ロスト・スペラー 11 at MITEMITE
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414:創る名無しに見る名無し
15/08/29 20:43:50.11 DGlpddiU.net
数針して、落ち着いた2人はヴァイデャに繰り返し礼を言ったが、彼の反応は冷淡だった。

 「既に十分な治療費を受け取っている。
  それ以上に望む事は無い。
  私の事は他言するな」

そう告げると、不機嫌な様子で背を向ける。
それでも母娘は最後に改めて謝辞を述べ、ヴァイデャの元を去った。
少女は拳闘士を目指す事にした。
母親は勿論反対しなかったが、父親は良い顔をしなかった。
しかし、強く止める事もしなかった。
グラマー地方の拳闘は、男女共に今も続いている。

415:創る名無しに見る名無し
15/08/29 20:45:27.20 DGlpddiU.net
『拳闘<ボクシング>』


ファイセアルスの拳闘の起源は旧暦の奴隷格闘にあると言う。
数少ない旧暦の史料には、魔封陣の上で闘わされる、人間や悪魔の姿がある。
現代の拳闘陣も、魔力封じの魔法陣の上に置かれるのが普通で、故に魔法は「使えない」。
思想的には、魔法で優美さを競うフラワリングの対極に位置する。
男性拳闘士はボクサー、女性拳闘士はボクサリン。
拳闘は男子拳闘も含めて、一種の『地下<アンダーグラウンド>』っぽさがあり、そこが人気でもある。
女子拳闘の人気は大陸全体で見ても高いとは言えないが、それなりに観客は存在する。
グラマー地方で拳闘が盛り上がらないのは、独特の風土に加えて、賭博を完全に禁じ、
男性の観客を締め出している為である。
拳闘の試合は、軽易な服装でなければ不利になるのだが、グラマー地方の風習では、
女性は濫りに異性に肌を晒してはならない。
よって、グラマー地方の女子拳闘は競技者、運営、指導者、観客、全てが女性。
逆も然りで、男子拳闘も男性のみである。

416:創る名無しに見る名無し
15/08/30 18:36:21.31 9Rdylh3e.net
バックパックン


第一魔法都市グラマー タラバーラ地区 ヴァイデャ・マハナ・グルートの診療所にて


その日、旅商の男ラビゾーは大量の空瓶と成形剤を持って、ヴァイデャの診療所を訪ねた。
バックパックには収まり切らず、旅服のポケットまで一杯に膨らませて、彼は診療所に入る。
空瓶と成形剤は全て、ヴァイデャに購入を依頼された物であり、詰まる所、「お使い」だ。
大荷物のラビゾーを見て、ヴァイデャは彼に言った。

 「御苦労。
  しかし、不細工な格好だな」

 「何て言い種ですか!
  僕は貴方に頼まれた物を買って来たんですよ」

ラビゾーが顔を顰めて抗議すると、ヴァイデャは思案する。

 「フーム?
  ラヴィゾール、鞄が小さい様だな」

 「荷物が多かっただけで、鞄は小さくないです」

丸で見当違いだと、ラビゾーは余り相手にせず、手近な机に空瓶と成形剤を取り出して並べた。
ヴァイデャは机一杯に置かれた、それ等を見渡して言う。

 「この位で一杯になる様では、この先も荷物の持ち運びに煩わされるだろう。
  君は旅商なのだから」

ラビゾーが持っているバックパックは『半槽容<ハーフタンク>』。
旅をするには大き過ぎる位だが、商品を運ぶには物足りないかも知れない。

417:創る名無しに見る名無し
15/08/30 18:39:11.78 9Rdylh3e.net
もっと大きい鞄を使えと、ヴァイデャは言いたいのだろうかと、ラビゾーは両腕を組む。

 「しかし、これでも十分大きい方ですよ。
  市販のバックパックでは最大級です。
  それに大き過ぎても、逆に不便です。
  欲張って詰め込むと、馬車に乗る時、閊えたりしますからね。
  僕の体格と体力では、重過ぎる物は運べませんし。
  後、今の所はバックパックを買い換える予定もありません」

 「君は何を言っている?」

 「バックパックを大きい物に替えろって話でしょう?」

ラビゾーとヴァイデャは互いに顔を見合わせて、疑問符を浮かばせた。
一拍置いて、ヴァイデャはラビゾーの考えを否定する。

 「否(いや)、買い換える必要は無い。
  君の鞄を貸してくれ」

 「……何をするんですか?」

 「私の魔法で、容量を大きくする」

 「そんな事が?」

 「出来るとも」

ラビゾーにとって、ヴァイデャは訳の解らない魔法を使う、旧い魔法使い。
事象の魔法使いである、彼の象魔法の理屈等、知る由も無い。
ラビゾーは半信半疑で、ヴァイデャにバックパックを渡す。
只で鞄の容量を増やせるなら、それに越した事は無かった。

