【ファンタジー】ドラ ..
2:創る名無しに見る名無し
18/07/25 09:27:04.42 N0Oz+vTa.net
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3:創る名無しに見る名無し
18/07/26 08:02:08.75 7uymYBwU.net
ラテは荒らし
4:創る名無しに見る名無し
18/08/15 22:03:07.57 Zg2mPttR.net
カスレイブは公害
5:創る名無しに見る名無し
18/08/16 07:56:37.35 1LqXbqOf.net
二匹ともウンコという名の同じ穴から出てるからな
6:
18/08/25 00:03:20.94 150eu5rH.net
「グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
光は爆発的に膨らみ、収束し……すぐに、一つの形を得た。
眩い輝きを放つ……巨大な竜の姿を。
「そんな……光竜は、虚無に飲まれていたはずでは……」
ぱらぱらと、礼拝堂の外に砕けた甲冑の破片が降り注ぐ。
それらは急速に、虚無特有の、無であるが故の黒色に侵食され……消滅していく。
……馬鹿な。そんな馬鹿な。
だとしたらあの甲冑は……エルピスが、虚無に飲まれる事から逃れる為に纏っていた?
何故、どうして。何が……一体、何がどうなっているんです……。
「ふざけるな……ふざけるなよ、ティターニア……」
エルピスが呻く。
光り輝くその巨体には、しかし所々に黒が、虚無の黒が滲んでいる。
特に、頭部には……顔の右半分を覆うほどの虚無が。
「この期に及んで、そんな手緩い攻撃があるか……」
エルピスは牙を食い縛りながら、苦しげな、しかし怒りの宿った声で、そう言いました。
「……それとも、あれがお前の全力だったのか?指環の勇者よ。
だとしたら……やはりヒトとは、我らが支配し、導いてやらねばならないんじゃないか?
なあ……イグニス。アクア。テッラ。ウェントゥス」
ふと、フィリアさんの背後に陽炎が揺れる。
彼女の両肩に手を置くようにして現れるのは……炎竜イグニスの幻体。
『またその話か、エルピス。何度言われようと妾達が考えを変える事はない。
此奴らは、ヒトは、妾達の力などなくとも無事にやっていける』
「……本当か?」
『くどいな。時間稼ぎのつもりなら……』
「本当に、そいつらは……ヒトは、ヒトだけで大丈夫なのか?何故そんな事が言い切れる?」
『……エルピス?』
……再び問いを発するエルピス。
その声音は……どこか、奇妙な響きを含んでいました。
ヒト達を信じる四竜を嘲り、否定していると言うよりかは……まるで……。
7:
18/08/25 00:03:46.36 150eu5rH.net
「いいや、誰にもそんな事は分からない。だから私は、この世界を滅ぼす……違う!」
「……っ!」
突然、エルピスが叫び声と、苦悶の呻きを上げました。
「違う!違う違う違う!私は!私は……!」
そして両手で頭の右半分を抑え……光が爆ぜる。
続くのは、焼け付くような音……。
「……出てこい。指環の勇者よ。お前達ごと、その建物を薙ぎ払われたくはないだろう」
再び私達を見下ろしたエルピスの顔面からは……虚無の黒が消えていました。
光の魔力で、強引に虚無を祓い退けた……?
……駄目です。理解出来ない事ばかりで、思考が追いつかない。
『……お前が何を考えているのかは、正直分からん。だが……やるだけ無駄だ。
我ら四竜の指環を前に、お前がたった一頭で何が出来る?』
「……知りたいか?」
エルピスがそう呟いた瞬間……その両翼に、膨大な光の魔力が宿る。
翼が一度ばさりと羽ばたくと、閃光が五回、周辺の地面を走る。
そしてその跡から、天へと続く光の壁が立ち現れる。
これは……結界?
……ただ、通過を遮るだけの障壁ではないはず。
恐らく、何か特殊な式が……
8:
18/08/25 00:06:26.25 150eu5rH.net
「イグニス様?……イグニス様!?一体どうしたんですの!?」
不意に、フィリアさんが声を上げた。
焦りと、驚きに支配された声……。
「アルマクリスさん?アドルフさん?……これは、まさか」
「……メアリさんも、駄目みたい」
……指環と、意思疎通が出来ていない?
まさか、この結界は……。
「単純な力量を比べるだけならば、私がお前達に勝てる道理などない。
だが……お前達は、竜。そして、死者だ。ヒトより隔てられるべき魔の者だ。
であれば……このような事が可能という訳だ」
……やられた。
光の持つ……魔を退ける力。そして七色に分離するという性質。
その力を以って……指環に宿る者達と、私達を、分離させられたんだ。
彼らは今、結界の外か。いえ……この結界の中にだけ二つの位相が創り出されているのか……。
……駄目だ。複雑過ぎる。
光を司る竜が創り出した、起死回生の結界。
いくら私でも、簡単には解析出来ない……。
それに、そんな暇を、エルピスが与えてくれる訳がない。
「さあ……来い。指環の勇者よ。イグニスの、アクアの、テッラの、ウェントゥスの言葉を、真実にしてみろ」
つまり……
「やるしかない……みたいですね。私達だけの力で」
言うや否や、私は魔導拳銃を抜き、その銃身に刻み込まれた術式を行使。
『スプリンクル・ミスト』……周囲に魔法の霧が散布される。
エルピスの光魔法、予見能力を、これで少しでも妨害出来ればいいんですが……。
「……すみませんが、気安く大魔法をぶっ放すような真似は出来ません。
魔法の発動を予知されて、狙い撃ちされたら……庇う側が大変でしょう?」
なんて、冗談を言っていられる余裕も、そろそろ無くなりそうです。
……エルピスの翼に、再び光の魔力が集っていく。
「『プロテクション』は張りますが……私一人で防ぎ切れるなんて事は、期待しないで下さいよ!」
そして、無数の閃光が降り注ぐ。
【指環は輝きを失って沈黙している……。
黒狼騎士サイドまでは書いてる余裕がなかったよう……】
9:スレイブ
18/08/29 05:21:35.98 +RScdwK+.net
要塞城内で発生したクーデター。
皇帝は聖女と共に教皇庁へと軟禁され、教皇庁は元老院急進派によって占拠されている。
しかもその一件には、帝国最強戦力の中でもさらに最強を誇る黒狼騎士が絡んでいると来た。
矢継ぎ早に降りかかる雪崩の如き火の粉に、スレイブは目眩を覚えた。
しかし一方で、少なくとも勇者達にとって状況はそこまで致命的ではないと感じる。
帝国内の内ゲバも、黒狼騎士とやらの凱旋も、極端なことを言ってしまえば。
―指環の勇者とは何ら関係のない、対岸の火事に過ぎないからだ。
無論、渦中に立たされたアルダガは最早他人ではないし、その窮状に同情もある。
ティターニアにとっては帝国の皇帝も、見捨てておけるような仲ではないだろう。
しかしそれだけだ。世界の存亡を賭けた戦いよりも優先する理由は見当たらない。
「馬鹿馬鹿しい。そんなに足の引っ張り合いが好きならお互いを滅ぼすまで続ければ良い」
目下スレイブ達が救うべきは帝国ではなく世界。
倒すべきは堕ちた光竜エルピスであって、帝国最強の黒狼騎士などではないのだ。
クーデターにエルピスが絡んでいるにせよ、元老院の戦力と真正面からぶつかり合う必要はあるまい。
現段階で要塞城からの脱出が可能であるなら、すぐにそうすべきだ。
スレイブは至極まっとうな結論を帰結して、アルダガの差し出す指環を受け取ろうとした。
伸ばしかけた手は、しかし振り返ったシャルムの声によって止まる。
>「ディクショナルさん……これは、あなたが預かっていて下さい。
もしこの指環に特別な力があるなら……あなた達が持っていくべきです。
……いえ、訂正します。あなたが、その力に守られて欲しい」
まるで形見分けのように手渡される無色の指環に、スレイブは泡を食った。
「待て、待て!まさか、あんたも教皇庁の奪還に出向くつもりなのか……?
