ロスト・スペラー 8 at MITEMITE
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400:創る名無しに見る名無し
14/05/24 18:28:40.98 jYNMmGss.net
ファラは押し黙り、ラビゾーの横顔を見詰めた。
視線隠しの所為で、表情は窺えない。
あの時の凛々しい顔を、もう一度見たいと思って、彼女はラビゾーの視線隠しを外した。

 「何です?」

目を細めて、間抜けな困り顔をするラビゾー。
ファラは何度も視線隠しを付けたり外したりして、記憶の中の美化した彼と比較した。
ラビゾーは益々迷惑そうに、眉を顰める。

 「フフッ」

見慣れた何時もの顔が、妙に愛おしくて堪らず、ファラは噴き出した。

 「何なんですか……」

 「あのね、アタシが又、悪い人に捕まったら……助けに来てくれる?」

我が儘な質問に、ラビゾーは顔を引き攣らせて、力無く答える。

 「止めて下さいよ……。
  今回みたいな事は、二度と御免です。
  寿命が十年は縮まりました」

色気の欠片も無い言い方に、ファラは剥れて、唇を尖らせた。

401:創る名無しに見る名無し
14/05/24 18:33:55.92 jYNMmGss.net
そして、失望の溜め息を吐いて、当て付ける様に言う。

 「別に、アンタに助けて貰わなくても、良かったんだけどね。
  アタシには魅了の魔法があるって、言ったでしょ?」

ラビゾーは面白くなさそうに、口を結んで黙り込んだ。

 「アンタの所為で、社交界で伸し上がる、アタシの計画は台無しよ」

ファラの発言で、自分は彼女の邪魔をしてしまったのかと、ラビゾーは心を痛める。
確かに、魅了の能力があれば、誰でも虜にするのは容易だろう。
しかし、ラビゾーにだって言い分はある。

 「で、でも……」

恐る恐る反論しようとしたラビゾーを、ファラは制した。

 「解ってる。
  大好き。
  本当に愛してる」

彼女はラビゾーの首に腕を回して、押し倒す様に寄り掛かり、力一杯抱き締める。

 「あ、あの、バーティフューラーさん、人が見ていますよ」

ラビゾーが声を潜めて指摘するも、ファラは全く意に介さず、気が済むまで放さなかった。
マグマの構成員は口笛を吹いて冷やかし、女達は顔を赤らめて喚声を上げていた。

402:創る名無しに見る名無し
14/05/24 20:28:11.17 EBWGa2wy.net
なんといううらやま

403:創る名無しに見る名無し
14/05/25 19:55:29.93 rxTIM8Dz.net
その後、交番に駆け込んだ女達の訴えによって、ベズワンは逮捕された。
幾ら議員の息子でも、流石に多数の女性を軟禁した罪は、庇い切れなかったのだ。
彼女等は脱出の経緯に就いて、義賊ブラックが手伝ってくれたとだけ答えた。
馬車は地下組織マグマが用意した物ではなく、偶々近くを通り掛かった物。
そう言う事にして、詳細は語らなかった。
新興組織ミングル・デュアルは、都市警察と他の地下組織に追い込まれて壊滅。
ファラは「ファラ・ウィッカ」の名前を捨てて、新しい名前で別の住所に引っ越した。
全てが終わった後、ラビゾーはノストラサッジオに礼を言いに、貧民街へ立ち寄った。
全ては上手く行ったのに、ノストラサッジオは何故か機嫌が悪い。
ラビゾーが感謝の言葉を述べても、剥れた顔で何も答えない。

 「どうしたんです?」

 「私の予知は外れた。
  『影は影に』収まる所か、より多くの者を巻き込んで、各方面に甚大な影響を及ぼした」

ノストラサッジオはデスクの上に置かれた新聞を指す。
見出しには太字で、「オートリット議員失脚、息子ベズワンの逮捕が影響」とある。

 「仕方が無いですよ。
  真実は明るみに出る物ですから。
  ……何か困った事でも起こりましたか?」

心配そうに尋ねるラビゾーに、ノストラサッジオは大きな溜め息を吐いて見せる。

 「私の予知が外れた」

少し理解に時間を掛けた後、そんな事かと、ラビゾーは脱力して苦笑した。

 「ええ、はい。
  偶には、そう言う事もありますよ」

 「違う、お前は解っていない。
  予知魔法使いが予知を外すと言う事が、どれだけ大きな意味を持つのか!」

旧い魔法使い達にとって、己の魔法は単なる能力ではない。
唯一無二の絶対的な価値であり、存在意義にも等しい、魔法使いの命その物だ。

404:創る名無しに見る名無し
14/05/25 19:56:44.95 rxTIM8Dz.net
ノストラサッジオは苛立ちを隠さず、ラビゾーに問い掛けた。

 「何故、私の予知は外れたと思う?」

 「それは……」

言い淀むラビゾーをノストラサッジオは鋭く睨む。
気恥ずかしそうに、小声でラビゾーは答えた。

 「そう皆が願ったから、じゃないですかね」

運命の分かれ道は、恐らくラビゾーが令嬢に従った所だろう。
彼女等の強い意志と、何とかしたいと言うラビゾーの思いが、未来を変えたのだ。
どちらが欠けても、この結末には至らなかった。

 「良い答えだ」

ノストラサッジオは満足気に深く頷き、にやりと笑った。
ラビゾーが真の魔法使いになる日も近い……のかも知れない。
それでも予知が外れた事は、とても気にしていたらしく、ノストラサッジオは数月間、
ラビゾーに対して得意の予知をしなかった。

405:創る名無しに見る名無し
14/05/25 19:58:26.68 rxTIM8Dz.net
―それから暫く、ティナー市は謎の義賊ブラックの噂で持ち切りになる。
闇に潜みて悪を討つ、全身黒尽くめの地下組織の逸れ者。
ミングル・デュアルの拠点に囚われていた、令嬢達を救い出した英雄。
悪人を狙うと言う性質から、シェバハ絡みの人物ではないかと推測されるが、詳細は不明。
その正体が、旅商のラビゾーと知る者は少ない。
新たに真実に辿り着く者も居ないだろう。
もう彼がブラックと名乗る事は無いのだから……。
事件後に一部ジャーナルが、義賊ブラックの特集を大々的に取り上げて以来、摸倣犯が多く現れ、
最早どの事件に誰が関わっていたかも、特定が難しい。
今日も、どこかで誰かが、義賊ブラックを名乗っている。

406:創る名無しに見る名無し
14/05/26 19:03:44.86 uB8CNJXl.net
「ノストラサッジオさん、1つ訊きたい事があります。
 僕が助けに行かなくても、バーティフューラーさんは無事だったんですか?」

