ダイの大冒険のキャラがルイズに召喚されました8 at ANICHARA
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50:名無しさん@お腹いっぱい。
10/11/06 16:08:04 xXZqq6Gk
待てよ、、、
鎧の魔剣が可愛い女の子だったとしてだ。

魔剣が喋るって事は、たとえ喋るのが刀身の方だとしても、
額につけてる状態のまま喋ったらヒュンケルの性格が誤解されるかもしれん!
それもいいけど。

とりあえずこっちの世界の女の子といい具合になりそうな時は
容赦なく鎧化して遮断するといい。
見える、見えるぞ、、、「私以外に触らせないんだからっ!」と
涙声で訴える美少女の姿が!!!
完全に病気だ。

51:名無しさん@お腹いっぱい。
10/11/06 16:16:41 xXZqq6Gk
ああ、それとも長門系のクールな様でちょっと不思議系美少女でもいいかもしれん。
どうしたらいいんだ、、、

52:名無しさん@お腹いっぱい。
10/11/06 17:59:59 7yPjz9MN
擬人化なら他でやれよw
完全にオリジナルじゃねえかよw

53:名無しさん@お腹いっぱい。
10/11/06 18:20:12 xXZqq6Gk
>>52
擬人化はしてない。
俺の頭の中にいて見えるだけの話。
ただ鎧の魔剣が喋るかどうか気になるだけだ(`・ω・´)キリッ

でもそれが武骨な男の声よりも可愛い女の子の声の方が夢があるだろ?
ロマンがあるやろ?
俺はうp主の感性を信じる。

54:名無しさん@お腹いっぱい。
10/11/06 18:32:33 y6wsEx3U
喋らないから安心しろ

55:名無しさん@お腹いっぱい。
10/11/06 20:04:56 YdMUZVpg
>>53
考えた事もなかったな・・・その発想。
外見はどんな姿なんだい?
ポニテ?ショート?ボブカット?
可愛いってどんな風に可愛いか気になるだろう、教えてくれ


56:名無しさん@お腹いっぱい。
10/11/06 21:06:02 7yPjz9MN
>>53
どっちにしろオリキャラじゃねえかよw
他でやれw

57:53
10/11/06 21:28:41 xXZqq6Gk
>>54>>55>>56
OK。ちょっと自分の書き込みを読んで軽い自己嫌悪に陥っていた所だ。
丁度よく鼻の穴もしぼんだ所で素直に謝っておく。すまなんだ。

まあ、ただ、あえていえば、童顔で黒髪でちょっとたれ目の巨乳かな。
髪の長さは肩にかかるくらいか、腰にまで伸びてるか、前髪ぱっつんもすてがたい。
ああ、気にしないでくれ。オリキャラの話だ、、、。
主役はヒュンケル。忘れてないとも!

58:名無しさん@お腹いっぱい。
10/11/06 21:35:01 YdMUZVpg
>>57
俺はこの書き込みをみてレスしようと思った。


ただ鎧の魔剣が喋るかどうか気になるだけだ(`・ω・´)キリッ


59:名無しさん@お腹いっぱい。
10/11/06 21:37:58 9wYEgpAM
>>47
この世界で喋る剣は予めそう作られたものだけです
この世界に来たからと言って、元々喋ることの無い剣が喋ることはありません
ここではスレ違いなので、VIP等でスレ立てするか、外部のサイトに投稿するなりしてください

60:15 ◆/YI2FnXeqA
10/11/06 23:13:30 xKTRLu2F
トリップつけてみた。
今日は用事あるので明日の夜に投下します。
wikiの件はおいおいやろうと思いますが、もう暫くお待ちください。

魔剣はまあ、デルフと意思疎通させるくらいならネタとしてはいいかもね。
まずはデルフを出さなきゃならないけど。

61:ゼロの剣士 ◆/YI2FnXeqA
10/11/07 22:17:12 ueUFCnX8
それでは投下します。

62:ゼロの剣士 ◆/YI2FnXeqA
10/11/07 22:19:58 ueUFCnX8
その時彼女は夢の中、今よりもっと小さな体を震わせて泣いていた。
ここは彼女の秘密の場所。
中庭の湖面に浮かべた、舟の中。
魔法を失敗させて叱られると、いつも彼女はここに逃げ込んで、隠れて泣いていた。
「……ィズ、ルイズ」
どこからか、自分の名を呼ぶ声が聞こえる。
しかし今の少女には、その呼び声に応える元気もなかった。
―わたしはいらない子なんじゃないか?
そんな不安と焦燥感が、幼い心を満たしていた。
「……ィズ、ルイズ」
呼び声はまだ続いている。
その声が誰のものなのか、ルイズにはうまく思い出せなかった。
大好きなちいねえさまのものとも、憧れの人のものとも、その声は違って聞こえた。
―あなたは誰? わたしを叱りにきたの?
ルイズはおそるおそる顔をあげ、涙で曇った目を見開いた。

「起きろ。朝だぞ」
「……アンタ誰?」

しょぼしょぼと目を開けたそこには、銀髪の青年が立っていた。
まず最初に目を引くのは細身ながらがっしりした体躯と、腰に下げられた抜き身の長剣。
正直、あまり穏やかな印象を与えるものではなく、ルイズはその身を少し竦ませた。
(わたしを夜這いしにきた変態かしら?)
キュルケが聞いたら身の程知らずだと笑いそうなことを思うルイズを余所に、青年は重々しく口を開いた。
「俺の名はヒュンケル。君に召喚された使い魔……らしい」
言われてみればなるほど、寝ぼけまなこをこすり、改めて顔を見てみると、たしかに男は昨日召喚した平民だった。
男の左手を見てみると、コルベールが珍しがっていたルーンもたしかにある。
ルイズは「ああ、そうだったわ。瀕死の平民を呼んでしまうなんて……」と
再び鬱モードに突入しかけたが、そこではたと重大なことに気がついた。


63:ゼロの剣士 ◆/YI2FnXeqA
10/11/07 22:24:10 ueUFCnX8
(なんでコイツ、平気そうな顔で突っ立っているの?)

「アンタ、体は平気なの? 普通なら死ぬほどの怪我だったんだけど」
袖口から見える包帯が痛々しかったが、
男―ヒュンケルは特に気にした風もなく、「大丈夫だ。ありがとう」とだけ応えた。
大丈夫なはずがない。
半ば茫然としながらも、治療の一部始終を見ていたルイズには分かっていた。
水の秘薬まで使ったとはいえ、あと半月は寝込んでいてもおかしくない傷だったはず……なのだが、
実際に支障なさそうに動くヒュンケルを見ると何も言えないのもまた事実だ。
自分の認識と現実との隔たりに、ルイズはなんだかわけがわからなくなってきた。
「ま、まあいいわ……。
私はルイズ・ド・ラ・ヴァリエール! アンタのご主人様よ!」
昨夜までの落ち込みと、現在進行形の困惑と、身にしみついた貴族としてのプライド。
三者の争いは最後の者がかろうじて勝利し、ルイズはともかくも名乗りを上げた。
―ネグリジェ姿で目ヤニをつけたままという、いささか間の抜けた格好ではあったがともかく。

***

結局のところ、会話の主導権を握ろうとするルイズの努力はことごとく徒労に終わった。
「アンタは知らないでしょうけど」という前置きと共にありがたくもルイズが教えてやろうとしたことの殆どは、
「シエスタから大体のことは聞いた」の一言で封殺されてしまった。
聞くにはヒュンケルは、学院のメイドから事情を既に聞いていたらしい。
「ご主人様より先にメイドと口を聞くなんて!」と文句を言ったのも束の間、
「ご主人様は気持ちよさそうに寝てたんでな」と真顔で返されると、ルイズは口をもぐもぐさせるしかなくなった。
(なんかコイツ、やけに堂々としているわね……)
ヒュンケルがルイズに対して持つ敬意は、平民が貴族に対して持つそれではなく、一個人が恩人に対して持つものでしかない。
はっきり言葉にして理解したわけではなかったが、感覚的にルイズはそれを察した。
なんとなく見過ごしていたが、貴族である自分に対してタメ口をきいていること自体その証でもある。
(ご主人様としてナメられちゃいけないわ!)
そこで彼女は貴族と平民の差を思い知らせるべく、新たな作戦に出る。