クーデターへの対処は神殿と黒騎士の領分だ、"俺たち"の出る幕じゃない」
シャルムの大本の目的が『指環の勇者への同行』である以上、彼女は勇者達と行動を共にすると思っていた。
想定していなかった彼女の反応に、焦りが本音を口から滑らせる。
「それに……危険過ぎる。星都で黒蝶騎士や黒鳥騎士の戦いを見ただろう!?
教皇庁で待ち構える黒狼騎士は、連中以上の実力者……例えあんたの適正拡張術式でも……!」
人越者達の争いの渦中に飛び込めば、生きて戻れる保証はない。
むしろ、黒騎士同士の戦いに巻き込まれて討ち死にする公算の方が高い。
スレイブの言葉を選ばない説得は、しかし虚しく空を切る。
分かりきった彼我の戦力分析など、とうの昔にシャルムは覚悟の上だった。
10:スレイブ
18/08/29 05:22:02.95 +RScdwK+.net
>「もし、その指環が本当にただのアクセサリーだったなら……戦いが終わった後で、返して下さい」
>「あなたが、私の指に。……お願い出来ますか?」
再び踵を返した彼女の背中に、それ以上スレイブは何も言葉を次げない。
例え死地に赴くのと何も変わらなくても、それでも彼女にとって、帝国は命に代えても護るべきものなのだ。
スレイブが喉を詰まらせていると、アルダガから指環を受け取ったジャンがそれを彼女の手に戻す。
そして何をするかと思えば、アルダガの額を指で弾いた。金属をぶん殴ったような音がした。
「ふぎゃんっ」
手加減はあるとはいえ、ハーフオークの膂力だ。アルダガは短い悲鳴を上げて仰け反った。
おそらくアルダガでなかったら首から上が吹っ飛んでいる。
「ジャ、ジャンさん!なにを―」
>「帝都一つ救えない奴に世界が救えるかよ。
エルピスの野郎が関わっている以上、俺たち指環の勇者の出番だ」
ジャンの言葉に、ティターニアも同調する。
>「別に帝国のためというわけではない。 エルピスは行方知れず、慌てて帝都を脱出したところで手掛かりはないのだ―
これだけ分かりやすいとっかかりがあるのだから行くしかなかろう。 それに……皇帝殿とは先代同士が共に旅した仲だしな」
アルダガはしばし目を白黒させたあと、なにが可笑しいのか小さく吹き出した。
「……頭部を打撃されるのは、これで二度目です。ふふっ。
カルディアで初めて会ったあのときから、本当に色々ありましたけれど……人の良さだけは、何も変わっていませんね」
スレイブはなにも言えなかった。頭を抱えたい思いだった。
そうだ。それこそ分かりきっていたことじゃないか。彼や彼女が、仲間の窮地を尻目にイモを引くわけがないと。
スレイブは目頭を揉み、確認しておくべきことを端的に口にした。
「……水を差すわけじゃないが、分かっているんだろうな?
エルピスがこの件に噛んでいるとすれば、これは十中八九"誘い"だ。
わざわざ指環を揃えて持っていくなど、それこそ奴の思う壺だぞ」
その問いに、答えなど必要ない。
如何なる深謀遠慮が巡らされていようとも、万人を救うというその姿勢に変容はないと。
これまでの旅で十分すぎるほど理解していた。
なんだか全身の力が抜けていくような感覚にうつむくと、膝を折っていたシャルムと目が合った。
11:スレイブ
18/08/29 05:22:27.05 +RScdwK+.net
>「……何してるんですか。早く立たせて下さいよ。どうせあなたも、やめようって言ったって聞かないんでしょう?」
「俺は止める側の人間だと思っていたんだがな……まあ良い。
へたり込むあんたを立ち上がらせるのも、もう慣れたものだ」
ばつの悪さをごまかすように皮肉を垂れて、スレイブはシャルムに手を伸ばす。
そこで、先程シャルムから手渡された指環がまだ手の中にあることに気がついた。
>「それと……さっきの指環、やっぱり今返して下さい。ほら、ここですよ」
「ん。ああ、それは構わないが……」
差し出されたシャルムの手。その指先に、スレイブは無色の指環を嵌める。
そして彼女の手を握り、立ち上がらせた。
「誤解のないように言っておく。ダーマ人の俺にとって、帝国のお家騒動なんてどうだって良い。
皇帝陛下や聖女猊下に恩を受けた覚えもなければ、取り立てて助けに行くような大義だってない」
ダーマの軍人としては、むしろ帝国が揺れている現状の方が都合が良いとさえ言える。
大陸が帝国によって支配されていないのは、ひとえにかの国の政情不安定によるところが大きいからだ。
だから、スレイブにとって皇帝を救うことは利敵行為、ダーマの寿命を縮めることに他ならない。
「だが……あんたが大切にしているものなら、俺もそれを大切にしよう。
あんたの護りたいものを、俺もまた護るために死力を尽くす。大義は、それで十分だ」
シャルムの手を放し、空いた手に拳を握って、彼は言った。
「帝都を救おう。エルピスの描いたこの下らない絵図を、今度こそ終わらせるんだ」
不意に脇腹を突く感触を得て視線を下げると、ウェントゥスがニヤニヤしながら肘打ちをしていた。
「お主さぁ……素でやっとるのそれ?マジ対応なの?儂ドン引きなんじゃけど」
「何がだ」
「いや指環、指環。儂ドラゴンだけど人間の風習くらいは知っとるぞ。
ふつーはな、何も思っとらん相手の指に直接指環嵌めたりはせんからな」
ウェントゥスの持って回ったような言葉にスレイブはナチュラルに首をひねった。
「………………あっ」
そうしてしばらく黙考して、ついに致命的な己のやらかしに思い至った。
「うっぐ、ぐああぁぁぁぁぁぁ……!!」
耳の先まで真っ赤にして、スレイブはしばらくその辺の壁に頭を打ち付け続けた。
どれだけ衝撃を与えても、脳から記憶は飛んでいかなかった。
・・・・・・―――
12:スレイブ
18/08/29 05:22:47.73 +RScdwK+.net
教皇庁への道中、急進派の手駒と思しき兵士達の迎撃を受けた。
しかし飛来する矢も、空を奔る雷撃も、アルダガや指環の勇者一行を打ち据えることはなかった。
まるで引力でも発生しているかのように、黒亀騎士ヘイトリィの黒甲冑にすべてが吸い込まれていく。
「"流矢の呪い"……と、言うらしいです」
ヘイトリィを文字通りの矢面に立たせながら、アルダガは勇者達へ向けて簡潔に伝えた。
「司法局の捜査官だった黒亀殿は、数年前に帝都であった大規模な呪詛師の摘発の際に、試作段階の新型呪詛を受けたそうです。
以来、彼の立つ戦場ではあらゆる矢や魔法が因果を捻じ曲げ、彼を殺す軌道を取るようになったと。
彼はその呪いを鎧で身を固めることによって克服し、全ての攻撃から仲間を護る盾として己を完成させました」
飛んでくる攻撃はもはや波濤を越えて嵐の様相を呈しているが、ヘイトリィに堪える様子はない。
大陸最高硬度を誇るブラックオリハルコンの鎧と、彼自身の防御術式によって、完全に威力を殺しているのだ。
「呪いは味方側から放つ飛び道具にもはたらきます。投射系の魔法を使う際は注意してください」
やがて一行は教皇庁へとたどり着く。
