ロスト・スペラー 10 ..
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2:創る名無しに見る名無し
14/12/10 18:27:01.78 BmNqdeNl
今から500年前まで、魔法とは一部の魔法使いだけの物であった。
その事を憂いた『偉大なる魔導師<グランド・マージ>』は、誰でも簡単に魔法が扱えるよう、
『共通魔法<コモン・スペル>』を創り出した。
それは魔法を科学する事。魔法を種類・威力・用途毎に体系付けて細分化し、『呪文<スペル>』を唱える、
或いは描く事で使用可能にする、画期的な発明。
グランド・マージは一生を懸けて、世界中の魔法に呪文を与えるという膨大な作業を成し遂げた。
その偉業に感銘を受けた多くの魔導師が、共通魔法を世界中に広め、現在の魔法文明社会がある。

『失われた呪文<ロスト・スペル>』とは、魔法科学が発展して行く過程で失われてしまった呪文を言う。
世界を滅ぼす程の威力を持つ魔法、自然界の法則を乱す虞のある魔法……。
それ等は『禁呪<フォビドゥン・スペル>』として、過去の『魔法大戦<スクランブル・オーバー>』以降、封印された。
大戦の跡地には、禁呪クラスの『失われた呪文』が、数多の魔法使いと共に眠っている。
忌まわしき戦いの記憶を封じた西の果てを、人々は『禁断の地』と名付けた。


ロスト・スペラー(lost speller):@失われた呪文を知る者。A失われた呪文の研究者。
B(俗)現在では使われなくなった呪文を愛用する、懐古趣味の者。偏屈者。

3:創る名無しに見る名無し
14/12/10 18:29:46.98 BmNqdeNl
魔法大戦とは新たな魔法秩序を巡って勃発した、旧暦の魔法使い達による大戦争である。
3年に亘る魔法大戦で、1つの小さな島を残して、全ての大陸が海に沈んでしまった。
魔法大戦の勝者、共通魔法使いの指導者である、偉大なる魔導師と8人の高弟は、
唯一残った小さな島の東岸に、沈んだ大陸に代わる、1つの大陸を浮上させた。
それが現在の『唯一大陸』―『私達の世界<ファイセアルス>』。
共通魔法使い達は、8人の高弟を中心に魔導師会を結成し、100年を掛けて、
唯一大陸に6つの『魔法都市<ゴイテオポリス>』を建設して世界を復興させた。
そして、共通魔法以外の魔法を『外道魔法<トート・マジック>』と呼称して抑制した。

今も唯一大陸には、6つの魔法都市と、それを中心とした6つの地方がある。
大陸北西部に在る第一魔法都市グラマーを中心とした、砂漠のグラマー地方。
大陸南西部に在る第二魔法都市ブリンガーを中心とした、豊饒のブリンガー地方。
大陸北部に在る第三魔法都市エグゼラを中心とした、極寒のエグゼラ地方。
大陸中央に在る第四魔法都市ティナーを中心とした、商都のティナー地方。
大陸北東部に在る第五魔法都市ボルガを中心とした、山岳のボルガ地方。
大陸南東部に在る第六魔法都市カターナを中心とした、常夏のカターナ地方。
共通魔法と魔導師会を中心とした、新たな魔法秩序の下で、人々は長らく平穏に暮らしている。

4:創る名無しに見る名無し
14/12/10 18:35:51.84 BmNqdeNl
……と、こんな感じで容量一杯まで、設定を作りながら話を作ったりする、設定スレの延長。
時には無かった事にしたい設定も出て来るけど、その内どうにかしたい。
規制に巻き込まれた時は、裏2ちゃんねるの創作発表板で遊んでいるかも知れません。

5:創る名無しに見る名無し
14/12/11 03:03:11.58 VwLFn2bs
まってました

6:創る名無しに見る名無し
14/12/11 18:20:10.69 w9/85EKA
物足りない用語集


魔力(magenergy)


あらゆる魔法を使うのに必要な力。
ファイセアルスに有り触れており、気体分子の様に流動的。
魔力を魔法陣に、電気の様に流す事によって、共通魔法は発動する。
詠唱の場合は、発声で魔力を誘導して発動する。
魔力は人体には蓄積せず、魔法を使う際には、その場の魔力を消費する。
よって、場の魔力が尽きると、魔法が発動しなくなる。
一度魔力が尽きても、時間が経てば、少しずつではあるが、どこからとも無く魔力が湧いて来て、
場の魔力は回復する。
場によって魔力の性質は異なり、それが描文や詠唱に影響する。


魔法資質(sence of magic)


魔法の才能、特に魔力感知能力を指す。
生まれ付きで限界が決まっている為、心身が成長しても上限が伸びる事は無いが、
体調や環境条件によって上下するので、訓練で変動幅を少なくする事は出来る。
大体は視覚とリンクして、魔力の濃淡を目に映す働きをするが、ファイセアルスの人間の大多数は、
態々そんな事をしなくても、空間の魔力を直観的に捉えられる。
これが低いと、弱い魔力を感じられなくなる為、呪文を完成させるのが困難になるが、
魔法資質自体は魔法を発動させる必要条件ではない。
魔法資質が高い者は、自然と魔力を纏う様になり、より魔法資質が低い者を威圧する。
しかし、魔法資質が極端に低い者は、逆に全く威圧されなくなる。


魔法色素(magical pigment)


ファイセアルスの人間や動植物の大多数に具わっている、魔力に反応する特殊な色素。
魔法を使用する等して、多量の魔力に触れると、美しく発光する。
但し、人によって濃淡がある上に、魔法の才能とは全く関係が無い。
赤、青、緑の光の三原色で構成され、その合成の水色、黄色、紫、白を加えた7パターンが存在する。
三原色で遺伝し、血液型の様な働きもする。
例えば、赤と青の親から生まれた子は、赤、青、紫の何れかになる。
稀に全部の魔法色素を持つ者や、全く魔法色素を持たない者も居る。
これも生まれ付きで、後天的に変色したり、濃くなったりしない。

7:創る名無しに見る名無し
14/12/11 18:26:35.96 w9/85EKA
主な登場人物


ワーロック・「ラヴィゾール」・アイスロン


多分、最も登場が多い人物。
ティナー地方出身の、元落ち零れ共通魔法使いの男性。
巻き込まれ体質で、優柔不断、中肉中背の冴えない奴。
魔法資質が低い為に、殆ど魔力を感じられない。
禁断の地にて、大魔法使いアラ・マハラータ・マハマハリトに救われた際、本名に代えて、
Laveisallと言う名を与えられ、彼に弟子入りする事となる。
その後、自分の名前を取り戻し、独自の魔法「素敵魔法」の使い手になる。
普段は旅商をしており、行く先々で外道魔法使いと顔を合わせている。
基本的には、共通魔法と外道魔法の間に立つ存在。


サティ・クゥワーヴァ


最近出番が余り無いけど、一応主人公格。
非常に高い魔法資質を持つ、共通魔法使い。
グラマー地方の良家の第三子。
魔導師会に所属し、古代魔法研究所に勤務していた。
出来心で禁断の地に入り、そこで自分の知らない世界に触れて、各地を巡る旅に出る。
その後、現生人類の秘密を知り、魂の故郷デーモテールへと渡った。
緑の魔法色素を持つ。
そろそろデーモテールの他世界の話も書きたいので、今後は出番が増える予定。

