ロスト・スペラー 8 at MITEMITE
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300:創る名無しに見る名無し
14/04/27 20:27:02.98 FvkqKA9I.net
入り口から約1巨、緩やかな下り坂の先には、やや広い空間があった。
天井まで2身弱、床面積は3身平方と言った所。
コバルトゥスはラビゾーから渡された水晶―精霊石を取り出し、前方に差し出しながら、
中央に向かった。

 (精霊達よ、応えろ。
  主の帰還だぞ。
  再び、この地に満ちる時が来たのだ)

心の中で呼び掛けると、無数の浮精が湧き出す。
初めコバルトゥスは満足気に頷いていたが、時間が経つに連れて、精霊が予想以上に、
次々と湧き出して来るので、驚いた。
大地の回復は早いだろう。
コバルトゥスは精霊石を土の中に埋めると、ラビゾーの方に振り向く。

 「終わった?
  それで良いのか?」

 「はい、帰りましょう」

2人は短い言葉を交わし、入り口に戻った。

301:創る名無しに見る名無し
14/04/28 20:21:09.29 eFozXZ++.net
外は雷鳴轟く、激しい俄か雨だった。
洞窟に入る前―つい数点前まで、快晴だったのに、何時の間に雨雲が出て来たのか?
参ったなと困り顔になるラビゾーとは対照的に、コバルトゥスは精霊が戻った証と内心で喜ぶ。
2人は雨が止むまで、洞窟の入り口で待つ事にした。

 「何時頃、彼女は目覚めるだろう……」

何気無く、点(ぽつ)りとラビゾーが零す。

 「何スか?
  先輩、惚れたんスか?」

女だった自分は自画自賛する程の美少女だったので、朴念仁のラビゾーが心動かされるのも、
男なら仕方無い事と、コバルトゥスは奇妙な優越を感じ、揶揄い半分に尋ねた。

 「どうだろうな」

焦って否定されるかと思いきや、曖昧な答が返って来たので、コバルトゥスは反応に困る。
やはり自分が女だった間に、何かあったのかと勘繰りたくなるが、どうせ教えてはくれないだろうと、
無駄な事は考えない様にして、最初の質問に話を戻した。

 「……砂漠が緑になる頃には」

 「それって何時になる?」

 「10年、20年?
  もっと先かも知れないッスね。
  何時とは言えないッス」

そう答えた所で、コバルトゥスは気付いた。
精霊が目覚めても、ラビゾーには何も分からないではないか?
魔法資質の低い彼は、「彼女」の美しい姿を見る事は出来ないし、話が出来る訳でもない。

302:創る名無しに見る名無し
14/04/28 20:24:53.87 eFozXZ++.net
何も分からない筈なのに、ラビゾーは満足気だ。

 「先輩、嬉しそうッスね」

コバルトゥスに指摘されると、ラビゾーは意外そうな顔をした。

 「そんな事は……そう見えるか?」

ラビゾーはコバルトゥスの理解を超えている。
魔法資質の低い彼が、精霊に関わって、一体何の得があるのだろう?
況して、自分の様な精霊魔法使いと一緒に居れば、劣等感で惨めになるだけではないか……。
自己満足にしたって、もっと目に見える結果が欲しくならないのだろうか?
自分の行いが、虚しくならないのだろうか?

 「先輩は何で、こんな事するんスか?」

 「『こんな事』って?」

 「精霊を戻すとか」

コバルトゥスの純粋な疑問に、ラビゾーは低く唸り、少し考えて、こう言った。

 「例えば―コバギ、お前が自然を守ろうとするのは何故だ?」

 「何故って言われても……。
  それが受け継いだ使命だから……?
  とにかく、『俺は』精霊魔法使いなんで、精霊とか自然とか、助けて損は無いッスよ」

 「精霊魔法使いじゃなかったら、守らなかったと?」

 「ええ、はい。
  共通魔法使いに生まれてたら、全然考えもしなかったと思いますけど」

コバルトゥスが迷わず答えたので、ラビゾーは苦笑する。

303:創る名無しに見る名無し
14/04/28 20:28:39.09 eFozXZ++.net
馬鹿にされたと感じ、コバルトゥスは剥れた。

 「何なんスかね?」

 「確かに、そうかも知れない。
  だけど、何て言うかな……、お前にも、そう言う所はあると思うんだ。
  『使命』だとか、損得だけじゃないと思うんだよ」

コバルトゥスにはラビゾーが何を言っているのか、理解出来ない。
恐らくはラビゾー自身も理解していないだろうから、それは当然なのかも知れない。
それなのに……彼には何も分からない筈なのに、何でも知っている様な気がするのは、何故だろう?

 「先輩は何と無く、親父に似てる気がするッス」

 「へー、どこが?」

 「そう言われると、上手く言えないんスけど……」

コバルトゥスはラビゾーを凝視し、在りし日の父を思い浮かべて、俤を重ねてみる。
コバルトゥスの父は自ら多くは語りたがらない、無口な男だった。
そこは似ているかも知れない。
だが、能力があり、威厳に満ちた、頼れる父親だったと思う。
端整な容姿で、ダンディズムに溢れ、母も父を慕っていた。
それに比べて、目の前の男は……。

 「ああ、やっぱり似てないッスわ。
  全然違いました」

 「何だよ、お前」

ラビゾーは呆れて小さく笑う。
既に雨は止んでいた。

304:創る名無しに見る名無し
14/04/29 19:35:59.32 V562S0dh.net
罪から逃れて


第五魔法都市ボルガ ドッガ地区にて


男は罪に怯えて、逃げていた。
誰にも見付からない様に、狭い路地裏を通って、一直線に隠れ家へ向かう。
彼は掏摸の常習犯で、巧みな業で知らぬ間に、人の懐から物を盗む。
その他、置き引きや万引き、火事場泥棒と、とにかく「盗み」なら何でもしたが、唯一つ、
人を傷付ける「強盗」だけはしないのが誇りだった。
傍から見れば、仕様も無い誇りだが、どんな人間にも『矜持<プライド>』はあるのだ。
それが無い者は畜生にも劣る―と、彼は考えていた。
そんな彼が罪に怯えるとしたら、それは自ら禁を破った時だろう。
詰まり、彼は強盗をしてしまったのだ。
勿論、最初から計画して行った訳では無い。
彼の腕前を持ってすれば、態々罪の重くなる強盗等する必要は無い。

305:創る名無しに見る名無し
14/04/29 19:38:18.70 V562S0dh.net
不幸な事故だったのだ。
相手は見るからに呆けた老婆で、物を盗んでも気付きそうに無かった。
だからと言って、油断した訳では無いが、彼は老婆が脇に置いた小さな鞄を盗み取る瞬間を、
当人に目撃されてしまった。
奇声を上げて縋り付く老婆に驚き、力尽くで振り解くと、虚弱な彼女は簡単に転げてしまい、
ゴスンと言う鈍い音を立てて、石畳に頭を打ち付け、動かなくなってしまった。
元から逃走する積もりだった事もあり、恐怖心から即座に、その場を離れたので、
生死を確認した訳では無いが、死んでいても不思議では無い。
男は都市警察に、窃盗で逮捕された過去を持つが、殺しとなれば訳が違う。
そんな積もりは無かったと弁解しても、死なせてしまえば、殺したのと一緒だ。
彼は路地裏を駆け抜けながら、時間が戻ってくれない物かと、無意味な事ばかり考えていた。

306:創る名無しに見る名無し
14/04/29 19:40:23.44 V562S0dh.net
途中、建物の隙間から見える表通りで、検問があった。
それは事件の犯人逮捕が目的では無く、偶々行われていた物で、路地裏を走っている男には、
何の影響も無かったのだが、妄執に囚われている彼には、既に都市警察の手が回っているとしか、
思えなかった。

 (まさか、隠れ家にも先回りされている……?)