庁内をさまよう影は、赤黒く乾いた血に塗れた死体。アンデッドだ。
血生臭さい風が頬を叩いて、アルダガは小さなうめき声を漏らした。
「セルビス殿、シスター・アレッサ、アトル……」
侵入者に気づいたアンデッド達は、もはや意志の光を失った相貌でアルダガ達を射すくめる。
捻じ切れる寸前の首から上、その顔のひとつひとつを、アルダガは良く知っていた。
急進派率いる黒狼騎士によって蹂躙され、奮戦虚しく命を落とした教皇庁の戦闘修道士達。
彼らは、アルダガと同じ食堂で糧を得てきた掛け替えのない同僚達だ。
彼らの亡骸に、五体の形を保っているものは一つとして存在しない。
黒狼騎士の内包する暴力のおぞましさを、死体の損傷が物語っていた。
アルダガは静かに両手を組み、彼らの冥福を聖句に祈った。
「女神の子よ。その魂を縫い止めし縛鎖を砕き、天界の導きを与えん―『アレフマイル』」
アルダガから放たれた光に照らされたアンデッド達が、糸の切れた人形のように崩れ落ちていく。
聖教式の魂魄浄化神術だ。アルダガは祈りと共に瞑目していた双眸を開く。
仲間を救えなかった悔恨。亡骸を弄ばれた怒り。それらないまぜになった感情を、吐息に変えて冷静さを保つ。
「戦う理由が一つ、増えました」
阻む者のいなくなった教皇庁を進めば、最奥の礼拝堂が見えてくる。
そこで待っていたのは、黒狼騎士ランディ・ウルフマンと―ぼろぼろの鎧に身を包んだ巨大な騎士。
ティターニア達の反応を見るに、あれが光龍エルピスなのだろう。
>「何故そいつに協力する!? 皇帝殿と聖女様をどうする気だ!?」
ティターニアの問いに、黒狼騎士は何も答えない。
そして再び邂逅した者たちにそれ以上の言葉は要らず、戦いは感慨を介さずに始まった。
>「君達はあの者を!」
疾走する黒狼騎士を、ヘイトリィが迎え撃つ。
そこへ畳み掛けるようにシェリーとジュリアンが矢と氷柱を射掛け、エルピスから黒狼を切り離すことに成功した。
>「……ところでそなた、その鎧の下はどうなっておるのだ? そりゃあああ!!」
すかさずティターニアが跳躍し、杖先に作り上げた魔力塊でエルピスを打擲する。
エルピスは激昂の叫びを上げ、大剣を振りかざしてティターニアを両断せんと迫った。
13:スレイブ
18/08/29 05:23:31.67 +RScdwK+.net
規制解除
14:スレイブ
18/08/29 05:23:50.58 +RScdwK+.net
「ティターニアさん、身を低く屈めてください!」
ティターニアの背後から飛び出したアルダガは、身体強化の聖句を刻みながらメイスを軋むほど握りしめる。
「まずは一発……ぶん殴ります!!」
身に滾る怒りを膂力に変えて、力任せのフルスイング。
うなりをつけて弧を描いたメイスは、エルピスが防御に構えた大剣を半ばから叩き折って、その奥の兜を真芯に捉えた。
常人であればたとえ甲冑に護られていようが兜ごと頭部を粉砕する一撃だ。
頑健な光竜と言えども少なからぬダメージを負ったのか、エルピスは大きくのけぞった。
宙を舞った大剣が礼拝堂の床に突き刺さると同時、シャルムの魔法によって床から萌え出た石柱がエルピスの胴を強かに打撃した。
渾身のメイスと死角からの石柱。
二段構えの連携攻撃は二撃ともがクリーンヒットし、エルピスの巨体が放物線を描く。
耳障りな轟音を立てて、礼拝堂の壁にエルピスが埋まった。
身体ごと持っていかれそうなメイスの慣性を、アルダガは床に足が刺さるほど強く踏みしめて殺す。
エルピスは這々の体で壁の穴から出てきた。
>「馬鹿な……あまりに、呆気なさ過ぎる」
初撃はこれ以上ないほどに決まり、エルピスを瀕死にまで追い込んだ。
しかしシャルムの懸念の通り、事態はまるで楽観視などできはしない。
指環の勇者を二度欺き、帝都を存亡の危機へ陥れた邪竜にしては、あまりにも手応えが不足していた。
「気配が膨れ上がっています……次が来ますよ!」
>「グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」
咆哮に伴って、エルピスの四肢に亀裂が入り、甲虫の脱皮のように内容物が膨張していく。
仄暗い光と共に鎧の中から生まれ出たのは、一匹の竜の姿だった。
>「ふざけるな……ふざけるなよ、ティターニア……」
本来の形態を取り戻したエルピスの声には、海溝よりも深い怨嗟が満ちている。
光竜、と言うにはあまりにも黒く、暗い体躯は、ところどころに虚無の侵食が見て取れた。
>「違う!違う違う違う!私は!私は……!」
エルピスは自問自答のような、会話の体を為さないつぶやきを漏らす。
やがて己の頭に爪を突き立てたかと思うと、頭部を覆っていた虚無が光に追い立てられて消し飛んだ。
>「……出てこい。指環の勇者よ。お前達ごと、その建物を薙ぎ払われたくはないだろう」
あまりにも要領を得ない問答の末に、冷静さを取り戻したエルピスが吠える。
翼が幾度かはためいたかと思うと、アルダガ達とエルピスとを囲うように結界が展開した。
「これは……!?」
アルダガが困惑を声に出すと同時、スレイブが指環を掲げて叫んだ。
「このまま奴に主導権を握らせるのはまずい……!ウェントゥス、防御術式を―ウェントゥス?」
指環からの応答がないことにスレイブが戸惑うと同時、ラテやシノノメからも同様の声が上がった。
アルダガも己の手にある指環を見る。本来あるはずの淡い輝きが失われ、指環は沈黙していた。
15:スレイブ
18/08/29 05:25:16.57 +RScdwK+.net
>「さあ……来い。指環の勇者よ。イグニスの、アクアの、テッラの、ウェントゥスの言葉を、真実にしてみろ」
「指環との契約を……断絶させられた……!?」
>「やるしかない……みたいですね。私達だけの力で」
シャルムは諦念したように言ってみせるが、それが如何に無理難題であるか、彼女自身がよく知っているはずだ。
魔物と戦うのとはわけが違う。相手は世界を司る四竜三魔、指環の竜だ。
同じ指環の力なしに、エルピスと戦うことなどできるのか。
光竜の翼に魔力が収束していく。
全竜がそうしたように、あの魔法はたやすくアルダガ達を打ち据えることだろう。
>「『プロテクション』は張りますが……私一人で防ぎ切れるなんて事は、期待しないで下さいよ!」
絶望への前途に時を数える余裕などあるわけもなく。
覚悟を決めるより早く、破壊の雨が降り注いだ。
シャルムの展開した防護障壁は瞬く間に削れ、そして爆ぜ割れた。
「十分だ。一瞬でも攻撃魔法を遅滞させられるなら、あとは俺がどうにかする」
慄然と立ち尽くすアルダガの脇を抜けるようにして、スレイブが前に出た。
彼は左手に臙脂色の短剣を構え、その切っ先は障壁を穿つ光の雨に向いていた。
「―呑み尽くせ、『バアルフォラス』」
障壁を突破したエルピスの攻撃魔法は、スレイブの掲げた短剣の刀身へと残らず吸い込まれていった。
「指環なんてチャチな玩具がなくたって、俺たちは貴様を倒すぞ光竜エルピスッ!
