ロスト・スペラー 4 at MITEMITE
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50:創る名無しに見る名無し
12/04/25 19:25:33.89 RiaB/MM0
ミードスの家は一見した所、豪華でも貧相でもない、極普通の石造りの民家だったが、
その内装は異様としか言えなかった。
ミードスの家の中は、壁や床だけでなく、椅子や机と言った調度品まで、あらゆる物が金に輝いていた。
金の眩しさにラビゾーが戸惑っていると、やや恥ずかしそうにミードスは小声で言う。

 「気にしないでくれ」

しかし、これを気にしないのは無理だろう。
金が本物だろうと、偽物だろうと、全面金一色と言うのは、余りに悪趣味過ぎる。

 (鍍金かな?)

未だ物珍し気にしているラビゾーに、ミードスは最早何も言わなかった。
ラビゾーを客間に通したミードスは、手拭いを金の椅子の背凭れに掛け、帽子を金の机の上に置いて、
そこで大人しく待っている様、彼に指示した。
客間から出て行くミードスの背を見送り、ラビゾーは改めて室内を見回す。
客間も目が痛くなる程の金一色である。
何を思って、こんな内装にしたのか、何か魔法的な意味があるのか……。
ミードスが戻って来るまでの間、ラビゾーは独り答えの出ない事を考えていた。

51:創る名無しに見る名無し
12/04/26 20:00:43.38 Dp2l/cQ9
客間に戻って来たミードスは、小さな巾着を幾つも抱えていた。
それを金の机の上に、どさりと置いて、彼はラビゾーと対面する。

 「これを換金してくれ。
  一割は手数料として取って良い」

 「何ですか、これ?」

ラビゾーは当然の質問をしたが、逆にミードスに驚かれる。

 「聞いてないのか?」

ラビゾーが頷くと、ミードスは難しい顔をした。

 「サッジオめ……。
  まあ良い。
  ラビゾー君、これは金だ」

 「金?」

鸚鵡返すラビゾーに、ミードスは巾着を1つ寄越す。
その手には軍手が嵌められた儘だと言う事に、ラビゾーは今気付いた。

 「100万MG位にはなるだろう」

 「全部で?」

 「これ1つで」

 「えっ」

 「ここに11袋ある。
  全部MGに換金して来てくれ」

そう言いながら、ミードスは1つの巾着の口を開けて傾けた。
さらさらと粉状の物が零れ出し、金の机の上に広がる。

52:創る名無しに見る名無し
12/04/26 20:02:17.82 Dp2l/cQ9
それは砂金であった。
それも普通の砂金ではなく、やや黒味掛かった、ブラックゴールドの砂金である。
数粒が机の端から床に零れ落ちたが、ミードスに惜しむ様子は無かった。
ラビゾーは俄かには信じられず、失礼だと思いながらも彼に尋ねる。

 「本物?」

 「ああ。
  嘘だと思うなら、鑑定して貰えば良い」

 「でも、こんなに……どこで換金すれば?」

 「MGに換えてくれる所なら、どこでも構わない」

どこでも良いと言われるのが、ラビゾーにとっては一番困る。
今の彼には、そんな伝手は無い。
それに金は希少品。
出所の不明な物を大量に換金すれば、何らかの犯罪への関与を疑われる。
その辺りを判っているからこそ、ミードスはラビゾーに頼んでいるのだろうが……。

 「この金は、どこで?」

ラビゾーは金の入手経路を確認せずには居られなかった。
ミードスは堂々と答える。

 「私が作った物だ」

 「そ、それは不味いですよ……」

魔法で貴金属を生成する、所謂「錬金魔法」は、直接人を害する物ではないが、
経済を混乱させる元として、特別条件付きでA級禁断共通魔法に分類されている。
これを売ると言う事は、魔導師会への挑戦と同義だ。

53:創る名無しに見る名無し
12/04/26 20:03:24.52 Dp2l/cQ9
怖気付いて尻込みするラビゾーに、ミードスは溜め息を吐いて、失望を表した。

 「何を今更……全て承知の上で、ここに来たと思っていたが……?
  ノストラサッジオは何と言っていた?」

 「いや、確かに使いを頼まれてくれとは言われましたけど、それが違法な物だとは……」

 「違法……、違法か……。
  違法な物でなければ良いのか?」

 「え、ええ……」

意味深気なミードスの問い掛けに、ラビゾーは不安を感じながらも頷く。
ミードスは徐に両手に嵌めていた軍手を外し、素手を見せた。
ミードスの両手は、白金の輝きを放っていた。
その白金の手には、黒金で怪しい文様が描かれている。

 「そ、その手は……?」

 「私は『金<オーラム>』だ」

 「……ど、どう言う意味ですか?」

 「話せば長くなる―私は旧暦の生まれだ。
  こうなってしまう前は、私は極普通の人間だった。
  いや、今でも心は人間の積もりだ」

そう言って、ミードスは己の過去を語り始めた。

54:創る名無しに見る名無し
12/04/27 19:54:47.64 LENN577p
ミードスは旧暦の貧しい家の生まれだった。
満足な教育が受けられず、成人しても定職に就かず、街をふら付く毎日。
適当に貧乏仲間と連んで掏りをし、罪を見逃して貰う為に、汚職官憲に賄賂を渡して……。
そうやって、その日その日を凌いでいた。
劣等感を感じていた彼は、金さえあれば、金さえあればと、楽して稼ぐ事ばかり考えていた。
ぐだぐだ三十路を手前に控えて、ミードスは漸く、使いっ走りの掏りの毎日に、疑問を覚えた。
何も成せずに死ぬのが無性に怖くなり始め、焦り出したのだ。
何かを成すには大金が必要であるとの、貧しさ故の思い込みから、金を求める心は、
日に日に大きくなる一方だった。
せこい掏りで小金を稼ぐのではなく、大事件でも起こして一発当てなければ、自分は何の価値も無い、
貧乏人の儘で人生を終えるのだと、半ば強迫的な観念に囚われて怯えていた。

55:創る名無しに見る名無し
12/04/27 20:11:39.03 LENN577p
ある日ミードスは、1人の老人から財布を掏った。
彼が魔法使いとは知らずに……。
あっさり掏りを見抜かれたミードスは、何故財布を盗んだのかと、その魔法使いに問い詰められ、
人間らしく生きる為には、どうしても金が必要だと答えた。
魔法使いはミードスに言った。

 「金さえあれば、人間らしく生きられると言うなら、お前に『金<オーラム>』の力を授けよう。
  あらゆる物を『金製<ゴールド>』に変える力だ」

そして―ミードスは魔法使いから、黄金の手を授けられた。
触れた物を金製に変えるばかりか、自らの身をも蝕む、破滅の手を……。
初め、それを知らなかったミードスは、調子に乗って誰彼構わず黄金の手を披露し、
あらゆる物を『金製<ゴールド>』に変える魔法使いとして、有名になった。
今まで自分を蔑んでいた者や、同じ掏り仲間までも、急に自分に阿る様になった為、
ミードスは浅ましい欲望の目に嫌気が差し、人間不信に陥って、距離を置く様になった。
それから間も無く、金市場の独占を企む地下組織に、身を狙われる様になる。
遂に組織に拘束されたミードスは、軟禁状態で金貨を生み出し続ける毎日に堪えられなくなり、
脱走しようとした。
所が、その途中で見張りに発見され、矢で心臓を射抜かれてしまう。
しかし、ミードスは死ななかった。
血の一滴も彼の体から失われはしなかった。
『金<オーラム>』は腐蝕しない。
不朽にして不変、失われる事の無い輝きは、永遠の象徴。
『金<オーラム>』の力を授かったミードスは、不死身になっていたのだ。
ミードスは背に矢を浴びながらも、組織から逃げ果せた。

