【明城学院】シンジとアスカの学生生活【LAS】 at EVA
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300:名無しが氏んでも代わりはいるもの
13/07/07 11:48:25.09
キャワワ><

301:名無しが氏んでも代わりはいるもの
13/07/07 14:51:20.08
 授業が終わり着替えを済ませたアスカは、更衣室のいすに座り込んで考えていた。
 そもそもあの質問でなぜ「シンジのいいところ」が浮かんでくるのか。
(ヒカリはなんで一緒にいるかって聞いただけじゃないの)
 一緒のいる理由でそれってこれじゃまるで……これ以上考えるとまた叫んでしまいそうだ。
 アスカは思考からそのことを追いだそうと頭を左右に振る。
「アスカ、早く戻らないと次の授業始まっちゃうわよ」
 ヒカリの声にアスカは慌てて立ち上がった。

302:243 上一個名前いれわすれ
13/07/07 14:53:21.46
 帰りの下駄箱にもまたアスカへのラブレター。名前を確認する様子すらなくごみ箱へ。
 シンジは常々思っていた疑問を今日に限って口にしてしまった。
「ねえ、アスカ。何でいつもごみ箱直行なの?出した人ちょっとかわいそうじゃない?」
 答えはこうだ。
「上っ面だけ見て惚れただの腫れただの言われても嬉しくないわよ。こいつらにあたしの何がわかってるっての?」 
 苛立ちの混ざった声にシンジはそれ以上は何も聞くことができなかった。
(そういえば僕はアスカの何をわかっているんだろう?)
 そしてその疑問に答えを出すことも、またできなかった。
 わきあがった疑問はシンジの心の中に暗い影を投げかけてきている。
(僕とアスカはなんなんだろう……)
 この日何度目かの自身への問いかけ。シンジは己の問いに対する答えを探すための思考に没頭し始めていた。

303:243
13/07/07 14:54:26.50
(シンジのやつ、どういうつもりであんなこと聞いたんだろ)
 本当の自分を知りもしないくせに好きだなどと言ってくる相手のことなんかどうでもいいと思ってるのは本当だ。
 そんな相手のことなんか知りたくもないから手紙も読まないし、名前も知らないままでいい。 
 ではシンジはどうだろうか?自分のことを知っていてくれてるのだろうか。
 ちらりと、シンジを横目で見る。学校出てからというもの、シンジは何かをずっと考えている。
(あんなこと聞いて……あたしに誰かからのラブレター読めってことなの?)
 あり得ないことではあるが、それで自分が誰かと付き合うということになったらシンジはどんな顔をするのだろう。
(そうなったら当たり前だけどこんな風に一緒にはいられないのよね)
 胸の奥にチクリと痛みが走り、なんだか嫌な気持ちになってくる。
 ふと体育の授業中にヒカリと話したことを思い出した。
(なんとなーく一緒にいる、か。……あたしとシンジってなんなのかしら)
 この日の二人はその後寮に帰るまでの間一言も話さなかった。

304:243
13/07/07 14:55:33.33
 翌朝になってもシンジとアスカは挨拶程度しか交わしていない。
 昨夜も今朝もいつものように隣に座っているのに口をきいてない二人。険悪な訳でもないのでケンカしている様子もない。
 調味料を渡したり、相手の飲み物を取りにいったりなど、むしろ黙っていても通じ合ってるようにさえ見える。
 それだけにいつも騒がしく食事を取ってる二人が静かなのは違和感があった。注意深いものが見れば何かを探り合ってるように見えたかもしれない。
 二人とも時々相手の目を盗むように横顔をちらちらと見る。気付かれそうになると目を逸らし考え込んでるような表情。
 何度かそれを繰り返しながら、朝食を終えた二人は学校へ向かうため、いつものように連れ立って食堂を出て行った。

305:243
13/07/07 14:57:25.72
(なにやってんだ、あいつら)
 相田ケンスケの日課の一つはシンジとアスカの動向チェックだ。
 時に壁を殴りたい衝動に駆られつつも、そのようなことを日課にしているのには訳がある。
 彼の趣味は写真や動画などの映像を撮ることだ。将来そういう趣味を生かした仕事に就きたいと漠然と考えてもいる。
 そのためにはいい機材が欲しい。だが資金がない。そこでバイトだ。
 ケンスケは校内の人気ある生徒の隠し撮りをしていた。彼の「商品」の中でも主力商品となっているのがシンジとアスカだ。
 日独クォーター、青い瞳に金髪。日本人離れしたスタイルに勉強もスポーツも優秀とくれば人気が出ない方がおかしい。
 性格のきつさもほどよいエッセンスと捉えられているようだ。
 そしてシンジ。一見地味に見えるこの少年は二、三年生を中心に密かに人気が高まっている。
 繊細で優しげな中性的な少年。寮生からの情報で料理の腕も知れている。噂では音楽も得意らしい。
 柔らかな頬笑みは癒し系男子として評判だ。アスカほどではなくても充分にケンスケの収入源となっている。
 この二人は基本的に一緒に行動しており、観察することは2つの「商品」を同時に仕入れることができる機会を増やすようなものと言う訳だ。
 ついでに言うと最も売れ行きのいい表情は二人一緒の時の笑顔であるという理由もある。
 さてそんなケンスケの貴重な収入源の様子が昨日からおかしいのだ。
(ケンカじゃないみたいだなあ、でもなんにしてもよくないな。あんなしけた表情されてたら売り物にならない)
 これならケンカでもしてくれてた方が表情的にはおいしい。とばっちりは御免蒙りたいところではあるが。
(新しいレンズまでもう少しなんだよな) 
 早いとこいつもの二人に戻ってほしいと願いつつ、ケンスケは朝食をかき込んだ。

306:243
13/07/07 14:58:32.20
 翌朝も下駄箱のラブレターをアスカは、一読すらせずに玄関備え付けのゴミ箱に放り込む。
 いつもよりほんの少し苛立たしげに見えたのは気のせいなのだろうか。
 シンジはそんなアスカを複雑な気持ちで見ながら自分の下駄箱を開けた。
 一瞬目を見開いてから、下駄箱を閉じる。
 もう一度開ける。ため息をついてそれが見間違いではない事を確認した。
『碇シンジくんへ』
 かわいらしい文字で書かれた宛名とハートマーク型のシールで封印されたそれは、紛うことなくラブレターだった。
(どうしよう)
 シンジは困惑したまま動けなくなっていた。

「シンジー?」
 教室に向かおうとしたもののシンジが動かない事に気付いたアスカの声でシンジは我に返る。
「うん、今行くよ」
 咄嗟に制服のポケットにそれを押しこむと、シンジはアスカの元に駆け寄った。
 アスカの視線が少しシンジのポケットに移った。
「ねえ、バカシンジ……」
「え?」
「なんでもない」
 今何を隠したの?その一言をアスカは言葉にする事ができなかった。

307:243
13/07/07 15:02:35.78
今日の分終わり。
続き多分火曜か水曜。
次か次の次完結予定。

携帯まじやりづらい(;´д`)

308:名無しが氏んでも代わりはいるもの
13/07/07 15:49:48.60
>>307
見事乙!
規制はキツいですな…

309:名無しが氏んでも代わりはいるもの
13/07/07 22:29:23.96
乙ー

投稿間隔とか気にせずまったり書いていってね

310:名無しが氏んでも代わりはいるもの
13/07/08 00:59:39.20
かなりの2chではハイレベル作品が並ぶ良スレですね
投下間隔はゆっくりでも構わないので今後もお願いします
なんかまとめサイトが欲しくなりますね。