小心者が故に、悪い想像をして、足が止まる。
幾ら何でも、都市警察の手が早過ぎる事に、疑問を抱けない。
そこまで頭が回らないのだ。

 (いや、大丈夫だろう。
  きっと大丈夫に違い無い)

そう決心して、男は改めて隠れ家に向かう。
数極の迷いが、数点に感じられる。
追っ手が掛けられている。
時間が無い。
極度の緊張状態で、動悸は益々激しくなる。
それは全力で走っている所為でもあるだろうし、恐怖の所為でもあるだろう。
頭の中は真っ白で、喉に物が詰まった様に胸が苦しく、窒息してしまいそうだ。
気を失ってしまえたら、どんなに楽だろう。
真面に物を考えられない。

307:創る名無しに見る名無し
14/04/30 19:23:35.40 R8qLGbuO.net
やっと隠れ家まで数巨の所まで来て、男は礑と思い至った。
隠れ家に潜んだ所で、都市警察から逃れる事は出来ない……。
都市警察は殺人等の重犯罪では、間違い無く「追跡の魔法」を使う。
逃走経路を複雑にしたり、時間の経過や人込みに紛れる事で、効果を薄める事は出来るが、
優秀な魔導師が都市警察に所属していた場合は、余り意味が無い。
更に、こうした捜査撹乱は、逮捕された時の量刑が重くなる。

 (どうする……どうすれば良い?
  家に帰って、必要な物だけ持って、遠くに逃げるか?
  そうだ、それが良い!)

人様から物を盗む事を生業としている身。
深い付き合いの人物も居ない。
男は一旦止めた足を、再び動かした。
しかし、隠れ家まで数身、もう目に見える所まで来て、又も足を止める。
身形の良い、見知らぬ男達が屯している……。

 (奴等は何だ!?)

男は焦った。
彼等は都市警察で、自分を待ち伏せていると思ったのだ。

308:創る名無しに見る名無し
14/04/30 19:26:22.40 R8qLGbuO.net
勿論、そんな訳は無い。
犯行現場に居合わせてもいないのに、事件が起きてから半角も経たない内に、
犯人が誰か突き止めて、隠れ家まで割り出して、先回りする等、ボルガ市の都市警察は、
どれだけ優秀なのだろうか?
過大評価にも程がある。
あの男達は普通の会社員だ。
知り合い同士が偶々道端で出会い、世間話に花を咲かせているに過ぎない。
だが、真面でない精神状態の男に、そんな常識的な思考は出来ない。

 (畜生、駄目か!)

男は隠れ家に寄るのを諦め、引き続き路地裏を走って、出来るだけ現場から離れようとした。
最早ドッガ地区内に留まる事は出来ない。
少なくともボルガ市からは離れる必要がある。

309:創る名無しに見る名無し
14/04/30 19:28:36.51 R8qLGbuO.net
男は徒歩で、ボルガ市の南東端、バンズ地区まで移動した。
公共機関を利用しなかったのは、衆目に触れるのが、恐ろしかった為だ。
途中、何度も警官を見掛けては、捕まるのではないかと、怯えていた。
バンズ地区に着いても、心は全く落ち着かず、人目を避ける様に、裏通りを歩き続けた。

 (どこまで逃げれば良い?
  何時まで逃げ続ければ良い?
  カターナまで行けば、俺は助かるのか?
  誰も知らない所で、何も知られず暮らしたい……)

時々、老婆は死んでいないのではと、虚しい希望を抱いては、有り得ないと否定する。
頭を打って、動かなくなったとは言え、息が止まるのを見届けた訳では無い。
強盗の罪だけで捕まるなら、それでも構わない。
しかし、現実は甘くないだろう……。
十年以上の獄中生活より、人殺しと謗られる事の方が恐ろしい。
そんな積もりは無かったのに……。
言い訳めいた事を考えながら、男が歩いていると、黒いローブの人物と衝突した。
余計な事ばかり考えて、確り前を見ていなかった。

 「あっ、済んません……」

 「待ちなさい」

顔を見ようともせず、謝罪も好い加減に、さっさと立ち去ろうとすると、黒いローブの人物は、
彼を呼び止める。

310:創る名無しに見る名無し
14/05/01 21:21:14.67 w8tmfzMi.net
自分の置かれた状況を理解しているなら、無視して立ち去るべきなのだが、男は足を止めて、
振り返ってしまった。
殆ど反射的な物で、その行動に就いて、深く考えもしなかった。

 (何なんだ、こいつ?
  そんな暇は無いってのに!)

相手をする必要は無いのに、どうしても対応しないと行けない気になっている。
男の頭が悪いだけなのか、それとも……。
黒いローブの人物は、フードで頭部を覆っていて、素顔を窺う事は出来ない。

 「何なんだよ、あんた!
  俺は急いでるんだ!」

男が苛立ちを打つけると、黒いローブの人物は低い声で―しかし、よく通る声で、問い掛ける。

 「お前は大変な事を仕出かしてしまったな?」

男は体温が急激に上がり、多量の冷や汗を掻いて、頭が真っ白になって行くのを感じた。

 「ま、魔導師?」

このローブの人物は都市警察に所属している魔導師で、自分を逮捕しに来たと思ったのだ。

311:創る名無しに見る名無し
14/05/01 21:31:58.56 dVTEa1p5.net
だが、男に更なる逃走を続ける気力は残っていなかった。
魔導師に見付かっては終わりだ。
彼は崩れる様に、両膝を突く。

 「観念します……」

項垂れて黙り込んだ男に、黒いローブの人物は言う。

 「罪を悔いているのなら、お前に機会を与えよう」

 「はっ?」

機会とは何なのか?
男は戸惑い、頓狂な声を上げた。
数極して、黒いローブの人物は魔導師ではないのではないかと、漸く気付く。

 「あ、あんた、何者なんだ……」

男は顔を上げて、フードの下の表情を窺った。
嫌に血色の悪い男だった。
人形の様に表情は無く、暗い瞳は底の知れない奈落の様。
それともフードの陰になっているから、そう見えるだけなのか……。

312:創る名無しに見る名無し
14/05/01 21:35:21.72 dVTEa1p5.net
黒いローブの人物は淡々と答える。

 「お前達が外道魔法使いと呼ぶ存在だ」

 「げ、外道魔法……。
  俺に何を……」

 「言っただろう。
  機会を与えてやると」

外道魔法とは非合法で、忌むべき物。
それしか知らない男は、気味悪がる。

 「恐れる必要は無い。
  お前に危害を加える意図は無いし、お前に何を望む事も無い」

内容からして、恐らくは男を安心させる意図だったのだろうが、抑揚の無い無感動な声では、
一層不信感が増すだけ。
両者は暫し沈黙して、睨み合う。

 「……き、機会とは何だ?」

どうせ自分は追われる身。
聞くだけ聞いてやろうと、男は肚を括った。

313:創る名無しに見る名無し
14/05/02 20:14:40.04 JGRaMgVb.net
外道魔法使いは変わらない調子で、男に言う。

 「お前の罪を取り消してやろう」

 「取り消す!?」

男は目を剥いて驚いたが、少し間を置いて、冷静になる。

 (……いや、そんな都合の好い事、出来る訳が無い)