64:ゼロの剣士 ◆/YI2FnXeqA
10/11/07 22:28:34 ueUFCnX8
「着替えるから手伝いなさい」

『所詮,平民など貴族の小間使いにすぎないのよ』とアピールする作戦である。
この作戦は当初、ヒュンケルが思いのほか従順にルイズの言うことに従ったことで成功を納めたかに見えたが、
着替え終わって最後に彼が、「大きくなったら一人でするんだぞ」と告げたことで台無しにあいなった。
言ったヒュンケルはさっさと部屋を出て行ってしまい、後に残るは怒りに震える小ルイズ。
彼女は使い魔のその発言を皮肉と捉えるか、本心と捉えるかという難しい問題に迫られたが、
結局「あいつは瀕死だから」というよく分からない結論を採用してぺったんこな我が身を慰めた。
実際のところ、もはや「使い魔瀕死説」は迷信の類にも思えてきたけれど……。

魔法成功率ゼロの地位を取り戻した杖を懐にしまった時、ルイズはふと、ヒュンケルの言葉を思い出した。
「元の場所に俺を帰すことができるか?」
どこか覇気のない様子だったヒュンケルだが、その質問にルイズが否と答えると、「そうか」とだけ言って少し目を落としていた。
―彼はやはり、元いた場所に帰りたいのだろうか?
思えば朝の慌ただしさに紛れて、ルイズはヒュンケル自身の話を殆ど聞いていなかった。
どこで、何をして生きてきたのか。何故あんな怪我をしていたのか。
ルイズはそんなことも聞きそびれた自分がおかしく思えた。
あるいはそれは―彼自身が暗黙のうちに、そう聞かれることを拒んでいたからかもしれない。
ルイズはふと思い、そう思った自分に何故か動揺した。
「……そういえばコレ、あいつのものかしら」
そうつぶやいたルイズの手には、小さな石のペンダントが握られていた。

65:ゼロの剣士 ◆/YI2FnXeqA
10/11/07 22:31:56 ueUFCnX8
***

一方ヒュンケルは、扉の外でルイズを待っていた。
ヒュンケルから見た「ご主人様」の第一印象は、子供っぽいの一言に尽きた。
マアムと同じ色の髪をしたルイズの気性は、マアムのそれよりずっと荒々しかったが、
その威勢の良さが逆にどこか滑稽さを醸し出し、唇をヘの字にした仏頂面も彼女の幼さをかえって強調していた。
「抜き身の剣なんか持ち歩いてたら、貴族への不敬になるわよ?」
講釈を垂れるようにそう言って魔剣を取り上げたルイズの顔を思い返し、ヒュンケルは本日何度目かの溜息をついた。
これに関してはルイズの言うことはもっともなことだったが、見知らぬ世界で丸腰はいささか落ち着かない。

(……それにしても遅いな)

一人手持無沙汰にしていると、おもむろに隣室のドアが開いて、一人の少女が出てきた。
燃えるような赤い髪と、褐色の肌。
ルイズと同じ制服を着た彼女はキュルケと名乗り、下から覗きこむようにしてヒュンケルの顔を見つめた。
意図的なのかどうか知らないが、前かがみになったために豊満な胸がひどく強調された格好である。
「昨日はよく分からなかったけど、いい男じゃない。あなたにキスできたなんて役得ね、ルイズも」
「……キス?」
「召喚した使い魔と契約する時にキスするのよ。まあ、あれはキスというより人工呼吸に見えたけど」


66:ゼロの剣士 ◆/YI2FnXeqA
10/11/07 22:40:43 ueUFCnX8
ヒュンケルはさほど社交的なタイプではなかったが、そう言ってクスクスと笑うキュルケとの会話は気を紛らわしてくれた。
彼女は今度は連れていたモンスターの頭を撫で、「使い魔のフレイムよ」と自慢した。
「火竜山脈のサラマンダ―ね。好事家に見せたら値段なんかつかないわよ?」
見たことのない生き物だったが、主人に従順そうなその様子にヒュンケルは感心を覚える。
脳裏にちらりと、獣王と呼ばれた男の姿が瞬いた。
「使い魔は普通……そういうものなのか? 人間が呼ばれるということは?」
「そうねえ、少なくとも私は聞いたことないわ。
 あなたが現れた時、先生もすっごく驚いていたし、滅多に起こることじゃないわね」
キュルケはさほど考えることもなく答えると、「あなたも災難ね」と肩をすくめた。
ヒュンケルは再び何かを尋ねようとしたが、そこでまた扉が勢いよく開き、言葉が途切れた。
自称ヒュンケルのご主人様、ルイズの登場である。

「ヒュンケル! ツェルプスト―なんかとなに話してるのよ!」
「あ〜らルイズ、遅かったわね。ちょうどダーリンと今夜の約束を取り付けたところよ」
悪戯っぽく目を輝かせると、キュルケはさっそくルイズをからかい始めた。
対するルイズはというとキュルケの思惑通り、顔を真っ赤にして怒っている。
昨夜から落ち込みがちな気分も、キュルケを前にしては条件反射でフルスロットルである。
「ダ、ダ、ダーリンですって!?
 こいつは私の使い魔なの! 瀕死なの! ちょっかい出すんじゃないわよ!」
とにかくこのルイズ、キュルケとの会話にはエクスクラメーションマークを欠かせない。
涼しげな顔で瀕死をしているヒュンケルと、その横で番犬のように唸るルイズを見て、
キュルケは「どっちが使い魔なんだか」と笑うと、手を振ってその場を離れて行った。
苛立たしげに喚くルイズには聞こえなかったろうが、ヒュンケルの耳には
去り際のキュルケが「まっ、思ったより元気そうでよかったわ」と呟くのがしっかり入っていた。
(人間はいいぞ、か……)
ヒュンケルはこの世界に来て初めてかすかに微笑むと、ルイズの小言と共に歩き始めた。

67:ゼロの剣士 ◆/YI2FnXeqA
10/11/07 22:53:51 ueUFCnX8
以上で終了です。
タイトルは「ゼロの剣士」としました。
魔剣戦士はたしかに魔王軍時代というイメージが強いかもしれないので。
意見してくれた方々、ありがとうございます。

次回の投下は水曜か木曜の夜辺りを予定しています。
ヒュンケル無双は次々回辺り。

68:名無しさん@お腹いっぱい。
10/11/07 23:03:59 voaGZltB
待ってました!!!
流石の不死身のヒュンケルさん・・・・・・マジパネェッす
そしてヒュンケル無双が超楽しみ!!

69:名無しさん@お腹いっぱい。
10/11/07 23:13:15 4t87icCS
乙です!

さっそくぴんぴんしてるヒュンケル流石。
順応性高いな。
>ぺったんこな我が身
そういえばルイズってマァムと同い年だったやうな、、、ゲフゲフッ!

70:名無しさん@お腹いっぱい。
10/11/08 01:11:44 r25+z2Ef
乙です。
堂々としてるヒュンケルが笑いを誘うw

あと細かいですけど、マ「ア」ムじゃなくって
マ「ァ」ムじゃないでしょうか?

