ストライクウィッチーズでレズ百合萌えpart22 at LESBIAN
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550:gravity bomb 03/03
09/03/02 03:53:06 i8f7FqTw
ソファーの上でした行為に、弁解の余地は無かった。エーリカがリーネに言う。
「ゴメン。やりすぎた」
二人一緒の毛布にくるまりながら、冷めた紅茶をちびりちびりと飲む。
無言のリーネ。
「ちょっと遊ぶだけのつもりだったんだけどね……リーネが可愛くて、つい」
「ホントですか?」
「え?」
「私が可愛いってだけですか?」
苦笑いして答えを濁すエーリカ。確かに、トゥルーデに対する妙な気持ちもトリガーのひとつだった事は否めない。
「ハルトマン中尉って……」
「ん?」
「そうやって、『つい』ひとを襲うんですか?」
「とんでもない。私は……」
リーネに唇を塞がれる。思いもよらぬ行為を受け止め、ぴくりと身体が硬直する。
驚いた表情を浮かべるエーリカに、リーネは頬を染め、小さく笑い、言った。
「私も、拒むならもっと、頑として拒めば良かったんです。でも、拒めませんでした」
「……」
「なんか、ハルトマン中尉に、……色々されて、頭の中で、芳佳ちゃんの顔浮かべて」
黙って続きを聞くエーリカ。
「私達見たら、芳佳ちゃん、どんな顔するだろうって。……私、最低ですよね」
うつむいて、自嘲の笑いをするリーネ。エーリカはリーネの肩をそっと抱き、言った。
「もっと最低なのがここに居るじゃん。私、今度はグーで殴られるね。何回で許して貰えるかな。それで許して貰えるかどうか」
「その時は、私が止めます」
「え?」
「私も一緒に、横にいます。そして説明します。バルクホルンさんにも、分かって欲しいから」
「度胸有るね、リーネ」
「だって。ハルトマン中尉、可哀想だし。私も、悲しいです」
「それって、リーネ……」
「心配しないで下さい。私、芳佳ちゃんが好きな事、変わりません。むしろ、もっと分かりました。色々と」
微笑むリーネ。何故か痛々しさは感じず、どこか吹っ切れた印象だ。
「でも、今だけ。今だけ、良いですか?」
リーネは、エーリカの肩と腰に腕を回した。潤む瞳。
エーリカは、彼女がこれから何をしたいか分かっていた。
拒むつもりは無かった。
頭の片隅で、トゥルーデに対する罪悪感、背徳感が鈍く疼いたが、リーネの濃い口吻で、瞬間的には消え去った。
「ミヤフジは幸せ者だよ。こんなステキな子に愛されてさ」
エーリカは唇を離し、素直な感想を告げた。リーネの顔がほころんだ。

end

----

なんだかヤバい方向に、ドロドロしてまいりました/(^o^)\
いかん、本当はこんなはずでは……しかし書き始めたら止まらない。
どこに終着点を見出すべきなのか。
何だかイケナイ雰囲気になってきたので、
次で全てを破壊し、全てを繋ぎます(某風に

ではまた〜。

551:名無しさん@ローカルルール変更議論中
09/03/02 05:05:21 i8f7FqTw
たびたびこんばんは。と言うかそろそろ明け方ですねおはようございます。
mxTTnzhmでございます。
寝ずに続きを書きましたので構わずうpします。どうぞよしなに。

保管庫No.450「ring」及び>>548-550「gravity bomb」の続編です。
どうなるこの二組? と言う事で、早速どうぞ。

552:gravity circulation 01/03
09/03/02 05:06:24 i8f7FqTw
トゥルーデの部屋。
腕組みし黙して話を聞いていたトゥルーデ。わなわなと震える芳佳。
トゥルーデは芳佳の肩をぽんと叩くと、頷いた。
「二人が揃って事情を全て話して、謝っているんだ。許してやれ。良いな」
「でも、私……」
「これは命令だ! 良いな。宮藤、元はと言えば、私達にも非がある。違うか」
「はい」
納得行かない表情だが、頷く芳佳。
「よし、事情は全て把握した。宮藤、リーネ、お前達もお互い話が有るだろう。下がって良いぞ。
あとこの話、他にはくれぐれも内密にな」
「はい。すみませんでした」
「失礼します」
ふたりは揃って部屋を出た。ドアが閉まる間際、リーネがエーリカに向けた視線を、トゥルーデは見る。

芳佳とリーネが部屋を出て、残されたトゥルーデとエーリカ。しばしの沈黙。
重い空気を何とか打破すべく、エーリカは覚悟を決めて、名を呼んだ。
「トゥル……」
言葉は続かなかった。予想通り、いきなりグーで頬を殴られたのだ。
口の中が少し切れたっぽい。ハンカチで唇を拭うと、微かに血が滲んだ。
エーリカはちらっと上目遣いでトゥルーデを見た。感情を必死に抑えようと、腕が震えているのが分かる。
でも予想とは違い、トゥルーデはそれ以上何もしてこなかった。
「もういいの? もっと、殴られるのかと思ったよ」
「そんな事をして、何になるっ」
抑揚の中に感情の高ぶりを隠せないトゥルーデ。
「私、イヤな女だよね」
挑発するかの如く言葉を発するエーリカ。
「最低だよね。リーネで遊んでさ」
「聞きたくない。そんな御託は聞きたくない」
「それだけの事したって、自覚してるから、言ってる」
「なら何故そんな事を? 私の、私の気持ちを考えたのか!?」
「当然。でも、私の気持ちも有るよ」
「……」
「勿論、分かってとは言わないし言えない。元は私が悪いのは事実だし。私は謝るしか、出来ないよ」
言葉の最後、弱気とも悲しさともとれる雰囲気が出る。目を伏せる。
トゥルーデは一歩踏み出すと、何かする訳でもなく、ただ、エーリカをそっと抱きしめた。耳元で呟く。
「いや。私も宮藤に対して、もっと冷静に対応すべきだった。咄嗟の事とは言え」
「トゥルーデの悪い癖だもんね」
「私で遊ぶな」
何故か涙目になって苦笑するトゥルーデ。笑みの中に、涙が溢れる。
「ごめんね、トゥルーデ」
名を呼び、言葉を繰り返すエーリカも何故か小さく嗚咽している。
「私こそ、すまない、エーリカ。一番大切なひとに二度も手を上げるなんて、最低だ」
「暴力亭主様だから」
「ホントだな」
二人の目から涙が流れる。お互い気付いて、優しく拭き合う。エーリカが呟く。
「何でだろ。何であんな気持ちになったんだろ。私、訳わからないよ」
「さっき自分で言ってたじゃないか、リーネと一緒の時に。『嫉妬』って。違うのか?」
「でも……」
「確かにお互い、いや、皆許される事ではないかもな。でも私はエーリカ、お前を許し、受け容れる。例えお前が私をどう思っていても」
「トゥルーデ」
「理由を知りたいか? それは、エーリカ、お前だからだ」
涙混じりの、トゥルーデの真摯な目に心貫かれるエーリカ。
「何故? どうしてそこまで、私を?」
真っ直ぐな瞳を見、震えるエーリカ。
「何が有ろうと、エーリカ、お前を愛するに値する。私はそう信じる!」
心からの、情念のこもったことば。抱きしめる力が増す。ふと、互いの目に留まった指輪の輝きが増した、そんな錯覚を覚えた。
「トゥルーデ、ありがとう。そして、ごめんね。私も許すから、ごめんね」
「もう良いよ、エーリカ」
エーリカもきつくトゥルーデを抱きしめる。