そして、怒気を孕んだ声で、言い返した。

 「揶揄ってるのか?
  あんた、俺が何をしたのかも知らない癖に、そんな……。
  馬鹿にするなよ!」

外道魔法使いは怯む素振りも、悲しむ素振りも、失望する素振りも見せない。
全く何の感情も無いかの様だ。

 「信じるも信じないも勝手だ。
  だが、罪に怯えて逃亡生活を続けるのは、苦しくないか?」

男は声を詰まらせる。
確かに、それは辛い……が、外道魔法使いを信用するか否かとは、別の問題だ。

314:創る名無しに見る名無し
14/05/02 20:15:23.39 JGRaMgVb.net
そんな旨い話が、偶然転がり込んで来る訳が無い。
弱った人の心に付け込むのは、悪人の常套手段だ。
男は強い猜疑心に囚われていたが、同時に外道魔法使いを信じたい気持ちも、僅かながらあった。

 「罪を取り消すって、どうやるんだよ。
  取り消したら、どうなるんだ?」

 「お前が追われる事は無くなる」

外道魔法使いは、「どうやるか」には答えず、「どうなるか」にのみ応じた。
これは『悪魔の取引<ディール・ウィズ・ザ・デビル>』と言う奴ではないかと、男は訝る。
悪魔の取引とは、お伽噺の悪魔との契約の事で、言った内容は守るが、忠心からの誓いではなく、
小賢しい理屈で覆されたり、望まぬ形で叶えられたりする物。

 「……お前の身に何か起こる訳では無い。
  罪が罪でなくなるだけの事だ」

男が長考していると、警戒心を読み取った様に、外道魔法使いが説明を始めた。
男は益々構えて、問い掛ける。

 「そんな事をして、あんたに何の利益が?」

 「憐れんだのだ。
  お前は後悔している。
  罪を認めて悔いている者には、救いがあっても良いだろう」

本当に同情だけなのかと、男は怪しんだ。

315:創る名無しに見る名無し
14/05/02 20:17:52.78 JGRaMgVb.net
外道魔法使いは、又も彼の心を読んだ様に、続ける。

 「但し、人の心は変わる物だ。
  今は悔いていても、時が経てば、無かった事の様に、忘れるかも知れない。
  だから、二度と罪を犯さないと誓うなら、お前の罪を無かった事にしよう」

そら来たと、男は内心で笑った。
やはり悪魔の取引だった。

 「誓いを破ったら、どうなる?」

 「知る必要は無い。
  誓いを破る積もりが無いなら、関係の無い事だ」

外道魔法使いは誓いを破った時の罰について、回答を避けた。
単に意地が悪いのか、それとも筆舌に尽くし難い罰なのか……。
どうせ破滅的な運命を辿る事になるのだろうと、男は理解する。
しかし、現状も決して良い物では無い。
逃げ回るよりは、伸るか反るかの博打に出ようと、決心する。

 「やれる物なら、やってみろよ。
  本当に罪を無くせるなら、二度と悪い事は止めてやる。
  堅気に戻ってやるよ」

男は嫌に強気になって、外道魔法使いに告げた。

316:創る名無しに見る名無し
14/05/03 20:01:27.43 EXBG0MWQ.net
外道魔法使いは笑ったり喜んだりはせず、淡々と応じた。

 「違えるなよ」

バサッとローブが翻る。
何かされるのではと、男は両目を閉じたが、外道魔法使いは、特に何をした様子も無く、
忽然と姿を消していた。
男は呆然と立ち尽くす他に無かった。
ややして、彼は自分が未だ、老婆から盗み取った鞄を、大事そうに抱えている事に気付いた。

 (こんな物の為に……!)

腹立たしくなって来た物の、投げ捨てる訳にも行かず、男は又も立ち尽くす。

 (『二度と罪は犯さない』……)

迷った末に、外道魔法使いとの約束を思い出して、男はドッガ地区へ向かった。

317:創る名無しに見る名無し
14/05/03 20:04:23.74 EXBG0MWQ.net
本当に罪は消えたのか?
それを確かめる為にも、男はドッガ地区に帰らねばならなかった。
帰り道は、こそこそ路地裏に隠れたりせず、堂々と表通りを選ぶ。
一度、外道魔法使いを魔導師と勘違いし、逮捕を覚悟した事で、男は緊張の糸が切れている。
都市警察に捕まったとしても、罪を犯したのは事実なので、それは仕方の無い事だと思っていた。
道中、男を気に留める者は無かった。
都市警察の巡査も見掛けたが、男を呼び止める事は無かった。
……当然かも知れない。
彼はボルガ市民800万の1人に過ぎないのだから。

318:創る名無しに見る名無し
14/05/03 20:11:15.47 EXBG0MWQ.net
男は自分が強盗を働いた現場に戻った。
犯人は現場に戻ると言うが、その通りなのだなと、彼は他人事の様に感じる。
そこは何時も通りの、人が行き交う道端で、数角前に事件が起こった場所とは、思えなかった。
都市警察が現場検証を行っているとの、男の予想は外れた。

 (何故だ?
  大した事件じゃないって、判断されたのか?)

本当に罪が消えたのかと、男は驚嘆する。
正か、事件その物が無くなったのかとも考えた……が、直ぐに半信半疑に返った。
これから、どうするべきなのか?

 (『二度と罪は犯さない』……)

男は自分が持っている鞄に目を落とした。

 (これは持ち主に返そう)

そう決心して、男は鞄の中身を検め、身元が判る物が無いかと漁る。

319:創る名無しに見る名無し
14/05/04 19:03:25.76 0z/eS0ul.net
掏摸の性か、男は先ず老婆の財布が気に掛かった。
この期に及んで浅ましいと思いつつ、彼は幾ら入っているのか確認する。
しかし、現金は1000MG紙幣が数枚と、多量の小銭のみ。

 (これが人の命に見合う額か?)

