ロスト・スペラー 8 ..
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65:創る名無しに見る名無し
14/02/24 19:13:41.35 UqqDiaty.net
もう1体の緑色の化け物は、ルースの方が危険だと判断したのか、直ぐに狙いを彼に変えた。
激昂する様に両腕を伸ばし、掴み掛かろうとする。
ルースは化け物を睨み付け、共通魔法を唱える。

 「E16H1H3D4!
  F2A3、F2A3!」

『邀撃<インターセプション>』の火炎魔法で、接近して来た相手を直接燃やす。
外側からの燃やされ、緑色の化け物は、黒焦げになりながら蹲る様に縮まる。
先に燃やされた個体と同じく、ゴーゴーと激しい燃焼音の合間に、薪を燃やした時の様な、
パチパチと言う罅焼きの音が聞こえる。
2体の化け物を焼殺したルースは、気を抜く事無く、冒険者に目を遣った。
だが、彼は既に2匹の魔犬を始末した後で、ルースと目が合うと、両手の短剣を腰の鞘に納め、
先ず礼を述べる。

 「有り難う御座います」

ルースより少し小柄な、若い男。
戦い慣れている様子だが、邪気は感じない。
ここで漸く、ルースは気を緩める。

 「大丈夫か?」

 「ええ、見慣れない奴だったので、少し様子を窺いつつ、戦っていました」

よく見れば、彼は殆ど息が上がっていない。
これは救援に入るまでも無かったかと、ルースは少し後悔した。

66:創る名無しに見る名無し
14/02/24 19:15:29.18 UqqDiaty.net
状況が落ち着いたので、クレークも姿を現す。

 「終わりましたか?
  皆さん、無事で良かった」

 「はい、有り難う御座います」

冒険者はクレークにも礼を言う。
中々礼儀正しい好青年だ。

 「お2人は『仲間<パーティー>』?」

 「そんな所だ」

ルースが答えると、冒険者は不思議そうに2人を見比べ、更に尋ねる。

 「今から、この先に進むんですか?」

ルースとクレークは互いの顔を見合った。
そして同時に時刻を確認する。
日没の西の時が迫っている。

 「いや、今日は本格的な探索をする積もりは無い。
  これから村に引き返す」

ルースの答を聞いて、クレークは小さく安堵の息を吐く。
冒険者は人懐っこく笑った。

 「それは奇遇ですね。
  僕も帰ろうと思っていた所です。
  村まで御一緒しても宜しいですか?」

 「別に構わんよ」

ルースは快諾こそしないが、突き放しもしない。
余り馴れ合うのは好まないが、断る理由も無いのだ。

67:創る名無しに見る名無し
14/02/24 19:19:29.24 UqqDiaty.net
ルースと冒険者が話している短い間に、クレークは緑色の怪物の死骸を調べていた。

 「クレーク!」

 「ルースさん!」

帰還するぞとルースが声を掛けると、クレークは振り返って手招きする。

 「何か判ったのか?」

ルースと冒険者が近寄ると、クレークは蹲って死んでいる緑色の怪物の背を、開いて見せた。
鮮やかな色の肉が覗くと思いきや、中は緑の蔦が絡まって詰まっているだけで、何も無い。
血の臭いもしない代わりに、草を絞った汁の様な青臭さがある。

 「どうなってんだ?」

ルースと冒険者は揃って険しい顔をする。
クレークは推察した。

 「誰かが植物の塊を操っていたか、もしくは、植物の怪物だったか……」

 「動物みたいに歩き回る植物が?」

信じられないと言いたい所だったが、ここは禁断の地、何が起きても不思議ではない。

 「取り敢えず、ここから離れるぞ。
  これ以上、変な物に出会したくはない」

それは偽らざるルースの本音だった。

68:創る名無しに見る名無し
14/02/24 19:22:25.33 UqqDiaty.net
3人は来た道を引き返す。
ルースが先を歩き、クレークと冒険者は後ろで世間話をしていた。
クレークは素人なので、馴れ合いが悪いと思っていない。
冒険者の方は緊張感が無いのではなく、クレークを素人と判った上で、どちらかと言うと、
親切で接している様に思える。
自分と同じ位の年齢に見えるのに、随分余裕があるなと、ルースは感じた。
これまで分岐は無く、真っ直ぐ一本道だったので、辺りが暗んでも特に迷う事は無く、
3人は入り口まで戻れる。
ここで別れようかと言う時に、クレークは提案した。

 「ルースさん、宜しければ、今後も一緒に行動して貰えませんか?
  出来れば、今の方も一緒に。
  私は既に宿を取っているので、相部屋にすれば宿賃も浮きますよ」

突然の申し出に、ルースは少し考える。
今後もクレークと行動を共にするか?
彼は素人だから、どこかで足手纏いになるかも知れない。
そして、偶々知り合った冒険者とも一緒に行動するか?
経験がありそうなので、頼りにはなるだろうが、分け前は減る。
勿論、独りを選んでも良いし、クレークを差し置いて、彼と行動を共にする選択もある。
そして宿の問題は、どうするべきだろう?
クレークと行動するなら、彼の世話になって、只か折半か選べるだろう。
独りが気楽なら、自分で安宿か、中級宿か選べる。
相場は安宿が1泊3000MG、中級宿は2食付きで1泊7000MG。
宿賃が勿体無いと感じるなら、野宿でも良い。
選択は「誰と行動を共にするか」、「どの宿に泊まるか」、「宿賃の支払い」の3つだ。

69:創る名無しに見る名無し
14/02/25 19:23:25.18 MctQma7V.net
書き込み時間の小数点以下1桁
0なら単独行動
1ならクレークと組んで、全面的に世話になる
2ならクレークと組み、宿賃を折半する
3ならクレークと組むが、宿は別に取る
4ならクレークと冒険者と3人で組み、宿賃は払わない方向で
5ならクレークと冒険者と3人で組み、宿賃も払う
6ならクレークと冒険者と3人で組むが、宿は別に取る
7なら冒険者と組み、宿賃を払って貰えないか相談する
8なら冒険者と組み、宿賃を折半出来ないか持ち掛ける
9なら冒険者と組むが、宿は別に取る

70:創る名無しに見る名無し
14/02/26 17:34:25.52 LH9o6QAL.net
期待

71:創る名無しに見る名無し
14/02/26 19:21:31.27 Ui6O2kEL.net
1日待ってもレスが無かったら、自分でレスして書き込み時間秒小数点以下の1桁で、
選択肢を決定します。
今回は>69の書き込み時間が19:23:25.18なので8を選びます。
>>69の様な書き込みをした後でも、希望があれば選択肢の変更は受け付けます。
余り遅いと対応は難しくなりますが……。
結構無謀な選択をしても、全滅はしませんが、怪我をしたり、仲間と逸れたり、人が死んだりします。
全滅はしませんが、禁断の地の最深部に辿り着く前に、バッド・エンドになる事もあり得ます。
所持金が無くなれば、冒険者は冒険を諦めます。

72:創る名無しに見る名無し
14/02/26 19:23:31.43 Ui6O2kEL.net
ルースは少し思案した後、クレークの提案を断った。

 「悪いが、俺の目的は禁断の地を制覇する事だ。
  あんたのペースに合わせてたら、誰かに先を越されちまう。
  今日は今日として、組むか組まないかは、その時々で決めたい」

