【勇者放浪記】トリックスターファンタジーTRPGスレ at MITEMITE
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50: ◆zTA3Hlbo9w
16/06/23 14:26:16.16 zWLaB1LV.net
しかし―
「”彼ノ者ハ、女神ノ盾ニ、守ラレル”―Protection」「”ソノ剣、運命ヲ切リ開ク”―Holy Weapon」
「言われなくても! キミはヴァネッサの恩人だしそいつはブッシュの仇だ。
でもね……生憎うちのギルドは殉職禁止だ!」
「殉職禁止か… 一人出しちまったな。分かった。だが、俺は止まらねえぜ。分かってんだろ?」
振り向かずジュリアスに向き合う。バルログを振りかぶったトリスタンは、明らかに特異な天使のオーラを纏い、体の痛みもなく、動きも軽い。
すぐさまジュリアスの脇腹に斬りかかるも、彼の人間離れした一撃がトリスタンを襲った。
「バカめ…!」にやりと笑うジュリアスだが、トリスタンは全く動じていなかった。バカな、という表情をするジュリアスに、バルログによる一撃が入る。
「あああああぁ!!」
11歳相応といえる、怯えを帯びた悲鳴が上がる。しばらくダメージを受けた経験がないのだろう。
攻撃はかわしたものの、魔法の一撃がジュリアスに入り、痺れは激しいものとなった。
「今だ!!」
「もう一丁! “迷宮入リノ、合ワセ鏡”―Shadow Clone」
ジュリアスは物凄い勢いで連撃をかまし、トリスタンを襲った。しかし、その全てが分身だった。
トリスタンの攻撃はオーラを追尾しており、それが逆に仇となったのだ。
しかし、接近するトリスタンが無事で済む訳もない。
「くそっ…!!」
アーマーや顔面には無数の傷ができ、流れ、飛ぶ血、そして衝撃波による打撲でかなりの痛みを伴った。
そして、その時は来た。
「うぁっ…!ぐぁぁぁ!!!」「覚悟しろ、糞弟オォォォ!!!」
トリスタンが大剣を持ったままのジュリアスを羽交い絞めにし、そのまま首を絞めはじめた。
暴れるジュリアスは大剣を動かし、さらにオーラでトリスタンを傷つける。
鍛え抜かれたトリスタンの肉体は、数十秒のち、ジュリアスを締め落とし、ついにジュリアスはぐったりと体を横たえた。
ふと見ると、ジュリアスの脇腹にボウガンの矢が刺さっている。ジュリアスを助けにトリスタンを撃ったのか、それともジュリアスを狙ったのか…
それは司令官による不意打ちだった。
後ろから来るセルフィと、その後から駆けつけてきたヴァネッサに、トリスタンは息も絶え絶えながら話した。
さらに後ろからは、隠れていたと思われるバルゲルの家族たちが現れる。
「こいつはしばらくは目を覚まさねぇ…どうか殺すのだけは止めてやってくれ。一応、弟なんだ。
それより、今逃げた司令官を殺すか、捕まえてくれ。それが終わったら、こいつを優先して回復を…毒があるかもしれねぇ…俺は…大丈夫…だ…」
そこまで話すと、トリスタンはガクリと頭を落とし、弟・ジュリアスの真横に倒れた。
ヴァネッサの悲鳴が意識が落ちる僅か前に聞こえた気がした。

51:セルフィ ◆WfbCv0o1zE
16/06/23 22:14:01.55 qvAgLt6C.net
幸い分身の幻影術が功を奏した。
ジュリアスはどれが本物かは全く分からないようで、片っ端から分身を襲っている。
たまたま本物にいきそうなときはセルフィがあらかじめ作っておいた光球を炸裂させ、目くらましを行う。
もちろんセルフィは術者なので本物を把握できるのだ。
暫し剣が風を切る音と閃光が炸裂する戦いが繰り広げられた―。
そしてついにトリスタンの剣筋がジュリアスを捉える……と、思いきや。
>「うぁっ…!ぐぁぁぁ!!!」「覚悟しろ、糞弟オォォォ!!!」
トリスタンは大剣を持ったままのジュリアスの首を絞めにかかった。
そのまま斬り込めば決着が着く間合いあったにも関わらず、下手をすれば形勢逆転される危険な行動。
トリスタンは相手の攻撃の直撃は受けていないはずだが、気付けば余波だけで満身創痍になっている。
もしまともに食らっていたら一たまりもなかっただろう。
「なっ……危険すぎる!」
今のうちに強力な単体攻撃が出来る攻撃魔法を撃ちこもうと一瞬思うが思いとどまる。
トリスタンがそこまでする理由として考えられるのはただ一つ。殺さずに気絶させるためだ。
「”誘ウハ深キ微睡”―Stun Magic」
唱えたのは、相手を気絶させる術。
気絶といっても衝撃を与えるわけではないので、強制的に眠らせる術とも言える。
雑魚相手に平和的不戦勝に持ち込む時のセルフィの定番技だが、強敵相手ではまず効かない。
駄目で元々、で放った術が少しは効いたのか
あるいはトリスタンが全て自力でやり遂げたのかは分からないが、ついにジュリアスは気を失った。
その脇腹にはいつの間にかボウガンの矢が刺さっている。司令官がボウガンを持っていた気がするが……
セルフィはこの時点では、トリスタンを撃とうとしてこちらに刺さってしまったのだろう、と解釈した。
>「こいつはしばらくは目を覚まさねぇ…どうか殺すのだけは止めてやってくれ。一応、弟なんだ。
それより、今逃げた司令官を殺すか、捕まえてくれ。それが終わったら、こいつを優先して回復を…毒があるかもしれねぇ…俺は…大丈夫…だ…」
「分かった、分かってるさ。大丈夫だから少しお休み」
攻撃魔法を撃たずに気絶の魔法に切り替えた― 一瞬の判断だったが、殺さない事はその瞬間に決めてしまったのだ。
二人が兄弟なのだろうということは、二人の会話から察しがついていた。
とはいえ、トリスタンはジュリアスのような異常なオーラはまとっていない。
片親だけ一緒だとか、かなりワケありのようだ。
司令官はトリスタンが言ったように敗北を察して逃げたのか、いつの間にか姿を消している。もう一つの懸念事項は、ブッシュの無残な死を間近で見てしまったヴァネッサのことだ。

52:セルフィ ◆WfbCv0o1zE
16/06/23 22:16:23.92 qvAgLt6C.net
「分かってくれるかな……? こいつはきっとあの司令官に騙されて利用されてたんだ……。
こうなったのは判断を誤ったボクの責任だ」
冒険者が命を落とす事は珍しい事ではない。
それでも今まで殉職者を出さずにやってきたのは、まず無謀な依頼は受注せず
適性と熟練度を考えあわせ無理なく達成できる程度の依頼に冒険者を送り出してきたからだ。
今回は全てが想定を超えていた―だがこの世界は結果が全て。こうなってしまったからには言い訳はできない。
「見くびってんじゃねえぜ? ブッシュがいつも本当の敵をよく見極めろって言ってた」
罵声を浴びる覚悟をしていたセルフィだが、返ってきたのは意外な反応だった。
「見てたんだ、司令官のジジイがボウガンを撃つところを……。
構えを見りゃ分かる、どう見ても乱戦の中に適当に打ち込んだ感じだったぜありゃ」
「それじゃあ……誤射じゃなくて”当たればどっちでもよかった”ってことか!」
「厄介者同士をぶつければ少なくとも片方は消える……上手くいけば相打ちで両方だ。
利用されてたどころじゃない、厄介者同士掌の上でぶつけられただけだったんだよ!」
守るべき駆け出し冒険者とばかり思っていたヴァネッサがいつの間にか
ボウガンの名手ならではの観察眼と、一時の感情に流されず賢明な判断ができる心を身に着けていた事に驚く。
「良かった……安心してここを任せられるよ。”魂ノ傷サエ癒ス星ノ調ベ―”Star Light Healing”」
星のきらめきのような光がその場にいる全員に降り注ぐ。天使の強力な回復術だ。
「これで暫く休めば大丈夫なはずだ。ヴァネッサ、みんなを頼むよ……ボクはアイツを追う!」
気絶者と護衛対象を放置するわけにはいかないのはヴァネッサも分かったようで
一緒に行くと駄々をこねることはなかった。その代り、追跡に強力な手掛かりを示す。
「ジジイのやつ他の奴と違う靴を履いてやがるからすぐ分かるぜ。多分あっちの方向だ!」
野山を駆ける弓使いがよく身に着けている特技の一つ、足跡追跡―ヴァネッサもその例に漏れなかった。
「ありがとう!」
その通りの方に急ぐと、すぐに司令官に追いついた。
ヴァネッサの助言がなければこうはいかなかっただろう。
「変幻自在ノ光ノ呪縛―Rune rope」
相手はこちらに気付いているのかいないのか―逃げる相手の背に向け、動きを封じる光の縄を放つ。

