ロスト・スペラー 4 at MITEMITE
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135:創る名無しに見る名無し
12/05/21 18:50:21.72 vz2ksA2U
貧民街を訪れる者は、決して多いとは言えない。
乞食は人の施しだけでは生きて行けない。
盗人も人から物を盗るだけでは生きて行けない。
乞食も盗人も、普段は空いた土地で適当に作物を育てたり、川で魚を釣ったり、ネズミや野良猫、
野良犬、鳥等を獲って、飢えを凌ぐ。
中には、乞食や盗人の集団に属しながら、一切稼業に手を出さない者も居る。
そう言った者達の、集団内での扱いは、各集団によって異なる。
朱に交わろうとしない者として、軽蔑される所もあれば、貴重な生産者として、尊重される所もある。
不法組織に所属する外者は、法の庇護が無いのを良い事に、貧民街で暮らす者達を、
戯れに虐げる事があり、基本的に嫌われている。
法に守られない為か、貧民街の者は、都市法よりも集団内での規律を重視し、特に自分達の縄張りで、
都市法や一般常識を持ち出される事を、激しく嫌う。
……とは言え、貧民街も都市の一部であり、そこは間違い無く、都市法の支配下である。
その為、貧民街で暮らす者達は、一般人には強気に出られるが、官公の人間には弱い。
不法組織の摘発で、都市警察が乗り込む際には、貧民街はゴースト・タウンの様になる。

136:創る名無しに見る名無し
12/05/22 19:30:36.65 A5GI85Wv
馬鹿


第四魔法都市ティナー ティナー中央魔法学校にて


ヒュージ・マグナは、ティナー中央魔法学校の中級課程に通う男子学生である。
本人は魔導師になる気は無かったが、それなりに魔法の才能があったので、両親の希望で、
魔法学校に通わされた。
今でも上級課程にまで進む気は無く、中級をクリアしたら、そこで卒業する積もりでいる。
熱意の無さは、授業中の態度にも表れており、隙あらば笑いを取ろうと、冗談に走る。
その剽軽な性格は、人を惹き付け、男女を問わずクラス内の人気は高いが、一方で、
真面目に授業を受けたい者にとっては、少々障りになる存在でもある。

137:創る名無しに見る名無し
12/05/22 19:33:51.77 A5GI85Wv
その日は、中級課程の魔導工学の授業で、魔力伝導物質の特性実験が行われていた。
中級校舎内の実験室で、出席番号順に4人1組の班に分かれ、班毎に魔力伝導物質が渡される。
魔導合金線、不動鉄線、鋼線、銀線、銅線、魔導ゼリー、水、そして中空のストロー・チューブ。
目的は、真空を1とした時の、各々の魔力伝導係数を、実験により導き出せと言う物。
魔力伝導物質を用いて、簡単な魔法陣を描き、発動した魔法の効果から、
どの程度効率的に魔力が伝わっているかを見る。
実験する際の重要なポイントは3つ。
正確な呪文完成動作で、魔力の使用量を一定にする事。
魔力量による効果の変化が、判り易い魔法を使う事。
微妙な魔力の変化を正確に捉えられる、高い魔法資質を持っている事。
それなりの魔法知識と魔法技術、魔法資質を持っていれば良いので、実験としては、
困難と言う程ではない。
逆に言うと、どれか1つでも欠けていると、中々成功しない。
魔導工学は、修得が義務付けられている科目の1つで、共通魔法の実技とは余り関係無いが、
幾ら技能に秀でていても、基礎的な知識と、それを活かす事が出来る賢さが備わっていなければ、
卒業は認められない。

138:創る名無しに見る名無し
12/05/22 19:35:42.84 A5GI85Wv
ヒュージ・マグナの所属する班は、早々に実験を成功させて、レポートを提出したので、
時間を持て余した。
実験が終わった班と、終わっていない班は、半々位。
実験が終わった班は、他班を手伝うなり、さっさと帰るなり、何をしようと自由だが、
ヒュージは受けを狙って、実験中考えていた事を、実行に移す。
先ずは、担当教師に尋ねた。