418:創る名無しに見る名無し
15/08/30 18:42:01.35 9Rdylh3e.net
ヴァイデャはバックパックの中を検めて、ラビゾーに言った。

 「先ず、余計な物を出してくれ」

 「はい」

彼の指示通り、ラビゾーは着替えや非常食、商品を取り出して、バックパックを空にする。
それを確認したヴァイデャは、ラビゾーに尋ねた。

 「どんな動物が好き?」

 「へ?
  ……犬、ですかね……」

 「犬派か……。
  成る程、成る程」

そう言いながら、ヴァイデャは薬品棚から、約1袋容の瓶詰めの怪しい液体を持ち出した。
彼は瓶の蓋を開けると、逆様にしてラビゾーのバックパックの中へ打ち撒ける。

 「うわぁー!!
  何やってんですか?!」

ラビゾーのバックパックは、噴火した火山の様に、口から白い煙を吐いた。

 「ヴァイデャさん、何を入れたんです!?
  酸!?」

煙が室内に充満して行く。
それを吸い込むまいと、ラビゾーは口元を覆った。
ヴァイデャは淡々と答える。

 「魂だ」

 「魂!?」

ラビゾーは驚愕するばかり。
旧い魔法使いと言う物は、何から何まで常人の理解を超えている。

419:創る名無しに見る名無し
15/08/31 19:55:17.87 P7R0q6EL.net
やがて、バックパックは白煙を噴かなくなる。
ラビゾーは濛々と立ち込める煙を払いながら、ヴァイデャに問い掛けた。

 「一体、何の魂を入れたんです?」

 「『水差鳥<アルカトルズ>』だ」

 「鳥?
  犬は?」

 「持ち合わせが無かった」

詰まりは、好みが持ち合わせの中にあれば、採用したと言う事なのだろうが、
それなら一言欲しい物だと、ラビゾーは呆れる。

 「今、僕の鞄には鳥の魂が宿っていると?」

 「中々理解が早いな」

 「―で、鞄の容量は増えたんですか?」

 「試してみよう」

バックパックに水差鳥の魂が宿った所で、どうなると言うのか?
ラビゾーには何も解らないので、状況に流される儘。

420:創る名無しに見る名無し
15/08/31 20:04:27.65 P7R0q6EL.net
ヴァイデャがバックパックを掴み上げると、その中から声がした。

 「一寸、気安く触らんといて!
  ワテクシの主人は一人!
  誰にでも体を許す様な、易い道具と違(ちゃ)いまっせ!」

甲高い声に、ラビゾーは肝を抜かれて、目を丸くする。
差し込み式の蓋を口の様に忙しく開閉させて、バックパックが喋っている。

 「こらこら御主人!
  呆っと突っ立っとらんと、早う助けとくんなはれ!」

 「御主人……って?」

それは自分の事かと、ラビゾーは目を瞬かせる。

 「惚けはったん?
  自分の持ち物も、よう判らへんの?
  あー、『御主人』呼びがあかんかったかな?
  旦那ぁ〜、親方ぁ〜……何でも良えから、早う助けんかい!」

こいつは何なのかと、ラビゾーはヴァイデャに困惑した視線を向けた。
所が、ヴァイデャは何事も無かったかの様に、バックパックに空瓶を詰め始める。

 「おっ、こら、何して……」

バックパックは抗議するも、ヴァイデャは聞く耳を持たない。
空瓶を全部詰め終えた彼は、今度は成形剤を詰め始めた。

421:創る名無しに見る名無し
15/08/31 20:06:45.48 P7R0q6EL.net
空瓶と成形剤で、バックパックは一杯になる。

 「何……?
  何なん、この男?
  怖っ、話が通じひん……。
  御主人、何とか言うたってや……」

 (お前が何なんだよ……)

バックパックはヴァイデャに恐れを成して、不安気な声で改めてラビゾーに助けを請うたが、
当の彼は物を言う道具の方が怖かった。
ラビゾーが傍観していると、ヴァイデャはバックパックを机の上に置き、隣の部屋へ行った。
取り残されたラビゾーは、バックパックと2人(?)切りになって、気不味くなる。