553:gravity circulation 02/03
09/03/02 05:07:05 i8f7FqTw
「エーリカ……」
トゥルーデがリードし、ゆっくりと口吻を交わす。絡まる舌は、僅かに滲む錆び付いた血の味を感じ取った。
つつと垂れる雫も、少し紅が混じる。
「済まない。さっきので、口の中を……」
「きっと、罰だよ。気にしないで」
「エーリカ……」
「改めて、分かったよトゥルーデ。やっぱり私にはトゥルーデしか居ないって」
「私もだ、エーリカ。さっきリーネの目を見て思った」
「どうしてリーネを見て?」
「お前を見てる姿を見て、私も何故か分からない、ヘンな気持ちになった。だからつい、出さないと決めていた筈の手が……」
「それも嫉妬じゃない?」
「かもな。すまない、本当に」
「ねえ、トゥルーデ。一緒に……」
ふたりはベッドに倒れ込み、絡み合い、お互い全身全霊で、愛し合う行為に耽った。その姿は酷く野性的で、
だけどとてもお互いを想ってのことで、何度となく甘い声で、名を呼び合った。

「芳佳ちゃん」
芳佳の部屋では、リーネが黙ったままの芳佳に何度も声を掛けていた。
しかし、ベッドに腰掛けた芳佳はうつむいたまま、何の返事もない。
「ごめんね、芳佳ちゃん。私……」
何度謝っても、何を言っても、答えが無い。これ以上何と言えば良いか、分からない。
「ごめんね。芳佳ちゃん、聞いて。私……芳佳ちゃんの事、嫉妬してた。だから、ハルトマン中尉の事、拒めなかった」
「……」
「でもね、分かった事も有るんだよ? 芳佳ちゃんが、やっぱり好きだって事。世界で、一番好き」
「リーネちゃん」
ぽつりと、久し振りに聞く芳佳の言葉。
「芳佳ちゃん?」
「私……リーネちゃんを、苦しめてたんだね」
言いながら、じわりと涙が溢れる。慌ててリーネがハンカチで抑えるも、止まらない。
「私の方こそ、謝らないと。リーネちゃん」
顔を上げる。涙がつーっと頬を伝い、床に落ちる。
「ごめんなさい」
芳佳の純粋な一言が、リーネの涙腺を緩めた。
「芳佳ちゃん、良いの。私が」
「私こそ、誤解させて、苦しめて。ごめんなさい、リーネちゃん」
「芳佳ちゃん、泣かないで。私まで……涙が」
「リーネちゃん」
二人は抱き合った。力が緩んで、ベッドに倒れ込んだ。
ゆるゆると抱きしめながら、二人はどちらからとなく唇を重ねる。
「私も、リーネちゃんが好き。この世で一番。リーネちゃんが苦しむなんて、私、イヤだ」
「芳佳ちゃん」
「リーネちゃん、私、リーネちゃんを守りたい。もっと知りたい」
「私も同じ気持ちだよ。芳佳ちゃん」
もう一度、キスを交わす二人。
自然とベッドの上で二人は生まれたままの姿になり、肌を重ねる。
ゆっくりとお互いの身体を確かめ、触れ合い、心を通わせる。お互い心に溜まった負の感情を洗い流し、心を通わせる。
絆は前よりもずっと強く深くなる。吐息が弾み、身体も弾む。
「芳佳ちゃん、聞いて?」
「なぁに?」
「ハルトマン中尉がね、言ってたの。『ミヤフジは幸せ者だ』って」
「そうなんだ。……言われてみれば、その通りだよ」
「ホント?」
「うん。私、嘘は言わない。幸せだよ、リーネちゃん」
「私も」
「リーネちゃん、好き」
「芳佳ちゃん、私も好き」
お互い言葉で、そして触れ合う唇で、返事とする。そんな行為が、次第にエスカレートし、時が流れた。

554:gravity circulation 03/03
09/03/02 05:09:22 i8f7FqTw
夜の自由時間、浴場に現れたトゥルーデとエーリカ。
お風呂一番乗りと思ったが、先客が居た。芳佳とリーネだ。
「おお。お前達か。早いな」
「あ、バルクホルンさん、ハルトマンさん」
二組は湯を浴び身体を清めると、それぞれ石鹸でごしごしと洗いっこして、身についた色々なもの……
それだけでなく、心にこびりついた垢も落とし……いつしか皆、笑顔になった。
泡を綺麗さっぱり流して、湯船に浸かる。心地良い湯が、身体の張りや疲れをほぐしてくれる。
そして、身体についた痣や秘め事の痕も、じわりと浮き立たせる。
「何だ、お前達、随分増えたな」
トゥルーデが二人のそんな姿をを見て、冷やかす。
「お二人だって、そうじゃないですか」
芳佳が言い返す。湯煙の中に見える、トゥルーデ達の姿も確かにその通りだった。
ふっ、とトゥルーデが微笑んだ。
芳佳もリーネと肩をくっつけて、くすくすと笑った。
「トゥルーデ、からかえる程になったんだ」
「悪いか?」
「“堅物”の渾名が泣くよ、トゥルーデ。もうぐにゃぐにゃ」
「そうしたのは誰だ? エーリカ」
「そう、私だよ、トゥルーデ」
「臆面もなくよく言えるな」
「だってこの二人の前だし」
「そう言う問題……」
ふと湯船の中でキスされるトゥルーデ。軽い挨拶程度のものだったが、芳佳とリーネが見ている前でされると、
流石にこのタイミングでは、少し照れる。
「顔、赤いよ」
「風呂のせいだ」
「ホントかな〜」
リーネがトゥルーデ達に向かって微笑んだ。
「本当に素敵ですね、お二人は」
「リーネ達程でも……いや、二人にも負けないよ?」
「勝負するもんじゃないだろう」
「それもそうだね」
そのやり取りを聞いて、微笑む芳佳とリーネ。つられて笑うトゥルーデとエーリカ。
「お、なんだなんだ? 二組揃って入浴とは珍しいね」
「ウジャー 四人ともはやーい」
やって来たのはシャーリーとルッキーニ。適当に湯を浴びるとざばっと飛び込んだ。
「ウニュー」
ルッキーニはシャーリー、トゥルーデ、リーネをじっと見比べてる。
「ルッキーニ、どうかしたか?」
「ウニャ シャーリー、負けちゃうかもよ?」
「は? 何の話だ?」
何故か同時に笑う二組。それを見てシャーリーはますます不思議に思った。
間もなく、他の隊員達もぞろぞろと入ってきて、答えは聞けず終い。
こうして、501の夜は暮れていく。

end

----

〆が強引過ぎ/(^o^)\ 落ち着け自分orz

とりあえず言いたいのは、
皆お互いを思いやることの出来る「やさしい子」と言うこと。
少しでも伝われば幸いです。

紆余曲折を経ましたが、こんなかたちで如何でしょう?
「雨降って」何とやら、と言う事で。
この二組それぞれ、まだまだ書いていきたいですね。

ではまた〜。

555:名無しさん@ローカルルール変更議論中
09/03/02 07:10:35 ghhTT0T8
>>554
/(^o^)\←この顔文字で毎回吹くw
いやぁあんた筆早いにも程があんだろ、GJ!
俺は結構ドロドロ展開好きだよ。(そんなにしょっちゅう見たいわけではないけど…)
しかしいいよなこのハッピーエンド!
俺の中でmx〜氏はハッピーエンドに定評のある職人なんだ
らぶらぶな芳リネエーゲル最高でした。改めてGJ!!