「過去は今を選んだ。選ばれなかった未来、『若しも<イフ>』を問うのは無意味だ。
 お前は見事にバーティフューラーの娘を助け出した。それで良いではないか?」

「それは……そうですけど……」

「分かった。お前の愚直さに敬意を表して、正直に言おう。
 お前が行かなければ、バーティフューラーの娘はティナーを影から支配する、女帝となっていた」

「……女帝?」

「バーティフューラーの娘に、大きな権力を持たせる訳には行かなかった。
 増長した彼女は、外道魔法の危険性を社会に再認識させ、大きな混乱を招いただろう」

「豪い事になる所だったんですね……」

「お前には感謝している。私の予知を外してくれた事以外はな。
 これからも『私達』の為に、働いて貰うかも知れん。宜しく頼むよ」

407:創る名無しに見る名無し
14/05/26 19:05:57.47 uB8CNJXl.net
「このアミュレットを首飾りにして下さい」

「これを……ですか? 余り趣味の良い物ではありませんし、品質も然程では……。
 何か特別な思い入れでも?」

「ええ、恩人から頂いた物です」

「例の件ですか? ……と言う事は、義賊ブラックの―」

「はい。私達を守ってくれた、一生の宝物です」

「では、加工する序でに、磨き直しましょう。多少は見れる物になる筈」

「お願いします」

「お任せ下さい。それにしても、義賊ブラック……。まさか、お心を奪われてしまったと言う事は―」

「ありません。あの方には、想い合う方が既に」

408:創る名無しに見る名無し
14/05/26 19:11:34.31 uB8CNJXl.net
「あら、それでは?」

「意地の悪い事を言わないで。私も自らの分は弁えています」

「なら、宜しいのですが……」

「でも、とても羨ましい。私にも命懸けで守って下さる、素敵な方が現れない物かしら?」

「旦那様も、奥様も、私共も、お嬢様の為ならば、命を懸けられますよ」

「嘘ばっかり。だって、私が囚われていた間、誰も助けに来ては下さらなかったでしょう?」

「それは……」

「承知しています。お父様も、お母様も、体面があります物ね。けれども、その様な枠すら、
 取り払えてしまうのが、本物の愛ではなくて?」

「返す言葉も御座いません」

「……『本物の愛』と口では言えても、実際には簡単な事ではないでしょう。
 でも、私は見てしまったのです。夫婦となるなら、財も才も無くとも、
 勇敢で実直な方が良いと思います」

409:創る名無しに見る名無し
14/05/26 19:20:48.87 uB8CNJXl.net
「何故、こんな馬鹿な事をしたんだ?」

「誰も私を愛してはくれなかった。貴方は私を母に任せ切りで、母は貴方を恐れてばかりだった」

「それが何の言い訳になる? 私の所為だと言うのか?」

「……私は愛と言う物を知らない―と言う事に、気付かされたのです」

「馬鹿馬鹿しい……!」

「貴方は私を愛してくれましたか?」

「ああ、愛していたとも。だから、お前には立派な教育を受けさせたし、
 欲しい物は与えてやっただろう?」

「そうじゃない……。私が欲しかったのは、そんな物じゃない……」

「私には仕事があった。お前にばかり係(かか)っている訳には行かなかったのだ。
 それが解らぬ様な男ではあるまい……」

「ええ。私は何時も、貴方の背中を見て来た。そうして出来上がったのが、今の私なのです」

「巫山戯るな! そんな子に育てた覚えは無い!」

「私もデジーも貴方に育てられた覚えはありません。どうして、我が子である私達を避けるんです?」

「避けて等―!」

「貴方は自分の機嫌が良い時しか、私達に構わなかった。泣いたり、怒ったり、我が儘を言うと、
 必ず母に押し付けた」

「それが『役割』と言う物だ。人には各々の『分』がある」

「では、貴方は良き『夫』でしたか? 良き『父』でしたか?」

「一家を担う『長』としての役割は果たしていた! 遊んでばかりの、お前とは違ってな!」

「長とは金さえ払えば務まる物ですか?」

410:創る名無しに見る名無し
14/05/26 19:26:36.10 uB8CNJXl.net
「お前は私を―!」

「ジョリーが死んだ時、貴方は一緒に悲しんでくれなかった」

「ジョリー? 友達か?」

「……悪い事をしても、怒ってくれなかった」

「今、こうして怒っているだろう!」

「遅過ぎる! 今更ですか? 何時でも気付けた筈なのに、散々見て見ぬ振りをして来ておいて!」

「ハァ……、どうやら私は、お前を甘やかし過ぎた様だ」

「甘やかす? 甘えさせてもくれなかった癖に、只放置していた癖に、それを『甘やかした』と?
 他人事(ひとごと)みたいに無関心だった癖に!」

「子供染みた事を喚くんじゃない! お前も好い大人だろうに」

「大人なんかじゃない! 外面を取り繕っていただけだ!」

「……何なんだ、お前は? 私には、お前が解らない。我が子ながら恐ろしい」

「お父さん、私を見て下さい。理解して下さい。どうしてですか? 面倒臭いんですか?」

411:創る名無しに見る名無し
14/05/26 19:29:30.84 uB8CNJXl.net
「お前は私に何をしろと言うんだ……?」

「……私を愛して下さい。私は今、必死に訴えています。勇気を振り絞って、惨めでも良いから、
 取り繕って来た物を全部投げ出して、訴えています。
 お願いだから逃げないで……受け止めて下さい」

「お前……、そんなに……? 何が、お前を、そこまで……」

「私の話を聞いて下さい。私の目を見て下さい」

「泣いている……のか?」

「話したい事、聞いて貰いたい事、一杯あったんです。お金や物が欲しかったんじゃないんです」

「ベ、ベズワン……」

「お父さん、私を愛して下さい。時計の針を戻させて下さい。10年、20年前に返って、
 私に貴方を愛させて下さい」

「……悪かった。許してくれ」

「幾らでも許します。だから―」

「ああ、やり直そう。もう私は議員でも何でも無いから……。時間なら有り余っているから。
 母さんと、デジーと一緒に」

「有り難う、お父さん」

412:創る名無しに見る名無し
14/05/26 19:31:34.35 uB8CNJXl.net
After rain comes fair weather.

413:創る名無しに見る名無し
14/05/27 19:58:10.36 go7UNrXA.net
その後のジラ・アルベラ・レバルト


グラマー地方南部の都市テスティレ 魔導師会南部支所にて


ジラ・アルベラ・レバルトが、サティ・クゥワーヴァの監視を兼ねた護衛任務を終えた、翌年の事。
彼女は八導師からの任命書を渡されていた。

―ジラ・アルベラ・レバルト殿
―本年3月初を以って、貴君を八導師親衛隊に任命する。
―就いては来る3月1日、魔導師会本部にて行われる、親衛隊入隊式に参加されたし。
―八導師最長老シュザハル・アマゴル

任命書に付属する書類には、その他、細かい時間や場所、制服の指定、諸々の規則が、
丁寧に記されている。

 「え、えー……?
  これ、本当ですか?」

ジラは戸惑い、上司に尋ねた。

 「冗談で、そんな物を渡しはせんだろう」

上司は眉を顰めて苦笑するが、彼女は呆けた表情の儘だ。

 「良かったな、大出世だぞ。
  お目出度う。
  2月には送別会をやるから、都合の悪い日があったら、教えてくれ」

そう告げると、上司は膠も無く、通常業務に戻った。
ジラは任命書を何度も読み返して、何かの間違いでない事を確認した。

414:創る名無しに見る名無し
14/05/27 20:01:42.77 go7UNrXA.net
八導師親衛隊とは、魔導師会の最高権力者である「八導師」の、直属部隊である。
故に、魔導師でありながら、どの部署にも所属せず、八導師以外の命令を受けない、特殊な存在だ。
魔導師の中でも、特に執行者から選ばれる事が多いと噂されるが、人選の基準は明かされない。
八導師の命で、極秘任務に就くと言うが、詳細は不明。
何かと謎の多い職業である。
ジラが素直に親衛隊への異動を喜べないのは、そこに原因がある。
彼女がサティ・クゥワーヴァと行動を共にした3年間は、決して平穏な日常とは言い難かった。
漸く執行者の通常業務に戻れると思ったのに、親衛隊に入ったら、何が待ち受けているか……。