56:創る名無しに見る名無し
12/04/27 20:12:46.00 LENN577p
だが、この時点では未だ、ミードスは魔法使いの言葉の意味を、真に理解していなかった。
寧ろ、不死身になった事に、感謝していた有様だった。
その後、誰も自分を知らない土地に移り住んだミードスだったが、更なる困難が彼を襲う。
月日が経つに連れて、ミードスから生物らしさが失われて行くのだ。
身体がゴールドになった事で、痛覚ばかりでなく、味覚も鈍くなり、何を口にしても、
美味いとも不味いとも感じなくなった。
それに伴って、情動の浮き沈みも少なくなり、生の喜びが見出せなくなった。
毎日が退屈になって、この儘では良くないと言う焦燥感だけが残り、何時しか彼の心は、
貧しい暮らしをしていた時代に、すっかり戻ってしまっていた。
そうなって初めてミードスは、あの時に魔法使いが怒っていた事を、悟ったのである。
魔法使いは善意でも憐れみでもなく、戒めの為にミードスに黄金の手を与えた。
金が無くて人間らしい生活を送れないと言ったから、金を呉れてやる代わりに人間らしさを奪ったのだ。
これを知ったミードスは、逃亡生活を続けながら、魔法使いを探した。
この忌々しい呪いを解いて貰う為に。

57:創る名無しに見る名無し
12/04/28 20:13:09.30 Evu9zd23
幾つもの国を跨ぐ、何年もの旅の末、ミードスは遂に、自分をゴールドに変えた魔法使いを探し当てた。
呪いを解けと脅しに掛かる彼に、魔法使いは冷徹に出来ないと告げた。

 「人は死ねば土に還るが、土塊からは人は造れぬ。
  命を生むのは、命以外に無い」

一番の問題は、自らの非を認めないミードスの態度にあったのだが、彼に自省する余裕は無かった。
しつこく戻せ戻せと縋るミードスに、魔法使いは言う。

 「お前は金さえあれば人間らしく生きられると言った。
  お前の望み通りに、私は金を与えた。
  その金で人間らしく成すべき事を為せば良かろう。
  金さえあればと言ったのだ、出来ぬ筈が無い」

成すべき事を為せ。
ミードスが答えに窮している間に、魔法使いは姿を消した。
ミードスは初めて、これと言った明確な人生の目的が、自分には無い事に気付いた。
人間らしく、人間らしくと、尤もそうな事を吹きながら、その実、彼は他人より贅沢に暮らす為に、
金を求めていたのだ。
成すべき事等、初めから無かった。

58:創る名無しに見る名無し
12/04/28 20:13:53.69 Evu9zd23
ミードスは自分が何を成すべきなのか、旅を続けながら考えた。
過去の自分は何を以って、人間らしさと言っていたのか……。
金を得て、普通に暮らす分には困らなくなったが、満足感は無い。
大金を振り撒いて贅沢する気も、全く起きない(既に散々やった後である)。
人間らしさとは何か、その答えが出ない内に、魔法大戦が始まり、旧い世界は終わった。
ミードスは新しい世界で、外道魔法使いとして暮らす事になった。
何百年と経った今では、昔程は悩まなくなったが、それでも時々、人間らしさについて考えると言う。

59:創る名無しに見る名無し
12/04/28 20:14:26.42 Evu9zd23
長いミードスの話を聞いて、ラビゾーは思った。

 (……やっぱり違法じゃないか?)

ミードスが金から造られた人間なら、その金は違法か違法でないか、判断は難しくなるが、
生物質を金に変えられたのなら、それは魔法による金の生成である。
ミードスの話に思う所は多いが、違法は違法。
誤魔化されてはならないと、ラビゾーは気を引き締めた。

 「ミードスさん……お話を聞いた限りでは、どうも自然金ではなさそうなのですが……?
  体質の特殊さは解りましたけど、呪いとか魔法による金の生成は、専門家が調べれば、
  痕跡が見付かってしまう物なんです。
  自然金は流通が認められますけど、そうでない金は魔導師会に許可された物でないと……」

 「成る程。
  危険で引き受けられないと言うのだな?」

 「はい」

ミードスは思案する。

 「今までサッジオが紹介して来た連中は、上手くやってくれていたのだが……」

その呟きから、ラビゾーは嫌な予感を働かせた。
ノストラサッジオは地下組織マグマの世話になっている。
不法な金の取引で得た利益は、その活動資金になっていたのではないだろうか?
何故今頃ノストラサッジオは、自分にミードスの金の現金化を頼んだのか、それが気に掛かった。
マグマと縁を切りたがっているのか、それとも何か別の理由があるのか……。

60:創る名無しに見る名無し
12/04/29 19:35:16.75 6Gi6HLA5
どんな訳があるにせよ、ここで幾ら考察した所で、予測の域を出はしない。
ラビゾーは違法でさえなければ、ミードスの頼みを聞いても良いと思っている。
ノストラサッジオの期待を裏切りたくない気持ちもある。
彼の心境は複雑だった。
ラビゾーはミードスに尋ねた。

 「……どうしてMGが必要なんです?」

それが邪な目的でない事を、確かめる為だ。
尤も、邪な目的があったとして、正直に話す者は居ないだろうが……。

 「どうしてって、MGが無いと不便だろう?
  幾らゴールドでも、飲まず食わずでは居られないし、多くの面倒事も避けられる。
  人並みに生きたいと思えば必要になる物だ」

体が金になっても腹は空くのかと、ラビゾーは変に感心した。
だとすれば、消化器官や排泄は、どうなっているのか……?
横道に逸れ掛かる思考を戻し、ラビゾーは続けて尋ねる。

 「今までは、どうやって換金していたか、分かりませんか?」

 「さあね」

然して考えた風も無く、あっさり答えるミードスに、ラビゾーは脱力した。

 「いやいや、もっと真面目に考えてくださいよ。
  MGが手に入らなくて困るのは、僕じゃなくてミードスさんですよ」

 「良いさ、サッジオに新しい奴を寄越す様に言うから」

 「そ、そうですか……。
  では、僕は失礼します……」

結局、ラビゾーは何もせずに、ミードスの住家を後にしたのだった。

61:創る名無しに見る名無し
12/04/29 19:37:19.01 6Gi6HLA5
―ティナー市に戻り、ノストラサッジオの元に帰ったラビゾーは、そこで事の顛末を説明した。
ノストラサッジオは不快と失望を露にし、彼に告げた。

 「お前は何と愚かな奴なんだ……。
  黙って言われる儘にしていれば良かった物を」

 「いや、でも、危ない仕事は御免ですよ」

 「口賢しいぞ。
  選べた立場か!」

言い訳を許されず、ラビゾーは項垂れる。
ノストラサッジオは大きな溜め息を吐いて、気を落ち着けた。

 「アラ・マハラータが苦労する筈だな。
  全くの愚鈍でないのが、尚悪い……。
  ―否、的確な助言が出来なかった私の所為でもあるか……。
  鈍ったな。
  こんな様では予知魔法使いを名乗れん」