53: ◆zTA3Hlbo9w
16/06/24 15:59:20.65 PTpMU4jZ.net
「こ、ここは… おわっ!」
トリスタンが目を覚ますと、そこは屋敷のベッドの上だった。
ヴァネッサが抱きつき、柔らかい感触が襲う。
「トリスタン…! 良かった…良かった…!」
涙を流して喜ぶヴァネッサ。
「お前…おっさんは…ブッシュがやられたことは恨んでないのか?俺の弟が…それにお前、怪我!」
「もう大丈夫だ。トリスタンは…オレを守ってくれたから…そんな訳ないだろ」
「ところで、敵の正体は…?」
「あぁ、敵はフルトとかいう王子の一派だってさ…セルフィがあのジジイから洗いざらい聞いてくれたよ。さすがマスターだぜ」
話によると、どうやら敵の司令官がいた街が明らかになったらしい。この近くのイェーダという街で、王子派が接収した領土であることから特定したとのこと。
こちらの死者2名に対し、相手は十数名の死者を出しており、今回の暗殺は大失敗。情報も漏れていることだし、しばらくは攻勢はないだろう。
あれから丸一日以上が過ぎ、無事に引越しが終わり、今ではバルゲル公爵の息子、ニルスによって盛大な宴が屋敷で開かれている。ここはその一室ということだ。
「あ、そういえば…ジュリアスの奴はどこだ?」
「あいつなら…隣の部屋に…」
「すぐ言ってくる!」
「あ…まだ動くなっての、傷が…!」
そして、トリスタンはついに弟との「再会」を果たした。
「ぐっ…トリスタン…おれを…殺すのか?」
「殺しはしねえ…」
バルログで素早くトリスタンの縄を切り、そのまま連れ出す。剣を突きつけたままだ。「ドラゴンキラー」は押収されたのか、そこにはなかった。
慌てるヴァネッサがそのままついてきた。
「そいつはブッシュを殺した極悪人だ!ガキだからったって…今度はトリスタンやオレやセルフィが、殺されるかもしれない」
大声でまくしたてるヴァネッサ。その目には涙が浮かぶ。
「そうはさせねぇさ…」
1階のフロアでセルフィの姿を見つけた。宴会の声が奥から聞こえる。
トリスタンはセルフィに合図し、ウィンクすると、ヴァネッサの肩を押して外すように頼んだ。
「ちょっとこいつ連れて、外行ってくる。セルフィはヴァネッサの世話頼んだ。あと、ありがとな。あんたがいなかったら、
多分俺は死んでいた」

54: ◆zTA3Hlbo9w
16/06/24 16:00:22.24 PTpMU4jZ.net
屋敷の外は真っ暗だった。
少し屋敷から離れ、森の方へと行くと、トリスタンはジュリアスの肩を突き飛ばした。
「てめえ、どういうつもりだ?」
トリスタンはゆっくりと口を開いた。
「お前を解放する。後で俺が責任を取らされようが、それは俺のせいってことでいい。俺はお前を助けたい」
「馬鹿言ってんじゃねえ、俺がこれで許すとでも…」
トリスタンは剣をいったん鞘に収めると、弟に諭すように言った。
「よく聞け。お前と俺の母親は、お前の父親に、犯されたんだよ。そしてお前が生まれた」
「なんだって…?!」
「そして、お袋とパーシーを殺したのは…多分そいつ、お前の父親だ」
「…! そんなことが… そんなことが受け入れられるかぁあああ!!」
凄いオーラだ。赤と紫の光があたりを包み込み、衝撃でトリスタンは引き摺られた。
  「目を覚ませ、馬鹿野郎ーー!!」
トリスタンは瞬時にバルログを抜くと、ジュリアスの額に傷をつけた。血が僅かに流れ出す。
「痛いか…痛いだろうな… それが、俺がずっと背負ってきた傷だ」
「くっ…」
トリスタンは踵を返すと、そのまま弟の方を振り返らずに言った。
「逃げろ、ジュリアス。そして、いつか一緒に倒そう。そのクズ野郎をな。
そいつが、この世界を乱している大馬鹿野郎だ。また会える。 俺は…どこからでも、出てきてやるぜ…!」
「兄貴…」
最後にその言葉を聞き、屋敷の扉の方に着いた頃は、ジュリアスの気配は既になかった。

55: ◆zTA3Hlbo9w
16/06/24 16:17:27.92 PTpMU4jZ.net
屋敷に戻ると、宴もいよいよ酣になっていた。
そのとき、正面のオブジェの奥に、ジュリアスの剣が置いてあるのが見えた。
それを持ち上げるトリスタン。かなり重い。普段振るっているバルログに比べ、こちらを今扱えといえば難しいだろう。
ヴァネッサにすら勝てないかもしれない。
「あいつ…あの体でどれだけ鍛えてたんだ…」
そのまま宴会場に入った。セルフィの姿がある。
トリスタンは「ドラゴンキラー」を抱えたまま、酒をもらい、飲みながらセルフィに話しかけた。
「よう、飲んでるかい?っつっても、ブッシュのおっさんを亡くしてて、悲しいんだろうけどさ。
ブッシュとはやっぱり、一緒に暮らすほどの仲だったのか?そういや、翼が生えてたみてえだけど、天使か何かの一族か?
あ、そうだ…あと、ヴァネッサのことはこれからどうするんだ?」
酒の勢いで一気に話しかける。なるべく明るく振舞うためだ。
本当は全身ボロボロで痛みが止まらない。心も痛い。
セルフィが大剣のことを気にしている。ジュリアスのことを口に出す前に、こちらから話した。
「あいつは俺が逃がした。悪い…」
沈黙が漂う。セルフィの、その綺麗で年齢や表情を窺いにくい顔を窺う。
「殴りたければ殴ればいい。通報してくれても構わない。ただ…あいつは、俺の弟なんだ。
どうしても復讐しなきゃならねえ敵がいる。そいつは、俺にとってもあいつにとっても一緒だ。
なぁに…この剣がなきゃ、あいつは今まで通りの力は出せねぇ…」
最後のだけは口からので任せだ。
セルフィとしばらく座って飲んでいると、ヴァネッサやニルスの子供たちもやってきた。
楽しそうだ。どうやらヴァネッサはまだまだお子様なようだ。
やがて、ニルスが部下の貴族らしき顔ぶれと共に現れ、今回活躍したと伝わっているトリスタンを呼んだ。
セルフィが誉められてもいいと思うが、ここは大人しく行くことにした。
「俺は…明日にはここから出る。お別れだ。報酬はいらねえ。ここの酒とこの剣だけで充分だ。
じゃあな。これからもギルドマスター、頑張ってくれよ。俺の命の恩人の天使さんよ」
セルフィを抱き寄せ、頭をぽんぽんと叩いた。そして、トリスタンはニルスたちに連れていかれた。
騎士に取り立てる、などの話もあったが、トリスタンは全て丁寧に断った。
そして、結局小額の報酬と、馬車で近くの街まで送り届ける、ということでこの夜の話は終わり、寝室に戻ることとなった。