 「そうですか……、それでは仕方ありません。
  縁があったら、また組みましょう。
  今日は有り難う御座いました」

 「ああ、またな」

クレークは残念そうな顔をしたが、ルースの都合を認めて諦める。
信頼出来る人物は貴重だが、それ以上に、仲間は同じ志を持っていなければならない。
クレークの目的は先に進む事より、より詳しく禁断の地を調査する事にある。
目的の違う仲間と組んでいれば、どこかで齟齬が生じる。
今日の所は、現地を見ると言う目的がルースにもあったので、無闇に先を急ぐ事はしなかった。
だが、明日からは違う。
進退を判断する様な決定的な場面で、「意識の差」から来る意見の相違は、
大きなトラブルの元になる。
安請け合いしない方が賢明だ。

73:創る名無しに見る名無し
14/02/26 19:27:26.13 Ui6O2kEL.net
クレークと別れたルースは、森の中で出会った冒険者を呼び止めた。

 「待ってくれ、話がある」

冒険者は足を止めて振り向く。

 「僕に何か用?」

 「あんたは俺達より先に進んでいた。
  それで何か判った事は無いか?
  知っている範囲で良いから、教えてくれ」

ルースの問いに、冒険者は困った顔で答える。

 「大した事は判っていないよ。
  僕だって、今日初めて禁断の地に入ったんだ。
  一筋縄では行きそうにないって印象を受けた位だよ」

それだけなのかと訝るルースを見て、冒険者は苦笑した。

 「仮に知っていたとしても、教える義理は無いけどね。
  情報屋に聞いた方が早いよ」

冒険者は冒険で得た情報を情報屋に売る。
情報屋は様々な冒険者の証言を集めて、信用出来る情報を区別し、それを他の冒険者に売る。
他の冒険者は情報が錯綜しない様に、情報屋のみを頼りにする。
こう言う所でも、冒険者と情報屋は、互いに利用し合う関係にある。

74:創る名無しに見る名無し
14/02/26 19:29:49.46 Ui6O2kEL.net
彼の言葉に嘘は無いと感じたルースは、問いを変えた。

 「あんたは随分熟れている様だったが、最初から独りだったのか?」

 「そうだ。
  様子見序でに、どこまで行けるか試していた」

 「エリアの『変化』には気付いたか?」

 「エリア?」

 「入り口に近い所と、あんたが怪物と戦っていた所とでは、感覚が違っただろう?」

 「ああ、その事か……。
  確かに、ある地点で急に嫌な感じがした」

冒険者の答に、ルースは少し失望する。
嫌な感じが「強まった」、「強くなった」と言って欲しかったのだ。
彼の魔法資質はルースには及ばず、恐らくはクレークと然して変わらないか、より低いだろう。
だが、化け物2体と魔犬2匹を相手に、単独でも余裕を持って戦えていた所は、評価出来る。
敵に囲まれて、観察をしよう等と言う余裕は、並の神経では持てない。
かなり場慣れしているのは、確かだ。

75:創る名無しに見る名無し
14/02/26 19:34:46.81 Ui6O2kEL.net
ルースは最後の質問をした。

 「あんたは何が目的で、禁断の地に?」

 「勿論、未踏破領域に挑む為だ。
  僕は冒険者だからね」

それを聞いて、ルースは頷く。

 「俺と同じだな。
  良ければ、組まないか?
  取り分は半々で」

禁断の地の深部では、共通魔法の効きが益々悪くなると、ルースは予想する。
そこで魔法資質に頼らない戦闘が出来る、仲間が欲しい。
彼の誘いに対して、冒険者は暫し考えた後、肯定の返事をする。

 「……良いよ。
  独りでは厳しいと思っていた所だ。
  君の魔法は頼りになりそうだし、何より……僕を助けようとしてくれたんだから、
  悪い人じゃないだろう?」

ルースと冒険者は、どちらとも無く、自然に握手をする。

 「俺は蒼炎のルース」

 「僕はユンシェン・アックロー・ソクノシン。
  宜しく、蒼炎君」

ルースは訂正しようか迷ったが、クレークとの遣り取りを思い返し、面倒になりそうだから止めた。

 「宜しく、ユンシェン」

 「おっと、御免よ。
  僕はボルガ地方民なんだ。
  ユンシェンは名字だから、アックローかソクノシンと呼んでくれ」

 「……解った、アックロー」

こうしてルースはアックローと行動を共にする事にした。

76:創る名無しに見る名無し
14/02/26 19:36:14.94 Ui6O2kEL.net
自己紹介を終えた後、冒険者アックローはルースに尋ねる。

 「所で、もう宿は取ったのかい?」

 「いや、未だ」

 「僕も未だなんだよ。
  そこで提案なんだけど、お互いに金を出し合って、少し良い宿に泊まらないか?
  半額ずつ負担し合えば、安宿と大して変わらない値段で泊まれる」

態々申し出ると言う事は、何か考えがあるのかと、ルースは気になった。

 「構わないが、何か目的でも?」

 「宿に荷物を預けたくてね。
  食事やサービスの面でも、安宿よりは対応が良い」

嵩張る様な荷物は持っていない様に見えるが、何かしらの事情があるのだろうと、
ルースは詮索しなかった。
仲間とは言え、何でも彼んでも話し合う関係は期待していない。

77:創る名無しに見る名無し
14/02/26 19:37:25.96 Ui6O2kEL.net
2人はレフト村の中級宿、「ボルタラハ」に向かう。
夜になっても、村の中を歩く冒険者の姿は絶えない。
今から禁断の地に出掛けようとする集団もある。
ボルタラハに着いた2人は、3500MGずつ支払って、問題無く部屋を取る事が出来た。
部屋は十分に広く、4人位までは1部屋に泊まれそう。
ルースの所持金は19万5000MG。
さて、明日の行動を決めよう。
直ぐ禁断の地に向かうか、村の中で準備を整えるか?
禁断の地では魔法の威力が落ちたので、冒険者向けの店や、魔法道具店に寄って、
装備を整える必要があるかも知れない。
冒険者向けの店では、武器や防具の他に、食料や傷薬も買える。
魔法道具店では、魔法の武器や防具、それに魔法を防ぐアクセサリーや、
魔法を補助する道具が買える。
高く付くかも知れないが、酒場の情報屋から、情報を仕入れるのも、悪くないかも知れない。

78:創る名無しに見る名無し
14/02/26 20:35:11.13 TNaMokJd.net
まずは情報かな
奥地に行った後で、毒や石化能力を持つ魔物の存在を知っても大変だしね

79:創る名無しに見る名無し
14/03/02 14:26:14.66 IgJnu7gN.net
翌日東の時、ルースはアックローと共に、宿の食堂でビュッフェ形式の朝食を取りながら、
本日の行動予定を相談した。

 「アックロー、俺は禁断の地に行く前に、少し準備をしたい」

 「ああ、構わないよ」

淡々と答えるアックローの皿には、肉や油が少ない、質素な物ばかり乗っているので、
ルースは心配になる。
冒険者は命懸けの職業。
食える時には、食えるだけ食っておくのが普通。
だが、これがボルガ地方の食習慣なのだと思い、言及は避けた。