男は益々、鞄を盗んだ事を後悔した。
落ち込んだ気分になり、他に何か無いかと探すと、身分証が見付かった。

 (ドーミズ・タカフネ……魔法暦422年7月20日生まれ。
  ボルガ市ドッガ地区、南カムナガ通り1532番)

男は身分証にある住所を訪ねに向かう。
直接顔を合わせずとも、最寄の交番に行けば済む事だが、流石に盗んだ鞄を落し物として、
都市警察に届ける勇気は無かった。

320:創る名無しに見る名無し
14/05/04 19:05:28.34 0z/eS0ul.net
そう何針も探さない内に、身分証の住所は見付かった。
家の前の小さな門には、「ドーミズ家」と彫られた表札が掛かっている。
ここに間違い無いのだが、今一つ踏み込む勇気が持てず、男が門の前で立ち尽くしていると、
横から中年の女性に声を掛けられた。

 「家に何か用ですか?」

声の主は、背の低い小太りした小母さんで、人柄の良さそうな印象を受ける。
年齢は40〜50歳台と言った所。
男は慌てて対応した。

 「あっ、お家の方ですか?
  そ、その……、この鞄を……」

彼は鞄を女性に差し出す。
戸惑った表情で、中年の女性が受け取りを躊躇ったので、男は加えて説明した。

 「失礼ながら、中身を拝見しました。
  恐らく、お祖母さんの物だと思うんですが……」

 「ああ、これは有り難う御座います。
  拾って下さったんですね」

 「ええ、まあ、はい」

礼を言われた男は、彼女は何も知らないのかと、複雑な気持ちになる。

321:創る名無しに見る名無し
14/05/04 19:07:18.90 0z/eS0ul.net
中年の女性は鞄を受け取り、深く頭を下げる。
男は彼女に尋ねた。

 「そ、それで、お祖母さんは?」

どう考えても、余計な一言だったが、確かめずには居られなかった。
中年の女性は低く小さな声で、呟く様に言う。

 「母は亡くなりました」

 「亡くなった?」

 「はい。
  今日午前中に、母が道で倒れていたと、警察から連絡がありまして。
  母も年が寄って、体が弱っていた物ですから、転んだ拍子に頭を打ったのではと……」

 「じ、事故ですか?」

 「最近では歩くのも辛いらしくて、余り無理しない方が良いんじゃないのって、
  何度も言ったんですけどね……。
  どうしても出掛けると言って聞かなくて……。
  年が寄ると頑固になる物ですから……」

彼女は喋っている内に、祖母の事を思い出したのか、涙声になって口元を押さえた。

 「す、済みません……。
  余計な事を聞いてしまって……。
  お悔やみ申し上げます」

 「いえ、あ、お礼を―」

 「と、途んでも無い」

男は罪悪感に打ち拉がれ、居た堪れなくなって、その場を離れた。
人を傷付ける事だけは、決してすまいと誓っていたのに……。

322:創る名無しに見る名無し
14/05/05 18:47:54.34 QKgsvUIU.net
中年の女性と老婆の事を思い、男は激しく後悔した。
この苦しさを吐き出すべく、彼は最寄の交番に向かう。

 (やはり『罪』には『罰』が必要なんだ……)

掏摸を生業にしていても、性根は小心者の善人。
如何なる理由があろうと―故意であろうと、無かろうと、殺人は許されて良い物では無いと、
信じているのだ。
交番に入った男は、駐在員に声を掛けた。

 「済みません、今日は」

 「どうしました?」

応じたのは、若い警官。
男は中々勇気が出せず、口を一文字に固く結び、無言で立ち尽くす。

 「どうかしたんですか?
  何か、お困りですか?
  落し物?
  それとも道に迷いましたか?」

若い警官は改めて、柔らかい口調で問い掛ける。
男は覚悟を決めて、険しい表情で、遂に告白した。

 「人を殺してしまいました。
  俺を逮捕して下さい」

突然の事に、若い警官は目を丸くして言葉を失い、硬直する。

323:創る名無しに見る名無し
14/05/05 18:51:35.59 QKgsvUIU.net
暫くして、正気に返った警官は、慌てて共通魔法で、巡回中の上司と連絡を取る事にした。

 「少し待って下さい。
  そこを動かないで」

片手の平を耳に押し当て、閉じた空間に音が響くイメージで、思念の遣り取りをする。
目は男を睨んだ儘だ。

 「あ、ベイさん、ハイデです。
  えーと、殺人犯が自首しに来たんですけど……。
  ……はい、交番です。
  ……はい、……はい。
  あ、未だです、済みません……。
  で……、どうすれば?」

逃走しない様に、警戒しているのだろう。
男は不安な面持ちで、反応を待った。

 「……えっ、俺が?
  ……はい、……はい、……分かりました。
  やってみます……。
  早く帰って来て下さい、はい」

若い警官は通信を終えて、大きな溜め息を吐くと、男に対して言う。

 「取り敢えず、話を聞きましょう。
  どうぞ、そこの椅子に座って下さい」

男は言われる儘、交番の中の椅子に腰掛けた。

324:創る名無しに見る名無し
14/05/05 18:58:11.99 QKgsvUIU.net
若い警官はテーブルを挟んで、男の対面に座る。

 「先ず、お名前と年齢、住所を伺えますか?
  身分証とか、お持ちでしたら、見せて頂けると助かります」

 「コイド・ソーダイ。
  身分証は……今は持ってません」

 「コイドのソーダイさん……。
  えーと、ソーダイさん、その……『人を殺した』と言うのは、何時頃、どこで?」

 「今朝、お婆さんを……、ここから2つ北の通りで……」

 「サッカバ通りの事ですか?」

 「通りの名前までは……知りません……」

若い警官の態度は事務的で、慣れない事に手間取っている様子だ。
彼は恐る恐ると言った風に、男に尋ねる。

 「……もしかして、あれですかね?
  今朝、お婆さんが転倒して亡くなられた事件……と言うか、事故があったんですよ」

男の心臓は早鐘を打った。
状況は同じ。
人死にが他に起こっていないなら、それとしか考えられない。

 「そ、それです……多分」

若い警官は難しい顔で首を捻り、何度も唸る。

325:創る名無しに見る名無し
14/05/06 20:14:02.70 4AgJL9uK.net
数極後、若い警官は眉を顰めて、男に尋ねた。

 「ソーダイさん、あなたが『殺した人』の名前、判ります?」

男は必死に、先程の身分証の名前を思い出そうとする。

 「えーと、確か……ドーミズ……タカ、ネ?
  ドーミズ・タカネ……だった、と、思います……」

若い警官は苦笑いしながら、男に言う。

 「ドーミズ・タカフネ」

 「あっ、はい、タカフネ、ドーミズ・タカフネ」

慌てて男が訂正すると、若い警官は小さく笑い、その後、再び難しい顔になって、
手持ち無沙汰にペンを回す。

 「ソーダイさん、お婆さんが倒れたと通報を受けて、私共も一応は、現場の検証や聞き込みを、
  やったんですよ。
  当て逃げ、轢き逃げは、珍しくないですからね。
  それで……言い辛いんですけど、事件性は無いと判断したんです」

男は彼が何を言っているのか、理解出来なかった。

 「いや、でも、俺が……」

 「あの時間帯、結構人が居たんですけどね。
  悲鳴が聞こえて、何事かと思ったら、お婆さんが倒れていたと。
  皆、そう言うんです。
  現場から誰か逃げたとか、そんな事は無くて、勝手に転んだみたいな……」

警官の話に、男は唖然とした。
老婆の悲鳴で、皆が振り返ったのだ。
いや、周囲の反応を気にする余裕は無かったので、本当の所は知らないが、
流石に誰も見ていない筈は無い……だろう。
「勝手に転んだ?」
違う、自分が突き飛ばして、転ばせたのだ。

326:創る名無しに見る名無し
14/05/06 20:16:22.68 4AgJL9uK.net
若い警官は男に対して、疑惑の眼差しを向ける。

 「本当に『殺した』んですか?」

 「い、いや……それは……」

男は弱った。
自分は老婆の生死を確認した訳では無い。
案外、その後も老婆は生きていて、他の原因で死んだのかも知れない。
関係無いなら良いではないかと逃避したくなる心と、それでも真実を確かめずには居られない心が、
鬩ぎ合う。
脂汗を流して硬直した男を見て、若い警官は小さく溜め息を吐いた。