56:GM ◆zTA3Hlbo9w
16/06/24 16:20:37.57 PTpMU4jZ.net
【さて、次が今回の章でのセルフィ ◆WfbCv0o1zE さんの最後のレスとします。ご了承ください。
勿論、特にこちらから展開への制限はありませんので、自由に書いてしまって結構です。
また、今後の章で、展開次第ではNPCとしての登場があるかもしれないことをお伝えしておきます。】

57:セルフィ ◆WfbCv0o1zE
16/06/25 19:44:46.54 luNLFn9l.net
司令官は実は高位の魔術師で……なんて展開も無きにしも非ず、と覚悟していたが
幸い自らの戦闘能力は素人に毛が生えた程度の文字通りの司令官だったようで
光の縄にあっさり捕縛され、軽く締め上げると洗いざらい喋ったのであった。
気絶者や怪我人達は馬車に寝かせ、伸びた司令官はとりあえずロープで簀巻きにして荷台に放り込み
バルゲル一家やお付きの者達に声をかけ体制を立て直す。
「大変お騒がせいたしました、先を急ぎましょう―!」
まだ任務は終わっていない、嘆くのも反省するのも無事に引っ越しが終わってからだ。
それからの道程は滞りなく進み―丸一日が経った頃、新居に辿り着いたのであった。
そうしたら、お約束の盛大な宴である。
トリスタンが目を覚ます少しばかり前―。
セルフィはジュリアスが拘束されている部屋に入り、光の杖を突きつける。
悪を断罪する神の使徒のような、とても高潔、だけど氷のように冷たい目。
ブッシュを殺された直後に対峙した時ですら見せなかった表情。
「殺すなら殺せ……!」
「安心して、殺しはしない。代わりにこれが、ボクがキミに与える罰。
”汝ニ課スハ破リ得ヌ掟―”Geass”。“人を殺すな、誰かを護るため以外―はね”」
セルフィが呪文を唱えると、非実体の鎖がジュリアスに絡みついた、ように見えた―
これは危険人物が悪さをしないように禁止の呪いをかける術だ。
もしも禁止事項を破ろうとすると、精神に異常をきたすレベルの激しい苦痛に襲われることとなる。
と言うと反則級に強力そうに聞こえるが実はそうでもない。
例えば今回の殺人禁止だと「誰かを護るため以外」の例外条項が付くわけだが
多くの殺人が極限まで広く解釈すればだれかを護るためと言えてしまうわけで―
ただし、人殺しを趣味とする快楽殺人者となると話は別。ジュリアスはまさしくそれであった。
今の所何の変化もなく拍子抜けしているジュリアスに向かって、セルフィはすっかりいつもの調子に戻っ悪戯っぽく笑っていた。
「ざーんねんでした! キミはもう殺戮ヒャッハーできない。
具体的にはやろうとしたら気が変になるほどの激しい苦痛に襲われるからやらない方が身のためだ。
解き方はね……キミが快楽殺人者じゃなくなった時、この呪いは自動的に解ける」
トリスタンが目を覚ますと、すぐにジュリアスを外に連れ出していった。
ヴァネッサはすぐにニルスの子ども達と仲良くなり
残されたセルフィは宴の喧噪のなかでなんとなく今までの事を思い起こしていた。
『そなた以来新たな同胞が生まれておらぬ……これは由々しき事態!
そこでじゃ! 人間社会に赴き情報収集しつつ人助けをする任を命ず!』
『へいへい、どーせ拒否権無いっしょ?』
『行き倒れ……!? 嬢ちゃん!大丈夫か!?』
『本当は多分キミより年上だけどそれはいいとして長老の奴がケチではした金しか持たせてくれなかったんだ!』
『大変だ、頭を打ったのか! こいつは厄介なことになったぞ……!』
『ところでギルドを作ろうと思うんだ』『居候の分際で何言ってんだ!?』
『我がギルドもはや中堅規模……ブッシュ、キミを副マスターに任命しよう!』
『べ、別に嬉しくなんてないからな!? 巻き込まれて仕方なくやってるだけだ!』
『この子はヴァネッサ。行くところが無いらしいからうちに来てもらうことにした』『はい!?』
「ブッシュ……ありがとう……」

58:セルフィ ◆WfbCv0o1zE
16/06/25 19:46:44.00 luNLFn9l.net
ゆっくり噛みしめる間もなかった想いが、ここにきて堰をきって溢れ出す。
暫くしてトリスタンが戻ってきたが、ジュリアスの姿は無い。
トリスタンは空元気で饒舌に喋りはじめた。
>「よう、飲んでるかい?っつっても、ブッシュのおっさんを亡くしてて、悲しいんだろうけどさ。
ブッシュとはやっぱり、一緒に暮らすほどの仲だったのか?そういや、翼が生えてたみてえだけど、天使か何かの一族か?
あ、そうだ…あと、ヴァネッサのことはこれからどうするんだ?」
「一緒に暮らすほどの仲というか……まあ成り行きで、ね。
これから話すことは酔っぱらいの戯言だ。
お察しの通りボクは天使、隠れ里エデンに住まい生命の樹から命を授かる一族―その一族の諜報員だ。
長老が言うにはこの世界には何かとんでもない異変が起こってる……。でもそれが何かは分からないんだ。
ヴァネッサは……そうだな、副マスターに任命してもいいかもしれない。
何にせよ今までどおりいてもらうさ、彼女が自分から離れて行かない限り、ね」
何か極秘事項をペラペラ喋っている気がするが、仮にトリスタンがこれを人に話したとしても
「頭のネジが飛んだギルドマスターがまた変な事を言ってやがる」で済むので何ら問題は無い。
ところで大剣ドラゴンキラーの持ち主は何処に行ったのだろうか、セルフィが尋ねる前にトリスタンが口を開いた。
>「あいつは俺が逃がした。悪い…」
「……」
セルフィは複雑な表情で絶句する。
驚きの事実ではあるが、全くの予想外ではなかった。逆に予想が的中しすぎて驚愕しているのかもしれない。
>「殴りたければ殴ればいい。通報してくれても構わない。ただ…あいつは、俺の弟なんだ。
どうしても復讐しなきゃならねえ敵がいる。そいつは、俺にとってもあいつにとっても一緒だ。
なぁに…この剣がなきゃ、あいつは今まで通りの力は出せねぇ…」
最後の苦し紛れの希望的観測を聞いてふっと笑う。
嘘から出た真―と言うべきか、それはおそらく現実のものとなっている。
「ふふっ、確かに今まで通りにはいかないかも。
そんな事だろうと思ってね、キミが寝ている間に弟君に悪戯させてもらった。
といってもそんなに物騒なものじゃあない。これ以上無駄に命を奪わないように”約束”してもらったんだ」
約束といっても無論強制的に―だが。
殺人禁止のギアスの例外条項“誰かを護るため以外”の誰かには、当然自分自身も含まれている。
無理矢理禁止事項を破ろうとしない限り、本人に危害を加えるものではない。
そうして暫く語らい、トリスタンががニルスに表彰されたりしていた。
明日にはジュリアスがいない事に皆が気付いて大騒ぎになるだろうが、ひたすらすっとぼけるのみである。