 「酒場にも寄って、情報屋に話を聞こうと思っているんだが、何か聞いておきたい事や、
  言っておく事はあるか?」

 「それなら、僕も一緒に行こう」

 「助かる」

普段、仕事を請ける以外で、情報屋を利用しないルースにとって、アックローの申し出は、
素直に有り難かった。
情報屋とて人間。
全員が職務に忠実であれば良いが、そうとは限らない。
流石に、偽情報を掴まされる事は無いだろうが、侮られて足元を見られたり、
情報を出し渋られたりされては困る。
冒険者は性質上、法の庇護を受け難く、トラブルが発生した場合、一方的に責任を取らされたり、
そうでなくても自己責任で済まされる事が多い。
……いや、そんな心配も直ぐに無くなる。
禁断の地は最後の秘境。
ここを攻略されると、冒険者の仕事は殆ど残っていない。
禁断の地攻略は、冒険者にとって、己の名を上げる、最後の機会なのだ。

80:創る名無しに見る名無し
14/03/02 14:28:48.62 IgJnu7gN.net
ルースとアックローは朝食後、速やかに酒場へ向かう。
昨日と顔触れこそ違うが、早朝だと言うのに、相変わらず酒場には多くの者が屯している。
酒と煙草の臭いが酷い。
ルースとアックローは情報屋が居るカウンター前に座った。
情報屋はルースを見るなり、半笑いで声を掛ける。

 「やあ、蒼炎のルース君、昨日の探索は上手く行ったかい?」

 「それなりにな」

 「今日は何の用?」

 「情報を買いに来た」

 「どんな?」

 「禁断の地の深部に関する情報だ」

ルースが情報屋と遣り取りしている間に、アックローは酒場のマスターと雑談を始めていた。
真面目に雁首揃えて聞き入るのも間抜けだが、少しは話に参加して欲しいと、ルースは思った。

81:創る名無しに見る名無し
14/03/02 14:29:55.29 IgJnu7gN.net
情報屋は俄かに真面目な顔付きになる。

 「具体的には?」

 「禁断の地は特定の地点を通り過ぎると、嫌な気配が強くなる。
  あれの正体は何だ?」

ルースの問いに、情報屋は苦笑した。

 「余り馬鹿な事を訊かないでくれ。
  君程の魔法資質の持ち主が、判らない?
  共通魔法の物とは違う、魔力の乱れだろう」

金を取らないと言う事は、それだけの価値が無い情報と言う事。
冒険者の中には、態と簡単な質問をして、情報屋を試す者も居る。
人物を見て、信頼に足るか確かめるのだ。
情報屋はルースも、その1人だと認識した。
しかし、ルースは納得しない。

 「本当に、単なる魔力の乱れなのか?
  あの監視されている様な雰囲気が?」

情報屋は再び真顔に戻る。

 「……成る程、そう感じたのかい?」

ルースと情報屋は沈黙して、互いの肚を探る様に、暫し睨み合う。
やがて情報屋は観念した様に、小さく溜め息を吐いて、口を利いた。

 「私は少々君を侮っていた様だ。
  非礼の詫びに、君には只で教えよう。
  『同じ事を言う者は居たが、今日まで正体を掴んだ者は居ない』」

詰まり、「分からない」のだ。

82:創る名無しに見る名無し
14/03/02 14:40:16.89 IgJnu7gN.net
知らないのだから、答は無い。
追及は無意味と悟り、ルースは新しく問う。

 「禁断の地は何エリアまである?」

 「どう言う意味かな?」

 「特定の地点を通過すると、嫌な気配が強くなる。
  そこまでの区間を1エリアとしての話だ」

 「たった半日の探索で、そこまで行ったのかい?
  君は本当に凄いね。
  それとも誰かに聞いたかな?
  どっちでも良いや、特別に安くしとくよ、3000MG払ってくれ」

安くして3000MGとは、一体どの程度負けてくれたのか、ルースは気になった。
そもそも相場が分からない。
だが、今は最高にクールな雰囲気だ。
吝嗇(けち)な話で水を差す積もりは無い。
彼は素直に3000MG支払う。

 「君の言う『エリア』を、我々は『深度<デプス>』と呼んでいる。
  現在確認されている深度はレベル5まで。
  そこから先は不明だ」

 「『深度5<デプス・レベル・ファイブ>』まで到達した冒険者が居るのか?」

純粋に気になった事を、ルースは訊ねる。
情報屋は金を取らずに教えてくれた。

 「残念ながら、今期は未だ」

 「今期?」

情報屋は一々気になる物言いをする。

83:創る名無しに見る名無し
14/03/02 14:45:17.59 IgJnu7gN.net
ルースが話を止めても、情報屋は気にしない。
寧ろ、愉し気に話す。

 「禁断の地の『繁忙期<ラッシュ・アワー>』は、今回が初めてじゃない。
  それ位は知っているだろう?」

 「確か、『鏡の箱』が発見された『後』と、『神槍コー・シアー』が発見された『後』で、計2回。
  大発見がある度に、後追いの連中が群がる。
  『今期』ってのは3回目の『今』の事か……」

「鏡の箱」と「神槍コー・シアー」は共に、魔法大戦で共通魔法使いの敵対勢力が用いたとされる、
所謂「魔法大戦の遺物」である。
禁断の地の最深部には、歴史的にも価値のある遺物が、ごろごろ眠っていると伝えられている。
物だけでなく、外道魔法、危険な魔法として封印された、『失われた魔法<ロスト・スペル>』までも……。
情報屋は軽く相槌を打って、続きを語る。

 「『鏡の箱』も『神槍コー・シアー』も、深度5で発見されたと言う。
  特に、『鏡の箱』を発見したのは、魔導師会だ。
  それでも、禁断の地を制覇するには至らなかったと言う事が、何を意味するのか……解るな?」

ルースは息を呑んで、頷いた。
最深部到達は容易ではない。
しかし、そんな事は重々承知だ。
それでも挑むから冒険者なのだ。

84:創る名無しに見る名無し
14/03/02 14:49:35.91 IgJnu7gN.net
情報屋は1つ息を吐き、間を取る。

 「大抵の冒険者は深度3で止まる様だ。
  今期は深度4まで行った者の話を聞けない。
  『行ったけれど、誰にも教えていない』だけかも知れないがね」

 「地図は無いのか?」

 「役に立たんよ」

普通、先行の冒険者はマッピングをして、それを情報屋や後発の冒険者に売り付ける。
レベル5までの道程は、ある程度は明らかになっている筈だ。
全く役に立たないと言う事は無い。

 「何故?」

 「1000MG」

 「ああ」

追加料金をを要求されたルースは、思案も躊躇もせず、支払った。
情報屋は金を手元に納めつつ、続ける。

 「『地図は使えない』。
  磁場が狂っている上に、地形が頻繁に変わる。
  それも知らない間に。
  1本道を真っ直ぐ歩いていたと思ったら、何時の間にか村に戻っていたと言う、
  間抜けな話もある位だ」

俄かには信じ難いが、情報屋が言うからには、そうなのだろう。
ルースは横目でアックローに視線を送ったが、彼はマスターとの世間話に夢中だった。

 (役に立たない……)