ルイズ完全に子供のカテゴリに入れられてるな……まあしょうがないけどw

71:名無しさん@お腹いっぱい。
10/11/08 08:57:02 AFptOL/K
乙です。
この時点のヒュンケルはアバンのしるしの性能(輝聖石)は知らないはず。
コルベールや土メイジが勘付くかな?

72:名無しさん@お腹いっぱい。
10/11/09 21:56:12 ZslnNX3H
>>67

乙です!
スレに新たな光が・・・!!


ところで、wikiのほうへメンバー申請来てたんですがメンバー登録ってなんか必要だろうか?
登録編集にはメンバー登録必要ないので、保留にしてるんですが・・・

とりあえずwikiへは3話分登録しときました

73:ゼロの剣士 ◆/YI2FnXeqA
10/11/10 01:02:57 DPNetLRC
いきなりですが、
今日明日は時間が取れるか怪しくなってしまったので今から投下しちゃいます。


74:ゼロの剣士 ◆/YI2FnXeqA
10/11/10 01:09:30 DPNetLRC
朝食を食べ、授業が始まっても、ルイズの苛立ちは収まっていなかった。
食堂に向かう道すがら小言を垂れるルイズにもヒュンケルはどこ吹く風で、
シエスタとの約束があるからといって厨房に行ってしまったからだ。
聞くには、貴族用の重い食事ではまだ体に障るのでは心配したシエスタがヒュンケルを招いたらしい。

(なによ、シエスタやキュルケとばっかり仲良くしちゃって。あんなの胸ばっかりじゃない!)

ルイズとて鬼ではない。
本来なら平民の使い魔なぞ床に座らせて固いパンでも渡すところだが、病み上がりの今回は、特別にちゃんと食事させてやるつもりだったのに……。
昨夜予期した悲劇―使い魔なしで教室に行くという不名誉こそ免れたが、そのことへのささやか感謝の念もとうに消えうせていた。
主人である自分より先にメイドと知り合っていたことといい、キュルケと話していたことといい、ルイズには何もかも気に入らなかった。
使い魔の集団の中にいるヒュンケルは今、何を思っているのか。
ルイズのことをどう見ているのか。
そんな弱気が心の底にある自分自身も、ルイズは気に入らなかった。
そしてそんな様子は―つまり授業を全く聞いていないルイズの様子は―傍目から見ても丸わかりだったのだろう。
ミセス・シュヴルーズは軽い叱責と共にルイズに小石を錬金するよう命じた。
それは簡単な、初歩の魔法。
けれども、一度も成功させたことのない魔法。


75:ゼロの剣士 ◆/YI2FnXeqA
10/11/10 01:13:06 DPNetLRC
「先生、やめてください!」「先生、代わりに私が!」「無理するなゼロのルイズ!」
必死に押しとどめる級友の言葉を振り払って、ルイズは完璧な発音で魔法を詠唱し―
例のごとく完璧に小石を爆散してのけた。

「イオラ級の威力だな」

意味不明な使い魔の言葉を背に、ルイズはがっくり肩を落としてうなだれた。

***

二人だけしかいない教室に、椅子や机をひく音だけが響いている。
ルイズとヒュンケルは今、ルイズがやらかした爆発の後片付けをしていた。
罰として魔法を使ってはいけないと言われたが、
元からろくに魔法を使えないルイズにとって、それはちょっとした嫌味にしか聞こえなかった。
教室の雰囲気は、果てしなく重い。
倒れていた椅子を机に収めると、ルイズはついに耐えきれなくなって口を開いた。
「……『ゼロのルイズ』」
「……」
「聞いたでしょ? みんながわたしのことを『ゼロ』って呼んだのを。魔法成功率ゼロのメイジ。それがわたしよ……」
ヒュンケルはただ黙ってルイズを見つめていた。
きっと彼はこれまで、ルイズが自分を助けたのだと思っていたのだろう。
だから、嫌々ながらもルイズに従っていたのだろう。
しかし、事実はそれとは違うのだ。

「アンタが死にかけていた時だってわたしは何もできなかったわ。
 だって、アンタを医務室まで運ぶことさえ一人じゃできないんだもん。
 わたしがしたことはただ財布から金貨を出して、水の秘薬を買っただけ。
 メイジが聞いて呆れちゃうわよね?」


76:ゼロの剣士 ◆/YI2FnXeqA
10/11/10 01:17:42 DPNetLRC
自虐は止められなかった。
言葉と共にとめどなく涙が流れ、メイジの証であるマントを濡らす。
これまでずっと蓄積されてきた負の感情が、昨日からのあれこれで爆発した形だった。
たかが平民の使い魔になんでこんなことをと思う自分がいたが、
そう思えば思うほど、「たかが平民」と大して変わらない自分がたまらなく悲しかった。
尚も続けようとするルイズだったが、ヒュンケルが突然その肩を力強く掴み、それを押しとどめた。
思わず顔を上げたルイズの涙の跡を、ヒュンケルは指先でそっと拭ってみせ、そして言った。

「俺の命を救ったのはお前だ、ルイズ。
 そもそもお前に召喚されなければ、俺はあのまま死んでいた。お前の魔法が俺を救ったのだ」

そう告げるとヒュンケルは、ルイズの眼前に左手をかざした。
涙で曇った視界に、不思議な文字が滲んで映る。
使い魔のルーン。
ルイズが、「ゼロ」じゃなくなった証。

「力があっても、使い方を間違えれば何にもならない。
 お前が成功させた最初の魔法が人の命を救ったということ。それを忘れるな」

「……たとえ救ったのが俺のような人間でもな」
ヒュンケルはそう付け加えて微笑むと、教室から出て行った。
思えばそれは、ルイズが初めて見た使い魔の笑顔。
初めてルイズに向かって発せられた、心のこもった言葉だった。
後に残されたルイズは、さっきとは別の種類の涙がこぼれそうになるのを堪えながら、
「ご主人様をお前呼ばわりするんじゃないわよ使い魔!」と怒鳴ってみせた。

かくしてヒュンケルの特技―「ピンチに助っ人」属性は、ルイズの心を救うという形でささやかなお披露目を見た。

77:名無しさん@お腹いっぱい。
10/11/10 01:27:50 NfsnRoy4
支援

78:ゼロの剣士 ◆/YI2FnXeqA
10/11/10 01:30:04 DPNetLRC
以上で投下終了です。次は予告通りヒュンケル無双。
これを超えたらルイズをもっと元気にできるかなって感じです。

>>70
指摘ありがとうございます。
あまりに基本的なことで逆に見落としてました。恥ずかしすぎる。
>>72
不慣れなもので勘違いしていました。
そういうことでしたら申請の件はなかったことにしてください。
お手数かけてすいません。

79:名無しさん@お腹いっぱい。
10/11/10 01:37:23 NfsnRoy4
このゼロの剣士は前スレの最後のほうに第1話が投下されているんだが・・・
前スレを読めない環境か?
過去ログ読める人は作業をお願いします。

80:名無しさん@お腹いっぱい。
10/11/10 02:15:41 GT0y60Jh
>>79
やっべ・・・すまんかった
てっきりこのスレのが1話だと思っちまった

ページ名変更して修正します

81:名無しさん@お腹いっぱい。
10/11/10 02:17:12 GT0y60Jh
と思ったらどなたかが中身入れ替えで修正してくれてた模様
4~5話追加したいんだが被りそうなので様子見

82:ゼロの剣士 ◆/YI2FnXeqA
10/11/10 02:28:44 DPNetLRC
僕の方でやっときました。
いや、重ね重ねすいません。

83:名無しさん@お腹いっぱい。
10/11/10 20:36:52 M/fCAWk5
投下キタ─ ̄─_─ ̄─(゚∀゚)─ ̄─_─ ̄─ !!!!

