけどな? キャハハハハ!」
「ま、ほんじゃ死ね」
そう言って棒を振り上げ、メイファンは棒に『気』を込めた。棒の先がみるみる鋭い槍に変わり、リウの喉を突き刺す予定だった。
その後で棒を巨大な肉斬り包丁に変え、リウの体を輪切りにして頭部は持って帰って枕元に飾るつもりだった。
しかし棒は棒のままであった。
「あれぇ?」
体力は残っている。しかし気力を使い果たしてしまっていた。
自分の身体を『気』で動かし、すべて『気』の力で闘うメイファンが『気』の力を失えば、そこにいるのはただの非力な17歳少女であった。
メイファンは武器にこだわらない。『気』を込めれば何でもが最強の武器になるのだから。
ゆえにメイファンが持っているのも転んだだけで折れてしまいそうなただの軽い木の棒であった。
「これで殺すのってマッチ棒でネズミを殺そうとするに等しいな……」
ララの白い『気』なら大量に残っているが、それではリウを治してしまうことしか出来ない。
「ま、ナイフあるしぃ」
メイファンは胸からアーミーナイフを取り出した。
「体重かければこれでもイケるしぃ」
メイファンはナイフを振り上げた。
その途端、産まれて初めて自分を人間扱いしてくれた優しいお兄ちゃんの思い出が胸から頭から溢れ出して来た。

526:創る名無しに見る名無し
18/12/24 20:31:34.44 4XFugS56.net
メイファンは何を思ったのか、ナイフを持った手を止める。

527:創る名無しに見る名無し
18/12/24 20:37:42.86 ZQehDrq6.net
リウはメイファンの言葉を聞きながら、動じてなどいなかった。
彼氏の代わり? それでもいい。
俺がシューフェンを愛している、それ以外に大事なことなど何かあるだろうか?
何よりシューフェンを信じている。その優しさを、温もりを、何より彼女の誠実さを信じているからこそ好きになった。
初めてのデートの約束をすっぽかされた時、彼女に感じたのはむしろ一種の誠実さだった。
有名人リウ・パイロンに誘われてすっぽかした女は過去にもいないではない。しかしそれは相手も有名人であり、そこにはいけすかない高いプライドしか感じられなかった。
しかしシューフェンは違った。彼女は一般人であり、しかも『女優』というエサに釣られた浅ましい魚であるはずだった。
出会った瞬間から何かを感じていたのは事実である。しかし所詮はエサに釣られる安い女だろうと思っていた。
しかし彼女はすっぽかした。その理由も未だ聞いていない。
しかしそこにたとえば『最愛の恋人が行方不明だから心配でそれどころじゃない』というような、彼女の真摯な瞳に浮かぶ誠実さを垣間見たのである。
そしてそれは付き合い始めてから、確信に変わった。
素人上がりなのに弱音の一つも吐かずに映画撮影に加わり、鬼の監督の指示にも素直に従い、撮影スケジュールを遅らせることなく、それどころか1ヶ月も早くクランク・アップへ導いた。
自分を見つめるあの瞳に嘘はない。『愛しているわ、リウ』と言ってくれた言葉に嘘はない。
しかし。
なぜ黙っていた?
癌だって?
余命何ヵ月だって?
それを黙っているのは俺に対する誠実なのか?
聞かせろ。
聞かせてくれ!
リウは体力も気力も使い果たしていた。
しかし体力は徐々に回復する。『気』の鎧で『牙突』を受けたお陰で致命傷もない。
『まだ俺が死ぬわけにはいかない』
その思いが気力となり、鉄のように重い体を動かした。
「ゴアァ!」
リウが叫ぶとメイファンは明らかにびくついた。
その腕を素早く掴み、残るすべての力を振り絞ってリウはマウントを返した。

528:創る名無しに見る名無し
18/12/24 20:55:43.96 ZQehDrq6.net
『憎しみだ! 憎しみだけあればいいんだ!』
メイファンはナイフを振り上げながら、固まった。
『いや、憎しみすら要らない。私はどんな人間でもまるでモノを壊すように殺して来たじゃないか!』
ナイフを握る手が震えた。
『愛着のあるモノは壊せないとでも言うのか?』
ナイフを握る手に汗が滲んだ。
『愛着だって!?』
その瞬間、目の前のリウ・パイロンが叫び声を上げた。
『はひぃぃぃぃ!?』
今の自分がまるでプレステ4を取り上げられたFPSの達人の女子高生みたいなものだという強い自覚が生まれた。
ただの17歳少女は散打王リウ・パイロンに馬乗りになられ、ただ恐怖するしかなかった。
加えて8歳の時、同じように馬乗りになられたあの記憶が強く呼び覚まされた。
メイファンは顔を手で覆い、子供のように泣き叫んだ。

529:創る名無しに見る名無し
18/12/24 21:01:11.49 ZQehDrq6.net
泣き出したメイファンを見てリウは振り上げた拳を止めた。
「勝負……あり……だな」
そう言うとメイファンを押し潰すように倒れた。