 「あのー、御主人?
  何で一言も口利いてくれへんの?」

バックパックに問われたラビゾーは、真面目に問い返した。

 「……お前は何なんだ?」

 「何って……、ワテクシは貴方様の持ち物ですがな。
  どないしはりましたん?
  もう何年も付き合うとるのに、妙に余所余所しいやないですか?」

 「バックパックは喋らないし……」

 「わぁー、御主人、そら差別発言でっせ!
  物が口利いたらあかんっちゅうんですか?
  使い魔とか言うて、ワン公もニャン子も喋る、この御時世でっせ?
  そらぁ道具かて喋繰りますわな。
  それとも何ですか、物と話す口は持たんと?
  あーあ、御主人、そらぁ狭量や、器が小さい!
  情け無い主人を持って、ワテクシは恥ずかしゅう御座います」

饒舌なバックパックに、ラビゾーは閉口する。
ヴァイデャは何を思って道具に魂を入れたのかと、彼は悩ましく思った。

422:創る名無しに見る名無し
15/09/01 19:59:19.04 FG2Yh+h/.net
そもそも一体どの辺りが水差鳥なのだろうかと、ラビゾーはバックパックを凝視する。
彼に懐疑の眼差しを向けられて、バックパックは戸惑った。

 「……御主人、その眼は何ですのん?」

 「お前、鳥なのか?」

 「何、言うてはりまんの?
  どこをどう見て、このワテクシが鳥やと?
  わっさぁー羽が生えて、バサバサ飛びよるっちゅうんですか?
  冗談屹(キツ)いわぁ、ハハハ」

内心「そうだよな」と頷き掛けたラビゾーだったが、バックパックは何時の間にか、
立派な白い羽を広げていた。
ラビゾーは絶句し、遅れてバックパックも気付く。

 「ん、どないし……はわぁあーっ!?
  何や、これェ?!
  有り得へん、冗談から駒や……。
  知らんかって……ワテクシ、鳥やった……?」

ラビゾーとバックパックが馬鹿な遣り取りをしていると、ヴァイデャが半袋容程の小包を大量に抱えて、
戻って来た。

423:創る名無しに見る名無し
15/09/01 20:08:57.94 FG2Yh+h/.net
バックパックはラビゾーとの話を止め、焦りを露にヴァイデャに尋ねる。

 「んん!?
  待って、待って!
  その仰山持っとる奴、どないすんの?
  超絶嫌な予感すんねんけど!」

ヴァイデャは全く無視して、包を詰め始めた。

 「あかん、あかーん!!
  予想通りやん、無理やって!
  お前、全部入れる気やろ!?
  見ら判るやろ、常識で考えよ?
  何ぼやっても、容積以上は入らへんよ!?
  何が面白うて、こないな事すんのや!
  虐めやで、虐め!
  道具虐待反対!!」

バックパックは懸命に羽撃いて、羽を散らしながら抵抗するも、ヴァイデャは顔色一つ変えない。
バックパックの口一杯まで袋を詰めても、未だ詰め込もうとする。

 「無理やん、無理やん!!
  裂けるー、壊れるー!
  出来ひん、出来ひんて……、えぇい、入らへん言うとるやろが!!
  大人しゅうしとらぁ付け上がりよって!!」

散々喚き立てた果てに、遂にバックパックは我慢の限界を迎えて、怒号を上げた。
ヴァイデャは漸く一旦手を止めて、小さく溜め息を吐く。

 「物が入らない鞄は、最早鞄として用を成さない。
  自らの存在意義を捨てるか?」

 「えっ……」

強い口調でのヴァイデャの詰問に、バックパックは衝撃を受けた。

424:創る名無しに見る名無し
15/09/01 20:15:22.00 FG2Yh+h/.net
数極の沈黙の後、バックパックは大いに慌てる。

 「ひゃーぁ、豪いこっちゃ!?
  あわわわわ、アイデンティティーの崩壊や!
  御主人、ワテクシ、鞄やのうなってまうかも知れへん!
  ど、どないしたら良えんやろ……?」

 (知るかよ……)

意味が解らないので、ラビゾーは答え様も無い。
しかし、バックパックは半狂乱で、主人である彼に泣き縋った。

 「ワテクシ、鞄やのうなってもうたら……鞄やのうなってもうたら……只の鳥ですやん!」

 (鳥?)