 「コノハ先生、この魔導ゼリーってのは、食えるんですか?」

 「ゼリーはゼリーでも、食べ物じゃないから、止めなさい」

 「毒でもあるんですか?
  食べると死ぬとか?」

 「死ぬ様な事は無いけど……」

それだけ聞くと、ヒュージは不敵に笑う。

 「じゃあ、大丈夫ですね」

そして、実験台の上に立ち、魔導ゼリーの入ったビーカーを持って、高く掲げた。

 「さァさァ、お集まりの皆々様、篤と御覧じろ!
  この58番(※)、ヒュージ・マグナが、ここな魔導ゼリーを飲み干してくれよう!」

多くの学生が何事かと驚く中で、ヒュージをよく知る友人と、教師だけは、呆れている。


※:出席番号

139:創る名無しに見る名無し
12/05/23 19:00:29.31 4YZ9wY3o
そこで同班の男子学生、ヒュージの友人であるシューロゥが、彼を止めに掛かった。

 「何やってんだよ、止めとけって!
  お前、ゼリーと言えば食い物しか知らないの?
  昼飯前で腹減ってても、そこは我慢しようぜ」

 「心配するな。
  毒は無いと、先生が言った」

 「そう言う問題じゃねーって!!」

いや、それは制止の言葉ではない。
前振りだ。
シューロゥは本気で止めようとはしていない。
その証拠に、必死なのは口先だけで、表情は半笑いである。
ヒュージはビーカーの中身を凝視しながら、数度深呼吸をした後、ぐっと目を瞑って魔導ゼリーを仰いた。
ぐびぐびと4、5回嚥下すると、空になったビーカーを掲げて、「ッハァー!」と息を吐く。
喉を潤す一杯が堪らないと言った表情を浮かべ、得意気にしていたのは、束の間……。
次の瞬間、口元を押さえて蒼褪めた彼は、実験台から飛び降りて、側の流し台に顔を突っ込み、
一度は胃に納まった物を、全部吐き戻した。

 「う゛ぅえ゛ぇえ!!
  ゲホッ……不味っ!
  ゴホッ、ゴホッ……」

 「お前、本当に阿呆だな」

まるで、こうなる事を予見していたかの様に、シューロゥは手際良く水を流しつつ、
ヒュージの背中を擦る。
噎せ込み、苦しんでいるヒュージに対して、コノハ教諭は冷めた一言を掛けた。

 「お昼前で良かったな、ヒュージ君」

他の学生達の反応は十人十色だ。
爆笑している者もあれば、呆れ果てて物も言えない者も、下らないと無視する者も居る。

140:創る名無しに見る名無し
12/05/23 19:03:26.41 4YZ9wY3o
漸く落ち着いたヒュージは、布巾で顔を拭った後、コノハ教諭に涙声で訴えた。

 「コノハ先生、不味いなら不味いって、先に教えて下さいよぉ……」

 「だから『止めなさい』と言ったじゃないか……。
  本当は、こうなると分かっていたんだろう?
  君の芸人魂には感服するよ」

 「いやいや、分かってませんでしたよ?」

素っ呆けるヒュージの頭を、シューロゥが軽く叩く。

 「どんな言い訳だよ!?
  食い物じゃないんだから、不味くて当たり前だ!」

ヒュージは叩かれた頭を押さえて反論した。

 「いやいやいや、よく考えてくれ、シューロゥ……。
  食い物じゃない事と、不味い事は、一見関係ありそうで、実は関係無いんだ。
  例えば、墨は食い物じゃないが、舐めると甘い味がする。
  ……詰まり、そう言う事だ」

 「どう言う事だよ!?
  っつーか、墨は甘くねーよ!
  さらっと嘘吐くな!!」

2度叩かれて、ヒュージは驚いた顔をする。

 「えっ、お前舐めた事あんの?」

 「舐めたくて舐めたんじゃねーよ!!
  物の弾みって言うか、何かの間違いで偶々口に入っちまったんだ!
  そう言うのって、誰にでも覚えがあるっつーか……、寧ろ無い方が変だろ!?」