530:創る名無しに見る名無し
18/12/24 21:07:06.49 rD4T3AVt.net
「さあ、お、お仕置きタイムと行こうか」
リウは疲労困憊ながらもドヤ顔だった。
そしてあの時のトラウマを彷彿とさせるこの状況に陥ったメイファンの顔は青ざめ、彼女には珍しく涙を流した。
しかしリウはそんなメイファンを優しく撫でる。

531:創る名無しに見る名無し
18/12/24 21:34:20.94 ZQehDrq6.net
リウはやがて身を起こすと、くっついたページが剥がれるようにメイファンの隣へ仰向けに転がった。
「……レイプしねーのかよ」メイファンがびくついた声で言った。
「そんな力残ってねぇよ」
「残ってたらすんのかよ」
「しねぇよ……」
暫く二人、黙って窓の外の歪んだ三日月を見つめた。
「なんで……」メイファンが喋り出した。「お前に勝てないんだろうな……」
「メンタルの問題だな」
「あ?」
「俺には守るものがある。お前はただの子供の遊びだろ」
「もう一回闘んのかゴルァ」
「違うのか」
「……もう、いいわ」
「シューフェンが癌だというのは……本当か」
「本当だ。病院のデータベースにもアクセスした。膵臓癌だってよ」
「……そうか」
「彼氏のことはどうでもいいのか」
「どうでもいい」
メイファンは天井に目を移し、暫く考えてから、言った。
「まぁ、確かにどうでもいい奴だ」
「痛いか?」
「は?」
「頭から大量に出血している。可愛い顔が台無しだ」
「は? ほっとけ!」
「クク……」
「誰がやったんだよ」
「勝負だろ」
「あのな、お前さ」
「ん?」
「黒色悪夢の正体知ってるただ一人の部外者のくせに……私のことを売ろうとしないの何で?」
「あぁ」
「お前、反共産党だろ? 私のことバラせば習近平を失脚させることだって夢じゃないんだぜ?」
「わかってるよ」
「じゃ、なんで?」
「決まってる」
「おあ?」
「妹だからだろ」
「は? はぁぁ!? お前、お前は妹レイプすんの?」
「忘れろ」
「忘れられるか!!」
「あれは魔法のステッキでお前を更正……」
「意味わからんこと言うな!」
メイファンは目に溜めていた涙が溢れ出した。
「そうか、ずっと傷ついていたんだな……」
「そんなこともわからんのか!」
「俺にとってはあれは最高の勝利を忘れないための戦利品で……」
「ふざけるな! 私にとっては!?」
「そうか……」
メイファンは子供が怒ったような泣き顔でリウを睨み続けた。
「俺は自分が強くなることばかり考えていた……。お前のために言うよ」
メイファンは既に嗚咽を上げて泣き出していた。
「……すまなかった」

532:創る名無しに見る名無し
18/12/24 21:37:08.43 4RNpbBo8.net
        /  ̄`Y  ̄ ヽ
       /  /       ヽ
      ,i / // / i   i l ヽ
      |  // / l | | | | ト、 |
      | || i/ ‐、  -、 | |
      (S|| |  ⌒  ,⌒ | |\ヽ
      | || |   トェェイ  ,)| \ \ヽ
      | || lヽ、 |  l / |   ヽ ヽ \   z武さん見っけ!
      | ||    ヽ{tェェ{/     i l  ヽ
     /   ヽノ` ̄     ) 
    /               /  l i  | l
                / /  ,,-----、
              / /   |;::::  ::::|
           ⊂二( ⌒ )二二|;::::  ::::|⊃ /’, ’, ¨
              ̄ ’,ヽ∴。|;::::’ヾ,::::| /。・,/∴
               -’ヾ  |!|!!,i,,!ii,!l,・∵,・、   
              ・∵,・,;f::::::::::::::::::::::(   
                  i:::/'" ̄ ̄ヾ:::i¨´ 
                  |/ ,,,,_W,,,,,,_ヾ|    
                  |=(。;;;)=(;;;゚;)=|    
                  {  :::(__..`メ、 .|  ひ、ひ〜ん
                  ', ;;;;)ー=┓ ソ
                   ヽ___ /

533:創る名無しに見る名無し
18/12/24 22:00:31.55 NCiokeEm.net
しかし、この決着に納得がいかないものが一人いた。メイファンの姉、ララだ。
あの日以来、メイファンの知らぬところで彼女の心は壊れ
どす黒い狂気に支配されていた。
それはリウ・パイロンはもちろん周囲のあらゆる者に対する愛憎交えた感情であり、妹であるメイファンが良しとすれば晴れるものではけっしてなかった。
むしろ、妹が和解の態度をとったことで狂気はますます強くなってしまった。

534:創る名無しに見る名無し
18/12/25 05:21:46.47 XmEfE4xe.net
リウ・パイロンはまぶたを閉じた。
そして目を開き上体を起こしメイファンの方を見ると
彼女がいたところに知らない女いた。
「…えっ、えっ、あんた誰だ?」
リウは目を丸くした。流石の散打王もこの状況には驚き困惑せざるを得なかった。
女は背が高く、肌は白い。目は優しく泣いたような目で、メイファンに対する印象を真逆にしたような人物だ。そして女の目には狂気が宿っていた。

