興行収入を見守るスレ ..
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981:多村仁志
22/09/10 06:07:57.04 FD7/bjso0.net
 梓、お前は喜怒哀楽が激しいの。
 でも、それくらいでないとの。
 この町は狂っとるけえ。


 オラと梓は、暖簾の奥に入る。


「奥はこないなっとるんか」
 オラは辺りを見回して感心していた。


 暖簾の奥に、二階へ続く立派な大階段がある。
 天井が高く、天井の蛍光灯が幻想的に照らしている。
 廊下に置かれた行燈が怪しく光る。
 大階段の周りに、襖が閉まった部屋や、襖が開いた部屋が幾つかある。
 それぞれの襖には、見事な風景の墨絵が描かれている。
 廊下の床も、掃除が行き届いて、光が反射されて綺麗だ。

982:荒木雅博
22/09/10 06:09:11.86 FD7/bjso0.net
「この店、なんていうんじゃ?」
 オラは、廊下に飾られた生け花に心を奪われていた。
「十六夜っていうんだぁ。神楽が店の名をつけたんだよぉ。この店、都の憲兵団長で政宗さんのはからいで建ててくれてねぇ。立派なもんだろぉ?」
 梓がターンを決めて、ピースを決める。
「あっ、政宗さんはうちの常連でね。いつもお世話になってるんだ」
 梓は、廊下の奥に向けて、背筋を伸ばして敬礼した。
「ふぅん。儲かってるんか?」
 オラは生け花を触って、本物か造花かを確かめた。
 この生け花、本物じゃ。世話が大変じゃろな。
 生け花の香りを鼻で楽しむ。
「いやぁ、それがねぇ……あははっ~、大きい遊女の店ができちゃって。そっちにお客さんが流れちゃってねぇ。今、常連さんしかいないんだ」
 梓が頭の後ろを掻いて苦笑いする。
 その時、廊下の奥から、三味線の旋律が聞こえてきた。
 まるで、別世界に誘うかのように。

983:中村紀洋
22/09/10 06:10:14.12 FD7/bjso0.net
「あっ。今、神楽。舞の稽古中かなっ?」
 梓が腰に手を当てて、廊下の奥に聞き耳を立てる。


「舞って、なんじゃ?」
 オラは腕を組んで考え込んだ。


「ああ。踊るんだよ、お客さんの前で。神楽の舞、綺麗なんだぁ」
 梓が鼻歌を歌いながら、舞のお手本を見せた。


「なんじゃ、変な動きして。じゃったら、師匠の舞はこうじゃぞ」
 オラも負けじと、梓を真似て舞の動きをしてみる。

 ゆうても、舞は知らんがの。
 適当に踊ればええんじゃ。こんなもん。
 美人が舞をすれば、男は惚れるけえの。

984:アレックス・カブレラ
22/09/10 06:11:43.37 FD7/bjso0.net
「なにそれっ~。変なのっ」
 梓がオラを指さして、お腹を抱えて笑っている。


「しっかし。疲れるのう、舞ちゅうのは」
 オラは変な動きをしたので、息が切れた。


「よしっ。じゃ、大広間に行こうか。そこに神楽が居るから」
 梓が胸を張って、両手に腰を当てた。


「師匠は先に行ってるけえの」
 オラは廊下を走って、奥に向かった。


「こらっ~。廊下を走るなっ~!」
 背中で梓の怒鳴り声が聞こえる。

985:田淵幸一
22/09/10 06:12:58.49 FD7/bjso0.net
 その矢先、滑りやすい床で、オラは盛大に前のめりにこけた。
 床との摩擦で、しばらく床を滑った。
「いってぇ。なんじゃ、この床は」
 オラは床に座り込んで、膝を擦っていた。
「だから言ったでしょう。もうっ」
 梓がオラに歩み寄って、両手に腰を当てて、オラの顔を覗き込む。
「大丈夫?」
 梓が屈んで、心配そうにオラの膝を見ている。
「なんともないわい。子供は怪我がつきものじゃけえの」
 オラは立ち上がって、なんともないように歩き出した。
「さっすが、師匠! 頼もしいやっ」
 オラの背中で、梓の声が聞こえる。
 オラは、大広間らしき襖を前に立ち止った。

986:石毛宏典
22/09/10 06:14:24.62 FD7/bjso0.net
「ここか? 大広間ちゅうのは」
 オラは襖を指さす。
「そうだよぉ~」
 梓が嬉しそうに鼻歌を歌っている。
 オラは深呼吸した。
 胸を撫で下ろす。
 神楽、頼むで。
 最高の土産話、訊かせてもらうけえの。
 オラは、勢いよく襖を開けた。
「神楽はおるんか!?」
 大広間は、とにかく部屋が広かった。
 ここで、客とどんちゃん騒ぎでもするんやろか。
 大広間には、大きな舞台がある。
 ひょっとして、舞台で舞をするんかもしれんの。