竜の力に頼らなくても、人間の可能性の先へ辿り着いた者を、俺は知っている!」
瞬間、スレイブが右手で振るった長剣から放たれた閃光が、エルピスの翼を灼いた。
「証明してやる。指環の勇者とは、指環の力を振るう者達のことなどではない。
その力で、指環を手に入れてきた者たちのことを勇者と呼ぶのだとな―!」
スレイブが啖呵を切る一方で、アルダガもようやく自分のやるべきことを理解した。
指環の力を使わずとも、ヒトは竜に勝てる。それを証明し、エルピスに敗北を認めさせる。
『ティターニアさん、聞いてください』
アルダガは神術の糸をティターニアへと接続し、彼女に声を送った。
『もう一度、ディクショナル殿が光竜の魔法を吸収したら……拙僧が中継し、エルピスの魔力を貴女へ届けます。
貴女の魔法で、この因縁に決着を付けてください』
それだけ言うとアルダガは念信の糸を切り、メイスを構え直す。
「一度で足りないなら、何度でも殴ります。ジャンさん、合わせてください!」
先んじて飛びかかったスレイブをはたき落とさんとするエルピスの巨腕。
それをさらに叩き潰すべく、アルダガはメイスを振るった。
【指環無効バフ付いたまま戦闘開始】
16:ジャン
18/08/31 16:59:39.72 dnhO3+MF.net
エルピスはヒトの姿から本来の姿へと戻り、虚無に取り込まれつつあった自分の権能を振り絞る。
そこから生み出されるのは、指環の力を持ち主から引き剥がす驚異の結界。
>「さあ……来い。指環の勇者よ。イグニスの、アクアの、テッラの、ウェントゥスの言葉を、真実にしてみろ」
>「『プロテクション』は張りますが……私一人で防ぎ切れるなんて事は、期待しないで下さいよ!」
虚無にほとんどを飲み込まれてもなお、光竜は光り輝く。
翼から放たれた破壊の閃光はシャルムの防護障壁を打ち砕き、しかしジャンたちには届かない。
スレイブが持つ魔剣バアルフォラスが全てを飲み尽くしたのだ。
>「証明してやる。指環の勇者とは、指環の力を振るう者達のことなどではない。
その力で、指環を手に入れてきた者たちのことを勇者と呼ぶのだとな―!」
「……そうだな!俺たちは指環に頼りっぱなしで来たわけじゃねえ!
いつだって力を合わせてやってきた!」
>「一度で足りないなら、何度でも殴ります。ジャンさん、合わせてください!」
「アルダガ!俺は下からいくぜ!」
アルダガがメイスを振るうのに合わせ、ジャンはエルピスの真下へ突進し、ミスリルハンマーを振り上げる。
二人の凄まじい膂力から振るわれる一撃はエルピスの腕、その骨を鱗の上から砕くには十分な威力だ。
通常、成体となった竜の鱗は強靭であり、斬、打、突といったあらゆる物理的な攻撃を受け付けないものだが、
ヒトの平均をはるかに上回る二人の腕力と、魔力によって自らを維持していたエルピスがその枯渇によって
身体そのものが脆くなっていたことが合わさり、エルピスの右腕は骨が折れ砕ける音を立てて無残に曲がる。
17:ジャン
18/08/31 16:59:54.58 dnhO3+MF.net
「グゥオアアアアア!!!」
エルピスは痛みと屈辱に耐えきれず叫び、まだ無事な左腕を振り上げ、ジャンたちに叩きつけんと振り下ろした。
通常ならば魔力を纏い、ブラックオリハルコンすら粉砕するその一撃。
だが今は鱗がところどころ剥げ、爪は半分欠けてしまっている。それを見たジャンはミスリルハンマーを
素早く腰に戻し、両手でその一撃を受け止めんとした。
「オークごときがァァァァ!!!」
「うぉりゃああああ!!!」
両足は石床を踏み抜かんばかりの勢いで身体を支え、両手はエルピスの丸太よりも大きな巨腕をがっちりと押し止めている。
気合のこもった叫びから生み出されるウォークライはジャンの身体に隅々まで活力を漲らせ、指環がなくとも竜に立ち向かう勇気と力をくれる。
だがエルピスの攻撃はそれだけにとどまらない。
左腕はジャンに向けて押し潰す勢いで力を込めたまま、その口を開き、顎を限界まで下げる。
そして口内を中心に四重の円形魔法陣が展開された。竜の咆哮そのものを純粋な攻撃として叩きつけるそれは、一行を消し飛ばすには十分な破壊力だ。
『我が咆哮は全てを粉砕する……!加護無き者よ、ここで私と消えてもらおう!』
エルピスはさらに攻撃を止めない。両翼に魔力を蓄え、辺り一帯に無差別に破壊の閃光を放つ。
狙いが定まらないそれは逆に一行の動きを制限し、追い詰めるものだ。
【エルピス発狂モード突入!】
18:ティターニア
18/08/31 23:51:02.97 kXxMc/nU.net
アルダガの一撃と死角からのシャルムの魔法をまともに受け、吹っ飛ばされるエルピス。
悠久の昔から世界を危機に陥れ続けてきた堕ちた光竜にしては、あまりにもあっけない。
運よく何らかの理由により余程消耗していたのかと期待したが、そう都合よくはいかなかった。
甲冑が砕け散り、その場所に巨大な光り輝く竜が現れる。
19:ティターニア
18/08/31 23:52:27.42 kXxMc/nU.net
>「そんな……光竜は、虚無に飲まれていたはずでは……」
「虚無に飲まれた振りをして逆に虚無の竜を利用していたということか……!? でも何故!?」
>「ふざけるな……ふざけるなよ、ティターニア……」
>「この期に及んで、そんな手緩い攻撃があるか……」
虚無に飲まれていないのだとしたら何故世界を滅ぼそうとしているのか。
何をこれほどまでに憎んでいるのか。分からないことだらけだ。
>「……それとも、あれがお前の全力だったのか?指環の勇者よ。
だとしたら……やはりヒトとは、我らが支配し、導いてやらねばならないんじゃないか?