 「無いわー。
  何、常識みたいに語ってんの?」

 「あるって!!」

 「それなら、俺が魔導ゼリーを飲んでしまったのも、何かの間違いだな」

 「お前のは、思いっ切り故意だったじゃねーか!!
  間違ってるのは、他の何でもなくて、お前の頭の中身だよ!!」

ヒュージとシューロゥの漫才に、実験室で徐々に笑いが拡がる。

141:創る名無しに見る名無し
12/05/23 19:04:43.67 4YZ9wY3o
これ以上続けられては、実験の妨げになると思ったコノハ教諭は、両手を叩き合わせて、
2人を止めに動いた。

 「そこまでにしなさい。
  未だ終わってない人の事も考えて」

しかし、ヒュージは止まらない。

 「待って下さい、コノハ先生。
  俺は真面目ですよ」

 「真面目って、お前……」

突っ込み疲れて、シューロゥは溜め息を吐いた。
もう付き合い切れないと、彼は持ち物を片付けて、実験室を後にする。
それに構わず、ヒュージは続けた。

 「先生が何を言っても、それは『俺の体験』じゃないでしょう?」

 「本気で言ってる?」

訝し気にコノハ教諭が訊ねると、ヒュージは真顔で頷いた。
その様子を見て、彼女は微笑みながら言う。

 「それは探究心だよ。
  君は中々面白い性格をしているな。
  将来、優秀な研究者になれるかも知れないぞ」

 「冗談!
  俺は魔導師になる気なんて無いですよ」

しかし、ヒュージは自分の将来に関わる、この手の話が苦手だった。
彼は教師の言う事に耳を傾けようとせず、逃げ出す様に話を切って、そそくさと立ち去る。
儘ならぬ物だなと、コノハ教諭は小さく笑った。

142:創る名無しに見る名無し
12/05/23 19:05:45.55 4YZ9wY3o
「魔導ゼリーと言えば、私が子供の頃には、魔導ゼリーの菓子が流行っててな……」

「今も売れてますよ?」

「違う違う。それじゃなくて、その前の。販売差し止めになった奴。あれは本当に酷い味だった」

「何年前の話ですか?」

「……そんな事は、どうでも良いだろう。この話は止めだ」

「えぇー」

「終わりったら、終わり! 早く実験を済ませなさい」

143:創る名無しに見る名無し
12/05/24 20:50:34.39 R7f85eow
「知っている道を行け」―唯一大陸では、この言葉は、「急がば回れ」の意味で使われる。
「急いでいる時こそ、堅実に立ち回るべし」と言う教えだ。
「知らない道には、未知の危険が潜んでいる」と言う教えでもある。
もう1つ、「人に訊けども頼めるな」と言う諺もある。
こちらは、「困った時は人に尋ねるべきだが、頼ってはいけない」と言う意味。
解決の方法を尋ねる事はあっても、解決その物を任せてはならない。
「何事も独力で為せ」と言う教えである。

144:創る名無しに見る名無し
12/05/24 20:54:59.89 R7f85eow
第四魔法都市ティナー繁華街 アーバンハイトビルにて


アーバンハイトビルは、ティナーの繁華街で普通に見られる、雑居ビルの一である。
この3階には、L&RCと言う会社の事務所がある。
L&RC(Love and Romance Consulting room)とは、恋愛相談所の事。
社長イリス・バーティと、事務社員2名の、小さな会社である。
社長を含め、全員が女性の会社で、当然相談者も女が多い。
ある日、この会社に子連れの男が訪れた。
接客の女性社員リェルベリー(※)が応対に出ると、男は社長を呼んでくれと言った。

 「お客様、本日は未だ始業時刻前ですが……御予約は?」

 「お客じゃありません。
  取り敢えず、社長を呼んで下さい。
  ラビゾーと言えば、伝わると思うので」

 「……何の御用か、お教え願えませんか?」

 「個人的な用事なんです」

 「そうは仰られましても……」

 「時間外なんでしょう?」

 「ここで揉め事は困るんです」

この様な事は過去に何度かあったので、リェルベリーは社長の男絡みの厄介事だと思い込んで、
しつこく事情を問い質そうとしたが、男は一貫して社長の呼び出しを要求し、答えなかった。