8:創る名無しに見る名無し
14/12/11 18:32:20.01 w9/85EKA
ジラ・アルベラ・レバルト


共通魔法社会の治安を守る、魔導師会の執行者。
紫の魔法色素を持つ女性。
ブリンガー地方出身。
サティ・クゥワーヴァの護衛兼監視役として、彼女の旅に同行していた。
その後は魔導師会の八導師親衛隊に入隊する。
魔導師会の側から、色々な事件を追う事になるかも。


コバルトゥス・ギーダフィ


青の魔法色素を持つ、精霊魔法使いの男性。
幼くして両親と死に別れ、現在は独りで各地を渡り歩いている。
女好きの遊び人で、根無し草の放蕩者。
顔が良いのと社交的なのが取り得。
素手の喧嘩は弱いが、剣を持たせれば一級品。
魔法資質は高い方で、精霊の存在を感じて、会話する事が出来る。


レノック・ダッバーディー


ティナー地方を中心に活動する、魔楽器演奏家。
特に笛の演奏が得意で、常に木笛や石笛を持ち歩いている。
見た目は少年でも、中身はン百ン千歳。
上から目線で生意気。
実際は定まった形を持たないが、好んで少年の容姿を取っている。
音楽さえあれば、睡眠も食事も必要としない、便利な体の癖に、人の真似が好き。
偶に遠出をして、見聞を広める。
多くの外道魔法使いと知り合いで、知恵者と呼ばれ、頼りにされている。

9:創る名無しに見る名無し
14/12/11 18:34:53.29 w9/85EKA
バーティフューラー・トロウィヤウィッチ・カローディア


色欲の踊り子と呼ばれる、舞踊魔法使い。
「トロウィヤウィッチの魔法」と言う、強力な魅了の能力を持ち、別に踊っていなくても、
その気になれば男女や種族を問わず、魅了出来る。
魔法色素は七色に変色し、人の好みによって、印象も変化する。
禁断の地の村で暮らしていたが、ラヴィゾールと出会った事で、外の世界に興味を持ち、
共通魔法社会に飛び込んだ。
ティナー市に潜伏しながら、男を引っ掛けて暮らしていた所、ラヴィゾールと再会して、
何や彼やあって、恋愛相談所を経営する事になる。
その後、又も何や彼やあって、ラヴィゾールと結婚する。


リベラ・エルバ・アイスロン


元貧民街の孤児で、ワーロック・アイスロンの養娘。
養父から習った、共通魔法と擬似素敵魔法を使える。
魔法色素は黄。
実父を知らず、実母とは死別して、ワーロックの養子となった後に、カローディアを義母として迎える、
複雑な経緯から、人に言えない悩みを抱えている。
表向きには、父を慕う素直な良い子。

10:創る名無しに見る名無し
14/12/11 18:37:25.11 w9/85EKA
ヒュージ・マグナ


ティナー中央魔法学校の中級課程に通う男子。
魔法資質が高く、運動神経が良く、それなりに頭も回る、恵まれた才能の持ち主。
お調子者で人望もあるが、授業態度は不真面目で、悪戯好き。
その為、問題児四人組の1人とされている。
生まれは極々一般的な家庭。
周囲からは期待されているが、本人に魔導師になる積もりは無い。
将来の夢は、機巧の技術者。
魔法色素は赤……?
未だ設定してなかったと思う。


グージフフォディクス・ガーンランド


ヒュージと同じくティナー中央魔法学校の中級課程に通う女子。
裕福な家に生まれ育ち、将来は魔導師になろうと思っている。
才能はヒュージ程ではないが、彼とは逆に真面目で、教師の覚えも良い優等生。
愛称はグー、グーちゃん、グーちゃんさん。
座布団蛙のアドローグルと言う使い魔を持つ。
ヒュージとは公学校が同じで、その頃の付き合いから、彼には「委員長」と呼ばれているが、
止めて欲しいと思っている。
一方で、グージフフォディクスもヒュージを、当時の渾名であるヒューと呼ぶ。
周囲には誤解され易いが、両者は馴染みがある分、気安いだけで、特別に仲が良い訳ではない。
魔法色素は青……?
どこかで設定していた様な気がする。
ヒュージとグージフフォディクスには、魔法学校での日常を紹介する役割を果たして貰う予定。

11:創る名無しに見る名無し
14/12/12 18:21:17.13 ifkoz8ED
プラネッタ先生の授業


皆さん、お早う御座います。
今回は旧暦の信仰について、勉強しましょう。
魔法の歴史を学ぶのに、信仰や宗教は避けては通れない道です。
旧暦の信仰は、人々の心の拠り所であると共に、魔法と深く結び付いて、社会に根付いていました。
最も有名な物は、やはり神聖魔法使いと関連した、一神教の神聖教です。
神聖教は他の魔法勢力を、悪魔の使徒と呼んでいましたが、神聖教も一枚岩ではありませんでした。
神聖教自体は一神教であるにも拘らず、最大派閥が多神派だったと言う事実があります。
元始の神聖教は、宇宙の創造神を父とし、大地を母とする物でした。
神は宇宙の創造神のみで、他の物を神とは呼びません。
これが神聖教一神派と呼ばれる、最も純粋な原理主義者の態度です。
所が、元始神聖教が起こると同時期に、母なる大地も神として信仰対象に含めた、
二神派が誕生します。
父神は無名で、『主』、『長』、『父』等と呼ばれました。
母神も無名で、『大地』、『礎』、『母』等と呼ばれました。
当初2つの派閥は、殆ど衝突せずに、共存していました。
しかし、二神派が母星も神とした事で、他の天体も神として信仰対象にする者が現れました。
それが星神派です。
星神派は父神を主神として、母神と同格の位置に、以下の神を設けました。
主神の分身である太陽神シェンと、母神の姉妹である月の神ルン、そして、
天の無数の星々の神々セステリア。
星神派は個々の星の神をセステと称し、母神もセステの一と位置付けました。
母神の扱いが軽い事で、星神派と二神派は折り合いが悪かったと言います。
逆に、一神派とは関係が良好で、二神派との仲立ちを依頼する事もあったそうです。

12:創る名無しに見る名無し
14/12/12 18:45:41.19 ifkoz8ED
更に、星神信仰が変形して、他地方の土着の信仰と組み合わさり、複数の下位神を信仰する、
神聖教多神派が誕生します。
先ず、精霊信仰の影響で、火、水、土、風の下位神上位四柱が設定されました。
土と力の神フォルティス、火と知の女神ウィザージ、水と能の神エルゴーン、風と運の女神ガルーカ。
次に、人の生死や物事の始終を司る、下位神中位三柱が生まれます。
生の神ベルティス、終の神アンティス、自然神ナスカ。
更に、人間が日常的な生活を送る中で、無数の下位神が生まれます。
戦争の神ヴァル、商売の神ビューク、農耕の神カロー、海の神セヒ、人の神ゴーマ、
動物の神デクー、川の神レイ、家の神ハイマ、植物の神グレフ等……。
単純に「人の役に立つ」、「人を幸せにする」と言った、俗的な側面を持つ下位神は、
その性質が故に、多くの人々の支持を得ました。
一神派の人々にとっては、多神派は邪道なのですが、余りに庶民的な人気があった為に、
信仰を禁じる訳にも行かず、辻褄を合わせる為に、神聖教の指導者達―神聖教会は、
創世神話に続く新たな神話を創作します。
父なる神は母なる星神との間に人を創った後、シェンとルンを配して人を見守らせ、人の営みの中で、
物事が全て恙無く運ぶ様に、地上の法を司る下位神を創った―と言う風に。
「多数の神」を受け容れられない一神派にも配慮して、『神<ゴッド>』と『星神<デーイ>』を使い分け、
下位神を全て『天使<エル>』とする事で、何とか折り合いを付けました。

