ロスト・スペラー 4 at MITEMITE
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150:創る名無しに見る名無し
12/05/26 19:32:11.98 oPYwRbaI
だが、イリスは言えなかった。
この男は、イリスが知っていた男では、なくなっていた。
男の内面の小さな変化を、彼女は無意識に感じ取っていた。
……この日から数月後、イリスは長年慣れ親しんだ街から姿を消した。
L&RCの経営は、元事務社員のリェルベリーとファアルが引き継ぎ、新たに新入社員を加えて、
細々と続けられている。

151:創る名無しに見る名無し
12/05/27 20:15:36.44 wEeDn7Cp
名前に関する諸法則


地方によって名付けは違うが、ボルガ地方を除いて、多くは名・姓となっている。
その中には、古い習慣が残っている地域もある。
代表的な物は、エグゼラ地方のバルハーテ家。
当主、ミロ・ゾ・イダス・カイ・バルハーテは、「バルハーテの子孫イダスの息子ミロ」の意味。
敬称として、ミロ・ゾ・イダス・カイ・グロス・バルハーテ(大バルハーテの子孫)とも呼ばれるが、
公的機関に登録された正式な名前ではない。
流石に長いので、より短く、ミロ・ゾ・イダス或いは、ミロ・カイ・バルハーテと呼ばれる事が多い。
また、エグゼラ以外の地方では、ミロ・バルハーテの方が通りが良い。
その妻アンバーバラのフルネームは、アンバーバラ・ド・グートス・カイ・ベラル・イル・バルハーテであり、
「バルハーテ家に属する、ベラルの子孫グートスの娘アンバーバラ」の意味。
やはり他地方では、アンバーバラ・バルハーテと表記される事が多かった。
ゾは息子、ドは娘、カイは子孫、イルは所属を表す、北方の一部地域独特の物。
ゾ、ドの後には家主名が、カイ、イルの後には家名(始祖名)が付く。
この家名を姓の代わりにしている。
イルは嫁婿だけでなく、養子にも用いられる。
始祖を名乗って、カイの後に名を残す事は、誰にでも出来る訳ではない。
戸籍管理上、少なくとも財産の相続を一部放棄して、完全に独立した一家の主になる必要がある。
始祖を名乗るのは、男性限定ではないが、女性が始祖を名乗る例は少ない。
カイが付くのは始祖の孫の代からであり、始祖の子にはカイを用いず、ゾ、またはドを付ける。
グラマー地方の北部でも、この方式の名を持つ所がある。

152:創る名無しに見る名無し
12/05/27 20:31:11.17 wEeDn7Cp
カイには功績者名の意味もある。
ミヒェロ・ヴラードV・ゾ・オブシーン・カイ・ヴラード・カイ・エルヴィ(実在の人物)は、
「エルヴィの子孫ヴラードの子孫オブシーンの息子ミヒェロ・ヴラード3世」の意味。
エルヴィの子孫に加えて、ヴラードの子孫と付くのは、ヴラードなる人物が過去に功績を上げた為。
カイが2度入るのは、始祖と区別する為。
功績者が始祖の場合には、カイ・ヴラード・エルヴィ、または単にカイ・エルヴィとなる。
過去の風習なので、現在では功績者名は省かれる傾向にある。
因みに、ヴラード・カイ・エルヴィは初代エグゼラ市長。
エグゼラ地方では全員が全員、この様な名付け方を採用している訳ではない。
ゾ、ド、カイ、イルを用いない家系も普通に見られる。
この時、カイニトフ、カッタジール、カードガン、キリンバール、ケイオール等、姓がカ、キ、
ケで始まる時は、カイの名残である事が多い。
稀にイルラシーン、イリンベリール、イロベロート等、イルが元になった姓もある。
名前がアルトゾ、リフェルゾ、ナイラド、マリナド等、男性名+ゾ、女性名+ドで終わる時は、
明確に子を表すゾ、ドの名残と言える。
名前の後にレド、レダ等の、序列名が付く場合は、基本的には、アルトレッドゾ、
アルトレダッドの様にはならない(稀に付ける親が居る)。
一方で、そう言った伝統とは全く関係無い、普通の姓名(※)もある。


※:例としてストラド・ニヴィエリは、ストラ(女性名)+ドだが、男性である。
  発音上は娘を表すドはdouでありドウ、ドー、ドゥーに近い半長音で、ド(do)、またはドゥ(du)と、
  短く区切る一般の男性名とは、厳密には異なる。
  しかし、細かすぎるので、現地でも殆ど区別されていない。

153:創る名無しに見る名無し
12/05/28 18:29:06.67 Kc0HHYr3
ブリンガー地方の小村オーハにて


執行者ストラド・ニヴィエリは、『蛇男<ウェアスネーク>』を連れて、ブリンガー地方辺境の小村、
オーハを訪れた。
オーハは人口1000人に満たない、最小規模の集落である。
この小村に着いたストラドは、フードを深々と被っている蛇男に尋ねた。