ノストラサッジオは独り言を繰り返し、悩まし気に額を押さえる。
散々な言われ様に、ラビゾーは返す言葉も無く黙っていた。

62:創る名無しに見る名無し
12/04/29 20:09:00.25 6Gi6HLA5
暫し後、ノストラサッジオは徐に顔を上げ、ラビゾーに問う。

 「ラヴィゾール、ディアス平原を知っているか?」

 「……ええ、聞いた事はあります。
  金の産地だった―」

ラビゾーの答えを全て聞き終えない内に、ノストラサッジオは自ら語り始める。

 「面白い事を教えてやろう。
  魔法大戦後、天変地異に巻き込まれたミードスは、今のディアス平原で目覚めたそうだ」

直ぐには、ノストラサッジオの意図が解らなかったラビゾーは、間抜けに訊き返した。

 「はい?」

 「ディアス平原は金の産地、……そうだな?」

はっとして、ラビゾーは息を呑む。

 「まさか―」

 「……だから愚かだと言ったのだ。
  余計な知恵ばかり働かせおって」

 「そ、それが本当なら、ディアス平原で採れた金は―全部?」

 「ああ、魔導師会にも見分けは付くまいよ。
  今まで通りな」

ノストラサッジオは不敵に笑う。

 「解ったら行け」

ラビゾーはミードスの元へ蜻蛉返りした。

63:創る名無しに見る名無し
12/04/30 19:26:55.82 5552Pji0
しかし、堅物のラビゾーは、本当に心の底から納得してはいなかった。
本物と見分けが付かなければ、良いと言う物ではない。
金の流通量が大幅に変化すれば、経済的な混乱が引き起こされる。
ノストラサッジオとて外道魔法使い。
それを企んでいない保証は無い。
だが、その場で直ぐ、こうした問題に気付ける程、この日のラビゾーは感が冴えていなかった。
下衆の後知恵と言う奴である。
それに、仮に気付けていたとしても、ノストラサッジオに邪心の有無を直接問える程の度胸は、
彼には無かっただろう。
途中で引き返して尋ねても、愚図扱いされるのが落ち。
ラビゾーは取り敢えずカジェル町に向かい、懸念はミードスに伝える事にした。

64:創る名無しに見る名無し
12/04/30 19:29:02.33 5552Pji0
カジェル町のミードスを再び訪ねたラビゾーは、彼にノストラサッジオとの遣り取りを話して聞かせ、
自分が砂金を換金しに行く旨を伝えた。
そして、その代わりに―最後の確認として、ミードスに共通魔法社会を混乱させる意図が無いか、
念を押す様に尋ねた。
ラビゾーの心配そうな顔を見て、ミードスは苦笑する。

 「換金して貰いたいのは全部で1000万MG程度だ。
  大陸の金市場は何百兆と言う規模……加えて、毎年何兆もの純金が、新しく流入している。
  高々数千万増えた位で、経済が混乱すると思うのか?
  フフン、物知らずだな」

心配無用だとミードスは余裕を見せたが、それでもラビゾーの表情は晴れない。
ミードスは内心で彼を、面倒な奴だと思った。
しかし、今の所は現金に困っていないとは言え、ラビゾーの代わりの者が、何時訪れるか判らないので、
今換金して貰えるなら、して貰いたいのが、ミードスの本音。
一々ノストラサッジオに依頼しに行くのも、億劫だった。

 「第一、そんなに頻繁に換金を頼んではいない。
  前回換金して貰ったのは、10年位前だった。
  大金が必要になる生活をしている訳ではないからな。
  その程度で十分なんだ」

ラビゾーは、変わらず無言である。
長く目を閉じ、顔を顰めて、思惟している様を面に出してはいるが……。

 「……昨日の今日出会ったばかりで言うのも何だが、信用してくれ」

 「分かりました」

「信用してくれ」―その一言を受けて、ラビゾーは漸く頷いた。
その通り、「漸く」ではあるが、もっと渋られるかと予想していたミードスは、拍子抜けする。
ラビゾーが欲していたのは、これから良くない(と自分が思っている)事をする為に、
本の少しの罪悪感を打ち消す、明確な依願の言葉。
独自の価値観に基づく行動は、他人には理解し難い物であった。

65:創る名無しに見る名無し
12/04/30 19:29:30.31 5552Pji0
こうして砂金を受け取ったラビゾーだったが、どこで換金すれば良いか、彼には分からなかった。
金の取引に応じてくれる所は少ない。
大手の取引所に行けば、やはり出所を疑われる。
ラビゾーは散々迷った末、再び助言を受けに、ノストラサッジオの元へ向かった。
ノストラサッジオは、本物の愚図を見る目でラビゾーを睨んだが、下手をされるよりは良いと考え直し、
敢えて説教はせず、非公式取引所に行けば良いと教えた。
その通りにラビゾーはティナー市内の非公式取引所で、砂金をMGに替えようと試みたが、
一度に換金しようにも、1000万MGもの大金を持ち歩いている者は、そうそう居ない。
その為、彼は各地の非公式取引所を巡って、数十万〜数百万MGずつ換金しなければならなかった。
旅商ラビゾーの誕生である。

66:創る名無しに見る名無し
12/04/30 19:31:22.12 5552Pji0
さて、結構な手間を取られながらも、無事に全ての金の現金化を済ませたラビゾーは、
約束通り、それをミードスに渡しに行ったが、異様に驚かれる事になった。
ラビゾーがミードスに渡した金額は、約2500万MG。
依頼した額の倍以上である。
ラビゾーが商売上手だった訳ではない。
偶々良い目利きに出会い、鑑定して貰った結果、上質な物と言う事で、高く売れたのだ。
いや、ミードスが最初に1000万MGと言ったのは、低目の見積もりである。
予定より高く売れても、彼は何ら驚かない。
では、何に驚いたのかと言うと、2500万MGもの大金を得たのに、ラビゾーが何一つ誤魔化さず、
御丁寧に領収書まで添えて、正直に報告して来た事に驚いたのだ。
正直ミードスは、1000万を越えた分は、黙って懐に仕舞われても、見過ごす気でいた。
……それだけでは済まず、ラビゾーは内1割の報酬でも多過ぎると言って、幾らか預かって欲しいと、
逆にミードスに依頼する有様。
ミードスはラビゾーに尋ねずには居られなかった。

 「金が惜しくないのか?」

 「僕は未だ未だ旅を続けないといけませんから。
  余り大金を持ってると逆に不安で……。
  ここまで来るのも結構怖かったんですよ」

ミードスは、世の中には変わった者が居る物だと、改めて思った。

67:創る名無しに見る名無し
12/05/01 21:13:10.30 Ze4e2UpZ
悪事を働くと言う事は、そう難しい事ではない。
過つは人の常なり。
その意志の有無に関わらず、私達は何時でも罪を犯す可能性に脅かされている。
何気無く放り投げた小石が、道行く人に当たろう物なら、即ち罪。
罪とは人生の通り道に仕掛けられた罠。
罪は浅慮から最も多く生まれ、軽率な者は見えている落とし穴に嵌まる。
心して生きよ。
だが、罪を犯さずに済んでいる者は、心根が清いのではなく、幸運なのでしかない。
心優しく、情に厚い程、人は過ちを犯さずには居られなくなる。
何故なら、我が罪逃れから、罪を許す事も、また罪なのだから。
罪を許せと言うは、罪を負えと言うに同じ。
過ちは、消せぬが故に、過ち。

68:創る名無しに見る名無し
12/05/01 21:14:41.77 Ze4e2UpZ
「……―と言う訳で、彼は無事に罪を犯したよ」

「結構、大いに結構」

「果たして、どうなのかな?
 実害は無に等しいとは言え、共通魔法社会に対する、明確な反逆行為に加担したんだ。
 嗾けた私が言うのも何だが、この様な形で帰る場所を奪うのは、些か気が咎める。
 彼には元の生活に戻る選択もあっただろうに……」

「戻ろうと思えば、何時でも戻れる」

「言葉を返す様だが、あの性格からして、それは無理だろう」

「その為の試練だ」

「……期待は出来ない。
 彼は苦しみ続けるだろう」

「予知か?」

「予想だ。
 気に掛かるなら、貴方自身の手で導くべきだろう」

「それでは行かん」

(これは相当な入れ込み様だな。
 らしからぬ……何故そこまで?)