なあ……イグニス。アクア。テッラ。ウェントゥス」
暫し問答するエルピスとイグニス。しかしその途中、エルピスの様子がおかしくなる。
>「いいや、誰にもそんな事は分からない。だから私は、この世界を滅ぼす……違う!」
>「違う!違う違う違う!私は!私は……!」
気合で正気を取り戻したらしいエルピスが一行に宣戦布告する。
>「……出てこい。指環の勇者よ。お前達ごと、その建物を薙ぎ払われたくはないだろう」
どちらにしろ戦う気は満々らしい。
これでは虚無に飲まれようが飲まれまいがやっている事は一緒ではないのか。
正直何がしたいのかよく分からない。
そんなティターニア達の気持ちを代弁するかのように、イグニスが言う。
>『……お前が何を考えているのかは、正直分からん。だが……やるだけ無駄だ。
我ら四竜の指環を前に、お前がたった一頭で何が出来る?』
>「……知りたいか?」
エルピスが翼をはためかせると、辺り一帯に特殊な結界らしきものが展開される。
それは指輪の力を封じる結界。
>「さあ……来い。指環の勇者よ。イグニスの、アクアの、テッラの、ウェントゥスの言葉を、真実にしてみろ」
>「やるしかない……みたいですね。私達だけの力で」
「そのようだな。どうやら複雑な事情がありそうだが……
コイツもまたコテンパンにやられてからじゃないと話し合いが始まらない系の輩らしい。
全てはそれからだ」
20:ティターニア
18/08/31 23:54:57.20 kXxMc/nU.net
>「……すみませんが、気安く大魔法をぶっ放すような真似は出来ません。
魔法の発動を予知されて、狙い撃ちされたら……庇う側が大変でしょう?」
>「『プロテクション』は張りますが……私一人で防ぎ切れるなんて事は、期待しないで下さいよ!」
エルピスが放った無数の閃光が降り注ぐのを皮切りに、戦闘が始まる。
>「十分だ。一瞬でも攻撃魔法を遅滞させられるなら、あとは俺がどうにかする」
>「―呑み尽くせ、『バアルフォラス』」
エルピスの放った魔法を、スレイブがバアルフォラスで吸収する。
そしてアルダガがティターニアに念信で声を送る。
>『ティターニアさん、聞いてください』
>『もう一度、ディクショナル殿が光竜の魔法を吸収したら……拙僧が中継し、エルピスの魔力を貴女へ届けます。
貴女の魔法で、この因縁に決着を付けてください』
>「一度で足りないなら、何度でも殴ります。ジャンさん、合わせてください!」
>「アルダガ!俺は下からいくぜ!」
>「グゥオアアアアア!!!」
アルダガとジャンの猛攻を受け、エルピスが苦悶の叫びをあげその腕が無残に曲がる。
エルピス本来の力ならいかなる物理攻撃も受け付けないはずだが、
相当消耗しているのではないかという最初の見立ては間違いではなかったのだ。
「もう良いだろう……! 教えてはくれぬか? そなたは一体何に絶望した? どんな未来を見たのだ!?」
「私に勝てると思っているとは……どこまでも愚かな奴らだ。
だが……死にゆく貴様らへのせめてもの手向けに教えてやろう」
そう言ってエルピスは、光の力で空間に情景を投影する。
それは、遥か昔、旧世界で繰り広げられていた、泥沼の戦争。
その果てに開発された至上最悪の兵器がついに使われてしまい、世界が不毛の地と化すというものだった。
「酷い……」
「絶大な威力だけではなく使用後半永久的に一帯の生物を殺し続けるという恐るべき制御不能の呪い―そんな兵器だ」
「これは……旧世界にもしも虚無の竜が来なければ起こっていたかもしれない可能性か?」
「違う。私が虚無の竜を呼ばなければ確実に起こっていた現実だ」
「そなたが虚無の竜を呼んだ……だと!? そなたはそのころからすでに滅びを望んでいたのか?」
「貴様らは本当に何も分かっていないのだな……。人間こそが世界を食い尽くし滅びを齎す存在だというのに。
各属性の魔素とは星の生命エネルギー。竜とはその具現化。
旧世界の文明は繁栄を極め―裏を返せば回復が追い付かない程に世界の属性を食い尽くしつつあった。
そして虚無の竜とは世界を食い尽くす存在から属性を保護するための最終手段……
世界をいったんリセットしてやり直す再生のための機構だ」
21:ティターニア
18/08/31 23:57:16.60 kXxMc/nU.net
ティターニアは少し考える素振りを見せてから、呟いた。
「なるほどな―」
「ようやく分かったか? 人間がいかに愚かかということが」
「そなたが融通が利かぬ愚か者だということがよく分かった。
よくない方向に行きそうだからって全部リセットしたりヒト”だけ”でうまくいかないから完全支配するって完璧主義か?
そなたらとて竜同士内輪で方針の違いで対立している時点で”ヒト”のこと言えぬ。
何も完全支配かヒト”だけ”かの二者択一にこだわらなくても……
例えばお互い少し手助けして上手くいくならそれはそれでいいのではないか?
足りないところがあるなら補い合えばいい」
22:ティターニア
18/08/31 23:57:42.43 kXxMc/nU.net
「ふん、負け惜しみの屁理屈を……! 無駄話は終わりだ!!」
そこで会話は打ち切られ、エルピスが全力の攻撃を開始する。
大きく開かれた口内に魔法陣が描かれ、竜の咆哮そのものが攻撃として叩きつけられる。
>『我が咆哮は全てを粉砕する……!加護無き者よ、ここで私と消えてもらおう!』
辺りに無差別の閃光が放たれる。
ティターニアは敢えて防御は他の者に任せ、機を伺っていた。
―アルダガに決め手を託されているからだ。そして、その時は訪れた。
スレイブがバアルフォラスでエルピスの魔力を吸収することに成功し、アルダガによってその魔力が届けられる。
その絶大さに、ティターニアは驚愕した。
今ならどんなに無茶な魔法の拡大だって出来る、それだけの魔力だ。
あれ程ボロボロになっていて魔力が枯渇しているように見えるにも拘わらず。
>『単純な力量を比べるだけならば、私がお前達に勝てる道理などない。
だが……お前達は、竜。そして、死者だ。ヒトより隔てられるべき魔の者だ。
であれば……このような事が可能という訳だ』
エルピスが言うには、これは死者や魔に属する者を隔てる結界らしい。
しかし言葉通りに取ればある意味魔の者そのものであるはずの魔族であるシノノメも弾かれるはずだが、普通にこちら側にいる。
つまり、現在の世界で一般的に種族として存在している存在は弾かれないということだろう。
それを逆手に取る。
「エルピス殿……そなたは一人じゃない―“繋がる世界《イッツアスモールワールド》”」
これは本来、効果範囲内に存在するあらゆる種族や生物の力をほんの少しずつ借りることが出来るという魔法だ。
今回はエルピスの魔力を用い、その範囲を全世界にまで拡大した。
そして力を借りる対象の種族を敢えて指定―それは竜だ。
23:ティターニア
18/08/31 23:59:07.99 kXxMc/nU.net
「竜装―”アルカンシエル”」
ティターニアは全ての属性を併せ持つ七色に輝く竜装を纏い、エルピスに対峙する。
「何故だ……何故この結界の中で竜の力を使える!?」
「何を驚いておる。竜の眷属達なら世界にたくさんいるだろう。
それに使わせてもらったのはそなたの魔力だぞ。協力が得られるのも当然というものだ」
ウェントゥス上空に翼竜がたくさん飛んでいたように、一般の種族としての竜は、
伝説の彼方の存在ではなく現在普通に生息しているのだ。
「我が眷属達だと!? おのれ、何故……ヒトなどに力を貸す!?」
「眷属達もそなたが解放されるのを望んでいるからではないのか?