556:名無しさん@ローカルルール変更議論中
09/03/02 08:26:15 Po2xA0Ej
朝っぱらからいいものを読んだ

557:名無しさん@ローカルルール変更議論中
09/03/02 08:48:30 ccv+kWZr
>>554
昨日のSSの話が展開してるw
帰宅後にじっくり読ませてもらいます

558:名無しさん@ローカルルール変更議論中
09/03/02 11:42:27 wI/fFZt0
>>554
ドロドロ展開→ハッピーエンド
っていう流れが大好きですGJ

エイラーニャの修羅場を見てみたいけどやっぱ怖いな

559:名無しさん@ローカルルール変更議論中
09/03/02 11:59:25 vPaHAlzh
単純にいちゃいちゃハッピーさせてくれて描写も半端なく上手くてラブラブ具合も素晴らしく
なによりキャラに女の子同士の云々に抵抗が無い点がすばらしい
おまけに手も速いからこんだけのクオリティのSSでも量産できる

mxTTnzhmさんが個人的に一番好きな作者さんだ

560:名無しさん@ローカルルール変更議論中
09/03/02 12:03:27 DmqIFqKn
>>510
再うp希望。

561:名無しさん@ローカルルール変更議論中
09/03/02 12:52:20 ccv+kWZr
>>554
GJでした! 短期間に良作3本連発とかすごすぎます!

今更気付きましたが、エーリカとリーネって「浮気性の夫に悩まされる妻」という共通点があるんですね。

562:名無しさん@ローカルルール変更議論中
09/03/02 12:58:00 vPaHAlzh
>>561
しかも浮気性の妻同士で激しいフラグ立ってるしな>芳佳とバルクホルン

563:名無しさん@ローカルルール変更議論中
09/03/02 13:53:29 pk7C/my1
こんにちは
いらん子、ビューリングxウルスラにて6レス投下します

564:アキストゼネコUー5 @
09/03/02 13:54:53 pk7C/my1
 カウハバ基地から一番近い町の入り口に、エンジンの爆音と甲高い擦過音。
 ウィルマは皮のシートから滑り降り、よろよろと舗装路の縁石に座り込む。度重なる恐怖の連続に喉はからから、精も根も尽きるとはこのような状態をさすのだろう。
「…あっ、悪夢だわ……空でストライカーが故障して自由落下するレベル」
「大げさなやつだな、あれくらいで」
 憎まれ口を叩く相手に購入した紅茶を手渡し、ビューリング自身は濃いブラックを啜る。缶から立ちのぼる湯気を見て数歩移動し、くわえたタバコに火をつけた。
「…タバコ吸いすぎ。あなた絶対いつか肺を病むわよ」
 風下に移ったヘビースモーカーを訝しげに見やり、紅茶をちびちび含みながらウィルマはちくり。うるさがられ嫌な顔をされようと今まで何度も繰り返してきた。お節介だと自分でも思うが、持って生まれた性格は変えられない。
「禁煙なんてすれば間違いなく撃墜されるな。まあ、あがりを迎えたら考えてみよう」
 懐かしい忠告に口の端を少しだけ吊り上げ、ビューリングは穏やかに答える。
 ウィルマは耳にした言葉に心底驚いた。常に纏っていた厭世観が消え、その瞳は除隊後の未来さえ見据えている。
「…なんだその顔は」
「だって、あなた今まで『お前には関係ない』の一点張りだったじゃない。私、夢でもみているのかしら」
 喫煙をたしなめてはそう返され、口喧嘩の末にキレて引っぱたく。それが今までのパターンだった。ウィルマとビューリングの間で呆れたように笑い、最後には止めに入ってくれた彼女はもういない。
「だから大げさだと…まあ単にだな、あの言葉は結構こたえると気づいただけだ」
「ふうぅ〜ん、小っちゃな曹長さんに言われて傷ついたんだ」
「ブッ――! ウィルマ、お前どうしてそれを?!」
 コーヒーを噴き出したビューリングに、ウィルマはやれやれと肩をすくめてハンカチを投げつける。少しくらい意地悪してもいいわよねと、珍しく焦った顔を眺めてほくそえんだ。
「さあね。それはそうと、あなた本当に彼女と付き合ってるの?」
「……答えたくない。絶対に笑われる」
 ビューリングは煙をもくもくさせてだんまり。なにやら面白そうだとウィルマはわくわく。
「笑うなんて真似しないわよ。たとえあなたが8つも年下の少女に手を出した変態でも」
「お前が私をどんな目で見てるか窺い知れるな…」
 猫なで声を出して絡みつくウィルマ、うざったそうに顔をそむけるビューリング。話すまで頑としてここを動かないというウィルマに根負けし、ビューリングは渋々と誤解から始まった一連の騒動について説明しだした。

565:アキストゼネコUー5 A
09/03/02 13:56:14 pk7C/my1
 ぶるっと身震いしたウルスラは手探りで熱源を探す。求めても求めても、得られるのは冷えたマットレスの感触ばかり。
「…寒い」
 寝惚け眼を開いてみれば、ここはどこと周囲をきょろきょろ。ついで現在の状況を思い出し、ブランケットの下で小さな溜め息をつく。
 身を起こして時計を確認すると、ランチを通り越して午後休憩の時間に達している。空腹を感じないのは眠る前に食べたチーズのせいだろうと、ほどよく消化された腹部をさすって立ち上がった。
「…べとべとする」
 手を開いたり閉じりして一言。チーズを直にのせたうえ舐めまわされたのだから、それも当然である。
 部屋にあの食いしん坊な使い魔の姿はない。当然のごとく添い寝をしてきて知らぬ間にドロン、主人同様なんとも型破りなことだ。そしてそんな存在にひどく安心し、あげく求めてしまった自分を否応なく意識する。
「心…」
 ぼつんと落ちた声。寒々とした寂寥感に押されて転がり出てきたもの、これが答えなのだろうか。
 少しすっきりした頭でそう考え、とりあえず手を洗おうと詰め所へ向かう。大扉の前まできたところで、いつも以上に騒がしい室内の様子に足を止めた。ウィルマが中にいるからだろうかと首を捻りドアを開ける機会を逸する。
「ちょっとは落ち着くねー。トモコは隊長なんだから動揺したら駄目よー」
「落ち着いてなんかいられないわ! 私たちの中隊存亡に関わる一大事なのよ!!」
 ウルスラは眼鏡の奥の瞳をぱちぱち。自室に篭っているうちに何があったというのか。
「戦闘経験豊富、長機も僚機もこなせる、楽観主義に陥らず一歩引いて周りを見れる…あら? 考えてみるとあの方、本当に指揮官に向いてますわね」
「ブリタニア空軍もよくわかってますよ。突っぱね防止にハニートラップを用意するとか」
「偉ぶったおじさまが来ても門前払い確定ですもんね〜。あちらにしても苦肉の策なんでしょうけど」
 続けて聞こえてきた声にも事態は一向にわからず、黒々とした不安だけが胸に渦巻く。ブリタニア空軍というキーワードにウィルマの来訪、この二つの重なる先にはただ一人しかいないのだが。
「ミーはウルスラも心配よー。さっき部屋を覗いたらよく眠ってたねー。起きてみればこんなサプライズなんて」
「そう、ですね。もしも、もしもそうなってしまったら、私ならとても悲しいですもの」
 飛び出てきた自分の名前にびくり、反射的にドアから後じさった。とても悲しいサプライズ、そんなものはいらない。
「どうしよう、どうしたらいいの……すごくマズイわ。そしてお尻がすごく痛いわ」
「いい音、響かせてましたから。流されやすい智子中尉には良い薬です」
「アホネン大尉も大変満足そうに帰っていかれましたね〜♪」
「あの変態の名を口にしないで! ああもうっ私たちがこんなに思い悩んでるのにあいつときたら――もぉー頭きたっ! ファラウェイランドでもどこでも勝手に行けばっ?!」
 ガンッと頭を殴られたような気がして息も忘れる。いまだ固有名詞はでていないが、ファラウェイランドという新たなるヒントがでたらもう確実だろう。『あいつ』とはつまりビューリングのことであり、胸に渦巻いた不安の正体を悟る。
「でも実際ビューリングが抜けたら痛手ねー。今までの戦闘を振り返ってみたら歴然よー」
「ええ、その通りです。ビューリング少尉の冷静な観察眼がなければ私たち何度も全滅していました」
「だけど、どうしようもないじゃない……選ぶのはビューリングなんだから」
 話は延々と続いていたが、ウルスラは静かにその場から離れた。今頃になって駄目押しのように連呼される名を背中で聞きながら。