 (ああ、婚期が遠退く……)

別に出来る女を演じる積もりは無いのに、結婚したら仕事を辞めても良いと思っているのに、
どうして運命は私を茨の道へ誘うのか?
ジラは己の運命を呪った。
親衛隊に入れば、間違い無く、今まで以上に出会いの機会は制限される。
只でさえ、グラマー地方は男女の別が明確で、中々普通に異性と付き合えないのだ。
実家で見合いは最後の手段。
その前に、何とか自分で納得出来る相手を見付けたい。

415:創る名無しに見る名無し
14/05/27 20:02:50.21 go7UNrXA.net
ジラは上司に相談してみた。

 「ジジェゼルさん、親衛隊の任命って辞退出来ますか?」

 「えっ、断るの?」

 「ああ、いえ、断れるのかなー……って」

上司は驚いた顔をした後、難しい顔をする。

 「分からないね……。
  断った人なんて聞いた事が無いからさ」

 「そもそも、何故私が親衛隊に?」

 「知らないよ。
  私が推薦した訳じゃないし。
  君には心当たりがあるんじゃないのかい?」

そう上司に問い返されて、ジラは考え込んだ。
思い当たる節と言っても、サティ位しか思い付かない……。
いや、十中八九、それが原因に決まっているのだ。
それ以外に何かあるのだとしたら、そっちの方が驚きだ。

416:創る名無しに見る名無し
14/05/28 19:42:31.01 7bHmG+fz.net
親衛隊には八導師からの特命が与えられると言う。
ジラと共に3年間、大陸各地を巡る調査をした後、サティ・クゥワーヴァは失踪した。
彼女の身に何が起こったのか、彼女の心境に変化があったのか、ジラには知る由も無い。
……そう言う事にしておきたい。

 (私に何の用が?
  サティの行方を追えとか……?)

行方不明になったサティを追う為に、親衛隊に入れと言う事なのかと、ジラは考えた。

 (それにしてもなぁ……)

どの道、1人で想像を巡らせてばかりでは、正しい答が得られる筈も無い。
任命書に同封されている書類に、入隊辞退に関する記述は無かった。
その代わり、「その他、不明瞭な点への質問・意見等は、魔導師会本部親衛隊隊長
エルハマス・アルミリヤまで」と記してある。
ジラは休暇を取って、魔導師会本部に赴き、親衛隊入隊を断れるか、確認する事にした。

417:創る名無しに見る名無し
14/05/28 19:52:02.35 7bHmG+fz.net
本部の受付で、ジラは親衛隊隊長を呼び出し、説明を求めた。
来客用の小部屋で数針待たされた後、やって来たのはフードを被った女性。
彼女はジラの前でフードを外すと、挨拶をする。

 「初めまして、私は八導師親衛隊の副隊長、アクアンダ・バージブンです。
  男性の隊長に代わって参りました」

グラマー地方では基本的に、男性には男性が、女性には女性が応対する。
さて、親衛隊副隊長と対面したジラが、最初に抱いた感想は、「若い」であった。
顔付きは幼を残し、背も余り高くない。
公学校生と言われても信じるだろう。
薄い化粧と、両耳のイヤー・カフスが、大人の雰囲気を漂わせているが、随分とアンバランスな印象。
奇妙と言うか、妖しい美しさがある。

 「入隊に関して、御質問があると伺っております」

アクアンダに促され、ジラは我に返って口を開く。

 「あ、はい。
  あの……入隊は辞退出来ますか?」

 「出来ない事はありませんが……」

アクアンダは言い淀んだ。
やはり「訳有り」かと、ジラは身構える。

 「あなたが親衛隊に選ばれたのには、理由があります」

 「サティ・クゥワーヴァの件でしょうか?」

ジラが先を制すると、アクアンダは少し面食らった後、目を伏せた。

 「御承知でしたか……」

 「承知も何も、他に考えられません。
  それで、何か私に期待する事があるのでしょうか?」

 「ええ、あなたには私達と同じ、『より深い所』で活動して頂きたいのです」

ジラの問い掛けに、アクアンダは彼女を確りと見詰めて、答えた。

418:創る名無しに見る名無し
14/05/28 19:56:11.13 7bHmG+fz.net
「より深い所」―ジラは嫌な予感がした。

 「『深い』……とは?」

 「魔導師会の秘密に触れる所です」

 「秘密?」

それを聞けば戻れなくなると、ジラは感付いていた。

 「サティ・クゥワーヴァと行動を共にして、あなたは真実に触れた筈」

否、もう彼女は戻れないのだ。

 「い、いいえっ、私は何も知りません!」

アクアンダは僅かも瞳を逸らさない。

 「落ち着いて下さい。
  あなたを責めている訳でも、疑っている訳でもありません。
  私達の『手伝い』をして頂くのに、全くの無知であるより、都合が好いと言う話です」

 「私は普通の生活がしたいです……」

ジラが真剣に告げると、アクアンダは優しく微笑んだ。

 「大丈夫ですよ。
  私だって普通に家庭を持っています。
  ただ、人より少し秘密が増えるだけ」

それはジラにとって、本の少しではあるが、慰めと励みになる言葉だったが、そんな事より、
幼く見えるアクアンダが既婚者だと言う方が衝撃で、彼女は暫く硬直していた。

419:創る名無しに見る名無し
14/05/29 19:13:14.83 eeQ+bS5k.net
ややして気を取り直したジラは、自分の配属先が気になった。

 「……アクアンダさん、お尋ねしても良いですか?」

 「はい、何でしょう?」

 「私は表と裏、どちらで働く事になるんですか?」

八導師親衛隊には、表組と裏組がある。
表組は八導師に付き従って、護衛や警備、検査を行う。
その為、新聞やニュースの記事に登場する八導師の傍で、一緒に映り込む事があり、
一般に存在を知られている。
特に八導師の護衛ともなれば、関係者の間では有名になる。
対して、裏組は徹底して影の存在だ。
八導師の蜜勅により、表沙汰に出来ない事を、秘密裏に処理する。
裏組は親衛隊と言う事すら、表立って口には出来ない。
どちらが良いかと問われたら、間違い無く表組だ。
しかし、アクアンダはジラの淡い期待を、あっさりと打ち砕いた。

 「裏組です」

ジラは声を失う。

420:創る名無しに見る名無し
14/05/29 19:17:53.58 eeQ+bS5k.net
 「お、表じゃないんですか?
  だって、今まで警備課で……」