535:創る名無しに見る名無し
18/12/25 10:23:18.80 NsPpcXTT.net
女は胸のナイフを抜くと、襲いかかって、きた。

536:創る名無しに見る名無し
18/12/25 12:44:23.69 WC0PTFC8.net
リウは素早く体勢を整えると、襲いかかるララの腕を掴み攻撃を防いだ。
しかしララの腕力は女性とは思えないほど強いことにリウは驚愕した。彼はララの腕力に押され徐々にナイフが喉元に迫る。

537:創る名無しに見る名無し
18/12/25 13:48:00.73 NsPpcXTT.net
ララ「フフ…、驚いた? 実は私、メイファンよりも強いの。陰のボス的存在よ」
リウ「ぐわああぁ〜!」
ララ「かわいいぬいぐるみとともに死ね!」
リウ「ぬぉぉ〜!!」
ララ「必殺! ポムポム・ファンシー・キティランド!」
リウの首が飛んだ。

538:創る名無しに見る名無し
18/12/25 14:16:14.98 /P5bKZvG.net
ララはそんな妄想を膨らませながらも、胸のナイフが抜けずにいた。
手が震えていた。

539:創る名無しに見る名無し
18/12/25 14:48:34.30 /P5bKZvG.net
リウは驚いた。
目の前の女がメイファンであることはすぐにわかった。
しかし頭の傷は綺麗に治り、使い果たしたはずの『気』が満タンに戻っている。
しかしそれは触る者皆傷つけるような殺伐とした黒い『気』ではなく、ふわふわした白い子猫の群れのような優しい『気』だった。
子猫の群れが一斉に自分を睨み、毛を逆立てて威嚇しており、その向こうに燃えカスのように小さくなったメイファンが見えた。

540:創る名無しに見る名無し
18/12/25 15:55:30.35 QdXg7mTT.net
ララはタレ目を限界まで吊り上げて言った、
「オマエに予言ヲ告ゲル!近い将来、ワレラガ救世主『リー・チンハオ』がオマエを滅ぼすコトダロウ!」

541:創る名無しに見る名無し
18/12/25 17:30:47.95 cLoeZdHR.net
(あぁ……、私にもメイファンのような力があれば!)
ララは強く思った。
しかしすぐに思い出した、自分には自分の武器がある、ということに。
ララは自分の襟を強く引っ張り、胸元をリウに見せつけると、言った。
「ウッフン」
そうしながら、その手は既にワキワキと狂暴な宇宙生物のように動いていた。
握り潰す気マンマンだ!

542:創る名無しに見る名無し
18/12/25 20:20:23.71 edDzgW39.net
            ,;f::::::::::::::::::::::::::ヽ
            i/'' ̄ ̄ヾ:::::::::::i
            |,,,,_ ,,,,,,_  |::::::::|
            (三);(三)==r─、|
            { (__..::   / ノ、<取り戻したぞ、俺の肉体!!      
             ', ==一   ノ、  ̄`ヽ     さあ、立法機関に通報だ!
               !___/_!::. :. . ..........:::=≧=‐- 、
             _/ .:ヽ :i::::::::/.: /:::':.. .:..,. ''. ::     . :.:.:`ヽ
      , --―'´;.:.、... .: .:i :i::/:  .:::..:,.‐''".    .      .:、  :.:::}
     /   . :.:.ノ:. ..\.ヽヽ:  , -‐''´ ..::: ..    :     .::l . :.:.::|
   /   . .:.:.:./:.     `ヽ、::/     .:::、:.. .. . :.  :.  .::i ...:.:∧     
    |  . . .:.:.:;イ::      .:i::.       . .::`''‐-=、ヽ、.:.. . .:: .:ノ: :!   
  /{::. : : .: '´.:.i::.       . :|:      . .:: :.::::::::::::/゙"ヽ、:..:.::´::..: :| 
  ,' `: :...:.:.:.::.::;!::.. .    .:.:|:     . . . :: :.:.:::::::::{::. .::;'`:‐ .::.: ;!:|. 
 {   :. `''''゙´|:::.:.:. : . . . .:::l::. . . . .. .. .:.::..:.:::::::::::|::. . ::i   ..:::iく ::| 
  {:.:.. .:.. . .:.:::ト、:.:.. . .  . .:.:;!、::.. . . . ... .:.::..:::::::_;;.ゝ、..:|  ..:ノ :. ヾ.
 /`'''  、,,,___:ノ \::. :.....:.:ノ::..`'ー::.....;;;_;;:.-‐''....:...:::,>'=、  .::i :.::}
. {:.:. .   ___\   ` ‐-=、:::.:.. ..::r ー-=、.....:...::..::::/      . .:::! :; ::|
 !ー: . /:::___;>┐    \:.. :! ,.-―:‐、:: ,,.:‐''´    . . :__;ノ.イ.:.:| 
 ';.:../:::::/´、   ̄)ヽ. _,r―‐亠- 、!::::::::::::::|「:     . . - '''´. : :丿.:/