566:アキストゼネコUー5 B
09/03/02 13:57:59 pk7C/my1
「きゃーはっははは〜〜ビューリングがじゅっ純愛っ、うひゃひゃ〜もう駄目ぇ勘弁してー死ぬぅー」
 往来に構わずヒーヒー笑い泣くウィルマ、もう軽く5分はこの状態である。ニコチン切れしたビューリングは空箱をダストボックスに叩き込んでジロリ。
「今すぐその大口を閉じろ。さもないとここに置き去る…脅しじゃないぞ」
「はいはい、了解しました少尉殿」
 ものすごくやる気のない敬礼をつけ、ウィルマは目元の涙を拭う。これ以上ビューリングの機嫌を損ねれば、その言葉どおり置き去られてしまうだろうと危惧して。
 適当に選んだオープンカフェのテラスに腰掛け、一心地ついたウィルマはムスッとした連れに声をかける。これは駄目だと店員を呼んでオススメは何かと尋ね、サーモンのパイ包みとベリージュースのセットを二つ注文した。
「それはそうと、よかったの? 彼女を部屋から追い出してしまって」
「……追い出してない。だが良いも悪いもないだろ。元々私たちの間には何もないんだから」
 その言葉は空々しく響く。
 ビューリングはジッポーをかちゃかちゃ、後ろ頭をがりがり。そのへんで買った葉巻を吸い込んだ早々、不味いと言って苛立たしげに揉み消した。
「そうかしら。とてもそうは思えないけど」
「ウィルマ…お前まで妙な邪推をするのか?」
「あなた、変わったわ。関係ないと突っぱねられてへこんだり、心配して使い魔を使役したり、タバコを吸うときに気を遣ったり。どれも今までのあなたとは掛け離れてるじゃない」
 的確すぎる指摘にビューリングは返す言葉を失う。
 それはウィルマに言われるまでもなく自分でも気づいていたことだ。だけど認めるわけにはいかなかったことだ。
「ねえビューリング…あの人はね、あなたを苦しめるためにあなたを庇ったわけじゃないわ」
 ウィルマは今まで意識して避けていた話を持ち出す。これはとても勇気を必要とした。なぜならあの時ブリタニアに帰ってきたビューリングに、誰よりも傷ついていただろう彼女に、ひどい言葉を投げつけてしまったから。
「むしろ今のあなたを見て怒り狂うでしょうね。私のライバルのくせに何を腑抜けているんだって」
 ウィルマの姉貴分でありビューリングのライバルだったその人は、瘴気渦巻くオストマルクの空に散った。
 ビューリングはテーブル下の拳をギュッと握る。負けん気ばかり強くて撃墜数だけが生きがいの鬱陶しいやつ、それがあの運命の日にライバルへ放った最後の言葉。どうしてこんな自分を庇ったのか、その答えは見つからずもう尋ねることもできない。
「大切なものができたら今度は失わないよう努力すればいい。今のあなたならそれができる。だから――恐れないで。自分の変化を認めて受け入れて。だってそれこそが生きるってことなんだから」
 スピットファイアやブラフシューベリアと同じだと、ウィルマは辛抱強く言葉を重ねる。あの時言ってあげられなかった分まで、そしてひどく傷つけてしまった分まで心を砕く。
「…あいつと同じようなことを言うんだな」
「えっ? 今なんて?」
 ぽつりとした呟きを聞き逃したウィルマにビューリングは首を振る。さすがにあのアホネンと一緒にするのはあんまりだ。
「まったく…どっちが年上なんだか」
「ふふっ、だって私は8人姉妹の長女だもの。あなたみたいな捻くれ者だってお手の物よ」
 顔を洗って出直してらっしゃいと、ウィルマは胸を張って笑う。面倒見の良さと大人びた言動に惑わされるが、実はビューリングより2つ年下である。
「しゃくだが今回は私の負けだな。行くか」
「はっ? ちょ、ちょっと私まだパイを食べてないんだけど」
「歩きながら食え。もたもたするな」
 掴みだした高額紙幣をコップの下に敷くと、とっくに完食したビューリングは慌てる連れに構わず歩きだした。
 その背中に思いつくかぎりの悪態をつき、ウィルマは冷めてしまったパイを紙ナプキンで手早く包む。カフェのスタッフに一声かけて、猛然と後を追った。

567:アキストゼネコUー5 C
09/03/02 13:59:50 pk7C/my1
 気がつけば中庭に出ていた。ウルスラは人目につきにくい場所に置かれた木製のベンチに腰を下ろす。
 ここはよく利用する場所だった。黙々と本を読むウルスラの隣で、タバコをふかしたビューリングが使い魔を遊ばせる。雪の積もる季節から始まったそれは、木々たちが青々とした葉をつける頃には毎朝の日課となっていた。
 二人とも口数の多い方ではない。一言も話さない日だってある。互いの存在を閉め出していたわけではなく、自分の世界に没頭する相手を許していた。
「本、ない…」
 ぼうっとしていてふと見下ろせばなんと手ぶら。どうしてだろうと考えて、手がべとべとするから部屋に置いてきたんだったと思い出す。
 ウルスラは自分自身に驚く。そんなことすら記憶を辿らないと出てこないほど自分はショックを受けているのだ。彼女が、ビューリングがいなくなるということに。
「いなく、なる…」
 それを想像するとひどく苦しい。胸がちくちくして、もやもやして、寒々しい。
 変わってしまった自分、変わってしまった世界。ウルスラ・ハルトマンはこんなじゃなかったはずだが、もう自分の元のカタチなど忘れてしまった。
「ウルスラ曹長が本を持っていないとは珍しいですね。明日は雪でしょうか」
「……ハッキネン司令?」
 深い思考に沈んでいたウルスラは虚を衝かれる。失礼しますと断りを入れ、カウハバ基地司令は寂れたベンチに並んで腰を下ろした。
「トモコ中尉なら詰め所…」
「いえ、今回はあなたに」
「…これは?」
 ウルスラは差し出されたものをすぐ受け取らず、理知的に眼鏡を光らせるハッキネンに確認する。雪女というコールサインどおり一欠けらの感情さえ感じさせない彼女、その意図が全く見えない。
「私に宛てられたブリタニア403飛行隊からの手紙です」
「403…ビューリングの」
「はい。極秘とも書いてないので構わないでしょう」
 しれっと言い放ち、ハッキネンは重要だろう手紙を押しつける。ウルスラは困惑を表に出さずにレターを取り出し、文面にさっと目を走らせた。
「昇進辞令、転属命令と――飛行学校の教官依頼?」
「ビューリング少尉には見せていません。憤慨されるでしょうから」
「そうですね…」
 まだ戦えるウィッチに空から降りた後の話を持ってくるなど。しかも教官受託の見返りとして、比較的戦闘の少ないファラウェイランド空軍に隊長の座を用意したとある。気の毒になるほど空気を読めていない、そんな本末転倒な話だった。
「もっとも私にとって争奪相手の自滅は願ったり叶ったりですが」
「争奪…?」
「単なる独り言です。忘れてください」
 氷の無表情で強引に話を流し、ハッキネンは基地併設の飛行学校構想を伏せる。ブリタニアと同じ轍を踏むわけにはいかない。
「ウィルマは、これを?」
「ええ、勿論。基地に来られて早々私に語りました。知っていて尚、そうした方がビューリング少尉のためなのではないかと」
「ビューリングの、ため…」
 ウルスラは格納庫でのやりとりを思い出す。ウィルマがビューリングの何を危惧していたのかわかる気がした。
「スオムス着任時の彼女なら私も同意したでしょう。ですが彼女は変わった。そして、あなたも」
「…………」
 さすが司令、よく見ている。ウルスラは返す言葉を失くして黙り込む。
 ハッキネンは手紙を回収して立ち上がると、瘴気のない美しい空を眩しそうに見上げた。
「この空を守れるのは、カウハバ基地が誇る第一中隊と義勇独立飛行中隊だけ。私はそう信じています」
 強い自負をにじませて断言すると、ハッキネンはその場から立ち去った。