 「もう直ぐ、所長が帰って来るから、続きは後で。
  昼飯は食った?」

敬語を止めたのは、公務とは無関係だと示して、緊張を解す為。

 「あ、はい、いいえ、未だ……」

 「そう。
  これも何かの縁だ。
  丼物でも奢るから、食べて気を落ち着けて」

そう言うと、若い警官は通信用の魔導機を取って、出前を頼んだ。

327:創る名無しに見る名無し
14/05/06 20:18:02.34 4AgJL9uK.net
約2点して、交番に飯屋の男が来る。

 「お届けに参りましたー」

 「あ、そこの彼です」

飯屋は男と目を合わせると、満面の営業スマイルで、彼の前に丼を置いた。

 「はい、どうぞ。
  熱いですから、気を付けて」

それを認めると、若い警官が飯屋に声を掛け、代金を支払う。

 「はい、お代」

 「……丁度ですね、どうも。
  それじゃ、失礼します。
  1角後に回収に来ますんで」

 「はい、御苦労さん」

 「お勤め、御苦労様です」

互いに慣れた遣り取りから、顔馴染みなのだろうと窺える。
男は神妙な面持ちで、箸を手に持った。

 「頂きます」

若い警官は頷くと、男を余り見ない様に、デスクに座って通りを眺める。

328:創る名無しに見る名無し
14/05/07 18:56:37.67 7wwjMbaI.net
空きっ腹に不味い物無しと言っては、飯屋に失礼だが、男は極普通の出前の卵丼に、
無上の美味を感じていた。
一口食べれば、二口目、三口目と、自然に体が動く。
体は正直と言う事だろう。
箸を置く間も無く平らげると、幾分気が楽になる。

 (警察に来たのは、間違いだったか……?
  いや、これで良いんだ。
  真相を確かめないと)

男は心内密かに覚悟を決めた。
罪を犯した分際で、その心持ちは晴れやかだった。
数針して、厳つい中年の警官が、駐在所に現れる。

 「おう、戻ったで」

 「ベイさん、お帰りなさい」

 「ハイデ、そこの彼が例のかや?」

 「そうです」

 「で、何だて?」

 「それが―」

若い警官は、時々男に目を遣りながら、中年の警官に経緯を話した。
その間、中年の警官が自分を凝視していたので、男は気が気でなかった。

 「―と、言う訳です」

事情を理解した中年の警官は、何度も頷き、男の方へ歩き出す。

329:創る名無しに見る名無し
14/05/07 18:59:11.94 7wwjMbaI.net
中年の警官は深い溜め息を吐いて、男の正面に立った。

 「ソーダイさん、初めまして。
  所長のベイです。
  早速ですけど、僕と一緒に現場に行きましょう」

厳つい風貌に似合わない、「僕」と言う一人称に、消えた訛り。
それが不気味で、男は唯々諾々と従った。

 「は、はい」

中年の警官は、若い警官に目配せする。

 「そいじゃ、ハイデ、も少し留守を頼むがや」

 「はい、気を付けて」

 「お前(みゃぁ)さんもな」

男と中年の警官は、交番を出て、老婆が倒れていた現場へ向かう。
その道中、交番から数巨離れた所で、警官は男に話し掛けた。

 「しっかし、お前さんも変わった人だのう。
  事故だっちゅうのに、自分が殺しただの……」

 「え、ああ、はい」

 「そう硬くならんでええよ。
  この話は公務とは無関係だに。
  言質取ろたぁ、思っとらんが」

恐らくは、気を遣ったのだろうが、男としては中年の警官と、特に話したい事は無かったので、
有り難迷惑だった。

330:創る名無しに見る名無し
14/05/07 19:01:25.73 7wwjMbaI.net
当たり障りの無い、弾まない会話を適当にした後、2人は現場に着く。
中年の警官は、前方の石畳を指差し、ぐるぐると円を描いて言った。

 「ソーダイさん、宜しい?
  この辺りで、お婆さんが倒れていたんです」

そこは男が老婆を突き倒した場所と、全く同じだった。

 「どうかしましたか?」

警官は男の顔色を窺う。
長年の勘で、男の動揺を読み取ったのだ。
男は勇気を出して、自白する。

 「ここで俺は、お婆さんを突き飛ばしたんです……」

 「それで?」

 「お婆さんは動かなくなって……」

 「何故、突き飛ばしたのかな?」

 「鞄を盗もうとして……、見付かって……」

 「どんな鞄?」

 「この位の」

 「ハンド・バッグ?」

 「そうです……」

中年の警官に促される儘、男は自らの犯行を自供した。

331:創る名無しに見る名無し
14/05/08 19:50:10.88 Ik8/ydTq.net
警官は少し考えると、再度男に問い掛ける。

 「……その鞄は、どこに?」

 「返しました。
  身分証が入っていたので、そこの家に」

 「中の物を盗ったりした?」

 「いいえ……」

一応、筋の通った話ではあるが、警官は難しい顔をして、こう言った。

 「でも、目撃証言が無いからね……。
  お婆さんが転んだ所を見た人は居ても、ソーダイさんを見た人は居ないからね……」

それが男には言い訳の様に聞こえる。

 「信じてくれないんですか?
  だったら、魔法を使って下さい。
  そしたら嘘じゃないって、判る筈です!」

向きになる男を、警官は宥めた。

 「そう言われても、証拠が無いと……。
  本人の証言だけでは、犯人には出来ないんですよ」

 「鞄を盗んだ!」

 「でも、何も取らずに、直ぐ返されたんでしょう?
  それじゃあ落とし物を届けたのと、何が違うんです?」

正論過ぎて、男は何も言えなくなる。

332:創る名無しに見る名無し
14/05/08 19:55:35.99 Ik8/ydTq.net
中年の警官は眉を顰めて、男に言う。

 「罪に問われないなら、別に良いじゃないですか?
  逮捕して貰わないと、不都合でもあるんですか?」

 「そ、そうじゃない……!
  もう一度、捜査し直さないんですか!?」

 「ソーダイさん、あなたが何と言っても、結論は変わらんのです。
  事件性はありませんでした。
  それで皆、納得しとるんです。
  御遺族の方々も」

 「納得って……都市警察の誇りは無いんですか!?」

事件の真相等、どうでも良いと言わんばかりの、警官の態度が気に入らず、男は激昂した。
警官も売り言葉に買い言葉で、反論する。

 「諄い人だやな!
  僕等も暇だないんです。
  好い加減にせんと、誣言で業務妨害ですよ!
  心配せんでも、証拠が出たら逮捕しますわ!
  証拠が出たらね!!」

証拠―そんな物は無い。
これが罪が消える事かと、男は憎々し気に痛感した。

333:創る名無しに見る名無し
14/05/08 19:59:11.01 Ik8/ydTq.net
警官と別れた男は、胸に晴れない靄を抱えた儘、この苦しさから逃れる術を考えていた。
どうすれば自分は許されるだろうか?
それは誰が彼を許せば良いと言う事では無く、彼自身の心の問題だった。
では、老婆の家族に、真実を告白して、許しを請うべきだろうか?