311:名無しが氏んでも代わりはいるもの
13/07/09 03:55:13.43
まとめサイトあるとうれしいなw

しかしやっぱり職人ごとに解釈違うのは面白いね。

基本的なとこだけでも転生派と記憶と事象改変派いるしw

312:名無しが氏んでも代わりはいるもの
13/07/09 16:51:01.68
どの解釈でも「いい」ってのがいいよな
これじゃなきゃだめだ!!みたいな縛りが無い

313:243
13/07/09 22:46:29.96
予告してましたけど、今出先なので深夜か明日朝投下いきます。
申し訳ない。

314:名無しが氏んでも代わりはいるもの
13/07/09 23:26:52.88
待ってました!
慌てないでね お気をつけてお帰りください。

315:243
13/07/10 02:08:31.93
 碇シンジはとにかく困っていた。そして焦っていた。
 アスカには知られたくない。反射的に隠してしまったばつの悪さもある。
 そのアスカはと言うと時々こちらを見ている。困惑と寂しさが混ざった表情だがシンジはそこまで気がつく余裕がない。
(アスカに気付かれないように早く読まないと)
 シンジは立ち上がるとケンスケに向かいトイレに行ってくるとだけ告げて教室を出て行った。
「もうすぐホームルームだぜ」
 ケンスケの声に軽く手をあげて答えるとシンジは軽く駈け出していた。
 それを見たアスカは一瞬何か言いたげに立ち上がろうとしたが、どうしても声をかけることができなかった。
 トイレにはいるとまっすぐ個室へ。ポケットの中の手紙を取り出す。
 内容はいたってシンプルだった。惣流さんとのことは知っています。でも、あなたが好きです。昼休みに校舎裏に来てほしい。とだけ書かれている。
 予想はしていたがやはりドキッとする。
(惣流さんのことは知ってます、か……)
 先ほどとは違い皺にならないように、上着の内ポケットに手紙を仕舞い込んでシンジはため息をついた。
(アスカのこと……僕達のこと……なんなのか知ってるなら僕が教えてほしいくらいだよ)
 チャイムの音が聞こえる。ホームルームがそろそろ始まるだろう。担任が来る前に戻らなければ。 
(遅れると伊吹先生めんどくさいからな)
 シンジは来た時と同じように駆け足で教室へと戻っていった。

316:243
13/07/10 02:10:10.06
 ホームルームには間に合ったが、その後午前中の授業をシンジは上の空のまま過ごしていた。
 どうしても頭から離れない一文。
『惣流さんのことは知っています』
 自分が手紙とはいえ異性に告白されたことよりも、その一文で頭がいっぱいになっていた。
 アスカとの関係。一言で言うと心地よくてそこにいるのが当たり前のように感じる関係。
 アスカをつい目で追ってしまった。アスカの席はシンジから見て2列左側の斜め後ろに当たる。
(あれ、アスカどうしたんだろ……?)
 目が合ってしまう。目が合うということはアスカもこちらを見ていたということだ。
 黒板を見ているなら目が合うはずはない。
(なんだか様子が変?)
 視線に少し違和感を覚えた。だがアスカもこちらの視線にも気がついたのだろう。
ベーッと舌を出してシンジをからかってくる。
 そんなふざけた様子に少し心が癒される。
(気のせいだったのかな。おっと、怒られる前に前を向こう)
 シンジは笑いをこらえながら前を向いた。同時にふっとアスカの表情が翳る。
 アスカはシンジの背中を寂しげに見つめていた。シンジがアスカの変化に気付くことはなかった。

317:243
13/07/10 02:11:40.61
(シンジ……何で何も言ってくれないんだろう)
 シンジが自分に隠しごとをしている。恐らくはラブレター。
(どうして隠すのよ。やましいことでもあるっての?)
 少し前のアスカならきっと笑い飛ばしていただろう。
『シンジにラブレター?ないない』
 あるいは
『バカシンジに告白?物好きがいるものね〜』
 別にシンジのことを本気で軽んじているわけではない。正直もててもおかしくないとは内心思っている。
 ただシンジと自分の関係が崩れることは恐らくないという確信にも似た思い込みがあっただけだ。
 そう、確信はあった。昨日までは。
 アスカは気付いてしまっていた。この関係はひどく曖昧で、曖昧がゆえにひどく脆いという可能性を秘めていることに。
 男女の友情というものは、この世界には確かにあるのかもしれない。
 だが自分たちの関係は友情なのか。違う気がする。うまく表現はできないが友情などでは断じてない。
 それになにより
(友達だといつまでも隣にはいられないじゃんね)
 ――――惣流・アスカ・ラングレーは、この日初めて自分が恋をしていることに気が付いた。

318:243
13/07/10 02:13:39.60
「アスカ、先に食堂行っててもらえるかな?もし待ち切れなかったら先に食べちゃっていいから」
 それだけを告げるとシンジは教室を出て行った。
 アスカの心臓がドクンと跳ね上がる。
 何の用事なのよ?そう言おうとしたが声が出ない。
 いや、聞かなくても解ってる。恐らく手紙の主のところだ。
 行かないで。声にならない。頭が真っ白になっていく。
(いや……いや……待ってよ、シンジ……あたしを一人にしないで)
 もうシンジの姿は見えなくなっていた。ふらっと立ち上がるとアスカはシンジを探すために力なく廊下に出て行った。
 普段のアスカなら必ずしもシンジの返事がOKだとは限らないことにも気付いただろう。
 どこのだれかもわからない相手に自分が負けるはずはないとも思っただろう。
 だが今のアスカは普段のアスカではない。生まれて初めて恋を自覚したばかりだ。
 自分に戸惑いさえ覚えてる状態なので冷静さなど一欠けらもない。
(どうしよう……どうしよう……)
 このままではシンジがいなくなってしまうかもしれない。シンジの隣りを誰ともわからない人間にとられてしまうかもしれない。
(探さないと……だけど探して見つかって……あたしどうすればいいの……)
 普段の強気なアスカの姿はそこにはなかった。今のアスカは初めて知る自分の心に戸惑うだけの少女だ。
 ふらふらと、教室を出ていくアスカの足取りには力はなかった。