「どうした?」

「……いや、別に。
 彼は良い使い走りになれる。
 利用させて貰うよ」

「結構、結構」

69:創る名無しに見る名無し
12/05/01 21:15:12.20 Ze4e2UpZ
一度罪を犯せば、二度目三度目には抵抗が薄まる。
そうして人は罪に侵されて行く。
人の罪を許すのは優しさだが、己の罪を許すのは惰性である。
人は知らず知らず深みに嵌まって、終には後戻り出来ない所まで踏み込んでしまう。
心に壁を作りなさい。
深みに嵌まらない内に、そこから引き返せる様に。

70:創る名無しに見る名無し
12/05/02 19:45:01.02 5QYYBOM4
蘇る宗教


ティナー地方西部を縄張りとするシェバハは、一般にマフィアと呼ばれる集団が持つ「掟」を越えた、
独自の「戒律」と「教義」を持つ為に、ティナー地方の他の地下組織とは一線を画す。
魔導師会に忠誠を誓っている(が、言う事は聞かない)為に、一般的な認識は、
「暴走する魔導師崩れ」だが、実態は大きく異なる。
シェバハは八導師を神格化した伝承の支持者で、宗教色が強い。
魔導師会は八導師の神格化を、快く思っていないが、一般に知られている魔法大戦の伝承を、
明確に否定はしない。
八導師は魔法大戦を制し、崩壊した世界を蘇らせた。
事実として認められている、その偉業は、十分に信仰の対象となり得る。
シェバハは伝承を最大限に解釈して、次の様に伝えている。

71:創る名無しに見る名無し
12/05/02 19:46:06.96 5QYYBOM4
今の世界は、八導師を始めとする、共通魔法使いの生き残りによって創られた。
我々全ての人間の存在は、八導師の温情の下にある事を、忘れてはならない。
八導師は寛大な心で、美しい善人ばかりでなく、醜い者、弱い者、悪人の魂すらも、存在を許された。
魔導師会は、八導師の教えを忠実に守り、魔法秩序の番人となっている。
全ての人間は、共通魔法によって生まれた事、そして共通魔法社会の一員である事を自覚して、
八導師と魔導師会に感謝し、よく生きる様に努めなくてはならない。
外道魔法使いは、その恩恵に与りながら、思想を改めないが故に、外道と呼ばれる。
共生の意思無く、社会の脅威であり続ける者達の存在を許してはならない。

72:創る名無しに見る名無し
12/05/02 20:23:38.46 5QYYBOM4
この伝承は組織内で秘密裡に伝えられている物で、シェバハの構成員は絶対に口外しない。
その理由は、魔導師会が八導師の神格化に、肯定的な反応を示さないからである。
シェバハと言う組織は、秘密を共有する事によって、全体を取り纏めている。
その形態は、ある種の秘教に近い。
一種の宗教的秘密結社とも言える。
シェバハの構成員になる者は、所謂「魔導師崩れ」の中でも、犯罪を嫌悪する者が多い。
シェバハの創設者は1人の民間人であり、組織の誕生は復興期にまで遡る。
当時、盗賊として名を馳せていたイシュバール・ジャファは、初代八導師の一、オッズと出会い、
魔法大戦の事を教えられ、己の愚かしさに気付いて改心したと言う。
イシュバールは手下を使って、未だ数が少なかった魔導師の代わりに、周辺の治安維持活動を行った。
それが後に、シェバハになったと伝えられている。
しかし、時期が時期だけに、その正確さは疑われる。
治安が安定しない復興期に、盗賊団は珍しくなかったが、元々マフィアの様な性質を持っており、
拠点付近の治安こそ守る物の、遠くの町を襲撃しに遠征を繰り返していた。
魔導師会(魔法啓発会)は、そうした盗賊団を退治していたが、八導師が出向いた例は少なく、
あっても八導師の座を退いた後で、自ら八導師とは名乗らない。
それに、魔導師会と出会った盗賊団は、例外無く解散させられ、失職した元盗賊団のメンバーが、
治安維持活動に従事する様になる例は多数あったが、治安維持組織の管理者には魔導師が付いて、
根拠が不明な独自の戒律を残す事は、絶対に許されなかった。
以上の理由から、シェバハは開花期になってから、急速に拡大した無法活動を取り締まる為に、
敢えて法を冒す物として誕生したと見るのが、一般的である。

73:創る名無しに見る名無し
12/05/03 20:39:56.34 HUk9onll
占い


唯一大陸で占いと言えば、魔法色素による色占いが有名である。
色占いとは、魔法色素から人柄や悩みを言い当て、生活上の助言を与える物(血液型占いに通じる)。
赤、青、緑、黄、紫、水色と白の7色で、黒は除外される。
占いと言っても、カラーイメージを人に当て嵌めたに過ぎないので、根拠は無に等しい。
こう言った迷信や小呪いの類を、魔導師会は快く思っていないが、殆ど無害なので、見逃されている。
魔導師になる者は、こんな物を信じていてはいけないと言われており、余り熱を上げている様だと、
魔法学校では成績評価に−が付く。
各色の評価は以下の通り。

74:創る名無しに見る名無し
12/05/03 20:42:21.77 HUk9onll

・活発で情熱的。
・集中力が高い。
・人を引っ張る率先型。
・何に於いても積極的。
・対抗意識が強い。
・感情が表に出る。
・理想主義。
・熱くなり易く、後先を考えない。
・信念を持って、主張すべきは主張する。
・努力家で克己心が強い。


・余り活発ではない。
・持続力に長ける。
・冷静沈着で状況判断に優れる。
・基本的に慎重。
・人の干渉を嫌う。
・他人のリスクを負う事を嫌う。
・実利実物主義。
・俄と流行が嫌い。
・好き嫌いは激しいが、それを表に出さない。
・赤の反対で、補完の関係にあるが、反りは合わない。


・穏やかで争いを好まない。
・融和を第一に考える。
・押しに弱い。
・人に共感し易い。
・親切で面倒見が良く、気遣いが出来る。
・利他的。
・進んで表に立ちたがらないが、内向的ではない。
・人柄が良く、誰とでも上手に付き合える。
・安全主義で、小さな危険でも避けたがる。
・堅実で着実な方を好む、実直型。