情報屋が金を取って嘘を教える事は、無いだろうと信じる。

85:創る名無しに見る名無し
14/03/02 14:53:30.40 IgJnu7gN.net
話を聞けば聞く程、禁断の地とは人外魔境なのだと知らされる。
深度が上がるに連れて、共通魔法は益々通用し難くなるだろう。
少なくともレベル5まであると言うのだから、最終的には共通魔法が使えなくなる事も、
覚悟しなければならない。
そこでルースは尋ねる。

 「深々度では、どんな化け物が出るんだ?」

恐ろしい化け物に遭遇した時の、対処法を知りたいのだ。

 「2万MG貰おうか?」

 「流石に高い……」

1万MGを超える請求に、ルースは渋ったが、情報屋は涼しい顔。

 「種類が判明していて、その対策を聞くなら未だしも、どんなのが居るかと聞かれたら、
  そりゃなぁ……。
  命に比べれば安い物だろう?」

ルースは仕方無く、2万MGを払う。
約1週滞在分の出費は痛いが、未知の化け物に出会って、全滅しましたでは話にならない。

86:創る名無しに見る名無し
14/03/02 14:56:31.29 IgJnu7gN.net
情報屋は代金を受け取ると、直ぐに話し始めた。

 「見た事も無い様な、妖獣や魔法生命体が跋扈していると聞くが、大体性質は決まっている。
  先ず、魔力の流れに敏感に反応する。
  探知系の魔法は使わない方が無難だろう。
  更に、魔法資質が高い者を集中して狙う傾向もある様だ。
  深度3以上になると、極端に魔法の通りが悪くなる上に、未分類の魔法まで使うらしい。
  それも攻撃、回復だけじゃなく、精神操作を仕掛けて来るとか……」

 「毒持ちとか、特に注意する奴は?」

 「解毒出来ない程の奴が出るとは聞かないが、大型の魔法生物には気を付けるんだな。
  やたら打たれ強く、生半可な傷は忽ち回復する上に、疲れを知らない戦闘狂で、
  逃走すら許してくれないと言う。
  『共通魔法を当てにするな』よ」

ルースは情報屋に釘を刺され、返す言葉を失う。
確かに、自分は魔法に頼っている部分が大きい。
魔法を使わなくても、それなりに戦える積もりだが、動きが鈍りはしないか心配だ。
顰めっ面のルースに、情報屋は言い添える。

 「ああ、忘れていた。
  これだけは覚えておいてくれ。
  『雷が鳴ったら、そこには近付くな』」

 「何故だ?」

 「知らない。
  前任者から、そう聞いた」

禁断の地は想像以上に恐ろしい所だと、ルースは感じる。
だが、それでも彼は冒険者なのだ。

87:創る名無しに見る名無し
14/03/02 16:37:07.36 IgJnu7gN.net
ルースはマスターと談笑中のアックローに声を掛ける。

 「アックロー、用は済んだ。
  出るぞ」

その口調は少し強目。
アックローはルースが情報屋と話している間、ずっとマスターと話していた。
結局、何の為に付いて来たのか分からない。

 「ああ、分かった。
  じゃあ、マスター、失礼します」

アックローはルースに返事した後、マスターに別れを告げる。
その手には、来る時には無かった、革の水筒が握られていた。

 「それは何だ?」

ルースが尋ねると、アックローは得意気に笑う。

 「お酒だよ。
  少し分けて貰った。
  欲しければ、蒼炎君にも上げよう」

ルースは無言で首を横に振った。
グラマー地方民は、昼間から酒を飲まない。

 「おっと、そうだ……情報料を半分払わないと行けないね」

アックローは唐突に、ルースが情報屋に払った額の半分を、その場で手渡す。
3000と1000と2万の半分、1万2000MG丁度。
彼はマスターとの雑談に没頭していたとばかり思っていたので、ルースは驚く。

 「聞いていたのか?」

 「まぁね。
  耳は2つあるんだよ?」

アックローは冗談か本気か判らない、軽口を叩いた。
ルースの所持金は18万3000MG。
さて、次の選択は?
冒険者向けの店に寄るか、魔法道具店に寄るか、それとも禁断の地に向かうか?

88:創る名無しに見る名無し
14/03/03 01:13:33.98 erhCH4ea.net
魔法道具店で魔法を防ぐアクセサリーは欲しい所
しかし、魔法の武具の方は敵の感知に引っかかる……かな?

89:創る名無しに見る名無し
14/03/03 19:23:27.29 CY7O4Z6F.net
酒場を後にしたルースは、アックローと共に、魔法道具店に向かった。
その途次(みちすがら)、ルースはアックローに、今回の目的を告げる。

 「アックロー、今回は深度3の探索を中心にしたい」

 「情報屋の話が本当なら、否応無しに、そうなるだろうね」

冷静に応えるアックローは、捉え所が無い。

 「深々度では魔法道具さえ使えなくなるかも知れない。
  だが、今回そこまでは行かない。
  先ずは、変化する地形に惑わされず、確実に深度3を突破出来る方法を探す。
  これが目的だ」

ルースの言葉を、アックローは相槌を打ちながら聞く。

 「1日や2日では無理かも知れない。
  西の時になったら、村への帰還を目指すが、道に迷えば、帰還も困難になるだろう。
  一応『野営<キャンプ>』の準備はしておいてくれ。
  後は、魔法に対する防御を固めよう」

 「解った」

出発前の準備段階から目的を定めて、意識を共有しておくのは重要だ。
何を目的とするかによって、装備も心構えも違って来る。

 「何か意見は無いか?」

 「いや、無難な選択だと思う。
  僕としては、もう少し踏み込んでも良いと思うけど」

 「悪いな」

ルースが慎重になるのは、今まで共通魔法が探索や戦闘の中心だった為。
魔法が使えないとなると、アックローの足を引っ張る可能性がある。
それだけは避けたかった。

 「ああ、御免、文句が言いたかった訳じゃないんだ」

アックローは弁解したが、彼から見れば、ルースの計画は悠長に感じられる事だろう。

90:創る名無しに見る名無し
14/03/03 19:37:19.71 CY7O4Z6F.net
魔法道具店に入った2人は、それぞれ店内の商品を見て回った。
呪文の効果で、巻いている間に傷や怪我を治す、『魔法の包帯<マジック・バンデージ>』。
手の平に収まる、小型の『着火装置<ライター>』。
インク要らずで、何にでも自由に書けて、しかも綺麗に消せる、マジカル・ペン。
見た物を印紙に記録する、『写影機<フラッシュ・プリンター>』。
普通の鋏より切れて、刃毀れし難く、錆び付かない、『魔法の鋏<マジック・シザース>』。
どんな汚れも落とせる、『魔法の粉洗剤<マジカル・クリーニング・パウダー>』。
水で膨れる『超圧縮非常食<グロース・バン>』。
魔力が込められた魔力石は、用途によって形状が様々。
色々な物が置かれているが、この辺りは日用品だ。
そもそも魔法道具店とは、共通魔法を利用した道具を売る所で、武器や防具を扱う所ではない。
魔法暦100年代中頃なら未だしも、現在の魔法道具店には、一部のロッドやナイフ等を除いて、
武器や防具が置かれていない。
しかし、このレフト村の魔法道具店は違う。
刀身が高熱を帯びる剣、電撃の飛ぶロッド、衝撃波を撃ち出す砲、貫通力と高めた槍、
打撃を打ち返す盾……これ等は皆、平穏な共通魔法社会では必要とされない。
最早用済みの物として、「必要とされる所」に流れて来た物だ。