※:リェの発音はry(リャ、リ、リュ、リェ、リョ)行。

145:創る名無しに見る名無し
12/05/24 20:56:28.85 R7f85eow
男とリェルベリーが押し問答を繰り返していると、社長のイリスが姿を現した。

 「騒がしいわね……何やってんの?
  って、ラヴィゾール!
  ここにアンタが来るなんて、どう言う風の吹き回し?」

 「あっ、社長!」

イリスは、リェルベリーと男を交互に見詰め、男の方とアイ・コンタクトを取ると、
リェルベリーに向かって言う。

 「リェル、少し外してくれない?」

蔑ろにされた気がして、リェルベリーは軽くショックを受けたが、当事者である社長の頼みなので、
聞かない訳には行かない。
リェルベリーは渋々従う振りをして、隣の部屋で聞き耳を立てた。
この男の姿を見た時、イリスの声が僅かに浮付いていた事を、彼女は聞き逃さなかった。
イリスを追って、事務所に押し入る男は、偶に現れたが、強盗目的でもなければ、彼女が不在であろう、
始業時刻前に、事務所を訪ねたりしない。
リェルベリーの知っている限り、彼女が公私を混同した事は無く、時々事務所に入り浸る事は、
体面の問題もあって、誰にも教えていなかった。
イリスにとって、この男が特別な存在だと言う事は、明らかだった。

146:創る名無しに見る名無し
12/05/25 18:52:29.12 sScnIhFx
イリスは自分からは何も言わず、男が事情を説明するのを待った。
男は気不味そうに頭を掻いて、自信無さ気に小声で言う。

 「今日はバーティフューラーさんに、相談したい事がありまして……」

男に「バーティフューラー」と呼ばれても、イリスは無反応で、ただ彼の言葉を待っている。
男は自分の後ろに隠れている子供を、そっと横に立たせた。

 「この子の事で……、その……、この子の服を見繕って貰えませんか?」

 「……それだけ?
  他に言うべき事があるんじゃないの?」

何か隠し事をしていないか、イリスが嫌に冷めた口調で男に迫ると、子供は彼女を恐れて、
再び男の後ろに隠れる。
男は回らない舌で、必死に弁明した。

 「ああ、ええっと、この子は……何と言うか、一時的に預かっているとでも言いますか……、
  その……保護している……と言えば、良いですか?」

 「アタシに訊かれても、知らないわよ。
  一体どう言う訳なの?」

問い詰められて、男は言い難そうに答える。

 「……拾いました」

 「はぁ!?
  どこで!?」

イリスは眉を吊り上げて、威嚇する様に声を高くした。

 「貧民街で」

萎縮した男が小声で付け加えると、イリスは一層トーンを上げる。

 「馬っっ鹿じゃないの!?
  犬猫飼うのとは違うのよ!?
  アンタ、解ってる!?」

 「……―解っています」

窮した男は一転して、非難の声にも怯まず、イリスの目を真っ直ぐ捉えて言い返した。
その存外真剣な眼差しに、彼女は一時声を失った。

147:創る名無しに見る名無し
12/05/25 19:00:45.90 sScnIhFx
我に返ったイリスは、落ち着いた声で問い直す。

 「それで、どうする積もり?」

 「何を?」

 「そこの子供の事よ。
  アンタの養子にするの?」

 「いえ、先ずは引き取ってくれる所を探そうかと……」

 「無かったら?」

 「その時は、僕が」

そう答えた男の目は、イリスが余り見た事の無い、強い決意が秘められた物だった。
彼女は大きな溜め息を吐いた後、じっと子供を見詰め、再び黙り込んだ。
男は自ら話の続きを始める。