惚れてまうやろー!!!
ヒュンケルは天然のタラシか。
ルイズもかわいくて思わずニヨニヨしてしまった。

しかし、まさかヒュンケルが溶岩の中に沈んでたなんて誰も信じないだろうな。

84:名無しさん@お腹いっぱい。
10/11/10 23:56:20 EiE4HEKh
ヒュンケルさんマジイケメン

85:名無しさん@お腹いっぱい。
10/11/11 01:28:59 +pS36/mY
女をフルという最大の難関すら軽くクリアするヒュンケルだから
格好よくはげますくらい楽勝だな。

86:名無しさん@お腹いっぱい。
10/11/13 19:19:44 VtLXJmsQ
いつリア充になってもおかしくないスペックを持ちながら
童貞疑惑がぬぐえない21歳。
そんなアンバランスさがヒュンケルの魅力。

87:名無しさん@お腹いっぱい。
10/11/13 20:33:20 u5z1S4DE
30歳になったら魔法使いに転職しそうな不安感

88:名無しさん@お腹いっぱい。
10/11/13 22:18:03 VtLXJmsQ
>>87
ポップあたりが冗談で吹き込んだら本気で信じそうだから怖い。
ヒュンケルって実は密かに魔法使いに憧れていそう。

89:名無しさん@お腹いっぱい。
10/11/14 02:20:08 mzJ27NS3
信じたら信じたで阻止する方向に進む気もする。
光と闇の闘気が中途半端になった経験から、戦士と魔法使いで同じ過ちを繰り返すのを避けようとしてさ。
今回のは闘気と違って無茶な強化とか出来ないだろうしね。

そしてそんな目的でするのでは相手に悪いということでそこらの娼婦で済ますけれども、
それを聞いたポップから「素人童貞」に転職しただけという驚愕の情報を知らされるとw

90:名無しさん@お腹いっぱい。
10/11/14 07:24:48 AD3KWmWe
童貞問題程度で壮大すぎる

91:名無しさん@お腹いっぱい。
10/11/14 09:54:23 ft8sv5PM
ダイとの邂逅後なら「コレで俺も魔法剣士だ!」だろ

92:名無しさん@お腹いっぱい。
10/11/14 10:03:13 5oKZnfCf
>>89
素人童貞に転職www

ヒュンケルが凄いショックを受けている様子が想像できる。
どうすれば童貞から脱け出せるんだと苦悶してる様子がwww
アバン先生あたりに聞けば教えてくれるだろうか。
それともネタとして遊ばれるか。

93:名無しさん@お腹いっぱい。
10/11/14 10:53:41 PPcyPklQ
>>91
そのためには魔法使いからさらに戦士に転職しなおさないといけない

94:名無しさん@お腹いっぱい。
10/11/14 12:25:55 ARLirjRj
話の内容が素でわからない
魔法使いに転職って何?

95:名無しさん@お腹いっぱい。
10/11/14 13:29:54 nwX/PoeR
>>94
DQ6のネタじゃないか?


96:名無しさん@お腹いっぱい。
10/11/14 13:52:50 4ce4KfsF
>>95 30歳まで童貞だったら魔法使いになれる、という伝説があってだな・・・

97:名無しさん@お腹いっぱい。
10/11/14 17:34:23 mzJ27NS3
>>95
ちなみに日本人男性は義務教育で忍者か侍の選択授業があるんだぜ!

98:名無しさん@お腹いっぱい。
10/11/14 18:03:16 5oKZnfCf
>>96
20歳過ぎても童貞だったら妖精だったっけ。

99:名無しさん@お腹いっぱい。
10/11/15 01:55:07 azAzId8v
さて次のヒュンケル無双だが、
鎧の魔剣でゴーレムを真っ二つにしていくのか、
マキシマム戦の様に丸腰状態でゴーレムを粉々にするのか・・・

100:名無しさん@お腹いっぱい。
10/11/15 02:30:25 1O+Z2xiI
ヒュンケルさんは素手でオリハルコンを砕く素質を秘めてるチートマン。
青銅が殴ったら逆に砕けちゃうレベル。

101:名無しさん@お腹いっぱい。
10/11/15 03:14:17 f7yV0Rvz
召喚された時期を考えると、今後は中途半端コースだよね?
オリハルコンとかはまだまだ無理じゃないかな。

102:名無しさん@お腹いっぱい。
10/11/15 17:19:10 KNm4kEcn
だが・・・それでブラッディスクライドなら・・・

103:名無しさん@お腹いっぱい。
10/11/15 21:42:03 azAzId8v
読んだことないんだけど、オリハルコンってゼロ魔に出てくるの?

104:ゼロの剣士 ◆/YI2FnXeqA
10/11/16 12:38:07 slLSyNdJ
今夜十時頃に投下予定です。
緊張するぜ……

105:名無しさん@お腹いっぱい。
10/11/16 16:18:12 x98EpoAY
>>104
超楽しみなんだぜ・・・・・・

106:ゼロの剣士 ◆/YI2FnXeqA
10/11/16 22:20:28 slLSyNdJ
遅れてすいません。今から投下を始めます。

107:ゼロの剣士 ◆/YI2FnXeqA
10/11/16 22:23:15 slLSyNdJ
―ヴェストリの広場。
五つの外塔と中央の本塔からなる魔法学院の中で、火の塔と風の塔の間に位置するこの中庭は、一種異様な雰囲気に犯されていた。
昼下がりのこの時間、普段なら腹ごなしに学生達が遊ぶここは今、二人の人間のために存在している。

一人は金髪のキザったらしいメイジの少年、ギ―シュ・ド・グラモン。
もう一人は銀髪のキザったらしいルイズの使い魔、ヒュンケル。

遠巻きに見物する学生の一人が、遅れてやってきた友人に急かすように叫んだ。
「早く来い! 決闘が始まるぞ!」、と。

***

事の起こりは半刻ほどさかのぼる。
教室の片付けをし終わった後、ヒュンケルは厨房で食事を取っていた。
メニューは栄養満点の、野菜を柔らかく煮込んだミルクスープ。
完璧に傷病人向けの流動食だったが、その味は食に関心の薄いヒュンケルさえ唸らせるほどのものだった。
料理長のマルト―は強面だが気のいい男で、ヒュンケルが礼代わりに何か手伝おうと言っても笑って取り合わなかった。
彼曰く、「けが人はよく食ってよく寝るのが仕事」ということらしい。
そこでヒュンケルは再度マルト―に礼を言い、午後の予定を聞くために食堂でルイズを探すことにしたのだが、どうにも様子がおかしかった。
探し人はフォークの先にクックベリーパイを刺したまま、あらぬ方向を睨んでいる。
視線の先には―メイドのシエスタ。
どういうわけか、彼女は目の前の金髪の少年に何度も頭を下げていた。


108:ゼロの剣士 ◆/YI2FnXeqA
10/11/16 22:26:07 slLSyNdJ
「どうしてくれるんだね? 君のおかげで二人のレディが傷ついてしまったじゃないか?」
「も、申し訳ありません! 私の気が回らないばっかりに……!」

朝に会った時は明るい笑顔を見せていたシエスタが、哀れなほど縮こまっていた。
ルイズに事情を聞いてみると、シエスタが拾った香水の小瓶が元で、ギ―シュという少年の二股がバレてしまい、責められているのだという。
頭を下げるシエスタの拳は恐怖のためか、悔しさのためか震えている。
ギ―シュの行いはただの八つ当たりにすぎなかったが、立場的にも実力的にも下の平民が逆らえるはずもなかった。
思えば、これが自分の所属していた場所―魔王軍の理念の典型なのかもしれない。
そう考えると、ヒュンケルの心持はいささか複雑になった。
そして―