13:創る名無しに見る名無し
14/12/12 18:51:07.55 ifkoz8ED
神聖教会は精霊信仰を元にした下位神上位四柱や、その他の信仰や崇拝を元にした神々を、
自らの神話体系に組み込み、神聖教を各地に広めました。
そして、当時の陸地の殆どを影響下に置く大勢力になりましたが、それに関連する魔法―
精霊魔法や呪詛魔法までは受容しませんでした。
下位神の魔法は外道と言う事を示す為に、火と知の女神ウィザージが人間に魔法を与え、
惨事を引き起こして、主神に罰せられると言う神話があります。
概略は次の通りです。
主神は『聖君<ホリヨン>』と敬虔な祈り子のみに、「聖なる力」を与えました。
その様な力を持たない辺境の蛮族の王は、隣の小さな国を攻め滅ぼす為に、野心を隠して、
火と知恵の神ウィザージに、「選ばれた者にしか魔法を使えないのは不公平だ」、
「私にも魔法を使わせて欲しい」と訴えます。
ウィザージは王に同情して、全てを焼き尽くす炎の力を授けました。
……知の神なのに、杜撰な裁定をした事には、目を瞑りましょう。
その後、今度は小さな国の王がウィザージに、隣の国の侵攻を防ぐ為に、魔法を使わせて欲しいと、
訴えて来ます。
両者の関係を知らない儘、ウィザージは2人の王に炎の力を授けました。
結果、2つの国は燃え尽きて消滅してしまいます。
これを知った主神は怒って、ウィザージの力を制限しました。
四大属性でありながら自然の中に火が見られず、多くの動植物が人間程の賢さを持たないのは、
この為だと言われます。

14:創る名無しに見る名無し
14/12/12 18:52:32.81 ifkoz8ED
お伽噺と言ってしまえば、それまでなのですが、これは重要な寓話でもあります。
私達『共通魔法使い<コモン・スペラー>』は、火の力を与えられた王と同じです。
力の使い方を間違えれば、自らの身を滅ぼし兼ねません。
今は魔導師会が、魔法を管理する立場です。
旧暦の共通魔法使いは、魔法を使う権利を人々に解放しました。
後世、それが過ちであったと言われない様に、私達は気を付けなければなりません。
今日の授業は、ここまで。
次回は、他の宗教や信仰についても、触れて行きましょう。

15:名無しさん@そうだ選挙に行こう
14/12/13 18:27:53.39 C85dXvrR
悪夢


第四魔法都市ティナー繁華街 アパート・エーブルにて


この日、旅商の男ラビゾーは、バーティフューラーに誘われて、彼女が住んでいるアパート・
エーブルの一室に一泊する運びになった。
事の起こりは、何時ものデートが終わって別れ際の、それと無い一言。

 「ね、ラヴィゾール……。
  今日は家に泊まって行かない?」

 「それは不味いでしょう」

初め、ラビゾーは断った。
大人の男女が一つ屋根の下で一夜を共にすると言う事は、男女の契りを結ぶと同義である。
少なくとも今の時点では、そう言う関係になるには早いと、ラビゾーは思っていた。

 「変な勘違いしないでくれる?
  アンタが貧乏暮らしだって言うから、偶には泊めてやっても良いって、それだけの話よ」

 「でも、非常識ですよ」

唇を尖らせるバーティフューラーを、ラビゾーは諌めるも、それが通じる彼女ではない。
外道魔法使いのバーティフューラーは、共通魔法社会の常識に縛られない者なのだ。

 「常識とか非常識とか、アタシには何の関係も無いわ。
  妙な下心が無いと胸を張って言えるなら、泊まって行っても良いでしょう?
  それとも……自制心を保てる自信が無いのかしら?」

彼女はラビゾーを挑発した。

 「そうじゃなくて……」

ラビゾーは否定から入って、上手い断り方を探るも、それを許さない様にバーティフューラーは、
間を置かず食い下がる。

 「だったら―」

 「わ、分かりました。
  有り難く、お世話になります」

こうなったら拗れるのは必至。
こんな事で仲違いしても仕方無いと、ラビゾーは直ぐに折れるのだった。

16:名無しさん@そうだ選挙に行こう
14/12/13 18:29:55.24 C85dXvrR
バーティフューラーに案内され、アパート・エーブルの3‐3号室に入ったラビゾーは、
小綺麗に片付いた中を見て、何だか申し訳無い気持ちになった。
長旅をするラビゾーの身形は、如何にも貧相で、この場に不似合いなのだ。

 「どうしたの?
  早く上がってよ」

バーティフューラーは入り口で立ち尽くしているラビゾーの背を押し、中に上がらせると、続けて言う。

 「取り敢えず、その服脱いで」

 「えっ……」

突然何を言い出すのかと、ラビゾーは身構えた。
その反応を受けて、バーティフューラーは深い溜め息を吐く。

 「汚いでしょう?
  着替えて欲しいの。
  シャワー・ルーム、使って良いから」

 「あぁ、はい……」

面と向かって汚いと言われてしまい、ラビゾーは落ち込んだ気持ちで、浴室に向かった。

17:名無しさん@そうだ選挙に行こう
14/12/13 18:35:10.12 C85dXvrR
シャワーを浴びながら、バーティフューラーは一体何の積もりで、自分を招いたのだろうかと、
ラビゾーは丸で物を知らない少女の様に思い耽る。
単なる善意からの誘いとは、余り思えなかった。
彼がバーティフューラーに抱いている印象は、即物的で回り諄い事を嫌い、押しが強くて、
少し面倒臭い、自分を気に掛けてくれる、「割と良い人」だ。
そして、「割りと良い人」なのは、自分に気がある為ではないかと、思っている。
だが、バーティフューラーは男を引っ掛けて遊んでいる様な女なので、毎回「デート」する度に、
その好意が「恋愛感情」から来る物か、それとも顔見知りに対する気安い「親切」や、
「冷やかし」に過ぎないのか、判断が付かない。
それを明確にする度胸も、今のラビゾーには無かった。
仮にバーティフューラーが本気だったとしても、未だ男女の仲になる時ではないと、彼は信じていた。
しかし、それはラビゾーの勝手な都合だ。
一般的な男女が、どの様にして至るのか、色恋に疎い彼が熟知している訳も無いので、もしかしたら、
バーティフューラーの方は既に十分だと思っているかも知れない。
もう2人は、何度目か数えなければならない程、デートを重ねている。
「普通」ならば、何らかの進展があっても、おかしくはない付き合いなのだ。

 「はぁ……」

浴室の棚に並べられた、化粧品の数々を見て、ラビゾーはバーティフューラーが女である事を、
一層強く認識し、思い切れない自分が悪いのだろうかと、深刻に悩むのだった。

18:名無しさん@そうだ選挙に行こう
14/12/13 18:46:21.97 C85dXvrR
簡素な軽装に着替えて、浴室から出たラビゾーを、食欲を刺激する良い香りが迎える。

 (何か作ってるのかな?)