彼女は何とか食い下がった。
何かの間違いであって欲しかったのだ。
アクアンダは眉を顰めて苦笑し、困り顔を見せる。

 「正直に申し上げますと、ジラさんには内調で活躍して頂きたいのです。
  それを私達は期待しています」

内調とは『内部調査班<インサイド・インスペクション・チーム>』の略だ。
魔導師は高度な魔法技術を持つ、優秀な共通魔法使い。
魔導師会は魔法秩序を維持する為に、志ある魔導師で構成された集団。
だが、不心得者や思想信条に問題のある人物も、中には生まれる。
魔法資質の高い者こそが偉大であると信じて疑わない、極端な魔法資質崇拝者。
共通魔法以外の魔法を認めず、静かに暮らす外道魔法使いさえも、積極的に排除しようとする、
過激な排外主義者。
共通魔法の発展の為なら、人権や倫理を無視しても構わないとする、異常な進歩主義者。
そうした者達を事前にマークして、必要とあらば排除するのが、内部調査班の役目。
その様な仕事があると、話には聞いていたが、自分に声が掛かるとは、全くの想定外だった。

421:創る名無しに見る名無し
14/05/29 19:23:32.29 eeQ+bS5k.net
ジラは戸惑う。

 「いえ、でも、私は調査とか突入とか、全然……。
  最初は生安(※1)の補導員でしたし、その次は警備課で、刑事とか、組対(※2)とか、
  そう言う事には……」

 「ええ、承知の上です。
  その辺りは追々覚えて頂ければ、それで」

 「……どうして私なんですか?
  確かに、サティ・クゥワーヴァと行動を共にはしましたが、秘密と言う程の秘密なんて―」

何とか言い逃れ出来ないかと、ジラは足掻いたが、アクアンダは動じない。

 「どうも誤解がある様です。
  私達が注目したのは、あなたが秘密に触れたか否かではありません。
  あなたの人格と思想です。
  あなたが本部に送った報告書には、確り目を通しました。
  その上で、あなたならばと認めたのです」

 「私、何か不味い事でも書きました?」

 「いいえ、全く問題ありませんでしたよ」

 「……隠し事をしていると?」

 「そうではありません」

怯えた態度のジラに、アクアンダは又も困り顔をする。


※1:生活安全課の略
※2:組織犯罪対策課の略

422:創る名無しに見る名無し
14/05/30 19:13:43.61 jkePhx+l.net
アクアンダは丁寧に解説した。

 「あなたを内調に勧誘したい理由は、5つです。
  一、外道魔法使いに対して、偏見が少ない所。
  一、強い正義感と責任感を持っている所。
  一、如何な状況でも、公平で冷静な判断が出来る所。
  一、成果や功績を焦らない所。
  そして―、『あの』サティ・クゥワーヴァと行動を共にしていた事」

褒められて悪い気はしないジラだが、持ち上げられ過ぎとも感じる。
何より気になるのは、「あのサティ・クゥワーヴァ」と言う表現だ。

 「『あの』って、どう言う意味ですか?」

 「あなたはサティ・クゥワーヴァを、よく制御していました」

ジラは内心、気不味さを覚える。
実際は少しも制御出来ていない。
何度も単独行動を許したし、不本意な随従もあった。
特にガンガー北での離脱は、職務放棄にも等しい、重大な過失だった。
これを「制御していた」と評価されては堪らない。

423:創る名無しに見る名無し
14/05/30 19:18:11.52 jkePhx+l.net
アクアンダの口振りから、自分が「特別な役割」を期待されている事は明らかだった。
それが分相応の物なら良いが、誤解から来る過大評価であれば、待ち受けている物は、
ジラ個人の資質では到底手に負えない危険な事態だ。

 「制御なんて、そんな……。
  私は彼女に振り回されてばかりで……」

 「謙遜なさらないで下さい」

 「いえ、謙遜ではなく!」

声を高くして、ジラが断言すると、アクアンダは上目遣いで尋ねる。

 「そんなに親衛隊が嫌ですか?」

 「嫌と言うか……。
  具体的に、私に何を求めていらっしゃるのですか?
  私は何の為に、親衛隊に必要とされているのですか?」

アクアンダは三度、難しい顔をした。

 「親衛隊の性質上、未だ正式に入隊すると決まっていない方には、中々お話は……」

 「ああ、そうですよね……」

彼女の言う事は、至極尤もである。
ジラは今の所は部外者だ。
そんな者に職務内容に関わる事を、教えられる訳が無い。
教えれば、ジラは否応無しに入隊せざるを得なくなる。

424:創る名無しに見る名無し
14/05/30 19:22:34.23 jkePhx+l.net
然りとて、断った所で、何も無く終わるとは思えない。
ジラは一応、質問した。

 「断ったら、どうなりますか?」

 「別に、どうにもなりませんよ。
  但―」

 (ほら、来た)

ジラは覚悟する。

 「ジラさんの周りで、色々と手を回す事になります。
  それも私達の仕事なので」

 「例えば?」

 「親衛隊でない、別の部署に異動して貰う事になったり……職場だけでなく、私生活でも一部、
  介入する事になるかも知れません」

 「何を理由に?」

 「こうして親衛隊に勧誘した事もですし、サティ・クゥワーヴァと3年間、行動を共にしていた事も。
  頑なに拒否されるのでしたら……場合によっては、疚しい所があると見做されてしまい、
  審問に掛けられる事も……」

アクアンダの口調は穏やかな儘で、厳しさや冷たさは感じられない。
それが逆に空寒い物を感じさせる。

425:創る名無しに見る名無し
14/05/31 18:52:19.93 5rIVwYhj.net
ジラは眉を顰め、アクアンダに尋ねた。

 「サティは何をしたのですか?」

 「教えられません。
  あなたは未だ親衛隊ではありませんから」

サティは触れてはならない真相に迫りつつあった。
それは何なのか?
沈黙したジラに対して、アクアンダは小声で言った。

 「入隊するか、しないか、どちらが良いとは、私の口からは申し上げられませんが……。
  あなたには是非とも入隊して頂きたいのです」

ジラは迷っている。
君子危うきに近寄らずを貫くか、毒を食らわば皿までと行くか……。
自らも一魔導師なのだから、魔導師会の要請に従うのは、当然だろうと言う思いがある。
故に、入隊しても良いとは考えているのだが、今一つ踏ん切りが付かない。
そこでジラは、こう問い掛けた。

 「親衛隊に入る事で、何か私に『利益<メリット>』はあるでしょうか?」

ここまで聞いておいて、受けないと言う選択は無い様に思うが、アクアンダは辛抱強く付き合う。

 「先ず、お給金が高い事ですね。
  機密に関わる仕事ですから。
  勿論、違反した場合の罪は重くなりますけれど」

まるで就職説明会だ。

426:創る名無しに見る名無し
14/05/31 18:53:59.24 5rIVwYhj.net
しかし、ジラは金が欲しい訳ではない。
今だって十分な位、給料は貰っている。

 「他には?」

 「親衛隊は八導師直属なので、複雑な組織間の上下がありません。
  職務命令系統は、八導師、隊長、副隊長、班長のラインのみ。
  それ以外の全ての魔導師とは、立場上対等です。
  運営委員でも、法務長官でも、他の魔導師と変わりません。
  逆に言えば、一般の魔導師とも対等な訳ですが……」

しかし、ジラは人に頭を下げるのが苦手と言う訳でもない。
権力や権威に対する反骨心は余り無い。

 (どうもなぁ……)