「ヒュ、ヒュンケル? なにする気?」

戸惑うルイズの声を背に、ヒュンケルはなおも頭を下げるシエスタへと歩み寄った。
さて、朝と昼の食事の礼はこれで足りるだろうかと考えながら。

***

―そして場面は戻り、ヴェストリの広場。
結局話は巡り巡って、ヒュンケルは今、剣を握っていた。
力を振りかざす者を力で抑えつけるとは本末転倒にも思えたが、
へそを曲げた貴族が「平民」のヒュンケルの言葉に耳を貸すわけもなく、どちらが初めに求めたか、決闘で白黒つけることに話は落ち着いた。
ギ―シュは格好の腹いせができると見込んで、ヒュンケルとは対照的に意気揚々と振る舞っている。

「諸君! 僕、ギ―シュ・ド・グラモンはこの平民に名誉を汚された!
 よって今、この広場にて決闘により勝負をつける!」

芝居がかったギ―シュの言葉に、取り巻きの学生たちが歓声をあげた。
男女の修羅場だろうが決闘だろうが、彼らにはどちらでもいいようだった。
肝要なのは刺激的であること。それに尽きる。
彼らは滅多に見れない暴力沙汰に興奮し、眼を輝かせていた。
色めき立つ観衆の中、ただルイズとシエスタだけが、青い顔をしてヒュンケルを見つめている。
「ヒュンケルさんやめて! メイジに逆らったら死んじゃうわ!」
「アンタまだ怪我も治ってないのよ! つまんない意地張ってないでギ―シュに謝って……!」
ルイズやシエスタが必死にそう言うのを振り払って、彼はこの決闘に臨んでいた。
心配してくれるルイズ達には悪いが、ヒュンケルはこの決闘をある意味ではちょうどいい機会だと捉えてもいた。
ルイズが馬鹿にされる原因の一つには、「平民」のヒュンケルを召喚したことが間違いなく含まれる。
平民はメイジより弱い。
だから恥だ。だから貴族には逆らえない。
ルイズやシエスタが抱えるそんな鬱屈を、少しでも取り除いてやりたかったのだ。


109:ゼロの剣士 ◆/YI2FnXeqA
10/11/16 22:29:14 slLSyNdJ
「心配するな。俺は不死身だ」

ヒュンケルはそう言うと、涙混じりのルイズの罵声を背に、魔剣を強く握りしめた。
すると奇妙なことに傷の痛みが引いて、体が軽くなった。
見れば、左手のルーンが輝きを放っている。
この不思議な力は、そこを起点にして流れてくるかのようだ。
(これは「使い魔」としての能力なのか?)
ヒュンケルはそう疑問に思いつつ、敵と向かい合った。
脳内で、決闘の目的に「腕試し」の項目を付け加える。
ギ―シュは相変わらず芝居がかった姿勢を崩さず、余裕を見せていた。

「僕の二つ名は『青銅』。『青銅のギ―シュ』だ。
 したがって青銅のゴーレム、ワルキューレが君の相手をするよ。
 君はまあ、せいぜいその剣で頑張りたまえ」

言って薔薇の形をした杖を振ると、地面から剣を持った甲冑騎士が湧き出した。
ヒュンケルは授業で四系統魔法の基礎を聞いてはいたが、本格的なものを実際に見るのは初めてである。
繊細な造形をしたワルキューレに少し感心し、「見事だな」と呟いた。
ワルキューレはまるで、芸術家の作った工芸品のようだ。
しかし―
「おほめにあずかり光栄だ、とでも言っておこう。では、覚悟はいいな? いけ、ワルキューレ!」
ギ―シュが命令すると、ワルキューレは猛烈な勢いでヒュンケルに突進した。
まともに直撃すれば、四肢の骨も砕けんばかりのスピード。
剣を振り上げる戦乙女の姿に観客は黄色い声を上げ、ルイズとシエスタは思わず目を瞑りかけ―

「脆いな」

次の瞬間、言葉と共に剣を持ったワルキューレの腕が宙を舞っていた。
片腕をなくしたゴーレムを、ヒュンケルは木偶人形でも斬るようにそのまま両断してみせる。
「これは観賞用の人形か? 俺を倒したければ全力で来い」
そう言ったヒュンケルは、開始から今まで1メイルとして動いていなかった。
眼を疑うような早業に観客が静まり返る中、恐ろしくなめらかな切断面を晒した青銅が、ガシャンと音を立てた。


110:名無しさん@お腹いっぱい。
10/11/16 22:30:40 +3tYkhuf
支援

111:ゼロの剣士 ◆/YI2FnXeqA
10/11/16 22:31:39 slLSyNdJ
茫然としていたギ―シュはその音でハッと我に帰り、慌てて杖を振り上げる。
「お、おのれ、僕のワルキューレを!」
怒りにまなじりを上げたギ―シュは、目の前にいるのが無力な平民であるという認識を頭から拭いさった。
再び振るわれた杖からはらはらと花が落ち、新たに五体のワルキューレがそこから湧き出した。

「戦乙女が奏でる三重奏、しのぐことはできるかな!」

そう叫ぶとギ―シュは二体を手元に残し、三体のワルキューレでヒュンケルを攻めたてた。
直線的に攻めた先ほどとは違い、三体で円を描くようにヒュンケルに攻撃を仕掛ける。
これにはヒュンケルも防戦一方で、黙りこくっていた見物人たちも再び威勢を盛り返し始めた。
「さすがギ―シュ! 腐ってもメイジだ!」
「その平民のイケメン顔を台無しにしてやれ!」
時には同時に、時には時間差で、ワルキューレはヒュンケルに剣を振るった。
ヒュンケルは防ぐのに手いっぱいで、手も足も出せないでいる。
……少なくともぱっと見は、そう見えた。
所詮は平民。貴族がちょっと本気を出せば敵わない。
ルイズやシエスタも含め、殆どの観客はそう考えた。
しかし、そこで誰かがぼそっと呟く。
彼は遊んでる、と小さな声で。

***

「……なかなかしぶといね」

圧倒的優位と周囲に見られるのと裏腹に、ギ―シュは苛立っていた。
あらゆる角度から攻撃を仕掛けているのに、ヒュンケルはその全てを防いでいるのだ。
防戦一方に追い込んでいるといえば聞こえがいいが、髪の毛一本たりともヒュンケルの体は傷ついていない。
ヒュンケルはワルキューレの攻撃を時には受け、時にはそらし、あるいは微妙に重心をずらすだけでかわしていた、


112:ゼロの剣士 ◆/YI2FnXeqA
10/11/16 22:34:52 slLSyNdJ
観客の中には、ギ―シュご自慢のゴーレムなどそっちのけで、ヒュンケルの動きを注視する者も出始めている。
(このままでは僕の沽券にかかわるな)
いい加減、じれったくなったギ―シュは、ついに護衛用のワルキューレまで前線に追いやった。
これで五対一。
さっきよりもさらに倍近くのワルキューレをヒュンケルは相手することになる。
ワルキューレは素早くヒュンケルを包囲すると、少しずつその輪を縮め始めた。
前方に二体。後方に一体。左右双方に一体。
逃げ場はない。

「多少はやるようだけど、これで終わりさ。せめてもの情けに、医務室へは僕が送ってやろう。
 レビテーションも使えない、君の主人の代わりにね」

無言のヒュンケルを、ギ―シュと観客が嘲り笑う。
普段なら怒り狂うはずのルイズは、顔を青くしてヒュンケルを見つめるばかりだった。
そして……

「行け、ワルキューレ! 奴を一気に叩きのめせ!!」

裂帛の気迫と共に叫んだギ―シュ。
しかし、次の瞬間にはその目は驚きに見開かれていた。
それもそのはず、今まで待ちの構えを崩さなかったヒュンケルが、突如として走り出していたのだ。
標的はもちろん、ワルキューレの錬成者であるギ―シュ自身。
ヒュンケルは四方から来るワルキューレのうち三体を無視し、正面の二体を瞬時に斬り伏せた。
すれ違ったと思ったら斬れていた。そんなスピードだ。
他のワルキューレはギ―シュの動揺がうつったのか突然の動きに対応できず、ヒュンケルの後方で互いに衝突している。
ヒュンケルはワルキューレを斬ったそのままの勢いでギ―シュに迫りくる―!
「今だ! 錬金!!」
間一髪、ギ―シュは杖を振り上げ、ヒュンケルの背後に新たなゴーレムを出現させた。
ギ―シュが錬成できるのは七体のワルキューレ。
これが最後に残しておいたとびっきりの一体だ。
もはや、ギ―シュに余裕はない。
「斬り捨てろワルキューレ!」
ワルキューレは完璧なタイミングで不意をつき、ヒュンケルに背後から斬りつけた。
ヒュンケルの体は剣を受けて真っ二つに割れると、跡形もなく消えうせ―消えうせ?