そう思ってラビゾーがL&Dルームへ移動すると、エプロンを着けたバーティフューラーが、
丁度盛り付けをしている所だった。
彼女は鼻歌を遊んでいて、とても機嫌が良さそうで、ラビゾーは吃驚する。
それは今まで彼が見た事も無い、愛らしく魅力的な姿だった。

 「こんな物かな?
  さ、座って。
  一緒に食べましょう」

最後の仕上げを終えて、ラビゾーに微笑み掛けるバーティフューラー。
これは夢ではないかと、ラビゾーは頬を抓った。
余りに自分にとって都合が好過ぎる。
家庭の温もりが独り身に沁み、異様な程の安心感に包まれ、逆に落ち着かなくなる。
言われる儘、浮付いた心地で着席したラビゾーに、バーティフューラーは含羞みながら尋ねる。

 「こうして人に食べて貰うのは初めてだから、少し張り切ってみたの。
  良かったら、感想を聞かせて。
  どうかな……?」

ラビゾーは舌を噛んで、緩む頬を引き締めた。
少しでも気を抜けば、忽ち腑抜けにされて、再び立ち上がれなくなるだろう確信があった。
魅了の魔法なのか、本当に心が揺れているのか、どちらかは判らないが、今の精神状態が、
尋常でない事だけは解っていた。

19:名無しさん@そうだ選挙に行こう
14/12/14 18:12:11.93 VVTKFPjt
ラビゾーは慎重に料理を口に運ぶ。
真面目な彼は、真剣に料理を評価する事が、真摯さの証明だと思い込む事で、
この恐ろしい魅了の罠を回避しようとした。

 (惑わされては行けない。
  バーティフューラーさんは『料理の感想を聞きたがっている』んだ。
  実際に食べてみるまでは……口に入れてみるまでは、判らない)

客観的に見れば、難癖を付けようとしている、嫌らしい男だろう。
どうして、そこまで頑なになる必要があるのか?
それはラビゾーが自分を未熟者だと思っている為だ。
バーティフューラーは美人だし、好意を持たれているなら、悪い気はしない。
だが、自分の魔法を見付けて、一人前の男にならなければ、人並みの幸せを求める資格は、
得られないと決め付けている。
ここで絆されては、彼は永遠に惨めな男の儘で、生きて行かなければならない。
そんな強迫観念めいた妄執がある。

 「頂きます」

ラビゾーは小声で言うと、先ずは卵綴じを匙で掬い、口に運んだ。

20:名無しさん@そうだ選挙に行こう
14/12/14 18:18:31.83 VVTKFPjt
湯上りの乾いた喉に、温かいスープが沁みる。
仄かな甘味の中に、程好く塩味が利いた、妙の一品だった。
甘過ぎず、辛過ぎず、丸で自分に合わせたかの様な口当たり。
普段、出来合い物や即席物を食べているラビゾーには判る。
これは手作りの味わいだ。

 「どう……?」

一口分を長らく味わうラビゾーに、バーティフューラーは少し緊張して尋ねる。

 「とても普通と言うか、不思議な……何時も食べ慣れているかの様な……。
  あ、美味しいんですよ、勿論。
  美味しいんですけど……、どう言えば良いのか……。
  絶品とは行かないんですけど、落ち着くと言うか、安心すると言うか……。
  『優しい』味ですね」

「毎日食べたくなる味だ」と言ってしまえば、簡潔に済むのだが、それは禁句だろうと、
ラビゾーは敢えて、その表現を封じた。
よく分からない評価に、バーティフューラーは呆れた様に、忍び笑った。

 「『優しい』って……。
  アンタ、面白い感性してるのね」

彼女は自らも料理に手を付ける。
同時に、ラビゾーの浮付いた感覚は消え、漸く脱力出来る様になる。

 「ニュアンスが伝わりませんか?
  『美味しい』には変わり無いんですけど、飽きが来ないと言うか……。
  バーティフューラーさん、料理、出来たんですね。
  意外に家庭的で―」

 「ん、意外って何?
  聞き捨てならないわね」

バーティフューラーに鋭い眼で睨まれ、ラビゾーは失言だったと焦った。

 「いや、何時も外食だった物ですから……」

 「そうね、薄々そう思われてるんじゃないかとは、思ってたの。
  だから、こうして出来る所を見せたのよ」

 「あ、そうなんですか……。
  誤解して済みません」

 「良いのよ、別に。
  謝らないでよ」

以後は和やかな雰囲気で、2人は楽しい時を過ごした。

21:名無しさん@そうだ選挙に行こう
14/12/14 18:20:26.20 VVTKFPjt
後は眠るだけとなって、果たして、何事も無いのだろうかと、ラビゾーは兢々としていた。
女性の独り暮らしで、部屋に余裕がある訳も無く、寝室もベッドも1つのみ。
深い意図が無ければ、ラビゾーはL&Dルームのソファーで眠る事になるだろう。
そうなる事を望んでいた。
泊まらせて貰っている立場で、自分から寝床は別に用意してくれと言うのも、厚かましい気がして、
取り敢えずラビゾーはバーティフューラーの出方を待つ。
湯浴みを終えたバーティフューラーは、バスローブだけと言う危うい格好で、ラビゾーに尋ねる。

 「家にはベッドが1つしか無いんだけど、どうする?」

 「ソファーで寝ます」

ラビゾーは彼女から目を逸らして、即答した。
バーティフューラーは小さく笑うと、軽い調子で再び尋ねる。

 「一緒に寝ない?」

 「……僕は、そんな風にはなれないです」

「そんな風」と言うのは、気軽に女性と肌を重ねる男性の事だ。
千載一遇の機会だったとしても、自分の気持ちの整理が付かない内に、関係を持つ事は出来ない。
ラビゾーは自分の気持ちと向き合うのにも時間が必要な、面倒臭い男なのだ。
それを聞いたバーティフューラーは、少し寂しそうに俯く。

 「そうじゃなくて、本当に隣で寝てくれるだけで良いの」

本気で言っているのかと、ラビゾーは眉を顰めた。

 「僕達は良い大人ですよ」

22:名無しさん@そうだ選挙に行こう
14/12/14 18:31:22.10 VVTKFPjt
彼にしては正論である。
大人の男女が臥所を共にして、何事も無く済むと思うのは、非常識だ。
如何にラビゾーが、自分からは手を出せない臆病者と言っても。
バーティフューラーは外の常識が通じない、禁断の地の村で暮らしていたが、そこだって、
大人の分別まで存在しない白痴の土地ではない。
密かに事を期待しているならば、口では何もしないと言いながら女を宿に連れ込む男の様な、
馬鹿な嘘は吐かないで欲しいと、ラビゾーは思う。
突き放されたバーティフューラーは、俯いた儘でラビゾーに問い掛けた。

 「ラヴィゾール、独りが寂しいと思った事は無い?」

ラビゾーは彼女の真意を量り兼ね、暫し答に迷った。

 「……思わない事も無いです。
  でも……、これでも僕は大人の男です」

 「強いのね」

強がりに過ぎないと、笑われると思っていたラビゾーは、予想外の反応に戸惑う。

 「バーティフューラーさんは……寂しい―ん、ですか……?」

 「何時だったか、話したよね?
  アタシの父さんと母さんの事」

バーティフューラーの両親は幼い頃に亡くなっており、姉妹2人で暮らして来たと、
ラビゾーは聞いていた。

 「小さい頃はルミーナと抱き合って眠ったわ。
  暗闇に怯える様に。
  今は、もう怖くはないけれど……時々無性に虚しくなるの。
  これだけ人が沢山いる街で、アタシは外道魔法使いとして独り……」