91:創る名無しに見る名無し
14/03/03 19:47:35.42 CY7O4Z6F.net
所が、魔導武器の数々に、ルースは興味を示さない。
今の所、用は無いと考える。
問題は防具だ。
魔法の効果を軽減するアクセサリーは、腕輪や首輪の様に直接身に着ける物から、
バッジやチェーンの様に服の上に着ける物まで様々。
どれも1万MG前後の値段で、安いとは言えない。
他には、魔法の効果で強度を高めた上着や、魔法陣を編み込んだスカーフ、肌着もある。
こちらも各数万MG。

 (魔法が使えないとなると、防御力も大事になるな)

そう思いながら歩いていると、ルースは良い物を見付けた。
魔法のローブである。
表裏両面に精緻な結界の魔法陣が縫い込まれており、これを着ていれば深々度でも、
共通魔法が使えるのではないかと予想する。
流石に遠隔魔法は使えなくとも、自分の傷を治したり、身体能力を上げる魔法なら行けるだろう。
それだけでも、使えるのと使えないのでは大違いだ。
ルースは値札を確認した。

 (高い……)

何と13万MG。
買える事は買えるが、滞在期間が大幅に短くなる。
不測の事態にも備えておきたいので、今から金を使い果たす様な真似はしたくない。
何を買うべきか、ルースは悩んだ。
所持金は18万3000MG。
思い切って出資するか、別の防具を買うか、それとも今はアクセサリーだけで止めておくか?
魔法道具店の店員は魔導師だ。
万引きは出来ない。

92:創る名無しに見る名無し
14/03/04 17:15:24.23 kcrmACOP.net
アクセサリー

93:創る名無しに見る名無し
14/03/04 22:02:18.34 8efQRExa.net
然して迷わず、ルースはローブの購入を諦めた。
何も今急ぐ事ではない。
余り見えない先の事ばかり考えず、目の前の問題を1つずつ処理して行けば良い。
売り切れたら、その時は仕方が無い。
いざとなったら、自分で魔力伝導率の高い糸を買って刺繍する。
ルースは己に向けられた魔力を吸収して、魔力の流れを乱す、魔除けの腕輪を1対手に取った。
計2万MG。
魔除けのアクセサリーは、各所に適切な配置で装備する事により、効果を高められる。
元々持っていた、チェーン型の物とペンダント型の物と合わせて、それぞれ単体の性能の合計より、
約3倍の効果を発揮する。
アックローは武器や防具には見向きもせず、非常食を幾つか持っていた。
ルースは彼に尋ねる。

 「他に買っておく物は無いか?」

 「ああ、十分だ。
  蒼炎君こそ、買い忘れは無いかい?」

 「最初から、それなりの準備はしてある。
  1週以上村に戻れない事態にでも陥らない限りは、大丈夫だ」

 「それは頼もしい」

ルースとアックローは支払いを済ませ、魔法道具店を後にする。
現在、ルースの所持金は16万3000MG。
他に寄る所が無ければ、禁断の地に向かおう。

94:創る名無しに見る名無し
14/03/05 23:15:11.40 MnEx0Q8o.net
準備を終えて東南東の時、ルースとアックローは再び禁断の地に踏み入った。
今回はアックローがロッドを持って先に行き、ルースは彼の後に付いて行く。
森に入って直ぐ、やはりルースは無数の気配を感じた。
一瞬だが、足が止まる。
アックローは聡くルースの変化を読み取り、声を掛けた。

 「蒼炎君、どうした?」

 「……アックロー、あんたは何も感じないのか?」

 「君は何か感じるのか?」

2人は互いに見詰め合う。
やはりアックローの魔法資質は、ルースには及ばない。

 「ここから深度1だ」

ルースの言葉に、アックローは頷く。
2人は一本道を真っ直ぐ進み、深度2へと向かった。

95:創る名無しに見る名無し
14/03/05 23:16:37.87 MnEx0Q8o.net
ルースとアックローは1角と経たず、木々の枝葉が天を覆う、深度2に到達する。
灯火の魔法を使いたい所だが、そうは行かない。
前日に遭遇した緑色の化け物は、アックローを無視して、魔法を使ったルースに狙いを変えた。
あれは2体だったから良かった物の、正体不明の化け物に、集中して襲われては敵わない。
アックローは何の警戒もしていないかの様に、僅かも足を止めず、相変わらずの一本道を、
真っ直ぐ行く。
ルースには彼が足を速めていると感じられた。

 「急ぎ過ぎじゃないか?」

 「そんな積もりは無いけれど……?」

堪らずルースが呼び止めると、アックローは振り向いて、不思議そうに返した。
アックローは実の所、深度1から歩く速度を全く変えていない。
アックローが速いのではなく、ルースの足が無意識に鈍っているのだ。
不気味な気配と、何時も探索に使っている魔法を封じられた不安が、重く圧し掛かり、
彼を一層慎重にさせている。

 「もう少し周囲を警戒した方が良い」

 「十分、警戒している。
  目と耳を使って」

そう言いながら、アックローは側の地面をロッドで突いた。

96:創る名無しに見る名無し
14/03/05 23:17:32.39 MnEx0Q8o.net
ガサッと音がして、人の脛から先が埋まる位の、浅い穴が空く。
嵌まれば転倒するか、捻挫するだろう。
昨日クレークが引っ掛かったのと、似た様な罠だ。
致命傷に至る訳でもなければ、行動不能に陥る訳でもない。
アックローは首を捻った。

 「誰が何の為に、こんな物を仕掛けるんだろう?
  蒼炎君、どう思う?」

 「解らない。
  警告の積もり……でなければ、まるで子供の悪戯だ」

 「随分、親切な警告だ」

彼が何を言いたいか、ルースにも解る。
冒険者の嫌がらせにしては手緩い。
本気なら、致命的なタイミングで仕掛ける筈だ。

 「罠を警戒させて、進行を遅らせるのが目的なら?」

ルースの意見に、アックローは素直には頷かない。

 「それも考えられるけど……。
  いや、ここで言い合っていても、正解は分からないな。
  済まない、先に進もう、蒼炎君」

アックローは不自然な罠が、どうしても気に懸かる様だった。

97:創る名無しに見る名無し
14/03/05 23:23:57.49 MnEx0Q8o.net
深度2に入っても、道は1本で脇道が見当たらない。
昨日の様な化け物にも、全く遭遇しない。

 「静かだな」

ルースは寂し紛れに、アックローに話し掛ける。

 「魔犬は付いて来ているよ」

 「判るのか?」

 「僕は耳が良いんだ」

アックローは冗談か本気か判らない、軽口を叩いた。

 「恐らく、魔犬は僕等が化け物と遭遇するのを、待っているんだろう。
  遠巻きに隙を窺っている」

 「賢しいな」

 「でも、他の種と連携を取れる訳じゃないみたいだ。
  それが出来るなら、僕等は疾っくに襲われている」

昨日の緑色の化け物は、魔法生命体だったのだろうか?
禁断の地は謎が多い。

98:創る名無しに見る名無し
14/03/06 07:34:21.37 0By3bsYk.net
そこから数歩進んだ所で、ルースは更なる不快感に襲われた。
一段と強くなった気配に加えて、軽い耳鳴りと頭痛がする。