568:アキストゼネコUー5 D
09/03/02 14:00:46 pk7C/my1
「うっきゃああぁ〜〜〜っ! あっあああなた、後ろに人を乗せてるのわかってるぅ?!」
「叫ぶなとは言わんが曲がるときに逆側に体重をかけるなよ。すっ転ぶぞ」
 ぎゃあぎゃあ悲鳴を上げてしがみつく人物に構わず、先を急ぐビューリングはスロットルを全開にする。町をまわって気づいてみればブリタニアのヘリが発つ時刻がせまっていた。ウィルマは遅刻による厳罰も避けたいが、自分の命だって大事にしたい。
「ひィいいいー! このスピードでこけたら絶対死ぬぅ〜こんなことなら町でもっと食べまくっておけばよかったああぁ」
「行きより確実にバイクが重い。お前があちこちで食いまくったせいだな」
「ビューリングっ、あなた自分が太らない体質だからってええぇー! 降りたら引っぱたくから憶えてなさいよーーーっ!!」
 食べれば食べた分だけ肉になる、それはウィルマにとって永遠の悩みである。何をどれだけ食べても体型の変わらない相手にそれを指摘されるほど腹の立つことはない。
 しまった地雷を踏んだかと悪びれずに考え、ビューリングは無茶な運転を繰り返すことで忘れさせてしまおうと思いつく。結果的にウィルマの悲鳴が途絶えることはなかった。

 カウハバ基地の正門前では、智子以下詰め所にいた仲間たちが横一列に並んでいる。夕方には戻ると出て行ったっきりの二人をやきもき心配し、じっとしてはおれぬとブラフシューベリアの帰還を出迎えにきていた。
 インカムを持って出ているはずなのに、電源をオフにしているのか何度呼びかけても応答しない。
「帰ってこない? 帰ってこないってどういうことよーっ! 誰か答えてっ?!」
「御宿泊になった…いえ、目潰しはとんでもなく痛いので勘弁していただければと」
 血走った瞳でギロリと睨みつけられると、失言しかけたハルカは他の隊員の背に隠れる。
 チッと大きく舌打ちした智子は門扉の前をうろうろし、長い黒髪をぐしゃぐしゃとかき上げた。
「だからハッキネン司令に言ったのよ。ストライカー出しましょうって。あの雪女ったらほんと融通が利かないんだから」
「誰と戦うつもりですかの一言で終わりましたもんね〜♪」
 ジュゼッピーナは睨まれる前に自主的に避難する。そしてまだ発言していない二人を後ろからぐいぐい押し、猛烈に機嫌の悪い智子の前へ。
「ま…まあまあトモコ中尉、ここは一つ穏便に。若い二人には積もる話だって―――っひい、ごめんなさい!」
 拳を固めた智子を見てエルマは泣き出す。気の弱い彼女が気性の荒いケモノに立ち向かうなど土台無理な話である。
 よしよしと宥めてやるオヘアは鼓膜へ伝わる振動にきょろきょろ。耳に手を当てて周囲を探り出す。
「ンゥ? ドゥルルルゥ……エンジン音が聞こえまーす。どうやら帰ってきたねー」
「なんですって?! どこっ?! どこなにょわあああーっ!」
 
ギャギャギャギューン、チュインッ!

「いやああぁだれか助けてええぇー! 殺されるううぅ〜〜〜!!」
 門扉の端から滑りこんできたバイクが直角に曲がり、そのまま基地内へ全開で突っ込む。
 鉄の塊が通り過ぎていったあとに残されたのは、残像と長く尾を引く叫びだけ。

「とっ、智子中尉ぃ〜?! 大丈夫ですか、傷は浅いですよ。しっかりしてください」
「咄嗟にシールド張って緩和しましたね! さすがは私のトモコ中尉!!」
「派手に吹っ飛んでいかれましたけど…ああ、あれですね! 自分から後ろに飛んで衝撃を和らげるという」
「まともに撥ねられてたら命はなかったねー。トモコ、ユーは運が良いよー」
 隊員たちは頭から植え込みに突き刺さった智子を囲んで口々にもてはやす。綺麗に刈り込まれた植木がブルブル震えだし、直後爆発したような勢いで緑の葉が舞った。
「なんじゃそらぁっ! おのれビューリング、可愛さあまって憎さ百倍! むわあぁてええぇーーーっ!」
 ぶち切れた目をした智子が猛然と走り出す。素晴らしい俊足、まるでケモノのよう。
 このままでは刃傷沙汰は確実である。唖然としていた他の隊員たちも慌てて後を追いかけた。

569:アキストゼネコUー5 E
09/03/02 14:02:14 pk7C/my1
 ヘリポートに直接バイクで乗りつけるという暴挙をなした二人連れ。それを視界に入れたハッキネンは微動だにせずヘリ操縦者に合図する。軍用ヘリの大型プロペラが回りだし、周囲一帯に強い風圧をかけていく。
「随分ごゆっくりでしたね」
 近づいてきた者たちへの言葉。皮肉なんだろうかと、腰の抜けたウィルマを肩に担きあげたビューリングは頬をぽりぽり。
「…遅刻はしてませんよ」
「当たり前です。その場合は二人揃って営倉入りです」
「あのっ、お待たせして申し訳ありません、ハッキネン司令。この失礼な話し方は生まれつきなのでどうか許してやってください」
「しおらしくしても無駄だろ。それに尻を向けて言っても逆効果だぞ――っ痛、こら暴れるな」
 取り成してあげたのにこの捻くれ者が! そんな感じのことを叫んでバタバタするウィルマ。残念ながらまだ足は立たない。
 ハッキネンは内心で溜め息をつき、常と変わらぬ温度のない声で問いかける。
「あなたの選択を聞かせていただけますか?」
「……ウィルマ・ビショップ軍曹をヘリまでお送りします。我が司令官殿」
 びしっと見事なブリタニア空軍式敬礼をつけて踵を返す偏屈なジョンブル。『我が司令官殿』、それが彼女の答えなのだと、ハッキネンは珍しく微笑を浮かべた。

「それじゃあ元気でな、ウィルマ」
 肩のウィルマをヘリに押し込み、あっさり告げたビューリングは口の端で微笑む。湿っぽい別れは適当でない気がした。自分たちにはこれくらいドライな方が合っている。
「あなたもね。何よ…この大きなものは?」
「土産だ、持って帰れ。お前は家族が多いからな」
「あ、ありがとう……」
 意外すぎて目をぱちぱち。どこに隠し持っていたのやら、ずっしりとした巨大な荷物を手渡されたウィルマは戸惑う。バイクが重くなったと言っていたのはこれのせいではないのかと、そう考えたところでハタと思い出した。
「誤魔化されないわよ。ほら大人しく殴られるっ!」
「なんだ、憶えていたか。執念深いやつめ」
 あわよくばの考えがばれ、ビューリングは苦笑する。フルパワーのウィルマに殴られればかなり痛いが、足も立たない今なら大したことはない。置き土産に一発もらっておいてもいいかと、腰の後ろで腕を組んで目を閉じる。
「いいぞ、さっさとやれ」

 革ジャケットの襟を引っ張られてカウンターの張り手をもらう、そのはずだった。
 ビューリングの脳裏に戸惑いが満ちる。おかしい、いつもと勝手が違う。これではまるで…キス、みたいではないか。
 無限に思える時間がすぎ、胸をどんと突かれて尻餅をつく。ぽかんとした間の抜けた表情の先で浮かび上がる大型ヘリ。