987:吉田義男
22/09/10 06:15:13.02 FD7/bjso0.net
 それにしても、どんだけ十六夜ちゅう店は大きいんじゃ。
 オラには一生かかっても払えん金をかけて、十六夜は建てられたんじゃろな。
 都の憲兵団長、政宗か。噂じゃ、相当剣の腕がいいらしいが。
 いくら強い奴でも、不老不死の勘兵衛と銀二相手じゃ、なんぼなんでも敵わんで。
 噂の神さまの力を借りるしか、残された道はないんじゃろな。


「おや? 光秀じゃないか。どうしたんだい?」


 大広間の真ん中で舞の練習をしていた、神楽の動きが止まる。
 神楽は、和服に着替えていた。


 同時に、三味線を弾いていた女の手が止まる。
 女も和服を着ている。

988:村山実
22/09/10 06:16:14.83 FD7/bjso0.net
なんじゃ。
 三味線弾いとる女も遊女なんか?


 まさか、この店のもんは全員くノ一じゃあるまいの。
 えらいとこに来てしもうたで。

「神楽、和服に着替えたんか?」
 オラは頭の後ろで腕を組んで、神楽に歩み寄った。
「神楽ぁ。遊びに来たよぉ~」
 梓が神楽に勢いよく抱き付く。
 神楽の豊満な胸に、顔を押し付ける。
「あ、梓。卑怯じゃぞ! 女やからといって、女の胸に飛び込みおって!」
 オラは梓が羨ましくて、梓を指さす。
 指先が興奮で震えている。
「へっへ~。いいだろっ~」
 梓が舌を出す。

989:藤村富美男
22/09/10 06:17:09.98 FD7/bjso0.net
「すまんけど、外してくれないかい?」
 神楽が扇を畳んで、三味線を弾いていた女に言う。


「はいっ。失礼します」
 三味線を弾いていた女が、神楽に会釈して、大広間を出て行った。


「何の用だい? うちは舞の稽古していたんだ」
 呆れたように、抱き付く梓を見ている。


「実は、神楽に訊きたいことがあるのだっ! 師匠、お願いっ!」
 梓が素早く神楽から離れて、梓が胸を叩く。
 梓がオラに会釈する。

「師匠? 光秀がかい?」
 神楽は訳がわからずに鼻で笑って、呆然としている。

990:広岡達朗
22/09/10 06:18:20.58 FD7/bjso0.net
「か、神楽。お前、神さまに会ったことがあるんじゃろ?」
 オラは畳に胡坐をかいた。
 神楽の胸の妄想をやめて、咳払いして語る。
 オラは神楽を一瞥する。


「うん。うん」
 梓が瞼を閉じて、腕を組んで、首を縦に振っている。


「なんだい? 会ったことはあるけど……何を話したか覚えてないんだ」
 神楽が畳に正座した。
 首を傾げて、天井を仰いだ。


「ええっ~! これじゃ、振り出しだぁ!」
 梓が肩を落とした。
 梓がこめかみを両手の掌で押さえて、首を横に振った。

991:根本陸夫
22/09/10 06:19:21.28 FD7/bjso0.net
「なんじゃ。覚えとらんのか」
 オラも肩を落とした。


「力になれなくて、すまないね。でも、それがどうかしたのかい?」
 神楽が目をぱちくりさせて、オラと梓を交互に見る。


「それがさぁ。光秀と一緒に勘兵衛を救える方法を考えてたら、神楽が神さまに会ったって言うから」
 梓が肩を落としたまま喋る。
 その後、ため息を零す。
「そうじゃ。もしかしたら、そこに手がかりがあると思うての。神楽に話を訊こうと思ったんじゃ」
 オラも肩を落としたまま喋る。
 その後、ため息を零す。


「なかなか面白いことを考えたじゃないか。でも、覚えてないんだ」
 神楽が扇を広げて畳んで、扇を畳みの上に置いた。

992:安田尚憲
22/09/10 06:20:31.02 FD7/bjso0.net
「それより、梓。光秀を師匠って言ってたけど。あれは、どういう意味だい?」
 神楽が懐から煙管とマッチ箱を取り出して、マッチで煙管に火を点ける。
 神楽が息を吹きかけて、マッチの火を消す。
 使ったマッチをマッチ箱に入れて、畳の上にマッチ箱を置く。


「いや~。色々ありまして。複雑なんですよぉ」
 梓が顔を上げて、頭の後ろを掻く。


「あ~あ。面白くないのう」
 オラは胡坐をかいたまま、頭の後ろで手を組んだ。


「そや。あんたたち、地下の訓練所で戦ったらどうだい?」
 神楽が廊下を顎でしゃくる。
 煙管を吸って、煙管の煙を吐く。

993:藤原恭大
22/09/10 06:21:28.43 FD7/bjso0.net
「うん? どういうこと? よくわからんぞぉ」
 梓が腕を組んで、考え込んだ。