113:ゼロの剣士 ◆/YI2FnXeqA
10/11/16 22:39:29 slLSyNdJ
「残像だ」
「ひぃッ!」

思わず悲鳴を上げたギ―シュのすぐ後ろ、涼しい顔をしてヒュンケルが立っていた。
慌てて振り返った刹那、ヒュンケルの手元が閃き、ギ―シュの薔薇を模した杖の花弁が全て斬り落とされた。
はらはらと花が落ち、ギ―シュとヒュンケルの間に赤い線が引かれる。
その瞬間、ギ―シュの目には点々と落ちた薔薇の一線が、彼我の越え難い実力を示しているように映った。
あるいは、ワルキューレを十体出せたってこの男には敵わないのかもしれないとギ―シュは悟った。

「こ、降参だ。僕の負けを認めるよ。杖を失っては何もできない。
 まさか、『ゼロ』の使い魔に負けるとはね……」

言い終えると力が抜けてしまったのか、ギ―シュはその場にへたりこんだ。
ヒュンケルと、彼に走り寄って来た「ご主人様」を、思い出したかのように歓声が包み込んだ。


***

―ところかわって中央の塔。
四つの瞳がこの戦いを見つめていた。
トリステイン魔法学院の長であるオールド・オスマンと、『炎蛇』の二つ名を取るコルベール教師である。
オスマンは鏡に映った広場の映像を消すと、興奮した面持ちのコルベールに向き合った。
彼の手元には「始祖プリミルの使い魔達」という年代物の書物が握られている。
「あの剣の冴え、彼こそまさにガンダ―ルヴに相違ありません! まさかこの目で伝説の使い魔を見れるとは……!」
大発見とばかりに息巻くコルベールとは対照的に、
オールド・オスマンは普段の様子からは信じられぬほど険しい表情で黙考していた。


114:ゼロの剣士 ◆/YI2FnXeqA
10/11/16 22:42:17 slLSyNdJ
興奮していたコルベールもオスマンのその様子にただならぬものを感じ、齢300とも言われる老メイジを注視する。
オスマンはもしやポックリ逝ってしまっているのではないかと思うほど黙りこくった後、ようやく口を開きこう言った。

「コルベール君、彼がガンダ―ルヴかもしれんことは内密にするんじゃ。
 王宮の連中が聞きつけたらミス・ヴァリエール共々どうなるか分かったもんじゃないわい」

コルベールもそれを聞くと心当たりがあるのか、暗い顔になった。
ガンダ―ルヴの異名は「神の盾」。
幾千の軍にも匹敵した、戦闘に特化した使い魔だと伝えられている。
目的のためには手段を選ばぬところのある政治家達がその存在を掴んだら利用されるか、あるいは……。

「分かりました。彼のことは内密にしておきましょう。
 それにしてもあの動き、本調子だったらと思うと空恐ろしいですな。
 ……いや、昨日の今日で普通に歩いてるのを見た瞬間から私は戦慄しましたが」
「伝説もさもあらんというもんじゃな。わしもあれほどの使い手は滅多に見たことがないわ」

比較的平静を保っていたオスマンも、内心では興奮していたのだろう。
彼らは気付かなかった。
学院長室の扉の裏、こっそりと盗み聞きをしている人影の存在を。
影はサイレントの魔法で足音を消すと、誰にも気取られぬままその場を離れて行った。



115:ゼロの剣士 ◆/YI2FnXeqA
10/11/16 22:50:10 slLSyNdJ
以上で終了。支援ありがとうございました。
大地斬一発な展開を避けたらやたらと長く地味目に…。

最初に書きためていた分は大体ここまでなので、
これからは7〜10日に一回程度のペースになると思います。

116:名無しさん@お腹いっぱい。
10/11/16 23:16:16 TBk6Um+U
乙です!
面白かったです

読んでてワクワクしました
やっぱり無双は楽しい

117:名無しさん@お腹いっぱい。
10/11/16 23:35:30 x98EpoAY
乙です。
これでシエスタがエイミの様にヒュンケルさんに猛烈アタックするのか・・・
なんという・・・事だ

118:名無しさん@お腹いっぱい。
10/11/17 21:10:05 jaUhKViL
乙です!
最近の心の潤いだ。
相変わらずヒュンケルつええ。

119:ゼロの剣士 ◆/YI2FnXeqA
10/11/20 01:38:49 ntctZGt6
こっそりと投下。

120:ゼロの剣士 ◆/YI2FnXeqA
10/11/20 01:41:31 ntctZGt6
「ようこそ!『我らが剣』!!」

厨房へやってきたヒュンケルにかけられた第一声はそんな大唱和だった。
あの決闘の後、ヒュンケルは涙目のルイズに怒られ、キュルケを始めとする惚れっぽい女子に囲まれ、
それを見たギ―シュに弟子入り志願され、何故かさらにまたルイズに怒られた。
そしてようやく夕食の時間になって落ち着くと思った矢先に冒頭の一言である。
見ると、料理長のマルト―やシエスタをはじめ、厨房の全員がヒュンケルを英雄でも見るような顔で見つめていた。
朝や昼に来た時は「メイジに召喚された気の毒な病人」的な扱いでしかなかったのだが、さっそく決闘の効果が出ているらしい。
予想を超えた状況にたじろぐヒュンケルを、使用人達は口々に「我らが剣」だとか「平民の希望」だとかいう言葉を使って囃したてた。
特に興奮した様子のマルト―などは、ヒュンケルが昨日まで半死人だったことも忘れたのか、ばんばんと豪勢なディナーを出してくる。

「どんどん食べてくれ、我らが剣! いやあ、貴族を剣一本でノシちまうなんて信じられん! こんないい気分になったのは初めてだぜ!!」

マルト―はそう言いながらヒュンケルのグラスに酒を注ぐと、「ほれほれ」と急かして自分のそれと乾杯させた。
よく見ると、マルト―の後ろには使用人達が酒を片手にぞろぞろと列をなしている。
もしかしなくてもこれは、ヒュンケルと杯を交わすために違いない。
正直、さほど社交的とはいえないヒュンケルにとってはあまり歓迎できない状況だったが、
無意識に逃げ場を探すように振り向いた先にはシエスタが立ちふさがっていて、目が合うと顔を赤らめて微笑んだ。

「ヒュンケルさん、今日は私のためにありがとうございました。それであの、お礼にお菓子を作ったのでよかったら食べてください……!」

シエスタは大皿に盛ったお菓子を、おずおずとヒュンケルに差し出してくる。
実際のところそのお菓子の山はヒュンケル一人で食べきれる量ではなかったが、
シエスタの目には昼間のギ―シュ以上の気迫がみなぎっていて、ヒュンケルの本能が「断ってはまずい」と警報を鳴らしていた。
ヒュンケルはとうとうこの圧倒的庶民的空間から脱出することを諦め、また新しく注がれた酒を呷った。