そう言う気持ちは、ラビゾーにも解らないではなかった。
彼も共通魔法使いとも外道魔法使いとも言えない立場で、長年両者の間を揺蕩っている。
どっち付かずの存在だ。

23:創る名無しに見る名無し
14/12/15 18:22:19.73 K8aByIrR
バーティフューラーはラビゾーの手を取る。
ラビゾーは反射的に引き掛けて、僅かに身動ぎするだけで、思い止まった。

 「アタシ、村を出て、この街でアンタと再会した時、何て言うかな……安心したの。
  他の男と居ても、その時のアタシは偽りで……。
  アンタだけが、本当のアタシを知ってる」

 「別に、僕だけじゃないでしょう。
  村の人とか、他の魔法使いとか……」

 「あのね、そう言う事じゃないの。
  解るよね?」

 「……はい」

妙な雰囲気に、いよいよ告白されるのだろうかと、ラビゾーは心構えた。
そして、どう応えるべきか、どうするのが『賢明<スマート>』なのか、今の内から懸命に知恵を絞る。

 「どんなに身を寄せても、心の隙間は埋められない」

そう言いながら、バーティフューラーは体を密着させる。
柔肌の温もり、洗髪剤の匂い……。
だが、ラビゾーは欲情よりも、ここで答を出さなければ行けないのかと言う、焦りの方が勝っていた。
彼女の台詞も全く上の空。

24:創る名無しに見る名無し
14/12/15 18:25:29.55 K8aByIrR
バーティフューラーは切ない声で囁く。

 「一晩だけで良いの。
  本当に何もしないわ」

あれこれ悩んでいた所で、そう言われた物だから、ラビゾーは思わず噴き出した。
呆気に取られた後、どうして笑うのかと、剥れて無言で抗議するバーティフューラー。
ラビゾーは困り顔で問う。

 「他の男の人に、同じ台詞を言われた事があるんですか?」

 「どうして今、そんな話を?」

 「全く立場が逆ですよ。
  丸で女の子を誘う悪い男みたいな」

バーティフューラーは赤面して、否定した。

 「違うのよ、本当に全然そんな積もりじゃなくて!」

 「……本当に全然、何の期待もしてないんですか?」

それはそれで悲しい事だと、ラビゾーは思う。

 「ム、ム、ムム、そ、それは……」

虚を突かれたバーティフューラーは、暫し思案した後、開き直った。

 「別に良いのよ?
  したいって言うなら、好きにすれば?」

答を急かされている訳ではないと知って、ラビゾーは安堵した。

25:創る名無しに見る名無し
14/12/15 18:27:58.76 K8aByIrR
彼は苦笑いして、気恥ずかしそうに言う。

 「いや、したい訳じゃないんですけどね……」

 「何なのよ、アンタ!
  巫山戯てるの?」

バーティフューラーに詰め寄られ、ラビゾーは平謝った。

 「いえ、済みません。
  バーティフューラーさんが、そんな事を言うとは思わなくって」

彼女は不満を抑えて納得し、ラビゾーに決断を迫る。

 「―で、どうなの?
  イエスかノーか、答えてよ」

 「……やっぱり不味いんじゃないですかね?」

憖、行けそうな雰囲気だっただけに、バーティフューラーは酷く落胆した。
確かに、心は揺れ動いていたが、後一押しが足りなかったのだ。

 「はぁ……、そんなに嫌?」

がくーっと気落ちしたのが、ラビゾーの目にも判った。
彼とて何の罪悪感も湧かない訳ではないが、一時の感情に流されてはならないと、毅然と振舞う。

 「嫌とか、嫌じゃないとか、そんな次元の話ではありません。
  解って貰えませんか?」

 「……じゃあ、責めてアタシが眠るまでは側に居てよ」

 「その位なら」

バーティフューラーの妥協案に、ラビゾーは素直に乗った。

26:創る名無しに見る名無し
14/12/15 18:33:03.19 K8aByIrR
ナイトガウンに着替えたバーティフューラーは、鏡台の前に座ると、慣れた手付きで髪を結って、
顔に化粧水を塗る。
何気無い仕草の艶妙さに、ラビゾーは目を奪われるも、直ぐ我に返って視線を逸らした。
年齢相応の恥じらいや慎みを持つなら、こうした所作は先ず他人には見せない物だ。
それを隠さずラビゾーに見せるのは、親愛の証なのか、それとも男として見ていないのか?
どちらだろうと思いながら、ラビゾーは立ち尽くして待つ。
本当に異性として好意を持っているなら、他の男を誘うのは止めて欲しいと、彼とて思う。
しかし、それを言ってしまうと、ラビゾーは責任を取らなくてはならなくなる。
彼は自分の魔法を未だ見付けていない所か、その目処さえも立たない現状。
更には、師に名と共に封じられた過去に、顔も名前も思い出せない、大切な人々を残している。
自分の魔法を見付け、己の名前を取り戻した時、ラビゾーは変わらず今の自分で居られる、
自信が無かった。
彼にとって過去は重大な物であり、取り戻さなければ先に進めない物。
半端者の儘、惰性で妥協した様にバーティフューラーを迎える事は出来ない。
弱い心で彼女に応じるのは失礼だと思っていたし、「逃げ」の様で小さな誇りが許さなかった。
バーティフューラーを縛る権利を、今のラビゾーは持たない。
待っていてくれと言う事も出来ない。
何時か彼女は他の男を見付けて、離れて行ってしまうかも知れない。
それは悲しいが、そうなっても仕方無いと思っていた。

27:創る名無しに見る名無し
14/12/15 18:37:15.57 K8aByIrR
バーティフューラーは布団に潜り込み、照明を消して、ラビゾーを呼び寄せる。

 「ラヴィゾール、こっちに来て。
  手を取って」

ラビゾーはベッドの脇に腰掛け、バーティフューラーと互いの左手を繋いだ。

 「ラヴィゾール、アタシ達、村では付き合ってたよね?
  覚えてる?
  アンタはアタシに捧げられた、生け贄で―」

 「違いますよ、生け贄なんかじゃありません」

 「うん……、そうだね。
  アタシ、アンタと一緒で楽しかった」

バーティフューラーは魅了の能力を持つために、禁断の地の村では避けられていた。
そこに宛てがわれたのがラビゾーで、彼と共に居る間は、バーティフューラーも村人と交流出来た。

 「……外(こっち)は、どうですか?」

 「アタシは外道魔法使いだから。
  やっぱり、少し寂しいかな……」

 「他に良い人は見付かりませんか?」

 「顔が良くて、お金持ちで、紳士的で、そんな男なら一杯居るわ。
  実際に付き合いもした。
  でも、アタシが外道魔法使いだと知っても、受け容れてくれるかな?」

共通魔法社会では、外道魔法使いは良い目で見られない。
どこに居ても、バーティフューラーは孤独なのだ。

28:創る名無しに見る名無し
14/12/16 18:38:21.74 jBw2oQxa
ラビゾーは慰めの言葉を掛ける。

 「バーティフューラーさんなら、受け容れてくれる男の人も居ますよ」

 「そうね、アタシの魔法があれば、断れる男なんて居ないわ。
  アタシを拒める男なんて―……。
  でも、それじゃ駄目なのよ、ラヴィゾール。
  言い成りの奴隷が欲しいんじゃないの」