「きつ〜い一発っ! 後は頑張ってねぇ〜〜〜!!」
 ドアを閉める寸前にそう言い放ち、ウィルマはビューリングの後ろを指差した。条件反射で従った体はひどく冷たい目の智子に凍りつく。
「…さっさとヤれ、ファイト一発? あんた、私をあれだけ心配させといて何それ」
「おっ、おいトモコ…心配をかけたことは謝るが、言葉を適当に繋げるな」
 血走った目に狂気を感じ、ビューリングは低姿勢で智子を宥めようとする。しかしながら、智子の耳はいかなる言葉も受け付けようとしない。
「しかもベロチュー? ベロチューですって…うふっうふふっ――死んで詫びろおおォっ!」
「うをっ?! お前のその刀なら骨も両断だぞって聞いてないな…くそっ、ウィルマ、憶えていろよっ!」
 いわゆる兜割りにされかけたビューリングは必死に転がって身を起こす。腰からグルカナイフを外して次の一撃をしのぎ、付き合ってはいられないと全力疾走した。
「ふふっ、ほんとに頑張りなさいよ。こぉ〜んな好い女を振ったんだからね」
 眼下にはもう豆粒ほどになった姿、抜き身の軍刀を振るう隊長から逃げ回る大切な人。とうとう想いを伝えることはできなかったけど、この結果をちゃんと認めて受け入れられる。
 ふと手に触れたのは、彼女がくれた変化の証し。
「またスモークチーズぅ? 意外性がないし、超ハイカロリーだし」
 初めて買ってくれた物におかしくなる。おかしくて、おかしくて、自然と顔が綻んだ。こんな悪態をついていると知ればきっと、いらないなら返せと怒鳴るに違いない。
 どうしたことか、目の前がぼやけて困る。
「……本当…高く、ついちゃった…な」
 嗚咽まじりの響きは抱きしめた変化の証しのためか、呟いた本人にも定かでなかった。

570:名無しさん@ローカルルール変更議論中
09/03/02 14:03:07 pk7C/my1
以上です
思ったよりウィルマが動いてくれたので、主カプが霞んじゃったかも
一応次回で終わりなんですけど、最初のテーマを消化できるよう頑張ります
それでは失礼しましたー


571:名無しさん@ローカルルール変更議論中
09/03/02 14:13:47 nY042UJL
>>570
リアタイで読んで唸ってしまった。GJ!!ウィルマさんカワユス!!
しかしこの智子の壊れようときたらww次回最終回とは寂しくなるなあ。
wktkして待ってる。

572:名無しさん@ローカルルール変更議論中
09/03/02 14:29:28 JEqF0W11
>>570
ビューリングの すごい モテモテ
今回はウィルマとハッキネンさんがかっこいいな。話ごとに色んなキャラの魅力が発揮されてて凄いっす
それにしてもウルスラかわいいよウルスラ。見てたのがウルスラじゃなくて智子でよかった・・・w
次回最終回とは寂しいけど楽しみだ…待ってます

573:名無しさん@ローカルルール変更議論中
09/03/02 14:35:49 vPaHAlzh
アキストゼネコ最終回か

撃墜部隊やring、学園もいずれ完結するのかと思うと死にたくなってくるぜ

574:名無しさん@ローカルルール変更議論中
09/03/02 14:40:48 TIRO6UcS
WW2にはまだヘリはなかったかと
オートジャイロでは?

575:名無しさん@ローカルルール変更議論中
09/03/02 14:52:29 nY042UJL
本格的に運用されたのはベトナム戦争からだけど、一応原型的なものは1939の時点で存在するはず。
1942にはオラーシャ人の開発者がVS-316Aを軍用でリベリオンに送ったりしてるはずだからその辺りじゃね?

まあいざとなったら魔力以下略でおk。

576:名無しさん@ローカルルール変更議論中
09/03/02 15:16:25 vPaHAlzh
この前キャラソンのジャケ絵が一枚絵になる(一枚の風景をバラしてジャケ絵にした?)ってここかどっかで聞いたんだけど
二枚のCDに登場する芳佳はどうなるんだろう

ペリーネのみのジャケになるのかそれとも
芳佳「残像だ」になるのか

577:名無しさん@ローカルルール変更議論中
09/03/02 15:35:12 ZNIM/lDv
バルクホルン「ついに1/1宮藤芳佳が完成したぞ!見よこの造形!もちろんキャストオ(ry」

578:名無しさん@ローカルルール変更議論中
09/03/02 15:46:10 VXqXTHmy
リーネちゃんが物凄く不服そうな顔で映ってたら面白いんだけどなあw>ペリと二人ジャケ

579:名無しさん@ローカルルール変更議論中
09/03/02 16:33:53 i3CpuMOs
一枚絵ならペリーヌもEDみたいになる可能性もw
でも2枚の背景見た限り、どういう風になるのか検討つかないな
他のキャラも楽器持ってたりとかすんのかな?

580:名無しさん@ローカルルール変更議論中
09/03/02 16:35:21 JEqF0W11
ボーカルをもっふじ、ピアノをエイラーニャに取られた隊長はどうするのさ・・・

581:名無しさん@ローカルルール変更議論中
09/03/02 16:36:51 vPaHAlzh
>>578
ペリーヌはノリノリで嬉しそうなのにリーネが嫌がってたりしてたら
マジで心が痛むっていうかマジで泣くからやめてくださいお願いします

582:名無しさん@ローカルルール変更議論中
09/03/02 16:41:12 JEqF0W11
ペリ「本当は坂本少佐とが良かったのですけれどまあ仕方ないから貴女と唄って差し上げてもよろしくてよ!」
リネ「はい私も本当は芳佳ちゃんとが良かったんですけど決められた事なら仕方ないですよね。よろしくお願いしますペリーヌさん」
ペリ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

って事になったらペリーヌの方がダメージ受けちゃうだろ!

583:名無しさん@ローカルルール変更議論中
09/03/02 16:49:52 G5E85/hU
ところで戦時中のフランス娘にどんな髪型が流行してたか知らないがペリーヌの直線的なあの前髪
もしも毎回散髪のたびにもっさんを意識して維持を決めてたらって考えちゃうな
あの生誕祭の、二人ツーショットの写真を撮りたい絵をみてるとね、考えちゃうよ

584:名無しさん@ローカルルール変更議論中
09/03/02 19:10:59 CAPTQor6
ささめきこと、アニメ化確定でテンションが高い片想い大好きな俺が来ましたよと。

あんまり考えたくないけど、失恋して聖さまばりに髪をバッサリ切って男前になったペリーヌとか見てみたいかも。

585:名無しさん@ローカルルール変更議論中
09/03/02 19:12:00 B8IxyC6S
>>570
お疲れ様です。今回も面白かったー!
ウィルマかわいい。心の中で悶えた 
ハッキネンが「争奪相手の自滅」とか言い出したときは「ハッキネンお前もか!」とわけのわからない誤解したのはココだけの秘密…

586:名無しさん@ローカルルール変更議論中
09/03/02 19:19:26 GaFbTkYN
>>584
おぃぃ?
百合百合コミックささめきことの情報は、百合好きみんなで共有すべきでしょう?
kwsk

587:名無しさん@ローカルルール変更議論中
09/03/02 19:31:25 CAPTQor6
URLリンク(d.hatena.ne.jp)

ストパン二期と共にwktk過ぎる。

588:名無しさん@ローカルルール変更議論中
09/03/02 20:21:05 Po2xA0Ej
近いとこでは同じくGONZOの咲が
百合に定評のあるGONZOになればいいが

589:Ti amo! 1/5
09/03/02 21:27:07 CE7eDO10
こんばんわ。一ヶ月ほどまえにも48手を投稿したesNTV3r0toと申します
シャッキーニを投稿します。5レス程度になるかと。
蛇足ですが、タイトルのTi amo―イタリア語であたしはあなたを愛してる、という意味です。