 「―で、街を歩くのに恥ずかしくない服を、この子に買って上げたいんですけど……、
  生憎と僕にはセンスが無い物で……」

 「確かに……アンタ、ファッションとかには興味無さそうだし、そう言うの苦手そうよね」

子供から目を離さず、どこか上の空の様な調子で頷くイリス。

 「そんな訳で、バーティフューラーさんを頼った次第です」

 「はいはい」

彼女は男に視線を戻すと、悪戯っぽく微笑み掛ける。

 「回りくどい誘い方するのね、ラヴィゾール」

男は照れ笑いして頬を掻いた。

148:創る名無しに見る名無し
12/05/25 19:05:07.71 sScnIhFx
イリスは改めて、男の後ろの子供を見詰める。

 「その子、男?
  それとも女?」

そして、性別を尋ねた。
男は困り顔で尋ね返す。

 「……どっちでしょう?」

クイズかと思ったイリスは、当て寸法で答えた。

 「女の子?」

わざわざ自分を頼るのだから、男が苦手とする所だろうと予想。
しかし、彼は平然と答える。

 「いや、知りません」

イリスは目が点になった。

 「……我が子の性別を把握してないとか、親としてあり得なくない?」

 「未だ僕の子供になるとは決まってませんよ」

無責任に聞こえる言い訳に、彼女は表情を険しくする。

 「本気で言ってる?」

 「別に知らなくても困りませんでしたし、余り人の裸を見ると言うのは……」

 「こんな子供の裸を見たから何だって言うの?
  アンタ、ロリショタの気でもある訳?」

 「無いですよ!」

本の冗談の積もりだったが、男が向きになって即答したので、イリスは小さな疑惑を抱える事になった。

149:創る名無しに見る名無し
12/05/26 19:31:14.44 oPYwRbaI
子供は小汚い格好をしていたので、イリスはシャワー・ルームで体を洗って綺麗にしようと、
男から預かろうとした。
初対面のイリスを警戒して嫌がる子供を、男は抱き寄せ、心配無いと囁く。
男に宥められ、俄かに落ち着く子供。
その様子に、イリスは言い知れない不快感を覚えた。
誰が知るだろう……彼女に湧いた感情の正体は、嫉妬である。
男の愛を、欲しい儘に受ける子供に、妬いたのだ。
イリスは過去、何度と無く男にアプローチを掛けた。
しかし、男は尻込みするばかりで、一度も乗って来た事が無い。
男女の恋愛感情と、弱者に向ける同情心、博愛の精神が別物だとは、イリスも知っている。
余り良い思い出ではないが、彼女は男の博愛に救われた事がある。
男が子供に向ける愛情は、それと全く同じ物だろう。
それでも嫉妬した理由は、見ず知らずの子供を守る為に、男が人生を懸けたから……。
心の底では、自分だけを見て欲しいと、叫びたかったのである。

150:創る名無しに見る名無し
12/05/26 19:32:11.98 oPYwRbaI
だが、イリスは言えなかった。
この男は、イリスが知っていた男では、なくなっていた。
男の内面の小さな変化を、彼女は無意識に感じ取っていた。
……この日から数月後、イリスは長年慣れ親しんだ街から姿を消した。
L&RCの経営は、元事務社員のリェルベリーとファアルが引き継ぎ、新たに新入社員を加えて、
細々と続けられている。