 「難儀ですね……」

 「アンタも人の事は言えないでしょう?」

ラビゾーが答に窮して苦笑いすると、バーティフューラーは意地悪く笑った。
彼女は目を閉じて、安らかな表情で続ける。

 「……何だか、可笑しいね。
  ラヴィゾール、こうして傍に居てくれるのって、初めてなんだよ?
  あんなに一緒に居たのに。
  アタシ、もっと近い積もりだった」

禁断の地の村で、ラビゾーとバーティフューラーは毎日の様に会っていたが、
互いに踏み込む事は無かった。
それは何年も前の話……。

 「あの頃は何も不足に感じていなかったの。
  太陽が見ている間、一緒に居るだけだったのに……。
  若かったのね」

ラビゾーと出会ったばかりのバーティフューラーは、未だ少女と言える年齢だった。
今でも素顔は然程変化無いのだが、心とて同じ儘ではない。

29:創る名無しに見る名無し
14/12/16 18:42:25.29 jBw2oQxa
バーティフューラーは目を閉じた儘、深呼吸を1つして、ラビゾーに問い掛ける。

 「アンタは……どうだったの?
  アタシと一緒に居て……。
  アタシの事、どう思ってた?」

繋いだ手から、彼女の脈が早くなっているのが伝わり、ラビゾーは申し訳無く思った。
望まれているだろう答を、彼は口には出せないから。

 「……バーティフューラーさんは、楽しそうでした。
  だから、それで良いと、僕は思っていました」

 「そう……。
  そうね、アンタもアタシも、『それで良い』と思っていた。
  肌や唇を重ねるだけが、愛じゃない物ね……。
  でも……」

バーティフューラーは深い溜め息を漏らす。

 「んーん、良いのよ、別に良いの。
  今の関係を、ずっと続けるなら、それはそれで。
  アタシがアンタに飽きるまで……」

彼女は独りで納得する。
それは本当に言いたい事を押し止めて、強引に自分に言い聞かせている様だった。

30:創る名無しに見る名無し
14/12/16 18:44:01.39 jBw2oQxa
本心は違うだろうと、ラビゾーは感じた。
今の儘で良いなら、態々家に誘ったりしない。
では、バーティフューラーは自分を何だと思っているのだろうか?
そう尋ねようとして顔を窺うと、彼女は既に静かな寝息を立てていた。
やはり聞かない方が良いと思い止まり、ラビゾーは肩の力を抜く。
バーティフューラーはラビゾーの手を確り握っていて、起こさずには放せそうに無い。
己の腑甲斐無さに、胸が痛い。

 (どうしよう……。
  寝付いた所で、起こすのも悪いし……)

ラビゾーは何針も迷った後、仕方無く、跪く様にベッドの端に寄り掛かった。
少々寝苦しくはあったが、やがて睡魔の方が勝り、深い眠りに落ちる。
そして、彼は夢を見た―……。

31:創る名無しに見る名無し
14/12/16 19:20:47.24 jBw2oQxa
場所は、どこかの魔法学校。
その日は実技の授業があった。
皆が魔法を使える中で、自分だけが魔法を使えない。
呪文を何度も確認し、詠唱と描文を繰り返す。
……やはり魔法は発動しない。
教師や同級生の憐れむ様な視線が刺さる。
焦燥ばかりが募り、集中力を乱す。

 「大丈夫?」

誰かが優しく声を掛けて来る。
視線を上げれば、深い青髪の女の子。

 「ここは、こうして―」

彼女はお手本を見せてくれる。
青い魔法色素が綺麗な、誰よりも華やかで美しい人……。
呆と見惚れるも、直ぐに気を取り直す。

 (これじゃ行けないんだ!
  彼女の厚意に甘えてばかりいられない!
  もっと努力して、魔法が上手くならないと!
  僕は立派な魔導師になる!
  そして、何時かは君に―)

何度も何度も魔法陣を描く。
呪文は合っている筈なのに、全く魔法は発動しない。
泣きそうになるのを堪える。

 (こんな所で躓いてはいられない!
  泣いてる暇があったら、走れ!
  止まるな、膝を突くな!
  僕は……)

懸命の努力も虚しく、皆の影が遠ざかって行く。
最後は自分独りになる。

32:創る名無しに見る名無し
14/12/16 19:26:26.25 jBw2oQxa
横合いから、「仲間」が優しい言葉を掛ける。

 「もう良いんだ。
  よくやった」

 (良い物か!
  何が『良い』んだ!?
  『良い』って何なんだよ!)

 「向いてないんだって」

 (そんな事は解ってる!
  でも、認められるか!
  認めて堪るかっ!)

 「諦めて楽になりなよ。
  誰も君を責めやしない」

 (未だ、未だ、出来るんだ!
  やり切っていない!
  頼むから、黙っててくれ!
  最後まで意地を貫かせてくれ!)

皆、悲しい目をしている。
自分に同情している。
違うのだ。
必要な物は、「それ」ではない。
「十分だ」、「頑張った」、そんな慰めの言葉は聞き飽きた。
憐れみも承認も感動も要らない。
だから、実力が欲しい。
人並みで良いから、才能が欲しい。
時間は有限で、誰も自分を待ってはくれない。

33:創る名無しに見る名無し
14/12/16 19:45:50.93 jBw2oQxa
後から又、人が来る。
後輩達だ。

 「先輩、未だ残ってるんですか?」

 (こうでもしないと、僕は這い上がれないから……)

 「私だったら、諦めてしまいます。
  尊敬します」

 (良いんだ、そんな事は言わなくて!)

 「どうして、そこまで?」

 (……言える訳が無い)

だが、そんな後輩達にも追い越されてしまう。
魔法は未だ発動しない。
又しても、独りになる。
疲れも、痛みも、何も苦にはならない。
それで魔法が上手くなるのなら。
しかし、現実は違う。
幾ら自分を追い込んでも、何にもならない。
望みは唯一つ、魔法が上手くなりたい。
それが叶わぬばかりに、苦しい思いをしなければならない。

 「どうして僕じゃ駄目なんだ!
  どうして僕は出来ないんだ!
  どうして僕は――」

余りの苦しさに耐え兼ねて、泣きながら叫んだ時、目が覚めた。

34:創る名無しに見る名無し
14/12/17 19:50:09.75 u13rIIGg
周囲は仄明るく、朝の気配。
ナイトガウン姿のバーティフューラーが、ベッドの上から、心配そうにラビゾーの顔を覗き込む。

 「大丈夫?
  凄く魘されてたけど……」

ラビゾーは安堵すると同時に、恥じ入った。
夢とシンクロして、現実でも涙を流していた事に気付いたのだ。

 「だ、大丈夫、大丈夫です」

彼は慌てて涙を拭い、取り繕う。
同時に、眠る前までは繋いでいた筈の手が、放れている事に気付いた。
怪訝そうな目付きのバーティフューラーに、ラビゾーは言い訳する。

 「嫌な夢を見たので。
  でも、所詮は夢ですから」

 「フーン……、どんな夢?」

何気無く尋ねて来たバーティフューラーに、ラビゾーは俯くばかりで答える事が出来なかった。
余りにも……余りにも、惨めで恥ずかしい夢だったのだ。
あれが真実の過去なのか、それとも断片的な情報を繋ぎ合わせただけの悪い夢なのか、
ラビゾーには判らない。
だが、単なる夢だと捨て置く事は出来なかった。
彼が魔法学校に通っていた事と、魔法資質の低さに悩んでいた事は、間違い無い「事実」なのだ。
安易に両者を結び付ける事は出来ないが……。