 「うっ……」

ルースは思わず顔を顰め、呻き声を上げた。
間髪を入れず、アックローが反応する。

 「大丈夫かい?」

 「ああ、この位なら何とか……。
  あんたは何とも無いのか?」

ルースの問い掛けに、アックローは少し困った顔をした。
己の魔法資質に引け目があるのだろう。
世間では魔法資質が高い程、優れた共通魔法使い、延いては優秀な人間と言う認識が強い。

 「……ここが深度3と言う事は判る」

アックローは気配こそ感じているが、ルースの様に身体にまでは影響が現れていない。
ルースは今日この瞬間まで、まさか魔法資質の低い者を羨む事になろうとは、想像出来なかった。
魔法資質の高さが、ここまで裏目に出るとは、完全に予想外だったのだ。
この調子では、深度4以上に入ったら、どうなるか判らない。

 (こんな状態で化け物共と戦えるのか?
  ……辛いな)

魔法を発動させるには、正確な呪文完成動作が必要になる。
身体の不調は、魔法発動の最大の障害だ。
出来るだけ化け物と遭遇しない事を、ルースは祈った。

99:創る名無しに見る名無し
14/03/06 07:36:07.45 0By3bsYk.net
深度3に入っても、分かれ道は無い。
敵にも全く遭遇しない。
只々続く静寂が、不気味さを煽る。
そして何事も起こらない儘、南の時を迎える。

 「蒼炎君、そろそろ昼飯時だけど、どうする?」

アックローは休憩するか否かを、ルースに尋ねて来る。
気分は優れないが、身体的な疲労は、然程でもない。
さて、ここで選択だ。
この場で休憩し、昼食を取るか?
それとも深度2まで引き返して、休憩するべきか?
休憩せずに、先に進むべきか?

100:創る名無しに見る名無し
14/03/07 19:00:08.18 BLj1fTs6.net
書き込み時間の小数点以下1桁
1か4か7なら、ここで休憩
2か5か8なら、深度2まで引き返す
3か6か9なら、休憩しない
0なら……歩きながら昼食で

101:創る名無しに見る名無し
14/03/07 20:20:20.53 WyNpiGxv.net
規制で書き込めなかった
引き返したほうがいい気がする……

102:創る名無しに見る名無し
14/03/08 18:59:37.21 CFXEQ5NO.net
ルースは悪い予感が止まらなかった。
それは正しい予感かも知れないし、体調不良に起因する精神耗弱かも知れない。
どちらなのか、今のルースには判断出来ない。
故に、彼はアックローに提案し、選択を委ねる。

 「休憩するのなら、俺は引き返した方が良いと思う。
  ここには長く留まりたくない」

 「ああ、君の意見は解るよ。
  でも……」

アックローはルースに配慮し、幾分同情的な姿勢を見せたが、気持ちは前に向いていた。
彼は困り顔で振り返り、何かを言い掛けた後、ハッとして目を見開く。

 「あ……いや、引き返してみよう」

急な態度の切り替えに、ルースは安堵より疑問が先に立つ。

 「どうしたんだ?」

 「僕の予想が正しかったら、説明する」

アックローの表情には、僅かな焦りが見られた。
ルースは益々不安を掻き立てられたが、口を固く結んで、歯を食い縛り、気を強く持った。

103:創る名無しに見る名無し
14/03/08 19:02:15.04 CFXEQ5NO.net
1本道を引き返し始めて、数点歩いた所で、ルースはアックローが心変わりした理由を察した。

 (道が違う……)

道を記憶しておくのは、探索の基本。
冒険者は一度通った道を忘れない。
記憶力に自信が無ければ、マッピングをする。
所が、今の景色には全く見覚えが無いのだ。
行きと帰りとでは、見え方が違うと言うが、そうではない。
深度3に入ってから、余り先に進んでいない筈なのに、深度2に戻れる様子も、
謎の気配が弱まる様子も無い。

 (これが『地形が変わる』と言う……)

情報屋に聞いた通りだが、実際に体験すると恐ろしい。
魔力の流れが乱れたとは、全く感じなかった。
いや、最初から乱れているので、その瞬間に気付けなかっただけかも知れない。

 「駄目だ、蒼炎君……戻れない」

アックローは気不味そうに告げたが、ルースは余り動揺しなかった。

 「どうやら、そうみたいだな」

―大抵の冒険者は、この深度3で足止めを食らう。
情報屋の話から、ここを楽に突破出来るとは、最初から考えていなかった。
計算外だったのは、軽い頭痛と耳鳴りだけ。

104:創る名無しに見る名無し
14/03/08 19:03:22.78 CFXEQ5NO.net
この追い詰められた状況で、ルースは逆に落ち着きを取り戻し、開き直っていた。
頭痛と耳鳴りは不快ではあるが、堪え切れない程ではない。
要するに、環境に少し慣れたのだ。

 「こうなった以上、焦っても始まらない。
  ここで休憩しよう」

 「良いのかい?」

 「良いも悪いも無い。
  この位は予想していた事だろう?
  弱気は悪い結果を呼び込む。
  『何時も通り』が大切だ」

アックローはルースの変貌振りに唖然としていたが、直ぐに気を取り直す。

 「そうだな、君の言う通りだ」

ルースは魔法陣が刻まれた5個のクリスタルを、五芒星に配置して結界を作り、
更に5MG硬貨を鏤めて、結界を強化する。
その中では、頭痛や耳鳴りが完全に収まった。

 (結界は有効……と)

結界魔法自体は、広範囲に作用しないし、内側と外側で魔力を遮断するので、
他の魔法よりは察知され難い。
それでも不自然さは残るので、化け物の知能によっては、襲撃される危険があるが、
弱い魔法攻撃なら防げる。
周囲に十分気を配りながら、ルースとアックローは水と保存食を胃袋に納めた。

105:創る名無しに見る名無し
14/03/08 19:06:55.44 CFXEQ5NO.net
軽食を終えて間も無く、アックローはルースに声を掛ける。

 「来た。
  結構、大きいと思う」

何物かが接近しているのだ。
ルースは手早くクリスタルと硬貨を回収して、息を殺す。
そして、声を潜めて尋ねた。

 「向かって来ている?」

 「判らない。
  偶々通り掛かったのかも知れない」

やがてルースの耳にも、草を踏み分け、土を踏む音が聞こえる様になる。
聞こえる限りでは、その歩みは遅いが、人に似ている。

 「人なのか?」

 「違う、人にしては大き過ぎる」

ルースとアックローは音のする方を凝視した。
木々の隙間から、大きな暗い影が覗く。
それは揺れながら、2人の方に寄って来る。
高さ1身半、幅1身の、人型をした泥の塊……。
体表には雑草が生えている。

 「『泥<マッド>』ゴーレムって奴か?」

この時代、共通魔法による人工魔法生命体の作成は、未だ初歩の段階で、
自律行動可能になるまでは至っていない。
庶民がゴーレムの実物を見るのは、初めてだ。

106:創る名無しに見る名無し
14/03/08 19:08:24.64 CFXEQ5NO.net
マッド・ゴーレムは緩慢な動作で、ルース達と4身程の距離まで近付くと、一旦足を止めた。
ルースとアックローが身構えると、やはり緩慢な動作で両腕を持ち上げる。
左右の手は形が整っておらず、まるで草の根を引っこ抜いた様だ。
何をするのか2人が注視していると、不意にゴーレムの両腕が伸びた。
魔法ではない。
ゴーレムの両腕は崩れながら、白い筋繊維の様な物を剥き出しにして、高速でルースに襲い掛かる。

 「蒼炎君!」

しかし、それがルースに届く事は無い。
ルースに辿り着く前に、燃え尽きる。

 「大丈夫、こいつには魔法が効くみたいだ」

自身の前方の空間を、自然発火する温度まで高熱にする、迎撃の火炎魔法、
『見えない炎<インビジブル・フレイム>』。
共通魔法を使っている間、ルースは頭痛と耳鳴りが収まっている事に気付いた。

 (体調不良は魔力の乱れが原因?)