「体を動かして汗を掻けば、少しはいい案が出るかもしれないじゃないか」
 神楽が煙管を吸って、煙管の煙を吐いた。


「ああ、なるほどっ。それいいかも」
 梓が納得したように、拳を掌で叩いた。
「訓練所じゃと? 十六夜の地下に、そげなもんがあるんか?」
 オラは頭の後ろで手を組んだまま、天井を仰いだ。
「ああ。くノ一の訓練所さ。もしかしたら、忍びの素質が光秀にあるかもしれないね」
 神楽がオラを、真剣な表情で見つめている。
「またまたぁ。神楽ったら、冗談上手いんだからぁ。光秀、まだ子供だよ?」
 梓が両手を腰に当てて、高笑いしている。

994:角中勝也
22/09/10 06:22:45.77 FD7/bjso0.net
「ああ、なるほどっ。それいいかも」
 梓が納得したように、拳を掌で叩いた。


「訓練所じゃと? 十六夜の地下に、そげなもんがあるんか?」
 オラは頭の後ろで手を組んだまま、天井を仰いだ。


「ああ。くノ一の訓練所さ。もしかしたら、忍びの素質が光秀にあるかもしれないね」
 神楽がオラを、真剣な表情で見つめている。


「またまたぁ。神楽ったら、冗談上手いんだからぁ。光秀、まだ子供だよ?」
 梓が両手を腰に当てて、高笑いしている。


「忍び、か。……栞が起きるまで、まだ時間があるじゃろ。梓、訓練所に案内してくれ」
 オラは立ち上がった。

995:新井貴浩
22/09/10 06:23:44.21 FD7/bjso0.net
「えっ~。光秀、本気なの!? 怪我しても知らないよ?」
 梓が慌てて両手を振って、オラを制する。


「梓。こうしている間にも、勘兵衛の手によって死人が出てるんじゃ。それでも、梓は何もしないで黙っておるんか?」
 オラは冷たい目で、梓を鋭く睨んだ。


「!? や、やだなぁ。またキッツいお説教ですかぁ?」
 梓が頭の後ろを掻いて苦笑する。
 梓が俯く。
「やっぱり、光秀は漢だよ。相手してやりな、梓。それが、くノ一の隊長としての義理だろ?」
 神楽が腕を組んで、煙管を吸う。
 ゆっくりと煙管の煙を吐く。

996:新井良太
22/09/10 06:24:53.75 FD7/bjso0.net
「そ、そうだね。そうだよね」
 梓は俯いて、拳を作った。


「なにしとんじゃ。さっさと案内せえ、梓隊長」
 オラは大股で大広間を出て行く。


「よぉし。手加減はしないからねっ!」
 梓が俯いたまま、深呼吸する。
 顔を上げて、涙を手で拭って、小走りに大広間を出て行く。
 梓は腕を振り回した。
「光秀、頼んだよ! お前なら、できるはずだ!」
 背中で神楽の大声が、オラの胸に突き刺さる。

 オラたちは、廊下の奥に吸い込まれるように消えて行った。
 廊下の行き止まりまで、やって来た。

997:桧山進次郎
22/09/10 06:26:57.52 FD7/bjso0.net
「行き止まりじゃぞ?」
 オラは目の前の壁を睨んでから、つまらなそうに梓に振り向く。


「と、思うでしょ? にししし」
 梓がなにやら、壁に掛けてある絵を外して、現れた小さなボタンを押した。


 すると、目の前の壁が低い音を立ててゆっくり下がり始める。
 行き止まりの奥に階段が現れた。


「か、隠し階段か!?」
 オラは隠し階段を見て驚いた。


「この隠し階段、政宗さんのアイディアなんだぁ」
 梓が隠し階段の前で、手を合わせて目を輝かす。

998:赤星憲広
22/09/10 06:28:17.14 FD7/bjso0.net
「ここは忍者屋敷か。他にも仕掛けがあるんじゃなかろうの?」
 オラは呆れたように、梓を見る。


「あるよっ。畳の下とか壁の中に、忍びの武器とかね。後は隠し部屋とか、脱出用の隠し階段とか」
 梓が不敵な笑みを浮かべる。


「……だと思ったわい」
 オラは肩を落として、ため息を零した。


「ほらっ。行こうよっ」
 梓がオラの腕に抱き付いて、隠し階段を下りる。


「お、おい。放さんかっ!」
 オラは梓から放れようとして、バランスを崩し、盛大に階段から転げ落ちた。

999:江藤智
22/09/10 06:28:54.92 FD7/bjso0.net
「し、師匠っ~!?」
 梓の哀れむ声が虚しく聞こえる。


 やれやれ。
 廊下で転んだり。
 訓練する前に、オラから進んで怪我するわ。
 これじゃ、先が思いやられる。
 こんなんで訓練できるんかの。

1000:名無シネマさん
22/09/10 06:29:04.61 Eud5yNuDd.net
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