 (あの青い魔法色素の子に憧れて、僕は魔導師を目指していたのか?
  そして、追い付けないと諦めて……。
  駄目だ、顔も声も名前も思い出せない。
  彼女は実在したのか、それとも……)

禁断の地で暮らしてから、ラビゾーの記憶は風化が進んでいる。
それは本当に、師に名前を奪われたからなのか、それとも自分が忘れたかったのか……。
魔法資質が低い者が、魔導師になる道は険しい。
盲が絵描きを、聾が歌手を志すが如く。

35:創る名無しに見る名無し
14/12/17 19:51:24.28 u13rIIGg
バーティフューラーはベッドから出て、ラビゾーの前で着替え始める。
ラビゾーは俯いた儘で、バーティフューラーに確認した。

 「寝ている間、僕は変な事を口走りませんでしたか?」

バーティフューラーは僅かな間を置いて、否定する。

 「別に……」

 「本当に?」

 「譫言みたいに、『どうして、どうして』って寝言ってたけど?
  それだけよ」

 「そう……ですか……」

 「どんな夢だったの?」

バーティフューラーの2度目の問いに、ラビゾーは重い口を開いた。

 「魔法が使えない夢です」

 「……御免ね」

ラビゾーの魔法資質が低い事は、バーティフューラーも理解している。
それが「魔法使い」にとって、どれだけ致命的な欠陥なのかも。

 「謝らないで下さい。
  もう何とも無いですから。
  高が夢の話です」

ラビゾーは努めて明るく振舞ったが、嘘は明白だった。

36:創る名無しに見る名無し
14/12/17 20:02:13.59 u13rIIGg
普段着に替え終わったバーティフューラーは、未だ跪いた姿勢のラビゾーの背に、
覆い被さる様に抱き付く。

 「ラヴィゾール、無理に自分の魔法を見付ける必要は無いんじゃない?
  辛くなるだけなら―」

彼女の甘い囁きに、ラビゾーは猛烈な悪寒を感じた。
それは夢と全く同じ、諦めを促す響きだった。
ラビゾーは今更ながら、あの夢が現実ともリンクしている事を悟った。
或いは、夢の内容は真実の過去で、今の自分は同じ轍を踏もうとしているのかも知れない。
それなら進む先には絶望しか無いのだろうかと、ラビゾーは愕然とする。

 「ラヴィゾール?」

バーティフューラーに気遣われ、彼は自らを奮い立たせた。

 「ラビゾー、それでも僕は…………。
  いえ、『だから』僕は、今度こそ自分の手で未来を掴む必要がある……のかも、知れません……」

ラビゾーの目には再び生気が宿っていた。
もし、あの夢が真実なら、師は再び立ち上がる機会を与えてくれたのではと、思い直したのだ。

 「大丈夫です、放して下さい」

肩に絡むバーティフューラーの腕を解き、ラビゾーは気丈に告げる。

37:創る名無しに見る名無し
14/12/17 20:07:15.96 u13rIIGg
そうは言っても、直ぐに解決する問題ではない。
前向きになった位で、全てが上手く行くなら、もう疾っくに彼は自分の魔法を見付けている。
バーティフューラーは未だ気懸かりな様子だったが、ラビゾーを信用して身を離した。
そして、話題の転換に、自分が見た夢の話を始めた。

 「夢なら、アタシも見た」

 「どんな夢だったんです?」

ラビゾーが乗ると、彼女は目を閉じて、思い返す様に語る。

 「不思議な夢だったわ……。
  どう言えば良いのかなー?
  何かね、妖精の国みたいな、浮わ浮わーっとした所でー、アタシは女王様なの」

 「女王様って……。
  お姫様じゃなくて?」

ある意味、魅了の魔法使いのバーティフューラーらしいと、ラビゾーは内心で呆れた。

 「そうよ、女王様。
  国で唯一の大きな城で、アタシは貝に閉じ篭もって眠っているの。
  沢山の妖精の家臣達に囲まれてね。
  そう言う夢、実は何回も見るんだ」

 「はぁー……。
  眠り姫みたいですね」

可愛らしい少女趣味な夢を見るのだなと、彼は意外そうに息を吐く。

38:創る名無しに見る名無し
14/12/17 20:12:54.83 u13rIIGg
バーティフューラーは尚も続ける。

 「そう、それそれ、眠り姫。
  家臣達は、アタシが目覚めるのを待ってるの。
  アタシも起きたいと思うんだけど、体が動かなくて。
  心配そうにしてる家臣達に、アタシは何時もテレパシーで、『もう少し待って』って言ってた」

「何時も」と「言ってた」の組み合わせに、ラビゾーは違和感を覚える。
過去完了形だ。

 「昨夜は違ったんですか?」

 「……『もう直ぐだ』って答えてた。
  『私を目覚めさせてくれる人が居る』って」

意味深に目配せをするバーティフューラーに、「それは誰?」と尋ねる勇気はラビゾーには無かった。

 「はー、不思議な夢ですねー」

彼が逸らかすとバーティフューラーは不満そうな顔をした後、エプロンを身に着けて、
朝食の用意をしにL&Dルームへ向かう。

 「手伝いましょうか?」

立ち上がるラビゾーを、彼女は制した。

 「要らないわ。
  勝手の分からない人が居ても、邪魔になるだけよ。
  賢い犬の様に、行儀良く待ってなさい」

反発する気概も無く、その通りラビゾーは言い付けを守るのだった。

39:創る名無しに見る名無し
14/12/17 20:13:41.18 u13rIIGg
結局、一夜を共にしても、2人に具体的な進展は無かった。
しかし、互いの心理的な距離は確実に縮まっていた。
2人は又、それぞれの日常に戻るが、何度でも落ち合うだろう。
ラビゾーが己の魔法を見付ける、その時までは……。

40:創る名無しに見る名無し
14/12/18 20:31:29.62 3EdRC4HJ
北の遺跡


ガンガー北極原 氷下壕にて


ガンガー北極原の氷下壕は、旧暦四大遺跡の一にして、遺跡巡り最大の難所。
極北人のイグルーから、無人の大氷原を、更に北東に移動した所にある。
ガンガー北極原は厚い氷が大地を覆う、年中吹雪が止む事の無い、極寒地獄。
極北人のイグルーを除いて、休憩地点となる様な集落や施設は無く、動物さえも見掛けない。
魔法暦全体を通しても、この氷下壕を訪れた者は少ない。
過去に魔導師会が調査した結果、「よく分からない所」と結論付けられた事が、全てを物語っている。
この不可思議な遺跡を、サティ・クゥワーヴァが調査に訪れたのは、8月の事。
単独で氷下壕を調べてから、ガンガー山脈の頂に挑むと言う、常識的には考えられない、
無謀な予定を彼女は熟す積もりだった。