 「嗚呼、御主人、ワテクシが鳥でも、見捨てんと旅に連れてって貰えます?
  良え子にしとりますよってに……」

ラビゾーは首を捻り、羽の生えたバックパックと共に旅する所を想像して、低く唸った。

 「……『無し』だなぁ……」

 「んな殺生なぁーー!
  ……えぇーい、こうなりゃ自棄や!
  鞄の意地を見せたるわい!
  おらっ、疾っ疾と詰める物、詰めろやー!!」

追い込まれたバックパックは、蓋を大きく開けると、ヴァイデャを挑発する。

425:創る名無しに見る名無し
15/09/02 19:43:55.51 kB+wbYyR.net
小包の詰め込みを再開しようとするヴァイデャに、ラビゾーは声を掛けた。

 「ヴァイデャさん!
  余り無理をさせないで下さい。
  壊れたら困るんで……」

よくよく考えなくとも、バックパックは元々ラビゾーの旅には欠かせない物であり、
壊れて良い事は何一つ無い。
彼は喋るバックパックを鬱陶しいと思っているが、それとは別問題である。
だが、バックパックは大袈裟に解釈して、感極まった声を出す。

 「ご、御主人、ワテクシの事、心配して……。
  ムムム、ここで忠義を見せな道具の恥!
  御主人、ワテクシの勇姿、よぉーく目に焼き付けなはれ!」

 「いや、無理するなよ?」

張り切るバックパックをラビゾーは諌めるが、聞こえている様子は無い。
話が終わったと見るや、ヴァイデャは改めてバックパックに小包を詰めた。
バックパックは小包が入る度に、一々反応する。

 「よっ、未だ未だ!」

 「未ぁだ入りまっせ!」

 「余裕、余裕!」

 「腹八分目って所でんな!」

 「次々詰めんかい!」

初めの内は威勢良かったが……、

426:創る名無しに見る名無し
15/09/02 19:46:57.48 kB+wbYyR.net
 「ま、未だや……」

 「……次、早う」

徐々に無口になって行くバックパック。
遂に何も言わなくなって、ヴァイデャに詰められるが儘になった。
それでも不思議な事に、容積以上の小包がバックパックの中へ消えて行く。
全部で数十個はあっただろう小包も、残り1個と言う所で、バックパックは声を絞り出した。

 「……それで、全部やな……?」

ヴァイデャは何も答えず、最後の1個を詰めた。
少し間を置いて、バックパックは勝ち誇った様に笑う。

 「……フッ……、フハハハハハ!
  ど、どやっ!?
  どや、どや、入ったで!!
  ワテクシ、見事に遣り遂げました!」

ヴァイデャはバックパックを無視して、至って冷静にラビゾーに言った。

 「容量は大きくなっている様だな」

 「どうなってるんです?」

バックパックの構造が全く理解不能だと、ラビゾーは当然の疑問を呈す。

427:創る名無しに見る名無し
15/09/02 19:49:42.08 kB+wbYyR.net
ヴァイデャに先んじて、バックパックが答える。

 「野暮な事、訊きはりますなァ!
  んな物、ワテクシの気合と根性に決まっとりますがな!
  御主人の鞄で在り続けたいっちゅう、忠義の心が奇跡を起こしたんや!
  褒めとくんなはれ!」

ラビゾーはバックパックを暫く見詰めると、ヴァイデャに頼む。

 「ヴァイデャさん、取り敢えず、これ、黙らせてくれませんか?」

 「一寸、御主人!!
  そら無いでっしゃろ!
  あんまりやー!」

折角、忠誠心を見せてくれた所で、この仕打ちは可哀想だと、ラビゾーとて思う物の、
喋繰り倒すバックパックは嫌だった。
ヴァイデャは即答する。

 「分かった、黙らせよう」

 「ノォーーッ!
  何なん、2人して!
  ワテクシを何や思うとんの!?」

 「物が喋る必要は無いと言う事だ」

抗議するバックパックを、ヴァイデャは冷淡に切り捨てた。

428:創る名無しに見る名無し
15/09/03 19:39:13.08 Qay7QLkZ.net
バックパックは完全に拗ねてしまう。

 「あー、はいはい、所詮ワテクシは道具と、道具に過ぎんと、そう仰る?
  道具は道具らしゅう黙っとります、はい」

ヴァイデャが手を下すまでも無く、バックパックは羽を畳んで沈黙する。
ラビゾーは少し気の毒に思い、ヴァイデャに尋ねた。

 「そもそも、バックパックを喋らせたのはヴァイデャさんでしょう?」

 「一人旅を賑やかにしてやろうと思っていたのだが」

涼しい顔で言い放つヴァイデャ。
有り難迷惑だと、ラビゾーは顔を顰める。

 「喋る道具は使い辛いですよ……。
  後、水差鳥の魂を入れたんですよね?
  どうして、それで喋れる様になるんですか?
  容量が増えるのも意味不明です」

一度に質問されても、ヴァイデャは淡々と答えた。

 「魂と言っても、生前の意識や記憶がある訳ではない。
  真っ新な魂は、空の器に等しい。
  そこに鞄の意識を入れたのだ。
  鞄は君と長年旅をした記憶を持っている。
  口が利けるのは、その為だな。
  妙に君に懐いていたが、慕われていると言う事は、扱いが良かったのだろう」