59:創る名無しに見る名無し
16/06/25 19:48:24.84 luNLFn9l.net
>「俺は…明日にはここから出る。お別れだ。報酬はいらねえ。ここの酒とこの剣だけで充分だ。
じゃあな。これからもギルドマスター、頑張ってくれよ。俺の命の恩人の天使さんよ」
トリスタンがセルフィを抱き寄せ、頭の上でかるく手をはずませる。セルフィはそれを拒まなかった。
もしこの場にブッシュがいたら「お前そんな柄じゃないだろ!」と突っ込んでいるところであろうが
セルフィの普段のキャラを脇に置いて絵面だけ切り取ってみれば恐ろしく絵になる一場面であった。
「こちらこそ、ありがとう。キミとはまたどこかで会う気がする。だから―またね」
長居してジュリアス逃がしの疑いがかけられては大変―おそらく明日の朝には出立することになるのだろう。
さて、この出会いは歴史を変えたのか―その答えは……
もしも出会っていなかったらトリックスターの勇者は死んでいた、その意味でYESであった。
しかしセルフィはそんなことを考えるわけもなく、ギルド”アナザーヘヴン”は平常運転の日々に戻るのである。
「おいセルフィ、こいつ行き場所ないみたいだから手下にしていいか?」
「駄目だよ勝手なことしたら」「えっ!?」「まずはきちんと会則を説明してうちの方針に賛同してから入会してもらわなきゃ」
これからもセルフィと愉快な仲間達は波瀾万丈な日々を紡いでいくのであろうが
勇者トリスタンの年代記における彼らの一幕はひとまずこれでおしまい。

【ありがとうございました!
置き土産にジュリアス君に細工をしましたが単に演出上やってみたかっただけなので
「実は効いていなかった」「気合で解除!」など何でもアリですw
形式上継続的にご一緒できないのは寂しい気もしますが今までにない斬新な形式なのでこれからの展開が楽しみでもあります!
最初から短期間と分かっているのでお試しで体験してみたい人にも向いてるかもしれませんね。
私が投げ込んだ設定の断片達はもちろん改変自由です。ひとまず一介のROMに戻りますが応援してます。
気が向いたら是非是非NPCとして使ってやってくださいね〜】

60: ◆zTA3Hlbo9w
16/06/26 15:42:07.57 22ZK7ONl.net
その日の夜のこと…
宴会での酒も入り、トリスタンは無事に事を済ませて朝を迎えるまでの一時をこの屋敷の部屋で眠りにつこうとしていた。
しかし、そう易々とはさせないようだ。”誰か”が部屋へと侵入してきたのだ。それも一人で。
「…誰だ?」
恨みは当然買うだろう。命を狙われる覚悟はあった。トリスタンは素早く起き上がり、相手の姿を確認した。
そこにいたのは―
「ヴァネッサ…!一体何をしに…俺にやっぱり恨みがあるのか?」
ヴァネッサはこれまでに無いような複雑な表情をしてきた。
トリスタンのベッドの前で話しかける。
「トリスタン…オレはとうとう”ヒトゴロシ”になっちまった…」
「寝付けないのか…?」
「うん…」
ヴァネッサらしくもない、しおらしい顔だった。
「お前は人を自分の手で殺した。冒険者としてはもう大人だ。誇りを持っていいんだぞ」
「だよな。もう大人なんだから、今晩ぐらいはトリスタンと一緒に寝る。どうせ明日逃げるんだろ?」
見透かしたように、ヴァネッサが言う。ベッドの端に腰掛けた。
「何言ってんだ…!お前はまだ女としてはガキだよ。話なら聞いてやるから、下でさっさと寝てな」
「これでも、そう言うのか…?」
トリスタンがふと気付くと、ヴァネッサは既に裸になっていた。
まだ14歳とはいえ、その肢体を見れば、女としては成熟していると誰もが言わざるを得まい。
トリスタンはしばらくの沈黙のうちに答えた。
「分かった。来いよ」そう言ってヴァネッサをいざなう。
「拒まないのか?」「どんな時でも女の要求に応えるのが男ってやつだ。男はみんなスケベなのさ」
部屋の明かりが消えた。

「トリスタン、もう行っちゃうの?」
「あぁ、予定より早くなった。セルフィたちが起きる前の方が良いと思ってな。お前、良い顔してるぞ」
ヴァネッサが顔を赤らめる。
「なぁ、トリスタン、あんた、うなされてなかったか?」
「そう見えたのか?」「あぁ、凄く苦しそうだったよ。でも、もう気にしていないなら良かった」
もしかすると、母を襲った相手に自分を重ね合わせていたのかもしれない。罪悪感、だろうか。
もしくはセルフィに対する自責の念から来たものかもしれない。
そっとヴァネッサを抱きしめ、頭を撫でる。
「これは俺からの餞別だ。お前の素早い動きなら、きっと使いこなせる。性能は保証つきだぜ」
それはカレイジャスが持っていた、豪華な宝飾つきの短剣だった。勿論、もったいなくて使ったことはない。
「じゃあ、オレからも…」
ヴァネッサは緑色の宝石を出した。
「これ、大分前にブッシュから譲ってもらったんだ。身代わりのお守りにって」
「いやいや、高価なモンだろ?そんな大事なのを俺なんかに…」
「もらっといてよ。もうオレは”一人前”だから。それにこれがあればきっとまたトリスタンに会える気がする…」
ヴァネッサは泣いていた。そっと抱きしめると、その宝石を受け取った。
「じゃあな。きっとお前ならセルフィと一緒に立派なギルドを立て直せる。また会おう」
そっとトリスタンは屋敷を出た。
「じゃあな、セルフィ」
命の恩人、セルフィに感謝しつつも、そっとトリスタンはそこを出た。
それにしてもセルフィがジュリアスに仕掛けた”悪戯”とは何だったのだろう…?

61: ◆zTA3Hlbo9w
16/06/26 16:01:44.34 22ZK7ONl.net
それから一日後の昼、トリスタンは森の中で戦が行なわれているのを見た。
どこかの国、恐らくはバルゲル公爵領と思われるデザインの鎧の兵たちと、
どこかの暗殺者たちといった軽装の顔ぶれとの戦いである。
暗殺者たちは決して手際が良いとはいえず、次々犠牲者を出し、士気を落としていた。
兵たちは決して錬度は高くないが、その中のトリスタンに歳の近い青年の剣さばきはかなりのものだった。
「キール様!」「さすがキール様だ!」
キールと呼ばれた男は、次々と剣から衝撃波のようなものを繰り出し、敵を屠っていった。
トリスタンほどの目にもなれば仕掛けが分かるが、それは魔法ではなく、剣自体が伸びるような仕掛けになっているようだ。
「水鳥剣!」「さすがキール様の水鳥剣!」
おっと、そんなことを考えていると、暗殺者のうちの二人がトリスタンを発見し、襲い掛かってきた。作戦が失敗した腹いせだろう。
表情を見ていると、どうも本物のプロというよりは、何者かにカネで雇われたそこらの農民といった方がふさわしかった。
「悪い…!」
バルログを引き抜くと、そのまま首筋と脇腹を突き刺し、二人を即死させた。
一瞬、キールの目が見開かれ、こちらに注目する。しかし、何を考えているか分からないような涼しげな目でこちらに挨拶した。
「すまない、青年。我々の争いに巻き込んでしまったな。では、我らは任務中なので、その死体にも触れないでもらえるとありがたい」
感じの悪い奴だ、とトリスタンは思ったが、特に興味もない。一言だけ聞いた。
「いや、大丈夫だ。それより、この近くに街はないか?”キール様”、腹が減ってな」
皮肉に対しキールが答えるまでもなく、近くの兵士がぶっきらぼうに言った。
「この方向に行けば街道に出るぞ。そうすればバルゲル公が治めるハーグに出る。さぁ、さっさと行くんだな」
キールは鼻で方向を指すだけで、そのまま敵の後処理へと入った。
感じの悪い男だ、と思いながらも、トリスタンはしぶしぶそちらへと向かった。