121:ゼロの剣士 ◆/YI2FnXeqA
10/11/20 01:44:25 ntctZGt6
***

―2時間後、ようやくヒュンケルは酒宴という名のカオスから解放された。
普段あまり嗜まない酒を大量に飲んだせいか、少し足がおぼつかなくなっている。
さすがのヒュンケルも今日はさすがに疲れていたが、千鳥足で帰ったらルイズに何を言われるか分かったものではなかった。
罵られて喜ぶ性質でもなし、酔い醒ましをしてから帰った方が無難だろう。
(月夜の散歩でもしてくるか……)
散歩とは言っても、ヒュンケルは学院の構造をさほど分かっていない。
自然、足は昼に訪れたヴェストリの広場に伸びた。
夜の広場は静まりかえり、月光が芝生に奇妙に幻想的なコントラストを描いていた。
ヒュンケルはしばらくその風景に見とれていたが、やがて振り返ると夜の沈黙を破った。

「何か用か?」

言葉の先、月明かりの中で、青髪の少女が立っていた。
ルイズよりもさらに幼い容貌の彼女は、無機質な瞳でヒュンケルを見ている。
感情を窺わせないその表情と、直前まで自分に気配を悟らせなかったその動きから、ヒュンケルは少女にそれ相応の腕を認めた。
また、少女の視線は、ヒュンケルにとって馴染みのあるものでもあった。
「昼間の決闘、見ていたな?」
ヒュンケルがそう問うと、少女は小さく頷いた。
少女は自分の顔を指さし、「タバサ」と名乗る。

「タバサ、お前は俺に勝てたか?」

昼間の決闘の時にかすかに感じた異質な視線。
その中には値踏みするような色と、かすかな戦意が感じられた。
おそらく目の前の少女は、ヒュンケルの実力を測ると同時に「自分が戦ったのなら」とシミュレートしていたに違いない。
タバサはしばらく黙っていたが、必要最低限に音量を絞った声で返答した。
「分からない。あなたはあの時、手を抜いていた。なぜ?」
どうやらタバサは、それが聞きたくてここまで来たようだった。
ヒュンケルが適切な言葉を探す様子を、眼鏡越しの瞳で見つめている。


122:ゼロの剣士 ◆/YI2FnXeqA
10/11/20 01:52:59 ntctZGt6

「手を抜いた、というわけではないさ。あれは腕試しだった」
「……ギ―シュの?」
「いや、俺自身のだ。剣を握った時、この使い魔のルーンから不思議な力を感じた。
 傷の痛みを感じなくなり、体が本調子に近い状態になったのだ。
 なにより……これ以上ないほど磨いたと思っていた剣の腕が、今まで以上に高まるのを感じた」

そう、ギ―シュのゴーレムなどやろうと思えばいつでも粉砕できた。
いや、正確に言えば即座に粉砕すべきだった。
いかに当代随一の剣の腕を誇るヒュンケルとはいえ生身の人間。
ギ―シュのゴーレムの動きはそれなりのものではあったし、複数を相手に延々打ち続ければ手傷を負う可能性もなくはない。
しかしそれでもなお、敢えてわざわざ時間をかけたのは、今までになく剣と一体になって動く自分を発見したためだった。
ギ―シュとの決闘はそういう意味では格好の機会だったし、存分に腕を振るうことができたとも思う。

タバサは説明するヒュンケルを黙って見ていたが、やがて「ガンダ―ルヴ」と一言呟いた。
耳慣れない言葉にヒュンケルが眉を潜めると、スポンジに水を染み込ますようにもう一度言いなおし、説明した。

「伝説の使い魔の名。あらゆる武器を自在に操ったと伝えられている」
「……タバサは俺がその『ガンダ―ルヴ』だと?」
「分からない。ただ頭に浮かんだだけ」

タバサはそう言うと、ヒュンケルに背を向けて歩き出した。
もうだいぶ夜もふけっている。
月が動いたせいか、芝生からは先ほどの不思議な美しさが消えていた。
女子寮である火の塔に入る前、タバサは足を止めて振り返った。


「さっきの言葉は訂正する」
「なんだ?」
「もしあなたが本気を出したら、たぶん私は敵わない。それだけ」

言い終わるとタバサは携えていた本を抱えなおし、建物の中に消えていった。
ヒュンケルは少女のかすかな足音に耳を傾け、左手のルーンを指先でなぞった。
いつのまにか、酔いは醒めていた。

123:ゼロの剣士 ◆/YI2FnXeqA
10/11/20 02:02:04 ntctZGt6
投下終了。本当はルイズパートを付けて一話分だったんだけど、
雰囲気が違いすぎるので切って分けました。
なので次の投下は三日後くらいで。

124:名無しさん@お腹いっぱい。
10/11/20 03:20:33 DfM3XtC1
おお、寝る前に覗いたら思いがけなく投下されてたw嬉しい
乙!!ついにタバサ登場
ワクテカするなあ

125:名無しさん@お腹いっぱい。
10/11/20 15:57:25 JNmZL3o/
投稿乙



126:名無しさん@お腹いっぱい。
10/11/20 16:52:46 Lk6AwaDI
久しぶりに来てみたら、新作が!
作者乙!!

127:名無しさん@お腹いっぱい。
10/11/20 21:13:52 KEg+/J0L
乙です。
7〜10日で投下ってことだったから驚いた。

128:名無しさん@お腹いっぱい。
10/11/21 13:48:05 r7mSErau
ヒュンケルはコルベールやアニエスなんかと絡ませても面白そうだな。

129:名無しさん@お腹いっぱい。
10/11/21 19:05:25 byi/O39r
ヒュンケルの指導でアバン流刀殺法を習得した銃士隊とか

130:名無しさん@お腹いっぱい。
10/11/21 23:36:14 llQTmAvb
アニエスにヒュンケルさんの過去知られたら・・・・・・


131:名無しさん@お腹いっぱい。
10/11/21 23:51:29 r7mSErau
ヒュンケルはアニエスとコルペールどっちの立場でもある感じだしな。
どんな反応受けるんだろ。


132:名無しさん@お腹いっぱい。
10/11/23 01:36:59 MkBuPqEc
オリハルコンも単なる槍投げで貫通してしまう武器それがロンベルク製
(マキシマムのドタマは単なる魔槍の投擲でブチ抜かれた)

ぶっちゃけノヴァでも通常オーラ剣でオリハルコン斬れるし、
オリハルコン壊せないなんていってるのは素手で戦うマァムとか除けば、
ロモス大会の強豪とかベンガーナの精鋭軍団程度のレヴェルでしょうねえ
まあ魔法には非常に強いのでメイジ相手ならオリハルコン兵は無双しそうですが

133:名無しさん@お腹いっぱい。
10/11/23 01:44:20 MkBuPqEc
勇者アバンが倒した魔王ハドラーの時点で既に、
仮にも世界を支配しかかっているし、
列国最強のカール王城をアバンさえいなければ一晩で落とすところだったし、
そこらへん探せば何人でもいるスクウェアメイジなんかより明らかにずっと強いだろうね
烈風カリンとかなら別かも知れんが

まあこの時点のヒュンはイオナズン防げないしスクライドも完全版アバストには劣りそうだから、
魔王ハドラーには鎧なしでは勝てないかも知れないが…
タバサには余裕で勝てるだろーな

あでも何気にガンダールヴ効果でパワーアップしてるのか

134:名無しさん@お腹いっぱい。
10/11/23 03:17:43 moXnYicX
ヒュンケル「s.CRY.ed」

135:名無しさん@お腹いっぱい。
10/11/23 03:47:24 G5fwt5V2
相当強いメイジすら恐れるハルケギニア最強幻獣のドラゴンはゼロ戦の機銃で穴だらけになって死ぬ
ダイ世界のドラゴンは顔面以外は大地斬でも斬れない鋼の強度を誇る

そのダイ世界ドラゴンのブレスをアバンの修行三日目の初期レベルダイは海波斬は真正面から斬り裂くことができ、
ベンガーナ時点のまだまだ弱かったポップはベタンで数匹まとめてぶっ殺せる

そのポップのベタンはボラホーンには全く効果がなく、
にもかかわらずボラホーンは魔剣戦士時代のヒュンケルより遥かに弱い

136:名無しさん@お腹いっぱい。
10/11/23 03:59:42 G5fwt5V2
まーワルキューレはさまよう鎧より弱そうだからなぁ(材質が青銅だし。さまよう鎧は多分鉄でしょ)
さまよう鎧一体ならチウでも倒せるところからすると…ギーシュはチウに勝てるかどーかくらいか?