ひりつくような暑い日差し。
雲ひとつなくどこまでも続く青空。
絶好の日光浴日和―
のんびりと、あたしはルッキーニと滑走路の脇辺りで日を浴びていた。すごく心地よい。
敵は昨日撃退したばかりでしばらくは現れない筈なので、心おきなくのんびり出来るってものだ。ペリーヌがまた怒っていたが気にしない。
この間―宮藤が遣って来た日みたいに、予期せぬ事態は無いと思う。今回こそは。
そんな感じで、ああ……いい日だ―とか思っている時のことだった。
「ねぇねぇシャーリー、あたし達の耳ってさあ……。聞こえるのかな?」
突如として襲来するよくわからない質問。耳? 耳が、聞こえる?
「ん〜ん?  聞こえてるじゃないか、今だって」
これ以外に答えようもない。ルッキーニもおかしなことを聞くなぁ……。
「ウニャァ、そっちの耳じゃないの! こっちこっち!」
そう言って、ルッキーニは黒豹の耳を顕現させた。耳って使い魔の耳のことか、やっと合点が行った。
「これがきこえるか―うん、考えたこともないな」
あたしもウサギの耳を出してみる。けれど特に周りの音が違って聞こえるような感じはしない。
無論、ウサギの耳を引っ込めても変化なし。まだ何とも言えないが。
「でしょ? 試してみない!?」
チェアから身を乗り出してあたしに詰め寄るルッキーニ。キラキラと目を輝かせているのがとても素敵だと思う。
「試すって、どうすんだよ? お前」
「ウジュ〜それは考えてなかった〜。あたしの耳だけ塞いで、シャーリーが何か話してみるのは?」
「耳を塞いでも、少しは聞こえちゃうんじゃないか?」
「やっぱりそうかな……」
あたしの言葉にに期待に満ちた表情から一転、いきなりヘコんだ表情を彼女は見せる。
ああっと、駄目だ駄目だ! そんな表情はルッキーニには似合わない! OK、あたしがなんとかしよう。
「考えてないのか? 少し待ってくれ、あたしが考えてみるよ」
要は使い魔の耳だけが聞き取れたらいいのだ。さぁ考えろ、考えるんだ! シャーロット・E・イェーガー!
むむむ…………。そうだ! これならイケるかもしれない。
「ルッキーニ。あたしの使い魔ウサギだろ? だからさ、もしも聞こえるなら普通は聞き取れない音でも聞こえる筈なんだ」
「うんうん、それで?」
「あたしがあたし自身の耳じゃルッキーニの声が聞こえない距離まで遠ざかって、それからウサギの耳でその声を聞くんだ―どうだ?」
自画自賛だが中々に名案じゃないだろうか? これなら確実に使い魔の耳が聞こえるかどうかハッキリする。
「おお! すごい、すごいよ! シャーリーってば天才なんじゃない!?」
はしゃぐルッキーニ。それを見て、やっぱり無邪気な笑顔が一番だとあたしは再確認する。これが見れただけでも考えた甲斐があった。
「ヘヘッ、だろ? んじゃさっそく試してみるか。丁度、ここは滑走路だから距離をとるのも簡単だし」
「ウニャッ! あたしが離れるね!」
言い終わる前にもう、ルッキーニは滑走路を駆けていた。あんなに走って転びやしないかヒヤヒヤする。
走り始めてから十数秒。幸い転んだりすることなく彼女は滑走路の半ばで立ち止まり、私に手をぶんぶん! と音がしそうなほどに振っている。
大分、あたしと距離が出来た。
これだけ離れたらもう普通の声量では聞こえない。手を振りながらルッキーニは声を張り上げた。
「いっくよ〜! シャーリィ! 耳、だして!」 
「イエスマム!」
体に魔力をみなぎらせ、再びウサギの耳を顕現させる。しかし、たぶん今のままではこのウサギの耳が聞こえることは無い。
あたしは魔力を顕現した耳に集中させることを強く意識した。
「シャ――だ―き。……どう? 聞こえたーッ!?」
何かを言ったかおぼろげながら分かった。もう少しで完全に聞こえるようになるかもしれない。
頑張ってくれよ―使い魔にそう念じる。
「それらしい感じはした! もう一度頼む!」
「うん! もう一回!」
目を閉じて、意識を研ぎ澄ます。あたしは音速に挑む時の如く真剣になっていた。
第二の耳に全魔力を集中させる。

590:Ti amo! 2/5
09/03/02 21:27:36 CE7eDO10
「シャーリーだいすき!」
聞こえた! 間違いなくルッキーニは言った。あたしのことが、大好きだと!  
別に特別な意味がある訳じゃない、それは分かっている。それが分かっていてもたまらなく心が浮き立つ。何かに目覚めてしまいそうだ……
ああ、あたしが“だいすき”かぁ……。うへへへ。
「今度はどう!?」
―おっと、危うくお花畑に行くところだった。伝えないとな、ばっちり聞こえたって。
「どうって? ああ! 聞こえ―」
いいや、待てよ。もしも聞こえないと言えば……また言ってもらえるのか! だいすき、と。
魅力的な考えだ。ものすごく魅力的だ。
嘘をつくのはいけない―そう叫ぶ良心が自身の欲望に組み伏せられているのを感じる。
「聞こえ?」
はつらつとしたルッキーニの声。さっき組み伏せられたばかりの良心が再び立ち上がろうとする。だが―
「なかった! 悪い、再チャレンジだ! な〜に! 今度はうまくいくさ!」
結局欲望に負けてしまった。情けないぞ、あたし。
「いくよッ!」
「さぁこい!」
数十メートル先から、二度目となるその言葉が発せられた。
「シャーリーだいすき」
うはぁ……たまらない。何かもう叫び返すべきだな、あたしもだいすきだーッ!って。
でも、その前にあと一回だけ聞いておこう。一回で済む自信はないが。
「ううん駄目だ……。ルッキーニ、少し近づいてくれ! 三度目の正直だ!」
「そっか、頑張って! シャーリー!」
ルッキーニはあたしのことを疑いもしない。それどころかあたしに頑張って、とさえ言ってくれた。
やっぱり駄目だ、ここらで止めよう。ルッキーニの無邪気な心に付け入るなんて始めから考えてはいけないことだったんだ。
「シャーリーだいすき」
これで、聞き納め。猛烈に名残惜しいけどしょうがない。
と言うか、まだ十二のルッキーニにさっきから何をときめいてんだよ……一歩間違えたら、いいや間違えなくても犯罪じみてるよなぁ……。
「聞こえた!?」
「おう! やっと―」
「オイ、さっきからな〜にしてるんダ?」
答えようとしたあたしの後ろからエイラが現れ、無遠慮に胸に手を回した。すごく手慣れてやがる……意中のあの娘が泣いてるぞ?
「うわぁ!? いきなりなんだよ、エイラ!?」
胸は許さないことも無い、それよりも、また聞こえたと言い損ねた。あいつめ、一体どこから、いつの間にやってきたんだ? 多分聞き取りに集中してて気がつかなかったんだろうが。
「あッ! エイラ、どしたの?」
「見学に来タ!」
エイラにルッキーニも声をかけた。それにエイラも答える。……あたしの質問に答えろよ!
「こら、質問を無視するな」
「イヤァ何って聞かれてもナ……。私はサーニャが起きるまで退屈しのぎに、格納庫でストライカーの整備をやってたんダヨ。そしたら外で聞こえたとか、聞こえないとかお前らがさわいでたからカラ」
「見物に来たってことか」
まったくこの暇人め。あたしだって人のことは言えないけどな。
「そーゆーコト。―で何してんダヨ?」
「ああ、それは……」
「お〜い、シャーリー! 聞こえたのーッ!?」
いかんいかん。ルッキーニの事を忘れていた。でも、先ずはとりあえず暇人を静かにさせるか、ほっとくとうるさそうだし。
「ちょっとタイム! エイラに今やってることを説明するからさ!」
「早くしてよーッ!」
「わかってる!」
あたしはエイラの方に向き直って、今までのことをざっと説明した。
「かくかくしかじか……と、言うことで実験してた。今、ルッキーニに少し近づいてもらったところさ」
「便利な言葉ダナ、かくかくしかじかッテ」
「は? かくかくしかじか?」
説明の時そんな言葉は使ってないんだけどな?
「……いや忘れてクレ。触れちゃいけない部分ダッタ」
変なの……。あたしは改めてエイラの不思議っ娘ぶりを確認することとなった。
「なんだよ? まぁ、もうこの実験の結論は出たよ。―シャーリーだいすき! そう言ったんだよな!? ルッキーニ?」
ふりかえり、自信を持って答える。三回も聞いたんだ、間違う訳がない。