543:創る名無しに見る名無し
18/12/25 23:23:22.82 lu0TU7ke.net
「表に取り巻き達を待たせてあるんだ」
そう言うとリウは立ち上がった。
「ララ」
的確にその名前を呼ぶと、
「明日の朝また来るとメイファンに伝えておいてくれ」
リウは重たい足を引きずりながら帰って行った。

544:創る名無しに見る名無し
18/12/25 23:39:21.83 lu0TU7ke.net
次の日の昼前、リウは広州中央警察へシューフェンを迎えに訪れた。
隣には白いブラウスに紺のスカート、ローファーの革靴を履いたメイファンが並んでいた。
白いブラウスの胸には「嵐梅芳(ラン・メイファン)」と書かれた名札が貼ってある。朝、リウが持って来てくれた女子高生の制服セットだった。
中学卒業後、飛び級で大学に入学したメイファンにとって、高校の制服は憧れのアイテムであった。
警察署の奥へ進む際、記名を求められた。
リウが名簿に「劉白龍(リウ・パイロン)」と書くと、その下にメイファンが「乱妹芳(ルァン・メイファン)」と記入した。
それを見てリウが言った。「何だ、ルァンって」
「私の名前だが?」メイファンが答えた。
「お前の姓はランだろう。正しく書け」
「どうでもいいだろ」
「大体これじゃ『乱れた妹の香り』って意味だぞ」
「何かイメージ的に間違いが?」
「……戸籍もこれで登録してるのか?」
「戸籍通りに書くなら『lan mei fang』だ」
「相変わらず漢字ないのかよ!?」
「ないな」
リウは顔を押さえて大笑いした。
「漢字のない名前の中国人なんて恐らくお前一人だぞ」
メイファンは少し懐かしそうに笑った。

545:創る名無しに見る名無し
18/12/26 00:00:35.60 xLIYasjn.net
芋饅顔の刑事と眼鏡カマキリが二人を迎えた。
「そちらは……妹さんですかな?」
そう聞いた芋饅にメイファンがいきなり聞いた。
「ラン・メイファンだ。この名前を知っているか?」
「はぁ? 知らないよ。変な子だなぁ」
「知っておけ。もうじきアイドルデビューして有名人になる」
「ちょっと君は黙っててね。おじさん達、大事な話するから」
そうあしらおうとした芋饅の横から眼鏡カマキリがメイファンに食い付いた。
「アイドルデビューするの、君? 推しメンにするよ! なんかグループに入るの?」
「チンチン・ハオハオというグループでデビューする、たぶん」
「確かに君、可愛いもんねぇ〜! 整形?」
「整形じゃねーよ」
そう言って眼鏡カマキリにグーパンを入れようとした未来を見てリウはメイファンの頭をポンと叩いて止めた。
「ところで例の件ですが……あの、この女の子いてもいいんですか?」
「構いません」リウは答えた。
「では」芋饅は続けた。「起爆装置は……」
「入手できました」
「と言うことは……リウさん! あの黒色悪夢と闘い、勝ったということですか!?」
芋饅は興奮した笑顔で聞いた。眼鏡カマキリも目をキラキラさせている。メイファンは鼻をほじった。
「いえ……」リウは答えた。「兄弟(ションディー)になりました」
「誰が弟だ、誰が」メイファンが唸った。
「凄いな、やっぱりリウさんは。それで黒色悪夢ってどんな人……あぁ! 国家機密なんですよね? 見たいなぁ!」
「お前はメクラかボケ」メイファンが呟いた。
「それで、起爆装置は持って来られたん……ですよね?」
「いいえ」
「は? それを持って来ていただかないことには……」
女性職員がそこにシューフェンを連れて現れた。
「シューフェン」リウは少し怖い顔で彼女を見た。「待たせたね、すまない」