319:243
13/07/10 02:15:14.22
 特に考えもなく、屋上へ向かったアスカだがそこいたのはシンジではなく、二年生だと思われるカップルだった。
 楽しそうに二人で弁当を食べている姿が昨日までの自分たちを連想させた。そして自分が顔も知らない女の子の姿に変換されていく。
 いたたまれなくなって屋上を飛び出してしまった。上から探せばよかったのかと気付くがもう遅い。
 あの場所に戻りたくない気持ちの方が強かった。
(でも高いところからなら見つかるかな……)
 早くしないとシンジがいなくなる。頭の中はそのことでいっぱいだった。
 アスカがもしも少しでも冷静だったなら、自分の想像に欠けている部分に気付いたかもしれない。
 居心地のいい居場所だったのが恋に変わっていたことに気付いた。その日のうちにその関係が揺らいでしまうかもしれない恐ろしさ。
 それがアスカから思考の柔軟さや冷静さを全て奪い取っていた。だがそもそも自覚のきっかけになったのが、関係を揺るがすかもしれない他者だったのだから難しいところだ。
(いた………シンジ!)
 三階の窓からたまたま校舎裏に消えていくシンジらしき姿を見つけることができた。
 叫べば届いたかもしれない。だが声はかけられなかった。
 アスカはシンジを求めて校舎裏へ駈け出して行く。階段を数段ずつ飛ばして駆け下り、廊下を駆け抜ける。
 何度か他の生徒にぶつかりそうになりながらの猛ダッシュ。
 校舎裏への角までたどり着いた時……アスカはなぜか隠れてしまった。
 何を言えばいいのか、どうすればいいのかが解らなかったからだ。
 そっと角から顔を出して様子を窺ってみた。
(うそっ……)
 アスカが見たものは、シンジより少し背の低いくらいだろうか?黒髪ショートカットの女生徒がシンジの胸に顔を埋めている場面だった。
 頭が真っ白になっていく。足元が崩れそうになるのを必死にこらえてよろよろとその場を立ち去る。
 気がつくと寮の自室にいた。どうやって戻ったのか覚えていない。
(シンジと知らない子が抱き合ってた……)
 その光景とシンジの笑顔が交互にフラッシュバックしてきた。アスカは枕に顔を埋めると声をあげて泣いた。

320:243
13/07/10 02:20:04.27
今回はここまで。
次回早ければ金曜、遅ければ月曜。
多分次回完結。

嫌なシーンで切ってごめん。
ではおやすみなさい。

321:名無しが氏んでも代わりはいるもの
13/07/10 04:22:35.33
乙です!

322:名無しが氏んでも代わりはいるもの
13/07/10 10:00:01.43
おっつー

作品が増えてうれしい限り
このまま、雑談とか交えながらまったりやっていきたいもんだの

323:名無しが氏んでも代わりはいるもの
13/07/10 20:45:45.41
これが新しいLASの形か…

324:名無しが氏んでも代わりはいるもの
13/07/11 02:04:17.15
新しくはないだろ。昔からある某スレでは認めない人いるけどね
小説形式台本形式面白ければいいです
応援してるので職人様続きまってますね!

325:名無しが氏んでも代わりはいるもの
13/07/11 02:29:45.85
職人の皆様、乙であります!

いや〜しかし最後に最高のステージを用意してくれたね貞本さんは
大学までエスカレーター式ってのがまた嬉しいじゃないの

326:名無しが氏んでも代わりはいるもの
13/07/11 21:35:27.80
そろそろシンジ、アスカは夏休みの計画を立ててる頃かな

327:名無しが氏んでも代わりはいるもの
13/07/12 18:09:28.92
シンジ「ねぇアスカ、僕達付き合ってるみたいなもんだよね?」

アスカ「はぁ?あんたバカぁ?」

シンジ「ご、ごめん…冗談だよ…」

アスカ「ますますウルトラバカね、あたしはとっくにそのつもりだったっちゅーの」

シンジ「ええっ!?///」

アスカ「なに驚いてんのよ?ホントバカね///」

終わり

328:名無しが氏んでも代わりはいるもの
13/07/12 18:24:58.91
乙!
こういうのもいいなw

329:名無しが氏んでも代わりはいるもの
13/07/12 19:06:54.60
>>326
箱根の温泉とか

>>328
いつも「夫婦」喧嘩と冷やかされているので「恋人」じゃ物足りないアスカさん

330:329
13/07/12 19:08:23.31
>>328じゃなくて>>327宛てだった。メンゴ!

331:名無しが氏んでも代わりはいるもの
13/07/12 19:22:44.23
>>327
アスカ「ちょっとシンジ!あたしたちいつも夫婦夫婦ってからかわれてるけど」

シンジ「た、確かに…」

アスカ「あたしはすんごく嬉しいんだからね!」

シンジ「ぶーーーーっ!!///」

アスカ「な〜に吹き出してんのよ、ホントバカなんだから」

シンジ「だ、だって…」

アスカ「だってもへったくれも無いわよ!あんた責任取ってあたしをお嫁に貰わなきゃ許さないんだからね!///」

シンジ「ええっ!?わ、わかったよ…嫁に貰うよ…///」

アスカ「よ〜し…///」ニヘラ

終わり

332:243
13/07/12 20:21:56.61
「委員長、アスカ知らない?」
 昼休みが終る頃になってもアスカは教室に戻ってこなかった。
「知らないわよ。一緒にご飯食べてたんじゃないの?」
「それがさ、食堂に来なかったんだよ。保健室も行ってみたんだけどいなかったんだ」
 アスカの席にはカバンはあるのでまだ学校にいるはずだ。シンジはそう判断した。
 だがアスカは結局午後の授業にも一度も顔を見せることはなかった。


「携帯も出ないや……」
「碇くん、ほんとに何も聞いてないの?」
「うん……」
「寮の方にもかけてみろよ。もしかしたら何か連絡があるかもしれないぜ?」
 ヒカリやケンスケも心配そうだ。
「うん。そうする。その間に委員長の方からもアスカにかけてみてくれないかな?」
「俺もう一回誰かが惣流を見てないか聞いてくるよ」
 ケンスケが走っていく。本当にいい友人だとシンジは思う。
「もしもし、碇ですけども……」
 友人に感謝しながらシンジは寮に連絡を取る。
 一方ヒカリは一向に携帯に出ないアスカに不安を募らせていた。
「だめ、出ないわ。アスカどうしちゃったんだろう。もしかして何か事件とか事故に巻き込まれたんじゃ」
「はい、はい、そうですか。わかりました。ありがとうございます」
 シンジの電話は終わったようだ。
「碇くん、寮の方はどうだったの?」
「それが……昼休み頃に戻ってきてそのままらしいんだ」
「そう……でも電話には出ないのよね。ってちょっと待ってね。メールだわ」
 携帯を覗き込んだヒカリの顔は少し困惑している。

333:243
13/07/12 20:25:29.47
「アスカから。うーん……、碇くん、アスカ明日学校休むって言ってる。あと、鞄を私に届けてほしいって」
「僕が持っていくからいいよ。アスカと話をしなきゃいけないし」
「だめ。あなたにだけは頼まないでほしいって言ってるの。ねえ。なにかあったの?」
 シンジはラブレターのことを一瞬だけ浮かべたが、慌てて打ち消した。
 まずアスカに知られてはいないはずだ。
 それに仮に知っていたとしてもアスカが嫉妬なんてしてくれるはずもない。シンジはそう思っていた。
「わかんないよ……」
 寂しそうに俯くシンジに、ヒカリはそれ以上追及する気にはなれなかった。

334:243
13/07/12 20:27:08.20
「じゃあ、私アスカにカバン届けてくるわね。話も聞けるようなら聞いてくる」
「うん、お願いするよ。それから……僕からもアスカに話があるからって、それだけ伝えといてもらえるかな?」
 真剣な眼差し。一瞬ヒカリでもドキッとするものがある。ケンスケがその場にいた
らいい商品になるといったことだろう。
「わかったわ」
「それじゃケンスケが戻るのを待ってから僕も寮に帰るよ。ごめんね、ありがとう」
 これも委員長として、またアスカの友達としての役目だからと笑って委員長は出て行った。
 夕暮れの教室にはシンジだけが残されていた。