もう少し旨味を感じさせてくれない物かと、ジラは悩まし気な顔をする。

 「他に……」

 「他に……ですか?
  状況に依りけりですが、休暇は多い方ですよ。
  その代わり、本当に忙しい時は、無休連勤や長時間拘束もありますが……」

ジラが中々表情を変えないので、アクアンダも又、悩まし気な顔で考え込んだ。

427:創る名無しに見る名無し
14/05/31 18:55:23.59 5rIVwYhj.net
今まで説明した物が、ジラにとって余り価値を持たなかったと言う事は、反応から察せられる。

 「他に、利点らしい利点は……。
  非常に名誉な仕事だとは言えますが……。
  個人の為に、特別に何かを用意する訳にも行きませんし……」

だが、ジラだけを特別扱いは出来ないし、賄賂を贈る様な真似も出来ない。
アクアンダが困るのは当然だ。
我が儘を言い過ぎたと反省したジラは、改めてアクアンダに尋ねる。

 「では、質問があります」

 「何でしょう?」

 「アクアンダさんは、どうやって御結婚なさったのですか?」

 「は?」

アクアンダは意図が解らず、頓狂な声を上げた。
行き成り無関係な話をされたら、誰だって驚くだろう。
そんな彼女の反応に、ジラは気恥ずかしそうに言う。

 「ええと、親衛隊に入ってから結婚なさったんですか?
  それとも、その前から?
  出会いは何が切っ掛けでした?」

 「こ、個人的な事は……」

堰を切った様に攻めて来るジラに、アクアンダは初めて気圧される。

428:創る名無しに見る名無し
14/06/01 19:16:09.95 prR4wpTF.net
冗談でも何でも無く、ジラにとっては真面目な質問だ。

 「いや、(私にとっては)重要な事なので、答えて貰えますか?」

 「ええ!?」

ジラが真剣な眼差しで見詰めて来るので、アクアンダは反応に困った。

 「ど、どこが重要なのですか?」

真っ当な疑問に、ジラは躊躇いながら応じる。

 「私、未婚なので」

 「それが何か……?」

アクアンダは本当に見当が付かない様子で、唖然としている。
人が恥を忍んでいるのに、察しが悪いなと、ジラは少し苛立った。

 「……『普通の生活がしたい』って言いましたよね?」

 「あ……、ああ、ええ、はい」

 「それ、本当なのかなって。
  詰まり、本当に『普通に生活出来るのかな』と。
  恋愛とか、結婚とか、出産とか?
  アクアンダさんは御家庭を持っていらっしゃると言う事で、その辺りの経緯を聞きたいなーって」

 「あ、そう言う事ですか?
  はい、分かりました」

アクアンダは漸く納得して、安堵の表情を浮かべ、何度も頷いた。

429:創る名無しに見る名無し
14/06/01 19:22:36.40 prR4wpTF.net
興味津々のジラに対して、アクアンダは幻滅させてはならないと、気合を入れ、妙に情感を込めて、
語り始める。

 「あれは私が親衛隊に入って、未だ間も無い頃……。
  若い魔法学校の生徒を狙った、勧誘事件がありまして。
  親衛隊が出て来る訳ですから、裏には特殊な事情があったのですが、それは一先ず置いて、
  私は魔法学校の生徒に混じって、囮捜査をしていた訳です。
  機会提供型と言う奴ですね。
  この見た目で、当時は本当に若かった訳ですから……」

アクアンダの口振りに、ジラは小さな疑問を抱いた。

 (この人、一体幾つなんだろう……?
  20代中頃?
  あら、私と同じ位?)

 「それで『標的<ターゲット>』は巧々(まんま)と引っ掛かってくれた訳ですが、穏やかに済む訳も無く、
  一寸した格闘になってしまいました。
  そこに割って入ったのが、今の夫です。
  彼の目には、『女の子』が暴漢に襲われていた様に見えたとか」

頬を染め、恍惚の表情で語るアクアンダを見て、ジラは羨ましいと思うより呆れる。

 (余り一般的なシチュエーションじゃないなぁ……)

特殊な出会い過ぎて、参考にならないのだ。

 「運命的でした。
  彼は私を庇いながら、必死に悪漢共を退けたのです。
  実際は私1人でも、どうにでも出来たのですが、彼の勇気に免じて、傍観者に徹していました。
  軽々に正体を明かす訳にも行きませんでしたし」

ジラは一応は聞いている体で、アクアンダに惚気話を続けさせた。

430:創る名無しに見る名無し
14/06/01 19:24:20.43 prR4wpTF.net
ジラの退屈そうな表情も気に留めず、アクアンダのテンションは上がって行く。

 「その後も、私は囮捜査を続行したのですが、彼は度々私の前に現れて、邪魔してくれました。
  業を煮やした私が、何の積もりかと問い詰めると、彼は行き成り告白して来たのです。
  えーと、プロポーズの言葉とか……知りたいですか?」

 「いえ、別に。
  お構い無く。
  どうぞ続けて」

ジラが冷淡に返すと、アクアンダは少し残念そうに悄気(しょげ)る。

 「彼に好きだと言われて、私は少し嬉しかったですよ。
  しかし、私は八導師親衛隊。
  しかも、裏組の人間です。
  気軽に一般の方と、お付き合いは出来ません。
  私も生涯独身を覚悟していましたし……。
  そんな訳で、私は当時の上司や同僚に相談しました」

おっと、ジラは眉を動かし、反応する。
アクアンダの口から、重要な言葉が出た。

 「一般の方とは付き合えない?」

 「正確には、『素性の不明な人物とは付き合えない』、ですね。
  事前に怪しい組織に所属していないか、思想信条に問題は無いか、調べないと行けません。
  親戚や血縁、交友関係、収入や社会的地位も調査対象です。
  後は、親衛隊だと言う事を打ち明けるか、それとも個人の胸の内に留めて置くかも、
  非常に大きな選択になります」

それを聞いて、ジラの親衛隊に入隊しようと言う意思が、大きく減退する。

431:創る名無しに見る名無し
14/06/02 19:52:08.97 wqhWP53b.net
人付き合いが制限されるのは、何も親衛隊だけではない。
重要な地位にある魔導師は、大抵制限が付く。
運営委員や代議士、司法官のみならず、刑事警察執行者も対象だ。
そうした面倒事を嫌って、ジラは同じ執行者でも、司法関係を避けた。
地位も名誉も自由には代え難いのである。

 「話を戻しましょう。
  当時の副隊長に相談した結果、彼の身辺調査をする事になりました。
  それで問題無しと判明して、私は彼に全てを打ち明ける事にしたのです」

アクアンダは続きを話したが、ジラの心は離れ始めていた。

 (もう何でも良いや。
  記憶を封じるなり、誓約の魔法を掛けるなりすれば、変に疑われる事も無いでしょう。
  審問でも何でも、ドンと来いよ)

しかし……、

 「当初は猛反対されると思っていたのですが、意外と皆さん好意的に協力して下さいました。
  後に知ったのですが、親衛隊の性質上、独身と言うのは非常に不味いのです。
  例えば、標的に特別な感情を抱いたり、任務に私情を持ち込んだりと言った不祥事は、
  全て『独身だから』起こる事で、守るべき家庭があれば、そんな気は起こらない理屈だとか」