151:創る名無しに見る名無し
12/05/27 20:15:36.44 wEeDn7Cp
名前に関する諸法則


地方によって名付けは違うが、ボルガ地方を除いて、多くは名・姓となっている。
その中には、古い習慣が残っている地域もある。
代表的な物は、エグゼラ地方のバルハーテ家。
当主、ミロ・ゾ・イダス・カイ・バルハーテは、「バルハーテの子孫イダスの息子ミロ」の意味。
敬称として、ミロ・ゾ・イダス・カイ・グロス・バルハーテ(大バルハーテの子孫)とも呼ばれるが、
公的機関に登録された正式な名前ではない。
流石に長いので、より短く、ミロ・ゾ・イダス或いは、ミロ・カイ・バルハーテと呼ばれる事が多い。
また、エグゼラ以外の地方では、ミロ・バルハーテの方が通りが良い。
その妻アンバーバラのフルネームは、アンバーバラ・ド・グートス・カイ・ベラル・イル・バルハーテであり、
「バルハーテ家に属する、ベラルの子孫グートスの娘アンバーバラ」の意味。
やはり他地方では、アンバーバラ・バルハーテと表記される事が多かった。
ゾは息子、ドは娘、カイは子孫、イルは所属を表す、北方の一部地域独特の物。
ゾ、ドの後には家主名が、カイ、イルの後には家名(始祖名)が付く。
この家名を姓の代わりにしている。
イルは嫁婿だけでなく、養子にも用いられる。
始祖を名乗って、カイの後に名を残す事は、誰にでも出来る訳ではない。
戸籍管理上、少なくとも財産の相続を一部放棄して、完全に独立した一家の主になる必要がある。
始祖を名乗るのは、男性限定ではないが、女性が始祖を名乗る例は少ない。
カイが付くのは始祖の孫の代からであり、始祖の子にはカイを用いず、ゾ、またはドを付ける。
グラマー地方の北部でも、この方式の名を持つ所がある。

152:創る名無しに見る名無し
12/05/27 20:31:11.17 wEeDn7Cp
カイには功績者名の意味もある。
ミヒェロ・ヴラードV・ゾ・オブシーン・カイ・ヴラード・カイ・エルヴィ(実在の人物)は、
「エルヴィの子孫ヴラードの子孫オブシーンの息子ミヒェロ・ヴラード3世」の意味。
エルヴィの子孫に加えて、ヴラードの子孫と付くのは、ヴラードなる人物が過去に功績を上げた為。
カイが2度入るのは、始祖と区別する為。
功績者が始祖の場合には、カイ・ヴラード・エルヴィ、または単にカイ・エルヴィとなる。
過去の風習なので、現在では功績者名は省かれる傾向にある。
因みに、ヴラード・カイ・エルヴィは初代エグゼラ市長。
エグゼラ地方では全員が全員、この様な名付け方を採用している訳ではない。
ゾ、ド、カイ、イルを用いない家系も普通に見られる。
この時、カイニトフ、カッタジール、カードガン、キリンバール、ケイオール等、姓がカ、キ、
ケで始まる時は、カイの名残である事が多い。
稀にイルラシーン、イリンベリール、イロベロート等、イルが元になった姓もある。
名前がアルトゾ、リフェルゾ、ナイラド、マリナド等、男性名+ゾ、女性名+ドで終わる時は、
明確に子を表すゾ、ドの名残と言える。
名前の後にレド、レダ等の、序列名が付く場合は、基本的には、アルトレッドゾ、
アルトレダッドの様にはならない(稀に付ける親が居る)。
一方で、そう言った伝統とは全く関係無い、普通の姓名(※)もある。


※:例としてストラド・ニヴィエリは、ストラ(女性名)+ドだが、男性である。
  発音上は娘を表すドはdouでありドウ、ドー、ドゥーに近い半長音で、ド(do)、またはドゥ(du)と、
  短く区切る一般の男性名とは、厳密には異なる。
  しかし、細かすぎるので、現地でも殆ど区別されていない。

153:創る名無しに見る名無し
12/05/28 18:29:06.67 Kc0HHYr3
ブリンガー地方の小村オーハにて


執行者ストラド・ニヴィエリは、『蛇男<ウェアスネーク>』を連れて、ブリンガー地方辺境の小村、
オーハを訪れた。
オーハは人口1000人に満たない、最小規模の集落である。
この小村に着いたストラドは、フードを深々と被っている蛇男に尋ねた。