「ありがと」
 カバンをアスカに届けに来たヒカリは言葉を失った。それほどまでにアスカの状態はひどかった。
 元気がなかったのは確かだが、昼間とはあまりに違いすぎた。
 ヒカリはアスカのこんな様子を今まで見た事がなかった。
 泣きはらしたのだろうか。目は腫れぼったく、充血している。
 髪はぐしゃぐしゃになっており、学校で会った時より少しやつれたようにさえ見える。
 声もいつもの元気は全くなく、声は少し枯れているように思えた。
「ごめん、明日休む。風邪ひいてるとでも言っといて」
 さぼり宣言を咎める気にはならなかった。と、いうか本当に調子が悪そうなのだ。
「ねえ、アスカ。よかったらなにがあったのか話して?碇くんもすごく心配してたし」
 碇くんの部分でびくっと肩が震える。
「碇くんのことでなにかあったのね?」
「ごめん、ヒカリ。今は話したくない。でもシンジは何も悪くないの。悪くないの……」
 今にも泣きそうな親友を見るとヒカリもそれ以上はなにも聞くことができなかった。
「何も力にはなれないかもしれない。でも私はアスカの味方だからね?」
 そう声をかけるしかなかった。アスカは力なくうなづくだけだった。

335:243
13/07/12 20:31:03.60
 ヒカリが帰り際に言った一言が怖い。
『あのね、伝えるかどうか迷ったんだけど……碇くんがアスカと話がしたいって言ってた。すごく真剣な顔してた。落ち着いたらでいいの、話を聞いてあげて』
 今のアスカには死刑の執行をシンジが告げに来る。そのようにしか聞こえなかった。
 アスカは強がってはいるものの内面は脆い部分がある。自分の心に向き合うのが実は苦手であり、他人に触れられるのも苦手だ。
 中学二年生までは特にそうだった。だが、ある時から少しだけそんな弱い自分を受け入れることができた気がした。
 そして今年。碇シンジという不思議な少年と仲良くなった。本当に不思議な少年だった。
 奇妙な懐かしさと安心感があった。
 自分の良いところも悪いところも全てを恐らく受け入れるだろう。いつの間にかアスカはそう感じていた。
 いや、感じていたというのは実は正確ではない。魂が告げたと言った方がいい。魂に刻まれた何かが浮かび上がってきて理解した。
 魂だなんていささか非科学的と思いつつも、それが一番しっくりくる表現だとアスカは思う。
 だから一緒にいるのが当たり前だった。当たり前すぎて自分の気持ちにも気付かなかった。
 気付いてしまったその日に全てが崩れ去ろうとしている。
 人は他者とかかわることで生きる。その範囲がその人にとっての世界と置き換えてもいい。
 今、アスカは世界の中心が崩壊するのと同義のショックを受けていた。

336:243
13/07/12 20:32:28.31
(アスカ……どうしちゃったんだろう)
 夕食時にも降りてこない。電話もメールも反応がない。
(どうしてもアスカには伝えておかないといけないのに……)
 ヒカリからアスカの状態は聞いていたのでなおさら不安も募る。
 いっそ女子棟の方に訊ねて行こうかとも思ったが時間が時間だ。さすがにまずい。
『お腹空いてない?話もしたいけどそれよりアスカが心配だよ。僕は部屋にいるから空メールでもいいから見たら返してほしいな』
 シンジはもう一度だけアスカにメールを入れておき、部屋に戻ることにした。
 しかし、翌朝になってもアスカからの返信はなかった。
『おはよう。なんか……ごめん。学校行ってくるよ。ちゃんとご飯食べてね」
 一人で朝食を済ませるとメールを送信。シンジは後ろ髪を引かれる気持ちのまま学校へ向かった。
 アスカからの返信はやはりなかった。

337:243
13/07/12 20:34:55.96
(……シンジが心配してくれてる)
 もう自分にそんな資格はないのに。
(でももうシンジは……)
 この優しさも、あの笑顔ももう自分の隣から消えてしまうのだ。
 また涙が出た。アスカはシンジを想って泣いた。
「ひどい顔ね……」
 ふと鏡を見たアスカは、そこに映る自分の姿に思わず声に出して呟いてしまった。
 着替える気力もなかったので昨日から制服も何もかもそのままだった。
 泣いたおかげで少しだけ落ち着くことができた。
「お腹空いたな……」
 時計を見ればもう昼だった。丸一日何も食べてないことに気付いた。
「食堂に何かあるかしら……」
 何もなければコンビニにでも行こう。のろのろと体を起こし、そのまま食堂へ向かう。
 時間的に他の生徒に会う心配はないというのがありがたい。
「ん……いい匂い……」
 食堂から何か作っているらしい匂いがする。誰かいるのだろうか?
(寮監さんの昼ご飯とか……賄いさんの仕込みか何かかしら?)
 できれば分けてもらおう。食堂についたアスカは声をかけた。
「すいません、何か作ってるなら食べさせてもらっていいですか?」

338:243
13/07/12 20:42:36.62
「うん。ちょっとだけ待ってね。もうできるから」
 そう言って厨房から顔を出したのは、本来そこにいるはずがないシンジだった。
 アスカの顔は凍りついた。よりによってこんな姿をシンジに見られてしまった。
 身を翻して逃げる……はずだった。
 足がうまく動かない。力が抜ける。丸一日何も食べてないのも効いていた。
 反転しようとしたところで、へたり込んでしまう。
(シンジにこんなかっこ見られた。シンジの話も聞かされちゃう。なんで動けないの
よ……)
「アスカ!」
 シンジが慌てて駆け寄ってきた。ぺたりと床に座り込んでしまっているアスカに手を貸そうとするのだが
「いやっ、何も聞きたくない!」
 差し出された手を振り払い耳を覆い、子供のように首をイヤイヤと横に振る。
 携帯を取り出したシンジはメール画面に文字を打ち、アスカに見せる。
『今は何も言わないから、ご飯だけ食べてよ』
 見上げたシンジの顔は、アスカを慈しむように優しく微笑んでいた。
 シンジの手を取って立ち上がり、席に着く。
「なんであんたがここにいんのよ……」
 精一杯の強がった振り。
「ほんとは作るだけ作って学校に戻るつもりだったんだ。もうちょっとだけ待ってて」
 シンジは一度厨房に戻ると今度は濡れたハンカチを持ってきた。
「あと……これで目を冷やすといいよ。ほんと……ごめん」
「何か謝るようなことあんの?」
 困ったような顔で笑うシンジにずきりと胸が痛む。やはりこの場から逃げたい。
「今は何も話さない。そういう約束したでしょ?じゃ僕ご飯の仕上げしてくるね。とは言っても本当に簡単なものなんだけど」
 シンジの優しさが心に痛い。
「ていうか、もうすぐ昼休み終わっちゃうわよ。いいの?」
「多分委員長とケンスケがうまいこと言っといてくれると思う」
(あたしのためにそこまでしてくれるんだ……)
 厨房から聞こえるシンジの声はいつもよりも優しく聞こえる。
 その優しささえ今は怖い。

339:243
13/07/12 20:44:03.12
サルっちゃいそだからいったんここで切ります。
なんか長く

340:名無しが氏んでも代わりはいるもの
13/07/12 20:50:40.58
支援

341:243
13/07/12 21:13:56.32
「さ、できたよ。熱いから気をつけてね」
 卵の雑炊だ。昨日から何も食べていないだろうということで消化に良くて簡単にで
きるものをとの気使いが感じられる。
 出汁をしっかり取ってあるのが匂いでわかる。お茶は少し温い。これも胃に配慮したものだろう。
「じゃ、僕は学校に戻るから……」
「ここにいなさいよ……」