そなたの眷属達と共に……そなたに巣食う絶望を浄化してやる。もう一人で苦しむのはやめろ」
そう言って杖を掲げ、魔力を集め始める。
「黙れ! 未来が見える者の孤独が、絶望が、苦しみが……! 貴様なんかに分かってたまるか!!」
「―嘘だな。そなた、今は未来が見えていないのだろう?」
「―!!」
エルピスは明らかに動揺したように見え、それはティターニアの言葉が図星だったことを如実に示していた。
本当に未来が見えるなら、もっと攻撃を避けられるはず。
それを糸口に確信できたのは、自らに呪いをかけ魔法を封じてしまったシャルムの例があったからだ。
エルピスは未来が見える力に絶望するあまり、その力を自ら封じてしまったのだった。
「その呪い、解いてやろう。前とは違うものが見えるかもしれぬぞ―」
「い、嫌だ……やめろ……!」
「センスオブワンダー!!」
エルピスが怯えるのもお構いなしに、ティターニアは杖を振り下ろす。
それは攻撃魔法ではないものの、今のエルピスにとっては何より恐ろしいものだった。
その効果は―癒しと浄化。
ティターニアは、エルピスがこうなったのはエルピス自身が自らにかけた呪縛こそが元凶だと踏んだのだった。
解き放たれた虹色の閃光の束が、容赦なくエルピスを貫いた。
24:
18/09/05 12:54:33.46 NQSHWJGX.net
指環の勇者達の力は、光竜エルピスの力を上回っていた。
例え指環の加護が失われていたとしても。
エルピスの右腕は叩き折られ、残る左腕もジャンソンさんとの力比べで押さえつけられている。
このまま力比べを続けても隙を晒すだけ。
そう判断したのか、エルピスは左腕を引いて体勢を立て直す。
と、そこでティターニアさんが前に出た。
>「もう良いだろう……! 教えてはくれぬか? そなたは一体何に絶望した? どんな未来を見たのだ!?」
……確かに、これ以上続けてもエルピスに勝ち目はないように見えます。
ですが、だとすればなおさら会話なんて、奴を戦闘不能にしてからにすればいい。
すればいいんですが……まぁ、ティターニアさんですからね……。
仕方ありません。一旦、様子を見る事にしましょう。
>「私に勝てると思っているとは……どこまでも愚かな奴らだ。
だが……死にゆく貴様らへのせめてもの手向けに教えてやろう」
エルピスの魔力が宙空に魔法陣を描く。
そして周囲の空間に、蜃気楼のように幻影が映し出される。
人間同士の殺し合い、戦争と……その結末が。
>「酷い……」
>「絶大な威力だけではなく使用後半永久的に一帯の生物を殺し続けるという恐るべき制御不能の呪い―そんな兵器だ」
……耳が痛いですね。
私の『ドラゴンサイト』も、突き詰めれば世界中を焼き払う事の出来る兵器ですし。
もっとも、そんな事を言っていたら私達は今でも魔法を使わずに、石を削って作った道具で生活をする羽目になります。
技術の進歩と、使用者のモラルは別の問題です。
>「これは……旧世界にもしも虚無の竜が来なければ起こっていたかもしれない可能性か?」
だとすれば、そんな可能性があった……
それだけの事を根拠に世界を滅ぼそうだなんて馬鹿馬鹿しい事です。
>「違う。私が虚無の竜を呼ばなければ確実に起こっていた現実だ」
>「そなたが虚無の竜を呼んだ……だと!? そなたはそのころからすでに滅びを望んでいたのか?」
>「貴様らは本当に何も分かっていないのだな……。人間こそが世界を食い尽くし滅びを齎す存在だというのに。
「……馬鹿馬鹿しい。やはり、聞くだけ無駄ですよ、ティターニアさん。
正直、私にはこの竜が、虚無に飲まれて正気を失っているようにしか思えない」
旧世界で起きていたはずだとかいう戦争は、虚無の竜によって実現されなかった。
よって、例え光竜が予見したものであっても、未来とは可変である。
そして、であれば虚無の竜などに頼らずとも、未来を変える術なんていくらでもあったはず。
各地の王として君臨する四竜を頼るとか。
せめてご自慢の未来視で戦争のきっかけとなる人物を見つけ出すとか。
……やはりどう考えても、導き出される結論は、この話は虚無に侵された者の妄想です。
あるいはエルピスは旧世界の四竜から物凄く嫌われていて信用がなかった、とか。
>「なるほどな―」
>「ようやく分かったか? 人間がいかに愚かかということが」
>「そなたが融通が利かぬ愚か者だということがよく分かった。
>「ふん、負け惜しみの屁理屈を……! 無駄話は終わりだ!!」
「ええ、無駄話は終わりです。つまり、あなたが滅びる時が来たという事ですよ」
25:
18/09/05 12:54:58.90 NQSHWJGX.net
>『我が咆哮は全てを粉砕する……!加護無き者よ、ここで私と消えてもらおう!』
エルピスの両翼に魔法陣が浮かび上がり、周囲にギロチンのように閃光の刃が降り注ぐ。
出の早い光属性の魔法をこうも乱れ打ちされるのは……くっ、確かにキツいですね。
ですが……こちらもただ身を守っているだけではありません。
ディクショナルさんが襲い来る閃光を魔剣で吸収。
そしてその魔力をバフナグリーさんが、ティターニアさんへと転送する。
26:
18/09/05 12:55:31.67 NQSHWJGX.net
>「センスオブワンダー!!」
そうして発動された魔法は……ああ、もう。
よりにもよって、なんて魔法を……。
センスオブワンダー。不可思議なものを感じ取る感覚を、精神に付与する魔法。
誰が命名した魔法だか知りませんが、なんというか、まぁ、言葉遊びですよね。
不可思議なものを感じ取る感覚……それはつまり、正常な精神が元々持っているものです。
つまりあの魔法は、乱れた精神を正常に戻す為の魔法。
もっとも、本来は虚無による心神喪失を治療出来るほどの効力はないはずですが……
光竜とその眷属の魔力を利用しているのなら、或いは……ってところでしょうか。
「お……おぉ……」
光竜は、虚空を見つめて呻き声を漏らしている。
「……今の内にトドメを刺すとか、せめてもう少し深手を負わせるとか、しちゃ駄目ですかね」
……ラテさんやフィリアさんが、信じられないと言いたげな目で私を見る。
いやいやいや、考えてみて下さいよ。
「だって、未来を改めて予知したところで、エルピス自身の性格の悪さが治らなければ無意味ですよ」
私は噛んで含めるような口調で続ける。
「いいですか。未来を変える術はいくらでもあったはずです。
自らの意志で修正可能な以上、未来は如何様にでも変えられたはず。
ですがエルピスは最も多くの犠牲を払う方法で未来を変えた」
もし私が同じ未来を見ていたなら、きっと原因となる一人だけを始末して未来を変えていたでしょう。
ティターニアさんなら、今度はそれすらしなくても済む方法を予知しようとしたでしょう。
「未来予知の能力は、ただの魔法。その一つに過ぎません。
その魔法を使って……エルピスは、あの世界の全てを滅ぼす事を決めた。
それは、奴自身の気質、思考回路、性分……総合的に言って、性格の悪さが故です」
その部分が変わらなければ、何度未来を見ても同じ事。
厄介な能力を取り戻される前に、戦闘不能にしておかないと……。
私は魔導拳銃をエルピスへと向ける。
ですがすぐに、私の射線は遮られました。
右手を銃口に被せるように伸ばしてきたのは……
「ラテさん?一体何のつもりですか」
27:
18/09/05 12:56:16.00 NQSHWJGX.net
「やめとこうよ、シャルムさん。このまま様子を見よ?
もしかしたらエルピスも、ティターニアさんのお人好しぶりに感化されちゃったりするかもしれないよ」」
「……そういう可能性も、あると思いますよ。だけど、とても低い可能性でしかない」
私は一歩前に出て、ラテさんの制止を躱して魔導拳銃を構え直す。
「……未来を変える術はいくらでもあった。だけど、それでも一番多くの犠牲を払う方法を選んだ」
不意に、ラテさんの声音が変わった。
幼い、童女のような語り口が……まるで年相応の、喋り方に。
思わず、私は振り返る。
「そういうのは、性格が悪いって言うんでしょ?よくないよ、そういうの」
続いて聞こえた彼女の声は、またいつも通りのものに戻っていました。
気のせい……だったんでしょうか。
……ただ一つ言える事は、どうやら私はこのとぼけた様子の彼女に、一本取られたようだという事だけです。
「……分かりましたよ」
私は魔導拳銃をホルスターに戻して、後衛の立ち位置に戻る。
エルピスはまだ虚空を見つめている。
私達はその様子をただ見守っていた。
そして…………程なくして、エルピスは、ふと……微笑みを浮かべた。
28:ラテ・ハムステル
18/09/05 12:59:01.07 NQSHWJGX.net
「ほら!やっぱり言った通りだったでしょ!」
わたしは思わずシャルムさんを振り返って、彼女の手を握ってそう言った。
エルピスがどんな未来を見たのかは分からないけど……あの表情!
きっと悪いものじゃなかったに違いないよ!