62: ◆zTA3Hlbo9w
16/06/26 16:16:20.21 22ZK7ONl.net
名前:イリシア・マクドネル(イリス)
年齢:24
性別:女
身長:171
体重:58
スリーサイズ:97-62-95
種族:人間
職業:マクドネル王国第一王女(バルゲル派)
特技:剣術
長所:勇猛なこと
短所:後先を考えないこと
武器:ハックブレード
防具:ブレストアーマー
所持品:多くの装飾品
趣味:ショッピング、剣術
最近気になること:戦乱の行く末について
将来の夢(目標):自分の力で王国を一つにする
キャラ解説:トリスタンがたまたま出逢ったマクドネル第一王女。
既に第一王子である弟フルトとの対立は決定的になっており、公爵領で保護されている。
なお、国王側とも友好。トリスタンとの間にできた7歳の息子、ランスロットがおり、溺愛している。
未婚の母であり、周囲からの感情は複雑。バルゲルの次男であるキースに想いを寄せられている。
>>59
【ありがとうございました。どこかでその設定、生かしたいですね。
お察しのとおり、短編の集まりで展開させていく予定です。ではではまた!】

63: ◆zTA3Hlbo9w
16/06/26 16:17:29.30 22ZK7ONl.net
街道に出てしばらく歩いていると、最近できたらしき大きな白亜の屋敷が目についた。
ついつい心を引かれたトリスタンは、屋敷へとそっと近づいていく。
その時、ふと屋敷の扉が開いた。トリスタンは見えないように物陰に隠れた。
屋敷からまず出てきたのは、豪奢な服装に身を包んだ男の子だった。
歳は7、8歳といったところだろうか?腰に剣を挿しているところを見ると、
その歳にして剣術の訓練を受けているのか、よほどの身分なのかということを思わせる。
それ以上に、男の子に見覚えがあった。
「まさか…」
いや、そのまさかだった。
「あれは… そんな…?!」
彼の顔は、トリスタンに”非常に似て”いた。
すぐ後ろからそのお付きと思われる兵士や侍女、執事、召使のような者が現れる。
明らかに普通の身分ではない。
そして、最後に現れた女性を見て驚いた。
それはあの時出逢った、イリスの姿に間違いなかった。

一応、>>61>>62の間です

64:創る名無しに見る名無し
16/06/30 00:25:50.52 kQhuqM40.net
支援保守

65: ◆zTA3Hlbo9w
16/06/30 16:12:30.82 If4aAGH6.net
小一時間は過ぎただろうか。
しばらくすると、先ほどのキースという男が、多くの武装した兵たちを引き連れて屋敷へと戻っていった。
兵たちは一部の者を除いて別の場所にあるらしき宿舎へと向かっていく。
内部からも大勢が出迎えた。兵たち以外に、メイドたちの姿もあった。
彼女たちは様々な武器で武装している。「メイド・ガード」というこの周辺地域に残る伝統らしい。
場合によっては暗殺部隊も驚く特殊任務もできるという噂だ。
その奥から、自ら出向かえたのは、イリスだった。
「これはこれは、イリス様、ご機嫌麗しゅう…手土産をお持ちしました」
イリスはキースの姿を見て、不機嫌そうに一言言い放った。
「土産などいらぬ。もう貴殿の顔は見たくない。帰ってはくれないか」
トリスタンがイリスの変わりように驚く。まるで王族だ。いや、王族だったのか…
「これは今日のお近づきのしるしに…それとイリシア様、いつまでもそのような態度をされても困ります。
あなたは父上の庇護下にある。私の話にも従っていただかなくては…そして、ランスロット様は…」
何かを強引に手渡し、手の甲にキスをしようとするが…
「話はこれまでに。私は王国を元に戻す責務がある。そなたの野心などに利用されるつもりはない!」
そのまま手を弾くと、大声でイリス…イリシアは怒鳴った。
あまりの声の大きさに驚いたトリスタンはうっかり体を仰け反らせてしまい、剣の鞘が地面に当たった。
「何者だ!」
兵の一人が声を張り上げると、不審者を追うように指示が出された。
「賊だ!追え! 殺してしまっても構わん」
キースが声を張り上げる。バルゲル公爵の息子なのだろう。周囲は一斉に警戒態勢に入った。
トリスタンはその場に「ドラゴンキラー」を隠すと、そのまま森へと駆け出していた。
敵はまだ一部追ってきている。その足は速い。三人だ。そしてトリスタンは発見された。
「賊は剣を持っている男と思われます。見つけ次第殺しましょう」「はい!」
一斉にトリスタンの周囲をメイドたちが取り囲む。一人は東方風の曲剣、一人は沢山の飛び道具、そしてもう一人はナイフのようだ。
トリスタンは足は速かったが、彼女たちはなんせ布装備で、洗練された動きだ。確実に追いつかれ、殺される…!
木々の感覚が狭いあたりを狙い、迎え撃つ。
まずはナイフと矢が放たれるが、半分以上は木に遮られ、残りもマントによって弾かれた。
動きも揃っているようだ。左右から取り囲むようにして、残りの一人、刀使いが後ろから狙ってきた。
そこでトリスタンは、賭けに出る。
「うおぉぉおお!!」
バルログを抜くと、感覚が確かにあった。メイドは突然引き返したトリスタンに怯み、両側から攻撃が入ったものの、
矢と投げナイフの攻撃を受けつつも、後ろのメイドの首筋を切り裂き、彼女は刀を落とし大量の血を噴き出しながら肢体をがくりと木の幹にぶつけた。
「…!!」「しまった…殺しちまったか…!」
メイド側は全く怯む様子を見せず、間髪を入れずに攻撃を繰り出す。
トリスタンはわざとナイフを持ったメイドの方に背中を向け、ボウガンを持ったメイドの方に全身を傾けた。
その隙に上からナイフを持ったメイドが襲いかかる。そこが狙いだった。
トリスタンは横転すると、そのままメイドを掴み、屠殺するかのごとく、脇腹を抉った。
「ぐっ…」
その一撃は殺すつもりはなかったが、装備が予想より薄かったのか、トリスタンの力が予想以上だったのか、致命傷となってしまった。
彼女は血を撒き散らしながらのたうち回ったのち、動かなくなった。
もう一人は逃げるかと思いきや、わずかな隙にトリスタンの懐に飛び込んできた。刺し違えても殺害する気らしい。
「さすがはハーグのメイド・ガード…だが俺の体力を見誤ったようだな…!」
トリスタンはあちこちから血を流しながらも、そのまま護身用のナイフを持った腕を折り、バルログを首筋に突きつけた。
「止まれ、動くと死ぬぞ…うっ!」
メイドはバルログに噛みつき、刃先を落とした隙にトリスタンの腕に強烈な周り蹴りをかましてきた。
その攻撃をかろうじて防ぐと、腕に一撃を食らわせ、さらに次の攻撃の隙に脚にもかすり傷を負わせた。
魔法ダメージの蓄積により彼女の体はしびれ、いよいよ動きが鈍くなった。
「終わり…だな。さて、殺しはこのへんにしたい。命は助けてやるから、話を聞かせてくれ。傷薬もある」
しかし、剣を突きつかれたメイド・ガードの反応は意外なものだった。
「キース…様… 任務を果たせませんでした…死にます」
そう言って舌を噛み切ろうとしたのである。