他方、ゴーレムの白い筋繊維は、次々と伸びては炎に焼かれて行く。
遂にはゴーレム自ら炎に突っ込み、焼身自殺した。
不可解な行動に、ルースは呆気に取られる。

 (魔力だけを感知している?
  流石に、高度な知能は有していない様だな。
  魔法が効き難いと言うのも、全部が全部ではないのか……)

この程度なら、幾らでも対策が打てそうだと、ルースは希望を持つ。

107:創る名無しに見る名無し
14/03/08 19:10:21.81 CFXEQ5NO.net
真っ黒に焦げて動かなくなった、マッド・ゴーレムだった土塊を見て、ルースは安堵の息を吐いた。
ほっと気を抜いた途端に、再び頭痛と耳鳴りが始まる。

 (ええい、厄介な……)

少し顔を歪めたルースに、アックローが低い声で警告した。

 「蒼炎君、不味いぞ。
  今ので他の連中を呼び寄せたみたいだ」

 「分かった。
  アックロー、少し試したい事がある」

ルースは慌てず冷静に返して、その場で大掛かりな魔法陣を描き始める。

 「何をしている?」

 「奴等が魔力を察知して来るなら、それを逆手に取って、誘導してやれば良い。
  ……良し、離れよう」

直ぐに魔法陣を完成させたルースは、アックローと共に駆け出した。
約半巨離れた所で、彼は時間差で魔法を発動させる。

108:創る名無しに見る名無し
14/03/08 19:11:26.27 CFXEQ5NO.net
ルースが描いた魔法陣から、淡い光が放たれる。
暗い森の中では、遠目でも光源が確り判る。
これが禁断の地の怪物に対して、誘蛾灯の役割を果たすだろう。

 (予想はしていたが、相当弱くなるな……)

しかし、数点は長持ちする呪文を選んだ積もりだが、この調子だと1点続くか怪しい。
所々に魔法陣を描きつつ、順番に発動させて、時間を稼ぐ。
余り遠くからは魔法を発動させられない事が歯痒い。
それに何時までも通用する手だとは思えない。
情報屋は「高度な知能を持つ個体も居る」言っていた。
ルースとアックローは1本道に沿って行く。
果たして、どこに続いているのだろうか……。

109:創る名無しに見る名無し
14/03/08 19:12:29.89 CFXEQ5NO.net
そして、南西の時を迎える。
そろそろ撤退を考えないと、野宿する破目になるだろう。
だが、道は相変わらず1本で、しかも見覚えが無いと来た。
詰まり、「同じ道は通っていない」。
他の冒険者と擦れ違いもしない。
ループしているなら、ループしているで、安心出来るのだが、ループですらないとなると対処に困る。
アックローはルースに意見を求める。

 「蒼炎君、僕達は今、進んでいるのか戻っているのかも、判らない状態だ。
  道形に歩いているだけじゃ、深度3の突破は、不可能かも知れない」

ルースだって何も解っていないが、だからと言って、アックローだけに判断や責任を、
押し付ける訳には行かない。
彼は彼なりの考えを提示する必要がある。

 「これから、どう進むべきだろう?」

アックローの問いに、ルースは答えねばならない。
愚直に、ずっと道形に進むか?
それとも道を外れてみるか?
思い切って、逆方向に進んでみる手もある。

110:創る名無しに見る名無し
14/03/08 20:45:16.36 tnjbsDji.net
確認の意味で逆方向かなあ

111:創る名無しに見る名無し
14/03/09 18:33:54.78 hMODyA3e.net
ルースはアックローに提案する。

 「もう一度、逆方向に進んでみよう」

2人して来た筈の道を振り返る。
視線を上げれば、既に先が見覚えの無い道と繋がっている。

 「本当に、どうなってんだろうな?」

ルースは呆れた様に言った。
こんな事が本当に有り得るのだろうか?
時間や空間を歪められているとでも言うのだろうか?
或いは、記憶を飛ばされていたり?
周囲は暗いので、時間の経過は時計頼り。
何を信じて良いのか、分からなくなる。
もしかしたら、何も彼も幻覚だったと言う事も……。
難しい顔で唸るルースを、アックローは心配する。

 「気分が悪いのかい?」

 「良くはないが……そうじゃなくて、納得行かないんだよ。
  進んでも戻っても、知らない道しか無いって、どう言う事だ?」

 「それなら後ろ向きに歩いてみたら、どうだろう?
  道が変化しているなら、その瞬間を見れるかも」

 「そんな方法で……?
  しかし……」

馬鹿気た話だが、他に方法も無かろうと言う事で、ルースはアックローの案に従った。

112:創る名無しに見る名無し
14/03/09 18:38:37.62 hMODyA3e.net
アックローに先を任せ、ルースは彼に背を預ける様に、後ろ歩きする。
来た道を戻っている筈だが、見覚えの無い風景が続く。
地形が一瞬にして変わると言う事も無い。
そして1点も経たない内に、ルースは後ろ歩きの欠点に気付いた。

 「後ろだけ見ていても、前の状態を知らないと、地形が変わったか判らないじゃないか!」

 「あ、迂闊だった。
  ハハハ、済まないね、蒼炎君」

アックローは明るく笑ったが、ルースは笑えない。
頭痛と耳鳴りに悩まされ続けていた事も相俟って、苛付きを抑え切れない口調で、
アックローに掴み掛かる。

 「あんた、こんな時に巫山戯て―」

そう言い掛けて、ルースはハッと閃き、振り返った。
彼の目の前には、見覚えの無い景色が広がっている。
本当に一瞬の事。
怒りは忽ち収まって、奇妙な引っ掛かりが生まれる。

 「……『振り返る』と言う行為が、引き金なのか?
  いや、それとも『目を逸らす』事?」

どう言う原理なのかは解らないが、「そうなっている」。

113:創る名無しに見る名無し
14/03/09 18:46:18.03 hMODyA3e.net
地形が変わる瞬間に気付いたのは良いが、現状の解決にはなっていない。
結局、どう進めば深度3から抜け出せるのか、不明な儘だ。
ルースは全ての疑問を、アックローに打つけてみた。

 「アックロー、俺達は何故、他の連中と擦れ違わないと思う?」

アックローは困り顔で含羞(はにか)む。

 「そこは僕も不思議に思うんだけどね……」

 「レフト村には、あれだけの冒険者が居て、毎日冒険に出ている。
  多くの者が深度3から進めない状況なら、この付近は『隘路<ボトル・ネック>』になって、
  冒険者で溢れている筈だ。
  そうならないって事は、深度3が桁外れに広いのか?」