 (いや、懺悔した所で、信じては貰えないだろう。
  頭の狂れた奴だと思われるのが落ちだ。
  仮に信じて貰えたとしても、警察には俺を逮捕出来ない。
  婆さんの身内だって、不満や怒りを抱えて、俺を罵る位しか出来ない。
  何をしても、所詮は自己満足じゃないか……)

男が恐れていたのは、重罪を犯して何とも思わない、精神異常者の様な存在と、
自分が同じ存在になる事だった。
のうのうと逃げ延びて、何食わぬ顔で生きる事は、絶対に許されないと―、否、
「許されてはならない」と、固く信じていたのである。
男は外道魔法使いと会って、己が罪を取り戻す為に、再びバンズ地区へ向かった。
掏摸を生業としていても、この世には正義と真実が存在して欲しかったのだ。
その為には、自分だけが特別に許される訳には行かなかったし、
他の誰も許されるべきでは無いと思っていた。

334:創る名無しに見る名無し
14/05/09 19:09:49.07 uJ8AU5FN.net
然りとて、確実に外道魔法使いに会える方法は知らず、男はバンズ地区の路地裏を徘徊する。
徒に時は過ぎ、やがて大禍時(おおまがとき)を迎えた。
辺りは俄かに暗み、表通りからは幽かに街灯の明かりが差し込む。
外道魔法使い所か、誰とも出会さない。
この儘、重い罪を抱えて生き続けなければならないのかと、焦燥感に駆られる男に、
声を掛ける者がある。

 「どうしたのだ?」

男は大いに安堵し、振り返った。

 「あんたを探していたんだ」

声の主は例の外道魔法使い。
暗がりの中、相変わらずの無表情は、どこか怒っている様にも見える。

 「俺の罪を返してくれ」

男の頼みに、外道魔法使いは表情にこそ出さない物の、困惑する。

 「何を言うのだ?」

 「馬鹿な事だと思うだろう。
  でも、気付いたんだ。
  俺は本当は、許されたかったんだ。
  この儘だと、俺は永遠に許されない」

男は必死に訴えたが、外道魔法使いは頷かない。

335:創る名無しに見る名無し
14/05/09 19:13:08.98 uJ8AU5FN.net
外道魔法使いは男に告げる。

 「罪は消えたのだから、許されるも許されないも無い」

男は頭を振って反論した。

 「天知る、地知る、我知る、人知る……。
  誰が知らなくても、俺自身が知っている。
  あの婆さんは俺の所為で死んでしまった。
  俺が殺したんだ。
  誰も罪悪感から逃れる事は出来ない。
  何の罪も無い人を殺しておいて、罪の意識が無い奴は、人間じゃない」

 「理解し兼ねる……」

外道魔法使いは俯き、聞こえるか聞こえないか程度の低い声で言う。
それを男は耳聡く聞き逃さなかった。

 「理解して貰おうとは思っていない。
  元通りにしてくれれば、それで良い」

 「それで、どうすると言うのだ?」

 「然るべき罰を受ける。
  強盗殺人だ。
  それに窃盗の前科もある。
  最悪、死刑になるかも知れない。
  でも……、なったらなったで、仕方無い。
  俺の生き方を清算する時が来たと言う事」

男の声は震えている。
強がりなのは明白だった。

336:創る名無しに見る名無し
14/05/09 19:15:44.94 uJ8AU5FN.net
自由を奪われる長期の懲役刑も、命を奪われる死刑も、人から人殺しと罵られる事も、
その罪が一生消えない事も、どれも恐ろしい。
だが、心の静穏には代え難いのだ。
外道魔法使いは男の覚悟に、少し悲しそうな、或いは、寂しそうな感じのする声音を出す。

 「罪に苦しむ、お前だからこそ、私は憐れんだのだ……」

 「悪かったな。
  俺の我が儘で」

心底申し訳無さそうに、男は俯く。
しかし……、

 「謝る必要は無い。
  残念だが、取り消しは出来ないのだ。
  私は万能では無い」

外道魔法使いは衝撃の事実を告げる。
男は予想していた様に、深い溜め息を吐いた。

 「……流石に、虫の好い話だわな。
  人の罪を消したり、戻したりって言うのは」

彼は両肩を落として項垂れる。

337:創る名無しに見る名無し
14/05/10 18:38:38.09 LuGtWPj3.net
男は再び深い溜め息を吐いて、独り言つ。

 「誰も俺を裁く事は出来ないのか……」

 「その通りだ。
  だが、お前にとって決して悪い事では無い筈」

外道魔法使いの言葉も、男は余り気にしていない様子で、「はいはい」と言う風に、何度も頷いた。

 「確かに、損はしていない」

男は物憂気な表情で、口元を歪めて俯くと、両手を上着のポケットに突っ込んで、
外道魔法使いとは目を合わせず、態々彼の横の狭い脇を通り抜けて、擦れ違う。
軽く互いの肩が触れる。

 「おっと、御免よ」

外道魔法使いはハッとして、男を睨み、呼び止めた。

 「待て!」

男は腕の良い掏摸である。
一瞬で外道魔法使いから財布を盗んだ彼は、振り返ると、中を検めて不敵に笑った。

 「へーぇ……あんた、結構な金持ちじゃないか……」

 「返せ!
  今直ぐ!」

外道魔法使いは恐ろしい剣幕で怒鳴り付けたが、それは怒りや憎しみからの物では無い。
男の身を案じての事だ。

338:創る名無しに見る名無し
14/05/10 18:41:18.76 LuGtWPj3.net
何も彼も承知の上で、男は口笛を吹いて、戯けて見せる。

 「そんな顔をするんだな。
  無感動な奴かと思っていたが、違ったみたいだ」

 「早く『私の物』を返せ!
  取り返しの付かない事になるぞ!」

外道魔法使いは必死に訴えるが、男は堪え切れずに笑い出す。

 「何が可笑しい!?」

 「だって、あんた、『俺の物』は返してくれないのに」

 「巫山戯ている場合か!」

 「別に、巫山戯てなんかない」

男は俄かに真顔に戻った。

 「誰も俺を裁けないなら、俺が俺を裁く」

彼は外道魔法使いと約束した。
罪を無くす代わりに、『二度と罪を犯さない』と……。
それを今、敢えて自ら破ったのだ。

339:創る名無しに見る名無し
14/05/10 18:44:51.69 LuGtWPj3.net
途端に、由来の不明な息苦しさに襲われ、男は両膝を突いた。
呼吸が出来ない。
胸が燃える様に熱い。
だが、苦痛に表情を歪めはしても、彼は必死に笑っていた。

 「愚かな……」

愕然とした表情で呟く外道魔法使い。
男は胸を掻き毟り、薄れ行く意識で、これは罰だと繰り返した。

 「へ、へへ、へ……」

力無く笑うと、その儘、彼は息絶える。
男の死体は瞬く間に、塵となって消えた。
後には、男が外道魔法使いから盗んだ、財布のみが残る。
外道魔法使いは財布を拾うと、小さく呟いた。

 「人とは御し難く、度し難く、解し難い物だ」

そして、薄暮れの空に明かり始めた星を見上げる。

 「故に、愛惜しいのだろう」

外道魔法使いは、財布を叩いて汚れを払うと、懐に収め、夜の闇に消えた。
人の人なるは、人の心が故なり。
罪悪感に苛まれ、罪を負う事が出来るのは、人に許された特権である。