「え?」
「ここにいて。でも何も話さないで」
 多分これがシンジと一緒に食べる最後の食事だ。
 皺だらけになった制服、ぼさぼさの頭、泣き腫らした目。ひどい有様なのが悔やまれる。
 断られたらどうしようと思うと怖い、でもこのまま立ち去られるのも怖い。
(シンジは優しいから……多分断らないのはわかってるけど……優しさに付け込んでるのも解ってるんだけど……)
「うん」
 短く返事をすると、シンジはアスカの向かいに座った。
(隣じゃないんだ……)
 打ちのめされた気分だ。また泣きそうになる。
 シンジは真っすぐに、でも優しい瞳でアスカを見ている。
(そんな顔で見ないで)
「慌てないでゆっくり食べてね。ケンスケたちにはもうメールしといたから、学校は大丈夫」
(優しくしないで)
「ノートも見せてもらうことになったから、授業の方も平気だよ。って言ってもアスカは元から大丈夫かな」
(もういなくなるくせに)

342:243
13/07/12 21:15:26.63
 食べ終わる頃にはアスカは決意を固めていた。二人での最後の食事。最後の一口。
アスカはいつもより丁寧に咀嚼して飲み込む。
 食器を下げに厨房に向かうシンジにアスカは言葉を投げかける。
「ねえ、シンジ……ついでに一つだけわがまま言っていいかしら?」
 最後だから。シンジの優しさに甘えるのはこれで最後だから。自分にそう言い聞かせる。
「僕にできることなら何でも」
 これは儀式だ。
「髪」
「髪?」
「うん。ブラシかけて欲しい」
「僕、女の子の髪とか触ったことないよ」
「いいの」
「うん、わかった」
「シャワー浴びてくるから。出てきたらお願い」
 シンジの優しさに最後に甘えて、明日になったら元の自分に戻るための。
「明日はちゃんと学校に行くから。あんたの話とやらも聞いてあげるわ」
 大丈夫。きっと泣かずにちゃんと聞いてあげるから。シンジに聞こえないように呟くとアスカは食堂を出て行った。

343:243
13/07/12 21:19:19.72
「なにが最速成立よ……最速で失恋じゃないの……」
 シャワーの温かさが心地よかった。涙のあとも悲しい気持ちも流れてくれないかな、そんなことを考えながら丁寧に頭を洗う。
 恋に気がついたそのすぐ後に失恋。一番近くにいた相手だったのに。
『僕、彼女ができたんだ』
『この人と付き合うことになったんだ』
『アスカとは一緒にいられなくなった』
 頭の中で何度も何度もシミュレートする。なんと言われてもいいように。
「ひどいことだけは言われないのが救いかなあ」
 少なくとも嫌われた訳ではないと思える。もし罵られでもしたら今のアスカは立ち直れない。
 あまり長く時間をかけてもいられない。午後の授業が終わってしまう。
 アスカは大きく深呼吸すると、シャワーの栓を閉じた。

 食堂に戻るとご飯食べるところで髪をいじるのはあまり良くないとシンジが言い出した。
 サロンでならどうかというシンジの意見だ。
「それならもう一個だけわがまま追加していい?」
「うん?」
「シンジの部屋がいい」
 シンジは少しだけ驚いた顔をした後、少し照れくさそうに頷いた。

344:243
13/07/12 21:21:24.93
「思ってたよりも片付いてるわね」
 恐らくシンジの部屋に初めて入った女は自分。それが嬉しい。
 あの子へのちょっとした意地悪。 
「荷物が少ないからね。座るとこそこでいい?」
「うん」
「じゃ、はじめるね」
 シンジがドライヤーを当ててくれる。ブラシをかけて髪をすいてくれる。 
 姿見などはないのでどうなってるかはよく見えない。
 指先が髪に触れるたびに動悸が上がっていく。
「ドライヤー熱くない?」
「平気」
「髪、引っかけちゃったらごめんね?」
「初心者だもんね。許してあげる」
 いつまでもこの時間が続けばいい。シンジと二人だけの誰にも邪魔されない時間。
 やがてシンジはあの子とそういう時間が増えていくのだろう。
 でも今だけはシンジはアスカのものだ。この至福の時間が終わったら宣告を受け入れよう。
「アスカの髪、柔らかくてきれいだ……」
 シンジの呟きが耳に入る。耳が熱くなるのを感じる。
「髪型どうすればいいかな?」
「ん、簡単に上げてくれるだけでいいわよ。どうせいつものあたしがやってるようなのできないでしょ?」
「うん」
(あーあ、終わっちゃったか……)
 この時間が終われば、自分の恋も終わる。涙は必死にこらえた。

345:243
13/07/12 21:23:41.91
 髪をまとめるシンジの指がうなじに触れる。
 びくりと身体を震わすとシンジが心配そうに手を止めた。
「いいからさっさとやんなさい」
 嘘だ。ゆっくりでいい。ずっとこうしていたい。
「うん。ポニーテールみたいになっちゃうけどいい?」
「いいわよ。別に。あ、もしかしてあんたそう言うのが好きなのかなー?それともショートカットとかー?」
 虚勢を張ってからかってみせる。付け加えたのはほんの意地悪だ。あるいは自虐なのだろうか。
 シンジの手が止まる。驚いた気配が背中越しでも伝わってくる。
「もう、いいわよ。ありがと」
 深呼吸をして振り返る。
「鏡ある?」
「小さいのでよければあるよ」
 手渡された鏡を見ながら左右を確認。後ろは見れなかったがそれはあきらめておく。
「こういうのもたまにはいいわね」
「アスカは何でも似合うと思う」
 シンジが嬉しそうに笑った。
「バーカ、あったりまえじゃん」
 くるりと後ろを向いた。天井を一瞬だけ見上げて息をつく。
「いいわよ、話しなさいよ。大事な話、あるんでしょ?」

346:243
13/07/12 21:25:33.58
支援サンクス
いったんここまで。
残り深夜と明日で終われると思う。

長くなって申し訳ないです

347:名無しが氏んでも代わりはいるもの
13/07/12 21:50:31.38
くっそwww敵わねぇなwwwwww
上手すぎるぜ乙!!

348:名無しが氏んでも代わりはいるもの
13/07/12 22:39:31.97
レベル高すぎワロタ

349:名無しが氏んでも代わりはいるもの
13/07/12 22:42:01.30
激乙!
本職か?

350:名無しが氏んでも代わりはいるもの
13/07/12 22:51:57.83
すごいな。どこかでLAS書いてた有名な方なのかな?
初めてではない事はわかります

351:名無しが氏んでも代わりはいるもの
13/07/12 23:14:07.16
貴方が神か。素晴らしすぎw ぽかぽかするエンディングを待ってます。
さーて…自分も頑張らなきゃ…(´・ω・`)

352:名無しが氏んでも代わりはいるもの
13/07/13 05:51:22.95
ここで埋もれさせんの勿体無いな、
まとめ屋来ないかな?