66: ◆zTA3Hlbo9w
16/06/30 16:59:57.35 If4aAGH6.net
名前:ドロシー
年齢:18
性別:女
身長:163
体重:53
スリーサイズ:84-59-85
種族:人間
職業:メイド兼ガード
特技:特殊任務
長所:絶対的な忠誠心
短所:あまり頭で考えようとしないこと
武器:小弓、ボウガン、ナイフなど
防具:メイド服
所持品:様々な暗器
趣味:掃除
最近気になること:内乱について、キースについて
将来の夢(目標):内乱を収め、キースのメイドとして生涯を過ごす
キャラ解説:幼くしてバルゲル家に預けられたメイド・ガード。
バルゲル家に絶対的な忠誠を誓っており、あらゆる任務をこなしてきた。
キースには恋心を抱いているようである。また、イリシアに対する理解も持ち合わせている方。

67: ◆zTA3Hlbo9w
16/06/30 17:00:36.64 If4aAGH6.net
舌を噛んで死のうとしたメイドを、トリスタンは体を張って止めた。
トリスタンはメイドの口をこじ開け、そこに自ら握りこぶしを入れた。
「ぐっ…」 トリスタンの腕から血が滲み出し、それが溢れてしたたり落ちる。
「いいか?!お前はまだ若いし、綺麗だ。ここで死んだりしたら勿体ねぇ!それに、逃げようとすれば逃げられる!」
それでも腕に歯は食い込んだ。
「ぐっ、分かった。じゃあこう考えたらどうだ!お前が死んだらキース様とやらが悲しむぞ!とりあえず腕を放して、死ぬのは止せ!」
それでも腕は歯に食い込んだ。
「お前にはまだやる事がある。俺はイリシアの関係者だ!俺とお前の力があれば…きっと変えられる…!」
「…!」
そこで力が弱まった。
「分かりました。死ぬのはやめます。でも、殺せませんでした…ご自由にどうぞ…」
トリスタンはそのまま剣を突きつけたまま、命令する。
「じゃあ、まずは武器を捨てて服を脱いで裸になってくれ。辛いなら俺も手伝う…」
自分で言っていて恥ずかしくはあったが、安全のためには止むを得なかった。ガチャリ、と女は次々武器を地面に置く。
そして服を脱ぎ出した。そこにも武器があちこちに隠されていた。女は痩せ型だったようだが、そのプロポーションはやはり女としては魅力的に映った。
トリスタンが思わずゴクリ、と唾を飲み込む。女は一糸纏わぬ姿になった。
「このままこっちに来い」
剣を使って女を誘導する。それは武器から遠ざける目的でもあった。
「犯すのですか…?」女が覚悟を決めたように後ろを向いたままトリスタンに尋ねる。
「馬鹿、本当にやるぞ…? まずは傷の手当だっつの。まだまだ聞きたいことはたっぷりあるんだから。薬、あるか?」
トリスタンも同じく鎧などを脱いだ。そして、まずは女の傷を傷薬で応急処置し、折れた腕を包帯で巻き、
さらに女から貰った薬も含めて自分の全身にある深い傷も手当てした。
トリスタンの傷は多く、女は塗るのを手伝おうかと言い出したが、それは止めた。
もはや全裸同士で興奮し、いつ襲ってもおかしくない状態だったからだ。トリスタンも男なのだ。
「よし、大体これで良い。時間もないから服着るぞ」
そしてトリスタンと女は服を着た。女は水をかけられた犬のようなきょとんとした表情をしている。
「俺はトリスタン。イリシアとは知り合いだ。俺はあいつに会うのが目的だ。お前は…?」
「…私はドロシーと申します。キース様の配下で、イリシア様の屋敷のお世話をしています…」
「さて…まずはそれ、片付けよう。見てるだけでも辛い。知り合いか?」
「当然です…当然ですとも。アリスとマリーは、同じくキース様のお世話をしていました」
幸運にも、このあたりは水気が多い腐葉土で、穴は掘りやすかった。
ドロシーと共に二人分の穴を掘り終えると、トリスタンはマリーとアリスの死骸をそこに入れ、埋めた。
勿論、近くに転がった装備品も一緒に。
「…きっとキース様がお許しにならないと思います…私はどうしたら…」
「大丈夫だ。俺が何とかしてやる。その代わりだが…情報が欲しい。今、話せるだけ話してくれ。言いたくない部分は良いから」
ドロシーは正直に話した。
元々ドロシーは、バルゲル公に仕えていたメイドの一人だったが、王女のイリシアが突然身篭り、大騒ぎになって、
腹が大きい頃に追放されて内乱が発生、国外のバルゲルに引き取られることになった。初めは小さな家で隠れて住まう身だったが、
今度は男子、ランスロットを産んだことで、突然国王側から支援物資が送られるようになった。
その後は分離したフルト王子派を凌ぐ勢力になりつつあるということで、バルゲル公は急激に力をつけた。
自分は主にバルゲルの次男、キースの世話をすることになったが、独り身のキースは歳が近く夫のいないイリシアに興味を持つようになり、
父親があまりその気でもないのに、強引に迫ろうとしていて、それがドロシーの悩みの種になっている。
しかし、今でもキースのことは愛している、と。
「そうか、ランスロット…っていうんだな…その子…」
やたら興味深々なトリスタンに、ドロシーは驚いて顔を見た。
「あれ…きっと俺の種なんだ…」
トリスタンが、静かに呟いた。

68: ◆zTA3Hlbo9w
16/07/03 15:22:06.83 +wjESad+.net
片手を怪我したドロシーだったが、トリスタンの提案で、屋敷に気絶させたトリスタンを担ぎ込むことになった。
体は鍛えられており、決して楽ではなかったが、男一人を担ぐ程度なら片手に抱えることはできた。
剣を見えない位置に隠し、そのまま屋敷に向かう。
「賊を捕らえました。アリス、マリーは戦死…」
報告とトリスタンの姿を見たキールは、突如剣を抜くと、切っ先をトリスタンとドロシーに交互に向けていた。
「そうか…この男、知っているぞ。それはお前たちも苦戦する訳だ…
ふん、うちの可愛い”兵”を殺されたんだ。すぐにでも殺してやりたいところだが…ところで武器はどこに行った?」
「…戦闘中に、どこかに落としたかと…」
「まぁ良い。牢屋にぶちこんでおけ。しっかり縛っておけよ」「はっ!」
周囲の兵たちがぞろぞろと、トリスタンを地下牢へと担いでいった。
「うっ…!」
ドロシーはキールに抱き寄せられたかと思ったら、突然平手打ちを食らい、地面へと倒れ伏した。
その頭をキールがグリグリと踏みつける。
「少々、手際が悪いんじゃないか…? 今度似たようなことがあったらこの”レッドファルコン”の錆にしてやる。
今日は俺が寛容だと思って感謝するんだな。さぁ、行け。今日は休んで明日からは猛特訓だ」
トリスタンは暗い地下牢の中で目を覚ました。
どうやら見張りの兵士か拷問官か分からないが、アーマー姿の男数名に囲まれている。
両手両足を縛られ、裸にされて吊るされている。
「よう、起きたか。お前、メイドを二人も殺ったんだってな?結構な筋肉だ。若いが結構殺してると見た」
「てめえなんかを、まさかキール様は取り立てでもしねえか心配だぜ。その前に殺してやろうか?」
「…雑魚が」
「なんだって?」
「…雑魚が、黙ってろって言ってんだよ」「何ィィィ!!」
バン!パン!と鞭の音が響く。ただでさえ満身創痍の体に鞭の傷が刻まれる。
このままじゃ殺される…とトリスタンは思った。
「まぁ待て、面白い話をしてやるぜ」
相当の時間が経ち、鞭を握る兵も疲れたようだ。トリスタンの言葉に、鞭を振るう手をやめる。
見張りというのは相当に退屈な仕事のようだ。
「あぁ、俺の傭兵稼業での、面白い経験さ」