 「なア、蛇男さんよォ……そろそろ見覚えのある風景とか無いのか?」

 「残念ながら……」

ストラドの目的は、蛇男を生み出した、外道魔法使いを逮捕する事。
蛇男の目的は、自らの出生の理由を知る事。
互いの目的の為に、1人と1匹は行動を共にしている。

 「心測法で見えた風景にある植物しか、場所を特定出来る物が無いんだぜ?
  何か感付くとか、思い出すとか、無いのかよ」

 「残念ながら……」

 「何だかなぁ……。
  こんなド田舎まで来て、無駄足でしたって落ちだけは、勘弁願いたい物だ」

蛇男は申し訳無さそうに項垂れた。
蛇男の記憶を心測法で探ったカーラン・シューラドッド博士は、蛇男の過去に関係がありそうな風景を、
呪文に書き留めていた。
そこにブリンガー地方北部の一区域にしか自生していない、希少な植物が写っていた事から、
ストラドと蛇男は、関係ありそうな場所を、虱潰しに探し歩いている最中なのだが……、
オーハ村はティナー地方との境から離れて、カターナ地方との境にある。
これまでストラドと蛇男は、ブリンガー地方の北部を西から東へ移動して来た。
希少な植物の自生域は、ブリンガー地方北東部の山間域に限定されている。
詰まり、オーハ村に何も無ければ、蛇男の記憶にある場所の特定は、かなり難しくなると言う事だ。

154:創る名無しに見る名無し
12/05/28 18:31:52.15 Kc0HHYr3
オーハ村の宿を確保したストラドは、思い出した様に、蛇男に言う。

 「そう言えば、ナイト何とかの話。
  あれは、どうなったんだ?」

宿のベッドの上で、とぐろを巻いて寛いでいた蛇男は、鎌首を擡げて尋ね返す。

 「え、何ですか?」

 「どこだかで言ってただろう。
  夜の、ナイトが何とか……」

何を今頃……と思う蛇男だったが、数日前に言い掛けた些細な事を、気に留めてくれていたのは、
素直に有り難かった。

 「ああ、ナイト・レイスです。
  あれはスファダ村の宿に泊まった夜の事で……、俺は知らない間に外へ誘い出されて、
  ナイト・レイスと名乗る変な人に会いました」

蛇男の話を聞いたストラドは、目の色を変える。

 「手前、それ重要そうな事じゃねえか!!
  何で黙ってたんだ!?」

 「だってストラドさん、下らない事は言うなって……」

 「だからってなァ!
  ―……チッ、まあ良い。
  それでナイト・レイスとやらは、どんな奴なんだ?
  何か言っていたのか?」

蛇男の言い訳に激昂し掛けたストラドだったが、自らにも非があると認めると、直ぐに怒りの矛を収め、
話の続きを促した。

155:創る名無しに見る名無し
12/05/28 18:33:02.77 Kc0HHYr3
蛇男は曖昧な記憶を、必死に想い起こす。

 「どんな奴と言われても、影しか見ていないので、取り敢えず『男』だとしか……。
  でも、奴は俺を何とかの子だと―」

 「お前の正体を知っていたのか!?」

 「それは……分かりません。
  俺もナイト・レイスの仲間だとは、言ってましたが……」

 「ナイト・レイス……夜の人種……。
  そいつが、お前を造ったのか?」

一々ストラドが食い付くので、蛇男は少し得意になった。

 「それは違うみたいです。
  俺が何者かに造られた存在だと知ると、驚いた様子で……俺を見守るとか何とか言って、
  姿を消してしまいましたから……」

ナイト・レイスは、闇に紛れて活動すると言われる、伝説上の亜人種。
復興期では盛んに目撃されていたが、現在では妖獣を見間違えた物として、片付けられている。
気になる事があったストラドは、蛇男に訊いてみた。

 「所で、蛇男よ。
  お前自身は『ナイト・レイス』を知っているか?」

 「いいえ、聞いた事もありません。
  何なんですか?」

 「本当に知らないのか?」

 「え、ええ」

蛇男は最近造られたのだから、昔の事を知らなくても不思議ではない。

 「いや、知らないなら良い……」

ストラドは無言で考え込んだ。
お伽噺を真に受ける訳には行かないが……。

 (ナイト・レイス、ナイト・レイスね……。
  面倒な調べ事は本部に頼るとして、誰か動いてくれるかなぁ?
  自分で全部やれとか言われそうで嫌だな……)

彼はオーハ村で何も見付からなければ、魔導師会に連絡して、ナイト・レイスについての調査を、
依頼する事にした。


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