137:名無しさん@お腹いっぱい。
10/11/23 04:03:26 G5fwt5V2
チウ「この間ワルキューレにからまれた時に(薬草を)全部使ってしまったんだった」
ルイズ「ワルキューレ相手に薬草5つも使ってんじゃないわよ!」

138:名無しさん@お腹いっぱい。
10/11/23 15:15:05 moXnYicX
違和感0だなw

139:名無しさん@お腹いっぱい。
10/11/23 15:50:18 G5fwt5V2
チウ「さてこの世界でも獣王の笛で仲間を増やすとするか…
   フレイムやシルフィードは…(チラッ)、強そう…いや主人がいるから駄目だな
   ルイズさん、このあたりにモンスターは出ませんかね?」
ルイズ「モンスター? 妖魔ならオーク鬼とかがたまにでるけど」
チウ「(身長2mくらいの怪力モンスターか…グリちゃんみたいなもんだな。よし勝てる!)」

ピィ〜〜………
オークおに があらわれた!(7体)

チウ「ふ…複数でやってくるモンスターだったのね…」

140:名無しさん@お腹いっぱい。
10/11/23 15:50:37 yh820dSp
ギャグっぽくいってたがその元ねたの軍隊アリとかチウと
同じサイズだったから普通に考えたらかなり怖いよな

141:名無しさん@お腹いっぱい。
10/11/24 00:36:34 wkBDWZlj
なぜこの世界に鎧は飛んでなくて剣だけあるか不思議だ

142:名無しさん@お腹いっぱい。
10/11/24 01:26:25 oT13p+7e
ダイ戦でぶっこわれたのがまだ再生してないんだろうよ<鎧

143:ゼロの剣士 ◆/YI2FnXeqA
10/11/24 19:37:52 PrNtQcyM
こんばんは。今から投下を始めます。

144:ゼロの剣士 ◆/YI2FnXeqA
10/11/24 19:40:37 PrNtQcyM
ヒュンケルがタバサと話している頃、ルイズは所在なさげに部屋を歩き回っていた。
その幼くも美しい顔はくしゃみをこらえたネコのような面相で、なんともむず痒い微妙な雰囲気を漂わせている。
ルイズが考えているのは無論、使い魔のヒュンケルのことだった。
思えばあの平民を呼んで以来、ルイズの心は平常心という言葉からはかけ離れたところにあった。
ルイズにとってヒュンケルという人間との関わりは、予想外の連続だったのである。
彼は瀕死かと思えばすぐに回復し、冷たいやつかと思えば意外と優しくて、ただの平民かと思えばとても強くて―。
こうまでコロコロ変わられると評価のしようもなく、ルイズはヒュンケルに対する態度を決めかねていた。
もちろん彼女はご主人様で、ヒュンケルはその使い魔だという前提は変わらない。
変わらないのだがなんというかその、予定よりもう少し待遇を良くしてやってもいいかなぁと思ったりもする。
例えばそれは、やらせるつもりだった家事雑事を免除するとか、食事をルイズの隣の席でする権利をあげるとか、
その他おおよそヒュンケルにとっては意味のなさそうなものだったが、彼女は大真面目に頭を悩ませていた。
目下ルイズの課題は、帰って来たヒュンケルにかける第一声についてである。
ご主人様としての威厳を保持しつつ、ヒュンケルへの親密さをアピールする必要がこれには求められる。
「おかえりなさい……はダメね。ま、まるで、同棲してるカップルみたいだし……。
 『遅かったわね』はなんだか嫌味だし、『よくぞここまで来た』は大魔王みたいだし……」

すっかり自分の世界に入ってしまったルイズは気がつかなかった。
背後のドアがそっと開き、そこから誰かが入ってきたことを。
ルイズは相も変わらずぶつぶつ呟きながら、台詞に合わせた百面相に忙しい。

「や、やっぱりインパクトが大事かしら。ご主人様の威厳をビシッと感じさせるような……」
「そんなんじゃだめよお。レディは威厳なんかより色気よ色気」
「そう言われても私のお乳じゃあ……ってその声まさかっ……!?」

ごく自然に一人言に割り込んできた声にぎりぎりと振り向くと、そこにはヴァリエール家累代の敵が立っていた。
キュルケ・フォン・ツェルプスト―はルイズを見て小馬鹿にしたように笑うと、ここがさも自分の部屋であるかのような自然さで椅子に座った。
落ち着いた様子のキュルケとは対照的に、なにか致命的なところを見られてしまった気がするルイズの顔は青くなったり赤くなったり、
もしや魔法でも使ってるんじゃないかというほどの形相を呈している。


145:ゼロの剣士 ◆/YI2FnXeqA
10/11/24 19:42:50 PrNtQcyM
「どどどどどうしてアンタがこの部屋にいんのよ! さささささっさと出ていきなさいよ!!」
ここ半年の中でも、このドモリっぷりはナンバーワンかもしれない。
吹き出しそうになるのを堪えながら、キュルケは椅子の上で形のいい脚を組みかえた。
「あら、別にいいわよ? せっかくだから風上のマリコルヌのところにでも遊びに行こうかしら。
 話題は……そうね。 『ゼロのルイズが部屋で何をしていたか』、なんて面白そうじゃない?」

キュルケの出した名は、ルイズと特に馬の合わない同級生のそれだった。
気弱なくせにお調子者で小太りで風邪っぴきなアイツがこんなことを知ったらと思うと、サーっと顔から血の気が引いていく。
「よ、要求はなに? お金? 宿題?
言っておくけどヒュンケルの治療に秘薬を使っちゃったから、お小遣いなんてそんなにないわよ」
うっすらと涙を浮かべているルイズの顔は世にも哀れなものだった。
「仇敵に弱みを握られるとは一生の不覚!」ってなもんである。
キュルケはルイズのその様子に満足そうに頷くと、杖を振るって紅茶をティーカップに注ぎ、喉を潤した。
「要求なんて別にないわよ。フレイムに廊下を探させてたんだけど、なかなかダーリンが捕まらないからこっちに来ただけ。
 まあ、おかげでいいものが見れちゃったけど」
キュルケがクフフと笑うのを、ルイズは今度は赤くなった顔で睨んだ。
「なにヌケヌケと人の使い魔をたぶらかそうとしてんのよ! い、言っておくけど、あいつのご主人様はわたしなんだからねっ!」
「あ〜ら、別にあたしはご主人様になろうなんて思ってないわよ? あたしが彼に求めているのはそんなんじゃなくて、身を焦がすような情熱よ!
 ……というわけで、ルイズがご主人様で、あたしが恋人ってことでいいじゃない?」
それで大円団よ、と手を上げるキュルケをルイズは睨んでいたが、しばらく経つと溜め息をついて力を抜いた。



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