546:創る名無しに見る名無し
18/12/26 01:02:31.33 xLIYasjn.net
「ロン、勝ったわね! おめでとう。TVで観てたわ」
シューフェンは警察で借りたらしい地味な水色のトレーナーに水色のズボンという格好ながら、大輪の花のような笑顔で現れた。
「あ、メイファンちゃんも迎えに来てくれたの? 嬉しいわ」
自分の頭に爆弾を埋め込んだ張本人と知りながら、シューフェンは彼女がリウと並んでいるのを見ただけで本当に嬉しそうに言った。
「警察の方々がよくしてくださって、居心地快適だったのよ」
それは嘘だった。本当は食事も鉄の扉越しに渡される、危険物扱いだった。
「医術班に回してこれから除去手術をしようと思ったのですが」芋饅が言った。「まず起爆装置を処理してからでないと出来ませんね」
「手術のことですが」リウが聞いた。「傷跡は残りますか?」
「鼻から取ることが出来ない場所だそうなので」芋饅は答えた。「どうしても残ります。なるべく目立たないようにはしますが……」
「それを傷跡を残さずやってくれる名医が知り合いにいるので、その人にやって貰いたいと考えているのですが……」
「駄目ですね」芋饅は直立姿勢で言った。「決まりです。危険物の安全な取り外しがまず優先、そしてそれでも爆発の恐れのある手術ですので、こちらの専門医で施術します」
「どうしてもですか?」
「はい」
「やはりこうなったか……」リウはメイファンを見た。「やるしかないな」
「めんどくせ……」メイファンはそう言うと、側のテーブルに置いてあったフランス・パンを手に取った。
リウはシューフェンに近寄ると、素早く抱き上げ、出口へ向かって逃げ出した。
「は!?」眼鏡カマキリが声を上げる。
「ちょっ……ちょっと!!」芋饅が走って追いかける。
「おじさん達、このパンなんだか面白いね!」メイファンはフランス・パンを振り回した。
『気』を込めることにより『何だかよくわからないびよんびよんする武器』に姿を変えたフランス・パンは、刑事達をびよんびよんと攻撃し、足止めした。
「はぁぁ!? 何だ君は!?」
「ラン・メイファンですよ〜。覚えておいてね〜」
フランス・パンは遂に如意棒のごとく伸び縮みを始め、刑事達をポコポコと殴り、バカにした。
「面白ーい、このパン面白ーい」
「ま、待ちなさい! リウさん! 素人が爆発物を処理しようとしては……あぁっ! ポコポコ!」
「素人?」リウはシューフェンを抱きかかえて走りながら言った。「お前らに任せるよりよっぽど安心出来るんだよ、裏の処理屋さん兼外科医さんは、な」
シューフェンはリウに抱きつきながら「フランス映画みたいね!」と楽しそうに言った。
「愛する人に付くかもしれない傷痕の拒否権ぐらい」リウは言った。「自由にさせやがれ」

547:創る名無しに見る名無し
18/12/26 01:53:02.58 xLIYasjn.net
リウは警察署を出ても暫く走り、路地裏に入り、何やらよくわからないファンシーな建物の裏庭に入り込むとようやく足を止めた。
大きな虹のオブジェにミッキーマウスそっくりなキャラクターが何匹も腰かけて愉快に笑っている意味不明な建造物の下にシューフェンを降ろす。
激しく息を切らすリウに抱きつき、シューフェンは頬にキスをした。
「やっぱりあなたは最高ね、ロン!」
「……シューフェン」
「ん?」シューフェンは笑顔でリウの顔を覗き込んだ。
「癌だというのは本当か」
シューフェンの顔からみるみる笑顔が消えた。
「誰から……聞いたの?」
「本当なのかよ……」
シューフェンは暫く何も言わずにリウの顔を曇った顔つきで見つめていた。
やがてその目から涙が一粒落ち、唇が震えはじめる。
リウは怒った口調で言う。「君は僕に対して嘘はつかない人だと信じていたんだがな」
「……ごめんなさい」シューフェンはリウをまっすぐ見つめたまま、美しい顔を涙でぐしょぐしょにした。
「なぜ黙っていた?」リウが怖い目で睨む。
シューフェンは嗚咽で言葉が出せない。
「シューフェン?」
「あな……たの……邪魔をしたくなかったし……」
「邪魔しろよ!」リウは怒鳴った。「そんな邪魔ならするべきだ!」
「それに……」
「何だ」
「……怖かったの」
「何が怖い!」
「幸せな時間が……重苦しい時間に変わってしまいそうで……」
「つまり俺が、君の残りの時間を虹色から灰色に変えるような男だと思ったのか!?」
「……」シューフェンは涙で震える口を押さえた。
「もっと信じてくれよ、俺のこと……」
「……」
「シューフェン、結婚してくれ」
シューフェンは驚いてリウの顔を見た。彼は優しく微笑んでいた。
「あたし……もう……すぐ……死んじゃうの……よ?」
「君を幸せにする」リウはシューフェンの肩を抱いた。
「バカ……なの……?」
「俺のこともいっぱい幸せにしてくれ」微笑むリウの目からも涙が零れはじめた。
「肉が落ちて……バケモノみたいに……なるの……よ?」
「白髪のババァになっても愛してるぜ」
シューフェンはリウの胸に顔を押しつけて泣きじゃくった。
「もう泣くなよ、笑ってくれよ」リウは強く抱き締めると、顔を覗き込んだ。「で? 返事は?」
「こんな私で……」シューフェンは泣きながら笑顔を浮かべた。「本当に……こんな私でよろしければ」

548:創る名無しに見る名無し
18/12/26 02:06:09.71 xLIYasjn.net
「やった」リウは天を見つめて両腕を上げた。
「やったぜぇぇぇ!!」架空の観衆に向かってガッツポーズを決める。
「お前ら! 俺は今、世界一愛する女性にプロポーズをし、OKを貰ったんだ!」
シューフェンは涙を拭きながら可笑しそうに笑う。
「散打王リウ・パイロンと大物新人女優リー・シューフェンの結婚だぞ! 式は派手にやるからな! お前ら全員来いよ! わかったかぁぁ!?」
ひとしきりおどけると、リウはシューフェンの前に戻り、嬉しさに身を震わせて抱き締めた。
虹のオブジェの上でミッキーマウスもどき達が笑っていた。