353:243
13/07/13 09:10:23.15
 覚悟はできていた。でもやっぱりきっと泣いてしまう。シンジに泣き顔を見られるのは嫌だ。
「うん。ええっと、何から話そうかな……」
 恥ずかしそうに口ごもってるシンジ。アスカは黙ったまま彼の言葉を待つ。
「僕、昨日手紙をもらったんだ」
 意を決してシンジが話し出す。やはり恥ずかしいのか少し小さな声で。
(知ってるわよ)
「ラブレターだったんだ。正直びっくりした」
(あたしだって驚いたわよ)
「アスカにさ、読まずに捨てるのはかわいそうだよって言っちゃった手前もあって、ちゃんと返事しないとダメだって思ったんだ」
(捨ててしまえばよかったのに)
 ひどいことを考えている自分に少し嫌悪をする。
「それで?」
「昼休みに呼び出された。好きって言われた。アスカとのことは知ってるけどそれでも好きだって」
(なにを知ってたって言うのよ。あたしだって知ったばかりだってのに)
「で?あんたはなんて言ったの?」
 返事はない。ちらりと後ろを盗み見ると、シンジは恥ずかしそうに言葉を選んでるといった様子だった。
 見てたわよ、おめでとう。とでもいって驚かせてやろうか。
 一瞬浮かんだ考えを、そんなことを言えば自分が惨めになるだけだと打ち消してシンジの言葉を待つ。
「僕、人に好きだってあんな風にはっきり言われたの初めてだったんだ」
 質問には答えずシンジは続ける。声は先程に比べ少しずつ力がこもりはじめていた。
「だから嬉しいってよりもびっくりしちゃってさ。それに……」
 一拍を置いてシンジは続ける。
「それにね、なんだか見透かされたような気がしちゃって」
(見透かすってどういうこと……シンジもその子のことが元々好きだったってことなの?)

「アスカのこと」
 心臓が口から飛び出るという表現の意味をアスカは身を持って知った。
 全く予期していなかった自分の名前が出てきたからだ。

354:243
13/07/13 09:12:57.43
「アスカとのこと知ってますって言うんだ」
 シンジが大きく息を吐いた。聞いているアスカも緊張しているが、話すシンジも緊張してるのだろう、右手は胸元のクロスを握っている。
「最近ずっと僕とアスカってなんだろうって考えてたんだよ。それを見透かされたような気分だった」
 シンジは何を言ってるのだろう。あまりに予想と掛け離れているため頭が追いついていない。
「すごく失礼なことを僕は彼女にしてしまったと思う」
「…………どういうこと?」
「手紙もらってからもアスカとのことばっかり考えてた。この子は知ってますって言うけど僕とアスカの何を知ってるんだって。僕が教えてほしいくらいだって」
 まだシンジが何を言ってるのかわからない。
「それで……もしこの子の気持ちを僕が受け入れちゃったら……アスカと一緒にいられなくなっちゃうんだなって。そんなことばっかり浮かんでくるんだ」
 そこでシンジはもう一度息を吐き、静かに、でも力強くこう言った。
「だから……断ったんだ。アスカと一緒にいたくて」

355:243
13/07/13 09:16:52.59
「ふえ?」
 振り返りながら思わず出てしまった間抜けな声を合図に、急速に頭がはっきりしてきた。
『アスカと一緒にいたくて』
 何度も何度も頭の中にリピートされてくる。リピートのたびに動悸が上がり、顔が紅潮してくるのが自覚できる。
「ちょ、あんた何言って……ってあっち向け!こっち見んな!」
 振り返ったせいでまともにシンジの顔を見てしまった。真剣な顔。普段の優しい顔ではなく、強い決意がこもった顔。
 脳が融けそうになる。恥ずかしくて恥ずかしくて思わずシンジに怒鳴りながら前に向き直った。
「ご、ごめん!」
 別にシンジは何一つ悪くはないのだが、反射的に謝ってしまい背を向ける。二人はちょうど背中を向け合って話している形になっていた。
「あんた……今断ったって言った?」
「う、うん」
「じゃあ……じゃあ、なんで……なんで抱き合ってたの……?」
 アスカは喜びを必死で抑え、願いを込めて疑問を口をする。
「えええええええええええええええええええ!!!!!」
 アスカを振り返りながら叫んでしまった。アスカもその声に驚いて思わず振り返ってしまう。
「だ、だからこっち見んな!」
「アスカこそこっち見てるじゃないか!」
「いいからあっち向きなさいよ!」
 ぐるぐると思考が回る。なにが本当なのだろう。まさか二股でもする気なのか。
 いや、断ったと言ってくれてたではないか。アスカはシンジの言葉を待った。
「あれは一方的に抱きつかれただけだよ!断った時に思いつめちゃったみたいで……でもちゃんとわかってくれたから……っていうか見てたのならそう言ってよ!」
 そう言われてみれば抱き合ってはいなかった気もしてくる。アスカは冷静さを欠いていたあの時の自分を恥じた。
「い、言える訳ないでしょ!バカッ!」
 照れ隠しに怒鳴りつける。背中越しの軽い言い争いが心を癒していく。世界の終わりとばかりに大騒ぎしてしまっていた自分はなんだったのだろう。
 安心すると少し力が抜けてきた。二〜三歩後ろによろめいてしまい、シンジの背中にぶつかった。
 ちょうど背中合わせになっている。シンジの少し早い鼓動が背中越しに伝わってくる。恐らくアスカのもシンジに伝わっているだろう。

356:名無しが氏んでも代わりはいるもの
13/07/13 09:17:50.46
リアルタイム支援!

357:243
13/07/13 09:18:55.11
(あれ……じゃあシンジがあたしに話したかったことって……)
「アスカ」
 背中合わせのままのシンジの右手がアスカの左手を探り当て、強く握る。そしてもう片方の手も。
「は、はい!」
「それで気付いたんだ。アスカとずっと一緒にいたいんだって。きっと僕は……僕はアスカのことが……」
 さすがにアスカもここにきて自分の勘違いと――シンジの真意に気付いた。
「ご、ごめん!シンジ!ちょっと待って!」
 再び脳が融けそうになり、思わず遮ってしまう。
「な、なんだよ、もう」
 こういうのはタイミングを外されると非常に恥ずかしい。シンジは抗議の声をあげた。
 落ち着いてる風を装ってはいたが、シンジの緊張は受験の時のそれなどとは比べ物にならないほどだったのだ。
「まだだめ。今聞きたくない」
「話を聞いてくれるって言ったじゃないか。それとも……やっぱり僕じゃダメなのかな……」
 シンジの声が悲しみに染まっていく。
「………ちゃんとしたデートしてからがいい」
「デート?」
「うん……二人で遊びに行ったりはしてたけど、ちゃんとしたデートしてないもん。その時に言ってくれないとイヤ」
 背中合わせで本当に良かったとアスカは思った。今自分がどんな顔をしているのかは想像すらできない。

358:243
13/07/13 09:20:57.61
「あ、う、うん。どこか行きたいとことかある?」
「エスコートするのはあんたなんだから、そんなの自分で考えなさい」
 アスカは少し体重ををシンジの背中に預けた。シンジもそれを受け止めた。
「うん。わかったよ」
 もう一度シンジがアスカの手を強く握る。アスカも握り返す。
「…………言っとくけどあたしわがままよ?」
「自分を強く出せるのはいいことだよ」
「あんまり素直じゃないわよ?」
「アスカは傷つきやすいからだよ。ほんとは優しいってわかってる」
「優しくないわよ。意地っ張りでプライドばーっか高いわよ?」
「負けず嫌いなんだよ。そういうとこは尊敬してる」
「すぐ殴ったり蹴ったりしちゃうし、怒りっぽいわよ?」
「理由もなくそんなことしてるのは見た事がないよ。それに普段から怒ってるばっかりじゃないよ。感情が豊かなんだと思う」
「う〜〜〜〜〜、バカ」
 嬉しくても泣きそうになるというのをアスカは今実感していた。
「バカシンジのくせに生意気よ……なんでそんな風に言えるのよ」
「んー……バカだからじゃないかな?」
 シンジは照れくさそうに笑った。