諦観し憮然としていたジラの目の色が、途端に変わる。

 「不味いって……、じゃあ、私は?」

 「未だ好い人が見付かっていないのでしたら、優良物件を御紹介しますよ。
  親衛隊には『社交会<ソーシャル>』から秘密のルートがありまして」

社交会とは、魔導師の男女の出会いを目的とした集いである。

432:創る名無しに見る名無し
14/06/02 19:54:02.83 wqhWP53b.net
ジラは社交会に余り良いイメージを持っていない。
いや、それはジラでなくとも、大抵の若い魔導師は同じだろう。
一部の名家や良家を除いて、社交会に積極的に参加する若者は少ない。
溢れた者が、最後の拠り所に参加する物だと、理解しているのだ。
その認識は、ある意味では間違っていない。
だが、「秘密のルート」と聞いて、ジラは心惹かれた。
仕事で忙しい魔導師に、出会いの場を提供するのが、社交会の役目だ。
勿論、参加者は未婚の男女に限られる。
社交会は表向きは自由市場だが、裏では「お目当て」や「お似合い」の紹介もしている。
希望さえあれば、魔導師でない者を紹介する事も出来る。

 「済みませんが、ジラさん、起立して下さい」

 「はい」

何だろうと思いつつ、ジラはアクアンダの指示に従った。

 「気を付けの姿勢で、真っ直ぐ前を見て」

アクアンダは品定めをする様に、ジラを頭の天辺から爪先まで眺め、何度も頷く。

 「……はいはい、これなら……。
  ああ、もう結構です。
  お掛けになって下さい」

 「何なんですか?」

 「グッド・フィギュアですね。
  申し分無しです。
  異性の好みを教えて頂けますか?」

彼女はジラに見合った異性を紹介する気なのだ。

433:創る名無しに見る名無し
14/06/02 19:59:44.28 wqhWP53b.net
ジラは真っ赤になって慌てた。

 「いえ、そんな、未だ入隊すると決めた訳では……」

 「まあまあ、話だけでも」

 「駄目です、こんなの。
  交換条件みたいで……。
  不純な動機では、相手の方にも申し訳ありません」

美味しいと思う気持ちも無くは無いが、男を宛がわれると言うのは、どうも気持ちが悪い。

 「そうでしょうか?
  私達が提供するのは、飽くまで『機会』だけです。
  そこから上手く行くかは、あなた次第ですよ」

アクアンダの言葉に、心が揺れる。
確かに、「宛がわれる」のとは違うだろう。
飽くまで、出会いは出会い。
相手にだって自由意思がある。
ジラは遠慮勝ちに、自らの理想をアクアンダに伝えた。

 「そ、そうですね……言うだけなら……。
  ええと、その、程々に背が高くて、整った顔立ちで、頼りになって……」

 「はいはい」

 「優しくて、家事も出来て、それなりに収入もあって……」

 「はいはい」

 「センスが良くて、リードしてくれて、可愛気もあって……」

 「はいはい」

 「甘えさせてくれて、好い匂いがして、気削(きさく)で、浮気せずに私を愛してくれる人……?」

 「んー、欲張りましたねー」

アクアンダは呆れながらも、馬鹿にしたりはせず、真顔で応える。

434:創る名無しに見る名無し
14/06/02 20:35:00.97 Mh7pF5rF.net
ゆがみねぇw

435:創る名無しに見る名無し
14/06/03 19:38:04.07 UJsa2gJ7.net
流石に注文を付け過ぎたかと、不安な面持ちになるジラに、アクアンダは問い掛けた。

 「お相手の職業や家柄に拘りはありますか?」

 「いいえ、そう言うのは別に……。
  真っ当な仕事なら、何でも」

 「年齢は?」

 「私より少し上位で」

 「出身地や魔法資質、魔法色素は?」

 「そこまで煩く言いません」

 「有名人で譬えると、どんな感じ?」

 「え……有名人……ですか?」

ジラは少し思案する。

 「んーと、見た目はフラワリングのアレイフォー・スリマートさん。
  性格はラジオ俳優のクーアディナー・メイガーさんで」

 「ははぁー、成る程。
  大凡、判りました」

アレイフォー・スリマートはフラワリング競技者の中でも指折りの実力者で、端整な相貌に、
華奢な体付きながら、長時間の演舞にも耐える、若いながらも熟達の人物だ。
クーアディナー・メイガーは何でも出来る多才な人物で、長年ラジオ番組に出演しており、
穏やかな語り口調と、深く広い知識で、多くの『受聴者<リスナー>』を魅了して来た。
どちらも女性のファンが多い。

436:創る名無しに見る名無し
14/06/03 19:40:57.28 UJsa2gJ7.net
回答から好みの傾向は察せるが、それは強い拘りではない。
アクアンダはジラの本音を見抜いた。
彼女は「何時かは結婚しなければならない」と理解しているが、今の所は「結婚する気が無い」のだ。
或いは「結婚」を、どう言う物か、よく理解していない。
「好い人が現れたら、結婚しても良いかな」程度の気分で居る。
その気持ちはアクアンダにも、よく理解出来た。
嘗ての彼女も、そうだった。
結婚は縁があったらしても良いが、自ら進んでパートナーを求める積もりは無い。
そんな若き日のアクアンダと違い、一応ジラには結婚願望があり、パートナーを求めているが、
それは本心ではなく、周囲に合わせて言っている、口先だけの要求でしかない。
焦りが見られず、執着心と熱意が、どこか錯(ず)れているのだ。
もしかしたら、彼女は結婚に迷いがあるのかも知れない。
心が定まらない儘、浮ら浮らされるのは、親衛隊として好ましくないが……、

 (その内、何とかなるでしょう)

アクアンダは楽観的だった。
実際に男と付き合えば、色々考え方も変わって来る。
その中で、自分の本心と向き合えば良い。

437:創る名無しに見る名無し
14/06/03 19:49:56.04 UJsa2gJ7.net
同情半ば、親切心半ばと、少しの謀略を込めて、アクアンダはジラに告げる。

 「お任せ下さい。
  必ずや、お眼鏡に適う方を、お連れしましょう」

そして、自然な動作で手を差し出した。

 「あ、はい、よ、宜しく……お願いします?」

ジラは迂闊にも雰囲気に流されて、普通に握手してしまう。
アクアンダは大きく口元を歪めた。

 「では、ようこそ親衛隊へ。
  歓迎します、ジラ・アルベラ・レバルトさん」

握手は契約成立の証。
ジラが気付いた時には、もう遅い。
アクアンダは外見からは想像出来ない力で、確り彼女の手を握って離さない。

 「あのっ……」

 「御安心下さい。
  一度限等と、吝嗇(けち)な事は申しません。
  成功するまで何度でも、フォローしましょう。
  何度でも。
  勿論、アフター・ケアも万全です。
  挙式、出産、子育ても、確りサポート致します」

自信満々に言い切るアクアンダを見て、そこまでしてくれるなら、警備課に居続けるより、
良いではないかとジラは思った。
ただ、それで素直に頷くのは、余りに現金過ぎるのではと、体面を気にして、即答は出来ない。
妙な所で見栄っ張りなのが、ジラ・アルベラ・レバルトと言う女だ。