549:創る名無しに見る名無し
18/12/26 04:44:13.44 8P9KKbAi.net
「あが、あほ、みろり…」
施設の一室でひとりの男がベッドに仰向けに横たわっていた。男の目は虚ろで焦点が合ってない。半開きの口からはよだれが出て、訳の分からないことを呟いている。
この下着姿の童顔男はリー・チンハオ、通称ハオ。冴えないが一応の主人公だ。
「あが、あほ、みろり、ほれんじ…」
彼がこのようになってしまった理由は2つある。
恋人があと余命僅かであり、散打(中国の格闘技)のチャンピオン…リウ・パイロンにとられてしまったという事実を聞いてしまったこたと、
ハオもがんばってこのリウを倒し、
散打王になるべく修行を積み戦いを挑んだ。
しかし、結果は惨めなものでハオはリウに攻撃すること自体許されず、
顎も闘志も打ち砕かれ、圧倒的実力差を感じ絶望した。

550:創る名無しに見る名無し
18/12/26 06:49:16.99 ceHNa2ux.net
超人オリンピックも終わり彼らも所々に散っていった。
そして師走。私が見たものは!?
学校の旧校舎にある裏山に大きな風穴が出現した。
巨大な穴からは夥しい瘴気が放たれていてとても近づけない
ギギ…ガガ…キー
突如、不快な金属音のようなものが鳴り響き私は耳を手で覆った。
「な、何なんだ、これは…」

551:創る名無しに見る名無し
18/12/26 16:38:05.36 xLIYasjn.net
ドナルド・トランプは食堂でチャイニーズ・セットAを食べていた。
「このエビチリソース旨いぞコラ」
傍らにはアメリカが誇るS級工作員グリーン・スネークが立っている。
「スネークよ、お前はブラック・ナイトメアを仕留め損ねたコラ」
「申し訳ありません、プレジデント」
「しかし、でかした。お前が持って帰ったものは素晴らしい土産だコラ」
スネークは得意げにニヤリと笑った。
トランプはテーブルに並べた3枚の写真を眺める。その2枚には黒色悪夢ことラン・メイファンの姿がはっきりと写っていた。
「しかし音に聞こえたブラック・ナイトメアがまさかこんな……」トランプは顔のアップ写真を手に持った。「可愛いなコラ!!」
「しかし女の匂いのまったくしない女で……」とスネークは言いたかったが、余計なことは言わず黙っていた。
「しかしこんなカワイコちゃんが本当にそんなに強いのかコラ?」
「そっ、それはもう……」あの二人のバトルを思い出してスネークはガクガクと震え出した。「バケモン並みに」
「で、もう1枚の写真は誰なんだコラ?」
トランプは残る1枚の写真を手に取った。そこにはロングフックを放つリウ・パイロンの姿が写っていた。
「正体はわかりませんが黒色悪夢と闘っていたメカゴリラみたいな男です。こいつも恐ろしく強く……」
スネークは思い出し、ズボンの前をちょっと濡らした。
「ふーん。さすが中国、何が棲んでるやらわからん原始の森みたいなところだねぇ」
そう言いながらトランプはしばらく赤いトランクス姿のリウの写真を見ていたが、やがて激怒するように叩きつけた。
「男の裸に興味はないんだコラ!」
「HAHAHA ! 」スネークが愛想笑いをした。
「しかしこれで黒色悪夢を確実に消せるな。早速アレの準備をしろコラ」
「はっ! ところでメカゴリラのほうはどういたしましょう?」
「お前が脅威を感じて写真を持って来るぐらいだからそいつも十分危険人物だ。殺しておけ」
「はっ!」
そしてトランプは瓶から直接コカ・コーラをぐびぐび飲むとキメ台詞をキメた。
「スカッと爽やかコカ・コーラだコラ!」

552:創る名無しに見る名無し
18/12/26 17:08:55.50 RN5nK2DT.net
しかしそこへヒラリーがやって来てこう言った、

553:創る名無しに見る名無し
18/12/26 17:15:24.91 JenpUNnz.net
「コイツ、ほんとに大統領?」

554:創る名無しに見る名無し
18/12/26 17:58:09.69 RN5nK2DT.net
ほんとにニセモノだった。

555:創る名無しに見る名無し
18/12/26 21:11:06.12 IiwP6cQE.net
本物のトランプ大統領は飯など食っている場合ではないほど多忙だった。

