【作家】三島由紀夫「 ..
[2ch|▼Menu]
845:名無しさん@恐縮です@\(^o^)/
17/01/13 09:21:44.74 nvIEKR630.net
「電信柱」

お家のお庭向きのへいの前に小さい道がある。
そしてそこに木でできた電信柱が立つてゐる。今日の噺はその電信柱の電線の噺である。
ある春の日、僕は縁側に座蒲団をしいて日向ぼつこをしてゐた。
その日は勉強もなかつたし、又遊ぶ事もなかつた。
それでなんの気もなくその電線をながめてゐた。するとそこへ、三羽の雀がさへづりながらとんできた。
三羽の雀はふとその電線の上へ停つた。そして鬼ごつこでもするやうに電線の上を飛び廻つたのだ。
その度に電線はゆらゆらとゆれた。そのとき電信柱は、
「雀さん、そんなに体の上を飛び廻つてはいたいですよ」
とでも云つたのだらう。三羽の雀は又話をしながらとんでいつた。

それから月日はたつて八月になつた。
八月といへば暑いさかりである。
僕はハンカチーフで汗をふきふきシロップを飲んでゐた。
その時、僕の頭に浮かんだのは、あの春の日のことであつた。
今度は帽子をかぶり庭にでてその電線をみてゐた。
するとそこにはいつの間に来たのか沢山の小鳥が電線の上にとまつてゐて、大きな声をはりあげて歌をうたつてゐた。
あげは蝶や黄色虫が小鳥のまはりをとんでゐる。
樅(もみ)の木や杉の木や松などが歌に合はせて踊るやうに葉をうごかしてゐた。
お向ひの物干の青竹が笑ふやうにして云つた。
「電線さんおにぎやかですね」

平岡公威(三島由紀夫)9歳の作文


次ページ
続きを表示
1を表示
最新レス表示
スレッドの検索
類似スレ一覧
話題のニュース
おまかせリスト
▼オプションを表示
暇つぶし2ch

305日前に更新/331 KB
担当:undef