340:創る名無しに見る名無し
14/05/11 18:25:37.03 tWy0jSJT.net
『火遊び<プレイ・ウィズ・ファイア>』


第四魔法都市ティナー 繁華街にて


舞踊魔法使いのバーティフューラー・トロウィヤウィッチ・カローディアが、禁断の地を飛び出し、
ティナー市に移り住んで3年。
街での生活にも馴染めて来た頃。
当時の彼女は、ファラ・ウィッカと言う名前で、暮らしていた。
魅了の能力を利用した占い擬きで、日銭を稼ぐ傍ら、適当に男を引っ掛けて、
「楽しい時間」を与えるのと引き換えに、少々の贅沢をさせて貰う。
しかし、3年も経てば、こうした毎日に慣れてしまい、次第に退屈する様になった。

341:創る名無しに見る名無し
14/05/11 18:49:29.61 tWy0jSJT.net
寒さも和らぎ始める3月、ファラ・ウィッカは「偶々」数日前に知り合った小金持ちの青年に、
同伴者として社交パーティーに出席してくれないかと、頼まれた。

 「どんなパーティーか知らないけれど、私で良いの?」

 「今年からティナーの社交界にデビューする、新人の為のパーティーで、
  結構『お堅い物<フォーマル>』なんだけど……。
  他に誘う相手が居なくて、困っているんだ。
  どうか、僕を助けると思って」

よくある口説き文句だろう。
少々思案した後、ファラは答える。

 「良いわよ、別に。
  でも、そんなパーティーに着て行ける様な、フォーマル・ドレスは持っていないの。
  買ってくれる?」

 「勿論。
  君の為なら喜んで」

彼女は青年に深い計画があるとは考えなかった。
いや、青年の方に間(あわ)良くばと言う下心が、無いとまでは思っていなかったが、
パーティーの後で別れる事になっても、然して問題にはならないだろうと、踏んだのだ。
希望的観測に映るだろうが、ファラは観察眼に自信があり、そう言う判断を間違えた事は無い。
それに、彼女はティナーの『社交界<ソサイエティ>』と言う物にも、興味があった。
或いは、旧暦の王侯貴族に取り入り、成り上がって来たトロウィヤウィッチの血が、
騒いだのかも知れない……。

342:創る名無しに見る名無し
14/05/11 19:06:31.97 tWy0jSJT.net
ティナー中央ロイヤル・グランド・ホテルにて


ロイヤル・グランド・ホテル・グループとは、ティナー市中央区に本社を置く、
大陸最大最高級のホテル・グループの事である。
唯一大陸の各都市の一等地に、最大級のホテルを構え、最高級の設備とサービスを提供する。
勿論、宿泊費も相応で、庶民には無縁の場所だ。
ティナー中央ロイヤル・グランド・ホテルは、同グループの中でも最上のベスト・オブ・ザ・ベストで、
八導師や今六傑、その他、財政界の大物や有名人が、何度も利用している所だ。
青年とファラが参加する社交パーティーも、ここで催される事になっていた。

 「はーぁ、凄い……」

ロイヤル・グランド・ホテルの荘厳さに、ファラは他の言葉が出なかった。
全30階建ての、高さ180身、敷地面積は2通平方。
王城も斯くやと言う、巨大建築。

 「はは、普通の生活をしていれば、余り縁の無い場所だからね……。
  斯く言う僕も、訪れるのは今日が初めてなんだ。
  流石に、緊張するよ」

テイル・コートを着た青年は硬い笑顔で、淡紅色と深い紫のドレスを身に纏ったファラに、
手を差し伸べる。
しかし、手が震える等の現象が見られない事から、極度の緊張状態と言う訳ではない様だ。
ファラは優美に青年の手を取り、導かれる儘に、ホテルの中に入る。
……青年は気付いているだろうか?
ファラが全く臆していない事に。
寧ろ彼女は、この様な場所に自分が居るのは、当然の事だと認識していた。

343:創る名無しに見る名無し
14/05/12 19:10:48.91 im8hq5fT.net
最初に主催者が壇上で挨拶をし、その後に銘々で各テーブルを回って、個人的に挨拶をするのが、
社交界の新人社交パーティーの慣例である。
一応、軽食がテーブルの上に用意されているが、殆ど彩りみたいな物で、誰も手を付けない。
弱い酒を嗜む程度だ。
それよりも会話の方が重要。
パーティーの主な目的は、顔合わせ、売り込み、コネクション作り。
この様なフォーマル・パーティーでは、魔導師会の関係者はローブを着るが、
それ以外の者は極普通のパーティー・ドレスを着る。
ファイセアルスでの「普通」は、飾り過ぎない程度のロング・ドレスに、ハーフ・マントを羽織る格好。
特にティナー地方では、肩や胸を露出しては行けないとか、スリットが深くなっては行けないとか、
体形を強調しては行けない等と言う、禁則事項が「少ない」。
故に、こうしたパーティーで、己の肢体を披けらかす様に、際どい衣装を着ても咎められない。
目当ての人物に取り入ろうと、気合の入った服装の令嬢も多い。
そんな中で、ファラの服装は然程派手ではなかったが、自然と周囲の視線を集めた。

 「ファラ、本当にパーティーは初めてなのかい?」

パートナーの青年は、戸惑い気味に尋ねる。

 「ええ、そうよ」

 「それにしては、堂々としていると言うか……。
  いや、でも、とても綺麗だ。
  皆、君に見惚れている」

 「有り難う」

ファラの振る舞いは完璧で、生まれ付いての貴族の様だった。
この様な女性のパートナーだと言う事が、青年は無性に誇らしくなる。

344:創る名無しに見る名無し
14/05/12 19:12:12.65 im8hq5fT.net
恐るべきは、舞踊魔法使い「色欲の踊り子」、その魅了の能力。
周囲の目を惹きながら、ファラの能力は半分も発揮されていない。
魔導師も居る中、余り目立ち過ぎては行けないと、抑えているのだ。
この時、ファラは心の中で、本気で社交界デビューを考えていた。
大都市ティナーを裏から操る、影の支配者として君臨するのも悪くない。
それは彼女自身の意志か、それとも魅了の魔法使い「トロウィヤウィッチ」の血が、
野心を抱かせるのか……。
ファラの心は嘗て無い高揚感に躍っていた。
異性から恋慕の念を抱かれ、同性から羨望される事に、快感を覚えない女は居ない。
ティナー地方都市連盟の代表議員、芸能界の大御所、マスメディア関係者……それぞれに対して、
彼女は「ファラ・ウィッカ」と言う人物を刷り込む。
この会場の誰より、パートナーの青年よりも強く。

345:創る名無しに見る名無し
14/05/12 19:15:59.85 im8hq5fT.net
一通り業界の大物と面を通した後、青年とファラは同じ新人達と顔合わせに向かった。
何組かと無難に紹介し合い、少し休憩しようかと言う時、2人に話し掛けて来る若い男女があった。

 「やあ、初めまして。
  私はベズワン・メイラーミナージ。
  連盟議員の長子で、ティナー・デッサン社と言うイベント会社の企画をやっています。
  これは妹のデジー」