 「なア、蛇男さんよォ……そろそろ見覚えのある風景とか無いのか?」

 「残念ながら……」

ストラドの目的は、蛇男を生み出した、外道魔法使いを逮捕する事。
蛇男の目的は、自らの出生の理由を知る事。
互いの目的の為に、1人と1匹は行動を共にしている。

 「心測法で見えた風景にある植物しか、場所を特定出来る物が無いんだぜ?
  何か感付くとか、思い出すとか、無いのかよ」

 「残念ながら……」

 「何だかなぁ……。
  こんなド田舎まで来て、無駄足でしたって落ちだけは、勘弁願いたい物だ」

蛇男は申し訳無さそうに項垂れた。
蛇男の記憶を心測法で探ったカーラン・シューラドッド博士は、蛇男の過去に関係がありそうな風景を、
呪文に書き留めていた。
そこにブリンガー地方北部の一区域にしか自生していない、希少な植物が写っていた事から、
ストラドと蛇男は、関係ありそうな場所を、虱潰しに探し歩いている最中なのだが……、
オーハ村はティナー地方との境から離れて、カターナ地方との境にある。
これまでストラドと蛇男は、ブリンガー地方の北部を西から東へ移動して来た。
希少な植物の自生域は、ブリンガー地方北東部の山間域に限定されている。
詰まり、オーハ村に何も無ければ、蛇男の記憶にある場所の特定は、かなり難しくなると言う事だ。

154:創る名無しに見る名無し
12/05/28 18:31:52.15 Kc0HHYr3
オーハ村の宿を確保したストラドは、思い出した様に、蛇男に言う。

 「そう言えば、ナイト何とかの話。
  あれは、どうなったんだ?」

宿のベッドの上で、とぐろを巻いて寛いでいた蛇男は、鎌首を擡げて尋ね返す。

 「え、何ですか?」

 「どこだかで言ってただろう。
  夜の、ナイトが何とか……」

何を今頃……と思う蛇男だったが、数日前に言い掛けた些細な事を、気に留めてくれていたのは、
素直に有り難かった。

 「ああ、ナイト・レイスです。
  あれはスファダ村の宿に泊まった夜の事で……、俺は知らない間に外へ誘い出されて、
  ナイト・レイスと名乗る変な人に会いました」

蛇男の話を聞いたストラドは、目の色を変える。

 「手前、それ重要そうな事じゃねえか!!
  何で黙ってたんだ!?」

 「だってストラドさん、下らない事は言うなって……」

 「だからってなァ!
  ―……チッ、まあ良い。
  それでナイト・レイスとやらは、どんな奴なんだ?
  何か言っていたのか?」

蛇男の言い訳に激昂し掛けたストラドだったが、自らにも非があると認めると、直ぐに怒りの矛を収め、
話の続きを促した。

155:創る名無しに見る名無し
12/05/28 18:33:02.77 Kc0HHYr3
蛇男は曖昧な記憶を、必死に想い起こす。

 「どんな奴と言われても、影しか見ていないので、取り敢えず『男』だとしか……。
  でも、奴は俺を何とかの子だと―」

 「お前の正体を知っていたのか!?」

 「それは……分かりません。
  俺もナイト・レイスの仲間だとは、言ってましたが……」

 「ナイト・レイス……夜の人種……。
  そいつが、お前を造ったのか?」

一々ストラドが食い付くので、蛇男は少し得意になった。

 「それは違うみたいです。
  俺が何者かに造られた存在だと知ると、驚いた様子で……俺を見守るとか何とか言って、
  姿を消してしまいましたから……」

ナイト・レイスは、闇に紛れて活動すると言われる、伝説上の亜人種。
復興期では盛んに目撃されていたが、現在では妖獣を見間違えた物として、片付けられている。
気になる事があったストラドは、蛇男に訊いてみた。

 「所で、蛇男よ。
  お前自身は『ナイト・レイス』を知っているか?」

 「いいえ、聞いた事もありません。
  何なんですか?」

 「本当に知らないのか?」

 「え、ええ」

蛇男は最近造られたのだから、昔の事を知らなくても不思議ではない。

 「いや、知らないなら良い……」

ストラドは無言で考え込んだ。
お伽噺を真に受ける訳には行かないが……。

 (ナイト・レイス、ナイト・レイスね……。
  面倒な調べ事は本部に頼るとして、誰か動いてくれるかなぁ?
  自分で全部やれとか言われそうで嫌だな……)

彼はオーハ村で何も見付からなければ、魔導師会に連絡して、ナイト・レイスについての調査を、
依頼する事にした。


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