359:243
13/07/13 09:22:20.05
「あ、最後にもう一つだけ聞いていい?」
 小さな声でアスカが訊ねる。
「さっき……なんでいつもみたいに隣に座らなかったの?」
「さっきってご飯の時?」
「そう」
「あれは……」
 なんだかアスカの顔見ていたかったから。隣だとじっと見てると不自然じゃないか。
 小さい声だった。でもアスカには充分届いていた。
「あんたはあたしの隣りで笑ってればいいのよ、バカシンジ」
 夕日が差し込み始めた部屋の中、アスカの声はとても幸せそうに聞こえた。

360:243
13/07/13 09:23:33.32
「ほんっと人騒がせなんだから!」
「えへへ、ごめ〜ん」
 翌日何事もなかったかのような顔で……いや、何かいい事があったとしか思えない顔でシンジと登校してきたアスカにヒカリは呆れ顔だ。
「碇くんとはちゃんと話せたのね?」
「えへへ、内緒」
「聞くまでもないって感じね」
「でも、ごめんね。ありがと、ヒカリ」
「いいわよ、もう」
 幸せそうなにやけ顔を見るとそれ以上責める気にもなれない。
 カシャリとシャッター音がした。
「レア顔いただきってね」
 音のする方を振り向くとケンスケがカメラを持って笑っていた。
「ほんとならぶん殴るとこだけど今日は許してあげるわ」
 ふふん、と笑うアスカの寛大さに逆にケンスケが震えあがる。
「なあ、碇。昨日何があったんだ?機嫌良すぎて怖いんだけど」
「内緒だよ」
 シンジは笑った。
「お前まで内緒なのかよ。全く仲がおよろしいことで」
「ほんとね。いい加減認めちゃえばいいのに。付き合ってますって」


「「別に付き合ってない(わ)よ」」


 まだ、ね。友人たちに聞こえないように小さく付け加えると、シンジとアスカは顔を見合わせて幸せそうに笑った。

361:243
13/07/13 09:35:41.34
これにておしまい。
設定このままでまた書くかは妄想の降り方次第。


>>356
支援感謝なのです。

362:名無しが氏んでも代わりはいるもの
13/07/13 09:35:44.95
ブラボー!

あえてアゲます

363:名無しが氏んでも代わりはいるもの
13/07/13 11:19:55.06
>>361
乙です、巧すぎます。

364:名無しが氏んでも代わりはいるもの
13/07/13 15:06:15.06
>>361
最高でした…シンちゃんとアスカに目頭が熱くなりました

設定引き継ぎでのラブラブ編が見てみたい…
素晴らしい作品をありがとうございました!

365:名無しが氏んでも代わりはいるもの
13/07/13 20:05:40.75
すばらしい終わり方でした。
私も設定引き継ぎでそろそろ夏休みの予定を立ててるシンちゃん&アスカが
見たいです

>>327>>331
こういう短編も大好きなのでどんどん投下してください!

366:名無しが氏んでも代わりはいるもの
13/07/14 15:25:57.36
すばらしい

367:名無しが氏んでも代わりはいるもの
13/07/14 17:17:56.24
アスカ「うーみー!海行きたいいい!」

シンジ「急にどうしたのさ」

アスカ「だから海に行きたい」

シンジ「でも来週臨海学校だよ?」

アスカ「プールでもいい。今すぐ行きたい」

シンジ「だからどうして今なの?」

アスカ「昨日ヒカリ達と水着買いに行ったのは知ってるわよね?」

シンジ「臨海学校用の水着だよね?」

アスカ「うん。だから今プールか海に行きたい」

シンジ「だからなんで来週まで待てないの?」

アスカ「いい?バカシンジ。臨海学校用と言うことは他のみんなもあたしの水着を見るのよ?」

シンジ「まあそうなるよね」

アスカ「だから…………あんたに一番に見せたいって事じゃん。そのくらいわかりなさい。鈍感////////」

シンジ「あ////////」

368:名無しが氏んでも代わりはいるもの
13/07/14 18:45:25.45
>>367
乙です‼

369:名無しが氏んでも代わりはいるもの
13/07/14 21:49:45.45
乙。プール編もよろしく

370:265
13/07/15 23:33:33.79
合格発表当日。
10時開門だというのに、僕は9時過ぎにはそこにいて、
校門の横で寒さに震えながらその時を待っていた。
天気は、晴れ。3月なのに放射冷却が猛烈に効いていて、凄まじく寒い。
こんなこと言ったら北海道とか東北の人には怒られるのかもしれないけど、
でも寒いものは寒い。マフラーを耳まですっぽりと隠れるように巻き、
寒さ凌ぎにその場で足踏みをする。同じような仲間が既に十数人いて、
どこかの国のマスゲームよろしく、同じように足踏みをしている。

駅前の喫茶店で時間を潰しても良かったんだけど、
でもそうすると入れ違いになりそうな気がして、迷った末に僕はここに来ることを選んだ。
あれは、果たして約束と言えるものだったのだろうか。
「また合格発表の日に会いましょ」
その一言が、この2週間、ずっと頭の中を回っていた。
うん、そうだ。
僕はどうしようもなく、彼女に惹かれている。
一緒にいる時のあのほっとした心持ちは、今まで僕が味わったことがないものだった。
きっとどこかで会っている、その気持ちはあの時からますます強くなっている。
運命とかそういう言葉では言い表せない、特別な縁(えにし)がある気がして。
それを確かめたくて。
だから僕は、約束とも言えないあの言葉を頼りに、ここにいる。
合格発表と入学手続きは今日から3日間。つまり、今日ではないかもしれない。
でも、きっと彼女は、アスカは今日ここに来る。なんとなくだけど、そういう確信めいたものがあった。
そういう気持ちになったのも、初めて。

371:265
13/07/15 23:34:34.75
>>370
「おはよう、シンジ」
俯いていた僕に投げかけられた声。待ち望んでいたはずの声なのに、その声の主の方を見るのが、なんとなく気恥ずかしい。
「あ…お、おはよう惣r…じゃない、アスカ…さん」
「ダメ、『さん』も要らない、やり直し」ニカッと笑うアスカ。
「お、おはよう…アスカ…」顔が真っ赤なのが分かる。さっきまで物凄く寒かったのに、
今は猛烈に暑い。
「何赤くなってんのよ、バカシンジ。おはよう、寒いわね」
アスカは僕の方に一歩近づき、そして言う。
「ひょっとして、あたしのこと、待っててくれたの?」
「あ、いや…その…うん…」待ってたよ、2週間前、駅のホームで別れた時から、ずっと。
心の中の声が、アスカに聞こえることはない。はず。
「ちっ、先を越されたかぁ…」「え?」「いや、なんでもない、ほら、開門するわよ、行きましょ」
ちょっとした思索の海に潜っていると、その上を越えていく言葉を捕まえられない。
その時のアスカの呟きを確かめる間もなく、僕達は校内へ突き進む。
いつの間にか、すごい人並み。朝のラッシュ時のようだ。
玄関前の掲示板は、既にごった返している。両腕を突き上げる人、その場で立ち尽くす人、悲喜こもごもなシーンがそこに展開されていた。ほんとに、ドラマのワンシーンみたいだ…。