 「初めまして」

青年とファラも礼儀に応えて名乗る。

 「僕はグッドフィン・ウェール。
  ヘクスウェール商会の次男坊だ。
  彼女は―」

 「私はファラ・ウィッカ。
  彼のパートナーよ」

互いに自己紹介が済むと、青年はベズワンに握手を求められた。
圧され気味ながらも、青年は応じて、2人は固く手を取り合う。
その後、ベズワンはデジーに目配せした。
デジーは小さく頷いて、青年の側に寄り、艶かしく腕を取る。

 「デン・ウェール様、一緒に踊りません?」

名字で呼ぶのは、親愛と敬愛の証。
「そう言う関係になりたい」と、暗に伝えている。

 「あ、ああ、良いよ」

青年は行き成りの誘いに、少々困惑したが、躊躇わず乗った。
こう言うパーティーでは、互いのパートナーを交換するのは、珍しい事ではない。
「これから親密になろう」と言う意図の表れだ。
勿論、長時間の拘束はしない。
嫌なら断る事も出来るが、このパーティーの主目的は人脈作り。
知り合いは多い方が良いので、悪感情を抱いているか、気に入らない人物でない限り、
誘いは受ける物だ。

346:創る名無しに見る名無し
14/05/12 19:17:14.97 im8hq5fT.net
一連の流れから、ベズワンは中々の遣り手に見える。
強引でパワーがあり、場の雰囲気を作って、人を誘導するタイプだ。
ベズワンは独りになったファラに話し掛ける。

 「ファラさんは彼と、どんな関係?」

 「どんなって……?」

言っている意味が解らないと、ファラは惚けるも、ベズワンには通じない。

 「余り親しそうには見えないからさ」

 「詮索されるのは嫌だわ」

ファラは拒否感を示したが、ベズワンは食い下がる。

 「上手く言えないけど、不釣り合いなんだ」

それは自分が「名家の令嬢ではない」と言う意味かと、ファラは感じた。
確かに、この場に居る者は、それなりに社会的地位のある者ばかりで、ファラは場違いだろう。
だが、ファラが少し眉を顰めて見せると、ベズワンは慌てて言い繕う。

 「誤解しないで欲しい。
  釣り合わないのは、彼の方だ」

ファラは内心で安堵する物の、表情は変えない。
相方を腐す様な世辞に喜んでいては、パートナー失格だ。

347:創る名無しに見る名無し
14/05/12 19:18:22.19 im8hq5fT.net
ファラは益々不機嫌な素振りをする。

 「失礼な人ね」

 「ああ、御免、そんな積もりじゃなくて……」

ベズワンは妹のデジーと青年を全く気にしていない。
彼等の方も、こちらに気付く様子は無く、ダンスを続けている。
ベズワンはファラの瞳を真っ直ぐ見詰めた。

 「今まで色々な女性を見て来たけど、初めてなんだ、こんな気持ちになったのは」

迫られて悪い気はしないし、青年との付き合いも、本気ではないのだが、そう簡単には応じられない。

 「止めて頂戴……。
  私は彼のパートナーとして来ているのよ。
  軽い女だと思わないで」

 「それなら、奪うまでだ」

ベズワンは急にファラを抱き寄せ、唇を奪おうとした。

 「ファラ!」

しかし、寸前で青年に声を掛けられ、未遂に終わる。
青年は不審の目でベズワンを睨み、2人の間に割って入って、ファラを彼から遠ざけた。

348:創る名無しに見る名無し
14/05/12 19:19:52.70 im8hq5fT.net
後からデジーが付いて来て、怪訝そうに青年に問い掛ける。

 「グッドフィン様、どうなさいました?
  ダンスの途中で急に……」

 「デジーさん、貴女の兄君(あにぎみ)は大分お酒に酔っていらっしゃる様だ。
  失礼します」

青年は警戒を露にして、ファラの手を引き、立ち去ろうとする。
デジーは慌てて、青年の正面に回って、縋り付いた。

 「兄が失礼な事をしたのでしたら、謝ります。
  御免なさい、不快な気分にさせてしまって」

 「いえ、貴女が謝る必要はありません。
  貴女の所為ではないのですから」

 「そうは参りません……」

青年とデジーが遣り取りしている間に、ベズワンはファラの耳元で囁いた。

 「明日も同じ時間に、ここでパーティーがある。
  是非、来てくれ。
  私の名前を出せば、通してくれる」

それだけ言うと、彼は素早くファラから離れた。
ファラが振り返ると、小さく手を振って、ウィンクをして見せる。

 「行こう、ファラ」

 「え、ええ……」

兄妹の見事な連携。
青年は何も気付かず、ファラの手を引いて、会場を後にした。

349:創る名無しに見る名無し
14/05/13 19:34:19.51 mPQu810T.net
翌日 ティナー市南部の貧民街にて


空は晴れて、穏やかな春風が吹く、昼下がり。
旅商の男ラビゾーは、貧民街に住む予知魔法使いノストラサッジオを訪ねていた。

 「ラヴィゾール、自分の魔法は見付かったかな?」

毎年毎年、顔を合わせる度に、同じ事を訊かれ、同じ答を言わなければならないので、
ラビゾーは気不味そうに苦笑いする。
それだけで、ノストラサッジオは察して、大きな溜め息を吐いた。

 「君が禁断の地を出て、もう何年だ?
  無才にしても、そろそろ芽の立つ兆し位は無い物か……」

ラビゾーは困った顔をするばかりで、何も言い返せない。
嫌な沈黙が場を支配する。
ノストラサッジオは無言でオラクル・カードを配った。
十文字に並べられた5枚のカードを、ノストラサッジオは一枚一枚捲る。
中央には杖を持った「魔女」、上には白く丸い「月」、下には袋と金貨が釣り合った「天秤」、
左には2人の「愛し合う者」、右には剣と杖が交差した「武器」のカードが、配置されている。
その内、「月」と「愛し合う者」以外は、ノストラサッジオから見て逆様だ。

 「ラヴィゾール、女難の相が出ているぞ」

ノストラサッジオが話題を転換したので、ラビゾーは安堵の息を吐いた。

 「女難?」

彼が訊き返すと、ノストラサッジオはカード占いの説明を始める。

 「オラクル・カードは絵柄で事象を、正逆で吉凶を占う。
  中央に来るカードは事象の中心となる物だ。
  これが逆位置ならば、基本的には悪い事が起こる」

ラビゾーは興味深く話を聞いた。
ノストラサッジオは優れた予知魔法使い。
彼の占いは中々侮れない。

350:創る名無しに見る名無し
14/05/13 19:39:20.09 mPQu810T.net
 「詰まり、何が起こるんです?」

ラビゾーが問うと、ノストラサッジオは至って真面目な顔で、彼に問い返した。

 「お前に女は居るか?」

 「女?」

 「恋人―、男女の仲で付き合っている女の事だ」

ラビゾーは返答に迷う。
居ない事は無いが、果たして、彼女を恋人と言って良い物か……。
答え倦ねる彼に構わず、ノストラサッジオは続けた。

 「今夜、彼女に危険が迫る。
  良からぬ事に巻き込まれるだろう」

 「僕は何をすれば?」

 「自分で考え給え。
  彼女が大事ならばな」

最後にノストラサッジオは突き放す。
ラビゾーは取り敢えず、彼が思う人の所へ急いだ。


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