556:創る名無しに見る名無し
18/12/26 21:52:54.39 xLIYasjn.net
ハオは持ち前の恐ろしいまでのプラス思考をふんだんに用いて立ち直った。
「シューフェンが癌だって? ……」
ハオは暫く考え込んでから、言った。
「癌は治る病気です! って言うよね?」
「シューフェンがリウ・パイロンと出来たって? ……」
ハオは何かを思い出しながら、言った。
「だからそれ、デマだってばw」
「俺はリウ・パイロンに負けた……。それは事実だ」
ハオはその時のことを思い出しながら、言った。
「でも俺って『これからの人』だろぉ?」
「『これからの人間』が一番恐ろしいんだぜぇ?」
ハオは一月一日が誕生日であり、もうすぐ30歳であった。
「何かを始めるのに『早い、遅い』なんてない!」
一部の天才のみに当て嵌める真理であった。
「うるさいな『地の文』! お前だって$」
ハオは地の文が深く傷つく言葉を並べ立てた。
「さぁ〜! ……ってことで、これから何しよっかなぁ〜」
ふと気がつくと施設内には人の気配がなかった。
メイファンも今朝どこかへ出掛けて行った。
「あれ?」ハオはひとりごちた。「これって逃げれるじゃん?」
しかしお金が一銭もなかった。
メイファンの部屋を漁ろうと思ったが鍵がかかっていた。
習近平の部屋に入ろうとしたらセキュリティ・アラームが鳴り出した。
「うーん?」
自分の部屋のTVでも質屋に売ろうかと思ったが面倒臭かった。
「寝るか?」
ベッドに寝転んだところで枕元の自分のスマホに気がついた。

557:創る名無しに見る名無し
18/12/26 23:06:27.79 xLIYasjn.net
ハオはスマホを持って外へ出た。
玄関先程度ではまだ検閲プログラムの圏内であるらしく、メールを送信しても帰って来た。
スマホを持ってどんどん歩いた。『施設』がどんどん小さくなり、やがて見えなくなった。
住宅街を抜け、市場を抜け、古都西安の由緒ある町並みに足を踏み入れた時、ようやくスマホが何かを受信した。
ウィーチャット(中国のLINE)のメッセージ受信画面に「樹芬(シューフェン)」の白い文字がピンク色のハートマークとともに表示されていた。
「やったぞ!」
浮かれ気分でそれを開こうとすると、またシューフェンからのメッセージが入って来た。
「あっ?」
次々と入って来た。止まらなかった。
ハオはそのいつ終わるかわからない連続受信を、鳩の群がる公園で、うきうきしながらずっと見つめていた。
「な? やっぱりシューフェンは俺の彼女だろ?」
153件目を最後に受信ラッシュは止まった。ハオは始めから読み始める。
最初のほうは「生きてる?」「無事?」「どこにいるの?」等、短いメッセージばかりだったが、
毎日必ず一通ずつ送信されており、ハオはそれらを恥ずかしいほどの笑顔で隅々まで読んだ。
やがてシューフェンが女優になれるチャンスを掴んだ頃から長文の報告メッセージが多くなった。
『ハオ、聞いて聞いて〜!(絵文字)凄いことがあったのよ!(絵文字)何だと思う?(絵文字)ヒントは(ツイ・ホーク)。そして(映画)。最後に(主演女優)。
これだけで分かったらアンタのこと逆に(え。本当はデキる奴だったの!?)って怖くなるわ……(青ざめた絵文字)』
ハオはハハハと口に出して笑いながら読んだ。
しかし映画の撮影が始まってからメッセージは3日に一通程度にペースが落ちる。
「忙しかったんだなぁ。しょーがねぇよな、許す!」
それが3ヶ月前からは2ヶ月以上に渡って一通も届いていなかった。
「……」
しかしこの10日以内になると、5通も届いていた。ハオは喜んでそれを読む。
『潰れそう』
『ロンがね、側にいてくれないの。(ずっと側にいる)って言ってくれたくせに』
『ハオでもいいから側にいて欲しい』
『最近、ハオとのこと、よく思い出すよ。ハオはあたしが一番落ち着ける場所だったね』
それが二日前。
そして一番新しいメッセージは、今日だった。
『ロンと結婚します』
「は?」
ハオは最後のメッセージを何度も何度も読んだが、意味が取れなかった。
「は? は?」
思わずシューフェンに電話をかけた。
呼び出し音が鳴る。相手は出ない。
ドキドキしながらハオは直立不動で待った。
7ベル目で繋がった。「……もし……もし?」
電話の向こうで女の声が言った。
「やかましいわ、このカスが!!!」
「は? は? シュー……誰?」
「師匠の声もわからんのか。糞弟子」
「メイファン!? なんで!?」
「今、シューフェンは麻酔が効いて眠っている」
「な……なっ!? 今度はシューフェンに何をするつもりだ!? 解剖か!?」
「アホ。頭の爆弾これから取り除くんだよ。今、西安は○○街の海亀歯科にいる。シューフェンに会いたけりゃ、来い」