ラビゾーは物を大事に使う方だが、特別に丁寧に扱っていた訳ではなかったので、返事に困った。

429:創る名無しに見る名無し
15/09/03 19:43:40.54 Qay7QLkZ.net
鞄の意識と言う物も、彼には解らない。
ヴァイデャはバックパックの中身を取り出しつつ、説明を続ける。

 「容量が大きくなったのは、柔軟性や伸縮性と言った、生体の性質を得た為だな。
  丁度、肺や胃が膨らむ様な物だ。
  ……多分」

 「多分?」

 「とにかく、大事に使ってやれ」

強引に話を切ったヴァイデャは、小包と成形剤と空瓶を全て出し終えると、それ等を片付け始めた。
バックパックは何も言わなくなっている。
ラビゾーはバックパックに近寄り、自分の荷物を詰めてみた。
……やはり、反応は無い。
戸惑う彼に、ヴァイデャは声を掛ける。

 「どうした?」

 「いえ、喋らなくなったなと……」

 「喋らない方が良いと言ったのは君だ」

 「それは……、そうですけど……」

ラビゾーはバックパックを背負ってみたが、特に違和感は無い。
何時もと変わらぬ、普通のバックパックだ。
ラビゾーは腑に落ちない様子で、何度も首を傾げるのだった。

430:創る名無しに見る名無し
15/09/03 19:44:55.61 Qay7QLkZ.net
「魂が入ったのだから、序でに名前を付けてやれ」

「名前?」

「『鞄』は一般名詞だ。飼い犬を『犬』と呼ぶ飼い主は居ないだろう」

「鞄に名前……」

「悩む事は無い。どんな名前でも、愛着を持っていれば文句はあるまいよ」

「……名前ですか……」

「長考する事か? 人名と同じだ。願望や希望を込めて、名付ければ良い。鞄なのだから、
 例えば『沢山<メニー>』とか、『無限<インフィニティ>』とか、『長持ち<ラスティング>』とか」

「…………パックンは、どうでしょう?」

「私に尋ねて、どうする? 君が決めたのなら、私が口を挟む事ではない」

「バックパックなので……」

「良いんじゃないか?」

「……でも、呼ぶ機会は無いと思いますよ?」

「構わん。名付ける事が重要なのだ」

431:創る名無しに見る名無し
15/09/03 19:55:53.46 Qay7QLkZ.net
『象魔法<エルフィール>』


象魔法とは旧い魔法の一で、使い手は事象の魔法使いヴァイデャ・マハナ・グルート。
容無き物に容を与え、命無き物に命を与え、逆に物の容や命を奪う事も出来る、
極めて概念的な魔法。
この魔法は物の性質を抜き出したり、加えたり、移したりするが、元から無い物は与えられない。
例えば、醜い物から醜さを取り除く事は出来ても、美しくするには、他から足す必要がある。
苦さを抜いても、甘くはならない。
熱さを抜いても、冷たくはならない。
痛みを除いても、快感は得られない。
恐怖を除いても、勇気は得られない。
一方で、弾性や剛性を完全に失わせたりは出来る。
鋭さを失わせれば、棘の上でも裸足で歩ける。
彼の象魔法では、抜き出した性質は、特別な処置を施した上で、新たな宿主を与えない限り、
元に返ろうとする。
ヴァイデャは象魔法とは別に、抜き出した性質の保存方法を心得ており、それを閉じ込める、
専用の魔法瓶を持っている。
万能に見えるが、扱える性質の規模には限界があり、それは性質の種類によっても異なる。
基本的にヴァイデャの使う象魔法は、世界全体を塗り替える様な大逸れた物ではなく、
個々の性質を弄る物に過ぎない。
それ以上の事が出来るかは未知数だ。

432:創る名無しに見る名無し
15/09/03 19:57:01.83 Qay7QLkZ.net
このスレは、ここまで。
また次スレで。

433:創る名無しに見る名無し
15/09/03 22:23:51.49 FXoCF98R.net
おつです

434:創る名無しに見る名無し
15/09/03 22:50:17.57 IXy8uzVI.net


膠原病の少女、強くなりそう


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