69: ◆zTA3Hlbo9w
16/07/03 16:19:32.74 +wjESad+.net

一方…ドロシーは、あちこちが傷で痛む中、イリシアの屋敷へと向かっていた。
イリシアの屋敷にもメイドの見張りがいる。不自然ではない。
回復魔法によって腕もかろうじて元通りになったが、体は疲れ果てていた。
兵の前を通り、そのままドロシーの部屋をノックする。
「何用だ?」
「イリシア様、賊を捕まえましたが…その…賊から気になる言葉を聞いておりまして…
今はその男は地下牢におります。イリシア様にどうか会いたいとのことです」
イリシアが地下牢へと向かうと、ぐったりした状態ながら、兵たちにからかわれるように語らうトリスタンの姿があった。
「イリシア様…?」兵士たちが驚き、立ち上がり敬礼をする。
「…!お前…来たのか?」 トリスタンが呟くように言った。「…!!」
イリシアは目を疑った。その姿は8年前に会った、あのトリスタンに間違いなかったからだ。
自分よりも小柄だった彼は一回りも二回りも大きな体をしており充分に鍛えられた裸身を晒していた。
反射的に、イリシアは言った。
「これよりその者を解放し、こちらで話を聞きます。連行を…」

既に夜も遅く、ランスロットは奥の部屋で寝ているようだ。
簡単な手当てを施され、布切れのような服を着たトリスタンは、イリシアの部屋で久々の”再会”を果たした。
キビキビとしたイリシアの口調を、トリスタンは聞いていた。まずは第一声。
「お前…変わったな…」 「トリスタンも…な」
既に縛っていた縄は全て解かれている。イリシアの瞳には全く警戒心がない。
その青い瞳でじっと、トリスタンの姿を凝視していた。昔を思い出しているのだろう。
「ランスロットと、本当にそっくり…」「やっぱり、そうなのか…?」
こくり、とイリシアが頷いた。
そしてどちらからともなく、抱き合う。自然な形でお互いの腰に手が回る。イリシアは泣いているようだった。
その姿を見て、トリスタンは無性に悲しくなった。これだけの間に、一体どれだけ彼女は悩んだのだろう…?
「俺を…許すのか…”イリシア”?」
すっかりたくましくなった腕でイリシアの頭を撫でながら、耳元に囁きかけた。
イリシアはトリスタンに唇に唇を重ね、そしてそっと呟いた。
「…許すものか…絶対に許さない…」しかしながら顔は綻んでいた。
「お前がどこで何をしていたかは知らないが、その間に国は分裂し、多くの戦争が起こり、数え切れないほどの人間が死んだ…」
「それは、俺が撒いた”種”だって言うのかい?イリシア…」
「あぁ…だが、私は…」もう一度口付けをする。 「幸せだ…」
そして、イリシアが恥ずかしそうな表情でトリスタンに語りかける。
「では、釈放の条件として、イリシアがお前に命令する」
「はぁ…何だってんだよ?」
「私を…黙って抱きなさい。牢獄で会ったお前のたくましい体が頭から離れないのだ」

70: ◆zTA3Hlbo9w
16/07/03 16:23:47.00 +wjESad+.net

別室にて、トリスタンとイリシアが寝そべっていた。充分に語らい、すっかり打ち解けている。
「だからさぁ、お前が無防備だったのも悪いんだっつの」「我慢することも、大事だ」
「まずさ、お前が王女だなんて明かさなかったんだから、やっぱお前が悪いって」「そういうのは男の勝手というもの」
「前から言ってるだろ?男はみんなスケベなんだ。そして、俺は世界一の…」「冒険屋…か」
服を着たトリスタンは、次の行動について悩んだ。獲物を屋敷の外に置いてきてしまった。
早くしなくては、もしキールの兵たちが現れたら取り返しのつかないことになる。
「トリスタン、ランスロットには会っておきたくないか?」
会っておきたくないか、というより会わせたい、といった表情だ。親子水入らずで、
あわよくば、このまま家庭を築きたい、といったところだろう。
そのとき、宝石をしまっているポケットが一瞬、熱くなった気がした。
「…悪ぃ、止めとくわ。あいつのためにも、今は早すぎる。真実を知るにはまだ時間が必要だ」
イリシアは凄く悲しそうな顔をして、もう一度トリスタンの胸に顔をうずめてきた。それを抱きとめる。
「俺はお前を…もっと安全で幸せにしてやる…必ず…!」
今度はトリスタンの方からキスをした。
トリスタンは武器を回収するためにイリシアに頼み、外にいる従者に伝えてもらった。
その間に再び先ほどの部屋に戻って酒を飲みながら会話をする。そういえば飲むのも久しぶりだ。
イリシアは現在王国内で起こっている、様々な問題について語り、
現在命を狙われているため、大剣の練習をしているとも語った。
また、キールによる執拗な誘いについても悩みを明かした。そしてそこに政略の影が潜んでいることも。
そういえばイリシアは比較的肩幅も大きい方だったはずだ。大剣を振るうことも不可能ではない。
考えていると突如、イリシアがかしこまった顔になってトリスタンに願い出た。
「捕虜のあなたに釈放条件として一つ頼みがあります」「どうした?」
「キールを…殺してください」
トリスタンは驚いた。キールはイリシア本人を庇う親族の一人であり、王族でもある。
それもこの屋敷のすぐ隣に豪邸を持っており、兵たちも多数従えている…というより、この一帯の兵は実質的にキールのものみたいなものだ。
これだけの大勢の敵がいる中で、それだけの剛の者を殺せというのは、トリスタンでも気が引けた。
そのとき、武器をかかえた人物が現れた。それはドロシーだった。
バルログと、ドラゴンキラーがその腕に抱えられていた。
トリスタンは直接出向き、ドロシーに礼を言うと、頑張れよ、と頭を撫でた。
ドロシーは嬉しそうに、そのまま屋敷を出ていった。一瞬、イリシアに関係を疑われたが。
「これなんだけど…お前、使えるか?」
ドラゴンキラーを手に取るイリシア。それは、弟・ジュリアスが愛用していたものだ。
その刀身は太く、禍々しい模様に彩られ、斬った人間や魔物の数は数え切れないことだろう。
それだけの貫禄が、その剣にはあった。
豊満な体を揺らして、一撃、一撃と大剣を振るう。その姿は様になっており、形も一通りはできるようだ。
問題はどれだけの実践力があるか、だが。
バルログもめでたくトリスタンの元に戻り、さっそくその感触を確認する。先ほどメイドを二人斬り捨てたことが頭にこびりついたが。
その時、屋敷の階下が急に騒がしくなった。
ガチャガチャと、プレートアーマーの音が響く。多くの兵たちが動いているのだろう。
見張りに対して、兵が大きな声を張り上げる。
「トリスタン、という者は来ているか…?! そいつは脱走した捕虜だ!見つけ次第殺せ!」
トリスタンはイリシアに促され、実の息子であるランスロットの部屋へと案内された。
ランスロットが思わず目を覚ます。
「何者?母上は、どこに行ったのですか?」丁寧な口調だ。相当の教育を受けているのだろう。
「俺はトリスタン。イリシア様の直属の兵だ。気にすることはない。ここで横になってな」
敬語を使う訳もいかず、だからといって父親面する訳にもいかない。
しかし、暗い中で、ランスロットとトリスタンは確かにお互いの顔をはっきりと見た。
ガチャガチャと音がして、ついにイリシアの部屋の扉が開け放たれた。