75:創る名無しに見る名無し
12/05/03 20:44:36.61 HUk9onll

・明朗快活。
・気分屋で、熱し易く、冷め易い。
・やや無責任。
・良くも悪くも空気が読めない。
・物怖じしないが、赤とは違い、単に鈍感なだけ。
・好き嫌いが多く、それを表に出す。
・好き嫌いの変遷が激しく、興味の無い物には見向きもしない。
・意見をよく言い、人が思い付かない事をするが、整理集約は下手。
・自分を生かしてくれる人を慕う。
・勢いに乗るのが上手い。
・よく失敗するが、立ち直りは早い。
・新しい物好き。


・自尊心が強い。
・完璧主義。
・見栄を気にする。
・名誉を重んじ、不名誉を嫌う。
・嫉妬深く、独占欲が強い。
・欲望に忠実で、計算高い。
・野心が大きい。
・これと決め込むと一途で、執念深い。
・裏切りは許さない。
・昔の事に拘る。
・一度落ち込むと、立ち直りが遅い。
・人の使い方に長ける。


・何事にも淡白で、深入りしたがらない。
・臆病で心配性。
・流動的で、落ち着きが無い。
・軽い付き合いを好む。
・やや消極的。
・観察眼に優れる。
・客観的な物の見方が出来る。
・場の流れに敏感。
・自己主張が苦手。


・神秘主義。
・人と違う事を嫌う。
・注目される事を嫌う。
・表向きは保守的な反面、革新的な物に憧れを抱く。
・探究心が強く、真実に拘る。
・諦めが早い。
・高い理想を持ちながら、現実に疲れている。
・虚無主義の気がある。
・警戒心が強い。

76:創る名無しに見る名無し
12/05/03 20:45:32.32 HUk9onll
何にしてもカラーイメージが先行しており、実体験に基づいた物でも、統計を取った物でもない。
よって、当てにはならない……と言うか、当てにしてはならない。
グラマー地方やエグゼラ地方では、こう言った占いや小呪いの類を信じるか信じないかで、
社会的信用が大きく変わる。
影響され易い者は、冷静な判断が出来ない者として、蔑まれる。
一方で、ボルガ地方やカターナ地方では、所謂「験担ぎ」の儀式を、慣習として好んで行う所が多い。
ブリンガー地方や、ティナー地方では、グラマー地方程の嫌忌感は無いが、全体としては、
余り好まれない傾向にある。

77:創る名無しに見る名無し
12/05/05 20:26:40.32 IdQCLcDc
ラブ・ロマンス


第四魔法都市ティナー中央区 ティナー中央市民会館にて


この日、ティナー中央市民会館の大ホールでは、マリオネットによる演劇が行われていた。
午後の部は、ボルガ地方クイ村の民話を元にした、愛の物語。
題は「Discard a virtue」……訳せば「美徳を捨てる」と言う意味になる。

78:創る名無しに見る名無し
12/05/05 20:32:10.29 IdQCLcDc
ラビゾーは約束の為に、バーティフューラーと、この劇を見に来ていた。
平日の昼間なので、ホール内に人は少ない。
明かりが落とされ、ホール内が徐々に暗くなると、舞台に照明が集中する。
ラビゾーの左隣に座っているバーティフューラーは、左脚を上に高く組んで、体を右側に預けた。

 「行儀が悪いですよ、バーティフューラーさん」

しかし、それの意味する所が理解出来ないラビゾーは、穏やかに彼女を窘める。
バーティフューラーは憮然として姿勢を正し、演劇を観賞した。

 「昔、昔、ボルガ地方のクイ村に―」

ナレーターが静かに語り始めると……、

 「アロガと言う、美しい女と―」

 「シンシロと言う、醜い男が居りました」

紹介に合わせて、役者(人形)が登場し、軽い辞儀をする。
人形なので、人に似せてはいるが、人その物ではない。
女の人形には確かに妖しい美しさがあるが、人間の魅力とは違う。
男の人形は余り不細工には見えない。
醜いとは飽くまで設定上の話だが、あらましを知っているラビゾーは、「醜い」の意味が誤解されそうだと、
要らぬ心配をした。
それに元の話には、この男女の名前は記されていない。
お話の都合上付けられた、仮名である。
アロガはarrogantより、シンシロはsincereより。
ラビゾーは予習を欠かさない。

79:創る名無しに見る名無し
12/05/05 20:34:15.34 IdQCLcDc
劇中、冒頭から美しい女アロガは、醜い男シンシロを罵る。

 「何と醜い顔でしょう。
  潰れた鼻は徳の低さの象徴でしょうか?
  すると、大きい口は貪欲の証?
  それとも口性無い下品さの現れ?
  なのに、そんな大きい顔をして、厚顔無恥とは貴方の事」

時代掛かった口調なので、然程きつくは感じられないが……。
どんなに刺々しい言葉を打つけられても、シンシロは怒らない。
人形だから怒れないのではなく、そう言う話なのだ。
金持ちで美しいが、鼻持ちならない女と、見目悪いが、心優しく剛直な男の対立。
アロガは、賤しい男を金と美貌で釣って、犯罪紛いの事をやらせ、弱い立場の者を苦しめて悦しむ。
その悪行を、シンシロは何度も諌め、止めようとする。
しつこい彼に、アロガは益々向きになって、より苛酷で容赦の無い言葉を浴びせる……。
その度に、バーティフューラーは無言で、ラビゾーの顔を見詰めた。

 「な、何ですか……?」

ラビゾーが反応すると、バーティフューラーは何事も無かったかの様に、視線を逸らす。
彼女の真意が掴めず、ラビゾーは何とも不安な気持ちになった。

80:創る名無しに見る名無し
12/05/05 20:42:39.17 IdQCLcDc
話は進み、物語は終盤。
正論で訴え続けるシンシロに対して、当て付ける様に、アロガは非道と悪行をエスカレートさせ、
やがて彼女は誰からも相手にされなくなる。
止めに、自らの悪業が原因で、彼女の家は没落した。
過去の報いを受け、誰もアロガを見放した。
アロガは自暴自棄になり、自ら命を絶とうとする。
しかし、シンシロだけは彼女を見放さなかった。
彼は懸命に説得した。

 「過ぎた事は終わった事です。
  これから真面目に生きましょう」

 「無理よ、無理。
  貴方は忘れても、他の人達は忘れてくれない。
  もう戻れないの」

 「そんな事は―」

 「どうして私なんかに構うの?
  私は貴方に酷い事ばかりしたのに!
  同情なら放って置いて!」

マリオネット演劇でも、声を当てているのは人である。
人形の動きと完全にシンクロした、迫真の演技に、観客は息を呑む。
ラビゾーは、隣のバーティフューラーが舞台に集中しているのを、横目で確かめて、小さく安堵した。

81:創る名無しに見る名無し
12/05/05 20:46:11.07 IdQCLcDc
ここで醜い男シンシロは、美しい女アロガに告白する。

 「……同情なんかじゃない。
  私は君が好きだった。
  だからこそ、罪を重ねて欲しくなかった。
  皆の心が君から離れて行くのが辛かった」

勇気を振り絞り、敬語を止めて、思いの丈を打ち明ける。

 「は?
  ……好き?
  今でも?」

 「今でも」

 「フン、私の何に惹かれたと言うの?
  貴方の様な人が、こんな私の何を好きになるの?
  この顔?
  この髪、この肌?
  だったら―」

アロガはナイフを取り出して、その柄をシンシロに向けた。

 「私の顔に傷を付けて。
  罪の証として、二度と消えない位、深い刻印を。
  そしたら私、貴方の物になるわ」

当然、シンシロは反対する。

 「そんな事をしても、何にもならない。
  落ち着いて、冷静になってくれ」

 「いいえ、私は冬の星空の様に冷静よ。
  貴方にとっては……いいえ、他の誰が見ても下らない事でも、私にとっては大事な事。
  貴方が生涯、私を愛せると言う証拠が欲しいの。
  今の私には、この顔しか誇れる物が無い。
  もし貴方が私の容姿だけを愛しているなら、そんな愛は要らないわ」