「ちょ、ちょっと!まだ戦闘中ですよ!前を見て下さい!」
「もー、往生際が悪いなぁ。戦いなんて、もう必要ないに決まって……」
……不意に、轟音が響いた。私達の頭上から。
見上げてみると……わたしの目に映ったのは、砕け散るプロテクションの欠片。
私達を覆うように広がった百足の王様。
そして……その甲殻に弾かれ飛散する、閃光の魔法。
「……なんで?」
わたしは、思わずそう呟いた。
慌ててエルピスに向き直って、その顔を見上げる。
「私は、未来を見た……以前と何も変わらぬ、滅びの未来をな。
例えお前達が虚無の竜に勝利した未来であっても……世界の滅びは避けられなかった。
共通の敵を失った三大国は一年もしない内に戦争を始めていた」
「う……嘘でしょ?」
「いいや、それが私の見た未来だ」
「……嘘だ!そんなのあり得ないよ!だって……だって、あなたは、笑ってたもん!
そんな未来を見たなら……あんな風に、笑える訳がないよ!」
「……もう、話す事は何もない。そして……下がれ、我が眷属達よ。
この光竜エルピスの戦いに、影を差す事は許さぬ」
エルピスはそう言うと……まだ無事な左腕を、大きく振り上げた。
上体を捻り、力を溜めている。渾身の力で振り下ろす為に。
一体、どうして……わたしには、分からない。
私になら、分かるのかな……ううん、やっぱり分からない。
未来を見る力を取り戻したエルピスは、さっきまでよりかは強くなっているかもしれない。
だけどそれでも、私達が負けるかと言えば……そうは、思えない。
エルピスに勝ち目があるとは、思えない。
エルピスの左腕が唸りを上げて、私達へと降ってくる。
だけど……ジャンさんなら、それも受け止められる。
さっきも出来たんだ。今度も出来ない訳がない。
アルダガさんと力を合わせれば、その腕を壊すのだって一瞬で出来ちゃう。
それでもエルピスは怯まない。
腕が駄目なら、今度は全身を回転させて尻尾を振り回す。
鞭のような攻撃は、ジャンさん達が受け止めようとしても重さと勢いに物を言わせて弾き飛ばせるかもしれない。
だけど、それならばとフィリアちゃんが前に出た。
巨大な百足の王が尻尾を真正面から受け止めて、絡みつく。
そして一度動きを止めたら、今度は蟻の大顎が……エルピスの尻尾を噛み切った。
29:
18/09/05 12:59:54.45 NQSHWJGX.net
……苦悶の悲鳴を上げて、なのにまだ、エルピスは戦いをやめようとしない。
不意に私達の死角から現れる、エルピスの分身……七体の甲冑。
これは……光が持つ、分離の性質によって作り出したもの。
七振りの大剣が私達に襲いかかる。
……でも、遅い。
私は一歩も動かなかった。
動こうと思った時には、シノノメさんの剣が甲冑をまとめて数体、叩き斬っていたから。
わたしの分は、取られちゃった……残りも、皆がすぐに倒しちゃうよね。
両腕が壊され、不意を突いても仕留められず……エルピスにはもう、打つ手はない。
そうとしか思えない。
なのに……なんでまだ、折れた腕を回復魔法で修復して、また折られて、それでも戦おうとするんだろう。
なんでエルピスはまた、笑ってるんだろう。
敗北が近づく度に……なんであの微笑みは、より穏やかになっていくんだろう。
……不意に、上空に魔法陣が浮かび上がった。
結界の中全てを覆うほどの大きな魔法陣。
させません、と張り詰めた声を上げて、シャルムさんが右手を天にかざした。
魔法陣を構築する紋様が、絶え間なく変化していく。
多分、術式の主導権をお互いに奪い合っているんだ。
数秒の沈黙の後……シャルムさんが右手を強く握り締めた。
瞬間、魔法陣は砕け散って……エルピスは、全ての力を使い果たしたかのように、倒れ込んだ。
私達を囲んでいた結界が砕け散る。
……指環に、光が戻った。
30:ラテ・ハムステル
18/09/05 13:01:13.42 NQSHWJGX.net
『ラテさん!皆さんは!怪我はありませんか?結界の外から見てはいましたが……』
「……ううん、大丈夫だよ。戦いが長引いて疲れちゃったし、少し傷も負ったけど……。
深手は、一つもないよ。心配してくれてありがとね、メアリさん」
私は慌てた様子のメアリさんにそう答える。
……それから、エルピスの方を見た。
勝ち目がない戦いを貫き通して……ぼろぼろになったエルピスを。
傷だらけになって、出血も酷い。いくら竜でも……この傷は、致命傷のはず。
滅びの未来なんて……見えたはずがないのに。
ティターニアさんなら、あなたを許してくれたはずなのに。
「……なんで」
気付けば、私はそう呟いていた。
『……何故だ、エルピス。お前に勝ち目はなかったはずだ』
炎の指環からイグニスが姿を表して、エルピスに問いかけた。
「……なあ、イグニス。人間は……ヒトは……彼らだけで、この世界を守っていけると思うか……?」
『この期に及んで、何を……』
「私には……分からなかった。本当に分からなかったんだ。
彼らが自分達だけで、生きていけるのか……」
『……エルピス?』
31:ラテ・ハムステル
18/09/05 13:02:34.45 NQSHWJGX.net
「信じたかった。私も、お前達みたいに……だがどうしても出来なかった。
無限に見えてくる未来の、悪い方にばかり、私は目が行った」
エルピスは血を吐きながら、うわ言のように言葉を紡ぐ。
「ずっと不安だった。だから……確かめたかったんだ。
確かめずにはいられなかかった。どんな手を……使ってでも……。
……見てたか、アクア。こんな小さな人間とオークごときが、私と力比べをして、勝ったんだ」
エルピスはもう、首を動かす事すら辛そうにしていた。
それでもジャンさんとアルダガさんを視界に捉えて……また、微笑んだ。
「私の尻尾が、この小さな虫けらに食いちぎられたんだ。凄いだろう、イグニス。
それに、そのエルフは……私が心の底から絶望して生み出した呪いを、解いたんだ。
信じられるか?テッラ。竜である私の呪いを、たかがヒトが消し去ったんだ」
……メアリさん達は、結界によって戦場から追い出されていた。
だけど……私達の戦いは見えていたって言っていた。
「見ろよ、ウェントゥス……私の美しい鱗が、台無しだ。人間風情の剣によってな。
テネブラエ……お前が、正しかったんだな。
ヒトには、私の目を以ってしても見通せない可能性が……あったんだ」
それでもエルピスは、皆に私達の戦いの様子を教えている。
……とても、嬉しそうに。誇らしげに。
「……私が、私が間違って……いたんだ……お前達が……正しかったんだ……」
……今なら、分かる。
エルピスがした事は、決して許される事じゃない。
許される事じゃないけど……この竜はきっと、誰よりも人間を信じようとしていたんだ。
人間の、ヒトの可能性に、狂おしいほどの関心があったから……。
だから……どんな手を使ってでも、世界を滅ぼそうとし続けてきた。
いつか、誰かが……自分の事を打ち負かしてくれる事を望んで。
そうする事でしか人々を信じ切る事が出来なかった……なんて、哀れな竜。
「ああ……良かった。良かったなあ……間違っていたのが、私で……。
人間は……ヒトは……強かったんだ……私よりも……ずっと……」
……エルピスの鱗に宿った光が、徐々に薄れていく。
32:ラテ・ハムステル
18/09/05 13:03:01.38 NQSHWJGX.net
「……虚無の竜には、私が封印を施していた。
だが……奴はそれを既に食い破り、動き出している……」
周囲には濃い、あまりにも濃い、血の臭い。
エルピスの命が……失われようとしているんだ。
33:
18/09/05 13:04:04.36 NQSHWJGX.net
「聞け……!私は虚無の竜を、世界をやり直す為の装置だと言った……。
だが、それは正確ではない……。
結果として、虚無の竜は世界の再生に利用出来た……だが本質は、違う……」
それでもエルピスは牙を食い縛って、私達をしかと見つめた。
「奴は……生ける屍だ。この世界と、かつての世界との距離。
それよりもずっと遠く、私の目でも見通せないほど遠くにあった、世界の死骸なのだ」
「世界の、死骸?なに、それ……」
「言葉通りの意味だ。なんらかの原因によって滅びた……消費され尽くした世界の、言わばアンデッドだ。
アンデッドが生者を食らい、命を取り戻そうとするかのように。
奴は属性を食らう事で……かつての姿を取り戻そうとしているのだろう」
世界そのものの、アンデッド……そんな存在が、生まれ得るものなの?