71: ◆zTA3Hlbo9w
16/07/08 17:00:16.54 1TSF7Ujb.net
トリスタンはバルログを構え、音のする方向へと駆けた。
そのとき、大声が響いた。
「イリシア・マクドネルの名において命じる!この者、トリスタン・ロートネフィルは、
我が王家において数々の武勲を挙げた者… 我が直属の重臣である!
これより、キール・バルゲルを越権行為及び王家に対する反逆罪として、討ち取るべし!!」
そこにはマクドネル王家の旗を翻し、豪奢なプレート・メイルを着込んだイリシアの姿があった。
イリシアの体型に合わせて作られた特注のもので、その姿は女神にすら見えた。
トリスタンは突如として名指しされ、驚いてすぐさま反応した。
「承知!!これより反逆者、キールの首を取りに行きましょうぞ!!」
周囲のアーマー兵たちを煽る。駆けつけた者たちには王女に仕えた執事などもおり、次々に王女側についた。
それはまさに、これまでのイリシアとキールの振る舞いの差が明白になったとも言える。
身分と人望では、明らかにイリシア側に分があった。とっさの判断は一気に流れを変えた。
あっという間に屋敷は味方の兵で一杯になり、キールが率いる兵舎の方へと大勢が攻め込んでいった。
ほぼ戦争のようなものである。
移動しながら、嫌な予感がしたトリスタンは、イリシアに尋ねた。
「ランスロットはどうしている?」
「あの子は護衛を10人ほど付けている。キールの屋敷を落としたら移動する算段だ」
「では、地下牢はどこにあるんだ?」
「地下牢…だと?」
少し外すと言って行った先は、ついさっきまでトリスタンが繋がれていた地下牢だった。
わずかな見張りの兵たちをバルログで吹き飛ばすと、やはり彼女がいた。
「トリスタン…様?!」
ドロシーが目を見開いた。もう既に死を覚悟していたからだ。
「俺はどこからでも現れてやるぜ…ドロシー、どうしてお前がこんな目に遭わなきゃならないんだ…?」
「それは…私がキール様を…愛しのキール様を裏切ったから…です」
ドロシーは裸に剥かれ、鎖や鞭、さらに乱暴をされた傷ができていた。
首からかけられたロケットはボロボロになり、中からは金属の破片が落ちている。
トリスタンが拾うと、その裏には立派な黄色い宝石が埋め込まれていた。
「それ…私の母の形見なんです… ここに奉公する前に貰ったもので…
でも、これからは私、トリスタン様に仕えます。そちらも差し上げます…!!」
トリスタンは黙って宝石を受け取り、鎖を引きちぎると、ドロシーを抱き寄せ、唇を交わした。
残りの薬を丹念にドロシーに塗りたくる。今後は死を決した戦いになるというのに、トリスタンはこの女のために薬を使いきった。
そしてトリスタンは自分の服を脱ぐとドロシーに着せ、手を引いた。
「さぁ、急ぐぞ。俺は、お前の主人だった男を始末しなくてはならない…!」
「では…」
急かすトリスタンをドロシーは抱きついてしがみつき、そしてせがんだ。
「先ほどから体が火照ってどうにもならないのです…!トリスタン様に仕えるための証を…どうかください」
トリスタンは黙ってドロシーを抱いた。

キールの屋敷は炎上し、次々と脱走兵が出る始末だった。
それらをトリスタンは次々に膾斬りにしていく。少しでもバルゲル本家に報告する可能性のある兵を消し、
情報を遮断することが、結果としてイリシア勢の命運を守ることに繋がるのだ。
ドロシーも本調子ではないが、次々と敵の残党に取り付き、止めを刺していく。

72: ◆zTA3Hlbo9w
16/07/08 17:00:40.18 1TSF7Ujb.net
トリスタンの持つ宝石たちが共鳴し、それらのオーラが渦を巻くようにしてバルログへと絡み付いていく。
既にトリスタンの一撃は、プレートアーマーをも貫き、甲冑ごと切り裂くだけの勢いを持っていた。
敵の剣がトリスタンを襲うと、トリスタンは素早くバルログを返し、剣を断ち切った上でそのまま軌道は敵のプレートに包まれた首を刎ね飛ばした。
敵の槍はそのまま軌道を反らされ、バルログがその槍を握っている腕を落とす。
プレートで包まれた体は腕の一本も落とされれば致命傷である。
兵士は絶望の叫び声を上げながらのたうち回り、やがて失血して死亡した。
「すげぇ、ありゃまるで台風の目だぜ…!」
味方の兵の一人がそう言った。
気がつくとトリスタンは屋敷の裏口から突入し、未だに敵味方でごった返している正門を差し置いて
破竹の勢いで進んでいった。
と、途中で梯子を見つけた。既にドロシーの姿は見失っていたが、今はそれどころではない。
早くキールを討ち取るだけだ。
キールはその時、自室で酒を飲んでいた。
既にフルプレート・アーマーを着こなし、武器も手元にある。
ただし、兜だけは邪魔になるのか、外していた。
「クソっ、下賤の者どもが…俺の意向に従わんとはな…イリシアまでも…あの売女が…!」
手前は護衛の兵たちで固められているのだろう。そろそろ出陣といった雰囲気だ。
それを小窓から見ていたのはトリスタンだ。すでに屋上に取り付いている。
しかし、この窓の大きさではどこからも侵入することはできない。つまり、やれることといえば…
「こうするしかねえぜ!!」
バカァァン!!と屋上の壁が破壊され、崩壊した瓦礫とともにトリスタンが落ちてきた。
それをキールが慌ててかわす。さすがの手馴れた動きだ。
同時に剣による一撃がトリスタンを襲う。切っ先をかわしたかに見えたが、
瓦礫とともに転倒していたこと、それと、「射程が思いのほか伸びたこと」が原因で、肩口に手痛い傷を負うこととなった。
「ぐおっ…」
「おう、貴様はあの時の…随分と威勢がいいな、略奪者め」
「キール様!!」
さらに分が悪いことに、騒ぎに駆けつけた兵が数名、護衛についてしまった。
トリスタンは味方から孤立し、敵だらけの中で、大ボスとご対面となった。
「死ねええええ!!」
再びキールによる一撃が見舞われた。その剣は細長いが、切っ先が特殊で、まるで数倍はあるかのような軌道を取る。
「この剣は…!!ぐっ…」
「俺様の”レッドファルコン”はなぁ、”無敵の剣”って言われてんだよオラァ!」
キールが武器を振るうと、周囲にかまいたちが起こる。
「んにゃっぴ…」
どうやらファルコンの巻き添えになったらしく、部下のアーマー兵の首に外れた一撃が入り、衝撃で頚椎の一部が吹き飛ばされた。
「へぇ〜、そりゃ味方も敵も区別ができないんだな。大したことねえな…!」
血を流しながらも煽るトリスタン。キールをあざ笑うと、キールは明らかに取り乱した顔になった。
「雑魚はみんな死ぬ。こいつらも、てめえもな!!ほら、死ね!イリシアは俺のもんだァァ!!」
留めとばかりに一撃がトリスタンを襲う。それをトリスタンは、素早く弾き飛ばした。
「んぴっ… ん… あれ… グゥォ…!!」
トリスタンはファルコンの軌道を見て、それを弾き返してそのままキールを狙った。それも魔力を込めながら。
兜を被っていなかったキールの頭は見事にハート型に割れ、そのまま脳漿と大量の血を吹きながら崩れ落ちていった。
オォォォォ…!!!!!
周囲の兵たちが崩れ落ちる。残党狩りとばかりにトリスタンは周囲にいた敵をあらかた屠ると、
「キールは死んだ!!もう敵はここにはいない!!!」と大声で叫んだ。
そして、そのまま梯子を降りると、凄い勢いで丘を降りていった。
この日、イリシア勢はキールの屋敷とその周辺施設を陥落させ、
次の日にはニルスの領土にも侵攻しニルス一族を捕虜にした。
バルゲル公爵はハーグ城周辺以外を全て取られ孤立、イリシアは「女王」として正当なマクドネルの後継者を主張し、
王国、王子派につぐ第三の勢力として領地と軍事力を持つに至った。
しかし、トリスタンはその後、姿を現さなかった。


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