アロガの剣幕に気圧されて、シンシロは黙り込んでしまう。

82:創る名無しに見る名無し
12/05/05 21:00:29.64 IdQCLcDc
その反応に、アロガは気が狂れた様に高笑いした。

 「アハハハハ、出来ないでしょう!?
  出来る訳無いわよね!
  貴方にとっては、何の利益も無い事!
  美しさを失った私に、価値なんて無いもの!」

シンシロは必死に反論する。

 「私に愛する人を傷付けろと言うのか?
  君の言う通り、そんな事、出来る訳が無い。
  そんなに私が嫌いなら、そう言ってくれ!!」

アロガは急に落ち着いた声で答えた。

 「いいえ、誤解よ。
  私は、貴方が私の為に、貴方の大切な物を失う覚悟があるか、それを確かめたいの。
  貴方が誇り高く、清潔な精神の持ち主だと言う事は、知っているわ。
  でも、私の顔に傷を付ければ、皆は貴方の事を何と言うでしょうね……?
  貴方が私の侮辱に耐え続けられたのも、貴方に『誇り』があったから。
  私は、それが疎ましくて……いいえ、本当は羨ましくて、仕方が無かった。
  こんな私の為に、貴方は自分の『誇り』を捨てられる?
  今まで貴方が築いて来た、信用や名誉を失う事になってまで、私を欲してくれる?」

アロガの言い回しは、意地が悪い。
どう転んでも、シンシロには良い事が無い。
シンシロは何も言う事が出来ない。
しかし、数極の逡巡後、シンシロはアロガの手を取り、ナイフを奪った。

 「私が君を追い詰め、誤らせたのか……」

そして、そう小さく呟いた後、穏やかな声で、アロガに言う。

 「解ったよ。
  宣言しよう、君は私の誇りを捨てるに値する。
  それを行動で示そう……―」

そして舞台の照明が落ちる。

83:創る名無しに見る名無し
12/05/05 21:02:49.10 IdQCLcDc
再び明かりが点いた時には、主役の2人の姿は無く、代わりにクイ村の婦人等が噂話をしている。

 「見た?
  あの女、顔に大きな×(十字)傷!」

 「見た見た!
  何でもシンシロに付けられたとか」

 「あのシンシロが?
  想像出来ない!」

 「そうそう、幾ら肚に据え兼ねたと言ってもねぇ……。
  あれだけの傷が残るって、相当深く抉らないと。
  ま、良い気味だとは思ったけどさ」

 「でも本当に、信じられないわ。
  弱った所で復讐するなんて」

 「シンシロも聖人ではなかったって事でしょうよ」

 「……でさ、あの女、シンシロに責任取らせて、結婚するんだって。
  只では転ばないって奴?」

 「ああ、そう言う事……。
  やれやれ、全く馬鹿だね。
  そんな見え透いた手に掛かるなんて、あの家は大丈夫なのかしら?」

無責任に面白可笑しく陰口を叩く婦人達。
再び暗転の後、場面が切り替わって、主役の2人が現れる。
台詞の1つも無く、椅子に腰掛けているシンシロと、その側で慎ましく紅茶を淹れるアロガの姿。
アロガの顔には、眉間で交差して、頬にまで掛かる、派手な×印の傷。
そして緞帳が下り、劇は終わる。

84:創る名無しに見る名無し
12/05/06 18:31:49.80 LnoXqXlx
終劇後、バーティフューラーは真面目な顔をして、何事か考え込んでいた。
ラビゾーは、この演劇を彼女が気に入ったか、それだけが気になっていた。
彼は解説を求められた時に備えて、脳内で演劇の批評を考える。
人物の心情を語るのは良いが、少々饒舌に過ぎないか?
独自解釈が多分に盛り込まれている分、原話と齟齬が生じていないか?
元はボルガ地方の復興期の話なのに、小道具を現代の風習に合わせているのは如何な物か?
―ラビゾーの異性との交際経験の浅さが知れる思考である。
そんな所に注目するのは、どう考えても一般的ではない。
楽しく会話を盛り上げる事は出来ないだろう。
批評で無駄な知識を披露するより、大人しく素直な感想を言い合う方が良い。

85:創る名無しに見る名無し
12/05/06 18:34:54.11 LnoXqXlx
ホールから出ると、バーティフューラーは思い詰めた表情で、ラビゾーに尋ねた。

 「……ねェ、ラヴィゾール。
  アンタはアタシの顔に傷を付けられる?」

明らかに劇の影響を受けた発言に、ラビゾーは驚いたと同時に、少し嬉しくなった。
それは何か心に響く物があった証拠。
前回の様に、詰まらない、下らないと一蹴されるよりは、誘った甲斐がある。
もし今回も不評だったら、彼はマリオネット演劇に、良くない記憶を持ち続ける事になっていただろう。

 「そんな、無理ですよ」

ラビゾーが素直に答えると、バーティフューラーは不機嫌になる……と思いきや、彼の予想に反して、
彼女は俯いていた。

 「……アタシを愛してはくれないのね」

拗ねた様に、冗談とも本気とも付かない台詞を口にする。

 「少なくとも今は、誰かと付き合うなんて考えられませんよ。
  何もバーティフューラーさんに限った事じゃありません」

ラビゾーは申し訳無さそうにフォローした。

 「じゃあ、何時になったら?」

 「……僕の魔法が見付かったら、その時は―」

 「それって何年、何十年後?
  悠長な事言ってると、アタシどっか行っちゃうよ?
  居なくなってから気付いたって、遅いんだからね」

ラビゾーは何も答えない。
そんな脅しが通用しない事は、バーティフューラーが誰より知っている。

 「何とか言ったら?」

 「……寂しく、なりますね」

ラビゾーの呟きには、悲しい響きがあった。
それはバーティフューラーにとって、全く予想外の反応だった。

86:創る名無しに見る名無し
12/05/06 18:36:41.99 LnoXqXlx
無神経なラビゾーの事だから、「勝手にして下さい」とか「僕は別に良いですよ」とか、
色気の無い答えが返って来ると、彼女は思っていた。
或いは、答に窮して苦笑したりと、煮え切らない態度を取られるか……。
それが遠い目をして「寂しい」と言われると、反応に困ってしまう。
だが、ラビゾーはバーティフューラーの言葉を素直に受け取り、彼女が自分の前から姿を消して、
二度と現れなくなった時を想像して、そう答えたに過ぎない。
彼にはバーティフューラーの本心が判らない。
自分を誘う態度が、果たして冗談でないと言えるのか?
何時も違う男と一緒に居て、適当に遊んでいる風で、その中でラビゾーだけが特別だとは、
彼の視点からでは言い切れない。
バーティフューラーは好むと好まざるとに拘らず、人を誘惑する性質を持っている。
それを最大限に利用するのは、悪い事ではないのだが……。
ラビゾーが彼女を、誘惑の魔法使いだと事を知っているのも、警戒される理由の一だ。
しかし、仮にバーティフューラーが本気だったとしても、自分の魔法を探して旅をしている今、
色恋に現を抜かしている場合ではないと言うのも、嘘ではない。
彼は面倒な男だった。