今更エルピスが嘘をついているとは思わないけど……
スケールが大きすぎて、私のちっぽけな頭脳と器ではすぐには受け止めきれない……。
「そして……虚無の竜の肉体は、既に属性を取り戻している。分かるか?
既に肉体は生き返っているんだ。
そこに、クリスタルに封印されていた奴の魂が戻れば、どうなるか……」
だけど混乱気味の私を、エルピスは待ってくれない。
「私には、その未来が見えなかった。たった数年後の未来すら。
何故か……虚無の竜が蘇れば、この世界はもう、この世界ではなくなるからだ。
奴が滅ぶ前の……お前達も、この世界の誰も彼もが存在しない世界が、蘇るのだからな」
……そして私も、別にこの話の全てを理解出来なくたっていい。
少なくとも、虚無の竜を止めなきゃどうなるのかは大体分かった。
だったら、後は知るべき事はたった一つ。
「……どうすればいいの?」
「イグニス山脈へ行け……奴はこの世界の、己の肉体の中心を目指している。
地中深くまで続く溶岩……そこから、奴は肉体へと戻るつもりだ」
ふと、エルピスが、ジャンさんと、ティターニアさんだけをじっと見つめた。
「お前達にとっては、始まりの地か……そこで、全てを終わらせてくれ」
そう言うとエルピスは……急に激しく咳き込んで、大量の血を吐き出した。
「……メアリ。すまなかった」
最後の力を振り絞るように、私を見つめて、エルピスはそう言った。
そして……糸が切れた人形のように、どさりと、地面に首が落ちる。
もう、顔を上げて私達を見つめる……その力すら残っていない。
「……頼みが……ある。私の事は……このまま……死なせてくれ……。
指環にもならずに……このまま、完全に、いなくなりたい……。
それでこそ……それこそが……完全な敗北……なんだ……」
34:シャルム・シアンス
18/09/05 13:04:32.62 NQSHWJGX.net
「……休んでいる暇はありませんよ、皆さん。
まだ……黒狼騎士が残っていますからね」
今はまだ、黒蝶騎士と黒亀騎士、それにクロウリー卿が戦ってくれているはずですが……
「先に言っておきますよ。私は、今でもジャンソンさん達は虚無の竜を追うべきだと思っています。
黒狼騎士はありとあらゆる戦闘手段に精通した、人の形をした怪物です。
戦いを長引かせる事も、逃げようとする相手を逃さず釘付けにする事も、お手の物でしょう」
それはつまり一度挑めばもう、やはり時間がかかりすぎる、虚無の竜を倒しに行かなければ……
なんて考えで逃げ出す事はさせてもらえないだろう、という事。
35:
18/09/05 13:04:56.45 NQSHWJGX.net
「それでもやると言うのなら……覚悟を決めて下さい。
これより先はもう、後戻りは出来ないと……」
「いいや、その必要はないぜ」
「……は?」
背後から聞こえた声。
振り返ると……そこには、黒狼騎士がいました。
なんで?あの三人は?まさか、もうやられてしまった?
いや違う。そうじゃない。今考えるべきはそうじゃなくて……
この状況から私が助かるには、どうするべきなのか。
咄嗟に魔導拳銃を抜く。
右手を顔の高さにまで上げた時には、突きつけるべき銃口がなくなっていた。
細切れにされた銃身が、私の足元に落ちて小さな金属音を奏でた。
「焦んなって……俺も、もう戦る気はないよ。つーか三人かがりでボコられて既に結構しんどいし」
……この言葉は、恐らくは嘘ではない。
もし嘘なら、私は既に殺されているだろうから。
ですが……
「何故……」
……私には、理解が出来ない。
「あん?何が?」
「何もかもが分からない。何故、あなたがクーデターに加担したのかも。
何故……こんな、中途半端な形で、それを投げ出すのかも」
「あー……それね。いいぜ、教えてやるよ」
そう言うと黒狼騎士は……エルピスを、顎で指した。
「俺も、そいつと同じだよ」
「……どういう意味ですか」
「ずっと前から気になってたんだ。帝国はさ、俺が死んじまった後も大丈夫なのかよって。
ほら、ちょっと前にあったろ。ジュリアンの奴がダーマに亡命した時。
あの時は、昔併合された国の連中がいきり立って内乱起こしたりしたよな」
……そんな事もありましたね。
結局、一ヶ月もかからずに鎮圧は終わりましたけど。
……いえ、鎮圧するのに一ヶ月もかかった、と言うべきでしょうか。
黒騎士による国防は、内部に入り込んだ敵、ゲリラ戦術に対して相性が悪い。
そのせいで、戦いが長引いたのは知っています。
「もし俺が死んじまったらさー。起こる騒動はあの時の比じゃねーと思うんだよなー。
そうなった時に、帝国は俺抜きで帝国を守れるのか……一度、どうしても確かめておきたかったんだ」
そこまで言うと……不意に、黒狼騎士が五体を地面に擲つように倒れ込んだ。
……い、一体何が?
「……駄目だ。もー立ってらんねえわ。やっぱもっと早くエルピスの封印ぶっ千切っとくべきだったか?
いや……それも含めて、俺がアイツらを見誤っただけか」
「……びっくりさせないで下さいよ、もう」
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18/09/05 13:08:05.11 NQSHWJGX.net
「ははは、悪い悪い。でも、安心したぜ。お前らも指環なしでそいつを倒したんだろ。
世界は……案外俺がいなくても、平気なのかもな。
黒騎士なんてやめて、またみんなと旅にでも出ちまおうかなぁ」
黒狼騎士は呑気にそう言いながら、両手を頭の下に潜らせて、足を組む。
「行けよ。こっちの後始末は、少し休んだら俺がやっとくよ」
そのまま私達を見もせずに、彼はそう言った。
「後始末……と言うと」
「この大事な時にクーデターなんざ起こしたど阿呆共だよ。
お前らが世界を救う頃には、全員この世からいなくなってるぜ」
「……出来れば殺すのは、控えませんか?
洗脳の痕跡を確認したり……少なくとも、正式な裁判を通して罪を裁くべきですよ」
「えー?必要か?それ。洗脳だって心にセコい考えがあったから食らうんじゃねーの?」
「元老院の誰もが、対魔術の心得があるとは限らないでしょう……」
「あ、そっか。オッケーオッケー。任しといてくれよ」
「……不安です、すごく」
……ですが、黒狼騎士との戦いを避けられたのは僥倖でした。
これで後は……虚無の竜を、倒すのみ。
イグニス山脈……指輪の勇者の物語の、始まりの地、ですか。
【黒狼騎士はスルーしちゃったけど、まぁこの章自体、新規さんが来るならって感じだったしいいですよね】
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