41:創る名無しに見る名無し
14/12/18 20:34:45.97 3EdRC4HJ
氷下壕の外観は、氷雪に埋もれた小さなイグルーである。
吹雪の中、これを発見するのは困難で、サティも探査魔法を使いながらでなければ、
辿り着けなかった。
いや……、如何に優秀な魔法資質を持ち、探査魔法を使えたとしても、単独で辿り着く所からして、
既に異常なのだ。
極寒の冷気は、魔法の発動に必要な精密な動作に加えて、思考力、判断力、そして体力を、
容赦無く奪う。
極北人のイグルーから氷下壕までは、最短距離でも半旅弱。
帰還も考慮すれば、食料と体力には十分な余裕を持っていなければならない。
真面な判断ならば、数人掛かりの集団で、入念な準備をする。
しかし、サティは衣服と調査資料以外、殆ど何も持たなかった。
全く飲まず食わずで、相応の防寒具さえ無く、サティは氷下壕に辿り着いた。
集めた魔力で体を動かすと同時に、空気を纏って冷気を断つ。
真実に近付いた彼女の魔法資質は、嘗て無い程、極まっていた。

42:創る名無しに見る名無し
14/12/18 20:41:11.20 3EdRC4HJ
氷下壕の入り口は、宛ら天然の洞穴。
如何なる構造か、内部から微風が吹いて、風に舞う雪の進入を拒む為に、
入り口が氷雪で埋まる事は無い。
サティは荒れ狂う風雪から逃れる様に、内部に足を踏み入れる。
当然、照明等と言う物は無く、真っ暗。
先ず彼女が感じたのは、異質な魔力の流れ。
自然に乱れているのではなく、共通魔法とは異なる魔力の流れがある。
探査魔法が数身程度しか効かない。

 (遺跡全体に、魔力が作用している……。
  構造的な物?)

サティは明かりの魔法と探査魔法を同時に使い、慎重に歩みを進める。
断面2身平方の四角い通路の内壁には、奇怪な幾何学文様が描かれている物の、
それ自体には魔力の流れは感じない。
果たして、誰が何の目的で造ったのか……。

43:創る名無しに見る名無し
14/12/19 18:52:03.96 NZa3Te6+
通路は石造で、菱形に成形されたブロックを積み上げてある。
幾何学的な文様は、このブロックの配置による物だと判る。
ブロックは隙間無く積まれている物の、大きさや形は微妙に不揃い。
適当に積んだ後で、隙間を小さなブロックで埋めたと予想される。
この事から、建造当時の技術レベルは然程高くなかったと読み取れる。
だが、環境の為なのか、材質の為なのか、摩耗や劣化は殆ど見られない。
通路は直ぐに行き止まりになり、その代わりに地下へと続く階段が現れた。
ここまで何の気配も無い。
サティは一応、階段を照らして、目視でも観察する。
緩い風が階下から吹き上がって来る。
一段ずつ静かに降り、次の階の『床<フロア>』が見えた所で、彼女は通路の脇に塊を発見した。
明かりを向けたサティは目を見張る。

 (ミイラ……!)

それは人の死体だった。
冷気の為に腐敗が進行せず、乾燥して骨と皮だけになっている。
衣服は不自然に軽装で、その首には小さなプレートが掛かっていた。
サティは屈み込んで、プレートを検める。

44:創る名無しに見る名無し
14/12/19 19:02:10.32 NZa3Te6+
彼女の予想通り、それはタグ・プレートで、古風な文章が刻まれていた。

―勇敢なる魔導師 アシハ・ダルジーア 極寒の地に死す。
―前途有る者の 志半ばに倒るる 無念を悼む。
―其の御霊 安らかなる事を祈り、願ふ 後達を見守り給へ。
―後達 若し此人 見留めさば 祈り捧げ賜らむ。

 (……昔の調査隊の人?)

恐らくは、調査の途中で力尽きたのだろう。
目立った外傷は無く、凍死と思われる。
所持品は仲間が持ち帰ったので、この様な薄着なのだ。
更にプレートの裏側にも文字が刻まれている。

―畏る可きは氷の死神 一夜にして生者を屠る。
―影は人声を真似 迷路に我等を誘ふ。
―努 本旨を忘るる勿れ。
―用果たさば 速やかに退出す可し。

 (氷の死神……)

極寒の暗喩だろうかと、サティは首を捻る。
ここは不気味ではあるが、今の所、恐ろしさは感じない。
要するに、長居するなと言う事なのだろうが……。

45:創る名無しに見る名無し
14/12/19 19:06:21.42 NZa3Te6+
取り敢えず、サティは死体の前で黙祷した。
そして、再び探索を始める。
地下1階は通路の幅こそ変わらないが、上階と比較して明らかに広い。
5身毎に交差点が並び、全体像が中々把握出来ない。
その上、「全く」何も無い。
装飾や小物は疎か、部屋や窓の一つも無いのだ。
延々と通路が続くのみ。
暫く歩くと、更に地下へと降りる階段が見付かる。

 (少なくとも、住居ではない。
  宗教施設かな?
  旧暦の王墓とか……)

地下の不気味さにも慣れて来たサティは、警戒を少し緩めて、地下2階へ向かう。
過去の調査でも、この氷下壕は構造その物より、極地の環境の方が危険視されていた。
冷気や空腹を問題にしない、今のサティにとっては、安全に等しい。

46:創る名無しに見る名無し
14/12/20 17:55:15.25 5XgxLV+9
暫く探索した結果、地下2階は地下1階よりも更に広い事が判明した。
構造から想定される平面積は、地下1階の約2倍。
恐らく、氷下壕の全貌は錐状と予想される。
「努、本旨を忘るる勿れ、用果たさば、速やかに退出す可し」との警告を、サティは思い出す。
成る程、常人が限られた備品で、全てを調べて回るのは困難を極める。
地下何階まで続いているかは不明だが、更に下の階があるなら、より広くなっているに違い無い。
旧暦の建造物が、魔法大戦による大陸沈没で、地中に埋まってしまったのだろうか?
それにしても、これ程の物を極地に建造するとは正気ではない。
魔法大戦は全ての大陸を海に沈めたと言うが、そればかりでなく、急激な地殻変動まで、
引き起こしたのか?
将又、遙か昔の建造物が、通常の大陸移動によって、緩やかに北へと移動したのか?
疑問は尽きない。
流石、魔導師会が公式に、「よく分からない所」と結論付けただけはある。
―ならば、自分が真実を解き明かそうと、サティは一層探究心を燃やした。

47:創る名無しに見る名無し
14/12/20 18:08:51.26 5XgxLV+9
サティが何故、この遺跡を探索しているのかと言うと、純粋な好奇心以外に無い。
敢えて理由を付けるとすれば、それは約3年前に断念した、「禁断の地」に再挑戦する為。
共通魔法の支配を受けない、化外の地に慣れる訓練。
それは誰かに頼まれた訳でもなく、況して任務でもない。
彼女は古代魔法の研究の為に、僻地を含めた大陸全土の民俗調査を行う名目で、
古代魔法研究所から出張許可を貰っている立場。
寄り道も1〜2日程度なら、羽休めと大目に見て貰えるが、それ以上道草を食っていると、
誤魔化しは効かない。
氷下壕の探索は、学術的な調査と言い張れなくもないが、監視も付けられない遙か北の、
僻地に在るのを良い事に、無許可で侵入したと知られては不味い。
よって、真実を知ったとしても、独り胸の内に収める事になる。
……それでも良いのだ。
『現生人類<シーヒャント>』の秘密を知った、今のサティにとって、真実以上に価値のある物は無い。


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