87:創る名無しに見る名無し
12/05/06 18:45:41.14 LnoXqXlx
「寂しくなりますね」と言ったラビゾーを、バーティフューラーは今少し待つ事にした。
ラビゾーは鈍感で、彼女の好意に気付きつつある物の、確信を持つには至っていない。
それは擬かしいが、心地好くもある。
真意を測り兼ねて、戸惑い、悩む彼を見るのが、愛しく楽しいのだ。
態と曖昧にして、本気と思われない方が、気軽に付き合えて、都合が良いのもある。
本気で愛していると言ってしまえば、肯にしろ否にしろ、もう今まで通りとは行かない。
あれでラビゾーは責任感が強い。
余り答えを急かし過ぎると、不本意であっても、自ら身を引く可能性が高い。
関係は全然進展しないが、現状に甘えていたいのは、バーティフューラーも同じだった。
―魔法使いの一生は長い。
或いは……何も変わらない儘、付かず離れずで居るのも悪くは無いと、彼女は考えていた。

88:創る名無しに見る名無し
12/05/07 19:17:23.55 YFiB698l
魔法暦498年 第一魔法都市グラマーにて


サティ・クゥワーヴァ10歳


幼い頃から、尋常ならざる魔法の才能を発揮していた、クゥワーヴァ家の次女サティ。
彼女にも、人並みに魔法大戦の英雄達に、憧れていた時期がある。
『灼熱の<レッドスコーチャー>』セキエピ、『織天<ヘブンウィーバー>』ウィルルカ、『轟雷<サンダーラウド>』ロードン、
『地を穿つ<アースレッカー>』マゴッド、『鎮まぬ<アナベイテッド>』ミタルミズ、『滅びの<ルーイナー>』イセン、
『気貴き<サラム>』バルハーテ、『朱い<バーミリオン>』ダーニャ、『昏い<ブラインド>』ヨナワ、
そして『偉大なる魔導師<グランド・マージ>』―……古の大戦と、英雄の物語。
中でも、取り分け心惹かれたのは、『天<ヘブン>』のウィルルカと、『雷<サンダー>』のロードン。
サティが空に関係する物を好んだのには、理由がある。
幼い時分から、己の魔法資質が他者より優れている事を自覚していた彼女には、予感があった。
自分の才能は、この都市、果ては大陸にさえも収まらないだろうと言う、途轍も無い想像である。
幼いサティは、何時か自分も英雄の様になれると、本気で信じていた。
そして懸命に空の魔法を練習したので、その後、それが得意な魔法になった。
とにかく熱心だったので、小規模な範囲で雨を降らせたり、雲を動かしたりして、
魔導師会の執行者に補導された事もある。
常に宙に浮いていたり、大気を操るのが上手かったり、攻撃には何かと雷を使ったりするのは、
当時の名残の様な物である。

89:創る名無しに見る名無し
12/05/07 19:21:01.38 YFiB698l
魔法暦502年、サティ・クゥワーヴァ15歳から


人並みに、15歳で魔法学校中級課程に進んだサティは、2年で魔法学校上級課程まで卒業し、
17歳と言う若年で魔導師になる。
サティが公に「十年に一度の才子」と称され始めたのは、上級課程に進級してから、3ヵ月後。
四半期に一度行われる、最初の定期試験を、完璧にクリアして、年内の魔法学校卒業が、
略確実と見做された後の事である。
彼女は「十年に一度の才子」と言われる様になる前には、別の渾名を持っていた。
その名も『織雲<クラウドウィーバー>』、織雲のサティ。
織天より数段落ちる表現だが、それに準えた高位の称号。
「十年に一度」と言う、使い古された表現より、大戦六傑の一、ウィルルカを意識した渾名を、
サティは気に入っていた。
勿論、自ら名乗る事はしなかったが……。

90:創る名無しに見る名無し
12/05/07 19:33:47.05 YFiB698l
才能のある子なら、普通は一般的な15歳より、もっと早く魔法学校中級課程に進級する。
15歳で魔法学校中級課程に通うのは、十分に公学校で教育を受けさせてからにしたいと、
保護者が望んだか、或いは、一般の人並みである事を、当人が望んだ場合だ。
魔法学校の各課程を修了する年齢は、若ければ若い程、優秀さの証明に繋がる。
過去、「十年に一度の才子」と呼ばれた者の中には、魔法学校の全課程を1桁の年齢で、
クリアした者も居る。
「十年に一度の才子」の称号が与えられる基準は、魔導師になると決まった時、成人前である事……
具体的には、18歳以下。
公学校上がりなら、中級1年、上級2年と言う短期間に、成し遂げねばならない。
それと、常人を遥かに上回る、優れた魔法資質を持っている事。
尤も、「十年に一度」の称号は、魔法学校の一部の者が、勝手に認定して付ける物。
何ら公的な物ではないので、単に「優秀な才能を持った子供」以上の意味合いは無い。

91:創る名無しに見る名無し
12/05/08 19:30:31.78 uk2FIDw2
魔導師の資格試験は、基本的に誰でも受けられるが、魔法学校の卒業試験に比べると、
合格難度は多少高くなる。
魔法学校に通って、真面目に講義を受けていれば、その年の試験官となる教師に、
試験の採点基準や、合格する為の技術的な骨を聞く機会がある。
小さな事だが、これが意外と大きい。
しかし、余程の金持ちでなければ、そう何年も魔法学校には通えないし、かと言って、
学費と生活費の為に仕事を始めると、魔法の勉強に時間を割けなくなる。
魔導師になる積もりなら、若い内にと言うのが世間の常識だ。
新しく魔導師になる者の平均年齢は、26〜27の間。
人数的にも、その前後の年齢で魔導師になる者が、最も多い。
殆どの魔法学校上級課程の生徒は、三十路を越えると、魔導師になるのを諦める。
そこで己の才能に見切りを付けるのだ。
学費の問題で、中には二十歳そこそこで早々に上級課程を中退する者も居る。
また、不慮の事故等で、四半期の試験に遅れると、その年は合格が貰えない。
余りにも仕方の無い事情があるなら、1週内ならば再試験を受けられるが、逆に言うと、
1週を越えてしまうと、如何なる事情があっても、再試験は受けられない。
こんな事を繰り返していると、何年掛かっても魔導師にはなれない。
冗談の様だが、実際に、魔法の実力とは殆ど無関係に、何年も卒業出来なかった例がある。
よって、才能のある者でも、魔法学校に通うのは、出来るだけ若い内からが良いとされる。