558:創る名無しに見る名無し
18/12/26 23:39:03.39 xLIYasjn.net
「リー・チンハオからか」
手術衣を着たリウが言った。
「あぁ、ここに来るかも知れん」
同じく手術衣姿のメイファンが準備を始める。
手術台には髪を上で束ねられたシューフェンが仰向けに寝ている。
「どんな奴だか見てみたくはあった」
「本当に見るのか?」
「? 見たらいけないのか?」
「いや、手術を」
「あぁ」リウは少しイラッとした顔をしてから言った。「ちゃんと除去するのを見届けたいからな」
「脳味噌でるぞ?」
「自分のを見たことがあるぐらいだから大丈夫だ」
「そうか」
と言いながらメイファンは猿の玩具のシンバルを指で挟み、回転させるとちょうど歯医者さんの使うドリルのようにキュンキュン音が鳴りはじめた。
それをシューフェンの頭に緊張感も何もなく当てると、スイスイと肉が切れた。リウが少し「うっ」と言った。
「立ち会い出産でインポになる旦那、多いそうだぞ」メイファンが手術を進めながら言った。「インポにはなるなよ?」
パカッとシューフェンの頭が蓋のように取れ、鮮やかな色の脳味噌が露になった。
リウはなにやら興奮しているようだった。
メイファンは左側側頭葉に貼り付いている小さな黒いセロファンテープのようなものをペロリと取ると、すぐに蓋をかぶせ、白い手を当てた。
「終ーわりっ」
わずか1分もかからず手術は終了した。
血の1滴も出なければ傷跡もまったく残らなかった。
リウはマスクを外した。ハァハァ言っていた。

559:創る名無しに見る名無し
18/12/27 05:13:35.49 5AnEyMlF.net
虚勢をはって、前向きになっていたハオもあの一文には耐えられず
うつむきその場にペタりと座り込んでしまった。

560:創る名無しに見る名無し
18/12/27 06:28:59.88 Qrxyx0At.net
「オーマイガッ」
ハオはその声を聞くと顔を上げた。
あたりを見渡すと通行人たちが
「オーマイガッ」と叫んでいる。
「・・・なんだこれ」
ハオは不気味に感じその場を立ち去るために走り出した。

561:創る名無しに見る名無し
18/12/27 14:17:25.93 fpIUUBUu.net
「メイ、ララ、ありがとう」
そう言うとリウは頭を深く下げた。
「ララなんて人間はいないんじゃなかったのかよ」
メイファンがその頭を踏みつけながら笑った。
「いや、認めるよ」リウはメイファンの足を掴もうとしたが、逃げられた。「考えたらお前は何でもアリだからな」
「今さら認められてもな……なぁ、ララ?」
ララは何も答えなかった。
「ララ?」
最近ララはなぜかとても物静かだった。いつものお喋りララがどこかへ行ってしまっていた。
ララの沈黙の意味を何となく読み取ってメイファンは言った。
「言っとくがな、リウ・パイロン。お前のために手術したんじゃねーからな」
「わかってるよ。愛弟子のためだろ」
「そうだっけ?」
「そうだろ」
「うーん。考えたらよくわからなくなった。何のために爆弾除去したんだっけ。わからんから、戻すか」
「殴るぞ」
メイファンはケラケラと笑った。
「ところでお前、俺のことリウ・パイロンなんてフルネームで呼ぶのやめろ」
「じゃあ『メカゴリラ』でいいか?」
「昔みたいにまた『お兄さん』って呼べよ」
「そんな呼び方をした記憶はないな」
「じゃあ何て呼んだ?」
「『お兄ちゃん』だろ」
「よし、呼んだな?」リウは満足そうにニヤリと笑った。
「……糞くだらねー」
「もっと呼んでくれ」
「馴れ合おうとすんな」メイファンは厳しい口調で言った。「私達とお前は敵同士なんだ。今日別れ、明日もしまた出会ったなら殺し合いをする……」
「そうか。なら言いにくいな」
「な、何をだ」
「お願いがあるんだが」
「言ってみろ」
「無理だと思うが」
「いいから言ってみろ」
「お前のいる『施設』に暫くシューフェンと住ませて欲しいんだ。無理を言うようだが」
「うん、いいよ」
「俺は恐らく警察から指名手配されている。爆発物秘匿か何かの罪でな。だから暫くの間隠れ場所が欲しいんだ」
「だから、いいってば」
「『施設』なら警察の手は届かんし、俺もお前がいればトレーニングには困らんし、何よりシューフェンが最高の医療を受けられる」
「わかったから、来いよ」
「……なんて、お前の都合も考えない勝手なお願い……やっぱり無理だよな?」
「聞こえててわざと言ってるだろ!!」
リウは瞑っていた目を開くと悪戯っぽく笑ってから両手を前で合わせてお辞儀をし、感謝の意を示した。
「メイ」メイファンの口からララの声がした。「説教部屋へ行って」
「ここ海亀先生の病院だぞ」メイファンはそう言いながらも歩き出した。「喫煙室でいいか?」


次ページ
最新レス表示
スレッドの検索
類似スレ一覧
話題のニュース
おまかせリスト
▼オプションを表示
暇つぶし2ch

1663日前に更新/652 KB
担当:undef