591:Ti amo! 3/5
09/03/02 21:28:47 CE7eDO10
「大正解! やったね、シャーリー!」
「よっしゃ! 実験成功!」
自分のことかの様に跳ねまわって喜ぶルッキーニ。
いいなぁ、すごくいい。愛らしくって元気一杯で……なんかこうさ、ドキドキするよ。後ろに居るエイラじゃないけどさ。
やっぱりあたしは俗に言うロリコンってやつなのかな? 
そんなあたしに、無邪気とは対極にある笑顔でエイラが目の前へ回り込んで来た。
この顔はロクでもないことを考えている顔だ、それも間違いなく。
「どうしたよ、エイラ? その邪悪な笑顔は?」
「シャーリーだいすき、ネェ―。お前、わざと間違えて何回も言ってもらったりしてナイカ?」
ぎくり! 
おかしいな、エイラの魔法は読心だったっけ? 違う、未来予知だ。おいおい、鋭すぎだろ!? 自分の周りのことには信じられないくらい鈍感なクセして。
「ハハハ……。そ、そんなわけないだろー?」
「その反応、間違いナイナ。素直に白状したらドウダー?」
あたしの動揺を敏感に嗅ぎとったエイラは追及を緩めない。
「デタラメ言うなッ! あたしは潔白だ!」
「ほほぉ〜いいさ、吐かないなら私にも考えがある」
不気味な捨て台詞を残して、エイラはまだ嬉しそうにしているルッキーニのもとへと向かう。危険だ! 止めなければ!
「エイラッ! 何をする気だ!?」
「見てたらわかるヨ」
「くそう……させるか!」
「ムリダナ、私は止められナイ」
あたしは必死にエイラを捕まえようとしたがことごとくよけられてしまう。
結局、予知能力者の彼女を捕まえられるはずも無く、ルッキーニへの接触を許してしまったのだった。
何だ、何をする気だエイラ!? 
「どうやら聞こえたみたいダナ、ルッキーニ」
「うん! エイラも見たでしょ!」
「確かに見た、デモナ……私はシャーリーが結果をごまかしている気がするんダ。本人はみとめてないガナ」
「ごまかし? 何かしたのッ? シャーリー?」
いぶかしむルッキ−ニの視線が痛い。正直エイラの言ってることは間違ってないからな……。かといってここで認めたらお終いだ。
「あ、あたしは無実だよ! 信じてくれルッキーニ」
「うん、そうだよね? ―エイラ! シャーリーが変な事をするはずないよ!」
「もちろん私も信じてるよルッキーニ。でもシャーリーの潔白は追加で簡単な実験をやるだけで証明できると思うんダナ。なぁに簡単な実験だよ、ちょっと耳を貸してクレ」
よせ、よすんだルッキーニ! そいつの戯言に耳を傾けるんじゃない!
おかしな流れになってきた。うう……なんでだ……。
「ゴニョゴニョ……。これだけでいいゾ」
「ウニャ……それいうの?」
「別に心から言うことはナイ、大丈夫大丈夫」
あたしがには聞こえないように細心の注意を払ってエイラはささやいている。一体どんな企みをルッキーニに吹き込んだんだ? 
「やってみるけど、シャーリーがごまかしなんてする訳ないよ! それをハッキリさせるかんね、エイラ」
「そうなるとイイナ。それじゃあシャーリー、もう一度実験ダ」
何を企んでいるにしても、あいつの思い通りにはさせない! みてろよエイラッ!

592:Ti amo! 4/5
09/03/02 21:32:39 CE7eDO10
エイラの実験はとても単純。
あたしが聞こえないと言った、つまりルッキーニが近付く前の距離で、エイラの指定した三つの言葉が聞こえるかどうかを測定すると言うもの。
もしもその距離で聞こえたならあたしはルッキーニにウソをついていたことになる……。
怪しい、単純すぎる。この実験、あたしが聞こえないと言ったら、あっさり潔白が証明されるじゃないか。
それがわからないエイラじゃない、何をしてくるかわからないけど気をつけないとな。
「シャーリー! 準備いい!?」
「大丈夫! 言ってくれ!」
エイラはあたしの後ろでなりゆきを見ている。……何をする気だ?
「せぇのッ! シャーリーなんてだいきらい―聞こえた!?」
ぐっは! だいきらい!? そんな……あんまりだ。聞こえた瞬間殴られたような感覚さえあったよ……これはキツイ。キツイが、聞こえなかったと言えばいい。これであたしの勝ちだ!
「いいや、聞こえなかったよルッキーニ! どうだ聞こえる訳ないだろエイラ! 始めからごまかしてなんか無いんだから!」
あたしの言葉を無視してエイラはおもむろに立ち上がって、ルッキーニに叫んだ。
「ルッキーニ! じゃあ二つ目ダ!」
そうだった。この実験、三回目まであるんじゃないか!? ってことはあと二回はルッキーニになじられる訳だ……。ジーザス! あたしはまんまと罠にかかった!
ルッキーニにきつい言葉を浴びせられるってのはあたしにとってどんな拷問よりも苦しい。とてもじゃないが耐えられない。あたしはなじられて喜ぶとか、そういう結構なシュミは持っていないのだから。
……ああ、わかったよエイラ。あたしの負けだ。
「ストップ! ごめん! 聞こえたよ、聞こえたんだルッキーニ! だからもう―だいきらいなんて止めてくれ!」
「シャーリー、聞こえた? 違うよ!? ほんとはだいきらいじゃないよ!?」
嘘がばれてしまった……。すっとんで来たルッキーニにあたしはどんな顔をすればいい?
「嘘、ついちゃったな。その……ほんとにごめん、ルッキーニ」
「嘘はさ、よくないけど、いいよッ! 別に! だから悲しい顔しないでシャーリー」
どうしてお前が悲しいそうにするんだ? 駄目だ、そんな顔は似合わない。
天使って言葉がルッキーニはぴったりだと思う。嘘つきで、しかもだいすきって言われて舞い上がっちゃうロクデナシのあたしでもゆるしてくれるんだから。
「やっぱり嘘カ、このロリコン」
「ぐうぅ、やってくれたなエイラ……」
「へへへ、嘘つきはこうダ!」
「うああ! 馬鹿! 胸を揉むな!」
ちょっぴり重くなった空気はまたたく間に消え去った。最初からこれが目的だったと思わせる勢いで揉んでくる。
「ちょっとエイラ! これはあたしのー!」
対抗するな! まずは止めろよルッキーニ!
「とりあえず揉むなって!」 
もう訳がわからない。どうしてこんなことに? もちろんあたしも悪いが、もとはと言えばこうなったのはエイラの悪逆無道な罠のせい。おお、神よ! この性悪キツネに天罰をッ!
「エイラ、またそんなことしてる……」
「げぇ! サーニャ!?」



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