92:創る名無しに見る名無し
12/05/08 19:34:38.39 uk2FIDw2
では、何故サティは公学校卒業まで待たねばならなかったのか?
クゥワーヴァ家は裕福な部類に入るし、サティの実力なら、もっと早く魔法学校に入学していれば、
1桁の年齢で卒業出来たかも知れない。
サティは名声に価値を感じていなかった訳ではない。
人並みに功名心があり、承認欲求があった。
しかし、それを止めたのは、他ならぬ父イクターであった。
イクターは並ならぬ魔法資質を持った実の娘を、未だ立ち歩きを覚えたばかりの頃から恐れていた。
物の数え方も知らぬ子供に、理屈で物事を解らせるのは、難しい。
親は我が子の為には、いざとなれば、力尽くで制止せねばならない時もある。
だが、サティを力で抑圧すれば、それ以上の力を以って反逆される事が、目に見えていた。
それ程に、サティの魔法資質は、化け物染みていたのである。
彼女を制御するには、子供特有の強い共感に訴えねばならなかった。
即ち、善くない行いをした時に、悲しい、苦しい、辛いと言った、不快感を抱いていると認識させて、
抑止力の代わりにするのである。
逆に、子供が辛い時には、同情を以って共に悲しむ。
そして、善い行いには、喜びを以って迎える。
喜びと悲しみを分かち合う事で、価値観を共有する。
この方法で、サティは父イクター、母ジャマルの心に触れて、純粋に育った。

93:創る名無しに見る名無し
12/05/08 19:36:37.04 uk2FIDw2
それは思わぬ結果を齎した。
サティは善悪の判断を、共感に委ねる様になったのである。
人には人それぞれの都合があり、立場が違えば、善悪は逆転する。
無闇な共感では、その矛盾を解決出来ない。
それ以上に、善悪の判断が、相手の気分の良し悪しで決まってしまうのは、もっと恐ろしい。
イクターとジャマルが道徳の教育に力を入れ始めたのは、サティが5歳の誕生日を迎えた時。
彼女が公学校に上がる前に、何としても強力な自我と道徳心の形成を急がねばならなかった。
イクターとジャマルの苦労は知れない。
グラマー地方では、女子には慎みが求められる。
それは男子の力が強いから(―実際には、他地方程は男女の体格差は無いのだが……、
憖差が無い分、区別を強調したがるのだろう)。
では、男子の力を上回る女子が生まれたら?
普通は身体が成長するに従って、逆転する筈の力関係が、覆し様の無い圧倒的な魔法資質に、
阻まれてしまったら?
社会的な規則は、時に合理的な解に反する。
その時に、自我に目覚めたサティは、一体どんな反応をするのか……。
公学校を卒業するまで、イクターとジャマルがサティを魔法学校に行かせなかったのは、
公学校教育で社会に触れ、十分に馴染ませなければ、有り余る力の使い方を誤り兼ねないと、
考えた為である。
はっきり言ってしまうと、これまでの家庭での教育方針が正しかったのか、自信が無かったのだ。

94:創る名無しに見る名無し
12/05/09 19:07:40.26 BabSqsj6
イクターの心配は、半分当たって、半分外れた。
先ず、公学校の男子は、サティを相手にしなかった。
男から女に喧嘩を吹っ掛けるのは、恥だと言う風習の為である。
だが、止まらなかったのはサティの方だ。
両親の教育から、素晴らしい道徳心を身に付けたサティは、多少の理不尽には目を瞑っても、
度を超えた時には、男女ばかりか、大人子供の区別も無く反抗した。
自我の弱かった幼少期の、反動と言わんばかりに。
誰も彼も、人並み外れた彼女の魔法資質に怯え、この恐ろしい女子を避けた。
―魔法資質の低い者は、魔法資質の高い者に、威圧感を受ける。
丁度、体格の小さい者が、体格の大きい者と向き合った時と、同じ様な感覚。
酷い時には、強い敵意を向けられただけで、失神してしまう。
それは自分にとって、どれだけ相手が危険な存在かを判断する、本能的な物である。
余り魔法資質が低いと、逆に威圧されないが、殆どの者は大なり小なり影響を受ける。
公学校のクラスで、サティを恐れない者は居なかった。
当然、中には魔法資質が高くない者も、ある程度含まれていたにも拘らず……。
魔法資質が低い者にも、力量差を理解させる程の魔法資質を備えているならば、
それは最早脅威でしかない。

95:創る名無しに見る名無し
12/05/09 19:08:02.65 BabSqsj6
抜き身の刀の様な状態だったサティが落ち着くには、後に師となるプラネッタ・フィーアとの出会いを、
待たなければならなかったが、公学校生活が無意味だった訳ではない。
揺ぎ無い(余りに)強固な自己を確立し、それなりに人との接し方を覚えた意味はあった。
彼女を行き成り魔法学校に通わせなかった、イクターの判断は正しかったと言える。
然もなくば、サティは魔法の才能とは関係無い所で、辛い思いをしまなければならなかっただろう。
それは彼女の魔法学校時代の友人の殆どが、公学校時代からの付き合いだった事からも判る。
厳格で純粋、そして裏表が無い、鋭いナイフの様なサティに近付こうと思う者は、中々居なかった。
また、グラマー地方特有の床しさを良しとする風土もあり、色恋とも無縁であった。
理解者を得ると言う意味でも、公学校教育は有意義であった。
サティは敵に回すと恐ろしいが、味方になれば心強い。
困った時に彼女を頼る者は、少なくなかった。
サティも大抵の事には応じ、級友達の信頼を得て行った。

96:創る名無しに見る名無し
12/05/10 19:44:44.69 9JBPd2AU
人間


この世界で人間は、現人類しか確認されていないが、現人類とは異なる人間も定義されている。
『現人類<シーヒャントロポス>』とは異なる人類は、旧暦の伝承上では、『闇人<ニヒタントロポス>』、
『海人<オケアナントロポス>』、『空人<オラナントロポス>』に大別される。
それぞれ略して、ニヒタント、オケアナント、オラナントと言われる事もある。
或いは、ニクタンス、オーシャナンス、アラナンスとも。
闇人は『夜の人<アントロポス・ニヒタス>』であり、人目に付かない所に隠れ住むと、考えられていた。
『夜の人種<ナイト・レイス>』、『夜の人々<ナイトフォーク>』と呼ばれる事もある。
これには諸説あり、日光を浴びると灰になるとも、醜い容姿から陽の下を嫌っているとも、
その正体は地底人であるとも言われていた。
同時に、人目を忍んで悪事を働く者―例えば、夜間強盗や路地裏で恐喝を行う者、
他には夜行性の害獣を指す隠語でもあった。
全体的に良くないイメージである。
海人は『大洋の人<アントロポス・オケアノス>』であり、深い海中、大海原、小さな孤島、岩礁に住むと、
考えられていた。
解り易く言えば、『人魚<マーフォーク>』、『半漁人<オアンネス>』の類である。
空人は文字通り『空の人<アントロポス・オラノス>』であり、高い山の上や、雲の上に住むと、考えられていた。
姿は『有翼人<ウィングドフォーク>』が主だが、翼は腕が変化した物だったり、背中から生えていたり、
鳥の物だったり、蝙蝠の物だったり、虫の物だったりと様々。
中には羽が無くとも空を飛んだり、空を飛ぶ動物に乗っていたりする事もある。
闇人も海人も空人も、人の領域外の存在である。
未知の世界への希望と恐怖の象徴で、故に、将来出現する可能性が指摘されている、
『獣人<シリアントロポス>』を始めとした『新人類<ネアントロポス>』とは、明確に区別される。
闇人、海人、空人の内、海人だけは実在する可能性もあるが、分類は進化の形態によって行われ、
やはり獣人か、然もなくば『魚人<プサリアントロポス>』か、『軟体人<マラキアントロポス>』等と言われる。


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