438:創る名無しに見る名無し
14/06/03 20:08:13.91 UJsa2gJ7.net
アクアンダは全て読み取った上で、自ら告げる。

 「―ジラさんにも、お時間が必要と存じます。
  正式な返答は、入隊式の出欠を以って判断しますので、是ならば出席の旨を、
  非ならば欠席の旨を、期日までに御連絡下さい。
  病気や怪我等で、已む無く欠席する場合は、後日別個に入隊式を執り行いますので、
  速やかに御報告頂けると助かります」

彼女には、ジラは辞退しないと言う確信があった。
果たして、ジラは3月の入隊式に予定通り出席し、親衛隊として活躍する事になる。

439:創る名無しに見る名無し
14/06/04 18:32:13.38 s+jdTo+x.net
もう一人の精霊魔法使い


第六魔法都市カターナ ペダン地区にて


南東部が海に接しているカターナ市の中でも、中央区より北西にあるペダン地区からは、
真面に海は望めない。
しかし、時折沖合いから吹き付ける、強い寄せ風は、潮の香りを街に運んで来る。
誰が呼んだか、香(かぐわ)いの街。
唯一大陸には、海に慣れない者が多いので、潮の香りが苦手で、海辺に近付くのも、
このペダン地区に寄るのが、精々と言う物は少なくない。
内陸部なので、他の地区より蒸し暑く、過ごし難いとされるが、特殊な環境を好む一部の使い魔と、
その主人達には、代え難い土地であり、街中では希少な使い魔を多く見掛ける。

440:創る名無しに見る名無し
14/06/04 18:41:24.20 s+jdTo+x.net
旅の冒険者コバルトゥス・ギーダフィは、このペダン地区で若い女性を伴って歩いていた。
精霊魔法使いのコバルトゥスは、カターナ地方を甚く気に入っている。
他地方と比較して、やや共通魔法の支配が緩く、手付かずの自然が多く残されている為に、
精霊が豊富で、その力も強い。
精霊魔法使いには、住み良い所だ。
住民も明朗快活で、細かい事は気にしない。
何より若い女性が薄着と言うのが良い。
他地方とは違い、カターナの女性は露出を躊躇わず、体の線が出る事も厭わない。
寧ろ、積極的に見せ付ける。
それに他地方の出身者も触発されるのか、カターナでは開放的な気分になる者が多い。
これは事実として、結婚率と合計特殊出生率に表れている。
ブリンガー、ティナーに次いで、未来に大きく発展する都市は、カターナと言われている。

441:創る名無しに見る名無し
14/06/04 18:48:10.01 s+jdTo+x.net
通りを歩いていたコバルトゥスは、見知った顔に目を留め、「おっ」と小さく声を上げる。

 「やー、先輩!」

街路樹の陰で憊(へば)っている男に、コバルトゥスが呼び掛けると、彼は気怠そうに顔を上げた。

 「おお、コバギ……」

 「どしたんスか?
  元気無いッスねェ」

 「この暑い中、お前は平気なのか?」

どうやら男はカターナの暑さに、相当参っている様だ。
だらし無く、長袖の上着の釦を数個外して胸元を開け、額から流れ落ちる汗を、何度も拭っている。

 「はは、俺には『魔法』がありますからね」

コバルトゥスは精霊魔法使いと言う事を、他人には隠している。
故に、「魔法」と含みを持たせた言い方をした。
先輩と呼ばれた男の方も、事情は知っているので、追究はしない。

 「暑い暑いって言いながら、何で先輩は厚着なんスか?」

 「予定外だったんだよ。
  元々カターナに寄る気は無かったんだ。
  でも、少し用事が出来てな」

 「はぁ、大変ッスねー」

全く他人事の様に、同情心の欠片も無く、コバルトゥスは先輩を遇った。

442:創る名無しに見る名無し
14/06/05 18:53:05.49 d/nspWEr.net
先輩は眉を顰めて、少し不機嫌そうな表情になるも、特に突っ掛かったりはせず、
コバルトゥスの隣の女性を一瞥して、問い掛ける。

 「所で、その人は?」

 「この街で出会った、ナカトワさんッス」

よく焼けたカラメルの肌に、薄いサマードレスのみでは到底隠し切れない、豊満な肉体。
コバルトゥスの好みに、よく合致した美女。
ナカトワと先輩は目を合わせると、互いに軽く会釈する。

 「程々にな」

先輩はコバルトゥスに視線を移し、呆れた様子で告げた。
ナカトワは意味が解らず、小首を傾げる。
妙な間が空いた後、コバルトゥスはナカトワに目を遣った。

 「行こうか……」

 「ええ」

2人が立ち去ろうとした時、コバルトゥスの肩を撫でて、引き止める者があった。

 「ん、何スか?」

先輩の手にしては華奢で、滑々した、まるで女性の様な感触だと、コバルトゥスは認める。
勿論、直ぐに先輩とは別人の物だと気付いた。

443:創る名無しに見る名無し
14/06/05 18:55:58.56 d/nspWEr.net
振り返ったコバルトゥスは蒼褪める。
頬に人差し指が刺さっているのも、気にする余裕が無い程に。

 「よっス、『土精<コボルト>』ちゃん」

そこに居たのは、褐色の肌に白い刺青を入れた、背の高い女性。
脚の長い、抜群のプロポーションは、スーパー・モデルの様。
限り無く白に近い、長い金髪を編み込んで垂らしている。
髪色は脱色しているのか、根元は色が濃い儘だ。
見た目、年齢は20代中頃〜後半位。
チューブトップにホットパンツ、素足にヒールの低いサンダルと言う、露出の高い格好で、
両手には薄い革製の白手袋を嵌めている。
派手なヘアピンに、イヤリング、ネックレス、腰にはチェーン、服の各所にはバッジを付けて、
過剰な程の装飾を身に纏う。
暴力的なまでの存在感を放つ、ナカトワが霞んでしまう程の容貌。

 「固まっちゃって、どーしたの?
  久し振りだねェ〜。
  もしかして、アタシの顔、忘れちゃった?」

 「グ、グランスール……さん……」

彼女は眩しい笑顔で、コバルトゥスの腕を取ると、ぐっと体を押し付ける。

 「嫌ぁねー、そんな余所余所しい態度しちゃって!」

隣のナカトワは目に入っていない様だ。

444:創る名無しに見る名無し
14/06/05 19:00:34.79 d/nspWEr.net
ナカトワは不機嫌な顔になって、コバルトゥスに尋ねる。

 「誰、この人?」

 「ああ、彼女は―」

コバルトゥスが答えようとすると、グランスールもナカトワに目を向けた。

 「何、この人?」

グランスールは自然な動作で、肩を組む様にコバルトゥスの首に片腕を回して、耳元で囁く。

 「一寸、グランスールさんは黙ってて」

コバルトゥスの背は1身に僅かに届かない位だが、決して低い方ではない。
寧ろ、平均的な男性よりは高身長だ。
所が、グランスールはヒールの分を差し引いても、猶(なお)彼より背が高い。

 「あっ、そんな言い方するんだぁ……。
  このアタシに向かって?
  へー、そうなんだぁ……」

コバルトゥスが迷惑そうな顔をすると、グランスールは益々調子に乗った。

 「コボちゃん、そうやって何人女を泣かせれば気が済むの?
  今まで捨てて来た女を数えてみなさい。
  ほら、白状しなさいよ」

 「好い加減にしてくれよ!
  コボルトとか、コボちゃんとか、そんな呼び方した事、今まで一度も無かっただろ!?」

独り蚊帳の外に置かれたナカトワの目付きが、徐々に険しくなって行く。

445:創る名無しに見る名無し
14/06/05 19:03:38.17 d/nspWEr.net
グランスールは、お構い無しにコバルトゥスから離れない。
ナカトワに当て付ける様ですらある。