372:265
13/07/15 23:36:25.20
>>371

「…すいません」そう言いながら、僕達は人波の中を進む。
ようやく辿り着く掲示板。そしてその時になって初めて、僕はアスカの手を繋いでいたことを知る。
「…あ///」
何か言われるかと思ったけれど、アスカは意外にもそのことについては何も言わず、ただ、
「ほら、見つけなきゃ」と僕の背中を押した。
さっきまで繋いでいたその手で。
お互いに無言になって自分の番号を探す。
「…あった!」
僕もアスカも殆ど同時に自分の番号がそこにあるのを見つける。
「やった!」「あたしもよ!」
両手を高く突き上げ、その勢いでそのまま僕に抱きついてくるアスカ。
瞬間、シャンプーのいい匂いと、カシミヤのコート越しに僅かに感じられる胸の感触。
喜びも束の間、突然の出来事に僕の頭の中は真っ白になる。
ガッツポーズをする筈だった両手の間に飛びこんできた僕の想い人。
どうしたらいい?どうしよう?握りしめた拳をそのまま、おそるおそる彼女の背中に回す。
「…!」声にもならない声を上げて、アスカが飛び下がる。その拍子に後ろの男子にぶつかって睨まれる。「あ、す、すいません」そう言いながら彼女の目は鋭く僕を射貫く。
「ご、ごめん…」「あんた、ドサクサに紛れて今あたしを抱きしめようとしたでしょ、んなの100万年早いわよ!」「…ごめん」
いや、抱きついてきたのはアスカだろ…。僕の声はアスカの次の言葉によって喉元で止まってしまう。
「ははっ、まあいいわ、合格記念の特別大サービスってことにしといてあげるから」
彼女はウインクする。
ああ、ダメだ。どうしようもなく、彼女に引き込まれていく。
気づくと目の前に右手。「ほら、お互い合格したことだし、健闘を称え合いましょ」「…うん」
改めて、がっちりと握手。ようこそ、高校生活。ようこそ、新しい人生。

…そうか、彼女は僕にとって、新しい希望なのかもしれない。
僕が見つけた、と言うのは違うかもしれないけど、その時僕はそんなことを思った。

373:265
13/07/15 23:37:24.49
>>372
入学手続きの書類を取りに、事務所に向かう。
「…ところで、アスカはここを滑り止めって言ってたけど、本命はどうだったの?」
軽い気持ちで訊いてしまって、彼女の表情を見て後悔する。
「…あんたに答える義理はないわ」「…ごめん」なんでか分からないけど、反射的に謝ってしまう。
そのまま気まずい雰囲気が流れる。そのまま事務窓口に行き、書類を受け取る。
「まあいいわ、シンジ、合格祝いにお茶でもしていきましょ。
あんたのおかげで合格できたのかもしれないし、コーヒーくらいなら奢るわよ」
書類を受け取った後、アスカが言う。その瞬間、また心拍数が跳ね上がる。

「…ごめん、まだこの後予定があるんだ…」「へー、レディの誘いを断るほどの予定があるんだ…へー。」
ジロリ、と睨まれる。ヤバイ、また機嫌悪くなってきた;;;;
「い、いや、この後入寮希望者の説明会があるんだよ。僕、寮に入るつもりだからさ、ちょっと…聞いていきたいんだ…。」
ほんとはアスカの誘いは凄く嬉しかったし、出来ればそうしたかった。
でも、入寮希望者はこの説明会に出て、申込書やら何やらを貰わなくてはならない。

「ふーん…なんかそれ、面白そうね」「え?」「私も行くわ、それ」
「え?」「入寮希望者しか聞いちゃいけない、ってわけじゃないでしょ?」
「ま、まあ、多分…」「だったらいいじゃない、ほら、行くわよバカシンジ」

説明会は寮内の食堂でおこなわれる。事務室で地図をもらってそちらに向かう。
アスカは自宅から通うらしい。
「ママがうるさいのよ。ほんとは早く自立したいんだけどね…」そう語るアスカに
「家が近いのはいいよね…」と返しながらも、何か残念な気持ちを抑えられない僕。
「近くなんかないわよ、片道で1時間半もかかるのよ、おまけにあのラッシュじゃない、たまんないわよ…」
誰かさんみたいに助けてくれる人もいないし…、そう聞こえた気がしたけれど、気のせいかもしれない。

374:265
13/07/15 23:41:40.90
>>373
寮は学校から10分ほど歩いた場所にある。林の中にある瀟洒な3階建ての建物で、
有名な建築家がデザインしたとパンフレットに書いてあった。
寮は男子寮と女子寮に分かれていて、お互いの棟は食堂を通じて繋がっている。
明城学院はスポーツでも有名で、全国から生徒が集まることもあって、寮はかなり混雑しているものだと僕は思っていた。


「…あれ?これだけ?」男子が10数名、女子に至っては3、4人しかいない。
後で知ったことだけど、スポーツ推薦組は別に部ごとに寮があって、僕の入る普通科の入寮希望者は毎年こんなものらしい。
でもその時の僕にはかなり意外な少なさだった。

375:265
13/07/15 23:42:21.70
>>375
「お、センセやないか!ここに居るっちゅーことは、受かったってことやな!」
受験の日に後ろの席に座っていたジャージの彼だ。
「あれ…君は、受験の日のおのぼりさん?」駅で出会ったメガネの彼もいる。
新たな生活を踏み出すに当たって、少しでも知っている人がいる、というのは心強い。
彼らとは良い友達になれそうだ、そんな予感がする。
その2人が僕を見た後に、アスカを見る。
僕から数センチしか離れておらず、見た目密着しているかのような彼女を。
「…で、早速ですか、センセもやりおるなぁ」「…なんか、いや〜んな感じ」2人が後ずさる。
「ち、違っ」顔を真っ赤にして同時に口を動かす僕とアスカ。見事なシンクロ。
「なんや、お似合いやないか」苦笑しながらジャージの彼は続ける。
「ワイは鈴原トウジ。トウジでええで。」隣のメガネの彼「俺は相田ケンスケ。よろしくな」「僕は碇シンジ。よろしく。」
「…で、碇シンジ君、このお連れさんは?」鈴原君と相田君は、なぜかアイコンタクトをして、同時に聞いてきた。
「惣流・アスカ・ラングレーさん。受験日当日に知り合って…」「ちょっと、バカシンジ、なんであんたが紹介してんのよ!」
頭をはたかれる。物凄い衝撃とズバン!という音が響き渡る。あまりに大きい音で、叩いた本人がびっくりしている。
全員がこちらを向く。
「な、なんだよ!叩くこと無いじゃないか!」「う…うっさいわね、あんたが余計なことするからよ!」
「早速夫婦喧嘩かいな…」「違うわ(よ)!」こちらも見事なシンクロ。
それに気づいてお互いがまた顔を真っ赤にして俯く。
そんな時に扉が開いて、案内の人が入ってきた。


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