そう問い掛けるルースに、アックローは低い唸り声で応じながら、地面に屈み込んだ。

 「分からない。
  だが……蒼炎君、よく見てくれ。
  新しい足跡が無いだろう?
  少なくとも、最近ここを通ったのは、僕達だけ……」

 「それは何を意味する?
  ここまで道は1本しか無かったのに、そんな事が『有り得るのか?』
  何十人もの冒険者が出入りしていて?」

ルースに強く質されても、アックローは困り顔しか出来ない。
異常である事だけは確かなのだが、誰にも本当の答は分からないのだ。

114:創る名無しに見る名無し
14/03/09 18:47:18.06 hMODyA3e.net
アックローは自信無さ気に口を利く。

 「普通に考えれば、1本道じゃなかったんだろう……。
  分岐路を見落としていたのかも知れない」

 「振り返った途端に、道が変わってしまうのは?」

 「魔法……かな?
  どんな魔法かって言われても困るけど」

ルースはアックローの答を聞いている内に、もしかしたら……と思い始めた。
これは間違い無く、魔法の効果だ。
深度3の秘密、それは……。

115:創る名無しに見る名無し
14/03/09 18:49:08.16 hMODyA3e.net
(思い付きで謎解き要素を挟もうとしたけど、真面な考察に堪え得る描写をしてなかったので断念)

116:創る名無しに見る名無し
14/03/10 18:48:14.81 oRpKowpF.net
ルースはベルトの鞘からナイフを抜いて、近くの目立つ大きな木の幹に、
長さの等しい線分が中央で直角に交差する、正確な十字の傷を付けた。

 「目印かい?」

アックローの問い掛けに、ルースは頷く。

 「ああ、確かめたい事があってな。
  俺の予想が正しければ……」

目印を付けた木から離れる際、ルースはアックローに告げた。

 「アックロー、あんたは動かないでくれ」

ルースはアックローに背を向けて、10歩離れた後、振り向く。
そして、再びアックローに近付いて、話し掛けた。

 「……あんた、アックローだよな?」

 「何を言ってるんだい、蒼炎君?」

冗談の積もりなのかと、アックローは訝し気な顔をする。
そんな彼に構わず、ルースは目印を付けた木を探し始めた。

 「アックロー、俺が目印を付けた木は、どれだった?」

ルースが全く見当違いの所に行こうとしていたので、アックローは呆れて止める。

 「どこを探してるんだ?
  ここだよ」

 「ああ、そいつか……」

つい先程の事なのに、ルースは一切の記憶を失った様。

117:創る名無しに見る名無し
14/03/10 18:52:02.71 oRpKowpF.net
これが深度3の秘密なのだ。

 「アックロー、この傷をよく見てくれ」

ルースは自分が木に刻んだ十字傷を見付けると、そうアックローに言う。

 「どうかしたのかい?
  ……待ってくれ、何か変だぞ。
  これは本当に、傷を付けたのと同じ木なのか?」

アックローは違和感に気付き、首を捻った。
長さも角度も変わっていない筈なのに、何故か違和感が酷い。

 「蒼炎君、これは君が付けた傷じゃない。
  上手く説明出来ないが、何か違う。
  どこが変わっているんだ?
  これが『変わる地形』の正体?」

ルースは頷く。

 「そう、その『違和感』こそが、変わる地形の正体。
  地形自体は変化していないのに、変わったと思い込まされている。
  目を離している時間が長ければ長い程、違和感は酷くなって、遂には初見と見紛うまでになる」

彼は確信を持って説明したが、アックローは素直には納得しない。

 「それだけでは、延々迷い続ける理由にならない。
  他の冒険者と出会さない事の、説明にもなってないぞ」

アックローの言い分は尤もだが、ルースは迷わなかった。

118:創る名無しに見る名無し
14/03/10 18:58:02.08 oRpKowpF.net
アックローは勘違いしているのだ。
普通、こう言う事態に陥った時は、先ず幻惑の魔法を疑う。
何より自分が魔法で狂わされていないか、気を付ける。
そこが盲点になる。

 「深度3全体が魔法によって、真実の姿から遠ざけられている。
  森全体の微妙な色合い、陰影、空気の変化が、俺達の認識を巧妙に歪めて、
  『同じ物』を『違う』と『錯覚』させている。
  見ている間は気付けない位の、緩やかな―でも、確実な変化。
  それ自体は魔法によって起こされた物でも、俺達の感覚は正常なんだ」

アックローは漸く理解した。

 「成る程、僕達が幾ら魔法を警戒していても、関係無い訳だ。
  何故なら、魔法が作用しているのは、僕達ではなくて、森の方だから……。
  それを見破ろうとすると―」

 「化け物が居所を察知して、襲われる。
  そうなったら、探索なんか続けている場合じゃない」

 「上手く出来てる物だね……」

感心するアックローに、ルースは同意する。

 「全くだ。
  しかも、長い一本道だと思い込まされているから、マッピングが必要だとは思わない。
  結果、『錯(ず)れた』記憶や感覚に頼って、益々袋小路に陥る」

難問をクリアした解放感に、2人して暫し呆け、やがてアックローが口を利く。

 「……で、どうやって抜け出すんだい?」

謎が解けても、問題は未だ解決していない。
罠に嵌まった後で、仕掛けに気付いても、遅いのだ。

119:創る名無しに見る名無し
14/03/10 18:59:35.13 oRpKowpF.net
最も簡単な解決方法は、敵に襲われる覚悟で、探知魔法を使う事だろう。
但し、これには欠点がある。
狭い範囲の探知では、全貌を把握出来ないので、隠された分岐路を発見した所で、
どちらの道を進めば良いか迷うだろう。
広範囲の探知では、全貌の把握は容易になるだろうが、大量の敵に囲まれる危険がある。
2人だけでは心許無い。
だが、どちらかを選ぶより他に無い。
激戦を覚悟で広範囲を探知するか、長時間迷う覚悟で狭い範囲を探知するか?

120:創る名無しに見る名無し
14/03/10 20:03:39.34 t45kvUS9.net
消去法ってわけでないが
ここは狭い範囲かなー
とりあえず分岐点そのものの情報は得たいところ

121:創る名無しに見る名無し
14/03/11 19:37:36.56 HX218Pe1.net
魔法の効果が落ちている上に、未知の怪物と遭遇する可能性も考えれば、
自ら敵を呼び寄せる真似は、賢いとは言えない。
ルースはアックローに告げる。

 「道に沿って、狭い範囲を魔法で調べる。
  隠された分岐路があれば、これで発見出来る筈だ」

 「化け物と出会したら?」

 「多少の戦闘は已むを得ない」

仕方無いと言う風に、アックローは小さく息を吐いた。
2人は自分達の足跡を辿って、道を戻り始める。
段々足跡に違和感を覚える様になるが、一々照合して自分の物と同じ事を確認する。
途中、足跡が途切れている所を発見した。
そこは地面が苔に覆われていて、足跡が残り難くなっていた。

 「ここが分岐路だな」

ルースは道の右側に、異質な魔力を感じる。

 「一応、マッピングしておかないと」

アックローは透かさずノートを取り出して、簡単な地図を記した。


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