 「所でさ、コバルトゥス……、あなた未だ夜は独りで眠れないの?」

その一言で、コバルトゥスとナカトワの表情が凍り付く。

 「そ、そんな訳……」

 「アタシに隠し事しようったって無駄無駄。
  あなた何も変わってないのね」

グランスールが意地悪く笑うと、ナカトワは徐にコバルトゥスから距離を取った。

 「あっ、どうしたの?」

コバルトゥスが慌てて声を掛けると、ナカトワは憤然とした表情で告げる。

 「はぁーあ、紐付きだとは思わなかったわ。
  残念、さようなら」

 「バイバーイ」

グランスールはコバルトゥスに抱きついた儘、去り行くナカトワに手を振って見送った。

 「ま、待って……!
  もう、放して下さいよ、グランスールさん!」

コバルトゥスが呼び止めても、ナカトワは振り向かないし、グランスールも離れない。

446:創る名無しに見る名無し
14/06/05 19:05:14.95 d/nspWEr.net
獲物を逃してコバルトゥスが項垂れると、グランスールは漸く彼を解放した。

 「どう言う積もりなんスか!?」

牙を剥くコバルトゥスだが、グランスールは悪びれもしない。

 「悪い男に捕まり掛けてる、可哀想な女の子を助けたんだけど?」

 「グランスールさんには関係無いっしょ!」

 「嫌だわ、コバルトゥス。
  昔みたいに、『お姉ちゃん』って呼んでも良いのよ?」

飄々とした掴み所の無い態度で、矛先を躱す。

 「い、言わねーよ!」

 「あら、何て口の利き方。
  恩知らずは嫌われるわよ。
  それとも……駄々捏ねちゃって、可愛がって欲しいの?」

コバルトゥスは年甲斐も無く、良い様に転がされている。
上手い返し方が分からず、彼は歯噛みして悔しさを堪えた。

 「久し振りに逢ったんだからさ、積もる話を聞かせて欲しいなー」

 「せ、先輩!」

困りに困り果てたコバルトゥスは、先程の先輩を頼った。

447:創る名無しに見る名無し
14/06/06 19:01:40.46 xPr7Gss4.net
コバルトゥスがグランスールを振り払って駆け寄ると、先輩は無気力に反応した。

 「どうした?
  暑いから、余り騒がしくするなよ」

 「た、助けて下さい!」

コバルトゥスは先輩の陰に隠れて、グランスールから逃れようとする。
先輩はグランスールとコバルトゥスを交互に見て、深い溜め息を吐いた。

 「まーた女か……。
  お前、好い加減にしろよ」

コバルトゥスは過去に何度も、女絡みでトラブルを起こしている。
先輩が呆れると、コバルトゥスは必死に弁明した。

 「ち、違います!
  確かに、女ッスけど、そうじゃなくて、今回は―」

 「コバルトゥス、先輩って?」

グランスールは先輩の後ろのコバルトゥスを睨み、詰め寄って来る。

 「せ、先輩、何とかして下さい!」

コバルトゥスは必死に先輩の背中を押して、矢面に立たせた。

448:創る名無しに見る名無し
14/06/06 19:05:55.35 xPr7Gss4.net
先輩は困り顔で、背の高いグランスールを見上げ、恐る恐る尋ねた。

 「一体どうしたんですか?」

 「どうしたも、こうしたも、あなたは何?
  人に訊くなら、先ず自分から名乗ったら?」

特に強い口調ではなく、当然の様に言われた物だから、先輩は素直に従う。

 「僕は旅商をしている、ラビゾーと言います。
  彼とは数年来の付き合いです」

グランスールは驚きを顔に表し、暫し先輩を凝視した。
先輩の方も、彼女の肢体を凝視する。

 (この文様は……)

先輩はグランスールの蔓草模様の刺青を観察していた。
刺青自体は、唯一大陸では珍しい物ではない。
魔法効果を期待して、全身に彫る者も居る。

 (『伝統文様<トラッド・パターン>』?)

グランスールの刺青は、古式の精霊魔法の物。
蔓草に似た文様は、「魔力を集めて身に纏う」呪文。
先輩は魔法資質には劣るが、共通魔法の知識は深い。
トラッド・パターンはファッションとして使われる事もあるが、グランスールの文様は流行物とは異なる。
先輩は刺青が「精霊魔法の呪文」とまでは判らなかったが、共通魔法の文様とは似て非なる事から、
これは精霊魔法の物ではないかと、当たりを付けていた。
そして、精霊魔法使いコバルトゥスの顔見知りと言う事は―……。

449:創る名無しに見る名無し
14/06/06 19:08:19.67 xPr7Gss4.net
一方、グランスールは先輩の魔法資質が低いと見抜いて、反応に困っていた。
精霊魔法使いは魔法資質を重視する。
それは精霊を理解するのに、欠かせない物だから。
逆に言えば、魔法資質の低い者は、侮られる。
コバルトゥスが連(つる)むにしても、そう言う人物を慕うとは、思えなかった。

 「ええと、アタシはグランスール。
  コバルトゥスの姉です」

成る程と、先輩は納得して独り頷く。
姉弟ならば、恐らくコバルトゥスと同じ精霊魔法使いなのだろうと。
所が、コバルトゥスは猛反発した。

 「違いますよ、先輩!
  騙されないで!
  グランスールさんは身内じゃないッス!」

 「えっ、違うの?
  だって、彼女も精霊―」

先輩が「精霊魔法使い」と言い掛けると、今度はグランスールが反応する。

 「ラビゾーさん、精霊が判るんですか?
  でも……」

魔法資質を持つ者は、相手の魔法資質の高低が判る。
逆に、魔法資質の低い者は、魔力が捉えられない為、魔法に関しては盲者同然。
グランスールの見立てでは、先輩は能力が低過ぎて、精霊が判らない筈。
共通魔法使いであれば、尚更だ。

450:創る名無しに見る名無し
14/06/07 17:57:00.37 8/tG3YRa.net
皆の意見が交錯するので、先輩は自ら場を整えに掛かった。

 「まあ、落ち着きましょう。
  取り敢えず、順番に話を。
  先ずは……コバギ、彼女が姉さんじゃないなら、何なんだ?」

 「えっと……」

コバルトゥスが答えようとすると、グランスールが鋭い目付きで牽制する。
精霊魔法は、共通魔法社会では外道魔法扱い。
故に、その使い手と言う事は、容易には他人に明かせない。
コバルトゥスは慎重に言葉を選び、先輩の質問に答えた。

 「昔、お世話になった人です……。
  俺が駆け出しの頃、色々面倒見て貰って……」

当時、コバルトゥスは15にも成っていなかった。
彼が冒険の以呂波を教わったのは、全てグランスールから。
更に、精霊魔法の師も彼女である。
今のコバルトゥスはグランスール無くしては無かった。
幼さ故の失態や甘えも知られており、その為、未だに頭が上がらないのだ。


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